説明

成形体製造方法、成形体製造システム

【課題】繊維束に対する樹脂の含浸量を制御する。
【解決手段】(a)に示すように、複数の繊維が束ねられた繊維束60,62,64は、表面に樹脂が付着した含浸ロール23に押し付けられて回転移動することで、樹脂を含浸される。各繊維束の幅は、(b)(c)のように拡げることが可能である。そして、幅を拡げるほど、繊維束と樹脂との接触量が増大し、これにより樹脂の含浸量も多くなる。例えば、高圧タンクを成型する場合、内層側に巻回する繊維束に対しては幅を拡げて樹脂の含浸を行い、外層側に巻回する繊維束に対しては幅を狭めて樹脂の含浸を行う。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、樹脂が含浸された繊維束を巻回することにより、繊維強化樹脂成形体を製造する技術に関する。
【背景技術】
【0002】
下記特許文献1には、フィラメントワインディング成形において、繊維に含浸させる樹脂量を調整する技術開示されている。この技術では、樹脂を含浸させた繊維が、幅方向を規制されたガイド板と、その上から押し付けを行う部材との空隙に通される。押し付けを行う部材を上下方向に移動することで、空隙の断面積が変えられ、これにより、含浸される樹脂量が制御される。
【0003】
下記特許文献2には、フィラメントワインディング成形において、樹脂を含浸した繊維をマンドレルに供給するする技術が開示されている。この技術では、樹脂が含浸された繊維を、回転可能なローラと、それに押し付けられるパッドとの間に通されて、余分な樹脂の絞り取りが行われる。さらに、繊維は、中央側ほど凹んだフィードローラにガイドされてマンドレルに供給されるため、フィードローラの端部の鍔にあたることはなく、幅変動も生じない。
【0004】
下記特許文献3には、含浸ローラを用いて繊維に樹脂を含浸させる技術が開示されている。この技術では、含浸ローラ表面に近接配置された膜厚調整板によって、含浸ローラ表面に付着する樹脂量を制御している。膜厚調整板は、含浸ローラが正回転した場合に用いられるものと、逆回転した場合に用いられるものが用意されている。そして、繊維位置と正逆行速度などによって膜厚を制御し、繊維が逆行しても樹脂含浸量を一定に制御している。
【0005】
【特許文献1】特開平5−286043号公報
【特許文献2】特開平7−205313号公報
【特許文献3】特開2002−28925号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
繊維強化樹脂成形体を製造する場合には、巻回する層によって、繊維束に含浸された樹脂の量を変化させたいことがある。
【0007】
本発明の目的は、繊維束に対する樹脂の含浸量を制御する新たな技術を確立することにある。
【0008】
本発明の別の目的は、繊維束に含浸する樹脂量の調整を簡易化する技術を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の成形体製造方法の一態様においては、複数の繊維が束ねられた繊維束と液状の樹脂との接触量を制御する制御工程と、制御された前記接触量に基づいて前記繊維束と前記樹脂を接触させて、前記接触量に応じた量の前記樹脂を前記繊維束に含浸させる含浸工程と、前記樹脂を含浸された前記繊維束を複数層にわたって巻回して、繊維強化樹脂成形体を成形する成形工程と、を含み、前記制御工程では、前記繊維束が巻回される層に応じて、前記接触量を制御する。
【0010】
成形体製造方法は、繊維強化樹脂成形体を製造するための方法である。ここで、繊維強化樹脂成形体は、樹脂が含浸された繊維束を巻回する成形工程を経て成形される成形体である。繊維強化樹脂成形体は、樹脂が含浸された繊維束のみによって製造されてもよいが、さらに別部材を用いて製造されてもよい。別部材の例としては、高圧タンクにおけるライナのように巻回時に芯となる部材、高圧タンクにおける口金のように成形体を機能化する部材、繊維束層間に設けられるハニカム構造体のように成形体を強化する部材、成形体表面をコーティングするガラス繊維のように成形体を保護する部材などを挙げることができる。
