成形材料
【課題】成形性に優れ、強化繊維とプロピレン系樹脂との界面接着性に優れ、力学特性に優れた成形品を得るための成形材料を提供する。
【解決手段】下記成分(A)〜(C)を有してなる成形材料であって、該成分(A)、(B)を有してなる複合体に、該成分(C)が接着されており、下記成分(B)のSP値が6.5〜9であり、かつ下記成分(a)のSP値よりも低いことを特徴とする成形材料。
(A)(a)多官能化合物によりサイジング処理された(b)強化繊維 1〜75質量%
(B)テルペン系樹脂 0.01〜20質量%
(C)プロピレン系樹脂 5〜98.98質量%
【解決手段】下記成分(A)〜(C)を有してなる成形材料であって、該成分(A)、(B)を有してなる複合体に、該成分(C)が接着されており、下記成分(B)のSP値が6.5〜9であり、かつ下記成分(a)のSP値よりも低いことを特徴とする成形材料。
(A)(a)多官能化合物によりサイジング処理された(b)強化繊維 1〜75質量%
(B)テルペン系樹脂 0.01〜20質量%
(C)プロピレン系樹脂 5〜98.98質量%
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、プロピレン系樹脂をマトリックスとする成形材料に関する。さらに詳しくは、射出成形を行う際に強化繊維の成形品中への分散が良好であり、かつ力学特性に優れた成形品を製造できる成形材料に関する。
【背景技術】
【0002】
強化繊維と熱可塑性樹脂からなる成形材料は、軽量で優れた力学特性を有するために、スポーツ用品用途、航空宇宙用途および一般産業用途に広く用いられている。これらの成形材料に使用される強化繊維は、その使用用途によって様々な形態で成形品を強化している。これらの強化繊維には、アルミニウム繊維やステンレス繊維などの金属繊維、アラミド繊維やPBO繊維などの有機繊維、およびシリコンカーバイド繊維などの無機繊維や炭素繊維などが使用されているが、比強度、比剛性および軽量性のバランスの観点から炭素繊維が好適であり、その中でもポリアクリロニトリル系炭素繊維が好適に用いられる。
【0003】
さらに、連続した強化繊維束と熱可塑性樹脂をマトリックスとする成形材料として、熱可塑性のプリプレグ、ヤーン、ガラスマット(GMT)など多種多様な形態が公知である。このような成形材料は、熱可塑性樹脂の特性を活かして成形を容易にし、熱硬化性樹脂のような貯蔵の負荷を必要とせず、また得られる成形品の靭性が高く、リサイクル性に優れるといった特徴がある。とりわけ、ペレット状に加工した成形材料は、射出成形やスタンピング成形などの経済性、生産性に優れた成形法に適用でき、工業材料として有用である。
【0004】
しかしながら、成形材料を製造する過程で、熱可塑性樹脂を連続した強化繊維束に含浸させるには、経済性、生産性の面で問題があり、それほど広く用いられていないのが現状である。例えば、樹脂の溶融粘度が高いほど強化繊維束への含浸は困難とされることはよく知られている。靱性や伸度などの力学特性に優れた熱可塑性樹脂は、とりわけ高分子量体であり、熱硬化性樹脂に比べて粘度が高く、またプロセス温度もより高温を必要とするため、成形材料を容易に、生産性よく製造することには不向きであった。一方、含浸の容易さから低分子量の、すなわち低粘度の熱可塑性樹脂をマトリックス樹脂に用いると、得られる成形品の力学特性が大幅に低下するという問題があった。
【0005】
特許文献1には、低分子量の熱可塑性重合体と連続した強化繊維からなる複合体に、高分子量の熱可塑性樹脂が接するように配置されてなる成形材料が開示されている。この成形材料では、連続した強化繊維束への含浸には低分子量体、マトリックス樹脂には高分子量体を使い分けることで、経済性、生産性と力学特性の両立を図っている。また、この成形材料を射出成形法による成形をおこなうと、成形時の材料可塑化の段階で強化繊維の折損を最小限に抑えつつマトリックス樹脂と容易に混合され、繊維の分散性に優れた成形品を製造することができる。従って、得られた成形品は、強化繊維の繊維長を従来よりも上げることができ、良好な力学特性と、優れた外観品位を合わせ持つことができる。しかし、近年になり、繊維強化複合材料の注目度が大きくなり、また用途も多岐に細分化されるようになり、成形性、取扱性、得られる成形品の力学特性に優れた成形材料が要求されるようになり、また工業的にもより高い経済性、生産性が必要になってきた。例えば、繊維強化複合材料により軽量性・経済性が求められるようになり、マトリックス樹脂には軽量なオレフィン系樹脂、とりわけプロピレン系樹脂が使用されるようになってきたが、プロピレン系樹脂は強化繊維との界面接着性に乏しく、力学特性に優れた成形品を得ることが困難であった。特許文献1には、プロピレン系樹脂との接着性向上について全く触れられていない。
【0006】
特許文献2には、酸変性オレフィン系樹脂を、酸基と反応可能な官能基を有するサイジング剤で処理した炭素繊維に含浸させた長繊維ペレットが開示されている。しかしながら、熱可塑性樹脂は酸変性オレフィン系樹脂のみであり、粘度が高いため炭素繊維束をマトリックス樹脂中に分散させるのが非常に困難となり、成形品の力学特性や外観には課題があった。
【0007】
かかる状況において、極性の低いプロピレン系樹脂をマトリックス樹脂に用いた場合においても高い力学特性を発揮し、強化繊維の分散性も良好な成形材料が要求されるようになってきた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開平10−138379号公報
【特許文献2】特開2005−125581号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、従来技術の背景に鑑み、プロピレン系樹脂をマトリックスとする繊維強化熱可塑性樹脂の射出成形を行う際に強化繊維の成形品中への分散が良好であり、かつ繊維とマトリックス樹脂との接着性に優れ、力学特性に優れた成形品を製造できる成形材料を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは上記目的を達成すべく鋭意検討した結果、上記課題を達成することができる、次の成形材料を見出した。
【0011】
(1)少なくとも下記成分(A)〜(C)を有してなる成形材料であって、該成分(A)、(B)を有してなる複合体に、該成分(C)が接着されており、下記成分(B)のSP値が6.5〜9であり、かつ下記成分(a)のSP値よりも低いことを特徴とする成形材料。
(A)(a)多官能化合物によりサイジング処理された(b)強化繊維 1〜75質量%
(B)テルペン系樹脂 0.01〜20質量%
(C)プロピレン系樹脂 5〜98.98質量%
(2)前記成分(B)がα−ピネン、β−ピネン、ジペンテン、d−リモネンから選択されるいずれか1つを用いて重合された重合体からなる樹脂である、(1)に記載の成形材料。
【0012】
(3)前記成分(B)が水素添加反応された重合体からなる樹脂である、(1)または(2)に記載の成形材料。
【0013】
(4)前記成分(B)のガラス転移温度が30〜100℃である、(1)〜(3)いずれかに記載の成形材料。
【0014】
(5)前記成分(B)の数平均分子量が500〜5000である、(1)〜(4)いずれかに記載の成形材料。
【0015】
(6)前記成分(B)の190℃における溶融粘度が、0.05〜1Pa・sである、(1)〜(5)いずれかに記載の成形材料。
【0016】
(7)前記成分(a)が3官能以上である、(1)〜(6)いずれかに記載の成形材料。
【0017】
(8)前記成分(a)が多官能性エポキシ樹脂、酸変性ポリプロピレン、酸変性ポリプロピレンの中和物から選択される少なくとも1種である、(7)に記載の成形材料。
【0018】
(9)前記成分(a)が脂肪族エポキシ樹脂である、(8)に記載の成形材料。
【0019】
(10)前記成分(a)が、グリセロールポリグリシジルエーテル、ジグリセロールポリグリシジルエーテル、ポリエチレングリコールグリシジルエーテル類、ポリプロピレングリコールグリシジルエーテル類から選ばれる少なくとも1種である、(9)に記載の成形材料。
【0020】
(11)前記成分(C)が、重合体鎖にカルボン酸および/またはその塩の基を有するポリプロピレン系樹脂を含んでいる、(1)〜(10)いずれかに記載の成形材料。
【0021】
(12)前記成分(C)が、プロピレンの単独重合体を含んでいる(1)〜(11)いずれかに記載の成形材料。
【0022】
(13)前記成分(C)が、カルボン酸および/またはその塩の基を有する、ブロックおよび/またはランダムプロピレンを含んでいる、(11)に記載の成形材料。
【0023】
(14)前記成分(C)が、(C−1)カルボン酸および/またはその塩の基を有しているプロピレン系樹脂と(C−2)カルボン酸および/またはその塩の基を有しないプロピレン系樹脂との混合物であり、前記成分(a)、(B)、(C−1)の質量比が下記範囲内である、(11)〜(13)いずれかに記載の成形材料。
(a)/(B)/(C−1)=0.001〜0.5/1/0.01〜50。
【0024】
(15)前記成分(A)〜(C)に加えて、成分(D)として、エラストマーを0.01〜30質量%有している、(1)〜(14)いずれかに記載の成形材料。
【0025】
(16)前記成分(D)がオレフィン系エラストマー、スチレン系エラストマー、ウレタン系エラストマー、エステル系エラストマー、アミド系エラストマーから選択される選択される少なくとも1種であることを特徴とする(15)に記載の成形材料。
【0026】
(17)前記成分(D)のSP値が6.5〜9.5である、(15)または(16)に記載の成形材料。
【0027】
(18)前記成分(D)がエチレン−α−オレフィン共重合体である、(17)に記載の成形材料。
【0028】
(19)前記成分(b)が炭素繊維である、(1)〜(18)いずれかに記載の成形材料。
【0029】
(20)前記炭素繊維のX線光電子分光法(ESCA)で測定される表面酸素濃度比(O/C)が0.05〜0.5である、(1)〜(19)いずれかに記載の成形材料。
【0030】
(21)前記成分(b)の強化繊維が、20,000〜100,000本の単繊維からなる強化繊維束である、(1)〜(20)いずれかに記載の成形材料。
【0031】
(22)前記成形材料において、成分(A)に対する空隙率が20%以下である、(1)〜(21)いずれかに記載の成形材料。
【0032】
(23)前記成分(A)が軸心方向にほぼ平行に配列されており、かつ該成分(A)の長さが成形材料の長さと実質的に同じである、(1)〜(22)のいずれかに記載の成形材料。
【0033】
(24)前記複合体が芯構造であり、前記成分(C)および/または(D)が該複合体の周囲を被覆した芯鞘構造である、(23)に記載の成形材料。
【0034】
(25)前記成形材料の形態が長繊維ペレットである、(1)〜(24)いずれかに記載の成形材料。
【0035】
(26)前記長繊維ペレットの長手方向の長さが1〜50mmである、(1)〜(25)いずれかに記載の成形材料。
【発明の効果】
【0036】
本発明の長繊維強化熱可塑性樹脂成形材料は、射出成形を行う際に強化繊維の成形品中への分散が良好であり、強化繊維とプロピレン系樹脂との界面接着性が良好であり、曲げ特性や耐衝撃特性などの力学特性に優れた成形品を製造でき、またプロピレン系樹脂を用いているため、軽量性に優れた成形品を得ることができる。本発明の成形材料は、電気・電子機器、OA機器、家電機器、または自動車の部品、内部部材および筐体などの各種部品・部材に極めて有用である。
【図面の簡単な説明】
【0037】
【図1】(A)(a)多官能化合物によりサイジング処理された(b)強化繊維と(B)テルペン系樹脂からなる複合体の形態の一例を示す概略図である。
【図2】本発明の成形材料の好ましい態様の一例を示す概略図である。
【図3】本発明の成形材料の好ましい態様の、軸心方向断面の形状の一例を示す概略図である。
【図4】本発明の成形材料の好ましい態様の、軸心方向断面の形状の一例を示す概略図である。
【図5】本発明の成形材料の好ましい態様の、軸心方向断面の形状の一例を示す概略図である。
【図6】本発明の成形材料の好ましい態様の、軸心方向断面の形状の一例を示す概略図である。
【図7】本発明の成形材料の好ましい態様の、直交方向断面の形状の一例を示す概略図である。
【図8】本発明の成形材料の好ましい態様の、直交方向断面の形状の一例を示す概略図である。
【図9】本発明の成形材料の好ましい態様の、直交方向断面の形状の一例を示す概略図である。
【図10】本発明の成形材料の好ましい態様の、直交方向断面の形状の一例を示す概略図である。
【図11】本発明の成形材料の好ましい態様の、直交方向断面の形状の一例を示す概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0038】
本発明は、(A)(a)多官能化合物によりサイジング処理された(b)強化繊維、(B)テルペン系樹脂、(C)プロピレン系樹脂を有してなる成形材料である。まず、これらの構成要素について説明する。
【0039】
本発明に用いられる(a)多官能化合物としては、特に限定されないが、エポキシ基、ウレタン基、アミノ基、カルボキシル基等の官能基を1分子中に2個以上有する化合物が使用でき、これらは1種または2種以上を併用してもよい。官能基が2個未満であると、強化繊維とマトリックス樹脂との接着性を十分に発揮できない。したがって、官能基の数は、2個以上であることが必須であり、さらに好ましくは、3個以上である。
【0040】
具体的な化合物としては、多官能エポキシ樹脂、酸変性ポリプロピレン、酸変性ポリプロピレンの中和物が挙げられる。
【0041】
多官能エポキシ樹脂としては、ビスフェノールA型エポキシ樹脂、ビスフェノールF型エポキシ樹脂、脂肪族エポキシ樹脂、フェノールノボラック型エポキシ樹脂等が挙げられる。中でも、マトリックス樹脂との接着性を発揮しやすい脂肪族エポキシ樹脂が好ましい。通常、エポキシ樹脂はエポキシ基を多数有すると、架橋反応後の架橋密度が高くなるために、靭性の低い構造になりやすい傾向にあり、強化繊維とマトリックス樹脂間に存在させても、もろいために剥離しやすく、繊維強化複合材料の強度発現しないことがある。一方、脂肪族エポキシ樹脂は、柔軟な骨格のため、架橋密度が高くとも靭性の高い構造になりやすい。強化繊維とマトリックス樹脂間に存在させた場合、柔軟で剥離しにくくさせるため、繊維強化複合材料の強度を向上しやすく好ましい。
【0042】
脂肪族エポキシ樹脂の具体例としては、例えば、ジグリシジルエーテル化合物では、エチレングリコールジグリシジルエーテル及び、ポリエチレングリコールジグリシジルエーテル類、プロピレングリコールジグリシジルエーテル及び、ポリプロピレングリコールジグリシジルエーテル類、1,4−ブタンジオールジグリシジルエーテル、ネオペンチルグリコールジグリシジルエーテル、ポリテトラメチレングリコールジグリシジルエーテル、ポリアルキレングリコールジグリシジルエーテル類等が挙げられる。また、ポリグリシジルエーテル化合物では、グリセロールポリグリシジルエーテル、ジグリセロールポリグリシジルエーテル、ポリグリセロールポリグリシジルエーテル類、ソルビトールポリグリシジルエーテル類、アラビトールポリグリシジルエーテル類、トリメチロールプロパンポリグリシジルエーテル類、トリメチロールプロパングリシジルエーテル類、ペンタエリスリトールポリグリシジルエーテル類、脂肪族多価アルコールのポリグリシジルエーテル類等が挙げられる。
【0043】
脂肪族エポキシ樹脂の中でも、好ましくは、反応性の高いグリシジル基を多数有する脂肪族のポリグリシジルエーテル化合物である。この中でも、さらに好ましくは、グリセロールポリグリシジルエーテル、ジグリセロールポリグリシジルエーテル、ポリエチレングリコールグリシジルエーテル類、ポリプロピレングリコールグリシジルエーテル類が好ましい。脂肪族のポリグリシジルエーテル化合物は、柔軟性、架橋密度、マトリックス樹脂との相溶性のバランスがよく、効果的に接着性を向上ことから好ましい。
【0044】
酸変性ポリプロピレン、酸変性ポリプロピレンの中和物とは、例えば、プロピレンなどの主として炭化水素から構成される高分子主鎖と、不飽和カルボン酸により形成されるカルボキシル基又は、その金属塩、アンモニウム塩を含む側鎖とを有するものが挙げられる。高分子主鎖は、プロピレンと不飽和カルボン酸とを共重合させたランダム共重合体でもよいし、プロピレンに不飽和カルボン酸をグラフトしたグラフト共重合体でもよい。また、α−オレフィン、共役ジエン、非共役ジエンなどや1−ブテン等の共重合可能な共重合成分と共重合してもよい。酸変性ポリプロピレン、酸変性ポリプロピレンの中和物は、1分子中に多数の官能基を有しながら柔軟であり、さらに骨格がマトリックス樹脂と同様のポリプロピレンであることから、マトリックス樹脂との相溶性がよく、接着性を向上しやすく好ましい。
【0045】
不飽和カルボン酸としては、アクリル酸、メタクリル酸、マレイン酸、フマール酸、イタコン酸、クロトン酸、イソクロトン酸、シトラコン酸、アリルコハク酸、メサコン酸、グルタコン酸、ナジック酸、メチルナジック酸、テトラヒドロフタル酸、メチルテトラヒドロフタル酸等を挙げることができる。特にマレイン酸、アクリル酸、メタクリル酸が共重合反応させやすいことから好ましい。プロピレンとの共重合又はプロピレンへのグラフト共重合に使用する不飽和カルボン酸は1種のみでもよいし、2種以上の不飽和カルボン酸を使用しても良い。また、酸変性ポリプロピレンの中和物は、少なくとも一部のカルボキシル基が、Na、K、Li、Mg、Zn、Ca、Cu、Fe、Ba、Alなどの金属陽イオン又はアンモニウムイオンで中和されていることが好ましい。
【0046】
また、官能基を2つ以上有するために、酸変性ポリプロピレン、または酸変性ポリプロピレンの中和物1g当たり、−C(=O)−O−で表される基換算で総量0.05〜5ミリモル当量であることが好ましい。より好ましくは0.1〜4ミリモル当量、さらに好ましくは0.3〜3ミリモル当量である。上記のようなカルボン酸塩の含有量を分析する手法としては、ICP発光分析で塩を形成している金属種の検出を定量的に行う方法や、IR、NMRおよび元素分析等を用いてカルボン酸塩のカルボニル炭素の定量をおこなう方法が挙げられる。−C(=O)−O−で表される基換算で総量が0.05ミリモル当量以下では、接着性を発揮しにくい傾向にあり、5ミリモル当量以上では酸変性ポリプロピレン、または酸変性ポリプロピレンの中和物がもろくなることがある。
【0047】
該多官能化合物をサイジング剤として、強化繊維に付与することで、添加量が少量であっても効果的に強化繊維表面の官能基等の表面特性に適合させて接着性およびコンポジット総合特性を向上させることができる。また、集束性、耐屈曲性や耐擦過性を改良し、高次加工工程において、毛羽、糸切れの発生を抑制しており、いわゆる糊剤、集束剤として高次加工性を向上させることもできる。
【0048】
サイジング剤付着量は、強化繊維のみの質量に対して、0.01質量%以上10質量%以下が好ましく、0.05質量%以上5質量%以下がより好ましく、0.1質量%以上2質量%以下付与することがさらに好ましい。0.01質量%以下では接着性向上効果が現れにくく、10質量%以上では、マトリックス樹脂の物性低下させることがある。
【0049】
また、サイジング剤には、ビスフェノール型エポキシ化合物、直鎖状低分子量エポキシ化合物、ポリエチレングリコール、ポリウレタン、ポリエステル、乳化剤あるいは界面活性剤など他の成分を粘度調整、耐擦過性向上、耐毛羽性向上、集束性向上、高次加工性向上等の目的で加えてもよい。
【0050】
サイジング剤の付与手段としては特に限定されるものではないが、例えばローラを介してサイジング液に浸漬する方法、サイジング液の付着したローラに接する方法、サイジング液を霧状にして吹き付ける方法などがある。また、バッチ式、連続式いずれでもよいが、生産性がよくバラツキが小さくできる連続式が好ましい。この際、強化繊維に対するサイジング剤有効成分の付着量が適正範囲内で均一に付着するように、サイジング液濃度、温度、糸条張力などをコントロールすることが好ましい。また、サイジング剤付与時に強化繊維を超音波で加振させることはより好ましい。
【0051】
