説明

微細構造を有する高分子薄膜およびパターン基板の製造方法

【課題】
化学的レジストレーション法を用いて、高分子ブロック共重合体のミクロドメインの固有周期doとは異なる任意のパターン配置あるいは間隔でミクロドメイン構造を形成可能な微細構造体の製造方法を提供する。
【解決手段】
第1セグメントおよび第2セグメントを有する高分子ブロック共重合体組成物を含む高分子層を基板表面に配置する第1段階と、前記高分子層をミクロ相分離させ、前記第1セグメントを主成分とする柱状ミクロドメインと前記第2セグメントを主成分とする連続相とから形成される構造を発現させる第2段階とを有する微細構造体の製造方法において、前記基板表面は化学的なパターンが施され、前記第1段階で配置する前記高分子薄膜の膜厚tと、前記高分子ブロック共重合体が形成するミクロドメインの固有周期doが、(m+0.8)×do<t<(m+1.2)×do mは0以上の整数の関係を有することを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高分子ブロック共重合体が基板表面上でミクロ相分離してなる微細構造を有する微細構造体の製造方法に関する。また、このミクロドメインの規則パターンを表面に有するパターン基板の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、電子デバイス,エネルギー貯蔵デバイス,センサー等の小型化・高性能化に伴い、数ナノメートル〜数百ナノメートルのサイズの微細な規則配列パターンを基板上に形成する必要性が高まっている。このため、このような微細パターンの構造を高精度でかつ低コストに製造できるプロセスの確立が求められている。
【0003】
このような微細パターンの加工方法としては、リソグラフィーに代表されるトップダウン的手法、すなわちバルク材料を微細に刻むことにより形状を付与する方法が一般に用いられている。例えば、LSIの製造等の半導体微細加工に用いられる光リソグラフィーはこの代表例である。
【0004】
しかしながら、微細パターンの微細度が高まるに従い、このようなトップダウン的手法の適用は、装置・プロセス両面における困難性が増大する。特に、微細パターンの加工寸法が数十ナノメートルまで微細になると、パターニングに電子線や深紫外線を用いる必要があり、装置に莫大な投資が必要となる。また、マスクを適用した微細パターンの形成が困難になると、直接描画法を適用せざるをえない。しかしながら、直接描画法を用いても、直径10数nm以下といったドットパターンを描画する場合、直径や形状にバラツキが生じる。
【0005】
このような状況のもと、物質が自然に構造を形成する現象、いわゆる自己組織化現象を応用したプロセスが注目を集めている。特に高分子ブロック共重合体の自己組織化現象、いわゆるミクロ相分離を応用したプロセスは、簡便な塗布プロセスにより数十ナノメートル〜数百ナノメートルの種々の形状を有する微細な規則構造を形成できる点で、優れたプロセスである。
【0006】
ここで、高分子ブロック共重合体をなす異種の高分子セグメントが互いに混じり合わない(非相溶な)場合、これらの高分子セグメントの相分離(ミクロ相分離)により、特定の規則性を持った微細構造が自己組織化される。
【0007】
そして、このような自己組織化現象を利用して微細な規則構造を形成した例としては、ポリスチレンとポリブタジエン,ポリスチレンとポリイソプレン,ポリスチレンとポリメチルメタクリレートなどの組み合わせからなる高分子ブロック共重合体薄膜をエッチングマスクとして用い、孔やラインアンドスペースなどの構造を基板上に形成した公知技術が知られている。
【0008】
以上のように、高分子ブロック共重合体のミクロ相分離現象によると、トップダウン的手法では達成が困難な微細の球状,柱状や板状(ラメラ状)のミクロドメインが規則的に配列した構造を有する高分子薄膜を得ることができる。しかしながら、ミクロ相分離現象を含め、一般的に自己組織化現象をパターングに適用するには以下の問題点がある。
【0009】
すなわち、高分子ブロック共重合体による自己組織化は、任意の配置および間隔でミクロドメイン構造を制御することが困難であることである。特に、自己組織化は自然が形成する構造、すなわちエネルギー的に最も小さくなる構造を利用するため、材料固有の周期を有する規則構造以外の構造を得ることは一般的に困難であり、その制限が故に応用範囲が限定される欠点を有している。これらの欠点を克服する手法として以下の3つの方法がこれまでに考案されている。
【0010】
まず、第1の従来の手法として、高分子ブロック共重合体のいずれかの高分子セグメントの分子量を大きくすることである。この方法によれば、柱状ミクロドメインの間隔をより広げることが可能となる。しかしながら、第1の従来の手法においては、一方の高分子セグメントのみ分子量を大きくすることは、他方の高分子セグメントとの体積比が変わるため、ミクロドメインの形状が変化し、任意のパターン形状を任意の間隔で形成することは出来ない。また、体積比を一定に保ったまま、任意のパターン間隔でパターンを形成しようとすると、ミクロドメインのサイズが所望のサイズと異なる結果となる。
【0011】
第2の従来の手法としては、高分子ブロック共重合体が形成するミクロドメイン構造のうち、一方の高分子セグメントと同一の組成を有する高分子を混合し、パターン間隔を調整する手法が挙げられる。この方法によると、ミクロドメインのパターンサイズが変わることなく、パターン間隔を調整可能である。一方、第2の従来の手法においては、高分子の混合比が大きくなると所望のミクロドメイン構造を得ることが困難となる。
【0012】
さらに第1および第2の手法は、任意の配置でミクロドメイン構造を形成することが困難であった。
【0013】
第3の従来の手法としては、基板表面を化学的にパターン化し、基板表面と高分子ブロック共重合体との化学的相互作用により、ミクロ相分離により発現する構造を制御する方法がある(例えば、特許文献1,2参照)。
【0014】
この方法では図1に示すように、予め高分子ブロック共重合体を構成する各々のブロック鎖に対して親和性が異なる領域にトップダウン的手法により表面をパターン化した基板を用い、その表面に高分子ブロック共重合体を成膜し、ミクロドメインを発現させる。
【0015】
例えば、ポリスチレンとポリメチルメタクリレートからなる高分子ジブロック共重合体を用いる場合、基板表面をポリスチレンと親和性の良い領域とポリメチルメタクリレートと親和性に優れた領域に化学的なパターン化する。この際、化学的パターンの形状をポリスチレン・ポリメチルメタクリレートジブロック共重合体のミクロドメインと同等とすると、ミクロ相分離の際、ポリスチレンと親和性の良い領域上にはポリスチレンからなるミクロドメインが、ポリメチルメタクリレートと親和性のよい領域上にはポリメチルメタクリレートからなるミクロドメインが配置された構造が得られる。
【0016】
すなわち、本方法では基板表面に化学的に設置したマークに沿ってミクロドメインを配置することが可能となる。化学的パターンをトップダウン的手法で形成するため、得られるパターンの長距離秩序性はトップダウン的手法により担保され、広範囲に渡って規則性に優れ欠陥の少ないパターンを得ることができる。本手法を以後、ミクロドメインの化学的レジストレーション法と称す。
【0017】
化学的レジストレーション法では、化学的パターンを基板上に形成するため、化学的パターンの上に柱状ミクロドメイン構造を配置することが可能となり、さらにミクロドメイン構造の配置およびドメイン構造同士の間隔を制御することが可能である。
【0018】
【特許文献1】USP6,746,825,B2
【特許文献2】USP6,926,953,B2
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0019】
しかしながら、化学的パターンを配置する際、パターンの間隔が高分子ブロック共重合体の形成するミクロドメイン構造の固有周期より大きい場合、化学的パターンが形成された部分以外にも柱状ミクロドメインが基板上に垂直に配向される場合があった。そのため任意の配置および間隔でパターンを形成することが困難であった。
【0020】
本発明は、化学的レジストレーション法を用いた微細構造体の製造方法において、高分子ブロック共重合体のミクロドメインの固有周期doとは異なる任意のパターン配置あるいは間隔でミクロドメイン構造を形成可能な微細構造体の製造方法を提供することを目的とする。特に、所望の直径を有する柱状ミクロドメイン構造を基板上に任意のパターン間隔で配置する方法を提供するものである。さらに、本方法で形成した微細構造を有する高分子薄膜を用いて、パターン基板を製造する方法を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0021】
