説明

成形材料及び成形品及び成形品の製造方法

【課題】従来、結合材である熱可塑性樹脂を主体とする有機バインダーの可塑化に伴う変形を来さない脱脂及び焼成の条件の確保に制約される。そのほか、有機バインダーの分解した痕跡である微細気孔が生成して粒子間の結合力低下を来して成形品の強度が過度に低下し、カーボン焼結体本来の高い熱伝導率を損ない易いという課題があり、その課題を解決するために強度と熱伝導率を向上することができるカーボン凝結体の成形材料を提供する。
【解決手段】この発明に係る成形材料は、フェノール基を含む化合物とアルデヒド基を含む化合物を界面活性剤の存在下で重合させたフェノール樹脂未硬化物を被覆したカーボン粉粒に、易分解性の繊維状物質が液状樹脂を介して表面に固定して成ることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、電磁誘導加熱が可能な炊飯釜などの調理器具に使用するカーボン凝結体に係り、成形材料及び成形品及び成形品の製造方法に関するものである。さらに詳しくは、カーボン粉粒と高炭素含有物質である結合材を主体とするカーボン凝結体の成形材料を用い、金型内で加圧及び加熱を行う射出成型などにより得たカーボン凝結体成形品(成形品)を、無酸素の高温雰囲気下で炭化させる焼成処理を施すことにより、カーボン凝結体成形品を得るカーボン凝結体成形品の製造方法(成形品の製造方法)に関する。
【背景技術】
【0002】
電磁誘導加熱コイルの渦電流による電磁誘導加熱を利用したコンロや炊飯器は、速やかで均一な加熱が得られるという特徴を有し、磁性金属にアルミニウムや銅などの高熱伝導金属を積層したクラッド材の成形品が主流である。しかし、クラッド材は鍋や釜などの形状に加工することが困難で、表面をフッ素樹脂などの耐熱樹脂塗装面との積層界面が剥離し易いという課題もあった。
【0003】
このため、従来の鉄やステンレスなどに代わる電磁誘導加熱の調理器の素材として、優れた導電性と優れた熱伝導性とを有するカーボン凝結体を使用することが提案されている(例えば、特許文献1参照)。
【0004】
また、棒柱状に加圧して凝縮したカーボン圧縮体の切削加工物が紹介され、カーボン素材が高温での調理器具として有効であることを述べているものもある(例えば、特許文献2参照)。
【0005】
上述の調理器具の製造方法によるカーボン凝結体は、コークスなどのカーボン粉粒にフェノールやピッチなどの高炭素含有物である結合材を主体とする混合物を成型し、これを無酸素雰囲気下の1000〜3000℃で加熱してカーボン凝結体を得た後、任意の形状に切削加工したものである。しかし、カーボン焼結体を切削加工して任意の形状に加工することは、切削の大半を占める容器の凹状を成す中空部分にある素材の廃棄が多く、加工工数も大きい、という課題があった。また、カーボン圧縮体に内在する欠陥を事前に検知することが困難なうえ、切削によって露出するなどによって意匠及び強度などの諸特性に悪影響を及ぼす場合もある。
【0006】
これらの課題を解決する手段として、カーボンの粉粒とフェノール樹脂の原料液やタールピッチなどの結合材との混合物である成形材料を金型内に注入・加圧して賦型した後、得られた成形品を焼成処理することにより、鍋状に成形されたカーボンの凝結体を得る手段が提案されている(例えば、特許文献3参照)。
【0007】
しかし、電磁誘導加熱が可能な調理器具として使用するうえで必要な強度や電気伝導性、熱伝導性に優れた特性を備えたカーボン凝結体成形品を得るためには、成形材料のフェノール樹脂含有量を少なくすることが必須である。その反面、成形材料のフェノール樹脂含有量を少なくすると、カーボン粉粒の表面が十分に濡れないために凝集し易く、見掛けの粘度が上昇して流動性が低下するうえに、流動性喪失に伴う未充填部分を形成し易くなるという課題があった。従って、成形材料には、フェノール樹脂の添加量を、十分な流動性が得られるまで増す必要があった。
【0008】
また、金型内における成形材料は、成形時の流動に伴って生じる内部応力が残存するので、成形品の焼成段階に歪みの解放挙動とフェノール樹脂などの結合材から発生する分解ガスの放散によって、粗粒子が集合して粒子間の接着が不十分な状態に至るために、比較的、脆弱な部位である内層部分、さらにフェノール樹脂が多く集合してガスを放散させるための気孔を生成し難い表面層、にクラックを発生させるという課題があった。