乾燥温度と乾燥時間は化合物の付着量によって調整すべきであるが、サイジング剤の付与に用いる溶媒の完全な除去、乾燥に要する時間を短くし、一方、サイジング剤の熱劣化を防止し、サイジング処理された強化繊維(A)で形成された強化繊維束が固くなって束の拡がり性が悪化するのを防止する観点から、乾燥温度は、150℃以上350℃以下であることがこのましく、180℃以上250℃以下であることがより好ましい。
【0052】
サイジング剤に使用する溶媒は、水、メタノール、エタノール、ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド、アセトン等が挙げられるが、取扱いが容易で防災の観点から水が好ましい。従って、水に不溶、若しくは難溶の化合物をサイジング剤として用いる場合には、乳化剤、界面活性剤を添加し、水分散して用いるのが良い。具体的には、乳化剤、界面活性剤としては、スチレン−無水マレイン酸共重合体、オレフィン−無水マレイン酸共重合体、ナフタレンスルホン酸塩のホルマリン縮合物、ポリアクリル酸ソーダ等のアニオン系乳化剤、ポリエチレンイミン、ポリビニルイミダゾリン等のカチオン系乳化剤、ノニルフェノールエチレンオキサイド付加物、ポリビニルアルコール、ポリオキシエチレンエーテルエステル共重合体、ソルビタンエステルエチルオキサイド付加物等のノニオン系乳化剤等を用いることができるが、相互作用の小さいノニオン系乳化剤が多官能化合物の接着性効果を阻害しにくく好ましい。
【0053】
本発明に用いられる(b)強化繊維としては、特に限定されないが、例えば、炭素繊維、ガラス繊維、アラミド繊維、アルミナ繊維、炭化珪素繊維、ボロン繊維、金属繊維などの高強度、高弾性率繊維が使用でき、これらは1種または2種以上を併用してもよい。中でも、PAN系、ピッチ系、レーヨン系などの炭素繊維が力学特性の向上、成形品の軽量化効果の観点から好ましく、得られる成形品の強度と弾性率とのバランスの観点から、PAN系炭素繊維がさらに好ましい。また、導電性を付与する目的では、ニッケルや銅やイッテルビウムなどの金属を被覆した強化繊維を用いることもできる。
【0054】
さらに炭素繊維としては、X線光電子分光法により測定される繊維表面の酸素(O)と炭素(C)の原子数の比である表面酸素濃度比[O/C]が0.05〜0.5であるものが好ましく、より好ましくは0.08〜0.4であり、さらに好ましくは0.1〜0.3である。表面酸素濃度比が0.05以上であることにより、炭素繊維表面の官能基量を確保でき、熱可塑性樹脂とより強固な接着を得ることができる。また、表面酸素濃度比の上限には特に制限はないが、炭素繊維の取扱い性、生産性のバランスから一般的に0.5以下とすることが例示できる。
【0055】
炭素繊維の表面酸素濃度比は、X線光電子分光法により、次の手順にしたがって求めるものである。まず、溶剤で炭素繊維表面に付着しているサイジング剤などを除去した炭素繊維束を20mmにカットして、銅製の試料支持台に拡げて並べた後、X線源としてA1Kα1、2を用い、試料チャンバー中を1×108Torrに保つ。測定時の帯電に伴うピークの補正値としてC1sの主ピークの運動エネルギー値(K.E.)を1202eVに合わせる。C1sピーク面積をK.E.として1191〜1205eVの範囲で直線のベースラインを引くことにより求める。O1sピーク面積をK.E.として947〜959eVの範囲で直線のベースラインを引くことにより求める。
【0056】
ここで、表面酸素濃度比とは、上記O1sピーク面積とC1sピーク面積の比から装置固有の感度補正値を用いて原子数比として算出する。X線光電子分光法装置として、国際電気社製モデルES−200を用い、感度補正値を1.74とする。
【0057】
表面酸素濃度比[O/C]を0.05〜0.5に制御する手段としては、特に限定されるものではないが、例えば、電解酸化処理、薬液酸化処理および気相酸化処理などの手法をとることができ、中でも電解酸化処理が好ましい。
【0058】
また、強化繊維の平均繊維径は特に限定されないが、得られる成形品の力学特性と表面外観の観点から、1〜20μmの範囲内であることが好ましく、3〜15μmの範囲内であることがより好ましい。強化繊維束とした場合の単糸数には、特に制限はなく、100〜350,000本の範囲内で使用することができ、とりわけ1,000〜250,000本の範囲内で使用することが好ましい。また強化繊維の生産性の観点からは、単糸数が多いものが好ましく、20,000〜100,000本の範囲内で使用することが好ましい。
【0059】
本発明の(B)テルペン系樹脂は、有機溶媒中でフリーデルクラフツ型触媒存在下、テルペン単量体単独若しくは、テルペン単量体と芳香族単量体等と共重合体して得られる重合体からなる樹脂が挙げられる。
【0060】
(B)テルペン系樹脂は、(C)プロピレン系樹脂よりも溶融粘度が低い熱可塑性重合体であり、射出成形やプレス成形などの最終形状への成形工程において、樹脂組成物の粘度を下げ、成形性を向上することが可能である。この際、(B)テルペン系樹脂は、(C)プロピレン系樹脂との相溶性が良いことから、効果的に成形性向上することができる。
【0061】
テルペン単量体としては、α−ピネン、β−ピネン、ジペンテン、d−リモネン、ミルセン、アロオシメン、オシメン、α−フェランドレン、α−テルピネン、γ−テルピネン、テルピノーレン、1,8−シネオール、1,4−シネオール、α−テルピネオール、β−テルピネオール、γ−テルピネオール、サビネン、パラメンタジエン類、カレン類等の単環式モノテルペンが挙げられる。また、芳香族単量体としては、スチレン、α−メチルスチレン等が挙げられる。
【0062】
中でも、α−ピネン、β−ピネン、ジペンテン、d−リモネンが(C)ポリプロピレン系樹脂との相溶性がよく好ましく、さらに、該化合物の単独重合体がより好ましい。また、該テルペン系樹脂を水素添加処理して得られた水素化テルペン系樹脂が、より(C)ポリプロピレン系樹脂との相溶性がよくなるため好ましい。
【0063】
また、(B)テルペン系樹脂のガラス転移温度は、30〜100℃であることが好ましい。これは、本発明の樹脂組成物の取扱性を良好にするためである。ガラス転移温度が30℃以下であると、成形加工時に(B)テルペン系樹脂が半固形、もしくは液状になり、定量的に材料投入できないことがある。また、ガラス転移温度が100℃以上であると、成形加工時の(B)テルペン系樹脂の固化が早く、成形性を向上できないことがある。
【0064】
また、(B)テルペン系樹脂の数平均分子量は、500〜5000であることが好ましい。数平均分子量が500以下では、テルペン系樹脂の機械強度が低いために、成形品の機械特性を損ねることがある。また、5000以上ではテルペン系樹脂の粘度が上がり、成形性を向上できないことがあり、本発明の樹脂組成物を用いて成形加工や混練などを行う際に、成分(B)の数平均分子量を低くすることで、成分(B)が成分(A)、(B)および(C)の混合物内を最も流動し、移動しやすくするためである。
【0065】
なお数平均分子量の測定はゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)を用いて測定することができる。
【0066】
ここで、(B)テルペン系樹脂は、プロピレン系樹脂組成物の成形性を効果的に向上させるために、(C)ポリプロピレン系樹脂と相溶する必要がある。ここで、(C)ポリプロピレン系樹脂のSP値は種類によるが、この値は通常8〜9程度であることから、(B)テルペン系樹脂のSP値は、6.5〜9.5であることを必要とする。より好ましくは、7.5〜9である。SP値が6.5〜9.5の範囲以外では、(C)ポリプロピレン系樹脂と相溶しにくい傾向にあり、成形性向上しにくい。
【0067】
ここでSP値とは、溶解度パラメーターであり、2成分のSP値が近いほど溶解度が大となることが経験的に得られている。SP値の決定法は幾種類か知られているが、比較においては同一の決定法を用いればよい。具体的には、Fedorsの方法を用いることが望ましい。(参照 SP値基礎・応用と計算、2005年3月31日 第1版、発行者 谷口彰敏、発行 株式会社情報機構、66〜67頁)
また、(B)テルペン系樹脂のSP値は(a)多官能化合物のSP値よりも低いことを必要とする。(B)テルペン系樹脂のSP値が多官能化合物のSP値よりも高い場合には、(B)テルペン系樹脂のSP値が(C)プロピレン系樹脂のSP値よりも(a)多官能化合物のSP値に近くなり、(b)強化繊維表面に付与した
(a)多官能化合物が(B)テルペン系樹脂と置き換わるために、界面接着性を向上できない。
【0068】
ここで、本発明の成形材料は、(A)(a)多官能化合物によりサイジング処理された(b)強化繊維と(B)テルペン系樹脂からなる複合体が形成されている。この複合体の形態は図1に示すようなものであり、強化繊維束(A)の各単繊維間に(B)テルペン系樹脂が満たされている。すなわち、(B)テルペン系樹脂の海に、(A)(a)多官能化合物によりサイジング処理された(b)強化繊維が島のように分散している状態である。
【0069】
本発明の成形材料において、(B)テルペン系樹脂が(A)(a)多官能化合物によりサイジング処理された(b)強化繊維に良好に含浸した複合体とすることで、(C)プロピレン系樹脂とが接着されていても、例えば、本発明の成形材料を射出成形すると、射出成形機のシリンダー内で溶融混練された、(B)テルペン系樹脂が、(C)プロピレン系樹脂に拡散し、(A)(a)多官能化合物によりサイジング処理された(b)強化繊維が(C)プロピレン系樹脂に分散することを助け、同時に(C)プロピレン系樹脂が(A)(a)多官能化合物によりサイジング処理された(b)強化繊維に置換、含浸することを助ける、いわゆる含浸助剤・分散助剤としての役割を持つ。
【0070】
含浸助剤の付与工程は、特に限定されないが、繊維束に油剤、サイジング剤、マトリックス樹脂を付与するような公知の製造方法を用いることができるが、より具体的な例として、加熱した回転するロールの表面に、溶融した(B)テルペン系樹脂の一定厚みの被膜をコーティングし、このロール表面に(A)(a)多官能化合物によりサイジング処理された(b)強化繊維を接着させながら走らせることで、繊維束の単位長さ当たりに所定量の(B)テルペン系樹脂を付着させる方法を挙げることができる。ロール表面への(B)テルペン系樹脂のコーティングに関しては、リバースロール、正回転ロール、キスロール、スプレイ、カーテン、押出などの公知のコーティング装置の概念を応用することで実現できる。ロール上へのコーティング装置に関しては、原崎勇次著「コーティング装置と操作技術入門」(総合技術センター)等の著作に詳しく記述されている。
【0071】
含浸助剤の含浸工程では、(B)テルペン系樹脂が溶融する温度において、(B)テルペン系樹脂の付着した(A)(a)多官能化合物によりサイジング処理された(b)強化繊維に対して、ロールやバーで張力をかける、拡幅、集束を繰り返す、圧力や振動を加えるなどの操作で(B)テルペン系樹脂を(A)(a)多官能化合物によりサイジング処理された(b)強化繊維の繊維束内部まで含浸するようにする。より具体的な例として、加熱された複数のロールやバーの表面に繊維束を接触するように通して拡幅などを行う方法を挙げることができる。
【0072】
また、(B)テルペン系樹脂の溶融粘度は、190℃において0.05〜1Pa・sであることが好ましい。より好ましくは0.1〜0.5Pa・sである。0.05Pa・s以下では、テルペン系樹脂の機械強度が低いために、成形品の機械特性を損ねることがある。また、5Pa・s以上ではテルペン系樹脂の粘度が上がり、成形性を向上できないことがあり、本発明の樹脂組成物を用いて成形加工や混練などを行う際に、成分(B)の溶融粘度を低くすることで、成分(B)が成分(A)、(B)および(C)の混合物内を流動し、移動しやすくするためである。
【0073】
本発明の(C)プロピレン系樹脂は、プロピレンの単独重合体またはプロピレンと少なくとも1種のα−オレフィン、共役ジエン、非共役ジエンなどとの共重合体が挙げられる。
【0074】
α−オレフィンを構成する単量体繰り返し単位には、例えば、エチレン、1−ブテン、3−メチル−1−ブテン、4−メチル−1−ペンテン、3−メチル−1−ペンテン、4−メチル−1−ヘキセン、4,4ジメチル−1−ヘキセン、1−ノネン、1−オクテン、1−ヘプテン、1−ヘキセン、1−デセン、1−ウンデセン、1−ドデセン等のプロピレンを除く炭素数2〜12のα−オレフィン、共役ジエン、非共役ジエンを構成する単量体繰り返し単位にはブタジエン、エチリデンノルボルネン、ジシクロペンタジエン、1,5−ヘキサジエン等が挙げられ、これらその他の単量体繰り返し単位には、1種類または2種類以上を選択することができる。
【0075】
(C)プロピレン系樹脂の骨格構造としては、プロピレンの単独重合体、プロピレンと前記その他の単量体のうちの1種類または2種類以上のランダムあるいはブロック共重合体、または他の熱可塑性単量体との共重合体等を挙げることができる。例えば、ポリプロピレン、エチレン・プロピレン共重合体、プロピレン・1−ブテン共重合体、エチレン・プロピレン・1−ブテン共重合体などが好適なものとして挙げられる。
【0076】
一般的に、剛性が必要な場合にプロピレンの単独重合体を用い、衝撃特性が必要な場合にはプロピレンと前記その他の単量体のうちの1種類または2種類以上のランダムあるいはブロックプロピレンを用いる。
【0077】
また(C)プロピレン系樹脂は得られる成形品の力学特性を向上させる観点より、変性プロピレン系樹脂であることが好ましい。好ましくは酸変性プロピレン系樹脂であり、重合体鎖に結合したカルボン酸および/またはその塩の基を有してなるプロピレン系樹脂である。上記酸変性プロピレン系樹脂は、種々の方法で得ることができ、例えば、前記(C)プロピレン系樹脂に、中和されているか、中和されていないカルボン酸基を有する単量体、および/またはケン化されているか、ケン化されていないカルボン酸エステルを有する単量体を、グラフト重合することにより得ることができる。
【0078】
ここで、中和されているか、中和されていないカルボン酸基を有する単量体、およびケン化されているか、ケン化されていないカルボン酸エステル基を有する単量体としては、たとえば、エチレン系不飽和カルボン酸、その無水物が挙げられ、またこれらのエステル、さらにはオレフィン以外の不飽和ビニル基を有する化合物なども挙げられる。
【0079】
エチレン系不飽和カルボン酸としては、(メタ)アクリル酸、マレイン酸、フマール酸、テトラヒドロフタル酸、イタコン酸、シトラコン酸、クロトン酸、イソクロトン酸などが例示され、その無水物としては、ナジック酸TM(エンドシス−ビシクロ[2.2.1]ヘプト−5−エン−2,3−ジカルボン酸)、無水マレイン酸、無水シトラコン酸などが例示できる。
【0080】
オレフィン以外の不飽和ビニル基を有する単量体としては、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、プロピル(メタ)アクリレート、n−ブチル(メタ)アクリレート、i−ブチル(メタ)アクリレート、tert−ブチル(メタ)アクリレート、n−アミル(メタ)アクリレート、イソアミル(メタ)アクリレート、n−ヘキシル(メタ)アクリレート、2−エチルヘキシル(メタ)アクリレート、オクチル(メタ)アクリレート、デシル(メタ)アクリレート、ドデシル(メタ)アクリレート、オクタデシル(メタ)アクリレート、ステアリル(メタ)アクリレート、トリデシル(メタ)アクリレート、ラウロイル(メタ)アクリレート、シクロヘキシル(メタ)アクリレート、ベンジル(メタ)アクリレート、フェニル(メタ)アクリレート、イソボロニル(メタ)アクリレート、ジシクロペンタニル(メタ)アクリレート、ジシクロペンテニル(メタ)アクリレート、ジメチルアミノエチル(メタ)アクリレート、ジエチルアミノエチル(メタ)アクリレート等の(メタ)アクリル酸エステル類、ヒドロキシエチルアクリレート、2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、4−ヒドロキシブチルアクリレート、ラクトン変性ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシ−3−フェノキシプロピルアクリレート等の水酸基含有ビニル類、グリシジル(メタ)アクリレート、メチルグリシジル(メタ)アクリレート等のエポキシ基含有ビニル類、ビニルイソシアナート、イソプロペニルイソシアナート等のイソシアナート基含有ビニル類、スチレン、α−メチルスチレン、ビニルトルエン、t−ブチルスチレン等の芳香族ビニル類、アクリルアミド、メタクリルアミド、N−メチロールメタクリルアミド、N−メチロールアクリルアミド、ジアセトンアクリルアミド、マレイン酸アミド等のアミド類、酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル等のビニルエステル類、N、N−ジメチルアミノエチル(メタ)アクリレート、N、N−ジエチルアミノエチル(メタアクリレート、N,N−ジメチルアミノプロピル(メタ)アクリレート、N、N−ジプロピルアミノエチル(メタ)アクリレート、N、N−ジブチルアミノエチル(メタ)アクリレート、N、N−ジヒドロキシエチルアミノエチル(メタ)アクリレート等のアミノアルキル(メタ)アクリレート類、スチレンスルホン酸、スチレンスルホン酸ソーダ、2−アクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸等の不飽和スルホン酸類、モノ(2−メタクリロイロキシエチル)アシッドホスフェート、モノ(2−アクリロイロキシエチル)アシッドホスフェート等の不飽和リン酸類等が挙げられる。
【0081】
これらの単量体は単独で用いることもできるし、また2種類以上のものを用いることもできる。また、これらの中でも、酸無水物類が好ましく、さらには無水マレイン酸が好ましい。
【0082】
(C)プロピレン系樹脂が、重合体鎖に結合したカルボン酸および/またはその塩の基を有してなるプロピレン系樹脂である場合には、該樹脂の力学特性を高く保つことと、原料コストを考慮し、無変性のプロピレン系樹脂との混合物とすることが好ましい。具体的には、重合体鎖に結合したカルボン酸および/またはその塩の基を有するプロピレン系樹脂(C−1)5〜50質量%と、カルボン酸および/またはその塩の基を有しないプロピレン系樹脂(C−2)50〜95質量%とを有してなることが好ましい。より好ましくは成分(C−1)が5〜45質量%、成分(C−2)が55〜95質量%、さらに好ましくは成分(C−1)が5〜35質量%、成分(C−2)が65〜95質量%である。
【0083】
さらに、(C)プロピレン系樹脂が、(C−1)カルボン酸および/またはその塩の基を有しているプロピレン系樹脂と(C−2)カルボン酸および/またはその塩の基を有しないプロピレン系樹脂との混合物であり、前記成分(a)多官能性化合物、(B)テルペン系樹脂、(C−1)重合体鎖に結合したカルボン酸および/またはその塩の基を有するプロピレン系樹脂の質量比が(a)/(B)/(C−1)=0.001〜0.5/1/0.01〜50であることが好ましい。より好ましくは、(a)/(B)/(C−1)=0.005〜0.1/1/0.05〜20であり、さらに好ましくは、(a)/(B)/(C−1)=0.01〜0.05/1/0.1〜10である。各成分を範囲内で用いることで、界面接着性、繊維分散性、機械特性をバランス良く向上することができるため好ましい。
【0084】
ここで、本発明の成形材料は、(A)(a)多官能化合物によりサイジング処理された(b)強化繊維と(B)テルペン系樹脂からなる複合体が(C)プロピレン系樹脂に接して形成される。(C)プロピレン系樹脂の配置工程としては、溶融した(C)プロピレン系樹脂を(A)(a)多官能化合物によりサイジング処理された(b)強化繊維と(B)テルペン系樹脂からなる複合体に接するように配置する。特に限定されないが、より具体的には、押出機と電線被覆法用のコーティングダイを用いて、連続的に複合体の周囲に(C)プロピレン系樹脂を被覆するように配置していく方法や、ロール等で扁平化した複合体の片面あるいは両面から押出機とTダイを用いて溶融したフィルム状の(C)プロピレン系樹脂を配置し、ロール等で一体化させる方法を挙げることができる。
【0085】
製造された成形材料は、ペレタイザーやストランドカッターなどの装置で一定長に切断して用いることもある。この切断工程が(C)プロピレン系樹脂の配置工程の後に連続的に設置されていてもよい。成形材料が扁平であったりシート状である場合には、スリットして細長くしてから切断してもよい。スリットと切断を同時におこなうシートペレタイザーのようなものを使用してもよい。
