説明

感光性樹脂塗布装置及びこれを用いた多層化フレキソ印刷版の製造方法

【課題】樹脂の塗布厚み精度、位置精度に優れた感光性樹脂塗布装置を提供する。
【解決手段】版面に感光性樹脂を塗布する感光性樹脂塗布装置であって、感光性樹脂を収容する樹脂バケット10と、樹脂バケット10の一辺に沿って固定され、版面と間隙を有して設けられている樹脂供給バー20とを有し、樹脂バケット10は、バケット本体11と、当該バケット本体の開口面側に配され、かつバケット本体に連結する部材に設けられた支持部30を基点として回動可能になされているシャッター12とにより構成されており、シャッター12の支持部30を基点とする回動により、シャッター12と樹脂供給バー20との接触・非接触状態が切り替えられるようになされており、樹脂供給バー20は、版面に対向し感光性樹脂を塗布する樹脂塗布部と、樹脂塗布部の両端部に位置し樹脂塗布部の断面径よりも径の大きい樹脂厚制御部とを具備している感光性樹脂塗布装置を提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、液状感光性樹脂を用いた多層化フレキソ印刷版製造工程の塗布工程に用いる感光性樹脂塗布装置、及びこれを用いた多層化フレキソ印刷版の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
感光性樹脂フレキソ印刷版は、活性光線照射によるラジカル重合反応によりレリーフ部分の感光性樹脂層を硬化させる露光工程を行った後、レリーフ部分以外の未硬化樹脂を所定の洗浄液(現像液)で溶解除去、あるいは膨潤分散させて機械的に除去することにより、硬化部分をレリーフとして版表面に出現させる現像工程によって得られる。このような感光性樹脂フレキソ印刷版は、微細レリーフの画像再現性に優れており、製版時間が短いこと、生産コストが低いことが特徴であり、フレキソ印刷の版材として広く使用されている。
【0003】
一般的な液状感光性樹脂によるフレキソ印刷版の製版方法としては、ガラス板の上にネガフィルム等の画像担体を配置し、必要に応じてカバーフィルムで覆い、密着させ、その上に液状感光性樹脂組成物を塗布し、さらに印刷版の支持体となる硬質フィルムをラミネートする過程で樹脂厚みの一次調整を行い、続いて上方より活性光線を照射可能なガラス板を支持体上部に密着させ、液状感光性樹脂組成物を挟んだ上下ガラス板の距離を一定の厚みとすることで最終的に目的のフレキソ印刷版の厚みを調整する成型工程を含むことが特徴である。
【0004】
さらに、液状感光性樹脂を用いた製版方法においては、異なる性能を有する複数の液状感光性樹脂組成物を、上述の成型工程の際に製版機上で所望の厚みに重ねて塗布することで、樹脂組成物の積層体を製造することも可能である。
例えば未硬化樹脂の光反応速度の違い、嫌気性の違い、紫外線吸収波長の領域の違いや、光反応硬化物の硬度の違い、表面自由エネルギーの違い等を利用して、印刷再現性に優れる多層化フレキソ印刷版が提案されている。
フレキソ印刷においては、太い文字やベタ画像(均一な色付けを目的とした画像領域)ではインクの擦れがないこと、細かい文字や網点画像では解像度が高く鮮明に画像形状が再現されることが印刷品質として重要視されており、このような対極する印刷品質の要求を満たすために、下記特許文献1においては、単一構造の印刷版と二層構造の印刷版を同時に製造可能とする、部分多層化印刷版の製造方法が開示されている。
【0005】
特許文献1の部分多層化印刷版の製造方法においては、画像担体及びカバーフィルム上の多層化構造を所望する画像領域について、その画像領域周囲にスペーサーを設置し、その中に液状感光性樹脂をたらした後、剛直な材料をドクターとして使用してスキージして厚みを一定にすることで一種目、例えば光反応硬化物の硬度が比較的高い液状感光性樹脂組成物を塗布し、次に、その上から通常の単層版を成型する方法によって多層部分の下層領域とその他の単層版領域を担う二種目、例えば光反応硬化物の硬度が比較的低い液状感光性樹脂組成物を画像領域全面に塗布することにより、部分多層化印刷版を得ている。
【0006】
また、特許文献2においては、部分多層化印刷版の製造において、多層版上層部分を成す液状感光性樹脂を一定厚みの帯状に塗布する工程を簡便にし、目的とする画像領域に対して液状感光性樹脂を過不足無く抽出可能とする装置として、ボトムオープン方式の樹脂バケットとドクタースキージ塗布様式をコンパクトなサイズで一体化させた四輪走行型の携行可能な簡易樹脂塗布装置が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開昭62−288847号公報
