説明

成膜装置

【課題】成膜する際に、スプラッシュの原因となる蒸着源にて発生する粒子を速やかに取
り除くことにより、スプラッシュに起因する欠陥等の不具合が生じる虞の無い薄膜を成膜
することができる成膜装置を提供する。
【解決手段】基板Wを収納する真空容器2と、真空容器2内の側壁かつ基板Wの成膜面の
下方に配設され蒸着材料を収納する有底筒状のハース4と、このハース4に収納された蒸
着材料を加熱するプラズマガン5とを備え、このハース4はプラズマガン5と対向して配
置され、このハース4の軸線L1は、基板Wの成膜面の垂線L2と略直交している。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、成膜装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、フラットパネルディスプレイ(FPD)の一種として、有機発光層を無機陽極と
無機陰極とで挟持した複数の有機エレクトロルミネッセンス素子(有機EL素子)を備え
た有機EL装置が知られている。この有機EL装置は、複数の有機EL素子を覆う封止層
を備えた素子基板と、この素子基板に対向して配置され接着層を介して接着された封止基
板と、を備えて構成されている。
この有機EL装置の発光方式としては、有機EL素子が放つ光を該有機EL素子が形成
された基板側から取り出すボトムエミッション方式と、有機EL素子が放つ光を該有機E
L素子が形成された基板側とは反対側から取り出すトップエミッション方式とがある。
【0003】
ところで、従来の有機EL装置では、特に低電圧で電子注入効果を得るために電子注入
層を含む無機陰極を非常に活性化する必要があり、そこで、この電子注入層を含む無機陰
極をアルカリ金属やアルカリ土類金属を主成分としているが、これらのアルカリ金属やア
ルカリ土類金属は大気中に存在する水分と簡単に反応して変質してしまい、場合によって
は電子注入層による電子注入効果が無くなり、ダークスポットと称される非発光領域が生
じてしまうという問題点がある。
従来では、このような問題点を解決するために、複数の有機EL素子を備えた回路基板
全体を水分を遮断するガラスまたは金属からなる封止基板で覆い、この回路基板と封止基
板とを接着剤で貼り合わせて中空構造とし、この中空部に乾燥剤等を備えた構造が一般的
に用いられてきた。
【0004】
しかしながら、このような構造の有機EL装置においては、接着剤の部分から侵入する
水分を乾燥剤で吸収することができるものの、構造の強度及び製造コストの点で大きな制
約があり、そこで、近年では、封止基板の替わりに、低温下でも水分を遮断する窒化ケイ
素(SiN)や酸窒化ケイ素(SiO)等の高密度ガスバリア層と、このガスバ
リア層のクラックを防止しかつ画素隔壁及び配線等により生じた表面の凹凸形状を平坦化
するための有機緩衝層とを含む多層構造の薄膜封止層による封止技術が用いられるように
なってきている(特許文献1〜5等参照)。この高密度ガスバリア層は、プラズマガン方
式のイオンプレーティング、ECRプラズマスパッタリング、ECRプラズマCVD、表
面波プラズマCVD、ICP−CVD等の高密度プラズマ源を用いた高密度プラズマ気相
成長法により成膜することができる。
【0005】
この薄膜封止層は、透明でありかつ水分遮断性に極めて優れていることにより、白色発
光素子とカラーフィルタとを含むフルカラーパネルの実用化を進展させる主要技術になっ
ている。
【特許文献1】特開2005−38784号公報
【特許文献2】特開2005−135687号公報
【特許文献3】特開2005−310472号公報
【特許文献4】特開2006−19678号公報
【特許文献5】特開2008−150662号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、従来の多層構造の薄膜封止層では、高密度ガスバリア層にスプラッシュ
が原因と思われる欠陥が生じてしまい、その結果、薄膜封止層の膜性能が低下するという
問題点があった。
このスプラッシュは、高密度ガスバリア層を構成する窒化ケイ素(SiN)や酸窒化
ケイ素(SiO)等を成膜する際に、蒸着材料である酸化ケイ素(SiO)からケ
イ素が析出し、Si粒子となって水しぶきのように基板の表面に付着する現象であり、高
密度ガスバリア層を成膜する際に、そのSi粒子を取り除く必要があるが、真空装置内で
取り除くことは難しい。
【0007】
本発明は、上記の課題を解決するためになされたものであって、成膜する際に、スプラ
ッシュの原因となる蒸着源にて発生する粒子を速やかに取り除くことにより、スプラッシ
ュに起因する欠陥等の不具合が生じる虞の無い薄膜を成膜することができる成膜装置を提
供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、上記の課題を解決するために、次のような成膜装置を提供した。
本発明の成膜装置は、基板を収納する真空容器と、この真空容器内かつ前記基板の成膜
面の下方に配設され蒸着材料を収納する有底筒状の蒸着材料用容器と、この蒸着材料用容
器内の蒸着材料を加熱する加熱手段とを備え、前記蒸着材料用容器の軸線は、前記基板の
成膜面の垂線と交差してなることを特徴とする。
【0009】
この構成によれば、成膜する際に、蒸着材料用容器内の蒸着材料を加熱手段により加熱
すると、この蒸着材料の表面に加熱による温度の偏りが生じ、この温度の偏りにより蒸着
材料が部分的に過熱されて該蒸着材料からスプラッシュの原因となる粒子が析出する。こ
の粒子は、蒸着材料の表面が傾いていることで、この表面から落下して取り除かれ、この
表面上に停滞することはない。
以上により、成膜する際に、蒸着材料の表面にスプラッシュの原因となる粒子が析出し
た場合においても、この粒子を蒸着材料の表面上に停滞させずに落下させることで、速や
かに取り除くことができる。したがって、蒸着材料の表面にスプラッシュの原因となる粒
子が析出したとしても、この粒子を蒸着材料の表面から速やかに取り除くことで、成膜さ
