説明

振動アクチュエータ及び該振動アクチュエータを備えた光学機器

【課題】振動子とスライダの接触面に付着した磨耗粉や塵埃等の異物を除去し、耐久性の低下や異音の発生等の不具合を防止する。
【解決手段】(S11)装置の電源投入後に、駆動モード切換回路により駆動を異物除去駆動モードに切換える。
(S12)定在波を発生させることで、振動アクチュエータは振動により振動子、スライダ、レンズ群に付着した異物を除去する。
(S13)駆動モード切換回路により、駆動モードを通常駆動モードに切換える。
(S14)通常駆動により振動アクチュエータを駆動し、レンズ群の基準位置の検出動作を行う。
(S15)基準位置検出センサの出力信号から基準位置を検出及び算出し、レンズ群の位置を絶対値化する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、異物除去機能を有する振動アクチュエータ及び該振動アクチュエータを備えた光学機器に関するものである。
【背景技術】
【0002】
弾性体や高摩擦材に圧電素子を圧着し、複数の交流電圧を印加することにより楕円運動を励起することで、推進駆動力を得る振動アクチュエータが知られている。
【0003】
この振動アクチュエータでは振動子と固定子の接触面に、塵埃やアクチュエータ自体の磨耗粉が付着すると、耐久性の低下や異音の発生等の問題が生ずる。この問題を解決する方法として、特許文献1では振動アクチュエータの超音波振動により振動子に楕円運動を生じさせ、この楕円運動によって運動部材を相対運動させることによる塵埃除去手段を有し、摺動動作等により異物の除去を行っている。また特許文献2では、塵埃除去部材を多孔質物質により形成し、摺動動作により異物の除去を行っている。
【0004】
【特許文献1】特開平11−18446号公報
【特許文献2】特開2004−187384号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上述したように、従来では振動アクチュエータ自体に付着した異物除去は摺動動作により行っている。しかし、この摺動動作による異物除去は、ブラシやフェルト、多孔質部材等から成る除去部材が必要であるため、コストアップとなったり、振動アクチュエータが通常の動作を開始するまでに時間がかかるという問題がある。また、異物除去を実行するタイミングについての明確な提案はない。
【0006】
本発明の目的は、上述の問題点を解消し、振動により異物を確実に除去することが可能な振動アクチュエータ及び該振動アクチュエータを備えた光学機器を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するための本発明に係る振動アクチュエータの技術的特徴は、振動を発生する振動子と、該振動子に接触する固定子とを有し、前記振動子に周期電圧を印加することにより駆動力を得る振動アクチュエータにおいて、前記振動子は印加される周期電圧による励振により、前記振動子及び前記固定子に付着した異物を除去する異物除去振動動作を行うことにある。
【0008】
また、本発明に係る振動アクチュエータを備えた光学機器の技術的特徴は、振動を発生する振動子と、該振動子に接触する固定子と、前記振動子に周期電圧を印加することにより駆動力を得る振動アクチュエータとを有し、前記振動子又は前記固定子を接続したレンズ群を前記駆動力により光軸方向に駆動する光学機器において、前記振動子は印加される周期電圧による励振により、基準位置検出センサによる前記レンズ群の基準位置の検出動作前又は前記基準位置の検出動作中に、前記振動アクチュエータが前記振動子及び前記固定子及び前記レンズ群に付着した異物を除去する異物除去振動動作を行うことにある。
【発明の効果】
【0009】
本発明に係る振動アクチュエータ及び該振動アクチュエータを備えた光学機器によれば、通常動作前に短時間で異物除去動作を完了することができると共に、低コストで耐久性の向上及び静音化を実現することが可能となる。
【0010】
また、異物を吸着する吸着手段を設けることで、振動アクチュエータに異物が再度付着することを防止できる。
【0011】
更に、周期電圧の印加を断続的に行うことで、振動子の駆動周波数に依存することなく、異物除去に適した振動を振動子及び固定子により励振することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
本発明を図示の実施例に基づいて詳細に説明する。
【実施例1】
【0013】
図1は実施例1の直動型の振動アクチュエータを用いた光学機器の断面図である。
固定鏡筒1内にレンズホルダ2が設けられ、このレンズホルダ2にフォーカスレンズ或いは変倍レンズ等のレンズ群3が保持されている。また、レンズホルダ2はスリーブ4を介して保持バー5に取り付けられ、レンズホルダ2、レンズ群3は光軸方向への直進駆動を可能とされている。
