説明

抗酸化組成物およびそれを含有する化粧料

【課題】 含水組成物におけるシステインが有する抗酸化力を維持すること。
【解決手段】 システインと、タイムエキスあるいはその有効成分であるチモールまたはカルバクロールとを含有することを特徴とし、システインの抗酸化力が維持された抗酸化組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、優れた抗酸化力を有するシステインの活性が維持された、皮膚外用剤、皮膚化粧料、特に消臭剤、または毛髪化粧料に添加剤として使用するのに有用な抗酸化組成物、ならびに含水組成物中におけるシステインの酸化を抑制する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、システインは抗酸化物質として高い抗酸化力を有することが知られており、その抗酸化力を利用して食品、医薬品、パーソナルケア製品(特許文献1)などに配合されている。例えば、パーマネントウェーブ製品には還元剤としてシステインが用いられており、その酸化防止剤としてはチオグリコール酸が広く用いられている。しかしながら、チオグリコール酸には固有の刺激臭があるため、パーマネントウェーブ剤以外の化粧料や消臭剤の成分として使用することは困難である。
しかしながら、システインはそれ自体が酸化されて抗酸化力が低下し易いため、これらの製品に配合した場合に持続的に高い抗酸化力を発揮し得ないという問題が存在する。
【0003】
一方、ハーブ由来のエキスには高い抗酸化力が認められていることに着目し、システインのシスチンへの酸化を防止すると共に、システインの抗酸化力および抗酸化力に基づく作用を保持することが期待される。
【特許文献1】特開2005-206573公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
これらの状況の下、種々の製品に配合されるシステインの酸化を抑制して、システインの抗酸化力を持続させることに対する要望が存在する。
したがって、本発明はシステインの抗酸化力を持続させる効果を有する成分を配合した抗酸化組成物を提供することを目的とする。
【0005】
本発明者は、システインの抗酸化力を持続させる効果について種々のハーブ由来エキスを鋭意検討した結果、特定のハーブ由来エキスに優れた効果があることを見出し、本発明を完成するに至った。
【課題を解決するための手段】
【0006】
すなわち、本発明は、
(1)水、システインおよびタイムエキスを含有することを特徴とする抗酸化組成物;
(2)水、システイン、ならびにチモールおよびカルバクロールよりなる群から選択される1種以上の成分を含有することを特徴とする抗酸化組成物;
(3)0.01〜30mMのシステインを含有する前記(1)または(2)記載の抗酸化組成物;
(4)タイムエキスを0.01〜1重量%含有する前記(1)または(3)記載の抗酸化組成物;
(5)チモールおよびカルバクロールよりなる群から選択される1種以上の成分を0.01〜1重量%含有する前記(2)または(3)記載の抗酸化組成物;
(6)皮膚化粧料添加剤である前記(1)ないし(5)のいずれか1に記載の抗酸化組成物;
(7)消臭剤添加剤である前記(6)記載の抗酸化組成物;
(8)前記(6)に記載の皮膚化粧料添加剤を含有することを特徴とする皮膚化粧料;
(9)前記(7)に記載の消臭剤添加剤を含有することを特徴とする消臭剤;
(10)システインを含有する含水組成物を準備し、ついで
その含水組成物にタイムエキスを添加する
工程を含む、含水組成物中のシステインの酸化を抑制する方法;
(11)システインを含有する含水組成物を準備し、ついで
その含水組成物にチモールおよびカルバクロールよりなる群から選択される1種以上の成分を添加する
工程を含む、含水組成物中のシステインの酸化を抑制する方法;
(12)含水組成物が皮膚外用剤、皮膚化粧料および毛髪化粧料よりなる群から選択される前記(10)または(11)記載の方法;
