説明

成膜装置

【課題】長尺な基材に、プラズマCVDによって連続的に成膜を行うロール・ツー・ロールの成膜装置において、成膜領域の入り口側および出口側での、プラズマ端部の影響を低減して、基材や機能性膜の表面がダメージを受けることを防止し、目的とする機能を発現できる機能性膜を、安定して形成することを可能にする成膜装置を提供する。
【解決手段】成膜手段が電極対の間でプラズマを生成する領域の、基材搬送方向の上流側および下流側の少なくとも一方の端部に配置される絶縁性のプラズマ抑制部材24を有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、CVDによって基材上に成膜を行なう成膜装置に関する。
【背景技術】
【0002】
光学素子、液晶ディスプレイや有機ELディスプレイなどの表示装置、半導体装置、薄膜太陽電池など、各種の装置に、ガスバリアフィルム、保護フィルム、光学フィルタや反射防止フィルム等の光学フィルムなど、各種の機能性フィルム(機能性シート)が利用されている。
また、これらの機能性フィルムの製造に、スパッタリングやプラズマCVD等の真空成膜法による成膜(薄膜形成)が利用されている。
【0003】
真空成膜法によって、効率良く、高い生産性を確保して成膜を行なうためには、長尺な基材に連続的に成膜を行なうのが好ましい。
このような成膜方法を実施する装置として、長尺な基材(ウェブ状の基材)をロール状に巻回してなる供給ロールと、成膜済の基材をロール状に巻回する巻取りロールとを用いる、いわゆるロール・ツー・ロール(Roll to Roll)の成膜装置が知られている。このロール・ツー・ロールの成膜装置は、基材に成膜を行なう成膜位置(成膜領域)を通過する所定の経路で、供給ロールから巻取りロールまで長尺な基材を挿通し、供給ロールからの基材の送り出しと、巻取りロールによる成膜済の基材の巻取りとを同期して行いつつ、成膜位置において、搬送される基材に連続的に成膜を行なう。
【0004】
ここで、プラズマCVDによる成膜において、生成されるプラズマは、プラズマが生成される領域の端部の性質が、中央部とは異なる。プラズマの端部は、中央部に比べてエネルギが高くなる傾向があるため、基材がプラズマの端部に曝露されると、基材にダメージが発生してしまう。そのため、バッチ式のプラズマCVD成膜装置においては、生成されるプラズマが、基材よりも十分大きくなるように、プラズマを生成するための電極を基材よりも大きくすることで、基材がプラズマの端部に曝露されることを防止している。
また、ロール・ツー・ロールの成膜装置においても、基材の搬送方向に直交する方向、すなわち、基材の幅方向は、電極を基材よりも大きくすることで、基材がプラズマの端部に曝露されることを防止している。
【0005】
例えば、特許文献1には、真空チャンバ内に配置されると共に電源の両極が接続され且つ各々に基材が巻き掛けられる一対の成膜ロールと、基材が巻き掛けられていない成膜ロールの端部を、成膜ロール近傍に発生したプラズマから遮蔽する遮蔽部材とを備えたプラズマCVD装置が記載されている。
この特許文献1に記載された装置は、成膜ロールの幅が基材の幅よりも大きく形成されて、基材がプラズマの端部に曝露されることを防止している。
【0006】
また、特許文献2には、基材と放電電極との間にマスクを配置した、長尺な基材が連続的に移送され、移送される基材上に連続的に成膜を行うプラズマCVD装置が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2011−84780号公報
【特許文献2】特開昭64−75680号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、プラズマCVDによる成膜をロール・ツー・ロールの成膜装置で行う場合には、搬送される基材が成膜領域を通過する際に、必ずプラズマの端部を通過する。そのため、成膜領域の入り口では、基材の表面にダメージを受けてしまい、また、成膜位置の出口側では、基材の表面に成膜された機能性膜の表面にダメージを受けてしまう。
【0009】
また、特許文献2のように、基材と放電電極との間にマスクを配置して、成膜領域を規定してプラズマを一部遮蔽した場合には、マスクの端部に電界集中が生じ、エネルギが高くなってしまう。そのため、特許文献2では、マスクの開口部に電界調整部材を設けることにより、プラズマの不均一性を解消することが開示されている。
しかしながら、マスクの開口部に電界調整部材を配置する構成は、設計が難しく、また、電界集中そのものを解消することは示されていない。また、マスクが無い構成の場合の、プラズマの端部のエネルギが高くなる点については、言及されていない。
