説明

手指用殺菌洗浄剤組成物

【課題】グラム陽性菌、グラム陰性菌の両方に対し、優れた殺菌効力を有し、さらに洗浄力、泡立ち性、皮膚に対する低刺激性および貯蔵安定性にも優れた手指用殺菌洗浄剤組成物を提供する。
【解決手段】下記の(A)〜(C)成分を、組成物全体に対し下記の割合で含有するとともに、(D)成分として水を含有する手指用殺菌洗浄剤組成物である。
(A)陽イオン系殺菌剤 0.05〜25.0質量%。
(B)3−ヨード−2−プロピニルブチルカルバメート 0.005〜5.0質量%。
(C)両性界面活性剤(c1)および非イオン界面活性剤(c2)の少なくとも一方 0.5〜40.0質量%。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、手指を清浄にするために用いられる手指用殺菌洗浄剤組成物に関するものである。
【背景技術】
【0002】
一般に、飲食店、学校給食、社員食堂、大規模調理施設、食品加工工場、飲料工場、醸造所、一般家庭等における厨房、作業場、台所、洗面所等では、食中毒防止等の観点から、衛生的で清浄な手指で作業を行うことを目的として、手指用の殺菌洗浄剤が配備されている。
【0003】
このような手指用殺菌洗浄剤としては、従来から、アルキルジメチルベンジルアンモニウム塩などの陽イオン界面活性剤が多く用いられてきたが、このものは、皮膚に対する刺激性が強いため、添加量が多くなると手荒れや発疹を引き起こすおそれがあり、添加量を低く設定した場合には、刺激性が緩和されるものの、殺菌効力が低下してしまい、所望とする殺菌または殺菌洗浄の用途において充分な効果を発揮できないという問題があった。
【0004】
そこで、上記陽イオン系殺菌剤に種々の改良を加えて皮膚に対する刺激性を緩和したり、殺菌効果の向上を企図したものが、各種提案されている。
【0005】
例えば、第四級アンモニウム塩の対アニオンを種々変更することにより、皮膚刺激性を緩和させた殺菌剤(特許文献1等を参照)が提案されているが、これらの殺菌効果には、バラツキがあり、また、対アニオンとして臭素を使用したものは、特異な臭気を持つものもあり、飲食店、学校給食、社員食堂、大規模調理施設、食品加工工場、飲料工場、醸造所での使用には適さないものであった。
【0006】
また、手指に対し、均質な殺菌洗浄効果を得るには、始めに手指を洗浄剤で洗浄し、つぎに殺菌剤で殺菌する方法よりも、一剤型の殺菌洗浄剤を用いて手指を洗浄とを同時に行う方が好ましい。そこで、このような殺菌洗浄剤として、例えば、陽イオン性殺菌剤と非イオン界面活性剤及び/又は両性界面活性剤と特定量のキレートとを含有した殺菌消毒洗浄剤組成物(特許文献2を参照)や、特定のポリオキシアルキレンアルキルエーテル型非イオン界面活性剤とベタイン型両性界面活性剤とアルキルアミンオキサイド、アルキルサッカライド、脂肪酸モノグリセリド及び脂肪酸アルカノールアミドから選ばれる一種以上の非イオン界面活性剤とカチオン性殺菌剤とを含有する洗浄剤組成物(特許文献3を参照)が開示されている。
【0007】
さらに、特定のアルキルジメチルベンジルアンモニウムと非イオン界面活性剤と両性界面活性剤をと特定の割合で含有する殺菌洗浄剤組成物(特許文献4参照)や、非イオン界面活性剤、陽イオン界面活性剤及びグリセリルエーテル又はジグリセリルエーテルを含有する殺菌洗浄剤組成物(特許文献5参照)が開示されている。
【特許文献1】特開平2−218605号公報
【特許文献2】特開平7−53995号公報
【特許文献3】特開平8−109394号公報
【特許文献4】特開2002−53893号公報
【特許文献5】特開2006−249124号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、陽イオン界面活性剤系殺菌剤を殺菌成分とする洗浄剤は、陽イオン界面活性剤の添加量が増すにつれて皮膚に対する刺激性が強くなる一方、添加量を少なくした場合には、皮膚に対して低刺激性となるものの、所望の殺菌効力が得られないという欠点が何ら解決されていない。また、陽イオン界面活性剤を殺菌成分とする洗浄剤は、黄色ブドウ球菌などのグラム陽性菌に対する殺菌効力は優れているが、大腸菌などのグラム陰性菌に対する殺菌効力が劣るという欠点を有している。