【0011】
成形体製造方法は、制御工程、含浸工程、及び成形工程を含んでいる。制御工程は、繊維束と液状の樹脂との接触量を制御する工程である。液状の樹脂とは、繊維束への含浸が可能な程度の流動性が確保された樹脂を言う。樹脂としては、典型的には、エポキシ樹脂、ポリエステル樹脂などの熱硬化性樹脂が用いられるが、熱可塑性樹脂が用いられることもある。また、繊維の例としては、炭素繊維、ガラス繊維、アラミド繊維などを挙げることができる。繊維束と樹脂との接触量とは、接触面積の量、あるいは、接触時間の量によって評価可能である。制御工程では、前記繊維束が巻回される層に応じた接触量の制御、すなわち、層に応じて接触量が複数段階(無限段階でもよい)に変えられる制御が行われる。
【0012】
含浸工程では、制御工程で制御された接触量に基づいて繊維束と樹脂を接触させることにより、接触量に応じた量の樹脂を繊維束に含浸させる。繊維束に対し樹脂を含浸させるとは、繊維束の一部又は全部に対して樹脂を付着させることをいう。さらには、含浸によって、さらに、繊維束を構成する複数の繊維間の一部又は全部に樹脂を充填することもある。そして、成形工程では、繊維束を複数層にわたって巻回することで繊維強化樹脂成形体が成形される。巻回される繊維束は、含浸工程で樹脂が含浸された繊維束そのものであってもよいし、それをさらに複数束ねたものであってもよい。繊維束に含まれる繊維の本数は、例えば数千本〜数万本程度に設定される。また、巻回される繊維束は、複数の層にわたって連続したものであってもよいし、連続していないものであってもよい。なお、成形体の製造にあたっては、この他の工程を含めることも可能であり、例えば、成型工程の後に、表面をコーティングする工程や熱硬化性樹脂を硬化させる加熱工程などを行う態様を挙げることができる。
【0013】
この構成によれば、繊維束が巻回される層に応じて繊維束と樹脂との接触量を制御することにより、繊維束に含浸させる樹脂の量を制御することが可能となる。これにより、従来に比べ、繊維束に含浸する樹脂量の調整を簡易化できる可能性がある。
【0014】
本発明の成形体製造方法の一態様においては、前記制御工程では、前記繊維束と前記樹脂との接触面積を変化させることにより、前記接触量を制御する。
【0015】
本発明の成形体製造方法の一態様においては、前記制御工程では、前記繊維束の表面積を変化させることにより、前記接触面積を変化させる。接触面積の変化は、例えば、繊維束の拡幅量を変化させたり、繊維束の表面粗度(凹凸)を変化させることで行うことができる。
【0016】
本発明の成形体製造方法の一態様においては、前記含浸工程では、前記樹脂を表面に付着された含浸ローラに対して前記繊維束を押し付けて回転移動させることにより、前記繊維束に前記樹脂を含浸させ、前記制御工程では、前記含浸ローラの径を変更することにより、前記接触面積を変化させる。
【0017】
ここで、繊維束が含浸ローラの対し押し付けるとは、ある程度の張力で回転面に接触させることをいう。また、含浸ローラに対して繊維束を回転移動させるとは、含浸ローラを回転させながら、繊維束を移動させることをいう。繊維束は、含浸ローラを一周以上にわたって巻かれていてもよいし、一周以下、さらには、半周以下だけ巻かれていてもよい。また、繊維束は含浸ローラによって駆動されてもよいし、繊維束が含浸ローラを駆動してもよいし、繊維束と含浸ローラが別々に駆動されてもよい。そして、含浸ローラの回転と、繊維束の移動は、滑らずに行われるものであってもよいし、滑りながら行われるものであってもよい。含浸ローラの径を変更した場合には、一般に、含浸ローラと繊維束との各瞬間における接触面積が変化し、また、繊維束の各箇所と含浸ローラとの接触時間も変化する。
【0018】
