説明

成膜装置、該成膜装置に用いられる薄膜形成方法及び薄膜形成制御プログラム

【課題】
運用の初期から安定した状態で薄膜が形成される成膜装置を提供する。
【解決手段】成膜室71にて薄膜被形成物の表面に電子ビームを用いて薄膜が蒸着されて形成され、このとき、成膜室71内に水蒸気が導入され、同成膜室71内の水分が同電子ビームによって酸素と水素とに解離され、同成膜室71内の水素分圧が所定の制限範囲に保たれるように水蒸気の流量が制御される。このため、水素分圧に所定の制限範囲が設定される成膜が、成膜装置の稼動初期から終了まで安定して行われる。また、水蒸気発生装置72や質量分析器76など、成膜室71に容易に後付けできる部品を用いて水素発生量を制御するようにしたので、真空室などを設けることなく、成膜装置が容易に改造される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、成膜装置、該成膜装置に用いられる薄膜形成方法及び薄膜形成制御プログラムに係り、特に、交流駆動型のプラズマディスプレイパネルに設けられる誘電体層上に保護層を形成する場合に用いて好適な成膜装置、該成膜装置に用いられる薄膜形成方法及び薄膜形成制御プログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
プラズマディスプレイパネル(Prasma Display Panel、以下、「PDP」という)を主要部として含むプラズマ表示装置は、従来から広く用いられているCRT(Cathode Ray Tube)あるいは液晶表示装置などのディスプレイ装置と比較して、ちらつきが少なく、表示コントラスト比が大きいこと、薄型で大画面表示が可能であること、応答速度が速いことなど、多くの利点を有している。このため、近年では、プラズマ表示装置は、公共の表示装置や大型平面テレビジョンなどのディスプレイ装置として利用されることが多くなっている。
【0003】
このプラズマ表示装置は、動作方式により、PDPの表示電極(後述する走査電極と放電維持電極とからなる面放電電極対)が透明誘電体層で被覆されて間接的に交流放電の状態で動作させるAC型のものと、同表示電極が放電空間に露出されて直流放電の状態で動作させるDC型のものとに略大別される。特に、前者は、比較的簡単な構造で、上述したような大画面化が容易に実現されるので、近年、広く用いられている。このようなPDPでは、それぞれガラスなどの透明電極からなる前面基板と背面基板とが対向するように配置され、両基板間にプラズマを発生させる放電ガス空間が形成されている。
【0004】
図3は、上記PDPの要部を示す構成図である。
このPDP1では、同図3に示すように、図示しない前面基板の内面に行方向Hに互いに平行に配置されたn本の走査電極2(Scani、i=1,2,…,n)と維持電極3(Susi、i=1,2,…,n)とからなる面放電電極群、及び図示しない背面基板の内面に、同面放電電極群と直交するように列方向Vに沿って配置されたm本のデータ電極4(Dj、j=1,2,…,m)が配置されている。そして、面放電電極群とデータ電極4との交差領域にそれぞれ1つの単位セル5が形成され、行方向H及び列方向Vにマトリクス状にセル群が配置されている。モノクロ表示の場合は1つのセルにより1つの画素が構成され、カラー表示の場合は3つのセル(赤色R、緑色G及び青色Bの発光セル)により1つの画素が構成される。
【0005】
図4は、図3中の単位セル5のA−A線断面図である。
この単位セル5では、同図4に示すように、前面基板11と背面基板12とが所定の間隔をもって対向して配置されている。前面基板11はガラス基板などで構成され、同前面基板11上に走査電極2及び維持電極3が放電ギャップ13を隔てて配置されている。これらの走査電極2及び維持電極3で面放電電極対6が構成されている。また、通常、走査電極2及び維持電極3上には、図示しないトレース電極がそれぞれ形成されている。さらに、これらの電極上には、透明誘電体層14が形成され、同透明誘電体層14上に保護層15が形成されている。保護層15は、MgO(酸化マグネシウム)などで構成され、透明誘電体層14を放電から保護する。一方、背面基板12はガラス基板などで構成され、同背面基板12上にデータ電極4が走査電極2及び維持電極3と直交するように設けられている。さらに、データ電極4上には白色誘電体層16が設けられ、同白色誘電体層16上に蛍光体層17が設けられている。前面基板11と背面基板12との間には、各セルを囲うように井桁状の隔壁18が形成されている。隔壁18は、放電空間19を確保すると共に画素を区切る役割を果たす。放電空間19内には、He、Ne、Xeなどの混合ガスが放電ガスとして封入されている。