【特許文献2】実開平4−6055号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかし、画像領域を選択した液状感光性樹脂の塗布方法を含む部分多層化フレキソ印刷版の製造方法においては、所望の塗布領域が比較的広い場合や、ある程度一定の範囲で存在する場合には、上述した特許文献1及び特許文献2に記載されている方法も有効な手段であると言えるが、塗布領域が狭い場合や、塗布領域の形状が複雑な場合には、塗布を必要としない画像領域にはみ出さないようにすることは困難である。
【0009】
特許文献1には塗布を必要としない画像領域を、予め保護フィルム等でマスキングすることや、作業後に不必要な樹脂をウエス等で拭い去ることを示されているが、何れも非常に煩雑な作業であり、また生産性の点からも実用上の観点からは望ましくない。
【0010】
他方、微小領域や複雑な領域形状への塗布を実現するために、特許文献2に開示されている簡易樹脂塗布装置においては、塗布幅を狭くした仕様が開示されているが、この仕様は比較的広い領域を塗布するには帯状塗布を隣接して繰り返すことが必要となるが、特許文献2の仕様においては、スペーサーの役目を担っている車輪の存在により、実施することは困難であると言える。
【0011】
従って、部分多層化印刷版を製造する方法においては、さらに広くは、画像に応じて組成物の異なる液状感光性樹脂を印刷版最表面層に配置した感光性樹脂多層化フレキソ印刷版の製造方法においては、任意の画像領域に対して自由度を高く、感光性樹脂を塗布する技術が望まれている。
【0012】
そこで本発明においては、印刷版最表面層部分に樹脂組成物が配置された多層化フレキソ印刷版を製造するために、形成する画像の領域や、画像の特性に応じて選択された液状感光性樹脂を塗布する際に生じる、作業性、作業時間、不要材の問題を解消し、厚み精度、位置精度に優れた塗布が可能な感光性樹脂塗布装置、及びこれを用いた多層化フレキソ印刷版の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明者らは、上述したような従来技術における課題の解決を図るべく、フレキソ印刷版の製造に適用する感光性樹脂塗布装置について鋭意研究した結果、樹脂バケットと樹脂バケットの一辺に沿って固定されている樹脂供給バーとを具備し、樹脂バケットを簡易な操作により開閉可能とし、前記樹脂供給バーにおいて塗布厚みを制御可能な構成としたことにより上述した課題を解決し得ることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0014】
請求項1の発明においては、版面に感光性樹脂を塗布する感光性樹脂塗布装置であって、 感光性樹脂を収容する樹脂バケットと、前記樹脂バケットの一辺に沿って固定され、前記版面と間隙を有して設けられている樹脂供給バーとを有し、前記樹脂バケットは、バケット本体と、当該バケット本体の開口面側に配され、かつバケット本体に連結する部材に設けられた支持部を基点として回動可能になされているシャッターとにより構成されており、前記シャッターの前記支持部を基点とする回動により、当該シャッターと前記樹脂供給バーとの接触・非接触状態が切り替えられるようになされており、前記樹脂供給バーは、前記版面に対向し感光性樹脂を塗布する樹脂塗布部と、当該樹脂塗布部の両端部に位置し当該樹脂塗布部の断面径よりも径の大きい樹脂厚制御部とを具備している感光性樹脂塗布装置を提供する。
【0015】
請求項2の発明においては、前記支持部は、前記シャッターに固定された回動用軸と、前記シャッターが前記樹脂供給バーと接触する方向に設けられたバネとにより構成されている請求項1に記載の感光性樹脂塗布装置を提供する。
【0016】
請求項3の発明においては、前記樹脂バケットの前記感光性樹脂の収容領域を区切るダム材を具備する請求項1又は2に記載の感光性樹脂塗布装置を提供する。
【0017】
請求項4の発明においては、前記バケット本体に、前記シャッターの回動終端となるシャッターストッパーが設けられている請求項1乃至3のいずれか一項に記載の感光性樹脂塗布装置を提供する。
【0018】
