心臓病の治療および予防用の医薬組成物
提供されているのは、(a)治療上有効な量の式1または2で表わされる化合物またはその薬学的に許容される塩、プロドラッグ、溶媒和物または異性体、および(b)薬学的に許容される担体、希釈剤または賦形剤、或いはそれらの任意の組合せを含有する、心臓病の治療および予防用の医薬組成物である。
【発明の詳細な説明】
【背景技術】
【0001】
本発明は、心臓病の治療および予防用の医薬組成物に関する。より具体的には、本発明は、(a)活性成分としての治療上有効な量のナフトキノンベースの化合物またはその薬学的に許容される塩、プロドラッグ、溶媒和物または異性体、および(b)薬学的に許容される担体、希釈剤または賦形剤またはそれらの任意の組合せを含有する心臓病の治療および予防用に優れた効果をもつ医薬組成物に関する。
【0002】
心臓は、静脈から血液を受け取り動脈を通して全身に血液を連続的に供給することにより全身の血液循環を担う重要な器官である。心臓によって圧送される血液は、体の一部から別の部分まで酸素および様々な栄養分を運び、同時に体の様々な器官または組織から老廃物を運んで、腎臓または肺を介して体の外側にそれらを放出する。
【0003】
心臓の壁は、心外膜(外側)、心筋(中間)および心内膜(内側)という3層で構成されている。心内膜には部分的に襞が備わっており、心臓の開閉を担う弁を有する。
【0004】
循環系内への血液の圧送は心臓壁の中間筋肉層に対する心筋によって引き起こされる心収縮を用いて行われる。心筋は、心臓の最も厚い層である。
【0005】
高血圧または心臓弁膜症に起因して心室負荷が増大した場合、または心筋梗塞、心筋炎または心筋症に起因して心筋細胞自体の機能不全が発生した場合、体の全身器官に充分な量の血液を供給できず、その結果、心拍出量が減少する結果となる。その後、体は、心筋細胞が肥大した結果として発生する心肥大の形で、適切な心室拍出量を維持するように応答する。心臓は、胎生学的観点から見て完全に分化した器官であり、従って更に細胞を分化させることは出来ない。これらの理由から、心臓機能(心拍出量)を増強させる必要がある場合、唯一の解決法は、既存の心筋細胞のサイズを増大させて心筋収縮能を増強させることにあり、体内で見られるこのような生理現象は、「心筋肥大」と呼ばれる。
【0006】
心臓肥大が長時間持続すると、心不全のリスクが上昇する結果となる確率が高い。心不全とは、細胞アポトーシスに起因する心臓の非薄化および心房腔および心室腔の拡大を伴って臨床的に現れる身体条件を意味し、こうして心臓機能の顕著な劣化が結果としてもたらされる。即ち、心臓肥大を矯正するための適切な処置が全く行われない場合、心室肥大が不適応になり、従って、連続的な心室収縮および拡張機能障害の結果としての心不全の発生に寄与し得る。更に、心室肥大の段階での心室剛性の増大に起因して、心不全は同様に心臓拡張機能障害および機能不全によっても引き起こされ得る。
【0007】
心筋肥大、心不全などの心臓病の治療のためには、心筋収縮能を増大させるかまたは心臓負担の軽減を誘発する材料が、従来使用されてきた。これらの材料の代表例としては、ジゴキシンおよびジギトキシンなどのジギタリス配糖体、およびアムリノンおよびミルリノンなどのPDE3阻害薬が含まれてよい。
【0008】
ジギタリス配糖体は、Na,K−ATPアーゼを阻害して心筋細胞内のCa2+の細胞内濃度を上昇させ、これは心筋収縮能を増強し、こうして心臓病を治療する。PDE3阻害薬はcAMPの細胞内濃度を増大させて心筋収縮能を増強し、同時に血管平滑筋(VSMC)を弛緩させて左右の心室内圧を低下させ、これは心臓負荷の軽減および心拍出量の増加を導く可能性がある。
【0009】
更にベータアドレナリン受容体作動薬(例えばドブタミン)、ベータアドレナリン受容体遮断薬、血管拡張剤、レニン−アンギオテンシン阻害薬および利尿薬などのその他の薬剤が、心臓病の治療用に使用されてきた。
【0010】
生体における心肥大の発症機序には数多くの因子が関与していることから、単一の病原因子に対する拮抗作用だけでは、問題の疾病を治療するのに不充分である。更に、心収縮改善物質は急速な症候緩和効果を示すかもしれないが、心不全などの心臓病の羅患率およびそれによる患者の死亡率はなおも非常に高いものであり、数ヶ月から数年以内の突然死のリスクは非常に高い。
【0011】
更に、末期心不全患者は、極端な心機能減退を伴う状態にあり、そのため心臓移植が唯一の治療スキームである。残念なことに、利用可能なドナー心臓の数はきわめて限られており、そのため、人工心臓を用いる以外の代替的選択肢は存在しない。更に術後成果は常に満足のいくものではない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0012】
【特許文献1】米国特許第5,969,163号明細書
【非特許文献】
【0013】
【非特許文献1】V.Nairら、Tetrahedron Lett.、第42号(2001年)、4549〜4551頁
【非特許文献2】A.C.Baillieら、(J.Chem.Soc.(C)1968年、48〜52頁)
【非特許文献3】J.K.Snyderら、(Tetrahedron Letters、第28号、(1987年)、3427〜3430頁)
【非特許文献4】「Remington’s Pharmaceutical Sciences」 Mack Publishing Co.、Easton、PA、第18版、1990年
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
従来の治療が、関与する疾病の全快および延命の長期目的および最終目的の達成という観点からみて充分満足のいく成果を提供しないという点を考慮すると、心肥大および心不全などの心臓病の治療のための活性作用物質を開発することに対する緊急のニーズが存在する。
【0015】
この目的で、本発明の発明者らは、一部のナフトキノン化合物が、心肥大および心不全に関連する心臓病に対する優れた予防および治療効果を示すことが出来るということを発見した。
【0016】
一方、従来のナフトキノンベースの化合物を活性成分として含有するいくつかの医薬組成物が当該技術分野において公知である。これらのナフトキノンベースの化合物のうち、β−ラパコンは、南米原産のラパチョの木(Tabebuia avellanedae)から誘導され、ズンニオンおよびα−ズンニオンも同じく南米原産のストレプトカルプス−ズンニ(Streptocarpus dunnii)の葉から誘導される。これらの天然に発生する三環系ナフトキノン誘導体は長い間、抗癌医薬としてのみならず、南米の代表的な風土病として公知のシャーガス病の治療のための医薬として使用されてきており、強力な効能を示すものとしても知られていた。特にこれらのナフトキノン誘導体の抗癌医薬としての薬理作用は、それらが西欧諸国に知られるようになって以来、大いに注目されてきた。特許文献1の中で開示されている通り、三環系ナフトキノン誘導体を利用する数多くの抗癌剤が現在、数多くの研究グループにより開発されている。
【0017】
関連する分野において実施されたさまざまな研究にも関わらず、これらのナフトキノンベースの化合物が心肥大および心不全に関連する心臓病の治療または予防に対する薬理学的に有益な効果を示すことを実証する報告書は、全く存在しない。
【課題を解決するための手段】
【0018】
以上で記述した通りの課題を解決するためのさまざまな広範かつ集約的な研究および実験の結果として、本発明の発明者らは、心臓病の治療または予防のために、或る種のナフトキノンベースの化合物を使用することができるということを新たに実証し、これらの化合物が、体の標的部位内に吸収可能となるように調合された場合に、所望の薬理効果を及ぼすことができることを発見した。本発明は、この発見した事実に基づいて企図されたものである。
【0019】
本発明の一態様によると、上述のおよびその他の目的は、
(a)式1および2
【化1】
【化2】
により表わされる化合物から選択される治療上有効な量の1つ以上の化合物またはその薬学的に許容される塩、プロドラッグ、溶媒和物または異性体;および(b)薬学的に許容される担体、希釈剤または賦形剤またはそれらの任意の組合せを含む心臓病の治療および予防のための医薬組成物において、
− R1およびR2は各々独立して水素、ハロゲン、ヒドロキシル、またはC1−C6低級アルキルまたはアルコキシであるか、或いはR1およびR2は統合して、飽和されていても部分的または完全に不飽和であってもよい置換または未置換環状構造を形成してもよく;
− R3、R4、R5、R6、R7およびR8は各々独立して水素、ヒドロキシル、C1−C20アルキル、アルケンまたはアルコキシ、またはC4−C20シクロアルキル、ヘテロシクロアルキル、アリールまたはヘテロアリールであり、或いはR3〜R8のうちの2つは統合して、飽和されていても部分的または完全に不飽和であってもよい環状構造を形成してもよく;
− Xは、C(R)(R’)、N(R’’)からなる群から選択され、式中R、R’およびR’’は各々独立して水素またはC1−C6低級アルキル、OおよびSであり、好ましくはOまたはS、そしてより好ましくはOであり;
− YがSである場合R7およびR8は不在であり、YがNである場合R7が水素またはC1−C6低級アルキルであり、かつR8が不在であることを条件として、YはC、SまたはNであり;かつ
− nが0である場合、nに隣接する炭素原子が直接結合を介して環状構造を形成することを条件として、nは0または1である、
医薬組成物を提供することによって達成可能である。
【0020】
本発明に係る医薬組成物が心臓病に対して有する治療的効果を調査するために行った実験から、本発明の発明者らは、本発明の医薬組成物の投与が、心臓病を誘発させた動物実験において心臓の重量およびサイズを有意に減少させ、かつ心収縮能を増大させることを発見し、こうして心肥大および心不全などの心臓病に対する有益な治療的効果を確認した。
【0021】
従って、本発明に係る医薬組成物は、様々な種類の心臓病について治療または予防目的で使用可能である。本発明に関して、「心臓病」という用語は、あらゆる種類の心臓病および心疾患を包含する広い概念であり、例えば心肥大、心不全、うっ血性心不全、狭心症、心筋梗塞などを含み得る。好適であるのは心肥大または心不全である。
【0022】
本開示で使用される通り、「薬学的に許容される塩」という用語は、投与される生体に対し有意な刺激をひき起こさず化合物の生物活性および特性を無効にしない化合物の調合物を意味する。薬学的に許容される塩の例としては、無機酸類例えば塩酸、硫酸、硝酸、リン酸、臭化水素酸およびヨウ化水素酸;有機炭酸類例えば酒石酸、ギ酸、クエン酸、酢酸、トリクロロ酢酸、トリフルオロ酢酸、グルコン酸、安息香酸、乳酸、フマル酸、マレイン酸、サリチル酸;またはスルホン酸類例えばメタンスルホン酸、エタンスルホン酸、ベンゼンスルホン酸およびp−トルエンスルホン酸などの、薬学的に許容されるアニオンを含有する非毒性酸付加塩を形成することのできる酸と化合物の酸付加塩類が含まれていてもよい。具体的には、薬学的に許容されるカルボン酸塩類には、リチウム、ナトリウム、カリウム、カルシウムおよびマグネシウムなどのアルカリ金属またはアルカリ土類金属との塩、アルギニン、リジンおよびグアニジンなどのアミノ酸との塩、ジシクロヘキシルアミン、N−メチル−D−グルカミン、トリス(ヒドロキシメチル)メチルアミン、ジエタノールアミン、コリンおよびトリエチルアミンなどの有機塩基との塩が含まれる。本発明に係る化合物は、当該技術分野において周知の従来の方法により、その塩へと転換されてもよい。
【0023】
本明細書で使用される「プロドラッグ」という用語は、生体内で親薬剤へと転換される作用物質を意味する。プロドラッグは多くの場合、一部の状況下で親薬剤よりも投与が容易であり得ることから有用である。例えばプロドラッグは、親薬剤とは違って経口投与により生物学的に利用可能であり得る。プロドラッグは同様に、医薬組成物中において親薬剤に比べて改善された溶解度を有するかもしれない。限定的な意味のないプロドラッグの一例は、水溶性が移動度にとって不利である細胞膜を横断した輸送を容易にするべくエステル(プロドラッグ)として投与されるものの、その後水溶性が有益である細胞の内部にひとたび入ると活性実体であるカルボン酸へと代謝的に加水分解される本発明の化合物であると思われる。プロドラッグの更なる例は、ペプチドが代謝されて活性部分を顕示する酸性基に結合した短ペプチド(ポリアミノ酸)であると考えられる。
【0024】
かかるプロドラッグの例としては、本発明に係る医薬化合物は、以下の式1a
【化3】
により表わされ、式中、
− R1、R2、R3、R4、R5、R6、R7、R8、Xおよびnは、式1中で定義されている通りであり、
− R9およびR10が各々独立して−SO3−Na+であるか、または式A
【化4】
により表わされる置換基またはその塩であり、式中、
− R11およびR12は各々独立して水素または置換また未置換のC1−C20直鎖アルキルまたはC1−C20分岐アルキルであり、
− R13は、
i)水素;
ii)置換または未置換C1−C20直鎖アルキルまたはC1−C20分岐アルキル;
iii)置換または未置換アミン;
iv)置換または未置換C3−C10シクロアルキルまたはC3−C10ヘテロシクロアルキル;
v)置換または未置換C4−C10アリールまたはC4−C10ヘテロアリール;
vi)−(CRR’−NR’’CO)l−R14(式中、R、R’およびR’’は各々独立して水素または置換または未置換C1−C20直鎖アルキルまたはC1−C20分岐アルキルであり、R14は水素、置換または未置換アミン、シクロアルキル、ヘテロシクロアルキル、アリールおよびヘテロアリールからなる群から選択され、lは1〜5から選択される);
vii)置換または未置換カルボキシル;
viii)−OSO3−Na+;
という置換基からなる群から選択され;
− kが0である場合、R11およびR12は不在であり、R13はカルボニル基に直接結合されることを条件として、kは0〜20から選択される、
プロドラッグを活性材料として含むことができる。
【0025】
本明細書で使用される「溶媒和物」という用語は、非共有分子間力によってそれに結合された化学量論量または非化学量論量の溶媒を更に含む本発明の化合物またはその塩を意味する。好ましい溶媒は、揮発性、非毒性でかつ/またはヒトへの投与が許容されるものである。溶媒が水である場合、溶媒和物は水和物である。
【0026】
本明細書で使用される「異性体」という用語は、同じ化学式または分子式を有するものの光学的にまたは立体的に異なる本発明の化合物またはその塩を意味する。別段の規定のないかぎり、「式1または2の化合物」は、化合物自体およびその薬学的に許容される塩、プロドラッグ、溶媒和物および異性体を包含するものとして意図されている。
【0027】
本明細書で使用される「アルキル」という用語は、脂肪族炭化水素基を意味する。アルキル部分は、「飽和アルキル」基であってよく、このことは即ちそれがいかなるアルケンまたはアルキン部分も含んでいないことを意味している。或いは、アルキル部分は同様に、「不飽和アルキル」部分であってよく、このことは即ちそれが少なくとも1つのアルケンまたはアルキン部分を含むことを意味している。「アルケン」部分という用語は、少なくとも2つの炭素原子が少なくとも1つの炭素−炭素2重結合を形成する基を意味し、「アルキン」部分は、少なくとも2つの炭素原子が少なくとも1つの炭素−炭素3重結合を形成する基を意味する。アルキル部分は、それが置換されているかまたは未置換であるかに関わらず、分岐、直鎖または環状であってよい。
【0028】
本明細書で使用される「ヘテロシクロアルキル」という用語は、1つ以上の環状炭素原子が酸素、窒素または硫黄で置換され、例えばフラン、チオフェン、ピロール、ピロリン、ピロリジン、オキサゾール、チアゾール、イミダゾール、イミダゾリン、イミダゾリジン、ピラゾール、ピラゾリン、ピラゾリジン、イソチアゾール、トリアゾール、チアジアゾール、ピラン、ピリジン、ピペリジン、モルホリン、チオモルホリン、ピリダジン、ピリミジン、ピラジン、ピペラジンおよびトリアジンを含む(ただしこれらに限定されない)炭素環式基を意味する。
【0029】
本明細書で使用される「アリール」という用語は、共役パイ(π)電子系を有する少なくとも1つの環を有し、かつ炭素環アリール(例えばフェニル)および複素環アリール(例えばピリジン)基の両方を含む芳香族置換基を意味する。この用語には、単環または縮合環多環式(隣接する炭素原子対を共有する環)が含まれる。
【0030】
本明細書で使用される「ヘテロアリール」という用語は、少なくとも1つの複素環を含む芳香族基を意味する。
【0031】
アリールまたはヘテロアリールの例としては、フェニル、フラン、ピラン、ピリジル、ピリミジル、およびトリアジルが含まれるが、これらに限定されない。
【0032】
本発明に係る式1または2中のR1、R2、R3、R4、R5、R6、R7およびR8は、任意に置換されてもよい。置換される場合、1つまたは複数の置換基は、シクロアルキル、アリール、ヘテロアリール、ヘテロ脂肪環、ヒドロキシ、アルコキシ、アリールオキシ、メルカプト、アルキルチオ、アリールチオ、シアノ、ハロゲン、カルボニル、チオカルボニル、O−カルバミル、N−カルバミル、O−チオカルバミル、N−チオカルバミル、C−アミド、N−アミド、S−スルホンアミド、N−スルホンアミド、C−カルボキシ、O−カルボキシ、イソシアナト、チオシアナト、イソチオシアナト、ニトロ、シリル、トリハロメタンスルホニルおよび1および2置換アミノを含むアミノ、およびそれらの保護された誘導体の中から個別におよび独立して選択される1つ以上の基である。更に、式1a中のR11、R12およびR13の置換基を以上で定義されている通りに同様に置換してもよく、置換する場合これらを以上で言及されている置換基として置換することができる。
【0033】
式1の化合物のうち、好ましいのは、以下の式3および4の化合物である。