【0009】
従って、カーボン粉粒と結合材を混合した成形材料を用いた成形品は、金型内にある空気や硬化に伴って生成する水蒸気などのガスを排出しながら、成形材料の良好な流動を確保することが、均質で高い物性を得るうえで必要であった。併せて、成形材料の流動性を確保するため、結合材であるフェノール樹脂などの樹脂成分の増量、または高圧付加が必須であった。
【0010】
上述の如く、十分な流動性、高い強度及び熱伝導性を確保するために、カーボン粉粒表面に結合材が全面に塗布された成形材料を用い、高圧を付加した状態で成形してカーボン粉粒同士が密接することが肝要である。しかし、反面、成形時に係る内部応力の増加と、焼成段階に結合材であるフェノール樹脂などの分解ガスが系外に飛散するために要する気孔の残留または生成が困難である状態を醸し出すこととなる。
【0011】
分解ガスの放散が困難な状態は、成形品内部に生じた僅かな亀裂の拡大に作用するので、成形材料の金型への射出に伴う流動過程で、大粒径の黒鉛粉粒が集中して強度が低くなる断面中間層部分や、フェノール樹脂が多く存在する表面層が鱗状に剥離するなどの欠陥を招くことになる。この課題を回避するために、焼成時の昇温速度の抑制や低温での長時間の保持によって分解ガスの発生速度を緩慢にすることが必須となり、製造に長い時間を必要とする状況を生みだしていた。
【0012】
上記課題を回避する手段として、結合材である有機バインダーに熱可塑性樹脂を混合した成形材料を用いて加圧成形したものを非酸化雰囲気下で焼結することにより、割れ、フクレ及び空泡などの欠陥が少ない緻密なカーボン焼結体を製造する手段が提案されている(例えば、特許文献4参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0013】
【特許文献1】特開平9−75211号公報
【特許文献2】特開平9−70352号公報
【特許文献3】特開2007−044257号公報
【特許文献4】特開平08−113668号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
しかし、上記特許文献4の手段によれば、結合材である熱可塑性樹脂を主体とする有機バインダーの可塑化に伴う変形を来さない脱脂及び焼成の条件の確保に制約される。そのほか、有機バインダーの分解した痕跡である微細気孔が生成して粒子間の結合力低下を来して成形品の強度が過度に低下し、カーボン焼結体本来の高い熱伝導率を損ない易い、という課題がある。
【0015】
この発明は、上記のような課題を解決するためになされたもので、強度と熱伝導率を向上することができる成形材料及び成形品及び成形品の製造方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0016】
この発明に係る成形材料は、フェノール基を含む化合物とアルデヒド基を含む化合物を界面活性剤の存在下で重合させたフェノール樹脂未硬化物を被覆したカーボン粉粒に、易分解性の繊維状物質が液状樹脂を介して表面に固定して成ることを特徴とする。
【発明の効果】
【0017】
この発明に係る成形材料は、フェノール基を含む化合物とアルデヒド基を含む化合物を界面活性剤の存在下で重合させたフェノール樹脂未硬化物を被覆したカーボン粉粒に、易分解性の繊維状物質が液状樹脂を介して表面に固定して成るので、成形時に成形材料の凝集を抑制するとともに、樹脂塗膜が溶融して湿潤状態を確保して滑り易くなり、流動性が向上する。このとき、未硬化状態のフェノール樹脂が溶融しながら金型内に充填するので、空隙の少ない充填形態とカーボン粉粒同士が接する部位にフェノール樹脂が存在するので強固な接合力が確保でき、焼成して得た成形品の強度と熱伝導率が向上するという効果が得られる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】実施の形態1を示す図で、テープ剥離試験の結果を示す図。
【図2】実施の形態2を示す図で、鍋状成形品の凝結成形品の曲げ強度と塗膜密着性を評価し、籾殻炭の表面層を含まない凝結体成形品を比較例として示した図。
【発明を実施するための形態】
【0019】
実施の形態1.
