説明

振動・劣化監視装置及び方法

【課題】監視対象物の交換時期を定期検査前に告知できること。
【解決手段】原子炉圧力容器12内に配設されたジェットポンプのウェッジ36の振動を、超音波を用いて監視する振動・劣化監視装置110であって、原子炉圧力容器外に設置されて超音波を送受信する超音波センサ41と、超音波センサにて送信されウェッジにて反射され超音波センサにて受信された超音波を信号処理して、ウェッジの振動振幅を計測する信号処理部25と、ウェッジの振動振幅の時系列変化を蓄積する演算部111と、このウェッジの振動振幅の時系列変化から、その振動振幅が最大となる振動周波数とその最大振幅を求める周波数分析器112とを有し、演算部または周波数分析器は、ウェッジの振動振幅が最大となる振動周波数の時系列変化を蓄積し、演算部は、蓄積した振動周波数の時系列変化が、予め算出した周波数変化の許容値に至ったときに、アラーム113等へ警告信号を出力する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は振動・劣化監視装置に係り、容器内に配設された監視対象物、特に原子炉圧力容器内に配設されたジェットポンプなどの炉内構造物の振動、劣化を監視する振動・劣化監視装置に関する。
【背景技術】
【0002】
沸騰水型原子炉においては、炉水流量の調整に用いられる再循環系機器の1つであるジェットポンプの流体振動を低減するために、ライザブラケットにウェッジ(楔)が用いられている。しかしながら、このウェッジには、流体振動を原因とする摩耗によって劣化が発生する恐れがある。特に、既存の原子力発電プラントの出力増加においては、炉心流量を増加させることが考えられており、その場合、ジェットポンプの流量が増加して、このジェットポンプの振動も増加することが予想される。そこで、原子炉の安全性確保の観点から、原子炉の運転中に原子炉圧力容器の外部からジェットポンプの振動やウェッジの劣化を監視する技術が必要となる。
【0003】
このような振動・劣化監視手段としては、超音波による炉内構造物の振動・劣化監視装置(特許文献1参照)が知られている。また特許文献2においては、同様の手法を用いた際、監視対象物の形状によって複数の反射波が重なって測定される場合に、複数の反射波を分離して高精度に振動変位を計測し監視する手法が示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平11−125688号公報
【特許文献2】特開2004−361131号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ジェットポンプは原子炉圧力容器内に存在する炉内構造物であり、原子炉圧力容器及び炉水を介して振動を評価するためには、光学的計測手段は利用できない。また、ひずみゲージ等の機械的計測手段では、圧力バウンダリ内外で計測線を引き回す必要があり、可能ではあるが、その煩雑さ故に事実上困難である。従って、上記特許文献1に示す超音波を用いた計測監視手段により、原子炉圧力容器外からジェットポンプの振動を計測し監視することが適切であると考えられる。
【0006】
一方、ジェットポンプの振動については、低次の固有モードとしての、原子炉圧力容器の半径方向(ジェットポンプの長手方向に直交する方向)に振動する振動モード以外にも、振動モードが存在することが確認されている。しかし、上記両特許文献においては、超音波入射方向である、上述の原子炉圧力容器の半径方向と同方向の振動しか計測(監視)することができない。また、ジェットポンプの構成部材は表面に曲面を有しており、ジェットポンプの表面にて反射した超音波を好適に捉えることができない可能性がある。
【0007】
更に、ジェットポンプのウェッジは、流体振動を原因とする摩耗によって劣化する恐れがあるため、この摩耗状況を確認する必要があるが、この摩耗状況の確認は、通常、原子炉の運転停止中の定期検査で、原子炉圧力容器が開放された状態でなければ実施できない。従って、ウェッジの摩耗が極度に進行し交換しなければならないことが判明した場合には、ウェッジ交換の準備期間はそのまま定期検査期間の延長期間となってしまう。
【0008】
本発明の第1の目的は、監視対象物の振動振幅が最大となる振動周波数の時系列変化を把握して、その監視対象物の交換時期を定期検査前に告知できる振動・劣化監視装置及び方法を提供することにある。
【0009】
本発明の第2の目的は、監視対象物における振動振幅の最大値の時系列変化を把握して、その監視対象物の交換時期を定期検査前に告知できる振動・劣化監視装置及び方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明に係る振動・劣化監視装置は、容器内に配設された監視対象物の振動を、超音波を用いて監視する振動・劣化監視装置において、前記監視対象物の長手方向に沿って前記容器外に複数設置されて、超音波を送信し且つ受信する超音波センサと、前記超音波センサにて送信され前記監視対象物にて反射され当該超音波センサにて受信された超音波を信号処理して、前記監視対象物の振動振幅を計測する信号処理部と、この監視対象物の振動振幅の時系列変化を蓄積する演算部と、この監視対象物の振動振幅の時系列変化から、当該監視対象物の振動振幅が最大となる振動周波数とその最大振幅を求める周波数分析器とを有し、前記演算部または前記周波数分析器は、前記監視対象物の振動振幅が最大となる振動周波数の時系列変化を蓄積し、前記演算部は、蓄積した前記振動周波数の時系列変化が、予め算出した周波数変化の許容値に至ったときに、警告手段へ警告信号を出力するよう構成されたことを特徴とするものである。
【0011】
また、本発明に係る振動・劣化監視方法は、容器内に配設された監視対象物の振動を、超音波を用いて監視する振動・劣化監視方法において、前記監視対象物の長手方向に沿って前記容器外に複数設置された超音波センサからの超音波を、監視対象物にて反射した後に当該超音波センサが受信し、この受信した超音波を信号処理して、前記監視対象物の振動振幅を計測し、この監視対象物の振動振幅の時系列変化から、当該監視対象物の振動振幅が最大となる振動周波数とその最大振幅を求め、前記監視対象物の振動振幅が最大となる振動周波数の時系列変化が、予め算出した周波数変化の許容値に至ったときに、警告を発することを特徴とするものである。
【0012】