【0034】
式3
【化5】
の化合物は、nが0であり隣接する炭素原子がその間の直接結合を介して環状構造(フラン環)を形成する化合物であり、以下「フラン化合物」または「フラノ−o−ナフトキノン誘導体」と呼ばれることが多い。
【0035】
式4
【化6】
の化合物は、nが1である化合物であり、以下「ピラン化合物」または「ピラノ−o−ナフトキノン」と呼ばれることが多い。
【0036】
式1においては、R1およびR2の各々は、特に好ましくは水素である。
【0037】
式3のフラン化合物のうち、特に好ましいのは、式3a
【化7】
の化合物(式中、R1、R2およびR4は水素である)、または式3b
【化8】
の化合物(式中、R1、R2およびR6は水素である)である。
【0038】
更に、式4のピラン化合物のなかで特に好ましいのは、式4a
【化9】
の化合物であり、式中、R1、R2、R5、R6、R7およびR8はそれぞれに水素である。
【0039】
式2の化合物のうち、限定されないが好適であるのは、以下の式2aおよび2bの化合物である。
【0040】
式2a
【化10】
の化合物は、nが0であり、隣接する炭素原子がその間の直接結合を介して環状構造を形成し、YがCである化合物である。
【0041】
式2b
【化11】
の化合物は、nが1でありYがCである化合物である。
【0042】
式2aまたは2bにおいては、R1、R2、R3、R4、R5、R6、R7、R8およびXは式2で定義された通りである。
【0043】
本発明において前立腺および/または睾丸(精液腺)関連疾患の治療および/または予防に対し治療的効果を及ぼす有効物質は、以下多くの場合「活性物質」と呼ばれる。
【0044】
活性成分の調製
本発明に係る医薬組成物においては、以下で例示する通りである式1または式2の化合物は、当該技術分野で公知の従来の方法によっておよび/または有機化学合成分野における一般的な技術および実践方法に基づくさまざまなプロセスによって調製可能である。以下で記述される調製プロセスは一例にすぎず、その他のプロセスも同様に利用可能である。従って、本発明の範囲は、以下のプロセスに限定されない。
【0045】
一般に、三環系ナフトキノン(ピラノ−o−ナフトキノンおよびフラノ−o−ナフトキノン)誘導体は、主として2つの方法によって合成可能である。その1つは、以下のβ−ラパコン合成スキームのように、酸触媒条件内で3−アリル−2−ヒドロキン−1,4−ナフトキノンを使用する環化反応を誘発することである。
【化12】
【0046】
即ち、2−アリルオキシ−1,4−ベンゾキノンとスチレンまたは1−ビニルシクロヘキサン誘導体の間でディールス・アルダー反応を誘導し、結果として得た中間体を空気中に存在する酸素、またNaIO4およびDDQなどの酸化剤を用いて脱水することによって、3−アリルオキシ−1,4−フェナントレンキノンを得ることが出来る。上述の化合物を更に再加熱することによって、Lapachole形態の2−アリル−3−ヒドロキシ−1,4−フェナントレンキノンをクライゼン転位を介して合成することが出来る。
【化13】
【化14】
【0047】
こうして得られた2−アリル−3−ヒドロキシ−1,4−フェナントレンキノンを究極的に酸触媒条件下で環化させた場合に、様々な3,4−フェナントレキノンベースのまたは5,6,7,8−テトラヒドロ−3,4−フェナントレンキノンベースの化合物を合成することができる。この場合。上述の式中で表されている置換基(上述の式中のR21、R22、R23)のタイプに応じて、5または6環系環化が発生し、同様にこれらは、対応する適切な置換基(以下の式中のR11、R12、R13、R14、R15、R16)に転換される。
【化15】
【0048】
更に、3−アリルオキシ−1,4−フェナントレンキノンは、酸(H+)またはアルカリ(OH−)触媒の条件化で3−オキシ−1,4−フェナントレキノンに加水分解され、これは次に様々なハロゲン化アリルと反応させられて、C−アルキル化により2−アリル−3−ヒドロキシ−1,4−フェナントレンキノンを合成する。かくして得られた2−アリル−3−ヒドロキシ−1,4−フェナントレンキノン誘導体は、酸触媒条件での環化に付されて、3,4−フェナントレンキノンベースかまたは5,6,7,8−テトラヒドロ−3,4−ナフトキノンベースの化合物を合成する。この場合、上述の式中で表されている置換基(上述の式中のR21、R22、R23)のタイプに応じて5または6環系環化が発生し、同様にこれらは、対応する適切な置換基(以下の式中のR11、R12、R13、R14、R15、R16)に転換される。
【化16】
【0049】
しかしながら、置換基R11およびR12が同時に水素である化合物を酸触媒型環化によって得ることはできない。これらの誘導体は、非特許文献3により報告されている方法に基づいて、より具体的にはまず第一に環化によりフラノベンゾキノン導入型フラン環を得、次に1−ビニルシクロヘキセン誘導体での環化により三環系フェナントロキノンを得、その後水素添加を介して還元することによって得られる。上述の合成プロセスは、以下のように要約することが出来る。
【化17】
【0050】
上述の合成方法以外に、置換基R11およびR12が同時に水素である本発明に係る化合物は、以下の方法により合成可能である。
【0051】
調製方法1は、以下の通りの一般化学反応スキームに要約することのできる酸触媒型環化による活性成分の合成である。
【化18】
【0052】
即ち、2−ヒドロキシ−1,4−ナフトキノンを塩基の存在下でさまざまなアリル型臭化物またはその等価物と反応させた場合、C−アルキル化生成物およびO−アルキル化生成物が同時に得られる。同様に、反応条件に応じて2つの誘導体のうちのいずれかのみを合成することも可能である。O−アルキル化誘導体が、トルエンまたはキシレンなどの溶媒を用いてO−アルキル化誘導体を還流させることによりクライゼン転位を通して別のタイプのC−アルキル化誘導体へと転換されることから、さまざまなタイプの3置換−2−ヒドロキシ−1,4−ナフトキノン誘導体を得ることが可能である。こうして得られたさまざまなタイプのC−アルキル化誘導体を、触媒として硫酸を用いる環化に付してもよく、こうして、これらの誘導体は、化合物のうちのピラノ−o−ナフトキノンまたはフラノ−o−ナフトキノン誘導体を合成することができる。
【0053】
調製方法2は、3−メチレン−1,2,4−[3H]ナフタレントリオンを用いたディールス−アルダー反応である。非特許文献1で教示されているように、2−ヒドロキシ−1,4−ナフトキノンとホルムアルデヒドを合わせて加熱した場合に生成される3−メチレン−1,2,4−[3H]ナフタレントリオンをさまざまなオレフィン化合物とのディールス−アルダー反応に付すことによって、さまざまなピラノ−o−ナフトキノン誘導体を比較的容易に合成できるということが報告されている。この方法は、硫酸を触媒として用いる環化の誘発と比較した場合に、さまざまな形態のピラノ−o−ナフト−キノン誘導体を比較的簡単な要領で合成できるという点で有利である。
【化19】
【0054】
調製方法3は、ラジカル反応によるハロアキル化および環化である。クリプトタンシノンおよび15,16−ジヒドロタンシノンの合成において使用されるものと同じ方法を、フラノ−o−ナフトキノン誘導体の合成のために適切に利用することが可能である。即ち、非特許文献2により教示されている通り、3−ハロプロパン酸または4−ハロブタン酸誘導体から誘導される2−ハロエチルまたは3−ハロエチルラジカル化学種を2−ヒドロキシ−1,4−ナフトキノンと反応させて3−(2−ハロエチルまたは3−ハロプロピル)−2−ヒドロキシ−1,4−ナフトキノンを合成することができ、次にこれを適切な酸性触媒条件下で環化に付してさまざまなピラノ−o−ナフトキノンまたはフラノ−o−ナフトキノン誘導体を合成することができる。
【化20】
【0055】
調製方法4は、ディールス−アルダー反応による4,5−ベンゾフランジオンの環化である。クリプトタンシノンおよび15,16−ジヒドロタンシノンの合成において使用される別の方法は、非特許文献3によって教示されている方法であってよい。この方法によると、フラノ−o−ナフトキノン誘導体は、4,5−ベンゾフランジオン誘導体とさまざまなジエン誘導体の間のディールス−アルダー反応を介した付加環化によって合成可能である。
【化21】
【0056】
上述の調製方法に基き、該当する合成方法を用いて、置換基の種類に応じたさまざまな誘導体を合成してもよい。
【0057】
本発明に係る化合物のうち、特に好適なものは以下の表1のものであるが、これらに限定されない。
【0058】
【表1−1】
【表1−2】
【表1−3】
【表1−4】
【表1−5】
【表1−6】
【表1−7】
【表1−8】
【表1−9】
【表1−10】
【0059】
本明細書で使用される「医薬組成物」という用語は、希釈剤または担体などのその他の化学的構成要素と式1または2の化合物との混合物を意味する。医薬組成物は、生体に対する化合物の投与を容易にする。化合物を投与する様々な技術が当該技術分野において公知であり、経口、注射、エアロゾル、非経口および局所投与が含まれるが、これらに限定されない。医薬組成物を、塩酸、臭化水素酸、硫酸、硝酸、リン酸、メタンスルホン酸、p−トルエンスルホン酸、サリチル酸などの酸と対象となる化合物を反応させることによって得ることも出来る。再狭窄の治療および予防を目的として治療上有効である有効成分としては、以下「活性成分」と呼ぶ上述の式の化合物すべてが含まれる。
【0060】
「治療上有効な量」という用語は、化合物を投与した場合に、治療を必要とする疾病の症候の1つ以上を或る程度緩和または削減するため、または予防を必要とする疾病の症候または臨床マーカーの開始を遅延するために有効である活性成分の量を意味する。従って、治療上有効な量は、(i)疾病の進行速度を逆転させる;(ii)疾病の更なる進行を一定程度阻害する;および/または(iii)疾病に関連する1つ以上の症候を一定程度緩和する(または好ましくは除去する)効果を示す活性成分の量を意味する。治療上有効な量は、治療を必要とする疾病について公知の生体内および試験管内モデル系において関係する化合物を用いて実験することによって経験的に決定されてもよい。
【0061】
本発明に係る医薬組成物においては、以下で例示するように、活性成分としての式1または2の化合物を、当該技術分野で公知の従来の方法および/または有機化学合成の分野における一般的技術および実践方法に基づくさまざまなプロセスによって調製することができる。
【0062】
本発明の医薬組成物は、例えば従来の混合、溶解、造粒、糖衣錠製造、研和、乳化、封入、捕捉または凍結乾燥プロセスを用いて、それ自体既知の要領で製造されてもよい。
【0063】
従って、本発明に係る用途のための医薬組成物は、付加的には、薬学的に許容される担体、希釈剤または賦形剤またはその任意の組合せで構成されていてもよい。それは、薬学的に使用可能である調製物への活性化合物の加工を容易にする賦形剤および助剤を含む1つ以上の薬学的に許容される担体を用いて、従来の要領で調合されてもよい。医薬組成物は、生体に対する化合物の投与を容易にする。
【0064】
「担体」という用語は、細胞または組織内への化合物の取込みを容易にする化合物を意味する。例えばジメチルスルホキシド(DMSO)は、数多くの有機化合物の生体の細胞または組織内への摂取を容易にすることから、一般的に利用される担体である。
【0065】
「希釈剤」という用語は、問題の化合物を溶解させかつ化合物の生物学的に活性な形態を安定化させる、水中に希釈された化合物を定義している。緩衝溶液中に溶解した塩が、当該技術分野において希釈剤として利用されている。一般的に使用されている緩衝溶液はリン酸緩衝生理食塩水(PBS)であり、それがヒトの体液のイオン強度条件を再現しているからである。緩衝塩は低濃度で溶液のpHを制御できることから、緩衝希釈剤が化合物の生物活性を修飾することは稀である。
【0066】
本明細書中で記述されている化合物は、それ自体ヒトの患者に対して、または組合せ療法の場合のように化合物をその他の活性成分または適切な担体または1つまたは複数の賦形剤と混合している医薬組成物の形で投与されてもよい。適切な調合は、選択される投与経路によって左右される。化合物の調合および投与のための技術は、非特許文献4に見出すことができる。
【0067】
体内に活性成分を投与するための医薬調合物に関するさまざまな技術が当該技術分野において公知であり、それには経口、注射、エアロゾル、非経口および局所投与が含まれるが、これらに限定されない。必要な場合には、これらは同様に、塩酸、臭化水素酸、硫酸、硝酸、リン酸、メタンスルホン酸、p−トルエンスルホン酸、サリチル酸などの酸と問題の化合物を反応させることによって得ることもできる。
【0068】
当該技術分野において公知の従来の方法によって医薬調合を実施してもよく、好ましくは、医薬調合物は、経口、外部、経皮、経粘膜および注射用調合物であってよく、特に好ましいのは、経口調合物である。
【0069】
一方、注射用としては、本発明の作用物質を水溶液中、好ましくは生理学的に相容性ある緩衝液例えばハンクス溶液、リンガー溶液または生理食塩水などの中で調合してもよい。経粘膜投与のためには、通過対象の障壁に適した浸透剤が調合物中で用いられる。かかる浸透剤は一般に当該技術分野において公知である。
【0070】
本発明に係る医薬化合物は特に好ましくは、腸標的調合物の形に調製される経口医薬組成物である。
【0071】
一般に、経口医薬組成物は、経口投与されると胃を通過し、小腸によって大部分が吸収され、その後体の全ての組織内に拡散し、かくして標的組織に対し治療効果を及ぼす。
【0072】
これに関連して、本発明に係る経口医薬組成物は、活性成分の腸標的調合物を介して、式1または式2の活性成分の化合物の生体吸収および生物学的利用能を増強させる。より具体的には、本発明に係る医薬組成物中の活性成分が胃および小腸の上部部分で最初に吸収された場合は、体内に吸収された活性成分が直接肝臓で代謝され、このとき代謝には活性成分の実質的分解が伴い、そのため所望のレベルの治療効果を及ぼすことは不可能である。一方、活性成分が下部小腸の周辺および下流側で大部分吸収される場合には、吸収された活性成分はリンパ管を介して標的組織まで移動し、これにより高い治療効果を及ぼす。
【0073】
更に、本発明に係る医薬組成物は消化プロセスの最終目的である結腸に至るまでを標的とするように作られていることから、薬剤の生体内保持時間を延長させることが可能であり、同様に、体内への薬剤の投与時に人体の新陳代謝に起因して発生し得る薬剤の分解を最小限におさえることも可能である。その結果、薬剤の薬物動態特性を改善し、疾病の治療に必要な活性成分の臨界有効用量を著しく低下させ、かつ微量の活性成分を投与した場合でさえ所望の治療的効果を得ることが可能である。更に、経口医薬組成物においては、胃内pHの変化および食糧摂取パターンの結果であり得る生物学的利用能の個体間および個体内変動を削減することで薬剤の吸収変動を最小限におさえることも可能である。
【0074】
従って、本発明に係る腸標的調合物は、活性成分が小腸および大腸内で、より好ましくは空腸、そして下部小腸に対応する回腸および結腸内、特に好ましくは回腸または結腸内で大部分吸収されるような形で構成されている。
【0075】
腸標的調合物は、さまざまな方法を通して消化管の数多くの生理学的パラメータを利用することにより設計されてもよい。本発明の好ましい一実施形態においては、腸標的調合物は、(1)pH感受性ポリマーに基づいた調合方法、(2)腸特異的細菌酵素により分解可能である生分解性ポリマーに基づく調合方法、(3)腸特異的細菌酵素により分解可能な生分解性マトリクスに基づく調合方法、または(4)所与の遅延時間の後の薬剤の放出を可能にする調合方法、およびそれらの任意の組合せによって調製されてもよい。
【0076】
具体的には、pH感受性ポリマーを用いた腸標的調合物(1)は、消化管のpH変化に基づく薬剤送出系である。胃のpHは1〜3の範囲内にあり、一方小腸および大腸のpHは、胃に対比して、7以上の値を有する。この事実に基づいて、医薬組成物が消化管のpH変動による影響を受けることなく低い方の腸部分に確実に到達できるようにするためにpH感受性ポリマーを使用してもよい。pH感受性ポリマーの例としては、メタクリル酸−酢酸エチルコポリマー(Eudragit:Rohm Pharma GmbHの登録商標)、ヒドロキシプロピルメチルセルロースフタレート(HPMCP)およびその混合物からなる群から選択される少なくとも1つが含まれるが、これらに限定されない。
【0077】
好ましくは、pH感受性ポリマーをコーティングプロセスによって添加してもよい。例えば、ポリマーの添加は、溶媒中にポリマーを混合して水性コーティング懸濁液を形成させること、結果として得られたコーティング懸濁液を噴霧してフィルムコーティングを形成させること、そしてフィルムコーティングを乾燥させることによって実施されてもよい。
【0078】
腸特異的細菌酵素により分解可能な生分解性ポリマーを用いた腸標的調合物(2)は、腸内細菌によって産生され得る特異的酵素の減成能力の利用に基づいている。具体的酵素の例としては、アゾ還元酵素、細菌加水分解酵素、グルコシダーゼ、エステラーゼ、ポリサッカリダーゼなどが含まれてよい。
【0079】
標的としてアゾ還元酵素を用いて腸標的調合物を設計することが所望される場合には、生分解性ポリマーはアゾ芳香族連結を含むポリマー、例えばスチレンおよびヒドロキシエチルメタクリレート(HEMA)のコポリマーであってよい。ポリマーが活性成分を含む調合物に添加される場合には、活性成分は、例えばバクテロイデス・フラギリス(Bacteroides fragilis)およびユウバクテリウム・リモサム(Eubacterium limosum)などの腸内細菌が特異的に分泌するアゾ還元酵素の作用を介してポリマーのアゾ基の還元により腸内に解放されてもよい。
【0080】