請求項5の発明においては、前記樹脂供給バーが前記版面に対向している状態で前記樹脂バケットを直立に支持可能な安定部材を具備する請求項1乃至4のいずれか一項に記載の感光性樹脂塗布装置を提供する。
【0019】
請求項6の発明においては、前記樹脂厚制御部は、前記樹脂供給バーから着脱自在であり、所望の塗布厚に応じた径を有している請求項1乃至5のいずれか一項に記載の感光性樹脂塗布装置を提供する。
【0020】
請求項7の発明においては、積層塗布した複数の感光性樹脂を、活性光線を透過可能な硬質板間に挟んで成型する工程を有する、感光性樹脂を用いた多層化フレキソ印刷版の製造方法であって、請求項1乃至6のいずれか一項に記載の感光性樹脂塗布装置を用い、前記シャッターを回動させることにより、前記シャッターと前記樹脂供給バーとの接触・非接触状態の切り替えを行い、所望の位置に感光性樹脂を塗布する工程を含む多層化フレキソ印刷版の製造方法を提供する。
【発明の効果】
【0021】
本発明によれば、形成する画像領域や、画像の特性に応じて選択された液状感光性樹脂を塗布する際に生じる、作業性、作業時間、不要材の問題を解消し、厚み精度、位置精度に優れた塗布が可能な感光性樹脂塗布装置及び多層化フレキソ印刷版の製造方法が提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】本実施形態における感光性樹脂塗布装置の概略側面図を示す。
【図2】本実施形態における感光性樹脂塗布装置の概略正面図を示す。
【図3】(a)は樹脂供給バーの側面図を示す。(b)は樹脂供給バーの正面図を示す。
【図4】ダム材の概略構成図を示す。
【図5】本実施形態の多層化フレキソ印刷版の製造方法の一工程における感光性樹脂の塗布工程を示す。
【図6】本実施形態の多層化フレキソ印刷版の製造方法の一工程における感光性樹脂の塗布工程を示す。
【図7】本実施形態における感光性樹脂塗布装置を静置した状態の概略側面図を示す。
【図8】本実施形態の多層化フレキソ印刷版の製造方法の一工程である版上に感光性樹脂を積層塗布した状態を示す。
【図9】比較例において用いた感光性樹脂を塗布する塗布ボトルの概略側面図を示す。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、本発明を実施するための最良の形態(以下、本実施形態)について、図を参照して詳細に説明する。
なお、図面中、同一要素には同一符号を付すこととし、重複する説明は省略する。また、上下左右等の位置関係は、特に断らない限り、図面に示す位置関係に基づくものとする。さらに、図面の寸法比率は図示の比率に限定されるものではない。
【0024】
〔感光性樹脂塗布装置〕
本実施形態における感光性樹脂塗布装置は、版面に液状感光性樹脂を塗布するものである。
図1に本実施形態における感光性樹脂塗布装置の概略側面図を示し、図2に概略正面図を示す。
感光性樹脂塗布装置100は、塗布工程において液状感光性樹脂を収容するための樹脂バケット10と、樹脂バケット10の一辺に沿って固定され、版面に感光性樹脂を塗布する際に、版面と所定の間隙を介して設けられている樹脂供給バー20とを具備している。
【0025】
樹脂バケット10は一主面側において開口を有する箱形状であり、液状感光性樹脂を収容可能なバケット本体11と、このバケット本体11の開口側に配されており、当該開口の蓋体として機能するシャッター12とにより構成されている。
【0026】
シャッター12は、バケット本体11を背面及び上面部において安定に保持する保持部材14の両側面に設けられている支持部材15を貫通して設けられている支持部30を基点として回動可能になされている。
シャッター12が、前記支持部30を基点として回動することにより、シャッター12とバケット本体11の下部に設けられている樹脂供給バー20とは、樹脂供給口40において、接触・非接触状態の切り替えが行われるようになされている。
【0027】
図3に、樹脂供給バー20の概略構成図を示す。
なお、図3(a)は側面図、図3(b)は正面図を示す。
樹脂供給バー20は、被塗布体である版面に対向し、感光性樹脂を塗布する樹脂塗布部21と、樹脂塗布部21の両端部に位置し、樹脂塗布部21の断面径よりも径の大きい樹脂厚制御部22とを具備している。図3(a)の破線部は、樹脂塗布部21の断面を表している。
樹脂供給バー20は、バケット本体11の両側面に位置する支持部材15に設けられている連結部材16を介して樹脂バケット11の一辺に沿って固定されている。
【0028】