更に、本発明に係る振動・劣化監視装置は、容器内に配設された監視対象物の振動を、超音波を用いて監視する振動・劣化監視装置において、前記監視対象物の長手方向に沿って前記容器外に複数設置されて、超音波を送信し且つ受信する超音波センサと、前記超音波センサにて送信され前記監視対象物にて反射され当該超音波センサにて受信された超音波を信号処理して、前記監視対象物の振動振幅を計測する信号処理部と、この監視対象物の振動振幅の時系列変化を蓄積する演算部と、この監視対象物の振動振幅の時系列変化から、当該監視対象物の振動振幅が最大となる振動周波数とその最大振幅を求める周波数分析器とを有し、前記演算部または前記周波数分析器は、前記監視対象物における振動振幅の最大値の時系列変化を蓄積し、前記演算部は、蓄積した前記振動振幅の最大値の時系列変化が、予め算出した振動振幅最大値の許容値に至ったときに、警告手段へ警告信号を出力するよう構成されたことを特徴とするものである。
【0013】
また、本発明に係る振動・劣化監視方法は、容器内に配設された監視対象物の振動を、超音波を用いて監視する振動・劣化監視方法において、前記監視対象物の長手方向に沿って前記容器外に複数設置された超音波センサからの超音波を、監視対象物にて反射した後に当該超音波センサが受信し、この受信した超音波を信号処理して、前記監視対象物の振動振幅を計測し、この監視対象物の振動振幅の時系列変化から、当該監視対象物の振動振幅が最大となる振動周波数とその最大振幅を求め、前記監視対象物における振動振幅の最大値の時系列変化が、予め算出した振動振幅最大値の許容値に至ったときに、警告を発することを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0014】
本発明に係る振動・劣化監視装置及び方法によれば、監視対象物の振動振幅が最
大となる振動周波数の時系列変化を把握して、その監視対象物の交換時期を定期検査前に
告知できる。
【0015】
また、本発明に係る振動・劣化監視装置及び方法によれば、監視対象物における振動振幅の最大値の時系列変化を把握して、その監視対象物の交換時期を定期検査前に告知できる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】本発明に係る振動・劣化監視装置の第1の実施の形態が適用された沸騰水型原子炉を示す縦断面図。
【図2】図1のジェットポンプを示し、(A)は正面図、(B)は水平断面図、(C)は要部拡大縦断面図。
【図3】図1の原子炉圧力容器及びジェットポンプと共に、振動・劣化監視装置の構成を示す要部拡大構成図。
【図4】本発明に係る振動・劣化監視装置の第2の実施の形態における反射体としてのコーナーリフレクタを示す斜視図。
【図5】図4のコーナーリフレクタによる超音波の伝播経路を説明するための説明図。
【図6】本発明に係る振動・劣化監視装置の第3の実施の形態を示し、(A)は反射体が設置された静止状態のジェットポンプを示す正面図、(B)は図6(A)のジェットポンプの振動モードの一例を超音波センサ等と共に概略して示す説明図。
【図7】本発明に係る振動・劣化監視装置の第4の実施の形態を示し、(A)が、反射体が設置された静止状態のジェットポンプを示す正面図、(B)は図7(A)のジェットポンプの振動モードの一例を超音波センサ等と共に概略して示す説明図。
【図8】本発明に係る振動・劣化監視装置の第5の実施の形態をジェットポンプと共に示し、(A)はジェットポンプの通常時の振動モードの場合を、(B)はジェットポンプの異常振動時の振動モードの場合をそれぞれ概略して示す説明図。
【図9】本発明に係る振動・劣化監視装置の第6の実施の形態を示し、(A)は反射体が設置されたジェットポンプを示す正面図、(B)は図9(A)のIX部を拡大し、正常位置にあるウェッジの場合を示す断面図、(C)は図9(A)のIX部を拡大し、摩耗の発生により移動した位置にあるウェッジの場合を示す断面図。
【図10】本発明に係る振動・劣化監視装置の第7の実施の形態を示す構成図。
【図11】図10の振動・劣化監視装置の一部を拡大し、超音波の伝播経路を示す断面図。
【図12】ウェッジ13の高さ位置の時系列変化を示すグラフ。
【図13】本発明に係る振動・劣化監視装置の第8の実施の形態を示す構成図。
【図14】(A)はウェッジの振動振幅と周波数との関係を示すグラフ、(B)はウェッジの振動振幅が最大となる振動周波数の時系列変化を示すグラフ、(C)はウェッジの振動振幅の最大値の時系列変化を示すグラフ。
【図15】本発明に係る振動・劣化監視装置の第9の実施の形態を説明するものであり、(A)は現時点より先の次の時間間隔で、ウェッジの振動振幅が最大となる振動周波数の値を予測等するためのグラフ、(B)は現時点より先の次の時間間隔で、ウェッジの振動振幅の最大値を予測等するためのグラフ。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明を実施するための最良の形態を、図面に基づき説明する。
【0018】
[A]第1の実施形態(図1〜図3)
図1は、本発明に係る振動・劣化監視装置の第1の実施の形態が適用された沸騰水型原子炉を示す縦断面図である。図2は、図1のジェットポンプを示す正面図である。図3は、図1の原子炉圧力容器及びジェットポンプと共に、振動・劣化監視装置の構成を示す要部拡大構成図である。
【0019】
図3に示す振動・劣化監視装置10は、例えば図1に示す沸騰水型原子炉11に適用されたものであり、容器としての原子炉圧力容器12の外側から、この原子炉圧力容器12内に配置された監視対象物としての炉内構造物、特にジェットポンプ13の振動を、超音波を用いて監視するものである。
【0020】
ここで、沸騰水型原子炉11は、図1に示すように、原子炉圧力容器12内に炉心14を収容し、この炉心14を構成する多数の燃料集合体(不図示)は、シュラウド15に囲まれると共に、炉心支持板16及び上部格子板17によって支持されて構成されている。シュラウド15の上部はシュラウドヘッド18により閉塞され、このシュラウドヘッド18にスタンドパイプ19を経て気水分離器20が設置される。原子炉圧力容器12内には、気水分離器20の上方に蒸気乾燥器21が配置される。
【0021】
炉心14にて発生した蒸気は、気水分離器20にて水分が分離され、蒸気乾燥器21にて乾燥されて上部ドーム22に至り、主蒸気ノズル23から主蒸気系を経てタービン系へ至る。(共に図示せず)。タービン系で仕事した蒸気は復水となり、給水管24を経て原子炉圧力容器12内へ冷却材32として供給される。この冷却材(炉水)32は、原子炉再循環系25の再循環ポンプ26により昇圧され、原子炉圧力容器12とシュラウド15との間の環状部に複数本配置されたジェットポンプ13によって、炉心14の下方の下部プレナム27へ導かれる。