前記課題を解決するため本発明は、少なくとも第1セグメントおよび第2セグメントを有する高分子ブロック共重合体組成物を含む高分子層を基板表面に配置する第1段階と、前記高分子層をミクロ相分離させ、前記第1セグメントを主成分とする柱状ミクロドメインと前記第2セグメントを主成分とする連続相とから形成される構造を発現させる第2段階とを有する微細構造体の製造方法において、前記基板表面は前記第1セグメントとの界面張力が、前記第2セグメントとの界面張力より大きいか又は略等しく基板表面に離散的に配置された第1のパターン部材と、前記第1セグメントとの界面張力が、前記第2セグメントとの界面張力より小さい第2のパターン部材とを有し、前記第1段階で配置する前記高分子薄膜の膜厚tと、前記高分子ブロック共重合体が形成するミクロドメインの固有周期doとが以下の関係を有することを特徴とする。
【0022】
(m+0.8)×do<t<(m+1.2)×do mは0以上の整数
さらに、本発明のパターン基板の製造方法は以下の方法をその手段とする。
【0023】
すなわち、上記高分子薄膜の製造方法により製造した高分子薄膜から、ミクロ相分離により形成した高分子相の一方を選択的に除去する工程を追加することによりパターン基板を製造する。さらに、残存した他方の高分子相を介して前記基板を加工して前記ミクロ相分離のパターンを前記基板の表面に転写したり、または、残存した他方の高分子層を転写することによりパターン基板を製造する。さらに、上記高分子薄膜またはパターン基板の製造方法により製造した高分子層の一方に金属原子をドープすることによりパターン基板を製造する。
【0024】
なお、本発明における微細構造体とは、基板表面にミクロドメインを有する高分子薄膜が形成された構造体を指す。また、本発明におけるパターン基板とは、このような微細構造体が有するミクロドメインの規則パターンが、その表面に凹凸状に転写されたものであって、原版であるかその複製であるかを問わない。
【発明の効果】
【0025】
本発明により、高分子ブロック共重合体のミクロ相分離により形成される所望の直径を有する柱状ミクロドメインを、任意の配置あるいは間隔で基板に対して垂直方向に配向させることができる。
【0026】
また、このパターンを表面に有するパターン基板の製造方法を提供することができる。さらには、対象物(被転写体)の表面に、アスペクト比が大きくかつ微細な規則配列パターンが得られるエッチングマスクなどのパターン転写体を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0027】
以下、本発明の実施形態について図面を参照しつつ説明する。なお、以下の説明は主に柱状ミクロドメインを対象として記述するが、ラメラ状ミクロドメインについても同様な方法で実施することができる。
【0028】
図2に本発明による柱状ミクロドメインを基板に直立した構造を有する高分子薄膜の製造プロセス(化学的レジストレーションプロセス)を示す。各プロセスについては後に詳述する。
【0029】
図2(a)は柱状ミクロドメインが基板201に直立した構造を有する高分子薄膜を形成するための基板を示している。次に、図2(b)に示すように、この基板を化学的性質の異なる表面1(202)(第1のパターン部材)と表面2(203)(第2のパターン部材)にパターン化する。図2(c)に示すように、この基板表面に高分子ブロック共重合体を所定の膜厚になるように成膜する。図2(d)に示すように、この高分子ブロック共重合体をミクロ相分離させ、第1セグメント、および第2セグメントからなる微細構造を形成する。最後に、図2(e)に示すように、片側の高分子ブロック鎖を除去することにより、微細構造を有する高分子薄膜を形成することができる。
【0030】
この際、図2(b)に示す段階で準備した表面1に対して第1セグメントを構成する第1素材が第2セグメントを構成する第2素材より濡れ性がよく、また、表面2に対しては第2セグメントを構成する第2素材が第1セグメントを構成する第2素材より濡れ性がよいように表面1,表面2の化学状態を設計し、膜厚を所定の範囲で制御しておくと、図2(d)に示すように第1セグメント、および第2セグメントが表面1、および表面2上に配置される。また、濡れ性を界面張力で表現すると、第1セグメントとの界面張力が第2セグメントとの界面張力より大きいか又は略等しい表面1と、第1セグメントとの界面張力が第2セグメントとの界面張力より小さい表面2となるようにすればよい。この基板201の第1の表面,第2の表面,高分子ブロック共重合体の第1セグメント、及び、第2セグメントの濡れ性あるいは界面張力の関係は、高分子ブロック共重合体の相分離を発現させるときの温度において上述の関係となっていればよい。このような関係とすることで、第1の表面上に第1セグメント,第2の表面上に第2セグメントが規則的に配置した構造とすることができる。
【0031】
また、図2(c)の工程において、高分子薄膜の膜厚tと、高分子ブロック共重合体がバルク状態においてミクロ相分離により形成する微細構造の固有周期doの関係を、
(m+0.8)×do<t<(m+1.2)×do mは0以上の整数
とすることが好ましい。上記関係とすることで、表面1が形成されていない領域において、柱状ミクロドメインが基板に対して垂直方向に配向することを抑制することができる。これにより、表面1の配置を制御することにより、所望の直径の柱状ミクロドメインを任意の配置あるいは間隔で形成することが可能となる。
【0032】
なお、図1および図2において高分子薄膜に形成されるミクロドメインは、膜の貫通方向に配向する柱状ミクロドメインを例示している。しかし、上述したように、本発明における微細構造体のミクロドメインはこのような柱状の形態に限定されるものではない。すなわち、高分子ブロック共重合体が発現するミクロドメインであれば全て含まれる、例えば層状ラメラ状の形態を有したりすることが考えられる。
【0033】
同様に、図1および図2において高分子薄膜に形成される連続相は、膜の貫通方向に配向する柱状ミクロドメインの規則パターンが均一に分散しているものが例示されている。しかし、本発明における微細構造体の連続相はこのような形態に限定されるものではない。すなわち、前記したように様々な形態をとりうるミクロドメインと境界を共有する領域に形成されるものであれば全て連続相として定義される。
【0034】
以後、本発明の微細構造を有する高分子薄膜の製造プロセスに用いる材料について詳述する。
【0035】
(高分子ブロック共重合体)
柱状ミクロドメイン構造を用いる場合、高分子ブロック共重合体における第1セグメントの重合度は、第2セグメントの重合度より小さく、さらに高分子ブロック共重合体の分子量分布は狭いことが望ましい。重合度が調整されることで、第1セグメントと第2セグメントとの結合部分の境界が円筒形状をとりやすくなり、第2セグメントからなる連続相の領域と第1セグメントを主成分とする柱状ミクロドメインの領域が形成される。なお、ラメラ状ミクロドメイン構造を適用する場合は、高分子ブロック共重合体における第2セグメントの重合度と、第1セグメントの重合度を同等となるように調整すればよい。
【0036】
以上のような条件を満足する高分子ブロック共重合体としては、ポリスチレン−ブロック−ポリメチルメタクリレート共重合体(PS−b−PMMA)やポリスチレン−ブロック−ポリジメチルシロキサン(PS−b−PDMS)等を挙げることができるが、本発明はこれらの高分子ブロック共重合体に限定されるわけではなく、ミクロ相分離を発現する組み合わせであれば広く用いることができる。
【0037】
なお、高分子ブロック共重合体は適切な方法で合成すれば良いが、ミクロドメインの規則性を向上するためには、可能な限り分子量分布が狭い合成手法が好ましい。適用可能な合成手法としては、例えばリビング重合法が挙げられる。
【0038】
また、本実施形態における高分子ブロック共重合体として、第1セグメントと第2セグメントにおけるそれぞれの末端が結合して成るAB型の高分子ジブロック共重合体が例示されている。しかしながら、本実施形態で用いられる高分子ブロック共重合体は、このような形態に限定されるものではなく、ABA型高分子トリブロック共重合体,三種以上の高分子セグメントからなるABC型高分子ブロック共重合体等の直鎖状高分子ブロック共重合体、又はスター型の高分子ブロック共重合体であっても構わない。
【0039】