【0086】
(A)〜(C)に加えて(D)エラストマーを有していることが好ましい。本発明において、エラストマーとは、一般的にガラス転移温度が室温より低い重合体を含有し、分子間の一部が共有結合・イオン結合・ファンデルワールス力・絡み合い等により、互いに拘束されている重合体である。
【0087】
(D)エラストマーとしては、オレフィン系エラストマー、スチレン系エラストマー、ウレタン系エラストマー、エステル系エラストマー、アミド系エラストマー等が挙げられ、オレフィン系エラストマーとして具体的には、エチレン−α−オレフィン共重合体、エチレン−プロピレン−エチリデンノルボルネン共重合体、エチレン−プロピレン−ヘキサジエン共重合体などのエチレン−プロピレン非共役ジエン3元共重合体等が挙げられる。また、スチレン系エラストマーとして具体的には、スチレン−ブタジエン、スチレン−イソプレン−スチレン、スチレン−ブタジエン−スチレン、スチレン−エチレン−ブタジエン−スチレン、スチレン−エチレン−プロピレン−スチレンのランダム共重合体、およびブロック共重合体、該ブロック共重合体の水素添加物、アクリロニトリル−ブタジエン−スチレン共重合体等が挙げられる。中でも、オレフィン系エラストマーとしてエチレン−α−オレフィン共重合体は、ポリプロピレンとの相溶性がよいために、効果的に耐衝撃性を向上でき好ましい。
【0088】
これらのエラストマーは1種または2種以上を選択し用いることができる。
【0089】
また、(C)ポリプロピレン系樹脂のSP値は種類によるが、この値は通常8〜9程度であることから、(D)エラストマーのSP値としては、6.5〜9.5であることが好ましく、7〜9であるとより好ましい。(D)のSP値が6.5〜9.5の範囲以外では、(C)ポリプロピレン系樹脂と相溶しにくい傾向にあり、相溶しない場合、ポリプロピレン系樹脂組成物の粘度が増加傾向にあるため、成形性が低下することがある。
【0090】
また(C)プロピレン系樹脂は、本発明の目的を損なわない範囲で、他の充填材や添加剤を含有しても良い。これらの例としては、無機充填材、難燃剤、導電性付与剤、結晶核剤、紫外線吸収剤、酸化防止剤、制振剤、抗菌剤、防虫剤、防臭剤、着色防止剤、熱安定剤、離型剤、帯電防止剤、可塑剤、滑剤、着色剤、顔料、染料、発泡剤、制泡剤、あるいは、カップリング剤が挙げられる。
【0091】
本発明の樹脂組成物は、少なくとも(A)(a)多官能化合物によりサイジング処理された(b)強化繊維、(B)テルペン系樹脂、(C)プロピレン系樹脂で構成され、このうち、(A)(a)多官能化合物によりサイジング処理された(b)強化繊維は、1〜75質量%、好ましくは5〜65質量%、より好ましは10〜50質量%である。(A)(a)多官能化合物によりサイジング処理された(b)強化繊維が1質量%未満では、得られる成形品の力学特性が不十分となる場合があり、75質量%を超えると射出成形などの成形加工の際に流動性が低下する場合がある。
【0092】
また、このうち、(B)テルペン系樹脂は0.01〜20質量%、好ましくは0.5〜15質量%、より好ましくは1〜12質量%である。(B)テルペン系樹脂が0.1質量%未満では、強化繊維の分散性が不十分となる場合があり、20質量%を超えると、成形品の力学特性を低下させる場合がある。
【0093】
また、このうち、(C)プロピレン樹脂は5〜98.98質量%、好ましくは25〜94質量%、より好ましくは50〜88質量%であり、この範囲内で用いることで、本発明の効果を達成することができる。
【0094】
また、前記成分(A)〜(C)に加えて、成分(D)を含有させる場合、このうち、(D)エラストマーは、0.01〜30質量%、好ましくは0.5〜20質量%、より好ましくは1〜15質量%である。(D)エラストマーが30質量%を超えると、成形品の力学特性を低下させる場合がある。
【0095】
本発明の成形材料は、(A)(a)多官能化合物によりサイジング処理された(b)強化繊維と(B)テルペン系樹脂からなる複合体に(C)プロピレン系樹脂が接着するように配置されて構成される成形材料である。成形材料においての好ましい態様としては、図2に示すように、(A)(a)多官能化合物によりサイジング処理された(b)強化繊維が成形材料の軸心方向にほぼ平行に配列され、かつ(b)強化繊維の長さは成形材料の長さと実質的に同じ長さである。
【0096】
ここで言う、「ほぼ平行に配列されて」いるとは、強化繊維束の長軸の軸線と、成形材料の長軸の軸線とが、同方向を指向している状態を示し、軸線同士の角度のずれが、好ましくは20°以下であり、より好ましくは10°以下であり、さらに好ましくは5°以下である。また、「実質的に同じ長さ」とは、例えばペレット状の成形材料において、ペレット内部の途中で強化繊維束が切断されていたり、ペレット全長よりも有意に短い強化繊維束が実質的に含まれたりしないことである。特に、そのペレット全長よりも短い強化繊維束の量について規定されているわけではないが、ペレット全長の50%以下の長さの強化繊維の含有量が30質量%以下である場合には、ペレット全長よりも有意に短い強化繊維束が実質的に含まれていないと評価する。さらに、ペレット全長の50%以下の長さの強化繊維の含有量は20質量%以下であることが好ましい。なお、ペレット全長とはペレット中の強化繊維配向方向の長さである。(A)(a)多官能化合物によりサイジング処理された(b)強化繊維が成形材料と同等の長さを持つことで、成形品中の強化繊維長を長くすることが出来るため、優れた力学特性を得ることができる。
【0097】
図3〜6は、本発明の成形材料の軸心方向断面の形状の例を模式的に表したものであり、図7〜10は、本発明の成形材料の直交方向断面の形状の例を模式的に表したものである。
【0098】
成形材料の断面の形状は、(A)(a)多官能化合物によりサイジング処理された(b)強化繊維と(B)テルペン系樹脂からなる複合体に、(C)プロピレン系樹脂が接着するように配置されていれば図に示されたものに限定されないが、好ましくは軸心方向断面である図3〜5に示されるように、複合体が芯材となり(C)プロピレン系樹脂で層状に挟まれて配置されている構成が好ましい。
【0099】
また直交方向断面である図7〜9に示されるように、複合体を芯に対して、(C)プロピレン系樹脂が周囲を被覆するような芯鞘構造に配置されている構成が好ましい。図11に示されるような複数の複合体を(C)プロピレン系樹脂が被覆するように配置する場合、複合体の数は2〜6程度が望ましい。
【0100】
複合体と(C)プロピレン系樹脂の境界は接着され、境界付近で部分的に(C)プロピレン系樹脂が該複合体の一部に入り込み、複合体中の(B)テルペン系樹脂と相溶しているような状態、あるいは強化繊維に含浸しているような状態になっていてもよい。
【0101】
成形材料の軸心方向は、ほぼ同一の断面形状を保ち連続であればよい。成形方法によってはこのような連続の成形材料をある長さにカットしてもよい。
【0102】
本発明の成形材料は、例えば射出成形やプレス成形などの手法により(A)(a)多官能化合物によりサイジング処理された(b)強化繊維と(B)テルペン系樹脂からなる複合体に、(C)プロピレン系樹脂を混練して最終的な成形品を作製できる。成形材料の取扱性の点から、前記複合体と(C)プロピレン系樹脂は成形が行われるまでは分離せず、前述したような形状を保っていることが重要である。複合体と(C)プロピレン系樹脂では、形状(サイズ、アスペクト比)、比重、質量が全く異なるため、成形までの材料の運搬、取り扱い時、成形工程での材料移送時に分級し、成形品の力学特性にバラツキを生じたり、流動性が低下して金型詰まりを起こしたり、成形工程でブロッキングする場合がある。
【0103】
そのため、図7〜9に例示されるように、(A)(a)多官能化合物によりサイジング処理された(b)強化繊維と(B)テルペン系樹脂(C)からなる複合体に対して、(C)プロピレン系樹脂が該複合体の周囲を被覆するように配置されていること、すなわち、(A)(a)多官能化合物によりサイジング処理された(b)強化繊維と(B)テルペン系樹脂からなる複合体が芯構造であり、(C)プロピレン系樹脂が該複合体の周囲を被覆した芯鞘構造とすることが好ましい。このような配置であれば、複合体が(C)プロピレン系樹脂をより強固な複合化ができる。また、(C)プロピレン系樹脂が(A)(a)多官能化合物によりサイジング処理された(b)強化繊維と(B)テルペン系樹脂からなる複合体の周囲を被覆するように配置されるか、該複合体と(C)プロピレン系樹脂が層状に配置されているか、いずれが有利であるかについては、製造の容易さと、材料の取り扱いの容易さから、(C)プロピレン系樹脂が該複合体の周囲を被覆するように配置されることがより好ましい。
【0104】
前述したように、(A)(a)多官能化合物によりサイジング処理された(b)強化繊維は(B)テルペン系樹脂および一部の(C)プロピレン系樹脂によって完全に含浸されていることが望ましいが、現実的にそれは困難であり、(A)(a)多官能化合物によりサイジング処理された(b)強化繊維と(B)テルペン系樹脂および一部の(C)プロピレン系樹脂からなる複合体にはある程度の空隙が存在する。特に(A)(a)多官能化合物によりサイジング処理された(b)強化繊維の含有率が大きい場合には空隙が多くなるが、ある程度の空隙が存在する場合でも本発明の含浸・繊維分散促進の効果は示される。ただし空隙率が20%を超えると顕著に含浸・繊維分散促進の効果が小さくなるので、空隙率は0〜20%の範囲が好ましい。より好ましい空隙率の範囲は15%以下である。空隙率は、複合体の部分をASTM D2734(1997)試験法により測定するか、または成形材料の断面において、(A)(a)多官能化合物によりサイジング処理された(b)強化繊維と(B)テルペン系樹脂および一部の(C)プロピレン系樹脂により形成される複合体部分に存在する空隙を観察し、複合体部の全面積と空隙部の全面積とから次式を用いて算出することができる。
【0105】
空隙率(%)=空隙部の全面積/(複合体部の全面積+空隙部の全面積)×100。
【0106】
なお、ここまで、本発明の成形材料の形状として、成分(A)〜(C)からなる成形材料を例に挙げて説明をしたが、成分(A)〜(C)に加えて、成分(D)を含有させる場合については、成分(C)に、上述の成分(D)が含有された状態の形状であることが好ましい。この場合、例えば、図3〜11の符号4は、成分(C)+成分(D)となる。
【0107】
本発明の成形材料は、好ましくは1〜50mmの範囲の長さに切断して用いられる。前記の長さに調製することにより、成形時の流動性、取扱性を十分に高めることができる。このように適切な長さに切断された成形材料としてとりわけ好ましい態様は、射出成形用の長繊維ペレットが例示できる。
【0108】
また、本発明の成形材料は、連続、長尺のままでも成形法によっては使用可能である。例えば、熱可塑性ヤーンプリプレグとして、加熱しながらマンドレルに巻き付け、ロール状成形品を得たりすることができる。このような成形品の例としては、液化天然ガスタンクなどが挙げられる。また本発明の成形材料を、複数本一方向に引き揃えて加熱・融着させることにより一方向熱可塑性プリプレグを作製することも可能である。このようなプリプレグは、軽量性、高強度、弾性率、耐衝撃性が要求されるような分野、例えば自動車部材などに適用が可能である。
【0109】
本発明の繊維強化プロピレン系樹脂組成物は、各種公知の成形法により最終的な形状の製品に加工できる。成形方法としてはプレス成形、トランスファー成形、射出成形や、これらの組合せ等が挙げられる。成形品としては、インストルメントパネル、ドアビーム、アンダーカバー、ランプハウジング、ペダルハウジング、ラジエータサポート、スペアタイヤカバー、フロントエンドなどの各種モジュール等の自動車部品に好適である。さらに電話、ファクシミリ、VTR、コピー機、テレビ、電子レンジ、音響機器、トイレタリー用品、レーザーディスク、冷蔵庫、エアコンなどの家庭・事務電気製品部品も挙げられる。またパーソナルコンピューター、携帯電話などに使用されるような筐体や、パーソナルコンピューターの内部でキーボードを支持する部材であるキーボード支持体に代表されるような電気・電子機器用部材なども挙げられる。本発明は、強化繊維に、導電性を有する炭素繊維を使用した場合、このような電気・電子機器用部材では、電磁波シールド性が付与されるためにより好ましい。
【実施例】
【0110】
以下、実施例により本発明をさらに詳細に説明する。
【0111】
(1)(B)テルペン系樹脂の数平均分子量測定
(B)テルペン系樹脂をゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)にて測定した。GPCカラムにはポリスチレン架橋ゲルを充填したものを用いた。溶媒にクロロホルムを用い、150℃にて測定した。分子量は標準ポリスチレン換算にて算出した。
【0112】
(2)(B)テルペン系樹脂の溶融粘度測定
(B)テルペン系樹脂を粘弾性測定器にて溶融粘度測定した。40mmのパラレルプレートを用い、0.5Hzにて、190℃における測定した。
【0113】
(3)(B)テルペン系樹脂のガラス転移温度測定
(B)テルペン系樹脂を示差熱走査熱量測定(DSC)にて測定した。アルミニウムサンプルパンを用いて、40℃/min昇温にて測定した。
【0114】
(4)複合体空隙率
ASTM D2734(1997)試験法に準拠して、複合体の空隙率(%)を算出した。
【0115】
複合体空隙率の判定は以下の基準でおこない、A〜Cを合格とした。
【0116】
A:0〜5%未満
B:5%以上20%未満
C:20%以上40%未満
D:40%以上。
【0117】
(5)成形材料を用いて得られた成形品の繊維分散性
100mm×100mm×2mmの成形品を成形し、表裏それぞれの面に存在する未分散CF束の個数を目視でカウントした。評価は50枚の成形品についておこない、その合計個数について繊維分散性の判定を以下の基準でおこない、A〜Cを合格とした。
【0118】
A:未分散CF束が1個以下
B:未分散CF束が1個以上5個未満
C:未分散CF束が5個以上10個未満
D:未分散CF束が10個以上。
【0119】
(6)成形材料を用いて得られた成形品の曲げ試験
ASTM D790(1997)に準拠し、3点曲げ試験冶具(圧子10mm、支点10mm)を用いて支持スパンを100mmに設定し、クロスヘッド速度5.3mm/分の試験条件にて曲げ強度および曲げ弾性率を測定した。試験機として、“インストロン(登録商標)”万能試験機4201型(インストロン社製)を用いた。
【0120】
曲げ強度の判定は以下の基準でおこない、A〜Cを合格とした。
【0121】
A:150MPa以上
B:130MPa以上150MPa未満
C:100MPa以上130MPa未満
D:100MPa未満。
【0122】
(7)成形材料を用いて得られた成形品のアイゾット衝撃試験
ASTM D256(1993)に準拠し、モールドノッチ付きアイゾット衝撃試験を行った。用いた試験片の厚みは3.2mm、試験片の水分率0.1質量%以下において、アイゾット衝撃強度(J/m)を測定した。
【0123】
アイゾット衝撃試験の判定は以下の基準でおこない、A〜Cを合格とした。
【0124】
A:250J/m以上
B:200J/m以上250J/m未満
C:150J/m以上200J/m未満
D:150J/m未満。
【0125】
(8)成形材料を用いて得られた成形品の界面接着性評価
上記(6)のアイゾッド衝撃試験後の破断サンプルの破断面をSEM(走査型電子顕微鏡)にて観察し、強化繊維表面に樹脂成分の付着があるか否かを、任意の強化繊維を5本を選択し、目視判定にておこなった。また判定は以下の基準でおこない、A〜Bを合格とした。
【0126】
A:強化繊維表面のほぼ全ての領域(90%以上)に樹脂の付着が認められる
B:強化繊維表面の50%以上90%未満の領域に樹脂の付着が認められる
C:強化繊維表面に樹脂の付着が認められるのが50%未満である。
【0127】
(9)樹脂組成物の成分評価
樹脂組成物を粉砕し、クロロホルム中で数時間攪拌することで溶解する成分を抽出することができ、さらに、抽出した成分をカラムクロマトグラフィーにて、各成分を単離することができるので、これを用いる。単離した成分は、IR、NMR、および元素分析によって化学構造を分析することができる。一方、クロロホルム不溶成分は、IR測定、元素分析することで、用いた樹脂の種類やカルボン酸基の定量等が評価できる。さらに、不溶成分は酸素雰囲気下500℃×2時間程度加熱することで、無機成分量が測定できるので、これを用いる。
【0128】
(10)SP値算出方法
SP値は、化合物の分子式から、下記に示す式を用いて算出した。
【0129】
σ(SP値)=(ΣEcoh/ΣV)1/2
ここでEcohは凝集エネルギー密度のことであり、Vは分子のモル容積である。いずれも値も官能基に依存する定数として、Fedorsが提案しており、そのまま採用した。
【0130】
参考例1.炭素繊維1
ポリアクリロニトリルを主成分とする共重合体から紡糸、焼成処理、表面酸化処理を行い、総単糸数24,000本の連続炭素繊維を得た。この連続炭素繊維の特性は次に示す通りであった。
【0131】
単繊維径:7μm
単位長さ当たりの質量:1.6g/m
比重:1.8
表面酸素濃度比 [O/C]:0.06
引張強度:4600MPa
引張弾性率:220GPa。
【0132】
ここで表面酸素濃度比は、表面酸化処理を行ったあとの炭素繊維を用いて、X線光電子分光法により、次の手順にしたがって求めた。まず、炭素繊維束を20mmにカットして、銅製の試料支持台に拡げて並べた後、X線源としてA1Kα1、2を用い、試料チャンバー中を1×108Torrに保った。測定時の帯電に伴うピークの補正値としてC1sの主ピークの運動エネルギー値(K.E.)を1202eVに合わせた。C1sピーク面積をK.E.として1191〜1205eVの範囲で直線のベースラインを引くことにより求めた。O1sピーク面積をK.E.として947〜959eVの範囲で直線のベースラインを引くことにより求めた。O1sピーク面積とC1sピーク面積の比から装置固有の感度補正値を用いて原子数比として算出した。X線光電子分光法装置として、国際電気社製モデルES−200を用い、感度補正値を1.74とした。
【0133】
参考例2.炭素繊維2
ポリアクリロニトリルを主成分とする共重合体から紡糸、焼成処理、表面酸化処理を行い、総単糸数24,000本の連続炭素繊維を得た。この連続炭素繊維の特性は次に示す通りであった。
【0134】
単繊維径:7μm
単位長さ当たりの質量:1.6g/m
比重:1.8
表面酸素濃度比 [O/C]:0.12
引張強度:4600MPa
引張弾性率:220GPa。
【0135】
参考例3.サイジング付与
(a)多官能性化合物を2質量%になるように水に溶解、または分散させたサイジング剤母液を調整し、浸漬法により強化繊維にサイジング剤を付与し、230℃で乾燥を行った。付着量は1.0質量%であった。
【0136】
参考例4.(C)プロピレン系樹脂に用いる酸変性プロピレン樹脂の合成
(c−1)プロピレン単独重合体(プライムポリマー(株)製プライムポリプロJ105G樹脂)99.6質量部、無水マレイン酸 0.4質量部、および重合開始剤としてパーヘキシ25B(日本油脂(株)製)0.4質量部を混合し、加熱温度160℃、2時間で変性を行って、(c−2)酸変性ポリプロピレン樹脂(Mw=40万、酸含有量=0.08ミリモル当量)得た。
【0137】
参考例5.(C)プロピレン系樹脂に用いる酸変性プロピレン樹脂の合成2
プロピレン樹脂に(c−3)ブロックポリプロピレン(プライムポリマー(株)製プライムポリプロJ704UG樹脂)を用いた以外は、参考例4と同様にして、(c−4)酸変性ポリプロピレン樹脂(Mw=35万、酸含有量=0.05ミリモル当量)を得た。
【0138】
参考例6.(C)プロピレン系樹脂に用いる低分子量ポリプロピレンの合成
(c−1)プロピレン単独重合体(プライムポリマー(株)製プライムポリプロJ105G樹脂) 99質量部、重合開始剤としてパーヘキシ25B(日本油脂(株)製)1質量部を混合し、加熱温度160℃、2時間で反応を行って、(c−5)ポリプロピレン樹脂(Mw=10万)得た。
【0139】
実施例1.
