説明

懸架型デバイスおよびその製造方法

【課題】デバイス構造が、犠牲材料に対してエッチング選択性の低い材料を組み込むことができる薄膜バルク音響共振器及びその製造方法を提供する。
【解決手段】広く浅い第1の部分および狭く深い第2の部分を有する空洞を画定している基板を設ける。空洞の第1の部分は、基板の前面から基板内へ延びており、犠牲材料で充填されている。第2の部分は、第1の部分から基板内へより深く延びている。デバイス構造を、犠牲材料上に製造する。リリースエッチャントを、基板の背面から空洞の第2の部分を介して導入し、デバイス構造の下に位置する犠牲材料を空洞の第1の部分から除去する。基板の背面から空洞の第2の部分を介してリリースエッチャントを導入することによって、デバイス構造の下に位置する犠牲材料を空洞の第1の部分から除去することで、デバイス構造がリリースエッチャントに曝されることなくリリースエッチングを行うことができる。

【発明の詳細な説明】
【背景技術】
【0001】
1つ以上の薄膜バルク音響共振器(film bulk acoustic resonator、FBAR)を組み込んでいるFBARデバイスは、かつてないほど多様性が拡大している電子製品、特に無線製品の一部をなしている。例えば、最近の携帯電話は、各帯域通過フィルタがラダー型回路を含んでいるデュープレクサを組み込んでおり、そのラダー型回路の各素子がFBARである。FBARを組み込んでいるデュープレクサは、本開示の譲受人に譲渡された、Duplexer Incorporating Thin-film Bulk Acoustic Resonators (FBARs)と題したBradleyらによる米国特許第6,262,637号明細書に記載されており、その内容は参照により本願に組み込まれる。このようなデュープレクサは、送信帯域通過フィルタおよび受信帯域通過フィルタからなっている。送信帯域通過フィルタは、送信機の出力とアンテナとの間に接続されている。受信通過帯域フィルタは、アンテナと受信機の入力との間に90°の位相シフタと直列に接続されている。送信帯域通過フィルタおよび受信帯域通過フィルタの通過帯域の中心周波数は、互いにずれている。FBARをベースとしたラダー型フィルタは、別の用途で使用することもできる。
【0002】
FBARは、対向する平面電極およびこれらの電極間に設けられている圧電素子からなる。FBARは、基板で画定された空洞上に懸架されており、これにより、FBARが、電極間に与えられる電気信号に応答して機械的に共振することができる。
【0003】
本開示の譲受人に譲渡された、Larson IIIらによる米国特許出願第10/699,289号明細書は、減結合された積層型バルク音響共振器(DSBAR)を組み込んでいる帯域通過フィルタを開示しており、その内容は参照により本発明に組み込まれる。DSBARは、下部FBAR、下部FBAR上に積層された上部FBAR、およびFBAR間の音響減結合器からなっている。各FBARは上述のように構成されている。電気的な入力信号が、FBARの一方の電極間に与えられ、もう一方のFBARは、帯域通過濾過された電気的な出力信号を、その電極間で提供する。
【0004】
本開示の譲渡人に譲渡された、Larson IIIらによる米国特許出願第10/699,481号明細書は、2つの減結合された積層型バルク音響共振器(DSBAR)からなるフィルム音響結合変換器(FACT)を開示しており、その内容は参照により本発明に組み込まれる。第1の電気回路は、DSBARの下部FBARを直列もしくは並列に相互接続する。第2の電気回路は、DSBARの上部FBARを直列もしくは並列に相互接続する。これらの電気回路の構成に応じて、1:1または1:4のインピーダンス変換比を有する平衡または非平衡のFACTの態様を得ることができる。このようなFACTにより、第1の電気回路と第2の電気回路との間でガルバニック絶縁が得られる。
【0005】
FBAR、ならびに1つ以上のFBARを組み込んでいるデバイス、例えばラダー型フィルタ、DSBAR、FACTおよび帯域通過フィルタを、本開示では概括的に「FBARデバイス」と呼ぶ。
【0006】
大抵のFBARデバイスは、中心周波数によって特徴付けられる帯域通過特性を有する周波数応答を有する。デバイスを構成するFBARは、共振周波数によって特徴付けられる周波数応答を有する。圧電素子の材料が窒化アルミニウム(AlN)でありかつ電極の材料がモリブデン(Mo)である現行のFBARデバイスの実際の態様では、各FBARの周波数応答は、約−20ppm/℃〜約−35ppm/℃の範囲の温度係数を有している。共振周波数の温度係数のために、FBARを組み込んでいるFBARデバイスがその通過帯域の仕様に見合うことのできる温度範囲が減少する。さらに、FBARデバイスが全動作温度範囲にわたり通過帯域の仕様に確実に合わせられるように、FBARデバイスが試験される通過帯域の限界は、通過帯域の仕様内に入っていなくてはならないので、共振周波数の温度係数のために製造歩留まりが低下する。
【0007】
本開示の譲受人に譲渡されたLarson IIIらによる米国特許出願第10/977,398号明細書は、FBARデバイスの通過帯域の温度係数を効果的に低下させる温度補償素子を組み込んでいるFBARデバイスを開示しており、その内容は参照により本発明に組み込まれる。しかし、前記出願に開示の温度補償素子は、FBARデバイスを製造するために典型的に用いられる半導体製造ベースのプロセスで通常は使用されない材料からなっている。温度補償素子を形成する独特のプロセスを使用する必要があるので、経済的に不利である。
【0008】
Lakinらによる、Temperature Compensated Bulk Acoustic Thin Film Resonator, 2000 IEE ULTRASONIC SYMPOSIUM, 855〜858には、二酸化シリコン(SiO)が20℃〜80℃の温度範囲の正の温度係数を有していることを開示している。SiOの温度係数は正であり、FBARで一般的に使用されている材料である窒化アルミニウムおよびモリブデンの温度係数とは符号が逆である。SiOの温度補償素子により、FBARの共振周波数の温度係数は、温度補償を行わないFBARの約半分に低下する。温度補償素子の材料としてSiOを使用することは、このSiOの堆積およびパターン形成が、確立された標準的な半導体製造プロセスであるというさらなる理由からも、魅力的である。
【0009】
Larkinらは、SMR型共振器(固体装着型共振器、solidly-mounted resonator)におけるSiOの使用を開示している。しかし、基板に画定された浅い空洞上に懸架されている1つまたは複数のFBARを含む懸架されたFBARスタック懸架型FBARデバイスは、通常、SMR型共振器より良好な性能を有している。懸架型FBARスタックは、通常、空洞を充填する犠牲材料、典型的にはリンシリケートガラス(PSG)の支持層の表面上に製造する。FBARスタックの製造後、リリースエッチングを行い、FBARスタックの下から犠牲材料を除去する。これにより、空洞上に懸架されているFBARスタックが残される。リリースエッチングでは、通常、希フッ化水素酸(HF)が使用される。しかし、HFは、さらにSiOを激しく攻撃する。したがって、SiOの層からなる温度補償素子は、FBARの製造後に行われるリリースエッチングのエッチャントには不適合である。したがって、必要であるのは、懸架型FBARデバイスを製造する手法であって、そのデバイスに含まれるFBARスタックが、FBARスタックの製造後に行われるリリースエッチングのエッチャントに不適合な、SiOのような材料を含む、手法である。
【0010】
懸架型デバイス構造が浅い空洞上に懸架されている懸架型デバイスの別の多くの種類は、支持層上に製造され、その支持層は、デバイス構造が製造された後に行われるリリースエッチングにおいてデバイス構造の下から除去される。デバイス構造を製造した後にリリースエッチングを行うので、デバイス構造において使用可能な材料は、リリースエッチャントに適合するものに限られる。この制限により、問題が生じうる。したがって、さらに必要なのは、デバイス構造が、リリースエッチャントに不適合な材料を含む懸架型デバイスを製造する手法である。
【発明の開示】
【0011】
第1の見解では、本発明は、基板と、この基板内に画定されかつ基板の前面から基板内へ延びる空洞とを有する薄膜バルク音響共振器(FBAR)デバイスを提供する。FBARデバイスは、空洞上に懸架されているFBARスタックと、基板内に画定されかつ基板の背面から空洞へと基板を通過して延びる穴とをさらに有している。
【0012】
第2の見解では、本発明は、基板と、この基板内に画定されている空洞と、この空洞上に懸架されているデバイス構造とを有するデバイスを提供する。空洞は、広く浅い第1の部分と、狭く深い第2の部分とを有している。第1の部分は、基板の前面から基板内へと延びている。第2の部分は、基板の背面から第1の部分へと基板を通過して延びている。
【0013】
第3の見解では、本発明は、懸架型デバイスを製造する方法を提供する。この方法では、広く浅い第1の部分および狭く深い第2の部分を有する空洞を画定している基板を設ける。空洞の第1の部分は、基板の前面から基板内へと延び、犠牲材料で充填されている。第2の部分は、第1の部分から基板内へとより深く延びている。デバイス構造を、犠牲材料上に製造する。リリースエッチャントを、基板の背面から空洞の第2の部分を介して導入し、デバイス構造の下に位置する犠牲材料を空洞の第1の部分から除去する。
【0014】
基板の背面から、空洞の第2の部分を介してリリースエッチャントを導入することによって、デバイス構造の下に位置する犠牲材料を空洞の第1の部分から除去することで、デバイス構造がリリースエッチャントに曝されることなくリリースエッチングを行うことができる。これにより、デバイス構造に、リリースエッチャントに不適合な材料を組み込むことができる。例えば、これにより、犠牲材料がPSGであり、懸架型FBARスタックが、二酸化シリコンの温度補償素子を組み込んでいる懸架型FBARデバイスを形成することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
以下に、本発明の態様を、懸架型デバイスの例として懸架型FBARの態様を参照して説明する。本発明による懸架型デバイスの別の例は、空洞上に懸架されたFBARスタックとは異なるデバイス構造を有している。
【0016】
懸架型FBARデバイスは、懸架されたFBARスタックを有している。本開示で使用する限り、FBARスタックという言葉は、様々な材料の層のスタックを意味しており、このスタックにおいては、1つ以上の薄膜バルク音響共振器(FBAR)が画定されている。FBARスタック内に1つ以上のFBARが画定されている態様では、FBARは、FBARスタックに同じ高さに配置されていてもよいし、FBAR内に異なる高さに配置されていてもよい。例えば、FBARラダー型フィルタでは、FBARは、通常、FBARスタック内で同じ高さにあり、これは、図3A〜3Cを参照して以下に説明する。減結合された積層型バルク音響共振器(DSBAR)では、FBARは、FBARスタック内で同じ高さにあり、これは、図4Aおよび4Bを参照して以下に説明する。薄層音響結合変換器(FACT)では、FBARのいくつかが、FBARスタック内で同じ高さにあり、FBARのいくつかが、FBARスタック内で異なる高さにあり、これは図5A〜5Cを参照して以下に説明する。
【0017】
FBARの共振周波数は、FBARにおいて音の伝搬速度に正比例し、FBARを構成する層の厚みに反比例して依存する。現在、FBARの材料となっている大抵の材料における伝搬速度は、原子間力が温度上昇により減少するため、負の温度係数を示す。この原子間力の低下は、材料の弾性係数の低下をもたらし、また、伝搬速度の低下を伴う。温度の上昇によって、伝搬速度は減少し、また、層の厚みは増加する。これらの2つの影響によって、FBARの共振周波数が減少する傾向があり、これにより、上記の負の温度係数がもたらされる。例えば、現在FBARの材料となっている窒化アルミニウム(AlN)およびモリブデン(Mo)の温度係数は、それぞれ約−25ppm/℃〜−60ppm/℃である。
【0018】
FBARの共振周波数の温度係数と、FBARの電極および圧電素子の温度係数との関係は、電極および圧電素子の厚みによって決定される。FBARベースのデュープレクサは、受信ラダー型フィルタであり、この受信ラダー型フィルタでは、FBARは、通常、比較的薄い電極および比較的厚い圧電素子を有している。このようなFBARの共振周波数は、AlNと同様の温度係数、つまり約−25ppm/℃を有している。FBARベースのデュープレクサの送信ラダー型フィルタは、通常、比較的厚い電極および比較的薄い圧電素子を備えているFBARを有している。電極のモリブデンの温度係数は、受信ラダー型フィルタよりもFBARの共振周波数の温度係数への大きく寄与する。したがって、送信ラダー型フィルタにおけるFBARの共振周波数は、約−35ppm/℃〜約−40ppm/℃の範囲の温度係数を有している。
【0019】
