説明

手動変速機のシフト機構

【課題】手動変速機のシフト機構において、車体の振動によるシフトレバーのびゞり音の発生を低下させる。
【解決手段】変速機ケーシング1に摺動軸受部1dを介して支持された作動シャフト3は、半径方向に偏心して設けられたソケット部13bの円筒孔13cに摺動自在に設けられた摺動体14にシフトレバー2先端の小球部2bが嵌合されて、回転方向及び軸線方向に移動されて変速歯車を切り換える。摺動体14の一端部には半径方向外向きに突出するフランジ部14dが形成され、このフランジ部の軸線方向内端面とこれと対向するソケット部の一端面との間に弾性部材15を介在させ、シフトレバーの揺動の中立位置付近では弾性部材はフランジ部の内端面とソケット部の一端面との間に挟まれて弾性変形され、この弾性部材の弾性反力により、作動シャフトは摺動軸受部の内面の片側に弾性的に押圧される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、手動変速機において変速歯車を切り換えるシフト機構、特に車体の振動によるシフトレバーのびゞり音の発生を低下させるようにした手動変速機のシフト機構に関する。
【背景技術】
【0002】
手動変速機において変速歯車を切り換えるシフト機構としては、例えば図4及び図5に示すようなものがある。図4に示すように、この手動変速機の変速機ケーシング1は、互いに一体的に結合されたケーシング本体1aとシフト部ケース1bにより構成されており、シフト部ケース1bの上壁の図において右側となる位置は筒状部1cにより上側に開口されている。
【0003】
ケーシング本体1a内には、左右方向に延びるシフトアンドセレクトシャフト7が、1対のブッシュ(摺動軸受部)1eを介して回転方向及び軸線方向に往復動自在に支持され、ケーシング本体1aの上側となるシフト部ケース1b内にはシフトアンドセレクトシャフト7と平行に延びるコントロールシャフト(作動シャフト)3が、1対のブッシュ(摺動軸受部)1dを介して回転方向及び軸線方向に往復動自在に支持されている。
【0004】
コントロールシャフト(作動シャフト)3及びシフトアンドセレクトシャフト7に根本部がそれぞれ固定されたハウジングレバー5及びジョイントレバー6は、互いに近づくように半径方向に延び、ハウジングレバー5の下端部に形成された球状部5aは、ジョイントレバー6の上端部に半径方向に延びるよう形成された円筒孔6aに回動及び摺動自在に嵌合されている。このハウジングレバー5とジョイントレバー6を介してコントロールシャフト3とシフトアンドセレクトシャフト7は連動され、コントロールシャフト3が回転方向及び軸線方向に往復動されれば、シフトアンドセレクトシャフト7も回転方向及び軸線方向に往復動される。
【0005】
図4において右側のブッシュ1dから突出するコントロールシャフト3の右端部には、その回転軸線O2から下方に離れたソケット部3bが右下方に延びるアーム部3aを介して一体的に形成され、このソケット部3bにはコントロールシャフト3の回転軸線O2から半径方向に延びる円筒孔3cが形成されている。ソケット部3bはコントロールシャフト3の回転方向及び軸線方向の往復動に伴い、シフト部ケース1bの筒状部1cの中心線の延長部付近を中心とする範囲内で移動される。
【0006】
シフトレバー2はその上下方向中間部に固着された略半球状の支持部2aを有しており、この支持部2aは筒状部1c内の底部に嵌合固着された球面受座8に摺動自在に当接され、筒状部1c内に固定されたスプリング受け9aとの間に介装されたコイルスプリング9により弾性的に押圧されている。これによりシフトレバー2は、支持部2aの中心を回転中心O1として揺動自在である。シフトレバー2は支持部2aから小球部2bと反対側が大きく上方に突出され、その上端部には変速操作を行うためのグリップ(図示省略)が設けられている。筒状部1cの開口部の外周とシフトレバー2との間にはゴム製などの防塵用のブーツ(図示省略)が設けられている。
【0007】