さて、本発明の高分子ブロック共重合体組成物はミクロ相分離により柱状ミクロドメインの構造を発現する。上記したように、そのサイズは、高分子ブロック共重合体の分子量に応じて決定される。すなわち、高分子ブロック共重合体が発現するサイズは、それを構成する高分子の分子量に応じて固有のものとなる。ここで、ミクロ相分離により発現する規則的な構造の周期を固有周期do301とする。ミクロドメインが柱状である場合、柱状ミクロドメインは図3に示すようにヘキサゴナルにパッキングして規則的に配列する。この場合、固有周期doはヘキサゴナル配列の格子間隔で定義される。ミクロドメインがラメラ状である場合、ラメラ302は図3(b)に示すよう平行にパッキングして規則的に配列する。この場合、固有周期doはラメラ間の間隔で定義される。なお、固有周期doは化学パターンを施していない基板表面において、高分子ブロック共重合体をミクロ相分離させたときの微細構造の周期とする。
【0040】
(基板)
本発明では、図2(b)に示すように、基板表面を化学的性質の異なる表面1と表面2にパターン化し、それぞれの表面に高分子ブロック共重合体が形成する第1セグメントからなるミクロドメインと第2セグメントからなるミクロドメインを配置することにより、ミクロドメインを制御する。ここでは、基板表面を化学的性質の異なる表面1と表面2にパターン化する方法について説明する。
【0041】
まず、図2(a)に示す基板の材質は特に限定されるものではない。例えばガラスやチタニア等の無機物,シリコンやGaAsのような半導体,銅,タンタル,チタンのような金属、さらには、エポキシ樹脂やポリイミドのような有機物からなる基板を目的に応じて選択すればよい。
【0042】
基板表面を化学的に性質の異なる表面1と表面2にパターン化する方法の1例を、図4を用いて説明する。この例は、高分子ブロック共重合体を構成する主成分である高分子ブロック共重合体がPS−b−PMMAであり、ミクロ相分離により、ポリスチレン(PS)を主成分とするミクロドメインと、ポリメチルメタクリレート(PMMA)を主成分とするミクロドメインが発現する場合を前提としたものである。
【0043】
まず、図4(a)に示すように、基板表面全面をPMMAに比べてPSがより濡れ易い表面とするため、基板表面を化学的に修飾する。化学修飾はシランカップリング等による単分子膜形成や高分子グラフト化などの方法を用いるとよい。基板表面をPSがより濡れ易い表面とするためには、例えば、単分子膜形成であれば、フェニチルトリメトキシシランのカップリング反応によるフェニチル基の導入や、高分子修飾であれば、PSと相溶する高分子を基板表面にグラフト処理により導入すればよい。なお、ここで言う濡れ易いとは、より界面張力が大きいことを示す。
【0044】
高分子のグラフト処理は、基板表面に重合開始の基点となる化学基をカップリング法等によりまず導入し、その重合開始点から高分子を重合する方法や、基板表面と化学的にカップリングする官能基を末端や主鎖中に有する高分子を合成し、その後に基板表面にカップリング化する方法等がある。特に、後者の方法は簡便であり推奨される。
【0045】
ここでは、具体的には、シリコン基板表面をPSが好む表面にするため、ポリスチレンをシリコン表面にグラフト化する手法について説明する。まず、末端に水酸基を有するポリスチレンを既定のリビング重合により合成する。次に、シリコン基板を酸素プラズマに暴露したり、ピラニア溶液に浸漬したりすることにより、基板表面の自然酸化膜表面の水酸基密度を向上する。末端に水酸基を有するポリスチレンをトルエン等の溶媒に溶解し、シリコン基板にスピンコート等の手法により成膜する。その後、真空オーブン等を用いて、得られた基板を真空雰囲気化で72時間程度、170℃程度の温度で加熱する。この処理により、基板表面の水酸基とポリスチレン末端の水酸基が脱水縮合し、基板表面近傍のポリスチレンが基板と結合する。最後に、基板をトルエン等の溶媒で洗浄し、基板表面と未結合のポリスチレンを除去することによりポリスチレンがグラフト化されたシリコン基板が得られる。
【0046】
ポリマーを基板表面にグラフト化する場合、グラフト化する高分子の分子量に特に制限は無いが、分子量を1,000程度から10,000程度とすると、上記グラフト方法を用いて基板表面に膜厚が数nmの高分子の極薄膜を形成することができる。
【0047】
次に、基板表面に設けた化学修飾層401を所望のパターン配置および間隔でパターン化する。パターン化の方法は所望のパターンサイズに応じて、フォトリソグラフィーや電子線直接描画法等、公知のパターン化技術を適用すればよい。すなわち、図4に示すように、まず基板(図4(a))表面に化学修飾層401を形成し(図4(b))、その表面にレジスト膜402を形成し(図4(c))、そのレジスト膜を露光403によりパターン化し(図4(d))、現像処理404(図4(e))を経て、レジストをパターンマスク化し、その後、酸素プラズマ処理等の手法で化学修飾層をエッチングする(図4(f))ことによりパターン化すればよい。最後に、残留している化学修飾層の上にあるレジスト膜を取り除けば、パターン化された化学修飾層が得られる(図4(g))。なお、本プロセスは一例であり、基板表面に設けた化学修飾層をパターン化できるのであれば他の手段を用いてもよい。また、図4では基板表面上に化学的修飾層を離散的に配置する方法について述べたため、得られる基板の断面は図5(a)に模式的に示したように、基板表面に基板とは化学的に性質の異なる薄膜が形成されている構成となる。しかしながら、本発明においては、図5(b)に模式的に示すように、表面状態が基板と化学的に異なる領域が基板内部の離散的に埋め込まれたような基板や、図5(c)に模式的に示すように、基板表面に化学的に性質の異なる2種類の薄膜がパターン化されて配置されている基板等を適用してもよい。
【0048】
図4に示した方法によると、シリコン基板表面にパターン化されたポリスチレン修飾層を有する基板が得られる。すなわち、基板表面はシリコン基板が露出した表面1とポリスチレン修飾層からなる表面2にパターン化されるが、シリコン表面はポリスチレンよりポリメチルメタクリレートを好む性質を有する。そのため、結果的に、PS−b−PMMAを主成分とする高分子ブロック共重合体混合物が発現するポリスチレンを主成分とするミクロドメインとポリメチルメタクリレートを主成分とするミクロドメインそれぞれに対して選択性のある表面が得られる。
【0049】
以上、PS−b−PMMAを主成分とする高分子ブロック共重合体混合物を対象として基板表面のパターン化法について詳述したが、他の高分子ブロック共重合体混合物であっても、同様な方法で基板表面を化学的にパターン化すればよい。
【0050】
(高分子ブロック共重合体組成物の成膜と相分離)
上述した方法により準備した化学的にパターン化された基板上に高分子ブロック共重合体組成物を成膜してミクロ相分離を発現させる。その方法を以下に記す。
【0051】
まず、高分子ブロック共重合体組成物を溶媒に溶解して希薄な高分子ブロック共重合体組成物溶液を得る。次に、図2(c)に示すように化学的パターン化した基板表面に高分子ブロック共重合体組成物溶液を成膜する。成膜法は特に限定されるものではなく、スピンコートやディップコート等の方法を用いればよい。スピンコートを用いる場合、図2(c)に示す塗膜204の厚みが所定の値となるように、一般的に溶液の重量濃度を数%とし、スピンコートの回転数を1000〜5000回転とすれば、数10nmの膜厚を有する高分子ブロック共重合体組成物薄膜が安定的に得られる。
【0052】
次に、高分子ブロック共重合体組成物の溶液から溶媒を揮発させて基板200の表面に塗膜204を固定する。ところで、塗膜の厚みtは任意に調整すればよいが、所望の位置に柱状ミクロドメインが基板に対して垂直に配向するためには、(m+0.8)×d<t<(m+1.2)×d(mは0以上の整数)の関係を満たす厚みtが望ましい。また、mの整数は特に上限を限定するものではないが、柱状ミクロドメインが基板に垂直に直立し、所望のパターンの形状を維持するためには、高分子ブロック共重合体組成物の固有周期doの5倍以下程度、すなわち0以上,5以下の整数とするのが望ましい。
【0053】