【0006】
図5は、図3のPDPに用いられる階調表示方法の原理を説明する図であり、横軸に時間、縦軸に同PDP内の走査電極の番号(1,…,n)がとられている。
このPDPでは、同図5に示すように、1フィールドTFが階調レベルに基づいて重み付けされた6つのサブフィールド1SF,2SF,…,6SFに分割され、同各サブフィールドが、それぞれ、初期化期間(「予備放電期間」ともいう)T1、走査期間T2、及び維持期間T3に分割されている。各走査期間T2内の斜線は、各走査電極2に線順次に印加される走査パルスのタイミングを表す。この走査パルスとデータ電極4に印加されるデータパルスとの両者が同時に加わると、書込み放電が発生する。維持期間T3は、単位セル5が表示発光する期間である。
【0007】
維持期間T3では、走査電極2及び維持電極3に交互に維持パルスが印加され、走査期間T2に放電が発生したセルは、同維持期間T3の長さ(すなわち、維持パルスの数)に応じた強度で発光する。図5では、サブフィールド1SF,2SF,…,6SFの各維持期間T3の長さは、1:2:4:8:16:32の比に設定されているため、これらの維持期間T3における発光を組み合わせることにより、64段階(0〜63)の階調の画面が表示される。たとえば、29階調の画面が表示される場合、1フィールドTFの期間において、サブフィールド1SF(階調;1)、サブフィールド3SF(階調;4)、サブフィールド4SF(階調;8)、及びサブフィールド5SF(階調;16)が発光するように制御される。
【0008】
図6は、図5中の各サブフィールドにおける各電極の駆動波形の要部を示す図である。
同図6に示すように、維持電極3には、波形Susに示す電圧が印加され、走査電極2には波形Scan1〜Scannに示す電圧が順次印加される。また、データ電極4には、波形Dataに示す電圧が印加される。初期化期間T1では、走査電極2に維持消去波形bが印加され、前のサブフィールドでの維持放電の有無による単位セル5内の各電極上の誘電体層(透明誘電体層14及び白色誘電体層16)の上に放電によって蓄積された電荷である壁電荷の形成量の違いが初期化(リセット)される。また、初期化期間T1では、同初期化期間T1の後の走査期間T2において表示データに基づいて線順次にデータが書込まれる際に放電が行われやすくするためのプライミング効果が発生すると共に、壁電荷の状態が書込み放電に最適な状態とされる。この場合、プライミング波形c及びプライミング消去波形dが走査電極2に印加される。このプライミング波形cにより、前サブフィールドの維持放電の発生如何に関わらず弱放電が発生し、プライミング粒子が放電空間19内に発生することにより書込み放電が発生しやすい状態となる。
【0009】
走査期間T2では、映像信号に対応して、走査電極2毎に順次、書込み放電の発生の有無により壁電荷の状態を変化させて単位セル5に映像情報が書き込まれる。すなわち、走査期間T2では、走査ベース電圧Vbwが印加されている走査電極2のScan1,Scan2,…,Scannに走査パルスaが順次印加される。この走査パルスaに対応して、データ電極4のD1,D2,…,Dmに表示パターンに応じてデータパルスeが印加される。なお、図6中のデータパルスeの斜線は、映像信号によって、データパルスeが印加されたり、されなかったりすることを示す。点灯セルには走査パルスaの印加時にデータパルスeが印加され、書込み放電が発生する。一方、非点灯セルには、データパルスeが印加されず、書込み放電は発生しない。走査パルスaが全走査電極2に印加された後、維持期間T3に移る。
【0010】
維持期間T3では、電圧Vsの維持パルスfが、全走査電極2と全維持電極3とに交互に印加される。書込み放電が発生した点灯セルでは、書込み放電により形成された壁電荷により維持放電が発生する。一度維持放電が発生すると、壁電荷の極性が反転し、維持パルスfの極性が反転することにより再度維持放電が発生し、同維持パルスfの極性が反転する毎に維持放電が発生して点灯状態となる。
【0011】
図7は、図3のPDPの概略の製造工程図である。
このPDPの製造工程では、同図7に示すように、工程A1において、前面基板11が洗浄される。工程A2において、スパッタ法などにより前面基板11の内面にITOなどが成膜された後、フォトリソグラフィ法により所望の形状にパターニングされて走査電極2及び維持電極3が形成される。この後、スパッタ法などにより走査電極2及び維持電極3上にAlなどが成膜された後、フォトリソグラフィ法により所望の形状にパターニングされてトレース電極が形成される。工程A3において、スクリーン印刷法などにより走査電極2及び維持電極3を覆うようにPbOなどの透明誘電体層14が形成される。工程A4において、EB(Electron Beam 、電子ビーム)蒸着法により透明誘電体層14上にMgOなどの材料を蒸着して保護層15が形成される。