先ず、本実施の形態の概要を説明する。本実施の形態は、電磁誘導加熱が可能な調理器具に用いるカーボン凝結体である成形品に、塗料の含浸が容易に行える気孔を形成する手段であり、塗装に於いて機械的な固着であるアンカー効果による強固な塗料の密着性を発現する構造を確保する手段に関する。
【0020】
ここで用いるカーボン凝結体成形材料(成形材料)は、フェノール樹脂をカーボン粉粒表面に被覆したものであって、溶媒中でフェノール基を含む化合物とホルムアルデヒド基を含む化合物が共存する重合段階にカーボン粉粒を分散させたことにより、濡れ易い状態でカーボン粉粒面にフェノール樹脂が重合する。さらに、フェノール樹脂がカチオン系乳化剤などの界面活性剤が介在した状態でカーボン粉粒を核として安定形状の球状に近づくような凝集形態を得るようにした。
【0021】
このため、カーボン粉粒表面に未硬化状態のフェノール樹脂が被覆しながら、平滑面を備えるように球状の微粒子を形成しようと保護コロイド(ポリイオンコンプレックス)を形成し、溶媒中で分散して重合度を高めるように作用しながら安定状態を確保しつつ重合が進行して溶媒と非相溶状態になる。
【0022】
以上の反応工程を経た段階で溶媒を除去すれば、カーボン凝結体の成形材料を得ることが出来る。
【0023】
成形に際しては、成形温度と同等以上の融点を備える熱可塑性樹脂から成るアクリル繊維やパルプ繊維などの低炭素含有高分子で易分解性の繊維状物質を成形材料の表面に保持させ、圧縮成形などの加熱と加圧とを付与して成形品を得た。易分解性の繊維状物質は、金型温度以上の融点または分解開始温度を有していることが必須である。
【0024】
この成形品には、成形時のフェノール樹脂の流動に伴って成形材料粒子表層にある繊維状物質が粒子同士の接する空隙部分に連続層を形成し、フェノール樹脂などの炭化に供するために行う無酸素雰囲気の800〜1200℃の高温での焼成処理において、焼成後の凝結体には繊維状物質が分解・飛散した多くの気孔を備え、成形品に塗布した液状の塗料が含浸し易いという態様が得られる。
【0025】
この結果、無酸素状態で炭化を促す高温の焼成処理で形成した繊維の飛散痕である気孔に塗料が含浸して塗膜を形成するので、機械的な固着であるアンカー効果による塗膜密着性が向上する、という特徴が得られる。
【0026】
成形材料を射出成形して得た成形品を無酸素雰囲気の高温で焼成して得たカーボン凝結体の成形品表面に塗装を施す調理器の製造手段において、成形材料がカーボン粉粒と結合材に炭素含有量の少ない繊維状物質を混入して成ることを特徴とする。
【0027】
また、焼成前成形品がカーボン粉粒に結合材を積層し、さらに繊維状物質を保持した成形材料、場合によっては成形材料に高炭素含有有機物を混合したものを圧縮成形などの加熱及び加圧を付与して成形することを特徴とする。
【0028】
カーボン粉粒と結合材が主体の混合物に混入した炭素含有量の少ない繊維状物質は、高温焼成時に分解して気散するので、繊維が占有した容積部分が気孔として形成されることになる。当該気孔が成形体の粒子間に分散した繊維状物質が存在していた部分であるから、カーボン凝結体の成形品表面に塗装を施すことによって、塗料が気孔に侵入して、密着性に優れる塗膜を形成する効果を得ることが出来る。
【0029】
射出成形によって鍋状の成形品を得る手段に関し、カーボン粉粒と結合材との混合物を原料として鍋状の金型に充填して得られる電磁誘導加熱調理器の製造方法について、以下に詳述する。
【0030】
図1は実施の形態1を示す図で、テープ剥離試験の結果を示す図である。
【0031】
射出成形によって鍋状の成形品を得る手段に関し、カーボン粉粒と結合材であるフェノール樹脂との混合物が原料である成形材料を用いた鍋状の成形品を無酸素雰囲気下で焼成処理を施して得られる電磁誘導加熱調理器の製造方法について、以下に詳述する。
【0032】
ここで用いる成形材料は、無酸素状態の高温(約3000℃)で石油コークスを焼成処理した塊状物を粉砕した0.1mm以下のカーボン粉粒に、水で希釈したフェノール、第四級アンモニウム塩型カチオン活性剤を界面活性剤として加え、任意温度に加温しながらカーボン粉粒が均一分散するように撹拌しながらホルムアルデヒドを添加して重合させる。