化学的にパターン化した基板表面に成膜した高分子ブロック共重合体組成物の構造は、その成膜方法にもよるが、一般的に平衡構造とはなっていない。すなわち、成膜時の溶媒の急激な気化に伴い、高分子ブロック共重合体組成物はそのミクロ相分離が十分に進行せず、構造が非平衡な状態、あるいは全くのディスオーダー状態で凍結された状態である場合が多い。そこで、高分子ブロック共重合体組成物のミクロ相分離過程を十分に進行させ、平衡構造を得るために、基板をアニールする。アニールは高分子ブロック共重合体組成物のガラス転移温度以上に加熱した状態で放置する熱アニールや、高分子ブロック共重合体組成物の良溶媒蒸気に暴露した状態で放置する溶媒アニール等で行うことができる。このアニール処理は高分子ブロック共重合体の酸化を防止するために真空や窒素あるいはアルゴン雰囲気下において行うと良い。PS−b−PMMAを主成分とする高分子ブロック共重合体組成物の場合、熱アニールが簡便であり、真空雰囲気化、温度170〜200℃において数時間から数日加熱することによりアニール処理は完了する。
【0054】
以上の方法により、図2(e)に示すような、ミクロドメインによる所望の位置に柱状ミクロドメイン構造を形成したパターンを有する高分子薄膜が基板201上に形成され、微細構造体207が製造されたことになる。
【0055】
なお、図2(d)に示すような連続相206は、高分子ブロック共重合体から構成され、柱状ミクロドメインが基板に対して平行な構造や、表面1上に基板に対して垂直に配向した柱状ミクロドメインの周りを囲うような構造、あるいは、柱状ミクロドメインを構成する高分子セグメントが反転したものを含む。ただし、連続相206中の構造はこれらに限定されるものではなく、表面2と第2セグメントが接していれば良い。
【0056】
(化学的レジストレーション)
本発明によって、柱状ミクロドメイン間隔を調整した代表例を以下に示す。高分子ブロック共重合体が形成する柱状ミクロドメインの固有周期がdoである場合について可能となったパターンについて、図6を用いて説明する。
【0057】
図6(a)は柱状ミクロドメインが基板に直立した状態でヘキサゴナルに周期doで基板全面に渡って配列したパターンを示している。このパターンについては、高分子ブロック共重合体の固有周期do同じ周期となるため、従来の化学的レジストレーション法でも対応可能であった。
【0058】
図6(b)は柱状ミクロドメインが基板に垂直に配向した状態でヘキサゴナルに高分子ブロック共重合体の固有周期の1.3倍で基板前面に渡って配列したパターンを示している。このパターンについては、従来の化学的レジストレーション法でも対応が可能であった。
【0059】
図6(c)は柱状ミクロドメインが基板に垂直に配向した状態でヘキサゴナルに高分子ブロック共重合体の固有周期の2倍で基板全面に渡って配列したパターンを示している。このパターンは、図6(c)の柱状ミクロドメインが基板に垂直に配向した位置に、予め化学的パターンを形成し、高分子ブロック共重合体の膜厚を制御しておくことで、実現される。
【0060】
図6(d)は柱状ミクロドメインが基板に垂直に配向した状態でヘキサゴナルに高分子ブロック共重合体の固有周期の3倍で基板前面に渡って配列したパターンを示している。このパターンは、図6(d)の柱状ミクロドメインが基板に垂直に配向した位置に、予め化学的パターンを形成し、高分子ブロック共重合体の膜厚を制御しておくことで、実現される。
【0061】
なお、図示しないが、化学的パターンの規則性は特に制限されるものではなく、同一基板上に複数のパターン間隔を混在させてもよい。
【0062】
また、化学的パターンの間隔dは特に規定されるものではないが、
d=do×(n±0.3) nは自然数
の関係を満たすことが望ましい。
【0063】
(パターン基板について)
次に、図7を参照して、高分子ブロック共重合体組成物のミクロドメインを用いてパターン基板を作成する種々の方法について説明する。なお、図7では基板表面にパターン化された状態で存在する化学的に性質の異なる表面については省略している。ここで、パターン基板とは、その表面にミクロドメインの規則配列パターンに対応する凹凸面が形成されているものを指す。
【0064】
まず、図7(a)に示すミクロドメイン中、片側の高分子相を選択的に除去して、図7(b)に示すような、複数の微細孔Hが規則配列パターンを形成した多孔質薄膜Dを得る。
【0065】
なお、図示しないが、連続相Aの高分子相を選択的に除去して、複数の柱状構造体(柱状相B)が規則配列パターンを形成した高分子薄膜を得ることもできる。このように、複数の微細孔H又は柱状構造体が規則配列パターンを形成する多孔質薄膜Dが基板20上に形成されて、パターン基板が製造されたことになる。
【0066】
また、詳しく述べないが、図7(b)において、残存した他方の高分子相(図では連続相Aからなる多孔質薄膜D)を基板200の表面から剥離して、単独の多孔質薄膜Dをパターン基板として製造することもできる。
【0067】
ところで、図7(b)に示すように、高分子薄膜Cを構成する連続相A又は柱状相Bのいずれか一方の高分子相を選択的に除去する方法としては、リアクティブイオンエッチング(RIE)、又はその他のエッチング手法により各高分子相間のエッチングレートの差を利用する方法を用いる。
【0068】
このように、いずれか一方の高分子相のみを選択的に除去できる高分子薄膜を形成しうる高分子ブロック共重合体としては、例えばポリブタジエン−ポリジメチルシロキサン,ポリブタジエン−4−ビニルピリジン,ポリブタジエン−メチルメタクリレート,ポリブタジエン−ポリ−t−ブチルメタクリレート,ポリブタジエン−t−ブチルアクリレート,ポリ−t−ブチルメタクリレート−ポリ−4−ビニルピリジン,ポリエチレン−ポリメチルメタクリレート,ポリ−t−ブチルメタクリレート−ポリ−2−ビニルピリジン,ポリエチレン−ポリ−2−ビニルピリジン,ポリエチレン−ポリ−4−ビニルピリジン,ポリイソプレン−ポリ−2−ビニルピリジン,ポリメチルメタクリレート−ポリスチレン,ポリ−t−ブチルメタクリレート−ポリスチレン,ポリメチルアクリレート−ポリスチレン,ポリブタジエン−ポリスチレン,ポリイソプレン−ポリスチレン,ポリスチレンポリ−2−ビニルピリジン,ポリスチレンポリ−4−ビニルピリジン,ポリスチレンポリジメチルシロキサン,ポリスチレンポリ−N,N−ジメチルアクリルアミド,ポリブタジエン−ポリアクリル酸ナトリウム,ポリブタジエン−ポリエチレンオキシド,ポリ−t−ブチルメタクリレート−ポリエチレンオキシド,ポリスチレンポリアクリル酸,ポリスチレンポリメタクリル酸等がある。
【0069】
また、連続相10又は柱状ミクロドメイン20のいずれか一方の高分子相に金属原子等をドープすることによりエッチングの選択性を向上させることも可能である。例えポリスチレンとポリブタジエンである高分子ブロック共重合体の場合、ポリブタジエンからなる高分子相は、ポリスチレンからなる高分子相と比較してよりオスミウムがドープされやすい。この効果を利用して、ポリブタジエンからなるドメインのエッチング耐性を向上させることが可能である。
【0070】
次に、図7(c)(d)を参照して、パターン基板の製造方法において他の例を説明する。図7(b)に示す連続相Aのように残存した他方の高分子相(多孔質薄膜D)をマスクとして基板をRIEやプラズマエッチング法でエッチング加工する。すると、図7(c)に示すように、微細孔Hを介して選択除去された高分子相の部位に対応する前記基板の表面部位が加工され、ミクロ分離構造の規則配列パターンが基板の表面に転写されることになる。そして、このパターン基板の表面に残存した多孔質薄膜をRIEまたは溶媒で除去すると、図7(d)に示すように、柱状相Bに対応した規則配列パターンを有する微細孔Hが表面に形成されたパターン基板が得られることになる。
【0071】
次に、図7(e)(f)を参照して、パターン基板の製造方法に係る他の実施形態について説明する。
【0072】
図7(b)に示す連続相Aのように残存した他方の高分子相(多孔質薄膜D)を、図7(e)のように被転写体に密着させて、ミクロドメインの規則配列パターンを被転写体の表面に転写する。その後、図7(f)に示すように、被転写体をパターン基板から剥離することにより、多孔質薄膜Dの規則配列パターンが転写されたレプリカ(パターン基板)を得る。
【0073】
ここで、被転写体の材質は、金属であればニッケル,白金,金等,無機材料であればガラスやチタニア等、用途に応じて選択すればよい。被転写体が金属製の場合、スパッタ,蒸着,めっき法、又はこれらの組み合わせにより、被転写体をパターン基板の凹凸面に密着させることが可能である。
【0074】
また、被転写体が無機物質の場合は、スパッタやCVD法のほか、例えばゾルゲル法を用いて密着させることができる。ここで、めっきやゾルゲル法は、ミクロドメインにおける数十ナノメートルの微細な規則配列パターンを正確に転写することが可能であり、非真空プロセスによる低コスト化も望める点で好ましい方法である。
【0075】
