抵抗性がん患者の処置のためのオピオイドまたはオピオイドミメティクスの使用
抵抗性がん患者処置のための薬の製造のために、オピオイドまたはオピオイドミメティクスの使用が提案される。本発明の一実施形態によれば、オピオイドは、腫瘍細胞を殺すのに有効であるが、患者の正常な健常細胞には実質的に影響しない。本発明の一実施形態においては、カスパーゼ依存性またはカスパーゼ非依存性経路の活性化により細胞死が誘導される。本発明の好ましい実施形態においては、オピオイドは、がん細胞におけるアポトーシスを誘導する。本発明の一実施形態においては、オピオイドまたはオピオイドミメティクスは、以下の機序の一つ以上によりアポトーシスを誘導する:i.腫瘍細胞におけるカスパーゼ−3およびPARPの切断、ii.カスパーゼ−9の切断およびXIAPのダウンレギュレーション、iii.BclXLのダウンレギュレーション。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、抵抗性がん患者の処置のための新規の戦略に関する。
【背景技術】
【0002】
抗がん療法は、放射線療法および/または化学療法に対する腫瘍細胞の抵抗性により有効でないことが多い。療法中に抵抗性が獲得される場合、それは(放射線または細胞毒性物質の)同用量での腫瘍退縮量の減少、または等量の腫瘍退縮に必要な用量の増加として現れることが多い。抵抗性が内因性である場合、すなわち抗がん処置により獲得または誘発されるのではない場合には、腫瘍細胞は既に元から一つ以上の抗がん薬またはイオン化放射線に対する感受性がない。
【0003】
がん細胞の化学感受性は、個体ごとに異なることが多い。例えば膵臓癌では、抗がん薬ゲムシタビンが有益となるのは全ての患者のわずかおよそ25%であることが知られている。他の75%は、この化学療法に対して内因的に抵抗性である。内因性の化学抵抗性および放射線抵抗性を有する腫瘍細胞のさらなる例は、膠芽腫または黒色腫細胞である。
【0004】
放射線療法および/または化学療法に対する腫瘍細胞の内因性または獲得性抵抗性(または非応答)には複数の理由があり得、上で例証されるように、個体により異なりうる。集中的な研究にもかかわらず、正確な機序は理解しにくいままである。しかし、例えば原薬結合部位での単一変異も、または細胞解毒過程中での単一変異も、化学感受性の欠如または減少の原因でありうる。また、いくつかの抗がん薬に対する交差抵抗性の出現が、抗がん処置の有効性を制限することも多い。
【0005】
臨床的重要性が高いのは、多剤抵抗性(MDR:multi‐drug resistance)と呼ばれる現象である。この概念によれば、膜タンパク質、すなわちP糖タンパク質または多剤抵抗性関連タンパク質(MRP:multi‐drug resistance associated proteins)等のATP結合カセット(ABC:ATP binding cassette)輸送体タンパク質のメンバーの発現が増加し、これにより、細胞膜を介した活性輸送による原薬の流出増強がもたらされる。多剤抵抗性を示す患者は、広範囲の細胞毒性薬に抵抗性があることが最も多い。
【0006】
抵抗性は、化学療法または抗がん薬に限られず、がん患者は、放射線療法で適用されるイオン化照射に対する内因性抵抗性または獲得性抵抗性も示しうる。内因性放射線抵抗は、例えば黒色腫細胞および膠芽腫細胞のものが知られている。
【0007】
放射線抵抗性は、低線量または分割線量のイオン化放射線への曝露によっても誘発されうる。いくつかの研究が、いくつかの動物モデルだけでなくヒト細胞でも、インビトロにおけるこの効果を文書化している。いくつかの細胞質(cytoplasmatic)タンパク質および核タンパク質のレベルの変更、遺伝子発現増加またはDNA修復プロセス等、異なる細胞放射線防護機序が関わりうる。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
したがって腫瘍学において、がん処置をより有効にする新規の戦略への強い必要性がある。特に、抗がん薬(化学療法)または放射線療法等の従来の抗がん療法に対する抵抗性を示すがん患者を処置するため、またはアポトーシス(apoptose)抵抗性細胞をもつがん患者を処置するための、新規の手段を提供することが、本発明の目的である。
【課題を解決するための手段】
【0009】
細胞増殖およびまたはがん細胞の成長を阻害できるオピオイドが、これらのがん細胞における抵抗性を克服できることが現在分かったため、放射線療法および/または化学療法抵抗性がん患者の処置においてオピオイドまたはオピオイドミメティクスを用いることによりこの目的が解決される。したがって、これらのオピオイドは、今までのところ従来の治療的抗がんアプローチによっては処置不可能または有効な処置が不可能と考えられる患者を処置するための新規の戦略を提供する。この処置不可能とされるがん患者群は、「非応答者」、「応答不良者」または「非化学感受性」もしくは「放射線非感受性」がん患者とも呼ばれうる。
【0010】
オピオイドおよびオピオイドミメティクスが、がん細胞のアポトーシス抵抗性を克服でき、したがって抗がん物質として有効に臨床適用されうることもさらに分かった。特に、最も驚くべきことに、オピオイド、特にメタドンが、非抵抗性(すなわち感受性)白血病細胞に対する従来の化学療法(例えばドキソルビシン)および放射線処置と同じくらい有効であり、この処置の後に正常な末梢血リンパ球が生存したことも分かった。したがって、本発明の一実施形態によれば、オピオイドはまた、腫瘍細胞を殺すのに有効であるが、患者の正常な健常細胞には実質的に影響しない。
【0011】
本発明の文脈において、「オピオイド」という用語は、いずれも周知のオピオイド受容体、好ましくはμオピオイド受容体に結合でき、がん細胞増殖を抑えられる、アゴニストまたはアンタゴニスト作用をする、化学的不均一な天然、合成または半合成物質群として定義される。オピオイドの群には、モルヒネ、ジヒドロコデイン、コデインおよびテバインのようなアルカロイド等の天然のオピエート、ならびに天然のオピエートに由来する半合成オピエート(例えばヒドロモルホン、ヒドロコドン、オキシコドン、オキシモルホン、デソモルヒネ、ジアセチルモルヒネ(ヘロイン)、ニコモルヒネ、ジプロパノイルモルヒネ、ベンジルモルヒネおよびエチルモルヒネ)、またはフェンタニール、ペチジンおよびメタドン、トラマドールまたはプロポキシフェン等の完全合成オピオイドが含まれる。内因性オピオイドペプチドも含まれ、これはエンドルフィン、ダイノルフィンまたはエンケファリンとして体内で自然に産生されうるが、合成もされうる。
【0012】
オピオイドは、鎮痛薬としての用途で知られている。オピオイド受容体、特にμオピオイド受容体がアポトーシスにつながるシグナル伝達経路の活性化に関係するという事実は、以前から知られていた(Polakiewicz等、1998)。過去10年間に、オピオイドがアポトーシスを促進しうることが分かった(Hatsukari等、2003)。小肺がん細胞のアポトーシス誘導のための、オピオイドの使用がさらに論じられた(Heusch & Maneckjee 1999)。しかし、根底にある機序は明らかにされておらず、それらの結果から従来の抗がん処置に対する抵抗性を克服するためのオピオイドの使用が示唆されることもない。
【0013】
本発明によれば、オピオイドは、がん細胞増殖および/または成長を阻害できる。この活性には、例えば細胞増殖抑制または細胞毒性活性ならびに細胞および/または腫瘍の成長の抑制が含まれうる。がん細胞増殖は、細胞分裂の阻害の結果である。特に、オピオイドまたはオピオイドミメティクスは、腫瘍において細胞死を誘導する。本発明の文脈における細胞死には、全ての種類の細胞死が含まれる。これには、壊死細胞死ならびにアポトーシス細胞死または自食作用が含まれうる。本発明の一実施形態においては、カスパーゼ依存性またはカスパーゼ非依存性経路の活性化により細胞死が誘導される。しかし、オピオイドは、様々な経路を介して細胞死を誘導しうる。本発明の好ましい実施形態においては、オピオイドは、がん細胞におけるアポトーシスを誘導する。
【0014】
一般に、二つの主な生化学的経路を介してアポトーシスが誘導されうることが知られている。「死受容体経路」(または外因経路)には、TNF受容体誘導(腫瘍壊死因子、tumor necrosis factor)モデルおよびFas受容体誘導モデル(Fas受容体は、Apo‐1またはCD95としても知られる)が含まれる。これらの受容体に対する結合は、カスパーゼ‐8の活性化を含めて細胞における死誘導性シグナル伝達経路の形成をもたらす。「ミトコンドリア経路」(または内因経路)は、ミトコンドリアからのシトクロム(cytochrom)cの放出、Apaf‐1の結合およびプロカスパーゼ‐9の活性化を伴う。プロアポトーシスタンパク質BaxおよびBakまたは抗アポトーシスタンパク質Bcl‐2、BclXLまたはXIAP等、いくつかの調節因子がアポトーシス経路を活性化または不活性化させることが知られている。
【0015】
本発明の文脈において、「オピオイドミメティクス」という用語は、特にオピオイド受容体(例えばμ受容体)に対するオピオイドの結合の効果および/または細胞死、特にミトコンドリア経路を介したアポトーシスの誘導の観点から、直接または間接的にがん細胞内においてオピオイドと実質的に同じ効果を誘導できる物質として定義される。「オピオイドミメティクス」という用語は、例えばコカインなど、オピオイド受容体の過剰発現につながるとともに、間接的に細胞死を誘導する物質も含む。
【0016】
本発明の一実施形態においては、オピオイドまたはオピオイドミメティクスは、以下の機序の一つ以上によりアポトーシスを誘導する:
i.腫瘍細胞におけるカスパーゼ−3およびPARPの切断
ii.カスパーゼ−9の切断およびXIAPのダウンレギュレーション
iii.BclXLのダウンレギュレーション。
【0017】
本発明の好ましい実施形態によれば、オピオイドは、D‐/L‐メタドン、レボメタドン、レバセチルメタドールおよびピリトラミドを含むメタドングループのメンバーである。これら全てのオピオイドを、塩として使用できる。D‐/L‐メタドンのラセミ体が、塩酸塩の形で提供されるのが好ましい。本発明の好ましい実施形態においては、オピオイドメタドンは、ミトコンドリア経路を介してがん細胞においてアポトーシスを誘導する。
【0018】
本発明によるところの、「抵抗性」、「放射線抵抗性」または「化学抵抗性」という用語は、少なくとも一つの従来のがん療法、すなわち抗がん薬または放射線療法に対する、がん細胞の感受性の減少と定義される。そのようながんを患う患者は、「抵抗性」がん患者として特定される。抵抗性が内因性または獲得性でありうるため、観察される感受性の減少は、治療上有効な量の適用される抗がん薬および/または放射線に応答する完全に感受性の「正常」がん細胞と比較したもの、療法開始時の元々の感受性と比較したもののいずれかである。後者のケースでは、抵抗性は、(放射線または抗がん薬の)同用量での腫瘍退縮量の減少、または等量の腫瘍退縮に必要な用量の増加として現れる。
【0019】
特に好ましい実施形態においては、オピオイドまたはオピオイドミメティクスは、以下の抵抗性の一つ以上を示すがん患者を処置するために用いられる:
○ アポトーシス抵抗性
○ 多剤抵抗性
○ 抗がん薬抵抗性
○ 細胞毒性薬抵抗性
○ 活性酸素種に対する抵抗性
○ DNA損傷剤に対する抵抗性
○ 毒性抗体に対する抵抗性
○ ドキソルビシン抵抗性
○ 特に以下の原薬の一つ以上に対する、単独または交差抵抗性:メトトレキセート、シタラビン、シスプラチン、エトポシド、ビンクリスチン、パクリタキセル(タキソール)、カルボプラチン、テニポシド、デキサメタゾン、プレドニソロン、シクロホスファミド、イホスファミド、ドキソルビシン、エピルビシン、ダウノルビシン、メルカプトプリン、フルダラビン、5‐フルオロウラシル
○ 照射抵抗性(例えばアルファ、ベータ、ガンマまたはオージェ電子)。
【0020】
したがって、本発明の文脈において「抵抗性」は、総合的でも部分的でもありうる。換言すれば、本発明により処置可能であるとみなされる患者は、従来の抗がん処置に対する感受性の減少または感受性の完全な欠如も示しうる。これらの患者は、「非応答者」または「応答不良者」としても特定されうる。
【0021】
「抵抗性」がんまたは腫瘍のさらなる同義語は「不応性」型のがんであり、これも完全または部分的に不応性でありうる。したがって内因性抵抗性は、「原発性不応性がん」としても特定されうる。不応性または抵抗性のがん細胞の具体的形は、いわゆる「動力学的不応性細胞」であり、これは、例えば白血病細胞について知られる、細胞が最初は殺されるが迅速に再生するために有効な処置がほぼ不可能な現象である。
【0022】
本発明の文脈において用いられるところの、「従来の」処置または療法という用語は、過去の調査の結果および/または規制認可に基づいて、現在認められ広く用いられている、ある種類のがんの治療的処置をさす。
【0023】
従来の抗がん薬には、細胞毒性剤および細胞増殖抑制剤が含まれ、これらはがん細胞を殺すか、あるいはその成長または増殖を減少および/または停止させる。これらの抗がん薬の作用様式は様々であり得、その例は、抗代謝剤(例えばシタラビン、メトトレキセート、メルカプトプリンまたはクロファラビン)、DNA架橋剤(例えばシスプラチン(cisplatine)およびその誘導体)、DNA挿入物質(例えばドキソルビシン)、トポイソメラーゼ毒(例えばエトポシド)、キナーゼ阻害剤(例えばセツキシマブ)、ステロイド(例えばデキサメタゾン)または有糸分裂抑制剤(例えばビンクリスチン)である。白血病の従来の抗がん処置の一例は、ドキソルビシンの投与である。
【0024】
従来の放射線療法(radiotherapy)には、X線、アルファ、ベータおよびガンマ線、オージェ電子、紫外線、中性子、陽子、およびがん細胞を殺し腫瘍を縮小させるための他のソースからの高エネルギー放射線の使用を意味する、放射線照射療法も含みうる。放射線は、体外デバイスから生じ得(外照射療法)、または体内のがん細胞の近くに配置された放射線ソースから生じうる(内照射療法)。全身放射線照射療法は、血流中を標的組織へと移動する放射性標識単クローン抗体等の放射性物質を使用する。放射線抵抗性がん細胞は、これらの処置に応答しないかまたは部分的にしか応答しない。
【0025】
上に詳述されるように、本発明の一実施形態によれば、オピオイドまたはオピオイドミメティクスは、従来の抗がん処置および/または放射線処置に対するがん細胞の内因性または獲得性の抵抗性またはアポトーシス抵抗性を克服または「打破」するために適用される。本発明の一実施形態においては、本発明により処置可能であるとみなされるがん細胞は、オピオイド受容体、特にμオピオイド受容体を発現する。
