説明

拡張アンカー、拡張アンカーの施工方法

【課題】 本発明は、拡張アンカーを、母材の下孔に挿入して施工する際に、下孔への水の流入防止を確実かつ簡単に実現できる技術の開発を目的とする。
【解決手段】 本発明では、側部に止水スリーブ4を具備する拡張アンカー1を提供する。止水スリーブ4は、拡張アンカー1の拡張部32から後端側のねじ軸部21に螺着されているナット6の締め付けによって膨出変形させることができる。膨出変形させた止水スリーブ4によって下孔111を水密封止できる。また、本発明では、膨出変形可能な止水スリーブを側部に具備した拡張アンカーの施工方法を提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、コンクリート躯体等の母材に設けられた下孔の中に挿入された状態で固定される拡張アンカーに関し、特に、下孔への水の流入を防止する止水機能を有する拡張アンカー、下孔の止水性を確保できる拡張アンカーの施工方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、コンクリート躯体等の母材への取付物(パネル、シート等を含む)の固定や、複数層からなる母材の層間結着等に用いられるアンカーとして、金属拡張アンカーが多用されている。金属拡張アンカーは、コンクリート躯体等の母材に穿孔した下孔に挿入し、先端部(拡張部)を拡張させることにより前記母材に固着される。この金属拡張アンカーとしては、芯棒打ち込み式金属拡張アンカー(例えば特許文献1)、テーパーボルト式、コーンナット式、ウェッジ式等に代表される締め付け方式アンカー(例えば、特許文献2、3)など、様々なものがある。
【0003】
図20は、金属拡張アンカーを用いた、母材への取付物の固定例を示す。
図中、符号110はコンクリート躯体(母材)、120は金属拡張アンカー(以下、単に、拡張アンカー、あるいは、アンカーと称する場合がある)、130は取付物である。
図20に例示した拡張アンカー120は、先端側(図20下側)の拡張部121と、後端側に突設されたねじ軸部122と、このねじ軸部122に螺着されたナット123と、ねじ軸部122に外挿して、ナット123よりも拡張部121側に配置されたワッシャ124とを具備している。
拡張アンカー120を用いて、取付物130をコンクリート躯体110に固定するには、拡張アンカー120を、先端側(拡張部121側)から、取付物130に形成された貫通孔131に貫通させて、コンクリート躯体110に穿孔しておいた下孔111に挿入した後、下孔111内で拡張部121を拡張することで下孔111内に固定し、取付物130に、ナット123からの押圧力をワッシャ124を介して作用させて、取付物130をコンクリート躯体110に押さえ込むようにして固定することが一般的である。また、コンクリート板等の比較的大型の取付物の場合は、取付物を母材表面に押し当てておいたまま、電動工具等を用いて、取付物を貫通する貫通孔と、これに連通する母材の下孔とを一挙に形成し、取付物を母材表面に押し当てた状態を維持したままアンカーを下孔に挿入して拡張部を拡張させて固定し、取付物を母材に固定することも広く行われている。
【特許文献1】特開2005−9645号公報
【特許文献2】特公昭59−30925号公報
【特許文献3】特許第3127192号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、アンカーの施工には下孔が必須であるが、取付物130の貫通孔131内面とアンカーの外周面との間の隙間が、下孔への水の流入経路となることがある。このため、防水性が要求される場合、下孔への水の流入を防ぐことが必要となる。
これに鑑みて、例えば、取付物を母材に押さえ込むためのワッシャと、取付物との間にゴムパッキンを挟み込む、といった止水対策が取られることがある。しかしながら、このゴムパッキンによる対策では、以下の(1)〜(3)の問題がある。
(1)ワッシャ124を押し当てる取付物130の表面132は、必ずしも平坦ではない。例えば、表面に細かい溝が形成されている取付物130では、ゴムパッキンを介挿しても止水効果が得られない。
(2)コンクリート躯体等の母材の表面は必ずしも平坦ではない。コンクリート躯体表面に不陸が存在する場合、躯体表面上で取付物が傾斜したりガタ付きやすく、これが、ワッシャ124と取付物との間に隙間を発生させることになり、ゴムパッキンでは充分な止水効果が得られない。
(3)取付物130の貫通孔131以外に、取付物と母材との間の隙間が、下孔への水の流入経路となることがある。しかし、上述のようなゴムパッキンを利用した止水対策では、取付物と母材との間の界面に開口する下孔の止水を行えない。ゴムパッキンを挟み込む止水対策は、取付物と母材との間の界面から下孔への水の流入防止には機能し得ない。また、母材表面に防水層が形成されている場合、下孔は、防水層を貫通して穿孔されるため、防水層と取付物との間の界面から下孔への水の流入を阻止することが必要になる。
【0005】
また、特許文献3のように、パッキンの如く機能する弾性部材を取り付けたワッシャを利用する提案もある。しかしながら、従来の止水対策のための技術は、いずれも、上述の(1)〜(3)の問題の根本的な解決には至らないものであった。
母材に取付物を固定するアンカーにおいては、特に、上記(3)のように、取付物と母材との間の界面から下孔への水の流入の問題を解決できる適当なものが無く、その開発が求められていた。
なお、拡張アンカーは、複数層からなる母材の層間結着に用いられることもあるが、前述のように、ゴムパッキン等を利用する技術では、隣接する層間の界面における下孔の止水(例えば、透水層と、これに隣接する非透水層とにわたって穿設された下孔の止水)も実現できない。
【0006】
本発明は、上記問題点に鑑みてなされたものであり、母材に形成した下孔への水の流入を簡単且つ確実に防止できる拡張アンカー及び拡張アンカーの施工方法に関するものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的のため、本発明では、以下の解決手段を提供する。
請求項1に係る発明は、母材に穿孔された下孔内で拡張される拡張部を先端に有する拡張アンカーであって、先端側の前記拡張部と、この拡張部の後端側に延出するねじ軸部と、このねじ軸部に螺着されたナットと、このナットよりも前記拡張部側にて、前記ねじ軸部に外挿された遮水性の止水スリーブとを具備し、前記拡張部の後端、あるいは、前記ねじ軸部における前記拡張部よりも前記ナット側に位置する側部には、前記止水スリーブよりも拡張部側に配置されて前記止水スリーブを抜け止めするストッパ部が設けられ、前記止水スリーブは、前記ナットを回転操作して前記拡張部に接近させることで与えられる圧縮力によって、外側に膨出するように変形させることができることを特徴とする。
請求項2に係る発明は、請求項1記載の拡張アンカーにおいて、前記ねじ軸部と、このねじ軸部の一端部に設けられ、前記拡張部を拡張させるコーン状のテーパ部とを有するテーパボルトが、スリーブ状に形成された前記拡張部に内挿され、前記ねじ軸部の前記拡張部の後端から延出された部分に前記ナットが螺着され、前記ねじ軸部に外挿された前記止水スリーブが、前記ナットよりも前記拡張部側、前記ストッパ部よりも前記ナット側に配置されていることを特徴とする。
請求項3に係る発明は、請求項1記載の拡張アンカーにおいて、前記ねじ軸部と、このねじ軸部の先端に形成された前記拡張部とを有するアンカー本体を具備し、前記アンカー本体の内側には、前記拡張部に打ち込むことで前記拡張部を拡張する芯棒が挿入される芯棒挿入孔が、前記ねじ軸部を貫通して前記拡張部に到達するように形成されていることを特徴とする。
請求項4に係る発明は、母材に穿孔されている下孔内に挿入したボルトに螺着されているナットを回転させ、前記ボルトを前記下孔から引き出すように移動させることで、前記ボルトに外挿されているスリーブ状の拡張部が拡張されて下孔内に固定される拡張アンカーであって、ねじ軸部及び該ねじ軸部の先端部に設けられたコーン状のテーパ部を有するボルトであるテーパボルトと、このテーパボルトの前記ねじ軸部に外挿され、前記テーパボルトの前記テーパ部が押し込まれることで拡張される前記拡張部と、ねじ軸部に外挿して、前記拡張部よりもねじ軸部の後端部側に配置された遮水性の止水スリーブと、この止水スリーブよりもねじ軸部の後端部側にてねじ軸部に螺着されたナットとを具備し、前記止水スリーブは、前記ナットを回転操作して前記拡張部に接近させることで与えられる圧縮力によって、外側に膨出するように変形させることができることを特徴とする。
請求項5に係る発明は、母材に穿孔されている下孔内に挿入したボルトに螺着されているナットを回転させ、前記ボルトを前記下孔から引き出すように移動させることで、前記ボルトに外挿されているスリーブ状の拡張部が拡張されて下孔内に固定される拡張アンカーであって、ねじ軸部及び該ねじ軸部の先端部に設けられたコーン状のテーパ部を有するボルトであるテーパボルトと、このテーパボルトの前記ねじ軸部に外挿され、前記テーパボルトの前記テーパ部が押し込まれることで拡張される前記拡張部と、ねじ軸部に外挿して、前記拡張部よりもねじ軸部の後端部側に配置された遮水性の止水スリーブと、この止水スリーブよりもねじ軸部の後端部側にてねじ軸部に螺着されたナットとを具備し、前記テーパボルトの前記ねじ軸部の側部には、前記止水スリーブよりも拡張部側に配置されて前記止水スリーブを抜け止めする突起状のストッパ部が突設され、前記止水スリーブは、前記ナットを回転操作して前記拡張部に接近させることで与えられる圧縮力によって、外側に膨出するように変形させることができることを特徴とする。
請求項6に係る発明は、請求項1〜5のいずれかに記載の拡張アンカーにおいて、ドーム形あるいは湾曲板状のレベルワッシャ又はばね座金が、前記ねじ軸部に外挿して、前記ナットよりも止水スリーブ側、かつ、前記止水スリーブよりもナット側となるように配置され、前記レベルワッシャ及び前記ばね座金は、前記拡張部を前記下孔に挿入したときに、前記母材に固定する取付物よりもナット側に配置され、前記ナットを回転操作して前記拡張部に接近させることで前記ナットと前記取付物との間にて与えられる圧縮力によって、板状に変形させることができることを特徴とする。
請求項7に係る発明は、請求項1〜6のいずれかに記載の拡張アンカーにおいて、前記ナットよりも拡張部側かつ止水スリーブよりもナット側の位置に、前記ナットの締め付け時に前記テーパボルトの軸方向に作用する圧縮力を負担して、前記ナットと前記止水スリーブとの間の距離を保つスリーブ状又はリング状のスペーサ部材と、前記母材あるいは母材に固定する取付物に押し当てられるワッシャとが、前記ねじ軸部に外挿して配置され、
前記ワッシャが母材あるいは母材に固定する取付物に押し当てられたときに、前記止水スリーブが、前記スペーサ部材の前記ワッシャから拡張部側への延出長によって、前記ワッシャから離隔した位置に配置されるようになっていることを特徴とする。
請求項8に係る発明は、母材に穿孔された下孔内で拡張される拡張部を先端に有する拡張アンカーであって、先端側の前記拡張部と、この拡張部の後端側に延出するねじ軸部と、このねじ軸部に螺着されたナットと、このナットよりも前記拡張部側にて前記ねじ軸部に外挿された遮水性の止水スリーブとを具備し、前記止水スリーブは、前記下孔あるいは前記母材に取り付ける取付物に貫通された貫通孔に挿入されることで、前記下孔あるいは前記貫通孔内に設けられた止水スリーブ受け部に突き当てられるようになっており、しかも、前記止水スリーブは、前記ナットを回転操作して前記拡張部に接近させることで与えられる圧縮力によって、外側に膨出するように変形させることができることを特徴とする。
請求項9に係る発明は、母材に穿孔された下孔内で拡張される先端側の拡張部と、後端側のねじ軸部と、このねじ軸部に螺着されたナットとを具備する拡張アンカーの施工方法であって、前記母材に、母材表面に開口する拡径部を有する下孔を穿孔し、前記下孔に前記拡張アンカーを先端側から挿入するとともに、前記下孔の前記拡径部に遮水性の止水スリーブを挿入して、前記止水スリーブを拡張アンカーに外挿した状態で前記拡径部に収納して、拡張アンカーにおいて前記拡径部の底部よりも拡張アンカーの後端側、かつ、前記ナットよりも拡張アンカーの先端側となる位置に配置し、次いで、前記拡張アンカーの前記拡張部を拡張させて拡張アンカーを下孔内に固定し、次いで、前記拡張アンカーの前記ねじ軸部の前記下孔から母材の外側に突出された部分に螺着されている前記ナットの回転操作による前記ナットの前記拡張部に接近させる方向への移動によって、ナットからの圧縮力で外側に膨出するように変形できる前記止水スリーブの前記母材表面からの突出部分を、前記ナットからの押圧力によって前記拡張部に押し込み、前記止水スリーブを前記拡径部内で外側に膨出するように変形せしめて、前記下孔を水密に封止することを特徴とする。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、止水スリーブの膨出変形によって、下孔を水密に封止することで、下孔の止水性を確実に確保できる。また、下孔内に設置される止水スリーブによって、下孔を止水する構造であるので、母材と母材に固定する取付物との間の界面における母材の下孔の止水や、複数層からなる母材の層間界面を横切るように形成された下孔の層間界面付近での止水といったことも、簡単に実現できる。また、母材への拡張アンカーの施工によって、下孔を止水できる構成であり、例えば、下孔への止水用の樹脂注入等の止水のための特別な工程を必要としないといった利点もある。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