れる膜表面へのスプラッシュによる悪影響を防止することができ、膜の品質を向上させる
ことができる。
【0010】
本発明においては、前記蒸着材料の表面における垂線は、前記基板の成膜面の垂線と略
直交してなることが好ましい。
この構成によれば、蒸着材料の表面が基板の成膜面に対して略直交しているので、蒸着
材料の表面にスプラッシュの原因となる粒子が析出した場合においても、この粒子を蒸着
材料の表面から略真下に落下させることで速やかに取り除くことができる。したがって、
蒸着材料の表面にスプラッシュの原因となる粒子が析出したとしても、この粒子を蒸着材
料の表面から速やかに取り除くことで、成膜される膜表面へのスプラッシュによる悪影響
を防止することができ、膜の品質を向上させることができる。
【0011】
本発明においては、前記蒸着材料用容器の側壁の高さは、前記基板側が高くかつ前記真
空容器の底面側が低いことが好ましい。
この構成によれば、蒸着材料用容器の側壁の高さを、基板側が高くかつ真空容器の底面
側が低くなるようにしたので、蒸着材料の表面にスプラッシュの原因となる粒子が析出し
た場合においても、この粒子を蒸着材料の表面上に停滞させることなく速やかに略真下に
落下させ、取り除くことができる。したがって、蒸着材料の表面にスプラッシュの原因と
なる粒子が析出したとしても、この粒子を蒸着材料の表面から速やかに取り除くことで、
成膜される膜表面へのスプラッシュによる悪影響を防止することができ、膜の品質を向上
させることができる。
【0012】
本発明においては、前記蒸着材料は円柱状であることが好ましい。
この構成によれば、蒸着材料を円柱状としたので、蒸着材料の表面にスプラッシュの原
因となる粒子が析出した場合においても、この粒子を蒸着材料の略円形状の表面から下方
に落下させることで速やかに取り除くことができる。
【0013】
本発明においては、前記蒸着材料用容器に、前記蒸着材料を前記真空容器内へ向かって
押し出す押し出し機構を設けてなることが好ましい。
この構成によれば、成膜の進行に伴い蒸着材料の表面が蒸着材料用容器の開口部から後
退した場合においても、押し出し機構を駆動させることにより、蒸着材料の表面を蒸着材
料用容器の開口部近傍に移動させることができる。したがって、成膜時のレートを変える
ことなく、厚み等の均一な膜を成膜することができる。
【0014】
本発明においては、前記蒸着材料用容器は、その軸線の周りに回転または回動可能であ
ることが好ましい。
この構成によれば、蒸着材料用容器をその軸線の周りに回転、または回動させることで
、蒸着材料の表面における局所加熱を低減することができ、この蒸着材料から粒子が析出
するのを抑制することができる。したがって、この蒸着材料から生じるスプラッシュの原
因となる粒子の量を低減することができる。
【0015】
本発明においては、前記蒸着材料用容器を複数個とし、これらの蒸着材料用容器を前記
真空容器内かつ前記基板の成膜面の垂線と交差する方向それぞれに配設するとともに、こ
れら蒸着材料用容器の間に、これら相互間の干渉を阻止する隔壁を設けてなることが好ま
しい。
【0016】
この構成によれば、これらの蒸着材料用容器の間に、これら相互間の干渉を阻止する隔
壁を設けたことにより、一方の蒸着材料用容器から蒸発する蒸発材料が他方の蒸着材料用
容器から蒸発する蒸発材料に悪影響を及ぼしたり、あるいは、一方の蒸発材料から生じた
スプラッシュの原因となる粒子が他方の蒸発材料に悪影響を及ぼしたり等の不具合が発生
するのを防止することができる。
したがって、複数の蒸着材料用容器を用いた複数種の成膜を、これらの蒸着材料間の相
互の干渉なしに行うことができる。
【0017】
本発明においては、前記隔壁は導電性及び耐熱性を有することが好ましい。
この構成によれば、隔壁が導電性及び耐熱性を有することにより、この隔壁が蒸発材料
に対する悪影響や蒸発材料から析出するスプラッシュの原因となる粒子による悪影響を防
止することはもちろんのこと、この隔壁に蒸発材料やスプラッシュの原因となる粒子が付
着した場合においても、帯電したり、熱により変形したり、等の不具合を防止することが
できる。したがって、成膜工程における膜の品質及び成膜効率を向上させることができる

【0018】
本発明においては、前記隔壁は、正電荷を有しており、蒸発した前記蒸着材料を前記正
電荷の反発力により前記基板に案内する案内部材であることが好ましい。
この構成によれば、蒸着材料用容器から蒸発する蒸発材料は正電荷を有しているので、
この案内部材の有する正電荷の反発力により反発され速やかに基板に案内され、この基板
上に堆積するので、成膜の速度を向上させることができる。したがって、成膜効率を向上
させることができる。
【0019】
本発明においては、前記案内部材は導電性及び耐熱性を有することが好ましい。
この構成によれば、案内部材が導電性及び耐熱性を有することにより、この案内部材が
蒸発材料に対する悪影響や蒸発材料から析出するスプラッシュの原因となる粒子による悪
影響を防止することはもちろんのこと、この案内部材に蒸発材料やスプラッシュの原因と
なる粒子が付着した場合においても、帯電したり、熱により変形したり、等の不具合を防
止することができる。したがって、成膜工程における膜の品質及び成膜効率を向上させる
ことができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0020】
本発明を実施するための最良の形態について、図面を参照して説明する。
本発明の実施の形態は、本発明の一態様を示すものであり、本発明を限定するものでは
なく、本発明の技術的思想の範囲内で任意に変更可能である。
また、以下の図面においては、各構成をわかりやすくするために、実際の構造とは縮尺
や数等が異なっている。
【0021】
「第1の実施の形態」
図1は、本発明の第1の実施形態の成膜装置を示す断面図、図2は同成膜装置のハース
を示す斜視図であり、高密度プラズマ気相成長法により成膜する装置の一種であるプラズ
マガン方式のイオンプレーティング装置と称される成膜装置の例である。
