説明

抗菌組成物

【課題】 毒性や刺激性を有さず、またアレルギーを誘発するアレルゲンとなるおそれのない新規な抗菌組成物を提供すること、また、該抗菌組成物を用いることにより、従来から化粧料において汎用されている防菌防黴剤を用いることなく充分な防腐効果を有し、皮膚に対する刺激が低く且つ安全な化粧料を提供すること。
【解決手段】 ベニバナ抽出物及びイザヨイバラ抽出物と、1,3−ブチレングリコール、3−メチル−1,3−ブタンジオール及びエタノールから選択される1種以上の溶媒とを含有してなる抗菌組成物、又は、ベニバナ抽出物と、1,3−ブチレングリコール、3−メチル−1,3−ブタンジオール及びエタノールから選択される1種以上の溶媒とを含有してなる抗菌組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、広範囲の微生物に対して抗菌性を有し、皮膚に対して刺激の低い抗菌組成物、及びそれを配合してなる化粧料に関するものである。
【背景技術】
【0002】
化粧水、クリーム、乳液などの化粧料には、通常、原料由来の微生物、あるいは製造・充填工程で発生し、また消費者が使用することによる汚染によって発生し得る微生物を殺滅、増殖を阻止し、製品の微生物による汚染や品質の劣化を防止するため、防菌防黴剤が用いられている。かかる防菌防黴剤として、安息香酸及びその塩、ソルビン酸及びその塩、パラオキシ安息香酸エステル及びその塩、フェノール類、4級アンモニウム塩類、両性界面活性剤類、感光素などが用いられている。しかし、このような防菌防黴剤には、皮膚に対する刺激やアレルギー性の問題点が報告されているものがあり、安全性の観点からその配合上限が定められている。更に、前記パラオキシ安息香酸エステル類については、近年、内分泌撹乱物質の疑いや乳がんのリスクが増すなどの報告もされている(例えば、非特許文献1及び2を参照。)。
【0003】
かかる状況下において、最近では防菌防黴剤に替えてアルコールやフェノキシエタノール、抗菌性ポリオール、防腐作用を有する植物性成分が用いられたりもしているが、抗菌活性が不十分であるため、多量に添加されるか、あるいは公知の防菌防黴剤と併用して用いられている。アルコールの中でも1,2−ペンタンジオール、1,2−ヘキサンジオール、1,2−オクタンジオールなどの多価アルコールは抗菌活性が比較的高いことがわかっているが、化粧料において要求される抗菌に充分な量を用いると刺激性の問題が生ずる。このように化粧料において汎用されている前記防菌防黴剤に替わる適切な抗菌組成物がないのが実情である。
【非特許文献1】Okubo, T., Fd. Chem. Toxicol., 39, pp1225-1232 (2001)
【非特許文献2】Darbre. P.D., J.Appl. Toxicol., 24(1), pp5-13 (2004a)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は、上記背景技術に鑑み開発されたものであり、毒性や刺激性を有さず、またアレルギーを誘発するアレルゲンとなるおそれのない新規な抗菌組成物を提供すること、また、該抗菌組成物を用いることにより、従来から化粧料において汎用されている防菌防黴剤を用いることなく充分な防腐効果を有し、皮膚に対する刺激が低く且つ安全な化粧料を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記課題を解決すべく、本発明者等は植物性抽出物に着目し鋭意検討した結果、特定の植物性抽出物1種又は2種と、特定の溶媒1種又は2種以上とを組み合わせることにより、微生物に対する抗菌性が相乗効果により飛躍的に向上し、かつ広い範囲の微生物に対して抗菌性を有することを見出し、本発明を完成するに至った。
【0006】
すなわち、本発明により、ベニバナ抽出物及びイザヨイバラ抽出物と、1,3−ブチレングリコール、3−メチル−1,3−ブタンジオール及びエタノールから選択される1種以上の溶媒とを含有してなる抗菌組成物が提供される。
【0007】