図4及び図5に示すように、支持部2aから下方に離れたシフトレバー2の下端部に形成された小球部2bは、円筒状の摺動体4の内部に形成された球面穴4aに回動のみ可能に嵌合され、この摺動体4の外周面はソケット部3bの円筒孔3c内に軸線方向摺動自在に嵌合されている。摺動体4はナイロンなどの適度の弾性のある合成樹脂の一体成型品であり、球面穴4aの上側には外側が開いてシフトレバー2を通す円錐状の逃げ孔4bが形成され、下側には貫通孔4cが形成されている。このように、球面穴4aと逃げ孔4bと貫通孔4cが形成されて筒状となった摺動体4は、円周方向の1箇所に長手方向全長にわたり設けられたスリット(図示省略)により切り離されて断面C字状とされ。これにより摺動体4を一時的に弾性変形させて開いて小球部2bを球面穴4a内に押し込んで嵌合させることができ、この状態で摺動体4の外周面はソケット部3bの円筒孔3cに摺動自在に嵌合されており、摺動体4が円筒孔3cに嵌合された状態では開いて小球部2bが球面穴4aから離脱されることはない。
【0008】
この図4及び図5に示す従来技術では、図5(a) に示すように、小球部2bの中心がコントロールシャフト3の回転軸線O2と支持部2aの回転中心O1を含む中立面P上にある変速機の中立位置では、シフトレバー2の支持部2aの回転中心O1とコントロールシャフト3の回転軸線O2は、小球部2bの中心に対し同一側に配置されている。またこの中立位置ではハウジングレバー5の球状部5aの中心も中立面P上に位置している。この状態からグリップを掴んでシフトレバー2をその支持部2aの回転中心O1を通りコントロールシャフト3の回転軸線O2と平行(従って図4の紙面と平行)に延びる軸線を中心として揺動すれば、図5(b) に示すように、シフトレバー2の小球部2bの中心は支持部2aの回転中心O1を中心とする半径r1の円弧R1に沿って移動し、一方摺動体4を摺動自在に支持するコントロールシャフト3のソケット部3bはコントロールシャフト3の回転軸線O2を中心とする半径r2の円弧R2に沿って移動する。回転中心O1と回転軸線O2は小球部2bの中心に対し同一側に配置されており、半径r2は半径r1より小さいので、円弧R2は中立面P上において円弧R1に上側から内接されている。
【0009】
この2つの円弧R1,R2の間の距離は、図5(a)及び (b) に示すように、中立面Pからのシフトレバー2の揺動角度が0から増大するにつれて0から次第に増大するが、この距離の増大は摺動体4が円筒孔3c内をソケット部3bに対し下向きに摺動することにより許容されるので、シフトレバー2及びソケット部3bは拘束されることなくそれぞれの円弧に沿って自由に揺動される。このようなシフトレバー2によるソケット部3bの揺動によりコントロールシャフト3は回動され、これに連動されるシフトアンドセレクトシャフト7も回動され、その一端に半径方向に突出して形成されたレバー部7aが揺動されて、その先端部が動力伝達を行う複数組の変速歯車を切り換える複数のシフトフォーク(何れも図示省略)のうちの1つに係合してそのシフトフォークを選択する。
【0010】
またこのようにしてシフトレバー2により1つのシフトフォークを選択した状態において、シフトレバー2をその支持部2aの回転中心O1を通り図4の紙面と直交する軸線を中心として揺動すれば、支持部2aの回転中心O1を含みコントロールシャフト3の回転軸線O2と直交する第2の中立面Q(図4参照)からのシフトレバー2の揺動角度が増大し、それにつれてコントロールシャフト3及びこれに連結されたシフトアンドセレクトシャフト7は軸線方向に移動され、前述のようにして選択されたシフトフォークを軸線方向にシフトして1組の変速歯車による動力伝達を行う。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
上述したようなシフト機構においては、変速機ケーシング1に設けられる1対のブッシュ1dは、コントロールシャフト3を回転方向及び軸線方向に往復動自在に支持するものであるので、コントロールシャフト3との間に多少の隙間を設けなければならない。一方、シフトレバー2は支持部2aから小球部2bと反対側に大きく突出され、その先端部には変速操作を行うためのグリップが設けられているので、エンジンの作動により生じる不釣り合い力などにより車体が振動されると、シフトレバー2は支持部2aを中心として振動される。この振動はシフトレバー2の小球部2b及び摺動体4を介してコントロールシャフト3のソケット部3bに伝達され、コントロールシャフト3を各ブッシュ1dとの間の隙間か許す範囲内において変速機ケーシング1に対し移動させるのでびゞり音を生じるという問題がある。このびゞり音は、摩耗などによりブッシュ1dとコントロールシャフト3の間の隙間が増大すれば大きくなる。またエンジン共振状態ではシフトレバー2も大きく振動されるのでこのびゞり音も大きくなる。本発明はこのようなびゞり音の発生を低下させることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