130℃加熱されたロール上に、(B)テルペン系樹脂として(b−1)テルペン樹脂(ヤスハラケミカル(株)製YSレジンPX1250樹脂:主成分としてα−ピネン、β−ピネンを用いて重合された重合体からなる樹脂)を加熱溶融した液体の被膜を形成させた。ロール上に一定した厚みの被膜を形成するためキスコーターを用いた。このロール上を連続した(a)多官能化合物として、(a−1)グリセロールトリグリシジルエーテルを用いて、参考例1、参考例3から得られた連続炭素繊維束を接触させながら通過させて、0.8質量%付着させた。次に、180℃に加熱された、ベアリングで自由に回転する、一直線上に配置された10本の直径50mmのロールの上下を、交互に通過させた。この操作により、(B)テルペン系樹脂を繊維束の内部まで含浸させ、複合体を形成した。この連続した複合体を、日本製鋼所(株)TEX−30α型2軸押出機(スクリュー直径30mm、L/D=32)の先端に設置された電線被覆法用のコーティングダイ中に通し、押出機からダイ内に230℃に溶融させた(C)ポリプロピレン樹脂(c−1)(プライムポリマー(株)製プライムポリプロJ105G樹脂)を吐出させて、複合体の周囲を被覆するように連続的に配置した。この際、炭素繊維のみの含有率が20質量%になるように(C)プロピレン系樹脂量を調整した。得られた成形材料を冷却後、カッターで切断してペレット状の成形材料とした。
【0140】
次に得られたペレット状の成形材料を、日本製鋼所(株)製J350EIII型射出成形機を用いて、シリンダー温度:220℃、金型温度:60℃で特性評価用試験片(成形品)を成形した。得られた試験片は、温度23℃、50%RHに調整された恒温恒湿室に24時間放置後に特性評価試験に供した。次に、得られた特性評価用試験片(成形品)を上記の射出成形品評価方法に従い評価した。評価結果を、まとめて表1に示した。得られた成形品中の炭素繊維の割合は20質量%であり、(B)テルペン系樹脂は0.8質量%、(C)プロピレン系樹脂は79質量%である。
実施例2.
(B)テルペン系樹脂を2.8質量%と、(C)ポリプロピレン系樹脂に、(c−1)プロピレン系単独重合体(プライムポリマー(株)製プライムポリプロJ105G樹脂)50質量%と、参考例4で作製した(c−2)酸変性プロピレン系樹脂50質量%とからなる樹脂を77質量%用いた以外は実施例1と同様にしてペレットを得、成形評価をおこなった。特性評価結果はまとめて表1に記載した。
【0141】
実施例3.
(B)テルペン系樹脂を4.8質量%とし、(C)プロピレン系樹脂を75質量%用いたこと以外は、実施例2と同様にしてペレットを得、成形評価をおこなった。特性評価結果はまとめて表1に記載した。
【0142】
実施例4.
(B)テルペン系樹脂を9.8質量%とし、(C)プロピレン系樹脂を70質量%用いたこと以外は、実施例2と同様にしてペレットを得、成形評価をおこなった。特性評価結果はまとめて表1に記載した。
【0143】
実施例5.
(B)テルペン系樹脂を(b−2)水添テルペン樹脂(ヤスハラケミカル(株)製クリアロンP−105樹脂:主成分としてd−リモネンを用いて重合された重合体を水素添加反応された重合体からなる樹脂)を用いたこと以外は、実施例3と同様にしてペレットを得、成形評価をおこなった。特性評価結果はまとめて表1に記載した。
【0144】
実施例6.
(a)多官能化合物を(a−2)ビスフェノールA型エポキシ樹脂(ジャパンエポキシレジン(株)製jER828)を用いたこと以外は、実施例3と同様にしてペレットを得、成形評価をおこなった。特性評価結果はまとめて表1に記載した。
【0145】
実施例7.
(a)多官能化合物を(a−3)酸変性ポリプロピレン(丸芳化学(株)製酸変性ポリプロピレンエマルジョン)を用いたこと以外は、実施例3と同様にしてペレットを得、成形評価をおこなった。特性評価結果はまとめて表1に記載した。
【0146】
実施例8.
(b)炭素繊維を参考例2から得られた炭素繊維を用いたこと以外は、実施例3と同様にしてペレットを得、成形評価をおこなった。特性評価結果はまとめて表1に記載した。
【0147】
実施例9.
(D)エラストマーとして、(d−1)エチレン−α−オレフィン共重合体(住友化学(株)製CX5505)を10質量%用い、(C)プロピレン系樹脂を65質量%用いたこと以外は実施例3と同様にしてペレットを得、成形評価をおこなった。特性評価結果はまとめて表1に記載した。
【0148】
実施例10.
(D)エラストマーとして、(d−2)スチレン−エチレン−ブタジエン−スチレン共重合体(旭化成工業(株)製タフテックH1052)を10質量%用い、(C)プロピレン系樹脂を65質量%用いたこと以外は実施例3と同様にしてペレットを得、成形評価をおこなった。特性評価結果はまとめて表1に記載した。
【0149】
実施例11.
(b)強化繊維として、ガラス繊維(日東紡績(株)製240TEX)を用いたこと以外は、実施例3と同様にして、ペレットを得、成形評価をおこなった。特性評価はまとめて表1に記載した。
【0150】
実施例12.
(a)多官能化合物を0.05質量%、炭素繊維1を5質量%、(b−1)テルペン系樹脂を0.95質量%とし、(C)ポリプロピレン系樹脂に、(c−1)プロピレン系単独重合体(プライムポリマー(株)製プライムポリプロJ105G樹脂)95質量%と、参考例4で作製した(c−2)酸変性プロピレン系樹脂5質量%とからなる樹脂を94質量%用いたこと以外は、実施例2と同様にして、ペレットを得、成形評価をおこなった。特性評価はまとめて表3に記載した。
【0151】
実施例13.
(a)多官能化合物を0.1質量%、炭素繊維1を10質量%、(b−2)水添テルペン系樹脂を2.4質量%とし、(C)ポリプロピレン系樹脂に、(c−1)プロピレン系単独重合体(プライムポリマー(株)製プライムポリプロJ105G樹脂)95質量%と、参考例4で作製した(c−2)酸変性プロピレン系樹脂5質量%とからなる樹脂を87.5質量%用いたこと以外は、実施例5と同様にして、ペレットを得、成形評価をおこなった。特性評価はまとめて表3に記載した。
【0152】
実施例14.
(a)多官能化合物を0.3質量%、炭素繊維1を30質量%、(b−2)水添テルペン系樹脂を7.2質量%とし、(C)ポリプロピレン系樹脂に、(c−1)プロピレン系単独重合体(プライムポリマー(株)製プライムポリプロJ105G樹脂)70質量%と、参考例4で作製した(c−2)酸変性プロピレン系樹脂30質量%とからなる樹脂を62.5質量%用いたこと以外は、実施例5と同様にして、ペレットを得、成形評価をおこなった。特性評価はまとめて表3に記載した。
【0153】
実施例15.
(a)多官能化合物を0.4質量%、炭素繊維1を40質量%、(b−1)テルペン系樹脂を9.6質量%とし、(C)ポリプロピレン系樹脂に、(c−1)プロピレン系単独重合体(プライムポリマー(株)製プライムポリプロJ105G樹脂)70質量%と、参考例4で作製した(c−2)酸変性プロピレン系樹脂30質量%とからなる樹脂を50質量%用いたこと以外は、実施例2と同様にして、ペレットを得、成形評価をおこなった。特性評価はまとめて表3に記載した。
【0154】
実施例16.
(C)ポリプロピレン系樹脂に、(c−1)プロピレン系単独重合体(プライムポリマー(株)製プライムポリプロJ105G樹脂)90質量%と、参考例4で作製した(c−2)酸変性プロピレン系樹脂10質量%とからなる樹脂を用いたこと以外は、実施例5と同様にして、ペレットを得、成形評価をおこなった。特性評価はまとめて表3に記載した。
【0155】
実施例17.
(C)ポリプロピレン系樹脂に、(c−1)プロピレン系単独重合体(プライムポリマー(株)製プライムポリプロJ105G樹脂)90質量%と、参考例5で作製した(c−4)酸変性プロピレン系樹脂10質量%とからなる樹脂を用いたこと以外は、実施例16と同様にして、ペレットを得、成形評価をおこなった。特性評価はまとめて表3に記載した。
【0156】
実施例18.
(C)ポリプロピレン系樹脂に、(c−3)ブロックポリプロピレン(プライムポリマー(株)製プライムポリプロJ704UG樹脂)90質量%と、参考例4で作製した(c−2)酸変性プロピレン系樹脂10質量%とからなる樹脂を用いたこと以外は、実施例16と同様にして、ペレットを得、成形評価をおこなった。特性評価はまとめて表3に記載した。
【0157】
実施例19.
(C)ポリプロピレン系樹脂に、(c−3)ブロックポリプロピレン(プライムポリマー(株)製プライムポリプロJ704UG樹脂)90質量%と、参考例5で作製した(c−4)酸変性プロピレン系樹脂10質量%とからなる樹脂を用いたこと以外は、実施例16と同様にして、ペレットを得、成形評価をおこなった。特性評価はまとめて表3に記載した。
【0158】
実施例20.
(C)ポリプロピレン系樹脂に、(c−1)プロピレン系単独重合体(プライムポリマー(株)製プライムポリプロJ105G樹脂)45質量%と、参考例6で作製した(c−5)プロピレン系樹脂45質量%と、参考例4で作成した(c−2)酸変性ポリプロピレン系樹脂10質量%からなる樹脂を用いたこと以外は、実施例16と同様にして、ペレットを得、成形評価をおこなった。特性評価はまとめて表3に記載した。
【0159】
実施例21.
(C)ポリプロピレン系樹脂に、参考例6で作製した(c−5)プロピレン系樹脂90質量%と、参考例4で作成した(c−2)酸変性ポリプロピレン系樹脂10質量%からなる樹脂を用いたこと以外は、実施例16と同様にして、ペレットを得、成形評価をおこなった。特性評価はまとめて表3に記載した。
【0160】
実施例22.
(B)テルペン系樹脂を(b−4)水添テルペン樹脂(ヤスハラケミカル(株)製クリアロンP−85樹脂:主成分としてd−リモネンを用いて重合された重合体を水素添加反応された重合体からなる樹脂)を用いたこと以外は、実施例16と同様にしてペレットを得、成形評価をおこなった。特性評価結果はまとめて表3に記載した。
【0161】
実施例23.
(B)テルペン系樹脂を(b−5)水添テルペン樹脂(ヤスハラケミカル(株)製クリアロンP−125樹脂:主成分としてd−リモネンを用いて重合された重合体を水素添加反応された重合体からなる樹脂)を用いたこと以外は、実施例16と同様にしてペレットを得、成形評価をおこなった。特性評価結果はまとめて表3に記載した。
【0162】
実施例24.
(B)テルペン系樹脂を(b−6)水添テルペン樹脂(ヤスハラケミカル(株)製クリアロンP−150樹脂:主成分としてd−リモネンを用いて重合された重合体を水素添加反応された重合体からなる樹脂)を用いたこと以外は、実施例16と同様にしてペレットを得、成形評価をおこなった。特性評価結果はまとめて表3に記載した。
【0163】
実施例25.
(a)多官能化合物を1.2質量%用いたこと以外は、実施例16と同様にして、ペレットを得、成形評価をおこなった。特性評価はまとめて表3に記載した。
【0164】
実施例26.
(a)多官能化合物を(a−4)ポリグリセロールポリグリシジルエーテル(ナガセケムテックス(株)製デナコールEX−521)を用いたこと以外は、実施例16と同様にしてペレットを得、成形評価をおこなった。特性評価結果はまとめて表3に記載した。
【0165】
比較例1.
参考例1で得られた連続炭素繊維束にサイジング剤を付着させずにそのまま評価に供し、20質量%用いた。なお、(C)ポリプロピレン系樹脂には、実施例1と同様、(c−1)プロピレン単独重合体(プライムポリマー(株)製プライムポリプロJ105G樹脂)を80質量%用いた。ペレット作製時に炭素繊維が毛羽立ち、成形性も不十分であった。
【0166】
比較例2.
(B)テルペン系樹脂を添加せず、(C)プロピレン系樹脂を79.8質量%用いたこと以外は、実施例6と同様にしてペレットを得、成形評価をおこなった。特性評価結果はまとめて表2に記載した。
【0167】
比較例3.
(B)テルペン系樹脂の代わりに、溶融時にテルペン系樹脂と同程度の粘度である(e−1)フェノールノボラック樹脂(大日本インキ(株)TD−2131)を4.8質量%用い、(C)プロピレン系樹脂を75質量%用いたこと以外は、比較例2と同様にしてペレットを得、成形評価をおこなった。特性評価結果はまとめて表2に記載した。
【0168】
【表1】
【0169】
【表2】
【0170】
【表3】
【0171】
以上のように、実施例1〜26においては、成形材料(長繊維ペレット)は取扱い性に優れ、また該成形材料を用いることで繊維分散性にすぐれ、かつ力学特性に優れた成形品を得ることができた。
【0172】
一方、比較例1においては、炭素繊維束に何も付着させておらず、成形材料(長繊維ペレット)作製が不可能であった。また、比較例2、3では繊維分散性、力学特性を両立できる成形材料は得られなかった。
【産業上の利用可能性】
【0173】
本発明の成形材料は、成形時の繊維分散性に優れ、強化繊維とポリプロピレン系樹脂との界面接着性が良好であるため、高い力学特性を有する繊維強化熱可塑性樹脂成形品を得ることが可能であり、種々の用途に展開できる。特に自動車部品、電気・電子部品、家庭・事務電気製品部品に好適である。
【符号の説明】
【0174】
1 (A)(a)多官能化合物によりサイジング処理された(b)強化繊維
2 (B)テルペン系樹脂
3 (A)(a)多官能化合物によりサイジング処理された(b)強化繊維と(B)テルペン系樹脂からなる複合体
4 (C)プロピレン系樹脂
【技術分野】
【0001】
本発明は、プロピレン系樹脂をマトリックスとする成形材料に関する。さらに詳しくは、射出成形を行う際に強化繊維の成形品中への分散が良好であり、かつ力学特性に優れた成形品を製造できる成形材料に関する。
【背景技術】
【0002】
強化繊維と熱可塑性樹脂からなる成形材料は、軽量で優れた力学特性を有するために、スポーツ用品用途、航空宇宙用途および一般産業用途に広く用いられている。これらの成形材料に使用される強化繊維は、その使用用途によって様々な形態で成形品を強化している。これらの強化繊維には、アルミニウム繊維やステンレス繊維などの金属繊維、アラミド繊維やPBO繊維などの有機繊維、およびシリコンカーバイド繊維などの無機繊維や炭素繊維などが使用されているが、比強度、比剛性および軽量性のバランスの観点から炭素繊維が好適であり、その中でもポリアクリロニトリル系炭素繊維が好適に用いられる。
【0003】
さらに、連続した強化繊維束と熱可塑性樹脂をマトリックスとする成形材料として、熱可塑性のプリプレグ、ヤーン、ガラスマット(GMT)など多種多様な形態が公知である。このような成形材料は、熱可塑性樹脂の特性を活かして成形を容易にし、熱硬化性樹脂のような貯蔵の負荷を必要とせず、また得られる成形品の靭性が高く、リサイクル性に優れるといった特徴がある。とりわけ、ペレット状に加工した成形材料は、射出成形やスタンピング成形などの経済性、生産性に優れた成形法に適用でき、工業材料として有用である。
【0004】
しかしながら、成形材料を製造する過程で、熱可塑性樹脂を連続した強化繊維束に含浸させるには、経済性、生産性の面で問題があり、それほど広く用いられていないのが現状である。例えば、樹脂の溶融粘度が高いほど強化繊維束への含浸は困難とされることはよく知られている。靱性や伸度などの力学特性に優れた熱可塑性樹脂は、とりわけ高分子量体であり、熱硬化性樹脂に比べて粘度が高く、またプロセス温度もより高温を必要とするため、成形材料を容易に、生産性よく製造することには不向きであった。一方、含浸の容易さから低分子量の、すなわち低粘度の熱可塑性樹脂をマトリックス樹脂に用いると、得られる成形品の力学特性が大幅に低下するという問題があった。
【0005】
特許文献1には、低分子量の熱可塑性重合体と連続した強化繊維からなる複合体に、高分子量の熱可塑性樹脂が接するように配置されてなる成形材料が開示されている。この成形材料では、連続した強化繊維束への含浸には低分子量体、マトリックス樹脂には高分子量体を使い分けることで、経済性、生産性と力学特性の両立を図っている。また、この成形材料を射出成形法による成形をおこなうと、成形時の材料可塑化の段階で強化繊維の折損を最小限に抑えつつマトリックス樹脂と容易に混合され、繊維の分散性に優れた成形品を製造することができる。従って、得られた成形品は、強化繊維の繊維長を従来よりも上げることができ、良好な力学特性と、優れた外観品位を合わせ持つことができる。しかし、近年になり、繊維強化複合材料の注目度が大きくなり、また用途も多岐に細分化されるようになり、成形性、取扱性、得られる成形品の力学特性に優れた成形材料が要求されるようになり、また工業的にもより高い経済性、生産性が必要になってきた。例えば、繊維強化複合材料により軽量性・経済性が求められるようになり、マトリックス樹脂には軽量なオレフィン系樹脂、とりわけプロピレン系樹脂が使用されるようになってきたが、プロピレン系樹脂は強化繊維との界面接着性に乏しく、力学特性に優れた成形品を得ることが困難であった。特許文献1には、プロピレン系樹脂との接着性向上について全く触れられていない。
【0006】
特許文献2には、酸変性オレフィン系樹脂を、酸基と反応可能な官能基を有するサイジング剤で処理した炭素繊維に含浸させた長繊維ペレットが開示されている。しかしながら、熱可塑性樹脂は酸変性オレフィン系樹脂のみであり、粘度が高いため炭素繊維束をマトリックス樹脂中に分散させるのが非常に困難となり、成形品の力学特性や外観には課題があった。
【0007】
かかる状況において、極性の低いプロピレン系樹脂をマトリックス樹脂に用いた場合においても高い力学特性を発揮し、強化繊維の分散性も良好な成形材料が要求されるようになってきた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開平10−138379号公報
【特許文献2】特開2005−125581号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、従来技術の背景に鑑み、プロピレン系樹脂をマトリックスとする繊維強化熱可塑性樹脂の射出成形を行う際に強化繊維の成形品中への分散が良好であり、かつ繊維とマトリックス樹脂との接着性に優れ、力学特性に優れた成形品を製造できる成形材料を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは上記目的を達成すべく鋭意検討した結果、上記課題を達成することができる、次の成形材料を見出した。
【0011】
(1)少なくとも下記成分(A)〜(C)を有してなる成形材料であって、該成分(A)、(B)を有してなる複合体に、該成分(C)が接着されており、下記成分(B)のSP値が6.5〜9であり、かつ下記成分(a)のSP値よりも低いことを特徴とする成形材料。
(A)(a)多官能化合物によりサイジング処理された(b)強化繊維 1〜75質量%
(B)テルペン系樹脂 0.01〜20質量%
(C)プロピレン系樹脂 5〜98.98質量%
(2)前記成分(B)がα−ピネン、β−ピネン、ジペンテン、d−リモネンから選択されるいずれか1つを用いて重合された重合体からなる樹脂である、(1)に記載の成形材料。
【0012】
(3)前記成分(B)が水素添加反応された重合体からなる樹脂である、(1)または(2)に記載の成形材料。
【0013】
(4)前記成分(B)のガラス転移温度が30〜100℃である、(1)〜(3)いずれかに記載の成形材料。
【0014】