【0009】
このため、グラム陽性菌、グラム陰性菌の両方に対して優れた殺菌効力を有し、しかも洗浄力、泡立ち性、皮膚に対する低刺激性および貯蔵安定性にも優れた手指用殺菌洗浄剤組成物が求められている。
【0010】
本発明は、このような事情を鑑みなされたもので、グラム陽性菌、グラム陰性菌の両方に対し、優れた殺菌効力を有し、さらに洗浄力、泡立ち性、皮膚に対する低刺激性および貯蔵安定性にも優れた手指用殺菌洗浄剤組成物の提供をその目的とする。詳しくは、飲食店、学校給食、社員食堂、大規模調理施設、食品加工工場、飲料工場、醸造所、一般家庭等における厨房、作業場、台所、洗面所等おいて好適に用いられる手指用殺菌洗浄剤組成物の提供をその目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記の目的を達成するため、本発明は、下記の(A)〜(C)成分を、組成物全体に対し下記の割合で含有するとともに、(D)成分として水を含有する手指用殺菌洗浄剤組成物を第1の要旨とする。
(A)陽イオン系殺菌剤 0.05〜25.0質量%。
(B)3−ヨード−2−プロピニルブチルカルバメート 0.005〜5.0質量%。
(C)両性界面活性剤(c1)および非イオン界面活性剤(c2)の少なくとも一方 0.5〜40.0質量%。
【0012】
また、本発明は、そのなかでも、特に、上記(A)成分の陽イオン系殺菌剤が、陽イオン界面活性剤およびビグアナイド系化合物からなる群から選択される少なくとも一種である手指用殺菌洗浄剤組成物を第2の要旨とする。
【0013】
さらに、本発明は、それらのなかでも、特に、上記(C)成分の両性界面活性剤(c1)が、アルキルベタイン型両性界面活性剤、アルキルアミノ脂肪酸塩およびアルキルアミンオキシドからなる群から選択される少なくとも一種である手指用殺菌洗浄剤組成物を第3の要旨とし、上記(C)成分の非イオン界面活性剤(c2)が、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレンアルキレンエーテル、アルキルグルコシド、ショ糖脂肪酸エステル、ソルビタン脂肪酸エステルおよび脂肪酸アルカノールアミドからなる群から選択される少なくとも一種である手指用殺菌洗浄剤組成物を第4の要旨とする。
【0014】
そして、本発明は、それらのなかでも、特に、希釈しない原液のpH(JIS−Z−8802:1984「pH測定方法」による、以下同じ。)が、25℃で6.0〜9.0に設定されている手指用殺菌洗浄剤組成物を第5の要旨とする。
【発明の効果】
【0015】
すなわち、本発明の手指用殺菌洗浄剤組成物は、(A)成分である陽イオン系殺菌剤と、(B)成分である3−ヨード−2−プロピニルブチルカルバメートとの相乗効果により、陽イオン系殺菌剤の含有割合が少なくても優れた殺菌効果を奏し、皮膚への刺激性が低減されている。また、同じく上記相乗効果により抗菌スペクトルが広がって、グラム陽性菌およびグラム陰性菌のいずれに対しても良好な殺菌効果が得られるという利点を有している。しかも、(A)成分と(B)成分の含有割合を低く抑えることができるため、組成物中における(B)成分の安定性が高まり、長期の貯蔵安定性を得ることができるという利点も有している。そして、(C)成分である両性界面活性剤(c1)および非イオン界面活性剤(c2)の少なくとも一方の配合により、上記殺菌効果を損なうことなく、優れた洗浄力と起泡性とが付与されている。
【0016】
そして、そのなかでも、特に、上記(A)成分の陽イオン系殺菌剤として、陽イオン界面活性剤およびビグアナイド系化合物からなる群から選択される少なくとも一種を用いたものは、殺菌効果と経済効果の点で優れており、好適である。
【0017】