本発明によれば、懸架型FBARスタックは、基板で画定された空洞上に懸架されており、さらに、リリースエッチャントに不適合なエッチング不適合材料を組み込んでおり、リリースエッチャントは、FBARの製造後、犠牲材料を、FBARスタックの下から取り除くために使用される。いくつかの態様では、エッチング不適合材料の層が温度補償素子を構成しており、この温度補償素子によって、FBARスタックで画定されたFBARの共振周波数の温度係数が低減される。温度補償素子は、FBARスタックの一部である圧電素子の符号とは逆の温度係数を有している。すなわち、温度補償素子は、圧電素子が負の温度係数を有している上記の例では、正の温度係数を有している。温度補償素子によって、各FBARの実効温度係数TCeffは、第1の近似式
TCeff={(TCE*tE)+(TCp*tp)+(TCC+tC)}/(tE+tp+tC) (1)
[式中、TCは、電極材料の温度係数であり、TCは、圧電剤素子の材料の温度係数であり、TCは、温度補償素子の温度係数であり、tは、電極の全厚みであり、tは、圧電素子の全厚みであり、tは、温度補償素子の全厚みである]で表される。厚みは、FBARデバイスの動作中、各素子を介して音が伝搬する方向で測定する。等式(1)は、伝搬の縦モードおよび剪断モードの両方に適用できる。等式(1)は、電極、圧電素子および温度補償素子の音響インピーダンスの、温度補償素子の温度補償効果への二次効果を無視する。
【0020】
上述したように、FBARスタック内に設けられているもしくはFBARスタックに隣接する二酸化シリコン(SiO)の層は、効果的な温度補償素子である。しかし、SiOの、一般的に使用されかつよく知られている犠牲材料であるPSGに対するエッチング選択性は低い。
【0021】
本発明による方法により、FBARスタックがSiO温度補償素子を組み込んでいてかつPSG犠牲材料上に製造されている、懸架型FBARデバイスが形成される。リリースエッチングは、FBARスタックを製造した後、希HFを使用して行われる。本発明の別の態様による方法により、犠牲材料上にデバイス構造が形成される。リリースエッチングは、デバイス構造を製造した後、デバイス構造の1つ以上の材料と不適合なリリースエッチャントを使用して行われる。
【0022】
このような態様は、数千の温度補償懸架型FBARデバイスを同時に製造するために用いられるウェハ規模の製造プロセスに適用される。このようなウェハ規模の製造によって、温度補償懸架型FBARデバイスは、安価に製造されるようになる。分かりやすくするため、単一の温度補償FBARがFBARスタック内で画定されている懸架型温度補償FBARデバイスの態様を製造するのに使用される方法の例示的な態様を、図1A〜1Iの平面図と、1J〜1Rの断面図とを参照して説明する。
【0023】
この方法では、ウェハ(全体は図示せず)を準備する。ウェハの一部は、製造される各FBARデバイスに対して、図面でその製造を示すFBARデバイスの基板102に相当する基板を構成する。基板102を構成するウェハ内およびウェハの一部上へのFBARデバイスの製造を、図1A〜1Iおよび図1J〜1Rに図示し、以下の記述により説明する。FBARデバイスの製造の際、残りのFBARデバイスもウェハ上に同様に製造される。
【0024】
一態様では、ウェハは、直径役150mm、厚み約600μmの市販の単結晶シリコンのウェハであった。これに代えて別のウェハ材料も使用することができる。
【0025】
幅広の浅い空洞を形成し、ウェハ上の各FBARデバイスの位置でウェハの前面からウェハ内へと延在させる。図1Aおよび1Jに、基板の前面111から基板102内へと延びる幅広の浅い空洞104を示す。
【0026】
FBARデバイスを、約2GHzの周波数で動作させるように構成する一態様では、空洞104の横方向の寸法は、約100平方μmで、深さ約4μmである、つまり横方向の寸法はそれぞれ、少なくとも1桁、深さよりも大きくなっている。ウェハの材料がシリコンである一態様では、空洞は、六フッ化硫黄(SH)、水素(H)および酸素(O)の混合物をエッチャントとして使用して選択的ドライエッチングを行うことによって形成される。
【0027】
よって、各空洞からウェハ内へと延びる深く狭いエッチャント到達穴を、ウェハに形成する。空洞104のと比較すると、このエッチャント到達穴の深さはより深く、幅はより狭い。図1Bおよび1Kに、空洞104から基板102内に深く延びるエッチャント到達穴を示す。エッチャント到達穴の1つの態様を、103として示す。さらに、参照番号103は、複数のエッチャント到達穴をまとめて示すためにも使用する。
【0028】
エッチャント到達穴103は、空洞104から基板102を通って、基板の102の背面101へと貫通して延びていてよい。しかし、基板102のがその一部を形成しているウェハには後に、個々のFBARデバイスに単一化される前に、厚み低減プロセスを行う。図1Fおよび1Oを参照して以下に説明するように、エッチャント到達穴103は、基板102内へウェハの最終厚みより深く延びている必要はない。
【0029】
エッチャント到達穴103の横方向の寸法は、通常、約5μm〜約20μmの範囲にある。エッチャント到達穴103の横方向の寸法については、図1Cおよび1Lを参照して以下により詳細に説明する。エッチャント到達穴103は、空洞104の横方向の寸法より実質的に小さい。円形のエッチャント到達穴103を図示しているが、エッチャント到達穴は、縦横比の小さい他の形状をしていてよい。5つのエッチャント到達穴103を図示しているが、エッチャント到達穴103の数は、これより多くても少なくてもよい。
【0030】
空洞104は、基板102に画定されている空洞107の広く浅い第1の部分を構成するものとして認識することができ、エッチャント到達穴103はまとめて、基板102に画定されている空洞107の狭く深い第2の部分を構成するものとして認識することができる。
【0031】
一態様では、基板102がその一部を構成しているウェハの厚みを低減させた最終厚みは、約150μmである。この態様では、エッチャント到達穴103は、少なくとも150μm、基板102内へ延びており、約12μmの直径を有している。エッチャント到達穴103は、ディープシリコンエッチングとして知られている等方性エッチングプロセスによって形成されている。ディープシリコンエッチングは、当分野では公知であり、複数の供給者から一般的に得ることができる。よって、このプロセスは、ここでは説明しない。
【0032】
空洞104およびエッチャント到達穴103を形成する順序は、上述のものとは反対であってもよい。
【0033】
犠牲材料を、ウェハの表面上に堆積させる。図1Cおよび1Lに、基板102の前面111上に堆積させた犠牲材料105を示す。堆積させる場合、犠牲材料105は、基板102および空洞104の下層面の輪郭におおよそ従い、エッチャント到達穴103内にもいくらか延びる。犠牲材料がエッチャント到達穴103内に延びていることにより、それに対応する窪みが犠牲材料の表面に形成される。エッチャント到達穴103何に延びる犠牲材料105によって形成されたくぼみは、118で示す。さらに、参照番号118を、複数の窪み全体を指すように用いる。最も深い窪み118の底と基板102の背面101との距離が、基板102の前面と背面との距離より大きくなるよう厚みで、犠牲材料105を堆積させる。
【0034】
一態様では、犠牲材料105はリンシリケートガラス(PSG)であり、これを、従来の低圧化学蒸着(LPCVD)を使用して堆積させる。別の犠牲材料を使用することもできる。別態様では、犠牲材料を、スパッタリング、スピンコーティングまたは別の適切なプロセスによって堆積させる。
【0035】
次に、各空洞が犠牲材料で充填されたままでウェハの表面を平坦化する。図1Dおよび1Mに、その平坦化のプロセスの結果を示す。基板102内の空洞104は、犠牲材料105で充填されており、この犠牲材料105は、滑らかで平坦な表面を有している。
【0036】
犠牲材料105の表面の品質は、この後この表面上に製造されるFBARスタックの品質に著しく影響する。上述のように、窪み118(図1L)の底と基板102の背面101との距離が、基板102の前面111と背面との距離より大きくなるように犠牲材料を堆積させることによって、基板112の上面111と同一平面になるように犠牲材料を平坦化させた後に、窪み118の痕跡が犠牲材料105に確実に残らないようになる。
【0037】
犠牲材料105の表面の窪み118(図1L)の深さ、および後にエッチャント到達穴103を介して導入されるリリースエッチャントが、製造されるFBARスタック(図示せず)の下から犠牲材料105を除去する速度は、エッチャント到達穴103の横方向の寸法によって決定される。エッチャント到達穴の横方向の寸法が大きくなるほど、エッチャントはより速い速度で犠牲材料を除去する。しかし、エッチャント到達穴の横方向の寸法が大きくなると、窪みが深くなり、ひいては、窪みの底と基板102の背面101との距離が前面111と背面との距離より確実に大きくなるように堆積させる必要があるので、犠牲材料の厚みが大きくなる。堆積させる犠牲材料の厚みが大きくなると、ウェハの表面を平坦化させるのに必要な時間は長くなる。したがって、エッチャント到達穴の横方向寸法は、エッチャント到達穴103を介して導入されるエッチャントによって犠牲材料105が除去されるのに要する時間と、ウェハの表面を平坦化させるのに要する時間との間で妥協される。上述の範囲の横方向寸法によって、エッチング時間と平坦か時間との合理的な妥協が得られる。
【0038】
一態様では、当分野で公知の化学機械研磨(CMP)によってウェハを平坦化させた。別の適切な平坦化プロセスも公知であり、使用することができる。
【0039】
続いて、犠牲材料に対してエッチング選択性の低い材料、つまり、リリースエッチングに不適合な材料を含むFBARスタックを、ウェハの表面上に製造する。具体的には、前記の不適合材料を含むFBARスタックを、ウェハ内に画定された各空洞を充填している犠牲材料の表面上に製造する。図1Eおよび1Nに、基板102に設けられた空洞104を充填する犠牲材料105の表面上に製造されたFBARスタック121を示す。図示の例では、FBARスタック121内には、単一の温度補償FBAR110が画定されている。
【0040】
FBAR110は、互いに逆の平面電極112および114と、電極間に設けられた圧電素子116とからなる。電極112および圧電素子116の一部は、犠牲材料105の表面上に配置されている。さらに、電極112と114との間に温度補償素子109が配置されている。温度補償素子109は、FBAR110の共振周波数の温度係数を著しく低減させる厚みの温度補償材料の層115からなっている。図示の例では、温度補償素子109は、圧電素子116と電極114との間に配置されており、層115の温度補償材料は、二酸化シリコンSiOである。SiOの、犠牲材料105に対してエッチング選択性は低い。例示したFBARスタックの製造については、図7A〜7Jおよび7K〜7Tを参照して以下に詳細に説明する。
【0041】
FBARスタック121を製造した後、基板102がその一部を構成いているウェハに、厚み低減プロセスを施して、単一化に適した厚みにする。さらに、厚み低減プロセスによって、ウェハの背面にエッチャント到達穴の端部が露出する。図1Fおよび1Oに、ウェハに厚み低減プロセスを施して、基板102の背面101から材料を除去した後の基板102を示す。厚み低減プロセスによって、基板102の背面101から、エッチャント到達穴103の、空洞104から離れた方の端部が基板120の背面101で露出するように十分な材料が除去される。
【0042】
一態様では、厚み低減プロセスとして、ラッピングおよび研磨を使用し、基板102がその一部を形成するウェハの全体の厚みを、約600μm〜150μmに低減させる。さらに、厚み低減プロセスによって、エッチャント到達穴103の端部が、基板102の背面101で露出する。
【0043】
次に、その上にFBARスタックが製造されたウェハの前面を、FBARスタックの下から犠牲材料を除去するリリースエッチングで使用されるリリースエッチャントから保護する。ウェハの背面は、露出したままとする。図1Gおよび1Pに、FBARスタック121、およびFBARスタック121の材料の成分と適合し、さらにリリースエッチャントに適合する材料の保護層119で覆われた基板102の前面の露出している部分を示す。
【0044】
一態様では、保護層119の材料は、基板102がその一部を形成するウェハにスピンコーティングされたフォトレジストである。別の態様では、保護層119の材料は、オリゴマーを含有する前駆体溶液からなっており、このオリゴマーは重合してそれぞれ架橋ポリフェニレンポリマーを形成するものであり、Dow Chemical Company, Midland, MIからSiLKとの登録商標で販売されている。前駆体溶液を、スピンコーティングによって塗布する。保護層119の材料を塗布した後、ウェハを焼成する。
【0045】
ウェハの前面上に製造されたFBARスタックを保護する別の手段を、図2を参照して以下に説明する。
【0046】