【0033】
フェノールとホルムアルデヒドを粒子の表面を被覆する半硬化のフェノール樹脂が20wt%の被覆量になるように添加した。反応時の温度と時間を調整、カーボン粉粒物の表面に被覆したフェノール樹脂が半硬化状態(未硬化状態)に達して、好適な流動性を保持する低い溶融粘度と融点を保持した重合度を備えると、沈降しやすい均質粒状物が水溶液に分散した状態となる。これを、40℃以下の低温で減圧吸引しながら乾燥処理を行うことによって、素原料Aが得られる。
【0034】
しかし、素原料Aは多くの微粉末を含んで射出成形機のスクリューの溝に挿入され難い態様を成すうえ、融点の120℃に対する射出成形機各部の設定温度の指標となる反応開始温度である85℃のほうが十分に低いことから、同機スクリュー内で溶融できずに固着し、計量不能の状態を生むことになるので、成形温度での溶融する低融点半硬化フェノール樹脂を混合して計量可能な態様を備えた成形材料とした。
【0035】
従って、素原料Aに、10wt%の低融点未硬化フェノール樹脂と3wt%のアクリル樹脂繊維を均一被覆するように配慮して混合した。このとき、添加した低融点の半硬化フェノール樹脂にはエタノールなどの溶媒で希釈することによって増量したうえで用いると良い。
【0036】
次に、該成形用原料をシリンダー温度が60℃、ノズル温度が110℃、金型温度が165℃の射出成形条件にて金型外周面に設けたゲート部から射出して加圧し、3分間の硬化時間として保持後に脱型して、成形品を得た。このとき、低融点のフェノール樹脂と混合しない成形材料の射出時圧力が10.5Mpaであったのに対し、本実施の形態の成形材料は一層の流動性向上を得て7.5MPaの低圧で金型充填を完了した。これは、成形材料が金型内を流動する際に低融点フェノール樹脂が溶融して一層の優れた流動性が発現できるという特徴を備えたことが裏付けた。
【0037】
得られた成形品は、無酸素状態で1000℃の雰囲気下に放置してフェノール樹脂を炭化させることによって、カーボン凝結体成形品を得る。焼成処理時の分解ガスが当該成形品から円滑に放散するように、フェノール樹脂の分解が活発になって急激な重量減少を来す350℃、500℃、800℃の近傍では緩い温度上昇または保持を行う必要がある。
【0038】
従来、300℃迄を0.5℃/minで昇温後に5時間保持後、さらに5℃/hr で450℃、1℃/hrで500℃に到達後に5時間保持、750℃迄を5℃/hr、800℃迄を2℃/hrで到達後に3時間の保持、その後、0.5℃/minで1000℃に到達させて2時間の保持を行っていた。
【0039】
しかし、粒子間に形成された空隙内に充填された本実施の形態による成形材料は、低融点フェノール樹脂と混合したアクリル繊維が素原料Aの粒子間にあって、溶融後にフェノール樹脂に先行した熱分解が開始するので、無数の気孔を形成して、樹脂に分解起因したガスの放出が容易となり、焼成処理時の昇温速度を促進できる。
【0040】
この結果、従来の昇温と保持時間を大幅に縮減することができた。具体的には、750℃迄を5℃/hr、800℃迄を2℃/hrで到達後に3時間保持、その後、0.5℃/minで1000℃に到達後に2時間保持、で行っても欠陥の発生を生じることなく、約2日間の焼成時間短縮を達成した。なお、冷却は、0.5℃/minで室温近傍まで冷却した。
【0041】
次に、鍋状を成す凝結体成形品(成形品)の外面には耐摩耗性と耐熱性に優れるシリコーン樹脂を、内面には調理具材の密着防止を目的にフッ素樹脂を、吹付け塗装した。
【0042】
表面に吹付けた塗料は、凝結体に設けたアクリル樹脂繊維の痕跡である多くの気孔への含浸が容易となり、アンカー効果に伴う塗膜密着性が向上する。
【0043】
塗装前処理に行う油脂成分などの排除を目的に凝結体成形品の約400℃での乾燥処理を施すため、成形品壁内にある空気が急速な昇温に伴って膨張して内圧を上昇させ、成形品の壁面を破裂させることがあり、円滑な排出が必要となる。
【0044】
本実施の形態による成形品には、黒鉛粒子間に存在するアクリル樹脂繊維の痕跡である気孔が多くあり、膨張した空気が内圧上昇を来すこと無しに円滑に排出されるので、亀裂発生などの損傷を受けることがない。