そのため、成膜領域の入り口側および出口側で、基材や機能性膜の表面にダメージを受けてしまい、目的とする機能を発現する機能性膜を安定して形成することができない。
【0010】
本発明の目的は、前記従来技術の問題点を解決することにあり、長尺な基材に、プラズマCVDによって連続的に成膜を行うロール・ツー・ロールの成膜装置において、成膜領域の入り口側および出口側での、プラズマ端部の影響を低減して、基材や機能性膜の表面がダメージを受けることを防止し、目的とする機能を発現できる機能性膜を、安定して形成することを可能にする成膜装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記課題を解決するために、本発明は、長尺な基材を長手方向に搬送しつつ、搬送される前記基材を挟むように配置された電極対を有する成膜手段を用いてプラズマCVDによって、前記基材に成膜を行なう成膜装置であって、前記成膜手段が前記電極対の間でプラズマを生成する領域の、前記基材搬送方向の上流側および下流側の少なくとも一方の端部に配置される絶縁性のプラズマ抑制部材を有することを特徴とする成膜装置を提供するものである。
【0012】
ここで、前記プラズマ抑制部材が、前記領域の上流側の端部に配置されることが好ましい。
あるいは、前記プラズマ抑制部材が、前記領域の上流側および下流側の端部に配置されることが好ましい。
【0013】
ここで、前記電極対が、前記基材の成膜される面に対面して配置される成膜電極と、前記基材を挟んで前記成膜電極と対面して配置される対向電極とからなり、前記プラズマ抑制部材が、前記基材と前記成膜電極との間に配置されることが好ましい。
【0014】
また、前記プラズマ抑制部材が、前記成膜電極の、前記基材搬送方向の上流側および下流側の少なくとも一方の端部を覆うように配置されることが好ましい。
また、前記プラズマ抑制部材の端部が、前記成膜電極の端部の内側20mmから外側10mmの範囲にあることが好ましい。
また、前記プラズマ抑制部材と前記基材との間の距離が、0.5〜5mmであることが好ましい。
また、前記成膜電極の、前記基材と対面する面以外の面の少なくとも一部を覆うように配置される、接地された導電性のアース部材を有することが好ましい。
【0015】
また、前記対向電極が、前記基材を周面の所定領域に巻き掛けて搬送する円筒状のドラム電極であることが好ましい。
さらに、前記成膜電極の、前記基材の搬送方向と直交する方向の端部に配置される絶縁性の部材を有することが好ましい。
また、前記プラズマ抑制部材が、全て絶縁性の材料からなることが好ましい。
あるいは、前記プラズマ抑制部材が、表面を絶縁膜でコーティングされたものであることが好ましい。
【0016】
また、前記プラズマ抑制部材を冷却する冷却手段を有することが好ましい。
また、前記電極対の間の距離が、10〜50mmであることが好ましい。
また、前記成膜手段が、CCP−CVDによって成膜を行うものであることが好ましい。
また、前記成膜手段が、アモルファス窒化ケイ素膜を成膜するものであることが好ましい。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、成膜手段が電極対の間でプラズマを生成する領域の、基材搬送方向の上流側および下流側の少なくとも一方の端部に配置される絶縁性のプラズマ抑制部材を有するので、成膜領域の入り口側および出口側の、プラズマ端部の電界集中を弱めることができ、基材が成膜領域を通過する際に、基材や機能性膜の表面がダメージを受けることを防止し、目的とする機能を発現できる機能性膜を、安定して形成することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】本発明の成膜装置の一例を概念的に示す図である。
【図2】図1に示す成膜装置の一部を示す部分拡大図である。
【図3】(A)および(B)は、本発明の成膜装置の他の一例を概念的に示す部分拡大図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明の成膜装置について、添付の図面を用いて、詳細に説明する。
【0020】
図1に、本発明の成膜装置の一例を概念的に示す。なお、図1においては、アース部材22の一部を断面で示している。
なお、図1に示す成膜装置10は、ドラム30とシャワー電極20との間のシャワー電極20の上流側および下流側の端部にプラズマ抑制部材24を配置した以外は、公知のCCP−CVDによるロール・ツー・ロールの成膜装置である。
【0021】
図示例の成膜装置10は、長尺な基材Z(フィルム原反)を長手方向に搬送しつつ、この基材Zの表面にプラズマCVDによって、目的とする機能を発現する膜を成膜(製造/形成)して、機能性フィルムを製造するものである。