(13)含水組成物が消臭剤である前記(10)または(11)記載の方法;
を提供するものである。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、製品中に配合するシステインの経時的な酸化を抑制して、システインが有する優れた抗酸化効果を持続的に発揮させることができ、それによって、
シミ、そばかす等の除去を図り、美肌、美白を生み出すことができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
本発明は、第1の態様において、抗酸化組成物を提供する。
本発明の抗酸化組成物に用いるシステインは、天然に存在するL−システインまたはその塩であり、自体公知の方法に従って天然物から抽出したものであっても、化学的に合成したものであってもよい。例えば、塩酸L-システイン一水和物、L-システイン
(以後、「システイン」と表示)を用いることができる。
【0009】
抗酸化組成物におけるシステインの配合濃度は、通常0.01〜30mM、好ましくは0.5〜10mM、より好ましくは1〜5mM、最も好ましくは1.5〜4mMである。抗酸化組成物におけるシステイン濃度が0.01mM未満である場合は、組成物の抗酸化効果が十分に発揮されず、一方30mMを超える配合してもそれに応じた効果が期待できない。
【0010】
また、本発明の抗酸化組成物に用いるタイムエキスは、シソ科植物タチジャコウソウ属(Thymus)、タチジャコウソウ(Thymus vulgaris L.)の茎、葉、花から抽出したエキスであり、自体公知の方法で製造したものを用いることができ、例えば、水、メタノール、エタノールなどのアルコール類、またはこれらの混合溶媒のような抽出溶媒を用いて、常温抽出または加熱抽出することにより製造でき、必要により、減圧または加圧して抽出することによっても製造できる。タイムエキスは、植物から得られた抽出エキスをそのまま使用することも可能であるが、通常、濃縮または乾固したものを使用する。
好ましくはタチジャコウソウの葉、茎を主原料としたタイム乾燥粉末を3倍量(重量比)の80%エタノールと混合し、3日間室温にて静置した後、濾過して得られた濾液からなるタイムエキスである。
【0011】
本発明の抗酸化組成物におけるタイムエキスの配合量は、通常0.01〜1重量%、好ましくは 0.05〜0.5重量%、最も好ましくは0.1〜0.3重量%である。抗酸化組成物におけるタイムエキス配合量が0.01重量%未満である場合は、組成物の抗酸化効果が十分に発揮されず、一方1重量%を超えて配合してもそれに応じた効果が期待できない。
【0012】
また、本発明の抗酸化組成物に用いるチモールまたはカルバクロールは、上記植物由来のタイムエキスに含まれる成分であり、和光純薬工業株式会社などから市販されている原料を用いることができる。
【0013】
本発明の抗酸化組成物におけるチモールまたはカルバクロールの配合量は、それらの1種または2種の合計として、通常0.01〜1重量%、好ましくは0.05〜0.5重量%、より好ましくは0.075〜0.4重量%、最も好ましくは0.1〜0.3重量%である。抗酸化組成物におけるチモールまたはカルバクロールの配合量が0.01重量%未満である場合は、組成物の抗酸化効果が十分に発揮されず、一方0.5重量%を超えて配合してもそれに応じた効果が期待できない。
【0014】
本発明の抗酸化組成物は、上述した必須の成分のほかに、適宜用途に応じて、後記するようなpH調製剤、防腐剤、キレート剤、安定化剤などを配合することができる。
【0015】
また、本発明は、第2の形態において、皮膚外用剤添加剤、皮膚化粧料添加剤および毛髪化粧料添加剤として用いる前記抗酸化組成物を提供する。ここに、皮膚化粧料添加剤は、好ましくは消臭剤添加剤である。
【0016】
本発明の、皮膚外用剤添加剤、皮膚化粧料添加剤および毛髪化粧料添加剤において用いる成分および配合量は抗酸化組成物について前記したものと同じであり、前記した任意の成分を適宜配合することができる。