前記した製造方法により得られたパターン基板は、その表面に形成される規則配列パターンの凹凸面が微細でかつアスペクト比が大きいことから、種々の用途に適用される。
【0076】
例えば、製造されたパターン基板の表面を、ナノインプリント法等により被転写体に繰り返し密着させることにより、同じ規則配列パターンを表面に有するパターン基板のレプリカを大量に製造するような用途に供することができる。
【0077】
以下に、ナノインプリント法によりパターン基板の凹凸面の微細な規則配列パターンを被転写体に転写する方法について示す。
【0078】
第1の方法は、作製したパターン基板を被転写体(図示せず)に直接インプリントして規則配列パターンを転写する方法である(本方法を、熱インプリント法という)。この方法は、被転写体が直接インプリントすることが可能な材質である場合に適する。例えばポリスチレンに代表される熱可塑性樹脂を被転写体とする場合、熱可塑性樹脂のガラス転移温度以上に加熱した後に、パターン基板をこの被転写体に押し当てて密着させ、ガラス転移温度以下まで冷却した後にパターン基板を被転写体の表面から離型するとレプリカを得ることができる。
【0079】
また、第2の方法として、パターン基板がガラス等の光透過性の材質である場合は、光硬化性樹脂を被転写体(図示せず)として適用する(本方法を、光インプリント法という)。この光硬化性樹脂をパターン基板に密着させた後に光を照射すと、この光硬化性樹脂は硬化するので、パターン基板を離型して、硬化後の光硬化性樹脂(被転写体)をレプリカとして用いることができる。
【0080】
さらに、このような光インプリント法において、ガラス等の基板を被転写体(図示せず)とする場合、パターン基板と被転写体の基板とを重ねた隙間に光硬化性樹脂を密着させて光を照射する。そして、この光硬化性樹脂を硬化させた後に、パターン基板を離型して、表面に凹凸を有する硬化後の光硬化性樹脂をマスクにして、プラズマやイオンビーム等でエッチング加工して、基板上に規則配列パターンを転写する方法もある。
【0081】
以上、本発明の実施の形態を柱状ミクロドメイン構造を中心として説明したが、上述したように、本発明はラメラ状ミクロドメイン構造にも適用することができる。
【実施例1】
【0082】
本実施例では本発明の第1の微細構造を有する高分子薄膜の製造方法に関して、高分子ブロック共重合体として柱状ミクロドメイン構造を形成するPS−b−PMMAを用いて行った検討の結果を、比較事例を適宜参照しながら説明する。
【0083】
(化学的パターン化基板の準備)
基板には自然酸化膜を有するSiウエハを用い、その表面全面にポリスチレンをグラフト化した後に、ポリスチレングラフト層を電子ビーム(EB)リソグラフィーによりパターニングすることによりポリスチレンとポリメチルメタクリレートに対して異なる濡れ性を有する表面がパターン化された基板を得た。以下、手順を詳述する。
【0084】
ポリスチレングラフト基板は以下の方法で作成した。まず、自然酸化膜を有するSiウエハ(4インチ)をピラニア溶液により洗浄した。ピラニア処理は酸化作用を有するため基板表面の有機物除去に加えて、Siウエハ表面を酸化し、表面水酸基密度を増加させることができる。次に、Siウエハ表面に、トルエンに溶解した水酸基で末端をターミネートされたポリスチレン(PS−OH)(濃度1.0wt%)をスピンコーター(ミカサ株式会社製1H−360S)を用いて回転数は3,000rpmの条件で成膜した。ここで、PS−OHの分子量は3700とした。得られたPS−OHの膜厚は約50nm程度であった。次に、PS−OHを塗布した基板を真空オーブンに投入し140℃において48時間加熱した。この処理によりPS−OH末端の水酸基が基板表面の水酸基と脱水反応により化学的に結合する。最後に、未反応のPS−OHを、基板をトルエンに浸漬し超音波処理することにより除去しPSグラフト層を有する基板を得た。
【0085】
PSグラフト基板の表面状態を評価するために、PSグラフト層の厚み、基板表面のカーボン量および基板表面に対するPSの接触角を測定した。PSグラフト層の厚みの測定は分光エリプソメトリー法を、表面カーボン量の定量にはX線光電子分光法(XPS法)を用いた。
【0086】
基板表面に対するPSの接触角測定は以下の方法により実施した。まず、基板の表面に分子量4000のホモポリスチレン(hPS)の薄膜を厚みが約80nmとなるようにスピンコートした。次に、hPSを成膜した基板を、真空雰囲気化において、温度170℃で24時間アニールした。この処理により、hPS薄膜は基板表面でdewettingし微小な液滴となった。加熱処理後、基板を加熱炉から取り出し液体窒素に浸漬することにより急冷し、液滴の形状を凍結した。得られた液滴の断面形状を原子間力顕微鏡により測定し、基板と液滴の界面の角度を測定することにより加熱温度におけるhPSの基板に対する接触角を決定した。この際、角度の測定は6点について行いその平均値を接触角とした。
【0087】
測定の結果、ポリスチレンをグラフトした基板表面のグラフト層の厚みは5.1nmであった。ポリスチレングラフト処理前後における基板表面のカーボン量をXPSで同定したところ、そのC1Sに由来するピークの積分強度は4,500cpsおよび27,000cpsであった。また、hPSの接触角は9度となりグラフト処理前のSiウエハに対する接触角35度より小さくなった。このことから、シリコンウエハ表面にポリスチレングラフト膜が形成できたことを確認できた。
【0088】
PSグラフト基板表面のPSグラフト層をEBリソグラフィー法によりパターニングし、PSグラフト層表面にSiウエハが露出した半径rの円形の領域が、格子間隔dでヘキサゴナルに配列した化学的パターン基板を作成した。作成した基板上のパターン配置を図8に示す。1枚の基板上には格子間隔dのヘキサゴナルパターンを有する領域(100μm四方)が連続的に配置されている。半径rは高分子ブロック共重合体の固有周期doに2/√3倍した値の約25%〜30%の長さとした。
【0089】
図4を参照して化学的パターン基板の製造プロセスを模式的に示す。まず。上記方法で作成した4インチのPSグラフト基板を2cm四方の大きさにダイシングした基板を準備した(図4(b))。次に、その表面にPMMAレジストを厚み85nmとなるようにスピンコートした(図4(c))。次に、EBリソグラフィー措置を用いて加速電圧100kVでPMMAレジストを露光し(図4(d))、その後にPMMAレジストを現像した(図4(e))。ここで、パターンの直径rは各格子点における電子ビームの露光量で調整した。次に、パターン化したPMMAレジストをマスクとして、酸素ガスを用いた反応性ドライエッチ(RIE)によりPSグラフト層をエッチングした(図4(f))。RIE処理はICPドライエッチ装置を用いて実施した。RIE条件は出力40W、酸素ガス圧力4Pa、ガス流量30cm3/分、エッチング時間5〜10秒とした。最後に、基板表面に残存したPMMAレジストをトルエンにより除去することにより、表面にパターン化されたPSグラフト層を有する基板を得た(図4(g))。なお、EBリソグラフィーに用いたレジストはPMMAレジストで限定されるものではなく、良好な解像度が得られるものであれば特に限定されるものではない。また、PMMAレジストを除去する溶媒はトルエンに限らず、PMMAレジストの良溶媒であればよく、特に限定されるものではない。
【0090】
(固有周期の測定)
高分子ブロック共重合体(PS−b−PMMA)の固有周期doを以下の方法で決定した。用いた高分子ブロック共重合体PS−b−PMMAとして、PS鎖の数平均分子量(Mn)が46,100,PMMA鎖のMnが21,000のPS(46k)−b−PMMA(12k)を用いた。まず、PS−b−PMMAサンプルを半導体グレードのトルエンに溶解することにより所定の濃度1.0wt%のPS−b−PMMA溶液を得た。次に、シリコン基板表面にスピンコーターを用いてPS−b−PMMA溶液を45nmの厚みとなるように塗布した。次に、基板を170℃において24時間真空オーブンを用いてアニール処理しミクロ相分離過程を進行させ平衡状態の自己組織化構造を発現させた。
【0091】
基板表面に成膜したPS−b−PMMA薄膜中のミクロドメインを走査型電子顕微鏡(SEM:Scanning Electron Microscope)を用いて観察した。
【0092】