このために、本発明による手動変速機のシフト機構は、変速機ケーシングに摺動軸受部を介して回転方向及び軸線方向に往復動自在に支持された作動シャフトと、この作動シャフトにその回転軸線から半径方向に離れて一体的に設けられて同作動シャフトに対し半径方向に延びる円筒孔が形成されたソケット部と、この円筒孔に外周面が軸線方向摺動自在に嵌合され内部に球面穴が形成された摺動体と、支持部を介して変速機ケーシングに揺動自在に支持され支持部から離れた位置に摺動体の球面穴に回動のみ可能に嵌合される小球部が形成されたシフトレバーよりなり、シフトレバーをその支持部を中心として揺動することにより摺動体をソケット部に対し軸線方向に摺動させるとともに作動シャフトを回転方向及び軸線方向に往復動させて変速歯車の切り換えを行い、何れの変速歯車による動力伝達もなされていない中立位置付近においては、シフトレバーの小球部の中心は支持部の回転中心を含みかつ作動シャフトの回転軸線を含みまたはこの回転軸線と直交する中立面上にあるようにした手動変速機の操作機構において、摺動体には、小球部の中心が中立面上にある中立位置からシフトレバーが支持部の回転中心回りに揺動して小球部の中心が中立面から離れるにつれてソケット部から突出する側となる一端部に、半径方向外向きに突出するフランジ部を形成し、このフランジ部の軸線方向内端面とこれと対向するソケット部の一端面との間に弾性部材を介在させ、小球部の中心が中立面上にある中立位置付近では弾性部材はフランジ部の内端面とソケット部の一端面との間に挟まれて弾性変形されるよう構成したことを特徴とするものである。
【0013】
前項に記載の手動変速機のシフト機構において、シフトレバーの支持部の回転中心と作動シャフトの回転軸線は、中立面上にある小球部の中心に対し同一側に配置してもよいし、あるいは中立面上にある小球部の中心に対し反対側に配置してもよい。
【0014】
前各項に記載の手動変速機のシフト機構において、変速機ケーシングに回転方向及び軸線方向に往復動自在に支持されるとともに変速歯車の切り換えを行うレバー部が設けられたシフトアンドセレクトシャフトをさらに備えたものとし、作動シャフトはシフトアンドセレクトシャフトを回転方向及び軸線方向に往復動させるように連結してもよいし、あるいは作動シャフトは変速歯車の切り換えを行うレバー部を備えたシフトアンドセレクトシャフトとしてもよい。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、摺動体には、小球部の中心が中立面上にある中立位置からシフトレバーが支持部の回転中心回りに揺動して小球部の中心が中立面から離れるにつれてソケット部から突出する側となる一端部に、半径方向外向きに突出するフランジ部を形成し、このフランジ部の軸線方向内端面とこれと対向するソケット部の一端面との間に弾性部材を介在させ、小球部の中心が中立面上にある中立位置付近では弾性部材はフランジ部の内端面とソケット部の一端面との間に挟まれて弾性変形されるよう構成したので、シフトレバーが、何れの変速歯車による動力伝達もなされていない中立位置にある状態では、上述のように弾性変形される弾性部材の弾性反力により作動シャフトは摺動軸受部の内面の片側に弾性的に押圧されているので、摺動軸受部との間に隙間があっても、作動シャフトが自由に動くことはない。従って前述のようにシフトレバーが大きく振動されるエンジン共振状態においてシフトレバーから摺動体を介してソケット部に振動が伝達されても、作動シャフトと摺動軸受部との間の隙間の存在によるびゞり音が生じることはない。
【0016】
また上述のように弾性部材が弾性変形されればその弾性反力によりシフトレバーの操作に必要な操作力が増大してシフトフィーリングが低下するおそれがあるが、本発明によれば中立位置またはその付近以外においては、フランジ部の内端面とソケット部の一端面との間の距離は増大し、弾性部材がフランジ部とソケット部の間に挟まれて弾性変形されることはなくなり、従って弾性部材の弾性反力によるシフトレバーの操作力が増大してシフトフィーリングが低下するおそれも殆どない。