また、この成膜装置10は、長尺な基材Zをロール状に巻回してなる基材ロール32から基材Zを送り出し、長手方向に搬送しつつ機能膜を成膜して、機能膜を成膜した基材Z(すなわち、機能性フィルム)をロール状に巻き取る、いわゆるロール・ツー・ロール(Roll to Roll)による成膜を行なう装置である。
【0022】
図2に示す成膜装置10は、基材Zに、プラズマCVDによる膜を成膜することができる装置であって、真空チャンバ12と、この真空チャンバ12内に形成される、巻出し室14と、成膜室18と、ドラム30とを有して構成される。
【0023】
成膜装置10においては、長尺な基材Zは、巻出し室14の基材ロール32から供給され、ドラム30に巻き掛けられた状態で長手方向に搬送されつつ、成膜室18において、成膜され、次いで、再度、巻出し室14において巻取り軸34に巻き取られる(ロール状に巻回される)。
【0024】
ドラム30は、中心線を中心に図中反時計方向に回転する円筒状の部材である。
ドラム30は、後述する巻出し室14のガイドローラ40aよって所定の経路で案内された基材Zを、周面の所定領域に掛け回して、所定位置に保持しつつ長手方向に搬送して、成膜室18内に搬送して、再度、巻出し室14のガイドローラ40bに送る。
【0025】
ここで、ドラム30は、後述する成膜室18のシャワー電極20の対向電極としても作用(すなわち、ドラム30とシャワー電極20とで電極対を構成する。)するものであり、アース(接地)されている。
【0026】
なお、必要に応じて、ドラム30には、ドラム30にバイアスを印加するためのバイアス電源を接続してもよい。あるいは、アースとバイアス電源とを切り替え可能に接続してもよい。
バイアス電源は、各種の成膜装置で利用されている、バイアスを印加するための高周波電源やパルス電源等の公知の電源が、全て利用可能である。
【0027】
巻出し室14は、真空チャンバ12の内壁面12aと、ドラム30の周面と、内壁面12aからドラム30の周面の近傍まで延在する隔壁36aおよび36bとによって構成される。
ここで、隔壁36aおよび36bの先端(真空チャンバ12の内壁面と逆端)は、搬送される基材Zに接触しない可能な位置まで、ドラム30の周面に近接し、巻出し室14と、成膜室18とを、略気密に分離する。
【0028】
このような巻出し室14は、前述の巻取り軸34と、ガイドローラ40aおよび40bと、回転軸42と、真空排気手段46とを有する。
【0029】
ガイドローラ40aおよび40bは、基材Zを所定の搬送経路で案内する通常のガイドローラである。また、巻取り軸34は、成膜済みの基材Zを巻き取る、公知の長尺物の巻取り軸である。
【0030】
図示例において、長尺な基材Zをロール状に巻回してなるものである基材ロール32は、回転軸42に装着される。また、基材ロール32が、回転軸42に装着されると、基材Zは、ガイドローラ40a、ドラム30、および、ガイドローラ40bを経て、巻取り軸34に至る、所定の経路を通される(挿通される)。
成膜装置10においては、基材ロール32からの基材Zの送り出しと、巻取り軸34における成膜済み基材Zの巻き取りとを同期して行なって、長尺な基材Zを所定の搬送経路で長手方向に搬送しつつ、成膜室18における成膜を行なう。
【0031】
真空排気手段46は、巻出し室14内を所定の真空度に減圧するための真空ポンプである。真空排気手段46は、巻出し室14内を、成膜室18の圧力(成膜圧力)に影響を与えない圧力(真空度)にする。
【0032】
基材Zの搬送方向において、巻出し室14の下流には、成膜室18が配置される。
成膜室18は、内壁面12aと、ドラム30の周面と、内壁面12aからドラム30の周面の近傍まで延在する隔壁36aおよび36bとによって構成される。
成膜装置10において、成膜室18は、一例として、CCP(Capacitively Coupled Plasma 容量結合型プラズマ)−CVDによって、基材Zの表面に成膜を行なうものであり、シャワー電極20と、アース部材22と、プラズマ抑制部材24と、原料ガス供給手段58と、高周波電源60と、真空排気手段62とを有する。
【0033】
シャワー電極20は、成膜装置10において、CCP−CVDによる成膜の際に、ドラム30と共に電極対を構成する成膜電極である。図示例において、シャワー電極20は、一例として、中空の略直方体状であり、1つの最大面である放電面をドラム30の周面に対面して配置される。また、ドラム30との対向面である放電面には、多数の貫通穴が全面的に形成される。シャワー電極20は、その放電面と、電極対を形成するドラム30の周面との間で、成膜のためのプラズマを生成し、成膜領域を形成する。