【0045】
以上のカーボン凝結体成形品における塗膜の密着性を評価した。塗膜の剥離強さを、塗料のみに1mm間隔で縦横に11本の切れ目を碁盤目状に入れた面上にテープを密着させ、これの引き剥し動作の繰り返し数20回で生じる升目部分の欠損箇所を確認、欠損のない升目の数で評価するテープ剥離試験の結果を図1に実施の形態1として示した。
【0046】
このとき、カーボン粉粒物にフェノール樹脂未硬化物を被覆した後、本実施の形態と同様に、アクリル樹脂繊維を含まない成形温度で溶融する低融点未硬化フェノール樹脂と混合した成形材料を用いて射出成型した成形品を焼成処理と内外面の塗装を施したものを作製、これを比較例としたテープ剥離試験と外観評価を行い、その結果を図1に比較例として併記した。
【0047】
以上の結果から、成形材料表面がフェノール樹脂未硬化物で被覆され、さらに低融点の半硬化フェノール樹脂とアクリル樹脂繊維を混合したことにより、得られたカーボン凝結体成形品に形成した気孔に塗料が容易に含浸してアンカー効果を備えて密着するのでテープ剥離後の塗膜残存量が多い、つまり、優れた塗膜密着性を有することを確認した。
【0048】
本実施の形態を成形材料についてまとめると、以下に示すとおりである。
【0049】
本実施の形態の成形材料は、フェノール基を含む化合物とアルデヒド基を含む化合物を界面活性剤の存在下で重合させたフェノール樹脂未硬化物を被覆したカーボン粉粒に、易分解性の繊維状物質が液状樹脂を介して表面に固定して成ることを特徴とする。
【0050】
また、液状樹脂が、カーボン粉粒の表面に被覆したフェノール樹脂未硬化物の融点よりも低いことを特徴とする。
【0051】
また、易分解性の繊維状物質が、金型温度以上の融点および分解開始温度を有していることを特徴とする。
【0052】
また、界面活性剤が、高分子電解質挙動を示して重合過程のフェノール樹脂とポリイオンコンプレックスを形成することを特徴とする。
【0053】
また、界面活性剤が、アルキルトリメチル基またはアルキルジメチルベンジル基を備えた第四級アンモニウム塩型であり、アルキル基が少なくとも、ラウリル基、パルミチル基、ステアリル基又はベヘニル基の何れかを含んで成ることにより、優れた保護コロイドの形成に伴う溶媒中で安定した分散状態を確保すること、を特徴とする。
【0054】
また、500μm以下のカーボン粉粒を用いたことによって、前記カーボン粒子表面への界面活性剤の保護コロイド形成が安定して行われ、カーボン粉粒の表面への付着に至らないフェノール樹脂未硬化物の損失量を抑制して成形材料が得られることを特徴とする。
【0055】
実施の形態2.
図2は実施の形態2を示す図で、鍋状成形品の凝結成形品の曲げ強度と塗膜密着性を評価し、籾殻炭の表面層を含まない凝結体成形品を比較例として示した図である。
【0056】
圧縮成形による電磁誘導加熱調理器である鍋状成形品に関し、調理面を強化したカーボン凝結体成形品を得る手段を以下に詳述する。
【0057】
成形材料は、石油コークスを無酸素状態の高温(約3000℃)で焼成処理して0.1mm以下に粉砕したカーボン粉粒に、水で希釈したフェノール、第四級アンモニウム塩型カチオン活性剤を界面活性剤として加え、任意温度に加温しながらカーボン粉粒が均一分散するように撹拌しながらホルムアルデヒドを添加して重合させたものである。
【0058】
反応時の温度と時間を調整して任意重合度を成す未硬化フェノール樹脂が、カーボン粉粒物の表面に15wt%の被覆量になるようしたものであり、得られた成形材料Aは40℃以下の低温で減圧乾燥処理を行った。
【0059】
以上の方法によって得られた未硬化状態のフェノール樹脂は、カーボン粉粒物の表面がフェノール樹脂を重合する原料液で常に濡れた状態で重合したので、カーボンの粉粒の外周面に膜として保持されて成る粒状の成形用原料として得た。
【0060】
一方、鍋状成形品の表面を構成する成形材料Bは、シロキサンを多く含有する籾殻を480℃で薫蒸したのち、これを0.1mm以下に粉砕して得た籾殻炭に30wt%の液状フェノール樹脂を添加して混合、この混合物と同量の成形材料Aを加えて混合、さらに5wt%のパルプ繊維を添加して均一分散させた混合物として得た。