以下、本発明の実施の形態を、図面を参照して説明する。
【0010】
(第1実施形態)
図1〜図3は、本発明の第1実施形態の拡張アンカー1の構造を示す図であり、図1は組み立て状態を示す部分断面正面図、図2は分解斜視図、図3(a)〜(d)は拡張アンカー1の施工手順を示す施工工程図である。
【0011】
図1、図2において、本実施形態の拡張アンカー1は、テーパボルト式の金属拡張アンカーである。
この拡張アンカー1は、ねじ軸部21及び該ねじ軸部21の先端部(図1下端部、図2下端部)に設けられたコーン状のテーパ部22を有するテーパボルト2と、このテーパボルト2の前記テーパ部22の押し込みによって拡張される拡張部32を有するスリーブ状部品である拡張スリーブ3と、遮水性を有する合成樹脂(例えば塩化ビニル等)で形成された圧縮変形可能な止水スリーブ4と、ワッシャ5と、ナット6とを具備している。
テーパボルト2、拡張スリーブ3、止水スリーブ4、ワッシャ5、ナット6の内、止水スリーブ4以外は、金属拡張アンカーに用いられる周知の金属材料(例えば、鉄、ステンレス)で形成されている。
【0012】
拡張スリーブ3と、止水スリーブ4と、ワッシャ5とは、テーパボルト2のねじ軸部21に外挿して、ねじ軸部21の先端部側のテーパ部22に近い側から、拡張スリーブ3、止水スリーブ4、ワッシャ5の順で、順次、ねじ軸部21の後端部23(テーパボルト2の後端部。図1上端部、図2上端部)側となるように直列配列して、ねじ軸部21に沿って配列設置されている。
拡張スリーブ3、止水スリーブ4は円筒状、ワッシャ5はリング状である。拡張スリーブ3、止水スリーブ4、ワッシャ5の内径(ねじ軸部21が挿通される内側の孔31、41、51の径)は、ねじ軸部21の外径よりも僅かに大きい程度で、ほぼ一定に揃えられている。拡張スリーブ3、止水スリーブ4、ワッシャ5の内、最も、テーパ部22に近い側に配置されている拡張スリーブ3は、内径(ねじ軸部21が挿通される孔31の径)が、テーパ部22における外径が最も大きい部位の外径よりも小さいため、テーパ部22によって抜け止めされて、テーパボルト2の先端部から抜け出ないようになっている。
また、ナット6は、ワッシャ5よりもねじ軸部21の後端部23側にてねじ軸部21に螺着されている。
【0013】
拡張スリーブ3と、止水スリーブ4と、ワッシャ5とは、テーパ部22とナット6とによって、ねじ軸部21の先端部側及び後端部23側のいずれの側にも抜け出ないように抜け止めされた状態で、ねじ軸部21に外挿して、テーパボルト2のテーパ部22とナット6との間に配置されている。
拡張スリーブ3と、止水スリーブ4と、ワッシャ5とは、ねじ軸部21に螺着されているナット6をテーパ部22に向かって締め込んだ状態では、拡張スリーブ3がテーパ部22に押し付けられるとともに、拡張スリーブ3と止水スリーブ4、止水スリーブ4とワッシャ5とが互いに突き当て状態となる。ナット6とワッシャ5とは当接状態となる。
【0014】
本明細書において「ねじ軸部に外挿」される部品(部材)は、スリーブ状又はリング状の部品であり、内面側(孔の内面)が、ねじ軸部に沿ったスライド移動(あるいは部品に対するねじ軸部のスライド移動)のための摺動面として機能するものである。
ねじ軸部21に「外挿」されている拡張スリーブ3と、止水スリーブ4と、ワッシャ5とは、孔31、41、51の内面が、ねじ軸部に沿ったスライド移動のための摺動面として機能するものであり、ねじ軸部21に螺着されている訳ではない。このため、例えば、ナット6のねじ軸部21における螺着位置がテーパ部22から離隔され、テーパ部22とナット6との間に、拡張スリーブ3、止水スリーブ4、ワッシャ5がねじ軸部21の軸方向に沿って移動できる程度のクリアランスが確保された状態であれば、ねじ軸部21の軸方向に沿ったスライド移動によって円滑に移動できる。ねじ軸部21からナット6を離脱すれば、拡張スリーブ3、止水スリーブ4、ワッシャ5を、ねじ軸部21の軸方向に沿ったスライド移動によって、ねじ軸部21の後端部23から抜き出すことができる。
【0015】
拡張スリーブ3は、複数の割り溝33が形成されている拡張部32を先端側(テーパ部22に対面する側)に有している。この拡張部32は、テーパボルト2のテーパ部22の押し込みによって拡張される。拡張アンカー1は、図3(a)〜(d)に示すように、母材110(図示例ではコンクリート躯体)に形成した下孔111に挿入して、下孔111内で拡張部32を拡張することで母材110に固着(固定)され、下孔111内に挿入した状態で固定される。テーパ部22は、ねじ軸部21に近い側から、ねじ軸部21から遠い側に行くにしたがって、外径が次第に大きくなるテーパ形状になっているため、拡張スリーブ3に押し込みやすく、押し込みによって、拡張スリーブ3の拡張を円滑に進めることができる。
割り溝33は、拡張スリーブ3の後端部34(止水スリーブ4に近い側の端部)に到達されていない。拡張スリーブ3の後端部34は、拡張部32が拡張されても、拡張部32の拡張に伴う変形の影響を受けず、円筒状の形状を維持する。
拡張スリーブ3の後端部34には、止水スリーブ4が突き当てられる。拡張スリーブ3の後端部34は、止水スリーブ4が拡張スリーブ3の先端側に抜け出ることを規制する抜け止め用のストッパ部として機能する。
【0016】
止水スリーブ4は、テーパボルト2のねじ軸部21に螺着されているナット6を回転操作して前記拡張スリーブ3に接近させることで与えられる圧縮力によって、外側に膨出するように変形させることができる。すなわち、テーパボルト2のねじ軸部21に螺着されているナット6を回転操作して前記拡張スリーブ3に接近させると、拡張スリーブ3(詳細には後端部34)とワッシャ5との間で、テーパボルト2の軸方向(詳細にはねじ軸部21の軸方向)に沿った方向の圧縮力を止水スリーブ4に作用させることができる。止水スリーブ4は、この圧縮力によって圧縮変形される。止水スリーブ4は、圧縮力によって軸方向寸法が押し縮められると、外径を拡大するようにして、外側に膨出する(以下、膨出変形とも言う)。
【0017】
下孔111及び取付物130の貫通孔131は、アンカー外径(ここでは、拡張スリーブ3外径を指す)よりも僅かに大きく形成する。止水スリーブ4の膨出変形は、下孔111及び貫通孔131の内径と拡張アンカーの外径との差で発生する、下孔111及び貫通孔131の内面とアンカー外面との間のクリアランスを埋めるようにして、下孔111と貫通孔131とからなるアンカー挿入孔の内、止水スリーブ4を配置した部分を水密封止するものである。
【0018】
なお、図示例では、取付物130の貫通孔131から下孔111への水の流入と、母材110と取付物130との界面から下孔111への水の流入とを防ぐべく、下孔111における母材110と取付物130との界面に開口する開口部付近と、取付物130の貫通孔131とを、止水スリーブ4の膨出変形によって水密封止する例を例示している。
下孔111への水の流入防止のためには、下孔111と貫通孔131とからなるアンカー挿入孔の内、少なくとも、下孔111における母材110と取付物130との界面に開口する開口部付近の水密封止が必要である。
【0019】
止水スリーブ4の膨出変形は、止水スリーブ4の内径の拡径を伴わないものと、内径の拡径を伴うものとがあるが、本発明ではいずれも採用可能である。
前者は、止水スリーブ4の軸方向寸法の縮小に伴い、止水スリーブ4の孔41の内径は縮小傾向となる。孔41の内径は、殆ど変化しないか、あるいは、縮径して、孔41内面側がねじ軸部21に圧接状態となる。
後者は、止水スリーブ4が、軸方向寸法の縮小に伴って、特に止水スリーブの軸方向中央部が外側に膨出するように撓み変形して、止水スリーブ4の軸方向中央部における孔41内面が拡径傾向となるものである。軸方向寸法の縮小に伴って、止水スリーブ4の軸方向全体にわたって膨出変形が生じる場合もある。
本実施形態では、前者の場合を図示例としているが、下孔111及び貫通孔131の内面とアンカー外面との間のクリアランスの大きさ等の条件によっては、後者のような内径の拡径を伴う膨出変形(撓み変形)も生じ得る。
【0020】
止水スリーブ4は、膨出変形によって、外径が、拡張スリーブ3の外径よりも大きくなる。図3(c)、(d)に示すように、拡張アンカー1を下孔111に挿入した状態で、下孔111内に配置されている止水スリーブ4に圧縮力を作用させて膨出変形させ、止水スリーブ4を下孔111内面に圧接させることで、下孔111の水密封止を実現できる。
止水スリーブ4の軸方向寸法、内外径等の寸法は、圧縮変形に伴う外径増大によって下孔111内面に圧接して、下孔111の水密封止を確実に実現できるように、下孔111内径に対応した設定とする。
図示例の拡張アンカー1では、止水スリーブ4の圧縮変形前の外径を、拡張スリーブ3の外径に揃えているが、必ずしも、止水スリーブ4の外径と、拡張スリーブ3の外径とを揃える必要は無い。
【0021】
拡張アンカー1を用いて、取付物130を母材110に固定するには、図3(a)に示すように、まず、図1のように組み立てられた拡張アンカー1を、先端側(テーパボルト2のテーパ部22側)から、取付物130の貫通孔131に通して貫通させ、母材110に穿設しておいた下孔111に挿入(下孔へのセット)した後、取付物130の貫通孔131に貫通状態のテーパボルト2のねじ軸部21の取付物130から突出(取付物130を介して母材110とは反対の側に突出)した部分に螺着されているナット6を回転操作して、締め付けトルクが所定値となるまで締め付け(以下、締め付け操作とも言う)ていけば良い。
【0022】
ナット6の締め付けにより、止水スリーブ4の膨出変形(圧縮変形による外径拡大)による下孔111の水密封止(図3(c)参照)と、下孔111内での拡張スリーブ3の拡張部32の拡張による母材110に対する拡張アンカー1の固着(図3(d)参照)とが達成されるとともに、取付物130が、ワッシャ5を介して作用するナット6からの押圧力によって、母材110に押さえ込まれるようにして固定される。
以下、下孔111への拡張アンカー1のセット、及び、ナット6の締め付け操作による拡張アンカー1による下孔111の水密封止(止水)、取付物130の固定を、図3(a)〜(d)を参照して詳しく説明する。
【0023】
(下孔への拡張アンカーのセット)
下孔111への拡張アンカー1のセットは、前述したように、拡張アンカー1を、先端側(テーパボルト2のテーパ部22側)から、取付物130の貫通孔131に通して貫通させ、母材110に穿設しておいた下孔111に挿入すれば良い。
なお、下孔111にセットする拡張アンカー1は、ナット6を軽く締め付けて、テーパボルト2のねじ軸部21に外挿された複数の部材が、隣り合う部材同士が軽く接して隙間が生じないようにしておく。但し、テーパ部22によって拡張部32が拡張されないようにする。
【0024】
下孔111は、該下孔111の穿孔深さL1と取付物130の貫通孔131の長さL2との合計(換言すれば、下孔111と貫通孔131とからなるアンカー挿入孔の長さ。以下、アンカー挿入孔の孔長、とも言う)が、拡張アンカー1先端からワッシャ5までの長さL0(以下、アンカー本体長L0、とも言う)よりも短くなるように、穿孔深さL1を設定する。そして、取付物130の貫通孔131に貫通させて、母材110の下孔111に挿入した拡張アンカー1の先端、すなわち、テーパボルト2のテーパ部22を、下孔111の底部112に当接させる。このとき、止水スリーブ4の内の一部が、アンカー挿入孔に挿入されずに、取付物130から突出状態となる。止水スリーブ4が取付物130から突出する突出長Lは、アンカー本体長L0とアンカー挿入孔の孔長(L1+L2)との差に相当する。
下孔111への拡張アンカー1のセットによって、止水スリーブ4に、下孔111内に挿入された部分と、取付物130の貫通孔131に挿入された部分と、突出長Lの部分とを確保する。止水スリーブ4の内、アンカー挿入孔内に挿入された部分は、母材110と取付物130との界面を横切る。
【0025】
前記突出長Lは、図3(b)、(c)に示すように、テーパボルト2のねじ軸部21に螺着されているナット6の締め付け操作によって、止水スリーブ4を外径が拡大するように膨出変形させて、下孔111を水密封止するためのものである。つまり、図3(c)に示すように、ナット6の締め付け操作によって、ワッシャ5が取付物130に当接される。ワッシャ5が取付物130に当接したとき、止水スリーブ4は、前記突出長Lの分、軸方向寸法が縮小(圧縮)される。突出長Lは、ワッシャ5が取付物130に当接された時の止水スリーブ4の膨出変形のための軸方向の圧縮変形量(寸法)となる。下孔111の穿孔深さL1は、下孔111を確実に水密封止できるように止水スリーブ4を膨出変形させるための突出長Lを確保できるように設定する。
ナット6の締め付け操作による止水スリーブ4の膨出変形、膨出変形された止水スリーブ4による下孔111の水密封止については、後に詳述する。
【0026】
(下孔の水密封止、及び、取付物の固定)