【0014】
レンズホルダ2には圧電素子を用いた振動子6が固定され、振動子6は固定鏡筒1に固定された固定子であるスライダ7と接触している。また固定鏡筒1内には、レンズ群3の基準位置を検出する基準位置検出センサ8が設けられ、更にレンズ群3の位置は位置検出センサ9により検出されるようになっている。
【0015】
スライダ7は高摩擦係数と摩擦耐久性を兼ね備えた材料で形成され、振動子6と加圧状態で接触しており、振動子6とスライダ7により振動アクチュエータ10が構成されている。
【0016】
一般的な振動アクチュエータ10では、振動子6を形成する圧電素子に複数回の周期電圧を断続的に印加することで、曲げモード+曲げモード或いは曲げモード+伸縮モードなどの駆動モードを励起する。この駆動モードにより、振動子6を楕円運動させることで、スライダ7に対して相対的な駆動力を得ている。
【0017】
図2は振動子6に印加する周期電圧の駆動周波数fと駆動速度との関係を示している。振動子6に印加する周期電圧を1つだけとすることで、曲げモードや伸縮モード等の単一モードで励振することが可能である。また、複数の周期電圧信号同士の位相を0°或いは180°ずらすことで、推力を得ることなく、振動アクチュエータ10は静止した状態で振動子6を励振することが可能である。この場合の駆動信号は定在波であり、本実施例ではこの定在波を用いて振動子6やスライダ7に付着した異物を振るい落す。更に、この振動はレンズ群3にも伝達されるため、レンズ群3に付着した異物の除去も可能である。
【0018】
しかし、定在波による振動が最も効率的に得ることが可能な共振周波数f0は数10kHz以上であり、スライダ7やレンズ群3の共振周波数とは異なる場合がある。そのため、図3に示すように数10kHzの定在波の周期電圧を断続的に加えることで、駆動周波数よりも低い周波数の振動を擬似的に発生させることが可能である。このような異物除去振動周波数はスライダ7やレンズ群3の共振周波数、或いは付着している異物の大きさを加味して設定することが望ましい。
【0019】
定在波の周期電圧を断続的に加える際に2種類の方法が考えられる。1つには、定在波と非通電(又は定電位)を周期的に切換える方法である。この場合に、振動アクチュエータは移動することなく、定在波振動と停止状態が繰り返され、この繰り返し動作を異物除去振動として利用する方法である。他の1つは定在波と進行波を繰り返し印加する方法である。この方法では、振動アクチュエータは断続的に定在波振動と移動を繰り返し、この繰り返し動作を異物除去振動として利用する。つまり、振動アクチュエータを徐々に移動しながら、所望の異物除去振動を得ることが可能である。
【0020】
このような異物除去動作を行うと振動音が発生する。例えば、本手段をビデオカメラに用いた場合に、通常撮影中に振動音が録音されてしまう可能性がある。そこで、基準位置検出動作前や検出期間中に実施することで、短時間で効率的に異物除去を行うことが可能となる。
【0021】
レンズ群3を振動アクチュエータ10により駆動するには、振動子6に外部から電気信号を印加することで、振動子6が励振され楕円運動が発生し、レンズ群3は矢印方向に移動する。つまり、振動アクチュエータ10では、振動子6とスライダ7との間に発生する摩擦力を利用して推力を得ている。そのため、摩擦を阻害するような塵埃が摩擦面に付着すると、耐久性の低下や異音の発生の原因となり性能が劣化する。なお、振動子6とスライダ7の位置を入れ換えても、同様の振動アクチュエータ10を構成することができる。
【0022】
基準位置検出センサ8にはフォトインタラプタなどが使用され、レンズ群3と一体となって移動するレンズホルダ2等の移動部材に遮光部を設け、移動部材の移動に応じて遮光部が光路を遮ぎることにより駆動時等の基準位置を検出できる。これにより、出力がハイレベルからローレベル又はローレベルからハイレベルに変化するので、出力が変化した時点での位置を基準位置とすることができる。
【0023】
また、作動中のレンズ群3の位置は位置検出センサ9により検出される。位置検出センサ9では、例えばレンズ群3の移動部に取り付けられた光学式スケールに対して、固定鏡筒1側に配置された発光部と受光部により、光学式スケールに刻まれたパターンを光学的に検出することができる。また、所定ピッチで着磁された磁気パターンを磁気抵抗素子の変化を検出することで位置を検出するセンサ等もある。
【0024】
図4は振動アクチュエータ10のブロック回路構成図であり、フィードバック制御系が構成されている。目標位置発生回路11の出力は、減算器12を介して通常駆動制御回路13に接続されている。通常駆動制御回路13の出力と振動発生回路14の出力とは、駆動モード切換回路15によって駆動される切換器16により択一的に選択され、モータドライバ17を介し振動アクチュエータ10に接続されている。振動アクチュエータ10の出力は、基準位置検出センサ8、位置検出センサ9に並列的に接続され、位置検出センサ9の出力は信号処理回路18を経て、基準位置演算回路19に接続されると同時に減算器12にフィードバックされている。また、基準位置検出センサ8の出力は基準位置演算回路19に接続され、基準位置演算回路19の出力は目標位置発生回路11に接続されている。