【0017】
また、本発明は、第3の形態において、各々、前記の皮膚外用剤添加剤、化粧料添加剤または消臭剤添加剤を含有することを特徴とする皮膚外用剤、皮膚化粧料、好ましくは消臭剤、または毛髪化粧料を提供する。
【0018】
本発明の皮膚外用剤、皮膚化粧料または毛髪化粧料は、抗酸化組成物について前記した必須の成分のほかに、以下のような公知成分を自体公知の方法で配合して、半固体、溶液、懸濁液、分散液、または油中水型もしくは水中油型の乳化液などの含水組成物の剤型とすることができる。
【0019】
本発明の皮膚外用剤、皮膚化粧料または毛髪化粧料におけるシステインの最終濃度は、通常0.01〜30mM、好ましくは0.5〜10mM、より好ましくは1〜5mM、最も好ましくは1.5〜4mMである。
また、本発明の皮膚外用剤、皮膚化粧料または毛髪化粧料におけるタイムエキスの最終配合量は、通常0.01〜1重量%、好ましくは0.05〜0.5重量%、より好ましくは0.075〜0.4重量%、最も好ましくは0.1〜0.3重量%である。
さらに、本発明の皮膚外用剤、皮膚化粧料または毛髪化粧料におけるチモールまたはカルバクロールの最終配合量は、通常0.01〜1重量%、好ましくは0.05〜0.5重量%、より好ましくは0.075〜0.4重量%、最も好ましくは0.1〜0.3重量%である。
【0020】
油剤
セチルアルコール、ミリスチルアルコール、オレイルアルコール、ラウリルアルコール、セトステアリルアルコール、ステアリルアルコール、イソステアリルアルコール、2−オクチルドデカノール、ベヘニルアルコールなどの高級アルコール;ラウリン酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、ステアリン酸、イソステアリン酸、ベヘン酸、ウンデシレン酸、オレイン酸、リノール酸、リノレイン酸、エルカ酸、ドコサヘキサエン酸、エイコサペンタエン酸などの高級脂肪酸;ミリスチン酸オクチルドデシル、パルミチン酸オクチルドデシル、イソノナン酸オクチル、ネオペンタン酸イソステアリル、ミリスチン酸イソプロピル、トリイソステアリン酸グリセリルなどのエステル油;流動パラフィン、重質流動イソパラフィン、軽質流動イソパラフィン、スクワラン、スクワレン、ワセリン、パラフィンなどの炭化水素;キャンデリラワックス、カルナウバワックス、ライスワックス、ミツロウ、セレシン、パラフィンワックス、マイクロクリスタリンワックス、ペトロラタム、ポリエチレン・ポリプロピレンコポリマーなどのワックス;ヤシ油、パーム油、パーム核油、サフラワー油、オリーブ油、ヒマシ油、アボカド油、ゴマ油、ローズヒップ油、メドウフォーム油、ハッカ油、トウモロコシ油、ナタネ油、ヒマワリ油、ダイズ油、落花生油、カカオ脂、シア脂、水素添加ヤシ油、水素添加ヒマシ油、ホホバ油、水素添加ホホバ油などの植物油脂;牛脂、乳脂、馬脂、卵黄油、ミンク油などの動物油脂;鯨ロウ、ラノリン、液状ラノリン、還元ラノリン、ラノリンアルコールなどのラノリン;レシチン、ホスファチジルコリン、ホスファチジルエタノールアミン、ホスファチジルセリン、ホスファチジルグリセロール、ホスファチジルイノシトール、スフィンゴミエリン、スフィンゴリン脂質、ホスファチジン酸、リゾレシチンなどのリン脂質;ヤシ油脂肪酸モノエタノールアミド(コカミドMEA)、ラウリン酸モノイソプロパノールアミド(ラウラミドMIPA)などの脂肪酸アルカノールアミド;ジメチコン(ジメチルポリシロキサン)、アミノ変性シリコーン、カチオン変性シリコーン、ポリエーテル変性シリコーン、ポリグリセリン変性シリコーン、アルキル変性シリコーン、脂肪酸変性シリコーンなどのシリコーン;パーフルオロデカン、パーフルオロオクタン、パーフルオロポリエーテルなどのフッ素系油
【0021】
保湿剤・感触向上剤