下孔111への拡張アンカー1のセットが完了したら、ナット6を締め付け操作することで、拡張アンカー1によって、母材110に取付物130を固定できる。また、下孔111の水密封止も行える。
拡張アンカー1は、ナット6の締め付け操作を開始すると、以下の(1)、(2)、(3)の経過を順に辿り、最終的に、下孔111の水密封止(本実施形態では、取付物130の貫通孔131の水密封止も実現される。)と、母材110への拡張アンカー1の固着と、取付物130の固定とが達成される。
(1)下孔111内での拡張部32の拡張による仮固定(図3(b)参照)。
(2)止水スリーブ4の膨張変形による下孔111の水密封止(図3(c)参照)。
(3)拡張部32のさらなる拡張による母材110に対する拡張スリーブ3の強固な固定(固着。本明細書では、この強固な固定状態を「固着」とする)、及び、母材110への取付物130の押さえ込みによる固定(図3(d)参照)。
なお、ナット6の締め付け操作では、トルクレンチ等を用いて、締め付けトルクを管理する。
【0027】
(拡張スリーブの仮固定)
下孔111へのセットが完了した拡張アンカー1のナット6を締め付け操作を開始すると、テーパボルト2が下孔111から引き上げられていく。ここで、テーパボルト2の「引き上げ」とは、テーパボルト2の下孔111内に挿入されている部分の長さが短くなるように、テーパボルト2をナット6の回転によって下孔111から送り出すように移動することであり、図3においては、上方への移動である。
【0028】
テーパボルト2の引き上げによって、テーパボルト2のテーパ部22の拡張スリーブ3(詳細には、拡張部32)への押し込みが開始されると、テーパ部22の押し込みの進行に伴い拡張部32が拡張されていく。但し、拡張部32の拡張は、拡張された拡張部32が下孔111内面(下孔111の内壁面)に圧接され(仮固定)たところで一旦停止する。但し、このときの拡張部32の拡張(変形)は、図3(d)に示す固着状態を得るために、下孔111の孔壁に拡張部32を食い込ませる拡張(変形)よりも、かなり小さい。
【0029】
拡張部32が下孔111内に仮固定されると、拡張スリーブ3の下孔111内での移動が規制される。拡張部32の拡張の停止によって、テーパボルト2の引き上げも停止する。一方、ワッシャ5及びナット6は、ナット6の締め付け操作によるテーパボルト2の引き上げが継続しているときは、ねじ軸部21の軸方向における位置が変化しないが、拡張部32の拡張及びテーパボルト2の引き上げが停止することで、ねじ軸部21におけるナット6の螺着位置がテーパボルト2の先端側(テーパ部22側)に移動していき、これに伴い、ワッシャ5もナット6に押圧されながらテーパボルト2の先端側に移動していく。ワッシャ5及びナット6の、テーパボルト2の先端側への移動は、ワッシャ5を介して止水スリーブ4に伝達されるナット6からの押圧力によって止水スリーブ4を圧縮変形させ、テーパボルト2の軸方向に沿った方向における止水スリーブ4の寸法(軸方向寸法)を縮小させることにより実現される。
【0030】
拡張部32の拡張による下孔111内面への圧接(仮固定)は、拡張部32の僅かな変形によって実現できる。拡張部32の仮固定に要するナット6の締め付けトルクは、拡張部32を前述の仮固定の状態よりも大きく拡張して下孔111の孔壁に食い込ませて、拡張アンカー1を母材110に強固に固着する(図3(d)参照)ために要するナット6の締め付けトルクに比べてかなり小さい。
拡張アンカー1は、止水スリーブ4の形成材料の選択や寸法等によって、止水スリーブ4の膨出変形に要するナット6の締め付けトルクが、拡張部32の仮固定に要するナット6の締め付けトルクに比べて大きく、かつ、拡張部32を拡張によって下孔111の孔壁に食い込ませるために要するナット6の締め付けトルクに比べて小さいように調整した構成となっている。
したがって、拡張アンカー1では、ナット6の締め付け操作によって拡張部32が仮固定されるまでは、止水スリーブ4の膨出変形は開始されない。また、拡張部32が仮固定によって下孔111内面に押し当てられてからは、ナット6の回転操作(締め付け操作)の継続に伴い、ナット6及びワッシャ5が、テーパボルト2先端側への移動しながら、止水スリーブ4を圧縮変形していく。
【0031】
(下孔の水密封止)
前述したように、拡張部32の仮固定後のナット6の締め付け操作の継続によって、ナット6及びワッシャ5が、テーパボルト2先端側への移動しながら、止水スリーブ4を圧縮変形していく。そして、圧縮変形された止水スリーブ4が外径を拡大するように膨出変形して下孔111内面に圧接することで(図3(c)参照)、下孔111の水密封止が実現される。
【0032】
図3(a)に示した突出長Lは、止水スリーブ4の膨出変形による下孔111の水密封止(止水)を確実に実現するための、止水スリーブ4の軸方向寸法の縮小(圧縮)量を設定するものである。
すなわち、止水スリーブ4は、ナット6の締め付け操作によって、軸方向寸法が、突出長Lに相当する長さだけ縮小されるように圧縮変形される結果、膨出変形によって下孔111内面に圧接して、下孔111の水密封止(止水)を実現する。テーパボルト2先端側へのナット6の移動による止水スリーブ4の圧縮変形は、ワッシャ5が取付物130に押し当てられたところで停止する。これにより、母材110に取付物130が押さえ込まれる。
【0033】
(母材に対する拡張アンカーの固着、及び、取付物の固定)
止水スリーブ4の膨出変形による下孔111の水密封止の完了後もナット6の締め付け操作が継続されることで、テーパボルト2の引き上げ、及び、拡張部32の拡張が再開される。これにより、図3(b)に示した仮固定の状態よりも大きく拡張された拡張部32が下孔111の孔壁に食い込み、拡張アンカー1が母材110に強固に固着される。また、ナット6を所定の締め付けトルクに達するまで締め付けることで、ワッシャ5を介してナット6から取付物130に所望の固定力(押圧力)を作用させて、取付物130を母材110に押さえ込むようにして固定できる。
【0034】
図3(a)〜(d)に示した例では、止水スリーブ4が、母材110と取付物130との界面に対応する位置に設置されるため、止水スリーブ4の膨出変形によって、母材110に穿設されている下孔111の前記界面における開口部が水密封止することで、母材110と取付物130との界面から下孔111への水の流入を防止でき、下孔111の止水を実現できる。また、ワッシャ5が当接される取付物130表面に小溝等が存在する場合などであっても、下孔111を確実に止水でき、水の流入を防止できる。
【0035】
本発明に係る拡張アンカーは、例えば、第1実施形態の拡張アンカー1において、拡張スリーブ3と止水スリーブ4との間、止水スリーブ4とワッシャ5との間、ワッシャ5とナット6との間、のいずれか1以上の箇所に、ワッシャ、スリーブ状あるいはリング状に形成されたスペーサ、などといった部品を、ねじ軸部21に外挿して介挿した構成も含む。つまり、ねじ軸部に外挿した止水スリーブが前記拡張部よりもねじ軸部の後端部側に配置され、ねじ軸部に外挿したワッシャが止水スリーブよりもねじ軸部の後端部側に配置され、さらに、ナットが、ワッシャよりもねじ軸部の後端部側にてねじ軸部に螺着されている、位置関係が保たれていれば良く、拡張スリーブと止水スリーブとの間、止水スリーブとワッシャとの間、ワッシャとナットとの間、のいずれか1以上の箇所に、何等かの部品が介挿されている構成を排除しない。
【0036】
(第2実施形態)
次に、本発明の第2実施形態を図4〜図6を参照して説明する。
図4、図5は、第2実施形態の拡張アンカー12の構造を示す図であって、図4は部分断面正面図、図5は分解斜視図である。
図4、図5に示すように、この拡張アンカー12は、第1実施形態の拡張アンカー1に、符号7のスペーサ部材を追加したものである。スペーサ部材7は、金属製スリーブである。このスペーサ部材7の内外径は、拡張スリーブ3及び止水スリーブ4に揃えられている。
なお、テーパボルト2は、スペーサ部材7の追加に対応できるように、図1〜図3に例示したものに比べて、ねじ軸部21を長くしてある。
【0037】
この拡張アンカー12を用いて、母材110に取付物130を固定する作業は、第1実施形態にて説明した手順と同様であり、図4のように組み立てられた拡張アンカー12を、図6(a)に示すように、先端側(テーパボルト2のテーパ部22側)から、取付物130の貫通孔131に通して貫通させ、母材110に穿設しておいた下孔111に挿入(下孔へのセット)した後、テーパボルト2のねじ軸部21の取付物130から突出(取付物130を介して母材110とは反対の側に突出)した部分に螺着されているナット6を締め付け操作していけば良い。
なお、下孔111にセットする拡張アンカー12は、ナット6を軽く締め付けて、テーパボルト2のねじ軸部21に外挿されて隣り合う部材同士が軽く接して隙間が生じないようにしておく。但し、テーパ部22によって拡張部32が拡張されないようにする。
【0038】
下孔111への拡張アンカー12のセット時に、テーパボルト2の先端部(テーパ部22)を下孔111の底部112に突き当てることも、前述の第1実施形態と同様である。アンカー挿入孔内に挿入された止水スリーブ4が、母材110と取付物130との界面を横切るように配置されることも、前述の第1実施形態と同様である。つまり、下孔111への拡張アンカー12のセットによって、止水スリーブ4に、下孔111内に挿入された部分と、取付物130の貫通孔131に挿入された部分とが確保されるようにする。但し、止水スリーブ4は、アンカー挿入孔における母材110と取付物130との界面付近にのみ配置され、アンカー挿入孔に収納されずに取付物130から突出する部分は確保されない。
スペーサ部材7には、取付物130の貫通孔131に挿入された部分と、アンカー挿入孔に挿入されずに取付物130から突出する突出長Lsとが確保される。このスペーサ部材7の突出長Lsは、ナット6の締め付けによる止水スリーブ4の膨出変形を実現するためのものである。図6(c)、(d)のように、ナット6の締め付け操作によってワッシャ5が取付物130に押し当てられたとき、スペーサ部材7の突出長Lsに相当する長さだけ、止水スリーブ4の軸方向寸法が圧縮され、止水スリーブ4が膨出変形される。この止水スリーブ4の膨出変形によって、下孔111が水密封止される。
【0039】
なお、スペーサ部材7は、ナット6の締め付け時に前記テーパボルト2の軸方向に沿った方向に作用する圧縮力を負担して、前記ナット6及びワッシャ5と、前記止水スリーブ4との間の距離を保つ機能を果たす。このため、母材110への取付物130の固定を完了しても、前記ナット6及びワッシャ5と、前記止水スリーブ4との間の距離は、ナット6の締め付け操作前と変わらない。
【0040】
この実施形態の拡張アンカー12の場合は、止水スリーブ4とワッシャ5との間に介挿されているスペーサ部材7の軸方向寸法(ワッシャ5から拡張スリーブ3側への延出長)によって、止水スリーブ4の位置が、ワッシャ5から離隔されている。したがって、例えば、取付物130の厚さ寸法tが大きい場合でも、止水スリーブ4を、取付物130と母材110との界面(接合面)付近に配置できる、などといった利点がある。下孔111及び取付物130の貫通孔131における止水スリーブ4の設置位置の調整は、下孔111の穿孔深さの調整等によって行える。また、拡張スリーブ3の軸方向寸法の選択によっても、止水スリーブ4の設置位置を調整できることは言うまでも無い。
【0041】
母材110に穿孔されて母材110と取付物130との界面に開口する下孔111の開口部に挿入して配置した止水スリーブ4を、ナット6の締め付け操作によって膨出変形させれば(図6(c)、(d)参照)、下孔111の開口部を水密封止できる。これにより、例えば、取付物130と母材110との間の隙間に入り込んだ水が、下孔111の前記開口部から下孔111内に流入するといった不都合を防止できる。
また、取付物130が、例えば、多孔質材料で形成されたパネルやブロックといった透水性のものである場合も、止水スリーブ4によって、下孔111への水の流入を確実に防止できる。
【0042】
下孔111への拡張アンカー12のセットを完了した後、ナット6を締め付け操作していけば、テーパボルト2の引き上げによって、拡張スリーブ3の拡張部32が下孔111内壁面に圧接するまで拡張され、拡張スリーブ3が下孔111内に固定(仮固定)される(図6(b)参照)。
拡張スリーブ3の仮固定の完了後、ナット6の締め付け操作の継続により、ナット6のねじ軸部21における螺着位置がテーパボルト2先端側へ移動していくに伴い、ナット6からワッシャ5及びスペーサ部材7を介して作用する拡張部32方向への押圧力によって、止水スリーブ4が圧縮変形されていき、外径が拡大するように膨出変形される(図6(c)参照)。このとき、ナット6の移動に伴い、ワッシャ5及びスペーサ部材7がねじ軸部21に沿ってスライド移動し、スペーサ部材7がねじ軸部21の後端部23側から止水スリーブ4を押圧することで、止水スリーブ4に圧縮力を与えて止水スリーブ4を変形させる。下孔111及び取付物130の貫通孔131への止水スリーブ4の挿入位置を、母材110と取付物130との界面に開口する下孔111の開口部に対応させておけば、止水スリーブ4の膨出拡張によって、下孔111を水密封止でき、下孔111の止水性を確保できる。
【0043】