次に、ウェハを、リリースエッチャントに曝す。リリースエッチャントをウェハの背面に塗布し、エッチャント到達穴を通して空洞中の犠牲材料と接触させる。リリースエッチャントは犠牲材料を溶解し、各空洞上に懸架されたFBARスタックが残される。図1Hおよび1Qに、リリースエッチャント(矢印で示す)によって空洞104から犠牲材料105(図1P)が除去された、空洞104上に懸架されたFBARスタック121を示し、リリースエッチャントは、基板102の背面101に塗布され、エッチャント到達穴103を介して空洞104内に入る。
【0047】
一態様では、リリースエッチャントは、フッ化水素酸(HF)であった。HFは、PSG犠牲層105をエッチングし、さらに、温度補償素子109の二酸化シリコンを積極的に攻撃する。しかし、温度補償素子109は、保護層119、電極112および圧電素子116によってリリースエッチャントから隔離されている。よって、リリースエッチャントが犠牲材料105を除去するが、温度補償素子109は変化しない。
【0048】
次に、保護層をウェハから取り除き、それぞれの空洞上に懸架されたFBARスタックを露出させる。さらに、ウェハを単一化して、個々のFBARデバイスとする。図1Iおよび1Rに、保護層119(図1Q)を除去し、ウェハを個々のFBARデバイスに単一化させた後のFBARデバイス100を示す。FBARデバイス100では、FBARスタック121は、基板102に設けられた空洞104上に懸架されている。任意に、エッチャント到達穴103を、FBARデバイス100をパッケージングする前に適切な材料(図示せず)で塞ぐこともできる。別態様では、FBARデバイス100をパッケージングすることによって、空洞104、電極112の下側および圧電層116を、周囲環境から隔離する。
【0049】
フォトレジストおよび架橋ポリフェニレンポリマーのような上記保護材料を除去する溶剤は、当分野で公知であり、保護層119の除去に使用することができる。シリコンおよび別の基板材料のウェハを単一化する技術も、当分野で公知であって使用することができる。
【0050】
図2に、図1Hおよび1Qを参照して上述したリリースエッチング中にFBARスタック12(図1R)を保護する別の手段を示す。図1Fおよび1Nを参照して上述した厚み低減プロセスを行った後、基板102(図1R)がその一部を形成するウェハ202の前面211を、保護素子204によってリリースエッチャントから保護する。図示の例では、保護素子204は、ウェハ202と同じ直径を有しかつ従来の厚みを有するシリコンウェハ206として実施されている。ウェハ206とウェハ202の前面211との間に、Oリング208が設けられている。Oリング208は、2つの目的のために設けられている。つまり、Oリングによって、ウェハ202の前面がウェハ206から隔置され、ウェハ202の前面211上に製造されたFBARスタック(図示せず)が、ウェハ206との接触によって損傷することが防止される。さらに、Oリング208は、ウェハ202と206との間に流体密な封止を提供し、これにより、ウェハ202の背面201に塗布されるリリースエッチャントが、エッチャント到達穴103(図1Q)を介する以外は、FBARスタックと接触することが防止される。クランプ、例えば210として例示したものは、ウェハ202、Oリング208およびウェハ206からなるスタックを一緒に保持し、ウェハ202および206に力を加え、これにより、Oリング208はわずかに変形して、両ウェハの対向する表面との密な接触を形成し、ひいては流体密な封止が提供される。リリースエッチング中のFBARスタックの追加的な保護のために、図1Gおよび1Pを参照して上述した保護層119を、図2に示した保護構成に加えて使用することもできる。
【0051】
図3A、3Bおよび3Cはそれぞれ、本発明による懸架型デバイスの第2の態様の平面図、第1の断面図および第2の断面図である。懸架型デバイスのこの態様は、互いに接続されてFBARラダー型フィルタを形成している3つの温度補償FBAR110、150および170が懸架型FBARスタック321内に画定されている、懸架型FBARデバイス300として例示されている。FBARスタック321は、基板102内に画定されている空洞104上に懸架されている。エッチャント到達穴103は、基板102の背面101から空洞104へ延びている。空洞104およびエッチャント到達穴103は、空洞107のそれぞれ第1の部分および第2の部分として見なすことができる。図3は、FBARデバイス300の概略図である。FBARデバイス300の別の態様は、図示の3つより多いFBARから構成されている。
【0052】
懸架型FBARデバイス300では、懸架型FBARスタック321は、FBAR110、150および170ならびに温度補償素子109を備えている。FBAR110は、対向する平面電極112および114ならびにこれらの電極間に設けられ圧電素子116を有している。圧電素子116は温度係数を有しており、その温度係数には、FBAR110の共振周波数の温度係数が少なくともある程度依存する。FBAR110の共振周波数の温度係数は、通常、さらに電極112および114の温度係数に依存する。温度補償素子109は、圧電素子116の温度係数と逆符号の温度係数を有している。逆符号の温度係数を有していることで、温度補償素子109によって、圧電素子116の温度係数のFBAR110の共振周波数の温度係数への影響は低減する。
【0053】
FBAR150は、対向する平面電極152および154ならびにこれらの電極間に設けられている圧電素子156を有している。圧電素子156は、温度係数を有しており、この温度係数には、FBAR156の共振周波数の温度係数が少なくともある程度依存している。FBAR150の共振周波数の温度係数は、通常、さらに、電極152および154の温度係数に依存する。上記の場合と同様に、温度補償素子109によって、圧電素子156の温度係数の、FBAR150の共振周波数の温度係数への影響が低減する。
【0054】
図3Cをさらに参照すると、FBAR170は、対向する平面電極172および174ならびにこれらの電極間に設けられている圧電素子176を有している。圧電素子176は、温度係数を有しており、この温度係数には、FBAR170の共振周波数の温度係数が少なくともある程度依存している。FBAR170の共振周波数の温度係数は、通常、さらに、電極172および174の温度係数に依存している。温度補償素子109によって、圧電素子176の温度係数の、FBAR170の共振周波数の温度係数への影響が低減するのは、上記の場合と同様である。
【0055】
温度補償素子109がFBAR110、150および170の共振周波数の温度係数を低下させる結果、懸架型FBARデバイス300の通過帯域の温度係数は、温度補償素子109がない場合の同じFBARデバイスの温度係数よりも小さくなる。
【0056】
FBAR110の電極112は、トレース133によって、入力端子パッド132に電気的に接続されており、トレース133は、部分的に圧電素子116の下に、また部分的に基板102の上に延びている。FBAR150の電極152は、トレース135によって出力端子パッド134に電気的に接続されており、トレース135は、部分的に圧電素子156の下に、部分的に基板102の上に延びている。FBAR170の電極172は、トレース137によって共通端子パッド136に電気的に接続されており、トレース137は、部分的に圧電素子176の下に、部分的に基板102の上に延びている。FBAR110、150および170の電極114、154および174は、トレース138によって電気的に相互接続されている。
【0057】
図3Bの態様において、FBAR11では、温度補償素子109は、電極112と圧電材料116との間に配置されている温度補償層113と、電極114と圧電素子116との間に配置されている温度補償層115とからなっている。さらに、FBAR150では、温度補償素子109は、電極152と圧電素子156との間に配置されている温度補償層153と、電極154と圧電素子156との間に配置されている温度補償層155とからなっている。最後に、FBAR170(図3C)では、温度補償素子109は、電極172と圧電素子176との間に配置されている温度補償層173と、電極174と圧電素子176との間に配置されている温度補償層175とからなっている。
【0058】
上述の温度補償層はそれぞれ、FBAR110の圧電素子116ならびに電極112および114の温度係数、FBAR150の圧電素子156ならびに電極152および154の温度係数、FBAR170の圧電素子176ならびに電極172および174の温度係数とは逆符号の温度係数を有する温度補償材料の層である。図示の例では、温度補償材料はSiOである。別の態様では、温度補償材料およびFBARスタック321を構成する他の材料のいずれかもしくは両方が、上記のようにFBARスタック321の製造後に空洞104から犠牲材料105を除去するために使用されるリリースエッチャントに不適合である。
【0059】
本開示で使用されているように、FBARスタック321の要素、例えば温度補償素子109、温度補償層113、115、153、155、173および175、圧電素子116、156および176ならびに電極112、114、152、154、172および174の温度係数は、FBAR110、150および170の共振振動数の温度係数が依存する要素のパラメータの温度係数である。通常、パラメータは、要素中での音の伝搬速度と、要素の熱膨張係数との組合せである。さらに、パラメータには、要素の音響インピーダンスを考慮に入れることができる。
【0060】
図示の例では、温度補償素子109を構成している温度補償層113および115は、層の主表面に平行な平面に隣接して配置されている電極と、実質的に同じ形状および同じ寸法を有している。例えば、FBAR110では、温度補償層113は、隣接する電極112と同じ形状および寸法である。図示の例ではまた、FBAR110では、例えば温度補償層113および115は、それぞれ電極112および114に隣り合って配置されており、それぞれ、電極112と圧電素子116との間に、および電極114と圧電素子116との間に配置されている。別態様では、温度補償層113および115は、圧電素子116と実質的に同じ形状および寸法を有している。FBAR150および170は類似している。
【0061】
次に、FBARデバイスの構造の、3Aおよび3Bに例示したものからの変化形を以下に説明する。簡潔に説明するために、FBAR110の構造の変化形のみを、同じ変化形をFBAR150および170の構造に応用できるという理解に基づき記述する。後述の変化形は、本明細書に記載の別の懸架型FBARデバイスにさらに応用することができる。
【0062】
第1の変化形では、温度補償層113および115が、それぞれ電極112および114の、圧電素子116とは反対の側に配置されている。この構成では、所与の温度補償効果を得るために、温度補償層は、図3Bに示す態様の温度補償層よりも実質的に厚くなっている。その厚みの乗数は、通常、4〜8である。しかし、電極の、圧電素子とは反対の側に配置されている温度補償層は、電極間で発生される電界から外れている。これによって、結合定数の低下が回避されるが、それは、絶縁している温度補償層を電界中に配置することによる。結合定数は、電界と圧電素子との間の電磁気的な結合を特徴付ける。さらなる別態様としては、温度補償層を、電極の両面に配置することができる。この変化形は、前記の米国特許出願第10/988398号明細書に見られる。
【0063】
別の変化形では、温度補償素子109が、単一の温度補償層113のみからなっている。単一の温度補償層113の厚みは、図3Bの態様の温度補償層113および115の厚みの合計に等しい。この単一の温度補償層113は、電極112に隣り合って配置されており、電極112と圧電素子116との間に配置されている。単一の温度補償層113は、別態様では、電極の、圧電素子116とは反対の側に配置することもできる。単一の温度補償素子は、別態様では、電極114に隣り合って配置されており、電極112に関連して上述したように、任意の形式で電極114と隣り合って配置されている。
【0064】
単一の温度補償層を使用する変化形では、温度補償層と隣り合って配置されていない電極の厚みを増大させて、各FBARの対称性が回復するようにすることもできる。しかし、電極の厚みを大きくすると、温度補償素子によって補償しなくてはならない温度係数も増える。デバイスの非対称性によって、結合定数が低下するが、このような結合定数の減少は、通常許容できる。
【0065】
別の変化形では、温度補償素子109は、圧電素子116に埋め込まれた単一の温度補償層113からなっている。この構成では、温度補償層113を、圧電素子116の厚みの途中まで、例えば半分まで配置させ、単一の温度補償層を有している対称的なFBARが得られる。
【0066】
温度補償素子109は、通常、これが電極112と114との間に配置されている態様で、他の位置に配置されている態様より効果的な温度補償を提供する。
【0067】