グルコシダーゼ、エステラーゼまたはポリサッカリダーゼを標的として用いて腸標的調合物を設計することが所望される場合には、生分解性ポリマーは天然に発生する多糖類、またはその置換誘導体であり得る。例えば、生分解性ポリマーは、デキストランエステル、ペクチン、アミロース、エチルセルロースおよびその薬学的に許容される塩からなる群から選択される少なくとも1つであってよい。ポリマーが活性成分に添加される場合、活性成分は、例えばビフィジス菌(Bifidobacteria)およびバクテロイデス種(Bacteroides spp.)などの腸内細菌が特異的に分泌する各酵素の作用を介してポリマーの加水分解によって腸内に解放されてもよい。これらのポリマーは天然の材料であり、生体内毒性の危険性が低いという利点を有する。
【0081】
腸特異的細菌酵素によって分解可能である生分解性マトリクスを用いた腸標的調合物(3)は、生分解性ポリマーが互いに架橋され、活性成分または活性成分含有調合物に添加される1つの形態であってよい。生分解性ポリマーの例としては、硫酸コンドロイチン、グアーガム、キトサン、ペクチンなどの天然に発生するポリマーが含まれてよい。薬剤放出度は、マトリクス構成ポリマーの架橋度に応じて変動し得る。
【0082】
天然に発生するポリマーに加えて、生分解性マトリクスは、N置換アクリルアミドに基づく合成ヒドロゲルであってよい。例えば、マトリクスとして、アクリル酸によるN−tert−ブチルアクリルアミドの架橋または2−ヒドロキシエチルメタクリレートおよび4−メタクリロイルオキシアゾベンゼンの共重合により合成されたヒドロゲルが使用されてもよい。架橋は例えば、上述の通りのアゾ連結であってよく、調合物は、架橋密度が維持されて腸の薬剤送出のための最適な条件を提供し、薬剤が腸に送出された時点で腸粘膜と相互作用するように連結が分解されている1つの形態であってよい。
【0083】
更に、遅延時間後の薬剤の経時的放出を伴う腸標的調合物(4)は、pH変化とは無関係に予め定められた時間の後に活性成分を放出できるようになっている機序を用いる薬剤送出系である。活性薬剤の腸内放出を達成するためには、調合物は胃内のpH環境に対する耐性を有していなくてはならず、腸内への活性成分の放出に先立つ体から腸までの薬剤の送出にかかる時間に対応する5〜6時間は沈黙期になくてはならない。時間特異的遅延放出型調合物は、ポリウレタンでのポリエチレン酸化物の共重合により調製されたヒドロゲルの添加によって調製されてもよい。
【0084】
具体的には、遅延放出型調合物は、不溶性ポリマーに薬剤を適用した後上述の組成を有するヒドロゲルを添加した時点で、調合物が水を吸収し次に胃および小腸の上部消化管内部にとどまっている間に膨張し、その後、下部消化管である小腸の下方部分まで移動し、薬剤を解放し、薬剤の遅延時間がヒドロゲルの長さに応じて決定される立体配置を有していてもよい。
【0085】
ポリマーの別の例としては、エチルセルロース(EC)を遅延放出型投薬調合物中に使用してもよい。ECは不溶性ポリマーであり、ぜん動運動に起因する腸の内部圧力の変化または水の浸透に起因する膨張媒質の膨張に応答して薬剤送出時間を遅延させるための一要因として役立つかもしれない。遅延時間は、ECの厚みにより制御されてもよい。付加的な例として、ポリマーの厚み制御による所与の時限後の薬剤放出を可能にする遅延剤として、ヒドロキシプロピルメチルセルロース(HPMC)を使用してもよく、これは5〜10時間の遅延時間を有し得る。
【0086】
本発明に係る経口医薬組成物においては、活性成分は、高い結晶化度をもつ結晶構造または低い結晶化度の結晶構造を有していてもよい。
【0087】
本明細書で使用される「結晶化度」という用語は、合計結晶化合物の結晶質部分の重量分率として定義づけされ、当該技術分野において公知の従来の方法によって決定されてもよい。例えば、結晶化度の測定は、結晶質部分および非晶質部分の各密度へ適切な値を加算するおよび/または各密度から減算することによって得られる既定の値を予め仮定することによって結晶化度を計算する密度方法または沈殿方法、融解熱の測定が関与する方法、X線回折分析時点でX線回折強度分布から結晶質回折分率および非晶質回折分率を分離することで結晶化度を計算するX線方法、または赤外線吸収スペクトルの結晶性結束間の幅のピークから結晶化度を計算する赤外線方法によって実施してもよい。
【0088】
本発明に係る経口医薬組成物中で、活性成分の結晶化度は好ましくは50%以下である。より好ましくは。活性成分は、材料の固有の結晶化度が完全に失なわれた非晶質構造を有していてもよい。非晶質化合物は、結晶質化合物に比べて比較的高い溶解度を示し、薬剤の溶解速度および生体内吸収速度を有意に改善できる。
【0089】
本発明の好ましい一実施形態において、非晶質構造は、活性成分を微粒子または細粒に調製する間に形成されてもよい(活性成分の微粉化)。微粒子は、例えば活性成分の噴霧乾燥、ポリマーとの活性成分のメルト形成が関与する溶融方法、溶媒中への活性成分の溶解後のポリマーと活性成分の共沈物の形成、封入体形成、溶媒揮発などにより調製されてもよい。好ましいのは、噴霧乾燥である。活性成分が非晶質構造でない、即ち結晶構造または半結晶構造を有する場合でさえ、機械的製粉を介した活性成分の細粒への微粉化は、粒子の比表面積が大きいため溶解度の改善に寄与し、その結果として活性薬剤の溶解速度および生体吸収速度は改善される。
【0090】
噴霧乾燥は、或る種の溶媒中に活性成分を溶解させ、結果として得られた溶液を噴霧乾燥することによって細粒を作る方法である。噴霧乾燥プロセス中、ナフトキノンの結晶化度は高い率で失われて非晶質状態が結果としてもたらされ、従って、細かい粉末状の噴霧乾燥された製品が得られる。
【0091】
機械的製粉は、活性成分粒子に対し強い物理的力を加えることにより活性成分を細粒へと粉砕する方法である。機械的製粉は、ジェットミル、ボールミル、振動ミル、ハンマーミルなどのさまざまな製粉プロセスを使用することによって実施してもよい。特に好ましいのは、40℃の温度で空気圧を用いて実施可能であるジェットミルである。
【0092】
一方、結晶構造の如何に関わらず、粒子状活性成分の粒径が減少すると、比表面積は増大し、ひいては溶解速度および溶解度を増大させる。しかしながら、粒径が過度に小さいと、このようなサイズをもつ細粒を調製するのがむずかしくなり、また、溶解度の劣化を結果としてもたらす可能性のある集塊化または凝集ももたらされる。従って、好ましい一実施形態においては、活性成分の粒径は、5nm〜500μmの範囲内にあってよい。この範囲内では、粒子の集塊化または凝集を最大限阻害でき、粒子の高い比表面積に起因して溶解速度および溶解度を最大限にすることができる。
【0093】
好ましくは、細粒の形成中に発生しうる粒子の集塊化または凝集を防ぐため更に界面活性剤を添加してもよく、かつ/または静電気の発生を妨げるべく更に帯電防止剤を添加してもよい。
【0094】
必要な場合には、製粉プロセス中に更に吸湿性材料を加えてもよい。式1または式2の化合物は水により結晶化する傾向を有し、従って、吸湿性材料の取込みはナフトキノンベースの化合物の再結晶化を一定期間阻害し、微粉化に起因する化合物粒子の増大した溶解度の維持を可能にする。更に、吸湿性材料は、活性成分の治療的効果に不利な影響を及ぼさずに医薬組成物の凝固および凝集を抑制するのに役立つ。
【0095】
界面活性剤の例としては、アニオン界面活性剤、例えばドキュセート・ナトリウムおよびラウリル硫酸ナトリウム;カチオン界面活性剤、例えば塩化ベンザルコニウム、塩化ベンゼトニウムおよびセトリミド;非イオン界面活性剤、例えばモノオレイン酸グリセリル、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステルおよびソルビタンエステル;両親媒性高分子、例えばポリエチレン−ポリプロピレンポリマーおよびポリオキシエチレン−ポリオキシプロピレンポリマー(Poloxamer)、およびGelucireTMシリーズ(Gattefosse Corporation、USA);モノカプリレル酸プロピレングリコール、オレイオールマクロゴール−6−グリセリド、リノレオイルマクロゴール−6−グリセリド、カプリロカプロイルマクロゴール−8−グリセリド、モノラウリン酸プロピレングリコール、およびポリグリセリル−6−ジオレエートが含まれるがこれらに限定されない。これらの材料を、単独でまたはその任意の組合せの形で使用してもよい。
【0096】
吸湿性材料の例としては、コロイドシリカ、軽質無水ケイ酸、重質無水ケイ酸、塩化ナトリウム、ケイ酸カルシウム、アルミノケイ酸カリウム、アルミノケイ酸カルシウムなどが含まれていてもよいが、これらに限定されない。これらの材料を、単独でまたはその任意の組合せで使用してもよい。
【0097】
上述の吸湿剤の一部を、帯電防止剤として使用してもよい。
【0098】
界面活性剤、帯電防止剤および吸湿剤は、上述の効果を達成することのできる一定の量で添加され、かかる量は、微粉化条件に応じて適切に調整されてもよい。好ましくは、添加剤は、活性成分の合計重量に基づいて0.05重量%〜20重量%の範囲内で使用されてもよい。
【0099】
好ましい一実施形態においては、本発明に係る医薬組成物を経口投与用の調製物へと調合する間に、更に、水溶性ポリマー、可溶化剤および崩壊剤を添加してもよい。好ましくは、所望の剤形への組成物の調合は、溶媒中で添加剤および粒子状活性成分を混合し、混合物を噴霧乾燥することによって行なってよい。
【0100】
水溶性ポリマーは、ナフトキノンベースの化合物の分子または粒子の周囲を親水性にしてその結果水溶性を増強し、かつ好ましくは式1または式2の活性成分化合物の非晶質状態を維持することによって、粒子状活性成分の凝集を防止するのに役立つ。
【0101】
好ましくは、水溶性ポリマーは、pH非依存性ポリマーであり、胃腸内pHの個体間および個体内変動の下でさえ活性成分の結晶化度損失および親水性増強をもたらすことができる。
【0102】
水溶性ポリマーの好ましい例としては、セルロース誘導体、例えばメチルセルロース、ヒドロキシメチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、エチルセルロース、ヒドロキシエチルメチルセルロース、カルボキシメチルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロースフタレート、ナトリウムカルボキシメチルセルロース、およびカルボキシメチルエチルセルロース;ポリビニルアルコール類;ポリ酢酸ビニル、ポリ酢酸ビニルフタレート、ポリビニルピロリドン(PVP)、およびそれらを含むポリマー類;酸化ポリアルケンまたはポリアルケングリコールおよびそれらを含むポリマー類からなる群から選択される少なくとも1つが含まれていてもよい。好ましいのはヒドロキシプロピルメチルセルロースである。
【0103】
本発明の医薬組成物においては、所与のレベルよりも高い過剰の水溶性ポリマーを含有しても、更なる溶解度の上昇は全くもたらされず、不利なことに、調合物の硬度の全体的増加および、溶離剤に対する曝露時点で水溶性ポリマーが過度に膨張することに起因する調合物のまわりの薄膜形成による調合物内への溶離剤の不浸透などのさまざまな問題がもたらされる。従って、好ましくは、式1または式2の化合物の物理的特性を修正することによって調合物の溶解度を最大限にする目的で、可溶化剤を添加する。
【0104】
この点において、可溶化剤は式1または式2の難溶性化合物の可溶化および湿潤性を増強するために役立ち、食事および食糧摂取後の薬剤投与の時間差に由来するナフトキノンベースの化合物の生物学的利用能変動を著しく削減することができる。可溶化剤は、従来広く用いられている界面活性剤または両親媒性化合物から選択されてよく、可溶化剤の具体例は、以上で定義された通りの界面活性剤を意味してよい。
【0105】
崩壊促進剤は、薬物放出速度を改善するのに役立ち、標的部位における薬剤の急速放出を可能にし、これにより薬剤の生物学的利用能を増大させる。
【0106】
崩壊促進剤の好ましい例としては、クロスカルメロースナトリウム、クロスポビドン、カルボキシメチルセルロースカルシウム、デンプングリコール酸ナトリウムおよび低級置換ヒドロキシプロピルセルロースからなる群から選択される少なくとも1つが含まれていてもよいが、これらに限定されない。好ましいのは、クロスカルメロースナトリウムである。
【0107】
上述の通りさまざまな因子を考慮に入れた上で、活性成分100重量部分に基づいて10〜1000重量部分の水溶性ポリマー、1〜30重量部分の崩壊促進剤、そして0.1〜20重量部分の可溶化剤を添加することが好ましい。
【0108】
上述の成分に加えて、必要な場合には調合に関連して当該技術分野で公知のその他の材料を任意に添加してもよい。
【0109】
噴霧乾燥用の溶媒は、その物理的特性を変更することなく高い溶解度を示しかつ噴霧乾燥プロセス中に容易な揮発性を示す材料である。このような溶媒の好ましい例としては、ジクロロメタン、クロロホルム、メタノールおよびエタノールが含まれるが、これらに限定されない。これらの材料を、単独でまたはその任意の組合せの形で使用してもよい。好ましくは、噴霧溶液中の固体含有量は、噴霧溶液の合計重量に基づいて5〜50重量%の範囲内である。
【0110】
上述の腸標的調合プロセスは、好ましくは以上の通りに調製された調合物粒子について実施されてもよい。
【0111】
好ましい一実施形態においては、本発明に係る経口医薬組成物は以下のステップを含むプロセスによって調合されてもよい:
(a)式1または式2の化合物を単独でまたは界面活性剤および吸湿性材料と組合せた形で添加し、ジェットミル機で式1の化合物を粉砕して活性成分微粒子を調製するステップ;
(b)溶媒中に水溶性ポリマー、可溶化剤および崩壊促進剤と併せて活性成分微粒子を溶解させ、結果として得た溶液を噴霧乾燥して調合物粒子を調製するステップ;および
(c)溶媒中にpH感受性ポリマーおよび可塑化剤と併せて調合物粒子を溶解させ、結果として得た溶液を噴霧乾燥して、調合物粒子上で腸標的コーティングを実施するステップ。
【0112】
界面活性剤、吸湿性材料、水溶性ポリマー、可溶化剤および崩壊促進剤は、以上で定義された通りである。可塑化剤は、コーティングの硬化を妨げるために添加される添加剤であり、例えばポリエチレングリコールなどのポリマーを含んでいてもよい。
【0113】
或いは、活性成分の調合は、シードとしてのステップ(a)のジェットミルで粉砕した活性成分上へのステップ(b)のビヒクルおよびステップ(c)の腸標的コーティング材料の逐次または同時噴霧によって実施されてもよい。
【0114】
本発明において使用するのに適した医薬組成物には、その意図された目的を達成するのに有効な量で活性成分が含有されている組成物が含まれる。より具体的には、治療上有効な量とは、疾病の症候を予防、緩和または改善するかまたは治療対象を延命するのに有効な化合物の量を意味する。治療上有効な量の決定は、特に本明細書中で提供されている詳細な開示に照らして、当業者の能力範囲内に充分入るものである。
【0115】
本発明の医薬組成物が単位剤形に調合される場合、活性成分としての式1または式2の化合物は、好ましくは約0.1〜1,000mgの単位用量で含有される。投与される式1または式2の化合物の量は、治療中の患者の体重および年令、疾病の特徴的性質および重症度に応じて主治医が決定する。ただし、成人の治療に必要な投与量は、投与頻度および単位投与量に応じて、一日約1〜3000mgの範囲内であるのが一般的である。一般的に、合計投与量として一日約1〜500mgが成人に対する筋内または静脈内投与に充分なものであるが、一部の患者のためにはより多くの投与量が望ましいと思われる。
【0116】
本発明の別の態様によると、心臓病の治療および予防のための医薬品の調製における式1または2の化合物の使用が提供されている。
【0117】
心臓病の例としては、心肥大、心不全、うっ血性心不全、狭心症、心筋梗塞などが含まれてよい。好適であるのは、心肥大または心不全である。
【0118】
「治療」という用語は、式1または2の化合物或いはそれを含む組成物が疾病の症候を示す対象に対し投与された場合に、疾病の進行を停止させるかまたは遅延させることを意味する。「予防」という用語は、式1または2の化合物或いはそれを含む組成物が、疾病の症候を全く示さないものの疾病の症候を発生させる高い危険性を有する対象に対して投与された場合に、疾病の症候を停止させるかまたは遅延させることを意味する。
【図面の簡単な説明】
【0119】
【図1】実験例1に従って心肥大モデルにおいて測定されたHW/BW比の結果を示すグラフである。
【図2】実験例1に従って心肥大モデルにおいて測定されたHW/TL比の結果を示すグラフである。
【図3】実験例1に従って心肥大モデルにおいて測定された左心室内径短縮率の結果を示すグラフである。
【図4】実験例1に従って心不全モデルにおいて測定されたHW/BW比の結果を示すグラフである。
【図5】実験例1に従って心不全モデルにおいて測定されたHW/TL比の結果を示すグラフである。
【図6】実験例1に従って心不全モデルにおいて測定された左心室内径短縮率の結果を示すグラフである。
【図7】実験例2に従って心肥大モデルにおいて測定されたHW/BW比の結果を示すグラフである。
【図8】実験例2に従って心肥大モデルにおいて測定されたHW/TL比の結果を示すグラフである。
【図9】実験例2に従って心肥大モデルにおいて測定された左心室内径短縮率の結果を示すグラフである。
【図10】実験例2に従って心不全モデルにおいて測定されたHW/BW比の結果を示すグラフである。
【図11】実験例2に従って心不全モデルにおいて測定されたHW/TL比の結果を示すグラフである。
【図12】実験例2に従って心不全モデルにおいて測定された左心室内径短縮率の結果を示すグラフである。
【図13】実験例3にしたがった心肥大モデルにおける体重および食糧摂取の経時的変化を示すグラフである。
【図14】実験例3で測定された通りのMB660の用量に応答したHW/BW比を示すグラフである。