ナット6の締め付けによって、ワッシャ5が取付物130に当接した後も、ナット6の締め付け操作を継続すれば、テーパボルト2の引き上げと拡張部32の拡張とが再開され、拡張された拡張部32を下孔111の孔壁に食い込ませて、母材110に対する強固な固着が達成される(図6(d)参照)。ナット6の締め付けトルクが所定値に達することで、母材110に対する取付物130の固定が完了する。
【0044】
(第3実施形態)
次に、本発明の第3実施形態を図7〜図9を参照して説明する。
図7、図8は、第3実施形態の拡張アンカー13の構造を示す図であって、図7は部分断面正面図、図8は分解斜視図である。
図7、図8に示すように、この拡張アンカー12は、第1実施形態の拡張アンカー1に、符号8のレベルワッシャを追加し、ワッシャ5に代えて、止水スリーブ4が内挿される大きさの孔91が中央部に形成されているワッシャ9を採用したものである。
【0045】
ここで例示したレベルワッシャ8は、金属製ドームワッシャである。このレベルワッシャ8は、ねじ軸部21に外挿して、止水スリーブ4とナット6との間に介挿されている。
また、このレベルワッシャ8(ドームワッシャ)は、ねじ軸部21が通される孔81が形成されている頂部付近がナット6に当接され、外周部が、ワッシャ9に当接される向きで、止水スリーブ4とナット6との間に介挿されている。
このレベルワッシャ8には、ねじ軸部21に外挿されている止水スリーブ4の端部(止水スリーブ4の軸方向両端の内、ねじ軸部21の後端部23側に位置する端部)が、ねじ軸部21の先端側から押し当てられる。
レベルワッシャ8の中央部の孔81の内径は、止水スリーブ4の内径とほぼ同じに揃えられており、止水スリーブ4の端部が孔81内に入り込まないようになっている。
【0046】
ワッシャ9は、ねじ軸部21及び該ねじ軸部21に外挿されている止水スリーブ4が孔91を貫通するようにして、止水スリーブ4に外挿されている。
このワッシャ9の孔91の内径は、止水スリーブ4の外径よりも大きい。このため、ワッシャ9は、止水スリーブ4が膨出変形されていない状態であれば、止水スリーブ4の軸方向に沿ってスライド移動できる。
【0047】
この拡張アンカー13を用いて、母材110に取付物130を固定するには、まず、図7のように組み立てた拡張アンカー13を、図9(a)に示すように、先端側(テーパボルト2のテーパ部22側)から、取付物130の貫通孔131に通して貫通させ、母材110に穿設しておいた下孔111に挿入(下孔へのセット)し、ナット6によってレベルワッシャ8とワッシャ9とを取付物130に押さえ込むようにする。取付物130には、ワッシャ9が当接される。
下孔111は、拡張アンカー13の先端部(テーパボルト2のテーパ部22)と、下孔111の底部112との間にクリアランスが確保されて、拡張アンカー13の先端部が底部112に当接しないように、穿孔深さを調整しておく。
下孔111への拡張アンカー13のセットが完了したら、テーパボルト2のねじ軸部21の取付物130から突出(取付物130を介して母材110とは反対の側に突出)した部分に螺着されているナット6を、締め付けトルクが所定値となるまで締め付け操作していけば良い。
【0048】
なお、下孔111にセットする拡張アンカー13は、ナット6を軽く締め付けて、テーパボルト2のねじ軸部21に外挿されて隣り合う部材同士(ワッシャ9を除く)が軽く接して隙間が生じないようにしておく。但し、テーパ部22によって拡張部32が拡張されないようにする。
【0049】
この実施形態の拡張アンカー13の場合は、図9(c)に示すように、ナット6の締め付け操作によって、レベルワッシャ8を板状に押し潰すことで、止水スリーブ4に軸方向の圧縮力を与えて膨出変形させ、下孔111を水密封止するようになっている。
この実施形態では、下孔111への拡張アンカー13のセットによって、止水スリーブ4に、下孔111内に挿入された部分と、取付物130の貫通孔131に挿入された部分と、アンカー挿入孔に収納されずに取付物130から突出する部分(突出部4a)とが確保されるようにする。ナット6の締め付け操作でレベルワッシャ8を押し潰すと、止水スリーブ4の突出部4aがレベルワッシャ8に押圧されて、止水スリーブ4が圧縮変形される。止水スリーブ4は、レベルワッシャ8の押し潰による寸法変動量LC(テーパボルト2の軸方向に沿った方向の寸法縮小量。図9(a)参照)だけ、軸方向寸法が縮小され、膨出変形される。前述の寸法変動量LCは、止水スリーブ4の膨出変形によって、下孔111を確実に水密封止できるように確保する。
この実施形態では、拡張アンカー13を下孔111にセットする際に、レベルワッシャ8によって、止水スリーブ4の膨出変形のためのナット6の移動距離を確保できるため、下孔111の穿孔深さを設定する、といった手間が不要であるといった利点がある。
【0050】
下孔111への拡張アンカー13のセットを完了した後、ナット6を締め付け操作していけば、テーパボルト2の引き上げによって、拡張スリーブ3の拡張部32が下孔111内壁面に圧接するまで拡張され、拡張スリーブ3が下孔111内に固定(仮固定)される(図9(b)参照)。
【0051】
拡張スリーブ3が下孔111内に固定(仮固定)された状態では、ナット6が締め付け操作されても、拡張部32の拡張及びテーパボルト2の引き上げが進行しない。
拡張スリーブ3の仮固定の完了後、ナット6の締め付け操作の継続により、ナット6のねじ軸部21における螺着位置がテーパボルト2先端側へ移動していく(仮固定されている拡張部32に接近していく)。このナット6の移動に伴い、レベルワッシャ8が押し潰されていき、次第に板状になっていく。レベルワッシャ8は、図9(c)に示すように、板状に変形されるまで押し潰され、ワッシャ9と重なる。
【0052】
レベルワッシャ8が押し潰されていくと、これに伴い、レベルワッシャ8によって止水スリーブ4がテーパボルト2の後端部23側から押圧されて圧縮されていき、図9(c)に示すように膨出変形される。止水スリーブ4の下孔111内での膨出変形によって、下孔111を確実に水密封止できる。
【0053】
なお、レベルワッシャ8の押し潰しと同時に止水スリーブ4を圧縮して膨出変形させるために要するナット6の締め付けトルクは、拡張スリーブ3の拡張部32の仮固定に要するナット6の締め付けトルクよりも大きく、かつ、仮固定状態の拡張部32のさらなる拡張による母材110への固着に要するナット6の締め付けトルクよりも小さい。このため、レベルワッシャ8の押し潰しが完了するまで、仮固定状態の拡張部32のさらなる拡張による母材110への固着は開始されない。
【0054】
ナット6の締め付けによって、レベルワッシャ8が板状に押し潰された後、ナット6の締め付け操作の継続によって、テーパボルト2の引き上げと拡張部32の拡張とが再開され、拡張された拡張部32が下孔111の孔壁に食い込み、母材110に対する強固な固着が達成される(図9(d)参照)。ナット6の締め付けトルクが所定値に達することで、母材110に対する取付物130の固定が完了する。
【0055】
(第4実施形態)
次に、本発明の第4実施形態を図10〜図12を参照して説明する。
図10、図11は、第4実施形態の拡張アンカー14の構造を示す図であって、図10は部分断面正面図、図11は分解斜視図である。
図10、図11に示すように、この拡張アンカー14は、第3実施形態の拡張アンカー1に、符号7のスペーサ部材を追加したものである。
なお、テーパボルト2は、スペーサ部材7の追加に対応できるように、図7〜図9に例示したものに比べて、ねじ軸部21を長くしてある。スペーサ部材7は、第2実施形態にて説明したように、金属製スリーブである。
【0056】
スペーサ部材7とレベルワッシャ8とは、ねじ軸部21に外挿して、止水スリーブ4とナット6との間に介挿され、スペーサ部材7がレベルワッシャ8よりもテーパボルト2先端側となるようにして配置されている。
レベルワッシャ8には、スリーブ状のスペーサ部材7の端部(スペーサ部材7の軸方向両端の内、ねじ軸部21の後端部23側に位置する端部)が、ねじ軸部21の先端側から突き当てられる。
レベルワッシャ8の中央部の孔81の内径は、スペーサ部材7の内径とほぼ同じに揃えられており、スペーサ部材7の端部が孔81内に入り込まないようになっている。
【0057】
ワッシャ9は、ねじ軸部21及び該ねじ軸部21に外挿されているスペーサ部材7が孔91を貫通するようにして、スペーサ部材7に外挿されている。
このワッシャ9の孔91の内径は、スペーサ部材7の外径よりも大きく、ワッシャ9は、スペーサ部材7の軸方向に沿ってスライド移動できるように、スペーサ部材7の外側に遊挿されている。
【0058】
この拡張アンカー14を用いて、母材110に取付物130を固定するには、まず、図10のように組み立てた拡張アンカー13を、図13(a)に示すように、先端側(テーパボルト2のテーパ部22側)から、取付物130の貫通孔131に通して貫通させ、母材110に穿設しておいた下孔111に挿入(下孔へのセット)し、ナット6によってレベルワッシャ8とワッシャ9とを取付物130に押さえ込むようにする。取付物130には、ワッシャ9が当接される。
下孔111は、拡張アンカー14の先端部(テーパボルト2のテーパ部22)と、下孔111の底部112との間にクリアランスが確保されて、拡張アンカー14の先端部が底部112に当接しないように、穿孔深さを調整しておく。
下孔111への拡張アンカー14のセットが完了したら、テーパボルト2のねじ軸部21の取付物130から突出(取付物130を介して母材110とは反対の側に突出)した部分に螺着されているナット6を、締め付けトルクが所定値となるまで締め付け操作していけば良い。
【0059】
スペーサ部材7は、ナット6の締め付け時に前記テーパボルト2の軸方向に沿った方向に作用する圧縮力を負担して、ナット6と止水スリーブ4との間の距離を保つ機能を果たす。このため、母材110への取付物130の固定完了時と、ナット6の締め付け操作前とで、ナット6と止水スリーブ4との間の距離は変わらない。
【0060】
なお、下孔111にセットする拡張アンカー14は、ナット6を軽く締め付けて、テーパボルト2のねじ軸部21に外挿されて隣り合う部材同士(ワッシャ9を除く)が軽く接して隙間が生じないようにしておく。但し、テーパ部22によって拡張部32が拡張されないようにする。
【0061】
この実施形態の拡張アンカー14の場合、拡張アンカー13を下孔111にセットする際に、レベルワッシャ8の押し潰しによる寸法変動量LCによって、止水スリーブ4の膨出変形のためのナット6の移動距離を確保できることは、第3実施形態と同様である。但し、下孔111への拡張アンカー12のセットによって、止水スリーブ4には、下孔111内に挿入された部分と、取付物130の貫通孔131に挿入された部分とが確保される。但し、止水スリーブ4は、アンカー挿入孔における母材110と取付物130との界面付近にのみ配置され、アンカー挿入孔に収納されずに取付物130から突出する部分は確保されない。
スペーサ部材7には、取付物130の貫通孔131に挿入された部分と、アンカー挿入孔に挿入されずに取付物130から突出する突出部7aとが確保される。
【0062】
レベルワッシャ8が押し潰されると、レベルワッシャ8の寸法変動量LCだけ、スペーサ部材7が拡張スリーブ3側に押し動かされ、止水スリーブ4が、軸方向寸法の縮小によって膨出変形して下孔111を水密封止する。
この実施形態でも、第3実施形態と同様に、下孔111にセットする際に、止水スリーブ4の膨出変形のためのナット6の移動距離を確保するために、下孔111の穿孔深さを設定する、といった手間が不要であるといった利点がある。
【0063】
この拡張アンカー14では、ワッシャ9をレベルワッシャ8に当接させると、スペーサ部材7が、ワッシャ9から拡張スリーブ3側へ突出した状態となる。止水スリーブ4は、スペーサ部材7のワッシャ9からの延出長(図10中、符号LS)だけ、ワッシャ5から離隔された位置に配置されている。したがって、例えば、取付物130の厚さ寸法tが大きい場合でも、止水スリーブ4を、取付物130と母材110との界面(接合面)付近に配置できる、などといった利点がある。
スペーサ部材7の前記延出長LSの調整によって、下孔111及び取付物130の貫通孔131における止水スリーブ4の設置位置を調整できる。
【0064】
下孔111への拡張アンカー14のセットを完了した後、ナット6を締め付け操作していけば、テーパボルト2の引き上げによって、拡張スリーブ3の拡張部32が下孔111内壁面に圧接するまで拡張され、拡張スリーブ3が下孔111内に固定(仮固定)される(図9(b)参照)。
【0065】
拡張スリーブ3が下孔111内に固定(仮固定)された状態では、ナット6が締め付け操作されても、拡張部32の拡張及びテーパボルト2の引き上げが進行しない。
拡張スリーブ3の仮固定の完了後、ナット6の締め付け操作の継続により、ナット6のねじ軸部21における螺着位置がテーパボルト2先端側へ移動していく(仮固定されている拡張部32に接近していく)。このナット6の移動に伴い、レベルワッシャ8が押し潰されていき、次第に板状になっていく。レベルワッシャ8は、図9(c)に示すように、板状に変形されるまで押し潰され、ワッシャ9と重なる。
【0066】