また、それらのなかでも、特に、上記(C)成分の両性界面活性剤(c1)として、アルキルベタイン型両性界面活性剤、アルキルアミノ脂肪酸塩およびアルキルアミンオキシドからなる群から選択される少なくとも一種を用いたものは、とりわけ泡立ち性に優れ、手指に付けて洗う際、まんべんなく泡立てて付けることができ、好適である。
【0018】
さらに、それらのなかでも、特に、上記(C)成分の非イオン界面活性剤(c2)として、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレンアルキレンエーテル、アルキルグルコシド、ショ糖脂肪酸エステル、ソルビタン脂肪酸エステルおよび脂肪酸アルカノールアミドからなる群から選択される少なくとも一種を用いたものは、とりわけ洗浄性に優れ、殺菌と同時に高い洗浄効果を発揮するため、好適である。
【0019】
また、それらのなかでも、特に、希釈しない原液のpHが、25℃で6.0〜9.0に設定されているものは、この組成物の殺菌効果および洗浄効果を低下させることなく皮膚への刺激性を低減することができ、好適である。
【0020】
したがって、これらの殺菌洗浄剤組成物によれば、皮膚への刺激を強く受けることなく、手指の殺菌洗浄を確実に行うことができ、飲食店、学校給食、社員食堂、大規模調理施設、食品加工工場、飲料工場、醸造所、一般家庭等における厨房、作業場、台所、洗面所等おいて好適に用いることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0021】
つぎに、本発明の最良の実施の形態について、詳しく説明する。
【0022】
まず、本発明の手指用殺菌洗浄剤組成物(以下「本組成物」という。)は、有効成分として、(A)陽イオン系殺菌剤0.05〜25.0質量%、(B)3−ヨード−2−プロピニルブチルカルバメート0.005〜5.0質量%および(C)両性界面活性剤(c1)および非イオン界面活性剤(c2)の少なくとも一方0.5〜40.0質量%、(D)水残質量%を含有する組成物である。
【0023】
本組成物に用いられる(A)成分の陽イオン系殺菌剤は、本組成物に殺菌効果を付与する目的で配合される。この(A)成分として用いられる陽イオン系殺菌剤としては、陽イオン界面活性剤およびビグアナイド系化合物からなる群から選択される少なくとも一種のものがあげられる。そして、上記陽イオン系界面活性剤としては、アルキルジメチルベンジルアンモニウムクロライド、ジデシルジメチルアンモニウムクロライド、ジデシルジメチルアンモニウムアジペート、ジデシルジメチルアンモニウムグルコネート、ジデシルモノメチルハイドロキシエチルアンモニウムクロライド、ジデシルモノメチルハイドロキシエチルアンモニウムアジペート、ジデシルモノメチルハイドロキシエチルアンモニウムグルコネート、ジデシルモノメチルハイドロキシエチルアンモニウムスルホネート、ジデシルジメチルアンモニウムプロピオネート等の第四級アンモニウム塩があげられる。また、上記ビグアナイド系化合物としては、ポリヘキサメチレンビグアナイド等があげられる。
【0024】
これらのうち、殺菌効果と経済性の点から、アルキルジメチルベンジルアンモニウムクロライド、ジアルキルジメチルアンモニウムクロライドおよびポリヘキサメチレンビグアナイドが好ましい。
【0025】
上記(A)成分である陽イオン系殺菌剤の配合量は、本組成物中0.05〜25.0質量%の範囲である。すなわち、上記配合量が0.05質量%未満では、殺菌効果に乏しく、また25.0質量%を超えて配合しても、殺菌効果の向上は飽和となる上、皮膚への刺激性が強くなるとともに経済的に不利となる。そして、上記(A)成分は、殺菌効果の点から、本組成物中0.1〜10.0質量%の範囲が好ましく、さらに経済性および皮膚刺激性の点から、本組成物中0.1〜5.0質量%の範囲がより好ましい。
【0026】
また、本組成物に用いられる(B)成分の3−ヨード−2−プロピニルブチルカルバメート(以下「IPBC」という。)は、殺菌性能の向上の目的で配合される。そして、本組成物においては、上記(A)成分と(B)成分を組み合わせて用いることにより、両者の殺菌効果が相乗的に向上し、抗菌スペクトルが広がって、グラム陽性菌、グラム陰性菌のいずれに対しても良好な殺菌効果を示すという優れた効果を奏する。