【0026】
さらなる実施形態においては、がんの群には、白血病、乳がん、膠芽腫、前立腺がん、肺がん、肺非小細胞がん(NSCLC:non‐small cell lung cancer)、脳がん、結腸がん、結腸直腸がんが含まれるがこれに限られない。
【0027】
放射線照射に対する内因性抵抗性を有し、本発明により処置可能であるとみなされるがんのタイプの例は、膠芽腫、黒色腫または膵臓がん細胞である。乳がん、膀胱がんまたは白血病は、化学療法剤に抵抗性があることが多い。抵抗性を獲得することが多いがんのタイプの例は、黒色腫、結腸がん、脳腫瘍、膠芽腫、脳がん、膵臓がん、肝臓がん、卵巣がん、乳房のがん、肺がん、慢性白血病または骨肉腫(osteosarkoma)である。
【0028】
本発明のさらなる実施形態においては、オピオイドまたはオピオイドミメティクスは、従来の抗がん物質または処置、例えば細胞増殖抑制物質もしくは細胞毒性物質または放射線療法との組み合わせにおいて、すなわち複合物として使用されうる。オピオイドまたはオピオイドミメティクスは、例えば天然および/または合成抗がん物質、天然および/または合成細胞毒性物質、抗生物質、細胞毒性抗体、ホルモン、精神薬物(psycho−pharmaca)、天然でまたは遺伝的に修飾された有機体、有機体(例えば植物、微生物、果物)からの物質、痛みのための物質、ならびに/あるいは物質(例えば抗体)に結合されていないかまたは結合された様々な種類の放射物と組み合わせられうる。患者は、この処置に抵抗性でも、抵抗性でなくてもよい。
【0029】
「複合物」は、治療上有効量の、本発明により定義されるところのオピオイドまたはオピオイドミメティクスのいずれか(成分A)と、少なくとも一つのさらなる抗がん物質(成分B)とを含む医薬調製物を意味する。この「複合物」は、単一の組成物、または同時もしくは後に患者に投与されうる少なくとも二つの組成物を構成しうる。上述した物質は、メタドンと組み合わせられるのが好ましい。
【0030】
本発明の複合物は、単独の組成物と比較して相乗効果を有しうるため、がん細胞の有効な処置に有利でありうる。特に、メタドンを成分Aとし、以下の薬剤の一つを成分Bとする複合物が可能である:メトトレキセート、シタラビン、シスプラチン(cisplatine)、エトポシド、ビンクリスチン。さらに、放射線照射処置も含む組合せ処置も可能である。
【0031】
本発明の好ましい実施形態においては、オピオイドは、抵抗性または感受性の非固形がん、すなわち急性リンパ芽球性白血病、B細胞リンパ性白血病、急性骨髄性白血病、慢性骨髄性白血病、慢性リンパ性白血病および白血病の全ての前駆形、ヘアリーセル白血病、ホジキン病、非ホジキンリンパ腫および多発性骨髄腫を含む、血液、骨髄およびリンパ節を冒す全ての血液学的悪性疾患を処置するために用いられる。
【図面の簡単な説明】
【0032】
【図1】図1は、オピオイドメタドンが白血病細胞において有効にアポトーシスを誘導するが、非白血病健常PBL細胞に影響しないことを示す。
【0033】
1A:図のようにCEMおよびHL‐60細胞を異なる濃度のメタドンで処理した。24時間(白のバー)および48時間(黒のバー)後、アポトーシス細胞の割合を、低二倍体DNA分析により測定した。特異的細胞死の割合を以下のように計算した:100×(実験的死細胞(%)−培地中の自然死細胞(%))/(100%−培地中の自然死細胞(%))。データは10%未満の標準偏差(SD)を伴なった三連の平均として与えられる。三つの独立した実験において、類似の結果が得られた。
【0034】
1B:図のようにCEMおよびHL‐60細胞(2×105細胞/mL)を異なる濃度のメタドンで処理するか、または処理せずにおいた(Co,コントロール)。0時間(白のバー)、24時間(黒のバー)、および48時間(斜線のバー)後、1mL中の細胞数をカウントした。データは10%未満の標準偏差(SD)を伴なった三連の平均として与えられる。三つの独立した実験において、類似の結果が得られた。
【0035】
1C:図のようにCEM細胞(黒のバー)およびPBLs(白のバー)を異なる濃度のメタドンで処理した。24時間および48時間後、アポトーシス細胞の割合を、低二倍体DNA分析により測定した。特異的細胞死の割合を図1Aで記載したように計算した。データは10%未満の標準偏差(SD)を伴なった三連の平均として与えられる。三つの独立した実験において、類似の結果が得られた。
【図2】図2は、オピオイドメタドンが、CD95抵抗性(CEMCD95R)およびドキソルビシン抵抗性(CEMDoxoR)において親感受性CEM白血病細胞に匹敵するアポトーシス率でアポトーシスを誘導することを示す。
【0036】
図のようにCEM(黒のバー)、CEMCD95R(白のバー)およびCEMDoxoR(斜線のバー)白血病細胞を異なる濃度のメタドンで処理した。24時間および48時間後、アポトーシス細胞の割合を、低二倍体DNA分析により測定した。特異的細胞死の割合を図1Aで記載したように計算した。データは10%未満の標準偏差(SD)を伴なった三連の平均として与えられる。三つの独立した実験において、類似の結果が得られた。
【図3】図3は、オピオイドメタドンが、感受性(HL‐60、CEM)、多剤抵抗性およびアポトーシス抵抗性のドキソルビシン抵抗性(CEMDoxoR)およびCD95抵抗性(CEMCD95R)白血病細胞において、カスパーゼ依存性死を誘導することを示す。
【0037】
3Aおよび3B:メタドンは、HL‐60、CEM、CEMDoxoRおよびCEMCD95R細胞においてカスパーゼ‐3の活性化およびPARP切断を誘導した。図のように、AではHL‐60、CEM細胞を、BではCEMDoxoR、およびCEMCD95R細胞を、異なる濃度のメタドンで処理するか、または処理せずにおいた(コントロール)。24時間および48時間後、カスパーゼ‐3およびPARPについてウエスタンブロット分析を行った。カスパーゼ‐3の活性フラグメントが約19および17kDaで、PARPの切断産物が約85kDaで検出された。抗ベータ‐アクチン抗体により等しいタンパク質ローディングを制御した。
【0038】
3C:zVAD.fmkによるカスパーゼ活性化の阻害により、CEMおよびHL‐60細胞においてメタドン誘導性アポトーシスがブロックされる。図のようにCEMおよびHL‐60細胞を、50μMのzVAD.fmkの非存在下(黒のバー、媒質)または存在下(白のバー、50μM zVAD.fmk)で、異なる濃度のメタドンで処理した。48時間後、アポトーシス細胞の割合を、低二倍体DNA分析により測定した。特異的細胞死の割合を図1Aで記載したように計算した。データは10%未満の標準偏差(SD)を伴なった三連の平均として与えられる。三つの独立した実験において、類似の結果が得られた。
【図4】図4はオピオイドメタドンが感受性(HL‐60、CEM)、多剤抵抗性およびアポトーシス抵抗性のドキソルビシン抵抗性(CEMDoxoR)およびCD95抵抗性(CEMCD95R)白血病細胞においてミトコンドリア経路を活性化することを示す。
【0039】
4Aおよび4B:メタドンは、HL‐60、CEM、CEMDoxoRおよびCEMCD95R細胞においてカスパーゼ‐9の活性化、XIAPのダウンレギュレーション、およびBcl‐xLのダウンレギュレーションを誘導した。
【0040】
図のようにHL‐60、CEM細胞(4A)、CEMDoxoR、CEMCD95R細胞(4B)を異なる濃度のメタドンで処理するか、または処理せずにおいた(コントロール)。24時間および48時間後、カスパーゼ‐9、XIAPおよびBcl‐xLについてウエスタンブロット分析を行った。カスパーゼ‐9の活性フラグメントが約37kDaで検出され、XIAPが約58kDaで検出され、Bcl‐xLが約30kDaで検出された。抗ベータ‐アクチン抗体により等しいタンパク質ローディングを制御した。
【図5】図5は、オピオイドメタドンが膠芽腫細胞においてアポトーシスを誘導することを示す。
【0041】
図のようにA172膠芽腫細胞を異なる濃度のメタドンで処理した。120時間(白のカラム)、144時間(黒のカラム)および168時間(斜線のカラム)後、アポトーシス細胞の割合を、低二倍体DNA分析により測定した。特異的細胞死の割合を以下のように計算した:100×(実験的死細胞(%)−培地中の自然死細胞(%))/(100%−培地中の自然死細胞(%))。データは10%未満の標準偏差(SD)を伴なった三連の平均として与えられる。三つの独立した実験において、類似の結果が得られた。
【図6】図6は、治療濃度のドキソルビシンと低濃度のメタドンとの組み合わせを用いて、膠芽腫細胞においてアポトーシスを首尾よく誘導できることを示す。
【0042】
膠芽腫(glioblastom)細胞A172(7000細胞/cm2)を、治療濃度の0.1μg/mLドキソルビシン(ドキソルビシン、白のカラム)、低濃度の1μg/mLメタドン(メタドン、黒のカラム)、および、0.1μg/mLのドキソルビシンに加えた1μg/mLメタドン(ドキソルビシン+メタドン、斜線のカラム)で処理した。72時間後、フローサイトメトリによりアポトーシスの定量を行った。アポトーシスを測定するために、0.1%クエン酸ナトリウムに加えて0.1%TritonX‐100およびヨウ化プロピジウム50μg/mLを含むNicolettiバッファーにより細胞を溶解させた。ヨウ化プロピジウム(PI)により染色した核を、フローサイトメトリにより分析した(FACSCalibur,Becton Dickinson,Heidelberg,Germany)。
【図7】図7は、オピオイドコカインを用いて、CEM細胞においてアポトーシスを首尾よく誘導できることを示す。
【0043】
CEM(白のカラム)およびHL‐60(黒のカラム)細胞を、1000μg/mLのコカインで処理した。48時間後、アポトーシス細胞の割合を、低二倍体DNA分析により測定した。特異的細胞死の割合を以下のように計算した:100×(実験的死細胞(%)−培地中の自然死細胞(%))/(100%−培地中の自然死細胞(%))。データは10%未満の標準偏差(SD)を伴なった三連の平均として与えられる。三つの独立した実験において、類似の結果が得られた。
【図8】図8は、D,L‐メタドンがエクスビボで患者から単離された前B‐ALL(B‐細胞リンパ性白血病)細胞において細胞死を誘導することを示す。
【0044】
B‐ALL(B‐細胞リンパ性白血病)細胞(50000細胞/100μl)を、30、20、15、10μMのメタドンで処理した。48時間(黒のバー)および72時間(白のバー)後、フローサイトメトリによりアポトーシスの定量を行った。
【図9】図9は、フルダラビンと組み合わせたD,L‐メタドンが、エクスビボで患者から単離された抵抗性CLL(慢性リンパ性白血病)細胞において細胞死を誘導することを示す。
【0045】
CLL(慢性リンパ性白血病)細胞(50000細胞/200μl)を、30、10、5、3、1、0.5、0.3、0.1μg/mLのメタドン単独で(白のバー)、または0.1μMのフルダラビンを加えて(黒のバー)、処理した。24時間および48時間後、フローサイトメトリによりアポトーシスの定量を行った。
【図10】図10は、フルダラビンと組み合わせたD,L‐メタドンが、エクスビボで患者から単離された抵抗性CLL(慢性リンパ性白血病)細胞において細胞死を誘導することを示す。
【0046】
CLL(慢性リンパ性白血病)細胞(50000細胞/200μl)を、30、10、5、3、1、0.5、0.3、0.1μg/mLのメタドン単独で(白のバー)、または0.1μMのフルダラビンを加えて(黒のバー)、処理した。24時間および48時間後、フローサイトメトリによりアポトーシスの定量を行った。
【図11】図11は、インビトロでドキソルビシン+メタドンで処理したヒトB細胞白血病細胞系統Tanoueにおけるアポトーシスの誘導を示す。
【0047】
B‐ALL(B‐細胞リンパ性白血病)細胞系統Tanoue(5000細胞/100μl)を、30、10、5、3、1μg/mLのメタドン単独で(白のバー)、または0.03μg/mLのドキソルビシンを加えて(黒のバー)処理した。96時間後、フローサイトメトリによりアポトーシスの定量を行った。
【図12】図12は、インビトロでドキソルビシン+メタドンで処理したヒトB細胞前駆体白血病細胞系統Nalm6におけるアポトーシスの誘導を示す。
【0048】
B‐ALL(B‐細胞リンパ性白血病)細胞系統Nalm6(5000細胞/100μl)を、30、10、5、3、1μg/mLのメタドン単独で(白のバー)、または0.01μg/mLのドキソルビシンを加えて(黒のバー)処理した。96時間、120時間、144時間、168時間後、フローサイトメトリによりアポトーシスの定量を行った。
【図13】図13は、インビトロでドキソルビシン+ブプレノルフィンで処理したヒト急性骨髄性白血病細胞系統HL‐60におけるアポトーシスの誘導を示す。
【0049】
ヒト急性骨髄性白血病細胞HL‐60細胞系統(5000細胞/100μl)を、30、10、5、3、1、0.5、0.3、0.1μg/mLのブプレノルフィン単独で(白のバー)、または0.003μg/mLもしくは0.001μg/mLのドキソルビシンを加えて(黒のバー)処理した。144時間または168時間後、フローサイトメトリによりアポトーシスの定量を行った。
【図14】図14は、インビトロでドキソルビシン+フェンタニールで処理したヒトT細胞白血病細胞系統CEMにおけるアポトーシスの誘導を示す。
【0050】
ヒトT‐細胞白血病CEM細胞系統(10000細胞/100μl)を、30、10、5、3、1、0.5、0.3、0.1μg/mLのフェンタニール単独で(白のバー)、または0.02μg/mLのドキソルビシンを加えて(黒のバー)処理した。48時間および72時間後、フローサイトメトリによりアポトーシスの定量を行った。
【図15】図15は、インビトロでモルヒネで処理したヒト急性骨髄性白血病細胞系統HL‐60におけるアポトーシスの誘導を示す。
【0051】
ヒト急性骨髄性白血病HL‐60細胞系統(5000細胞/100μl)を、30、10、5、3、1、0.5、0.3、0.1、0.03、0.01μg/mLのモルヒネで処理した。120時間(白のバー)または144時間(黒のバー)後、フローサイトメトリによりアポトーシスの定量を行った。
【図16】図16は、インビトロでモルヒネで処理したヒト急性骨髄性白血病細胞系統HL‐60におけるアポトーシスの誘導を示す。
【0052】