レベルワッシャ8が押し潰されていくと、これに伴い、レベルワッシャ8によって、スペーサ部材7がテーパボルト2の先端側に向かって押し動かされていく。ナット6の移動に伴い、ワッシャ5及びスペーサ部材7がねじ軸部21に沿ってスライド移動し、スペーサ部材7がねじ軸部21の後端部23側から止水スリーブ4を押圧することで、止水スリーブ4に圧縮力を与え、図9(c)に示すように止水スリーブ4を膨出変形させる。そして、止水スリーブ4の下孔111内での膨出変形によって、下孔111が確実に水密封止される。
【0067】
なお、レベルワッシャ8の押し潰しと同時に止水スリーブ4を圧縮して膨出変形させるために要するナット6の締め付けトルクは、拡張スリーブ3の拡張部32の仮固定に要するナット6の締め付けトルクよりも大きく、かつ、仮固定状態の拡張部32のさらなる拡張による母材110への固着に要するナット6の締め付けトルクよりも小さいことは、第3実施形態と同様である。このため、レベルワッシャ8の押し潰しが完了するまで、仮固定状態の拡張部32のさらなる拡張による母材110への固着は開始されない。
【0068】
ナット6の締め付けによって、レベルワッシャ8が板状に押し潰された後、ナット6の締め付け操作の継続によって、テーパボルト2の引き上げと拡張部32の拡張とが再開され、拡張された拡張部32が下孔111の孔壁に食い込み、母材110に対する強固な固着が達成される(図9(d)参照)。ナット6の締め付けトルクが所定値に達することで、母材110に対する取付物130の固定が完了する。
【0069】
(第5実施形態)
次に、本発明の第5実施形態を図13(a)、(b)を参照して説明する。
図13中、符号15は、この実施形態の拡張アンカーを示す。
拡張アンカー15は、ウェッジ式の金属拡張アンカーである。
この拡張アンカー15は、ねじ軸部521及び該ねじ軸部521の先端部(図13下側)に設けられたコーン状のテーパ部522を有するテーパボルト520と、このテーパボルト520の前記テーパ部522の押し込みによって拡張される拡張部531を有するスリーブ状部品である拡張スリーブ530と、遮水性を有する合成樹脂(例えば塩化ビニル等)で形成された圧縮変形可能な止水スリーブ540と、ワッシャ550と、ばね座金560と、ナット570とを具備している。
テーパボルト520、拡張スリーブ530、止水スリーブ540、ワッシャ550、ばね座金560、ナット570の内、止水スリーブ540以外は、金属拡張アンカーに用いられる周知の金属材料(例えば、鉄、ステンレス)で形成されている。
【0070】
テーパボルト520のねじ軸部521の先端部には、前記テーパ部522の他に、ねじ軸部521の側部に突出するように形成されたストッパ部523も形成されている。このストッパ部523は、具体的には、ねじ軸部521において、ストッパ部523から後端側への延出部分であるねじ軸本体部525よりも径を太くした形状に形成されている。テーパボルト520は、後端側(先端側のテーパ部522とは反対の側)に、ねじ軸本体部525を有する。
テーパ部522は、ストッパ部523から、テーパボルト520の先端側(ねじ軸部521のねじ軸本体部525とは反対の側)に突出された首部526の先端に形成されている。前記首部526は、前記ストッパ部523よりも細い軸状に形成されている。テーパ部522は、首部526の先端を太く形成した部分であり、ねじ軸部521に近い側ほど径が小さく、ねじ軸部521から遠い部分ほど径が大きいテーパ形状に形成されている。
【0071】
ストッパ部523は、後述のように、テーパボルト520のねじ軸本体部525に外挿された止水スリーブ540が当接されることで、止水スリーブ540のテーパボルト520先端側へのそれ以上の移動を規制する抜け止め用突起としての機能を果たす。
ストッパ部523は、止水スリーブ540の抜け止め用突起としての機能を果たすものであれば良く、この点、ストッパ部523は、例えば、ねじ軸部521の側部の複数箇所に突設された突片、ねじ軸部521に螺着してねじ軸部521の先端側に配置したスリーブ状部材などであっても良い。
【0072】
止水スリーブ540と、ワッシャ550と、ばね座金560とは、ねじ軸部521における前記ストッパ部523よりも後端部524側の部分(ねじ軸本体部525)に外挿して、前記ストッパ部523に近い側から、止水スリーブ540、ワッシャ550、ばね座金560の順となるように配列させて設けられている。つまり、止水スリーブ540よりもテーパボルト521の後端部側(ねじ軸部の後端部524と同じ)にワッシャ550が配置され、このワッシャ550よりも後端部側にばね座金560が配置されている。
ばね座金560よりもねじ軸部521の後端部523側には、ナット570が螺着されている。
【0073】
拡張スリーブ530は、帯状あるいはC形の金属板を、テーパボルト520の首部526に巻き付けるようにして装着して、スリーブ状に形成したものである。
拡張スリーブ530の拡張部531は、拡張スリーブ530の先端側、すなわち、テーパ部522の側に形成されている。この拡張部531には、テーパ部522の押し込みによる拡張を容易にするための割り溝532が複数形成されている。
また、拡張部531の側部には、拡張部531の拡張によって下孔111の内壁面に食い込ませる係止爪533が突設されている。この係止爪533は、ナット570の締め付け操作で、拡張部531の拡張によって拡張スリーブ530を下孔111内に仮固定(後述)する際にも、母材110に対する拡張スリーブ530の固定力の確保に有効に寄与するものである。
【0074】
止水スリーブ540と、ストッパ部523と、拡張スリーブ530とは、外径が揃えられている。また、テーパ部522の外径が最大の部分も、外径が、止水スリーブ540、ストッパ部523、拡張スリーブ530と揃えられている。但し、テーパ部522の最大外径は、止水スリーブ540、ストッパ部523、拡張スリーブ530より小さくても良い。
拡張スリーブ530は、首部526の外側にて、ストッパ部523とテーパ部522との間に配置して設けられている。
【0075】
この拡張アンカー15を用いて、母材110に取付物130を固定する作業は、まず、図13のように組み立てられた拡張アンカー15を、先端側(テーパボルト520のテーパ部522側)から、取付物130の貫通孔131に通して貫通させ、母材110に穿設しておいた下孔111に挿入(下孔へのセット)する。次いで、テーパボルト520のねじ軸部521の取付物130から突出(取付物130を介して母材110とは反対の側に突出)した部分に螺着されているナット570を締め付け操作していけば良い。
ナット570を締め付けていくと、最終的に、図13(b)に示すように、ばね座金560を介して伝達されるナット570の押圧力によってワッシャ550が取付物130に押し当てられ、このワッシャ550によって押圧された取付物130が母材110に押さえ込むようにして固定されるとともに、膨出変形された止水スリーブ540によって下孔111が水密封止される。
【0076】
下孔111への拡張アンカー15のセット時に、テーパボルト520の先端部(テーパ部522)を下孔111の底部112に突き当てること、止水スリーブ540に、アンカー挿入孔内に収納されずに取付物130から突出される突出長Lを確保しておくことは、前述の第1、2実施形態と同様である。前記突出長Lは、ナット570の締め付けによる止水スリーブ540の膨出変形のためのものである。図13(b)に示すようにワッシャ550が取付物130に押し当てられたときに、止水スリーブ540の軸方向寸法が、突出長Lの分だけ縮小される。突出長Lには、ナット570の締め付けによる止水スリーブ540の膨出変形で下孔111を確実に水密封止できる大きさ(長さ)を確保する。
なお、下孔111にセットする拡張アンカー15は、ナット570を軽く締め付けて、テーパボルト520のねじ軸部521に外挿されて隣り合う部材同士が軽く接して隙間が生じないようにしておく。但し、テーパ部522によって拡張部532が拡張されないようにする。
【0077】
図示を略すが、拡張アンカー15の下孔111へのセットを完了した後、ナット570を締め付け操作していくと、テーパボルト520が引き上げられて、拡張スリーブ530の拡張部531が拡張され、拡張部531が下孔111内壁面に圧接されることにより、拡張スリーブ530が母材110に仮固定される。次いで、ナット570の締め付け操作の継続により、ナット570が拡張部531側への移動を開始し、ばね座金560及びワッシャ550がナット570に押圧されつつナット570とともに移動する。ナット570の移動は、仮固定状態の拡張スリーブ530の拡張部531とテーパボルト520のテーパ部522との当接により、テーパボルト520の引き上げが一旦停止され、かつ、テーパボルト520のナット570との伴回りが規制されることで実現される。ナット570の移動は、ワッシャ550が取付物570に当接され、ばね座金560が板状に変形されるまで継続される。ここで、ナット570に押圧されながら移動するワッシャ550が拡張部531に接近するに伴い、止水スリーブ540が、ワッシャ550に押圧されることで与えられる圧縮力で変形して行き、ワッシャ550とストッパ部523との間で膨出変形され、下孔111を水密封止(詳細には、拡径部115の水密封止)する。さらに、ナット570の締め付け操作の継続で、テーパボルト520の引き上げ及び拡張部531の拡張が再開され、拡張部531を下孔111の孔壁に食い込ませることができる(図13(b)の状態)。これにより、拡張アンカー17が母材110に強固に固着される。
ナット570を、締め付けトルクが所定値に達するまで締め付けることで、母材110に対する拡張アンカー17の固着が完了する。
【0078】
(第6実施形態)
次に、本発明の第6実施形態を図14(a)〜(c)を参照して説明する。
図14中、符号16は、この実施形態の拡張アンカーを示す。
この拡張アンカー16は、芯棒打ち込み式の金属拡張アンカーである。
【0079】
前記拡張アンカー16は、ねじ軸部611及び該ねじ軸部610の先端側に形成された拡張部612を有するアンカー本体610と、このアンカー本体610の前記ねじ軸部611に外挿された止水スリーブ620と、前記ねじ軸部611に外挿して前記止水スリーブ620よりもねじ軸部611の後端部613側(拡張部612が形成されている先端側とは反対の側)に配置されたワッシャ630と、前記ねじ軸部611に螺着して前記ワッシャ630よりもねじ軸部611の後端部613側に配置されたナット640と、前記アンカー本体610の内部に穿設された芯棒挿入孔614に挿入された芯棒650とを具備して構成されている。
アンカー本体610、止水スリーブ620、ワッシャ630、ナット640、芯棒650の内、止水スリーブ620以外は、金属拡張アンカーに用いられる周知の金属材料(例えば、鉄、ステンレス)で形成されている。
止水スリーブ620は、遮水性を有する合成樹脂(例えば塩化ビニル等)で形成されており、軸方向の圧縮力によって膨出変形させることができる。
【0080】
芯棒挿入孔614は、前記ねじ軸部611を貫通して前記拡張部612に到達するように形成されている。ねじ軸部611は、スリーブ状になっている。
この芯棒挿入孔614は、ねじ軸部611の後端部613に開口している。
【0081】
本発明は、芯棒挿入孔614に芯棒650が挿入されている拡張アンカー650に限定されず、芯棒挿入孔614に芯棒650が挿入されていない状態のものも含む。すなわち、本実施形態に係る拡張アンカー650から芯棒650を省略したものであっても良い。
【0082】
アンカー本体610の拡張部612は、具体的には、ねじ軸部610の先端側に設けられた本体胴部615に形成されている。アンカー本体610は、拡張部612が形成されている本体胴部615と、ねじ軸部610とを具備した構成になっている。拡張部612は、本体胴部615の先端部、すなわち、ねじ軸部611とは反対の側の端部に形成されている。この拡張部612には、割り溝616が形成されている。
拡張部612は、芯棒挿入孔614に挿入されている芯棒650の打ち込みによって拡張されるようになっている。
なお、芯棒挿入孔614の拡張部612の内部に到達されている先端部614aは、先細りのテーパ穴になっている。一方、芯棒650は、拡張部612に打ち込まれる先端部651が、先細りのテーパ形状になっている。
【0083】
本体胴部615の外径は、ねじ軸部611の外径よりも大きい。本体胴部615の内、拡張部612よりもねじ軸部611側の部分である後端部617は、ねじ軸部611よりも外径が大きいスリーブ状になっている。本体胴部615の後端部617とねじ軸部611との間には、本体胴部615の後端部617とねじ軸部611との外径差による段差618が存在する。
止水スリーブ620は、ねじ軸部611に外挿して、本体胴部615の後端部617の前記段差618とワッシャ630との間に配置されている。止水スリーブ620は、本体胴部615の後端部617の外径と止水スリーブ620の内径との差(本体胴部615の後端部617の外径は、ねじ軸部611に外挿されている止水スリーブ620の内径よりも大きい)によって、段差618から、拡張アンカー16の先端側(拡張部612が形成されている側)に移動することはできない。本体胴部615の後端部617は、止水スリーブ620が拡張アンカー16の先端から抜け出ることを規制する抜け止め用のストッパ部として機能する。
【0084】
拡張アンカー16を用いて母材110に取付物130を固定する作業の一例を説明する。ここで説明する固定作業は、以下の(1)〜(4)の工程からなる。
(1)母材110に下孔111を穿孔する。
