説明

抗菌剤

【課題】アクネ菌に対して特異的に抗菌性を示す優れた抗菌剤を提供する。
【解決手段】トコフェリルリン酸エステル及び/又はその塩がアクネ菌に対して特異的な優れた抗菌性を有することを発見した。トコフェリルリン酸エステル及び/又はその塩を含有することを特徴とする抗菌剤は、ニキビの原因菌であるアクネ菌に対して優れた抗菌性を示した。また、他種抗菌剤と併用した場合、相乗効果を示した。さらに、ニキビを有する人を対象とした使用試験において、ニキビの改善効果を示した。上記抗菌剤は、化粧品、医薬部外品、医薬品に利用可能である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はトコフェリルリン酸エステル及び/又はその塩を配合することにより、アクネ菌(Propionibacterium acnes)に対して特異的に抗菌性を示す抗菌剤に関するものである。
【背景技術】
【0002】
アクネ菌はニキビの発生機序に深く関与している(非特許文献1)。アクネ菌の産生するリパーゼは、皮脂を分解し、それによって発生した脂肪酸が、炎症を引き起こす。また、最近では、アクネ菌が産生する好中球遊走化因子やポルフィリンもニキビと深く関与していると言われている。そこで、臨床におけるニキビの治療においては、アクネ菌に対する抗生物質やビタミンB2、B6、C、Eなどが、内服や外用によって用いられている(非特許文献2)。また、アクネ菌に対する効果を謳ったニキビ治療薬や化粧品も市場に多く出回っている。しかし、上記のような微生物の制御においては、抗生物質の使用では耐性菌の発現など問題点も多く、抗生物質以外では特に効果の高い抗菌剤も開発されていないのが現状である。また、アクネ菌特異的でない抗菌剤を使用した場合、皮膚にとって有益な皮膚常在菌まで殺滅してしまう恐れがある。
【非特許文献1】諸橋正昭,「アクネの発症メカニズム」,香粧会誌,平成15年1月,第27巻,第1号,P.11−16
【非特許文献2】佐山義克,「アクネ用外用剤としての医薬品の開発と課題」,フレグランスジャーナル,昭和60年,第74号,P.21−29
【0003】
トコフェロール(ビタミンE)、トコフェリルリン酸エステルによるニキビへの効果については、抗菌剤とともに使用した場合、抗炎症作用によってニキビの治療効果を向上させるとの報告がある。
【特許文献1】特開平9−255578
【0004】
しかし、これまでトコフェロール、トコフェリルリン酸エステルによる抗菌効果は知られていなかった。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の課題は、外用によって用いる、アクネ菌に対して特異的に抗菌性を示す優れた抗菌剤を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
この様な事情により、本発明者らは鋭意研究を重ねた結果、トコフェリルリン酸エステルが、アクネ菌に対して特異的な優れた抗菌性を有していることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0007】
本発明で用いられるトコフェリルリン酸エステル及び/又はその塩は、トコフェロールから常法により合成でき、下記の文献も参考にできる。これらは、α、β、γ、δ型や、d、l、dl型を選択できる。
【特許文献2】特公昭61−20583
【特許文献3】特公平3−32558
【0008】
また、本発明においては、トコフェリルリン酸エステルに加え、トコフェリルリン酸エステルの塩も使用可能であり、塩の種類は限定されないが、一般的にはナトリウム、カリウム等のアルカリ金属塩、カルシウム、マグネシウム等のアルカリ土類金属塩が用いられる。
【0009】
本発明に用いられる化合物の量は、剤型や期待する効果の程度により異なるが、通常0.001重量%以上、好ましくは0.1〜50重量%程度配合するのがよい。0.001重量%未満では十分な効果は望みにくい場合があり、50重量%を超えて配合した場合、効果の増強は認められにくく不経済である。
【0010】
本発明の抗菌剤には、トコフェリルリン酸エステル及び/又はその塩の効果を損なわない範囲内で、通常の抗菌剤に用いられる成分である油脂類、ロウ類、炭化水素類、脂肪酸類、アルコール類、エステル類、界面活性剤、金属石鹸、pH調整剤、防腐剤、香料、保湿剤、粉体、紫外線吸収剤、増粘剤、色素、酸化防止剤、美白剤、キレート剤等の成分を配合することもできる。
【0011】
本発明の抗菌剤は、化粧品、医薬部外品及び医薬品のいずれにも用いることができ、その剤型としては、例えば、化粧水、クリーム、乳液、ゲル剤、エアゾール剤、エッセンス、パック、洗浄剤、浴用剤、ファンデーション、打粉、口紅、軟膏、パップ剤、洗口剤、液体歯磨、練歯磨等が挙げられる。
【発明の効果】
【0012】
トコフェリルリン酸エステル及び/又はその塩は抗菌効果に優れていた。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
次に本発明を詳細に説明するため、実施例及び実験例を挙げるが、本発明はこれに限定されるものではない。
【実施例1】
【0014】
処方例1 クリーム
処方 配合量
1.dl−α−トコフェリルリン酸ナトリウム 0.5 部
2.スクワラン 6.0
3.オリーブ油 3.0
4.ステアリン酸 2.0
5.ミツロウ 2.0
6.ミリスチン酸オクチルドデシル 3.5
7.ポリオキシエチレンセチルエーテル(20E.O.) 3.0
8.ベヘニルアルコール 1.5
9.モノステアリン酸グリセリン 2.5
10.香料 0.1
11.1,3−ブチレングリコール 8.5
12.パラオキシ安息香酸エチル 0.05
13.パラオキシ安息香酸メチル 0.2
14.精製水 67.15