SEM観察は、日立製作所製S4800を用い加速電圧0.7kVの条件で実施した。SEM観察用の試料は以下の方法で作成した。まず、PS−b−PMMA薄膜中に存在するPMMAミクロドメインを酸素RIE法により分解除去することにより、ミクロドメインに由来するナノスケールの凸凹形状を有する高分子薄膜を得た。RIEにはサムコ社製RIE−10NPを用い、酸素ガス圧1.0Pa、ガス流量10cm3/分、パワー20Wにおいて30秒間のエッチングを実施した。なお、微細構造を正確に測定するため、SEM観察において通常帯電防止のために実施する試料表面へのPt等の蒸着は行わず、加速電圧を調整することで必要なコントラストを得た。
【0093】
代表的なSEM観察像を図9に示す。基板表面でPS−b−PMMAは柱状ミクロドメインが基板に対して直立した状態で、ローカルにはヘキサゴナルに配列する場合が多く、そのような構造のSEM観察像(図9(a))から、固有周期doを決定した。doの決定は、SEM観察像を汎用の画像処理ソフトにより2次元フーリエ変換することで行った。すなわち、図9(b)に示すように、シリコン基板表面上で配列した柱状ミクロドメインの2次元フーリエ変換像は多数のスポットが集合したハローパターンを与えたので、その第1ハロー半径からdoを決定したところ、do=32nmであることが判明した。
【0094】
(ケミカルレジストレーション)
化学的にパターニングした基板表面上にPS−b−PMMAを成膜し、ミクロドメインを発現させた。方法は、上記の手法と同一である。得られたPS−b−PMMA薄膜中のパターン形状を走査型電子顕微鏡により観察した。
【0095】
代表的な結果を図10に示す。周期d=32nm,61nmで化学的にパターニングされた基板上において、周期32nmについては膜厚32nmで、周期61nmについては膜厚32nm,45nmでPS(46k)−b−PMMA(21k)を塗布し、自己組織化を行い、所望のパターン間隔で柱状ミクロドメインが基板に対して垂直に配向しているSEM観察結果を図10に示す。図10(a)は、PS−b−PMMAが形成するPMMA柱状ミクロドメインが化学的パターン化基板表面のSiウエハ露出部に選択的に濡れることによりその位置が拘束され、PS−b−PMMAが形成するPS連続相はパターン化基板表面のポリスチレングラフト表面に選択的に濡れる。さらに、固有周期doの2倍程度の周期61nmでパターニングし、膜厚32nmで自己組織化を行った場合、図10(b)のコントラスト比からパターニングされた部分はPMMAを主成分とする柱状ミクロドメインが形成され、パターン間は基板表面にPSからなる連続層が形成されていることが確認された。また、固有周期doの2倍程度の周期61nmでパターニングし、膜厚45nmで自己組織化を行った場合、図10(c)のように高分子ブロック共重合体の固有周期32nmで基板上に柱状ミクロドメインが形成され、所望のパターンは得られなかった。
【0096】
(比較例1)
実施例1のように、PS−b−PMMAの固有周期do以上の間隔でパターンを配置する場合、化学的にパターニングを行った基板上で、膜厚を調整した上で自己組織化膜を形成すれば、図10(b)に示すように柱状ミクロドメインが所望のパターン間隔で基板に対して垂直に配向することが認められた。そこで、PS−b−PMMAの膜厚による影響を確認するために、以下の実験を実施した。
【0097】
前記した化学的にパターニングした基板上でのPS(46k)−b−PMMA(21k)の自己組織化と同様な方法により、PS(46k)−b−PMMA(21k)を種々の膜厚で基板200の表面に成膜し、熱処理することによりミクロドメインを発現させた。得られたPS−b−PMMA薄膜中に存在するPMMAミクロドメインを酸素RIE法により分解除去することにより、ミクロドメインに由来するナノスケールの凸凹形状を有する高分子薄膜を得た。得られた高分子薄膜をSEMにより観察した。
【0098】
表1にPS(46k)−b−PMMA(21k)の周期32nmおよび61nmの化学的パターン上における種々の膜厚でのパターンの形成結果を示す。この表で「○」は図10(a)と同様なパターンが得られた状態を、「◎」は図10(b)と同様なパターンが得られた状態を、「×」は図10(c)と同様なパターンが得られた状態を示している。
【0099】
表1の結果より、周期61nmの場合、膜厚tが0.8×do<t<1.2×doの範囲において、所望のパターン間隔でのパターン形成が認められた。
【0100】
以上の結果より、PMMAからなる柱状ミクロドメインが任意のパターン間隔で、基板上に垂直に配向したパターンを形成するためには、基板上に所望のパターン間隔で化学的パターニングを行い、膜厚を(0.8+m)×do<t<(1.2+m)×do(mは0以上の整数)の関係を満たすように調整すればよいことが実証された。
【0101】
【表1】

【実施例2】
【0102】
高分子ブロック共重合体を以下に説明するものに変えた以外は実施例1に記載の工程に従い実験を行った。
【0103】
高分子ブロック共重合体には、PSの数平均分子量Mnが35,500,PMMAのMnが12,200であるPS−b−PMMAを用いた。実施例1と同様に固有周期doを求めたところ24nmであり、この値に従い基板上に、d=24nm,48nm,72nmのヘキサゴナルパターンを化学的にパターニングし、膜厚25nmで高分子ブロック共重合体を塗布し、熱処理を行うことによりミクロドメインを発現させた。得られたPS−b−PMMA薄膜中に存在するPMMAミクロドメインを酸素RIE法により分解除去することにより、ミクロドメインに由来するナノスケールの凸凹形状を有する高分子薄膜を得た。得られた高分子薄膜をSEMにより観察した。その結果、化学的にパターニングした位置に柱状ミクロドメイン構造が形成されていることが確認され、所望の位置にパターニングが可能であることが認められた。
【実施例3】
【0104】
本実施例では本発明の第1の微細構造を有する高分子薄膜の製造方法に関して、高分子ブロック共重合体としてPS−b−ポリジメチルシロキサン(PDMS)を用いて行った検討の結果を説明する。高分子ブロック共重合体をPS−b−PDMSに変えた以外は実施例1に記載の工程に従い実験を行った。
【0105】
高分子ブロック共重合体には、PSの数平均分子量Mnが8,500,PDMSのMnが4,500であるPS−b−PMMAを用いた。実施例1と同様に固有周期doを求めたところ14nmであり、この値に従い基板上に、d=14nm,28nm,42nmのヘキサゴナルパターンを化学的にパターニングし、膜厚14nmで高分子ブロック共重合体を塗布し、熱処理を行うことによりミクロドメインを発現させた。得られたPS−b−PDMS薄膜中に存在するPSミクロドメインをRIE法により分解除去することにより、ミクロドメインに由来するナノスケールの凸凹形状を有する高分子薄膜を得た。RIEにはサムコ社製RIE−10NPを用い、CF4ガス圧1.0Pa、ガス流量10cm3/分、パワー50Wにおいて5秒間のエッチングを行った後、酸素ガス圧1.0Pa、ガス流量10cm3/分、パワー100Wにおいて20秒間のエッチングを実施した。得られた高分子薄膜をSEMにより観察した。その結果、化学的にパターニングした位置に柱状ミクロドメイン構造が形成されていることが確認され、所望の位置にパターニングが可能であることが認められた。
【実施例4】
【0106】
本実施例では本発明の第1の微細構造を有する高分子薄膜の製造方法に関して、高分子ブロック共重合体としてラメラ状ミクロドメイン構造を形成するPS−b−PMMAを用いて行った検討の結果を、比較事例を適宜参照しながら説明する。
【0107】
(化学的パターン化基板の準備)
実施例1と同様にPSグラフト基板表面のPSグラフト層をEBリソグラフィー法によりパターニングすることによりPSグラフト層表面にSiウエハが露出した幅rのストライプ状の領域が、格子間隔dで平行に配列した化学的パターン基板を作成した。作成した基板上のパターン配置を図11に示す。1枚の基板上には格子間隔dが40,80,120nmのストライプ状パターンを有する領域(100μm四方)が連続的に配置されている。幅rは格子間隔dの約25%〜30%の長さとした。
【0108】
(ケミカルレジストレーション)
化学的にパターニングした基板表面上にPS−b−PMMAを製膜し、ミクロドメインを発現させた。PS−b−PMMAとしてPS鎖の数平均分子量(Mn)が52,000,PMMA鎖のMnが52,000のPS(52k)−b−PMMA(52k)を用いて、種々の膜厚で成膜した。得られたPS−b−PMMA薄膜中のパターン形状を走査型電子顕微鏡により観察した。なお、別途、実施例1と同様に固有周期doを決定したところ、do=40nmであった。
【0109】