(5)前記成分(B)の数平均分子量が500〜5000である、(1)〜(4)いずれかに記載の成形材料。
【0015】
(6)前記成分(B)の190℃における溶融粘度が、0.05〜1Pa・sである、(1)〜(5)いずれかに記載の成形材料。
【0016】
(7)前記成分(a)が3官能以上である、(1)〜(6)いずれかに記載の成形材料。
【0017】
(8)前記成分(a)が多官能性エポキシ樹脂、酸変性ポリプロピレン、酸変性ポリプロピレンの中和物から選択される少なくとも1種である、(7)に記載の成形材料。
【0018】
(9)前記成分(a)が脂肪族エポキシ樹脂である、(8)に記載の成形材料。
【0019】
(10)前記成分(a)が、グリセロールポリグリシジルエーテル、ジグリセロールポリグリシジルエーテル、ポリエチレングリコールグリシジルエーテル類、ポリプロピレングリコールグリシジルエーテル類から選ばれる少なくとも1種である、(9)に記載の成形材料。
【0020】
(11)前記成分(C)が、重合体鎖にカルボン酸および/またはその塩の基を有するポリプロピレン系樹脂を含んでいる、(1)〜(10)いずれかに記載の成形材料。
【0021】
(12)前記成分(C)が、プロピレンの単独重合体を含んでいる(1)〜(11)いずれかに記載の成形材料。
【0022】
(13)前記成分(C)が、カルボン酸および/またはその塩の基を有する、ブロックおよび/またはランダムプロピレンを含んでいる、(11)に記載の成形材料。
【0023】
(14)前記成分(C)が、(C−1)カルボン酸および/またはその塩の基を有しているプロピレン系樹脂と(C−2)カルボン酸および/またはその塩の基を有しないプロピレン系樹脂との混合物であり、前記成分(a)、(B)、(C−1)の質量比が下記範囲内である、(11)〜(13)いずれかに記載の成形材料。
(a)/(B)/(C−1)=0.001〜0.5/1/0.01〜50。
【0024】
(15)前記成分(A)〜(C)に加えて、成分(D)として、エラストマーを0.01〜30質量%有している、(1)〜(14)いずれかに記載の成形材料。
【0025】
(16)前記成分(D)がオレフィン系エラストマー、スチレン系エラストマー、ウレタン系エラストマー、エステル系エラストマー、アミド系エラストマーから選択される選択される少なくとも1種であることを特徴とする(15)に記載の成形材料。
【0026】
(17)前記成分(D)のSP値が6.5〜9.5である、(15)または(16)に記載の成形材料。
【0027】
(18)前記成分(D)がエチレン−α−オレフィン共重合体である、(17)に記載の成形材料。
【0028】
(19)前記成分(b)が炭素繊維である、(1)〜(18)いずれかに記載の成形材料。
【0029】
(20)前記炭素繊維のX線光電子分光法(ESCA)で測定される表面酸素濃度比(O/C)が0.05〜0.5である、(1)〜(19)いずれかに記載の成形材料。
【0030】
(21)前記成分(b)の強化繊維が、20,000〜100,000本の単繊維からなる強化繊維束である、(1)〜(20)いずれかに記載の成形材料。
【0031】
(22)前記成形材料において、成分(A)に対する空隙率が20%以下である、(1)〜(21)いずれかに記載の成形材料。
【0032】
(23)前記成分(A)が軸心方向にほぼ平行に配列されており、かつ該成分(A)の長さが成形材料の長さと実質的に同じである、(1)〜(22)のいずれかに記載の成形材料。
【0033】
(24)前記複合体が芯構造であり、前記成分(C)および/または(D)が該複合体の周囲を被覆した芯鞘構造である、(23)に記載の成形材料。
【0034】
(25)前記成形材料の形態が長繊維ペレットである、(1)〜(24)いずれかに記載の成形材料。
【0035】
(26)前記長繊維ペレットの長手方向の長さが1〜50mmである、(1)〜(25)いずれかに記載の成形材料。
【発明の効果】
【0036】
本発明の長繊維強化熱可塑性樹脂成形材料は、射出成形を行う際に強化繊維の成形品中への分散が良好であり、強化繊維とプロピレン系樹脂との界面接着性が良好であり、曲げ特性や耐衝撃特性などの力学特性に優れた成形品を製造でき、またプロピレン系樹脂を用いているため、軽量性に優れた成形品を得ることができる。本発明の成形材料は、電気・電子機器、OA機器、家電機器、または自動車の部品、内部部材および筐体などの各種部品・部材に極めて有用である。
【図面の簡単な説明】
【0037】
【図1】(A)(a)多官能化合物によりサイジング処理された(b)強化繊維と(B)テルペン系樹脂からなる複合体の形態の一例を示す概略図である。
【図2】本発明の成形材料の好ましい態様の一例を示す概略図である。
【図3】本発明の成形材料の好ましい態様の、軸心方向断面の形状の一例を示す概略図である。
【図4】本発明の成形材料の好ましい態様の、軸心方向断面の形状の一例を示す概略図である。
【図5】本発明の成形材料の好ましい態様の、軸心方向断面の形状の一例を示す概略図である。
【図6】本発明の成形材料の好ましい態様の、軸心方向断面の形状の一例を示す概略図である。
【図7】本発明の成形材料の好ましい態様の、直交方向断面の形状の一例を示す概略図である。
【図8】本発明の成形材料の好ましい態様の、直交方向断面の形状の一例を示す概略図である。
【図9】本発明の成形材料の好ましい態様の、直交方向断面の形状の一例を示す概略図である。
【図10】本発明の成形材料の好ましい態様の、直交方向断面の形状の一例を示す概略図である。
【図11】本発明の成形材料の好ましい態様の、直交方向断面の形状の一例を示す概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0038】
本発明は、(A)(a)多官能化合物によりサイジング処理された(b)強化繊維、(B)テルペン系樹脂、(C)プロピレン系樹脂を有してなる成形材料である。まず、これらの構成要素について説明する。
【0039】
本発明に用いられる(a)多官能化合物としては、特に限定されないが、エポキシ基、ウレタン基、アミノ基、カルボキシル基等の官能基を1分子中に2個以上有する化合物が使用でき、これらは1種または2種以上を併用してもよい。官能基が2個未満であると、強化繊維とマトリックス樹脂との接着性を十分に発揮できない。したがって、官能基の数は、2個以上であることが必須であり、さらに好ましくは、3個以上である。
【0040】
具体的な化合物としては、多官能エポキシ樹脂、酸変性ポリプロピレン、酸変性ポリプロピレンの中和物が挙げられる。
【0041】
多官能エポキシ樹脂としては、ビスフェノールA型エポキシ樹脂、ビスフェノールF型エポキシ樹脂、脂肪族エポキシ樹脂、フェノールノボラック型エポキシ樹脂等が挙げられる。中でも、マトリックス樹脂との接着性を発揮しやすい脂肪族エポキシ樹脂が好ましい。通常、エポキシ樹脂はエポキシ基を多数有すると、架橋反応後の架橋密度が高くなるために、靭性の低い構造になりやすい傾向にあり、強化繊維とマトリックス樹脂間に存在させても、もろいために剥離しやすく、繊維強化複合材料の強度発現しないことがある。一方、脂肪族エポキシ樹脂は、柔軟な骨格のため、架橋密度が高くとも靭性の高い構造になりやすい。強化繊維とマトリックス樹脂間に存在させた場合、柔軟で剥離しにくくさせるため、繊維強化複合材料の強度を向上しやすく好ましい。
【0042】
脂肪族エポキシ樹脂の具体例としては、例えば、ジグリシジルエーテル化合物では、エチレングリコールジグリシジルエーテル及び、ポリエチレングリコールジグリシジルエーテル類、プロピレングリコールジグリシジルエーテル及び、ポリプロピレングリコールジグリシジルエーテル類、1,4−ブタンジオールジグリシジルエーテル、ネオペンチルグリコールジグリシジルエーテル、ポリテトラメチレングリコールジグリシジルエーテル、ポリアルキレングリコールジグリシジルエーテル類等が挙げられる。また、ポリグリシジルエーテル化合物では、グリセロールポリグリシジルエーテル、ジグリセロールポリグリシジルエーテル、ポリグリセロールポリグリシジルエーテル類、ソルビトールポリグリシジルエーテル類、アラビトールポリグリシジルエーテル類、トリメチロールプロパンポリグリシジルエーテル類、トリメチロールプロパングリシジルエーテル類、ペンタエリスリトールポリグリシジルエーテル類、脂肪族多価アルコールのポリグリシジルエーテル類等が挙げられる。
【0043】
脂肪族エポキシ樹脂の中でも、好ましくは、反応性の高いグリシジル基を多数有する脂肪族のポリグリシジルエーテル化合物である。この中でも、さらに好ましくは、グリセロールポリグリシジルエーテル、ジグリセロールポリグリシジルエーテル、ポリエチレングリコールグリシジルエーテル類、ポリプロピレングリコールグリシジルエーテル類が好ましい。脂肪族のポリグリシジルエーテル化合物は、柔軟性、架橋密度、マトリックス樹脂との相溶性のバランスがよく、効果的に接着性を向上ことから好ましい。
【0044】
酸変性ポリプロピレン、酸変性ポリプロピレンの中和物とは、例えば、プロピレンなどの主として炭化水素から構成される高分子主鎖と、不飽和カルボン酸により形成されるカルボキシル基又は、その金属塩、アンモニウム塩を含む側鎖とを有するものが挙げられる。高分子主鎖は、プロピレンと不飽和カルボン酸とを共重合させたランダム共重合体でもよいし、プロピレンに不飽和カルボン酸をグラフトしたグラフト共重合体でもよい。また、α−オレフィン、共役ジエン、非共役ジエンなどや1−ブテン等の共重合可能な共重合成分と共重合してもよい。酸変性ポリプロピレン、酸変性ポリプロピレンの中和物は、1分子中に多数の官能基を有しながら柔軟であり、さらに骨格がマトリックス樹脂と同様のポリプロピレンであることから、マトリックス樹脂との相溶性がよく、接着性を向上しやすく好ましい。
【0045】
不飽和カルボン酸としては、アクリル酸、メタクリル酸、マレイン酸、フマール酸、イタコン酸、クロトン酸、イソクロトン酸、シトラコン酸、アリルコハク酸、メサコン酸、グルタコン酸、ナジック酸、メチルナジック酸、テトラヒドロフタル酸、メチルテトラヒドロフタル酸等を挙げることができる。特にマレイン酸、アクリル酸、メタクリル酸が共重合反応させやすいことから好ましい。プロピレンとの共重合又はプロピレンへのグラフト共重合に使用する不飽和カルボン酸は1種のみでもよいし、2種以上の不飽和カルボン酸を使用しても良い。また、酸変性ポリプロピレンの中和物は、少なくとも一部のカルボキシル基が、Na、K、Li、Mg、Zn、Ca、Cu、Fe、Ba、Alなどの金属陽イオン又はアンモニウムイオンで中和されていることが好ましい。
【0046】
また、官能基を2つ以上有するために、酸変性ポリプロピレン、または酸変性ポリプロピレンの中和物1g当たり、−C(=O)−O−で表される基換算で総量0.05〜5ミリモル当量であることが好ましい。より好ましくは0.1〜4ミリモル当量、さらに好ましくは0.3〜3ミリモル当量である。上記のようなカルボン酸塩の含有量を分析する手法としては、ICP発光分析で塩を形成している金属種の検出を定量的に行う方法や、IR、NMRおよび元素分析等を用いてカルボン酸塩のカルボニル炭素の定量をおこなう方法が挙げられる。−C(=O)−O−で表される基換算で総量が0.05ミリモル当量以下では、接着性を発揮しにくい傾向にあり、5ミリモル当量以上では酸変性ポリプロピレン、または酸変性ポリプロピレンの中和物がもろくなることがある。
【0047】
該多官能化合物をサイジング剤として、強化繊維に付与することで、添加量が少量であっても効果的に強化繊維表面の官能基等の表面特性に適合させて接着性およびコンポジット総合特性を向上させることができる。また、集束性、耐屈曲性や耐擦過性を改良し、高次加工工程において、毛羽、糸切れの発生を抑制しており、いわゆる糊剤、集束剤として高次加工性を向上させることもできる。
【0048】
サイジング剤付着量は、強化繊維のみの質量に対して、0.01質量%以上10質量%以下が好ましく、0.05質量%以上5質量%以下がより好ましく、0.1質量%以上2質量%以下付与することがさらに好ましい。0.01質量%以下では接着性向上効果が現れにくく、10質量%以上では、マトリックス樹脂の物性低下させることがある。
【0049】
また、サイジング剤には、ビスフェノール型エポキシ化合物、直鎖状低分子量エポキシ化合物、ポリエチレングリコール、ポリウレタン、ポリエステル、乳化剤あるいは界面活性剤など他の成分を粘度調整、耐擦過性向上、耐毛羽性向上、集束性向上、高次加工性向上等の目的で加えてもよい。
【0050】
サイジング剤の付与手段としては特に限定されるものではないが、例えばローラを介してサイジング液に浸漬する方法、サイジング液の付着したローラに接する方法、サイジング液を霧状にして吹き付ける方法などがある。また、バッチ式、連続式いずれでもよいが、生産性がよくバラツキが小さくできる連続式が好ましい。この際、強化繊維に対するサイジング剤有効成分の付着量が適正範囲内で均一に付着するように、サイジング液濃度、温度、糸条張力などをコントロールすることが好ましい。また、サイジング剤付与時に強化繊維を超音波で加振させることはより好ましい。
【0051】
乾燥温度と乾燥時間は化合物の付着量によって調整すべきであるが、サイジング剤の付与に用いる溶媒の完全な除去、乾燥に要する時間を短くし、一方、サイジング剤の熱劣化を防止し、サイジング処理された強化繊維(A)で形成された強化繊維束が固くなって束の拡がり性が悪化するのを防止する観点から、乾燥温度は、150℃以上350℃以下であることがこのましく、180℃以上250℃以下であることがより好ましい。
【0052】
サイジング剤に使用する溶媒は、水、メタノール、エタノール、ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド、アセトン等が挙げられるが、取扱いが容易で防災の観点から水が好ましい。従って、水に不溶、若しくは難溶の化合物をサイジング剤として用いる場合には、乳化剤、界面活性剤を添加し、水分散して用いるのが良い。具体的には、乳化剤、界面活性剤としては、スチレン−無水マレイン酸共重合体、オレフィン−無水マレイン酸共重合体、ナフタレンスルホン酸塩のホルマリン縮合物、ポリアクリル酸ソーダ等のアニオン系乳化剤、ポリエチレンイミン、ポリビニルイミダゾリン等のカチオン系乳化剤、ノニルフェノールエチレンオキサイド付加物、ポリビニルアルコール、ポリオキシエチレンエーテルエステル共重合体、ソルビタンエステルエチルオキサイド付加物等のノニオン系乳化剤等を用いることができるが、相互作用の小さいノニオン系乳化剤が多官能化合物の接着性効果を阻害しにくく好ましい。
【0053】
本発明に用いられる(b)強化繊維としては、特に限定されないが、例えば、炭素繊維、ガラス繊維、アラミド繊維、アルミナ繊維、炭化珪素繊維、ボロン繊維、金属繊維などの高強度、高弾性率繊維が使用でき、これらは1種または2種以上を併用してもよい。中でも、PAN系、ピッチ系、レーヨン系などの炭素繊維が力学特性の向上、成形品の軽量化効果の観点から好ましく、得られる成形品の強度と弾性率とのバランスの観点から、PAN系炭素繊維がさらに好ましい。また、導電性を付与する目的では、ニッケルや銅やイッテルビウムなどの金属を被覆した強化繊維を用いることもできる。
【0054】
さらに炭素繊維としては、X線光電子分光法により測定される繊維表面の酸素(O)と炭素(C)の原子数の比である表面酸素濃度比[O/C]が0.05〜0.5であるものが好ましく、より好ましくは0.08〜0.4であり、さらに好ましくは0.1〜0.3である。表面酸素濃度比が0.05以上であることにより、炭素繊維表面の官能基量を確保でき、熱可塑性樹脂とより強固な接着を得ることができる。また、表面酸素濃度比の上限には特に制限はないが、炭素繊維の取扱い性、生産性のバランスから一般的に0.5以下とすることが例示できる。
【0055】
炭素繊維の表面酸素濃度比は、X線光電子分光法により、次の手順にしたがって求めるものである。まず、溶剤で炭素繊維表面に付着しているサイジング剤などを除去した炭素繊維束を20mmにカットして、銅製の試料支持台に拡げて並べた後、X線源としてA1Kα1、2を用い、試料チャンバー中を1×108Torrに保つ。測定時の帯電に伴うピークの補正値としてC1sの主ピークの運動エネルギー値(K.E.)を1202eVに合わせる。C1sピーク面積をK.E.として1191〜1205eVの範囲で直線のベースラインを引くことにより求める。O1sピーク面積をK.E.として947〜959eVの範囲で直線のベースラインを引くことにより求める。
【0056】
ここで、表面酸素濃度比とは、上記O1sピーク面積とC1sピーク面積の比から装置固有の感度補正値を用いて原子数比として算出する。X線光電子分光法装置として、国際電気社製モデルES−200を用い、感度補正値を1.74とする。
【0057】
表面酸素濃度比[O/C]を0.05〜0.5に制御する手段としては、特に限定されるものではないが、例えば、電解酸化処理、薬液酸化処理および気相酸化処理などの手法をとることができ、中でも電解酸化処理が好ましい。
【0058】
また、強化繊維の平均繊維径は特に限定されないが、得られる成形品の力学特性と表面外観の観点から、1〜20μmの範囲内であることが好ましく、3〜15μmの範囲内であることがより好ましい。強化繊維束とした場合の単糸数には、特に制限はなく、100〜350,000本の範囲内で使用することができ、とりわけ1,000〜250,000本の範囲内で使用することが好ましい。また強化繊維の生産性の観点からは、単糸数が多いものが好ましく、20,000〜100,000本の範囲内で使用することが好ましい。
【0059】
本発明の(B)テルペン系樹脂は、有機溶媒中でフリーデルクラフツ型触媒存在下、テルペン単量体単独若しくは、テルペン単量体と芳香族単量体等と共重合体して得られる重合体からなる樹脂が挙げられる。
【0060】
(B)テルペン系樹脂は、(C)プロピレン系樹脂よりも溶融粘度が低い熱可塑性重合体であり、射出成形やプレス成形などの最終形状への成形工程において、樹脂組成物の粘度を下げ、成形性を向上することが可能である。この際、(B)テルペン系樹脂は、(C)プロピレン系樹脂との相溶性が良いことから、効果的に成形性向上することができる。
【0061】
テルペン単量体としては、α−ピネン、β−ピネン、ジペンテン、d−リモネン、ミルセン、アロオシメン、オシメン、α−フェランドレン、α−テルピネン、γ−テルピネン、テルピノーレン、1,8−シネオール、1,4−シネオール、α−テルピネオール、β−テルピネオール、γ−テルピネオール、サビネン、パラメンタジエン類、カレン類等の単環式モノテルペンが挙げられる。また、芳香族単量体としては、スチレン、α−メチルスチレン等が挙げられる。
【0062】
中でも、α−ピネン、β−ピネン、ジペンテン、d−リモネンが(C)ポリプロピレン系樹脂との相溶性がよく好ましく、さらに、該化合物の単独重合体がより好ましい。また、該テルペン系樹脂を水素添加処理して得られた水素化テルペン系樹脂が、より(C)ポリプロピレン系樹脂との相溶性がよくなるため好ましい。
【0063】
また、(B)テルペン系樹脂のガラス転移温度は、30〜100℃であることが好ましい。これは、本発明の樹脂組成物の取扱性を良好にするためである。ガラス転移温度が30℃以下であると、成形加工時に(B)テルペン系樹脂が半固形、もしくは液状になり、定量的に材料投入できないことがある。また、ガラス転移温度が100℃以上であると、成形加工時の(B)テルペン系樹脂の固化が早く、成形性を向上できないことがある。