なお、図示例においては、好ましい態様として、シャワー電極20の放電面は、ドラム30の周面に沿う様に湾曲しているが、平板状であってもよい。
また、シャワー電極20とドラム30との間の距離は10〜50mmが好ましい。
【0034】
アース部材22は、シャワー電極20からの異常放電を抑制するための、導電性の接地された板状部材である。
図2に、シャワー電極20の近傍の拡大図を示す。
図1および図2に示すように、アース部材22は、シャワー電極20の放電面以外の面を全面的に覆うようにそれぞれ対面して配置されており、基材Zの搬送方向において、シャワー電極20の上流側に設けられるアース部材22aと、下流側に設けられるアース部材22bと、シャワー電極20の、基材Zの搬送方向に平行な面にそれぞれ対面して設けられるアース部材22cおよび22d(図示せず)とを有している。
また、アース部材22のドラム30側の端面の位置は、シャワー電極20の端面の高さと同じ位置になるように配置されている。したがって、図示例においては、アース部材22cおよび22dのシャワー電極20側の端面の形状は、シャワー電極20の放電面の湾曲に合わせて形成されている。
【0035】
プラズマ抑制部材24aおよび24bは、成膜領域で生成されるプラズマの端部を遮蔽することにより、基材Zがプラズマ端部に曝露されることを防止するためのものである。
図2に示されるように、プラズマ抑制部材24aは、基材Zの搬送方向において、成膜領域の上流側(入り口側)に配置され、プラズマ抑制部材24bは、成膜領域の下流側(出口側)に配置される。
なお、プラズマ抑制部材24aとプラズマ抑制部材24bとは、配置位置が異なる以外は、基本的に、同様の構成および作用を有するものであるので、プラズマ抑制部材24bは必要な説明のみを行ない、以下の説明は、プラズマ抑制部材24aを代表例として行なう。
【0036】
プラズマ抑制部材24aは、絶縁性で、ドラム30の周面に沿って湾曲した板状部材であり、シャワー電極20とドラム30との間で生成されるプラズマの入り口側の端部を覆うように配置される。具体的には、プラズマ抑制部材24aは、シャワー電極の、入り口側の端面近傍に配置され、基材Zの搬送方向に直交する方向(幅方向)には、シャワー電極20の幅方向を全面的に覆うように形成されている。
プラズマ抑制部材24aをプラズマの端部に配置することで、プラズマの端部を基材Zに対して遮蔽することができ、基材Zがプラズマの端部に曝露されることを防止すると共に、プラズマ抑制部材24a近傍の電界を弱める。
【0037】
前述のように、プラズマCVDによる成膜において、生成されるプラズマは、プラズマが生成される領域の端部の性質が、中央部とは異なり、プラズマの端部は、中央部に比べてエネルギが高くなる傾向がある。そのため、基材がプラズマの端部に曝露され、基材にダメージが発生してしまうことを防止するため、バッチ式のプラズマCVD成膜装置においては、電極を基材よりも大きくして、生成されるプラズマが、基材よりも十分大きくすることにより、基材がプラズマの端部に曝露されることを防止している。
また、ロール・ツー・ロールの成膜装置においても、基材の搬送方向に直交する方向、すなわち、基材の幅方向は、電極を基材よりも大きくすることで、基材がプラズマの端部に曝露されることを防止している。
【0038】
しかしながら、ロール・ツー・ロールの成膜装置において、プラズマCVDによる成膜を行う場合には、搬送される基材が成膜領域を通過する際に、必ずプラズマの端部を通過するため、成膜領域の入り口や出口側では、基材の表面や成膜された機能性膜の表面にダメージを受けてしまう。そのため、成膜された機能性膜が、目的とする機能を発現できなかったり、目的とする機能を発現する機能性膜を安定して形成することができない。
【0039】
これに対して、本発明の成膜装置10は、成膜手段が電極対の間でプラズマを生成する領域の、基材搬送方向の上流側および下流側の少なくとも一方の端部に配置される絶縁性のプラズマ抑制部材を有する。そのため、成膜領域の入り口側および出口側で、基材Zがエネルギの高いプラズマの端部に曝露されることを防止することができると共に、プラズマ端部の電界集中を弱めることで、基材が成膜領域を通過する際に、基材や機能性膜の表面がダメージを受けることを防止している。
加えて、成膜領域の入り口側では、プラズマ抑制部材24aにより、プラズマの端部は遮蔽するものの、ラジカル(プラズマに励起された原料ガス)がプラズマ抑制部材24aと基材Zとの間に回り込み、基材Z上に薄く成膜されるので、これが基材Zを保護する膜となり、成膜領域でプラズマに曝露された際のダメージを軽減することができる。
