説明

成膜装置及び成膜方法

【課題】膜厚分布が均一な膜を成膜可能な成膜装置を提供する。
【解決手段】基板20とターゲットとの間の位置には膜厚制御用遮蔽部16が配置されており、膜厚制御用遮蔽部16に設けられた膜厚制御用透過部17はターゲット側の幅が狭く、ターゲットとは反対側の幅が広くなっている。ターゲットから遠い程、スパッタ粒子の密度は小さくなるので、基板20のターゲットから遠い部分は密度の低いスパッタ粒子に長時間晒され、基板20のターゲットから近い部分は密度の高いスパッタ粒子に短時間晒されることになり、結局、成膜面上には膜厚分布が均一な膜が形成される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は成膜技術に関し、特に大型基板の成膜に用いられる成膜技術に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、成膜材料の蒸気や、成膜材料のスパッタ粒子等を発生するソースが、真空槽中に配置された成膜装置が広く用いられており、真空槽内に基板を配置した状態で成膜材料を放出させ、該成膜材料を基板の成膜面に到達させると、成膜面上に成膜材料の薄膜が成長する。
【0003】
成膜材料の薄膜を成長させるときに、成膜材料の粒子が成膜面に斜めに入射するように基板を傾ければ、成膜面上には一定の配向性を有する成膜材料の結晶が成長し、その結晶配向性に起因する機能(例えば液晶配向性)を有する膜が得られる(例えば特許文献1を参照。)。
【0004】
しかしながら、ソースから放出された粒子を成膜面に斜めに入射させる場合、成膜面におけるソースから近い位置は、ソースから遠い位置に比べて到達する成膜材料の量が多いため、成膜面に形成される膜の膜厚分布が不均一になる。特に、大型基板を用いた場合には、膜厚分布の差が大きくなる。
【特許文献1】特開昭63−89656号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は上記従来技術の不都合を解決するために創作されたものであり、その目的は、膜厚分布が均一な薄膜を成膜可能な成膜装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するために本発明では以下の構成を採用した。
本発明の成膜装置は、スパッタリングにより、ターゲットから放出された粒子を基板に斜めに衝突させて該基板に膜を形成する成膜装置であって、前記基板に入射する粒子が遮蔽される位置に配置された膜厚制御用遮蔽部と、前記膜厚制御用遮蔽部に形成され、前記粒子を通過させる細長形状の膜厚制御用透過部と、前記膜厚制御用透過部の長手方向を横切る方向に、前記基板と前記膜厚制御用透過部とを相対的に移動させる移動装置とを有し、前記膜厚制御用透過部は、前記ターゲットに近い方の幅が狭く、遠い方の幅が広いことを特徴とする。
【0007】
先に記載の成膜装置において、前記膜厚制御用透過部は、開口空間の断面形状が前記基板の成膜面への入射領域に相似した形の細長形状である構成とすることができる。
【0008】
先に記載の成膜装置において、前記膜厚制御用透過部の幅は、前記ターゲットに近い方から前記ターゲットに遠い方に向かって徐々に広くされた構成とすることができる。
【0009】
また、先に記載の成膜装置において、前記ターゲットと前記基板とを結ぶ線分と、前記基板の成膜面との成す角度が15°以下であるのが望ましい。
【0010】
また、先に記載の成膜装置において、前記ターゲットと前記基板とを結ぶ線分と、前記基板の成膜面との成す角度が10°以下であるのが望ましい。
【0011】
この場合、前記線分と前記成膜面との成す角度が1°以上であるのが望ましい。
【0012】
また、前記線分と前記成膜面との成す角度が3°以上であるのがさらに望ましい。
【0013】