本発明の成形体製造方法の一態様においては、前記含浸工程では、前記樹脂を吸収した弾力性部材を備える含浸ローラに対して、前記繊維束を押し付けて回転移動させることにより、前記弾力性部材を変形させて前記繊維束に前記樹脂を含浸させ、前記制御工程では、前記回転ローラに前記繊維束を押し付ける強さを変化させることにより、前記接触量を制御する。
【0019】
本発明の成形体製造方法の一態様においては、さらに、前記繊維束から、巻回される層に応じた除去量の前記樹脂を除去する除去工程を含む。なお、除去工程は、予め樹脂が含浸された繊維束に対して適用されてもよい。
【0020】
本発明の成形体製造方法の一態様においては、前記除去工程では、巻回される層に応じた張力で前記繊維束を除去ローラに押し付けて回転移動させることにより、前記除去量の前記樹脂を除去する。さらに、温度を変化させて除去量を制御することも可能である。
【0021】
本発明の成形体製造方法の一態様においては、前記成形工程では、前記繊維強化樹脂成形体を回転させることにより、前記繊維束の巻回を行い、前記除去工程では、前記繊維強化樹脂成形体に対し、非回転部材を押圧力を変えて押し付けることにより、前記除去量の前記樹脂を除去する。
【0022】
本発明の成形体製造方法の一態様においては、前記繊維強化成形体は、内部に高圧のガスを貯蔵可能な高圧タンクである、前記除去量の前記樹脂を除去する。
【0023】
本発明の成形体製造システムの一態様においては、複数の繊維が束ねられた繊維束と液状の樹脂との接触量を制御する制御手段と、制御された前記接触量に基づいて前記繊維束と前記樹脂を接触させて、前記接触量に応じた量の前記樹脂を前記繊維束に含浸させる含浸手段と、前記樹脂を含浸された前記繊維束を複数層にわたって巻回して、繊維強化樹脂成形体を成形する成形手段と、を備え、前記制御手段では、前記繊維束が巻回される層に応じて、前記接触量を制御する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0024】
[第1の形態]
図1は、第1の形態にかかる高圧タンク製造システム10の概略を説明する図である。高圧タンク製造システム10は、成形体製造システムの一例であり、繊維強化樹脂成形体としての高圧タンクを製造するものである。高圧タンクは、気体または液体を高圧で貯蔵するための容器であり、耐圧タンクや圧力容器などとも呼ばれる。高圧とは、少なくとも大気圧より高い圧力をいう。例えば、燃料電池車に搭載される水素タンクは、水素ガスを数十MPa程度の圧力で貯蔵する高圧タンクの一形態である。
【0025】
高圧タンク製造システム10は、繊維供給部12と、樹脂含浸部14と、高圧タンク成形部16、データ・ロガー40、及び制御装置42を含んでいる。
【0026】
繊維供給部12は、繊維束を供給するためのものであり、クリールスタンド18と張力測定器20を含んでいる。クリールスタンド18は、一本または複数本の繊維を供給するクリールが複数設けられた装置である。各クリールから供給される繊維は、束ねられて張力測定器20に通される。張力測定器20は、繊維束の張力を測定するための装置であり、測定結果はデータ・ロガー40に送信される。
【0027】
樹脂含浸部14は、繊維供給部12から供給された繊維束に対し、樹脂を含浸させるものである。樹脂含浸部14は、樹脂を蓄えたレジンバス22と、この樹脂に浸された含浸ローラ23を備えている。そして、樹脂が付着した含浸ローラ23に対し、幅広に拡げられた繊維束を押し付けて回転移動させることにより、繊維束に樹脂を付着させて含浸させる。また、樹脂含浸部14は、樹脂の温度を測定する樹脂温度計24や、樹脂に付着した樹脂の膜厚を測定する樹脂膜厚計26などのセンサを備えている。こうしたセンサからの出力は、データ・ロガー40に送信される。
【0028】