上述の態様では、温度補償素子109により、FBAR110、150および170の共振周波数の温度係数が低下する。温度補償素子の伝搬速度の正の温度係数は、少なくともある程度、圧電素子の伝搬速度の負の温度係数からずれている。いくつかの態様では、温度補償素子の厚みは、各FBARの共振周波数の実効温度係数がゼロとなるように設定される。別の態様では、各FBARの共振周波数の実効温度係数が負のままであるが、FBARが温度補償素子を有していない従来のFBARデバイスより実質的に小さくなっているように、温度補償素子の厚みが設定される。FBARの共振周波数の温度係数の減少により、懸架型FBARデバイス300の、動作温度範囲および製造歩留まりのいずれかもしくは両方が増大する。製造歩留まりの有効的な増大は、単にFBARの共振周波数の温度係数を従来のFBARの半分に減らすことによって得られる。
【0068】
本開示で、隣り合って配置されているものとして説明されている素子は、通常、図3Bに示すように互いに物理的に接触している。しかし、隣り合って配置されている素子は、隣り合って配置されている素子の音響学的特性に及ぼす効果が無視できるのであれば、介在素子によって分離されていてもよい。
【0069】
図4Aおよび4Bはそれぞれ、本発明による懸架型デバイスの第3の態様の平面図および断面図である。懸架型デバイスのこの態様は、FBARデバイス400として実施されており、このデバイス400では、単一の減結合スタック音響共振器(DSBAR)106からなっている帯域通過フィルタが、FBARスタック421で画定されている。DSBAR106は、2つの温度補償FBAR110および120と、FFBAR間の音響減結合器130とからなっている。FBARスタック421は、基板102に画定されている空洞104上で懸架されている。エッチャント到達穴103は、基板102の背面101から空洞104へ延びている。空洞104およびエッチャント到達穴103はそれぞれ、空洞107の第1の部分および第2の部分とみなすことができる。
【0070】
懸架型FBARデバイス400では、FBARスタック421は、DSBAR106と温度補償素子109とからなっている。DSBAR106は、下部FBARとして上述のFBAR110、下部FBAR110上に積層された上部FBAR120、およびこれらのFBAR間の音響減結合器130とからなっている。
【0071】
下部FBAR110は、対向する平面電極112および114ならびにこれらの電極間に設けられている圧電素子116を有している。圧電素子116は、温度係数を有しており、この温度係数には、FBAR110の共振周波数の温度係数が少なくともある程度依存している。FBAR110の共振周波数の温度係数は、通常、電極112および114の温度係数にさらに依存している。上部FBAR120は、対向する平面電極112および114ならびにこれらの電極間に設けられている圧電素子126を有している。圧電素子126は、温度係数を有しており、この温度係数には、FBAR120の共振周波数の温度係数が少なくともある程度依存している。FBAR120の共振周波数の温度係数は、通常、電極122および124の温度係数にさらに依存する。温度補償素子109は、圧電素子116および126の温度係数とは逆符号の温度係数を有している。
【0072】
逆符号の温度係数を有していることによって、温度補償素子109によって、圧電素子116の温度係数、および通常さらには電極112および114の温度係数の、FBAR110の共振周波数の温度係数への影響が減少する。さらに、温度補償素子109によって、圧電素子126の温度係数、および通常さらには電極122および124の、FBAR120の共振周波数の温度係数への影響が減少する。FBAR110および120の共振周波数の温度係数が低下すると、懸架型FBARデバイス400の通過帯域の温度係数が低下する。これによって、FBARデバイス400の通過帯域の温度係数は、温度補償素子を有していない同じFBARよりも小さくなる。
【0073】
図4Bに示す例では、温度補償素子109は、FBAR110内で電極114と圧電素子116との間に配置されている温度補償層115と、FBAR120内で電極116と圧電素子126との間に配置されている温度補償層123とからなっている。温度補償層115および123はそれぞれ、上述の、圧電素子116および126の温度係数と逆符号の温度係数を有している温度補償材料の層である。FBARデバイス400の典型的な態様では、圧電素子116および126はそれぞれ負の温度係数を有しており、温度補償材料は正の温度係数を有している。図示の例では、温度補償は二酸化シリコンSiOである。別の態様では、温度補償材料およびFBARスタック421を構成する他の材料のいずれかもしくは両方が、リリースエッチャントに不適合である。リリースエッチャントは、上述のように、FBARスタック421の製造後、空洞104から犠牲材料105を除去するのに使用される。
【0074】
FBARデバイス400では、音響減結合器130は、FBAR110と120との間に、特に、FBAR110の電極114とFBAR120の電極122との間に配置されている。音響減結合器は、FBAR110と120との間の音響エネルギーの結合を制御している。音響減結合器は、FBAR間の音響エネルギーを、従来の積層型バルク音響共振器(SBAR)で行われているようにFABR間を直接的に接触させて結合させた場合に比べ、弱く結合する。音響減結合器130によって画定されている音響エネルギーの結合によって、FBARデバイス400の通過帯域が決定される。図4Bに示す例では、音響減結合器130は、音響減結合材料の音響減結合層からなっている。
【0075】
図示の例では、FBARスタック411は、基板102で画定されている空洞104上に懸架されている。空洞104は、FBARスタック411を、基板102から音響学的に分離する。FBARスタック411と基板102との音響学的分離によって、DSBAR106を構成しているFBAR110および120が、どちらかのFBARの電極間に加えられた入力電気信号に機械的に応答して共振することを可能にする。FBARで発生した音響エネルギーは、入力電気信号を受信し、音響減結合器130を通過して、もう一方のFBARへと入る。音響エネルギーを受信するFBARは、音響エネルギーの一部を、その電極間に供給される電気出力信号に変換する。音響エネルギーを受信するFBARの電極間の電気信号出力は、FBARスタック411と基板102との間での不都合な音響結合によって生じる不都合な偽アーチファクト(spurious artifacts)が実質的にない帯域通過周波数応答特性を有している。
【0076】
図示の例では、FBAR110の電極112および114は、それぞれ端子パッド132および134と、それぞれ電気トレース133および135によって電気的に接続されている。さらに、FBAR120の電極122および124は、それぞれ端子パッド134および138と、それぞれ電気トレース137および139によって電気的に接続されている。入力と出力との間でガルバニック絶縁が形成されている態様では、電気トレース137は、端子パッド134の代わりに追加の端子パッド(図示せず)に電気的に接続されている。端子パッド132、134および138は、FBARデバイス400から外部の電気回路(図示せず)への電気的接続を形成するために使用される。
【0077】
図示の例では、音響減結合器130は、音響減結合材料の4分の1波長層からなっている。音響減結合材料の音響インピーダンスは、FBAR110および120の材料よりも小さく、空気よりも実質的に大きい。材料の音響インピーダンスは、材料中の粒子速度に対する応力の非であり、raylと省略されるレイリー(Rayleigh)で測定される。FBARの材料の音響インピーダンスは、通常、30Mrayl(AlNは35Mraylであり、Moは63Mraylである)より大きく、空気の音響インピーダンスは約1kraylである。FBAR110、120の材料が上述のようであるFBARデバイス400の態様では、約2Mrayl〜約8Mraylの範囲の音響インピーダンスを有する音響減結合材料は、音響減結合器130の音響結合材料として良好に機能する。
【0078】
4分の1波長層は、FBARデバイス400の通過帯域の中心周波数に周波数が等しい音響信号の音響結合材料における波長λの4分の1の奇整数倍に等しい公称厚みtを有している。すなわち、t≒(2m+1)λ/4[式中、tおよびλは、上で定義したとおりであり、mはゼロ以上の整数である]。一態様では、整数mはゼロである、つまり、t≒λ/4である。整数mの値がゼロである音響減結合器を有しているFBARデバイス400の一態様の周波数応答は、整数mの値がゼロより大きい音響減結合器を有している一態様より、偽アーチファクトを示す傾向が小さい。整数mの値がゼロより大きい後者の態様の周波数応答は、偽アーチファクトを示す傾向が大きく、それは、より厚い音響減結合器は多重音響モードを支援しうるためである。
【0079】
代替的に、λ/4の約±10%だけ公称の4分の1厚みと異なる厚みの音響減結合器130の態様を使用することもできる。この範囲を外れる厚みの許容誤差を使用することもできるが、性能の低下を伴う。しかし、音響減結合器130の厚みは、λ/2の整数倍からは大きく相違しているのが望ましい。
【0080】
多くのプラスチック材料は、上述の約2Mrayl〜約8Mraylの範囲の音響インピーダンスを有しており、上述の厚みの範囲内での均一な厚みの層に応用することができる。したがって、そのようなプラスチック材料は、音響減結合器130の音響減結合材料として使用するのに潜在的に適している。しかし、音響減結合材料は、音響減結合器130の製造後に行われる製造操作の温度も耐性でなくてはならない。後述するように、実際の態様では、FBARデバイス400、電極122および124ならびに圧電層126を、音響減結合器130の製造後、スパッタリングによって堆積させる。これらの体積プロセス中、温度は400℃にも達する。よって、そのような温度でも安定が保たれるプラスチックを、音響減結合材料として使用する。
【0081】
プラスチック材料は、通常、FBAR110および120の別の材料と比較して、単位長さ当たりできわめて高い音響減衰を有する。しかし、プラスチック製の音響減結合器130はの厚みは、通常、1μm未満、例えば200nmであるので、音響減結合器130のそのような態様によって導入される音響減衰は、通常、ごくわずかである。
【0082】
一態様では、ポリイミドを、音響減結合器130の音響減結合材料として使用する。ポリイミドは、Kapton(登録商標)との登録商標で、E. I. du Pont de Nemours and Companyにより販売されている。そのような態様では、音響減結合器130は、スピンコーティングによって電極114に塗布されたポリイミドの4分の1波長層からなっている。ポリイミドは、約4Mraylの音響インピーダンスを有している。
【0083】
別の態様では、ポリ(p−キシリレン)を、音響減結合器130の音響減結合材料として使用する。このような態様では、音響減結合器130は、真空堆積によって電極114に塗布されたポリ(p−キシリレン)の4分の1波長層からなっている。ポリ(p−キシリレン)は、パリレンとしても当分野で知られている。パリレンを構成する、ダイマー前駆体であるジ−p−キシリレン、およびパリレンの層の真空堆積をおkなうための装置は、多くの供給業者より入手可能である。パリレンは、約2.8Mraylの音響インピーダンスを有している。
【0084】
別の態様では、架橋ポリフェニレンポリマーを、音響減結合器130の音響減結合剤量として使用する。そのような態様では、音響減結合器130は、スピンコーティングによって塗布された架橋ポリフェニレンポリマーの4分の1波長層である。架橋ポリフェニレンポリマーは、集積回路での使用のために低誘電定数の誘電材料として開発され、したがって、FBAR120の後続の製造中の音響減結合器130が曝される高温でその安定性を保つ。発明者は、架橋ポリフェニレンポリマーが、さらに、約2Mraylの理論音響インピーダンスを有することを見いだした。この音響インピーダンスは、有用な通過帯域を有するFBARデバイス400を提供する音響インピーダンスの範囲にある。
【0085】
重合してそれぞれ架橋ポリフェニレンポリマーを形成する様々なオリゴマーを含有する前駆体溶液は、Dow Chemical Company, Midland, MIにより、SiLKとの登録商標で販売されている。前駆体溶液は、スピンコーティングによって塗布する。このような前駆体溶液の1つ、SiLK(登録商標)Jとの名称のものから得られる架橋ポリフェニレンポリマーは、さらに接着促進剤を含有しており、2.1Mrayl、つまり約2Mraylの理論音響インピーダンスを有している。
【0086】