【図15】実験例4にしたがった心肥大モデルにおける心臓サイズの変化を示す顕微鏡写真である。
【図16】実験例5にしたがった心肥大モデルにおけるMB660の投与に応答した心筋細胞のミトコンドリア変化を示す顕微鏡写真である。
【図17】実験例5にしたがった心不全モデルにおけるMB660の投与に応答した心筋細胞のミトコンドリア変化を示す顕微鏡写真である。
【発明を実施するための形態】
【0120】
ここで本発明について、以下の実施例を参考にしながらより詳細に記述する。これらの実施例は、本発明を例示することのみを目的として提供され、本発明の範囲および精神を限定するものとしてみなされるべきものではない。本発明に係る医薬組成物の治療的効果を以下の通りに確認する。
【0121】
材料および方法
1. 動物モデル
8週齢のC57BL/6J雄マウス(n=40、20〜23g、SLC、日本)を購入し、横断大動脈狭窄(TAC)に付した。
【0122】
TACの作業のために、C57BL/6雄マウスを液体麻酔薬(ケタミン:キシラジン=20:1、kg/ml)の腹腔内注射で麻酔し、気管内に22ゲージのIVカテーテル針を設置し、続いて人工強制呼吸のため人工呼吸器(Harvard Apparatus)と接続した。胸部を切開し、胸腺を取り出した。胸腺を取り出した後、右鎖骨下動脈と左鎖骨下動脈の間の横断大動脈を、上に置いた鈍化27−ゲージ針と共に結束し(7−0、シルク)、その後針を急速に抜去して、明確な狭窄を作り出した。(5−0)シルクで胸部を縫合して手術を完了し、その後動物の呼吸を確認した。
【0123】
心肥大モデルについてのTAC手術から2週間後に、心臓重量(HW)対脛骨長の比(HW/TL比)を測定して、対照グループと対比した心肥大度を確認し、心肥大の誘発が適切になされたか否かを判定した。心不全モデルについてのTAC手術から5週間後に、対照グループとの左心室内径短縮率(F.S)値(%)の差を、心エコー図を用いて確認し、次に心不全誘発度および治療的効果を判定した。
【0124】
2. 心肥大および心不全に対する化合物の阻害または緩和効果
心臓重量(HW)対体重(BW)の比(HW/BW比)および心臓重量(HW)対脛骨長の比(HW/TL比)をそれぞれ、心エコー図を用いて推定した。
【0125】
更に左心室拡張末期および収縮末期径をAmerican Society for Echocardiographyの標準方法に従って測定した。心室収縮力の指標である左心室内径短縮率(%)は、以下の等式に従って計算される:
F.S=(左心室拡張末期径)−(左心室収縮末期径)/左心室拡張末期径
【0126】
実験例1:心肥大および心不全に対するMB660の阻害効果
式1の化合物の中でも、心肥大および心不全に対する7,8−ジヒドロ−2,2−ジメチル−2H−ナフト(2,3−b)ジヒドロピラン−7,8−ジオンの阻害効果(以下「MB660」と呼ぶ)を検査した。この目的で、実験動物を、以下の表1に示されている通りの4つのグループに分けた:
SHAMグループ(結束有り:対照グループ)
TACグループ(結束有り:実験グループ)
ビヒクル処置(−)グループおよび
グループ(+)には実施例1の化合物を与えた。
【0127】
TAC処置から2日後、動物にテスト試料を与えた。心肥大の誘発をTAC処置後2週間にわたり実施した。心不全の誘発をTAC処置後5週間にわたり実施した。
【0128】
【表2】
【0129】
心肥大誘発モデルについては、HW/BW比およびHW/TL比はそれぞれ図1および2の中で示されており、左心室内径短縮率は図3で示されている。
【0130】
図1および2を参照すると、正常な対照グループ(SHAM)では、MB660処置済みグループと処置無しグループ間で有意な差異を示さず、一方TAC誘発型心肥大を有するグループに対するMB660の処置は、MB660処置無しの対応グループに比べて著しく低い心肥大値を示し、従って正常な対照グループのレベルに近いものであった。図3を参照すると、MB660処置済みグループは、MB660処置無しのグループに比べて左心室内径短縮率の有意な増大を示し、従って心筋収縮能が改善されたことを裏付けた。
【0131】
心不全誘発モデルについては、HW/BW比およびHW/TL比はそれぞれ図4および図5の中で示されており、左心室内径短縮率は図6で示されている。
【0132】
図4および図5を参照すると、MB660での処置を受けた心不全誘発モデルも同様に、対照グループ(MB660処置無しグループ)に比べて、著しく低いHW/BWおよびHW/TL比の値を示し、従って正常な対照グループのものに類似した特徴を示した。これらの結果から、MB660が心筋肥大などに起因する心臓重量の増大に対する阻害効果を有することがわかる。図4中の左心室内径短縮率も同様に、MB660処置無しグループに比べてMB660処置済みグループ内で有意に増大した。
【0133】
これらを合わせて考えると、本発明に係る化合物の投与は、結果として心肥大および心不全の有意な阻害をもたらし、従って、本発明に係る化合物はこれらの疾病に対し予防的に有効であり得る。
【0134】
実験例2:心肥大および心不全の好転に対するMB660の効果
心肥大および心不全の好転に対するMB660の効果を測定するために、実験を以下のように実施した。心肥大および心不全誘発モデルについては、実験動物を、以下の表2に記されている通りの2つのグループに分割した:
ビヒクル処置済み(−)グループ、およびMB660投与済み(+)グループ。
【0135】
心肥大の誘発後(TAC処置後2週間)および心不全の誘発後(TAC処置後5週間)、動物に4週間テスト試料を与えた。
【0136】
【表3】
【0137】
心肥大誘発モデルについては、HW/BW比およびHW/TL比はそれぞれ図7および8に示されており、左心室内径短縮率は図9に示されている。
【0138】
図7および図8を参照すると、MB660処置済みグループは、MB660処置無しグループに比べて30%以上低いものである6.23というHW/BW値を示し、MB660処置無しグループよりも約25%低い7.68というHW/TL値を示した。図9を参照すると、MB660処置済みグループは、MB660処置無しグループに比べて有意な左心室内径短縮率増加を示したということがわかる。
【0139】
従って、MB660化合物が心肥大誘発マウスにおける心臓重量の損失および心筋収縮能の改善に対し有意な効果を示し、従って心肥大の治療に有効に使用可能であることを確認することができる。
【0140】
心不全誘発モデルについては、HW/BW比およびHW/TL比はそれぞれ図10および11に示され、左心室内径短縮率は図12に示されている。
【0141】
図10〜12を参照すると、MB660処置済みグループは、対照グループと比べて、左心室内径短縮率の有意な増加と併せてHW/BWおよびHW/TL比の低い値を示すことが確認できる。従って、MB660化合物が心不全治療に対し優れた効果を及ぼすことが確認できる。
【0142】
実験例3:心肥大モデルにおけるMB660の用量に応答した心臓重量の変化
MB660の用量に応答した心肥大および心不全に対するMB660の治療的効果を調査するために、8週齢のC57BL/6J雄マウスを、表3中で記されている通りにTACに付し、それぞれ30mg/kg、60mg/kg、100mg/kgおよび150mg/kgの異なるMB660用量を用いて、体重変化、食糧摂取およびHW/BW比を測定した。得られた結果は図9および図10に示されている。マウスには低脂肪食(11.9kcal%の脂肪、5053、Labdiet)を給餌した。TAC作業の2日後に、動物に2週間にわたってテスト試料を経口投与した。
【0143】
【表4】
【0144】
全てのグループが体重および食糧摂取の有意な差を全く示さなかった(図13参照)ものの、MB660投与グループは、対照グループ(TAC)に比べてHW/BW比の有意な減少(図14参照)を示して、HW/BW比のこのような減少が心臓重量の損失に起因するものであることを裏づけた。30mgのMB660の投与を受けたグループに比べて60mgのMB660でHW/BW比が増大したにせよ、HW/BW比は一般にMB660の用量の増加に伴って減少した。
【0145】
実験例4:心肥大モデルにおける心臓サイズの変化
MB660の投与に応答した心臓サイズの変化を検査する目的で、実験動物を、以下の表4に示されている通りの4つのグループに分けた:
SHAMグループ(結束無し:対照グループ)
TACグループ(結束有り:実験グループ)
ビヒクル処置(−)グループおよび
グループ(+):これには実施例1の化合物を与えた。
【0146】
TAC処置の1週間後に、2週間にわたり動物にMB660を与えた。TAC処置から3週間後に、動物を屠殺し、心臓を切開し、続いてサイズを検査した。得られた結果は、図15に示されている。
【0147】
【表5】
【0148】
図15を参照すると、正常な対照グループはMB660の投与に応答して有意な差異を全く示さず、一方対照グループ(TAC処置後のMB660の投与無し)は、心筋肥大に起因する心臓サイズの非常に有意な増大を示し、MB660投与グループは、正常な対照グループ(SHAMグループ)のものと類似した心臓サイズの有意な減少を示した。
【0149】
実験例5:心肥大および心不全モデルにおけるミトコンドリア変化
動物には、心肥大の誘発(TAC処置から2週間後)および心不全の誘発(TAC処理から5週間後)の後に4週間にわたりテスト試料を経口投与した。動物の左心室心筋組織を2.5%のグルタルアルデヒド中に定着させて組織切片を調製し、透過型電子顕微鏡の下でミトコンドリアの形態変化を検査した。
【0150】
TAC誘発型の心肥大および心不全を有するC57BL/6Jマウスにおいては、MB660の投与に応答した心筋ミトコンドリアの改変が観察された。観察された結果は図16および17に示されている。
【0151】
図16および17を参照すると、心肥大および心不全の発生時点で、心筋細胞のアポトーシスおよび利用可能な酸素の欠乏(左図版参照)に起因してミトコンドリア異常が観察されたが、ミトコンドリア機能はMB660の投与により原状復帰した(右図版参照)。
【産業上の利用可能性】
【0152】
以上のことから明白であるように、本発明に係る医薬組成物は、心筋肥大の発生を阻害し、これにより心臓の重量およびサイズの減少に対して有意な効果を示す。従って、本発明の医薬組成物は、心肥大、心不全などの心臓病の治療および予防に対して優れた効果を有する。
【0153】
本発明の好ましい実施形態を例示目的で開示したが、当業者であれば、添付のクレーム中で開示されている通りの本発明の範囲および精神から逸脱することなくさまざまな修正、付加および置換が可能であるということを認識するものである。
【背景技術】
【0001】
本発明は、心臓病の治療および予防用の医薬組成物に関する。より具体的には、本発明は、(a)活性成分としての治療上有効な量のナフトキノンベースの化合物またはその薬学的に許容される塩、プロドラッグ、溶媒和物または異性体、および(b)薬学的に許容される担体、希釈剤または賦形剤またはそれらの任意の組合せを含有する心臓病の治療および予防用に優れた効果をもつ医薬組成物に関する。
【0002】
心臓は、静脈から血液を受け取り動脈を通して全身に血液を連続的に供給することにより全身の血液循環を担う重要な器官である。心臓によって圧送される血液は、体の一部から別の部分まで酸素および様々な栄養分を運び、同時に体の様々な器官または組織から老廃物を運んで、腎臓または肺を介して体の外側にそれらを放出する。
【0003】
心臓の壁は、心外膜(外側)、心筋(中間)および心内膜(内側)という3層で構成されている。心内膜には部分的に襞が備わっており、心臓の開閉を担う弁を有する。
【0004】
循環系内への血液の圧送は心臓壁の中間筋肉層に対する心筋によって引き起こされる心収縮を用いて行われる。心筋は、心臓の最も厚い層である。
【0005】
高血圧または心臓弁膜症に起因して心室負荷が増大した場合、または心筋梗塞、心筋炎または心筋症に起因して心筋細胞自体の機能不全が発生した場合、体の全身器官に充分な量の血液を供給できず、その結果、心拍出量が減少する結果となる。その後、体は、心筋細胞が肥大した結果として発生する心肥大の形で、適切な心室拍出量を維持するように応答する。心臓は、胎生学的観点から見て完全に分化した器官であり、従って更に細胞を分化させることは出来ない。これらの理由から、心臓機能(心拍出量)を増強させる必要がある場合、唯一の解決法は、既存の心筋細胞のサイズを増大させて心筋収縮能を増強させることにあり、体内で見られるこのような生理現象は、「心筋肥大」と呼ばれる。
【0006】
心臓肥大が長時間持続すると、心不全のリスクが上昇する結果となる確率が高い。心不全とは、細胞アポトーシスに起因する心臓の非薄化および心房腔および心室腔の拡大を伴って臨床的に現れる身体条件を意味し、こうして心臓機能の顕著な劣化が結果としてもたらされる。即ち、心臓肥大を矯正するための適切な処置が全く行われない場合、心室肥大が不適応になり、従って、連続的な心室収縮および拡張機能障害の結果としての心不全の発生に寄与し得る。更に、心室肥大の段階での心室剛性の増大に起因して、心不全は同様に心臓拡張機能障害および機能不全によっても引き起こされ得る。
【0007】
心筋肥大、心不全などの心臓病の治療のためには、心筋収縮能を増大させるかまたは心臓負担の軽減を誘発する材料が、従来使用されてきた。これらの材料の代表例としては、ジゴキシンおよびジギトキシンなどのジギタリス配糖体、およびアムリノンおよびミルリノンなどのPDE3阻害薬が含まれてよい。
【0008】
ジギタリス配糖体は、Na,K−ATPアーゼを阻害して心筋細胞内のCa2+の細胞内濃度を上昇させ、これは心筋収縮能を増強し、こうして心臓病を治療する。PDE3阻害薬はcAMPの細胞内濃度を増大させて心筋収縮能を増強し、同時に血管平滑筋(VSMC)を弛緩させて左右の心室内圧を低下させ、これは心臓負荷の軽減および心拍出量の増加を導く可能性がある。
【0009】
更にベータアドレナリン受容体作動薬(例えばドブタミン)、ベータアドレナリン受容体遮断薬、血管拡張剤、レニン−アンギオテンシン阻害薬および利尿薬などのその他の薬剤が、心臓病の治療用に使用されてきた。
【0010】
生体における心肥大の発症機序には数多くの因子が関与していることから、単一の病原因子に対する拮抗作用だけでは、問題の疾病を治療するのに不充分である。更に、心収縮改善物質は急速な症候緩和効果を示すかもしれないが、心不全などの心臓病の羅患率およびそれによる患者の死亡率はなおも非常に高いものであり、数ヶ月から数年以内の突然死のリスクは非常に高い。
【0011】
更に、末期心不全患者は、極端な心機能減退を伴う状態にあり、そのため心臓移植が唯一の治療スキームである。残念なことに、利用可能なドナー心臓の数はきわめて限られており、そのため、人工心臓を用いる以外の代替的選択肢は存在しない。更に術後成果は常に満足のいくものではない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0012】
【特許文献1】米国特許第5,969,163号明細書
【非特許文献】
【0013】
【非特許文献1】V.Nairら、Tetrahedron Lett.、第42号(2001年)、4549〜4551頁
【非特許文献2】A.C.Baillieら、(J.Chem.Soc.(C)1968年、48〜52頁)
【非特許文献3】J.K.Snyderら、(Tetrahedron Letters、第28号、(1987年)、3427〜3430頁)
【非特許文献4】「Remington’s Pharmaceutical Sciences」 Mack Publishing Co.、Easton、PA、第18版、1990年
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
従来の治療が、関与する疾病の全快および延命の長期目的および最終目的の達成という観点からみて充分満足のいく成果を提供しないという点を考慮すると、心肥大および心不全などの心臓病の治療のための活性作用物質を開発することに対する緊急のニーズが存在する。
【0015】
この目的で、本発明の発明者らは、一部のナフトキノン化合物が、心肥大および心不全に関連する心臓病に対する優れた予防および治療効果を示すことが出来るということを発見した。
【0016】
一方、従来のナフトキノンベースの化合物を活性成分として含有するいくつかの医薬組成物が当該技術分野において公知である。これらのナフトキノンベースの化合物のうち、β−ラパコンは、南米原産のラパチョの木(Tabebuia avellanedae)から誘導され、ズンニオンおよびα−ズンニオンも同じく南米原産のストレプトカルプス−ズンニ(Streptocarpus dunnii)の葉から誘導される。これらの天然に発生する三環系ナフトキノン誘導体は長い間、抗癌医薬としてのみならず、南米の代表的な風土病として公知のシャーガス病の治療のための医薬として使用されてきており、強力な効能を示すものとしても知られていた。特にこれらのナフトキノン誘導体の抗癌医薬としての薬理作用は、それらが西欧諸国に知られるようになって以来、大いに注目されてきた。特許文献1の中で開示されている通り、三環系ナフトキノン誘導体を利用する数多くの抗癌剤が現在、数多くの研究グループにより開発されている。
【0017】
関連する分野において実施されたさまざまな研究にも関わらず、これらのナフトキノンベースの化合物が心肥大および心不全に関連する心臓病の治療または予防に対する薬理学的に有益な効果を示すことを実証する報告書は、全く存在しない。
【課題を解決するための手段】
【0018】
以上で記述した通りの課題を解決するためのさまざまな広範かつ集約的な研究および実験の結果として、本発明の発明者らは、心臓病の治療または予防のために、或る種のナフトキノンベースの化合物を使用することができるということを新たに実証し、これらの化合物が、体の標的部位内に吸収可能となるように調合された場合に、所望の薬理効果を及ぼすことができることを発見した。本発明は、この発見した事実に基づいて企図されたものである。