【0022】
複数のジェットポンプ13は、原子炉圧力容器12とシュラウド15との間の環状部に設置されたポンプデッキ28上に、炉心14の周方向に沿って均等に配置される。また、各ジェットポンプ13は、図2(A)に示すように、再循環ポンプ26にて昇圧された冷却材32をライザ管29へ導き、更にエルボ管30を経てノズル部31へ導くことにより、このノズル部31で周囲の冷却材32を取り込み、これらの冷却材32をインレットミキサー管33内で混合した後、ジェットポンプディフューザ34から炉心14の下方へ吐出する。
【0023】
インレットミキサー管33は、図2(C)に示すように、最下端がジェットポンプディフューザ34に隙間部40Aを有して嵌合されており、この嵌合部分がスリップジョイント40と称される。インレットミキサー管33は、図2(B)にも示すように、ライザ管29に設置されたライザブラケット35を用い、ウェッジ(楔)36及びセットスクリュー36Aを介して支持される。これにより、インレットミキサー管33とジェットポンプディフューザ34のそれぞれの中心軸が一致して配置される。従って、インレットミキサー管33は、スリップジョイント40の隙間部40Aを流れる冷却材32の流れαによる振動によっても、ジェットポンプディフュ−ザ34に衝突しないように調整される。
【0024】
ところが、スリップジョイント40の隙間部40Aを流れる流体の振動によって、ライザブラケット35とウェッジ36との間や、ライザブラケット35とセットスクリュー36Aとの間で摺動摩耗が発生し、これらの間に隙間が生ずる可能性がある。この隙間が一旦発生すると、スリップジョイント40の隙間部40Aを流れる流体の流れの変動が増加するため、ライザブラケット35とウェッジ36との間や、ライザブラケット35とセットスクリュー36Aとの間で摺動摩耗が更に増大し、最終的には、インレットミキサー管33がジェットポンプディフューザ34に衝突する可能性がある。また、スリップジョイント40の隙間部40Aの変動は、ジェットポンプ13の性能にも影響を与える。従って、摩耗が進行して劣化したウェッジ36やセットスクリュー36A、特にウェッジ36は交換されて、スリップジョイント40の隙間部40Aを常に適切に保持する必要がある。
【0025】
尚、原子炉圧力容器12は、図1に示すように、圧力容器本体37の上部開口と下部開口が容器蓋38、下鏡部39によりそれぞれ閉塞されて構成される。圧力容器本体37は、シュラウド15との間に、ジェットポンプ13が配置される環状部を形成する。
【0026】
さて、上述のように構成された沸騰水型原子炉11を具備する原子力プラントにおいては、通常の運転状態においても、沸騰水型原子炉11の原子炉圧力容器12内における冷却材32の流れの作用によってジェットポンプ13に微小な振動が生じている。このような振動現象を原子炉圧力容器12の外側から監視するために、振動・劣化監視装置10(図3)が設けられている。
【0027】
この振動・劣化監視装置10は、図3に示すように、原子炉圧力容器12の外表面に設置された超音波センサ41及び42と、ジェットポンプ13の監視対象部分である例えばライザ管29の表面に設置された反射体43及び44と、超音波センサ41及び42に電気的に接続された信号処理部45と、を有して構成される。
【0028】
超音波センサ41及び42のそれぞれは、超音波を送信し且つ受信するものであり、振動子46、集束部47及びカプラント48を有して構成される。振動子46にて発生した超音波が集束部47にて平行波として集束され、この平行な超音波がカプラント48を介して送信される。
【0029】
超音波センサ41及び42のそれぞれは、固定治具49によって原子炉圧力容器12の外表面に固定して設置される。このとき、超音波センサ41は、その軸線O1が、ジェットポンプ13におけるライザ管29の長手方向(図3のY方向)に直交する方向(図3のX方向)となるように設置される。また、超音波センサ42は、その軸線O2が、上記X方向からY方向へ向けて所定角度θだけ離れた方向(M方向)となるように設置される。
【0030】
反射体43、44は、ジェットポンプ13のライザ管29の表面において、超音波センサ41、42のそれぞれに対応する位置に設置される。つまり、超音波センサ41、42のそれぞれから送信された超音波は、原子炉圧力容器12(圧力容器本体37)内を通過し、冷却材(炉水)32を伝播してジェットポンプ13のライザ管29へ向かう。超音波センサ41、42からの超音波がライザ管29にそれぞれ到達する位置に反射体43、44が設置される。これらの反射体43、44のそれぞれは、超音波を反射可能な平面形状の反射面43A、44Aを備える。尚、反射体43及び44は、ライザ管29の長手方向(Y方向)において近傍位置に、例えば隣接して設置される。
【0031】
反射体43の反射面43A、反射体44の反射面44Aにて反射したそれぞれの超音波は、超音波センサ41、42から送信されて反射体43、44へ伝播した方向と逆向きの経路を通って超音波センサ41、42のそれぞれ至り、これらの超音波センサ41、42により受信される。信号処理部45は、超音波センサ41、42のそれぞれにて受信された各超音波を信号処理し、ライザ管29におけるX方向、M方向の振動変位としての振動振幅を計測し、更に、ライザ管29におけるY方向の振動振幅を演算して計測する。
【0032】
つまり、信号処理部45は、超音波センサ41にて発信され受信された超音波の伝播時間から、当該超音波の伝播速度を用いてライザ管29のX方向の振動の振幅Vxを計測し、時々刻々変化する超音波の伝播時間から、ライザ管29のX方向の振動波形を求める。同様にして信号処理部45は、超音波センサ42にて発信され受信された超音波の伝播時間から、ライザ管29のM方向の振動の振幅Vmを計測し、このM方向の振動波形を求める。次に、信号処理部45は、ライザ管29のX方向、M方向の振幅Vx、Vmから、X方向に直交するライザ管29の長手方向(Y方向)の振幅Vyを次式を用いて算出し、更にこのY方向の振動波形を求める。
[数1]
Vy=(Vm2−Vx2)1/2
【0033】