また、先に記載の成膜装置において、前記膜厚制御用遮蔽部と、前記ターゲットとの間に配置された入射角度制御用遮蔽部と、前記入射角度制御用遮蔽部に形成され、前記基板への入射角度が15°以下になる前記粒子を通過させる入射角度制御用透過部とを有する構成とすることができる。
【0014】
この場合において、前記入射角度制御用透過部は、前記入射角度の最大値から最小値を引いた値である見込み入射角度が10°以下になる前記粒子を通過させる構成とすることが望ましい。
【0015】
本発明の成膜方法は、スパッタリングにより、ターゲットから放出された粒子を基板に斜めに衝突させて該基板に膜を形成する成膜方法であって、前記ターゲットに近い方の幅が狭く、前記ターゲットから遠い方の幅が広い細長形状にされた膜厚制御用透過部が設けられた膜厚制御用遮蔽部を、前記ターゲットと前記基板との間の位置に配置し、前記膜厚制御用透過部の長手方向を横切る方向に、前記基板と前記膜厚制御用透過部とを相対的に移動させることを特徴とする。
【0016】
先に記載の成膜方法において、前記ターゲットからの粒子が前記基板に入射するときの最大入射角度を15°以下にするのが望ましい。
【0017】
また、先に記載の成膜方法において、前記ターゲットからの粒子が前記基板に入射するときの最大入射角度を10°以下にするのが望ましい。
【0018】
この場合、前記最大入射角度を1°以上にするのが望ましい。
【0019】
また、前記最大入射角度を3°以上にするのがより望ましい。
【0020】
また、先に記載の成膜装置において、前記最大入射角度から、前記基板に前記スパッタ粒子が入射するときの最小入射角度を引いた値である見込み入射角度が10°以下にされていることが望ましい。
【0021】
上記の本発明の成膜装置及び成膜方法によれば、基板の成膜面の面積が大きい場合であっても、膜厚均一な薄膜を形成することができる。すなわち、膜厚制御用透過部は、ターゲットに近くかつ到達するスパッタ粒子の密度が高い位置では幅が狭く、ターゲットから遠くかつ到達するスパッタ粒子の密度が低い位置では幅が広くなっているので、その膜厚制御用透過部の長手方向を横切る方向に基板と膜厚制御用透過部とを相対移動させれば、基板のターゲット側の部分とターゲットとは反対側の部分に略等しい量のスパッタ粒子が到達する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0022】
図1の符号1はスパッタリング装置である成膜装置の一例を示している。
成膜装置1は真空槽2を有しており、真空槽2に接続された真空排気系9を動作させると真空槽2内部が真空排気され、真空槽2内部に真空雰囲気が形成される。
【0023】
真空槽2内には板状のターゲット11が配置されており、真空排気系9によって真空槽2内部が真空排気されると、ターゲット11は真空雰囲気に置かれる。
【0024】
この成膜装置1はイオンガン30を有している。イオンガン30は、その放出口35が真空槽2内部のターゲット11の斜め側方位置で、ターゲット11の表面(スパッタ面)12と対向するように配置されており、イオンガン30内部で生成されたイオン(例えばArイオン)は、放出口35からビーム状に引き出され、イオンビーム32がスパッタ面12に斜めに入射する。
【0025】
イオンビーム32は所定のビーム幅(例えば半値幅が30mm)を有しているので、イオンビーム32がスパッタ面12に入射すると、そのビーム幅に応じた広さの領域(照射領域39)が照射され、スパッタリングされた粒子(スパッタ粒子)がスパッタ面12から真空槽2内部に放出される。
【0026】
真空槽2内部には基板ホルダ7が配置されており、真空槽2内部に基板20を導入し、基板ホルダ7に保持させると、基板20はターゲット11の斜め側方位置であって、ターゲット11を挟んで放出口35とは反対側の位置に配置される。従って、放出口35からイオンビーム32を照射し、スパッタリングを行うと、ターゲット11からのスパッタ粒子が基板20側に向かって飛行する。