【0022】
この成膜装置1は、基板Wを収納する真空容器2と、真空容器2の上部に設けられ基板
Wを真空容器2内に搬送するための基板搬送機構3と、真空容器2内の側壁かつ基板Wの
成膜面の下方に配設されたハース(蒸着材料用容器)4と、このハース4に高密度プラズ
マHPを入射させて収納された蒸着材料Mを加熱するプラズマガン(加熱手段)5と、こ
のハース4の周囲に設けられ入射する高密度プラズマHPの向きを制御するハースコイル
6と、プラズマガン5の高密度プラズマHPの出射側に設けられ高密度プラズマHPの向
きを制御するステアリングコイル7と、真空容器2に設けられ窒素ガス(N)等を導入
するための配管8とにより構成されている。
【0023】
このハース4は、真空容器2内にプラズマガン5と対向して配置された側壁の高さが一
定の有底円筒状の容器であり、その開口部の形状は円形である。このハース4には、酸化
ケイ素(SiO)等の円柱状の蒸着材料Mが収納されるとともに、この蒸着材料Mを真空
容器2内へ向かって押し出すスクリュウ等の押し出し機構9が設けられている。
このハース4の軸線L1は、基板Wの成膜面の垂線L2と略直交している。言い換える
と、ハース4の軸線L1は、基板Wの成膜面の下側かつこの成膜面と略平行とされている

このハース4は、別途設けられた回転機構あるいは回動機構(図示略)により、その軸
線(=垂線L1)の周りに回転11、または回動12可能となっている。
【0024】
この成膜装置1では、次のようにして基板Wの表面に蒸着材料Mを成膜する。
真空容器2内を真空ポンプ(図示略)を用いて所定の真空度とした後、配管8から窒素
ガス(N)を導入し、真空容器2内を所定の圧力の窒素ガス雰囲気とする。
次いで、基板搬送機構3により基板Wを真空容器2内に搬送し、この真空容器2内の所
定位置に固定する。
次いで、プラズマガン5のステアリングコイル7を調整することにより、プラズマガン
5から真空容器2中に高密度プラズマHPを照射させる。
【0025】
このプラズマガン5から出射された高密度プラズマHPは、制御装置(図示略)にてハ
ース4の放電電圧を適当な値に制御することにより、確実にハース4に導かれ、ハース4
中の蒸着材料Mを加熱し、蒸発させる。この蒸発した蒸着材料Mは、高密度プラズマHP
中にてイオン化するとともに窒素ガス等の雰囲気ガスと反応し、この反応生成物が基板W
の表面に付着し、成膜される。
【0026】
ハース4中の蒸着材料Mの表面状態は、当初、図3に示すように、その断面が中央部が
湾曲した略楕円形13である。
この蒸着材料Mに高密度プラズマHPを照射すると、この高密度プラズマHPはそれ自
体偏りを有するので、この高密度プラズマHPを用いてハース4中の蒸着材料Mを加熱す
ると、この蒸着材料Mの表面に加熱による温度の偏りが生じ、この温度の偏りにより蒸着
材料Mが部分的に過熱され、図4に示すように、蒸着材料Mの表面に、この蒸着材料M中
の元素を主成分とする粒子14が生じる。
例えば、蒸着材料Mが酸化ケイ素(SiO)の場合、粒子14は単結晶あるいは多結
晶のケイ素(Si)である。
【0027】
このスプラッシュの原因となる粒子14は、蒸着材料Mの表面から容易に剥落し、落下
するので、容易に取り除くことができる。しかも、この粒子14は、蒸着材料Mの表面か
ら簡単に除去することができるので、蒸着材料Mの表面にスプラッシュの原因となる粒子
14が生じたとしても、この粒子14が蒸着材料Mの表面から速やかに落下することで、
成膜される膜表面へ悪影響を及ぼすのを防止することができる。したがって、成膜される
膜表面にスプラッシュに起因する欠陥部が生じる虞が無くなり、薄膜の面内均一性を向上
させることができる。
【0028】
この場合、ハース4を、その軸線(=垂線L1)の周りに回転11、または回動12さ
せれば、蒸着材料M自体がその軸線(=垂線L1)の周りに回転11、または回動12す
ることにより、蒸着材料Mの表面における局所加熱を低減することができる。したがって
、この蒸着材料Mから生じるスプラッシュの原因となる粒子14の量を削減することがで
きる。
したがって、成膜される膜表面にスプラッシュに起因する欠陥部が生じる虞が無くなり
、薄膜の面内均一性をさらに向上させることができる。
【0029】
次に、この成膜装置1を用いて有機EL装置を製造する方法について説明する。
ここでは、まず、この成膜装置1を用いて得られたトップエミッション方式の有機EL
装置について、図5に基づき説明する。
この有機EL装置21は、素子基板31と透明保護基板41とが対向して配置され、こ
れら素子基板31及び透明保護基板41は接着層51を介して接着され一体化されている

【0030】
この素子基板31上には複数の有機EL素子32が形成されている。これら有機EL素
子32は、陽極としての第1電極33と陰極としての第2電極34とにより、単色の光、
例えば白色の光を発生する有機発光層35を挟持した構成である。また、素子基板31上
には、複数の有機EL素子32を覆うように封止層51が形成されている。
【0031】
これらの有機EL素子32は、素子基板31上ではマトリクス状に規則的に配列され表
示領域Lを構成している。なお、有機EL素子32は、R(赤)、G(緑)、B(青)の
3種類の有機材料を使い分けて3種類の有機EL素子、例えば赤色光を発生する有機EL
素子、緑色光を発生する有機EL素子、青色光を発生する有機EL素子としても良い。な
お、この表示領域Lの外側の領域を非表示領域Mとする。
【0032】
素子基板31は、素子基板本体36と、この素子基板本体36の透明保護基板41側の
面を覆う無機絶縁層37とを備えている。この素子基板本体36は、例えばガラス基板、
プラスチック基板等の絶縁材料により形成されている。また、無機絶縁層37は、例えば
酸化珪素(SiO)や窒化珪素(SiN)等の珪素化合物により形成されている。この
素子基板本体36上には、複数の有機EL素子32に1対1で対応する複数の薄膜トラン
ジスタ(TFT)からなるスイッチング素子28及び各種の配線(図示略)等が形成され
ている。