【0027】
そして、上記(B)成分であるIPBCの配合量は、本組成物中において0.005〜5.0質量%の範囲である。すなわち、上記配合量が0.005質量%未満では、殺菌性能の向上に乏しく、また、5.0質量%を超えて配合した場合には、経済的に不利となる上、貯蔵安定性に乏しいものとなる。なかでも、(A)成分との殺菌効果の相乗的な向上の点から、本組成物中0.01〜1.0質量%の範囲が好ましく、さらに経済的な点から0.01〜0.5質量%の範囲がより好ましい。
【0028】
さらに、本組成物には、手指の汚れに対する洗浄力、泡立ち性および貯蔵安定性を向上することを目的として、(C)成分として、両性界面活性剤(c1)および非イオン界面活性剤(c2)の少なくとも一方が用いられる。
【0029】
上記(C)成分の両性界面活性剤(c1)としては、プロピルベタイン,ラウリルベタイン等のアルキルベタイン型両性界面活性剤;ヤシ油脂肪酸アミドプロピルベタイン,ラウリン酸アミドアルキルベタイン等のアミドベタイン型両性界面活性剤;2−アルキル−N−カルボキシアルキルイミダゾリニウムベタイン等のイミダゾリン型両性界面活性剤;ラウリン酸アミドアルキルヒドロキシスルホベタイン等のアルキルスルホベタイン型両性イオン界面活性剤;ヤシ脂肪酸アミドジアルキルヒドロキシアルキルスルホベタイン等のアミドスルホベタイン型両性界面活性剤;N−アルキル−β−アミノプロピオン酸塩またはN−アルキル−β−イミノジプロピオン酸塩等のβ−アラニン型両性界面活性剤;アルキルジアミノアルキルグリシン,アルキルポリアミノアルキルグリシン等のグリシン型両性界面活性剤,アルキルアミノ脂肪酸ナトリウム等のアルキルアミノ脂肪酸塩;アルキルアミンオキシド等の両性界面活性剤等があげられる。
【0030】
なかでも、泡立ち性の点から、アミドベタイン型両性界面活性剤、アミドスルホベタイン型両性界面活性剤およびアルキルアミンオキシドから選ばれる少なくとも一種であることが好ましい。
【0031】
また、同じく(C)成分の、非イオン界面活性剤(c2)としては、例えば、ポリオキシエチレンアルキルエーテル,ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル,ポリオキシエチレンポリオキシプロピレンアルキルエーテル等であって、その分子末端が、水素、炭素数1〜4のアルキル基,アルキルフェニル基,ベンジル基等であるポリオキシアルキレンアルキルエーテル類;ショ糖脂肪酸エステル,ソルビタン脂肪酸エステル,ポリエチレングリコール脂肪酸エステル,ポリグリセリン脂肪酸エステル等の脂肪酸エステル類;ヤシ油脂肪酸ジエタノールアミド,ラウリン酸ジエタノールアミド,ラウリン酸ミリスチン酸ジエタノールアミド,ミリスチン酸ジエタノールアミド,オレイン酸ジエタノールアミド,パーム核油脂肪酸ジエタノールアミド等の脂肪酸アルカノールアミド類;アルキルグルコシド類、モノステアリン酸ポリエチレングリコール、モノオレイン酸ポリエチレングリコール、ジステアリン酸ポリエチレングリコール、ジオレイン酸ポリエチレングリコール等のポリオキシエチレン脂肪酸エステル、モノステアリン酸ポリオキシエチレンソルビタン、モノオレイン酸ポリオキシエチレンソルビタン等のポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステルがあげられる。
【0032】
なかでも、洗浄力の点から、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、アルキルグルコシドおよび脂肪酸アルカノールアミドから選ばれる少なくとも一種であることが好ましい。
【0033】
本組成物の(C)成分は、上記(c1)および(c2)の中から選ばれる少なくとも一種を単独で用いてもよく、二種以上を組み合わせてもよい。
【0034】