ヒト急性骨髄性白血病HL‐60細胞系統(5000細胞/100μl)を、1、0.5、0.3、0.1、0.03、0.01μg/mLのモルヒネで処理した。96時間(白のバー)、120時間(黒のバー)、144時間(斜線のバー)および168時間(灰色のバー)後、フローサイトメトリによりアポトーシスの定量を行った。
【図17】図17は、インビトロでドキソルビシン+モルヒネで処理したヒト急性骨髄性白血病HL‐60におけるアポトーシスの誘導を示す。
【0053】
ヒト急性骨髄性白血病HL‐60細胞系統(5000細胞/100μl)を、30、10、5、3、1、0.5、0.3、0.1μg/mLのモルヒネ単独(白のバー)または0.003μg/mL(黒のバー)もしくは0.001μg/mLのドキソルビシン(灰色のバー)を加えて処理した。168時間後、フローサイトメトリによりアポトーシスの定量を行った。
【発明を実施するための形態】
【0054】
(実施例1:白血病細胞の処置のための、特に従来の療法で一般的に用いられる抗がん薬が殺せなかった白血病細胞の処置のための、メタドンの使用)
(薬物および試薬)
D,L‐塩酸メタドン(メタドン,Sigma,Taufkirchen,Germany)を、調製物の一定の品質を確保するために、各実験の前に滅菌蒸留水に新たに溶解させた。
【0055】
(細胞培養)
ヒト骨髄性白血病細胞系統HL‐60およびヒトリンパ芽球性白血病T細胞系統CEMを、10%ウシ胎仔血清(Biochrom,Berlin,Germany)、10mM HEPES、pH7.3(Biochrom)、100U/mLペニシリン(GIBCO)、100μg/mLストレプトマイシン(GIBCO)および2mM L‐グルタミン(Biochrom)を含むRPMI 1640(GIBCO,Invitrogen,Karlsruhe,Germany)中で、37℃および5%CO2で成長させた。CEMCD95Rは1μg/mL抗CD95に抵抗性であり(Friesen等、1996)、CEMDOXORは0.1μg/mLドキソルビシンに抵抗性である(Friesen等、2004)。CEMCD95Rは、アポトーシス抵抗性および多剤抵抗性である。CEMCD95Rは、メトトレキセート、シタラビン、シスプラチン(cisplatine)、エトポシド、ビンクリスチン等のいくつかの抗がん薬、ならびにガンマおよびベータ照射に対して交差抵抗性である(Friesen等、1996,Los等、1997,Friesen等、2007)。本研究において使用した全ての細胞系統は、マイコプラズマを含まなかった。
【0056】
(アポトーシスの誘導)
白血病細胞(1×105細胞/mL)を、150mLフラスコまたは96ウェルプレートにおいて、30、20、15、10μMのメタドンで処理した。24時間および48時間後、記載されているように(Carbonari等、1994,Friesen等、2003)、フローサイトメトリによりアポトーシスの定量を行った。簡潔にいうと、Nicoletti等(1991)に記載のように、アポトーシスを測定するために、0.1%クエン酸ナトリウムに加えて0.1%TritonX‐100およびヨウ化プロピジウム50μg/mLを含むNicolettiバッファーで細胞を溶解させた。アポトーシス細胞の割合を、低二倍体DNA(subG1)またはFSC/SSC分析により測定した(Nicoletti等、1991,Carbonari等、1994)。ヨウ化プロピジウム(PI)により染色した核、または細胞の前方散乱/側方散乱(FSC/SSC)プロフィールを、フローサイトメトリにより分析した(FACSCalibur,Becton Dickinson,Heidelberg,Germany)。
【0057】
(末梢血リンパ球の単離)
末梢血リンパ球(PBLs)を、健常人の新鮮な血液から単離した。PBLs(1mL中1×106細胞)を、96ウェルプレートにおいて30、20、15、10μMメタドンで処理した。記載されるように(Carbonari等、1994)、24時間および48時間後に、フローサイトメトリによりアポトーシスの定量を行った。
【0058】
(zVAD.fmkによるメタドン誘導カスパーゼ活性化の阻害)
カスパーゼ活性化の阻害を、過去に記載されるように(Friesen等、2007)実行した。簡単にいうと、カスパーゼの広域スペクトルトリペプチド阻害剤zVAD.fmk(ベンゾイルカルボニル‐Val‐Ala‐Asp‐フルオロメチルケトン、Enzyme Systems Products,Dubli,USA)を、50μmol/Lの濃度で使用した。HL‐60およびCEM細胞を、メタドン処理の1時間前にzVAD.fmkとともにプレインキュベートした。24時間および48時間後、アポトーシス細胞の割合を、低二倍体DNA(subG1)またはFSC/SSC分析で測定した。ヨウ化プロピジウム(PI)により染色した核(Nicoletti等、1991)、または細胞の前方散乱/側方散乱(FSC/SSC)プロフィール(Carbonari等、1994)を、フローサイトメトリにより分析した(FACSCalibur,Becton Dickinson,Heidelberg,Germany)。
【0059】
(ウエスタンブロット分析)
記載のように(Friesen等、2004,Friesen等、2003)、ウエスタンブロット分析を行った。ウサギ抗PARP多クローン抗体(1:5000,Roche)、マウス抗カスパーゼ‐3単クローン抗体(1:1000,Cell‐Signalling)、マウス抗カスパーゼ‐8単クローン抗体(1:1000,Cell‐Signalling)、ウサギ抗活性カスパーゼ‐9多クローン抗体(1:1000、Cell‐Signalling)、マウス抗XIAP単クローン抗体(1:1000,Transduction‐Laboratories,Lexington,Kentucky)、マウス抗Fas(抗CD95)単クローン抗体(1:1000,Transduction‐Laboratories)、マウス抗Fasリガンド(抗CD95リガンド)単クローン抗体(1:250,BD、Pharmingen)、ウサギ抗Bax多クローン抗体(1:250,Oncogene,Cambridge)、ウサギ抗Bcl‐XS/L多クローン抗体(1:1000,Santa‐Cruz‐Biotechnology,Santa‐Cruz,CA)、ウサギ抗p21多クローン抗体(1:1000,Santa‐Cruz)、およびマウス抗β‐アクチン単クローン抗体(Sigma)を使用して、PARP、カスパーゼ‐3、カスパーゼ‐9、カスパーゼ‐8、XIAP、CD95、CD95‐L、Bax、Bcl‐xLおよびβ‐アクチンの免疫検出を行った。二次抗体としてペルオキシダーゼ結合ヤギ抗マウスIgGまたはペルオキシダーゼ結合ヤギ抗ウサギIgG(1:5000,Santa‐Cruz)を、高感度化学発光システム(ECL:enhanced chemoluminescence system,Amersham‐Pharmacia,Freiburg,Germany)に用いた。β‐アクチン検出により等しいタンパク質ローディングを制御した。
【実施例】
【0060】
(メタドンは、非白血病PBLsにおいては毒性効果がないが、CEMおよびHL‐60白血病細胞においてはアポトーシスによる細胞殺滅を誘導する)
白血病および固形腫瘍において、抗がん薬がアポトーシスを誘導し、増殖を阻害することが示されている(Kaufmann & Earnshaw 2000)。したがって、治療的オピオイド薬メタドンもヒトリンパ芽球性白血病T‐細胞系統CEMおよびヒト骨髄性白血病細胞系統HL‐60において、周知の確立した抗がん薬と同様に増殖を阻害しアポトーシスを誘導できるかを分析した(図1A、B)。異なる濃度のメタドン(30、20、15、10μM)による処理から24時間および48時間後、CEMおよびHL‐60細胞において強いアポトーシス誘導(図1A)および強い成長阻害(図1B)を検出した。次に、メタドンが非白血病末梢血リンパ球(PBLs)においてもアポトーシスを誘導するかを分析した(図1C)。単離したPBLsを、異なる濃度のメタドン(30、20、15、10μM)とともにインキュベートした。メタドン処理から24時間および48時間後、メタドンがCEM等の白血病細胞の処理に使用するのと同様の濃度でPBLsを殺せないことが分かった(図1C)。これは、メタドンが白血病細胞においてアポトーシスを誘導すること、非白血病PBLsに対して毒性効果がないことを示す。
【0061】
(メタドンは、白血病細胞のドキソルビシン抵抗性、CD95抵抗性、および多剤抵抗性を打破する)
抗がん薬に対する抵抗性は、白血病および腫瘍患者の処置における限定要因である(Bergman & Harris 1997,Friesen等、2003)。メタドンが強力な抗白血病活性を示し、白血病細胞を能率的に殺すことが分かっている。したがって、メタドンがアポトーシス抵抗性のドキソルビシン抵抗性白血病細胞においても細胞死を誘導できるかを分析した。ドキソルビシン抵抗性CEM白血病細胞(CEMDoxoR)を、異なる濃度のメタドン(30、20、15、10μM)で処理した。メタドン処理から24時間および48時間後、フローサイトメトリにより細胞死を測定した。30、20、15μMのメタドンによる処理後、ドキソルビシン抵抗性細胞CEMDoxoRにおいて強いアポトーシス誘導が測定され、これは感受性白血病細胞CEMのものと類似し(図2)、このことは、メタドンがドキソルビシン抵抗性およびアポトーシス抵抗性を克服することを示した。
【0062】
次に、メタドンが多剤抵抗性の白血病細胞も殺せるかを検討した。したがって、エトポシド、シスプラチン(cisplatine)、メトトレキセート、シタラビン、ドキソルビシン、ビンクリスチン等のいくつかの抗がん薬に抵抗性の、CD95抵抗性白血病細胞CEMCD95Rを、異なる濃度のメタドン(30、20、15、10μM)で処理した。30、20、15μMのメタドンによる処理後、CD95抵抗性白血病細胞CEMCD95Rにおける強いアポトーシス誘導が24時間および48時間後に測定され、これは感受性白血病細胞CEMのものと類似していた(図2)。これは、メタドンが感受性白血病細胞において強いアポトーシス誘導を誘導するだけでなく、一般的に用いられる抗がん薬が殺せなかったドキソルビシン抵抗性およびCD95抵抗性白血病細胞も殺すことを示唆する(Friesen等、1996,Los等、1997)。
【0063】
(メタドンは、感受性、ドキソルビシン抵抗性、CD95抵抗性、および多剤抵抗性白血病細胞において、カスパーゼ依存性細胞死を誘導し、ミトコンドリアを活性化する)
メタドンは、未知の分子機序により感受性および抵抗性白血病細胞においてアポトーシスを誘導する。したがって、白血病細胞におけるメタドン誘導性細胞死により変更されうる機序およびエフェクター分子を検討することにした。
【0064】
カスパーゼは、抗がん薬によるアポトーシス誘導において重要な役割を果たす(Kaufmann & Earnshow 2000,Hengartner 2000)。したがって、ウエスタンブロット分析を用いて、メタドンがHL‐60およびCEM白血病細胞ならびにアポトーシス抵抗性のドキソルビシン抵抗性白血病細胞CEMDoxoR、および、多剤抵抗性およびアポトーシス抵抗性のCD95抵抗性白血病細胞CEMCD95Rにおいてカスパーゼを活性化するかを検討した。異なる濃度のメタドン(20、15μM)による処理後、HL‐60およびCEM白血病細胞(図3A)、ならびにドキソルビシン抵抗性白血病細胞CEMDoxoRおよびCD95抵抗性白血病細胞CEMCD95R(図3B)においてカスパーゼ‐3およびPARPが切断された。カスパーゼ‐8の活性化(抗がん薬が白血病細胞において誘導することを示している)を、メタドン処理後に観察しなかった。カスパーゼの活性化におけるメタドンの重要な役割を調査するために、CEMおよびHL‐60細胞を、カスパーゼの広域スペクトル阻害剤zVAD.fmkとともにプレインキュベートした。zVAD.fmkとのインキュベーションにより、ほぼ完全に、メタドン誘導性アポトーシスが阻害され(図3C)、このことは、カスパーゼが白血病細胞におけるメタドン誘導性アポトーシスに重要であることを示唆した。
【0065】
抗がん薬は、白血病および腫瘍細胞においてミトコンドリア経路ならびにリガンド/受容体経路を活性化することが示されている(Kaufmann & Earnshow 2000)。白血病細胞におけるメタドン誘導性アポトーシスにミトコンドリアも関与しうるかを調査した。CEM、HL‐60、ドキソルビシン抵抗性白血病細胞CEMDoxoRおよびCD95抵抗性白血病細胞CEMCD95Rを、異なる濃度のメタドン(20、15μM)で処理した(図4)。24時間および48時間後、HL‐60およびCEM白血病細胞(図4A)、ならびに多剤抵抗性およびアポトーシス抵抗性のドキソルビシン抵抗性白血病細胞CEMDoxoRおよびCD95抵抗性白血病細胞CEMCD95R(図4B)において、強いカスパーゼ‐9の切断(37kDaフラグメント)およびカスパーゼ阻害タンパク質XIAP(X‐連鎖アポトーシス阻害タンパク質、X‐linked inhibitory‐of‐apoptosis protein)の強いダウンレギュレーションを観察した。
【0066】
ミトコンドリアの変化は、プロアポトーシスおよび抗アポトーシスBcl‐2ファミリーメンバーにより調節される。異なる濃度のメタドン(20、15μM)による処理の24時間および48時間後、HL‐60およびCEM白血病細胞(図4A)、ならびにドキソルビシン抵抗性白血病細胞CEMDoxoRおよびCD95抵抗性白血病細胞CEMCD95R(図4B)において、Bcl‐xLの強いダウンレギュレーションを観察した。白血病細胞において、メタドン処理後にBaxのアップレギュレーションを観察しなかった。
【0067】
さらに、抗がん薬によりアップレギュレートされることが示されているCD95等、死誘導リガンドおよび死誘導受容体のアップレギュレーションを、メタドン処理後に白血病細胞において観察しなかった(データは示していない)。これは、メタドンが感受性ならびに抵抗性白血病細胞において内因性ミトコンドリア経路の直接活性化によりアポトーシスを誘導することを示す。
【0068】
(実施例2:メタドンは膠芽腫細胞においてアポトーシスを誘導する)
膠芽腫は、原発性脳腫瘍で最も攻撃的かつ最も一般的な種類のものである。膠芽腫細胞は、化学療法剤および放射線照射に対する抵抗性が強いことが知られている。処置には化学療法および放射線療法が含まれうるが、これらは緩和手段にすぎず治癒は提供しない。さらに、多くの薬物は血液脳関門を越えられず、したがって膠芽腫の処置に役に立たない。メタドンは、血液‐脳関門を越えることができる。膠芽腫細胞に対するメタドンの効果を検討した。さらに、治療濃度のドキソルビシンと組み合わせたメタドンの膠芽腫細胞に対する効果をテストした。