【0033】
この無機絶縁層37上には、Al(アルミニウム)合金等からなる金属反射層71が内
装された樹脂平坦化層72が形成されている。この樹脂平坦化層72は、絶縁性の樹脂材
料、例えば感光性のアクリル樹脂や環状オレフィン樹脂等により形成されている。
【0034】
この樹脂平坦化層72上の金属反射層71に平面的に重なる領域には、有機EL素子3
2の第1電極33が形成されている。この第1電極33は、正孔注入性の高いITO(I
ndium Tin Oxide:インジウム錫酸化物)等の金属酸化物により形成され
ている。この第1電極33は、樹脂平坦化層72及び無機絶縁層37を貫通するコンタク
トホール(図示略)を介して、素子基板本体36上のスイッチング素子38に接続されて
いる。
【0035】
この樹脂平坦化層72上には、有機EL素子32を区画するために、例えばアクリル樹
脂等からなる絶縁性の隔壁層73が形成されている。この隔壁層73は、第1電極33の
上部を露出させる複数の開口部を有している。
この開口部と隔壁層73による凹凸形状に沿って、隔壁層73及び第1電極33の上面
を覆うように有機発光層35が形成されている。
【0036】
この有機発光層35は、電界により注入された正孔と電子との再結合により励起して発
光する発光層を含むものであり、この有機発光層35は、発光層以外の層をも含む多層構
造とすることも可能である。発光層以外の層としては、正孔を注入し易くするための正孔
注入層、注入された正孔を発光層へ輸送し易くするための正孔輸送層、電子を注入し易く
するための電子注入層、注入された電子を発光層へ輸送し易くするための電子輸送層等、
上記の再結合に寄与する層が挙げられる。
【0037】
この有機発光層35の発光層としては、低分子系有機EL材料あるいは高分子系有機E
L材料が挙げられる。
低分子系有機EL材料は、正孔と電子との再結合により励起して発光する有機化合物の
うち、分子量が比較的に低いものである。また、高分子系有機EL材料は、正孔と電子と
の再結合により励起して発光する有機化合物のうち、分子量が比較的に高いものである。
これら低分子系有機EL材料あるいは高分子系有機EL材料は、有機EL素子32の発
する単色の発光色の光(白色光)に応じた物質となっている。発光層における再結合に寄
与する層の材料は、この層に接する層の材料に応じた物質となっている。
【0038】
この有機発光層35上には、この有機発光層35をその凹凸形状に沿って覆うように、
第2電極34が形成されている。この第2電極34は、例えば有機発光層35へ電子を注
入し易くするための電子注入バッファ層と、電子注入バッファ層上に形成された電気抵抗
の小さい導電層とを有する。
この電子注入バッファ層は、例えば、LiF(フッ化リチウム)やCa(カルシウム)
、MgAg(マグネシウム‐銀合金)により形成されている。また、導電層は、例えばI
TOやAl等の金属により形成された電気抵抗の小さい導電層である。
【0039】
また、この素子基板31上には、無機絶縁層37、樹脂平坦化層72及び有機EL素子
32の第2電極34を覆う封止層61が形成され、この封止層61は、電極保護層62と
、有機緩衝層63と、ガスバリア層64とにより構成されている。
電極保護層62は、例えば、珪素酸窒化物(SiON)等の珪素化合物により構成され
ている。
有機緩衝層63は、隔壁層73とその開口部による凹凸形状を埋めるように形成され、
素子基板31上を平坦化している。有機緩衝層63を構成する材料としては、例えばエポ
キシ化合物等を用いることができる。
ガスバリア層64は、有機緩衝層63を覆い、さらに電極保護層62の終端部までを覆
うように形成されている。このガスバリア層64は、透光性、ガスバリア性、耐水性を考
慮して、例えばSiON等により形成されている。
【0040】
この素子基板31のガスバリア層64が形成された面には、透明保護基板41が対向し
て配置されている。この透明保護基板41は、接着層51を介して素子基板31上のガス
バリア層64に接着されている。
この透明保護基板41は、例えば透明ガラス基板または透明プラスチック基板等の光透
過性を有する材料で構成された透明基板本体42を備えている。
【0041】
透明基板本体42の素子基板31と対向する面には、カラーフィルタ層43として、赤
色着色層43R、緑色着色層43G、青色着色層43Bがマトリクス状に規則的に配列さ
れ、表示領域Lを構成している。また、各着色層43R,43G,43Bの周囲を囲む位
置に、より具体的には隔壁層73に対応する領域にブラックマトリクス層(遮光層)44
が形成されている。このブラックマトリクス層44を構成する材料としては、例えばCr
(クロム)等を用いることができる。
【0042】
各着色層43R,43G,43Bは、第1電極33上に形成された白色の有機発光層3
5に対向して平面的に重なるように配置されている。これにより、有機発光層35から発
せられた光は、着色層43R,43G,43Bの各々を透過し、赤色光、緑色光、青色光
の各色光として観察者側に出射されるようになっている。
【0043】
また、透明基板本体42上には、表示領域Lに形成されたカラーフィルタ層43及びブ
ラックマトリクス層44上を覆うオーバーコート層(被覆層)45が形成されている。
このオーバーコート層45は、表示領域Lの内側から非表示領域Mの周辺の後述する第
2接着層43の形成領域近傍まで延設されている。オーバーコート層45は、例えばアク
リルやポリイミド等の樹脂材料により形成されている。
このオーバーコート層45上には、このオーバーコート層45を覆うように、例えば、
珪素酸窒化物(SiON)等の珪素化合物からなるガスバリア層46が形成されている。
【0044】
接着層51は、第1接着層52と、周辺部をシールする第2接着層53とにより構成さ
れている。
第1接着層52は、素子基板31と透明保護基板41との間に設けられてガスバリア層
64の少なくとも表示領域Lに対応する部位を覆うものであり、この第1接着層52の材
料としては、例えばウレタン系樹脂やアクリル系樹脂に硬化剤としてイソシアネートを添
