説明

折り返しタンデム型静電加速器を用いたコンパクト高エネルギー集束イオンビーム形成装置

【課題】
集束イオンビーム形成装置において、加速器と集束レンズ系を一体化とすることにより小型化を実現するとともに、加速器の加速管も集束レンズ系の一部とすることで装置全体の縮小率も最大化することで、ナノビームを形成する。
【解決手段】
加速器が、折り返し型タンデム加速器であるため、高電圧ターミナル部に180°分析電磁石を置き、高エネルギー側の加速管の入口部にエネルギー分析及び発散制限スリット機能を有するスリットを設置し、再度、単孔レンズ効果を有する加速管によりビームを加速するとともに、集束を行い、MeV領域高エネルギーイオンナノビームを形成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高エネルギーの微小径イオンビーム形成方法及び装置に関する発明である。本発明では、折り返し(folded)タンデム型静電加速器を用いることにより、高エネルギー加速器ながらシングルエンド型静電加速器と同等の大きさを保持するとともに、この
高エネルギー加速器を集束レンズ系の一部とすることで、高エネルギービームの集束イオンビーム形成装置の小型化及びレンズ系の高縮小率化を実現するものである。
【背景技術】
【0002】
局所微量元素分析や物質表面の微細加工技術に対してMeV領域の高エネルギー微少径イオンビーム(集束イオンビーム)の使用の有効性が広く認められ、国内外の研究機関や大学でこのビームを用いた分析技術や微細加工技術が材料科学や生物・医療分野で使用されている。しかし、この集束イオンビームの形成には、独立したシングルエンド型静電加速器又はタンデム静電加速器と10m程度の長尺の集束イオンビーム形成ビームラインを連結することで行われているため、形成装置が大型となり、これがMeV級集束イオンビーム形成装置の産業界への普及の妨げとなっている。
【特許文献1】特開2004-45068号公報(特願2002-199727号)
【特許文献2】特願2005-245389号
【非特許文献1】Low-energy ion source characteristics for producing an ultra-fine microbeam, Y. Ishii, R. Tanaka and A. Isoya, Nucl. Instr. and Meth B113(1996)75-77
【非特許文献2】Development of a sub-micron ion beam system in the keV range,Y. Ishii, A. Isoya, A. Arakawa, T. Kojima and T. Tanaka, Nucl. Instr. and Meth B181(2001)71-77
【非特許文献3】Estimation of keV submicrom ion beam width using a kinife-edge method,Y. Ishii, A. Isoya, T. Kojima and K. Arakawa, Nucl. Instr. and Meth B211(2003)415-424.
【非特許文献4】Progress in 〜0.1mm width ion beam system using double acceleration lens, Y. Ishii, A. Isoya. T. Kojima, Nucl. Instr. and Meth B210(2003)70-74
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
従来型の集束イオンビーム形成装置においては、ビーム加速装置とビーム集束装置が分かれていたため大型化していたが、ビーム加速装置の加速器とビーム集束装置の集束レンズ系とを一体化とすることにより小型化を実現するとともに、加速器の加速管も集束レンズ系の一部とすることで、ビーム加速装置とビーム集束装置のレンズ系全体の縮小率も最大化することで、ナノビームを形成する。
【課題を解決するための手段】
【0004】
本発明においては、加速器の加速管(加速レンズ)の前段に、これまで開発してきたkeV領域のナノビーム形成装置を設置して、得られたナノビームを加速器の加速管に入射する。加速器では加速管の入口部の電極を最適化することで、単孔レンズ効果を持たせる。これにより加速管を集束レンズと見なすことができる。即ち、本発明においては、加速器が、折り返し型タンデム加速器であるため、高電圧ターミナル部に180°分析電磁石を置き、高エネルギー側の加速管の入口部にエネルギー分析及び発散制限スリット機能を有するスリットを設置する。再度、単孔レンズ効果を有する高エネルギー側の加速管によりビームを加速するとともに、集束を行い、MeV領域高エネルギーイオンナノビームを形成する。