【0069】
ヒト膠芽腫細胞系統A172を、10%ウシ胎仔血清(Biochrom,Berlin,Germany)、10mM HEPES、pH7,3(Biochrom)、100U/mLペニシリン(Invitrogen)、100μg/mLストレプトマイシン(Invitrogen)、および2mM L‐グルタミン(Biochrom)を含むDMEN(Invitrogen,Karlsruhe,Germany)において、37℃および5%CO2で成長させた。メタドン処理の前に、膠芽腫細胞を7000細胞/cm2の密度で播種し、細胞播種の24時間後に処理を実行した。
【0070】
膠芽腫細胞A172(7000細胞/cm2)を、75cm2フラスコにおいて30、20μg/mLのメタドンで処理した。120時間、144時間および168時間後、フローサイトメトリによりアポトーシスの定量を行った。アポトーシスを測定するために、0,1%クエン酸ナトリウムに加えて0,1%TritonX‐100およびヨウ化プロピジウム50μg/mLを含むNicolettiバッファーにより細胞を溶解させた。ヨウ化プロピジウム(PI)により染色した核を、フローサイトメトリにより分析した(FACSCalibur,Becton Dickinson,Heidelberg,Germany)。
【0071】
120時間、144時間および168時間後、アポトーシス細胞の割合を、低二倍体DNA分析により測定した。特異的細胞死の割合を以下のように計算した:100×(実験的死細胞(%)−細胞培地中の自然死細胞(%))/(100%−培地中の自然死細胞(%))。メタドンによる処理により、20μg/mLのメタドンによる処理後には、120時間後に20%超の死細胞、168時間後に80%超の死細胞が生じた。メタドンによる処理により、30μg/mLのメタドンによる処理後には、120時間後に85%超の死細胞、168時間後に100%近くの死細胞が生じた(図5)。三つの独立した実験において、類似の結果を得た。これは、メタドンが膠芽腫細胞において高率のアポトーシスを誘導することを示す。
【0072】
(実施例3:メタドンは、膠芽腫細胞におけるアポトーシスの誘導に関して、ドキソルビシンとの組み合わせにおいて相乗効果を示す)
膠芽腫細胞A172(7000細胞/cm2)を、治療濃度の0.1μg/mLのドキソルビシン(ドキソルビシン、白のカラム)、低濃度の1μg/mLのメタドン(メタドン、黒のカラム)、および、0.1μg/mLのドキソルビシンに加えた1μg/mLのメタドン(ドキソルビシン+メタドン、斜線のカラム)により処理した。72時間後、フローサイトメトリによりアポトーシスの定量を行った。アポトーシスを測定するために、0.1%クエン酸ナトリウムに加えて0.1%TritonX‐100およびヨウ化プロピジウム50μg/mLを含むNicolettiバッファーにより細胞を溶解させた。ヨウ化プロピジウム(PI)により染色した核を、フローサイトメトリにより分析した(FACSCalibur,Becton Dickinson,Heidelberg,Germany)。
【0073】
治療濃度のドキソルビシンと低濃度のメタドンとの組み合わせは、テストした膠芽腫細胞に強いアポトーシス作用を及ぼした(図6)。このアッセイは、メタドンが他の化学療法剤、ここではドキソルビシンとともに適用されたときに相乗効果をあらわすことを示す。
【0074】
(実施例4:コカインを使用した白血病細胞におけるアポトーシスの誘導)
CEM(白のカラム)およびHL‐60(黒のカラム)細胞を、1000μg/mLのコカインで処理した。48時間後、アポトーシス細胞の割合を、低二倍体DNA分析により測定した。特異的細胞死の割合を以下のように計算した:100×(実験的死細胞(%)−培地中の自然死細胞(%))/(100%−培地中の自然死細胞(%))。データは10%未満の標準偏差(SD)を伴なった三連の平均として与えられる。三つの独立した実験において、類似の結果が得られた。
【0075】
図7に示すように、結果は、コカインがCEM細胞においてアポトーシスを誘導できることを示した。
【0076】
(実施例5:エクスビボで患者から単離したがん細胞における、D,L‐メタドンを単独またはフルダラビンと組み合わせて用いたアポトーシスの誘導)
B‐ALL(B‐細胞リンパ性白血病,B‐Cell lymphatic leukaemia)およびCLL(慢性リンパ性白血病,chronic lymphatic leukaemia)細胞を、患者からエクスビボで単離した。これらの細胞を、異なる濃度のD,L‐メタドンで、またはD,L‐メタドンにフルダラビンを加えて処理した。
【0077】
第一の研究においては、B‐ALL(B‐細胞リンパ性白血病)細胞(50000細胞/100μl)を、30、20、15、10μMのメタドンで処理した。48時間および72時間後、フローサイトメトリによりアポトーシスの定量を行った。結果は、72時間処理細胞の80%超にまでアポトーシスを誘導するために、10μMのメタドンがすでに十分であることを示した(図8を参照)。
【0078】
第二の研究においては、CLL(慢性リンパ性白血病)細胞(50000細胞/200μl)を、30、10、5、3、1、0.5、0.3および0.1μg/mLのメタドン単独で、または0.1μMのフルダラビンを加えて、処理した。24時間および48時間後、フローサイトメトリによりアポトーシスの定量を行った。結果は、3μg/mLのメタドンを0.1μMフルダラビンと組み合わせると、24時間後までに100%の細胞においてアポトーシスが誘導されることを示した(図9を参照)。
【0079】
第三の研究においては、CLL(慢性リンパ性白血病)細胞(50000細胞/200μl)を、30、10、5、3、1、0.5、0.3、0.1μg/mLのメタドン単独で、または0.1μMのフルダラビンを加えて処理した。24時間および48時間後、フローサイトメトリによりアポトーシスの定量を行った。結果は、3μg/mLメタドンを0.1μMフルダラビンと組み合わせると、48時間後に細胞の50%近くにおいてアポトーシスが誘導されることを示した。30μg/mLのメタドンを0.1μMフルダラビンと組み合わせると、48時間後に細胞の90%超においてアポトーシスを誘導した(図10を参照)。
【0080】
したがって、これらの研究により示唆されるように、単独、または、細胞増殖抑制処置と組み合わせたメタドンは、エクスビボで患者から単離されたがん細胞に有効である。
【0081】
(実施例6:ドキソルビシンと組み合わせてブプレノルフィンを用いた白血病細胞におけるアポトーシスの誘導)
ブプレノルフィンをドキソルビシンと組み合わせて用いて、インビトロでHL‐60白血病細胞においてアポトーシスを首尾よく誘導できた。ブプレノルフィンは、鎮痛剤としても使用される半合成オピオイド薬である。これは、部分的μ‐オピオイド受容体アゴニストである。
【0082】
ヒト急性骨髄性白血病HL‐60細胞系統(5000細胞/100μl)を、30、10、5、3、1、0.5、0.3、0.1μg/mLブプレノルフィン単独で、あるいは、0.003μg/mLまたは0.001μg/mLのドキソルビシンを加えて処理した。144時間または168時間後、フローサイトメトリによりアポトーシスの定量を行った。
【0083】
結果は、20μg/mLブプレノルフィンが、144時間後に90%超の細胞においてアポトーシスを誘導するのに十分なことを示した。0.003μg/mLドキソルビシンを加えたときにも、同じ結果を得た。10μg/mLブプレノルフィンを0.003μg/mLドキソルビシンと組み合わせて細胞を168時間インキュベートすると、100%近くの細胞においてアポトーシスを誘導した(図13を参照)。
【0084】
(実施例7:ドキソルビシンと組み合わせてフェンタニールを用いた白血病細胞におけるアポトーシスの誘導)
フェンタニールをドキソルビシンと組み合わせて用いて、インビトロでCEM白血病細胞においてアポトーシスを首尾よく誘導できた。フェンタニールは、がん疼痛の処置において鎮痛剤として多用される合成オピオイドである。フェンタニールは、μオピオイド受容体アゴニストである。
【0085】
ヒトT‐細胞白血病CEM細胞系統(10000細胞/100μl)を、30、10、5、3、1、0.5、0.3、0.1μg/mLのフェンタニール単独で、または0.02μg/mLのドキソルビシンを加えて処理した。48時間または72時間後、フローサイトメトリによりアポトーシスの定量を行った。
【0086】
結果は、30μg/mLフェンタニールを0.02μg/mLドキソルビシンと組み合わせると、フェンタニールは72時間後に85%超の細胞においてアポトーシスを首尾よく誘導できたことを示した(図14を参照)。
【0087】
(実施例8:モルヒネを用いた白血病細胞におけるアポトーシスの誘導)
モルヒネを単独で、および、ドキソルビシンと組み合わせて用いて、HL‐60白血病細胞においてアポトーシスを首尾よく誘導できた。モルヒネは、現在がん疼痛の処置において鎮痛剤として使用されるオピエートである。モルヒネは、μオピオイド受容体アゴニストである。
【0088】
第一の研究においては、ヒト急性骨髄性白血病HL‐60細胞(5000細胞/100μl)を、30、10、5、3、1、0.5、0.3、0.1、0.03、0.01μg/mLのモルヒネで処理した。120時間または144時間後、フローサイトメトリによりアポトーシスの定量を行った。結果は、40μg/mLのモルヒネを適用すると144時間後に細胞の40%においてアポトーシスが誘導されることを示した(図15を参照)。
【0089】
第二の研究においては、ヒト急性骨髄性白血病HL‐60細胞(5000細胞/100μl)を、1、0.5、0.3、0.1、0.03、0.01μg/mLのモルヒネで処理した。96時間、120時間、144時間および168時間後、フローサイトメトリによりアポトーシスの定量を行った。結果は、1μg/mLのモルヒネを適用すると168時間後に細胞の50%超においてアポトーシスが誘導されることを示した(図16を参照)。
【0090】
第三の研究においては、ヒト急性骨髄性白血病HL‐60細胞(5000細胞/100μl)を、30、10、5、3、1、0.5、0.3、0.1μg/mLのモルヒネ単独で、あるいは0.003μg/mLまたは0.001μg/mLのドキソルビシンを加えて処理した。168時間後、フローサイトメトリによりアポトーシスの定量を行った。結果は、1μg/mLのモルヒネを0.001μg/mLのドキソルビシンと組み合わせて適用すると50%の細胞においてアポトーシスが誘導されることを示した(図17を参照)。
【0091】
したがって、これらの研究により示唆されるように、オピエートおよびμ受容体アゴニストモルヒネを用いて、白血病細胞においてアポトーシスを首尾よく誘導できる。
【0092】
本明細書に引用される以下の文献は、参照により援用される。
【0093】
【化1】
【0094】
【化2】
【技術分野】
【0001】
本発明は、抵抗性がん患者の処置のための新規の戦略に関する。
【背景技術】
【0002】
抗がん療法は、放射線療法および/または化学療法に対する腫瘍細胞の抵抗性により有効でないことが多い。療法中に抵抗性が獲得される場合、それは(放射線または細胞毒性物質の)同用量での腫瘍退縮量の減少、または等量の腫瘍退縮に必要な用量の増加として現れることが多い。抵抗性が内因性である場合、すなわち抗がん処置により獲得または誘発されるのではない場合には、腫瘍細胞は既に元から一つ以上の抗がん薬またはイオン化放射線に対する感受性がない。
【0003】
がん細胞の化学感受性は、個体ごとに異なることが多い。例えば膵臓癌では、抗がん薬ゲムシタビンが有益となるのは全ての患者のわずかおよそ25%であることが知られている。他の75%は、この化学療法に対して内因的に抵抗性である。内因性の化学抵抗性および放射線抵抗性を有する腫瘍細胞のさらなる例は、膠芽腫または黒色腫細胞である。
【0004】
放射線療法および/または化学療法に対する腫瘍細胞の内因性または獲得性抵抗性(または非応答)には複数の理由があり得、上で例証されるように、個体により異なりうる。集中的な研究にもかかわらず、正確な機序は理解しにくいままである。しかし、例えば原薬結合部位での単一変異も、または細胞解毒過程中での単一変異も、化学感受性の欠如または減少の原因でありうる。また、いくつかの抗がん薬に対する交差抵抗性の出現が、抗がん処置の有効性を制限することも多い。
【0005】
臨床的重要性が高いのは、多剤抵抗性(MDR:multi‐drug resistance)と呼ばれる現象である。この概念によれば、膜タンパク質、すなわちP糖タンパク質または多剤抵抗性関連タンパク質(MRP:multi‐drug resistance associated proteins)等のATP結合カセット(ABC:ATP binding cassette)輸送体タンパク質のメンバーの発現が増加し、これにより、細胞膜を介した活性輸送による原薬の流出増強がもたらされる。多剤抵抗性を示す患者は、広範囲の細胞毒性薬に抵抗性があることが最も多い。
【0006】
抵抗性は、化学療法または抗がん薬に限られず、がん患者は、放射線療法で適用されるイオン化照射に対する内因性抵抗性または獲得性抵抗性も示しうる。内因性放射線抵抗は、例えば黒色腫細胞および膠芽腫細胞のものが知られている。
【0007】
放射線抵抗性は、低線量または分割線量のイオン化放射線への曝露によっても誘発されうる。いくつかの研究が、いくつかの動物モデルだけでなくヒト細胞でも、インビトロにおけるこの効果を文書化している。いくつかの細胞質(cytoplasmatic)タンパク質および核タンパク質のレベルの変更、遺伝子発現増加またはDNA修復プロセス等、異なる細胞放射線防護機序が関わりうる。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
したがって腫瘍学において、がん処置をより有効にする新規の戦略への強い必要性がある。特に、抗がん薬(化学療法)または放射線療法等の従来の抗がん療法に対する抵抗性を示すがん患者を処置するため、またはアポトーシス(apoptose)抵抗性細胞をもつがん患者を処置するための、新規の手段を提供することが、本発明の目的である。
【課題を解決するための手段】
【0009】