前述の如く、原子力プラントの通常運転時においても冷却材32の流れの作用でジェットポンプ13に微小な振動が生じている。このため、信号処理45は、ジェットポンプ13のライザ管29における通常運転時の微小な振動の、X方向、M方向、Y方向の少なくとも1方向の振幅レベルを予測し、実測して求めた振幅レベルが上述の予測した振幅レベルを超えた場合に、異常振動であることを検知する。ここで、通常運転時の振幅レベルの予測は、振幅を予め実際に測定する場合と、振幅を数値解析により事前に算出する場合などである。
【0034】
従って、本実施の形態によれば、次の効果(1)〜(3)を奏する。
【0035】
(1)超音波センサ41、42から送信されたそれぞれの超音波が、ジェットポンプ13のライザ管29の表面に設置され且つ平面形状の反射面43A、44Aをそれぞれ備えた反射体43、44にて反射されることから、ライザ管29の表面が曲面を有する場合にも、超音波センサ41、42のそれぞれは、反射体43の反射面43A、反射体44の反射面44Aからそれぞれ反射された超音波を確実に受信することができる。このため、表面が曲面を有するジェットポンプ13のライザ管29であっても、その振動を、超音波を利用して適確に監視することができる。
【0036】
(2)ジェットポンプ13におけるライザ管29の長手方向(Y方向)に対し直交する方向(X方向)に超音波センサ41が設置され、このX方向から所定角度θだけ離れたM方向に超音波センサ42が設置されて、ライザ管29の振動の振幅をこれらのX方向とM方向にて計測し、更にこれらの振幅からY方向の振動の振幅も算出する。このように、ライザ管29の振動を直交する2方向(X方向及びY方向)で捉えることができるので、一方向(例えばX方向)のみの振動監視に比べ、優れた振動監視を実現できる。
【0037】
(3)ジェットポンプ13におけるライザ管29の振動監視に際し、原子力プラントの通常運転時におけるライザ管29の振動の振幅レベルを予測し、ライザ管29の振動の振幅が上記振幅レベルを超えたときに異常振動であると検知することから、ライザ管29の異常振動に対する対応を迅速に実施できる。
【0038】
[B]第2の実施の形態(図4、図5)
図4は、本発明に係る振動・劣化監視装置の第2の実施の形態における反射体としてのコーナーリフレクタを示す斜視図である。この第2の実施の形態において、前記第1の実施の形態と同様な部分は、同一の符号を付して説明を簡略化し、または省略する。
【0039】
本実施の形態の振動・劣化監視装置50が前記第1の実施の形態の振動・劣化監視装置10と異なる点は、反射体がコーナーリフレクタ53を用いて構成された反射体51、52である点である。ここで、反射体51は、反射体43と同様に、超音波センサ41からの超音波を反射すべくジェットポンプ13のライザ管29の表面に設置される。また、反射体52は、反射体44と同様に、超音波センサ42からの超音波を反射すべくライザ管29の表面に設置される。
【0040】
前記実施の形態の反射体43、44が反射面43A、44Aとして1平面を有するのに対し、本実施の形態のコーナーリフレクタ53は、図4及び図5に示すように、互いに直交する2平面を反射面54及び55として備える。従って、超音波センサ41、42から発信され、原子炉圧力容器12等を通過した超音波は、反射体51、52のコーナーリフレクタ53において例えば反射面54にて反射し、更に反射面55にて反射して、入射した超音波と平行した経路で同一の方向に反射する。この超音波の異なる伝播経路を、図5に実線Aと破線Bでそれぞれ示す。
【0041】
従って、本実施の形態によれば、前記第1の実施の形態の効果(1)〜(3)と同様な効果を奏するほか、次の効果(4)及び(5)を奏する。
【0042】
(4)ジェットポンプ13のライザ管29にコーナーリフレクタ53を採用した反射体51、52が設置されたことから、超音波センサ41、42からそれぞれ送信された超音波を、コーナーリフレクタ53の反射面54及び55によって、入射した方向と同じ方向に反射させることができる。このため、超音波センサ41、42は、反射した超音波を確実に受信してS/N比を向上させることができ、ジェットポンプ13におけるライザ管29の振動監視を高精度に実現できる。
【0043】
(5)コーナーリフレクタ53を採用した反射体51、52では、超音波センサ41または42から送信された超音波を平行な経路に反射させることから、超音波センサ41、42を、想定した設置位置に設置できない場合でも、この超音波センサ41、42を、設置が可能な位置にずらして設置して、ジェットポンプ13におけるライザ管29の振動を監視することができる。
【0044】
[C]第3の実施の形態(図6)
図6は、本発明に係る振動・劣化監視装置の第3の実施の形態を示し、(A)が、反射体が設置された静止状態のジェットポンプを示す正面図であり、(B)が、図6(A)のジェットポンプの振動モードの一例を超音波センサ等と共に概略して示す説明図である。この第3の実施の形態の振動・劣化監視装置60が前記第1の実施の形態の振動・劣化監視装置10と同様な部分は、同一の符号を付して説明を簡略化し、または省略する。尚、図6(B)において、インレットミキサー管33は静止状態を破線で示し、振動状態を実線で示している。
【0045】
本実施の形態が前記第1の実施の形態と異なる点は、監視対象がジェットポンプ13の、表面に曲面を有するインレットミキサー管33であり、超音波センサ42が設置されず、インレットミキサー管33の長手方向(Y方向)に直交する方向(X方向)のみに超音波センサ41が設置され、また反射体44が設置されず、超音波センサ41からの超音波を反射する反射体43が、インレットミキサー管33の通常時の振動モードにおいて振幅が相対的に大きな、インレットミキサー管33の表面部位に設置された点である。
【0046】
ここで、インレットミキサー管33の通常時の振動モードとは、原子力プラントの通常運転時において、原子炉圧力容器12内のジェットポンプ13のインレットミキサー管33が、冷却材32の流れの作用によって微小に振動したときの振動モードである。この振動モードは、予め実際に測定される場合と、数値解析により事前に算出される場合とがある。また、信号処理部45は、前記第1の実施の形態と同様に、計測したインレットミキサー管33の振幅が上記通常時の振動モードにおける振幅レベルを超えた場合に異常であると検知する。
【0047】
尚、図6中には、ジェットポンプ13における2本のインレットミキサー管33の一本にのみ反射体43が設置されるものを述べたが、2本のインレットミキサー管33のそれぞれに反射体43が設置され、これらの反射体43に対応して、原子炉圧力容器12の外表面に超音波センサ41が設置されてもよい。また、反射体43に代えて、コーナーリフレクタ53が採用された反射体51であってもよい。