表2にPS(52k)−b−PMMA(52k)について、種々の化学的パターンの周期dおよび膜厚からなるストライプ状パターンを有する基板を用いて行った実験の結果をまとめた。この表で「○」は所望の位置にパターンが得られた状態を、「△」は一部のみ所望の位置にパターンが認められ、欠陥を有する状態を、「×」はほとんど所望の位置にパターンが認められなかった状態を示している。表3の結果より、固有周期doと基板のパターン周期dが一致している場合、どの膜厚においても所望の位置にパターンが認められ、PS−b−PMMAが形成する規則構造は欠陥も無く長距離にわたり周期的に配列している。一方、基板のパターン周期dが固有周期doの2倍,3倍の場合、膜厚tが0.8×do<t<1.2×do、および1.8×do<t<2.2×doの場合のみ、所望の位置にパターニングが可能であることが認められた。
【0110】
本実験では、化学的パターンの基板の周期dがPS−b−PMMAの固有周期doの2倍,3倍としたが、上述したように、本発明で既定したPS−b−PMMAの膜厚を規定することにより、自己組織化によりラメラを所望の位置に配列させることが可能であること示された。
【0111】
【表2】

【実施例5】
【0112】
次に、パターン基板を製造した実施例について示す。まず、図7(a),(b)に示す工程に従い、高分子薄膜C中の柱状相を分解除去し、基板の表面に多孔質薄膜を形成する例について示す。
【0113】
実施例1の手順に従い、PMMAからなる柱状相Bが膜表面に対して直立(膜の貫通方向に配向)した構造をとった高分子薄膜を基板表面に作成した。ここで、パターンの配置は実施例1と同様に図9に示す配置を適用した。また、高分子ブロック共重合体組成物としては、実施例1と同様に、主成分のPS−b−PMMAとしてはPSの数平均分子量Mnが46,000,PMMAの数平均分子量Mnが21,000,分子量分布(Mw/Mn)が1.04のものを用いた。
【0114】
PS(46k)−b−PMMA(21k)の固有周期doの2倍の周期で化学的にパターニングした基板にPS−b−PMMAを膜厚32nmとなるように塗布し、熱アニールに供することによりミクロ相分離を発現させ、PMMAからなる柱状ミクロドメインがPSからなる連続相中で規則的に配列した構造を得た。次に、RIEによりPMMA相を除去する操作を行い、多孔質薄膜Dを得た。ここで酸素のガス圧力は1Pa、出力は20Wとした。エッチング処理時間は90秒とした。
【0115】
走査型電子顕微鏡を用いて、作製した多孔質薄膜Dの表面形状を観察した。
【0116】
その結果、多孔質薄膜Dには全面に渡り、膜の貫通方向に配向して柱状の微細孔Hが形成されていることが確認された。ここで、微細孔Hの直径は約15nmであった。さらに、得られた多孔質薄膜Dにおける微細孔Hの配列状態を詳細に分析した結果、周期d=64nmで化学的に表面がパターン化された領域では微細孔Hは欠陥なく一方向に配向した状態でヘキサゴナルに配列している様子が見て取れた。それに対して、化学的にパターン化されていない領域においては、微細孔Hが微視的にはヘキサゴナルな配列を取っているものの、巨視的にはヘキサゴナルに配列した領域がグレインを形成しており、かつ、特にグレインの界面領域に多くの格子欠陥が存在することが判明した。
【0117】
ここで、多孔質薄膜Dの厚みをその一部を鋭利な刃物で基板20の表面から剥離し、基板20の表面と多孔質薄膜D表面の段差をAFM観察で測定したところ、その値は約28nmであった。
【0118】
得られた微細孔Hのアスペクト比は2.0であり、球状ミクロドメイン構造では得られない大きな値が実現されている。なお、高分子薄膜Cの膜厚が、RIEの実施前で32nmあったものが、28nmに減少したのは、RIEの実施によりPMMA相とともにPS連続相Aも若干エッチングされたためと考えられる。
【0119】
次に、多孔質薄膜Dをマスクとして、シリコン基板20をエッチングすることにより、多孔質薄膜Dのパターンを基板に転写した。ここで、エッチングはCF4ガスによるドライエッチにより実施した。その結果、多孔質薄膜D中の微細孔Hの形状と配置をシリコン基板に転写することに成功した。
【実施例6】
【0120】
本実施例では、本発明を使用して製造したバイオデバイスについて説明する。図12は細胞培養シートの平面図である。
【0121】
図12に示すように、細胞培養シート601は、厚さ0.5μmのPMMAを主成分とした薄膜(シート)601、この薄膜601に立設されたPMMAを主成分とする複数の柱状微細突起603からなる。この柱状微細突起603は、高さが50nmであって、100nmの周期(ピッチ)で配列している。そして、柱状微細突起603は円柱状であり、直径は20nmである。このような薄膜601上に複数の柱状微細突起603を有する構造は、化学的に100nmピッチで化学的にパターニングを行った基板上に、周期50nmで直径20nmの柱状ミクロドメインを形成する高分子ブロック共重合体を膜厚50nmで成膜し、ミクロドメインを形成させることで作製したマスクを使用して、実施例2で記載した手法を用いて、パターン基板を作製し、ナノインプリント法などを用いてPMMAからなる樹脂層にパターン基板を押し当てて形成することができる。また、柱状微細突起603の一部に、本発明による手法を用いて、十字形状に隙間604を形成した。
【0122】
この細胞培養シート601を、ガラスシャーレ等の容器に入れて、容器内に培養液を浸して培養が行われる。ここで参照する図13は、細胞培養シート601を使用した培養の様子を示す模式図である。図13に示すように、細胞培養シート601の柱状微細突起603上に、例えば皮膚,骨,血液等の細胞(組織),培地,栄養素等の培養液605を載せることで培養が行われる。
【0123】
細胞培養シート601には、一定の隙間604(図12参照)が設けられているので、培養液605が流れやすくなって、培養に供する細胞等に対して効率良く栄養素が供給されることとなる。また、培養時における細胞の老廃物が効率よく排出される。
【0124】
このような細胞培養シート601を使用することにより、通常のガラスシャーレを使用するときに生じていたシャーレからの剥離による細胞への損傷を大幅に軽減することができ、細胞を移植する際の定着率を高めることができる。また、図13に示すように細胞培養シート40上の柱状微細突起603により形成されるシート状の表皮細胞の下部にできる隙間604(図12参照)を通して、細胞全体に培養液605が流れやすくなる。その結果、細胞への栄養素の供給や細胞の老廃物の排出を効率良く行うことができ、従来生じていた培養中の細胞の死滅を抑えることができる。
【0125】
次に、細胞培養シート601をガラスシャーレに培養液を浸した状態で入れ、細胞培養シート601上で、正常ヒト表皮角化細胞を培養した。この培養には、クラボウ(株)製のHuMedia−KB2が培地として使用され、培養温度が37℃であり、5%のCO2の流下で行われた。その結果、細胞培養シート601上では、表皮角化細胞が正常に付着してシート形状に増殖した。このシート形状の細胞を培養開始の14日後に剥離することで損傷の少ないシート状の表皮角化細胞が得られた。
【0126】
また、柱状微細突起603は、高分子材料にプラズマ処理等により親水化処理が施されたものであってもよい。また、高分子材料は特に限定されるものではないが、培養する細胞(組織)に対して影響の少ない材料を選択することが好ましく、ポリスチレン,PMMA,ポリ乳酸が特に好ましい。
【0127】
また、バイオデバイスとしては、例えば医療・診断ツールとして特にμTASと総称される、表面に微細加工を施したものや、医療・化学分野向けの検出・合成等の手段に用いられるものが挙げられる。
【実施例7】
【0128】
本実施例では、本発明を適用した多層配線基板の製造方法について説明する。図14の(a)から(l)は、多層配線基板の製造方法の工程説明図である。
【0129】
図14(a)に示すように、シリコン酸化膜62と銅配線63とで構成された多層配線基板61の表面に化学的パターニングを行った後、高分子ブロック共重合体によるミクロドメイン52が形成される。
【0130】
次に、多層配線基板61の露出領域53がCF4/H2ガスによってドライエッチングされると、図14(b)に示すように、多層配線基板61の表面の露出領域53が溝形状に加工される。次に、レジスト52がRIEによりレジストエッチングされる。そして、段差の低い部分のレジストが除去されるまでレジストエッチングが行われると、図14(c)に示すように、レジスト52の周囲で多層配線基板61の露出領域53が拡大する。この状態から、さらに露出領域53のドライエッチングが行われることによって、図14(d)に示すように、先に形成した溝の深さが銅配線63に到達することとなる。