【0025】
通常のレンズ群3の駆動動作を行う場合には、目標位置発生回路11は振動アクチュエータ10が向かうべき目標位置を指示し、振動アクチュエータ10の位置は位置検出センサ9により検出され、信号処理回路18により所望の信号に変換される。例えば、位置検出センサ9の出力がパルス信号の場合に、これを信号処理回路18で計数することにより、振動アクチュエータ10の現在位置を検出することが可能である。減算器12は目標位置発生回路11と信号処理回路18のそれぞれの位置信号とから位置偏差信号を生成する。
【0026】
この位置偏差信号は通常駆動制御回路13に入力され、通常駆動制御回路13は偏差値がゼロとなるように所望の電圧・電流に変換した駆動信号をモータドライバ17に送信し、振動アクチュエータ10を駆動する。基準位置演算回路19は信号処理回路18が出力する位置情報と基準位置検出センサ8が出力する基準位置情報から、レンズ群3の位置情報の絶対値化を行う。この基準位置検出動作は機器の電源投入直後の起動時に行うことが一般的である。
【0027】
振動アクチュエータ10により異物除去を行う場合には、駆動モード切換回路15は切換器16を介して通常駆動制御回路13との接続を切断し、振動発生回路14の出力をモータドライバ17に接続する。振動発生回路14は振動子6に対して異物除去に適した励振をするための定在波を発生する。
【0028】
図5は実施例1の異物除去振動動作のフローチャート図である。
【0029】
(ステップS11)装置の電源投入後に、駆動モード切換回路15により切換器16を介して、振動発生回路14の出力をモータドライバ17に接続し駆動モードの切換えを行い、異物除去駆動モードにする。
【0030】
(ステップS12)振動発生回路14は前述した定在波を発生させることで、振動アクチュエータ10は振動により振動子6、スライダ7、レンズ群3に付着した異物を除去する。その際に、定在波の周期電圧を断続的に加えることで、駆動周波数よりも低い周波数の振動を擬似的に発生させることが可能である。これにより異物除去を効率的に行うことができる。
【0031】
(ステップS13)駆動モード切換回路15により、通常駆動制御回路13の出力をモータドライバ17に接続し、駆動モードをフィードバック制御による通常駆動モードに切換える。
【0032】
(ステップS14)通常駆動により振動アクチュエータ10を駆動し、レンズ群3の基準位置の検出動作を行う。基準位置検出センサ8がフォトインタラプタの場合に、フォトインタラプタの出力のハイレベルとローレベルの切換わりを検出するように、振動アクチュエータ10を光軸方向に移動させる。この際に、振動アクチュエータ10の位置が基準位置検出センサ8から遠い場合は、基準位置検出センサ8まで推進動作中に摺動動作を兼ねることが可能である。つまり、可動部にブラシ等の異物除去部材を設置すれば、摺動により異物を払うこともできる。
【0033】
(ステップS15)基準位置検出センサ8の出力信号からレンズ群3の基準位置を検出及び算出し、レンズ群3の位置を絶対値化する。
【0034】
上述したように、基準位置検出の動作前に異物除去振動駆動を行うことで、スライダ7や振動子6、レンズ群3に付着した塵埃を振るい落とすことが可能であり、通常動作移行後の不具合を改善することが可能である。更に、異物除去のための摺動動作を行う必要がなく、短時間で異物を除去できる。
【実施例2】
【0035】
図6は実施例2の光学機器の断面図を示し、実施例1と同等の部材は同じ符号を付している。
【0036】
固定鏡筒1には振動子6、スライダ7から成る振動アクチュエータ10の磨耗粉や塵埃を吸着するための吸着材21が設けられている。これにより、異物除去振動動作後に振るい落とされた塵埃が、再び振動アクチュエータ10やレンズ群3に付着することを防止することができる。なお、吸着材21を用いることで、異物が再び付着することを軽減することもできる。
【0037】
図7は実施例2の異物除去振動動作のフローチャート図である。
【0038】
(ステップS21)装置の電源投入後に、駆動モードの切換えを行い異物除去駆動モードにする。
【0039】
(ステップS22)振動発生回路14から定在波を発生させることで、振動アクチュエータ10により異物を除去する。その際に、定在波の周期電圧を断続的に加えることで、駆動周波数よりも低い周波数の振動を擬似的に発生させることが可能である。これにより異物除去を効率的に行うことができる。
【0040】
