説明

成膜装置及び成膜方法

【課題】膜品質を担保でき、しかも装置の小型化や低コスト化を図ることができる成膜装置を提供する。
【解決手段】基板2を内部に収容する成膜室3と、その基板2から所定距離離間させて配置され、成膜原料を前記成膜室3内に液体状態で噴射する噴射弁4と、を備えてなり、前記噴射弁4に設けられた噴射孔Hの横断面形状が、短手方向にはほぼ一定寸法であるとともに、長手方向には奥から出口に近づくほど徐々に拡開し、出口近傍において少なくとも細長い帯状をなすように構成した。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、成膜装置及び成膜方法に関し、特に金属酸化膜又は金属窒化膜を成膜する成膜装置及び成膜方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近時、CVD(化学気相成長法、CVD法:Chemical Vapor Deposition)において、特許文献1に示すように、成膜室の内部に載置した基板に向かって、その上部に設けた噴射弁から成膜材料を液体状態のまま霧状にして射出するという新たな成膜方式(以下噴霧方式という)が開発されつつある。かかる噴霧方式よれば、気化器や配管等を加熱する必要がないため、装置の小型化や低コスト化を図ることができる。
【0003】
ところで、この噴霧方式おいては、膜品質を担保するために、噴射弁から噴出した霧状の液体成膜材料を、基板に到達するまでに確実に、かつできるだけ均一な状態で気化(ガス化)させる必要がある。
【0004】
この要求に対し、単純には、エンジンなどに用いられている燃料噴射弁のように、噴射弁から液体成膜材料を均一な霧状にして広く噴出させればよいと考えがちであるが、実際には、そのような構成であると気化が不十分になり、膜品質が悪化する場合がある。エンジン用の燃料噴射弁の構造や考え方をそのまま採用することはできないのである。
【特許文献1】特開2004−197135
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
そこで本発明者は、かかる不具合に鑑み、種々の実験を重ねて鋭意検討した結果、どのような噴霧形態がこの種の成膜装置に適しているのかを解明して初めて本発明に想到したものであり、その主たる所期課題とするところは、膜品質を担保でき、しかも装置の小型化や低コスト化を図ることができる噴霧式のCVD成膜装置等を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
すなわち本発明に係る成膜装置は、基板を内部に収容する成膜室と、その基板から所定距離離間させて配置され、成膜原料を前記成膜室内に液体状態で噴射する噴射弁と、を備えてなり、前記噴射弁に設けられた噴射孔の横断面形状が、短手方向にはほぼ一定寸法であるとともに、長手方向には入口から出口に近づくほど徐々に拡開し、出口近傍において少なくとも細長い帯状をなすように構成されていることを特徴とする。帯状とは、先端と終端とがあって閉じていない形状であれば良く、直線的に延びるものの他、部分円弧状に湾曲していたり、波状であったり、三角波状であったりするものも含む。
【0007】
このようなものであれば、成膜原料の、噴射弁から射出された直後の噴霧形状が、概略扇形の薄い膜状となるため、気化効率が可及的に向上し、気化のためのその他の特別な工夫(例えば成膜室を大きくして噴射弁と基板との離間距離を大きく設定するとか、成膜室内の圧力を特別に低く設定するとかいった工夫)をすることなく、基板に成膜原料が液体のまま到達することを無理なく防止でき、膜の品質を担保できる。
【0008】
また、本発明者が鋭意検討の結果見出した好ましい噴射孔に関するパラメータは以下の通りである。
【0009】
すなわち、前記噴射孔の横断面形状における短手方向の寸法は、約0.15mmから約0.20mmの間が好ましい。前記噴射孔の奥行き寸法は、約0.45mmから約1.4mmの間が好ましい。前記噴射孔の拡開角度は、約50°から約130°の間の角度が好ましい。前記噴射孔の仮想拡開中心点から、噴射孔の入口までの距離は、約0.4mmから約1mmの間が好ましい。前記噴射孔における奥行方向の寸法は、短手方向の寸法に対して約3倍から約7倍が好ましい。
【0010】
噴射弁はピボットタイプのものが望ましく、その具体的態様としては、液体成膜原料が内部空間に充填され、先端部に前記噴射孔を貫通させてなるボディと、そのボディ内に進退可能に配置された弁体とを備えてなり、その弁体が、前記ボディにおける前記噴射孔より基端側内面に設けた弁座に着座又は当該弁座から離れることで、前記噴射孔とボディの内部空間とを開閉するものを挙げることができる。