【0012】
一方、工程B1において、背面基板12が洗浄される。工程B2において、スパッタ法などにより背面基板12の内面にAlなどが成膜された後、フォトリソグラフィ法により所望の形状にパターニングされてデータ電極4が形成される。工程B3において、スクリーン印刷法などによりデータ電極4を覆うように白色誘電体層16が形成される。工程B4において、スクリーン印刷法などによりデータ電極4上に隔壁18が形成される。工程B5において、白色誘電体層16及び隔壁18を覆うように蛍光体層17が形成される。
【0013】
次に、工程C1において、前面基板11と背面基板12とが対向した状態で固定されて組み立てられる。工程C2において、面基板11及び背面基板12の周辺部がシールフリット(封着材)により封着される。工程C3において、前面基板11と背面基板12との間の空間が排気されてガス封入が行われる。この場合、たとえば、背面基板12の所定の場所に通気孔が予め形成され、図示しない通気管が、一方の端部が同通気孔に位置合わせされた状態で取り付けられている。同通気管の他方の端部は当初開口され、同通気管が同端部を介して排気・ガス充填装置に接続される。そして、排気・ガス充填装置によって放電空間19が真空に排気された後、同放電空間19に放電ガスが充填される。この後、通気管は加熱によりチップオンされ、開口端部が閉塞されてPDP1が完成する。
【0014】
上記工程A4において、保護層15を形成するための成膜装置が用いられる。成膜装置には、真空蒸着装置、スパッタリング装置などがある。
【0015】
従来、この種の成膜装置に関する技術としては、たとえば、次のような文献に記載されるものがあった。
特許文献1に記載されたトレイ搬送式インライン成膜装置は、図8に示すように、搬入室20と、ゲートバルブ21と、成膜室30と、ゲートバルブ31,32と、垂直移動機構33,34と、蒸発源35と、搬出室40と、ゲートバルブ41とから構成されている。この成膜装置では、基板50がゲートバルブ21から搬入室20に供給された後、同ゲートバルブ21が閉状態となって同搬入室20が真空排気され、同基板50がゲートバルブ31を経て成膜室30の垂直移動機構33によりトレイ51上に水平に搭載される。この成膜室30は、常時真空排気されている。また、基板50は、成膜室30内で蒸発源35により成膜された後、垂直移動機構34によりトレイ51と分離され、ゲートバルブ32を経て搬出室40に取出される。一方、トレイ51は、成膜室30内のゲートバルブ31側にリターンし、再び垂直移動機構33により次の基板50が搭載される。トレイ51は、成膜室30の内部で循環搬送され、同トレイ51の成膜面側に膜が積層するが、大気など、不純物の発生源となるガスを吸着しない。
【0016】
図9は、従来の他の成膜装置の概略の構成図であり、図8中の要素と共通の要素には共通の符号が付されている。
この成膜装置は、搬入室20Aと、ゲートバルブ21Aと、成膜室30Aと、ゲートバルブ31A,32Aと、垂直移動機構33A,34Aと、蒸発源35と、搬出室40Aと、ゲートバルブ41Aと、搬送機構60と、基板供給取出部61と、乾燥空気導入口62,63とから構成されている。この成膜装置では、基板50が、基板供給取出部61に供給されてトレイ51上に搭載され、垂直移動機構33Aにより上方に移動され、搬送機構60を経て垂直移動機構34Aによりゲートバルブ21A側に移動される。この後、基板50がゲートバルブ21Aから搬入室20Aに供給された後、同ゲートバルブ21Aが閉状態となって同搬入室20Aが真空排気され、同基板50がゲートバルブ31Aを経て成膜室30Aに搬入される。成膜室30Aは、常時真空排気されている。基板50は、成膜室30A内で蒸発源35により成膜された後、ゲートバルブ32Aを経て搬出室40Aに取り出され、ゲートバルブ41Aを経て基板供給取出部61に取り出される。また、搬送機構60の内部では、乾燥空気導入口62,63から乾燥空気などの露点の低いガスが導入されて雰囲気が作られ、浄化されている。また、搬送機構60では、図示しない加熱ヒータにより内部が加熱されることもある。
【0017】