細胞増殖およびまたはがん細胞の成長を阻害できるオピオイドが、これらのがん細胞における抵抗性を克服できることが現在分かったため、放射線療法および/または化学療法抵抗性がん患者の処置においてオピオイドまたはオピオイドミメティクスを用いることによりこの目的が解決される。したがって、これらのオピオイドは、今までのところ従来の治療的抗がんアプローチによっては処置不可能または有効な処置が不可能と考えられる患者を処置するための新規の戦略を提供する。この処置不可能とされるがん患者群は、「非応答者」、「応答不良者」または「非化学感受性」もしくは「放射線非感受性」がん患者とも呼ばれうる。
【0010】
オピオイドおよびオピオイドミメティクスが、がん細胞のアポトーシス抵抗性を克服でき、したがって抗がん物質として有効に臨床適用されうることもさらに分かった。特に、最も驚くべきことに、オピオイド、特にメタドンが、非抵抗性(すなわち感受性)白血病細胞に対する従来の化学療法(例えばドキソルビシン)および放射線処置と同じくらい有効であり、この処置の後に正常な末梢血リンパ球が生存したことも分かった。したがって、本発明の一実施形態によれば、オピオイドはまた、腫瘍細胞を殺すのに有効であるが、患者の正常な健常細胞には実質的に影響しない。
【0011】
本発明の文脈において、「オピオイド」という用語は、いずれも周知のオピオイド受容体、好ましくはμオピオイド受容体に結合でき、がん細胞増殖を抑えられる、アゴニストまたはアンタゴニスト作用をする、化学的不均一な天然、合成または半合成物質群として定義される。オピオイドの群には、モルヒネ、ジヒドロコデイン、コデインおよびテバインのようなアルカロイド等の天然のオピエート、ならびに天然のオピエートに由来する半合成オピエート(例えばヒドロモルホン、ヒドロコドン、オキシコドン、オキシモルホン、デソモルヒネ、ジアセチルモルヒネ(ヘロイン)、ニコモルヒネ、ジプロパノイルモルヒネ、ベンジルモルヒネおよびエチルモルヒネ)、またはフェンタニール、ペチジンおよびメタドン、トラマドールまたはプロポキシフェン等の完全合成オピオイドが含まれる。内因性オピオイドペプチドも含まれ、これはエンドルフィン、ダイノルフィンまたはエンケファリンとして体内で自然に産生されうるが、合成もされうる。
【0012】
オピオイドは、鎮痛薬としての用途で知られている。オピオイド受容体、特にμオピオイド受容体がアポトーシスにつながるシグナル伝達経路の活性化に関係するという事実は、以前から知られていた(Polakiewicz等、1998)。過去10年間に、オピオイドがアポトーシスを促進しうることが分かった(Hatsukari等、2003)。小肺がん細胞のアポトーシス誘導のための、オピオイドの使用がさらに論じられた(Heusch & Maneckjee 1999)。しかし、根底にある機序は明らかにされておらず、それらの結果から従来の抗がん処置に対する抵抗性を克服するためのオピオイドの使用が示唆されることもない。
【0013】
本発明によれば、オピオイドは、がん細胞増殖および/または成長を阻害できる。この活性には、例えば細胞増殖抑制または細胞毒性活性ならびに細胞および/または腫瘍の成長の抑制が含まれうる。がん細胞増殖は、細胞分裂の阻害の結果である。特に、オピオイドまたはオピオイドミメティクスは、腫瘍において細胞死を誘導する。本発明の文脈における細胞死には、全ての種類の細胞死が含まれる。これには、壊死細胞死ならびにアポトーシス細胞死または自食作用が含まれうる。本発明の一実施形態においては、カスパーゼ依存性またはカスパーゼ非依存性経路の活性化により細胞死が誘導される。しかし、オピオイドは、様々な経路を介して細胞死を誘導しうる。本発明の好ましい実施形態においては、オピオイドは、がん細胞におけるアポトーシスを誘導する。
【0014】
一般に、二つの主な生化学的経路を介してアポトーシスが誘導されうることが知られている。「死受容体経路」(または外因経路)には、TNF受容体誘導(腫瘍壊死因子、tumor necrosis factor)モデルおよびFas受容体誘導モデル(Fas受容体は、Apo‐1またはCD95としても知られる)が含まれる。これらの受容体に対する結合は、カスパーゼ‐8の活性化を含めて細胞における死誘導性シグナル伝達経路の形成をもたらす。「ミトコンドリア経路」(または内因経路)は、ミトコンドリアからのシトクロム(cytochrom)cの放出、Apaf‐1の結合およびプロカスパーゼ‐9の活性化を伴う。プロアポトーシスタンパク質BaxおよびBakまたは抗アポトーシスタンパク質Bcl‐2、BclXLまたはXIAP等、いくつかの調節因子がアポトーシス経路を活性化または不活性化させることが知られている。
【0015】
本発明の文脈において、「オピオイドミメティクス」という用語は、特にオピオイド受容体(例えばμ受容体)に対するオピオイドの結合の効果および/または細胞死、特にミトコンドリア経路を介したアポトーシスの誘導の観点から、直接または間接的にがん細胞内においてオピオイドと実質的に同じ効果を誘導できる物質として定義される。「オピオイドミメティクス」という用語は、例えばコカインなど、オピオイド受容体の過剰発現につながるとともに、間接的に細胞死を誘導する物質も含む。
【0016】
本発明の一実施形態においては、オピオイドまたはオピオイドミメティクスは、以下の機序の一つ以上によりアポトーシスを誘導する:
i.腫瘍細胞におけるカスパーゼ−3およびPARPの切断
ii.カスパーゼ−9の切断およびXIAPのダウンレギュレーション
iii.BclXLのダウンレギュレーション。
【0017】
本発明の好ましい実施形態によれば、オピオイドは、D‐/L‐メタドン、レボメタドン、レバセチルメタドールおよびピリトラミドを含むメタドングループのメンバーである。これら全てのオピオイドを、塩として使用できる。D‐/L‐メタドンのラセミ体が、塩酸塩の形で提供されるのが好ましい。本発明の好ましい実施形態においては、オピオイドメタドンは、ミトコンドリア経路を介してがん細胞においてアポトーシスを誘導する。
【0018】
本発明によるところの、「抵抗性」、「放射線抵抗性」または「化学抵抗性」という用語は、少なくとも一つの従来のがん療法、すなわち抗がん薬または放射線療法に対する、がん細胞の感受性の減少と定義される。そのようながんを患う患者は、「抵抗性」がん患者として特定される。抵抗性が内因性または獲得性でありうるため、観察される感受性の減少は、治療上有効な量の適用される抗がん薬および/または放射線に応答する完全に感受性の「正常」がん細胞と比較したもの、療法開始時の元々の感受性と比較したもののいずれかである。後者のケースでは、抵抗性は、(放射線または抗がん薬の)同用量での腫瘍退縮量の減少、または等量の腫瘍退縮に必要な用量の増加として現れる。
【0019】
特に好ましい実施形態においては、オピオイドまたはオピオイドミメティクスは、以下の抵抗性の一つ以上を示すがん患者を処置するために用いられる:
○ アポトーシス抵抗性
○ 多剤抵抗性
○ 抗がん薬抵抗性
○ 細胞毒性薬抵抗性
○ 活性酸素種に対する抵抗性
○ DNA損傷剤に対する抵抗性
○ 毒性抗体に対する抵抗性
○ ドキソルビシン抵抗性
○ 特に以下の原薬の一つ以上に対する、単独または交差抵抗性:メトトレキセート、シタラビン、シスプラチン、エトポシド、ビンクリスチン、パクリタキセル(タキソール)、カルボプラチン、テニポシド、デキサメタゾン、プレドニソロン、シクロホスファミド、イホスファミド、ドキソルビシン、エピルビシン、ダウノルビシン、メルカプトプリン、フルダラビン、5‐フルオロウラシル
○ 照射抵抗性(例えばアルファ、ベータ、ガンマまたはオージェ電子)。
【0020】
したがって、本発明の文脈において「抵抗性」は、総合的でも部分的でもありうる。換言すれば、本発明により処置可能であるとみなされる患者は、従来の抗がん処置に対する感受性の減少または感受性の完全な欠如も示しうる。これらの患者は、「非応答者」または「応答不良者」としても特定されうる。
【0021】
「抵抗性」がんまたは腫瘍のさらなる同義語は「不応性」型のがんであり、これも完全または部分的に不応性でありうる。したがって内因性抵抗性は、「原発性不応性がん」としても特定されうる。不応性または抵抗性のがん細胞の具体的形は、いわゆる「動力学的不応性細胞」であり、これは、例えば白血病細胞について知られる、細胞が最初は殺されるが迅速に再生するために有効な処置がほぼ不可能な現象である。
【0022】
本発明の文脈において用いられるところの、「従来の」処置または療法という用語は、過去の調査の結果および/または規制認可に基づいて、現在認められ広く用いられている、ある種類のがんの治療的処置をさす。
【0023】
従来の抗がん薬には、細胞毒性剤および細胞増殖抑制剤が含まれ、これらはがん細胞を殺すか、あるいはその成長または増殖を減少および/または停止させる。これらの抗がん薬の作用様式は様々であり得、その例は、抗代謝剤(例えばシタラビン、メトトレキセート、メルカプトプリンまたはクロファラビン)、DNA架橋剤(例えばシスプラチン(cisplatine)およびその誘導体)、DNA挿入物質(例えばドキソルビシン)、トポイソメラーゼ毒(例えばエトポシド)、キナーゼ阻害剤(例えばセツキシマブ)、ステロイド(例えばデキサメタゾン)または有糸分裂抑制剤(例えばビンクリスチン)である。白血病の従来の抗がん処置の一例は、ドキソルビシンの投与である。
【0024】
従来の放射線療法(radiotherapy)には、X線、アルファ、ベータおよびガンマ線、オージェ電子、紫外線、中性子、陽子、およびがん細胞を殺し腫瘍を縮小させるための他のソースからの高エネルギー放射線の使用を意味する、放射線照射療法も含みうる。放射線は、体外デバイスから生じ得(外照射療法)、または体内のがん細胞の近くに配置された放射線ソースから生じうる(内照射療法)。全身放射線照射療法は、血流中を標的組織へと移動する放射性標識単クローン抗体等の放射性物質を使用する。放射線抵抗性がん細胞は、これらの処置に応答しないかまたは部分的にしか応答しない。
【0025】
上に詳述されるように、本発明の一実施形態によれば、オピオイドまたはオピオイドミメティクスは、従来の抗がん処置および/または放射線処置に対するがん細胞の内因性または獲得性の抵抗性またはアポトーシス抵抗性を克服または「打破」するために適用される。本発明の一実施形態においては、本発明により処置可能であるとみなされるがん細胞は、オピオイド受容体、特にμオピオイド受容体を発現する。
【0026】
さらなる実施形態においては、がんの群には、白血病、乳がん、膠芽腫、前立腺がん、肺がん、肺非小細胞がん(NSCLC:non‐small cell lung cancer)、脳がん、結腸がん、結腸直腸がんが含まれるがこれに限られない。
【0027】
放射線照射に対する内因性抵抗性を有し、本発明により処置可能であるとみなされるがんのタイプの例は、膠芽腫、黒色腫または膵臓がん細胞である。乳がん、膀胱がんまたは白血病は、化学療法剤に抵抗性があることが多い。抵抗性を獲得することが多いがんのタイプの例は、黒色腫、結腸がん、脳腫瘍、膠芽腫、脳がん、膵臓がん、肝臓がん、卵巣がん、乳房のがん、肺がん、慢性白血病または骨肉腫(osteosarkoma)である。
【0028】
本発明のさらなる実施形態においては、オピオイドまたはオピオイドミメティクスは、従来の抗がん物質または処置、例えば細胞増殖抑制物質もしくは細胞毒性物質または放射線療法との組み合わせにおいて、すなわち複合物として使用されうる。オピオイドまたはオピオイドミメティクスは、例えば天然および/または合成抗がん物質、天然および/または合成細胞毒性物質、抗生物質、細胞毒性抗体、ホルモン、精神薬物(psycho−pharmaca)、天然でまたは遺伝的に修飾された有機体、有機体(例えば植物、微生物、果物)からの物質、痛みのための物質、ならびに/あるいは物質(例えば抗体)に結合されていないかまたは結合された様々な種類の放射物と組み合わせられうる。患者は、この処置に抵抗性でも、抵抗性でなくてもよい。
【0029】
「複合物」は、治療上有効量の、本発明により定義されるところのオピオイドまたはオピオイドミメティクスのいずれか(成分A)と、少なくとも一つのさらなる抗がん物質(成分B)とを含む医薬調製物を意味する。この「複合物」は、単一の組成物、または同時もしくは後に患者に投与されうる少なくとも二つの組成物を構成しうる。上述した物質は、メタドンと組み合わせられるのが好ましい。
【0030】
本発明の複合物は、単独の組成物と比較して相乗効果を有しうるため、がん細胞の有効な処置に有利でありうる。特に、メタドンを成分Aとし、以下の薬剤の一つを成分Bとする複合物が可能である:メトトレキセート、シタラビン、シスプラチン(cisplatine)、エトポシド、ビンクリスチン。さらに、放射線照射処置も含む組合せ処置も可能である。
【0031】
本発明の好ましい実施形態においては、オピオイドは、抵抗性または感受性の非固形がん、すなわち急性リンパ芽球性白血病、B細胞リンパ性白血病、急性骨髄性白血病、慢性骨髄性白血病、慢性リンパ性白血病および白血病の全ての前駆形、ヘアリーセル白血病、ホジキン病、非ホジキンリンパ腫および多発性骨髄腫を含む、血液、骨髄およびリンパ節を冒す全ての血液学的悪性疾患を処置するために用いられる。
【図面の簡単な説明】
【0032】
【図1】図1は、オピオイドメタドンが白血病細胞において有効にアポトーシスを誘導するが、非白血病健常PBL細胞に影響しないことを示す。
【0033】
1A:図のようにCEMおよびHL‐60細胞を異なる濃度のメタドンで処理した。24時間(白のバー)および48時間(黒のバー)後、アポトーシス細胞の割合を、低二倍体DNA分析により測定した。特異的細胞死の割合を以下のように計算した:100×(実験的死細胞(%)−培地中の自然死細胞(%))/(100%−培地中の自然死細胞(%))。データは10%未満の標準偏差(SD)を伴なった三連の平均として与えられる。三つの独立した実験において、類似の結果が得られた。
【0034】
1B:図のようにCEMおよびHL‐60細胞(2×105細胞/mL)を異なる濃度のメタドンで処理するか、または処理せずにおいた(Co,コントロール)。0時間(白のバー)、24時間(黒のバー)、および48時間(斜線のバー)後、1mL中の細胞数をカウントした。データは10%未満の標準偏差(SD)を伴なった三連の平均として与えられる。三つの独立した実験において、類似の結果が得られた。
【0035】
1C:図のようにCEM細胞(黒のバー)およびPBLs(白のバー)を異なる濃度のメタドンで処理した。24時間および48時間後、アポトーシス細胞の割合を、低二倍体DNA分析により測定した。特異的細胞死の割合を図1Aで記載したように計算した。データは10%未満の標準偏差(SD)を伴なった三連の平均として与えられる。三つの独立した実験において、類似の結果が得られた。