重合して架橋ポリフェニレンポリマーを形成するオリゴマーは、ビスシクロペンタジエノン含有モノマーおよび芳香族アセチレン含有モノマーから調製される。このようなモノマーを使用することによって、不適切な置換を行う必要なく溶解性のオリゴマーを形成する。前駆体溶液は、γ−ブチロラクトンおよびシクロヘキサノン溶剤中に溶解させた特定のオリゴマーを含有している。前駆体溶液中のオリゴマーの割合によって、その前駆体溶液をスピンコーティングした時の層厚みが決定される。塗布後、加熱して溶剤を蒸発させ、続いてオリゴマーを硬化して架橋ポリマーを形成する。ビスシクロペンタジエノンは、4+2付加環化反応でアセチレンと反応し、新たな芳香環を形成する。さらに、硬化によって、架橋ポリフェニレンポリマーが得られる。この架橋ポリフェニレンポリマーは、Godschalxらにより米国特許第5,965,679号明細書に記載されており、その内容は参照により本発明に組み込まれる。さらなる実際的な詳細は、MartinらによるDevelopment of Low-Dielectric Constant Polymer for the Fabrication of Integrated Circuit Interconnect, 12 ADVANCED MATERIALS, 1769 (2000)に記載されており、同様にこの内容も参照により本発明に組み込まれる。ポリイミドと比較して、架橋ポリフェニレンポリマーは、音響インピーダンスも低く、音響減衰も低く、誘電定数も低い。さらに、前駆体溶液のスピンコート層は、200nmのオーダーの厚みを有する架橋ポリフェニレンポリマーの高品質膜を製造することができ、その厚みは、約2GHzで動作するFBARデバイスでの音響減結合の典型的な厚みである。
【0087】
別の態様では、音響減結合器130は、Larson IIIらによる米国特許出願第10/965,449号明細書に記載の音響インピーダンスを有する音響減結合材料の音響減結合層(図示せず)からなっている。音響減結合層の音響インピーダンスおよび厚みは併せられて、音響減結合器130の音響インピーダンスを規定する。そして、音響減結合器130の音響インピーダンスは、FBARデバイス400の通過帯域を規定する。異なる音響インピーダンスを有する音響減結合材料の音響減結合層からなっている音響減結合器130の態様は、π/2ラジアンの奇整数倍の公称位相変化を、FBARデバイス400の通過帯域の中心周波数に周波数が等しい音響信号に付与するように構成されている。一態様では、音響減結合器は、中心周波数に周波数が等しい音響信号に、π/2ラジアンの公称位相変化を付与するように構成されている。この位相変化は、中心周波数に周波数が等しい音響信号の音響減結合材料での波長の4分の1に等しい公称厚みを有する音響減結合材料の単一の層からなる音響減結合器によって付与される公称位相変化に等しい。
【0088】
一例では、音響減結合器130は、約4Mraylの音響インピーダンスを有するポリイミドの音響減結合層の上に設けた約2Mraylの音響インピーダンスを有する架橋ポリフェニレンポリマーの音響減結合層からなっていた。このような音響減結合器は、音響減結合器がポリイミドの単一の4分の1波長層または架橋ポリフェニレンポリマーの単一の4分の1波長層からなっている態様の通過帯域間の中間の通過帯域を有するFBARデバイス400の一態様を提供する。
【0089】
別の態様では、音響減結合器130の音響減結合材料の音響インピーダンスは、FBAR110および120の材料より実質的に大きい。このような特性を有する音響減結合材料は現在公知ではないが、将来的に入手可能となりうる。別態様では、低誘電率のFBAR材料が、将来的に入手可能となりうる。そのような高い音響インピーダンスの音響減結合材料の音響減結合器130の厚みは、上述の通りである。
【0090】
別の態様(図示せず)では、音響減結合器130を、高音響インピーダンスブラッグ素子で挟まれた低音響インピーダンスブラッグ素子からなるブラッグ構造として構成する。低音響インピーダンスブラッグ素子は、低音響インピーダンスの材料の層であり、高音響インピーダンスブラッグ素子は、それぞれ高音響インピーダンス材料の層である。ブラッグ素子の音響インピーダンスは、お互いを比較して、さらには圧電素子116および126の圧電材料の音響インピーダンスに対して「低い」および「高い」ものとして特徴付けられている。さらに、少なくとも一方のブラッグ素子は、高電気抵抗および低誘電率を有しており、FBARデバイス400の入力と出力との間に電気的絶縁を提供する。
【0091】
ブラッグ素子を構成する層のそれぞれは、名目上、4分の1波長層である。公称の4分の1波長厚みと約±10%だけ異なる層を、代替的に使用することができる。この範囲を外れる厚みの許容誤差でも、いくらかの性能の低下を伴って使用可能であるが、層の厚みは、波長の2分の1の整数倍から著しく異なる。
【0092】
一態様では、低音響インピーダンスのブラッグ素子は、二酸化シリコン(SiO)の層であって、それは約13Mraylの音響インピーダンスを有しており、高音響インピーダンスのブラッグ素子のそれぞれは、電極114および122と同じ材料、例えばモリブデンの層であって、それは約63Mraylの音響インピーダンスを有している。高音響インピーダンスのブラッグ素子ならびにFBAR110および120の電極に同じ材料を使用することによって、高音響インピーダンスのブラッグ素子がさらに、音響減結合素子に隣接するFBARの電極としても機能する。この態様では、低音響インピーダンスのブラッグ素子は、さらに、リリースエッチャントに不適合である。
【0093】
積層型バルク音響共振器(SBAR)は、FBARスタック421の一態様で画定することができ、この態様からは音響減結合層131は省略される。電極114および154または電極122および162もさらに省略することができる。
【0094】
図5Aは、本発明による懸架型デバイスの第4の態様をの平面図である。懸架型デバイスのこの態様は、懸架デバイス500として例示されており、このデバイスにおいては、2つの電気的に相互接続された減結合積層型バルク音響共振器(DSBAR)106および108からなるフィルム音響結合変換器(FACT)が、FBAR521内で画定されている。図5Bおよび5Cは、それぞれ図5Aの切断線5B−5Bおよび5C−5Cに沿った断面図である。図5Dは、図5Aに示す後述のFACTの例の電気回路の概略図である。
【0095】
FBARスタック521は、基板102で画定されている空洞104上に懸架されている。エッチャント到達穴103は、基板102の背面101から空洞104へ延びている。空洞104およびエッチャント到達穴103は、それぞれ空洞107の第1の部分および第2の部分とみなすことができる。別態様で、DSBAR106および108を、それぞれの空洞104上に個々に懸架させることもできる。その場合、エッチャント到達穴103は、基板102の背面101から各空洞104へと延びる。
【0096】
懸架型FBARデバイス500では、FBARスタック521は、上述のDSBAR106および温度補償素子109を有している。DSBAR106は、FBARスタック521の第1のDSBARを構成しており、DSBAR106では下部のFBARであるFBAR110を有している。DSBAR106はさらに、下部FBAR110上に積層された上部FBAR120と、FBAR110と120との間に設けられた音響減結合器130を有している。FBAR521はさらに、下部FBAR150、この下部FBAR150上に積層されたFBAR160、およびこれらのFBAR150と160との間に設けられている音響減結合器170からなる第2のDSBAR108を有している。
【0097】
さらに、FBARデバイス500は、DSBAR106および108のそれぞれの下部FBAR110および150を相互接続する電気回路と、DSBAR106および108のそれぞれの上部FBAR120および160を相互接続する電気回路とからなっている。図5Dは、電気回路141が、DSBAR106の下部FBAR110とDSBAR108の下部FBAR150とを逆並列で接続し、電気回路142が、DSBAR106の上部FBAR120とDSBAR108の上部FBAR160とを直列で接続している例を示す。
【0098】
DSBAR106では、下部FBAR110は、対向する平面電極112および114、ならびにこれらの電極間に設けられている圧電素子116からなっている。圧電素子116は、温度係数を有しており、その温度係数に、FBAR110の共振周波数の温度係数が少なくともある程度依存する。FBAR110の共振周波数の温度係数は、通常、さらに、電極112および114の温度係数に依存する。上部FBAR120は、対向する平面電極122および124、ならびにこれらの電極間に設けられている圧電素子126からなっている。上部FBAR120は、対向する平面電極122および124、ならびにこれらの電極間に設けられている圧電素子126を有している。圧電素子126は、温度係数を有しており、その温度係数に、FBAR120の共振周波数の温度係数が少なくともある程度依存する。FBAR120の共振周波数の温度係数は、通常、さらに、電極122および124の温度係数に依存する。温度補償素子109は、圧電素子116および126の温度係数と逆符号の温度係数を有している。
【0099】
DSBAR108では、下部FBAR150は、対向する平面電極152および154、ならびにこれらの電極間に設けられている圧電素子156からなっている。圧電素子156は、温度係数を有しており、この温度係数には、FBAR150の共振周波数の温度係数が少なくともある程度依存している。FBAR150の共振周波数の温度係数は、通常、さらに、電極152および154の温度係数に依存する。上部FBAR160は、対向する平面電極162および164、ならびにこれらの電極間に設けられている圧電素子166からなっている。圧電素子166は、温度係数を有しており、この温度係数には、FBAR160の共振周波数の温度係数に少なくともある程度依存する。FBAR160の共振周波数の温度係数は、通常、さらに、電極162および164の温度係数に依存する。温度補償素子109は、圧電素子156および166の温度係数と逆符号の温度係数を有している。
【0100】
温度係数の符号が逆であるので、温度補償素子109により、圧電素子116、126、156および166の温度係数、通常さらには電極112、114、122、124、152、154、162および166の温度係数の、FBARデバイス500を構成しているFBAR110、120、150および160の共振周波数の温度係数への影響が減少する。FBAR110、120、150および160の共振周波数の温度係数の低下によって、懸架型FBARデバイス500の他通貨帯域の温度係数が低下する。その結果、懸架型FBARデバイス500の通過帯域の温度係数は、温度補償素子を有していない同じFBARデバイスより小さい。
【0101】
図5Bに示す例では、温度補償素子109は、FBAR110内で電極114と圧電素子116との間に配置されている温度補償層115と、FBAR120内で電極122と圧電素子126との間に配置されている温度補償層123、FBAR150内で電極154と圧電素子156との間に配置されている温度補償層155と、FBAR160内で電共162と圧電素子166との間に配置されている温度補償層163とからなっている。温度補償層115、123、155および163は、それぞれ圧電素子116、126、156および166とは逆符号の温度係数を有する上述の温度補償材料の層である。懸架型FBARデバイス500の典型的な態様では、圧電素子116、126、156および166は、それぞれ負の温度係数を有しており、温度補償材料は、正の温度係数を有している。図示の例では、温度補償材料は、二酸化シリコンSiOである。別の態様では、温度補償材料、およびFBARスタック521が製造される他の材料のどちらかもしくは両方が、上述のように、FBARスタック521の製造後に空洞104から犠牲材料105を除去するために使用するリリースエッチャントに不適合になっている。
【0102】
FBARデバイス500では、DSBAR106の音響減結合器130は、下部FBAR110と上部FBAR120との間、具体的には、下部FBAR110の電極114と、上部FBAR120の電極122との間に配置されている。音響減結合器130は、FBAR110と120との間の音響エネルギーの結合を制御する。音響減結合器130は、FBAR110と120との間の音響エネルギーを、従来の積層型バルク音響共振器(SBAR)のようにFBARが互いに直接的に接触している場合より弱く結合する。さらに、DSBAR108の音響減結合器170は、FBAR150と160との間、具体的には、下部FBAR150の電極154と上部FBAR160の電極162との間に配置されている。音響減結合器170は、FBAR150と160との間の音響エネルギーの結合を制御する。音響減結合器170は、FBAR150と160との間の音響エネルギーを、FBARが互いに直接的に接触している場合より弱く結合する。音響減結合器130および170によって規定される音響エネルギーの結合によって、FBARデバイス500の通過帯域が決定される。
【0103】
図5A〜5Cに示す例では、音響減結合器130および170は、音響減結合層131のそれぞれの部分となっている。別の態様では、音響減結合器130および170はそれぞれ、異なる音響インピーダンスを有する音響減結合材料の音響減結合層からなっており、これについては、上記の米国特許出願第10/965,449号明細書により詳細に記載されている。別の態様では、音響減結合器130および170は、構造的に独立している。
【0104】