【0027】
基板20とターゲット11との間の位置であって、基板20の近傍位置には、膜厚制御用遮蔽部16が配置されている。ここでは膜厚制御用遮蔽部16は2枚の遮蔽板16a、16bで構成されており、遮蔽板16a、16bは互いに対向する縁部分が間隔を空けて同一平面内に配置されている。
【0028】
図2(a)は遮蔽板16a、16bと基板20との位置関係を示す平面図であり、互いに対向する縁部分の両端のうち、ターゲット11から遠い方の縁部は丸められており、近い方の縁部の間隔よりも遠い方の縁部の間隔が広がっている。
【0029】
従って、遮蔽板16a、16bの互いに対向する縁部分の間の空間で形成される膜厚制御用透過部17は、開口空間の断面形状が基板20の成膜面22への入射領域に相似した形の細長形状である。具体的には、ターゲット11に近い位置の幅が狭く、ターゲット11から遠い位置の幅が広いラッパ状であり、その幅はターゲット11に近い位置から遠い位置に向かって徐々に広くされている。
【0030】
図2の符号15a、15bは膜厚制御用透過部17の幅狭の端部と、幅広の端部をそれぞれ示し、符号Xは幅狭の端部15aと幅広の端部15bを通る膜厚制御用透過部17の中心線を示しており、膜厚制御用透過部17の中心線X方向の長さは、幅狭の端部15aの幅に比べて長くなっているので、膜厚制御用透過部17の少なくともターゲット11に近い側は細長(スリット状)になっている。
【0031】
基板ホルダ7は移動装置8に接続されており、移動装置8は、基板20が基板ホルダ7に保持された状態で、中心線Xと直角な方向(移動方向Y)に、一方の遮蔽板16aの真裏位置から、他方の遮蔽板16bの真裏位置に向かって、同一面内を移動するように構成されている。すなわち、移動装置8は、膜厚制御用透過部17の長手方向(X方向)を横切る方向に、ターゲット11(図1参照)及び遮蔽板16a、16bに対して相対的に基板20を移動させる。
【0032】
ここでは、遮蔽板16a、16bは基板20と平行にされた状態で固定されているので、基板20は遮蔽板16a、16bと平行な状態を維持したまま、遮蔽板16a、16bに対して相対的に移動する。
【0033】
基板20の平面形状は円盤状であって、各遮蔽板16a、16bの平面形状は基板20の平面形状よりも大きくなっており、膜厚制御用透過部17の幅は基板20の直径よりも短くなっている。
【0034】
従って、基板20が遮蔽板16a、16bの真裏位置Aに位置するときには、基板20が遮蔽板16a、16bで覆われ、スパッタ粒子が成膜面22に到達しないが、基板20が一方の遮蔽板16aの真裏位置Aから他方の遮蔽板16bの真裏位置Aへ向かって移送する途中に、膜厚制御用透過部17の真裏位置である入射位置Bに到達すると、膜厚制御用透過部17を通過したスパッタ粒子が成膜面22の一部に入射する。
【0035】
膜厚制御用透過部17の中心線X方向の長さは、基板20の直径よりも長くされており、基板20はその中心が膜厚制御用透過部17の中心線X方向の中央位置を通過するように移動するので、基板20の中心が入射位置Bに位置するときには、基板20の中心線X方向の一端から他端まで全て露出する。従って、基板20の移動方向Yの一端から他端まで入射位置Bを通過すると、成膜面22全てにスパッタ粒子が到達することになる。
【0036】
上述したように、基板20はターゲット11の斜め側方位置で保持される上、ターゲット11はスパッタリングされるスパッタ面12が成膜面22に対して斜めになるよう配置されており、スパッタ粒子の入射方向と成膜面22とが成す角度(入射角度)は90°未満と小さく、スパッタ粒子は入射位置Bで成膜面22に斜めに入射するので、成膜面22には成膜材料の斜方結晶が成長する。
【0037】