【0048】
従って、本実施の形態によれば、前記第1及び第2の実施の形態の効果(1)、(3)、(4)及び(5)と同様な効果を奏するほか、次の効果(6)を奏する。
【0049】
(6)反射体43または51は、インレットミキサー管33の通常時の振動モードにおいて振幅が相対的に大きな部位に設置される。このことから、インレットミキサー管33の振動検出感度を高めることができ、インレットミキサー管33の振動監視を適確に実施できる。
【0050】
[D]第4の実施の形態(図7)
図7は、本発明に係る振動・劣化監視装置の第4の実施の形態を示し、(A)が、反射体が設置された静止状態のジェットポンプを示す正面図、(B)が、図7(A)のジェットポンプの振動モードの一例を超音波センサ等と共に概略して示す説明図である。この第4の実施の形態において、前記第1の実施の形態と同様な部分は、同一の符号を付して説明を簡略化し、または省略する。尚、図7(B)において、インレットミキサー管33は静止状態を破線で示し、振動状態を実線で示している。
【0051】
本実施の形態の振動・劣化監視装置70が前記第1の実施の形態の振動・劣化監視装置10と異なる点は、監視対象物がジェットポンプ13の、表面に曲面を有するインレットミキサー管33であり、超音波センサ42が設置されず、インレットミキサー管33の長手方向(Y方向)に直交する方向(X方向)に超音波センサ41が、インレットミキサー管33の長手方向に沿って原子炉圧力容器12の外表面に複数個設置され、また、反射板44が設置されず、超音波センサ41からの超音波を反射する反射体43が、それぞれの超音波センサ41に対応してインレットミキサー管33に複数個、このインレットミキサー管33の長手方向に沿って設置された点である。
【0052】
インレットミキサー管33に複数設置された反射体43の少なくとも1個は、インレットミキサー管33の通常時の振動モードにおいて振幅が相対的に大きな位置に設置されることが好ましい。
【0053】
インレットミキサー管33の長手方向(Y方向)に複数の反射体43が設置され、これらの反射体43に対応して複数の超音波センサ41が設置されたことで、信号処理部45は、インレットミキサー管33の一点の振動波形ではなく、インレットミキサー管33における長手方向の複数点の振動波形、つまりインレットミキサー管33全体の振動モードを求めることが可能となる。更に、信号処理部45は、計測して求めたインレットミキサー管33全体の振動モードが、インレットミキサー管33の通常時の振動モードと異なる場合に、異常振動であると検知する。
【0054】
尚、図7中には、ジェットポンプ13における2本のインレットミキサー管33の1本にのみ反射体43が設置されるものを述べたが、2本のインレットミキサー管33のそれぞれに反射体43が設置され、これらに対応して、原子炉圧力容器12の外表面に超音波センサ41が設置されてもよい。また、反射体43に代えて、コーナーリフレクタ50が採用された反射体51であってもよい。
【0055】
従って、本実施の形態によれば、前記第1及び第2の実施の形態の効果(1)、(4)及び(5)と同様な効果を奏するほか、次の効果(7)を奏する。
【0056】
(7)インレットミキサー管33の長手方向に沿って複数の超音波センサ41、反射体43または51が、それぞれ原子炉容器12の外表面、インレットミキサー管33の表面に設置され、信号処理部45は、インレットミキサー管33全体の振動モードを計測して求めると共に、これらの振動モードが通常の振動モードと異なる場合に異常振動を検知することから、異常振動に対する対応を迅速に実施できる。
【0057】
[E]第5の実施の形態(図8)
図8は、本発明に係る振動・劣化監視装置の第5の実施の形態をジェットポンプと共に示し、(A)が、ジェットポンプの通常時の振動モードの場合を、(B)が、ジェットポンプの異常振動時の振動モードの場合をそれぞれ概略して示す説明図である。この第5の実施の形態の振動・劣化監視装置80において、前記第1の実施の形態の振動・劣化監視装置10と同様な部分は、同一の符号を付して説明を簡略化し、または省略する。
【0058】
本実施の形態が前記第1の実施の形態と異なる点は、監視対象物がジェットポンプ13の、表面に曲面を有するインレットミキサー管33であり、超音波センサ42が設置されず、インレットミキサー管33の長手方向(Y方向)に直交する方向(X方向)に超音波センサ41が設置され、また、反射体44が設置されず、超音波センサ41からの超音波を反射する反射体43が、インレットミキサー管33の表面に設置された点である。更に、第1実施形態と異なる点は、上記超音波センサ41が、インレットミキサー管33の通常時以外の異常振動時における振動モードにおいて、反射体43から反射された超音波を受信可能な位置に設置された点である。
【0059】
つまり、超音波センサ41は、原子炉圧力容器12の外表面に設置されるが、このとき、インレットミキサー管33の通常時の振動では反射体43から反射した超音波を受信できないが(図8(A))、インレットミキサー管33の異常振動時の如く振幅が大きくなったときには、反射体43から反射した超音波を受信可能となる位置に設置される(図8(B))。また、本実施の形態においても、反射体43に代えて、コーナーリフレクタ53が採用された反射体51であってもよい。
【0060】
従って、本実施の形態によれば、前記第1及び第2の実施の形態の効果(1)、(4)及び(5)を有するほか、次の効果(8)を奏する。
【0061】
(8)超音波センサ41は、インレットミキサー管33の通常時の振動モードでは反射体43または51から反射した超音波を受信できないが、インレットミキサー管33の異常振動時における振動モードにおいては、反射体43または51から反射した超音波を受信可能な位置に設置されている。このため、インレットミキサー管33における異常振動の発生を良好に検知することができ、その対応を迅速に実施することができる。
【0062】
[F]第6の実施の形態(図9)
図9は、本発明に係る振動・劣化監視装置の第6の実施の形態を示し、(A)が、反射体が設置されたジェットポンプを示す正面図、(B)が、図9(A)のIX部を拡大し、正常位置にあるウェッジの場合を示す断面図、(C)が、図9(A)のIX部を拡大し、摩耗の発生により移動した位置にあるウェッジの場合を示す断面図である。この第6の実施の形態において前記第1の実施の形態と同様な部分は、同一の符号を付して説明を簡略化し、または省略する。