図5Dに、DSBAR106および108を相互に接続しかつDSBAR106および108を懸架型FBARデバイス500内の外部電気回路(図示せず)に接続する電気回路の一例を概略的に示す。電気回路141は、下部FBAR110と150とを逆並列に、さらに信号端子143およびアース端子144に接続する。図5A〜5Cに示すFBARデバイス500の態様では、端子パッド138が信号端子143を、端子パッド132および172がアース端子144を提供する。さらにこの態様では、電気回路141は、端子パッド132からFBAR110の電極112へと延びる電気トレース133、FBAR110の電極114から、相互接続パッド176と電気的に接触している相互接続パッド136へと延びる電気トレース137、相互接続パッド176から信号パッド138へと延びる電気トレース139、相互接続パッド176からFBAR150の電極152へと延びる電気トレース177、FBAR150の電共154から端子パッド172へと延びる電気トレース173、ならびに相互接続端子パッド132および172を相互接続する電気トレース167によって得られる。
【0105】
図5Dに示す例示的な電気構成を示す概略図では、電気回路142は、上部FBAR120および160を直列に、さらに信号端子145および146に、また任意にセンタータップ端子147に接続する。図5A〜5Cに示す態様では、端子パッド134および174は信号パッド145および146を提供し、端子パッド178はセンタータップ端子147を提供する。さらにこの態様では、電気回路142は、端子パッド134からFBAR120の電極124へと延びる電気トレース135、FBAR120の電極122からFBAR160の電極162へと延びる電気トレース171、トレース171からセンタータップ147へと延びる電気トレース179、およびFBAR160の電極164から端子パッド174へと延びる電気トレース175によって得られる。電気トレース169によって相互接続されている端子パッド163および168も図示されており、これらは、端子パッド134および174のための局部的なアースを提供する。図示の例では、電気トレース169は、さらに端子パッド178へと延びている。
【0106】
図5Dで例示されている電気的接続によって、平衡型の第1の、インピーダンス変換比4:1のFACTまたは平衡型の第2のインピーダンス変換比1:4のFACTが得られる。下部FBARは、代替的に、並列、直列および逆直列に相互接続でき、上部FBARは、代替的に、並列、逆並列および逆直列に相互接続することができ、これにより、表1に示す他のインピーダンス変換比が達成される。
【0107】
【表1】

【0108】
表1では、行見出しは電気回路141の構成を、列見出しは電気回路142の構成を表し、BはFACTが電気的に平衡であることを表し、UはFACTが平衡でないことを表し、XはFACTが機能しないことを表す。インピーダンス変換比は、示されている行見出しにより表される電気回路141の構成から、列見出しによって表される電気回路142の構成への変換比である。1:1のインピーダンス変換比を有している構成に対して、LOWは、FACTが低いインピーダンスを有していて、2つのFBARの並列接続のインピーダンスに等しくなっていることを表し、HIGHは、FACTが高いインピーダンスを有していて、1つのFBARの直列接続のインピーダンスに等しくなっていることを表す。
【0109】
図6は、本発明による懸架型デバイスの第5の態様600の電気的接続を示す概略図である。懸架型デバイスのこの態様は、懸架型FBARデバイス600として例示されており、このデバイスにおいては、電気的に直列に接続されている2つのDSBAR106および108からなる帯域通過フィルタが、FBARスタック621で画定されている。DSBAR106および108は、図5A〜5Cを参照して上述した通りであるが、異なる方式で相互接続されている。図6に示す二重DSBARベースの帯域通過フィルタは、図4Aおよび4Bを参照して説明した単一のDSBAR帯域通過フィルタよりも、大きな遮断帯域の阻止有する。
【0110】
懸架型FBARデバイス600は、FBARスタック621、温度補償素子(図示せず)、第1の端子132および134、第2の端子172および174、ならびに電気回路140を有している。FBARスタック621は、図5A〜5Cを参照して上述したFBARスタック521と同様に構成されている。しかし、DSBAR108では、参照番号150が上部FBARを表し、参照番号160が下部FBARを表している。
【0111】
FBARスタック621は、基板(図示せず)に画定された空洞(図示せず)上に、FBARスタック521と同様の方式で懸架されている。エッチャント到達穴は、基板の背面から空洞へと、上記のものと同様の方式で延びている。別態様では、FBARスタック621を構成しているDSBAR106および108は、上述のように、個々の空洞上に個々に懸架されていてよい。
【0112】
FBARスタック521と同様に、FBARスタック621は、温度補償材料の層(図示せず)を有しており、これらの層全体として温度補償素子を構成している。一態様では、温度補償材料は、二酸化シリコンSiOである。別の態様では、温度補償材料およびFBARスタック621が製造される他の材料のいずれかもしくは両方が、上述のように、FBARスタック621の製造後、空洞104から犠牲材料105を除去するために使用されるリリースエッチャントに不適合である。FBARスタック621については、さらなる説明をしない。
【0113】
懸架型FBARデバイス600では、電気回路140は、第1の端子132、134と第2の端子172、174との間で、第1のDSBAR106および第2のDSBAR108を直列に接続する。図6に示すFBARデバイス600の態様は、第1の端子132、134間のインピーダンスと、第2の端子172、174間のインピーダンスとの比1:1を有している。
【0114】
以下に、電気回路140を、第1の端子132、134が入力端子を表しかつ第2の端子172、174が出力端子を表している図6に示す例を参照して、さらに詳細に説明する。別態様では、第1の端子132、134が出力端子を、第2の端子172、174が入力端子を表していてもよい。電気回路140は、導電体136、138、176、178、182および184からなっている。導電体136および138は、第1の端子132および134をそれぞれ、第1のDSBAR106の第1のFBAR110の電極112および114にそれぞれ電気的に接続している。導電体182および184は、それぞれ第2のFBAR120の電極122を第1のFBAR150の電極152に接続し、第2のFBAR120の電極124を第1のFBAR150の電極154に接続することによって、DSBAR106および108を直列に接続する。導電体176および178は、第2のDSBAR108の第2のFBAR160の電極162および164をそれぞれ、出力端子172および174に接続する。
【0115】
懸架型デバイス600を構成する懸架型FBARスタック621のさらなる詳細は、本開示の譲受人に譲渡されたLarson IIIらによる米国特許出願第11/069,409号明細書に記載されており、その内容は参照により本発明に組み込まれる。2つ以上のDSBARからなる帯域通過フィルタも、米国特許出願第11/069,409号明細書に記載されている。リリースエッチャントに不適合な材料を組み込んでいる帯域通過フィルタの態様は、図1A〜1Rを参照して説明したプロセスを用いて製造され、図3Aおよび3Bを参照して上述した構造的な特徴を有している。
【0116】
上述のように、ウェハ規模の製造を、上述の懸架型デバイス100、300、400、500または600と同様の数千の懸架型デバイスを同時に製造するために使用する。そのようなウェハ規模の製造によって、懸架型デバイスを安価に製造できるようになる。図4Aおよび4Bを参照して上述した懸架型FBARデバイス400の一態様を製造するために、図1A〜1Iおよび1J〜1Rを参照して上述した方法を使用する例を、図1A〜1Iおよび1J〜1R、図7A〜7Jの平面図および図7K〜7Tの断面図を参照して以下に説明する。異なるマスクおよび/またはいくつかの段階の省略によって、図7A〜7Jおよび図7K〜7Tを参照して以下に説明するデバイス製造プロセスを、上述のFBARデバイス100、300、500および600の態様を製造するために使用することもできる。デバイス製造プロセスは、他の懸架型デバイスの製造にも採用することができる。
【0117】
以下にその製造について説明するFBARデバイス400の態様の通過帯域は、約1.9GHzの公称中心周波数を有している。別の周波数での動作のための態様の構造および製造は同様であるが、その厚みおよび横方向の寸法は、以下に例示するものとは異なる。以下にその製造について説明するFABRデバイス400の例は、図4Aおよび4Bを参照して上述した温度補償素子109と同様の構造を有する温度補償素子を有している。製造プロセスは、温度補償素子109を製造するために、図3Bを参照して上述したものとは別の構成を有するように変更することが可能である。
【0118】
上述のように、懸架型FBARデバイスは、典型的には単結晶シリコンのウェハ上で製造される。ウェハの一部が、製造される各懸架型FBARデバイスに対して、FBARデバイス400(図4Aおよび4B)の基板102に対応する基板を構成する。基板102を構成するウェハの一部内および一部上へのFBARデバイス400の製造を、図7A〜7Jおよび図7K〜7Tに示し、また以下に説明する。FBARデバイス400を製造する場合、ウェハ上の他のFBARデバイスも同様に製造する。
【0119】
図1A〜1Dおよび1J〜1Mを参照して上述したプロセスを行うと、図7Aおよび7Kに示すように、基板102の前面111と同一面に滑らかで平坦な面を有する犠牲材料105で充填された空洞104が残される。
【0120】
第1の金属層を、基板102の前面111および犠牲材料105上に堆積させる。第1の金属層を、図7Bおよび7Lに示すようにパターン形成し、電極112、端子パッド132、および電極112と端子パッド132との間に延びる電気トレース133を画定する。電極112は、犠牲材料105上に配置されている。端子パッド132は、基板102上に配置されている。
【0121】
電極112は、通常、ウェハの主表面に平行な面において非対称の形状を有している。非対称の形状により、電極112がその一部を形成するFBAR110(図4B)での横方向モードは最小限になる。これについては、本開示の譲受人に譲渡されたLarson IIIらの米国特許第6,215,375号明細書に記載されており、その内容は参照により本発明に組み込まれる。
【0122】
さらに図4Bを参照すると、後述のように、電極114は第2の金属層で画定されており、電極122は第3の金属層で画定されており、電極124は第4の金属層で画定されている。電極が画定される金属層のパターン形成は、ウェハの主表面に対して平行な面それぞれで、FBAR110の電極112および114が同じ形状、寸法、配向および位置を有し、FBAR120の電極122および124が同じ形状、寸法、配向および位置を有するように行われる。通常、電極114および122がさらに、同じ形状、寸法、配向および位置を有している。
【0123】
一態様では、各金属層の材料は、約300nmの厚みにスパッタリングにより堆積させたモリブデンであった。金属層は、ドライエッチングによりそれぞれパターン形成される。金属層において各愛知された電極は、それぞれ約12,000平方μmの面積を有する五角形であった。他の電極面積により、別の特性インピーダンスが得られる。代替的に、金属層の材料として別の耐熱性の金属、例えばタングステン、ニオブおよびチタンを使用することもできる。別態様では、金属層はそれぞれ、1つ以上の材料の層を有している。
【0124】
FBARデバイス400の電極の材料を選択する際に考慮すべき1つの要素は、電極材料の音響特性である。つまり、FBARデバイスの残される金属部分の1種または複数種の材料の音響特性は、導電性のような別の特性よりは重要ではない。よって、FBARデバイス400の残される金属部分の1種または複数種の材料は、電極の材料とは異なっていてよい。
【0125】
圧電素子の層を堆積させ、図7Cおよび7Mに示すようにパターン形成し、圧電素子116を画定する。圧電素子のパターン形成は、電極112を覆うように、犠牲材料105を完全に覆うように、かつ犠牲材料105の周辺を越えて基板102の前面111上に延びるように行う。この構成によって、圧電層が空洞104(後で内部にリリースエッチャントを導入する)をFBARスタックの残りの部分から分離することが可能となる。圧電層をさらにパターン形成して、端子パッド132を露出させる。
【0126】
一態様では、後述の圧電素子116および圧電素子126を形成するために堆積させる圧電材料は窒化アルミニウムであり、スパッタリングによって約1.4μmの厚みに堆積させた。圧電材料は、水酸化カリウム中でのウェットエッチングまたは塩素ベースのドライエッチングによってパターン形成された。圧電素子116および126の代替的な材料は、酸化亜鉛、硫化カドミウムおよび分極した強誘電性材料、例えばペロブスカイト強誘電性材料を含み、チタンジルコン酸鉛、メタニオブ酸鉛、チタン酸バリウムが含まれる。