そして、上記(C)成分の配合量((c1)+ (c2))は、本組成物中0.1〜40.0質量%の範囲である。すなわち、上記配合量が0.1質量%未満では、洗浄力、泡立ちを高める効果に乏しく、また40.0質量%を超えて配合しても、洗浄力の向上効果は飽和となる上、本組成物の貯蔵安定性が乏しくなり、経済的にも不利となる。なかでも、洗浄力の点から1〜35.0質量%の範囲が好ましく、さらに経済性の点から、1〜20.0質量%の範囲がより好ましい。
【0035】
また、本組成物に用いられる(D)成分の水としては、水道水、蒸留水、イオン交換水、純水等があげられ、なかでも、貯蔵安定性の点から、イオン交換水が好ましい。
【0036】
上記(D)成分の水は、本組成物全体中において、(D)成分以外の各種成分に含まれる水、結晶水等を含め、本組成物の合計が100質量%となるように、バランスとして配合される。
【0037】
なお、本組成物には、必要により、本発明の効果を妨げない範囲において、溶剤、色素、洗浄ビルダー、pH調整剤、香料、保湿剤、pH緩衝剤、防腐剤、粘度調整剤(増粘剤・減粘剤)、防黴剤、酸化防止剤、金属腐食抑制剤等の任意成分を、適宜配合することができる。
【0038】
そして、本組成物は、上記任意成分のうち、クエン酸ナトリウム、乳酸ナトリウム、リンゴ酸ナトリウム、グルコン酸ナトリウム、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、炭酸ナトリウム、炭酸カリウム、アルカノールアミン等のアルカリ性を呈する物質と、硫酸、塩酸、クエン酸、リンゴ酸等の酸性を呈する物質とをpH調整剤として用い、pHが25℃で6.0〜9.0の範囲内となるよう調整することが好ましい。このpH域に設定すると、本組成物の洗浄力や殺菌効果を低下させることなく皮膚への刺激性を低減させることができるからである。
【0039】
このようにして得られる本組成物は、グラム陽性菌、グラム陰性菌の両方に対し、優れた殺菌効力を有し、さらに洗浄力、起泡性、皮膚に対する低刺激性および貯蔵安定性にも優れており、ハンドソープ等の洗浄剤と併用する必要がなく、一度の手洗いで、手指の殺菌と洗浄を同時に行うことができる。したがって、飲食店、学校給食、社員食堂、大規模調理施設、食品加工工場、飲料工場、醸造所、一般家庭等における厨房、作業場、台所、洗面所等における手指の殺菌と洗浄に好適に用いることができる。
【0040】
なお、本組成物を用いた手指の殺菌と洗浄は、通常、本組成物の原液または2〜10倍に希釈した希釈液を手指に付けて、手指をもみ洗いするか、あるいは手指をブラッシングした後、流水でよくすすぐことにより行われる。
【実施例】
【0041】
以下、本発明の実施例を、比較例と併せて詳細に説明する。なお、本発明は、以下の実施例に限定されるものではない。
【0042】
〔実施例1〜25および比較例1〜13〕
後記の表1〜表8に示す、実施例1〜25および比較例1〜13の手指用殺菌洗浄剤組成物を調製し、以下の各種試験に供した。また、表中の各成分の数値は、各成分の有り姿としての含有量(質量%)である。
【0043】
そして、得られた各手指用殺菌洗浄剤組成物について、殺菌効果、皮膚刺激性、貯蔵安定性、洗浄力、起泡性の各試験項目について、以下の試験方法と判定基準により評価した。それらの結果を、後記の表1〜表8に併せて示す。
【0044】
<殺菌効果>
[試験方法]
AOAC(Association of Analytical Communities)Official Method 960.09の試験法に準じて行った。すなわち、まず、各種殺菌洗浄剤組成物の原液99mLに、菌数を10の9乗に調整した菌懸濁液1mLを加え、混合して薬剤と菌を接触させた。30秒後、接触液1mLを取り出し、9mL薬剤不活化剤入りリン酸緩衝液に加え、その1mLを別の9mL薬剤不活化剤入りリン酸緩衝液に加え、同様の操作を行い段階的に希釈した。その後、薬剤不活化剤入りリン酸緩衝液を加えたTGEA培地(メルク社製)で混釈培養し、37℃で48時間培養後に生存菌数を測定した。そして、接触菌数と生存菌数により、下記の式(1)にしたがって、菌数のLogReductionを算出し、以下の判定基準で評価した。
【0045】
【数1】