したがって、本発明の成膜装置10は、目的とする機能を発現できる機能性膜を、安定して形成することができる。
【0040】
ここで、基材Zの搬送方向における、プラズマ抑制部材24aの配置位置は、シャワー電極20の入り口側端面から、プラズマ抑制部材24aの端面(シャワー電極20側端面)までの距離をxとすると、−10〜20mmが好ましい。すなわち、シャワー電極20から離れる方向に10mmから、シャワー電極側へ20mmの範囲が好ましい。
同様に、下流側のプラズマ抑制部材24bの配置位置は、シャワー電極20の出口側端面から、プラズマ抑制部材24bの端面(シャワー電極20側端面)までの距離をyとすると、−10〜20mmが好ましい。
プラズマ抑制部材(24a、24b)を、シャワー電極20側に配置するほど、すなわち、成膜領域の内側に入れるほど、プラズマ端部を遮蔽することができるが、成膜領域の内側に入れすぎると、実際に成膜する領域が短くなるため成膜レートが低下し、また、放電が不安定になるおそれがある。そのため、距離xおよびyは20mm以下が好ましい。
また、プラズマ抑制部材(24a、24b)が、シャワー電極20から離れるほど、プラズマ端部の遮蔽効果が小さくなる。したがって、距離xおよびyは、−10mm以上が好ましい。
なお、距離xと距離yとは、同じであっても異なっていてもよい。
【0041】
また、プラズマ抑制部材24aとドラム30との間の距離d、および、プラズマ抑制部材24bとドラムとの間の距離hは、0.5〜5mmとすることが好ましい。
プラズマ抑制部材(24a、24b)とドラム30との間の距離が大きすぎると、プラズマが、プラズマ抑制部材と基材Z(ドラム30)との間に回り込んでしまうため、基材Zがプラズマに曝露され、基材Zへのダメージ軽減の効果が薄れる。
また、プラズマ抑制部材(24a、24b)とドラム30との間の距離が小さすぎると、ラジカルがプラズマ抑制部材とドラム30との間に回り込む量が少なくなり、ラジカルの回り込みによる成膜が少なくなり基材Z表面が保護されないため、プラズマに曝露された際のダメージを軽減する効果が薄れる。したがって、距離dおよび距離hは、0.5〜5mmとすることが好ましい。
【0042】
また、基材Zの搬送方向における、プラズマ抑制部材の長さは、特に限定はなく、プラズマ端部の影響を低減できればよいが、好ましくは、隣接するアース部材22を全面的に覆うように形成されることが好ましい。すなわち、プラズマ抑制部材24aは、アース部材22aを覆うように形成されることが好ましく、プラズマ抑制部材24bは、アース部材22bを覆うように形成されることが好ましい。
プラズマ抑制部材(24a、24b)が、アース部材22を覆うように形成されることにより、確実に、プラズマの端部を基材Zから遮蔽することができる。
【0043】
また、図示例においては、プラズマ抑制部材24を、成膜領域の上流側および下流側に配置したが、本発明は、これに限定はされず、成膜領域の上流側のみに設けてもよいし、下流側のみに設けてもよい。基材Z表面のダメージを低減することにより、目的とする機能を好適に発現できる点で、少なくとも上流側に設けるのが好ましい。
【0044】
また、プラズマ抑制部材24a、24bの材料としては、アルミナ、窒化アルミニウム、窒化ホウ素、ケイ酸マグネシウム等の絶縁性の材料や、ステンレスの表面にアルミナをコーティングしたものなどを用いることができる。
【0045】
また、プラズマ抑制部材24aおよび24bは、プラズマに曝されるため、高温になるので、プラズマ抑制部材24aおよび24bを冷却する冷却手段を有することが好ましい。
【0046】
原料ガス供給手段52は、プラズマCVD装置等の真空成膜装置に用いられる公知のガス供給手段であり、シャワー電極20の内部に、原料ガスを供給する。
前述のように、シャワー電極20のドラム30との対向面には、多数の貫通穴が供給されている。従って、シャワー電極20に供給された原料ガスは、この貫通穴から、シャワー電極20とドラム30との間に導入される。
【0047】
高周波電源60は、シャワー電極20に、プラズマ励起電力を供給する電源である。高周波電源60も、各種のプラズマCVD装置で利用されている、公知の高周波電源が、全て利用可能である。
さらに、真空排気手段62は、プラズマCVDによるガスバリア膜の成膜のために、成膜室18内を排気して、所定の成膜圧力に保つものであり、真空成膜装置に利用されている、公知の真空排気手段である。
【0048】
本発明の機能性フィルムの製造方法において、無機膜を成膜するため用いる反応ガスには、特に限定はなく、形成する無機膜に応じた公知の反応ガスが、全て利用可能である。