【0064】
また、(B)テルペン系樹脂の数平均分子量は、500〜5000であることが好ましい。数平均分子量が500以下では、テルペン系樹脂の機械強度が低いために、成形品の機械特性を損ねることがある。また、5000以上ではテルペン系樹脂の粘度が上がり、成形性を向上できないことがあり、本発明の樹脂組成物を用いて成形加工や混練などを行う際に、成分(B)の数平均分子量を低くすることで、成分(B)が成分(A)、(B)および(C)の混合物内を最も流動し、移動しやすくするためである。
【0065】
なお数平均分子量の測定はゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)を用いて測定することができる。
【0066】
ここで、(B)テルペン系樹脂は、プロピレン系樹脂組成物の成形性を効果的に向上させるために、(C)ポリプロピレン系樹脂と相溶する必要がある。ここで、(C)ポリプロピレン系樹脂のSP値は種類によるが、この値は通常8〜9程度であることから、(B)テルペン系樹脂のSP値は、6.5〜9.5であることを必要とする。より好ましくは、7.5〜9である。SP値が6.5〜9.5の範囲以外では、(C)ポリプロピレン系樹脂と相溶しにくい傾向にあり、成形性向上しにくい。
【0067】
ここでSP値とは、溶解度パラメーターであり、2成分のSP値が近いほど溶解度が大となることが経験的に得られている。SP値の決定法は幾種類か知られているが、比較においては同一の決定法を用いればよい。具体的には、Fedorsの方法を用いることが望ましい。(参照 SP値基礎・応用と計算、2005年3月31日 第1版、発行者 谷口彰敏、発行 株式会社情報機構、66〜67頁)
また、(B)テルペン系樹脂のSP値は(a)多官能化合物のSP値よりも低いことを必要とする。(B)テルペン系樹脂のSP値が多官能化合物のSP値よりも高い場合には、(B)テルペン系樹脂のSP値が(C)プロピレン系樹脂のSP値よりも(a)多官能化合物のSP値に近くなり、(b)強化繊維表面に付与した
(a)多官能化合物が(B)テルペン系樹脂と置き換わるために、界面接着性を向上できない。
【0068】
ここで、本発明の成形材料は、(A)(a)多官能化合物によりサイジング処理された(b)強化繊維と(B)テルペン系樹脂からなる複合体が形成されている。この複合体の形態は図1に示すようなものであり、強化繊維束(A)の各単繊維間に(B)テルペン系樹脂が満たされている。すなわち、(B)テルペン系樹脂の海に、(A)(a)多官能化合物によりサイジング処理された(b)強化繊維が島のように分散している状態である。
【0069】
本発明の成形材料において、(B)テルペン系樹脂が(A)(a)多官能化合物によりサイジング処理された(b)強化繊維に良好に含浸した複合体とすることで、(C)プロピレン系樹脂とが接着されていても、例えば、本発明の成形材料を射出成形すると、射出成形機のシリンダー内で溶融混練された、(B)テルペン系樹脂が、(C)プロピレン系樹脂に拡散し、(A)(a)多官能化合物によりサイジング処理された(b)強化繊維が(C)プロピレン系樹脂に分散することを助け、同時に(C)プロピレン系樹脂が(A)(a)多官能化合物によりサイジング処理された(b)強化繊維に置換、含浸することを助ける、いわゆる含浸助剤・分散助剤としての役割を持つ。
【0070】
含浸助剤の付与工程は、特に限定されないが、繊維束に油剤、サイジング剤、マトリックス樹脂を付与するような公知の製造方法を用いることができるが、より具体的な例として、加熱した回転するロールの表面に、溶融した(B)テルペン系樹脂の一定厚みの被膜をコーティングし、このロール表面に(A)(a)多官能化合物によりサイジング処理された(b)強化繊維を接着させながら走らせることで、繊維束の単位長さ当たりに所定量の(B)テルペン系樹脂を付着させる方法を挙げることができる。ロール表面への(B)テルペン系樹脂のコーティングに関しては、リバースロール、正回転ロール、キスロール、スプレイ、カーテン、押出などの公知のコーティング装置の概念を応用することで実現できる。ロール上へのコーティング装置に関しては、原崎勇次著「コーティング装置と操作技術入門」(総合技術センター)等の著作に詳しく記述されている。
【0071】
含浸助剤の含浸工程では、(B)テルペン系樹脂が溶融する温度において、(B)テルペン系樹脂の付着した(A)(a)多官能化合物によりサイジング処理された(b)強化繊維に対して、ロールやバーで張力をかける、拡幅、集束を繰り返す、圧力や振動を加えるなどの操作で(B)テルペン系樹脂を(A)(a)多官能化合物によりサイジング処理された(b)強化繊維の繊維束内部まで含浸するようにする。より具体的な例として、加熱された複数のロールやバーの表面に繊維束を接触するように通して拡幅などを行う方法を挙げることができる。
【0072】
また、(B)テルペン系樹脂の溶融粘度は、190℃において0.05〜1Pa・sであることが好ましい。より好ましくは0.1〜0.5Pa・sである。0.05Pa・s以下では、テルペン系樹脂の機械強度が低いために、成形品の機械特性を損ねることがある。また、5Pa・s以上ではテルペン系樹脂の粘度が上がり、成形性を向上できないことがあり、本発明の樹脂組成物を用いて成形加工や混練などを行う際に、成分(B)の溶融粘度を低くすることで、成分(B)が成分(A)、(B)および(C)の混合物内を流動し、移動しやすくするためである。
【0073】
本発明の(C)プロピレン系樹脂は、プロピレンの単独重合体またはプロピレンと少なくとも1種のα−オレフィン、共役ジエン、非共役ジエンなどとの共重合体が挙げられる。
【0074】
α−オレフィンを構成する単量体繰り返し単位には、例えば、エチレン、1−ブテン、3−メチル−1−ブテン、4−メチル−1−ペンテン、3−メチル−1−ペンテン、4−メチル−1−ヘキセン、4,4ジメチル−1−ヘキセン、1−ノネン、1−オクテン、1−ヘプテン、1−ヘキセン、1−デセン、1−ウンデセン、1−ドデセン等のプロピレンを除く炭素数2〜12のα−オレフィン、共役ジエン、非共役ジエンを構成する単量体繰り返し単位にはブタジエン、エチリデンノルボルネン、ジシクロペンタジエン、1,5−ヘキサジエン等が挙げられ、これらその他の単量体繰り返し単位には、1種類または2種類以上を選択することができる。
【0075】
(C)プロピレン系樹脂の骨格構造としては、プロピレンの単独重合体、プロピレンと前記その他の単量体のうちの1種類または2種類以上のランダムあるいはブロック共重合体、または他の熱可塑性単量体との共重合体等を挙げることができる。例えば、ポリプロピレン、エチレン・プロピレン共重合体、プロピレン・1−ブテン共重合体、エチレン・プロピレン・1−ブテン共重合体などが好適なものとして挙げられる。
【0076】
一般的に、剛性が必要な場合にプロピレンの単独重合体を用い、衝撃特性が必要な場合にはプロピレンと前記その他の単量体のうちの1種類または2種類以上のランダムあるいはブロックプロピレンを用いる。
【0077】
また(C)プロピレン系樹脂は得られる成形品の力学特性を向上させる観点より、変性プロピレン系樹脂であることが好ましい。好ましくは酸変性プロピレン系樹脂であり、重合体鎖に結合したカルボン酸および/またはその塩の基を有してなるプロピレン系樹脂である。上記酸変性プロピレン系樹脂は、種々の方法で得ることができ、例えば、前記(C)プロピレン系樹脂に、中和されているか、中和されていないカルボン酸基を有する単量体、および/またはケン化されているか、ケン化されていないカルボン酸エステルを有する単量体を、グラフト重合することにより得ることができる。
【0078】
ここで、中和されているか、中和されていないカルボン酸基を有する単量体、およびケン化されているか、ケン化されていないカルボン酸エステル基を有する単量体としては、たとえば、エチレン系不飽和カルボン酸、その無水物が挙げられ、またこれらのエステル、さらにはオレフィン以外の不飽和ビニル基を有する化合物なども挙げられる。
【0079】
エチレン系不飽和カルボン酸としては、(メタ)アクリル酸、マレイン酸、フマール酸、テトラヒドロフタル酸、イタコン酸、シトラコン酸、クロトン酸、イソクロトン酸などが例示され、その無水物としては、ナジック酸TM(エンドシス−ビシクロ[2.2.1]ヘプト−5−エン−2,3−ジカルボン酸)、無水マレイン酸、無水シトラコン酸などが例示できる。
【0080】
オレフィン以外の不飽和ビニル基を有する単量体としては、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、プロピル(メタ)アクリレート、n−ブチル(メタ)アクリレート、i−ブチル(メタ)アクリレート、tert−ブチル(メタ)アクリレート、n−アミル(メタ)アクリレート、イソアミル(メタ)アクリレート、n−ヘキシル(メタ)アクリレート、2−エチルヘキシル(メタ)アクリレート、オクチル(メタ)アクリレート、デシル(メタ)アクリレート、ドデシル(メタ)アクリレート、オクタデシル(メタ)アクリレート、ステアリル(メタ)アクリレート、トリデシル(メタ)アクリレート、ラウロイル(メタ)アクリレート、シクロヘキシル(メタ)アクリレート、ベンジル(メタ)アクリレート、フェニル(メタ)アクリレート、イソボロニル(メタ)アクリレート、ジシクロペンタニル(メタ)アクリレート、ジシクロペンテニル(メタ)アクリレート、ジメチルアミノエチル(メタ)アクリレート、ジエチルアミノエチル(メタ)アクリレート等の(メタ)アクリル酸エステル類、ヒドロキシエチルアクリレート、2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、4−ヒドロキシブチルアクリレート、ラクトン変性ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシ−3−フェノキシプロピルアクリレート等の水酸基含有ビニル類、グリシジル(メタ)アクリレート、メチルグリシジル(メタ)アクリレート等のエポキシ基含有ビニル類、ビニルイソシアナート、イソプロペニルイソシアナート等のイソシアナート基含有ビニル類、スチレン、α−メチルスチレン、ビニルトルエン、t−ブチルスチレン等の芳香族ビニル類、アクリルアミド、メタクリルアミド、N−メチロールメタクリルアミド、N−メチロールアクリルアミド、ジアセトンアクリルアミド、マレイン酸アミド等のアミド類、酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル等のビニルエステル類、N、N−ジメチルアミノエチル(メタ)アクリレート、N、N−ジエチルアミノエチル(メタアクリレート、N,N−ジメチルアミノプロピル(メタ)アクリレート、N、N−ジプロピルアミノエチル(メタ)アクリレート、N、N−ジブチルアミノエチル(メタ)アクリレート、N、N−ジヒドロキシエチルアミノエチル(メタ)アクリレート等のアミノアルキル(メタ)アクリレート類、スチレンスルホン酸、スチレンスルホン酸ソーダ、2−アクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸等の不飽和スルホン酸類、モノ(2−メタクリロイロキシエチル)アシッドホスフェート、モノ(2−アクリロイロキシエチル)アシッドホスフェート等の不飽和リン酸類等が挙げられる。
【0081】
これらの単量体は単独で用いることもできるし、また2種類以上のものを用いることもできる。また、これらの中でも、酸無水物類が好ましく、さらには無水マレイン酸が好ましい。
【0082】
(C)プロピレン系樹脂が、重合体鎖に結合したカルボン酸および/またはその塩の基を有してなるプロピレン系樹脂である場合には、該樹脂の力学特性を高く保つことと、原料コストを考慮し、無変性のプロピレン系樹脂との混合物とすることが好ましい。具体的には、重合体鎖に結合したカルボン酸および/またはその塩の基を有するプロピレン系樹脂(C−1)5〜50質量%と、カルボン酸および/またはその塩の基を有しないプロピレン系樹脂(C−2)50〜95質量%とを有してなることが好ましい。より好ましくは成分(C−1)が5〜45質量%、成分(C−2)が55〜95質量%、さらに好ましくは成分(C−1)が5〜35質量%、成分(C−2)が65〜95質量%である。
【0083】
さらに、(C)プロピレン系樹脂が、(C−1)カルボン酸および/またはその塩の基を有しているプロピレン系樹脂と(C−2)カルボン酸および/またはその塩の基を有しないプロピレン系樹脂との混合物であり、前記成分(a)多官能性化合物、(B)テルペン系樹脂、(C−1)重合体鎖に結合したカルボン酸および/またはその塩の基を有するプロピレン系樹脂の質量比が(a)/(B)/(C−1)=0.001〜0.5/1/0.01〜50であることが好ましい。より好ましくは、(a)/(B)/(C−1)=0.005〜0.1/1/0.05〜20であり、さらに好ましくは、(a)/(B)/(C−1)=0.01〜0.05/1/0.1〜10である。各成分を範囲内で用いることで、界面接着性、繊維分散性、機械特性をバランス良く向上することができるため好ましい。
【0084】
ここで、本発明の成形材料は、(A)(a)多官能化合物によりサイジング処理された(b)強化繊維と(B)テルペン系樹脂からなる複合体が(C)プロピレン系樹脂に接して形成される。(C)プロピレン系樹脂の配置工程としては、溶融した(C)プロピレン系樹脂を(A)(a)多官能化合物によりサイジング処理された(b)強化繊維と(B)テルペン系樹脂からなる複合体に接するように配置する。特に限定されないが、より具体的には、押出機と電線被覆法用のコーティングダイを用いて、連続的に複合体の周囲に(C)プロピレン系樹脂を被覆するように配置していく方法や、ロール等で扁平化した複合体の片面あるいは両面から押出機とTダイを用いて溶融したフィルム状の(C)プロピレン系樹脂を配置し、ロール等で一体化させる方法を挙げることができる。
【0085】
製造された成形材料は、ペレタイザーやストランドカッターなどの装置で一定長に切断して用いることもある。この切断工程が(C)プロピレン系樹脂の配置工程の後に連続的に設置されていてもよい。成形材料が扁平であったりシート状である場合には、スリットして細長くしてから切断してもよい。スリットと切断を同時におこなうシートペレタイザーのようなものを使用してもよい。
【0086】
(A)〜(C)に加えて(D)エラストマーを有していることが好ましい。本発明において、エラストマーとは、一般的にガラス転移温度が室温より低い重合体を含有し、分子間の一部が共有結合・イオン結合・ファンデルワールス力・絡み合い等により、互いに拘束されている重合体である。
【0087】
(D)エラストマーとしては、オレフィン系エラストマー、スチレン系エラストマー、ウレタン系エラストマー、エステル系エラストマー、アミド系エラストマー等が挙げられ、オレフィン系エラストマーとして具体的には、エチレン−α−オレフィン共重合体、エチレン−プロピレン−エチリデンノルボルネン共重合体、エチレン−プロピレン−ヘキサジエン共重合体などのエチレン−プロピレン非共役ジエン3元共重合体等が挙げられる。また、スチレン系エラストマーとして具体的には、スチレン−ブタジエン、スチレン−イソプレン−スチレン、スチレン−ブタジエン−スチレン、スチレン−エチレン−ブタジエン−スチレン、スチレン−エチレン−プロピレン−スチレンのランダム共重合体、およびブロック共重合体、該ブロック共重合体の水素添加物、アクリロニトリル−ブタジエン−スチレン共重合体等が挙げられる。中でも、オレフィン系エラストマーとしてエチレン−α−オレフィン共重合体は、ポリプロピレンとの相溶性がよいために、効果的に耐衝撃性を向上でき好ましい。
【0088】
これらのエラストマーは1種または2種以上を選択し用いることができる。
【0089】
また、(C)ポリプロピレン系樹脂のSP値は種類によるが、この値は通常8〜9程度であることから、(D)エラストマーのSP値としては、6.5〜9.5であることが好ましく、7〜9であるとより好ましい。(D)のSP値が6.5〜9.5の範囲以外では、(C)ポリプロピレン系樹脂と相溶しにくい傾向にあり、相溶しない場合、ポリプロピレン系樹脂組成物の粘度が増加傾向にあるため、成形性が低下することがある。
【0090】
また(C)プロピレン系樹脂は、本発明の目的を損なわない範囲で、他の充填材や添加剤を含有しても良い。これらの例としては、無機充填材、難燃剤、導電性付与剤、結晶核剤、紫外線吸収剤、酸化防止剤、制振剤、抗菌剤、防虫剤、防臭剤、着色防止剤、熱安定剤、離型剤、帯電防止剤、可塑剤、滑剤、着色剤、顔料、染料、発泡剤、制泡剤、あるいは、カップリング剤が挙げられる。
【0091】
本発明の樹脂組成物は、少なくとも(A)(a)多官能化合物によりサイジング処理された(b)強化繊維、(B)テルペン系樹脂、(C)プロピレン系樹脂で構成され、このうち、(A)(a)多官能化合物によりサイジング処理された(b)強化繊維は、1〜75質量%、好ましくは5〜65質量%、より好ましは10〜50質量%である。(A)(a)多官能化合物によりサイジング処理された(b)強化繊維が1質量%未満では、得られる成形品の力学特性が不十分となる場合があり、75質量%を超えると射出成形などの成形加工の際に流動性が低下する場合がある。
【0092】
また、このうち、(B)テルペン系樹脂は0.01〜20質量%、好ましくは0.5〜15質量%、より好ましくは1〜12質量%である。(B)テルペン系樹脂が0.1質量%未満では、強化繊維の分散性が不十分となる場合があり、20質量%を超えると、成形品の力学特性を低下させる場合がある。
【0093】
また、このうち、(C)プロピレン樹脂は5〜98.98質量%、好ましくは25〜94質量%、より好ましくは50〜88質量%であり、この範囲内で用いることで、本発明の効果を達成することができる。
【0094】
また、前記成分(A)〜(C)に加えて、成分(D)を含有させる場合、このうち、(D)エラストマーは、0.01〜30質量%、好ましくは0.5〜20質量%、より好ましくは1〜15質量%である。(D)エラストマーが30質量%を超えると、成形品の力学特性を低下させる場合がある。
【0095】
本発明の成形材料は、(A)(a)多官能化合物によりサイジング処理された(b)強化繊維と(B)テルペン系樹脂からなる複合体に(C)プロピレン系樹脂が接着するように配置されて構成される成形材料である。成形材料においての好ましい態様としては、図2に示すように、(A)(a)多官能化合物によりサイジング処理された(b)強化繊維が成形材料の軸心方向にほぼ平行に配列され、かつ(b)強化繊維の長さは成形材料の長さと実質的に同じ長さである。
【0096】