グリセリン、1,3−ブチレングリコール、プロピレングリコール、ヘキシレングリコール、ジグリセリン、ポリグリセリン、ジエチレングリコール、ポリエチレングリコール、エチレングリコール・プロピレングリコール共重合体、ソルビトール、キシリトール、エリスリトール、マンニトール、シクロデキストリン、キチン、キトサン、ヒアルロン酸、コンドロイチン、チューベロース多糖体、尿素、コラーゲン、魚由来コラーゲン、ゼラチン、エラスチン、コラーゲン分解ペプチド、加水分解コラーゲン、エラスチン分解ペプチド、ケラチン分解ペプチド、加水分解ケラチン、カモミラエキス、カンゾウエキス、シルクエキス、ユーカリエキス、セラミド
【0022】
界面活性剤
ラウリル硫酸ナトリウム、ラウリル硫酸トリエタノールアミン、ラウレス硫酸ナトリウム、ラウレス硫酸トリエタノールアミン、ラウロイルサルコシンナトリウム、ラウロイルサルコシントリエタノールアミン、ラウロイルモノエタノールアミドコハク酸ナトリウムなどの陰イオン界面活性剤;ラウレス(ポリオキシエチレンラウリルエーテル)、ポリオキシエチレン付加数のポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油、ポリオキシエチレン・ポリオキシプロピレンセチルエーテル、ステアリン酸グリセリル、ヤシ油脂肪酸グリセリル、ジステアリン酸ポリグリセリル、ソルビタンモノステアレート、ショ糖脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンジステアレート、ポリオキシエチレングリセリンモノステアレート、ヤシ油脂肪酸ジエタノールアミド(コカミドDEA)、ラウリン酸モノエタノールアミド(ラウラミドMEA)などの非イオン性界面活性剤;ステアルトリモニウムクロリド、ジステアリルジモニウムクロリドなどの陽イオン性界面活性剤;ラウリルベタイン、コカミドプロピルベタインなどの両性界面活性剤
【0023】
粘度調整剤
カラギーナン、カラヤガム、トラガントガム、キサンタンガム、ザンサンガム、プルラン、ジェランガム、ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、カルボキシメチルセルロース及びそのナトリウム等の塩、メチルヒドロキシプロピルセルロース、結晶セルロース、粉末セルロース、ポリビニルピドリドン、ポリビニルアルコール、ポリオキシエチレン・ポリオキシプロピレン共重合体、(メタクリロイルオキシエチルカルボキシベタイン/メタクリル酸アルキル)コポリマー、マレイン酸共重合体、アクリル酸・メタアクリル酸エステル共重合体
【0024】
溶剤・噴射剤
エタノール、2−プロパノール(イソプロピルアルコール)、ブタノール、イソブチルアルコール、プロピレングリコール、1,3−ブチレングリコール、ジエチレングリコール、ジプロピレングリコール、ジプロピレングリコールモノエチルエーテル、ベンジルアルコール、ベンジルオキシエタノール、炭酸プロピレン、炭酸ジアルキル、アセトン、酢酸エチル、N−メチルピロリドン、トルエン、フルオロカーボン、LPG、ジメチルエーテル、炭酸ガス
【0025】
酸化防止剤・還元剤・酸化剤
トコフェロール、酢酸トコフェロール、BHT、BHA、アスコルビン酸またはその誘導体、チオグリコール酸、過酸化水素水、過硫酸アンモニウム、臭素酸ナトリウム、過炭酸
【0026】
防腐剤・抗菌剤・キレート剤
メチルパラベン、エチルパラベン、プロピルパラベン、安息香酸ナトリウム、トリクロサン、ジンクピリチオン、塩化ベンザルコニウム、塩化ベンゼトニウム、ソルビン酸、クロルヘキシジン、ハロカルバン、ヒノキチオール、クレゾール、チモール、パラクロロフェノール、銀イオン、エチレンジアミン四酢酸塩、シュウ酸ナトリウム、ポリリン酸ナトリウム、メタリン酸ナトリウム、リン酸;クエン酸ナトリウム、クエン酸、アラニン、ジヒドロキシエチルグリシン、グルコン酸、アスコルビン酸、コハク酸、酒石酸
【0027】
pH調整剤