【0019】
本発明の一態様によると、上述のおよびその他の目的は、
(a)式1および2
【化1】
【化2】
により表わされる化合物から選択される治療上有効な量の1つ以上の化合物またはその薬学的に許容される塩、プロドラッグ、溶媒和物または異性体;および(b)薬学的に許容される担体、希釈剤または賦形剤またはそれらの任意の組合せを含む心臓病の治療および予防のための医薬組成物において、
− R1およびR2は各々独立して水素、ハロゲン、ヒドロキシル、またはC1−C6低級アルキルまたはアルコキシであるか、或いはR1およびR2は統合して、飽和されていても部分的または完全に不飽和であってもよい置換または未置換環状構造を形成してもよく;
− R3、R4、R5、R6、R7およびR8は各々独立して水素、ヒドロキシル、C1−C20アルキル、アルケンまたはアルコキシ、またはC4−C20シクロアルキル、ヘテロシクロアルキル、アリールまたはヘテロアリールであり、或いはR3〜R8のうちの2つは統合して、飽和されていても部分的または完全に不飽和であってもよい環状構造を形成してもよく;
− Xは、C(R)(R’)、N(R’’)からなる群から選択され、式中R、R’およびR’’は各々独立して水素またはC1−C6低級アルキル、OおよびSであり、好ましくはOまたはS、そしてより好ましくはOであり;
− YがSである場合R7およびR8は不在であり、YがNである場合R7が水素またはC1−C6低級アルキルであり、かつR8が不在であることを条件として、YはC、SまたはNであり;かつ
− nが0である場合、nに隣接する炭素原子が直接結合を介して環状構造を形成することを条件として、nは0または1である、
医薬組成物を提供することによって達成可能である。
【0020】
本発明に係る医薬組成物が心臓病に対して有する治療的効果を調査するために行った実験から、本発明の発明者らは、本発明の医薬組成物の投与が、心臓病を誘発させた動物実験において心臓の重量およびサイズを有意に減少させ、かつ心収縮能を増大させることを発見し、こうして心肥大および心不全などの心臓病に対する有益な治療的効果を確認した。
【0021】
従って、本発明に係る医薬組成物は、様々な種類の心臓病について治療または予防目的で使用可能である。本発明に関して、「心臓病」という用語は、あらゆる種類の心臓病および心疾患を包含する広い概念であり、例えば心肥大、心不全、うっ血性心不全、狭心症、心筋梗塞などを含み得る。好適であるのは心肥大または心不全である。
【0022】
本開示で使用される通り、「薬学的に許容される塩」という用語は、投与される生体に対し有意な刺激をひき起こさず化合物の生物活性および特性を無効にしない化合物の調合物を意味する。薬学的に許容される塩の例としては、無機酸類例えば塩酸、硫酸、硝酸、リン酸、臭化水素酸およびヨウ化水素酸;有機炭酸類例えば酒石酸、ギ酸、クエン酸、酢酸、トリクロロ酢酸、トリフルオロ酢酸、グルコン酸、安息香酸、乳酸、フマル酸、マレイン酸、サリチル酸;またはスルホン酸類例えばメタンスルホン酸、エタンスルホン酸、ベンゼンスルホン酸およびp−トルエンスルホン酸などの、薬学的に許容されるアニオンを含有する非毒性酸付加塩を形成することのできる酸と化合物の酸付加塩類が含まれていてもよい。具体的には、薬学的に許容されるカルボン酸塩類には、リチウム、ナトリウム、カリウム、カルシウムおよびマグネシウムなどのアルカリ金属またはアルカリ土類金属との塩、アルギニン、リジンおよびグアニジンなどのアミノ酸との塩、ジシクロヘキシルアミン、N−メチル−D−グルカミン、トリス(ヒドロキシメチル)メチルアミン、ジエタノールアミン、コリンおよびトリエチルアミンなどの有機塩基との塩が含まれる。本発明に係る化合物は、当該技術分野において周知の従来の方法により、その塩へと転換されてもよい。
【0023】
本明細書で使用される「プロドラッグ」という用語は、生体内で親薬剤へと転換される作用物質を意味する。プロドラッグは多くの場合、一部の状況下で親薬剤よりも投与が容易であり得ることから有用である。例えばプロドラッグは、親薬剤とは違って経口投与により生物学的に利用可能であり得る。プロドラッグは同様に、医薬組成物中において親薬剤に比べて改善された溶解度を有するかもしれない。限定的な意味のないプロドラッグの一例は、水溶性が移動度にとって不利である細胞膜を横断した輸送を容易にするべくエステル(プロドラッグ)として投与されるものの、その後水溶性が有益である細胞の内部にひとたび入ると活性実体であるカルボン酸へと代謝的に加水分解される本発明の化合物であると思われる。プロドラッグの更なる例は、ペプチドが代謝されて活性部分を顕示する酸性基に結合した短ペプチド(ポリアミノ酸)であると考えられる。
【0024】
かかるプロドラッグの例としては、本発明に係る医薬化合物は、以下の式1a
【化3】
により表わされ、式中、
− R1、R2、R3、R4、R5、R6、R7、R8、Xおよびnは、式1中で定義されている通りであり、
− R9およびR10が各々独立して−SO3−Na+であるか、または式A
【化4】
により表わされる置換基またはその塩であり、式中、
− R11およびR12は各々独立して水素または置換また未置換のC1−C20直鎖アルキルまたはC1−C20分岐アルキルであり、
− R13は、
i)水素;
ii)置換または未置換C1−C20直鎖アルキルまたはC1−C20分岐アルキル;
iii)置換または未置換アミン;
iv)置換または未置換C3−C10シクロアルキルまたはC3−C10ヘテロシクロアルキル;
v)置換または未置換C4−C10アリールまたはC4−C10ヘテロアリール;
vi)−(CRR’−NR’’CO)l−R14(式中、R、R’およびR’’は各々独立して水素または置換または未置換C1−C20直鎖アルキルまたはC1−C20分岐アルキルであり、R14は水素、置換または未置換アミン、シクロアルキル、ヘテロシクロアルキル、アリールおよびヘテロアリールからなる群から選択され、lは1〜5から選択される);
vii)置換または未置換カルボキシル;
viii)−OSO3−Na+;
という置換基からなる群から選択され;
− kが0である場合、R11およびR12は不在であり、R13はカルボニル基に直接結合されることを条件として、kは0〜20から選択される、
プロドラッグを活性材料として含むことができる。
【0025】
本明細書で使用される「溶媒和物」という用語は、非共有分子間力によってそれに結合された化学量論量または非化学量論量の溶媒を更に含む本発明の化合物またはその塩を意味する。好ましい溶媒は、揮発性、非毒性でかつ/またはヒトへの投与が許容されるものである。溶媒が水である場合、溶媒和物は水和物である。
【0026】
本明細書で使用される「異性体」という用語は、同じ化学式または分子式を有するものの光学的にまたは立体的に異なる本発明の化合物またはその塩を意味する。別段の規定のないかぎり、「式1または2の化合物」は、化合物自体およびその薬学的に許容される塩、プロドラッグ、溶媒和物および異性体を包含するものとして意図されている。
【0027】
本明細書で使用される「アルキル」という用語は、脂肪族炭化水素基を意味する。アルキル部分は、「飽和アルキル」基であってよく、このことは即ちそれがいかなるアルケンまたはアルキン部分も含んでいないことを意味している。或いは、アルキル部分は同様に、「不飽和アルキル」部分であってよく、このことは即ちそれが少なくとも1つのアルケンまたはアルキン部分を含むことを意味している。「アルケン」部分という用語は、少なくとも2つの炭素原子が少なくとも1つの炭素−炭素2重結合を形成する基を意味し、「アルキン」部分は、少なくとも2つの炭素原子が少なくとも1つの炭素−炭素3重結合を形成する基を意味する。アルキル部分は、それが置換されているかまたは未置換であるかに関わらず、分岐、直鎖または環状であってよい。
【0028】
本明細書で使用される「ヘテロシクロアルキル」という用語は、1つ以上の環状炭素原子が酸素、窒素または硫黄で置換され、例えばフラン、チオフェン、ピロール、ピロリン、ピロリジン、オキサゾール、チアゾール、イミダゾール、イミダゾリン、イミダゾリジン、ピラゾール、ピラゾリン、ピラゾリジン、イソチアゾール、トリアゾール、チアジアゾール、ピラン、ピリジン、ピペリジン、モルホリン、チオモルホリン、ピリダジン、ピリミジン、ピラジン、ピペラジンおよびトリアジンを含む(ただしこれらに限定されない)炭素環式基を意味する。
【0029】
本明細書で使用される「アリール」という用語は、共役パイ(π)電子系を有する少なくとも1つの環を有し、かつ炭素環アリール(例えばフェニル)および複素環アリール(例えばピリジン)基の両方を含む芳香族置換基を意味する。この用語には、単環または縮合環多環式(隣接する炭素原子対を共有する環)が含まれる。
【0030】
本明細書で使用される「ヘテロアリール」という用語は、少なくとも1つの複素環を含む芳香族基を意味する。
【0031】
アリールまたはヘテロアリールの例としては、フェニル、フラン、ピラン、ピリジル、ピリミジル、およびトリアジルが含まれるが、これらに限定されない。
【0032】
本発明に係る式1または2中のR1、R2、R3、R4、R5、R6、R7およびR8は、任意に置換されてもよい。置換される場合、1つまたは複数の置換基は、シクロアルキル、アリール、ヘテロアリール、ヘテロ脂肪環、ヒドロキシ、アルコキシ、アリールオキシ、メルカプト、アルキルチオ、アリールチオ、シアノ、ハロゲン、カルボニル、チオカルボニル、O−カルバミル、N−カルバミル、O−チオカルバミル、N−チオカルバミル、C−アミド、N−アミド、S−スルホンアミド、N−スルホンアミド、C−カルボキシ、O−カルボキシ、イソシアナト、チオシアナト、イソチオシアナト、ニトロ、シリル、トリハロメタンスルホニルおよび1および2置換アミノを含むアミノ、およびそれらの保護された誘導体の中から個別におよび独立して選択される1つ以上の基である。更に、式1a中のR11、R12およびR13の置換基を以上で定義されている通りに同様に置換してもよく、置換する場合これらを以上で言及されている置換基として置換することができる。
【0033】
式1の化合物のうち、好ましいのは、以下の式3および4の化合物である。
【0034】
式3
【化5】
の化合物は、nが0であり隣接する炭素原子がその間の直接結合を介して環状構造(フラン環)を形成する化合物であり、以下「フラン化合物」または「フラノ−o−ナフトキノン誘導体」と呼ばれることが多い。
【0035】
式4
【化6】
の化合物は、nが1である化合物であり、以下「ピラン化合物」または「ピラノ−o−ナフトキノン」と呼ばれることが多い。
【0036】
式1においては、R1およびR2の各々は、特に好ましくは水素である。
【0037】
式3のフラン化合物のうち、特に好ましいのは、式3a
【化7】
の化合物(式中、R1、R2およびR4は水素である)、または式3b
【化8】
の化合物(式中、R1、R2およびR6は水素である)である。
【0038】
更に、式4のピラン化合物のなかで特に好ましいのは、式4a
【化9】
の化合物であり、式中、R1、R2、R5、R6、R7およびR8はそれぞれに水素である。
【0039】
式2の化合物のうち、限定されないが好適であるのは、以下の式2aおよび2bの化合物である。
【0040】
式2a
【化10】
の化合物は、nが0であり、隣接する炭素原子がその間の直接結合を介して環状構造を形成し、YがCである化合物である。
【0041】
式2b
【化11】
の化合物は、nが1でありYがCである化合物である。
【0042】
式2aまたは2bにおいては、R1、R2、R3、R4、R5、R6、R7、R8およびXは式2で定義された通りである。
【0043】
本発明において前立腺および/または睾丸(精液腺)関連疾患の治療および/または予防に対し治療的効果を及ぼす有効物質は、以下多くの場合「活性物質」と呼ばれる。
【0044】
活性成分の調製
本発明に係る医薬組成物においては、以下で例示する通りである式1または式2の化合物は、当該技術分野で公知の従来の方法によっておよび/または有機化学合成分野における一般的な技術および実践方法に基づくさまざまなプロセスによって調製可能である。以下で記述される調製プロセスは一例にすぎず、その他のプロセスも同様に利用可能である。従って、本発明の範囲は、以下のプロセスに限定されない。
【0045】
一般に、三環系ナフトキノン(ピラノ−o−ナフトキノンおよびフラノ−o−ナフトキノン)誘導体は、主として2つの方法によって合成可能である。その1つは、以下のβ−ラパコン合成スキームのように、酸触媒条件内で3−アリル−2−ヒドロキン−1,4−ナフトキノンを使用する環化反応を誘発することである。
【化12】
【0046】
即ち、2−アリルオキシ−1,4−ベンゾキノンとスチレンまたは1−ビニルシクロヘキサン誘導体の間でディールス・アルダー反応を誘導し、結果として得た中間体を空気中に存在する酸素、またNaIO4およびDDQなどの酸化剤を用いて脱水することによって、3−アリルオキシ−1,4−フェナントレンキノンを得ることが出来る。上述の化合物を更に再加熱することによって、Lapachole形態の2−アリル−3−ヒドロキシ−1,4−フェナントレンキノンをクライゼン転位を介して合成することが出来る。
【化13】
【化14】
【0047】
こうして得られた2−アリル−3−ヒドロキシ−1,4−フェナントレンキノンを究極的に酸触媒条件下で環化させた場合に、様々な3,4−フェナントレキノンベースのまたは5,6,7,8−テトラヒドロ−3,4−フェナントレンキノンベースの化合物を合成することができる。この場合。上述の式中で表されている置換基(上述の式中のR21、R22、R23)のタイプに応じて、5または6環系環化が発生し、同様にこれらは、対応する適切な置換基(以下の式中のR11、R12、R13、R14、R15、R16)に転換される。
【化15】
【0048】
更に、3−アリルオキシ−1,4−フェナントレンキノンは、酸(H+)またはアルカリ(OH−)触媒の条件化で3−オキシ−1,4−フェナントレキノンに加水分解され、これは次に様々なハロゲン化アリルと反応させられて、C−アルキル化により2−アリル−3−ヒドロキシ−1,4−フェナントレンキノンを合成する。かくして得られた2−アリル−3−ヒドロキシ−1,4−フェナントレンキノン誘導体は、酸触媒条件での環化に付されて、3,4−フェナントレンキノンベースかまたは5,6,7,8−テトラヒドロ−3,4−ナフトキノンベースの化合物を合成する。この場合、上述の式中で表されている置換基(上述の式中のR21、R22、R23)のタイプに応じて5または6環系環化が発生し、同様にこれらは、対応する適切な置換基(以下の式中のR11、R12、R13、R14、R15、R16)に転換される。
【化16】
【0049】
しかしながら、置換基R11およびR12が同時に水素である化合物を酸触媒型環化によって得ることはできない。これらの誘導体は、非特許文献3により報告されている方法に基づいて、より具体的にはまず第一に環化によりフラノベンゾキノン導入型フラン環を得、次に1−ビニルシクロヘキセン誘導体での環化により三環系フェナントロキノンを得、その後水素添加を介して還元することによって得られる。上述の合成プロセスは、以下のように要約することが出来る。
【化17】
【0050】
上述の合成方法以外に、置換基R11およびR12が同時に水素である本発明に係る化合物は、以下の方法により合成可能である。
【0051】
調製方法1は、以下の通りの一般化学反応スキームに要約することのできる酸触媒型環化による活性成分の合成である。
【化18】
【0052】
即ち、2−ヒドロキシ−1,4−ナフトキノンを塩基の存在下でさまざまなアリル型臭化物またはその等価物と反応させた場合、C−アルキル化生成物およびO−アルキル化生成物が同時に得られる。同様に、反応条件に応じて2つの誘導体のうちのいずれかのみを合成することも可能である。O−アルキル化誘導体が、トルエンまたはキシレンなどの溶媒を用いてO−アルキル化誘導体を還流させることによりクライゼン転位を通して別のタイプのC−アルキル化誘導体へと転換されることから、さまざまなタイプの3置換−2−ヒドロキシ−1,4−ナフトキノン誘導体を得ることが可能である。こうして得られたさまざまなタイプのC−アルキル化誘導体を、触媒として硫酸を用いる環化に付してもよく、こうして、これらの誘導体は、化合物のうちのピラノ−o−ナフトキノンまたはフラノ−o−ナフトキノン誘導体を合成することができる。
【0053】
調製方法2は、3−メチレン−1,2,4−[3H]ナフタレントリオンを用いたディールス−アルダー反応である。非特許文献1で教示されているように、2−ヒドロキシ−1,4−ナフトキノンとホルムアルデヒドを合わせて加熱した場合に生成される3−メチレン−1,2,4−[3H]ナフタレントリオンをさまざまなオレフィン化合物とのディールス−アルダー反応に付すことによって、さまざまなピラノ−o−ナフトキノン誘導体を比較的容易に合成できるということが報告されている。この方法は、硫酸を触媒として用いる環化の誘発と比較した場合に、さまざまな形態のピラノ−o−ナフト−キノン誘導体を比較的簡単な要領で合成できるという点で有利である。
【化19】
【0054】
調製方法3は、ラジカル反応によるハロアキル化および環化である。クリプトタンシノンおよび15,16−ジヒドロタンシノンの合成において使用されるものと同じ方法を、フラノ−o−ナフトキノン誘導体の合成のために適切に利用することが可能である。即ち、非特許文献2により教示されている通り、3−ハロプロパン酸または4−ハロブタン酸誘導体から誘導される2−ハロエチルまたは3−ハロエチルラジカル化学種を2−ヒドロキシ−1,4−ナフトキノンと反応させて3−(2−ハロエチルまたは3−ハロプロピル)−2−ヒドロキシ−1,4−ナフトキノンを合成することができ、次にこれを適切な酸性触媒条件下で環化に付してさまざまなピラノ−o−ナフトキノンまたはフラノ−o−ナフトキノン誘導体を合成することができる。