加した低弾性樹脂を用いることができる。
【0045】
第2接着層53は、素子基板31と透明保護基板41との間に、第1接着層52を囲む
ように非表示領域Mに設けられたものであり、この第2接着層53の材料としては、水分
透過率が低い材料、例えばエポキシ系樹脂に硬化剤として酸無水物を添加し、促進剤とし
てシランカップリング剤を添加した高接着性の接着剤を用いることができる。
【0046】
これら第1接着層52及び第2接着層53では、上述した材料を用いて形成することに
より、第1接着層52は第2接着層53よりも低い弾性率を有することができる。また、
第2接着層53は第1接着層52よりも高い接着強度を得ることができ、第1接着層52
よりも水分透過率を低くすることができる。
【0047】
次に、この有機EL装置21の製造方法について説明する。
この有機EL装置21の製造工程は、素子基板31側の工程と、透明保護基板41側の
工程と、素子基板31と透明保護基板41とを接着層51により接着、一体化する工程と
、により構成される。
【0048】
まず、素子基板本体36上にスイッチング素子38及び各種配線(図示略)を形成し、
それらを覆うように無機絶縁層37を熱酸化法、CVD法、スパッタリング法等の乾式成
膜法や、スピンコート法等の湿式成膜法を用いて形成する。
次いで、無機絶縁層37上にAl合金などの光反射性の金属反射層71を形成し、それ
を覆うように樹脂平坦化層72をスクリーン印刷法やスピンコート法等の湿式成膜法を用
いて形成する。
【0049】
次いで、樹脂平坦化層72上の金属反射層71に平面的に重なる領域に、ITO等の透
明導電材料をスパッタリング法等により成膜して複数の画素となる第1電極33を形成す
る。
次いで、この第1電極33を含む領域全体に絶縁材料を成膜し、この膜を、無機絶縁層
37上かつ第1電極33を囲むように、公知のレジスト技術、フォトリソグラフィ技術、
エッチング技術等を用いてパターニングし、隔壁層73を形成する。次いで、素子基板3
1上から有機物系の異物除去とITO表面の濡れ性を向上させるために、プラズマ洗浄な
どの洗浄処理を行う。
【0050】
次いで、隔壁層73により囲まれた開口部と隔壁層73による凹凸形状に沿って、隔壁
層73及び第1電極33の上面を覆うように、例えば蒸着、あるいはスピンコートやスリ
ットコート法等の湿式成膜法により有機発光層35を形成する。有機発光層35が複数の
層からなる場合には、各層を順に成膜することになる。
【0051】
次いで、有機EL素子32の第2電極34を、凹凸形状に沿って有機発光層35を覆う
ように形成する。例えば、真空蒸着法によりLiF及びCaやMgなどの電子注入性の高
い金属又は合金を成膜し、次いで、膜の電極抵抗を下げるために、真空蒸着法により画素
部を避けるようにパターン形成したAl薄膜を成膜するか、あるいはECR(Elect
ron Cyclotron Resonance:電子サイクロトロン共鳴)プラズマ
スパッタ法やイオンプレーティング法、対向ターゲットスパッタ法などの高密度プラズマ
成膜法により透明なITO膜を成膜する。
【0052】
次いで、素子基板31上に、無機絶縁層37、樹脂平坦化層72、及び有機EL素子3
2の第2電極34を覆うように電極保護層62を形成する。
この電極保護層62は、上記の成膜装置1のハース4に円柱状の蒸着材料Mである酸化
ケイ素(SiO)を収納し、この酸化ケイ素(SiO)に高密度プラズマHPを照射し、
ハース4から蒸発する酸化ケイ素(SiO)が雰囲気ガスである窒素(N)と反応し、
生成したケイ素酸窒化物(SiON)が無機絶縁層37、樹脂平坦化層72、及び有機E
L素子32の第2電極34を覆うように堆積することで形成することができる。
【0053】
この場合、円柱状の蒸着材料Mである酸化ケイ素(SiO)の表面に高密度プラズマH
Pの加熱による温度の偏りが生じ、この温度の偏りにより酸化ケイ素(SiO)が部分的
に過熱され、その表面にケイ素粒子からなるスプラッシュの原因となる粒子14が生じる

この粒子14は、酸化ケイ素(SiO)の表面から容易に剥落し、落下するので、酸化
ケイ素(SiO)の表面から容易に取り除くことができる。したがって、成膜される電極
保護層62にスプラッシュに起因する欠陥部が生じる虞が無くなり、電極保護層62の面
内均一性を向上させることができる。
【0054】
この場合、ハース4を、その軸線(=垂線L1)の周りに回転11、または回動12さ
せれば、酸化ケイ素(SiO)がその軸線(=垂線L1)の周りに回転11、または回動
12することにより、酸化ケイ素(SiO)の表面における局所加熱を低減することがで
きる。したがって、この酸化ケイ素(SiO)から生じるスプラッシュの原因となる粒子
14の量を削減することができ、電極保護層62の面内均一性をさらに向上させることが
できる。
【0055】
次いで、この電極保護層62上に有機緩衝層63を形成する。有機緩衝層63は、例え
ばエポキシ化合物等の有機材料を減圧雰囲気下でスクリーン印刷し、その後、加熱硬化さ
せることにより形成する。
【0056】
次いで、この有機緩衝層63上にガスバリア層64を形成する。
このガスバリア層64は、上記の成膜装置1のハース4に円柱状の蒸着材料Mである酸
化ケイ素(SiO)を収納し、この酸化ケイ素(SiO)に高密度プラズマHPを照射し
、ハース4から蒸発する酸化ケイ素(SiO)が雰囲気ガスである窒素(N)と反応し
、生成したケイ素酸窒化物(SiON)が有機緩衝層63を覆うように堆積することで形
成することができる。
【0057】
この場合、酸化ケイ素(SiO)の表面にケイ素粒子からなるスプラッシュの原因とな
る粒子14が生じるが、この粒子14は、酸化ケイ素(SiO)の表面から容易に剥落し
、落下するので、酸化ケイ素(SiO)の表面から容易に取り除くことができる。したが
って、成膜されるガスバリア層64にスプラッシュに起因する欠陥部が生じる虞が無くな
り、ガスバリア層64の面内均一性を向上させることができる。
【0058】