前記抗菌組成物において、ベニバナ抽出物及びイザヨイバラ抽出物の配合比は、固形物の質量換算で、1:3〜9:1であることが好ましく、1:1.5〜3:1であることがより好ましい。
【0008】
また、本発明により、ベニバナ抽出物と、1,3−ブチレングリコール、3−メチル−1,3−ブタンジオール及びエタノールから選択される1種以上の溶媒とを含有してなる抗菌組成物が提供される。
【0009】
更に、本発明により、前記抗菌組成物を含む化粧料が提供される。
【発明の効果】
【0010】
本発明により抗菌活性の高い新規な抗菌組成物が提供されたため、従来の防菌防黴剤を用いることなく、皮膚に対する刺激性が低く且つ人体に安全な化粧料の提供が可能となった。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
本発明の抗菌組成物は、一態様において、ベニバナ抽出物及びイザヨイバラ抽出物と、1,3−ブチレングリコール、3−メチル−1,3−ブタンジオール及びエタノールから選択される1種以上の溶媒とを含有してなる。また、他の態様において、ベニバナ抽出物と、1,3−ブチレングリコール、3−メチル−1,3−ブタンジオール及びエタノールから選択される1種以上の溶媒とを含有してなる。これら成分は、それぞれ単独では微生物に対する抗菌活性が高くなく、化粧料に用いられた場合に充分な防菌防黴作用を奏しないが、本発明の組み合わせにおいて用いることにより、微生物に対する抗菌性が相乗効果により飛躍的に向上する。また、かかる抗菌性の相乗効果は広い範囲の微生物に対して認められる。本発明の抗菌組成物を従来用いられている防菌防黴剤に替えて化粧水、美容液、乳液、クリーム等の化粧料に用いることにより、皮膚に対する刺激が低く且つ安全な化粧料を提供することができる。
【0012】
ベニバナは、キク科の1年生または越年生の種子繁殖作物で、古くから口紅や赤の染料の原料として利用されており、そのエキスは現在、抗炎症、紫外線防御作用を有することが知られている。また、イザヨイバラはバラ科の植物で、ビタミンCを多量に含んでおり、中国ではこの果実が食品として汎用されている。このエキスは、活性酸素消去作用を有しており、抗炎症、抗アレルギー作用を有することが知られている。
【0013】
本発明においてベニバナ抽出物は、生のベニバナの花、又は乾燥したベニバナの花を溶媒抽出することによって得られる。抗菌組成物の材料として、抽出液のまま用いてもよいし、また抽出液から溶媒を留去したものを用いてもよい。また、イザヨイバラ抽出物は、生のイザヨイバラの果実、又は乾燥したイザヨイバラの果実を溶媒抽出することによって得られる。ベニバナ抽出物同様、抗菌組成物の材料として抽出液のまま用いてもよいし、また抽出液から溶媒を留去したものを用いてもよい。このとき用いられる溶媒は特に限定されるものではなく、水、エタノール、メタノール、アセトン、ヘキサン、グリセリン、1,3−ブチレングリコール、ジプロピレングリコール、プロピレングリコールなどが例示される。また、ベニバナ抽出物、イザヨイバラ抽出物は、調整されることなくそのまま用いてもよいし、あるいは防腐作用を損なわない程度に脱臭、精製を行うことも可能である。
【0014】
得られたベニバナ抽出物、もしくはベニバナ抽出物及びイザヨイバラ抽出物は、1,3−ブチレングリコール、3−メチル−1,3−ブタンジオール及びエタノールから選択される1種以上の溶媒と混合され、本発明の抗菌組成物を得る。その各成分の配合率は、抗菌組成物の用途等に応じて適宜設定することができる。
【0015】
皮膚への刺激性が低く人体にも安全な本発明の抗菌組成物は、上記の如く、化粧料に、従来用いられている防菌防黴剤に替え好適に用いられる。化粧料としては、例えば、クリーム、軟膏、ローション、乳液、化粧水、ジェル、パック、石鹸、洗顔料、シャンプー、リンス、クレンジング剤等が挙げられ、適宜調製されることにより幅広く用いられる。その好ましい配合率は、用いられる化粧料の種類、剤型や処方等により異なるが、化粧料の全体量に対するベニバナ抽出物、もしくはベニバナ抽出物及びイザヨイバラ抽出物合計の配合率は、一般に、固形物換算で0.02〜0.4質量%程度が好ましく、0.05〜0.3質量%程度がより好ましい。また、ベニバナ抽出物とイザヨイバラ抽出物を組合わせて用いる場合における二成分の比率は、通常、固形物の質量換算で、1:3〜9:1(ベニバナ抽出物:イザヨイバラ抽出物)が好ましく、1:1.5〜3:1がより好ましい。また、1,3−ブチレングリコール、3−メチル−1,3−ブタンジオール、エタノールの配合率(合計)は、化粧料の全体量に対し、10質量%以上であることが好ましい。また、感触や、刺激性(特にエタノール)などの観点から10〜30質量%程度において用いることがより好ましい。