【発明の効果】
【0011】
このように本発明によれば、噴射弁から射出される成膜原料の噴霧形状が、概略扇形の薄い膜状となるため、気化効率が可及的に向上する。そしてその結果、基板に成膜原料が液体のまま到達することを、装置の大型化や複雑化を招来することなく防止でき、高品質な成膜が可能になる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
次に、本発明に係る成膜装置の一実施形態ついて図面を参照して説明する。
本実施形態に係る成膜装置1は、図1に示すように、基板2を内部に保持する成膜室3と、成膜原料を前記成膜室3内に液体のまま直接噴射する噴射弁4と、噴射弁4に液体成膜原料を供給する原料供給管5と、前記噴射弁4等を制御する制御装置11等を備えており、前記噴射弁4から噴霧射出された前記成膜原料が、途中で気化して加工対象である基板2上に堆積し、薄膜が形成されるように構成したものである。
【0013】
本実施形態においては、基板2上にNb2O5膜を成膜すべく、その成膜原料として、有機ニオブ化合物であるペンタエトキシニオブ(PENb、Nb(OC2H5)5)を用いているが、このペンタエトキシニオブが単体では非常に蒸気圧が低く気化しにくいことから、これに低沸点有機化合物であるエタノールを所定比(ここでは例えば6:4、ただしmol比)で混合し、その混合溶液を噴射弁4に供給するようにしている。より具体的に説明すると、この混合溶液は、例えばステンレス製の容器6に保存されており、当該容器6に圧入された加圧ガス(NあるいはArガス)により原料供給管5を通り噴射弁4を介して成膜室3の内部に供給されるように構成している。なお、成膜原料や低沸点有機化合物は上述したものに限られず、例えばペンタエトキシタンタル(Ta(OC2H5)5)とn−ペンタン(n-C5H12)との組み合わせなどでも構わない。
【0014】
成膜室3は、図1に示すように、保持機構(図示しない)によって、加工対象となる基板2を保持収容するものであり、その内部収容空間は、成膜室3に噴射された混合溶液中のペンタエトキシニオブが気化するように内部圧力調節されている。つまり、その成膜室3内の圧力が、前記エタノールと混合する前のペンタエトキシニオブの飽和蒸気圧よりも大きく、かつエタノールとペンタエトキシニオブとの混合溶液の飽和蒸気圧よりも小さくなるように、例えば17〜100Pa程度に設定されている。この成膜室3には、さらに、基板2を加熱するための基板ヒータ7や、Nb2O5膜を充分に酸化させるための酸素(O2)ガスを供給する酸素供給管9が配設されている。この酸素供給管9は、マスフローコントローラ(MFC)10により酸素(O2)ガスの供給流量を制御されている。
【0015】
噴射弁4は、図1に示すように、成膜原料を含んだ前記混合溶液を成膜室3内に液体状態(霧状)で直接噴射するものであり、成膜室3の上部に、基板2の堆積面と対向するように設けられている。
【0016】
詳述すれば、この噴射弁4は、図2〜図4に示すように、前記混合溶液が内部空間に充填されるものであって、先端部に前記噴射孔Hを貫通させてなるボディ41、そのボディ41内に進退可能に配置された弁体43、弁体43に互いに逆向きの軸方向に沿った進退力を付与する電磁コイル42及びバネ44を備えてなるピボットタイプのものである。
【0017】
ボディ41は、筒状のボディ本体41Aと、そのボディ本体41Aの先端に連続して設けられた噴射孔形成部41Bとからなり、ボディ本体41Aの先端部には内面が逆円錐形状に構成された弁座411が形成してある。噴射孔形成部41Bは、前記弁座411からさらに先端側に設けられた中空部分球状のものであり、その壁体に前記噴射孔Hが貫通させてある。
【0018】
前記弁体43は、前記弁座411に着座する閉止位置と、弁座411から離間する開成位置との間で、電磁コイル力とバネ力との大小関係によって、この噴射弁4の軸方向に進退移動するものである。より具体的には、前記制御装置11から閉止信号が出力されたときには、電磁コイル42が励磁されず、前記弁体43がバネ力で閉止位置に保持されて、前記噴射孔Hは、ボディ41の内部空間から遮断される。この状態では液体混合溶液(成膜原料)は噴出しない。また、前記制御装置11から開成信号が出力されると、電磁コイル42に電流が流れ、前記弁体43が開成位置に保持されて、前記噴射孔Hがボディ41の内部空間と連通する。この状態になって、当該噴射孔Hから液体混合溶液(成膜原料)が、成膜室3内に霧状に噴出し、減圧沸騰噴霧作用によって気化する。なお噴出圧は、0.1〜1MPa程度の範囲で可能であるが、ここでは例えば約0.4〜0.5MPaに設定している。