(2)次に、拡張アンカー16を、先端側(拡張部612側)から、取付物130の貫通孔131に通して貫通させ、母材110に穿設しておいた下孔111に挿入(下孔へのセット)する(図14(a)参照)。
(3)次いで、芯棒挿入孔614に挿入しておいた芯棒650を拡張部612に打ち込んで拡張部612を拡張させて下孔111の孔壁に食い込ませ、母材110に固着する(図14(b)参照)。
(4)次に、ねじ軸部611に螺着されているナット640の締め付け操作によって、取付物130にワッシャ630を押し当て、取付物130を母材110に押さえ込むようにして固定する。これと同時に、止水スリーブ620が膨出変形され、下孔111を水密封止(詳細には、下孔111の母材表面114に開口する開口部付近の水密封止)する(図14(c)参照)。
【0085】
下孔111への拡張アンカー16のセットでは、下孔111に挿入した拡張アンカー16の先端部(拡張部612)を、下孔111の底部112に突き当てる。
下孔111は、下孔111に挿入した拡張アンカー16の先端部(拡張部612)を下孔111の底部112に突き当てることができるように、穿孔深さL1を調整する。しかも、下孔111の穿孔深さL1は、拡張アンカー16の先端部(拡張部612)の下孔111の底部112への突き当てによって、止水スリーブ620に、取付物130の貫通孔131と下孔111とからなるアンカー挿入孔内に収納される部分(図中、符号L3で示した「収納長」の部分)と、アンカー挿入孔に収納されずに取付物130から突出される部分(図中符号L4で示した「突出長」の部分)とが生じるように調整する。
【0086】
止水スリーブ620は、図14(c)に示すように、ねじ軸部611に螺着されているナット6の締め付け操作によって、ワッシャ630が取付物130に押し当てられることで、突出長L4の分だけ軸方向寸法が縮小するように変形される。突出長L4は、止水スリーブ620を膨出変形されて下孔111を水密封止するためのものである。
下孔111の穿孔深さL1は、止水スリーブ620の膨出変形によって下孔111を水密封止するための突出長L4が確保されるように設定する。
【0087】
図示例では、下孔111への拡張アンカー16のセット時に、止水スリーブ620は、前記突出長L4を確保するとともに、止水スリーブ620のアンカー本体610先端側(拡張部612側)の軸方向端部を下孔111に挿入して、母材110と取付物130との間の界面(境界)を横切るように配置している。図14(c)に示すように、ナット6の締め付け操作で膨出変形された止水スリーブ620によって、下孔111における母材110と取付物130との間の界面に開口する開口部付近と、取付物130の貫通孔131とが、膨出変形された止水スリーブ620によって水密封止される。これにより、下孔111への水の流入を確実に防止できる。
【0088】
この拡張アンカー16によれば、芯棒650の打ち込みによって該拡張アンカー16を母材110に固着させた後、ナット640の締め付け操作を行うだけで、下孔111の止水を簡単に実現できる。
【0089】
(第7実施形態)
次に、本発明の第7実施形態を図15(a)、(b)を参照して説明する。
図15中、符号17は、この実施形態の拡張アンカーを示す。
拡張アンカー17は、ウェッジ式の金属拡張アンカーである。この拡張アンカー17は、第5実施形態の拡張アンカー15に変更を加えたものである。図15中、図13と同様の構成部分については、共通の符号を付して、説明を簡略化する。
【0090】
第5実施形態の拡張アンカー15は、テーパボルト520のねじ軸部521に外挿した止水スリーブ540が、ナット570の締め付け操作によって、ナット570に押圧されて拡張部531に接近するように移動されるワッシャ550と、テーパボルト520におけてねじ軸部521の側部に突出するように形成されたストッパ部523との間で圧縮力が与えられて、膨出変形される構造になっている。
これに対して、本実施形態の拡張アンカー17は、止水スリーブ540を、テーパボルト520のねじ軸部521に外挿していることは、第5実施形態の拡張アンカー15と共通しているものの、テーパボルト(区別のため符号720を付す)に、止水スリーブ540よりも拡張部531側に配置されて止水スリーブ540を抜け止めするストッパ部が設けられていない点で異なる。
【0091】
本実施形態の拡張アンカー17は、テーパボルト720と、拡張スリーブ530と、止水スリーブ540と、ワッシャ550と、ばね座金560と、ナット570とを具備して構成されている。
なお、ここでは、拡張アンカー17の内、止水スリーブ540を除く部分を、アンカー本体710と称することとする。
【0092】
前述したように、テーパボルト720は、止水スリーブ540の抜け止め用のストッパ部を有していない。テーパボルト720は、ねじ軸部521と、ねじ軸部521の先端側に突設された首部526と、その先端のテーパ部522とを有して構成されている。なお、首部526は、ねじ軸部521よりも細く形成されている。
拡張スリーブ530は、前記首部526を内側に収納するようにして、首部526の外側に装着されている。拡張スリーブ530の構造は、第5実施形態にて説明したものと同様である。また、拡張スリーブ530の外径(但し、係止爪533を除く部分)は、ねじ軸部521の外径と揃えられている。拡張スリーブ530は、ねじ軸部521の先端部721とテーパ部522との間に配置されている。
なお、図示例のテーパボルト720において、前述したねじ軸部521の先端部721は、ねじ軸部521の内、ねじ山が形成されていない部分である。ねじ軸部521は、ねじ山が形成されているねじ軸本体部525と、このねじ軸本体部525の先端側の先端部721とで構成されている。
【0093】
ナット570は、テーパボルト520のねじ軸部521に螺着されている。
止水スリーブ540と、ワッシャ550と、ばね座金560とは、テーパボルト520のねじ軸部521に外挿して、前記ナット570よりもテーパボルト520の先端側(アンカー本体710の先端側)に配置されている。なお、止水スリーブ540、ワッシャ550、ばね座金560、ナット570の相互位置関係は、第5実施形態にて説明した拡張アンカー15と同じである。
【0094】
この拡張アンカー17を用いて、母材110に取付物130を固定(取り付け)する作業(拡張アンカーの施工方法)の一例を、図15を参照して説明する。
図15に示す施工例は、母材110に拡張アンカー17を固定した後、ねじ軸部521の、ナット570から該拡張アンカー17の後端側(アンカー本体710の後端側。ねじ軸部521の後端部524の側)に突出している部分を利用して、拡張アンカー17に取付物130を固定するものである。これにより、拡張アンカー17を介して、母材110に取付物130が取り付けられる。
母材110への拡張アンカー17の固着は、母材110に穿孔した下孔111に拡張アンカー17をセット(図15(a)参照)した後、拡張アンカー17のねじ軸部521に螺着されているナット570を締め付け操作していくことで実現できる。
【0095】
図15に示す施工例では、まず、母材110に下孔111を穿孔する。但し、ここで形成する下孔111は、母材110表面(符号114)に開口する拡径部115を有するものである。拡径部115は、下孔111の、母材表面114付近のみに形成する。下孔111の前記拡径部115以外の部分は、拡張アンカー17のテーパボルト520の外径よりも僅かに大きい内径で穿孔する。
【0096】
次に、前記下孔111に、拡張アンカー17を先端部(具体的には、テーパボルト720のテーパ部522)側から挿入して、下孔111に拡張アンカー17をセットする(図15(a)参照)。拡張アンカー17の止水スリーブ540は、下孔111の拡径部115に挿入する。
このとき、拡張アンカー17の先端部を下孔111の底部112に突き当て、かつ、止水スリーブ540の拡張アンカー17先端側の軸方向端部を、下孔111の拡径部115の底部116(止水スリーブ受け部)に突き当てる。但し、拡径部115の穿孔深さ(下孔111の深さに沿った方向の寸法)の調整によって、止水スリーブ540に、下孔111内に収納されずに母材表面114から外に突出する突出長L5を確保する。この突出長L5は、図15(b)に示すように、ナット570の締め付け操作によって、止水スリーブ540に圧縮力を与えて、止水スリーブ540の膨出変形によって下孔111を水密封止(詳細には、拡径部115の水密封止)するためのものである。拡径部115の穿孔深さは、上述の突出長L6を確保できるように調整する。
【0097】
なお、本実施形態においては、拡張アンカー17の先端部の下孔111の底部112への突き当てと、止水スリーブ540の拡径部115の底部116への突き当てとを同時に行うことに限らず、下孔111へのアンカー本体710の挿入を完了してから、下孔111への挿入が完了していない止水スリーブ540(止水スリーブ540が拡径部115の底部116に当接されていない状態)を、ナット570の締め込み操作によって拡径部115の底部116に押し当てる、ことも可能である。
前者の、拡張アンカー17の先端部の下孔111の底部112への突き当てと、止水スリーブ540の拡径部115の底部116への突き当てとを同時に行う場合は、所望の長さの突出長L6の確保に鑑みて、下孔111の穿孔深さと拡径部115の穿孔深さとの関係が重要になり、拡径部115を有する下孔111の形成精度や、ねじ軸部521におけるナット570の螺着位置の設定を厳しくする必要が出てくるが、後者の場合は、下孔111の拡径部115の穿孔深さが正しく確保されていれば、止水スリーブ540に所望の長さの突出長L6を確保できるため、下孔111の穿孔深さや、ねじ軸部521におけるナット570の螺着位置の精度要求を緩和できる。
【0098】
下孔111への拡張アンカー17のセットが完了したら、ナット570の締め付け操作を開始する。
ナット570を締め付け操作していくと、テーパボルト720が引き上げられて、拡張スリーブ530の拡張部531が拡張され、拡張部531が下孔111内壁面に圧接されることにより、拡張スリーブ530が母材110に仮固定される。次いで、ナット570の締め付け操作の継続により、ナット570が拡張部531側への移動を開始し、ばね座金560及びワッシャ550がナット570に押圧されつつナット570とともに移動する。ナット570の移動は、仮固定状態の拡張スリーブ530の拡張部531とテーパボルト520のテーパ部522との当接により、テーパボルト520の引き上げが一旦停止され、かつ、テーパボルト520のナット570との伴回りが規制されることで実現される。このナット570の移動は、ワッシャ550が取付物570に当接され、ばね座金560が板状に変形されるまで継続される。ここで、ワッシャ550が拡張部531に接近するに伴い、止水スリーブ540が、ワッシャ550に押圧されることで与えられる圧縮力で変形して行き、ワッシャ550と、下孔111の拡径部115の底部116との間で膨出変形され、下孔111を水密封止(詳細には、拡径部115の水密封止)する。さらに、ナット570の締め付け操作の継続で、テーパボルト720の引き上げ及び拡張部531の拡張が再開され、拡張部531を下孔111の孔壁に食い込ませることができる(図15(b)の状態)。これにより、拡張アンカー17が母材110に強固に固着される。
ナット570を、締め付けトルクが所定値に達するまで締め付けることで、母材110に対する拡張アンカー17の固着が完了する。
【0099】
母材110に対する拡張アンカー17の固着が完了した後、ねじ軸部521の内、ナット570から拡張アンカー17の後端側に突出した部分(以下、ねじ軸突出部722)を利用して、取付物132を固定することができる。
図15に示した例では、ねじ軸突出部722に螺着した一対のナット723、724の間に取付物132を挟み込んで固定している。
但し、ねじ軸突出部722を利用して、母材110に対する固着を完了した拡張アンカー17に取付物132を固定するための構造(固定構造)としては、これに限定されず、様々なものを採用できる。例えば、ねじ軸部突出部722に螺着したナットの締め付けによって、取付物を母材110に押さえ込むようにして固定する固定部品を利用した固定構造などであっても良い。
【0100】
(第7実施形態の施工方法の別態様1)
次に、拡張アンカー17を用いて、母材110に取付物130を固定する作業(拡張アンカーの施工方法)の別態様を図16を参照して説明する。
拡張アンカー17を用いて、母材110に取付物130を固定する作業としては、アンカー本体710を取付物130の貫通孔131(図16参照)に通してから下孔111に挿入した後、ナット570の締め付け操作によって、ワッシャ550で取付物130を母材130に押さえ込むようにして固定することも可能である。
【0101】
拡張アンカー17を下孔111にセットする際には、前述したように、アンカー本体710を、取付物130の貫通孔131に貫通させてから、下孔111に挿入する。取付物130の貫通孔131は、下孔111の拡径部115と同じ、あるいは、拡径部115よりも若干大きい径で形成する。下孔111に挿入した拡張アンカー17のアンカー本体710の先端部を下孔111の底部116に突き当てること、及び、止水スリーブ540のアンカー本体710先端部側の軸方向端部を、下孔111の拡径部115の底部116に突き当てることは、前述した施工方法と同じである。