【0017】
シフトレバーの支持部の回転中心と作動シャフトの回転軸線は、中立面上にある小球部の中心に対し同一側に配置した請求項2の発明と、中立面上にある小球部の中心に対し反対側に配置した請求項3の発明とは、適用する手動変速機の構造に合わせて使い分ければよい。
【0018】
変速機ケーシングに回転方向及び軸線方向に往復動自在に支持されるとともに変速歯車の切り換えを行うレバー部が設けられたシフトアンドセレクトシャフトをさらに備えたものとし、作動シャフトはシフトアンドセレクトシャフトを回転方向及び軸線方向に往復動させるように連結した請求項4の発明と、作動シャフトは変速歯車の切り換えを行うレバー部を備えたシフトアンドセレクトシャフトとした請求項5の発明とは、適用する手動変速機の構造に合わせて使い分ければよい。請求項5の発明によれば、作動シャフトとシフトアンドセレクトシャフトが共用化されるので、シフト機構の構造を全体として簡略化することができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】本発明による手動変速機のシフト機構の第1実施形態の、図4に示す従来技術の1−1断面に相当する断面図である。
【図2】本発明による手動変速機のシフト機構の第2実施形態の要部を示す側断面図である。
【図3】図2の3−3断面図である。
【図4】従来技術による手動変速機のシフト機構の要部を示す側断面図である。
【図5】図4の5−5断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
主として図1により、本発明による手動変速機のシフト機構の第1実施形態の説明をする。この第1実施形態は、図4及び図5で述べた従来技術に対し、変速機ケーシング1、シフトレバー2、ソケット部3bを除くコントロールシャフト3(作動シャフト)、ブッシュ1d、ハウジングレバー5、ジョイントレバー6及びシフトアンドセレクトシャフト7は同一であるが、コントロールシャフト3に一体的に設けられた筒状のソケット部13b及びその円筒孔13cに嵌合される摺動体14の寸法形状が相違し、また従来技術には存在しない弾性部材15が設けられている点を除き実質的に同じである。以下に、主としてその相違点につき説明する。
【0021】
ソケット部13bは、従来技術のソケット部3bと同様、変速機ケーシング1のシフト部ケース1bに1対のブッシュ(摺動軸受部)1dを介して回転方向及び軸線方向に往復動自在に支持されたコントロールシャフト3に、アーム部3aを介して回転軸線O2から下方に離れて一体的に形成され、回転軸線O2に対し半径方向に延びる円筒孔13cが形成されている。このソケット部13bは、ソケット部3bに比して径がやゝ大きく、長さがやゝ短く形成されている点が相違しているだけである。
【0022】
摺動体14は、従来技術の摺動体4と寸法形状はやゝ相違するが、同様に球面穴14aと逃げ孔14bと貫通孔14cが形成された筒状である。従来技術と同様、円錐状の逃げ孔14bを通してシフトレバー2の小球部2bが球面穴14a内に回動のみ可能に嵌合された状態で、外周面がソケット部13bの円筒孔13c内に軸線方向摺動自在に嵌合されている。この第1実施形態の摺動体14には、外側が開いた円錐状の逃げ孔14bと反対側、すなわち下側となる一端部に、半径方向外向きに突出するフランジ部14dが形成されている。ソケット部13bの円筒孔13c内に嵌合された状態で、このフランジ部14dの軸線方向内端面とこれと対向するソケット部13bの一端面との間には、弾性ゴムや波形ワッシャなどよりなる環状の弾性部材15が介在されている。
【0023】
この第1実施形態でも、図4及び図5に示す従来技術と同様、コントロールシャフト3の回転軸線O2と支持部2aの回転中心O1を含む中立面P上にシフトレバー2の小球部2bの中心がある変速機の中立位置(図1(a) 参照)では、シフトレバー2の支持部2aの回転中心O1とコントロールシャフトの回転軸線O2は、小球部2bの中心に対し同一側に配置されている。この中立位置からグリップを掴んでシフトレバー2をその支持部2aの回転中心O1を通りコントロールシャフトの回転軸線O2と平行(従って図1の紙面と直角)に延びる軸線を中心として揺動すれば、図1(b) に示すように、シフトレバー2の小球部2bの中心は支持部2aの回転中心O1を中心とする半径r1の円弧R1に沿って移動し、一方摺動体14を摺動自在に支持するコントロールシャフトのソケット部13bはコントロールシャフトの回転軸線O2を中心とする半径r2の円弧R2に沿って移動する。前述した従来技術の場合と同様、円弧R2は中立面P上において円弧R1に上側から内接されている。