樹脂厚制御部22は、樹脂供給バー20から着脱自在なものとしてもよい。樹脂厚制御部22の径を適宜選択することにより、感光性樹脂の塗布厚を制御できる。
【0029】
シャッター12が回動する構成について一例を説明する。
支持部30は、図2に示すように支持部材15を両側面間に亘って貫通する回動用軸31と、シャッター12の下端部が、樹脂供給バー20と接触する方向(図1中、矢印A方向)に設けられているバネ(図示せず)とにより構成されているものとすることができる。
すなわち、感光性樹脂を塗布しないときは、バネにより、シャッター12の樹脂供給口40には図1中、矢印A方向に力が加わっており、シャッター12が樹脂供給バー20と接触し、感光性樹脂は密閉された状態となっている。
一方、シャッター12が回動し、シャッター12の樹脂供給口40に矢印B方向の力が加わると、シャッター12と樹脂供給バー20とが非接触の状態となり、樹脂供給口40が開放された状態となる。
【0030】
バケット本体11の内部には、感光性樹脂の収容領域を区切る所定のダム材を設けてもよい。
図4にダム材の一例の概略図を示す。
図4に示すダム材50は、シャッター12の内側面に沿って移動可能となされている仕切板51と、バケット本体11の内壁面に沿って移動可能となされている仕切板52とを具備している。
仕切板51と仕切板52とを前記回動用軸31が貫通する構成とすることにより、これらを安定して移動させることができる。
仕切板52の全部又は一部を、例えば発泡シリコン等の弾性体53により形成することにより、仕切板52とバケット本体11の内壁とを密着させることができ、液状感光性樹脂の収納領域を確実に区切ることができる。
前記仕切板51と仕切板52とを動かし、感光性樹脂の収容領域を限定することにより、感光性樹脂の塗布幅を制御できる。
【0031】
上述したように、シャッター12は支持部30を基点として回動するようになされているが、感光性樹脂塗布装置100は、図1に示すように、シャッター12の回動終端となるシャッターストッパー60を設けた構成としてもよい。
シャッターストッパー60は、例えばバケット本体11の両側面部にシャッター12側突き出た部材により構成することができる。シャッター12が回動していくとシャッターストッパー60に衝突し、そこが回動終端となる。
【0032】
本実施形態の感光性樹脂塗布装置100においては、図1に示すように、前記樹脂供給バー20が版面に対向した状態で、樹脂バケット10を直立可能に支持する安定部材70を具備する構成としてもよい。これにより、塗布工程において作業性の効率化が図られる。
【0033】
〔フレキソ印刷版の製造方法〕
本実施形態の感光性樹脂塗布装置は、本発明は、液状の感光性樹脂を用いてフレキソ印刷版を製造する場合に有効に用いられ、特に、印刷版表面層を成す感光性樹脂層が複数種類で構成された、いわゆる多層化フレキソ印刷版を製造する場合に高い効果を発揮するものである。
【0034】
先ず、感光性樹脂及びこれを用いて作製されるフレキソ印刷版について説明する。
フレキソ印刷版に製造に適用する感光性樹脂としては、特に限定されるものではなく、公知の材料を用いることができる。
例えば、重合性二重結合を分子中少なくとも1個以上有する不飽和プレポリマーと光重合開始剤、重合性二重結合を有するエチレン性不飽和単量体を含む感光性樹脂が挙げられる。不飽和プレポリマーとしては、例えば不飽和ポリエステル、不飽和ポリウレタン、不飽和ポリアミド、不飽和ポリアクリレート樹脂、不飽和ポリメタクリレート樹脂及びこれらの各種変性物等を少なくとも1種類以上用いたものが挙げられる、具体的には、特公昭51−37320号公報、特開平01−245245号公報、特開平04−095959号公報、特開平3−157657号公報、特開平07−295218号公報、特公平02−010165号公報、特公昭55−034930号公報、特開平10−153858号公報に記載されている感光性樹脂が挙げられる。
【0035】
感光性樹脂は、成型及び露光工程の温度領域で流動性を有しているものであることが好ましく、1〜200Pa・sの範囲に樹脂粘度を有しているものであることが好ましい。
1Pa・sより高い樹脂粘度であると、多層化フレキソ印刷版を成型する際に各樹脂層の厚みを一定にすることができ、200Pa・sより低い樹脂粘度では多層構造を成型した後に全体版厚を一定にするための待ち時間を低減化できる。