【0063】
本実施の形態の振動・劣化監視装置90が前記第1の実施の形態の振動・劣化監視装置10と異なる点は、監視対象物がジェットポンプ13の、表面に曲面を有するウェッジ36であり、超音波センサ42が設置されず、ウェッジ36の長手方向(Y方向)に直交する方向(X方向)に超音波センサ41が設置され、この超音波センサ41からの超音波を反射する反射体43がウェッジ36に設置された点である。更に、本実施の形態では、超音波センサ41は、ウェッジ36が振動による摩耗によって下方へ移動したときに、そのウェッジ36に設置の反射体43から反射された超音波を受信不可能な位置に設置されている。
【0064】
ウェッジ36は、前述のように、ライザ管29に設置されたライザブラケット35と共にインレットミキサー管33を支持するために、このライザブラケット35とインレットミキサー管33との間に差し込まれたものである。このウェッジ36は、冷却材32の流れの作用で振動し、この振動を原因とする摩耗によって劣化して下方へ移動し、これによりインレットミキサー管33の支持が不十分になる恐れがある。
【0065】
超音波センサ41から発信され、ウェッジ36の表面に設置された反射体43にて反射された超音波を超音波センサ41が受信し、この超音波センサ41にて受信された超音波を信号処理部45が信号処理してウェッジ36の振動の振幅を計測し、振動波形を求めることで、ウェッジ36の振動が監視される。このとき、信号処理部45は、計測したウェッジ36の振幅がウェッジ36の通常振動時の振幅レベルを超えている場合に、ウェッジ36の異常振動を検知することが可能となる。
【0066】
ウェッジ36に振動による摩耗が発生して、このウェッジ36が下方へ移動した場合には、超音波センサ41からの超音波が反射体43にて反射されず、超音波センサ41は、反射体43から反射した超音波を受信できなくなるので、このとき信号処理部45は、ウェッジ36に摩耗が発生して劣化したことを検知することが可能となる。尚、反射体43に代えて、コーナーリフレクタ53が採用された反射体51を用いてもよい。
【0067】
従って、本実施の形態によれば、前記第1及び第2の実施の形態の効果(1)、(3)、(4)及び(5)を奏するほか、次の効果(9)を奏する。
【0068】
(9)ジェットポンプ13のウェッジ36に反射体43または51が設置され、超音波センサ41は、ウェッジ36の振動に基づく摩耗による移動によって、このウェッジ36から反射される超音波を受信不可能となる位置に設置されている。このため、超音波センサ41が超音波を受信できない場合にウェッジ36の摩耗の発生を検知することができ、ウェッジ36の摩耗劣化に対する対応を迅速に実施できる。
【0069】
[G]第7の実施の形態(図10〜図12)
図10は、本発明に係る振動・劣化監視装置の第7の実施の形態を示す構成図である。この第7の実施の形態において、前記第1の実施の形態と同様な部分は、同一の符号を付して説明を簡略化し、または省略する。
【0070】
本実施の形態の振動・劣化監視装置100が前記第1の実施の形態の振動・劣化監視装置10と異なる点は、監視対象物がジェットポンプ13のウェッジ36であり、超音波センサ42(図3)が設置されず、ウェッジ36の長手方向(Y方向)に直交する方向(X方向)に超音波センサ41が、ウェッジ36の長手方向に沿って原子炉圧力容器12の外表面12Aに、ウェッジ36に対応して複数個設置されて超音波センサ群101とされ、ウェッジ36の振動による摩耗劣化に基づく高さ位置変化を、超音波を用いて時系列に監視する点である。
【0071】
反射体44(図3)は設置されない。また、反射体43(図3)は、各超音波センサ41に対応してウェッジ36の側面、及びシュラウド15の外壁面15Aに設置されてもよいが、設置されなくてもよい。本実施の形態では、反射体43が設置されていない例を示す。
【0072】
本実施の形態の振動・劣化監視装置100は、上記超音波センサ群101のほか、信号処理部102及び演算部103を有して構成される。これらの信号処理部102と演算部103は一体に構成されてもよい。
【0073】
信号処理部102は、図11に示すように、超音波センサ群101の各超音波センサ41にて送信され、ウェッジ36またはシュラウド15にて反射され当該超音波センサ41にて受信された超音波を信号処理、つまり超音波の発信から受信までの伝播時間差を比較処理することで、ウェッジ36の上端部が原子炉圧力容器12内でどの高さ位置にあるかを計測する。この図11中の符号104は、超音波の伝播経路を示す。
【0074】
ウェッジ36に振動による摩耗が発生すると、このウェッジ36は自重で徐々に下降し、高さ位置が変化する。このようなウェッジ36の高さ位置の時系列変化E(図12)を演算部103が蓄積する。この演算部103内には、ウェッジ36が摩耗の進展に伴いその高さ位置をどのように変化させるかを示す位置変化データF(図12)が、振動摩耗解析などを用いて別途算出されて格納されている。演算部103は、ウェッジ36の計測された高さ位置の時系列変化Eと上記位置変化データFとを比較して、ウェッジ36が許容摩耗量に対応する許容限界高さGに到達する時期を予測する。
【0075】
従って、本実施の形態によれば、次の効果(10)を奏する。
【0076】
(10)超音波センサ群101及び信号処理部102がウェッジ36の高さ位置を計測し、演算部103がウェッジ36の高さ位置の時系列変化を蓄積し、ウェッジ36が許容限界高さG(許容摩耗量)に到達する時期を予測することから、この到達時期が告知されることで、ウェッジ36の摩耗による劣化の程度やウェッジ36の寿命を原子炉運転中に把握することができる。このため、ウェッジ36の交換時期を原子炉の定期検査前に把握することができるので、ウェッジ36の交換のための準備を原子炉運転中に実施でき、ウェッジ36の交換のための準備期間が、原子炉の定期検査期間の延長を引き起こす事態を回避できる。
【0077】
[H]第8の実施の形態(図13、図14)
図13は、本発明に係る振動・劣化監視装置の第8の実施の形態を示す構成図である。この第8の実施の形態において、前記第1の実施の形態と同様な部分は、同一の符号を付して説明を簡略化し、または省略する。
【0078】