但し、拡径部115の穿孔深さ(下孔111の深さに沿った方向の寸法)の調整によって、止水スリーブ540に、取付物130から該取付物130を介して母材110とは反対の側に突出する突出長L6を確保する。この突出長L6は、図16(b)に示すように、ナット570の締め付け操作によって、止水スリーブ540に圧縮力を与えて、止水スリーブ540の膨出変形によって、下孔111(詳細には拡径部115)と取付物130の貫通孔131とを水密封止するためのものである。
【0102】
図16の場合、下孔111への拡張アンカー17のセットを完了した後、拡張アンカー17のナット570を締め付け操作するだけで、取付物130を母材110に固定できる。また、膨出変形された止水スリーブ540によって、下孔111(詳細には拡径部115)と取付物130の貫通孔131とを水密封止できる。
図16の場合も、母材110への取付物130の固定完了後に、ねじ軸突出部722を利用して、別途、母材110に取付物132を取り付けることが可能である。
【0103】
なお、本実施形態においては、下孔111の底部112への拡張アンカー17の先端部の突き当てと、拡径部115の底部116への止水スリーブ540の突き当てとを同時に行うことに限らず、下孔111へのアンカー本体710の挿入を完了してから、止水スリーブ540を、ナット570の締め込み操作によって拡径部115の底部116に押し当てる、ことも可能である。
前者の、下孔111の底部112への拡張アンカー18の先端部の突き当てと、拡径部115の底部116への止水スリーブ540の突き当てとを同時に行う場合は、所望の長さの突出長L6の確保に鑑みて、下孔111の穿孔深さと拡径部115の穿孔深さとの関係が重要になり、拡径部115を有する下孔111の形成精度や、ねじ軸部521におけるナット570の螺着位置の設定を厳しくする必要が出てくるが、後者の場合は、下孔111の拡径部115の穿孔深さが正しく確保されていれば、止水スリーブ540に所望の長さの突出長L5を確保できるため、下孔111の穿孔深さL1や、ねじ軸部611におけるナット570の螺着位置の精度要求を緩和できる。
【0104】
(第7実施形態の施工方法の別態様2)
図17(a)、(b)は、下孔111の拡径部115の底部116に突き当てた止水スリーブ540(止水スリーブ540のアンカー本体710先端側の軸方向端部)によって、アンカー本体710を支持し、かつ、止水スリーブ540に突出長(突出長L5又は突出長L6)を確保した例である。この場合は、下孔111に挿入したアンカー本体710の先端部を、下孔111の底部116に当接させる必要が無い。
【0105】
(第8実施形態)
次に、本発明の第8実施形態を図18(a)、(b)を参照して説明する。
図18中、符号18は、この実施形態の拡張アンカーを示す。
この拡張アンカー18は、芯棒打ち込み式の金属拡張アンカーである。この拡張アンカー18は、第6実施形態の拡張アンカー16に変更を加えたものである。図18中、図14と同様の構成部分については、共通の符号を付して、説明を簡略化する。
【0106】
第6実施形態の拡張アンカー16では、止水スリーブ620の抜け止め用のストッパ部として機能するように、ねじ軸部611よりも太く形成した本体胴部615を有するアンカー本体610を採用しているが、本実施形態に係る拡張アンカー18は、止水スリーブ620の抜け止め用(拡張アンカー先端方向への抜け出し規制用)のストッパ部が形成されていない構造のアンカー本体810を採用している。アンカー本体810の外径は、全長にわたって一定である。
【0107】
前記拡張アンカー18は、ねじ軸部611及び該ねじ軸部610の先端側に形成された拡張部612を有するアンカー本体810と、このアンカー本体810の前記ねじ軸部611に外挿された止水スリーブ620と、前記ねじ軸部611に外挿して前記止水スリーブ620よりもねじ軸部611の後端部613側(拡張部612が形成されている先端側とは反対の側)に配置されたワッシャ630と、前記ねじ軸部611に螺着して前記ワッシャ630よりもねじ軸部611の後端部613側に配置されたナット640と、前記アンカー本体610の内部に穿設された芯棒挿入孔614に挿入された芯棒650とを具備して構成されている。
【0108】
アンカー本体810の拡張部612は、具体的には、ねじ軸部610の先端側に設けられた本体胴部811に形成されている。アンカー本体810は、拡張部612が形成されている本体胴部811と、ねじ軸部610とを具備した構成になっている。拡張部612は、本体胴部811の先端部、すなわち、ねじ軸部611とは反対の側の端部に形成されている。
前述した通り、この拡張アンカー18のアンカー本体811は、外径一定に形成されているため、本体胴部811における拡張部612よりもねじ軸部611側の部分である後端部617とねじ軸部611との間に、止水スリーブ620の抜け止め用のストッパ部として機能するような外径差が存在しない。
【0109】
次に、拡張アンカー18を用いて母材110に取付物130を固定する作業の一例を説明する。ここで説明する固定作業は、以下の(1)〜(4)の工程からなる。
(1)母材110に下孔111を穿孔する。但し、ここで形成する下孔111は、アンカー本体810に外挿されている止水スリーブ620が挿入される拡径部115を有するものである。
(2)次に、拡張アンカー18を、先端側(拡張部612側)から、下孔111に挿入(下孔へのセット)する(図18(a)参照)。
(3)次いで、芯棒挿入孔614に挿入しておいた芯棒650を拡張部612に打ち込んで拡張部612を拡張させ、拡張部612を下孔111の孔壁に食い込ませて固着する。
(4)次に、ねじ軸部611に螺着されているナット640を締め付け操作して、ワッシャ630を母材110に押し当てる。これにより、母材110にアンカー本体810が強固に固定されるとともに、止水スリーブ620の膨出変形によって下孔111を水密封止(詳細には、下孔111の母材表面114に開口する開口部付近の水密封止)する(図18(b)参照)。
【0110】
下孔111への拡張アンカー18のセットでは、下孔111に挿入した拡張アンカー18の先端部(拡張部612)を、下孔111の底部112に突き当てる。止水スリーブ620は、下孔111の拡径部115に挿入し、該止水スリーブ620に軸方向両端部の内、アンカー本体810先端側に位置する端部を、下孔111の拡径部115の底部116(止水スリーブ受け部)に突き当てる。
但し、拡径部115の穿孔深さ(下孔111の深さに沿った方向の寸法)の調整によって、止水スリーブ620に、下孔111内に収納されずに母材表面114から外に突出する突出長L7を確保する。この突出長L7は、図18(b)に示すように、ナット640の締め付け操作によって、止水スリーブ620に圧縮力を与えて、止水スリーブ620の膨出変形によって下孔111を水密封止(詳細には、拡径部115の水密封止)するためのものである。拡径部115の穿孔深さは、止水スリーブ620の膨出変形によって下孔111を水密封止できる突出長L7を確保できるように調整する。
【0111】
なお、本実施形態においては、下孔111の底部112への拡張アンカー18の先端部の突き当てと、拡径部115の底部116への止水スリーブ620の突き当てとを同時に行うことに限らず、下孔111へのアンカー本体810の挿入を完了してから、止水スリーブ620を、ナット640の締め込み操作によって拡径部115の底部116に押し当てる、ことも可能である。
前者の、下孔111の底部112への拡張アンカー18の先端部の突き当てと、拡径部115の底部116への止水スリーブ620の突き当てとを同時に行う場合は、所望の長さの突出長L7の確保に鑑みて、下孔111の穿孔深さと拡径部115の穿孔深さとの関係が重要になり、拡径部115を有する下孔111の形成精度や、ねじ軸部521におけるナット640の螺着位置の設定を厳しくする必要が出てくるが、後者の場合は、下孔111の拡径部115の穿孔深さが正しく確保されていれば、止水スリーブ620に所望の長さの突出長L7を確保できるため、下孔111の穿孔深さL1や、ねじ軸部611におけるナット640の螺着位置の精度要求を緩和できる。
【0112】
芯棒650の打ち込みによって母材110にアンカー本体810を固着したら、ねじ軸部611に螺着されているナット640を締め付け操作して、ワッシャ630を母材110に押し当てる。これにより、アンカー本体810が、母材110に強固に固定される。また、止水スリーブ620が、ワッシャ630からの押圧力(圧縮力)によって、拡径部115の底部116とワッシャ630との間で膨出変形されて、下孔111(詳細には拡径部115)を水密封止する。ワッシャ630が母材110に押し当てられると、止水スリーブ620の軸方向寸法が、突出長L7の分、縮小(圧縮)される。
【0113】
ナット640の締め付け操作が完了したら、ねじ軸部521の内、ナット640から拡張アンカー17の後端側に突出した部分(以下、ねじ軸突出部812)を利用して、取付物132を固定する。
図18に示した例では、ねじ軸突出部812に螺着した一対のナット813、814の間に取付物132を挟み込んでいる。
但し、ねじ軸突出部812を利用して、母材110に対する固着を完了した拡張アンカー17に取付物132を固定するための構造(固定構造)としては、これに限定されず、様々なものを採用できる。例えば、ねじ軸部突出部812に螺着したナットの締め付けによって、取付物132を母材110に押さえ込むようにして固定する固定部品を利用した固定構造などであっても良い。
【0114】
(第7実施形態の施工方法の別態様)
本実施形態に係る拡張アンカー18を用いて、母材110に取付物130を固定する作業(拡張アンカーの施工方法)としては、アンカー本体810を取付物130の貫通孔131(図19参照)に通してから下孔111に挿入し、芯棒650の打ち込みによってアンカー本体810を母材110に固着した後、ナット640の締め付け操作によって、ワッシャ630で取付物130を母材130に押さえ込むようにして固定することも可能である。
【0115】
この場合、図19に示すように、取付物130の貫通孔131は、下孔111の拡径部115と同じ径に形成する。そして、拡張アンカー18を下孔111にセットする際に、前述したように、アンカー本体810を、取付物130の貫通孔131に貫通させてから、下孔111に挿入する。下孔111に挿入した拡張アンカー18のアンカー本体810の先端部を下孔111の底部116に突き当てること、及び、止水スリーブ620のアンカー本体810先端部側の軸方向端部を、下孔111の拡径部115の底部116に突き当てることは、前述した施工方法と同じである。
但し、拡張アンカー18を下孔111にセットする際に、拡径部115の穿孔深さ(下孔111の深さに沿った方向の寸法)の調整によって、止水スリーブ620に、取付物130から該取付物130を介して母材110とは反対の側に突出する突出長L8を確保する。この突出長L8は、図19(b)に示すように、ナット640の締め付け操作によって止水スリーブ620を膨出変形させて、下孔111(詳細には拡径部115)と取付物130の貫通孔131とを水密封止するためのものである。
【0116】
図19の場合、下孔111への拡張アンカー18のセットを完了した後、拡張アンカー18のナット640を締め付け操作するだけで、取付物130を母材110に固定できるとともに、膨出変形された止水スリーブ620によって、下孔111(詳細には拡径部115)及び取付物130の貫通孔131の水密封止をも達成できる。
図19の場合も、母材110への取付物130の固定完了後に、ねじ軸突出部812を利用して、別途、母材110に取付物130を取り付けることが可能である。
【0117】
なお、本発明は、前述した実施形態に限定されず、各種変更が可能である。
(a)本発明の適用対象の拡張アンカーとしては、上述した、テーパボルト式、ウェッジ式の締め付け方式、芯棒打ち込み式に限定されない。要は、先端側の前記拡張部と、この拡張部の後端側に延出するねじ軸部と、このねじ軸部に螺着されたナットとを具備している拡張アンカーであれば適用可能である。そして、本発明に係る拡張アンカーは、適用可能な拡張アンカーに、膨出変形可能な止水スリーブを、ねじ軸部に螺着されているナットの締め付け操作によって膨出変形させることができる構成であり、この構成に該当する拡張アンカーを全て含む。
(b)図15、図16(第7実施形態)、図18、図19(第8実施形態)に示したように、拡張アンカーの母材110への固定(固着)を完了した後に、この拡張アンカーのねじ軸部の、ナットよりもアンカー後端側に突出した部分を、取付物の固定に利用することは、第1〜第6実施形態に係る拡張アンカーでも適用可能である。
(c)止水スリーブとしては、遮水性を有する材質で形成されたものを採用するが、合成樹脂製に限定されない。止水スリーブとしては、ナットの締め付け操作によって膨出変形して、下孔の水密封止が可能なものであれば良く、例えば、金属製であっても良い。
(d)本発明の適用対象の拡張アンカーとしては、金属拡張アンカーに限定されない。すなわち、金属製以外の拡張アンカーにも適用可能である。但し、取付物の固定等に必要となるアンカーとしての引っ張り強度等の強度、止水スリーブの膨出変形に必要なる強度が確保されることは言うまでも無い。