スパッタ粒子が小さい入射角度で成膜面22に入射する場合には、成膜面22からターゲット11までの距離は、ターゲット11側の部分に比べ、ターゲット11とは反対側の部分で長く、長い距離を飛行する分だけスパッタ粒子が拡散されるので、成膜面22のターゲット11とは反対側の部分では入射するスパッタ粒子の密度が小さくなる。
【0038】
上述したように、膜厚制御用透過部17の幅はターゲット11に近い程狭くされている。基板20は一定速度で入射位置Bを通過するようになっているので、入射位置Bを通過するのに要する時間は、ターゲット11に近い程短くなる。
【0039】
即ち、基板20のターゲット11から遠い部分は、密度の低いスパッタ粒子に長時間晒され、基板20のターゲット11に近い部分は密度の高いスパッタ粒子に短時間晒されることになり、結局、基板20の各位置でスパッタ粒子の到達する量が等しく、成膜面22には膜厚均一な薄膜が成長する。
【0040】
基板20が入射位置Bを1回通過するときに成膜される膜厚よりも、膜厚の大きい薄膜を形成した場合には、一方の遮蔽板16aの真裏位置Aから他方の遮蔽板16bの真裏位置Aへの移動を繰り返し、入射位置Bを複数回通過させれば、膜厚の大きい薄膜を得ることができる。
【0041】
尚、ここではターゲット11と膜厚制御用遮蔽部16との間の位置に入射角度制御用遮蔽部26が配置されている。入射角度制御用遮蔽部26は板状であって、スパッタ粒子を通過させるスリット(入射角度制御用透過部)27が設けられている。
【0042】
ターゲット11はイオンビーム32のビーム幅に応じた広さを有している。ターゲット11上のイオンビーム照射各地点からは成膜面22に向かって角度拡がりをもつスパッタ粒子が放出される。ターゲット11の中心では入射するイオンビーム32強度が高く、端部ではイオンビーム32強度が小さい。ターゲット11から放出されるスパッタ粒子は、角度拡がりに応じて、成膜面22に向かう方向に関して高いエネルギーを有するスパッタ粒子と、低いエネルギーを有するスパッタ粒子とを含む。
【0043】
入射角度制御用遮蔽部26及び入射角度制御用透過部27は、ターゲット11上のイオンビーム照射各地点から角度拡がりをもって成膜面22に向かうスパッタ粒子のうち、成膜位置Bに入射するスパッタ粒子の入射角度を制御する。入射位置Bで成膜面22に入射するスパッタ粒子の入射角度の最大値θ5は15°以下に制限され、入射角度の最大値θ5と最小値との差である入射見込み角度Δθは10°以下に制限されている。
ここで、最大入射角度θ5は、成膜面22の各点からターゲット11側に成膜面22上を伸びる線分29と、スパッタ粒子の入射方向とが成す角度(入射角度)の最大値である。すなわち、本例では、入射角度制御用遮蔽部26によって、成膜面22の任意の点において(すなわち成膜面22の全領域において)、スパッタ粒子の入射角度が15°以下に制限されている。したがって、例えば成膜面の略中心である所定位置において、スパッタ粒子の入射角度θ5が15°以下に制限されている。なお、最大入射角度θ5が15°以下に制限されていることにより、成膜面22の法線とスパッタ粒子の入射方向との成す角度は、75°を超えることになる。
【0044】
入射見込み角度Δθが制限されることで、入射位置Bに入射するスパッタ粒子は、高エネルギースパッタ粒子が放出される点を含む狭い範囲から放出されるものに限定される。従って、入射位置Bにある成膜面22には、所定エネルギー値以上のスパッタ粒子が斜めに入射するので、成膜面22に所定の傾斜を有する柱状粒子が堆積される。
【0045】
以上は、イオンガン30からアルゴンイオンを放出させる場合について説明したが、イオンガン30から放出するイオン種はターゲット11をスパッタできるものであれば、例えばKr、Xe等の他の種類の希ガスのイオン、窒素、酸素などの分子イオン、中性粒子、クラスターイオン等を用いてもよい。
【0046】
イオンビーム32の形状は特に限定されず、円形、シート状、楕円、多角形等いずれの形であっても構わない。
【0047】