[製造方法]成分2〜9を加熱溶解して混合した後、成分1を加えて70℃に保ち油相とする。成分11〜14を加熱溶解して混合し、75℃に保ち水相とする。油相に水相を加えて乳化して、かき混ぜながら冷却し、45℃にて成分10を加え、更に30℃まで冷却して製品とする。
【0015】
比較例 従来のクリーム
処方例1において、成分1をスクワランに置き換えたものを従来のクリームとした。
【0016】
処方例2 化粧水
処方 配合量
1.dl−α−トコフェリルリン酸ナトリウム 0.2 部
2.1,3−ブチレングリコール 8.0
3.グリセリン 2.0
4.キサンタンガム 0.02
5.クエン酸 0.01
6.クエン酸ナトリウム 0.1
7.エタノール 5.0
8.パラオキシ安息香酸メチル 0.1
9.ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油(40E.O.) 0.1
10.香料 0.1
11.精製水 84.37
[製造方法]成分1〜6及び11と、成分7〜10をそれぞれ均一に溶解し、両者を混合し濾過して製品とする。
【0017】
処方例3 乳液
処方 配合量
1.dl−α−トコフェリルリン酸ジナトリウム 0.5 部
2.スクワラン 5.0
3.オリーブ油 5.0
4.ホホバ油 5.0
5.セタノール 1.5
6.モノステアリン酸グリセリン 2.0
7.ポリオキシエチレンセチルエーテル(20E.O.) 3.0
8.ポリオキシエチレンソルビタンモノオレエート(20E.O.) 2.0
9.香料 0.1
10.プロピレングリコール 1.0
11.グリセリン 2.0
12.パラオキシ安息香酸メチル 0.2
13.精製水 72.7
[製造方法]成分2〜8を加熱溶解して混合し、70℃に保ち油相とする。成分1及び10〜13を加熱溶解して混合し、75℃に保ち水相とする。油相に水相を加えて乳化して、かき混ぜながら冷却し、45℃にて成分9を加え、更に30℃まで冷却して製品とする。
【0018】
処方例4 ゲル剤
処方 配合量
1.dl−α−トコフェリルリン酸カリウム 0.1 部
2.エタノール 5.0
3.パラオキシ安息香酸メチル 0.1
4.ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油(60E.O.) 0.1
5.香料 0.1
6.1,3−ブチレングリコール 5.0
7.グリセリン 5.0
8.キサンタンガム 0.1
9.カルボキシビニルポリマー 0.2
10.水酸化カリウム 0.2
11.精製水 84.1
[製造方法]成分1〜5と、成分6〜11をそれぞれ均一に溶解し、両者を混合して製品とする。
【0019】
処方例5 パック
処方 配合量
1.dl−α−トコフェリルリン酸カリウム 0.2 部
2.ポリビニルアルコール 12.0
3.エタノール 5.0
4.1,3−ブチレングリコール 8.0
5.パラオキシ安息香酸メチル 0.2
6.ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油(20E.O.) 0.5
7.クエン酸 0.1
8.クエン酸ナトリウム 0.3
9.香料 0.1
10.精製水 73.6
[製造方法]成分1〜10を均一に溶解し製品とする。
【0020】
処方例6 ファンデーション
処方 配合量
1.dl−α−トコフェリルリン酸ジナトリウム 0.1 部
2.炭酸ナトリウム 0.1
3.ステアリン酸 2.4
4.ポリオキシエチレンソルビタンモノステアレート(20E.O.)1.0
5.ポリオキシエチレンセチルエーテル(20E.O.) 2.0
6.セタノール 1.0
7.液状ラノリン 2.0
8.流動パラフィン 3.0
9.ミリスチン酸イソプロピル 6.5
10.パラオキシ安息香酸ブチル 0.1
11.カルボキシメチルセルロースナトリウム 0.1
12.ベントナイト 0.5
13.プロピレングリコール 4.0
14.トリエタノールアミン 1.1
15.パラオキシ安息香酸メチル 0.2
16.二酸化チタン 8.0
17.タルク 4.0
18.ベンガラ 1.0
19.黄酸化鉄 2.0
20.香料 0.1
21.精製水 60.8
[製造方法]成分3〜10を加熱溶解し、80℃に保ち油相とする。成分21に成分11をよく膨潤させ、続いて、成分1、2及び12〜15を加えて均一に混合する。これに粉砕機にて粉砕混合した成分16〜19を加え、ホモミキサーにて撹拌し、75℃に保ち水相とする。この水相に油相をかき混ぜながら加え、冷却し、45℃にて成分20を加え、かき混ぜながら30℃まで冷却して製品とする。
【0021】
処方例7 浴用剤
処方 配合量
1.dl−α−トコフェリルリン酸マグネシウム 1.0 部
2.硫酸第一鉄(7水和物) 1.0
3.炭酸水素ナトリウム 50.0
4.黄色202号(1) 0.1
5.香料 0.1
6.無水硫酸ナトリウム 47.8
[製造方法]成分1〜6を均一に混合し製品とする。
【実施例2】
【0022】
実験例1 抗菌性試験
日本化学療法学会標準法のカンテン平板希釈法に準じて、各種微生物に対するdl−α−トコフェリルリン酸ナトリウムの最小発育阻止濃度(MIC、単位:μg/mL)を測定した。すなわち、各ビタミンを10000〜0.001mM(公比2)となるように加えた培地を用い、各種微生物の増殖性を検討した。培地としては、アクネ菌については変法GAM寒天培地(日水製薬)、その他細菌類についてはソイビーン・カゼイン・ダイジェスト寒天培地(日本製薬)、真菌類(カビ及び酵母)についてはグルコース・ペプトン寒天培地(日本製薬)を用いた。アクネ菌は37℃嫌気条件、その他細菌類については37℃好気条件、真菌類については25℃好気条件にて10日間培養した。
【0023】
結果を表1に示す。
【0024】
【表1】