【0061】
次に、この成形用材料Aを約160℃に加熱した金型内に均一な厚さに散布するようにして投入し、成形材料Bを0.5mm程度の均一な成形厚さを形成する任意の量を積層した後、金型を閉塞して加圧を行う。
【0062】
成形に際しては、成形材料の粉粒が充分な空孔を備えた状態を維持するように、触圧で30秒間の保持を行い、反応の副生成物である水蒸気や未反応状態で残存する樹脂原料であるホルムアルデヒドなどのガスが放散した後、15Mpaを加圧して3分間の保持によってフェノール樹脂を硬化させた後、金型から取り出した。
【0063】
このとき、上述したカーボン粉粒表面に被覆したフェノール樹脂の未硬化物が溶融する成形温度での加圧時に、成形材料の表面層から流動して密に充填された状態で相互が接触する。この為、比較的少量のフェノール樹脂の被覆量で、粒子間に空隙を残留した態様を成しても、表面に被覆したフェノール樹脂が成形材料同士の接触部分に必ず存在するので、フェノール樹脂が介在しない欠陥部分を生じることが無く、成形品として極めて高い強度を醸し出すことになる。
【0064】
また、加圧による成形材料の流動時に、成形材料Bに分散させたパルプ繊維が籾殻炭同士の接触による空隙内に留まるのに対し、過剰のフェノール樹脂が空隙から流出して金型面に移行して平滑な表面層を形成した状態で鍋状を成すカーボン凝結体成形品を得た。
【0065】
この結果、得られた成形品を無酸素状態で約1200℃の雰囲気下に放置する焼成処理によるフェノール樹脂の炭化に伴う分解ガスの放散が困難な態様を成しているが、パルプ繊維がフェノール樹脂に先行して分解し、籾殻炭の粒子間に多くが内在した痕跡として、ほぼ連続した層を形成することになるので、容易に、分解ガスを系外に放散することができる。
【0066】
この結果、パルプ繊維を含まない従来の成形品の焼成では、分解ガスが成形品内部に滞留して断層亀裂の発生に伴う局部的な膨れ発生を防止するため、フェノール樹脂の分解が活発になって急激な重量減少を来す350℃、500℃、800℃の近傍では温度の緩い上昇または保持を行っていた。
【0067】
しかし、本実施の形態では、成形材料Bに混合したパルプ繊維の飛散によって形成した気孔を備えて成るので、分解ガスの放出が容易となり、焼成の昇温速度を促進できた。
【0068】
また、フェノール樹脂が分解時に発生するCOとカーボン粉粒体を構成する籾殻薫蒸炭が含むシロキサンとが1000℃以上、好ましくは1200℃以上の領域で保持することにより反応してSiC(シリコンカーバイト)を生成するので、大幅な強度の向上を達成することができる。
【0069】
しかも、グラファイト化したカーボン粉粒より有意に小さい粒径の籾殻薫蒸炭(改質剤)を用いて粒子表面にフェノール樹脂を被覆したので、被覆量が多くなっている。この結果、粒子間に強固な凝結体を多く形成して成るので、凝結体成形品の強度向上が顕著になる。
【0070】
次に、鍋状成形品の凝結成形品の曲げ強度と塗膜密着性を評価し、籾殻炭の表面層を含まない凝結体成形品を比較例として図2に示した。
【0071】
塗膜密着性は、比較的希薄なシリコーン樹脂塗料を複数回に分けてスプレー塗装を行い、該塗料が凝結体成形品の気孔内に含浸するようにした。従って、塗膜の剥離強さは、塗膜を構成する樹脂強度のほかに、塗膜のアンカー効果を醸し出す基材自体の強度に依存することになる。
【0072】
本評価は、塗膜のみに1mm間隔で縦横の碁盤目状に入れた11本の切れ目を、該面上に密着させたテープの引剥しを20回繰返した後に欠損箇所を確認、無欠損の升目数(a/100)で評価した。
【0073】
また、曲げ強度はJIS−R1601に準じて行い、曲げ強度の下面には主に引張り応力が作用するので、黒鉛粒子間に強固な凝結体を埋めるSiCの強度がそのまま反映される。つまり、調理面が受ける応力によって剥離や割れに対する耐性が把握できる。
【0074】
本実施の形態で示した籾殻薫蒸炭を用いた成形材料Bが調理面となるカーボン凝結体成形品は、シロキサン含有物の籾殻薫蒸炭を混入していない比較例よりも有意に高い強度と塗膜密着性を示した。特に、塗膜密着性は、比較例の剥離面が成形品の表面層で凝集破壊を来しており、籾殻炭による調理面の改質が、塗膜密着性と強度の向上に有利に作用することが示唆された。