本実施の形態の振動・劣化監視装置110が前記第1の実施の形態の振動・劣化監視装置1と異なる点は、監視対象物がジェットポンプ13のウェッジ36であり、超音波センサ42(図3)が設置されず、ウェッジ36の長手方向(Y方向)に直交する方向(X方向)に超音波センサ41が、ウェッジ36の長手方向に沿って原子炉圧力容器12の外表面12Aに、ウェッジ36に対応して複数個設置されて超音波センサ群101とされ、ウェッジ36の振動、ウェッジ36の振動振幅の最大値、ウェッジ36の振動振幅が最大となる振動周波数などを監視する点である。
【0079】
反射体44(図3)は設置されない。また、反射体43(図3)は、各超音波センサ41に対応してウェッジ36の側面、及びシュラウド15の外壁面15Aに設置されてもよいが、設置されなくてもよい。本実施の形態では、反射体43が設置されていない例を示す。
【0080】
本実施の形態の振動・劣化監視装置110は、上記超音波センサ群101のほか、信号処理部25、演算部111、周波数分析器112、並びに警告手段としてのアラーム113及び点灯ランプ114を有して構成される。信号処理部25、演算部111及び周波数分析器112は一体に構成されてもよい。
【0081】
信号処理部25は、超音波センサ群101の各超音波センサ41にて送信され、ウェッジ36にて反射され当該超音波センサ41にて受信された超音波を信号処理して、ウェッジ36のX方向の振動振幅を計測し、この振動振幅の時系列変化である振動波形を求める。
【0082】
演算部111は、ウェッジ36の上記振動振幅の時系列変化を蓄積し、周波数分析器112は、この時系列変化を周波数分析して、図14(A)に示すように、ウェッジ36の振動振幅が最大となる振動周波数と、その振動振幅の最大値を求める。これらのウェッジ36の振動振幅が最大となる振動周波数の時系列変化H(図14(B))と、ウェッジ36の振動振幅における最大値の時系列変化I(図14(C))は、周波数分析器112または演算部111に蓄積される。
【0083】
演算部111には、ウェッジ36の振動振幅が最大となる周波数変化の許容値Jと、ウェッジ36の振動振幅最大値の許容値Kとが、振動解析により予め算出されて格納されている。演算部111は、ウェッジ36の振動振幅が最大となる振動周波数の時系列変化Hが許容値Jに至ったとき、またはウェッジ36の振動振幅の最大値の時系列変化Iが許容値Kに至ったときに、アラーム113及び点灯ランプ114へ警告信号を出力する。これらのアラーム113、点灯ランプ114は、上記警告信号を受信してそれぞれ聴覚的、視覚的な警告を発する。
【0084】
従って、本実施の形態によれば、次の効果(11)を奏する。
【0085】
(11)周波数分析器112が、ウェッジ36の振動振幅の時系列変化から、ウェッジ36の振動振幅が最大となる振動周波数とその振動振幅の最大値を求め、演算部111が、ウェッジ36の振動振幅が最大となる振動周波数の時系列変化Hが許容値Jに至ったとき、またはウェッジ36の振動振幅の最大値の時系列変化Iが許容値Kに至ったときに、アラーム113及び点灯ランプ114を作動させ、その旨を告知している。このため、ウェッジ36の振動摩耗による劣化の程度やウェッジ36の寿命を原子炉運転中に把握することができ、ウェッジ36の交換時期を原子炉の定期検査前に認識することができる。この結果、ウェッジ36の交換のための準備を原子炉運転中に実施できるので、このウェッジ36の交換のための準備期間が、原子炉の定期検査期間の延長を引き起こす事態を回避できる。
【0086】
[I]第9の実施の形態(図15)
図15は、本発明に係る振動・劣化監視装置の第9の実施の形態を説明するものであり、(A)が現時点より先の次の時間間隔で、ウェッジの振動振幅が最大となる振動周波数の値を予測等するためのグラフであり、(B)が現時点より先の次の時間間隔で、ウェッジの振動振幅の最大値を予測等するためのグラフである。この第9の実施の形態において、前記第1及び第8の実施の形態と同様な部分は、同一の符号を付して説明を簡略化し、または省略する。
【0087】
本実施の形態の振動・劣化監視装置120(図13)が、前記第8の実施の形態の振動・劣化監視装置110と異なる点は、ウェッジ36の振動振幅が最大となる振動周波数の値を予測し、またはウェッジ36の振動振幅の最大値を予測し、これらの予測値が許容値JまたはKに至ったときに警報を発する点である。
【0088】
つまり、本実施の形態の演算部111は、自身または周波数分析器112に蓄積された、ウェッジ36の振動振幅が最大となる振動周波数の時系列変化を、一定の時間間隔でサンプリングして、図15(A)の黒点に示すようにプロットする。また、演算部111は、過去にサンプリングしたウェッジ36の同様な振動周波数のN個の時系列データから(N−1)次の代数式の外挿入関数を求め、この外挿入関数を用いて周波数予想曲線Lを求めて格納しておく。
【0089】
演算部111は、一定の時間間隔でサンプリングした上述の振動周波数の時系列変化と上記周波数予想曲線Lとを比較して、現時点より先の次の時間間隔で振動振幅が最大となる振動周波数の値を予測値Nとして予測する。そして、演算部111は、上記予測値Nが、予め数値解析により算出した周波数変化の許容値Jに至ったときに、アラーム113及び点灯ランプ114へ警告信号を出力し、アラーム113により聴覚的な警告を、点灯ランプ114により視覚的な警告をそれぞれ出力させる。
【0090】
または、本実施の形態の演算部111は、自身または周波数分析器112に蓄積された、ウェッジ36の振動振幅の最大値の時系列変化を、一定の時間間隔でサンプリングして、図15(B)の黒点に示すようにプロットする。また、演算部111は、過去にサンプリングしたウェッジ36の同様な振動振幅最大値のN個の時系列データから(N−1)次の代数式の外挿入関数を求め、この外挿入関数を用いて振幅予想曲線Oを求めて格納しておく。
【0091】
演算部111は、一定の時間間隔でサンプリングした上述の振動振幅の最大値の時系列変化と上記振幅予想曲線Oとを比較して、現時点より先の次の時間間隔での振動振幅の最大値を予測値Pとして予測する。そして、演算部111は、予測値Pが、予め数値解析により算出した振動振幅最大値の許容値Kに至ったときに、アラーム113及び点灯ランプ114へ警告信号を出力し、アラーム113により聴覚的な警告を、点灯ランプ114により視覚的な警告をそれぞれ出力させる。
【0092】
従って、本実施の形態によれば、次の効果(12)を奏する。
【0093】