また、特許文献2に記載された成膜方法では、PDPにおける書込み放電の遅れ時間及び放電電圧などと密接な関係を有する体積抵抗率及び水素原子の含有量が適切に規定されているので、放電遅れ時間が短縮される。この結果、輝度が向上すると共に、書込み不良の発生が防止される。また、蒸着チャンバ内の水素と酸素との所望の分圧比を得るためには、同蒸着チャンバ内に、酸素ガスと、水蒸気又は水素ガスを導入して分圧比を制御すれば良い。水蒸気を導入した場合には、電子ビームにより生成されたプラズマにより、水蒸気が水素及び酸素に解離されるので、分圧比の制御が可能となる。
【特許文献1】特開平9−279341号公報(要約書、図1)
【特許文献2】特開2002−33053号公報(第8頁、図1)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0018】
しかしながら、上記従来の成膜装置では、次のような問題点があった。
すなわち、特許文献1に記載された図8に示す成膜装置では、成膜室30が常時真空排気されるようにする必要があるため、現在保有している装置を改造する場合には、経費が極めて多くかかり、実現が容易ではないという問題点がある。また、図9の成膜装置では、搬送機構60の内部で乾燥空気などの露点の低いガスの雰囲気が作られているが、基板50の投入及び取出し時には、トレイに積層されたMgO膜が大気に接触して水分を吸着し、成膜室30内で水素の分圧が時間の経過とともに増加し、その変動幅が大きくなる。このため、成膜装置の稼動初期から終了まで安定した状態で成膜が行われないという問題点がある。また、基板供給取出部61を真空室に改造することも、上記と同様に、実現が容易ではない。
【0019】
また、特許文献2に記載された成膜方法では、蒸着チャンバ内に、酸素ガスと、水蒸気又は水素ガスを導入して分圧比を制御する旨が記載されているが、具体的な装置の構成が不明である。
【0020】
この発明は、上述の事情に鑑みてなされたもので、真空室などを設けることなく、成膜室内における水素の発生量を所定の範囲内に制御し、特に一定に保つ構成の成膜装置を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0021】
上記課題を解決するために、請求項1記載の発明は、薄膜被形成物の表面に電子ビームを用いて所定の材料を蒸着して薄膜を形成するための成膜室を有し、該成膜室内の水分が前記電子ビームによって酸素と水素とに解離され、該水素の分圧の変動幅に所定の制限範囲が設定された状態で運用される成膜装置に係り、前記成膜室内に水蒸気を導入し、かつ該成膜室内の水素分圧を前記所定の制限範囲に保つように該水蒸気の流量を制御する水蒸気導入手段が設けられていることを特徴としている。
【0022】
請求項2記載の発明は、請求項1記載の成膜装置に係り、前記水蒸気導入手段は、前記成膜室に導入するための水蒸気を発生する水蒸気発生部と、該水蒸気発生装置から前記成膜室に導入する水蒸気の流量を制御する流量制御部と、前記成膜室内の前記水素の質量を分析する質量分析部と、該質量分析部による前記水素の質量の分析結果に基づいて、前記流量制御部による前記水蒸気の流量を、前記成膜室内の水素分圧が前記所定の制限範囲に保たれるように制御する制御部とから構成されていることを特徴としている。
【0023】
請求項3記載の発明は、請求項1又は2記載の成膜装置に係り、前記薄膜は、互いに対向して配置された第1の基板及び第2の基板、前記第1の基板の前記第2の基板に対向する面に放電ギャップを隔てて互いに平行に配置された走査電極及び維持電極からなる複数の面放電電極対、前記第2の基板の前記第1の基板に対向する面に前記各面放電電極対と交わる態様に設けられた複数のデータ電極、前記複数の面放電電極対と前記複数のデータ電極との各交差領域に形成された複数の単位セル、前記各単位セル内を含み、前記第1の基板及び第2の基板間に封入された放電ガス、前記複数の面放電電極対を覆う第1の誘電体層、該第1の誘電体層を覆う保護層、及び前記複数のデータ電極を覆う第2の誘電体層を有するプラズマディスプレイパネルに対し、前記保護層として形成されることを特徴としている。
【0024】
請求項4記載の発明は、請求項3記載の成膜装置に係り、前記保護層は、MgO(酸化マグネシウム)により形成されていることを特徴としている。
【0025】
請求項5記載の発明は、請求項3又は4記載の成膜装置に係り、前記水素分圧の制限範囲は、前記プラズマディスプレイパネルに対して、前記複数の単位セルによって階調表示される表示画面の1フィールド期間を階調レベルに基づいて重み付けされた複数のサブフィールドに分割し、前記各サブフィールドに、前記各走査電極に走査パルスを線順次に印加すると同時に前記各データ電極に前記走査パルスに同期した表示データパルスを印加することにより選択された前記単位セルに書込み放電を発生させる走査期間、及び、前記各維持電極と前記各走査電極とに維持パルスを交互に印加して前記各単位セルを発光させる維持期間を設定したとき、前記書込み放電の遅れ時間が所望の値となる範囲に設定されていることを特徴としている。