高圧タンク成形部16は、高圧タンク30を製造するものである。高圧タンク成形部16には、アイ口28と、成形体回転機構32が設けられている。アイ口28は、樹脂含浸部14から送られる繊維束を高圧タンク30に送り出す中継装置であり、繊維束の供給角度を変更する角度変更機構や、供給位置を変更する位置変更機構などを備えている。成形体回転機構32には、樹脂製のライナ31が設置される。そして、成形体回転機構32によって回転されるライナ31に対して、アイ口28から供給される繊維束が複数層(例えば10層〜100層程度)にわたって巻回される。このような成形は、フィラメントワインディング(FW)成形と呼ばれることもある。特に、液体の樹脂を含浸させながら行う場合には、ウェットFW成形と呼ばれことがある。
【0029】
データ・ロガー40は、張力測定器20、樹脂温度計24、樹脂膜厚計26などから出力されるデータを記憶する装置である。また、制御装置42は、コンピュータハードウエアに対し、所定のプログラムをインストールした装置である。制御装置42は、プログラムに従って、繊維供給部12、樹脂含浸部14、高圧タンク成形部16などに対し、指令信号を送信してその動作を制御する。この制御には、樹脂を巻回する層が第何層であるかによって、樹脂の含浸量を変更する制御が含まれる。含浸量の変更制御にあたっては、実際の含浸量の測定結果に基づいて調整を行うフィードバック制御が行われることもある。
【0030】
図2は、樹脂含浸部14の構造と、三つの制御態様(a)(b)(c)について説明する図である。各図には、図1で説明したレジンバス22と含浸ローラ23の他、含浸ローラ23の両側に軸を平行にして配置された補助ローラ50,52も示されている。補助ローラ50は、含浸ローラ23よりも上流側において、その下面側で繊維束をガイドして含浸ローラ23に送り出している。そして、含浸ローラ23の上面側で樹脂が含浸された繊維束は、下流側の補助ローラ52の下面側でガイドされた後、後工程に運ばれている。
【0031】
態様(a)では、三本の繊維束60,62,64に対する含浸が行われている。特徴的な点は、繊維束60,62,64を構成する各繊維をあまり拡げられていないことである。つまり、繊維束60,62,64は、相対的に幅狭に維持されている。態様(b)の三本の繊維束70,72,74と、態様(c)の三本の繊維束80,82,84は、ともに、態様(a)の三本の繊維束60,62,64と同じ本数の繊維からなる。しかし、態様(b)では、繊維束70,72,74を構成する各繊維は、やや幅広に拡げられ、態様(c)では、繊維束80,82,84を構成する各繊維は、最も幅広に拡げられている。このため、態様(a)の繊維束60,62,64は相対的に狭い幅をもち、態様(b)の繊維束70,72,74は相対的に中程度の幅をもち、態様(c)の繊維束80,82,84は相対的に広い幅をもっている。
【0032】
一般に、繊維束の幅が狭い場合、含浸ローラ23表面の樹脂と繊維束との接触面積が狭くなり、繊維束に対する樹脂の含浸量が低下する。他方、繊維束の幅を広くすると、含浸ローラ23表面の樹脂と繊維束との接触面積が広くなり、繊維束に対する樹脂の含浸量が増大する。繊維束の幅は、例えば、その上流あるいは下流で繊維束をガイドする部材の曲率を変えることで制御可能である。具体的には、クリールスタンド18とレジンバス22との間の任意の場所に、幅を拡げる太鼓型ローラ(中央部が凸)もしくは幅を狭める鼓型ローラ(中央部が凹)などの調整装置を設置する例を挙げることができる。こうした制御装置は、制御装置42からの指令に従って動作し、図2の態様(a)〜(c)のように繊維束の幅を変える。
【0033】
図3は、高圧タンクの製造における樹脂量の制御について説明する模式図である。図3の(a)(b)ともに、横軸は、樹脂が含浸された繊維束における繊維体積率Vfを示しており、縦軸は、繊維束が巻回される層を示している。そして、図3の(a)は、巻回前におけるVfを示しており、(b)は、巻回後におけるVfを示している。
【0034】
巻回前において繊維束に含浸させる樹脂量を変化させない場合には、すなわち、(a)の直線90のようにVfが一定の繊維束が巻回されることになる。この場合、内側の層では、その外側から巻き締められる効果によって、比較的多くの樹脂が漏れ出す傾向にある。この結果として、(b)の曲線92のように、内側ではVfが相対的に高くなり、外側ではVfが相対的に低くなる。