【0024】
この2つの円弧R1,R2の間の距離は、前述した従来技術と同様、中立面Pからのシフトレバー2の揺動角度が0から増大するにつれて0から次第に増大するが(図1(a) 及び(b) 参照)、この距離の増大は摺動体14が円筒孔13c内をソケット部13bに対し下向きに摺動することにより許容されるので、シフトレバー2及びソケット部13bは拘束されることなくそれぞれの円弧R1,R2に沿って自由に揺動される。中立面Pからのシフトレバー2の揺動角が増大すれば、ソケット部13bの揺動角及びコントロールシャフト3の回動角も増大され、これに連動されるシフトアンドセレクトシャフト7の回動角も増大され、その一端に半径方向に突出して形成されたレバー部7aが揺動されて、その先端部が動力伝達を行う複数組の変速歯車を切り換える複数のシフトフォーク(何れも図示省略)のうちの1つに係合してそのシフトフォークを選択する。
【0025】
このようなシフトレバー2の中立面Pからの揺動角が増大すれば、ソケット部13bの揺動及びコントロールシャフトの回動角が増大するとともに、摺動体14はソケット部13bから下向きに突出する。前述したフランジ部14dは、この突出側となる摺動体14の下端部に形成されている。このフランジ部14dの軸線方向内端面とこれと対向するソケット部13b一端面との間の距離は、図1(a) 及び(b) に示すように、シフトレバー2の小球部2bの中心が中立面P上にある中立位置において最小となり、この中立位置からの揺動角が増大するにつれて増大する。フランジ部14dとソケット部13bの間に介在される環状の弾性部材15は、小球部2bが中立位置付近にあるときはこの両者14d,13bの間に挟まれて弾性圧縮変形され、中立位置付近から少し離れれば、この弾性圧縮変形から解放されるように関係する各部品の寸法及び弾性係数などが設定されている。
【0026】
また、上述のようにグリップによりシフトレバー2を中立位置から支持部2a回りに揺動させて、1つのシフトフォークを選択した状態において、シフトレバー2をその支持部2aの回転中心O1を通り図4の紙面と直交する軸線を中心として揺動すれば、支持部2aの回転中心O1を含みコントロールシャフト3の回転軸線O2と直交する第2の中立面Q(図4参照)からのシフトレバー2の揺動角度が増大し、それにつれてコントロールシャフト3及びこれに連結されたシフトアンドセレクトシャフト7は軸線方向に移動され、前述のようにして選択されたシフトフォークを軸線方向にシフトして1組の変速歯車による動力伝達を行う。
【0027】
上述した第1実施形態によれば、シフトレバー2の小球部2bが中立面P上に位置して、何れの変速歯車による動力伝達もなされていない中立位置では、ソケット部13bは上述のように弾性変形される弾性部材15の弾性反力により図1において上向きに付勢され、コントロールシャフト3は、それを支持する1対のブッシュ1dのうち、シフトレバー2側(図4において右側)となる一方の内面には上側に、またシフトレバー2と反対側となる他方の内面には下側に弾性的に押圧される。このようにコントロールシャフト3は1対のブッシュ1dの何れにおいても、その内面の片側に弾性的に押圧されており、ブッシュ1dとの間に隙間があってもコントロールシャフト3が自由に動くことはないのでびゞり音が生じることはない。上述のようにエンジン共振状態ではシフトレバー2も大きく振動されるが、この第1実施形態ではそのような状態においてシフトレバー2から摺動体4を介してソケット部13bに伝達される振動が増大しても、コントロールシャフト3とブッシュ1dとの間の隙間の存在によるびゞり音が生じることはない。
【0028】