【図2】図2は、オピオイドメタドンが、CD95抵抗性(CEMCD95R)およびドキソルビシン抵抗性(CEMDoxoR)において親感受性CEM白血病細胞に匹敵するアポトーシス率でアポトーシスを誘導することを示す。
【0036】
図のようにCEM(黒のバー)、CEMCD95R(白のバー)およびCEMDoxoR(斜線のバー)白血病細胞を異なる濃度のメタドンで処理した。24時間および48時間後、アポトーシス細胞の割合を、低二倍体DNA分析により測定した。特異的細胞死の割合を図1Aで記載したように計算した。データは10%未満の標準偏差(SD)を伴なった三連の平均として与えられる。三つの独立した実験において、類似の結果が得られた。
【図3】図3は、オピオイドメタドンが、感受性(HL‐60、CEM)、多剤抵抗性およびアポトーシス抵抗性のドキソルビシン抵抗性(CEMDoxoR)およびCD95抵抗性(CEMCD95R)白血病細胞において、カスパーゼ依存性死を誘導することを示す。
【0037】
3Aおよび3B:メタドンは、HL‐60、CEM、CEMDoxoRおよびCEMCD95R細胞においてカスパーゼ‐3の活性化およびPARP切断を誘導した。図のように、AではHL‐60、CEM細胞を、BではCEMDoxoR、およびCEMCD95R細胞を、異なる濃度のメタドンで処理するか、または処理せずにおいた(コントロール)。24時間および48時間後、カスパーゼ‐3およびPARPについてウエスタンブロット分析を行った。カスパーゼ‐3の活性フラグメントが約19および17kDaで、PARPの切断産物が約85kDaで検出された。抗ベータ‐アクチン抗体により等しいタンパク質ローディングを制御した。
【0038】
3C:zVAD.fmkによるカスパーゼ活性化の阻害により、CEMおよびHL‐60細胞においてメタドン誘導性アポトーシスがブロックされる。図のようにCEMおよびHL‐60細胞を、50μMのzVAD.fmkの非存在下(黒のバー、媒質)または存在下(白のバー、50μM zVAD.fmk)で、異なる濃度のメタドンで処理した。48時間後、アポトーシス細胞の割合を、低二倍体DNA分析により測定した。特異的細胞死の割合を図1Aで記載したように計算した。データは10%未満の標準偏差(SD)を伴なった三連の平均として与えられる。三つの独立した実験において、類似の結果が得られた。
【図4】図4はオピオイドメタドンが感受性(HL‐60、CEM)、多剤抵抗性およびアポトーシス抵抗性のドキソルビシン抵抗性(CEMDoxoR)およびCD95抵抗性(CEMCD95R)白血病細胞においてミトコンドリア経路を活性化することを示す。
【0039】
4Aおよび4B:メタドンは、HL‐60、CEM、CEMDoxoRおよびCEMCD95R細胞においてカスパーゼ‐9の活性化、XIAPのダウンレギュレーション、およびBcl‐xLのダウンレギュレーションを誘導した。
【0040】
図のようにHL‐60、CEM細胞(4A)、CEMDoxoR、CEMCD95R細胞(4B)を異なる濃度のメタドンで処理するか、または処理せずにおいた(コントロール)。24時間および48時間後、カスパーゼ‐9、XIAPおよびBcl‐xLについてウエスタンブロット分析を行った。カスパーゼ‐9の活性フラグメントが約37kDaで検出され、XIAPが約58kDaで検出され、Bcl‐xLが約30kDaで検出された。抗ベータ‐アクチン抗体により等しいタンパク質ローディングを制御した。
【図5】図5は、オピオイドメタドンが膠芽腫細胞においてアポトーシスを誘導することを示す。
【0041】
図のようにA172膠芽腫細胞を異なる濃度のメタドンで処理した。120時間(白のカラム)、144時間(黒のカラム)および168時間(斜線のカラム)後、アポトーシス細胞の割合を、低二倍体DNA分析により測定した。特異的細胞死の割合を以下のように計算した:100×(実験的死細胞(%)−培地中の自然死細胞(%))/(100%−培地中の自然死細胞(%))。データは10%未満の標準偏差(SD)を伴なった三連の平均として与えられる。三つの独立した実験において、類似の結果が得られた。
【図6】図6は、治療濃度のドキソルビシンと低濃度のメタドンとの組み合わせを用いて、膠芽腫細胞においてアポトーシスを首尾よく誘導できることを示す。
【0042】
膠芽腫(glioblastom)細胞A172(7000細胞/cm2)を、治療濃度の0.1μg/mLドキソルビシン(ドキソルビシン、白のカラム)、低濃度の1μg/mLメタドン(メタドン、黒のカラム)、および、0.1μg/mLのドキソルビシンに加えた1μg/mLメタドン(ドキソルビシン+メタドン、斜線のカラム)で処理した。72時間後、フローサイトメトリによりアポトーシスの定量を行った。アポトーシスを測定するために、0.1%クエン酸ナトリウムに加えて0.1%TritonX‐100およびヨウ化プロピジウム50μg/mLを含むNicolettiバッファーにより細胞を溶解させた。ヨウ化プロピジウム(PI)により染色した核を、フローサイトメトリにより分析した(FACSCalibur,Becton Dickinson,Heidelberg,Germany)。
【図7】図7は、オピオイドコカインを用いて、CEM細胞においてアポトーシスを首尾よく誘導できることを示す。
【0043】
CEM(白のカラム)およびHL‐60(黒のカラム)細胞を、1000μg/mLのコカインで処理した。48時間後、アポトーシス細胞の割合を、低二倍体DNA分析により測定した。特異的細胞死の割合を以下のように計算した:100×(実験的死細胞(%)−培地中の自然死細胞(%))/(100%−培地中の自然死細胞(%))。データは10%未満の標準偏差(SD)を伴なった三連の平均として与えられる。三つの独立した実験において、類似の結果が得られた。
【図8】図8は、D,L‐メタドンがエクスビボで患者から単離された前B‐ALL(B‐細胞リンパ性白血病)細胞において細胞死を誘導することを示す。
【0044】
B‐ALL(B‐細胞リンパ性白血病)細胞(50000細胞/100μl)を、30、20、15、10μMのメタドンで処理した。48時間(黒のバー)および72時間(白のバー)後、フローサイトメトリによりアポトーシスの定量を行った。
【図9】図9は、フルダラビンと組み合わせたD,L‐メタドンが、エクスビボで患者から単離された抵抗性CLL(慢性リンパ性白血病)細胞において細胞死を誘導することを示す。
【0045】
CLL(慢性リンパ性白血病)細胞(50000細胞/200μl)を、30、10、5、3、1、0.5、0.3、0.1μg/mLのメタドン単独で(白のバー)、または0.1μMのフルダラビンを加えて(黒のバー)、処理した。24時間および48時間後、フローサイトメトリによりアポトーシスの定量を行った。
【図10】図10は、フルダラビンと組み合わせたD,L‐メタドンが、エクスビボで患者から単離された抵抗性CLL(慢性リンパ性白血病)細胞において細胞死を誘導することを示す。
【0046】
CLL(慢性リンパ性白血病)細胞(50000細胞/200μl)を、30、10、5、3、1、0.5、0.3、0.1μg/mLのメタドン単独で(白のバー)、または0.1μMのフルダラビンを加えて(黒のバー)、処理した。24時間および48時間後、フローサイトメトリによりアポトーシスの定量を行った。
【図11】図11は、インビトロでドキソルビシン+メタドンで処理したヒトB細胞白血病細胞系統Tanoueにおけるアポトーシスの誘導を示す。
【0047】
B‐ALL(B‐細胞リンパ性白血病)細胞系統Tanoue(5000細胞/100μl)を、30、10、5、3、1μg/mLのメタドン単独で(白のバー)、または0.03μg/mLのドキソルビシンを加えて(黒のバー)処理した。96時間後、フローサイトメトリによりアポトーシスの定量を行った。
【図12】図12は、インビトロでドキソルビシン+メタドンで処理したヒトB細胞前駆体白血病細胞系統Nalm6におけるアポトーシスの誘導を示す。
【0048】
B‐ALL(B‐細胞リンパ性白血病)細胞系統Nalm6(5000細胞/100μl)を、30、10、5、3、1μg/mLのメタドン単独で(白のバー)、または0.01μg/mLのドキソルビシンを加えて(黒のバー)処理した。96時間、120時間、144時間、168時間後、フローサイトメトリによりアポトーシスの定量を行った。
【図13】図13は、インビトロでドキソルビシン+ブプレノルフィンで処理したヒト急性骨髄性白血病細胞系統HL‐60におけるアポトーシスの誘導を示す。
【0049】
ヒト急性骨髄性白血病細胞HL‐60細胞系統(5000細胞/100μl)を、30、10、5、3、1、0.5、0.3、0.1μg/mLのブプレノルフィン単独で(白のバー)、または0.003μg/mLもしくは0.001μg/mLのドキソルビシンを加えて(黒のバー)処理した。144時間または168時間後、フローサイトメトリによりアポトーシスの定量を行った。
【図14】図14は、インビトロでドキソルビシン+フェンタニールで処理したヒトT細胞白血病細胞系統CEMにおけるアポトーシスの誘導を示す。
【0050】
ヒトT‐細胞白血病CEM細胞系統(10000細胞/100μl)を、30、10、5、3、1、0.5、0.3、0.1μg/mLのフェンタニール単独で(白のバー)、または0.02μg/mLのドキソルビシンを加えて(黒のバー)処理した。48時間および72時間後、フローサイトメトリによりアポトーシスの定量を行った。
【図15】図15は、インビトロでモルヒネで処理したヒト急性骨髄性白血病細胞系統HL‐60におけるアポトーシスの誘導を示す。
【0051】
ヒト急性骨髄性白血病HL‐60細胞系統(5000細胞/100μl)を、30、10、5、3、1、0.5、0.3、0.1、0.03、0.01μg/mLのモルヒネで処理した。120時間(白のバー)または144時間(黒のバー)後、フローサイトメトリによりアポトーシスの定量を行った。
【図16】図16は、インビトロでモルヒネで処理したヒト急性骨髄性白血病細胞系統HL‐60におけるアポトーシスの誘導を示す。
【0052】
ヒト急性骨髄性白血病HL‐60細胞系統(5000細胞/100μl)を、1、0.5、0.3、0.1、0.03、0.01μg/mLのモルヒネで処理した。96時間(白のバー)、120時間(黒のバー)、144時間(斜線のバー)および168時間(灰色のバー)後、フローサイトメトリによりアポトーシスの定量を行った。
【図17】図17は、インビトロでドキソルビシン+モルヒネで処理したヒト急性骨髄性白血病HL‐60におけるアポトーシスの誘導を示す。
【0053】
ヒト急性骨髄性白血病HL‐60細胞系統(5000細胞/100μl)を、30、10、5、3、1、0.5、0.3、0.1μg/mLのモルヒネ単独(白のバー)または0.003μg/mL(黒のバー)もしくは0.001μg/mLのドキソルビシン(灰色のバー)を加えて処理した。168時間後、フローサイトメトリによりアポトーシスの定量を行った。
【発明を実施するための形態】
【0054】
(実施例1:白血病細胞の処置のための、特に従来の療法で一般的に用いられる抗がん薬が殺せなかった白血病細胞の処置のための、メタドンの使用)
(薬物および試薬)
D,L‐塩酸メタドン(メタドン,Sigma,Taufkirchen,Germany)を、調製物の一定の品質を確保するために、各実験の前に滅菌蒸留水に新たに溶解させた。
【0055】
(細胞培養)
ヒト骨髄性白血病細胞系統HL‐60およびヒトリンパ芽球性白血病T細胞系統CEMを、10%ウシ胎仔血清(Biochrom,Berlin,Germany)、10mM HEPES、pH7.3(Biochrom)、100U/mLペニシリン(GIBCO)、100μg/mLストレプトマイシン(GIBCO)および2mM L‐グルタミン(Biochrom)を含むRPMI 1640(GIBCO,Invitrogen,Karlsruhe,Germany)中で、37℃および5%CO2で成長させた。CEMCD95Rは1μg/mL抗CD95に抵抗性であり(Friesen等、1996)、CEMDOXORは0.1μg/mLドキソルビシンに抵抗性である(Friesen等、2004)。CEMCD95Rは、アポトーシス抵抗性および多剤抵抗性である。CEMCD95Rは、メトトレキセート、シタラビン、シスプラチン(cisplatine)、エトポシド、ビンクリスチン等のいくつかの抗がん薬、ならびにガンマおよびベータ照射に対して交差抵抗性である(Friesen等、1996,Los等、1997,Friesen等、2007)。本研究において使用した全ての細胞系統は、マイコプラズマを含まなかった。
【0056】
(アポトーシスの誘導)
白血病細胞(1×105細胞/mL)を、150mLフラスコまたは96ウェルプレートにおいて、30、20、15、10μMのメタドンで処理した。24時間および48時間後、記載されているように(Carbonari等、1994,Friesen等、2003)、フローサイトメトリによりアポトーシスの定量を行った。簡潔にいうと、Nicoletti等(1991)に記載のように、アポトーシスを測定するために、0.1%クエン酸ナトリウムに加えて0.1%TritonX‐100およびヨウ化プロピジウム50μg/mLを含むNicolettiバッファーで細胞を溶解させた。アポトーシス細胞の割合を、低二倍体DNA(subG1)またはFSC/SSC分析により測定した(Nicoletti等、1991,Carbonari等、1994)。ヨウ化プロピジウム(PI)により染色した核、または細胞の前方散乱/側方散乱(FSC/SSC)プロフィールを、フローサイトメトリにより分析した(FACSCalibur,Becton Dickinson,Heidelberg,Germany)。
【0057】
(末梢血リンパ球の単離)
末梢血リンパ球(PBLs)を、健常人の新鮮な血液から単離した。PBLs(1mL中1×106細胞)を、96ウェルプレートにおいて30、20、15、10μMメタドンで処理した。記載されるように(Carbonari等、1994)、24時間および48時間後に、フローサイトメトリによりアポトーシスの定量を行った。
【0058】
(zVAD.fmkによるメタドン誘導カスパーゼ活性化の阻害)