【0019】
制御装置11は、噴射弁4を周期的に開閉させて、前記液体混合溶液を前記成膜室3内に間欠的に供給するものであり、圧力計12を用いて原料供給管5内の液体混合溶液の圧力を観測しながら、所定量の液体混合溶液が噴出するよう、前記噴射弁4を制御する。
【0020】
具体的な制御方法は、図6に示すように、液体混合溶液を成膜室3内に供給する時間である供給時間と液体混合溶液を前記成膜室3内に供給しない時間である供給停止時間とを周期的に繰り返すように噴射弁4を制御する。そして、この供給停止時間が、供給時間の約50倍以上となるようにし、本実施形態では、例えば供給時間を10[ms]、供給停止時間を990[ms]としている。供給時間は、例えば基板2の成膜対象面積、成膜室3の圧力、体積あるいは成膜原料(液体混合溶液)などに基づいて設定するようにしている。供給停止時間は、供給時間中に成膜室3内に供給され、基板2上に堆積した成膜原料の原子又は分子が泳動し、基板2上で生成された反応副生成物が蒸発するために必要な泳動・蒸発時間と同じかあるいはそれよりも長くなるように設定する。なお、供給時間中にさらに細かくON/OFFを繰り返す場合もある。
【0021】
しかして、この実施形態では、図3、図4、図5に示すように、前記噴射孔Hの横断面形状について、短手方向寸法Bをほぼ一定にするとともに(図3参照、長手方向からみた噴射孔Hの縦断面図である)、長手方向には奥(入口)から出口に近づくほど徐々に拡開するようにし(図4参照、短手方向からみた噴射孔Hの縦断面図である)、出口近傍において少なくとも細長い直線帯状(図5参照、出口方向から見た噴射孔Hの形状である)となるように構成している。言い換えれば、この噴射孔Hが、スリット形状をなし、かつ側方から見て、出口に向かって広がる概略扇形(図4参照)をなすようにしている。
【0022】
噴射孔Hの各部の詳細寸法は以下の通りである。
すなわち、前記噴射孔Hの横断面形状における短手方向の寸法Bは、約0.15mmから約0.20mm、前記噴射孔Hの奥行き寸法Lは、約0.45mmから約1.4mm、前記噴射孔Hの拡開角度θは、約50°から約130°、前記噴射孔Hの仮想拡開中心点Cから噴射孔Hの入口までの距離Rが、約0.4mmから約1mm、前記噴射孔Hにおける奥行方向の寸法Lは、短手方向の寸法Bに対して約3倍から約7倍の間にそれぞれ設定している。
【0023】
このように構成した噴射弁4による液体成膜材料の噴霧態様を、他の形態の噴射弁との等条件での比較において、図7、図8、図9に例示する。スワール式噴射弁であると、噴霧がスカートのように中空円錐状に液膜を形成し、かつ渦を巻きながら射出される(図8参照)。また等断面の細孔を多数設けてなる多孔式噴射弁であると、噴霧が広がりながらも柱状(中実円錐状)に射出される(図9参照)。一方、この実施形態にかかる噴射弁4であれば、噴霧が扇形の薄い液膜状に射出されている(図7参照)。
【0024】
そして、図7においては、噴霧が短い距離で気化しているのに対し、図8、図9では、気化するまでに長い距離を必要としているのが明らかにわかる。この原因は、噴霧が、中空、中実に拘わらず柱状となると、その柱状噴霧内部の局所的な圧力増大によって、噴霧内側での気化が阻害され、気化効率が落ちるからであると考えられる。
【0025】
これに対し、本実施形態による噴射弁4であれば、当該噴射弁4から射出された直後の成膜原料(混合溶液)の噴霧形状が、概略扇形の薄い膜状となるため、気化効率が可及的に向上する。そしてその結果、基板2に成膜原料が液体のまま到達することを無理なく防止でき、膜の品質を担保できる。
【0026】
なお、本発明は前記実施形態に限られるものではない。
【0027】
前述したように、噴霧が液柱状(中空も含む)にさえならなければよいのであるから、噴射孔の少なくとも出口形状は、先端と終端とがあって閉じていない帯状であれば良く、前記実施形態のように直線的に延びるものの他、部分円弧状に湾曲していたり、波状であったり、三角波状であったりしても構わない。また、ひとつの噴射弁に噴射孔を、例えば並列させるなどして複数設けてもよい。
【0028】
また、前記実施形態では噴射孔を噴射弁の軸方向に対し、若干斜めに設定していた(図3参照)が、これを軸と平行にしてもよい。さらに、噴射孔形成部41Bは、中空部分球状に限られず、図10に示すように、内外面ともに角型形状でもよい。その場合は同図に示すように各寸法を規定する。その他に、外面が丸型で内面が角型、あるいはその逆などでもよく、噴射孔形成部41Bの形状に特に制限があるものではない。