【0016】
本発明の抗菌組成物を含む化粧料は、他の添加物を適宜含有することができ、油剤、界面活性剤、糖類、高分子類、pH調整剤、キレート剤、アルコール類、ビタミン類、アミノ酸類、塩類、香料、色素などを配合することができる。油剤としては、例えばセタノール、イソステアリルアルコール、ラウリルアルコール、オレイン酸、オクチルドデカノール、イソステアリン酸、ウンデシレン酸、アボガド油、オリーブ油、ゴマ油、ヒマシ油、椿油、馬油等が挙げられる。界面活性剤としては、例えばアニオン性界面活性剤、カチオン性界面活性剤、ノニオン性界面活性剤、両性界面活性剤などが挙げられる。糖類としては、例えばソルビトール、マンニトール、グルコース、ショ糖、加糖、キシリトール、マルチトール、トレハロース等が挙げられる。高分子としては、例えばポリアクリル酸ナトリウム、アルギン酸ナトリウム、カルボキシビニルポリマー、カチオンポリマー、ペクチン、デキストリン、グアーガム、アルギン酸、ゼラチン、ヒアルロン酸等が挙げられる。ビタミン類としては、例えばレチノール、リボフラビン、塩酸ピリミドキシン、L−アスコルビン酸、L−アスコルビン酸ナトリウム、パントテン酸カルシウム、ニコチン酸、ニコチン酸アミド、酢酸トコフェロール、ビオチン等が挙げられる。
【実施例】
【0017】
以下、本発明を実施例によって具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0018】
[例1]
[抽出物の調製例]
ベニバナの花を圧搾して、エタノールにより抽出後濾過した。これを減圧濃縮し、エタノールを留去させて抽出物とした。同様の方法でイザヨイバラの果実から抽出物を得た。得られたベニバナ抽出物及びイザヨイバラ抽出物の混合物、またはベニバナ抽出物に、1,3−ブチレングリコールを加えたものを抗菌組成物として用いた。
【0019】
但し、実施例12、13及び28については1,3−ブチレングリコールに替え3−メチル−1,3−ブタンジオール又はエタノールを加え、実施例27及び29については1,3−ブチレングリコールと共に3−メチル−1,3−ブタンジオール又はエタノールを加えたものを抗菌組成物として用いた。
【0020】
[抗菌性評価方法]
得られた抗菌組成物に表1、2に記載の成分を加えて試験用化粧水とし、抗菌評価を行った。
抗菌評価において用いた微生物は以下の通りである。
大腸菌(Escherichia coli NBRC 3972)
黄色ブドウ球菌(Staphylococcus aureus NBRC 12732)
緑濃菌(Pseudomonas aeruginosa NBRC 13275)
カンジダ(Candida albicans NBRC 1594)
黒コウジカビ(Aspergillus niger NBRC 9455)
・大腸菌、黄色ブドウ球菌、緑濃菌に対する抗菌評価
試験用化粧水1mL当たり細菌10個を植菌し37℃で培養、1日後、1、2、3、4週間後の各生菌数を測定した。結果は、1日後の生菌数が1mL当たり10個未満の場合を○○、10〜10個未満の場合を○、10個以上の場合を×として評価した。結果を表1に示す。
【0021】
・カンジダ、黒コウジカビに対する抗菌評価
試験用化粧水1mL当たり細菌10個を植菌し、25℃で培養した。黒コウジカビについては、4週間後の生菌数が1mL当たり10個未満の場合を○○、10〜10個未満の場合を○、10個以上の場合を△、菌糸が発生したものを×として評価した。カンジダについては、4週間後の生菌数が1mL当たり10個未満の場合を○○、10個以上の場合を×として評価した。結果を表2に示す。
【表1】