なお上述のように弾性部材15が弾性変形されればその弾性反力によりコントロールシャフト3と各ブッシュ1dの間の摩擦損失が増大し、シフトレバー2の操作に必要な操作力が増大してシフトフィーリングを低下させるおそれがある。しかしこの第1実施形態によれば、中立位置またはその付近以外においては、フランジ部14dの内端面とソケット部13bの一端面との間の距離は増大し、中立位置付近から少し離れれば弾性部材15はこの両者14d,13bによる弾性圧縮変形から解放され弾性変形されることはなくなるので、弾性部材15の弾性反力によるシフトレバー2の操作力が増大してシフトフィーリングが低下するおそれはわずかである。
【0029】
上述した第1実施形態では、シフトアンドセレクトシャフト7の回動によりシフトフォークを選択し、シフトアンドセレクトシャフト7の軸線方向移動により選択したシフトフォークを軸線方向にシフトして変速歯車による動力伝達を行うものとして説明したが、シフトアンドセレクトシャフト7の軸線方向移動によりシフトフォークを選択し、シフトアンドセレクトシャフト7の回動により選択したシフトフォークを軸線方向にシフトして変速歯車による動力伝達を行うようにしてもよい。その場合には、シフトレバー2における中立面Pと第2の中立面Qは位置が入れ替わる。
【0030】
また上述した第1実施形態では、コントロールシャフト3とシフトアンドセレクトシャフト7は互いに平行に配置したが、本発明はこれに限らず、コントロールシャフトとシフトアンドセレクトシャフトは互いに直交して配置してもよく、その場合はコントロールシャフトの回動はシフトアンドセレクトシャフトの軸線方向移動に、コントロールシャフトの軸線方向移動はシフトアンドセレクトシャフトの回動に変換される。
【0031】
次に図2及び図3に示す第2実施形態の説明をする。この第2実施形態は、前述した第1実施形態に比して、変速機ケーシング21を構成するケーシング本体21a及びシフト部ケース21bの具体的形状が異なり、コントロールシャフト3とシフトアンドセレクトシャフト7は一体化してシフトアンドセレクトシャフト(作動シャフト)23とし、シフトレバー22の小球部22bと支持部22aの回転中心O1とシフトアンドセレクトシャフト23の回転軸線O3の位置関係を変更した点が異なるだけである。その他の構造は実質的に第1実施形態と同じであるので、主としてその相違点につき以下に説明する。
【0032】
シフトアンドセレクトシャフト23は、その軸部が変速機ケーシング21のケーシング本体21aに1対(図2において右側となる一方だけを図示)のブッシュ(摺動軸受部)21dを介して回転方向及び軸線方向に往復動自在に支持されており、この軸部の右端部にリベット止めされたジョイント部23aの上側には、回転軸線O3に対し半径方向に延びる円筒孔23cが形成されたソケット部23bが一体的に形成されている。シフトアンドセレクトシャフト23の軸部の左端部には、第1実施形態のレバー部7aと同様なレバー部(図示省略)が設けられている。
【0033】
摺動体24は、第1実施形態の摺動体14と同様な筒状であるが、フランジ部24dは外側が開いた円錐状の逃げ孔24b側、すなわち上側となる一端部に設けられている点だけが異なっている。摺動体24は、第1実施形態と同様、シフトレバー22の小球部22bが逃げ孔24bを通して球面穴24a内に回動のみ可能に嵌合された状態で、外周面がソケット部23bの円筒孔23c内に軸線方向摺動自在に嵌合されており、摺動体24のフランジ部24dの軸線方向内端面とこれと対向するソケット部23bの一端面との間には、第1実施形態と同様な環状の弾性部材25が介在されている。
【0034】
この第2実施形態では、第1実施形態と異なり、シフトレバー22の小球部22bの中心がシフトアンドセレクトシャフト23の回転軸線O3と支持部22aの回転中心O1を含む中立面P上にある変速機の中立位置(図3(a) 参照)では、シフトレバー22の支持部22aの回転中心O1とシフトアンドセレクトシャフト23の回転軸線O3は、小球部22bの中心に対し互いに反対側に配置されている。この中立位置からグリップを掴んでシフトレバー22をその支持部22aの回転中心O1を通りシフトアンドセレクトシャフト23の回転軸線O3と平行(従って図3の紙面と直角)に延びる軸線を中心として揺動すれば、図3(b) に示すように、シフトレバー22の小球部22bの中心は支持部22aの回転中心O1を中心とする半径r1の円弧R1に沿って移動し、一方摺動体24を摺動自在に支持するシフトアンドセレクトシャフト23のソケット部23bはシフトアンドセレクトシャフト23の回転軸線O3を中心とする半径r3の円弧R3に沿って移動する。この第2実施形態では、円弧R3は中立面P上において円弧R1に下側から外接されている。