ターゲット11をスパッタリングする方法は、上述したようなイオンビームスパッタ法に限定されず、真空槽2内部にスパッタガスを供給しながら真空排気し、真空槽2内部に所定圧力の真空雰囲気を維持しながら、ターゲット11に負電圧を印加し、スパッタリングを行ってもよい。
【0048】
ターゲット11に用いる材料は特に限定されるものではない。例えば、SiO2からなるターゲット11を用いて、上述した工程でスパッタリングを行ったところ、成膜面22上には酸化ケイ素(SiOx、xは任意の整数)の斜方柱状結晶膜(成膜面22に対して所定の傾斜を有する柱状粒子の堆積膜)が形成され、該結晶膜にラビングやドライエッチング処理等の表面処理を行わずに液晶を接触させたところ、液晶が一定の方向に配向した。
【0049】
2枚の基板20の各成膜面22に上述した工程で配向膜をそれぞれ形成し、2枚の基板20の配向膜が形成された面の間に液晶を封止すると、液晶装置が得られる。
【0050】
ターゲット11を構成する成膜材料はSiO2 に限定されず、Al2O3やITO(インジウム錫酸化物)等他の無機材料を用いてもよいし、それらの無機材料を2種類以上混合してターゲットに用いることもできる。
【0051】
ここで、図1の符号Aは、イオンビーム32の照射軸38とスパッタ面12が交差する照射点を示しており、また、図1の符号Bは成膜面22上の任意の位置である成膜点を示しており、ここでは成膜面22の中心を図示している。
【0052】
照射点Aを通るスパッタ面12の法線14と、照射軸38とが成す角度をイオンビーム32の照射角度θ1とすると、イオンビーム32の照射角度θ1は、例えば45°以上70°以下に設定される。この場合、基板20は、成膜点Bと照射点Aを結ぶ線分28と、法線14とが成す角度である位置決め角度θ2が0°以上70°以下になるように、ターゲット11から離して配置される。成膜面22の中心に位置する成膜点Bと照射点Aとを結ぶ線分28の長さを基板−ターゲット間の距離(TS距離)とすると、TS距離は例えば100〜500mmである。
【0053】
成膜点Bと照射点Aとを結ぶ線分28と、成膜点Bからターゲット11側に成膜面22上を伸びる線分29との角度、すなわち線分28と成膜面22とが成す角度を基板20の傾き角度θ3とすると、基板20は傾き角度θ3が1°以上15°以下になるように傾いて配置されるのが望ましい。
【0054】
ターゲット11からのスパッタ粒子が基板20に入射するときの最大入射角度θ5が15°以下であることにより、優れた配向性を有する柱状構造の膜を形成することができ、また、ターゲットと基板との距離を、蒸着法の場合より短くすることができ、成膜装置の小型化が容易である。
【0055】
最大入射角度θ5が15°を超えると、柱状構造の形成が困難になるので好ましくない。さらに、最大入射角度θ5が10°以下であることにより、個々の柱の独立性が高く、配向性に優れた柱状構造の膜が形成される。
【0056】
また、最大入射角度θ5が1°未満であると、柱状構造は形成されるものの、柱同士の間隔が比較的大きくなって配向性が低下するので好ましくなく、さらに、成膜レートが低下するので工業的応用の観点からも好ましくない。さらに、最大入射角度θ5が3°以上であることにより、膜構造の緻密質化が図られるとともに、成膜レートを向上させることができる。
【0057】
なお、ターゲット11と基板20との間に入射角度制御用遮蔽部26を必ずしも配置する必要はなく、TS距離又はビーム幅を変えることで成膜面22に入射するスパッタ粒子の入射角度を制限することが可能である。
【0058】
例えば、ビーム幅の半値幅が30mmであり、TS距離が300mmであるとき、傾き角度θ3が15°以下にされることで最大入射角度θ5が15°以下になり、TS距離が長くされることで、見込み入射角度Δθを10°以下にすることができる。
【0059】