【0035】
一般に、高圧タンクでは、強度を高くするほど、繊維束の層数を増やす必要があり、内層におけるVfの上昇も顕著となる。しかし、Vfが高くなると、亀裂が生じやすくなるなど疲労耐久性能が低下することが知られている。特に、高圧タンクの内層には、外層に比べて大きな応力が作用する傾向にある。このため、高圧タンクの疲労耐久性を高め、寿命を延ばすためには、内層におけるVfを比較的低くすることが望ましいと言える。
【0036】
図3の(a)の直線94は、この方針に基づいて、繊維束に対する含浸量を制御した態様を表している。具体的には、内層側ほど、Vfを低くするため、図2の態様(c)のような含浸が行われ、外層側ほど、Vfを高くするため、図2の態様(a)のような含浸が行われている。そして、この繊維束を巻回した場合には、図3の(b)の直線96のように、全層にわたってVfはほぼ一定となっている。
【0037】
なお、樹脂を含浸させた繊維束において、繊維体積率Vfが高いことは、同時に、樹脂体積率Vrが低いことを意味する。また、繊維束に含浸された樹脂量は、レジンコンテンツRCと呼ばれることもある。樹脂体積率Vrが高い繊維束では、レジンコンテンツRCが高い。
【0038】
[第2の形態]
続いて、図4を用いて、第2の形態について説明する。第2の形態は、第1の形態を変形したものであり、基本的に、図1に示した高圧タンク製造システム10と同様の構成を有する。しかし、第2の形態では、図2に示した繊維束の幅の制御に代えて、含浸ローラの径の制御を行っている。
【0039】
図4は、樹脂含浸部14の側面図であり、図4(a)と図4(b)は、切り換えて設定される2つの制御態様を示している。図4(a)では、レジンバス22が設けられると共に、補助ローラ50、含浸ローラ130、及び補助ローラ52が、この順に回転軸を揃えて配置されている。そして、繊維束132が、補助ローラ50の下面、含浸ローラ130の上面、及び補助ローラ52の下面に通されて、順次回転移動されている。このとき、繊維束132と含浸ローラ130は、符号134で示された領域で接触している。この領域は、含浸ローラ130と補助ローラ50,52との位置関係の他、含浸ローラ130の半径の大きさにも依存している。
【0040】
他方、図4(b)では、図4(a)の含浸ローラ130の代わりに、半径の大きな含浸ローラ140が用いられている。このため、繊維束142と含浸ローラ140とは、符号144で示された相対的に広い(繊維の進行方向に長い)領域で接触している。このように接触量が多くなると、一般に、繊維束142に対する含浸量も増大すると考えられる。したがって、含浸量を多くしたい場合には、図4(b)のような比較的大きな半径をもつ含浸ローラ140を使用し、含浸量を少なくしたい場合には、図4(a)のような比較的小さな半径をもつ含浸ローラ130を使用することで、第1の形態と同様に繊維体積率を制御することが可能となる。
【0041】
[第3の形態]
続いて、図5,6を用いて、第3の形態について説明する。第3の形態は、第1の形態を変形したものであり、基本的に、図1に示した高圧タンク製造システム10と同様の構成を有する。
【0042】
図5は、樹脂含浸部14の部分断面を示す図であり、図5(a)は第1の形態に対応する状態を、図5(b)は第3の形態に対応する状態を示している。図5(a)では、含浸ローラ23は、レジンバス22に蓄えられた樹脂に対し、その下面の一部が浸されるように配置されている。含浸ローラ23は、図の時計回りに回転しており、その左側面は符号104で示した樹脂を付着させながら上昇している。含浸ローラ23の上面側には、繊維束100がその張力によって押し付けられながら接触している。そして、含浸ローラ23の回転と同期して左から右へと回転移動する過程で、符号104で示した樹脂の含浸が行われている。このため、繊維束100は、符号106で示した付近で、径をやや太めている。この第1の形態では、既に説明したように、どの程度の樹脂を繊維束100に含浸させるかは、主として繊維束100の幅に依存している。