【化20】
【0055】
調製方法4は、ディールス−アルダー反応による4,5−ベンゾフランジオンの環化である。クリプトタンシノンおよび15,16−ジヒドロタンシノンの合成において使用される別の方法は、非特許文献3によって教示されている方法であってよい。この方法によると、フラノ−o−ナフトキノン誘導体は、4,5−ベンゾフランジオン誘導体とさまざまなジエン誘導体の間のディールス−アルダー反応を介した付加環化によって合成可能である。
【化21】
【0056】
上述の調製方法に基き、該当する合成方法を用いて、置換基の種類に応じたさまざまな誘導体を合成してもよい。
【0057】
本発明に係る化合物のうち、特に好適なものは以下の表1のものであるが、これらに限定されない。
【0058】
【表1−1】
【表1−2】
【表1−3】
【表1−4】
【表1−5】
【表1−6】
【表1−7】
【表1−8】
【表1−9】
【表1−10】
【0059】
本明細書で使用される「医薬組成物」という用語は、希釈剤または担体などのその他の化学的構成要素と式1または2の化合物との混合物を意味する。医薬組成物は、生体に対する化合物の投与を容易にする。化合物を投与する様々な技術が当該技術分野において公知であり、経口、注射、エアロゾル、非経口および局所投与が含まれるが、これらに限定されない。医薬組成物を、塩酸、臭化水素酸、硫酸、硝酸、リン酸、メタンスルホン酸、p−トルエンスルホン酸、サリチル酸などの酸と対象となる化合物を反応させることによって得ることも出来る。再狭窄の治療および予防を目的として治療上有効である有効成分としては、以下「活性成分」と呼ぶ上述の式の化合物すべてが含まれる。
【0060】
「治療上有効な量」という用語は、化合物を投与した場合に、治療を必要とする疾病の症候の1つ以上を或る程度緩和または削減するため、または予防を必要とする疾病の症候または臨床マーカーの開始を遅延するために有効である活性成分の量を意味する。従って、治療上有効な量は、(i)疾病の進行速度を逆転させる;(ii)疾病の更なる進行を一定程度阻害する;および/または(iii)疾病に関連する1つ以上の症候を一定程度緩和する(または好ましくは除去する)効果を示す活性成分の量を意味する。治療上有効な量は、治療を必要とする疾病について公知の生体内および試験管内モデル系において関係する化合物を用いて実験することによって経験的に決定されてもよい。
【0061】
本発明に係る医薬組成物においては、以下で例示するように、活性成分としての式1または2の化合物を、当該技術分野で公知の従来の方法および/または有機化学合成の分野における一般的技術および実践方法に基づくさまざまなプロセスによって調製することができる。
【0062】
本発明の医薬組成物は、例えば従来の混合、溶解、造粒、糖衣錠製造、研和、乳化、封入、捕捉または凍結乾燥プロセスを用いて、それ自体既知の要領で製造されてもよい。
【0063】
従って、本発明に係る用途のための医薬組成物は、付加的には、薬学的に許容される担体、希釈剤または賦形剤またはその任意の組合せで構成されていてもよい。それは、薬学的に使用可能である調製物への活性化合物の加工を容易にする賦形剤および助剤を含む1つ以上の薬学的に許容される担体を用いて、従来の要領で調合されてもよい。医薬組成物は、生体に対する化合物の投与を容易にする。
【0064】
「担体」という用語は、細胞または組織内への化合物の取込みを容易にする化合物を意味する。例えばジメチルスルホキシド(DMSO)は、数多くの有機化合物の生体の細胞または組織内への摂取を容易にすることから、一般的に利用される担体である。
【0065】
「希釈剤」という用語は、問題の化合物を溶解させかつ化合物の生物学的に活性な形態を安定化させる、水中に希釈された化合物を定義している。緩衝溶液中に溶解した塩が、当該技術分野において希釈剤として利用されている。一般的に使用されている緩衝溶液はリン酸緩衝生理食塩水(PBS)であり、それがヒトの体液のイオン強度条件を再現しているからである。緩衝塩は低濃度で溶液のpHを制御できることから、緩衝希釈剤が化合物の生物活性を修飾することは稀である。
【0066】
本明細書中で記述されている化合物は、それ自体ヒトの患者に対して、または組合せ療法の場合のように化合物をその他の活性成分または適切な担体または1つまたは複数の賦形剤と混合している医薬組成物の形で投与されてもよい。適切な調合は、選択される投与経路によって左右される。化合物の調合および投与のための技術は、非特許文献4に見出すことができる。
【0067】
体内に活性成分を投与するための医薬調合物に関するさまざまな技術が当該技術分野において公知であり、それには経口、注射、エアロゾル、非経口および局所投与が含まれるが、これらに限定されない。必要な場合には、これらは同様に、塩酸、臭化水素酸、硫酸、硝酸、リン酸、メタンスルホン酸、p−トルエンスルホン酸、サリチル酸などの酸と問題の化合物を反応させることによって得ることもできる。
【0068】
当該技術分野において公知の従来の方法によって医薬調合を実施してもよく、好ましくは、医薬調合物は、経口、外部、経皮、経粘膜および注射用調合物であってよく、特に好ましいのは、経口調合物である。
【0069】
一方、注射用としては、本発明の作用物質を水溶液中、好ましくは生理学的に相容性ある緩衝液例えばハンクス溶液、リンガー溶液または生理食塩水などの中で調合してもよい。経粘膜投与のためには、通過対象の障壁に適した浸透剤が調合物中で用いられる。かかる浸透剤は一般に当該技術分野において公知である。
【0070】
本発明に係る医薬化合物は特に好ましくは、腸標的調合物の形に調製される経口医薬組成物である。
【0071】
一般に、経口医薬組成物は、経口投与されると胃を通過し、小腸によって大部分が吸収され、その後体の全ての組織内に拡散し、かくして標的組織に対し治療効果を及ぼす。
【0072】
これに関連して、本発明に係る経口医薬組成物は、活性成分の腸標的調合物を介して、式1または式2の活性成分の化合物の生体吸収および生物学的利用能を増強させる。より具体的には、本発明に係る医薬組成物中の活性成分が胃および小腸の上部部分で最初に吸収された場合は、体内に吸収された活性成分が直接肝臓で代謝され、このとき代謝には活性成分の実質的分解が伴い、そのため所望のレベルの治療効果を及ぼすことは不可能である。一方、活性成分が下部小腸の周辺および下流側で大部分吸収される場合には、吸収された活性成分はリンパ管を介して標的組織まで移動し、これにより高い治療効果を及ぼす。
【0073】
更に、本発明に係る医薬組成物は消化プロセスの最終目的である結腸に至るまでを標的とするように作られていることから、薬剤の生体内保持時間を延長させることが可能であり、同様に、体内への薬剤の投与時に人体の新陳代謝に起因して発生し得る薬剤の分解を最小限におさえることも可能である。その結果、薬剤の薬物動態特性を改善し、疾病の治療に必要な活性成分の臨界有効用量を著しく低下させ、かつ微量の活性成分を投与した場合でさえ所望の治療的効果を得ることが可能である。更に、経口医薬組成物においては、胃内pHの変化および食糧摂取パターンの結果であり得る生物学的利用能の個体間および個体内変動を削減することで薬剤の吸収変動を最小限におさえることも可能である。
【0074】
従って、本発明に係る腸標的調合物は、活性成分が小腸および大腸内で、より好ましくは空腸、そして下部小腸に対応する回腸および結腸内、特に好ましくは回腸または結腸内で大部分吸収されるような形で構成されている。
【0075】
腸標的調合物は、さまざまな方法を通して消化管の数多くの生理学的パラメータを利用することにより設計されてもよい。本発明の好ましい一実施形態においては、腸標的調合物は、(1)pH感受性ポリマーに基づいた調合方法、(2)腸特異的細菌酵素により分解可能である生分解性ポリマーに基づく調合方法、(3)腸特異的細菌酵素により分解可能な生分解性マトリクスに基づく調合方法、または(4)所与の遅延時間の後の薬剤の放出を可能にする調合方法、およびそれらの任意の組合せによって調製されてもよい。
【0076】
具体的には、pH感受性ポリマーを用いた腸標的調合物(1)は、消化管のpH変化に基づく薬剤送出系である。胃のpHは1〜3の範囲内にあり、一方小腸および大腸のpHは、胃に対比して、7以上の値を有する。この事実に基づいて、医薬組成物が消化管のpH変動による影響を受けることなく低い方の腸部分に確実に到達できるようにするためにpH感受性ポリマーを使用してもよい。pH感受性ポリマーの例としては、メタクリル酸−酢酸エチルコポリマー(Eudragit:Rohm Pharma GmbHの登録商標)、ヒドロキシプロピルメチルセルロースフタレート(HPMCP)およびその混合物からなる群から選択される少なくとも1つが含まれるが、これらに限定されない。
【0077】
好ましくは、pH感受性ポリマーをコーティングプロセスによって添加してもよい。例えば、ポリマーの添加は、溶媒中にポリマーを混合して水性コーティング懸濁液を形成させること、結果として得られたコーティング懸濁液を噴霧してフィルムコーティングを形成させること、そしてフィルムコーティングを乾燥させることによって実施されてもよい。
【0078】
腸特異的細菌酵素により分解可能な生分解性ポリマーを用いた腸標的調合物(2)は、腸内細菌によって産生され得る特異的酵素の減成能力の利用に基づいている。具体的酵素の例としては、アゾ還元酵素、細菌加水分解酵素、グルコシダーゼ、エステラーゼ、ポリサッカリダーゼなどが含まれてよい。
【0079】
標的としてアゾ還元酵素を用いて腸標的調合物を設計することが所望される場合には、生分解性ポリマーはアゾ芳香族連結を含むポリマー、例えばスチレンおよびヒドロキシエチルメタクリレート(HEMA)のコポリマーであってよい。ポリマーが活性成分を含む調合物に添加される場合には、活性成分は、例えばバクテロイデス・フラギリス(Bacteroides fragilis)およびユウバクテリウム・リモサム(Eubacterium limosum)などの腸内細菌が特異的に分泌するアゾ還元酵素の作用を介してポリマーのアゾ基の還元により腸内に解放されてもよい。
【0080】
グルコシダーゼ、エステラーゼまたはポリサッカリダーゼを標的として用いて腸標的調合物を設計することが所望される場合には、生分解性ポリマーは天然に発生する多糖類、またはその置換誘導体であり得る。例えば、生分解性ポリマーは、デキストランエステル、ペクチン、アミロース、エチルセルロースおよびその薬学的に許容される塩からなる群から選択される少なくとも1つであってよい。ポリマーが活性成分に添加される場合、活性成分は、例えばビフィジス菌(Bifidobacteria)およびバクテロイデス種(Bacteroides spp.)などの腸内細菌が特異的に分泌する各酵素の作用を介してポリマーの加水分解によって腸内に解放されてもよい。これらのポリマーは天然の材料であり、生体内毒性の危険性が低いという利点を有する。
【0081】
腸特異的細菌酵素によって分解可能である生分解性マトリクスを用いた腸標的調合物(3)は、生分解性ポリマーが互いに架橋され、活性成分または活性成分含有調合物に添加される1つの形態であってよい。生分解性ポリマーの例としては、硫酸コンドロイチン、グアーガム、キトサン、ペクチンなどの天然に発生するポリマーが含まれてよい。薬剤放出度は、マトリクス構成ポリマーの架橋度に応じて変動し得る。
【0082】
天然に発生するポリマーに加えて、生分解性マトリクスは、N置換アクリルアミドに基づく合成ヒドロゲルであってよい。例えば、マトリクスとして、アクリル酸によるN−tert−ブチルアクリルアミドの架橋または2−ヒドロキシエチルメタクリレートおよび4−メタクリロイルオキシアゾベンゼンの共重合により合成されたヒドロゲルが使用されてもよい。架橋は例えば、上述の通りのアゾ連結であってよく、調合物は、架橋密度が維持されて腸の薬剤送出のための最適な条件を提供し、薬剤が腸に送出された時点で腸粘膜と相互作用するように連結が分解されている1つの形態であってよい。
【0083】
更に、遅延時間後の薬剤の経時的放出を伴う腸標的調合物(4)は、pH変化とは無関係に予め定められた時間の後に活性成分を放出できるようになっている機序を用いる薬剤送出系である。活性薬剤の腸内放出を達成するためには、調合物は胃内のpH環境に対する耐性を有していなくてはならず、腸内への活性成分の放出に先立つ体から腸までの薬剤の送出にかかる時間に対応する5〜6時間は沈黙期になくてはならない。時間特異的遅延放出型調合物は、ポリウレタンでのポリエチレン酸化物の共重合により調製されたヒドロゲルの添加によって調製されてもよい。
【0084】
具体的には、遅延放出型調合物は、不溶性ポリマーに薬剤を適用した後上述の組成を有するヒドロゲルを添加した時点で、調合物が水を吸収し次に胃および小腸の上部消化管内部にとどまっている間に膨張し、その後、下部消化管である小腸の下方部分まで移動し、薬剤を解放し、薬剤の遅延時間がヒドロゲルの長さに応じて決定される立体配置を有していてもよい。
【0085】
ポリマーの別の例としては、エチルセルロース(EC)を遅延放出型投薬調合物中に使用してもよい。ECは不溶性ポリマーであり、ぜん動運動に起因する腸の内部圧力の変化または水の浸透に起因する膨張媒質の膨張に応答して薬剤送出時間を遅延させるための一要因として役立つかもしれない。遅延時間は、ECの厚みにより制御されてもよい。付加的な例として、ポリマーの厚み制御による所与の時限後の薬剤放出を可能にする遅延剤として、ヒドロキシプロピルメチルセルロース(HPMC)を使用してもよく、これは5〜10時間の遅延時間を有し得る。
【0086】
本発明に係る経口医薬組成物においては、活性成分は、高い結晶化度をもつ結晶構造または低い結晶化度の結晶構造を有していてもよい。
【0087】
本明細書で使用される「結晶化度」という用語は、合計結晶化合物の結晶質部分の重量分率として定義づけされ、当該技術分野において公知の従来の方法によって決定されてもよい。例えば、結晶化度の測定は、結晶質部分および非晶質部分の各密度へ適切な値を加算するおよび/または各密度から減算することによって得られる既定の値を予め仮定することによって結晶化度を計算する密度方法または沈殿方法、融解熱の測定が関与する方法、X線回折分析時点でX線回折強度分布から結晶質回折分率および非晶質回折分率を分離することで結晶化度を計算するX線方法、または赤外線吸収スペクトルの結晶性結束間の幅のピークから結晶化度を計算する赤外線方法によって実施してもよい。
【0088】
本発明に係る経口医薬組成物中で、活性成分の結晶化度は好ましくは50%以下である。より好ましくは。活性成分は、材料の固有の結晶化度が完全に失なわれた非晶質構造を有していてもよい。非晶質化合物は、結晶質化合物に比べて比較的高い溶解度を示し、薬剤の溶解速度および生体内吸収速度を有意に改善できる。
【0089】
本発明の好ましい一実施形態において、非晶質構造は、活性成分を微粒子または細粒に調製する間に形成されてもよい(活性成分の微粉化)。微粒子は、例えば活性成分の噴霧乾燥、ポリマーとの活性成分のメルト形成が関与する溶融方法、溶媒中への活性成分の溶解後のポリマーと活性成分の共沈物の形成、封入体形成、溶媒揮発などにより調製されてもよい。好ましいのは、噴霧乾燥である。活性成分が非晶質構造でない、即ち結晶構造または半結晶構造を有する場合でさえ、機械的製粉を介した活性成分の細粒への微粉化は、粒子の比表面積が大きいため溶解度の改善に寄与し、その結果として活性薬剤の溶解速度および生体吸収速度は改善される。
【0090】
噴霧乾燥は、或る種の溶媒中に活性成分を溶解させ、結果として得られた溶液を噴霧乾燥することによって細粒を作る方法である。噴霧乾燥プロセス中、ナフトキノンの結晶化度は高い率で失われて非晶質状態が結果としてもたらされ、従って、細かい粉末状の噴霧乾燥された製品が得られる。
【0091】
機械的製粉は、活性成分粒子に対し強い物理的力を加えることにより活性成分を細粒へと粉砕する方法である。機械的製粉は、ジェットミル、ボールミル、振動ミル、ハンマーミルなどのさまざまな製粉プロセスを使用することによって実施してもよい。特に好ましいのは、40℃の温度で空気圧を用いて実施可能であるジェットミルである。
【0092】
一方、結晶構造の如何に関わらず、粒子状活性成分の粒径が減少すると、比表面積は増大し、ひいては溶解速度および溶解度を増大させる。しかしながら、粒径が過度に小さいと、このようなサイズをもつ細粒を調製するのがむずかしくなり、また、溶解度の劣化を結果としてもたらす可能性のある集塊化または凝集ももたらされる。従って、好ましい一実施形態においては、活性成分の粒径は、5nm〜500μmの範囲内にあってよい。この範囲内では、粒子の集塊化または凝集を最大限阻害でき、粒子の高い比表面積に起因して溶解速度および溶解度を最大限にすることができる。
【0093】
好ましくは、細粒の形成中に発生しうる粒子の集塊化または凝集を防ぐため更に界面活性剤を添加してもよく、かつ/または静電気の発生を妨げるべく更に帯電防止剤を添加してもよい。
【0094】
必要な場合には、製粉プロセス中に更に吸湿性材料を加えてもよい。式1または式2の化合物は水により結晶化する傾向を有し、従って、吸湿性材料の取込みはナフトキノンベースの化合物の再結晶化を一定期間阻害し、微粉化に起因する化合物粒子の増大した溶解度の維持を可能にする。更に、吸湿性材料は、活性成分の治療的効果に不利な影響を及ぼさずに医薬組成物の凝固および凝集を抑制するのに役立つ。
【0095】