ここで言う、「ほぼ平行に配列されて」いるとは、強化繊維束の長軸の軸線と、成形材料の長軸の軸線とが、同方向を指向している状態を示し、軸線同士の角度のずれが、好ましくは20°以下であり、より好ましくは10°以下であり、さらに好ましくは5°以下である。また、「実質的に同じ長さ」とは、例えばペレット状の成形材料において、ペレット内部の途中で強化繊維束が切断されていたり、ペレット全長よりも有意に短い強化繊維束が実質的に含まれたりしないことである。特に、そのペレット全長よりも短い強化繊維束の量について規定されているわけではないが、ペレット全長の50%以下の長さの強化繊維の含有量が30質量%以下である場合には、ペレット全長よりも有意に短い強化繊維束が実質的に含まれていないと評価する。さらに、ペレット全長の50%以下の長さの強化繊維の含有量は20質量%以下であることが好ましい。なお、ペレット全長とはペレット中の強化繊維配向方向の長さである。(A)(a)多官能化合物によりサイジング処理された(b)強化繊維が成形材料と同等の長さを持つことで、成形品中の強化繊維長を長くすることが出来るため、優れた力学特性を得ることができる。
【0097】
図3〜6は、本発明の成形材料の軸心方向断面の形状の例を模式的に表したものであり、図7〜10は、本発明の成形材料の直交方向断面の形状の例を模式的に表したものである。
【0098】
成形材料の断面の形状は、(A)(a)多官能化合物によりサイジング処理された(b)強化繊維と(B)テルペン系樹脂からなる複合体に、(C)プロピレン系樹脂が接着するように配置されていれば図に示されたものに限定されないが、好ましくは軸心方向断面である図3〜5に示されるように、複合体が芯材となり(C)プロピレン系樹脂で層状に挟まれて配置されている構成が好ましい。
【0099】
また直交方向断面である図7〜9に示されるように、複合体を芯に対して、(C)プロピレン系樹脂が周囲を被覆するような芯鞘構造に配置されている構成が好ましい。図11に示されるような複数の複合体を(C)プロピレン系樹脂が被覆するように配置する場合、複合体の数は2〜6程度が望ましい。
【0100】
複合体と(C)プロピレン系樹脂の境界は接着され、境界付近で部分的に(C)プロピレン系樹脂が該複合体の一部に入り込み、複合体中の(B)テルペン系樹脂と相溶しているような状態、あるいは強化繊維に含浸しているような状態になっていてもよい。
【0101】
成形材料の軸心方向は、ほぼ同一の断面形状を保ち連続であればよい。成形方法によってはこのような連続の成形材料をある長さにカットしてもよい。
【0102】
本発明の成形材料は、例えば射出成形やプレス成形などの手法により(A)(a)多官能化合物によりサイジング処理された(b)強化繊維と(B)テルペン系樹脂からなる複合体に、(C)プロピレン系樹脂を混練して最終的な成形品を作製できる。成形材料の取扱性の点から、前記複合体と(C)プロピレン系樹脂は成形が行われるまでは分離せず、前述したような形状を保っていることが重要である。複合体と(C)プロピレン系樹脂では、形状(サイズ、アスペクト比)、比重、質量が全く異なるため、成形までの材料の運搬、取り扱い時、成形工程での材料移送時に分級し、成形品の力学特性にバラツキを生じたり、流動性が低下して金型詰まりを起こしたり、成形工程でブロッキングする場合がある。
【0103】
そのため、図7〜9に例示されるように、(A)(a)多官能化合物によりサイジング処理された(b)強化繊維と(B)テルペン系樹脂(C)からなる複合体に対して、(C)プロピレン系樹脂が該複合体の周囲を被覆するように配置されていること、すなわち、(A)(a)多官能化合物によりサイジング処理された(b)強化繊維と(B)テルペン系樹脂からなる複合体が芯構造であり、(C)プロピレン系樹脂が該複合体の周囲を被覆した芯鞘構造とすることが好ましい。このような配置であれば、複合体が(C)プロピレン系樹脂をより強固な複合化ができる。また、(C)プロピレン系樹脂が(A)(a)多官能化合物によりサイジング処理された(b)強化繊維と(B)テルペン系樹脂からなる複合体の周囲を被覆するように配置されるか、該複合体と(C)プロピレン系樹脂が層状に配置されているか、いずれが有利であるかについては、製造の容易さと、材料の取り扱いの容易さから、(C)プロピレン系樹脂が該複合体の周囲を被覆するように配置されることがより好ましい。
【0104】
前述したように、(A)(a)多官能化合物によりサイジング処理された(b)強化繊維は(B)テルペン系樹脂および一部の(C)プロピレン系樹脂によって完全に含浸されていることが望ましいが、現実的にそれは困難であり、(A)(a)多官能化合物によりサイジング処理された(b)強化繊維と(B)テルペン系樹脂および一部の(C)プロピレン系樹脂からなる複合体にはある程度の空隙が存在する。特に(A)(a)多官能化合物によりサイジング処理された(b)強化繊維の含有率が大きい場合には空隙が多くなるが、ある程度の空隙が存在する場合でも本発明の含浸・繊維分散促進の効果は示される。ただし空隙率が20%を超えると顕著に含浸・繊維分散促進の効果が小さくなるので、空隙率は0〜20%の範囲が好ましい。より好ましい空隙率の範囲は15%以下である。空隙率は、複合体の部分をASTM D2734(1997)試験法により測定するか、または成形材料の断面において、(A)(a)多官能化合物によりサイジング処理された(b)強化繊維と(B)テルペン系樹脂および一部の(C)プロピレン系樹脂により形成される複合体部分に存在する空隙を観察し、複合体部の全面積と空隙部の全面積とから次式を用いて算出することができる。
【0105】
空隙率(%)=空隙部の全面積/(複合体部の全面積+空隙部の全面積)×100。
【0106】
なお、ここまで、本発明の成形材料の形状として、成分(A)〜(C)からなる成形材料を例に挙げて説明をしたが、成分(A)〜(C)に加えて、成分(D)を含有させる場合については、成分(C)に、上述の成分(D)が含有された状態の形状であることが好ましい。この場合、例えば、図3〜11の符号4は、成分(C)+成分(D)となる。
【0107】
本発明の成形材料は、好ましくは1〜50mmの範囲の長さに切断して用いられる。前記の長さに調製することにより、成形時の流動性、取扱性を十分に高めることができる。このように適切な長さに切断された成形材料としてとりわけ好ましい態様は、射出成形用の長繊維ペレットが例示できる。
【0108】
また、本発明の成形材料は、連続、長尺のままでも成形法によっては使用可能である。例えば、熱可塑性ヤーンプリプレグとして、加熱しながらマンドレルに巻き付け、ロール状成形品を得たりすることができる。このような成形品の例としては、液化天然ガスタンクなどが挙げられる。また本発明の成形材料を、複数本一方向に引き揃えて加熱・融着させることにより一方向熱可塑性プリプレグを作製することも可能である。このようなプリプレグは、軽量性、高強度、弾性率、耐衝撃性が要求されるような分野、例えば自動車部材などに適用が可能である。
【0109】
本発明の繊維強化プロピレン系樹脂組成物は、各種公知の成形法により最終的な形状の製品に加工できる。成形方法としてはプレス成形、トランスファー成形、射出成形や、これらの組合せ等が挙げられる。成形品としては、インストルメントパネル、ドアビーム、アンダーカバー、ランプハウジング、ペダルハウジング、ラジエータサポート、スペアタイヤカバー、フロントエンドなどの各種モジュール等の自動車部品に好適である。さらに電話、ファクシミリ、VTR、コピー機、テレビ、電子レンジ、音響機器、トイレタリー用品、レーザーディスク、冷蔵庫、エアコンなどの家庭・事務電気製品部品も挙げられる。またパーソナルコンピューター、携帯電話などに使用されるような筐体や、パーソナルコンピューターの内部でキーボードを支持する部材であるキーボード支持体に代表されるような電気・電子機器用部材なども挙げられる。本発明は、強化繊維に、導電性を有する炭素繊維を使用した場合、このような電気・電子機器用部材では、電磁波シールド性が付与されるためにより好ましい。
【実施例】
【0110】
以下、実施例により本発明をさらに詳細に説明する。
【0111】
(1)(B)テルペン系樹脂の数平均分子量測定
(B)テルペン系樹脂をゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)にて測定した。GPCカラムにはポリスチレン架橋ゲルを充填したものを用いた。溶媒にクロロホルムを用い、150℃にて測定した。分子量は標準ポリスチレン換算にて算出した。
【0112】
(2)(B)テルペン系樹脂の溶融粘度測定
(B)テルペン系樹脂を粘弾性測定器にて溶融粘度測定した。40mmのパラレルプレートを用い、0.5Hzにて、190℃における測定した。
【0113】
(3)(B)テルペン系樹脂のガラス転移温度測定
(B)テルペン系樹脂を示差熱走査熱量測定(DSC)にて測定した。アルミニウムサンプルパンを用いて、40℃/min昇温にて測定した。
【0114】
(4)複合体空隙率
ASTM D2734(1997)試験法に準拠して、複合体の空隙率(%)を算出した。
【0115】
複合体空隙率の判定は以下の基準でおこない、A〜Cを合格とした。
【0116】
A:0〜5%未満
B:5%以上20%未満
C:20%以上40%未満
D:40%以上。
【0117】
(5)成形材料を用いて得られた成形品の繊維分散性
100mm×100mm×2mmの成形品を成形し、表裏それぞれの面に存在する未分散CF束の個数を目視でカウントした。評価は50枚の成形品についておこない、その合計個数について繊維分散性の判定を以下の基準でおこない、A〜Cを合格とした。
【0118】
A:未分散CF束が1個以下
B:未分散CF束が1個以上5個未満
C:未分散CF束が5個以上10個未満
D:未分散CF束が10個以上。
【0119】
(6)成形材料を用いて得られた成形品の曲げ試験
ASTM D790(1997)に準拠し、3点曲げ試験冶具(圧子10mm、支点10mm)を用いて支持スパンを100mmに設定し、クロスヘッド速度5.3mm/分の試験条件にて曲げ強度および曲げ弾性率を測定した。試験機として、“インストロン(登録商標)”万能試験機4201型(インストロン社製)を用いた。
【0120】
曲げ強度の判定は以下の基準でおこない、A〜Cを合格とした。
【0121】
A:150MPa以上
B:130MPa以上150MPa未満
C:100MPa以上130MPa未満
D:100MPa未満。
【0122】
(7)成形材料を用いて得られた成形品のアイゾット衝撃試験
ASTM D256(1993)に準拠し、モールドノッチ付きアイゾット衝撃試験を行った。用いた試験片の厚みは3.2mm、試験片の水分率0.1質量%以下において、アイゾット衝撃強度(J/m)を測定した。
【0123】
アイゾット衝撃試験の判定は以下の基準でおこない、A〜Cを合格とした。
【0124】
A:250J/m以上
B:200J/m以上250J/m未満
C:150J/m以上200J/m未満
D:150J/m未満。
【0125】
(8)成形材料を用いて得られた成形品の界面接着性評価
上記(6)のアイゾッド衝撃試験後の破断サンプルの破断面をSEM(走査型電子顕微鏡)にて観察し、強化繊維表面に樹脂成分の付着があるか否かを、任意の強化繊維を5本を選択し、目視判定にておこなった。また判定は以下の基準でおこない、A〜Bを合格とした。
【0126】
A:強化繊維表面のほぼ全ての領域(90%以上)に樹脂の付着が認められる
B:強化繊維表面の50%以上90%未満の領域に樹脂の付着が認められる
C:強化繊維表面に樹脂の付着が認められるのが50%未満である。
【0127】
(9)樹脂組成物の成分評価
樹脂組成物を粉砕し、クロロホルム中で数時間攪拌することで溶解する成分を抽出することができ、さらに、抽出した成分をカラムクロマトグラフィーにて、各成分を単離することができるので、これを用いる。単離した成分は、IR、NMR、および元素分析によって化学構造を分析することができる。一方、クロロホルム不溶成分は、IR測定、元素分析することで、用いた樹脂の種類やカルボン酸基の定量等が評価できる。さらに、不溶成分は酸素雰囲気下500℃×2時間程度加熱することで、無機成分量が測定できるので、これを用いる。
【0128】
(10)SP値算出方法
SP値は、化合物の分子式から、下記に示す式を用いて算出した。
【0129】
σ(SP値)=(ΣEcoh/ΣV)1/2
ここでEcohは凝集エネルギー密度のことであり、Vは分子のモル容積である。いずれも値も官能基に依存する定数として、Fedorsが提案しており、そのまま採用した。
【0130】
参考例1.炭素繊維1
ポリアクリロニトリルを主成分とする共重合体から紡糸、焼成処理、表面酸化処理を行い、総単糸数24,000本の連続炭素繊維を得た。この連続炭素繊維の特性は次に示す通りであった。
【0131】
単繊維径:7μm
単位長さ当たりの質量:1.6g/m
比重:1.8
表面酸素濃度比 [O/C]:0.06
引張強度:4600MPa
引張弾性率:220GPa。
【0132】
ここで表面酸素濃度比は、表面酸化処理を行ったあとの炭素繊維を用いて、X線光電子分光法により、次の手順にしたがって求めた。まず、炭素繊維束を20mmにカットして、銅製の試料支持台に拡げて並べた後、X線源としてA1Kα1、2を用い、試料チャンバー中を1×108Torrに保った。測定時の帯電に伴うピークの補正値としてC1sの主ピークの運動エネルギー値(K.E.)を1202eVに合わせた。C1sピーク面積をK.E.として1191〜1205eVの範囲で直線のベースラインを引くことにより求めた。O1sピーク面積をK.E.として947〜959eVの範囲で直線のベースラインを引くことにより求めた。O1sピーク面積とC1sピーク面積の比から装置固有の感度補正値を用いて原子数比として算出した。X線光電子分光法装置として、国際電気社製モデルES−200を用い、感度補正値を1.74とした。
【0133】
参考例2.炭素繊維2
ポリアクリロニトリルを主成分とする共重合体から紡糸、焼成処理、表面酸化処理を行い、総単糸数24,000本の連続炭素繊維を得た。この連続炭素繊維の特性は次に示す通りであった。
【0134】
単繊維径:7μm
単位長さ当たりの質量:1.6g/m
比重:1.8
表面酸素濃度比 [O/C]:0.12
引張強度:4600MPa
引張弾性率:220GPa。
【0135】
参考例3.サイジング付与
(a)多官能性化合物を2質量%になるように水に溶解、または分散させたサイジング剤母液を調整し、浸漬法により強化繊維にサイジング剤を付与し、230℃で乾燥を行った。付着量は1.0質量%であった。
【0136】
参考例4.(C)プロピレン系樹脂に用いる酸変性プロピレン樹脂の合成
(c−1)プロピレン単独重合体(プライムポリマー(株)製プライムポリプロJ105G樹脂)99.6質量部、無水マレイン酸 0.4質量部、および重合開始剤としてパーヘキシ25B(日本油脂(株)製)0.4質量部を混合し、加熱温度160℃、2時間で変性を行って、(c−2)酸変性ポリプロピレン樹脂(Mw=40万、酸含有量=0.08ミリモル当量)得た。
【0137】
参考例5.(C)プロピレン系樹脂に用いる酸変性プロピレン樹脂の合成2
プロピレン樹脂に(c−3)ブロックポリプロピレン(プライムポリマー(株)製プライムポリプロJ704UG樹脂)を用いた以外は、参考例4と同様にして、(c−4)酸変性ポリプロピレン樹脂(Mw=35万、酸含有量=0.05ミリモル当量)を得た。
【0138】
参考例6.(C)プロピレン系樹脂に用いる低分子量ポリプロピレンの合成
(c−1)プロピレン単独重合体(プライムポリマー(株)製プライムポリプロJ105G樹脂) 99質量部、重合開始剤としてパーヘキシ25B(日本油脂(株)製)1質量部を混合し、加熱温度160℃、2時間で反応を行って、(c−5)ポリプロピレン樹脂(Mw=10万)得た。
【0139】
実施例1.
130℃加熱されたロール上に、(B)テルペン系樹脂として(b−1)テルペン樹脂(ヤスハラケミカル(株)製YSレジンPX1250樹脂:主成分としてα−ピネン、β−ピネンを用いて重合された重合体からなる樹脂)を加熱溶融した液体の被膜を形成させた。ロール上に一定した厚みの被膜を形成するためキスコーターを用いた。このロール上を連続した(a)多官能化合物として、(a−1)グリセロールトリグリシジルエーテルを用いて、参考例1、参考例3から得られた連続炭素繊維束を接触させながら通過させて、0.8質量%付着させた。次に、180℃に加熱された、ベアリングで自由に回転する、一直線上に配置された10本の直径50mmのロールの上下を、交互に通過させた。この操作により、(B)テルペン系樹脂を繊維束の内部まで含浸させ、複合体を形成した。この連続した複合体を、日本製鋼所(株)TEX−30α型2軸押出機(スクリュー直径30mm、L/D=32)の先端に設置された電線被覆法用のコーティングダイ中に通し、押出機からダイ内に230℃に溶融させた(C)ポリプロピレン樹脂(c−1)(プライムポリマー(株)製プライムポリプロJ105G樹脂)を吐出させて、複合体の周囲を被覆するように連続的に配置した。この際、炭素繊維のみの含有率が20質量%になるように(C)プロピレン系樹脂量を調整した。得られた成形材料を冷却後、カッターで切断してペレット状の成形材料とした。
【0140】
次に得られたペレット状の成形材料を、日本製鋼所(株)製J350EIII型射出成形機を用いて、シリンダー温度:220℃、金型温度:60℃で特性評価用試験片(成形品)を成形した。得られた試験片は、温度23℃、50%RHに調整された恒温恒湿室に24時間放置後に特性評価試験に供した。次に、得られた特性評価用試験片(成形品)を上記の射出成形品評価方法に従い評価した。評価結果を、まとめて表1に示した。得られた成形品中の炭素繊維の割合は20質量%であり、(B)テルペン系樹脂は0.8質量%、(C)プロピレン系樹脂は79質量%である。
実施例2.
(B)テルペン系樹脂を2.8質量%と、(C)ポリプロピレン系樹脂に、(c−1)プロピレン系単独重合体(プライムポリマー(株)製プライムポリプロJ105G樹脂)50質量%と、参考例4で作製した(c−2)酸変性プロピレン系樹脂50質量%とからなる樹脂を77質量%用いた以外は実施例1と同様にしてペレットを得、成形評価をおこなった。特性評価結果はまとめて表1に記載した。
【0141】
実施例3.
(B)テルペン系樹脂を4.8質量%とし、(C)プロピレン系樹脂を75質量%用いたこと以外は、実施例2と同様にしてペレットを得、成形評価をおこなった。特性評価結果はまとめて表1に記載した。
【0142】
実施例4.
(B)テルペン系樹脂を9.8質量%とし、(C)プロピレン系樹脂を70質量%用いたこと以外は、実施例2と同様にしてペレットを得、成形評価をおこなった。特性評価結果はまとめて表1に記載した。
【0143】
実施例5.
(B)テルペン系樹脂を(b−2)水添テルペン樹脂(ヤスハラケミカル(株)製クリアロンP−105樹脂:主成分としてd−リモネンを用いて重合された重合体を水素添加反応された重合体からなる樹脂)を用いたこと以外は、実施例3と同様にしてペレットを得、成形評価をおこなった。特性評価結果はまとめて表1に記載した。
【0144】
実施例6.
(a)多官能化合物を(a−2)ビスフェノールA型エポキシ樹脂(ジャパンエポキシレジン(株)製jER828)を用いたこと以外は、実施例3と同様にしてペレットを得、成形評価をおこなった。特性評価結果はまとめて表1に記載した。
【0145】
実施例7.
(a)多官能化合物を(a−3)酸変性ポリプロピレン(丸芳化学(株)製酸変性ポリプロピレンエマルジョン)を用いたこと以外は、実施例3と同様にしてペレットを得、成形評価をおこなった。特性評価結果はまとめて表1に記載した。
【0146】
実施例8.