【0026】
請求項6記載の発明は、薄膜形成方法に係り、薄膜被形成物の表面に電子ビームを用いて所定の材料を蒸着して薄膜を形成するための成膜室を有し、該成膜室内の水分が前記電子ビームによって酸素と水素とに解離され、該水素の分圧の変動幅に所定の制限範囲が設定された状態で運用される成膜装置に用いられ、前記成膜室内に水蒸気を導入し、かつ該成膜室内の水素分圧を前記所定の制限範囲に保つように該水蒸気の流量を制御することを特徴としている。
【0027】
請求項7記載の発明は、薄膜形成制御プログラムに係り、コンピュータに請求項1乃至5のうちのいずれか一に記載の成膜装置を制御させることを特徴としている。
【発明の効果】
【0028】
この発明の構成によれば、成膜室にて薄膜被形成物の表面に電子ビームを用いて薄膜が蒸着されて形成され、このとき、同成膜室内に水蒸気が導入され、同成膜室内の水分が同電子ビームによって酸素と水素とに解離され、同成膜室内の水素分圧が所定の制限範囲に保たれるように水蒸気の流量が制御されるので、成膜装置の稼動初期から終了まで成膜を安定して行うことができる。また、水素分圧の制限範囲は、書込み放電の遅れ時間が所望の値となる範囲に設定されているので、書込み不良の発生が防止される保護層の形成を安定して行うことができる。また、水蒸気発生部や質量分析部など、成膜室に容易に後付けできる部品を用いて水素発生量を制御するようにしたので、真空室などを設けることなく、成膜装置を容易に改造できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0029】
装置の稼動初期では成膜室への水蒸気の導入を多くし、稼動の終了が近いときに水蒸気の導入量を少なくするか又は停止する構成の成膜装置を提供する。
【実施例】
【0030】
図1は、この発明の実施例である成膜装置の構成図である。
この例の成膜装置は、同図に示すように、成膜室71と、水蒸気発生装置72と、配管73と、バルブ74と、マスフローコントローラ75と、質量分析器76と、制御部77とから構成されている。成膜室71は、薄膜被形成物を図示しないトレイに搭載して同成膜室71内部を移動し、かつ同トレイが循環して移動する構成となっている。特に、この実施例では、成膜室71は、図4中の透明誘電体層14(薄膜被形成物)の表面に電子ビームを用いてMgOを蒸着して保護層15(薄膜)を形成し、同成膜室14内の水分が同電子ビームによって酸素と水素とに解離され、水素の分圧の変動幅に所定の制限範囲が設定された状態で運用される。
【0031】
水蒸気発生装置72は、加熱ヒータ72a及び熱電対72bを有し、同加熱ヒータ72aが同熱電対72bにより所定の温度に制御された状態で水分を加熱して成膜室71に導入するための水蒸気を発生する。配管73は、水蒸気発生装置72から発生した水蒸気を導入する。バルブ74は、配管73の途中の水蒸気発生装置72の近傍に設けられ、同配管73の開閉を行う。マスフローコントローラ75は、配管73の途中の成膜室71の近傍に設けられ、制御部77の制御により成膜室71に導入する水蒸気の流量を制御する。質量分析器76は、成膜室71内の水素の質量を分析して分析結果を制御部77へ送出する。
【0032】
制御部77は、この成膜装置全体を制御するCPU(中央処理装置)77a及び同CPU77aを動作させるための薄膜形成制御プログラムが記録されたROM(リード・オンリ・メモリ)77bを有し、特に、この実施例では、質量分析部76による水素の質量の分析結果に基づいて、マスフローコントローラ75による水蒸気の流量を、成膜室71内の水素分圧が所定の制限範囲に保たれるように制御する。この制限範囲は、図5中の各サブフィールドの走査期間に発生する書込み放電の遅れ時間が所望の値(たとえば、書込み不良の発生が防止される値)となる範囲に設定される。
【0033】
次に、この成膜装置に用いられる薄膜形成方法の処理内容について説明する。
この成膜装置では、成膜室71にて透明誘電体層14の表面に電子ビームを用いてMgOが蒸着されて保護層15(薄膜)が形成される。このとき、成膜室71内に水蒸気が導入され、同成膜室71内の水分が同電子ビームによって酸素と水素とに解離され、同成膜室71内の水素分圧が所定の制限範囲に保たれるように水蒸気の流量が制御される。すなわち、熱電対72bで制御される加熱ヒータ72aにより加熱された水分が水蒸気発生装置72から水蒸気として配管73に導入される。そして、水蒸気は、バルブ74を経てマスフローコントローラ75で流量が制御され、成膜室71に導入される。