界面活性剤の例としては、アニオン界面活性剤、例えばドキュセート・ナトリウムおよびラウリル硫酸ナトリウム;カチオン界面活性剤、例えば塩化ベンザルコニウム、塩化ベンゼトニウムおよびセトリミド;非イオン界面活性剤、例えばモノオレイン酸グリセリル、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステルおよびソルビタンエステル;両親媒性高分子、例えばポリエチレン−ポリプロピレンポリマーおよびポリオキシエチレン−ポリオキシプロピレンポリマー(Poloxamer)、およびGelucireTMシリーズ(Gattefosse Corporation、USA);モノカプリレル酸プロピレングリコール、オレイオールマクロゴール−6−グリセリド、リノレオイルマクロゴール−6−グリセリド、カプリロカプロイルマクロゴール−8−グリセリド、モノラウリン酸プロピレングリコール、およびポリグリセリル−6−ジオレエートが含まれるがこれらに限定されない。これらの材料を、単独でまたはその任意の組合せの形で使用してもよい。
【0096】
吸湿性材料の例としては、コロイドシリカ、軽質無水ケイ酸、重質無水ケイ酸、塩化ナトリウム、ケイ酸カルシウム、アルミノケイ酸カリウム、アルミノケイ酸カルシウムなどが含まれていてもよいが、これらに限定されない。これらの材料を、単独でまたはその任意の組合せで使用してもよい。
【0097】
上述の吸湿剤の一部を、帯電防止剤として使用してもよい。
【0098】
界面活性剤、帯電防止剤および吸湿剤は、上述の効果を達成することのできる一定の量で添加され、かかる量は、微粉化条件に応じて適切に調整されてもよい。好ましくは、添加剤は、活性成分の合計重量に基づいて0.05重量%〜20重量%の範囲内で使用されてもよい。
【0099】
好ましい一実施形態においては、本発明に係る医薬組成物を経口投与用の調製物へと調合する間に、更に、水溶性ポリマー、可溶化剤および崩壊剤を添加してもよい。好ましくは、所望の剤形への組成物の調合は、溶媒中で添加剤および粒子状活性成分を混合し、混合物を噴霧乾燥することによって行なってよい。
【0100】
水溶性ポリマーは、ナフトキノンベースの化合物の分子または粒子の周囲を親水性にしてその結果水溶性を増強し、かつ好ましくは式1または式2の活性成分化合物の非晶質状態を維持することによって、粒子状活性成分の凝集を防止するのに役立つ。
【0101】
好ましくは、水溶性ポリマーは、pH非依存性ポリマーであり、胃腸内pHの個体間および個体内変動の下でさえ活性成分の結晶化度損失および親水性増強をもたらすことができる。
【0102】
水溶性ポリマーの好ましい例としては、セルロース誘導体、例えばメチルセルロース、ヒドロキシメチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、エチルセルロース、ヒドロキシエチルメチルセルロース、カルボキシメチルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロースフタレート、ナトリウムカルボキシメチルセルロース、およびカルボキシメチルエチルセルロース;ポリビニルアルコール類;ポリ酢酸ビニル、ポリ酢酸ビニルフタレート、ポリビニルピロリドン(PVP)、およびそれらを含むポリマー類;酸化ポリアルケンまたはポリアルケングリコールおよびそれらを含むポリマー類からなる群から選択される少なくとも1つが含まれていてもよい。好ましいのはヒドロキシプロピルメチルセルロースである。
【0103】
本発明の医薬組成物においては、所与のレベルよりも高い過剰の水溶性ポリマーを含有しても、更なる溶解度の上昇は全くもたらされず、不利なことに、調合物の硬度の全体的増加および、溶離剤に対する曝露時点で水溶性ポリマーが過度に膨張することに起因する調合物のまわりの薄膜形成による調合物内への溶離剤の不浸透などのさまざまな問題がもたらされる。従って、好ましくは、式1または式2の化合物の物理的特性を修正することによって調合物の溶解度を最大限にする目的で、可溶化剤を添加する。
【0104】
この点において、可溶化剤は式1または式2の難溶性化合物の可溶化および湿潤性を増強するために役立ち、食事および食糧摂取後の薬剤投与の時間差に由来するナフトキノンベースの化合物の生物学的利用能変動を著しく削減することができる。可溶化剤は、従来広く用いられている界面活性剤または両親媒性化合物から選択されてよく、可溶化剤の具体例は、以上で定義された通りの界面活性剤を意味してよい。
【0105】
崩壊促進剤は、薬物放出速度を改善するのに役立ち、標的部位における薬剤の急速放出を可能にし、これにより薬剤の生物学的利用能を増大させる。
【0106】
崩壊促進剤の好ましい例としては、クロスカルメロースナトリウム、クロスポビドン、カルボキシメチルセルロースカルシウム、デンプングリコール酸ナトリウムおよび低級置換ヒドロキシプロピルセルロースからなる群から選択される少なくとも1つが含まれていてもよいが、これらに限定されない。好ましいのは、クロスカルメロースナトリウムである。
【0107】
上述の通りさまざまな因子を考慮に入れた上で、活性成分100重量部分に基づいて10〜1000重量部分の水溶性ポリマー、1〜30重量部分の崩壊促進剤、そして0.1〜20重量部分の可溶化剤を添加することが好ましい。
【0108】
上述の成分に加えて、必要な場合には調合に関連して当該技術分野で公知のその他の材料を任意に添加してもよい。
【0109】
噴霧乾燥用の溶媒は、その物理的特性を変更することなく高い溶解度を示しかつ噴霧乾燥プロセス中に容易な揮発性を示す材料である。このような溶媒の好ましい例としては、ジクロロメタン、クロロホルム、メタノールおよびエタノールが含まれるが、これらに限定されない。これらの材料を、単独でまたはその任意の組合せの形で使用してもよい。好ましくは、噴霧溶液中の固体含有量は、噴霧溶液の合計重量に基づいて5〜50重量%の範囲内である。
【0110】
上述の腸標的調合プロセスは、好ましくは以上の通りに調製された調合物粒子について実施されてもよい。
【0111】
好ましい一実施形態においては、本発明に係る経口医薬組成物は以下のステップを含むプロセスによって調合されてもよい:
(a)式1または式2の化合物を単独でまたは界面活性剤および吸湿性材料と組合せた形で添加し、ジェットミル機で式1の化合物を粉砕して活性成分微粒子を調製するステップ;
(b)溶媒中に水溶性ポリマー、可溶化剤および崩壊促進剤と併せて活性成分微粒子を溶解させ、結果として得た溶液を噴霧乾燥して調合物粒子を調製するステップ;および
(c)溶媒中にpH感受性ポリマーおよび可塑化剤と併せて調合物粒子を溶解させ、結果として得た溶液を噴霧乾燥して、調合物粒子上で腸標的コーティングを実施するステップ。
【0112】
界面活性剤、吸湿性材料、水溶性ポリマー、可溶化剤および崩壊促進剤は、以上で定義された通りである。可塑化剤は、コーティングの硬化を妨げるために添加される添加剤であり、例えばポリエチレングリコールなどのポリマーを含んでいてもよい。
【0113】
或いは、活性成分の調合は、シードとしてのステップ(a)のジェットミルで粉砕した活性成分上へのステップ(b)のビヒクルおよびステップ(c)の腸標的コーティング材料の逐次または同時噴霧によって実施されてもよい。
【0114】
本発明において使用するのに適した医薬組成物には、その意図された目的を達成するのに有効な量で活性成分が含有されている組成物が含まれる。より具体的には、治療上有効な量とは、疾病の症候を予防、緩和または改善するかまたは治療対象を延命するのに有効な化合物の量を意味する。治療上有効な量の決定は、特に本明細書中で提供されている詳細な開示に照らして、当業者の能力範囲内に充分入るものである。
【0115】
本発明の医薬組成物が単位剤形に調合される場合、活性成分としての式1または式2の化合物は、好ましくは約0.1〜1,000mgの単位用量で含有される。投与される式1または式2の化合物の量は、治療中の患者の体重および年令、疾病の特徴的性質および重症度に応じて主治医が決定する。ただし、成人の治療に必要な投与量は、投与頻度および単位投与量に応じて、一日約1〜3000mgの範囲内であるのが一般的である。一般的に、合計投与量として一日約1〜500mgが成人に対する筋内または静脈内投与に充分なものであるが、一部の患者のためにはより多くの投与量が望ましいと思われる。
【0116】
本発明の別の態様によると、心臓病の治療および予防のための医薬品の調製における式1または2の化合物の使用が提供されている。
【0117】
心臓病の例としては、心肥大、心不全、うっ血性心不全、狭心症、心筋梗塞などが含まれてよい。好適であるのは、心肥大または心不全である。
【0118】
「治療」という用語は、式1または2の化合物或いはそれを含む組成物が疾病の症候を示す対象に対し投与された場合に、疾病の進行を停止させるかまたは遅延させることを意味する。「予防」という用語は、式1または2の化合物或いはそれを含む組成物が、疾病の症候を全く示さないものの疾病の症候を発生させる高い危険性を有する対象に対して投与された場合に、疾病の症候を停止させるかまたは遅延させることを意味する。
【図面の簡単な説明】
【0119】
【図1】実験例1に従って心肥大モデルにおいて測定されたHW/BW比の結果を示すグラフである。
【図2】実験例1に従って心肥大モデルにおいて測定されたHW/TL比の結果を示すグラフである。
【図3】実験例1に従って心肥大モデルにおいて測定された左心室内径短縮率の結果を示すグラフである。
【図4】実験例1に従って心不全モデルにおいて測定されたHW/BW比の結果を示すグラフである。
【図5】実験例1に従って心不全モデルにおいて測定されたHW/TL比の結果を示すグラフである。
【図6】実験例1に従って心不全モデルにおいて測定された左心室内径短縮率の結果を示すグラフである。
【図7】実験例2に従って心肥大モデルにおいて測定されたHW/BW比の結果を示すグラフである。
【図8】実験例2に従って心肥大モデルにおいて測定されたHW/TL比の結果を示すグラフである。
【図9】実験例2に従って心肥大モデルにおいて測定された左心室内径短縮率の結果を示すグラフである。
【図10】実験例2に従って心不全モデルにおいて測定されたHW/BW比の結果を示すグラフである。
【図11】実験例2に従って心不全モデルにおいて測定されたHW/TL比の結果を示すグラフである。
【図12】実験例2に従って心不全モデルにおいて測定された左心室内径短縮率の結果を示すグラフである。
【図13】実験例3にしたがった心肥大モデルにおける体重および食糧摂取の経時的変化を示すグラフである。
【図14】実験例3で測定された通りのMB660の用量に応答したHW/BW比を示すグラフである。
【図15】実験例4にしたがった心肥大モデルにおける心臓サイズの変化を示す顕微鏡写真である。
【図16】実験例5にしたがった心肥大モデルにおけるMB660の投与に応答した心筋細胞のミトコンドリア変化を示す顕微鏡写真である。
【図17】実験例5にしたがった心不全モデルにおけるMB660の投与に応答した心筋細胞のミトコンドリア変化を示す顕微鏡写真である。
【発明を実施するための形態】
【0120】
ここで本発明について、以下の実施例を参考にしながらより詳細に記述する。これらの実施例は、本発明を例示することのみを目的として提供され、本発明の範囲および精神を限定するものとしてみなされるべきものではない。本発明に係る医薬組成物の治療的効果を以下の通りに確認する。
【0121】
材料および方法
1. 動物モデル
8週齢のC57BL/6J雄マウス(n=40、20〜23g、SLC、日本)を購入し、横断大動脈狭窄(TAC)に付した。
【0122】
TACの作業のために、C57BL/6雄マウスを液体麻酔薬(ケタミン:キシラジン=20:1、kg/ml)の腹腔内注射で麻酔し、気管内に22ゲージのIVカテーテル針を設置し、続いて人工強制呼吸のため人工呼吸器(Harvard Apparatus)と接続した。胸部を切開し、胸腺を取り出した。胸腺を取り出した後、右鎖骨下動脈と左鎖骨下動脈の間の横断大動脈を、上に置いた鈍化27−ゲージ針と共に結束し(7−0、シルク)、その後針を急速に抜去して、明確な狭窄を作り出した。(5−0)シルクで胸部を縫合して手術を完了し、その後動物の呼吸を確認した。
【0123】
心肥大モデルについてのTAC手術から2週間後に、心臓重量(HW)対脛骨長の比(HW/TL比)を測定して、対照グループと対比した心肥大度を確認し、心肥大の誘発が適切になされたか否かを判定した。心不全モデルについてのTAC手術から5週間後に、対照グループとの左心室内径短縮率(F.S)値(%)の差を、心エコー図を用いて確認し、次に心不全誘発度および治療的効果を判定した。
【0124】
2. 心肥大および心不全に対する化合物の阻害または緩和効果
心臓重量(HW)対体重(BW)の比(HW/BW比)および心臓重量(HW)対脛骨長の比(HW/TL比)をそれぞれ、心エコー図を用いて推定した。
【0125】
更に左心室拡張末期および収縮末期径をAmerican Society for Echocardiographyの標準方法に従って測定した。心室収縮力の指標である左心室内径短縮率(%)は、以下の等式に従って計算される:
F.S=(左心室拡張末期径)−(左心室収縮末期径)/左心室拡張末期径
【0126】
実験例1:心肥大および心不全に対するMB660の阻害効果
式1の化合物の中でも、心肥大および心不全に対する7,8−ジヒドロ−2,2−ジメチル−2H−ナフト(2,3−b)ジヒドロピラン−7,8−ジオンの阻害効果(以下「MB660」と呼ぶ)を検査した。この目的で、実験動物を、以下の表1に示されている通りの4つのグループに分けた:
SHAMグループ(結束有り:対照グループ)
TACグループ(結束有り:実験グループ)
ビヒクル処置(−)グループおよび
グループ(+)には実施例1の化合物を与えた。
【0127】
TAC処置から2日後、動物にテスト試料を与えた。心肥大の誘発をTAC処置後2週間にわたり実施した。心不全の誘発をTAC処置後5週間にわたり実施した。
【0128】
【表2】
【0129】
心肥大誘発モデルについては、HW/BW比およびHW/TL比はそれぞれ図1および2の中で示されており、左心室内径短縮率は図3で示されている。
【0130】
図1および2を参照すると、正常な対照グループ(SHAM)では、MB660処置済みグループと処置無しグループ間で有意な差異を示さず、一方TAC誘発型心肥大を有するグループに対するMB660の処置は、MB660処置無しの対応グループに比べて著しく低い心肥大値を示し、従って正常な対照グループのレベルに近いものであった。図3を参照すると、MB660処置済みグループは、MB660処置無しのグループに比べて左心室内径短縮率の有意な増大を示し、従って心筋収縮能が改善されたことを裏付けた。
【0131】
心不全誘発モデルについては、HW/BW比およびHW/TL比はそれぞれ図4および図5の中で示されており、左心室内径短縮率は図6で示されている。
【0132】
図4および図5を参照すると、MB660での処置を受けた心不全誘発モデルも同様に、対照グループ(MB660処置無しグループ)に比べて、著しく低いHW/BWおよびHW/TL比の値を示し、従って正常な対照グループのものに類似した特徴を示した。これらの結果から、MB660が心筋肥大などに起因する心臓重量の増大に対する阻害効果を有することがわかる。図4中の左心室内径短縮率も同様に、MB660処置無しグループに比べてMB660処置済みグループ内で有意に増大した。
【0133】
これらを合わせて考えると、本発明に係る化合物の投与は、結果として心肥大および心不全の有意な阻害をもたらし、従って、本発明に係る化合物はこれらの疾病に対し予防的に有効であり得る。
【0134】
実験例2:心肥大および心不全の好転に対するMB660の効果
心肥大および心不全の好転に対するMB660の効果を測定するために、実験を以下のように実施した。心肥大および心不全誘発モデルについては、実験動物を、以下の表2に記されている通りの2つのグループに分割した:
ビヒクル処置済み(−)グループ、およびMB660投与済み(+)グループ。
【0135】
心肥大の誘発後(TAC処置後2週間)および心不全の誘発後(TAC処置後5週間)、動物に4週間テスト試料を与えた。
【0136】
【表3】
【0137】
心肥大誘発モデルについては、HW/BW比およびHW/TL比はそれぞれ図7および8に示されており、左心室内径短縮率は図9に示されている。
【0138】
図7および図8を参照すると、MB660処置済みグループは、MB660処置無しグループに比べて30%以上低いものである6.23というHW/BW値を示し、MB660処置無しグループよりも約25%低い7.68というHW/TL値を示した。図9を参照すると、MB660処置済みグループは、MB660処置無しグループに比べて有意な左心室内径短縮率増加を示したということがわかる。
【0139】
従って、MB660化合物が心肥大誘発マウスにおける心臓重量の損失および心筋収縮能の改善に対し有意な効果を示し、従って心肥大の治療に有効に使用可能であることを確認することができる。
【0140】
心不全誘発モデルについては、HW/BW比およびHW/TL比はそれぞれ図10および11に示され、左心室内径短縮率は図12に示されている。
【0141】
図10〜12を参照すると、MB660処置済みグループは、対照グループと比べて、左心室内径短縮率の有意な増加と併せてHW/BWおよびHW/TL比の低い値を示すことが確認できる。従って、MB660化合物が心不全治療に対し優れた効果を及ぼすことが確認できる。
【0142】
実験例3:心肥大モデルにおけるMB660の用量に応答した心臓重量の変化
MB660の用量に応答した心肥大および心不全に対するMB660の治療的効果を調査するために、8週齢のC57BL/6J雄マウスを、表3中で記されている通りにTACに付し、それぞれ30mg/kg、60mg/kg、100mg/kgおよび150mg/kgの異なるMB660用量を用いて、体重変化、食糧摂取およびHW/BW比を測定した。得られた結果は図9および図10に示されている。マウスには低脂肪食(11.9kcal%の脂肪、5053、Labdiet)を給餌した。TAC作業の2日後に、動物に2週間にわたってテスト試料を経口投与した。