【0075】
また、本実施の形態では、結合材としてフェノール樹脂を用いたが、これに替えてタールピッチなどの炭素含有率の高い物質であれば、高温での焼成時における分解生成物を飛散した後の炭素が十分に残存して、収縮や結合力の不足が生じることもないので、代替が可能である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
フェノール基を含む化合物とアルデヒド基を含む化合物を界面活性剤の存在下で重合させたフェノール樹脂未硬化物を被覆したカーボン粉粒に、易分解性の繊維状物質が液状樹脂を介して表面に固定して成ることを特徴とする成形材料。
【請求項2】
前記液状樹脂が、カーボン粉粒の表面に被覆したフェノール樹脂未硬化物の融点よりも低いことを特徴とする請求項1に記載の成形材料。
【請求項3】
前記易分解性の繊維状物質が、金型温度以上の融点および分解開始温度を有していることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の成形材料。
【請求項4】
前記界面活性剤が、高分子電解質挙動を示して重合過程のフェノール樹脂とポリイオンコンプレックスを形成することを特徴とする請求項1乃至3のいずれかに記載の成形材料。
【請求項5】
前記界面活性剤が、アルキルトリメチル基またはアルキルジメチルベンジル基を備えた第四級アンモニウム塩型であり、アルキル基が少なくとも、ラウリル基、パルミチル基、ステアリル基又はベヘニル基の何れかを含んで成ることを特徴とする請求項1乃至4のいずれかに記載の成形材料。
【請求項6】
フェノール樹脂未硬化物を被覆したカーボン粉粒と、易分解性の繊維状物質と液状樹脂とを混合した成形材料を金型内で加熱および加圧して得ることを特徴とする成形品。
【請求項7】
前記易分解性の繊維状物質が、金型温度以上の融点および分解開始温度を有していることを特徴とする請求項6に記載の成形品。
【請求項8】
前記液状樹脂が、前記カーボン粉粒の表面に被覆した前記フェノール樹脂未硬化物の融点よりも低いことを特徴とする請求項6又は請求項7に記載の成形品。
【請求項9】
前記液状樹脂が、高炭素含有物質であることを特徴とする請求項6乃至8のいずれかに記載の成形品。
【請求項10】
カーボン粉粒を含んで界面活性剤の存在下でフェノールとアルデヒド基を含む両化合物の重合する工程を経て得られた成形材料と、易分解性の繊維状物質とを含んで成る混合物を金型内に投入、または異なる配合比率の前記混合物を積層して投入、の何れかの態様を備えて加熱および加圧によって得た成形品を、無酸素の高温雰囲気で焼成処理したことを特徴とする成形品の製造方法。
【請求項11】
前記カーボン粉粒が、塊状物を破砕して得たグラファイトを含んで成る粒子であって、500μm以下の粒径のものから成ることを特徴とする請求項10に記載の成形品の製造方法。
【請求項12】
前記界面活性剤が、高分子電解質挙動を示して、重合過程のフェノール樹脂とポリイオンコンプレックスを形成するカチオン系溶液を形成することを特徴とする請求項10又は請求項11に記載の成形品の製造方法。
【請求項13】
前記繊維状物質の保持が、高炭素含有物の液状樹脂との混合物で成されていることを特徴とする請求項10乃至12のいずれかに記載の成形品の製造方法。
【請求項14】
前記混合物の積層が、応力の負荷を受ける面に改質剤を含む混合物を配して成ることを特徴とする請求項10乃至13のいずれかに記載の成形品。
【請求項15】
前記改質剤が、種子殻の薫蒸炭であることを特徴とする請求項14に記載の成形品の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2010−202722(P2010−202722A)
【公開日】平成22年9月16日(2010.9.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−47587(P2009−47587)
【出願日】平成21年3月2日(2009.3.2)
【出願人】(000006013)三菱電機株式会社 (33,312)
【Fターム(参考)】