クエン酸、クエン酸ナトリウム、乳酸、乳酸ナトリウム、グリコール酸、コハク酸、酢酸、酢酸ナトリウム、リンゴ酸、酒石酸、フマル酸、リン酸、塩酸、硫酸、モノエタノールアミン、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン、イソプロパノールアミン、トリイソプロパノールアミン、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、アンモニア水、
【0028】
粉体
マイカ、タルク、カオリン、セリサイト、モンモリロナイト、カオリナイト、雲母、酸化チタン、雲母チタン、
【0029】
紫外線吸収剤
パラアミノ安息香酸、パラアミノ安息香酸モノグリセリンエステル、ホモメンチル−N−アセチルアントラニレート、ベンジルサリシレート、p−イソプロパノールフェニルサリシレート、オクチルシンナメート、2,4−ジヒドロキシベンゾフェノン、3−(4'−メチルベンジリデン)−d,l−カンファー、オクチルトリアゾン、アントラニル酸メチル、オリザノール
【0030】
薬効成分
塩酸ジフェンヒドラミン、マレイン酸クロルフェニラミン、カンファー、サリチル酸、レゾルシン、ピリドキシン、メントール、サリチル酸メチル等、クエン酸、酒石酸、乳酸、タンニン酸、スーパーオキサイドディスムターゼ、カタラーゼ、塩化リゾチーム、リパーゼ、パパイン、パンクレアチン、プロテアーゼ
【0031】
さらに、本発明は、第4の態様において、含水組成物中のシステインの酸化を抑制する方法を提供する。
この方法は、システインを含有する含水組成物を準備し、ついで、その含水組成物にタイムエキス、チモールおよびカルバクロールよりなる群から選択される1種以上の成分を添加する工程を含む。
本発明の方法に用いるシステイン、タイムエキス、チモールおよびカルバクロールは抗酸化組成物において記載したものと同じである。
本発明の方法に用いる含水組成物とは、水もしくは水分、および2以上の物質を含むいずれの混合物をもいい、微量の水分を含む固体、半固体、溶液、懸濁液、分散液、または油中水型もしくは水中油型の乳化液などが含まれる。含水組成物には、皮膚外用剤、皮膚化粧料、特に消臭剤、または毛髪化粧料などが含まれる。
【実施例】
【0032】
つぎに、実施例を挙げて本発明をさらに詳しく説明するが、これらの態様は本発明を説明することを目的とするものであって、これらに本発明が制限されるものではない。
また、下記実施例で使用したシステインはすべて塩酸システイン一水和物である。
【0033】
調製例
シソ科植物タチジャコウソウ属(Thymus)タチジャコウソウ(Thymus vulgaris L.)の葉、茎を主原料としたタイム乾燥粉末300gに80%エタノール水溶液1200gを添加して混合し3日間室温にて静置した後、濾紙を通して濾過した濾液を調製した。これをそのままタイムエキスとして実験に用いた。
【0034】
実施例1
タイムエキス0.1重量%を添加した0.03重量%システイン水溶液(1.6mM)と0.03重量%システイン水溶液単独(1.6mM)およびタイムエキス0.1重量%水溶液単独を室温保存して、ラジカル消去能をDPPH(1,1−ジフェニル−2−ピクリルヒドラジル)アッセイにより経時的に281日間測定した。
その結果を表1に示す。表中、数値が小さい程、抗酸化力が低いことを示す。
【0035】
【表1】

【0036】
その結果、タイムエキス単独では測定開始時から高いDPPH消去能がなく、システイン単独では100日を超えた頃から著名なDPPH消去能の低下が認められたが、両成分を配合した場合には300日近くまで高いDPPH消去能を示し、システインが有する抗酸化力が維持されることが判明した。
【0037】
実施例2
タイムエキスのシステイン酸化抑制能を確かめるべく、0.03または0.003重量%(それぞれ、1.6mMまたは0.16mM)のシステイン水溶液単独、それぞれに0.05または0.1重量%のタイムエキスを添加した水溶液、および0.05または0.1重量%のタイムエキス水溶液単独について経時的なDPPH消去能を測定した。
その結果を表2に示す。表中、数値が小さい程、抗酸化力が低いことを示す。
【0038】
【表2】

【0039】