【0143】
【表4】
【0144】
全てのグループが体重および食糧摂取の有意な差を全く示さなかった(図13参照)ものの、MB660投与グループは、対照グループ(TAC)に比べてHW/BW比の有意な減少(図14参照)を示して、HW/BW比のこのような減少が心臓重量の損失に起因するものであることを裏づけた。30mgのMB660の投与を受けたグループに比べて60mgのMB660でHW/BW比が増大したにせよ、HW/BW比は一般にMB660の用量の増加に伴って減少した。
【0145】
実験例4:心肥大モデルにおける心臓サイズの変化
MB660の投与に応答した心臓サイズの変化を検査する目的で、実験動物を、以下の表4に示されている通りの4つのグループに分けた:
SHAMグループ(結束無し:対照グループ)
TACグループ(結束有り:実験グループ)
ビヒクル処置(−)グループおよび
グループ(+):これには実施例1の化合物を与えた。
【0146】
TAC処置の1週間後に、2週間にわたり動物にMB660を与えた。TAC処置から3週間後に、動物を屠殺し、心臓を切開し、続いてサイズを検査した。得られた結果は、図15に示されている。
【0147】
【表5】
【0148】
図15を参照すると、正常な対照グループはMB660の投与に応答して有意な差異を全く示さず、一方対照グループ(TAC処置後のMB660の投与無し)は、心筋肥大に起因する心臓サイズの非常に有意な増大を示し、MB660投与グループは、正常な対照グループ(SHAMグループ)のものと類似した心臓サイズの有意な減少を示した。
【0149】
実験例5:心肥大および心不全モデルにおけるミトコンドリア変化
動物には、心肥大の誘発(TAC処置から2週間後)および心不全の誘発(TAC処理から5週間後)の後に4週間にわたりテスト試料を経口投与した。動物の左心室心筋組織を2.5%のグルタルアルデヒド中に定着させて組織切片を調製し、透過型電子顕微鏡の下でミトコンドリアの形態変化を検査した。
【0150】
TAC誘発型の心肥大および心不全を有するC57BL/6Jマウスにおいては、MB660の投与に応答した心筋ミトコンドリアの改変が観察された。観察された結果は図16および17に示されている。
【0151】
図16および17を参照すると、心肥大および心不全の発生時点で、心筋細胞のアポトーシスおよび利用可能な酸素の欠乏(左図版参照)に起因してミトコンドリア異常が観察されたが、ミトコンドリア機能はMB660の投与により原状復帰した(右図版参照)。
【産業上の利用可能性】
【0152】
以上のことから明白であるように、本発明に係る医薬組成物は、心筋肥大の発生を阻害し、これにより心臓の重量およびサイズの減少に対して有意な効果を示す。従って、本発明の医薬組成物は、心肥大、心不全などの心臓病の治療および予防に対して優れた効果を有する。
【0153】
本発明の好ましい実施形態を例示目的で開示したが、当業者であれば、添付のクレーム中で開示されている通りの本発明の範囲および精神から逸脱することなくさまざまな修正、付加および置換が可能であるということを認識するものである。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
(a)治療上有効な量の、下記式1および2:
【化1】
【化2】
(式中、
R1およびR2は、各々独立して水素、ハロゲン、ヒドロキシルまたはC1−C6低級アルキルまたはアルコキシであるか、或いはR1およびR2は統合して、飽和されていても部分的または完全に不飽和であってもよい置換または未置換環状構造を形成してもよく;
R3、R4、R5、R6、R7およびR8は、各々独立して水素、ヒドロキシ、C1−C20アルキル、アルケンまたはアルコキシ、C4−C20シクロアルキル、ヘテロシクロアルキル、アリールまたはヘテロアリールであり、或いはR3〜R8のうちの2つは統合して、飽和されていても部分的または完全に不飽和であってもよい環状構造を形成してもよく;
Xは、C(R)(R’)、N(R’’)(式中、R、R’およびR’’は、各々独立して水素またはC1−C6低級アルキルである)、OおよびSからなる群から選択され;
YがSである場合、R7およびR8は不在であり、YがNである場合、R7が水素またはC1−C6低級アルキルであり、かつR8が不在であることを条件として、Yは、C、SまたはNであり;
nが0である場合、nに隣接する炭素原子が直接結合を介して環状構造を形成することを条件として、nは0または1である)
により表される化合物から選択される1つ以上の化合物;またはその薬学的に許容される塩、プロドラッグ、溶媒和物または異性体;および
(b)薬学的に許容される担体、希釈剤または賦形剤またはその任意の組み合わせ
を含む、心臓病の治療および予防のための医薬組成物。
【請求項2】
XがOであることを特徴とする請求項1に記載の組成物。
【請求項3】
プロドラッグが、下記式1a:
【化3】
(式中
R1、R2、R3、R4、R5、R6、R7、R8、Xおよびnは、式1中で定義されている通りであり;
R9およびR10は、各々独立して−SO3−Na+であるか、または下記式A:
【化4】
(式中
R11およびR12は各々独立して水素または置換または未置換のC1−C20直鎖アルキルまたはC1−C20分岐アルキルであり、
R13は、下記置換基i)〜viii):
i)水素
ii)置換または未置換C1−C20直鎖アルキルまたはC1−C20分岐アルキル
iii)置換または未置換アミン
iv)置換または未置換C3−C10シクロアルキルまたはC3−C10ヘテロシクロアルキル
v)置換または未置換C4−C10アリールまたはC4−C10ヘテロアリール
vi)−(CRR’−NR’’CO)l−R14(式中、R、R’およびR’’は、各々独立して水素または置換または未置換C1−C20直鎖アルキルまたはC1−C20分岐アルキルであり、R14は、水素、置換または未置換アミン、シクロアルキル、ヘテロシクロアルキル、アリールおよびヘテロアリールからなる群から選択され、lは1〜5から選択される)
vii)置換または未置換カルボキシル
viii)−OSO3−Na+
からなる群から選択され;
kが0である場合、R11およびR12は不在であり、R13はカルボニル基に直接結合されることを条件として、kは0〜20から選択される)
により表わされる置換基またはその塩である)
により表わされる化合物であることを特徴とする請求項1に記載の組成物。
【請求項4】
式1の化合物が、下記式3および4:
【化5】
【化6】
(式中、R1、R2、R3、R4、R5、R6、R7およびR8は式1に定義されている通りである)
の化合物から選択されることを特徴とする請求項1に記載の組成物。
【請求項5】
R1およびR2が、各々水素であることを特徴とする請求項1に記載の組成物。
【請求項6】
式3の化合物が、下記式3a:
【化7】
(式中、R1、R2およびR4は各々水素である)
の化合物であるか、または下記式3b:
【化8】
(式中、R1、R2およびR6は各々水素である)
の化合物であることを特徴とする請求項4に記載の組成物。
【請求項7】
式4の化合物が、下記式4a:
【化9】
(式中、R1、R2、R5、R6、R7およびR8は各々水素である)
の化合物であることを特徴とする請求項4に記載の組成物。
【請求項8】
式2の化合物が、
式中のnが0であり、隣接する炭素原子がそれらの間の直接結合を介して環状構造を形成し、YがCである下記式2a:
【化10】
の化合物であるか、または
式中のnが1であり、YがCである下記式2b:
【化11】
の化合物
(両式中、R1、R2、R3、R4、R5、R6、R7、R8およびXは式1で定義された通りである)
ことを特徴とする請求項1に記載の組成物。
【請求項9】
式1または式2の化合物が、結晶構造内に含有されていることを特徴とする請求項1に記載の組成物。
【請求項10】
式1の化合物が、非晶構造内に含有されていることを特徴とする請求項1に記載の組成物。
【請求項11】
式1または式2の化合物が、微粒子の形で調合されていることを特徴とする請求項1に記載の組成物。
【請求項12】
微粒子形態への調合が、機械的製粉、噴霧乾燥、沈殿方法、均質化および超臨界微粉化からなる群から選択される粒子微粉化方法を用いることにより実施されることを特徴とする請求項11に記載の組成物。
【請求項13】
調合が、機械的製粉としてのジェットミルおよび/または噴霧乾燥を用いることによって実施されることを特徴とする請求項12に記載の組成物。
【請求項14】
微粒子の粒度が、5nm〜500μmであることを特徴とする請求項11に記載の組成物。
【請求項15】
腸標的調合物に調製されていることを特徴とする請求項1に記載の組成物。
【請求項16】
腸標的調合が、pH感受性ポリマーの添加によって実施されることを特徴とする請求項15に記載の組成物。
【請求項17】
腸標的調合が、腸特異的細菌酵素によって分解可能である生分解性のポリマーの添加によって実施されることを特徴とする請求項15に記載の組成物。
【請求項18】
腸標的調合が、腸特異的細菌酵素により分解可能である生分解性マトリクスの添加によって実施されることを特徴とする請求項15に記載の組成物。
【請求項19】
腸標的調合が、遅延時間の後の薬剤の経時的放出を用いた構成(「時間特異的遅延放出型調合物」)によって実施されることを特徴とする請求項15に記載の組成物。
【請求項20】
心臓病が、心肥大、心不全、うっ血性心不全、狭心症および心筋梗塞からなる群から選択されることを特徴とする請求項1に記載の組成物。
【請求項21】
請求項1に記載の式1の化合物を使用して心臓病の治療及び/または予防用の医薬品を調製するための方法。
【請求項22】
心臓病が、心肥大または心不全であることを特徴とする請求項1に記載の組成物。
【請求項1】
(a)治療上有効な量の、下記式1および2:
【化1】
【化2】
(式中、
R1およびR2は、各々独立して水素、ハロゲン、ヒドロキシルまたはC1−C6低級アルキルまたはアルコキシであるか、或いはR1およびR2は統合して、飽和されていても部分的または完全に不飽和であってもよい置換または未置換環状構造を形成してもよく;
R3、R4、R5、R6、R7およびR8は、各々独立して水素、ヒドロキシ、C1−C20アルキル、アルケンまたはアルコキシ、C4−C20シクロアルキル、ヘテロシクロアルキル、アリールまたはヘテロアリールであり、或いはR3〜R8のうちの2つは統合して、飽和されていても部分的または完全に不飽和であってもよい環状構造を形成してもよく;
Xは、C(R)(R’)、N(R’’)(式中、R、R’およびR’’は、各々独立して水素またはC1−C6低級アルキルである)、OおよびSからなる群から選択され;
YがSである場合、R7およびR8は不在であり、YがNである場合、R7が水素またはC1−C6低級アルキルであり、かつR8が不在であることを条件として、Yは、C、SまたはNであり;
nが0である場合、nに隣接する炭素原子が直接結合を介して環状構造を形成することを条件として、nは0または1である)
により表される化合物から選択される1つ以上の化合物;またはその薬学的に許容される塩、プロドラッグ、溶媒和物または異性体;および
(b)薬学的に許容される担体、希釈剤または賦形剤またはその任意の組み合わせ
を含む、心臓病の治療および予防のための医薬組成物。
【請求項2】
XがOであることを特徴とする請求項1に記載の組成物。
【請求項3】
プロドラッグが、下記式1a:
【化3】
(式中
R1、R2、R3、R4、R5、R6、R7、R8、Xおよびnは、式1中で定義されている通りであり;
R9およびR10は、各々独立して−SO3−Na+であるか、または下記式A:
【化4】
(式中
R11およびR12は各々独立して水素または置換または未置換のC1−C20直鎖アルキルまたはC1−C20分岐アルキルであり、
R13は、下記置換基i)〜viii):
i)水素
ii)置換または未置換C1−C20直鎖アルキルまたはC1−C20分岐アルキル
iii)置換または未置換アミン
iv)置換または未置換C3−C10シクロアルキルまたはC3−C10ヘテロシクロアルキル
v)置換または未置換C4−C10アリールまたはC4−C10ヘテロアリール
vi)−(CRR’−NR’’CO)l−R14(式中、R、R’およびR’’は、各々独立して水素または置換または未置換C1−C20直鎖アルキルまたはC1−C20分岐アルキルであり、R14は、水素、置換または未置換アミン、シクロアルキル、ヘテロシクロアルキル、アリールおよびヘテロアリールからなる群から選択され、lは1〜5から選択される)
vii)置換または未置換カルボキシル
viii)−OSO3−Na+
からなる群から選択され;
kが0である場合、R11およびR12は不在であり、R13はカルボニル基に直接結合されることを条件として、kは0〜20から選択される)
により表わされる置換基またはその塩である)
により表わされる化合物であることを特徴とする請求項1に記載の組成物。
【請求項4】
式1の化合物が、下記式3および4:
【化5】
【化6】
(式中、R1、R2、R3、R4、R5、R6、R7およびR8は式1に定義されている通りである)
の化合物から選択されることを特徴とする請求項1に記載の組成物。
【請求項5】
R1およびR2が、各々水素であることを特徴とする請求項1に記載の組成物。
【請求項6】
式3の化合物が、下記式3a:
【化7】
(式中、R1、R2およびR4は各々水素である)
の化合物であるか、または下記式3b:
【化8】
(式中、R1、R2およびR6は各々水素である)
の化合物であることを特徴とする請求項4に記載の組成物。
【請求項7】
式4の化合物が、下記式4a:
【化9】
(式中、R1、R2、R5、R6、R7およびR8は各々水素である)
の化合物であることを特徴とする請求項4に記載の組成物。
【請求項8】
式2の化合物が、
式中のnが0であり、隣接する炭素原子がそれらの間の直接結合を介して環状構造を形成し、YがCである下記式2a:
【化10】
の化合物であるか、または
式中のnが1であり、YがCである下記式2b:
【化11】
の化合物
(両式中、R1、R2、R3、R4、R5、R6、R7、R8およびXは式1で定義された通りである)
ことを特徴とする請求項1に記載の組成物。
【請求項9】
式1または式2の化合物が、結晶構造内に含有されていることを特徴とする請求項1に記載の組成物。
【請求項10】
式1の化合物が、非晶構造内に含有されていることを特徴とする請求項1に記載の組成物。
【請求項11】
式1または式2の化合物が、微粒子の形で調合されていることを特徴とする請求項1に記載の組成物。
【請求項12】
微粒子形態への調合が、機械的製粉、噴霧乾燥、沈殿方法、均質化および超臨界微粉化からなる群から選択される粒子微粉化方法を用いることにより実施されることを特徴とする請求項11に記載の組成物。
【請求項13】
調合が、機械的製粉としてのジェットミルおよび/または噴霧乾燥を用いることによって実施されることを特徴とする請求項12に記載の組成物。
【請求項14】
微粒子の粒度が、5nm〜500μmであることを特徴とする請求項11に記載の組成物。
【請求項15】
腸標的調合物に調製されていることを特徴とする請求項1に記載の組成物。
【請求項16】
腸標的調合が、pH感受性ポリマーの添加によって実施されることを特徴とする請求項15に記載の組成物。
【請求項17】
腸標的調合が、腸特異的細菌酵素によって分解可能である生分解性のポリマーの添加によって実施されることを特徴とする請求項15に記載の組成物。
【請求項18】
腸標的調合が、腸特異的細菌酵素により分解可能である生分解性マトリクスの添加によって実施されることを特徴とする請求項15に記載の組成物。
【請求項19】
腸標的調合が、遅延時間の後の薬剤の経時的放出を用いた構成(「時間特異的遅延放出型調合物」)によって実施されることを特徴とする請求項15に記載の組成物。
【請求項20】
心臓病が、心肥大、心不全、うっ血性心不全、狭心症および心筋梗塞からなる群から選択されることを特徴とする請求項1に記載の組成物。
【請求項21】
請求項1に記載の式1の化合物を使用して心臓病の治療及び/または予防用の医薬品を調製するための方法。
【請求項22】
心臓病が、心肥大または心不全であることを特徴とする請求項1に記載の組成物。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
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【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【公表番号】特表2011−507948(P2011−507948A)
【公表日】平成23年3月10日(2011.3.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−540566(P2010−540566)
【出願日】平成20年12月18日(2008.12.18)
【国際出願番号】PCT/KR2008/007506
【国際公開番号】WO2009/084834
【国際公開日】平成21年7月9日(2009.7.9)
【出願人】(509010436)マゼンス インコーポレイテッド (11)
【出願人】(507287319)ケーティー アンド ジー コーポレーション (6)
【Fターム(参考)】
【公表日】平成23年3月10日(2011.3.10)
【国際特許分類】
【出願日】平成20年12月18日(2008.12.18)
【国際出願番号】PCT/KR2008/007506
【国際公開番号】WO2009/084834
【国際公開日】平成21年7月9日(2009.7.9)
【出願人】(509010436)マゼンス インコーポレイテッド (11)
【出願人】(507287319)ケーティー アンド ジー コーポレーション (6)
【Fターム(参考)】
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