また、TS距離が同じであっても、イオンビーム32のビーム幅が狭ければ見込み入射角度Δθが小さくなるので、ビーム幅を小さくすることで見込み入射角度Δθを10°以下にすることができ、TS距離を大きくし、かつビーム幅を小さくすることによっても見込み入射角度Δθを10°以下にすることができる。
【0060】
以上は、ターゲット11をスパッタリングして成膜を行う場合について説明したが、本発明はこれに限定されるものではない。
【0061】
例えば、成膜材料を収容した容器の開口や、成膜材料の液面(ターゲット)から真空槽内部に成膜材料の蒸気を放出し、該真空槽内部でターゲットに対して斜めに配置された基板の、基板とターゲットとの間の位置に上述した膜厚制御用遮蔽部を配置し、基板を膜厚制御用遮蔽部に対して相対的に移動させながら成膜を行う場合も本発明には含まれる。
【0062】
この場合も、基板のターゲット側の端部が膜厚制御用透過部の幅狭の端部を通過し、基板のターゲットとは反対側の端部が膜厚制御用透過部の幅広の端部を通過するように、基板を移動させながら成膜を行えば、成膜面に形成される成膜材料の膜厚が均一になる。蒸着法で成膜を行う場合にも、成膜材料の種類は特に限定されるものではない。
【0063】
以上は、基板20だけを移動させながら成膜を行う場合について説明したが、本発明はこれに限定されるものではない。膜厚制御用遮蔽部16とターゲット11とが相対的に固定され、入射位置Bとターゲット11との距離が一定に維持されているのであれば、基板20を固定した状態で、膜厚制御用遮蔽部16とターゲット11を一緒に移動させながら成膜を行ってもよいし、膜厚制御用遮蔽部16とターゲット11とを移動させると共に、基板20も移動させながら成膜を行ってもよい。
【0064】
尚、イオンビームスパッタリングで成膜を行う場合には、ターゲット11を固定した状態でイオンビーム32の照射位置を移動する、又はターゲット11の移動と一緒にイオンビーム32の照射位置を移動することでターゲット11を移動させることができる。
【0065】
以上は、基板20が遮蔽板16a、16bの真裏位置の間で移動する場合について説明したが、本発明はこれに限定されず、入射位置B以外の場所で成膜面22にスパッタ粒子が到達しないのであれば、基板20を、遮蔽板16aの膜厚制御用透過部17とは反対側の端部を通過させて、スパッタ粒子が到達しない位置まで移動させてもよい。
【0066】
基板20の形状は円盤状に限定されるものではなく、成膜すべき領域(例えば成膜面22)の膜厚制御用透過部17の長手方向の長さが、膜厚制御用透過部17の長さよりも小さいのであれば、長方形、正方形、楕円等種々の形状の基板を用いることができる。
【0067】
膜厚制御用遮蔽部16の形状も特に限定されるものではなく、1枚の遮蔽板で膜厚制御用遮蔽部を構成し、該遮蔽板に設けられ、幅広の端部と幅狭端部を有するスリットで膜厚制御用透過部を構成してもよい。
【0068】
膜厚制御用透過部17の形状のラッパ状に限定されず、ターゲット11側の幅が狭く、ターゲット11とは反対側の幅が広い形状であれば、例えば扇形形状でもよい。また、膜厚制御用透過部17の幅を、ターゲット11から遠い側からターゲット11に近い側へ向かって段階的に狭くしてもよい。
【図面の簡単な説明】
【0069】
【図1】本発明に用いる成膜装置の一例を説明する断面図。
【図2】(a)、(b):膜厚制御用遮蔽部と、基板との位置関係を示す平面図及びその断面図。
【符号の説明】
【0070】
1……成膜装置、11……ターゲット、12……スパッタ面、16……膜厚制御用遮蔽部、17……膜厚制御用透過部、20……基板、22……成膜面、26……入射角度制御用遮蔽部、30……イオンガン、32……イオンビーム、θ3……成膜面の中心の傾き角度、θ5……最大入射角度、Δθ……見込み入射角度。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