例えば、無機膜としてガスバリア膜等として利用される窒化珪素膜を成膜する場合であれば、反応ガスして、シランガスと、アンモニアガスおよび/または窒素ガスとを用いればよく、同じく酸化珪素膜を形成する場合であれば、反応ガスとして、シランガスと酸素ガスとを用いればよい。
なお、本発明の機能性フィルムの製造方法においては、必要に応じて、反応ガスに加え、ヘリウムガス、ネオンガス、アルゴンガス、クリプトンガス、キセノンガス、ラドンガスなどの不活性ガス等の各種のガス、水素ガス等を併用してもよい。
【0049】
なお、本発明において、CVD成膜室における成膜方法は、図示例のCCP−CVDに限定はされず、例えばICP−CVDや、直流(DC)プラズマCVD、マイクロ波プラズマCVDなど、他のCVDにも利用可能である。
特に、広範囲に安定してプラズマを立てることができロール・ツー・ロールに適している、交流電源を使用することにより絶縁性基板上にも成膜できる、などの理由により、CCP−CVDを行う成膜装置に好適に適用することができる。
【0050】
また、本発明の成膜装置において、CVD成膜室が成膜する膜にも、特に限定はなく、CVDによって成膜可能なものが、全て、利用可能であるが、特に、酸化シリコン、酸窒化シリコン、酸化アルミニウム、窒化シリコン等の無機膜や、DLC(ダイアモンドライクカーボン膜)、透明導電膜などが好ましく例示される。特に、透明かつ緻密な膜を得やすいとの理由により、アモルファス窒化シリコン膜の成膜に好適に適用できる。
【0051】
また、成膜領域の入り口側および出口側に配置するプラズマ抑制部材に加えて、成膜領域の幅方向の端部にも、絶縁性の部材を配置することが好ましい。
【0052】
図3(A)および(B)に、本発明の成膜装置の他の一例の部分拡大図を示す。図3(B)は、図3(A)を、基材Zの搬送方向下流側から見た図である。
なお、図3(A)においては、アース部材22の一部、および、図中手前側の絶縁性部材26の図示を省略している。また、図3(B)においては、アース部材22の一部、絶縁性部材26の一部、プラズマ抑制部材24bの図示を省略している。
また、図3(A)に示す成膜装置は、絶縁性部材26を有する以外は、成膜装置10と同じ構成を有するので、同じ部位には、同じ符号を付し、以下の説明は異なる部位を主に行なう。
【0053】
絶縁性部材26は、成膜領域で生成されるプラズマの端部を遮蔽することにより、基材Zがプラズマ端部に曝露されることを防止するためのものである。
絶縁性部材26は、絶縁性で、ドラム30の周面に沿って湾曲した板状部材であり、基材Zの搬送方向に直交する方向(幅方向)において、成膜領域の両端部、すなわち、シャワー電極20の幅方向の端部をそれぞれ覆うように2つ配置されている。
絶縁性部材26を、プラズマの幅方向の端部に配置することで、基材Zが幅方向のプラズマ端部に曝露されてダメージを受けることを防止することができるので、シャワー電極20の幅に対する基材Zの幅の比を大きくすることができ、より幅広な基材Zに、ダメージを与えることなく、好適に成膜を行うことができる。
【0054】
また、本実施例においては、好ましい態様として、長尺な基材を、基材の長手方向に搬送しつつ、ドラムに巻き掛けて成膜を行なう、いわゆる、ロール・ツー・ロール(Roll to Roll)の構成としたが、本発明はこれに限定はされず、ロール・ツー・ロールの装置であって、成膜室に、対面して配置される板状の電極対を設け、この電極対の間を、長尺な基材を長手方向に搬送すると共に、基材と電極との間に原料ガスを供給してプラズマCVDによる成膜を行なう構成としてもよい。
【0055】
また、図示例の成膜装置のように、CCP−CVDによって成膜を行う場合は、電極対の間で生成されるプラズマの端部と、電極対(成膜電極)の端部(基材Zの搬送方向の端部)の位置は、ほぼ一致するので、成膜電極の端部にプラズマ抑制部材を配置する構成としたが、本発明はこれに限定はされず、例えばICP−CVDのように、電極対の端部とプラズマの端部とが一致しない場合には、プラズマの端部にプラズマ抑制部材を配置すればよい。電極対の端部とプラズマの端部とが一致しない場合には、目視やシミュレーションにてプラズマの形状を確認して、プラズマの端部の位置にプラズマ抑制部材を配置すればよい。
【0056】
以上、本発明の成膜装置について詳細に説明したが、本発明は、上述の例に限定はされず、本発明の要旨を逸脱しない範囲において、各種の改良や変更を行なってもよいのは、もちろんである。
【実施例】
【0057】
以下、本発明の具体的実施例を挙げて、本発明について、より詳細に説明する。
【0058】
[実施例1]
図1に示す成膜装置を用いて、基材にガスバリア膜として窒化珪素膜を形成した。
【0059】
基材は、幅500mm、厚さ100μm、表面粗さ0.7nmのPETフィルムを用いた。