【0025】
上記の表1から、本発明のdl−α−トコフェリルリン酸ナトリウムは、アクネ菌に対して特異的に高い抗菌性を示すことが明らかである。
【0026】
実験例2 他種抗菌剤を併用した場合における抗菌性試験
dl−α−トコフェリルリン酸ナトリウムとパラオキシ安息香酸メチルを併用した場合における、アクネ菌(P.acnes JCM6425)に対するMICを測定した。
【0027】
結果を表2に示す。
【0028】
【表2】

【0029】
アクネ菌に対するMICは、dl−α−トコフェリルリン酸ナトリウムのみでは250μg/mLであったが、パラオキシ安息香酸メチル単独の場合におけるMICの1/2量である1250μg/mLを使用した場合、dl−α−トコフェリルリン酸ナトリウムは1/4量の63μg/mLでアクネ菌の発育を阻止した。
【0030】
上記の結果から、本発明のdl−α−トコフェリルリン酸ナトリウムは、パラオキシ安息香酸メチルと併用した場合、アクネ菌に対する抗菌性に関して、相乗効果を示すことが明らかである。
【0031】
実験例3 使用試験
処方例1及び比較例1のクリームを用いて、顔面にニキビを有する成人10人(男性5名、女性5名)を対象に1ヶ月間の使用試験を行った。使用後、アンケート調査によりニキビの改善について判定した。その結果、dl−α−トコフェリルリン酸ナトリウムを含有することを特徴とする抗菌剤は優れたニキビ症状の改善効果を示した(表2)。なお、試験期間中皮膚トラブルは一人もなく、安全性においても問題なかった。
【0032】
【表3】

【0033】
処方例2〜10で得られた化粧品、医薬品についても同様に使用試験を行った結果、いずれもニキビの予防改善効果を示した。
【産業上の利用可能性】
【0034】
本発明のトコフェリルリン酸エステル及び/又はその塩は、各種微生物に対する抗菌を目的とする化粧品、医薬部外品、医薬品に利用可能である。特にニキビの予防及び治療を目的とする化粧品、医薬部外品、医薬品に利用可能である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
トコフェリルリン酸エステル及び/又はその塩を含有することを特徴とする抗菌剤。
【請求項2】
アクネ菌(Propionibacterium acnes)に対して特異的に抗菌性を示す請求項1記載の抗菌剤。
【請求項3】
請求項1又は2のいずれか一項記載の抗菌剤を含有することを特徴とする化粧品、医薬部外品、医薬品。
【請求項4】
次の成分(A)及び(B)を配合することを特徴とする皮膚外用剤。
(A)請求項1又は2のいずれか一項記載の抗菌剤
(B)安息香酸、安息香酸ナトリウム、パラオキシ安息香酸エステル、塩化ベンザルコニウム、フェノキシエタノール、サリチル酸、トリクロサン、デヒドロ酢酸ナトリウム、グルコン酸クロルヘキシジンから選ばれる一種又は二種以上の抗菌剤

【公開番号】特開2006−213633(P2006−213633A)
【公開日】平成18年8月17日(2006.8.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−27646(P2005−27646)
【出願日】平成17年2月3日(2005.2.3)
【出願人】(592262543)日本メナード化粧品株式会社 (223)
【Fターム(参考)】