(b)炭素繊維を参考例2から得られた炭素繊維を用いたこと以外は、実施例3と同様にしてペレットを得、成形評価をおこなった。特性評価結果はまとめて表1に記載した。
【0147】
実施例9.
(D)エラストマーとして、(d−1)エチレン−α−オレフィン共重合体(住友化学(株)製CX5505)を10質量%用い、(C)プロピレン系樹脂を65質量%用いたこと以外は実施例3と同様にしてペレットを得、成形評価をおこなった。特性評価結果はまとめて表1に記載した。
【0148】
実施例10.
(D)エラストマーとして、(d−2)スチレン−エチレン−ブタジエン−スチレン共重合体(旭化成工業(株)製タフテックH1052)を10質量%用い、(C)プロピレン系樹脂を65質量%用いたこと以外は実施例3と同様にしてペレットを得、成形評価をおこなった。特性評価結果はまとめて表1に記載した。
【0149】
実施例11.
(b)強化繊維として、ガラス繊維(日東紡績(株)製240TEX)を用いたこと以外は、実施例3と同様にして、ペレットを得、成形評価をおこなった。特性評価はまとめて表1に記載した。
【0150】
実施例12.
(a)多官能化合物を0.05質量%、炭素繊維1を5質量%、(b−1)テルペン系樹脂を0.95質量%とし、(C)ポリプロピレン系樹脂に、(c−1)プロピレン系単独重合体(プライムポリマー(株)製プライムポリプロJ105G樹脂)95質量%と、参考例4で作製した(c−2)酸変性プロピレン系樹脂5質量%とからなる樹脂を94質量%用いたこと以外は、実施例2と同様にして、ペレットを得、成形評価をおこなった。特性評価はまとめて表3に記載した。
【0151】
実施例13.
(a)多官能化合物を0.1質量%、炭素繊維1を10質量%、(b−2)水添テルペン系樹脂を2.4質量%とし、(C)ポリプロピレン系樹脂に、(c−1)プロピレン系単独重合体(プライムポリマー(株)製プライムポリプロJ105G樹脂)95質量%と、参考例4で作製した(c−2)酸変性プロピレン系樹脂5質量%とからなる樹脂を87.5質量%用いたこと以外は、実施例5と同様にして、ペレットを得、成形評価をおこなった。特性評価はまとめて表3に記載した。
【0152】
実施例14.
(a)多官能化合物を0.3質量%、炭素繊維1を30質量%、(b−2)水添テルペン系樹脂を7.2質量%とし、(C)ポリプロピレン系樹脂に、(c−1)プロピレン系単独重合体(プライムポリマー(株)製プライムポリプロJ105G樹脂)70質量%と、参考例4で作製した(c−2)酸変性プロピレン系樹脂30質量%とからなる樹脂を62.5質量%用いたこと以外は、実施例5と同様にして、ペレットを得、成形評価をおこなった。特性評価はまとめて表3に記載した。
【0153】
実施例15.
(a)多官能化合物を0.4質量%、炭素繊維1を40質量%、(b−1)テルペン系樹脂を9.6質量%とし、(C)ポリプロピレン系樹脂に、(c−1)プロピレン系単独重合体(プライムポリマー(株)製プライムポリプロJ105G樹脂)70質量%と、参考例4で作製した(c−2)酸変性プロピレン系樹脂30質量%とからなる樹脂を50質量%用いたこと以外は、実施例2と同様にして、ペレットを得、成形評価をおこなった。特性評価はまとめて表3に記載した。
【0154】
実施例16.
(C)ポリプロピレン系樹脂に、(c−1)プロピレン系単独重合体(プライムポリマー(株)製プライムポリプロJ105G樹脂)90質量%と、参考例4で作製した(c−2)酸変性プロピレン系樹脂10質量%とからなる樹脂を用いたこと以外は、実施例5と同様にして、ペレットを得、成形評価をおこなった。特性評価はまとめて表3に記載した。
【0155】
実施例17.
(C)ポリプロピレン系樹脂に、(c−1)プロピレン系単独重合体(プライムポリマー(株)製プライムポリプロJ105G樹脂)90質量%と、参考例5で作製した(c−4)酸変性プロピレン系樹脂10質量%とからなる樹脂を用いたこと以外は、実施例16と同様にして、ペレットを得、成形評価をおこなった。特性評価はまとめて表3に記載した。
【0156】
実施例18.
(C)ポリプロピレン系樹脂に、(c−3)ブロックポリプロピレン(プライムポリマー(株)製プライムポリプロJ704UG樹脂)90質量%と、参考例4で作製した(c−2)酸変性プロピレン系樹脂10質量%とからなる樹脂を用いたこと以外は、実施例16と同様にして、ペレットを得、成形評価をおこなった。特性評価はまとめて表3に記載した。
【0157】
実施例19.
(C)ポリプロピレン系樹脂に、(c−3)ブロックポリプロピレン(プライムポリマー(株)製プライムポリプロJ704UG樹脂)90質量%と、参考例5で作製した(c−4)酸変性プロピレン系樹脂10質量%とからなる樹脂を用いたこと以外は、実施例16と同様にして、ペレットを得、成形評価をおこなった。特性評価はまとめて表3に記載した。
【0158】
実施例20.
(C)ポリプロピレン系樹脂に、(c−1)プロピレン系単独重合体(プライムポリマー(株)製プライムポリプロJ105G樹脂)45質量%と、参考例6で作製した(c−5)プロピレン系樹脂45質量%と、参考例4で作成した(c−2)酸変性ポリプロピレン系樹脂10質量%からなる樹脂を用いたこと以外は、実施例16と同様にして、ペレットを得、成形評価をおこなった。特性評価はまとめて表3に記載した。
【0159】
実施例21.
(C)ポリプロピレン系樹脂に、参考例6で作製した(c−5)プロピレン系樹脂90質量%と、参考例4で作成した(c−2)酸変性ポリプロピレン系樹脂10質量%からなる樹脂を用いたこと以外は、実施例16と同様にして、ペレットを得、成形評価をおこなった。特性評価はまとめて表3に記載した。
【0160】
実施例22.
(B)テルペン系樹脂を(b−4)水添テルペン樹脂(ヤスハラケミカル(株)製クリアロンP−85樹脂:主成分としてd−リモネンを用いて重合された重合体を水素添加反応された重合体からなる樹脂)を用いたこと以外は、実施例16と同様にしてペレットを得、成形評価をおこなった。特性評価結果はまとめて表3に記載した。
【0161】
実施例23.
(B)テルペン系樹脂を(b−5)水添テルペン樹脂(ヤスハラケミカル(株)製クリアロンP−125樹脂:主成分としてd−リモネンを用いて重合された重合体を水素添加反応された重合体からなる樹脂)を用いたこと以外は、実施例16と同様にしてペレットを得、成形評価をおこなった。特性評価結果はまとめて表3に記載した。
【0162】
実施例24.
(B)テルペン系樹脂を(b−6)水添テルペン樹脂(ヤスハラケミカル(株)製クリアロンP−150樹脂:主成分としてd−リモネンを用いて重合された重合体を水素添加反応された重合体からなる樹脂)を用いたこと以外は、実施例16と同様にしてペレットを得、成形評価をおこなった。特性評価結果はまとめて表3に記載した。
【0163】
実施例25.
(a)多官能化合物を1.2質量%用いたこと以外は、実施例16と同様にして、ペレットを得、成形評価をおこなった。特性評価はまとめて表3に記載した。
【0164】
実施例26.
(a)多官能化合物を(a−4)ポリグリセロールポリグリシジルエーテル(ナガセケムテックス(株)製デナコールEX−521)を用いたこと以外は、実施例16と同様にしてペレットを得、成形評価をおこなった。特性評価結果はまとめて表3に記載した。
【0165】
比較例1.
参考例1で得られた連続炭素繊維束にサイジング剤を付着させずにそのまま評価に供し、20質量%用いた。なお、(C)ポリプロピレン系樹脂には、実施例1と同様、(c−1)プロピレン単独重合体(プライムポリマー(株)製プライムポリプロJ105G樹脂)を80質量%用いた。ペレット作製時に炭素繊維が毛羽立ち、成形性も不十分であった。
【0166】
比較例2.
(B)テルペン系樹脂を添加せず、(C)プロピレン系樹脂を79.8質量%用いたこと以外は、実施例6と同様にしてペレットを得、成形評価をおこなった。特性評価結果はまとめて表2に記載した。
【0167】
比較例3.
(B)テルペン系樹脂の代わりに、溶融時にテルペン系樹脂と同程度の粘度である(e−1)フェノールノボラック樹脂(大日本インキ(株)TD−2131)を4.8質量%用い、(C)プロピレン系樹脂を75質量%用いたこと以外は、比較例2と同様にしてペレットを得、成形評価をおこなった。特性評価結果はまとめて表2に記載した。
【0168】
【表1】
【0169】
【表2】
【0170】
【表3】
【0171】
以上のように、実施例1〜26においては、成形材料(長繊維ペレット)は取扱い性に優れ、また該成形材料を用いることで繊維分散性にすぐれ、かつ力学特性に優れた成形品を得ることができた。
【0172】
一方、比較例1においては、炭素繊維束に何も付着させておらず、成形材料(長繊維ペレット)作製が不可能であった。また、比較例2、3では繊維分散性、力学特性を両立できる成形材料は得られなかった。
【産業上の利用可能性】
【0173】
本発明の成形材料は、成形時の繊維分散性に優れ、強化繊維とポリプロピレン系樹脂との界面接着性が良好であるため、高い力学特性を有する繊維強化熱可塑性樹脂成形品を得ることが可能であり、種々の用途に展開できる。特に自動車部品、電気・電子部品、家庭・事務電気製品部品に好適である。
【符号の説明】
【0174】
1 (A)(a)多官能化合物によりサイジング処理された(b)強化繊維
2 (B)テルペン系樹脂
3 (A)(a)多官能化合物によりサイジング処理された(b)強化繊維と(B)テルペン系樹脂からなる複合体
4 (C)プロピレン系樹脂
【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも下記成分(A)〜(C)を有してなる成形材料であって、該成分(A)、(B)を有してなる複合体に、該成分(C)が接着されており、下記成分(B)のSP値が6.5〜9であり、かつ下記成分(a)のSP値よりも低いことを特徴とする成形材料。
(A)(a)多官能化合物によりサイジング処理された(b)強化繊維 1〜75質量%
(B)テルペン系樹脂 0.01〜20質量%
(C)プロピレン系樹脂 5〜98.98質量%
【請求項2】
前記成分(B)がα−ピネン、β−ピネン、ジペンテン、d−リモネンから選択されるいずれか1つを用いて重合された重合体からなる樹脂である、請求項1の成形材料。
【請求項3】
前記成分(B)が水素添加反応された重合体からなる樹脂である、請求項1または2に記載の成形材料。
【請求項4】
前記成分(B)のガラス転移温度が30〜100℃である、請求項1〜3いずれかに記載の成形材料。
【請求項5】
前記成分(B)の数平均分子量が500〜5000である、請求項1〜4いずれかに記載の成形材料。
【請求項6】
前記成分(B)の190℃における溶融粘度が、0.05〜1Pa・sである、請求項1〜5いずれかに記載の成形材料。
【請求項7】
前記成分(a)が3官能以上である、請求項1〜6いずれかに記載の成形材料。
【請求項8】
前記成分(a)が多官能性エポキシ樹脂、酸変性ポリプロピレン、酸変性ポリプロピレンの中和物から選択される少なくとも1種である、請求項7に記載の成形材料。
【請求項9】
前記成分(a)が脂肪族エポキシ樹脂である、請求項8に記載の成形材料。
【請求項10】
前記成分(a)が、グリセロールポリグリシジルエーテル、ジグリセロールポリグリシジルエーテル、ポリエチレングリコールグリシジルエーテル類、ポリプロピレングリコールグリシジルエーテル類から選ばれる少なくとも1種である、請求項9に記載の成形材料。
【請求項11】
前記成分(C)が、重合体鎖にカルボン酸および/またはその塩の基を有するポリプロピレン系樹脂を含んでいる、請求項1〜10いずれかに記載の成形材料。
【請求項12】
前記成分(C)が、プロピレンの単独重合体を含んでいる、請求項1〜11いずれかに記載の成形材料。
【請求項13】
前記成分(C)が、カルボン酸および/またはその塩の基を有する、ブロックおよび/またはランダムプロピレンを含んでいる、請求項11に記載の成形材料。
【請求項14】
前記成分(C)が、(C−1)カルボン酸および/またはその塩の基を有しているプロピレン系樹脂と(C−2)カルボン酸および/またはその塩の基を有しないプロピレン系樹脂との混合物であり、前記成分(a)、(B)、(C−1)の質量比が下記範囲内である、請求項11〜13いずれかに記載の成形材料。
(a)/(B)/(C−1)=0.001〜0.5/1/0.01〜50
【請求項15】
前記成分(A)〜(C)に加えて、成分(D)として、エラストマーを0.01〜30質量%有している、請求項1〜14いずれかに記載の成形材料。
【請求項16】
前記成分(D)がオレフィン系エラストマー、スチレン系エラストマー、ウレタン系エラストマー、エステル系エラストマー、アミド系エラストマーから選択される選択される少なくとも1種であることを特徴とする請求項15に記載の成形材料。
【請求項17】
前記成分(D)のSP値が6.5〜9.5である、請求項15または16に記載の成形材料。
【請求項18】
前記成分(D)がエチレン−α−オレフィン共重合体である、請求項17に記載の成形材料。
【請求項19】
前記成分(b)が炭素繊維である、請求項1〜18いずれかに記載の成形材料。
【請求項20】
前記炭素繊維のX線光電子分光法(ESCA)で測定される表面酸素濃度比(O/C)が0.05〜0.5である、請求項1〜19に記載の成形材料。
【請求項21】
前記成分(b)の強化繊維が、20,000〜100,000本の単繊維からなる強化繊維束である、請求項1〜20いずれかに記載の成形材料。
【請求項22】
前記成形材料において、成分(A)に対する空隙率が20%以下である、請求項1〜21いずれかに記載の成形材料。
【請求項23】
前記成分(A)が軸心方向にほぼ平行に配列されており、かつ該成分(A)の長さが成形材料の長さと実質的に同じである、請求項1〜22のいずれかに記載の成形材料。
【請求項24】
前記複合体が芯構造であり、前記成分(C)および/または(D)が該複合体の周囲を被覆した芯鞘構造である、請求項23に記載の成形材料。
【請求項25】
前記成形材料の形態が長繊維ペレットである、請求項1〜24いずれかに記載の成形材料。
【請求項26】
前記長繊維ペレットの長手方向の長さが1〜50mmである、請求項1〜25いずれかに記載の成形材料。
【請求項1】
少なくとも下記成分(A)〜(C)を有してなる成形材料であって、該成分(A)、(B)を有してなる複合体に、該成分(C)が接着されており、下記成分(B)のSP値が6.5〜9であり、かつ下記成分(a)のSP値よりも低いことを特徴とする成形材料。
(A)(a)多官能化合物によりサイジング処理された(b)強化繊維 1〜75質量%
(B)テルペン系樹脂 0.01〜20質量%
(C)プロピレン系樹脂 5〜98.98質量%
【請求項2】
前記成分(B)がα−ピネン、β−ピネン、ジペンテン、d−リモネンから選択されるいずれか1つを用いて重合された重合体からなる樹脂である、請求項1の成形材料。
【請求項3】
前記成分(B)が水素添加反応された重合体からなる樹脂である、請求項1または2に記載の成形材料。
【請求項4】
前記成分(B)のガラス転移温度が30〜100℃である、請求項1〜3いずれかに記載の成形材料。
【請求項5】
前記成分(B)の数平均分子量が500〜5000である、請求項1〜4いずれかに記載の成形材料。
【請求項6】
前記成分(B)の190℃における溶融粘度が、0.05〜1Pa・sである、請求項1〜5いずれかに記載の成形材料。
【請求項7】
前記成分(a)が3官能以上である、請求項1〜6いずれかに記載の成形材料。
【請求項8】
前記成分(a)が多官能性エポキシ樹脂、酸変性ポリプロピレン、酸変性ポリプロピレンの中和物から選択される少なくとも1種である、請求項7に記載の成形材料。
【請求項9】
前記成分(a)が脂肪族エポキシ樹脂である、請求項8に記載の成形材料。
【請求項10】
前記成分(a)が、グリセロールポリグリシジルエーテル、ジグリセロールポリグリシジルエーテル、ポリエチレングリコールグリシジルエーテル類、ポリプロピレングリコールグリシジルエーテル類から選ばれる少なくとも1種である、請求項9に記載の成形材料。
【請求項11】
前記成分(C)が、重合体鎖にカルボン酸および/またはその塩の基を有するポリプロピレン系樹脂を含んでいる、請求項1〜10いずれかに記載の成形材料。
【請求項12】
前記成分(C)が、プロピレンの単独重合体を含んでいる、請求項1〜11いずれかに記載の成形材料。
【請求項13】
前記成分(C)が、カルボン酸および/またはその塩の基を有する、ブロックおよび/またはランダムプロピレンを含んでいる、請求項11に記載の成形材料。
【請求項14】
前記成分(C)が、(C−1)カルボン酸および/またはその塩の基を有しているプロピレン系樹脂と(C−2)カルボン酸および/またはその塩の基を有しないプロピレン系樹脂との混合物であり、前記成分(a)、(B)、(C−1)の質量比が下記範囲内である、請求項11〜13いずれかに記載の成形材料。
(a)/(B)/(C−1)=0.001〜0.5/1/0.01〜50
【請求項15】
前記成分(A)〜(C)に加えて、成分(D)として、エラストマーを0.01〜30質量%有している、請求項1〜14いずれかに記載の成形材料。
【請求項16】
前記成分(D)がオレフィン系エラストマー、スチレン系エラストマー、ウレタン系エラストマー、エステル系エラストマー、アミド系エラストマーから選択される選択される少なくとも1種であることを特徴とする請求項15に記載の成形材料。
【請求項17】
前記成分(D)のSP値が6.5〜9.5である、請求項15または16に記載の成形材料。
【請求項18】
前記成分(D)がエチレン−α−オレフィン共重合体である、請求項17に記載の成形材料。
【請求項19】
前記成分(b)が炭素繊維である、請求項1〜18いずれかに記載の成形材料。
【請求項20】
前記炭素繊維のX線光電子分光法(ESCA)で測定される表面酸素濃度比(O/C)が0.05〜0.5である、請求項1〜19に記載の成形材料。
【請求項21】
前記成分(b)の強化繊維が、20,000〜100,000本の単繊維からなる強化繊維束である、請求項1〜20いずれかに記載の成形材料。
【請求項22】
前記成形材料において、成分(A)に対する空隙率が20%以下である、請求項1〜21いずれかに記載の成形材料。
【請求項23】
前記成分(A)が軸心方向にほぼ平行に配列されており、かつ該成分(A)の長さが成形材料の長さと実質的に同じである、請求項1〜22のいずれかに記載の成形材料。
【請求項24】
前記複合体が芯構造であり、前記成分(C)および/または(D)が該複合体の周囲を被覆した芯鞘構造である、請求項23に記載の成形材料。
【請求項25】
前記成形材料の形態が長繊維ペレットである、請求項1〜24いずれかに記載の成形材料。
【請求項26】
前記長繊維ペレットの長手方向の長さが1〜50mmである、請求項1〜25いずれかに記載の成形材料。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【公開番号】特開2010−248483(P2010−248483A)
【公開日】平成22年11月4日(2010.11.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−50348(P2010−50348)
【出願日】平成22年3月8日(2010.3.8)
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.レーザーディスク
【出願人】(000003159)東レ株式会社 (7,677)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成22年11月4日(2010.11.4)
【国際特許分類】
【出願日】平成22年3月8日(2010.3.8)
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.レーザーディスク
【出願人】(000003159)東レ株式会社 (7,677)
【Fターム(参考)】
[ Back to top ]