カスパーゼ活性化の阻害を、過去に記載されるように(Friesen等、2007)実行した。簡単にいうと、カスパーゼの広域スペクトルトリペプチド阻害剤zVAD.fmk(ベンゾイルカルボニル‐Val‐Ala‐Asp‐フルオロメチルケトン、Enzyme Systems Products,Dubli,USA)を、50μmol/Lの濃度で使用した。HL‐60およびCEM細胞を、メタドン処理の1時間前にzVAD.fmkとともにプレインキュベートした。24時間および48時間後、アポトーシス細胞の割合を、低二倍体DNA(subG1)またはFSC/SSC分析で測定した。ヨウ化プロピジウム(PI)により染色した核(Nicoletti等、1991)、または細胞の前方散乱/側方散乱(FSC/SSC)プロフィール(Carbonari等、1994)を、フローサイトメトリにより分析した(FACSCalibur,Becton Dickinson,Heidelberg,Germany)。
【0059】
(ウエスタンブロット分析)
記載のように(Friesen等、2004,Friesen等、2003)、ウエスタンブロット分析を行った。ウサギ抗PARP多クローン抗体(1:5000,Roche)、マウス抗カスパーゼ‐3単クローン抗体(1:1000,Cell‐Signalling)、マウス抗カスパーゼ‐8単クローン抗体(1:1000,Cell‐Signalling)、ウサギ抗活性カスパーゼ‐9多クローン抗体(1:1000、Cell‐Signalling)、マウス抗XIAP単クローン抗体(1:1000,Transduction‐Laboratories,Lexington,Kentucky)、マウス抗Fas(抗CD95)単クローン抗体(1:1000,Transduction‐Laboratories)、マウス抗Fasリガンド(抗CD95リガンド)単クローン抗体(1:250,BD、Pharmingen)、ウサギ抗Bax多クローン抗体(1:250,Oncogene,Cambridge)、ウサギ抗Bcl‐XS/L多クローン抗体(1:1000,Santa‐Cruz‐Biotechnology,Santa‐Cruz,CA)、ウサギ抗p21多クローン抗体(1:1000,Santa‐Cruz)、およびマウス抗β‐アクチン単クローン抗体(Sigma)を使用して、PARP、カスパーゼ‐3、カスパーゼ‐9、カスパーゼ‐8、XIAP、CD95、CD95‐L、Bax、Bcl‐xLおよびβ‐アクチンの免疫検出を行った。二次抗体としてペルオキシダーゼ結合ヤギ抗マウスIgGまたはペルオキシダーゼ結合ヤギ抗ウサギIgG(1:5000,Santa‐Cruz)を、高感度化学発光システム(ECL:enhanced chemoluminescence system,Amersham‐Pharmacia,Freiburg,Germany)に用いた。β‐アクチン検出により等しいタンパク質ローディングを制御した。
【実施例】
【0060】
(メタドンは、非白血病PBLsにおいては毒性効果がないが、CEMおよびHL‐60白血病細胞においてはアポトーシスによる細胞殺滅を誘導する)
白血病および固形腫瘍において、抗がん薬がアポトーシスを誘導し、増殖を阻害することが示されている(Kaufmann & Earnshaw 2000)。したがって、治療的オピオイド薬メタドンもヒトリンパ芽球性白血病T‐細胞系統CEMおよびヒト骨髄性白血病細胞系統HL‐60において、周知の確立した抗がん薬と同様に増殖を阻害しアポトーシスを誘導できるかを分析した(図1A、B)。異なる濃度のメタドン(30、20、15、10μM)による処理から24時間および48時間後、CEMおよびHL‐60細胞において強いアポトーシス誘導(図1A)および強い成長阻害(図1B)を検出した。次に、メタドンが非白血病末梢血リンパ球(PBLs)においてもアポトーシスを誘導するかを分析した(図1C)。単離したPBLsを、異なる濃度のメタドン(30、20、15、10μM)とともにインキュベートした。メタドン処理から24時間および48時間後、メタドンがCEM等の白血病細胞の処理に使用するのと同様の濃度でPBLsを殺せないことが分かった(図1C)。これは、メタドンが白血病細胞においてアポトーシスを誘導すること、非白血病PBLsに対して毒性効果がないことを示す。
【0061】
(メタドンは、白血病細胞のドキソルビシン抵抗性、CD95抵抗性、および多剤抵抗性を打破する)
抗がん薬に対する抵抗性は、白血病および腫瘍患者の処置における限定要因である(Bergman & Harris 1997,Friesen等、2003)。メタドンが強力な抗白血病活性を示し、白血病細胞を能率的に殺すことが分かっている。したがって、メタドンがアポトーシス抵抗性のドキソルビシン抵抗性白血病細胞においても細胞死を誘導できるかを分析した。ドキソルビシン抵抗性CEM白血病細胞(CEMDoxoR)を、異なる濃度のメタドン(30、20、15、10μM)で処理した。メタドン処理から24時間および48時間後、フローサイトメトリにより細胞死を測定した。30、20、15μMのメタドンによる処理後、ドキソルビシン抵抗性細胞CEMDoxoRにおいて強いアポトーシス誘導が測定され、これは感受性白血病細胞CEMのものと類似し(図2)、このことは、メタドンがドキソルビシン抵抗性およびアポトーシス抵抗性を克服することを示した。
【0062】
次に、メタドンが多剤抵抗性の白血病細胞も殺せるかを検討した。したがって、エトポシド、シスプラチン(cisplatine)、メトトレキセート、シタラビン、ドキソルビシン、ビンクリスチン等のいくつかの抗がん薬に抵抗性の、CD95抵抗性白血病細胞CEMCD95Rを、異なる濃度のメタドン(30、20、15、10μM)で処理した。30、20、15μMのメタドンによる処理後、CD95抵抗性白血病細胞CEMCD95Rにおける強いアポトーシス誘導が24時間および48時間後に測定され、これは感受性白血病細胞CEMのものと類似していた(図2)。これは、メタドンが感受性白血病細胞において強いアポトーシス誘導を誘導するだけでなく、一般的に用いられる抗がん薬が殺せなかったドキソルビシン抵抗性およびCD95抵抗性白血病細胞も殺すことを示唆する(Friesen等、1996,Los等、1997)。
【0063】
(メタドンは、感受性、ドキソルビシン抵抗性、CD95抵抗性、および多剤抵抗性白血病細胞において、カスパーゼ依存性細胞死を誘導し、ミトコンドリアを活性化する)
メタドンは、未知の分子機序により感受性および抵抗性白血病細胞においてアポトーシスを誘導する。したがって、白血病細胞におけるメタドン誘導性細胞死により変更されうる機序およびエフェクター分子を検討することにした。
【0064】
カスパーゼは、抗がん薬によるアポトーシス誘導において重要な役割を果たす(Kaufmann & Earnshow 2000,Hengartner 2000)。したがって、ウエスタンブロット分析を用いて、メタドンがHL‐60およびCEM白血病細胞ならびにアポトーシス抵抗性のドキソルビシン抵抗性白血病細胞CEMDoxoR、および、多剤抵抗性およびアポトーシス抵抗性のCD95抵抗性白血病細胞CEMCD95Rにおいてカスパーゼを活性化するかを検討した。異なる濃度のメタドン(20、15μM)による処理後、HL‐60およびCEM白血病細胞(図3A)、ならびにドキソルビシン抵抗性白血病細胞CEMDoxoRおよびCD95抵抗性白血病細胞CEMCD95R(図3B)においてカスパーゼ‐3およびPARPが切断された。カスパーゼ‐8の活性化(抗がん薬が白血病細胞において誘導することを示している)を、メタドン処理後に観察しなかった。カスパーゼの活性化におけるメタドンの重要な役割を調査するために、CEMおよびHL‐60細胞を、カスパーゼの広域スペクトル阻害剤zVAD.fmkとともにプレインキュベートした。zVAD.fmkとのインキュベーションにより、ほぼ完全に、メタドン誘導性アポトーシスが阻害され(図3C)、このことは、カスパーゼが白血病細胞におけるメタドン誘導性アポトーシスに重要であることを示唆した。
【0065】
抗がん薬は、白血病および腫瘍細胞においてミトコンドリア経路ならびにリガンド/受容体経路を活性化することが示されている(Kaufmann & Earnshow 2000)。白血病細胞におけるメタドン誘導性アポトーシスにミトコンドリアも関与しうるかを調査した。CEM、HL‐60、ドキソルビシン抵抗性白血病細胞CEMDoxoRおよびCD95抵抗性白血病細胞CEMCD95Rを、異なる濃度のメタドン(20、15μM)で処理した(図4)。24時間および48時間後、HL‐60およびCEM白血病細胞(図4A)、ならびに多剤抵抗性およびアポトーシス抵抗性のドキソルビシン抵抗性白血病細胞CEMDoxoRおよびCD95抵抗性白血病細胞CEMCD95R(図4B)において、強いカスパーゼ‐9の切断(37kDaフラグメント)およびカスパーゼ阻害タンパク質XIAP(X‐連鎖アポトーシス阻害タンパク質、X‐linked inhibitory‐of‐apoptosis protein)の強いダウンレギュレーションを観察した。
【0066】
ミトコンドリアの変化は、プロアポトーシスおよび抗アポトーシスBcl‐2ファミリーメンバーにより調節される。異なる濃度のメタドン(20、15μM)による処理の24時間および48時間後、HL‐60およびCEM白血病細胞(図4A)、ならびにドキソルビシン抵抗性白血病細胞CEMDoxoRおよびCD95抵抗性白血病細胞CEMCD95R(図4B)において、Bcl‐xLの強いダウンレギュレーションを観察した。白血病細胞において、メタドン処理後にBaxのアップレギュレーションを観察しなかった。
【0067】
さらに、抗がん薬によりアップレギュレートされることが示されているCD95等、死誘導リガンドおよび死誘導受容体のアップレギュレーションを、メタドン処理後に白血病細胞において観察しなかった(データは示していない)。これは、メタドンが感受性ならびに抵抗性白血病細胞において内因性ミトコンドリア経路の直接活性化によりアポトーシスを誘導することを示す。
【0068】
(実施例2:メタドンは膠芽腫細胞においてアポトーシスを誘導する)
膠芽腫は、原発性脳腫瘍で最も攻撃的かつ最も一般的な種類のものである。膠芽腫細胞は、化学療法剤および放射線照射に対する抵抗性が強いことが知られている。処置には化学療法および放射線療法が含まれうるが、これらは緩和手段にすぎず治癒は提供しない。さらに、多くの薬物は血液脳関門を越えられず、したがって膠芽腫の処置に役に立たない。メタドンは、血液‐脳関門を越えることができる。膠芽腫細胞に対するメタドンの効果を検討した。さらに、治療濃度のドキソルビシンと組み合わせたメタドンの膠芽腫細胞に対する効果をテストした。
【0069】
ヒト膠芽腫細胞系統A172を、10%ウシ胎仔血清(Biochrom,Berlin,Germany)、10mM HEPES、pH7,3(Biochrom)、100U/mLペニシリン(Invitrogen)、100μg/mLストレプトマイシン(Invitrogen)、および2mM L‐グルタミン(Biochrom)を含むDMEN(Invitrogen,Karlsruhe,Germany)において、37℃および5%CO2で成長させた。メタドン処理の前に、膠芽腫細胞を7000細胞/cm2の密度で播種し、細胞播種の24時間後に処理を実行した。
【0070】
膠芽腫細胞A172(7000細胞/cm2)を、75cm2フラスコにおいて30、20μg/mLのメタドンで処理した。120時間、144時間および168時間後、フローサイトメトリによりアポトーシスの定量を行った。アポトーシスを測定するために、0,1%クエン酸ナトリウムに加えて0,1%TritonX‐100およびヨウ化プロピジウム50μg/mLを含むNicolettiバッファーにより細胞を溶解させた。ヨウ化プロピジウム(PI)により染色した核を、フローサイトメトリにより分析した(FACSCalibur,Becton Dickinson,Heidelberg,Germany)。
【0071】
120時間、144時間および168時間後、アポトーシス細胞の割合を、低二倍体DNA分析により測定した。特異的細胞死の割合を以下のように計算した:100×(実験的死細胞(%)−細胞培地中の自然死細胞(%))/(100%−培地中の自然死細胞(%))。メタドンによる処理により、20μg/mLのメタドンによる処理後には、120時間後に20%超の死細胞、168時間後に80%超の死細胞が生じた。メタドンによる処理により、30μg/mLのメタドンによる処理後には、120時間後に85%超の死細胞、168時間後に100%近くの死細胞が生じた(図5)。三つの独立した実験において、類似の結果を得た。これは、メタドンが膠芽腫細胞において高率のアポトーシスを誘導することを示す。
【0072】
(実施例3:メタドンは、膠芽腫細胞におけるアポトーシスの誘導に関して、ドキソルビシンとの組み合わせにおいて相乗効果を示す)
膠芽腫細胞A172(7000細胞/cm2)を、治療濃度の0.1μg/mLのドキソルビシン(ドキソルビシン、白のカラム)、低濃度の1μg/mLのメタドン(メタドン、黒のカラム)、および、0.1μg/mLのドキソルビシンに加えた1μg/mLのメタドン(ドキソルビシン+メタドン、斜線のカラム)により処理した。72時間後、フローサイトメトリによりアポトーシスの定量を行った。アポトーシスを測定するために、0.1%クエン酸ナトリウムに加えて0.1%TritonX‐100およびヨウ化プロピジウム50μg/mLを含むNicolettiバッファーにより細胞を溶解させた。ヨウ化プロピジウム(PI)により染色した核を、フローサイトメトリにより分析した(FACSCalibur,Becton Dickinson,Heidelberg,Germany)。
【0073】
治療濃度のドキソルビシンと低濃度のメタドンとの組み合わせは、テストした膠芽腫細胞に強いアポトーシス作用を及ぼした(図6)。このアッセイは、メタドンが他の化学療法剤、ここではドキソルビシンとともに適用されたときに相乗効果をあらわすことを示す。
【0074】
(実施例4:コカインを使用した白血病細胞におけるアポトーシスの誘導)
CEM(白のカラム)およびHL‐60(黒のカラム)細胞を、1000μg/mLのコカインで処理した。48時間後、アポトーシス細胞の割合を、低二倍体DNA分析により測定した。特異的細胞死の割合を以下のように計算した:100×(実験的死細胞(%)−培地中の自然死細胞(%))/(100%−培地中の自然死細胞(%))。データは10%未満の標準偏差(SD)を伴なった三連の平均として与えられる。三つの独立した実験において、類似の結果が得られた。
【0075】
図7に示すように、結果は、コカインがCEM細胞においてアポトーシスを誘導できることを示した。
【0076】
(実施例5:エクスビボで患者から単離したがん細胞における、D,L‐メタドンを単独またはフルダラビンと組み合わせて用いたアポトーシスの誘導)