より好ましい粘度範囲は10〜150Pa・sであり、多層化フレキソ印刷版に用いる複数の樹脂組成の粘度は、この範囲であることが好ましい。
【0036】
多層化フレキソ印刷版は、2種類以上の異なる組成の液状感光性樹脂の硬化物を印刷版表面層として形成することで得られるものである。
異なる組成の液状感光性樹脂とは、液状感光性樹脂の必須成分である重合性二重結合を分子中少なくとも1個以上有するプレポリマー、光重合開始剤、重合性二重結合を有するエチレン性不飽和単量体について、化学構造の異なる原料を使用した組成を有するもの、あるいは配合割合が異なる組成を有するもの、さらには液状感光性樹脂組成物に適宜添加することが可能な熱重合安定剤、紫外線吸収剤、光安定剤、連鎖移動剤、染料、顔料、滑剤、無機充填剤、界面活性剤、可塑剤、加水分解抑制剤等についても異なる化合物を使用したものである。
【0037】
多層化フレキソ印刷版において適用する異種の感光性樹脂は、結果として物理的特性が異なっていればよい。例えば、成型及び露光工程においては光重合速度、光硬化物としては硬度、反発弾性、各種溶媒に対する膨潤性や濡れ性、一定の期間保存した時の性状としては機械物性の安定性、滑剤の析出性等の特性が挙げられる。
例えば、光重合速度、光硬化物硬度、各種溶媒に対する濡れ性の異なる複数の感光性樹脂を対応する画像領域に応じて選択的に配置することにより、所望の画像が印刷できる印刷版が得られる。
【0038】
液状感光性樹脂による多層化フレキソ印刷版の製造方法は、感光性樹脂塗布工程、成型工程、露光工程、現像工程、後露光工程を行うことを含む製版方法が一般的である。
その他、最終的に得る印刷版の目的に応じて、例えば乾燥工程、表面処理工程等を適宜追加して行う。
本実施形態における多層化フレキソ印刷版の製造方法は、前記感光性樹脂塗布工程において所望の位置、膜厚に形成可能な、上述した本実施形態の感光性樹脂塗布装置を用いることに特徴を有しており、その他の工程については、何ら制限されるものではなく、従来公知の手段を適用できる。
【0039】
本実施形態における多層化フレキソ印刷版の製造方法の一例について、図を参照し、工程別に説明する。
(感光性樹脂の塗布工程)
活性光線を透過する硬質板(例えばガラス板)上に、図8に示すように、所定のパターンを有するネガフィルム102を置き、カバーフィルム103によりカバーし、その後、全画像領域の一部である所定の画像領域に、本実施形態における塗布装置を用いて、感光性樹脂を塗布する(図8中、表層部Aの塗布工程と称する。)。
次に、 画像領域全体に、前記表層部Aの塗布工程で使用した感光性樹脂とは異なる組成の感光性樹脂を、保護フィルム上に、前記表層部Aの塗布工程で塗布した感光性樹脂の厚み以上の所定の厚みとなるように塗布する(図8中、表層部Bの塗布工程と称する。)。
本実施形態の感光性樹脂塗布装置は、表層部A、表層部Bのいずれの樹脂塗布工程にも適用できるが、フレキソ印刷版を作製する場合のような、印刷版面上の特定の部分に高い厚み精度による塗布を行うことが要求されるような場合には、特に表層部Aの塗布工程に適用することが有効である。
【0040】
上記感光性樹脂の塗布工程について、本実施形態における塗布装置を用いて行う操作を、図を参照して説明する。
図5に示すように、感光性樹脂の被塗布体として、下部硬質板(例えばガラス板)101上に、ネガフィルム102、カバーフィルム103を順次積層したものを用意する。
図1に示す樹脂バケット10には、所定の液状感光性樹脂を収容しておく。
なお、このとき、感光性樹脂の塗布幅に応じて、樹脂バケット10の内部のダム材50(図4)により、感光性樹脂の収容領域を区切っておく。
【0041】
感光性樹脂塗布装置100を、版面上の所望の塗布開始位置にセットする
このとき、シャッター12は樹脂供給バー20と接触しており、感光性樹脂が樹脂バケット10に密閉された状態となっている。
続いて図6に示すようにシャッター12を回動させ、シャッター12の樹脂供給口(図1中40)において矢印B方向の力が加わるようにし、シャッター12と樹脂供給バー20とが非接触の状態とする。
感光性樹脂は樹脂バケットから樹脂供給バー20に供給され、図3に示す樹脂塗布部21によって感光性樹脂の塗布が行われる。なおこのとき、予め樹脂厚制御部22の径を所望の樹脂厚に応じて選択しておき、シャッター12の回動角度を調節することにより、感光性樹脂の供給量を制御し、所望の樹脂厚に塗布することができる。
【0042】