【0127】
温度補償材料の第1の層を堆積させ、図7Dおよび7Nに示すようにパターン形成して、温度補償素子109の一部を構成する温度補償層115を画定する。図示の例では、温度補償層115を形成するために堆積させる温度補償材料、およびその後に後述のように温度補償層123を形成するために堆積させる堆積させる温度補償材料を、電極112と同じ形状、寸法、配向および位置を有するようにパターン形成する。代替的な態様では、温度補償材料を、圧電素子116と同じ形状、寸法および位置を有するようにパターン形成することができる。さらなる代替的な態様では、温度補償材料を、電極112の広がりと圧電素子116の広がりとの間の中間の広がりを有するようにパターン形成する。
【0128】
一態様では、温度補償材料の第1の層、およびその堆積については後述する温度補償材料の第2の層の材料は、二酸化シリコンSiOであった。温度補償材料は、化学所着(CVD)によって堆積させた。別の堆積方法には、スパッタリングおよび熱蒸発が含まれる。温度補償材料を、六フッ化硫黄(SH)、水素(H)および酸素(O)の混合物をエッチャントとして利用して、ドライエッチング、通常、反応性イオンエッチング(RIE)によってパターン形成する。層厚みは、FBARデバイス400(図4A)の所望の温度係数に依存していた。一態様では、温度補償層115および123の厚みは約100nmであった。
【0129】
第2の金属層を堆積させ、図7Eおよび7Oに示すように、パターン形成して、電極114、端子パッド134、および電極114と端子パッド134との間に延びる電気トレース135を画定する。これによって、FBAR110の製造が完了する。
【0130】
次に、音響減結合材料の層を堆積させ、図7Fおよび7Pに示すようにパターン形成して、音響減結合器130を画定する。音響減結合器130のパターン形成は、少なくとも電極114を覆うように、さらには端子パッド132および134が露出するように行う。音響減結合器は、通常、プラスチック材料の4分の1波長層である。
【0131】
一態様では、音響減結合器130の音響減結合材料は、厚み約200nmのポリイミドであり、つまり、この厚みはポリイミドにおける中心周波数波長の4分の1である。ポリイミドを、スピンコーティングによって堆積させ、フォトリソグラフィによりパターン形成した。ポリイミドは感光性であるのでフォトレジストは必要ない。上述のように、別のプラスチック材料を、音響減結合材料として使用することができる。音響減結合材料は、スピンコーティング以外の方法によって堆積させることができる。
【0132】
音響減結合材料がポリイミドである態様では、ポリイミドの堆積およびパターン形成後、ウェハをまず空気中で温度約250℃で、最終的には、不活性雰囲気、例えば窒素雰囲気中で温度約415℃で焼成し、その後さらなるプロセスを行う。この焼成によって、ポリイミドの揮発性成分が蒸発し、後続のプロセス中に起こる揮発性成分の蒸発が、この後堆積させる層の分離を引き起こすことを防止できる。
【0133】
第3の金属層を堆積し、図7Gおよび7Qに示すようにパターン形成して、電極122から端子パッド134に延びる電気トレース137を画定する。端子パッド134は、トレース135によって電極114にも電気的に接続されている。
【0134】
温度補償材料の第2の層を堆積し、図7Hおよび7Rに示すようにパターン形成して、本発明の温度補償素子109の残りを構成する温度補償層123を画定する。図示の例では、温度補償材料を、電極112と同じ形状、寸法、配向および位置を有するように上述のようにパターン形成する。
【0135】
圧電材料の第2の層を堆積させ、図7Iおよび7Sに示すようにパターン形成して、圧電素子126を画定する。第2の圧電層を、端子パッド132および134が露出するようにパターン形成する。
【0136】
第4の金属層を堆積させ、図7Jおよび7Tに示すようにパターン形成して、電極124、端子パッド138、および電極124から端子パッド138へと延びる電気トレース139を画定する。これにより、FBAR120、ひいてはFBARスタック421の製造が完了する。
【0137】
金の保護層(図示せず)を、端子パッド132、134および138の露出した表面上に堆積させる。
【0138】
FBAR400の製造を完了させるために、図1F〜1Iおよび1O〜1Rを参照して上述したプロセスを行う。このプロセスによって、FBARデバイス400は、図4Aおよび4Bに示す状態となる。
【0139】
FBARデバイス400を、ホストである電気装置、例えば無線電話に実装し、電気的接続を、FBARデバイスの端子パッド132、134および138と、ホストデバイスの部材であるパッドとの間に形成する。
【0140】
上述のように、音響減結合器130の代替的な音響減結合材料は、架橋ポリフェニレンポリマーである。第3の金属層をパターン形成して電極114を画定した後、図7Eおよび7Oを参照して上述したように、架橋ポリフェニレンポリマーのための前駆体溶液を、図7Fおよび7Pを参照して上述したのと同様の方式でスピンコーティングするが、パターン形成はしない。前駆体溶液の組成およびスピン速度は、架橋ポリフェニレンポリマーが、厚み約187nmの層を形成するように選択される。この厚みは、FBARデバイス400の通過帯域の中心周波数に等しい周波数を有する音響信号の架橋ポリフェニレンポリマーにおける波長λの4分の1に相当する。前駆体溶液の層を堆積した後、ウェハを約385℃〜約450℃の範囲の温度で不活性環境、つまり真空もしくは窒素雰囲気中で焼成し、その後さらなるプロセスを行った。焼成により、まず前駆体溶液から有機溶剤が除去され、続いてオリゴマーが上述のように架橋して、架橋ポリフェニレンポリマーを形成する。
【0141】
一態様では、架橋ポリフェニレンポリマーのための前駆体溶液は、The Dow Chemical CompanyよりSiLK(登録商標)Jの名称で販売されているものであった。代替的に、前駆体溶液は、The Dow Chemical Companyより登録商標SiLKで現在販売されているまたは将来的に販売される前駆体溶液の任意のものであってよい。特定の態様では、接着促進剤の層を、前駆体溶液をスピンコーティングする前に堆積させた。硬化すると約2Mraylの音響インピーダンスを有する架橋ポリフェニレンポリマーを形成するオリゴマーを含有する前駆体溶液は、別の供給業者からも現在または将来的に入手可能であり、また使用可能でもある。
【0142】
図7Gおよび7Qを参照して上述したものと同様の方式で、第3の金属層を堆積させるが、まず図7Fに示す音響減結合器130のパターン形成と同様にパターン形成し、ハードマスクを画定する。このハードマスクは、架橋ポリフェニレンポリマーの層をパターン形成するように後で使用され、音響減結合器130を画定する。始めにパターン形成された第3の層は、音響減結合器130と同じ広がりを有しており、端子パッド132および134を露出させる。
【0143】
架橋ポリフェニレンポリマーの層を、ハードエッチングマスクとして使用される始めにパターン形成された第3の金属と共に、図7Fに示すようにパターン形成する。架橋ポリフェニレンポリマーの層をパターン形成することによって、音響減結合器130の広がりが画定され、これにより、端子パッド132および134ならびに犠牲材料105の一部が露出する。パターン形成は、反応性イオンエッチング(RIE)によって酸素/窒素混合物をエッチャントして使用して行う。
【0144】
次に、第3の金属層を、図7Gおよび7Qに示すように再パターン形成し、これにより、電極122、および電極122と端子パッド134との間に延びる電気トレースを画定する。
【0145】
架橋ポリフェニレンポリマーの層を音響減結合器として備えているFBARデバイス400の態様の製造は、図7H〜7Jおよび7R〜7Tを参照して上述したプロセスを行うことによって完了する。
【0146】
上述のものと同様の技術を使用して、真空堆積によって堆積させたパリレンの層に音響減結合器130を画定する。
【0147】
上で例示した電極および圧電素子の厚みは、温度補償素子109を有していないFBAR400の態様と同様の従来のFBARデバイスの厚みである。FBARデバイス400の一態様では、FBARスタック211へ温度補償素子109を追加しているにもかかわらず、1つ以上の素子の厚みを減少させて、FBARデバイスの中心周波数を保持している。厚みを減少させた1つ以上の素子の種類、および各厚みの減少度合いは、温度補償素子109の材料の厚みおよび温度補償素子109により提供される温度補償に依存する。素子の種類および厚みの減少度合いはさらに、上述のように、FBARデバイスが使用される用途にも依存する。圧電素子の厚みを減少させると、結合定数が減少する。1つ以上の電極の厚みを減少させると、温度補償材料が電極と適合する導電性を有していない場合には、直列抵抗が増大する。
【0148】
以上、本開示を例示的な実施態様を利用して説明した。しかし、本発明は、特許請求の範囲によって規定されており、詳細に説明された態様に限定されることはない。
【図面の簡単な説明】
【0149】
【図1A】本発明による懸架型デバイスの第1の態様を形成するための、本発明によるプロセスの一例を示す平面図である。
【図1B】本発明による懸架型デバイスの第1の態様を形成するための、本発明によるプロセスの一例を示す平面図である。
【図1C】本発明による懸架型デバイスの第1の態様を形成するための、本発明によるプロセスの一例を示す平面図である。
【図1D】本発明による懸架型デバイスの第1の態様を形成するための、本発明によるプロセスの一例を示す平面図である。
【図1E】本発明による懸架型デバイスの第1の態様を形成するための、本発明によるプロセスの一例を示す平面図である。
【図1F】本発明による懸架型デバイスの第1の態様を形成するための、本発明によるプロセスの一例を示す平面図である。
【図1G】本発明による懸架型デバイスの第1の態様を形成するための、本発明によるプロセスの一例を示す平面図である。
【図1H】本発明による懸架型デバイスの第1の態様を形成するための、本発明によるプロセスの一例を示す平面図である。
【図1I】本発明による懸架型デバイスの第1の態様を形成するための、本発明によるプロセスの一例を示す平面図である。
【図1J】図1Aの切断線1J−1Jに沿った断面図である。
【図1K】図1Bの切断線1K−1Kに沿った断面図である。
【図1L】図1Cの切断線1L−1Lに沿った断面図である。
【図1M】図1Dの切断線1M−1Mに沿った断面図である。
【図1N】図1Eの切断線1N−1Nに沿った断面図である。
【図1O】図1Fの切断線1O−1Oに沿った断面図である。
【図1P】図1Gの切断線1P−1JPに沿った断面図である。
【図1Q】図1Hの切断線1Q−1Qに沿った断面図である。
【図1R】図1Iの切断線1R−1Rに沿った断面図である。
【図2】デバイス構造をリリースエッチャントから保護する代替的な手法を示す側面図である。
【図3A】本発明による懸架型デバイスの第2の態様の平面図である。
【図3B】図3Aの切断線3B−3Bに沿った断面図である。
【図3C】図3Aの切断線3C―3Cに沿った断面図である。
【図3D】図3Aに示す懸架型デバイスの態様における電気的接続を示す概略図である。
【図4A】本発明による懸架型デバイスの第3の態様の平面図である。
【図4B】図4Aの切断線4B−4Bに沿った断面図である。
【図5A】本発明による懸架型デバイスの第4の態様の平面図である。
【図5B】図5Aの切断線5B−5Bに沿った断面図である。
【図5C】図5Aの切断線5C−5Cに沿った断面図である。
【図5D】図5Aに示す懸架型デバイスの態様における電気的接続を示す概略図である。
【図6】本発明による懸架型デバイスの第5の態様における電気的接続を示す概略図である。
【図7A】本発明による懸架型デバイスの、図4Aおよび図4Bに示す態様を形成するためのプロセスの一例を示す平面図である。
【図7B】本発明による懸架型デバイスの、図4Aおよび図4Bに示す態様を形成するためのプロセスの一例を示す平面図である。
【図7C】本発明による懸架型デバイスの、図4Aおよび図4Bに示す態様を形成するためのプロセスの一例を示す平面図である。
【図7D】本発明による懸架型デバイスの、図4Aおよび図4Bに示す態様を形成するためのプロセスの一例を示す平面図である。
【図7E】本発明による懸架型デバイスの、図4Aおよび図4Bに示す態様を形成するためのプロセスの一例を示す平面図である。
【図7F】本発明による懸架型デバイスの、図4Aおよび図4Bに示す態様を形成するためのプロセスの一例を示す平面図である。
【図7G】本発明による懸架型デバイスの、図4Aおよび図4Bに示す態様を形成するためのプロセスの一例を示す平面図である。
【図7H】本発明による懸架型デバイスの、図4Aおよび図4Bに示す態様を形成するためのプロセスの一例を示す平面図である。
【図7I】本発明による懸架型デバイスの、図4Aおよび図4Bに示す態様を形成するためのプロセスの一例を示す平面図である。