B‐ALL(B‐細胞リンパ性白血病,B‐Cell lymphatic leukaemia)およびCLL(慢性リンパ性白血病,chronic lymphatic leukaemia)細胞を、患者からエクスビボで単離した。これらの細胞を、異なる濃度のD,L‐メタドンで、またはD,L‐メタドンにフルダラビンを加えて処理した。
【0077】
第一の研究においては、B‐ALL(B‐細胞リンパ性白血病)細胞(50000細胞/100μl)を、30、20、15、10μMのメタドンで処理した。48時間および72時間後、フローサイトメトリによりアポトーシスの定量を行った。結果は、72時間処理細胞の80%超にまでアポトーシスを誘導するために、10μMのメタドンがすでに十分であることを示した(図8を参照)。
【0078】
第二の研究においては、CLL(慢性リンパ性白血病)細胞(50000細胞/200μl)を、30、10、5、3、1、0.5、0.3および0.1μg/mLのメタドン単独で、または0.1μMのフルダラビンを加えて、処理した。24時間および48時間後、フローサイトメトリによりアポトーシスの定量を行った。結果は、3μg/mLのメタドンを0.1μMフルダラビンと組み合わせると、24時間後までに100%の細胞においてアポトーシスが誘導されることを示した(図9を参照)。
【0079】
第三の研究においては、CLL(慢性リンパ性白血病)細胞(50000細胞/200μl)を、30、10、5、3、1、0.5、0.3、0.1μg/mLのメタドン単独で、または0.1μMのフルダラビンを加えて処理した。24時間および48時間後、フローサイトメトリによりアポトーシスの定量を行った。結果は、3μg/mLメタドンを0.1μMフルダラビンと組み合わせると、48時間後に細胞の50%近くにおいてアポトーシスが誘導されることを示した。30μg/mLのメタドンを0.1μMフルダラビンと組み合わせると、48時間後に細胞の90%超においてアポトーシスを誘導した(図10を参照)。
【0080】
したがって、これらの研究により示唆されるように、単独、または、細胞増殖抑制処置と組み合わせたメタドンは、エクスビボで患者から単離されたがん細胞に有効である。
【0081】
(実施例6:ドキソルビシンと組み合わせてブプレノルフィンを用いた白血病細胞におけるアポトーシスの誘導)
ブプレノルフィンをドキソルビシンと組み合わせて用いて、インビトロでHL‐60白血病細胞においてアポトーシスを首尾よく誘導できた。ブプレノルフィンは、鎮痛剤としても使用される半合成オピオイド薬である。これは、部分的μ‐オピオイド受容体アゴニストである。
【0082】
ヒト急性骨髄性白血病HL‐60細胞系統(5000細胞/100μl)を、30、10、5、3、1、0.5、0.3、0.1μg/mLブプレノルフィン単独で、あるいは、0.003μg/mLまたは0.001μg/mLのドキソルビシンを加えて処理した。144時間または168時間後、フローサイトメトリによりアポトーシスの定量を行った。
【0083】
結果は、20μg/mLブプレノルフィンが、144時間後に90%超の細胞においてアポトーシスを誘導するのに十分なことを示した。0.003μg/mLドキソルビシンを加えたときにも、同じ結果を得た。10μg/mLブプレノルフィンを0.003μg/mLドキソルビシンと組み合わせて細胞を168時間インキュベートすると、100%近くの細胞においてアポトーシスを誘導した(図13を参照)。
【0084】
(実施例7:ドキソルビシンと組み合わせてフェンタニールを用いた白血病細胞におけるアポトーシスの誘導)
フェンタニールをドキソルビシンと組み合わせて用いて、インビトロでCEM白血病細胞においてアポトーシスを首尾よく誘導できた。フェンタニールは、がん疼痛の処置において鎮痛剤として多用される合成オピオイドである。フェンタニールは、μオピオイド受容体アゴニストである。
【0085】
ヒトT‐細胞白血病CEM細胞系統(10000細胞/100μl)を、30、10、5、3、1、0.5、0.3、0.1μg/mLのフェンタニール単独で、または0.02μg/mLのドキソルビシンを加えて処理した。48時間または72時間後、フローサイトメトリによりアポトーシスの定量を行った。
【0086】
結果は、30μg/mLフェンタニールを0.02μg/mLドキソルビシンと組み合わせると、フェンタニールは72時間後に85%超の細胞においてアポトーシスを首尾よく誘導できたことを示した(図14を参照)。
【0087】
(実施例8:モルヒネを用いた白血病細胞におけるアポトーシスの誘導)
モルヒネを単独で、および、ドキソルビシンと組み合わせて用いて、HL‐60白血病細胞においてアポトーシスを首尾よく誘導できた。モルヒネは、現在がん疼痛の処置において鎮痛剤として使用されるオピエートである。モルヒネは、μオピオイド受容体アゴニストである。
【0088】
第一の研究においては、ヒト急性骨髄性白血病HL‐60細胞(5000細胞/100μl)を、30、10、5、3、1、0.5、0.3、0.1、0.03、0.01μg/mLのモルヒネで処理した。120時間または144時間後、フローサイトメトリによりアポトーシスの定量を行った。結果は、40μg/mLのモルヒネを適用すると144時間後に細胞の40%においてアポトーシスが誘導されることを示した(図15を参照)。
【0089】
第二の研究においては、ヒト急性骨髄性白血病HL‐60細胞(5000細胞/100μl)を、1、0.5、0.3、0.1、0.03、0.01μg/mLのモルヒネで処理した。96時間、120時間、144時間および168時間後、フローサイトメトリによりアポトーシスの定量を行った。結果は、1μg/mLのモルヒネを適用すると168時間後に細胞の50%超においてアポトーシスが誘導されることを示した(図16を参照)。
【0090】
第三の研究においては、ヒト急性骨髄性白血病HL‐60細胞(5000細胞/100μl)を、30、10、5、3、1、0.5、0.3、0.1μg/mLのモルヒネ単独で、あるいは0.003μg/mLまたは0.001μg/mLのドキソルビシンを加えて処理した。168時間後、フローサイトメトリによりアポトーシスの定量を行った。結果は、1μg/mLのモルヒネを0.001μg/mLのドキソルビシンと組み合わせて適用すると50%の細胞においてアポトーシスが誘導されることを示した(図17を参照)。
【0091】
したがって、これらの研究により示唆されるように、オピエートおよびμ受容体アゴニストモルヒネを用いて、白血病細胞においてアポトーシスを首尾よく誘導できる。
【0092】
本明細書に引用される以下の文献は、参照により援用される。
【0093】
【化1】
【0094】
【化2】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
抵抗性がん患者処置のための薬物を調製するための、がん細胞増殖を阻害できるオピオイドの使用。
【請求項2】
前記がん患者が、アポトーシス抵抗性、化学抵抗性、放射線抵抗性の群からの少なくとも一つの抵抗性を示す、請求項1に記載の使用。
【請求項3】
前記患者が、内因性抵抗性または獲得性抵抗性を示す、前述の請求項の少なくとも一つに記載の使用。
【請求項4】
前記患者が、以下の抵抗性、
i.アポトーシス抵抗性
ii.多剤抵抗性
iii.抗がん薬抵抗性
iv.細胞毒性薬抵抗性
v.活性酸素種に対する抵抗性
vi.DNA損傷剤に対する抵抗性
vii.毒性抗体に対する抵抗性
viii.ドキソルビシン抵抗性
ix.特に以下の原薬、メトトレキセート、シタラビン、シスプラチン、エトポシド、ビンクリスチン、パクリタキセル(タキソール)、カルボプラチン、テニポシド、デキサメタゾン、プレドニソロン、シクロホスファミド、イホスファミド、ドキソルビシン、エピルビシン、ダウノルビシン、メルカプトプリン、フルダラビン、5‐フルオロウラシルの一つ以上に対する、単独または交差抵抗性
x.放射線照射抵抗性(例えばアルファ、ベータ、ガンマまたはオージェ電子)
の一つ以上を示す、前述の請求項のいずれかに記載の使用。
【請求項5】
前記患者が、以下のがん、白血病、脳がん、黒色腫、膵臓がん、乳がん、膀胱がん、結腸がん、肝臓がん、卵巣がん、乳房のがん、肺がん、慢性白血病または骨肉腫の一つに罹患した、前述の請求項の少なくとも一つに記載の使用。
【請求項6】
急性リンパ芽球性白血病、B細胞リンパ性白血病、急性骨髄性白血病、慢性骨髄性白血病、慢性リンパ性白血病、白血病の前駆形、ヘアリーセル白血病、ホジキン病、非ホジキンリンパ腫および多発性骨髄腫からなる群からの非固形腫瘍処置のための薬物を調製するためのオピオイドの使用。
【請求項7】
前記オピオイドが、前記がん細胞においてアポトーシスのミトコンドリア経路を誘導できる、前述の請求項の少なくとも一つに記載の使用。
【請求項8】
前記オピオイドが、以下の反応、
i.前記腫瘍細胞におけるカスパーゼ‐3およびPARPの切断
ii.カスパーゼ‐9の切断およびXIAPのダウンレギュレーション
iii.BclXLのダウンレギュレーション
の少なくとも一つによりアポトーシスを誘導できる、請求項7に記載の使用。
【請求項9】
前記オピオイドが、前記メタドンのグループに属する、前述の請求項の少なくとも一つに記載の使用。
【請求項10】
前記オピオイドが、D‐/L‐メタドンの塩酸塩の形である、前述の請求項の少なくとも一つに対する使用。
【請求項11】
処置上有効な量のオピオイド(成分A)と、少なくとも一つのさらなる抗がん剤(成分B)とを含む、医薬調製物。
【請求項12】
成分Aがメタドンであり、成分Bが、メトトレキセート、シタラビン、シスプラチン、エトポシド、ビンクリスチン、特にドキソルビシン、アルファ粒子エミッター照射、ベータ照射、ガンマ照射またはオージェ電子照射からなる群より選択される、請求項11に記載の医薬調製物。
【請求項13】
前記オピオイドが、フェンタニール、ブプレノルフィンおよびモルヒネからなる群より選択される、請求項1〜8の少なくとも一つに記載の使用。
【請求項14】
抵抗性がん患者処置のための薬物を調製するための、コカインの使用。
【請求項1】
抵抗性がん患者処置のための薬物を調製するための、がん細胞増殖を阻害できるオピオイドの使用。
【請求項2】
前記がん患者が、アポトーシス抵抗性、化学抵抗性、放射線抵抗性の群からの少なくとも一つの抵抗性を示す、請求項1に記載の使用。
【請求項3】
前記患者が、内因性抵抗性または獲得性抵抗性を示す、前述の請求項の少なくとも一つに記載の使用。
【請求項4】
前記患者が、以下の抵抗性、
i.アポトーシス抵抗性
ii.多剤抵抗性
iii.抗がん薬抵抗性
iv.細胞毒性薬抵抗性
v.活性酸素種に対する抵抗性
vi.DNA損傷剤に対する抵抗性
vii.毒性抗体に対する抵抗性
viii.ドキソルビシン抵抗性
ix.特に以下の原薬、メトトレキセート、シタラビン、シスプラチン、エトポシド、ビンクリスチン、パクリタキセル(タキソール)、カルボプラチン、テニポシド、デキサメタゾン、プレドニソロン、シクロホスファミド、イホスファミド、ドキソルビシン、エピルビシン、ダウノルビシン、メルカプトプリン、フルダラビン、5‐フルオロウラシルの一つ以上に対する、単独または交差抵抗性
x.放射線照射抵抗性(例えばアルファ、ベータ、ガンマまたはオージェ電子)
の一つ以上を示す、前述の請求項のいずれかに記載の使用。
【請求項5】
前記患者が、以下のがん、白血病、脳がん、黒色腫、膵臓がん、乳がん、膀胱がん、結腸がん、肝臓がん、卵巣がん、乳房のがん、肺がん、慢性白血病または骨肉腫の一つに罹患した、前述の請求項の少なくとも一つに記載の使用。
【請求項6】
急性リンパ芽球性白血病、B細胞リンパ性白血病、急性骨髄性白血病、慢性骨髄性白血病、慢性リンパ性白血病、白血病の前駆形、ヘアリーセル白血病、ホジキン病、非ホジキンリンパ腫および多発性骨髄腫からなる群からの非固形腫瘍処置のための薬物を調製するためのオピオイドの使用。
【請求項7】
前記オピオイドが、前記がん細胞においてアポトーシスのミトコンドリア経路を誘導できる、前述の請求項の少なくとも一つに記載の使用。
【請求項8】
前記オピオイドが、以下の反応、
i.前記腫瘍細胞におけるカスパーゼ‐3およびPARPの切断
ii.カスパーゼ‐9の切断およびXIAPのダウンレギュレーション
iii.BclXLのダウンレギュレーション
の少なくとも一つによりアポトーシスを誘導できる、請求項7に記載の使用。
【請求項9】
前記オピオイドが、前記メタドンのグループに属する、前述の請求項の少なくとも一つに記載の使用。
【請求項10】
前記オピオイドが、D‐/L‐メタドンの塩酸塩の形である、前述の請求項の少なくとも一つに対する使用。
【請求項11】
処置上有効な量のオピオイド(成分A)と、少なくとも一つのさらなる抗がん剤(成分B)とを含む、医薬調製物。
【請求項12】
成分Aがメタドンであり、成分Bが、メトトレキセート、シタラビン、シスプラチン、エトポシド、ビンクリスチン、特にドキソルビシン、アルファ粒子エミッター照射、ベータ照射、ガンマ照射またはオージェ電子照射からなる群より選択される、請求項11に記載の医薬調製物。
【請求項13】
前記オピオイドが、フェンタニール、ブプレノルフィンおよびモルヒネからなる群より選択される、請求項1〜8の少なくとも一つに記載の使用。
【請求項14】
抵抗性がん患者処置のための薬物を調製するための、コカインの使用。
【図1】
【図2】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図3】
【図4】
【図2】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図3】
【図4】
【公表番号】特表2011−529454(P2011−529454A)
【公表日】平成23年12月8日(2011.12.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−520333(P2011−520333)
【出願日】平成21年1月29日(2009.1.29)
【国際出願番号】PCT/EP2009/000584
【国際公開番号】WO2010/012319
【国際公開日】平成22年2月4日(2010.2.4)
【出願人】(511024942)ウニフェルジテート ウルム (1)
【Fターム(参考)】
【公表日】平成23年12月8日(2011.12.8)
【国際特許分類】
【出願日】平成21年1月29日(2009.1.29)
【国際出願番号】PCT/EP2009/000584
【国際公開番号】WO2010/012319
【国際公開日】平成22年2月4日(2010.2.4)
【出願人】(511024942)ウニフェルジテート ウルム (1)
【Fターム(参考)】
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