【0043】
これに対し、図5(b)では、含浸ローラ114は、相対的に固い素材で作られたコア部110と、その外側に設けられた外周部112からなる。外周部112は、ゴムやスポンジのように弾力性があり(弾性変形が容易)、かつ、樹脂を吸収できる素材によって作られている。このため、外周部112は、レジンバス22の側で樹脂102を吸収し、繊維束100との接触部分で吸収した樹脂を繊維束100に受け渡すことになる。このときに、繊維束100に受け渡す樹脂の量は、外周部112から押し出される樹脂の量に依存する。そして、外周部112から押し出される樹脂の量は、繊維束100が外周部112を押し付ける張力に依存している。そこで、第3の形態では、含浸させたい樹脂量に応じて、繊維束100の張力を設定している。
【0044】
図6は、第3の形態の制御を説明する模式図である。図6(a)は、含浸ローラ押し付け力(横軸)と層(縦軸)との関係を表しており、図6(b)は、対応する樹脂の含浸量(横軸)と層との関係を表している。なお、樹脂の含浸量は、樹脂の繊維体積率Vfと負の相関をもつ(近似的には反比例する)。すなわち、含浸量が少なければVfは大きくなり、含浸量が多くなればVfは小さくなる。
【0045】
図6(a)の直線120は、各層において、含浸ローラ押し付け力を一定にした場合の例を示している。この場合には、巻回前には、各層の樹脂の含浸量は等しくなる。しかし、巻回後には、内層ほど巻き締められる効果によって内層の樹脂が漏れだすため、図6(b)の直線122のように、内層ほど樹脂の含浸量が低下する(Vfが大きくなる)。
【0046】
図6(a)の曲線124は、図5(b)を用いて説明したように、内層ほど含浸ローラ押し付け力を強くし、外層ほど含浸ローラ押し付け力を弱くした態様を示している。この場合には、内層ほど樹脂の含浸量が多くなり、外層ほど樹脂の含浸量が少なくなる。このため、この例では、巻回後であっても、図6(b)の曲線126のように、内層側の含浸量の方が、外層側の含浸量を上回っている。
【0047】
[第4の形態]
続いて、図7と図8を用いて、第4の形態について説明する。第4の形態は、樹脂が含浸された繊維束から、樹脂を除去することにより、樹脂量を制御するものである。第4の形態では、予め樹脂が含浸されている繊維束(プリプレグと呼ばれる)に対して除去工程を行ってもよいし、樹脂が含浸されていない繊維束に対して含浸工程と除去工程とを連続的に行ってもよい。前者の場合には、図1の高圧タンク製造システム10における樹脂含浸部14に代えて樹脂除去装置が設けられ、後者の場合には、樹脂含浸部14の下流側に樹脂除去装置が設けられることになる。
【0048】
図7は、樹脂除去装置の概要を示す側面図である。樹脂除去装置には、除去ローラ150が設けられ、樹脂を含んだ繊維束152がその上面に支持されている。また、樹脂除去装置には、除去ローラ150を上下に移動させて繊維束152の張力を調整する移動機構154と、除去ローラ150に取り付いた樹脂を落とすクリーナ156と、樹脂溜まりとなるレジンバス158が設けられている。
【0049】
除去ローラ150に対しては、繊維束152が調整された張力で押し付けられて支持されている。そして、押し付け力が大きくなると相対的に大量の樹脂が繊維束から絞り出され、押し付け力が小さくなると相対的に少量の樹脂が繊維束から絞り出される。絞り出された樹脂は、除去ローラ150の回転面に付着し、クリーナ156によってレジンバス158へと取り除かれる。
【0050】
また、繊維束から除去される樹脂の量は、樹脂の温度にも依存する。これは、一般に、樹脂の温度によって、樹脂の粘性が変化するためだと考えられる。このため、樹脂除去装置では、繊維束152を加熱あるいは冷却することで、樹脂の除去量を制御することができる。
【0051】