【図7J】本発明による懸架型デバイスの、図4Aおよび図4Bに示す態様を形成するためのプロセスの一例を示す平面図である。
【図7K】図7Aの切断線7K−7Kに沿った断面図である。
【図7L】図7Bの切断線7L−7Lに沿った断面図である。
【図7M】図7Cの切断線7M−7Mに沿った断面図である。
【図7N】図7Dの切断線7N−7Nに沿った断面図である。
【図7O】図7Eの切断線7O−7Oに沿った断面図である。
【図7P】図7Fの切断線7P−7Pに沿った断面図である。
【図7Q】図7Gの切断線7Q−7Qに沿った断面図である。
【図7R】図7Hの切断線7R−7Rに沿った断面図である。
【図7S】図7Iの切断線7S−7Sに沿った断面図である。
【図7T】図7Jの切断線7T−7Tに沿った断面図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
前面および背面を有する基板と、
前記基板内に画定されかつ該基板の前面から当該基板内に延びる空洞と、
前記空洞上に懸架されかつFBARを含むFBARスタックと、
前記基板内に画定されかつ該基板の背面から当該基板を通って前記空洞へと延びる穴とを備えている、薄膜バルク音響共振器(FBAR)デバイス。
【請求項2】
前記FBARスタックが、温度補償素子をさらに備えている、請求項1に記載のFBARデバイス。
【請求項3】
前記温度補償素子が、二酸化シリコン(SiO)からなっている、請求項1に記載のFBARデバイス。
【請求項4】
前記基板内に画定されている追加的な穴をさらに備えており、該穴のそれぞれが、前記基板の背面から該基板を通って前記空洞へと延びる、請求項1に記載のFBARデバイス。
【請求項5】
前記FBARスタックが、ラダー型フィルタを含む、請求項1に記載のFBARデバイス。
【請求項6】
前記FBARスタックが、積層バルク音響共振器(SBAR)を含む、請求項1に記載のFBARデバイス。
【請求項7】
前記FBARスタックが、減結合された積層バルク音響共振器(DSBAR)を含む、請求項1に記載のFBARデバイス。
【請求項8】
前記FBARスタックが、フィルム音響結合変換器(FACT)を含む、請求項1に記載のFBARデバイス。
【請求項9】
前記FBARスタックが、帯域通過フィルタとして接続されている減結合された積層バルク音響共振器を含む、請求項1に記載のFBARデバイス。
【請求項10】
前面および背面を有する基板と、
前記基板内に画定され、広く浅い第1の部分および狭く深い第2の部分を有している空洞であって、該第1の部分が前記基板の前面から該基板内に延びており、該第2の部分が当該基板の背面から当該基板を通って前記第1の部分へと延びている、空洞と、
前記空洞の第1の部分上に懸架されているデバイス構造とを備えている、デバイス。
【請求項11】
前記空洞の各部分が、それぞれの横方向の寸法と、それぞれの深さとを有しており、
前記第1の部分の前記横方向の寸法が、当該第1の部分の前記深さより少なくとも1桁大きく、
前記第2の部分の前記横方向の寸法が、前記第1の部分の前記横方向の寸法より小さい、請求項10に記載のデバイス。
【請求項12】
前記空洞が、狭く深い追加的な第2の部分をさらに備えており、該第2の部分のそれぞれが、前記基板の前記背面から該基板を通って前記空洞の前記第1の部分へと延びている、請求項10に記載のデバイス。
【請求項13】
前記デバイス構造が、薄膜バルク音響共振器(FBAR)を含む、請求項10に記載のデバイス。
【請求項14】
前記FBARが、温度補償素子を備えている、請求項13に記載のデバイス。
【請求項15】
懸架型デバイスを形成する方法であって、
前面および背面を有する基板を提供し、該基板が、広く浅い第1の部分および狭く深い第2の部分を有する空洞を画定しており、前記第1の部分が、前記基板の背面から該基板内へ延びていて、犠牲材料で充填されており、前記第2の部分が、前記第1の部分から前記基板内へ深く延びており、
前記犠牲材料上にデバイス構造を製造し、
前記基板の背面から、リリースエッチャントを前記空洞の前記第2の部分を介して導入し、前記空洞の前記第1の部分から、前記デバイス構造の下に位置する前記犠牲材料を除去する、方法。
【請求項16】
前記空洞の前記第2の部分が、前記基板の背面から前記空洞の前記第1の部分へと延びる、請求項15に記載の方法。
【請求項17】
前記導入することが、前記基板の前記背面から前記空洞の前記第2の部分へと到達を提供することを含む、請求項15に記載の方法。
【請求項18】
前記空洞の前記第2の部分への到達を提供することが、前記基板の厚みを、前記背面から減少させ、前記第2の部分を露出させることを含む、請求項17に記載の方法。
【請求項19】
前記導入の前に、デバイス構造をリリースエッチャントから保護することをさらに含む、請求項15に記載の方法。
【請求項20】
前記提供することが、
基板を設け、
前記基板内に空洞を形成し、
前記犠牲材料を堆積させることを含む、請求項15に記載の方法。
【請求項21】
前記空洞の前記第2の部分が、前記基板の背面から前記空洞の前記第1の部分へと延びる、請求項20に記載の方法。
【請求項22】
前記デバイス構造を製造することが、薄膜バルク音響共振器(FBAR)スタックを製造することを含む、請求項15に記載の方法。
【請求項23】
前記空洞の前記第2の部分が、前記基板の前記背面から前記空洞の前記第1の部分へと延びている、請求項22に記載の方法。
【請求項24】
前記導入することが、前記基板の前記背面から前記空洞の前記第2の部分への到達を提供することを含む、請求項24に記載の方法。
【請求項25】
前記空洞の前記第2の部分への到達を提供することが、前記基板の厚みを該基板の背面から減少させ、前記第2の部分を露出させる、前記24に記載の方法。
【請求項26】
前記FBARスタックを、リリースエッチャントから保護することをさらに含む、請求項22に記載の方法。
【請求項27】
前記デバイス構造を製造することが、前記犠牲材料に対してエッチング選択性の低い材料を堆積させることを含む、請求項16に記載の方法。

【図1A】
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【図1B】
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【図1C】
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【図1D】
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【図1E】
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【図1F】
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【図1G】
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【図1H】
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【図1I】
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【図1J】
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【図1K】
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【図1L】
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【図1M】
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【図1N】
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【図1O】
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【図1P】
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【図1Q】
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【図1R】
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【図2】
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【図3A】
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【図3B】
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【図3C】
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【図3D】
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【図4A】
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【図4B】
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【図5A】
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【図5B】
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【図5C】
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【図5D】
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【図6】
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【図7A】
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【図7B】
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【図7C】
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【図7D】
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【図7E】
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【図7F】
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【図7G】
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【図7H】
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【図7I】
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【図7J】
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【図7K】
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【図7L】
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【図7M】
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【図7N】
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【図7O】
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【図7P】
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【図7Q】
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【図7R】
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【図7S】
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【図7T】
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【公開番号】特開2007−6486(P2007−6486A)
【公開日】平成19年1月11日(2007.1.11)
【国際特許分類】
【外国語出願】
【出願番号】特願2006−169857(P2006−169857)
【出願日】平成18年6月20日(2006.6.20)
【出願人】(506076606)アバゴ・テクノロジーズ・ジェネラル・アイピー(シンガポール)プライベート・リミテッド (129)
【Fターム(参考)】