上記のようにして塗布工程を終了したら、感光性樹脂塗布装置は、図7に示すように、保持部材14を下にして安定に静置できるようになされている。
このとき、バケット本体11の底部に、不織布やスポンジ等の吸収部材80を設けておくことにより、液状感光性樹脂をここで吸収させることができ、当該装置や周囲の汚染を防止できる。
【0043】
(成型工程)
感光性樹脂の積層物の全体厚みを所望の一定版厚となるように、所定のスペーサーを介して活性光線透過性の硬質板により圧縮して厚みを規制する。
例えば段ボール印刷に用いる印刷版のように、厚みが4mm以上の版を作製する場合には、印刷時の印圧に対するレリーフの強度を補うための適切なレリーフ深度を実現するため、レリーフの土台となるシェルフ層を設けることが好ましい。
【0044】
(露光工程)
上記成型工程においては、予め感光性樹脂層の上方から所定のカバーフィルムを介してマスクネガフィルムを配置しておく。
続いて、上部硬質板を通じて、上部光源から活性光線を照射し、目的とする感光性樹脂凸版のレリーフ部分の基部を形成させるマスキング露光を行う。
次に、レリーフ部分の画像を形成させるために、下部硬質板上のネガフィルムを介して、下部光源からの活性光線を照射してレリーフ露光を行い、成形及び露光工程を終了する。
なお、多層形成されている感光性樹脂のそれぞれにおいて所望のパターン形成を行うため、感光性樹脂に対応した露光量や露光時間を選択して行う。
【0045】
(現像工程、後露光工程)
上述した露光工程後、上部硬質板及びマスクネガフィルムを除去し、上部カバーフィルム/感光性樹脂/カバーフィルムからなる積層体を得る。その後、未硬化樹脂を所定の現像剤により除去し、後露光、乾燥処理を行うことにより目的とする印刷版が得られる。
【0046】
上述した(感光性樹脂の塗布工程)においては概略的に説明したが、複雑な多層化構成の印刷版を製造する場合においては、所望の画像の特徴に合わせて、複数の異なる液状感光性樹脂を用いて、表層部Aの塗布工程を行うことや、表層部Bの塗布工程後に、更に画像領域全体に同様の操作によって、異なる液状感光性樹脂を塗布して積層させることも好ましい実施態様である。
上述した例においては、表層部Aの塗布工程の樹脂厚みは、約1mm以下とすることが好ましい。
表層部Aの塗布工程の樹脂厚みが約1mm以下の場合、次工程で行われる表層部Bの塗布工程において、表層部Aとの段差部分における空気の混入を効果的に防止できる。よって、多層化樹脂間の組成の違いによる効果が得られる範囲で、表層部Aは薄い厚みに塗布することが好ましく、0.01〜0.7mmの範囲がより好ましく、0.05〜0.5mmの範囲がさらに好ましい。
【0047】
上述した表層部Bの塗布工程の樹脂厚みは、表層部Aの塗布工程の樹脂厚みと同等かそれ以上の厚さとすることが好ましい。
表層部Bの塗布工程の樹脂厚みが、表層部Aの塗布工程の樹脂厚みより厚い場合、表層部Bの塗布工程の際に、表層部Aとして塗布した樹脂が同時に引き延ばされて塗布領域が広がることなく、表層部Aの塗布を所望しない領域に樹脂が付着することを効果的に回避できる。
表層部Bの塗布工程の樹脂厚みは、表層部Aの塗布工程の樹脂厚みに対して、0.05mm以上は厚くすることが好ましい。
表層部Bの塗布工程の樹脂厚みの上限は、特に制限するものではないが、フレキソ印刷に用いられる印刷版の一般的版厚を考慮すれば、10mm以下の範囲で設定されることが好ましい。
表層部Bの塗布工程として、2種類の異なる液状感光性樹脂を積層塗布する場合、例えば、印刷版表面層から光硬化物硬度の高い液状感光性樹脂を順次積層して、印刷版の厚み方向に硬度勾配を持たせた多層化フレキソ印刷版の成型を行う場合には、最初の表層部Bの塗布工程の樹脂厚みが表層部Aの塗布工程の樹脂厚みより厚くし、次いで行う表層部Bの塗布工程の樹脂厚みよりも薄くすることが好ましく、印刷版のレリーフ深さの中でこの硬度勾配が実現できる厚み調整を行うことがより好ましい。
【0048】
例えば、段ボール印刷用途等で、一般的な全体厚み2.5〜8.0mmの範囲で印刷版を作製する場合、表層部Aの塗布工程の樹脂厚みを0.05〜0.5mmの範囲とし、表層部Bの塗布工程により画像領域全体が厚み2.5〜8.0mmの範囲となるように調整することが好ましい。さらには、表層部Aの塗布工程の樹脂厚みを0.05〜0.5mmの範囲とし、一回目の表層部Bの塗布工程により画像領域全体が厚み0.3〜1.0mmの範囲となるように調整し、その上から二回目の表層部Bの塗布工程により画像領域全体が厚み2.5〜8.0mmの範囲となるように調整することがより好ましい。