また、原料ガスとしては、シランガス(SiH)、アンモニアガス(NH)、窒素ガス(N)、および、水素ガス(H)を用いた。
また、成膜圧力は30Paとした。
さらに、シャワー電極20に接続される高周波電源60として、周波数13.56MHzの高周波電源を用い、シャワー電極20に供給したプラズマ励起電力は2000Wとした。
また、ドラム30として、直径1000mmのドラムを用いた。また、ドラム30は接地した。
また、成膜する機能膜(窒化珪素膜)の膜厚は50nmとした。
【0060】
成膜領域の入り口側に配置されるプラズマ抑制部材24aとして、アルミナ製の部材を用いた。プラズマ抑制部材24aの位置は、シャワー電極20端部からの距離xを0mmとし、ドラム30との距離dを3mmとした。
また、成膜領域の出口側に配置されるプラズマ抑制部材24bとして、アルミナ製の部材を用いた。プラズマ抑制部材24bの位置は、シャワー電極20端部からの距離yを0mmとし、ドラム30との距離hを3mmとした。
【0061】
このような条件の下、成膜装置10において、基材Zに機能膜の成膜を10m行なった後、AFM(原子間力顕微鏡)にて表面粗さの測定を行い基材が受けたダメージを評価した。
測定の結果、表面粗さは、1.5nmであった。
【0062】
[実施例2]
プラズマ抑制部材24aおよび24bとして、ステンレス製の母材の表面に厚さ200μmのアルミナコーティングをした部材を用いた以外は、実施例1と同様にして、基材Zに機能膜の成膜を行い、表面粗さの測定を行った。
測定の結果、表面粗さは、1.5nmであった。
【0063】
[実施例3]
プラズマ抑制部材24aとドラム30との距離dを0.5mmとし、プラズマ抑制部材24bとドラム30との距離hを0.5mmとした以外は、実施例1と同様にして、基材Zに機能膜の成膜を行い、表面粗さの測定を行った。
測定の結果、表面粗さは、1.7nmであった。
【0064】
[実施例4]
プラズマ抑制部材24aとドラム30との距離dを5mmとし、プラズマ抑制部材24bとドラム30との距離hを5mmとした以外は、実施例1と同様にして、基材Zに機能膜の成膜を行い、表面粗さの測定を行った。
測定の結果、表面粗さは、1.9nmであった。
【0065】
[実施例5]
プラズマ抑制部材24aのシャワー電極20端部からの距離xを−10mmとし、プラズマ抑制部材24bのシャワー電極20端部からの距離yを−10mmとした以外は、実施例1と同様にして、基材Zに機能膜の成膜を行い、表面粗さの測定を行った。
測定の結果、表面粗さは、1.8nmであった。
【0066】
[実施例6]
プラズマ抑制部材24aのシャワー電極20端部からの距離xを10mmとし、プラズマ抑制部材24bのシャワー電極20端部からの距離yを10mmとした以外は、実施例1と同様にして、基材Zに機能膜の成膜を行い、表面粗さの測定を行った。
測定の結果、表面粗さは、1.4nmであった。
【0067】
[実施例7]
プラズマ抑制部材24aのシャワー電極20端部からの距離xを20mmとし、プラズマ抑制部材24bのシャワー電極20端部からの距離yを20mmとした以外は、実施例1と同様にして、基材Zに機能膜の成膜を行い、表面粗さの測定を行った。
測定の結果、表面粗さは、1.3nmであった。
【0068】
[比較例1]
プラズマ抑制部材24aおよび24bを配置しない以外は、実施例1と同様にして、基材Zに機能膜の成膜を行い、表面粗さの測定を行った。
測定の結果、表面粗さは、2.2nmであった。
【0069】
[比較例2]
プラズマ抑制部材24aおよび24bとして、導電性のステンレス製の部材を配置した以外は、実施例1と同様にして、基材Zに機能膜の成膜を行い、表面粗さの測定を行った。
測定の結果、表面粗さは、3.9nmであった。
結果を下記表に示す。
【表1】

【0070】
上記表1に示されるように、電極対の間のプラズマ領域の、基材搬送方向の上流側および下流側の少なくとも一方の端部に絶縁性のプラズマ抑制部材を配置した実施例は、プラズマ抑制部材を配置しない比較例1や導電性の部材を配置した比較例2と比べて、表面粗さが小さく、基材が受けたダメージが小さいことがわかる。特に、比較例2は、配置した部材が導電性であり、この部材に電界集中するため、基材のダメージがより大きくなった。
また、実施例1および2から、絶縁性の部材であれば、プラズマ抑制部材の材料が絶縁性のコーティングをされたものであっても、同様の効果を得ることができることがわかる。
【0071】