システインを単独で含む水溶液では経時的に抗酸化力が低下し、また、タイムエキスを単独で含む水溶液は測定開始時から抗酸化力が低いことが判明した。
それに対して、タイムエキス0.1重量%を添加した0.003重量%システイン水溶液は56日後においてもDPPH消去能75.9%を示し、それぞれの成分を単独で添加した値の和を凌駕する値を示し、タイムエキスの添加によりシステインの抗酸化力が特異的に維持されることが判明した。
【0040】
実施例3
タイムエキスの主成分であるチモールまたはカルバクロールを0.05重量%の濃度で0.03重量%システイン水溶液(1.6mM)に添加、0.1重量%タイムエキス添加と合わせて、各溶液のDPPH消去能を経時的に測定した(室温保存)。
その結果を表3に示す。表中、数値が小さい程、抗酸化力が低いことを示す。
【0041】
【表3】

【0042】
チモールまたはカルバクロール単独では測定開始時から高いDPPH消去能がないにもかかわらず、これらをシステインと配合した場合には、タイムエキス0.1重量%と同様に、システインが有する抗酸化力が維持されることが判明した。
【0043】
実施例4
タイムエキスによるシステインの抗酸化力維持能力(シスチン酸化防止能)をさらに確かめるべく、400MHz 核磁気共鳴(以下、「NMR」という)にて室温、重水溶媒中におけるシステイン・シスチン存在比を求めた。
その結果を表4に示す。

Sample A (タイムエキス()): 3 mg のシステインを0.5 mLの重水に溶解したもの。
Sample B (タイムエキス(+)): 3 mg のシステインとタイムエキス(提供品)100 mg
を濃縮したものを0.5 mL の重水に溶解したもの。
Sample A、Bともに、ガラス製の容器(NMR測定管・蓋付)にて室温で保存した。
【0044】
【表4】

その結果、タイムエキスを添加することによって、システインのシスチンへの酸化が抑制されることが判明した。
【0045】
実施例5
加齢臭の元凶ともいわれる2−ノネナールを変換するシステインの能力について検討した。以下のSampleを用いて、400MHz 核磁気共鳴(以下NMR)にて室温、重メタノール中における2−ノネナールと生成物の比を求めた。
その結果を表5に示す。

Sample C (Cys 6mg): 7 mgの2−ノネナールを0.5 mLの重メタノールに溶解し、
6 mg のシステイン(塩酸塩ではない)を加えたもの。
2−ノネナール:システイン=1:1(モル比)。
Sample D (Cys 12mg): 7 mgの2−ノネナールを0.5 mLの重メタノールに溶解し、
12 mg のシステイン(塩酸塩ではない)を加えたもの。
2−ノネナール:システイン=1:2(モル比)。
Sample C,Dともに、ガラス製の容器(NMR測定管・蓋付)にて室温で保存した。
【0046】
【表5】

【0047】
システインにより2−ノネナールが減少することが判明した。
【0048】
実施例6
新規に調製した直後の3mMシステイン水溶液、ならびに調製後2ヶ月間室温にて放置した3mMシステイン水溶液、0.1重量%タイムエキスを調製直後の3mMシステイン水溶液に添加した後2ヶ月間室温にて放置した水溶液、および調製後2ヶ月間室温にて放置した0.1重量%タイムエキス水溶液による2−ノネナール臭の消去効果について4名の成人健常男性の嗅覚にて評価した。エタノールに溶解した1重量%2−ノネナール溶液を10cm×5cm×20cmのプラスチック容器5個に噴霧し、さらに調製した各水溶液を個別の容器に噴霧し、Blindにて30分後のそれぞれの容器内の臭いを直接嗅ぎ、検討した。
その結果を表6に示す。
【0049】
【表6】

【0050】
2−ノネナール単独、それに放置したシステインまたは放置したタイムエキスを噴霧した場合には強烈な2−ノネナール臭が認められたのに対して、調製直後のシステインまたは放置したシステインおよびタイムエキスの混合物を噴霧した場合には2−ノネナール臭が減弱されることが判明した。