【実施例】
【0049】
以下、具体的な実施例と比較例を挙げて本発明について詳細に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0050】
下記〔実施例〕及び〔比較例〕においては、幅220mm×長さ315mmのガラス版面上に液状感光性樹脂の塗布を行う。
〔液状感光性樹脂の製造例〕
1000gのポリ(3−メチル−1,5−ペンタンジオールアジペート)ジオール(水酸基価:37KOHmg/g)と1000gのポリオキシエチレン(EO)−オキシプロピレン(PO)ブロック共重合ジオール(水酸基価:44KOHmg/g、EO含量30質量%)との混合物に対して、45ppmのBTL(ジラウリン酸ジブチルすず(IV)(分子量632))を加え、40℃で均一になるまで攪拌した。
次に、189.5gのTDI(2,6−トリレンジイソシアネート(分子量174))を加え、さらに攪拌し、均一となったことを確認した後、80℃まで昇温し、約4〜5時間反応させ、両末端にイソシアネート基を有するプレポリマー前駆体とした。
さらに、462.5gのPPMA(ポリプロピレングリコールモノメタクリレート(分子量380))を加えて、約2時間反応させた後、サンプルを一部取り出して、IR分光測定器によりイソシアネート基消失を確認し、GPC(ゲルパーミエーション・クロマトグラフィー)により求めた数平均分子量が8500のポリウレタン系不飽和プレポリマーを得た。
得られた不飽和プレポリマー80質量部、ポリプロピレン(平均重合度n=5)グリコールモノメタクリレート8質量部、ジエチレングリコール−2−エチルヘキシルエーテルアクリレート8質量部、トリメチロールプロパンメタクリレート4.5質量部、2,2−ジメトキシ−2−フェニルアセトフェノン0.25質量部、ベンゾフェノン0.2質量部、2,6−ジ−t−ブチル−p−クレゾール1質量部を調合し、60℃で約2時間攪拌混合を行い、液状感光性樹脂を得た。
【0051】
〔実施例〕
図1に示す感光性樹脂塗布装置を用いて、上記により製造した液状感光性樹脂の塗布を実施した。
樹脂厚制御部22の直径は8.8mm、樹脂塗布部21の直径は8.0mmとする。
樹脂塗布部21の長さは、345mmであり、一度に塗布できる実効的な幅は250mmであり、上記ガラス版面の幅以上の長さを有している。
版面上に液状感光性樹脂を塗布し、5分間放置し、その後紫外線照射を行い、光硬化し、感光性樹脂膜を得た。
紫外線照射装置としては、旭化成ケミカルズ社製のAPR製版装置ALF−213を用いた。紫外線照射条件は、750J/cm2とした。
その後、感光性樹脂膜を、横10mm、縦10mmの間隔で升目状(横21個×縦31個=651個の領域)に区切り、各々の領域における平均膜厚を測定し、版面全体の膜厚ムラを観察した。
感光性樹脂膜の膜厚測定装置としては、ミツトヨ社製のデジタル厚み計「ID−F125(商標名)」を用いた。
感光性樹脂膜の最大膜厚は0.26mmであり最小膜厚は0.17mmであった。
本実施例においては、極めて膜厚均一性に優れた感光性樹脂膜が短時間でコート可能であった。
【0052】
〔比較例〕
図9に、比較例で使用した塗布用ボトル200の概略図を示す。
塗布用ボトル200は、ボトル部214とノズル部213により構成されており、これらが接合部215により接続された構成を有している。
ボトル部214は、全体形状が円筒状であり、低密度ポリエチレンを材料としたブロー成形により厚み1mm、内容積770mLの中空容器であり、胴体部分を手で握ると容易に変形し、握力を弱めると元の形状に戻ることを確認した。
ノズル部213は、ボトル部214から液状感光性樹脂を送り込む部位である液状感光性樹脂流入口216が円筒状であり、版面に液状感光性樹脂を塗布する抽出口217は厚み方向が狭く幅方向が広い刷毛形状となっている。
抽出口217の先端部は、側面から見たとき角度30°の斜面構造となっており、切っ先は両端部が凹状となる底辺3mm、高さ1.5mmの二等辺三角形状の連続による切り欠け構造を有しており、液状感光性樹脂の抽出口217の横幅(塗布幅)は33mmとなっている。
図9に示した塗布用ボトル200に液状感光性樹脂を入れ、手で握る強さを調節しながら手動で版面上に液状感光性樹脂を塗布した。その後5分間放置し、紫外線照射を行い、光硬化し、感光性樹脂膜を得た。