【0029】
また、前記実施形態では、噴射弁を基板に対向するように、成膜室の上部に設けるようにしていたが、基板に対向するように、成膜室の下部に設けるようにしてもよいし、噴射弁を基板に対向するように、成膜室の側面に設けるようにしても良い。
【0030】
その他本発明はその趣旨を逸脱しない範囲で種々変形が可能である。
【図面の簡単な説明】
【0031】
【図1】本発明の一実施形態に係る成膜装置の概略構成図。
【図2】同実施形態における噴射弁の内部構造を示す構造図。
【図3】同実施形態における噴射孔の詳細を示す部分断面図。
【図4】同実施形態における噴射孔の詳細を示す部分断面図。
【図5】同実施形態における噴射孔の出口から見た部分詳細図。
【図6】同実施形態における噴射弁への制御信号図。
【図7】同実施形態における噴射弁の実際の噴霧形状を示す実験データ。
【図8】スワール式噴射弁の噴霧形状を示す実験データ。
【図9】多孔式噴射弁の噴霧形状を示す実験データ。
【図10】他の実施形態における噴射孔の詳細を示す部分断面図。
【符号の説明】
【0032】
1・・・成膜装置
2・・・基板
3・・・成膜室
4・・・噴射弁
H・・・噴射孔



【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板を内部に収容する成膜室と、その基板から所定距離離間させて配置され、成膜原料を前記成膜室内に液体状態で噴射する噴射弁と、を備えてなり、
前記噴射弁に設けられた噴射孔の横断面形状が、短手方向にはほぼ一定寸法であるとともに、長手方向には入口から出口に近づくほど徐々に拡開し、出口近傍において少なくとも細長い帯状をなすように構成されている成膜装置。
【請求項2】
前記噴射孔の横断面形状における短手方向の寸法が、約0.15mmから約0.20mmの間に設定されている請求項1記載の成膜装置。
【請求項3】
前記噴射孔の奥行き寸法が、約0.45mmから約1.4mmの間に設定されている請求項1又は2に記載の成膜装置。
【請求項4】
前記噴射孔の拡開角度が、約50°から約130°の間の角度に設定されている請求項1乃至3いずれかに記載の成膜装置。
【請求項5】
前記噴射孔の仮想拡開中心点から、噴射孔の入口までの距離が、約0.4mmから約1mmの間に設定されている請求項1乃至4いずれかに記載の成膜装置。
【請求項6】
前記噴射孔における奥行方向の寸法が、短手方向の寸法に対して約3倍から約7倍に設定されている請求項1乃至5いずれかに記載の成膜装置。
【請求項7】
基板を内部に収容する成膜室に当該基板から所定距離離間させて設けられ、成膜原料を前記基板に向かって液体状態で噴射するものであり、
前記成膜原料を噴射する噴射孔を有してなり、その噴射孔の横断面形状が、短手方向にはほぼ一定寸法であるとともに、長手方向には入口から出口に近づくほど徐々に拡開し、出口近傍において少なくとも細長い帯状をなすように構成されている成膜装置用噴射弁。
【請求項8】
液体成膜原料が内部空間に充填され、先端部に前記噴射孔を貫通させてなるボディと、そのボディ内に進退可能に配置された弁体とを備えてなり、その弁体が、前記ボディにおける前記噴射孔より基端側内面に設けた弁座に着座又は当該弁座から離れることで、前記噴射孔とボディの内部空間とを開閉するものである請求項7記載の成膜装置用噴射弁。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2007−138247(P2007−138247A)
【公開日】平成19年6月7日(2007.6.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−333346(P2005−333346)
【出願日】平成17年11月17日(2005.11.17)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 2005年9月7日 社団法人応用物理学会発行の「2005年(平成17年)秋季 第66回 応用物理学会学術講演会講演予稿集 第0分冊、第2分冊」に発表
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成17年度、経済産業省、地域新生コンソーシアム研究開発事業、産業活力再生特別措置法第30条の適用を受ける特許出願
【出願人】(503027931)学校法人同志社 (346)
【出願人】(000155023)株式会社堀場製作所 (638)
【出願人】(000127961)株式会社堀場エステック (88)
【Fターム(参考)】