図8は、樹脂除去装置における制御態様を模式的に説明する図である。図8(a)は、温度一定の条件下で、押し付け力(横軸)と除去量(縦軸)との関係を示したグラフである。この例では、押し付け力が増大した場合には、除去量が増大しているが、押し付け力が増大するにつれて押し付け力の増大比率は減少している(つまり、上に凸のグラフとなっている)。図8(b)は、押し付け力一定の条件下で、温度(横軸)と除去量(縦軸)との関係を示したグラフである。この例では、温度が増大するにつれて除去量も増大しており、両者はほぼ線形的な関係にある。
【0052】
図8(c)は、押し付け力と温度とを変化させることにより、各層の除去量を制御した結果を示す図であり、横軸は除去量、縦軸は層を表している。この例では、内層ほど除去量を減らし、外層ほど除去量を多くしており、これにより、巻回後に樹脂が浸み出しても、内層には十分な樹脂を残すことができる。
【0053】
なお、この第4の形態においてプリプレグを使用する場合について補足する。この場合、例えば、常温において100mPa・s以下程度の樹脂粘度をもつプリプレグを使用することが考えられる。また、一般に、プリプレグはのレジンコンテンツRCは、一つのボビンにおいて均一であり、除去量と、除去後のRCとが対応することになるため、制御は比較的容易である。
【0054】
[第5の形態]
最後に、図9を用いて、第5の形態について説明する。第5の形態は、樹脂が含浸された繊維束を高圧タンク(成形体)に巻回した後に樹脂を除去することにより、樹脂量を制御するものである。第5の形態では、予め樹脂が含浸されている繊維束に対して除去工程を行っても、樹脂が含浸されていない繊維束に対して含浸工程と除去工程とを連続的に行ってもよい。
【0055】
図9は、成形中の高圧タンク30の断面図である。高圧タンク30は、樹脂製のライナ31と、その周囲の繊維強化樹脂層160とからなる。図示した例では、高圧タンク30は、時計回りに回転されており、繊維束162が巻回されて、繊維強化樹脂層160の積層化が継続されている。この繊維強化樹脂層160の外表面には、樹脂除去装置164が設けられている。樹脂除去装置164は、へら形状をもつ先端部分を繊維強化樹脂層160の外表面に押し付けて、繊維束に含浸した樹脂の一部を除去する装置である。符号166は、こうして除去された樹脂を表している。押し付け力は制御装置からの指令に基づいて変更することができる。
【0056】
樹脂除去装置164による樹脂の除去量は、樹脂除去装置164をどの程度の力で繊維強化樹脂層160に押し付けるかによって決定される。高圧タンク30の製造にあたっては、典型的には内層(ライナ31側)ほど、押し付け力を小さくして(あるいは押し付けを行わず)樹脂の除去量を少なくし(あるいは除去をやめて)、外層ほど押し付け力を大きくして樹脂の除去量を増大させる。
【0057】
なお、以上に説明した第1〜第5の形態は、それぞれ単独で実施してもよいし、任意の他の形態と組み合わせても良い。また、ここでの説明では、高圧タンクを例に挙げて説明を行ったが、例えば、圧力パイプなど、他の繊維強化樹脂層成形体に対しても応用可能である。
【図面の簡単な説明】
【0058】
【図1】高圧タンク製造システムの構成例を説明する図である。
【図2】繊維束と樹脂との接触量を制御する例を説明する図である。
【図3】各層における接触量の制御について説明する図である。
【図4】繊維束と樹脂との接触量を制御する別の例を説明する図である。
【図5】繊維束と樹脂との接触量を制御するさらに別の例を説明する図である。
【図6】各層における接触量の制御について説明する図である。
【図7】樹脂除去について説明する図である。
【図8】樹脂除去の制御態様について説明する図である。
【図9】樹脂除去の別の例について説明する図である。
【符号の説明】
【0059】
10 高圧タンク製造システム、12 繊維供給部、14 樹脂含浸部、16 高圧タンク成形部、18 クリールスタンド、20 張力測定器、22 レジンバス、23 含浸ローラ、24 樹脂温度計、26 樹脂膜厚計、28 アイ口、30 高圧タンク、31 ライナ、32 成形体回転機構、40 データ・ロガー、42 制御装置、50,52 補助ローラ。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の繊維が束ねられた繊維束と液状の樹脂との接触量を制御する制御工程と、