【0022】
【表2】

【0023】
表1及び表2の結果から、ベニバナ抽出物及びイザヨイバラ抽出物のいずれも含有しない場合(比較例1乃至5、8乃至10)、またイザヨイバラ抽出物は含有するがベニバナ抽出物は含有しない場合(比較例6及び7)は、個々の微生物に対する抗菌力、あるいは抗菌性を示す微生物の範囲の観点から、充分な抗菌力を得られていないことがわかる。また、比較例4及び5より、1,3−ブチレングリコール自体にも抗菌活性が認められるが、その配合率を10質量%、20質量%と高濃度化しても充分な抗菌活性は得られないことが表2よりわかる。
【0024】
一方、表1及び表2の結果から、ベニバナ抽出物及びイザヨイバラ抽出物と、1,3−ブチレングリコール、3−メチル−1,3−ブタンジオール又はエタノールとの混合物、もしくはベニバナ抽出物と1,3−ブチレングリコール、3−メチル−1,3−ブタンジオール又はエタノールとの混合物である本発明の実施例1乃至29は、広範囲の微生物に対して抗菌性を示し、優れた抗菌力を有することが示された。特に、ベニバナ抽出物とイザヨイバラ抽出物とを組み合わせた場合においては、ベニバナ抽出物とイザヨイバラ抽出物の混合比が1:3〜9:1(ベニバナ抽出物:イザヨイバラ抽出物(固形物質量換算))の範囲、特に1:1.5〜3:1の範囲において極めて優れた抗菌力を有することがわかった。
【0025】
[例2]
上記とは剤型の異なる化粧料(クリーム)について抗菌性を評価した(実施例30)。
【0026】
表3に示す(3)〜(10)の油相成分を混合、加温し75℃とした。一方、(11)〜(14)の水相成分を混合、加温し75℃とした。水相に油相を添加してこれを乳化し、40℃に冷却した後、(1)及び(2)を添加することにより得られたクリームを用い、黄色ブドウ球菌、緑濃菌、大腸菌、カンジダ、及び黒コウジカビに対する抗菌性を上記と同様に評価した。結果を後掲の表5に示す。いずれの微生物に対しても高い抗菌性を示すことがわかった。
【表3】

【0027】
[例3]
上記とは剤型の異なる化粧料(ゲル)について抗菌性を評価した(実施例31)。
【0028】
表4に示す成分(3)〜(7)を混合、70℃に加温して均一な溶解液を得た。次いでこれを40℃に冷却して (8)を添加し、中和後、(9)を添加、溶解させた後、(1)及び(2)を添加した。得られたゲルについて黄色ブドウ球菌、緑濃菌、大腸菌、カンジダ、及び黒コウジカビに対する抗菌性を上記と同様に評価した。結果を表5に示す。いずれの微生物に対しても高い抗菌性を示すことがわかった。
【表4】

【0029】
【表5】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
ベニバナ抽出物及びイザヨイバラ抽出物と、1,3−ブチレングリコール、3−メチル−1,3−ブタンジオール及びエタノールから選択される1種以上の溶媒とを含有してなる抗菌組成物。
【請求項2】
ベニバナ抽出物及びイザヨイバラ抽出物の配合比が、固形物の質量換算で、1:3〜9:1である、請求項1に記載の抗菌組成物。
【請求項3】
ベニバナ抽出物及びイザヨイバラ抽出物の配合比が、固形物の質量換算で、1:1.5〜3:1である、請求項1に記載の抗菌組成物。
【請求項4】
ベニバナ抽出物と、1,3−ブチレングリコール、3−メチル−1,3−ブタンジオール及びエタノールから選択される1種以上の溶媒とを含有してなる抗菌組成物。
【請求項5】
請求項1乃至4のいずれか1項に記載の抗菌組成物を含む化粧料。

【公開番号】特開2007−145784(P2007−145784A)
【公開日】平成19年6月14日(2007.6.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−345570(P2005−345570)
【出願日】平成17年11月30日(2005.11.30)
【出願人】(505443160)株式会社 サティス製薬 (5)
【出願人】(594095958)
【Fターム(参考)】