この場合、ハース4を、その軸線(=垂線L1)の周りに回転11、または回動12さ
せれば、酸化ケイ素(SiO)がその軸線(=垂線L1)の周りに回転11、または回動
12することにより、酸化ケイ素(SiO)の表面における局所加熱を低減することがで
きる。したがって、この酸化ケイ素(SiO)から生じるスプラッシュの原因となる粒子
14の量を削減することができ、ガスバリア層64の面内均一性をさらに向上させること
ができる。
以上により、複数の有機EL素子32を備え、それらが電極保護層62、有機緩衝層6
3及びガスバリア層64からなる封止層61により被覆された素子基板31が作製される

【0059】
一方、透明基板本体42上の隔壁層73に対応する領域に、例えば蒸着法やスパッタリ
ング法でCr(クロム)を成膜し、この膜を公知のレジスト技術、フォトリソグラフィ技
術、エッチング技術等を用いてパターニングし、ブラックマトリクス層44を形成する。
【0060】
次いで、ブラックマトリクス層44を隔壁として、例えばインクジェットなどの液滴吐
出法により、カラーフィルタ層43を形成する。具体的には、液滴吐出ヘッドから所定の
ブラックマトリクス層44の間に、例えば赤色着色層43R、緑色着色層43G、青色着
色層43Bの液状の材料を選択的に注入し、これらを所定の温度にて加熱乾燥させること
により、赤色着色層43R、緑色着色層43G、青色着色層43Bを形成する。このよう
にして、赤色着色層43R、緑色着色層43G、青色着色層43Bからなるカラーフィル
タ層43を形成することができる。
【0061】
次いで、カラーフィルタ層43及びブラックマトリクス層44を覆い、表示領域Lの内
側から外側まで延設するようにオーバーコート層45を形成する。このオーバーコート層
45は、アクリルやポリイミド等の樹脂材料を原料成分又は有機溶媒等で希釈して、スリ
ットコート法やスクリーン印刷法等を用いてパターン塗布し、熱オーブン等で蒸発及び硬
化することにより形成する。
【0062】
次いで、このオーバーコート層45を覆うようにガスバリア層46を形成する。
このガスバリア層46は、上記の成膜装置1のハース4に円柱状の蒸着材料Mである酸
化ケイ素(SiO)を収納し、この酸化ケイ素(SiO)に高密度プラズマHPを照射し
、ハース4から蒸発する酸化ケイ素(SiO)が雰囲気ガスである窒素(N)と反応し
、生成したケイ素酸窒化物(SiON)がオーバーコート層45を覆うように堆積するこ
とで形成することができる。
【0063】
この場合、酸化ケイ素(SiO)の表面にケイ素粒子からなるスプラッシュの原因とな
る粒子14が生じるが、この粒子14は、酸化ケイ素(SiO)の表面から容易に剥落し
、落下するので、容易に取り除くことができる。したがって、成膜されるガスバリア層4
6にスプラッシュに起因する欠陥部が生じる虞が無くなり、ガスバリア層46の面内均一
性を向上させることができる。
【0064】
この場合、ハース4を、その軸線(=垂線L1)の周りに回転11、または回動12さ
せれば、酸化ケイ素(SiO)がその軸線(=垂線L1)の周りに回転11、または回動
12することにより、酸化ケイ素(SiO)の表面における局所加熱を低減することがで
きる。したがって、この酸化ケイ素(SiO)から生じるスプラッシュの原因となる粒子
14の量を削減することができ、ガスバリア層46の面内均一性をさらに向上させること
ができる。
以上により、透明基板本体42上に、カラーフィルタ層43及びブラックマトリクス層
44が形成され、これらを覆うオーバーコート層45及びガスバリア層46を備えた透明
保護基板41が作製される。
【0065】
次いで、透明保護基板41上の額縁部、より具体的には透明保護基板41上の非表示領
域Mのオーバーコート層45及びガスバリア層46が形成されていない領域に、第2接着
層53の形成材料を塗布する。具体的には、例えばディスペンス描画法やスクリーン印刷
法により上述した接着剤を塗布する。
次いで、透明保護基板41上に形成されたオーバーコート層45及びガスバリア層46
を覆うように、第1接着層52の形成材料を塗布する。具体的には、例えばディスペンス
滴下法により上述した接着剤を塗布する。
【0066】
次いで、第1接着層52及び第2接着層53の形成材料が塗布された透明保護基板41
に紫外線照射を行う。具体的には、第1接着層52及び第2接着層53の形成材料の硬化
反応を開始させる目的で、例えば照度30mW/cm、光量2000mJ/cmの紫
外線を透明保護基板41に照射する。これにより、第1接着層52及び第2接着層53の
形成材料が反応し、徐々に粘度が上昇する。
【0067】
次いで、素子基板31の封止層61が形成された面と、透明保護基板41の粘度が上昇
した第1接着層52及び第2接着層53の形成材料が形成された面とを対向させ、第1接
着層52及び第2接着層53の形成材料を介して素子基板31と透明保護基板41とを貼
り合せる。
このとき、貼り合わせた素子基板31と透明保護基板41とのアライメント位置の微調
整を行いながら、素子基板31と透明保護基板41とを相互に接近させていく。具体的に
は、素子基板31と透明保護基板41とを面方向(平行方向)に相対移動させ、有機EL
素子32とカラーフィルタ層43との相対位置を調整する。このように、アライメント位
置精度を高めながら最終的な位置合わせを行う。
【0068】
次いで、素子基板31と透明保護基板41とを圧着する。具体的には、例えば真空度1
Paの真空雰囲気下にて、加圧600Nで200秒間保持して圧着させる。
次いで、この圧着された素子基板31及び透明保護基板41を大気雰囲気中にて加熱す
る。具体的には、素子基板31と透明保護基板41とを貼り合わせた状態で、大気中、所
定の温度にて所定の時間、加熱することにより、粘度が上昇した第1接着層52及び第2
接着層53の形成材料を硬化させ、第1接着層52及び第2接着層53を形成する。
以上により、上述した有機EL装置21を作製することができる。
【0069】
以上説明したように、本実施形態の有機EL装置21によれば、電極保護層62、ガス