制御された前記接触量に基づいて前記繊維束と前記樹脂を接触させて、前記接触量に応じた量の前記樹脂を前記繊維束に含浸させる含浸工程と、
前記樹脂を含浸された前記繊維束を複数層にわたって巻回して、繊維強化樹脂成形体を成形する成形工程と、
を含み、
前記制御工程では、前記繊維束が巻回される層に応じて、前記接触量を制御する、ことを特徴とする成形体製造方法。
【請求項2】
請求項1に記載の成形体製造方法において、
前記制御工程では、前記繊維束と前記樹脂との接触面積を変化させることにより、前記接触量を制御する、ことを特徴とする成形体製造方法。
【請求項3】
請求項2に記載の成形体製造方法において、
前記制御工程では、前記繊維束の表面積を変化させることにより、前記接触面積を変化させる、ことを特徴とする成形体製造方法。
【請求項4】
請求項2に記載の成形体製造方法において、
前記含浸工程では、前記樹脂を表面に付着された含浸ローラに対して前記繊維束を押し付けて回転移動させることにより、前記繊維束に前記樹脂を含浸させ、
前記制御工程では、前記含浸ローラの径を変更することにより、前記接触面積を変化させる、ことを特徴とする成形体製造方法。
【請求項5】
請求項1に記載の成形体製造方法において、
前記含浸工程では、前記樹脂を吸収した弾力性部材を備える含浸ローラに対して、前記繊維束を押し付けて回転移動させることにより、前記弾力性部材を変形させて前記繊維束に前記樹脂を含浸させ、
前記制御工程では、前記回転ローラに前記繊維束を押し付ける強さを変化させることにより、前記接触量を制御する、ことを特徴とする成形体製造方法。
【請求項6】
請求項1乃至5のいずれか1項に記載の成形体製造方法において、さらに、
前記繊維束から、巻回される層に応じた除去量の前記樹脂を除去する除去工程を含む、ことを特徴とする成形体製造方法。
【請求項7】
請求項6に記載の成形体製造方法において、
前記除去工程では、巻回される層に応じた張力で前記繊維束を除去ローラに押し付けて回転移動させることにより、前記除去量の前記樹脂を除去する、ことを特徴とする成形体製造方法。
【請求項8】
請求項6に記載の成形体製造方法において、
前記成形工程では、前記繊維強化樹脂成形体を回転させることにより、前記繊維束の巻回を行い、
前記除去工程では、前記繊維強化樹脂成形体に対し、非回転部材を押圧力を変えて押し付けることにより、前記除去量の前記樹脂を除去する、ことを特徴とする成形体製造方法。
【請求項9】
請求項1乃至8のいずれか1項に記載の成形体製造方法において、
前記繊維強化成形体は、内部に高圧のガスを貯蔵可能な高圧タンクである、前記除去量の前記樹脂を除去する、ことを特徴とする成形体製造方法。
【請求項10】
複数の繊維が束ねられた繊維束と液状の樹脂との接触量を制御する制御手段と、
制御された前記接触量に基づいて前記繊維束と前記樹脂を接触させて、前記接触量に応じた量の前記樹脂を前記繊維束に含浸させる含浸手段と、
前記樹脂を含浸された前記繊維束を複数層にわたって巻回して、繊維強化樹脂成形体を成形する成形手段と、
を備え、
前記制御手段では、前記繊維束が巻回される層に応じて、前記接触量を制御する、ことを特徴とする成形体製造システム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2009−51186(P2009−51186A)
【公開日】平成21年3月12日(2009.3.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−222922(P2007−222922)
【出願日】平成19年8月29日(2007.8.29)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】