【0046】
なお、菌には、黄色ブドウ球菌(Staphylococcus aureus ATCC6538株:グラム陽性菌)および大腸菌(Escherichia coli ATCC11229株:グラム陰性菌)を用いた。
【0047】
〔判定基準〕
◎:LogReductionが5以上。
○:LogReductionが4以上5未満。
△:LogReductionが3以上4未満。
×:LogReductionが3未満。
【0048】
<皮膚刺激性>
[試験方法]
男女各5名の被験者に対し、各組成物2.0mLを手のひらに受け、もみ洗いをした後、水道水ですすぐという動作を1日3回、10日間、繰り返させた。10日後の被験者の手の状態を、以下の判定基準にしたがって目視で判定した。
【0049】
[判定基準]
◎:手あれが殆ど認められない。
○:手あれがわずかに認められる。
△:手あれがかなり認められる。
×:手あれが顕著に認められる。
【0050】
<貯蔵安定性>
[試験方法]
各組成物を50℃に設定されたインキュベーター(ヤマト科学社製:型式IS82)に3ヶ月配置し、目視で沈殿や分離の有無を観察した。評価は以下の判定基準で行った。
【0051】
[判定基準]
◎:組成物中に沈殿や分離が全く見られない。
○:組成物中に沈殿や分離がわずかに見られる。
△:組成物中に沈殿や分離の様子がはっきり見られる。
×:組成物中に沈殿や分離が著しく見られる。
【0052】
<洗浄力>
[試験方法]
油性汚れとして大豆油0.5mLを手のひらに伸ばし、各組成物2.0mLを手のひらに受けてもみ洗いした後、流水ですすいだときの大豆油に対する洗浄力を、以下の判定基準に従って目視で判定した。
【0053】
[判定基準]
◎:洗浄力が極めて良い(85%以上洗浄できた)。
○:洗浄力が良い(70%以上85%未満洗浄できた)。
△:洗浄力がやや悪い(30%以上70%未満洗浄できた)。
×:洗浄力が悪い(30%未満しか洗浄できなかった)。
【0054】
<起泡性>
[試験方法]
各組成物2.0mLを手のひらに受け、もみ洗いしたときの起泡性を、以下の判定基準に従って目視で判定した。
【0055】
[判定基準]
◎:起泡性が極めて良い。
○:起泡性が良い。
△:起泡性がやや悪い。
×:起泡性が悪い(泡立たなかった)。
【0056】
なお、以下の表1〜表8に示す成分の詳細は、以下の通りである。なお、各成分における有効成分量(質量%、「%」と略す。)を併せて示した。
【0057】
〔(A)成分〕
・陽イオン界面活性剤1
塩化ベンザルコニウム(三洋化成工業社製/商品名:G−50/純分50%)
・陽イオン界面活性剤2
ジデシルジメチルアンモニウムクロライド(ライオンアクゾ社製/商品名:アーカー ド210−80E/純分80%)
・ビグアナイド系化合物
ポリヘキサメチレンビグアナイド(ニッコウケミカルズ社製/商品名:コスモシルC Q/純分20%)
【0058】
〔(B)成分〕
・IPBC
3−ヨード−2−プロピニルブチルカルバメート(ロンザ・ジャパン社製/商品名: グライカシル/純分97%)
【0059】
〔(c1)成分〕
・両性界面活性剤1
ヤシ油脂肪酸アミドプロピルベタイン(東邦化学工業社製/商品名:オバゾリンCA B−30/純分30%)
・両性界面活性剤2:ラウリン酸アミドプロピルヒドロキシスルホベタイン(川研ファイ ンケミカル/商品名:ソフタゾリンCH/純分30%)
・両性界面活性剤3:炭素数12のアルキルアミンオキサイド(クラリアントジャパン社 製/商品名:ゲナミノックスK12/純分32%)
・両性界面活性剤4:ラウリン酸アミドプロピルジメチルアミンオキサイド(川研ファイ ンケミカル社製/商品名:ソフタゾリンLAO/純分30%)
【0060】
〔(c2)成分〕
・非イオン界面活性剤1
炭素数12の直鎖アルコールのエチレンオキサイド7モル付加物(第一工業製薬社製 /商品名:DKS−NL70/純分100%)
・非イオン界面活性剤2
炭素数12の直鎖アルコールのエチレンオキサイド9モル付加物(第一工業製薬社製 /商品名:DKS−NL90/純分100%)
・非イオン界面活性剤3
デシルポリグルコシド(花王社製/商品名:マイドール10/純分40%)
・非イオン界面活性剤4
ラウリルポリグルコシド(花王社製/商品名:マイドール12/純分40%)
・非イオン界面活性剤5
ヤシ油脂肪酸ジエタノールアミド(ADEKA社製/商品名:アデカソールCOA/ 純分100%)
・非イオン界面活性剤6
パーム核油脂肪酸ジエタノールアミド(川研ファインケミカル社製/商品名:アミゾ ールKD−3/純分88%)
【0061】
【表1】