スパッタリングにより、ターゲットから放出された粒子を基板に斜めに衝突させて該基板に膜を形成する成膜装置であって、
前記基板に入射する粒子が遮蔽される位置に配置された膜厚制御用遮蔽部と、
前記膜厚制御用遮蔽部に形成され、前記粒子を通過させる細長形状の膜厚制御用透過部と、
前記膜厚制御用透過部の長手方向を横切る方向に、前記基板と前記膜厚制御用透過部とを相対的に移動させる移動装置とを有し、
前記膜厚制御用透過部は、前記ターゲットに近い方の幅が狭く、遠い方の幅が広いことを特徴とする成膜装置。
【請求項2】
前記膜厚制御用透過部は、開口空間の断面形状が前記基板の成膜面への入射領域に相似した形の細長形状であることを特徴とする請求項1に記載の成膜装置。
【請求項3】
前記膜厚制御用透過部の開口空間の断面形状は、前記ターゲットに近い方から前記ターゲットに遠い方に向かって徐々に広くされた請求項1に記載の成膜装置。
【請求項4】
前記ターゲットと前記基板とを結ぶ線分と、前記基板の成膜面との成す角度が15°以下である請求項1から請求項3のいずれか1項に記載の成膜装置。
【請求項5】
前記ターゲットと前記基板とを結ぶ線分と、前記基板の成膜面との成す角度が10°以下である請求項1から請求項3のいずれか1項に記載の成膜装置。
【請求項6】
前記線分と前記成膜面との成す角度が1°以上である請求項4又は請求項5に記載の成膜装置。
【請求項7】
前記線分と前記成膜面との成す角度が3°以上である請求項4又は請求項5に記載の成膜装置。
【請求項8】
前記膜厚制御用遮蔽部と、前記ターゲットとの間に配置された入射角度制御用遮蔽部と、前記入射角度制御用遮蔽部に形成され、前記基板への入射角度が15°以下になる前記粒子を通過させる入射角度制御用透過部とを有する請求項4から請求項7のいずれか1項に記載の成膜装置。
【請求項9】
前記入射角度制御用透過部は、前記入射角度の最大値から最小値を引いた値である見込み入射角度が10°以下になる前記粒子を通過させる請求項8に記載の成膜装置。
【請求項10】
スパッタリングにより、ターゲットから放出された粒子を基板に斜めに衝突させて該基板に膜を形成する成膜方法であって、
前記ターゲットに近い方の幅が狭く、前記ターゲットから遠い方の幅が広い細長形状にされた膜厚制御用透過部が設けられた膜厚制御用遮蔽部を、前記ターゲットと前記基板との間の位置に配置し、
前記膜厚制御用透過部の長手方向を横切る方向に、前記基板と前記膜厚制御用透過部とを相対的に移動させることを特徴とする成膜方法。
【請求項11】
前記ターゲットからの粒子が前記基板に入射するときの最大入射角度を15°以下にする請求項10に記載の成膜方法。
【請求項12】
前記ターゲットからの粒子が前記基板に入射するときの最大入射角度を10°以下にする請求項10に記載の成膜方法。
【請求項13】
前記最大入射角度を1°以上にする請求項11又は請求項12に記載の成膜方法。
【請求項14】
前記最大入射角度を3°以上にする請求項11又は請求項12に記載の成膜方法。
【請求項15】
前記最大入射角度から、前記基板に前記スパッタ粒子が入射するときの最小入射角度を引いた値である見込み入射角度が10°以下にされた請求項11から請求項14のいずれか1項に記載の成膜方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate


【公開番号】特開2008−38245(P2008−38245A)
【公開日】平成20年2月21日(2008.2.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−18347(P2007−18347)
【出願日】平成19年1月29日(2007.1.29)
【出願人】(000002369)セイコーエプソン株式会社 (51,324)
【出願人】(000231464)株式会社アルバック (1,740)
【Fターム(参考)】