【0034】
成膜室71に導入された水蒸気は、電子ビームのエネルギーの影響を受け、水素と酸素とに解離する。また、成膜室71内のトレイに付着した水分も、電子ビームの影響により水素と酸素とに解離する。これらの水素は質量分析器76で分析されて質量が測定され、分析結果を表す信号が制御部77に送出される。この分析結果に基づいて、制御部77により、マスフローコントローラ75における水蒸気の流量が制御され、成膜室71内の水素分圧が所定の制限範囲又は一定に保たれる。
【0035】
この場合、たとえば、成膜装置の稼動初期では成膜室71への水蒸気の導入量が多くなり、稼動の終了が近いときに水蒸気の導入量が少なくなるか又は停止される。すなわち、成膜装置の稼動初期ではトレイが成膜室71を通過する回数が少ないので、同トレイへの膜付着量が小さい。このため、一旦大気に接触したトレイからの水分の持込み量が小さく、成膜室71で電子ビームのエネルギーに晒されても、水分子が水素と酸素とに解離する量は少ない。このとき、水蒸気を成膜室71に多く導入することで、所望の水素発生量が得られ、水素分圧が一定の値に制御される。この後、稼動時間の経過と共にトレイが成膜室71を通過する回数が多くなるので、トレイへの膜付着量が時間経過と共に厚くなる。このため、一旦大気に接触したトレイからの水分の持込み量が増加し、水素分圧が増加する。このとき、水蒸気の導入量を減らすか又は停止することで、所望の水素分圧が得られる。
【0036】
図2は、図1の成膜装置により成膜された保護層を有するPDPが用いられるプラズマ表示装置の電気的構成の一例を示す概略のブロック図である。
このプラズマ表示装置は、アナログインタフェース80と、PDPモジュール90とから構成されている。アナログインタフェース80は、クロマ・デコーダを備えるY/C(輝度色)分離回路81と、A/D(アナログ/デジタル)変換回路82と、PLL(位相ロック)回路を有する同期信号制御回路83と、画像フォーマット変換回路84と、逆γ変換回路85と、システム・コントロール回路86と、PLE(Peak Luminance Enhancement)制御回路87とから構成されている。PDPモジュール90は、デジタル信号処理制御回路91と、パネル部92と、DC/DCコンバータを内蔵するモジュール内電源回路93とから構成されている。デジタル信号処理制御回路91は、入力インタフェース信号処理回路94と、フレームメモリ95と、メモリ制御回路96と、ドライバ制御回路97とから構成されている。
【0037】
パネル部92は、PDP102と、同PDP102の走査電極を駆動する走査ドライバ98Aと、同PDP102の維持電極を駆動する維持ドライバ98Bと、データ電極を駆動するデータドライバ99A,99Bと、PDP102及び走査ドライバ98Aにパルス電圧を供給する高圧パルス回路100A,100Bと、同高圧パルス回路100A,100Bで発生する余剰電力を回収する電力回収回路101とから構成されている。
【0038】
このプラズマ表示装置では、概略的には、インタレースに対応したアナログ映像信号がアナログ・インタフェース80でデジタル映像信号に変換され、同デジタル映像信号がPDPモジュール90に供給される。たとえば、図示しないテレビチューナなどから出力されたアナログ映像信号は、Y/C分離回路81でR,G,Bの各色の輝度信号に分離された後、A/D変換回路82でデジタル映像信号に変換される。
【0039】
また、PDP102の入力信号に対する表示輝度の特性は線形的に比例するが、通常の映像信号はCRTの特性に合わせて予め補正(γ変換)されている。このため、A/D変換回路82においてアナログ映像信号のA/D変換が行われた後、逆γ変換回路85で逆γ変換が行われる。この逆γ変換において、線形特性に復元されたデジタル映像信号が生成される。このデジタル映像信号は、R,G,B映像信号としてPDPモジュール90へ出力される。
【0040】
また、アナログ映像信号には、A/D変換用のサンプリングクロック及びデータクロック信号が含まれていないため、同期信号制御回路83に内蔵されているPLL回路で、アナログ映像信号と同時に供給される水平同期信号を基準としてサンプリングクロック及びデータクロック信号が生成され、PDPモジュール90へ出力される。また、アナログインタフェース80のPLE制御回路87は、PDPモジュール90に対して輝度の制御を行う。具体的には、平均輝度レベルが所定値以下である場合には表示輝度を上昇させ、平均輝度レベルが所定値を超える場合には表示輝度を低下させる。PLE制御回路87では、平均輝度レベルに応じて輝度制御データが設定され、入力インタフェース信号処理回路94内の図示しない輝度レベル制御回路へ送出される。