【0062】
【表2】

【0063】
【表3】

【0064】
【表4】

【0065】
【表5】

【0066】
【表6】

【0067】
【表7】

【0068】
【表8】

【0069】
表1〜表5の結果より、実施例1〜25品は、殺菌効果、皮膚刺激性、貯蔵安定性、洗浄力、起泡性のいずれについても優れた性能を有していることがわかる。
【0070】
これに対して、比較例を示す表6〜表8において、(A)成分である陽イオン界面活性剤の配合量が著しく少ないか含まない比較例1、2品は、グラム陽性菌、グラム陰性菌の両方に対する殺菌効力が劣ることがわかる。
【0071】
また、(A)成分である陽イオン界面活性剤の配合量が過剰である比較例3、4品は、グラム陽性菌、グラム陰性菌の両方に対する殺菌効力には優れているが、皮膚刺激性が強く、貯蔵安定性が劣ることがわかる。
【0072】
さらに、比較例5、6品は、(B)成分であるIPBCの配合量が著しく少ないため、グラム陽性菌、グラム陰性菌の両方に対する殺菌効力が劣ることがわかる。
【0073】
また、比較例7および8品は、(B)成分であるIPBCの配合量が過剰であるため、起泡性等が低下し、特に貯蔵安定性が劣ることがわかる。
【0074】
さらに、比較例9〜11品は、(C)成分である両性界面活性剤(c1)および非イオン界面活性剤(c2)の少なくとも一方の配合量が著しく少ないため、洗浄力および起泡性が劣ることがわかる。
【0075】
そして、比較例12および13品は、上記(C)成分の配合量が過剰であるため、貯蔵安定性が劣ることがわかる。
【0076】
〔実施例26〜29〕
なお、上記実施例1〜25品は、いずれもpH7〜8.5の間であるが、本組成物の必須成分、任意成分、特にアルカリ性物質である水酸化ナトリウムと、酸性物質であるクエン酸とを、下記の表9に示すように組み合わせて、そのpHを、下記の表9に示すように調整した。そして、上記と同様にしてそれらの殺菌効果、皮膚刺激性、貯蔵安定性を評価し、それらの結果を、下記の表9に併せて示す。
【0077】
【表9】

【0078】
これらの実施例から、組成物のpHが6.0〜9.0を外れると、殺菌効果の低下を招いたり皮膚への刺激性が強まり、好ましくないことがわかる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記の(A)〜(C)成分を、組成物全体に対し下記の割合で含有するとともに、(D)成分として水を含有することを特徴とする手指用殺菌洗浄剤組成物。
(A)陽イオン系殺菌剤 0.05〜25.0質量%。
(B)3−ヨード−2−プロピニルブチルカルバメート 0.005〜5.0質量%。
(C)両性界面活性剤(c1)および非イオン界面活性剤(c2)の少なくとも一方 0.5〜40.0質量%。
【請求項2】
上記(A)成分の陽イオン系殺菌剤が、陽イオン界面活性剤およびビグアナイド系化合物からなる群から選択される少なくとも一種である請求項1記載の手指用殺菌洗浄剤組成物。
【請求項3】
上記(C)成分の両性界面活性剤(c1)が、アルキルベタイン型両性界面活性剤、アルキルアミノ脂肪酸塩およびアルキルアミンオキシドからなる群から選択される少なくとも一種である請求項1または2記載の手指用殺菌洗浄剤組成物。
【請求項4】
上記(C)成分の非イオン界面活性剤(c2)が、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレンアルキレンエーテル、アルキルグルコシド、ショ糖脂肪酸エステル、ソルビタン脂肪酸エステルおよび脂肪酸アルカノールアミドからなる群から選択される少なくとも一種である請求項1または2記載の手指用殺菌洗浄剤組成物。
【請求項5】
希釈しない原液のpH(JIS−Z−8802:1984「pH測定方法」による。)が、25℃で6.0〜9.0に設定されている請求項1〜4のいずれか一項に記載の手指用殺菌洗浄剤組成物。

【公開番号】特開2010−132612(P2010−132612A)
【公開日】平成22年6月17日(2010.6.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−310562(P2008−310562)
【出願日】平成20年12月5日(2008.12.5)
【出願人】(598028648)ジョンソンディバーシー株式会社 (30)
【Fターム(参考)】