バリア層64及びガスバリア層46を、蒸着材料Mである酸化ケイ素(SiO)の表面に
生じる粒子14を取り除きつつ成膜したので、粒子14に起因する欠陥部が生じる虞が無
く、しかも面内均一性が向上した膜を成膜することができる。
【0070】
この場合、ハース4を、その軸線(=垂線L1)の周りに回転11、または回動12さ
せることにより、蒸着材料Mである酸化ケイ素(SiO)から生じるスプラッシュの原因
となる粒子14の量を削減することができ、ガスバリア層46の面内均一性をさらに向上
させることができる。
【0071】
なお、本実施形態では、成膜装置としてプラズマガン方式のイオンプレーティング装置
を例にとり説明したが、この成膜装置は高密度プラズマ源を用いた高密度プラズマ気相成
長法が適用される成膜装置であればよく、プラズマガン方式のイオンプレーティング装置
の他、ECRプラズマスパッタリング装置、ECRプラズマCVD装置、表面波プラズマ
CVD装置、ICP−CVD装置等に対しても適用可能である。
【0072】
「第2の実施の形態」
図6は、本発明の第2の実施形態の成膜装置のハースを示す断面図である。
このハース81が、第1の実施形態のハース4と異なる点は、第1の実施形態のハース
4が側壁の高さが一定の有底円筒状の容器であり、その開口部の形状が円形であるのに対
し、本実施形態のハース81は、基板W側の側壁81aの高さ(H1)を高くかつ真空容
器2の底面側の側壁81aの高さ(H2)を低くすることにより、このハース81の開口
部の形状を楕円形とした点である。
【0073】
このハース81には、第1の実施形態のハース4と同様、酸化ケイ素(SiO)等の円
柱状の蒸着材料Mが収納され、この蒸着材料Mの先端は、側壁81aの高さ(H1)と側
壁81aの高さ(H2)との中間部に位置するようになっている。また、この蒸着材料M
を真空容器2内へ向かって押し出すスクリュウ等の押し出し機構9が設けられている。
【0074】
このハース81中の蒸着材料Mに高密度プラズマHPを照射して加熱すると、この蒸着
材料Mの表面に加熱による温度の偏りが生じ、この温度の偏りにより蒸着材料Mが部分的
に過熱され、この蒸着材料Mの表面にプラッシュの原因となる粒子14が生じる。
この粒子14は、蒸着材料Mの表面から容易に剥落し落下するが、ハース81の側壁8
1aの高さ(H2)が低くなっているので、何等抵抗も無く、この側壁81aの部分から
下方へ速やかに落下し、取り除かれる。
【0075】
このように、プラッシュの原因となる粒子14を蒸着材料Mの表面から簡単に除去する
ことができるので、蒸着材料Mの表面にプラッシュの原因となる粒子14が生じたとして
も、この粒子14が蒸着材料Mの表面から側壁81aの部分を経由して下方へ速やかに落
下することで、容易に取り除くことができる。
これにより、プラッシュが成膜される膜表面へ悪影響を及ぼすのを防止することができ
、したがって、成膜される膜表面に粒子14に起因する欠陥部が生じる虞が無くなり、薄
膜の面内均一性を向上させることができる。
【0076】
この場合、図7に示すように、ハース81を、その軸線(=垂線L1)の周りに回転1
1、または回動12させれば、蒸着材料M自体がその軸線(=垂線L1)の周りに回転1
1、または回動12することにより、蒸着材料Mの表面における局所加熱を低減すること
ができ、この蒸着材料Mから生じる粒子14の量を削減することができる。
したがって、成膜される膜表面に粒子14に起因する欠陥部が生じる虞が無くなり、薄
膜の面内均一性をさらに向上させることができる。
【0077】
「第3の実施の形態」
図8は、本発明の第3の実施形態の成膜装置を示す平面図、図9は同成膜装置の要部を
示す断面図である。
この成膜装置91が、第1の実施形態の成膜装置1と異なる点は、第1の実施形態の成
膜装置1が真空容器2内の側壁かつ基板Wの成膜面の下方にハース4をプラズマガン5と
対向して配置したのに対し、本実施形態の成膜装置91は、真空容器2内の側壁かつ基板
Wの成膜面の下方に一対のハース92A、92Bを互いに対向して配設し、これらハース
92A、92Bに、高密度プラズマHPにより蒸着材料Mを加熱するプラズマガン(加熱
手段)93A、93Bをそれぞれ配設し、これらのハース92A、92B間に、これら相
互間の干渉を阻止する略三角柱状の隔壁94を設けた点である。
【0078】
これらハース92A、92B及びプラズマガン93A、93Bの構成は、第1の実施形
態のハース4及びプラズマガン5と全く同様の構成である。
これらのハース92A、92Bにおいても、ハース92A、92B各々の軸線L1は、
基板Wの成膜面の垂線L2と略直交している。
そして、これらのハース92A、92Bは、別途設けられた回転機構あるいは回動機構
(図示略)により、その軸線(=垂線L1)の周りに回転、または回動可能となっている

【0079】
隔壁94は、銅、銅合金等の比較的軟らかい金属からなる導電性及び耐熱性を有する壁
体であり、ハース92A、92B各々の蒸発材料が互いに干渉し合うのを防止するととも
に、各々から生じるスプラッシュの原因となる粒子が互いに影響を及ぼさないようにする
ためのものである。
【0080】
この隔壁94は、正に帯電させることにより、正電荷を有する案内部材としての機能を
有するものとなっている。
ハース92A、92B各々から蒸発した蒸発材料は、正電荷を有するイオンとなって高
密度プラズマHP中を隔壁94に向かって進行するが、隔壁94の有する正電荷による反
発力により反発され、この隔壁94近傍から基板Wに向かって進行し、基板W上に堆積す
る。
これにより、ハース92A、92B各々から蒸発した蒸発材料は、隔壁94により効率
的に基板Wに案内され、基板W上にて成膜されることとなる。
【0081】
本実施形態の成膜装置91によれば、真空容器2内の側壁かつ基板Wの成膜面の下方に
一対のハース92A、92Bを互いに対向して配設し、これらハース92A、92Bにプ
ラズマガン93A、93Bをそれぞれ配設し、これらハース92A、92B間に隔壁94