【0005】
前記keV領域のナノビーム形成装置は、イオン源と加速管(加速レンズ)の間に配置され、図4に示されるように、第1加速レンズ及び第2加速レンズとから構成され、イオン源からのイオンビームを電極間に生ずる電場の歪みにより絞りそれぞれ焦点及び像点を発生させることによりナノビームを形成する。
【0006】
又、前記加速レンズと単孔レンズ効果の概念図を図5に示す。このレンズは荷電粒子の加速と集束を同時に行うことができる。即ち、図5に示されるように、静電加速器の加速管では、入り口電極に開けた単孔により、電場の歪み(湾曲)が発生する。荷電粒子は電場に垂直に加速されるため、この歪みによりレンズ効果を発生させることができる。本発明で使用する加速管でもこの入口部に発生する単孔レンズ効果を利用し、加速管に縮小率を持たせて、集束レンズ(加速レンズ)として用いる。また、加速管レンズを使用する場合、球面収差は入り口電極部で発生するので、球面収差を小さくするために電極形状の最適化をする。
【発明の効果】
【0007】
本発明は、折り返しタンデム型静電加速器の前段にkeV領域のナノビーム形成装置を加速器と一体化して設け、ナノビーム形成装置で得られたナノビームを加速器の加速管で加速するとともに、その加速管(加速レンズ)にビームの集束レンズ効果を持たせて、その加速管を集束レンズの一部としても使用することにより、装置全体のビーム縮小率を大きくすることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
本発明においては、図1、2及び3に示されるように、負イオン源から加速器の加速管(加速レンズ)にイオンビームを入射するための加速レンズ系(集束レンズ)である、入射加速レンズ系としては図に示すkeV領域ナノビーム形成装置で開発してきた集束レンズ系である第1及び第2加速レンズを用いた同時加速・集束レンズ系を用いる。
【0009】
即ち、本発明においては、イオン源と加速器の間のイオンビーム入射ラインに、図4に示される加速電極を直列に離して配置した同時加速・集束レンズ系(入射加速レンズ系)を置き、入射加速レンズ系の物点(イオンの発生点)をイオン源の引き出し電極としている。
【0010】
又、本発明における期待されるビーム径の見積もりは、以下のとおりである。
加速レンズ及び加速管をレンズとして用いた場合、縮小率(M)は、レンズに入射するビームエネルギー(Vin)とレンズにより加速されて出射するビームのエネルギー
(Vaccel)、レンズ系に入射及び出射するビームの発散角を各々α、βとすると、次式の関係が成り立つ。
【0011】
【数1】

【0012】
これまにKeV領域ガスイオンビーム形成技術の開発により、イオン源から0.2mmφの水素イオンビームを発生し、これを加速レンズ系に入射するとレンズ系の出口付近で50KeV、約100mm径を形成している。
【0013】
本発明では、この後に接続した加速管により発散角が加速レンズ系と同様とすると、2MVまで加速する場合には、縮小率がM=6.3となるので、ビーム径は15nm程度になる。更に、発散角αとβを最適化することで、10nm以下のビーム径ができる。以下、本発明を実施例に基づいて説明する。
【実施例】
【0014】
(実施例1)
本発明の集束イオンビーム形成装置は、図1に示されるように、負イオン源、加速レンズ系(集束レンズ)、及び加速管を備えた折り返しタンデム型加速器により構成される。
【0015】
この集束イオンビーム形成装置での集束イオンビーム発生の形成は、負イオン源で負イオンビームを発生させ、加速レンズ系(集束レンズ)でイオンビームの集束を行った後、折り返しタンデム型加速器に入射する。加速器の加速管(加速レンズ)はイオンビームを加速すると同時に集束レンズとしても用いることでビームの縮小率を持たせる。タンデム型加速器では高電圧部で荷電変換を必要とするので、低エネルギー側加速管出口部に荷電変換装置を置き、負イオンから正イオンへの変換を行う。この荷電変換によりビームエネルギー幅の増大、イオン種、及びイオン価数が変化するので、ビーム軌道を変えることと同時に、イオン種、イオン価数及びビームエネルギーの分析を行うことが必要となる。
【0016】
この分析を行うのに、高電圧部に180度分析電磁石とこの電磁石出口部にスリットを設置する。このスリットは、分析系の一部であると同時に集束イオンビーム発生のための発散制限スリットと見なす。この後、再び高エネルギー側加速管で正イオンを加速し、加速による効果でビーム集束を行う。加速器から出射後、振り分け電磁石(分析電磁石)等でビームを曲げ、短い直線ビームラインにビームを導き試料上の集束点への集束ビームを形成する。