【0041】
システム・コントロール回路86からは、各種制御信号がPDPモジュール90へ送出される。たとえば、入力インタフェース信号処理回路94に入力されたR,G,B映像信号の平均輝度レベルは、同入力インタフェース信号処理回格94内の図示しない入力信号平均輝度レベル演算回路により計算され、たとえば10ビットデータとして出力される。デジタル信号処理制御回路91では、入力インタフェース信号処理回路94でこれらの各種信号が処理された後、制御信号がパネル部92に送出される。同時に、メモリ制御回路96及びドライバ制御回路97からメモリ制御信号及びドライバ制御信号がパネル部92に送出される。
【0042】
PDP102は、たとえば1365×768画素(単位セル)を有し、図3に示す構成になっている。同PDP102では、走査ドライバ98Aで走査電極が駆動され、維持ドライバ98Bで維持電極が駆動され、かつデータドライバ99A,99Bでデータ電極が駆動されることにより、これらの画素(単位セル)のうちの所定の画素(単位セル)の発光又は非発光が制御され、R,G,B映像信号に対応した表示が行われる。この場合、ドライバ制御回路97により、表示画面の1フィールド期間が、階調レベルに基づいて重み付けされた複数のサブフィールドに分割され、かつ、同各サブフィールドに、走査期間、維持期間及び予備放電期間が設定される。
【0043】
走査期間では、各走査電極に走査パルスが線順次に印加されると同時に各データ電極に同走査パルスに同期した表示データパルスが印加されることにより、選択された単位セルにアドレス放電が発生する。維持期間では、各維持電極と各走査電極とに維持パルスが交互に印加されて各単位セルが発光する。予備放電期間では、維持期間で発光した単位セルに対する維持消去放電、及び全ての単位セルに対するプライミング放電が行われる。また、ロジック用電源により、デジタル信号処理制御回路91及びパネル部92にロジック用電力が供給される。また、表示用電源からモジュール内電源回路93に直流電力が供給され、この直流電力の電圧が所定の電圧に変換された後、パネル部92に供給される。
【0044】
以上のように、この実施例では、成膜室71にて透明誘電体層14の表面に電子ビームを用いてMgOが蒸着されて保護層15が形成され、このとき、成膜室71内に水蒸気が導入され、同成膜室71内の水分が同電子ビームによって酸素と水素とに解離され、同成膜室71内の水素分圧が所定の制限範囲に保たれるように水蒸気の流量が制御されるので、書込み不良の発生が防止される成膜が、成膜装置の稼動初期から終了まで安定して行われる。また、水蒸気発生装置72や質量分析器76など、成膜室71に容易に後付けできる部品を用いて水素発生量を制御するようにしたので、真空室などを設けることなく、成膜装置が容易に改造される。
【0045】
以上、この発明の実施例を図面により詳述してきたが、具体的な構成は同実施例に限られるものではなく、この発明の要旨を逸脱しない範囲の設計の変更などがあっても、この発明に含まれる。
たとえば、保護層15(薄膜)には、一般にMgOが用いられるが、CaOやSrOなど、MgOに準ずる素材を用いても、上記実施例とほぼ同様の作用、効果が得られる。
【産業上の利用可能性】
【0046】
この発明は、成膜室内の水素分圧の変動幅に所定の制限範囲が設定された状態で運用される成膜装置全般に適用できる。
【図面の簡単な説明】
【0047】
【図1】この発明の実施例である成膜装置の構成図である。
【図2】図1の成膜装置により成膜された保護層を有するPDPが用いられるプラズマ表示装置の電気的構成の一例を示す概略のブロック図である。
【図3】プラズマディスプレイパネルの要部を示す構成図である。
【図4】図3中の単位セル5のA−A線断面図である。
【図5】図3のPDPに用いられる階調表示方法の原理を説明する図である。
【図6】図5中の各サブフィールドにおける各電極の駆動波形の要部を示す図である。
【図7】図3のPDPの概略の製造工程図である。
【図8】特許文献1に記載された成膜装置の構成図である。
【図9】従来の他の成膜装置の構成図である。
【符号の説明】
【0048】
1 プラズマディスプレイパネル(PDP)
2 走査電極(PDPの一部)
3 維持電極(PDPの一部)
4 データ電極(PDPの一部)
5 単位セル(PDPの一部)
6 面放電電極対(PDPの一部)