を設けたので、ハース92A、92Bのいずれか一方あるいは双方から蒸発する蒸発材料
Wやスプラッシュが,いずれか他方あるいは相互に悪影響を及ぼすのを防止することがで
きる。
したがって、ハース92A、92Bを用いた複数種の成膜を、これらの蒸着材料間の相
互の干渉なしに行うことができる。
【0082】
また、隔壁94は、導電性及び耐熱性を有するので、蒸発材料やプラッシュの原因とな
る粒子が付着した場合においても、帯電したり、熱により変形したり、等の不具合を防止
することができる。したがって、成膜工程における膜の品質及び成膜効率を向上させるこ
とができる。
【0083】
また、この隔壁94は、正電荷を有することで、ハース92A、92B各々から蒸発し
た正電荷を有する蒸発材料を、正電荷の反発力により基板Wに案内する案内部材としての
機能を有するので、ハース92A、92B各々から蒸発する正電荷を有する蒸発材料を速
やかに基板Wに案内し、この基板W上に堆積させることができる。したがって、成膜の速
度を向上させることができ、成膜効率を向上させることができる。
【0084】
(電子機器)
次に、本発明に係る電子機器について、携帯電話を例に挙げて説明する。図10は、携
帯電話600の全体構成を示す斜視図である。携帯電話600は、筺体601、複数の操
作ボタンが設けられた操作部602、画像や動画、文字等を表示する表示部603を有す
る。表示部603には、本発明に係る有機EL装置21が搭載される。
このように、スプラッシュに起因する欠陥部が生じる虞が無く、しかも面内均一性が向
上した有機EL装置21を備えているので、高信頼性かつ高性能な電子機器(携帯電話)
600を得ることができる。
【0085】
なお、電子機器としては、上記携帯電話600以外にも、マルチメディア対応のパーソ
ナルコンピュータ(PC)、およびエンジニアリング・ワークステーション(EWS)、
ページャ、あるいは投射型液晶表示装置、ワードプロセッサ、テレビ、ビューファインダ
型またはモニタ直視型のビデオテープレコーダ、電子手帳、電子卓上計算機、カーナビゲ
ーション装置、POS端末、タッチパネルなどを挙げることができる。
【図面の簡単な説明】
【0086】
【図1】本発明の第1の実施形態の成膜装置を示す断面図である。
【図2】本発明の第1の実施形態のハースを示す斜視図である。
【図3】本発明の第1の実施形態のハースを示す断面図である。
【図4】本発明の第1の実施形態のハースにおけるスプラッシュの落下の様を示す断面図である。
【図5】本発明の第1の実施形態の有機EL装置を示す断面図である。
【図6】本発明の第2の実施形態のハースを示す断面図である。
【図7】本発明の第2の実施形態のハースの動作及びスプラッシュの落下の様を示す断面図である。
【図8】本発明の第3の実施形態の成膜装置を示す平面図である。
【図9】本発明の第3の実施形態の成膜装置の要部を示す断面図である。
【図10】電子機器の一例である携帯電話を示す斜視図である。
【符号の説明】
【0087】
1…成膜装置、2…真空容器、3…基板搬送機構、4…ハース、5…プラズマガン、6
…ハースコイル、7…ステアリングコイル、8…配管、9…押し出し機構、11…回転、
12…回動、14…スプラッシュ、21…有機EL装置、31…素子基板、32…有機E
L素子、41…透明保護基板、51…接着層、46、64…ガスバリア層、62…電極保
護層、L…表示領域、M…非表示領域、L1…軸線、L2…垂線、600…携帯電話(電
子機器)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板を収納する真空容器と、この真空容器内かつ前記基板の成膜面の下方に配設され蒸
着材料を収納する有底筒状の蒸着材料用容器と、この蒸着材料用容器内の蒸着材料を加熱
する加熱手段とを備え、
前記蒸着材料用容器の軸線は、前記基板の成膜面の垂線と交差してなることを特徴とす
る成膜装置。
【請求項2】
前記蒸着材料用容器の軸線は、前記基板の成膜面の垂線と略直交してなることを特徴と
する請求項1記載の成膜装置。
【請求項3】
前記蒸着材料用容器の側壁の高さは、前記基板側が高くかつ前記真空容器の底面側が低
いことを特徴とする請求項1または2記載の成膜装置。
【請求項4】
前記蒸着材料は円柱状であることを特徴とする請求項1、2または3記載の成膜装置。
【請求項5】
前記蒸着材料用容器に、前記蒸着材料を前記真空容器内へ向かって押し出す押し出し機
構を設けてなることを特徴とする請求項4記載の成膜装置。
【請求項6】
前記蒸着材料用容器は、その軸線の周りに回転または回動可能であることを特徴とする
請求項1ないし5のいずれか1項記載の成膜装置。
【請求項7】
前記蒸着材料用容器を複数個とし、これらの蒸着材料用容器を前記真空容器内かつ前記
基板の成膜面の垂線と交差する方向それぞれに配設するとともに、これら蒸着材料用容器
の間に、これら相互間の干渉を阻止する隔壁を設けてなることを特徴とする請求項1ない
し6のいずれか1項記載の成膜装置。
【請求項8】
前記隔壁は導電性及び耐熱性を有することを特徴とする請求項7記載の成膜装置。
【請求項9】
前記隔壁は、正電荷を有しており、蒸発した前記蒸着材料を前記正電荷の反発力により
前記基板に案内する案内部材であることを特徴とする請求項7または8記載の成膜装置。
【請求項10】
前記案内部材は導電性及び耐熱性を有することを特徴とする請求項9記載の成膜装置。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate

【図10】
image rotate


【公開番号】特開2010−121182(P2010−121182A)
【公開日】平成22年6月3日(2010.6.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−296387(P2008−296387)
【出願日】平成20年11月20日(2008.11.20)
【出願人】(000002369)セイコーエプソン株式会社 (51,324)
【Fターム(参考)】