【0131】
次に、レジスト52を除去することで、図14(e)に示すように、表面に溝形状を有する多層配線基板61が得られる。そして、多層配線基板61の表面には、金属膜(図示せず)が形成された後に、電解メッキが施されて、図14(f)に示すように、金属メッキ膜64が形成される。その後、多層配線基板61のシリコン酸化膜62が露出するまで金属メッキ膜64の研磨が行われる。その結果、図14(g)に示すように、金属メッキ膜64からなる金属配線を表面に有する多層配線基板61が得られる。
【0132】
ここで、多層配線基板61を作製するための別な工程を説明する。
【0133】
図14(a)で示した状態から露出領域53のドライエッチングを行う際に、図14(h)に示すように、多層配線基板61の内部の銅配線63に到達するまでエッチングが行われる。次に、レジスト52をRIEによりエッチングされて、図14(i)に示すように、段差の低いレジスト52部分が除去される。そして、図14(j)に示すように、多層配線基板61の表面には、スパッタによる金属膜65が形成される。次いで、レジスト52がリフトオフで除去されることで、図14(k)に示すように、多層配線基板61の表面に部分的に金属膜65が残った構造が得られる。次に、残った金属膜65に無電解メッキが施されることによって、図14(l)に示すように、多層配線基板61に金属膜65からなる金属配線を表面に有する多層配線基板61が得られる。このように本発明を多層配線基板61の製造に適用することで、高い寸法精度を持つ金属配線を形成することができる。
【図面の簡単な説明】
【0134】
【図1】化学的レジストレーションの概念をしめした模式図である。
【図2】本発明のプロセスを示した模式図である。
【図3】基板表面でミクロ相分離した高分子ブロック共重合体中の構造の例を示す模式図である。
【図4】基板の化学的パターン化プロセスの一例を示す模式図である。
【図5】化学的パターン化した基板の断面の例を示す模式図である。
【図6】本発明の実施形態の一例を示す模式図である。
【図7】本発明によりパターン基板を作成するプロセスの一例を示す模式図である。
【図8】本発明の実施例のおける基板のパターン配置を示す図である。
【図9】高分子ブロック共重合体組成物が形成するパターンの原子間力顕微鏡観察像とその2次元フーリエ変換像である。
【図10】化学的にパターン化された基板表面における高分子ブロック共重合体組成物が形成するパターンの走査型電子顕微鏡像である。
【図11】本発明の実施例のおける基板のパターン配置を示す図である。
【図12】細胞培養シートの平面図である。
【図13】細胞培養シート40を使用した培養の様子を示す模式図である。
【図14】(a)から(l)は、多層配線基板の製造方法の工程説明図である。
【符号の説明】
【0135】
101 第1セグメント
102 第2セグメント
103 高分子ブロック共重合体
104 柱状ミクロドメイン状ミクロドメイン
105,406 化学的パターン化基板
201 基板
202 表面1
203 表面2
204 塗膜
205 柱状ミクロドメイン
206 連続相
207 微細構造体
208 微細孔
209 高分子薄膜
301 固有周期do
401 化学修飾層
402 レジスト膜
403 露光
404 現像処理
405 エッチング
407 レジスト除去
501 化学的修飾層1
502 化学的修飾層2

【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも第1セグメントおよび第2セグメントを有する高分子ブロック共重合体を含む高分子層を基板表面に配置する第1段階と、
前記高分子層を相分離させ、前記第1セグメントを主成分とするミクロドメインと前記第2セグメントを主成分とするミクロドメインとから形成される構造を発現させる第2段階と、
を有する微細構造体の製造方法において、
前記基板表面は、前記第1セグメントとの界面張力が、前記第2セグメントとの界面張力より大きいか又は略等しく前記基板表面に離散的に配置された第1のパターン部材と、前記第1セグメントとの界面張力が、前記第2セグメントとの界面張力より小さい第2のパターン部材とを有し、
前記第1段階で配置する前記高分子薄膜の膜厚tと、前記高分子ブロック共重合体が形成するミクロドメインの固有周期doの関係が、
(m+0.8)×do<t<(m+1.2)×do
であり、mが0以上の整数であることを特徴とする微細構造体の製造方法。
【請求項2】
前記第1のパターン部材の間隔が、前記高分子ブロック共重合体が形成するミクロドメインの固有周期doよりも大きい領域を有することを特徴とする請求項1に記載の微細構造体の製造方法。
【請求項3】
前記第2段階で形成された前記ミクロドメインの間隔が、高分子ブロック共重合体が形成するミクロドメインの固有周期doよりも大きい領域を有することを特徴とする請求項1に記載の微細構造体の製造方法。
【請求項4】
前記第1のパターン部材は、前記高分子ブロック共重合体のミクロドメインが形成する固有周期doよりも大きい間隔で配置された領域を有し、
前記第2段階で、前記第1のパターン部材の間隔に沿って前記ミクロドメインが形成されることを特徴とする請求項1に記載の微細構造体の製造方法。
【請求項5】
前記ミクロドメインの構造が柱状ミクロドメイン構造を形成することを特徴とする請求項1に記載の微細構造体の製造方法。
【請求項6】
前記ミクロドメインの構造がラメラ構造を形成することを特徴とする請求項1に記載の微細構造体の製造方法。
【請求項7】
請求項1に記載の微細構造体の製造方法によって製造される微細構造体の前記連続相及び前記ミクロドメインのうちいずれか一方を選択的に除去する工程を含む微細構造体の製造方法。
【請求項8】
少なくとも第1セグメントおよび第2セグメントを有する高分子ブロック共重合体を含む高分子層を基板表面に配置する第1段階と、
前記高分子層を相分離させ、前記第1セグメントを主成分とするミクロドメインと前記第2セグメントを主成分とする連続相とから形成される構造を発現させる第2段階と、
前記柱状ミクロドメイン又は連続相のいずれか一方を選択的に除去する第3段階と、
残存した前記柱状ミクロドメイン又は連続相をマスクとして前記基板をエッチングし、前記柱状ミクロドメイン又は連続相の凹凸構造を基板表面に転写する第4段階とを有するパターン基板の製造方法において、
前記基板表面は、前記第1セグメントとの界面張力が、前記第2セグメントとの界面張力より大きいか又は略等しく前記基板表面に離散的に配置された第1のパターン部材と、前記第1セグメントとの界面張力が、前記第2セグメントとの界面張力より小さい第2のパターン部材とを有し、
前記第1段階で配置する前記高分子薄膜の膜厚tと、前記高分子ブロック共重合体が形成するミクロドメインの固有周期doの関係が、
(m+0.8)×do<t<(m+1.2)×do
であり、mが0以上の整数であることを特徴とするパターン基板の製造方法。
【請求項9】
前記第1のパターン部材の間隔が、前記高分子ブロック共重合体が形成するミクロドメインの固有周期doよりも大きい領域を有することを特徴とする請求項8に記載のパターン基板の製造方法。
【請求項10】
前記第2段階で形成された前記柱状ミクロドメインの間隔が、高分子ブロック共重合体が形成するミクロドメインの固有周期doよりも大きい領域を有することを特徴とする請求項8に記載のパターン基板の製造方法。
【請求項11】
前記第1のパターン部材は、前記高分子ブロック共重合体のミクロドメインが形成する固有周期doよりも大きい間隔で配置された領域を有し、
前記第2段階で、前記第1のパターン部材の間隔に沿って前記柱状ミクロドメインが形成されることを特徴とする請求項8に記載のパターン基板の製造方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate

【図10】
image rotate

【図11】
image rotate

【図12】
image rotate

【図13】
image rotate

【図14】
image rotate


【公開番号】特開2010−56256(P2010−56256A)
【公開日】平成22年3月11日(2010.3.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−218958(P2008−218958)
【出願日】平成20年8月28日(2008.8.28)
【出願人】(000005108)株式会社日立製作所 (27,607)
【Fターム(参考)】