【0035】
この2つの円弧R1,R3の間の距離は、前述した第1実施形態と同様、中立面Pからのシフトレバー22の揺動角度が0から増大するにつれて0から次第に増大するが(図3(a) 及び(b) 参照)、この距離の増大は摺動体24が円筒孔23c内をソケット部23bに対し上向きに摺動することにより許容されるので、シフトレバー22及びソケット部23bは拘束されることなくそれぞれの円弧R1,R3に沿って自由に揺動される。中立面Pからのシフトレバー22の揺動角が増大すれば、ソケット部23bの揺動角及びシフトアンドセレクトシャフト23の回動角も増大され、その一端に半径方向に突出して形成されたレバー部(図示省略)が揺動されて、その先端部が動力伝達を行う複数組の変速歯車を切り換える複数のシフトフォーク(何れも図示省略)のうちの1つに係合してそのシフトフォークを選択する。
【0036】
このようなシフトレバー22の中立面Pからの揺動角が増大すれば、ソケット部23bの揺動及びシフトアンドセレクトシャフト23の回動角が増大するとともに、摺動体24はソケット部23bから上向きに突出する。前述したフランジ部24dは、この突出側となる摺動体24の上端部に形成されている。このフランジ部24dの軸線方向内端面とこれと対向するソケット部23b一端面との間の距離は、図3(a) 及び(b) に示すように、シフトレバー22の小球部22bの中心が中立面P上にある中立位置において最小となり、この中立位置からの揺動角が増大するにつれて増大する。弾性部材25の弾性係数及び関係する各部品の寸法は、小球部22bが中立位置付近にあるときはフランジ部24dとソケット部23bの間に挟まれて弾性圧縮変形され、中立位置付近から少し離れればこの弾性圧縮変形から解放されるように設定されている。
【0037】
また、上述のようにシフトレバー22を揺動させて1つのシフトフォークを選択した状態において、グリップによりシフトレバー22をその支持部22aの回転中心O1を通り図2の紙面と直交する軸線を中心として揺動すれば、第1実施形態の場合と同様な第2の中立面Q(図2参照)からのシフトレバー22の揺動角度が増大し、それにつれてシフトアンドセレクトシャフト23は軸線方向に移動され、前述のようにして選択されたシフトフォークを軸線方向にシフトして1組の変速歯車による動力伝達を行う。
【0038】
上述した第2実施形態によれば、シフトレバー22の小球部22bが中立面P上に位置する中立位置では、ソケット部23bは上述のように弾性変形される弾性部材25の弾性反力により図3において下向きに付勢され、シフトアンドセレクトシャフト23は、それを支持する1対のブッシュ21dのうち、シフトレバー22側(図2において右側)となる一方の内面には下側に、またシフトレバー22と反対側となる他方(図示省略)の内面には上側に弾性的に押圧される。このようにシフトアンドセレクトシャフト23は1対のブッシュ21dの何れにおいても、その内面の片側に弾性的に押圧されており、ブッシュ21dとの間に隙間があっても、シフトアンドセレクトシャフト23が自由に動くことはないのでびゞり音が生じることもない。上述のようにエンジン共振状態ではシフトレバー22も大きく振動されるが、この第2実施形態ではそのような共振状態においてシフトレバー22から摺動体24を介してソケット部23bに伝達される振動が増大しても、シフトアンドセレクトシャフト23とブッシュ21dとの間の隙間の存在によるびゞり音が生じることはない。
【0039】
なお前述した第1実施形態と同様、この第2実施形態でも弾性部材25の弾性反力によりシフトアンドセレクトシャフト23とブッシュ21dの間の摩擦損失が増大し、シフトレバー22の操作に必要な操作力が増大してシフトフィーリングを低下させるおそれがある。しかし第1実施形態と同様、この第2実施形態でも中立位置付近から少し離れればフランジ部24dの内端面とソケット部23bの一端面との間の距離は増大して、弾性部材25が弾性変形されることはなくなるので、このような理由によるシフトフィーリングの低下のおそれはわずかである。
【0040】