(e)上述の実施形態では、本発明に係る拡張アンカーを、母材に対する取付物の固定に用いる例を説明したが、本発明に係る拡張アンカーの用途はこれに限定されない。例えば、複数数からなる母材の層間結着等に利用することも可能であることは言うまでも無い。
(f)第1〜第4実施形態に係る拡張アンカーでは、レベルワッシャとして、ドームワッシャに代えて、例えば、亀座金等も利用できる。レベルワッシャとしては、拡張アンカーのねじ軸部に螺着されているナットの締め付け操作によって、板状に変形させることができるドーム形あるいは湾曲板状のものであれば良く、各種形状のものを採用できる。
また、レベルワッシャに代えて、ばね座金を採用することも可能である。
一方、第5〜第8実施形態に係る拡張アンカーでは、ばね座金に代えて、レベルワッシャを採用することも可能である。
(g)上述の図15、図18を除く各実施形態では、取付物130の貫通孔131から下孔111への水の流入と、母材110と取付物130との界面から下孔111への水の流入とを防ぐべく、下孔111における母材110と取付物130との界面に開口する開口部付近と、取付物130の貫通孔131とを、止水スリーブの膨出変形によって水密封止する例を例示したが、母材110と取付物130との界面から下孔111への水の流入が問題とならない場合などでは、本発明に係る拡張アンカーの止水スリーブを、取付物130の貫通孔131のみに挿入して配置して膨出変形させ、取付物130の貫通孔131の水密封止のみを行うことも可能である。
【図面の簡単な説明】
【0118】
【図1】本発明の第1実施形態の拡張アンカーの組み立て状態を示す部分断面正面図である。
【図2】図1の拡張アンカーの分解斜視図である。
【図3】(a)〜(d)は、図1の拡張アンカーの施工手順を示す工程図である。
【図4】本発明の第2実施形態の拡張アンカーの組み立て状態を示す部分断面正面図である。
【図5】図4の拡張アンカーの分解斜視図である。
【図6】(a)〜(d)は、図4の拡張アンカーの施工手順を示す工程図である。
【図7】本発明の第3実施形態の拡張アンカーの組み立て状態を示す部分断面正面図である。
【図8】図1の拡張アンカーの分解斜視図である。
【図9】(a)〜(d)は、図7の拡張アンカーの施工手順を示す工程図である。
【図10】本発明の第4実施形態の拡張アンカーの組み立て状態を示す部分断面正面図である。
【図11】図10の拡張アンカーの分解斜視図である。
【図12】(a)〜(d)は、図10の拡張アンカーの施工手順を示す工程図である。
【図13】本発明の第5実施形態の拡張アンカーを示す図であり、(a)は母材の下孔にセットした状態、(b)はナットの締め付けによって、拡張アンカーの母材への固着と、膨出変形させた止水スリーブによる下孔の水密封止とを完了した状態を示す。
【図14】本発明の第6実施形態の拡張アンカーを示す図であり、(a)は母材の下孔にセットした状態、(b)は芯棒の打ち込みによって拡張部を拡張させた状態、(c)はナットの締め付けによって止水スリーブを膨出変形させた状態を示す。
【図15】本発明の第7実施形態の拡張アンカーを示す図であり、(a)は母材の下孔にセットした状態、(b)はナットの締め付けによって、拡張アンカーの母材への固着と、膨出変形させた止水スリーブによる下孔の水密封止とを完了した状態を示す。
【図16】(a)、(b)は、本発明の第7実施形態の拡張アンカーのナットの締め付けによって母材に取付物を固定する場合を示す図である。
【図17】本発明の第7実施形態の拡張アンカーの止水スリーブによって、アンカー本体の下孔への挿入長、及び、止水スリーブの膨出変形用の突出長を確保できるようにした例を示す図であり、(a)はワッシャを直接母材に押し当てるようにした場合、(b)はワッシャと母材との間に取付物を介装した場合を示す。
【図18】本発明の第8実施形態の拡張アンカーを示す図であり、(a)は母材の下孔にセットした状態、(b)はナットの締め付けによって、拡張アンカーの母材への固着と、膨出変形させた止水スリーブによる下孔の水密封止とを完了した状態を示す。
【図19】(a)、(b)は、本発明の第8実施形態の拡張アンカーのナットの締め付けによって母材に取付物を固定する場合を示す図である。
【図20】従来例の拡張アンカーの例を示す図である。
【符号の説明】
【0119】
1…拡張アンカー、2…テーパボルト、21…ねじ軸部、22…テーパ部、23…後端部、3…拡張スリーブ、31…孔、32…拡張部、33…割り溝、34…後端部(拡張スリーブの後端部、ストッパ部)、4…止水スリーブ、41…孔、5…ワッシャ、51…孔、6…ナット、7…スペーサ部材、8…レベルワッシャ、81…孔、9…ワッシャ、91…孔、12…拡張アンカー、13…拡張アンカー、14…拡張アンカー、15…拡張アンカー、520…テーパボルト、521…ねじ軸部、522…テーパ部、523…ストッパ部、524…後端部、525…ねじ軸本体部、526…筒部、530…拡張スリーブ、531…拡張部、532…割り溝、523…係止爪、540…止水スリーブ、550…ワッシャ、560…ばね座金、570…ナット、16…拡張アンカー、610…アンカー本体、611…ねじ軸部、612…拡張部、613…後端部、614…芯棒挿入孔、614a…先端部、615…本体胴部、616…割り溝、617…(本体胴部の)後端部、618…段差、620…止水スリーブ、630…ワッシャ、640…ナット、650…芯棒、651…(芯棒の)先端部、17…拡張アンカー、710…アンカー本体、720…テーパボルト、721…ねじ軸先端部、722…ねじ軸部突出部、723,724…ナット、18…拡張アンカー、810…アンカー本体、811…本体胴部、812…ねじ軸突出部、813,814…ナット、110…母材、111…下孔、112…(下孔の)底部、114…母材表面、115…(下孔の)拡径部、116…(拡張部の)底部、130…取付物、131…貫通孔。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
母材に穿孔された下孔内で拡張される拡張部を先端に有する拡張アンカーであって、
先端側の前記拡張部と、この拡張部の後端側に延出するねじ軸部と、このねじ軸部に螺着されたナットと、このナットよりも前記拡張部側にて、前記ねじ軸部に外挿された遮水性の止水スリーブとを具備し、
前記拡張部の後端、あるいは、前記ねじ軸部における前記拡張部よりも前記ナット側に位置する側部には、前記止水スリーブよりも拡張部側に配置されて前記止水スリーブを抜け止めするストッパ部が設けられ、
前記止水スリーブは、前記ナットを回転操作して前記拡張部に接近させることで与えられる圧縮力によって、外側に膨出するように変形させることができることを特徴とする拡張アンカー。
【請求項2】
前記ねじ軸部と、このねじ軸部の一端部に設けられ、前記拡張部を拡張させるコーン状のテーパ部とを有するテーパボルトが、スリーブ状に形成された前記拡張部に内挿され、
前記ねじ軸部の前記拡張部の後端から延出された部分に前記ナットが螺着され、
前記ねじ軸部に外挿された前記止水スリーブが、前記ナットよりも前記拡張部側、前記ストッパ部よりも前記ナット側に配置されていることを特徴とする請求項1記載の拡張アンカー。
【請求項3】
前記ねじ軸部と、このねじ軸部の先端に形成された前記拡張部とを有するアンカー本体を具備し、
前記アンカー本体の内側には、前記拡張部に打ち込むことで前記拡張部を拡張する芯棒が挿入される芯棒挿入孔が、前記ねじ軸部を貫通して前記拡張部に到達するように形成されていることを特徴とする請求項1記載の拡張アンカー。
【請求項4】
母材に穿孔されている下孔内に挿入したボルトに螺着されているナットを回転させ、前記ボルトを前記下孔から引き出すように移動させることで、前記ボルトに外挿されているスリーブ状の拡張部が拡張されて下孔内に固定される拡張アンカーであって、
ねじ軸部及び該ねじ軸部の先端部に設けられたコーン状のテーパ部を有するボルトであるテーパボルトと、
このテーパボルトの前記ねじ軸部に外挿され、前記テーパボルトの前記テーパ部が押し込まれることで拡張される前記拡張部と、
ねじ軸部に外挿して、前記拡張部よりもねじ軸部の後端部側に配置された遮水性の止水スリーブと、
この止水スリーブよりもねじ軸部の後端部側にてねじ軸部に螺着されたナットとを具備し、
前記止水スリーブは、前記ナットを回転操作して前記拡張部に接近させることで与えられる圧縮力によって、外側に膨出するように変形させることができることを特徴とする拡張アンカー。
【請求項5】
母材に穿孔されている下孔内に挿入したボルトに螺着されているナットを回転させ、前記ボルトを前記下孔から引き出すように移動させることで、前記ボルトに外挿されているスリーブ状の拡張部が拡張されて下孔内に固定される拡張アンカーであって、
ねじ軸部及び該ねじ軸部の先端部に設けられたコーン状のテーパ部を有するボルトであるテーパボルトと、
このテーパボルトの前記ねじ軸部に外挿され、前記テーパボルトの前記テーパ部が押し込まれることで拡張される前記拡張部と、
ねじ軸部に外挿して、前記拡張部よりもねじ軸部の後端部側に配置された遮水性の止水スリーブと、
この止水スリーブよりもねじ軸部の後端部側にてねじ軸部に螺着されたナットとを具備し、
前記テーパボルトの前記ねじ軸部の側部には、前記止水スリーブよりも拡張部側に配置されて前記止水スリーブを抜け止めする突起状のストッパ部が突設され、
前記止水スリーブは、前記ナットを回転操作して前記拡張部に接近させることで与えられる圧縮力によって、外側に膨出するように変形させることができることを特徴とする拡張アンカー。
【請求項6】
ドーム形あるいは湾曲板状のレベルワッシャ又はばね座金が、前記ねじ軸部に外挿して、前記ナットよりも止水スリーブ側、かつ、前記止水スリーブよりもナット側となるように配置され、
前記レベルワッシャ及び前記ばね座金は、前記拡張部を前記下孔に挿入したときに、前記母材に固定する取付物よりもナット側に配置され、前記ナットを回転操作して前記拡張部に接近させることで前記ナットと前記取付物との間にて与えられる圧縮力によって、板状に変形させることができることを特徴とする請求項1〜5のいずれかに記載の拡張アンカー。
【請求項7】
前記ナットよりも拡張部側かつ止水スリーブよりもナット側の位置に、前記ナットの締め付け時に前記テーパボルトの軸方向に作用する圧縮力を負担して、前記ナットと前記止水スリーブとの間の距離を保つスリーブ状又はリング状のスペーサ部材と、前記母材あるいは母材に固定する取付物に押し当てられるワッシャとが、前記ねじ軸部に外挿して配置され、
前記ワッシャが母材あるいは母材に固定する取付物に押し当てられたときに、前記止水スリーブが、前記スペーサ部材の前記ワッシャから拡張部側への延出長によって、前記ワッシャから離隔した位置に配置されるようになっていることを特徴とする請求項1〜6のいずれかに記載の拡張アンカー。
【請求項8】
母材に穿孔された下孔内で拡張される拡張部を先端に有する拡張アンカーであって、
先端側の前記拡張部と、この拡張部の後端側に延出するねじ軸部と、このねじ軸部に螺着されたナットと、このナットよりも前記拡張部側にて前記ねじ軸部に外挿された遮水性の止水スリーブとを具備し、
前記止水スリーブは、前記下孔あるいは前記母材に取り付ける取付物に貫通された貫通孔に挿入されることで、前記下孔あるいは前記貫通孔内に設けられた止水スリーブ受け部に突き当てられるようになっており、
しかも、前記止水スリーブは、前記ナットを回転操作して前記拡張部に接近させることで与えられる圧縮力によって、外側に膨出するように変形させることができることを特徴とする拡張アンカー。
【請求項9】
母材に穿孔された下孔内で拡張される先端側の拡張部と、後端側のねじ軸部と、このねじ軸部に螺着されたナットとを具備する拡張アンカーの施工方法であって、
前記母材に、母材表面に開口する拡径部を有する下孔を穿孔し、
前記下孔に前記拡張アンカーを先端側から挿入するとともに、前記下孔の前記拡径部に遮水性の止水スリーブを挿入して、前記止水スリーブを拡張アンカーに外挿した状態で前記拡径部に収納して、拡張アンカーにおいて前記拡径部の底部よりも拡張アンカーの後端側、かつ、前記ナットよりも拡張アンカーの先端側となる位置に配置し、
次いで、前記拡張アンカーの前記拡張部を拡張させて拡張アンカーを下孔内に固定し、
次いで、前記拡張アンカーの前記ねじ軸部の前記下孔から母材の外側に突出された部分に螺着されている前記ナットの回転操作による前記ナットの前記拡張部に接近させる方向への移動によって、ナットからの圧縮力で外側に膨出するように変形できる前記止水スリーブの前記母材表面からの突出部分を、前記ナットからの押圧力によって前記拡張部に押し込み、前記止水スリーブを前記拡径部内で外側に膨出するように変形せしめて、前記下孔を水密に封止することを特徴とする拡張アンカーの施工方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【公開番号】特開2006−219908(P2006−219908A)
【公開日】平成18年8月24日(2006.8.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−34590(P2005−34590)
【出願日】平成17年2月10日(2005.2.10)
【出願人】(390022389)サンコーテクノ株式会社 (52)
【Fターム(参考)】