紫外線照射装置としては、旭化成ケミカルズ社製のAPR製版装置ALF−213を用いた。紫外線照射条件は、750J/cm2とした。
上記のように作製した感光性樹脂膜を、横10mm、縦10mmの間隔で升目状の領域(横21個×縦31個=651個の領域)に区切り、各々の領域における平均膜厚を測定し、版面全体の膜厚ムラを観察した。
感光性樹脂膜の膜厚測定装置としては、ミツトヨ社製のデジタル厚み計「ID−F125(商標名)」を用いた。
感光性樹脂膜の最大膜厚は0.06mmであり最小膜厚は0.79mmであった。
この比較例においては、幅方向で6列に区切り塗布を行う必要があったため、上述した実施例に比較して塗布時間が3倍程度かかり作業効率が劣るものとなった。また、膜厚均一性についても実施例に劣った結果となった。
【産業上の利用可能性】
【0053】
本発明の感光性樹脂塗布装置及びこれを用いた印刷版の製造方法は、印刷版最表面部分に、異なる樹脂組成物が選択的に配置された感光性樹脂多層化フレキソ印刷版の製造技術分野において産業上の利用可能性がある。
【符号の説明】
【0054】
10 樹脂バケット
11 バケット本体
12 シャッター
14 保持部材
15 支持部材
16 連結部材
20 樹脂供給バー
21 樹脂塗布部
22 樹脂厚制御部
30 支持部
31 回動用軸
40 樹脂供給口
50 ダム材
51 仕切板
52 仕切板
53 弾性体
60 シャッターストッパー
100 感光性樹脂塗布装置
101 下部硬質板
102 ネガフィルム
103 カバーフィルム
200 塗布用ボトル
213 ノズル部
214 ボトル部
215 接合部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
版面に感光性樹脂を塗布する感光性樹脂塗布装置であって、
感光性樹脂を収容する樹脂バケットと、
前記樹脂バケットの一辺に沿って固定され、前記版面と間隙を有して設けられている樹脂供給バーと、
を有し、
前記樹脂バケットは、バケット本体と、当該バケット本体の開口面側に配され、かつバケット本体に連結する部材に設けられた支持部を基点として回動可能になされているシャッターとにより構成されており、
前記シャッターの前記支持部を基点とする回動により、当該シャッターと前記樹脂供給バーとの接触・非接触状態が切り替えられるようになされており、
前記樹脂供給バーは、前記版面に対向し感光性樹脂を塗布する樹脂塗布部と、当該樹脂塗布部の両端部に位置し当該樹脂塗布部の断面径よりも径の大きい樹脂厚制御部とを具備している感光性樹脂塗布装置。
【請求項2】
前記支持部は、前記シャッターに固定された回動用軸と、前記シャッターが前記樹脂供給バーと接触する方向に設けられたバネとにより構成されている請求項1に記載の感光性樹脂塗布装置。
【請求項3】
前記樹脂バケットの前記感光性樹脂の収容領域を区切るダム材を具備する請求項1又は2に記載の感光性樹脂塗布装置。
【請求項4】
前記バケット本体に、前記シャッターの回動終端となるシャッターストッパーが設けられている請求項1乃至3のいずれか一項に記載の感光性樹脂塗布装置。
【請求項5】
前記樹脂供給バーが前記版面に対向している状態で前記樹脂バケットを直立に支持可能な安定部材を具備する請求項1乃至4のいずれか一項に記載の感光性樹脂塗布装置。
【請求項6】
前記樹脂厚制御部は、前記樹脂供給バーから着脱自在であり、所望の塗布厚に応じた径を有している請求項1乃至5のいずれか一項に記載の感光性樹脂塗布装置。
【請求項7】
積層塗布した複数の感光性樹脂を、活性光線を透過可能な硬質板間に挟んで成型する工程を有する、感光性樹脂を用いた多層化フレキソ印刷版の製造方法であって、
請求項1乃至6のいずれか一項に記載の感光性樹脂塗布装置を用い、前記シャッターを回動させることにより、前記シャッターと前記樹脂供給バーとの接触・非接触状態の切り替えを行い、
所望の位置に感光性樹脂を塗布する工程を含む多層化フレキソ印刷版の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2010−169936(P2010−169936A)
【公開日】平成22年8月5日(2010.8.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−12932(P2009−12932)
【出願日】平成21年1月23日(2009.1.23)
【出願人】(309002329)旭化成イーマテリアルズ株式会社 (771)
【Fターム(参考)】