【0051】
調製直後のシステインや放置したシステインおよびタイムエキス混合物では減弱効果が認められるのに対して、放置したシステインや放置したタイムエキスでは減弱効果が認められないことから、前記の実験結果も考え合わせると、システインにより2−ノネナールが生成物に変換されると臭いは減弱されるが、システインの抗酸化力が低下して2−ノネナールを変換する能力が低くなると臭いが減弱されないと考えられる。また、タイムエキス共存下でシステインの抗酸化力が維持されることにより、長期間にわたって2−ノネナール臭の減弱効果が維持されることが判明した。
【0052】
実施例7
抗酸化組成物
成分 配合量(重量%)
システイン 0.05
タイムエキス 0.1
水 残部
合計 100.0
【0053】
実施例8
皮膚外用剤
成分 配合量(重量%)
システイン 0.03
グルタミンソーダ 0.3
タイムエキス 0.1
ブドウ糖 2.0
塩化ナトリウム 0.5
水 残部
合計 100.0
【0054】
実施例9
皮膚化粧料
成分 配合量(重量%)
システイン 0.03
タイムエキス 0.1
ビタミンC 2.0
水 残部
合計 100.0
【0055】
実施例10
毛髪化粧料
成分 配合量(重量%)
システイン 0.03
タイムエキス 0.1
ブドウ糖 2.0
水 残部
合計 100.0
【0056】
実施例11
消臭剤
成分 配合量(重量%)
システイン 0.05
タイムエキス 0.1
ブドウ糖 1.0
水 残部
合計 100.0
【産業上の利用可能性】
【0057】
本発明によれば、システインが有する優れた抗酸化力を長期間に維持することができ、システインが安定して配合された皮膚外用剤、皮膚化粧料、毛髪化粧料などの含水組成物を提供することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
水、システインおよびタイムエキスを含有することを特徴とする抗酸化組成物。
【請求項2】
水、システイン、ならびにチモールおよびカルバクロールよりなる群から選択される1種以上の成分を含有することを特徴とする抗酸化組成物。
【請求項3】
0.01〜30mMのシステインを含有する請求項1または2記載の抗酸化組成物。
【請求項4】
タイムエキスを0.01〜1重量%含有する請求項1または3記載の抗酸化組成物。
【請求項5】
チモールおよびカルバクロールよりなる群から選択される1種以上の成分を0.01〜1重量%含有する請求項2または3記載の抗酸化組成物。
【請求項6】
皮膚化粧料添加剤である請求項1ないし5のいずれか1項に記載の抗酸化組成物。
【請求項7】
消臭剤添加剤である請求項6記載の抗酸化組成物。
【請求項8】
請求項6に記載の皮膚化粧料添加剤を含有することを特徴とする皮膚化粧料。
【請求項9】
請求項7に記載の消臭剤添加剤を含有することを特徴とする消臭剤。
【請求項10】
システインを含有する含水組成物を準備し、ついで
その含水組成物にタイムエキスを添加する
工程を含む、含水組成物中のシステインの酸化を抑制する方法。
【請求項11】
システインを含有する含水組成物を準備し、ついで
その含水組成物にチモールおよびカルバクロールよりなる群から選択される1種以上の成分を添加する
工程を含む、含水組成物中のシステインの酸化を抑制する方法。
【請求項12】
含水組成物が皮膚外用剤、皮膚化粧料および毛髪化粧料よりなる群から選択される請求項10または11記載の方法。
【請求項13】
含水組成物が消臭剤である請求項10または11記載の方法。

【公開番号】特開2010−13417(P2010−13417A)
【公開日】平成22年1月21日(2010.1.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−176871(P2008−176871)
【出願日】平成20年7月7日(2008.7.7)
【出願人】(500264375)株式会社ゲオ (11)
【Fターム(参考)】