また、実施例1、3および4から、ドラムとプラズマ抑制部材との間の距離が遠すぎると、プラズマ抑制部材と基材との間にプラズマが回り込んでしまい、基材へのダメージ軽減の効果が小さくなり、ドラムとプラズマ抑制部材との間の距離が近すぎると、プラズマ抑制部材と基材との間にラジカルが回り込まなくなるため、やはり、基材へのダメージ軽減の効果が小さくなることがわかる。したがって、ドラム(基材)とプラズマ抑制部材との間の距離は、0.5〜5mmの間が好ましいことがわかる。
【0072】
また、実施例1、5、6および7から、プラズマ抑制部材とシャワー電極の端部との距離は、プラズマ抑制部材が成膜領域の内側に入るほどよいが、内側に入りすぎると成膜領域が短くなるので、成膜レートが低下したり、放電の不安定化を招くおそれがある。また、シャワー電極の端部から離れた位置に配置しても効果はあるが、離れすぎると、基材がプラズマの端部に曝露されてしまい、基材がダメージを受ける。したがって、プラズマ抑制部材とシャワー電極の端部との距離は、内側20mmから外側10mmの範囲が好ましく、特に、0mmが好ましいことがわかる。
以上の結果より、本発明の効果は明らかである。
【符号の説明】
【0073】
10 成膜装置
12 真空チャンバ
12a 内壁面
14 巻出し室
18 成膜室
20 シャワー電極
22 アース部材
24 プラズマ抑制部材
26 絶縁性部材
30 ドラム
32 基材ロール
34 巻取り軸
36 隔壁
40 ガイドローラ
42 回転軸
46、62 真空排気手段
58 原料ガス供給手段
60 高周波電源
Z 基材

【特許請求の範囲】
【請求項1】
長尺な基材を長手方向に搬送しつつ、搬送される前記基材を挟むように配置された電極対を有する成膜手段を用いてプラズマCVDによって、前記基材に成膜を行なう成膜装置であって、
前記成膜手段が前記電極対の間でプラズマを生成する領域の、前記基材搬送方向の上流側および下流側の少なくとも一方の端部に配置される絶縁性のプラズマ抑制部材を有することを特徴とする成膜装置。
【請求項2】
前記プラズマ抑制部材が、前記領域の上流側の端部に配置される請求項1に記載の成膜装置。
【請求項3】
前記プラズマ抑制部材が、前記領域の上流側および下流側の端部に配置される請求項1に記載の成膜装置。
【請求項4】
前記電極対が、前記基材の成膜される面に対面して配置される成膜電極と、前記基材を挟んで前記成膜電極と対面して配置される対向電極とからなり、
前記プラズマ抑制部材が、前記基材と前記成膜電極との間に配置される請求項1〜3のいずれかに記載の成膜装置。
【請求項5】
前記プラズマ抑制部材が、前記成膜電極の、前記基材搬送方向の上流側および下流側の少なくとも一方の端部を覆うように配置される請求項4に記載の成膜装置。
【請求項6】
前記プラズマ抑制部材の端部が、前記成膜電極の端部の内側20mmから外側10mmの範囲にある請求項4または5に記載の成膜装置。
【請求項7】
前記プラズマ抑制部材と前記基材との間の距離が、0.5〜5mmである請求項4〜6のいずれかに記載の成膜装置。
【請求項8】
前記成膜電極の、前記基材と対面する面以外の面の少なくとも一部を覆うように配置される、接地された導電性のアース部材を有する請求項4〜7のいずれかに記載の成膜装置。
【請求項9】
前記対向電極が、前記基材を周面の所定領域に巻き掛けて搬送する円筒状のドラム電極である請求項4〜8のいずれかに記載の成膜装置。
【請求項10】
さらに、前記成膜電極の、前記基材の搬送方向と直交する方向の端部に配置される絶縁性の部材を有する請求項4〜9のいずれかに記載の成膜装置。
【請求項11】
前記プラズマ抑制部材が、全て絶縁性の材料からなる請求項1〜10のいずれかに記載の成膜装置。
【請求項12】
前記プラズマ抑制部材が、表面を絶縁膜でコーティングされたものである請求項1〜10のいずれかに記載の成膜装置。
【請求項13】
前記プラズマ抑制部材を冷却する冷却手段を有する請求項1〜12のいずれかに記載の成膜装置。
【請求項14】
前記電極対の間の距離が、10〜50mmである請求項1〜13のいずれかに記載の成膜装置。
【請求項15】
前記成膜手段が、CCP−CVDによって成膜を行うものである請求項1〜14のいずれかに記載の成膜装置。
【請求項16】
前記成膜手段が、アモルファス窒化ケイ素膜を成膜するものである請求項1〜15のいずれかに記載の成膜装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2013−44015(P2013−44015A)
【公開日】平成25年3月4日(2013.3.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−182410(P2011−182410)
【出願日】平成23年8月24日(2011.8.24)
【出願人】(306037311)富士フイルム株式会社 (25,513)
【Fターム(参考)】