(ステップS23)振動アクチュエータに定在波と進行波を周期的に印加するために、駆動モード切換回路15により、通常駆動制御回路13と振動発生回路14への接続を周期的に切換える。切換周期は装置や移動部の共振周波数、或いは付着している異物の大きさを加味して設定するとよい。
【0041】
(ステップS24)被写体方向に振動アクチュエータ10を断続的に駆動しながら、基準位置検出の検出を行う。その際に、駆動可能な端位置まで移動することにより、異物除去部材による異物除去を兼ねた摺動動作が可能である。また、機構端に突き当て動作を行うようにすれば、突き当ての衝撃による異物除去も可能である。
【0042】
(ステップS25)撮像面方向に振動アクチュエータ10を駆動しながら、レンズ群3の基準位置検出の検出を行う。この際にも、駆動可能な端位置まで移動することにより、異物除去のための摺動動作を兼ねることができる。
【0043】
(ステップS26)通常駆動モードにより振動アクチュエータ10を駆動し、基準位置の検出動作を行う。
【0044】
(ステップS27)基準位置検出センサ8の出力信号から基準位置を検出及び算出し、レンズ群3の位置を絶対値化する。
【0045】
上述したように、基準位置の検出動作前或いは基準位置の検出動作中に異物除去振動駆動を行うことで、スライダ7や振動子6、レンズ群3に付着した塵埃を振るい落とすことが可能であり、通常駆動モードへの移行後の不具合を改善することが可能である。また、振動アクチュエータ10は基準位置検出と摺動による異物除去動作を兼ねることで、短時間かつ効果的に異物除去を実現できる。
【図面の簡単な説明】
【0046】
【図1】実施例1の光学機器の断面図である。
【図2】振動アクチュエータの特性図である。
【図3】異物除去振動動作の駆動波形図である。
【図4】振動アクチュエータのブロック回路構成図である。
【図5】動作フローチャート図である。
【図6】実施例2の光学機器の断面図である。
【図7】動作フローチャート図である。
【符号の説明】
【0047】
1 固定鏡筒
2 レンズホルダ
3 レンズ群
6 振動子
7 スライダ
8 基準位置検出センサ
9 位置検出センサ
10 振動アクチュエータ
11 目標位置発生回路
12 減算器
13 通常駆動制御回路
14 振動発生回路
15 駆動モード切換回路
16 切換器
17 モータドライバ
18 信号処理回路
19 基準位置演算回路
21 吸着材

【特許請求の範囲】
【請求項1】
振動を発生する振動子と、該振動子に接触する固定子とを有し、前記振動子に周期電圧を印加することにより駆動力を得る振動アクチュエータにおいて、前記振動子は印加される周期電圧による励振により、前記振動子及び前記固定子に付着した異物を除去する異物除去振動動作を行うことを特徴とする振動アクチュエータ。
【請求項2】
前記異物を吸着する吸着手段を有することを特徴とする請求項1に記載の振動アクチュエータ。
【請求項3】
前記振動子に前記周期電圧を断続的に印加することにより異物除去に適した振動を発生させる振動発生手段を有することを特徴とする請求項1に記載の振動アクチュエータ。
【請求項4】
振動を発生する振動子と、該振動子に接触する固定子と、前記振動子に周期電圧を印加することにより駆動力を得る振動アクチュエータとを有し、前記振動子又は前記固定子を接続したレンズ群を前記駆動力により光軸方向に駆動する光学機器において、前記振動子は印加される周期電圧による励振により、基準位置検出センサによる前記レンズ群の基準位置の検出動作前又は前記基準位置の検出動作中に、前記振動アクチュエータが前記振動子及び前記固定子及び前記レンズ群に付着した異物を除去する異物除去振動動作を行うことを特徴とする振動アクチュエータを備えた光学機器。
【請求項5】
前記振動アクチュエータは前記異物を吸着する吸着手段を有することを特徴とする請求項4に記載の振動アクチュエータを備えた光学機器。
【請求項6】
前記振動子に前記周期電圧を断続的に印加を行うことで異物除去に適した振動を発生させる振動発生手段を有することを特徴とする請求項4に記載の振動アクチュエータを備えた光学機器。
【請求項7】
前記振動アクチュエータは前記レンズ群の駆動動作と前記異物除去振動動作とを択一的に切換え可能とすることを特徴とする請求項4に記載の振動アクチュエータを備えた光学機器。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2008−228366(P2008−228366A)
【公開日】平成20年9月25日(2008.9.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−58493(P2007−58493)
【出願日】平成19年3月8日(2007.3.8)
【出願人】(000001007)キヤノン株式会社 (59,756)
【Fターム(参考)】