11 前面基板(PDPの一部)
12 背面基板(PDPの一部)
13 放電ギャップ(PDPの一部)
14 透明誘電体層(薄膜被形成物、PDPの一部)
15 保護層(薄膜、PDPの一部)
16 白色誘電体層(PDPの一部)
17 蛍光体層(PDPの一部)
18 隔壁(PDPの一部)
19 放電空間(PDPの一部)
71 成膜室
72 水蒸気発生装置(水蒸気導入手段の一部、水蒸気発生部)
73 配管(水蒸気導入手段の一部)
74 バルブ(水蒸気導入手段の一部)
75 マスフローコントローラ(水蒸気導入手段の一部、流量制御部)
76 質量分析器(水蒸気導入手段の一部、質量分析部)
77 制御部(水蒸気導入手段の一部)
T2 走査期間
T3 維持期間

【特許請求の範囲】
【請求項1】
薄膜被形成物の表面に電子ビームを用いて所定の材料を蒸着して薄膜を形成するための成膜室を有し、該成膜室内の水分が前記電子ビームによって酸素と水素とに解離され、該水素の分圧の変動幅に所定の制限範囲が設定された状態で運用される成膜装置であって、
前記成膜室内に水蒸気を導入し、かつ該成膜室内の水素分圧を前記所定の制限範囲に保つように該水蒸気の流量を制御する水蒸気導入手段が設けられていることを特徴とする成膜装置。
【請求項2】
前記水蒸気導入手段は、
前記成膜室に導入するための水蒸気を発生する水蒸気発生部と、
該水蒸気発生装置から前記成膜室に導入する水蒸気の流量を制御する流量制御部と、
前記成膜室内の前記水素の質量を分析する質量分析部と、
該質量分析部による前記水素の質量の分析結果に基づいて、前記流量制御部による前記水蒸気の流量を、前記成膜室内の水素分圧が前記所定の制限範囲に保たれるように制御する制御部とから構成されていることを特徴とする請求項1記載の成膜装置。
【請求項3】
前記薄膜は、
互いに対向して配置された第1の基板及び第2の基板、前記第1の基板の前記第2の基板に対向する面に放電ギャップを隔てて互いに平行に配置された走査電極及び維持電極からなる複数の面放電電極対、前記第2の基板の前記第1の基板に対向する面に前記各面放電電極対と交わる態様に設けられた複数のデータ電極、前記複数の面放電電極対と前記複数のデータ電極との各交差領域に形成された複数の単位セル、前記各単位セル内を含み、前記第1の基板及び第2の基板間に封入された放電ガス、前記複数の面放電電極対を覆う第1の誘電体層、該第1の誘電体層を覆う保護層、及び前記複数のデータ電極を覆う第2の誘電体層を有するプラズマディスプレイパネルに対し、前記保護層として形成されることを特徴とする請求項1又は2記載の成膜装置。
【請求項4】
前記保護層は、
MgO(酸化マグネシウム)により形成されていることを特徴とする請求項3記載の成膜装置。
【請求項5】
前記水素分圧の制限範囲は、
前記プラズマディスプレイパネルに対して、前記複数の単位セルによって階調表示される表示画面の1フィールド期間を階調レベルに基づいて重み付けされた複数のサブフィールドに分割し、前記各サブフィールドに、前記各走査電極に走査パルスを線順次に印加すると同時に前記各データ電極に前記走査パルスに同期した表示データパルスを印加することにより選択された前記単位セルに書込み放電を発生させる走査期間、及び、前記各維持電極と前記各走査電極とに維持パルスを交互に印加して前記各単位セルを発光させる維持期間を設定したとき、前記書込み放電の遅れ時間が所望の値となる範囲に設定されていることを特徴とする請求項3又は4記載の成膜装置。
【請求項6】
薄膜被形成物の表面に電子ビームを用いて所定の材料を蒸着して薄膜を形成するための成膜室を有し、該成膜室内の水分が前記電子ビームによって酸素と水素とに解離され、該水素の分圧の変動幅に所定の制限範囲が設定された状態で運用される成膜装置に用いられ、
前記成膜室内に水蒸気を導入し、かつ該成膜室内の水素分圧を前記所定の制限範囲に保つように該水蒸気の流量を制御することを特徴とする薄膜形成方法。
【請求項7】
コンピュータに請求項1乃至5のうちのいずれか一に記載の成膜装置を制御させるための薄膜形成制御プログラム。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate


【公開番号】特開2006−97077(P2006−97077A)
【公開日】平成18年4月13日(2006.4.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−283921(P2004−283921)
【出願日】平成16年9月29日(2004.9.29)
【出願人】(000005016)パイオニア株式会社 (3,620)
【Fターム(参考)】