上述した各実施形態では、セレクト位置が2箇所、シフト位置が2箇所の全部で4つの変速段を有する変速機について説明したが、本発明はこれに限らず、セレクト位置及びシフト位置がそれぞれ2箇所以上で全部で4つ以上の変速段を有する手動変速機にも適用可能である。
【符号の説明】
【0041】
1,21…変速機ケーシング、1d,21d…摺動軸受部(ブッシュ)、2,22…シフトレバー、2a,22a…支持部、2b,22b…小球部、3,23…作動シャフト(コントロールシャフト、シフトアンドセレクトシャフト)、7…シフトアンドセレクトシャフト、7a…レバー部、13b,23b…ソケット部、13c,23c…円筒孔、14,24…摺動体、14a,24a…球面穴、14d,24d…フランジ部、15,25…弾性部材,O1…回転中心、O2,O3…回転軸線、P,Q…中立面。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
変速機ケーシングに摺動軸受部を介して回転方向及び軸線方向に往復動自在に支持された作動シャフトと、この作動シャフトにその回転軸線から半径方向に離れて一体的に設けられて同作動シャフトに対し半径方向に延びる円筒孔が形成されたソケット部と、前記円筒孔に外周面が軸線方向摺動自在に嵌合され内部に球面穴が形成された摺動体と、支持部を介して前記変速機ケーシングに揺動自在に支持され前記支持部から離れた位置に前記摺動体の球面穴に回動のみ可能に嵌合される小球部が形成されたシフトレバーよりなり、前記シフトレバーをその支持部を中心として揺動することにより前記摺動体を前記ソケット部に対し軸線方向に摺動させるとともに前記作動シャフトを回転方向及び軸線方向に往復動させて変速歯車の切り換えを行い、何れの変速歯車による動力伝達もなされていない中立位置付近においては、前記シフトレバーの小球部の中心は前記支持部の回転中心を含みかつ前記作動シャフトの回転軸線を含みまたはこの回転軸線と直交する中立面上にあるようにした手動変速機の操作機構において、
前記摺動体には、前記小球部の中心が前記中立面上にある前記中立位置から前記シフトレバーが前記支持部の回転中心回りに揺動して前記小球部の中心が前記中立面から離れるにつれて前記ソケット部から突出する側となる一端部に、半径方向外向きに突出するフランジ部を形成し、このフランジ部の軸線方向内端面とこれと対向する前記ソケット部の一端面との間に弾性部材を介在させ、前記小球部の中心が前記中立面上にある中立位置付近では前記弾性部材は前記フランジ部の内端面と前記ソケット部の一端面との間に挟まれて弾性変形されるよう構成したことを特徴とする手動変速機のシフト機構。
【請求項2】
請求項1に記載の手動変速機のシフト機構において、前記シフトレバーの支持部の回転中心と前記作動シャフトの回転軸線は、前記中立面上にある前記前記小球部の中心に対し同一側に配置されている手動変速機のシフト機構。
【請求項3】
請求項1に記載の手動変速機のシフト機構において、前記シフトレバーの支持部の回転中心と前記作動シャフトの回転軸線は、前記中立面上にある前記前記小球部の中心に対し反対側に配置されている手動変速機のシフト機構。
【請求項4】
請求項1〜請求項3の何れか1項に記載の手動変速機のシフト機構において、前記変速機ケーシングに回転方向及び軸線方向に往復動自在に支持されるとともに前記変速歯車の切り換えを行うレバー部が設けられたシフトアンドセレクトシャフトをさらに備え、前記作動シャフトは前記シフトアンドセレクトシャフトを回転方向及び軸線方向に往復動させるよう連結されている手動変速機のシフト機構。
【請求項5】
請求項1〜請求項3の何れか1項に記載の手動変速機のシフト機構において、前記作動シャフトは前記変速歯車の切り換えを行うレバー部を備えたシフトアンドセレクトシャフトである手動変速機のシフト機構。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2010−228468(P2010−228468A)
【公開日】平成22年10月14日(2010.10.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−74892(P2009−74892)
【出願日】平成21年3月25日(2009.3.25)
【出願人】(592058315)アイシン・エーアイ株式会社 (490)
【Fターム(参考)】