(実施例2)
実施例2の装置は、実施例1に対して、図2に示すように分析電磁石の低エネルギー側と高エネルギー側を一体とした形成装置である。この装置では、分析電磁石が一台であるため、ビームエネルギー固定の装置向きであり、分析電磁石の設置スペースを小さく、この分析電磁石用の電源を一台にすることができる。
【0017】
即ち、図2の集束イオンビーム形成装置においては、その下端部の加速管出口部に配置された分析電磁石が、図1の集束イオンビーム形成装置の分析電磁石のように2つに分割されているのではなく、1つの電磁石により構成されている。
(実施例3)
実施例3の装置は、図3に示されるように、実施例1において、高エネルギー側加速管出口部の分析電磁石を無くした装置である。加速器の出口部に空間がある場合は実施例3の配置にすることが可能である。この場合、実施例1や実施例2の様に加速出口部に分析電磁石を配置する必要が無いため、高エネルギー側の電磁石による収差を避けることができる。又、高エネルギー側は直線であるため、分析電磁石、発散制限スリット、加速管、及び試料位置の高精度のアライメントが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】本発明の集束イオンビーム形成装置の加速器出口部に2つの分析電磁石を配置した装置を示す図である。
【図2】本発明の集束イオンビーム形成装置の加速器出口部に1つの分析電磁石を配置した装置を示す図である。
【図3】本発明の集束イオンビーム形成装置の加速器出口部に分析電磁石を設けない装置を示す図である。
【図4】入射レンズ系を用いたkeV領域ナノビーム装置を示す図である。
【図5】加速レンズの概念図と単孔レンズ効果を示す図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
折り返しタンデム型静電加速器と加速レンズ系(集束レンズ)とを一体化することで、コンパクトな集束イオンビーム形成装置を構成できるとともに、加速器の加速管に集束レンズ効果を持たせて、加速管(加速レンズ)を集束レンズの一部として使用することで、装置全体の縮小率を大きくする、折り返しタンデム型静電加速器を用いたコンパクト高エナルギー集束イオンビーム形成装置。
【請求項2】
イオン源と加速器の間のイオンビーム入射ラインに加速電極を直列に離して配置した同時加速及び集束レンズ系(入射加速レンズ系)である加速レンズ系(集束レンズ)を置き、入射加速レンズ系の物点(イオンの発生点)をイオン源の引き出し電極とする、請求項1記載の装置。
【請求項3】
静電加速器の加速管の入り口電極に単孔を開け、そこに電場の歪み(湾曲)を発生させ、荷電粒子をその電場で加速すると同時にこの歪みによりレンズ効果を発生させ、この入口電極に発生する単孔レンズ効果を利用して加速管に縮小率を持たせることにより、加速管を集束レンズ(加速レンズ)としても使用し、且つ入り口電極部で発生する球面収差を小さくするために電極形状の最適化をする、請求項1又は請求項2記載の装置。
【請求項4】
低エネルギー側加速管の出口部付近に荷電変換装置を置き、その後方に180°分析電磁石と高エネルギー側加速管の入口部にスリットを設置することで、ビーム軌道を曲げ、再度ビームを高エナルギー側加速管に導くとともに、荷電変換装置により拡がったビームのエネルギー分析を行い、更にビーム光学上の発散制限スリットとしても機能させる、請求項1乃至3のいずれかに記載の装置。
【請求項5】
折り返しタンデム型加速器のイオン源として、低エネルギー、小エネルギー幅で、低エミッタンス、高輝度の大電流が得られるガス負イオン源を用いる、請求項1乃至請求項4のいずれかに記載の装置。
【請求項6】
折り返しタンデム型加速器の高電圧部の荷電変換装置のビームエネルギー分析系である180℃分析電磁石とスリットによりビーム電流が減少するため、大電流負イオン源を使用する、請求項5記載の装置。




【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2007−123000(P2007−123000A)
【公開日】平成19年5月17日(2007.5.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−312468(P2005−312468)
【出願日】平成17年10月27日(2005.10.27)
【出願人】(505374783)独立行政法人 日本原子力研究開発機構 (727)
【Fターム(参考)】