(12)ウェッジ36の振動振幅が最大となる振動周波数の、現時点よりも先の次の時間間隔における予測値Nが周波数変化の許容値Jに至ったとき、またはウェッジ36の振動振幅の最大値の、現時点よりも先の次の時間間隔における予測値Pが振動振幅の最大値の許容値Kに至ったときに、アラーム113が作動し、点灯ランプ114が点灯することから、前記第8の実施の形態と同様な効果を奏するほか、ウェッジ36の交換のための準備期間を十分に確保することができる。
【0094】
以上、本発明を上記実施の形態に基づいて説明したが、本発明はこれに限定されるものではない。例えば、上記反射体43、44、51、52は監視対象物に一体に形成し、または監視対象物の一部に反射面を形成する構造にしても、それぞれ同様の効果を得ることができる。また、本実施の形態では、監視対象物はジェットポンプ13の場合を述べたが、原子炉圧力容器12内で振動するシュラウド15や気水分離器20等の他の炉内構造物であってもよい。更に、監視対象物は、原子炉圧力容器12以外の容器またはタンク内に設置された機器や、二重管の内側管、または熱交換器内のチューブであってもよい。
【符号の説明】
【0095】
10 振動・劣化監視装置
12 原子炉圧力容器(容器)
13 ジェットポンプ(監視対象物)
29 ライザ管(監視対象物)
33 インレットミキサー管(監視対象物)
36 ウェッジ(監視対象物)
40、41、42 超音波センサ
43、44 反射体
43A、44A 反射面
45 信号処理部
50 振動・劣化監視装置
51、52 反射体
53 コーナーリフレクタ
54、55 反射面
60、70、80、90 振動・劣化監視装置
100 振動・劣化監視装置
101 超音波センサ群
102 信号処理部
103 演算部
110 振動・劣化監視装置
111 演算部
112 周波数分析器
113 アラーム(警告手段)
114 点灯ランプ(警告手段)
120 振動・劣化監視装置
F 位置変化データ
G 許容限界高さ(許容摩耗量)
H 振動周波数の時系列変化
I 振動振幅の最大値の時系列変化
J 周波数変化の許容値
K 振動振幅最大値の許容値
L 周波数予想曲線
N 予想値
O 振幅予想曲線
P 予想値
Vx、Vy 振幅

【特許請求の範囲】
【請求項1】
容器内に配設された監視対象物の振動を、超音波を用いて監視する振動・劣化監視装置において、
前記監視対象物の長手方向に沿って前記容器外に複数設置されて、超音波を送信し且つ受信する超音波センサと、
前記超音波センサにて送信され前記監視対象物にて反射され当該超音波センサにて受信された超音波を信号処理して、前記監視対象物の振動振幅を計測する信号処理部と、
この監視対象物の振動振幅の時系列変化を蓄積する演算部と、
この監視対象物の振動振幅の時系列変化から、当該監視対象物の振動振幅が最大となる振動周波数とその最大振幅を求める周波数分析器とを有し、
前記演算部または前記周波数分析器は、前記監視対象物の振動振幅が最大となる振動周波数の時系列変化を蓄積し、
前記演算部は、蓄積した前記振動周波数の時系列変化が、予め算出した周波数変化の許容値に至ったときに、警告手段へ警告信号を出力するよう構成されたことを特徴とする振動・劣化監視装置。
【請求項2】
容器内に配設された監視対象物の振動を、超音波を用いて監視する振動・劣化監視装置において、
前記監視対象物の長手方向に沿って前記容器外に複数設置されて、超音波を送信し且つ受信する超音波センサと、
前記超音波センサにて送信され前記監視対象物にて反射され当該超音波センサにて受信された超音波を信号処理して、前記監視対象物の振動振幅を計測する信号処理部と、
この監視対象物の振動振幅の時系列変化を蓄積する演算部と、
この監視対象物の振動振幅の時系列変化から、当該監視対象物の振動振幅が最大となる振動周波数とその最大振幅を求める周波数分析器とを有し、
前記演算部または前記周波数分析器は、前記監視対象物における振動振幅の最大値の時系列変化を蓄積し、
前記演算部は、蓄積した前記振動振幅の最大値の時系列変化が、予め算出した振動振幅最大値の許容値に至ったときに、警告手段へ警告信号を出力するよう構成されたことを特徴とする振動・劣化監視装置。
【請求項3】
前記演算部は、当該演算部または前記周波数分析器に蓄積された、振動振幅が最大となる振動周波数の時系列変化を一定の時間間隔でサンプリングし、過去にサンプリングした同様な振動周波数の時系列データから周波数予想曲線を求め、前述のサンプリングした振動周波数の時系列変化と前記周波数予想曲線とから、次の時間間隔で振動振幅が最大となる振動周波数の値を予測し、この予測値が予め算出した周波数変化の許容値に至ったときに、警告手段へ警告信号を出力するよう構成されたことを特徴とする請求項1に記載の振動・劣化監視装置。
【請求項4】
前記演算部は、当該演算部または前記周波数分析器に蓄積された、振動振幅の最大値の時系列変化を一定の時間間隔でサンプリングし、過去にサンプリングした同様な振動振幅の最大値の時系列データから振幅予想曲線を求め、前述のサンプリングした振動振幅の最大値の時系列変化と前記振幅予想曲線とから、次の時間間隔での振動振幅の最大値を予測し、この予測値が予め算出した最大振動振幅の許容値に至ったときに、警告手段へ警告信号を出力するよう構成されたことを特徴とする請求項2に記載の振動・劣化監視装置。
【請求項5】
前記容器が原子炉圧力容器であり、監視対象物が、前記原子炉圧力容器内に配設されたジェットポンプのウェッジであることを特徴とする請求項1乃至4のいずれか1項に記載の振動・劣化監視装置。
【請求項6】
容器内に配設された監視対象物の振動を、超音波を用いて監視する振動・劣化監視方法において、
前記監視対象物の長手方向に沿って前記容器外に複数設置された超音波センサからの超音波を、監視対象物にて反射した後に当該超音波センサが受信し、
この受信した超音波を信号処理して、前記監視対象物の振動振幅を計測し、
この監視対象物の振動振幅の時系列変化から、当該監視対象物の振動振幅が最大となる振動周波数とその最大振幅を求め、
前記監視対象物の振動振幅が最大となる振動周波数の時系列変化が、予め算出した周波数変化の許容値に至ったときに、警告を発することを特徴とする振動・劣化監視方法。
【請求項7】
容器内に配設された監視対象物の振動を、超音波を用いて監視する振動・劣化監視方法において、
前記監視対象物の長手方向に沿って前記容器外に複数設置された超音波センサからの超音波を、監視対象物にて反射した後に当該超音波センサが受信し、
この受信した超音波を信号処理して、前記監視対象物の振動振幅を計測し、
この監視対象物の振動振幅の時系列変化から、当該監視対象物の振動振幅が最大となる振動周波数とその最大振幅を求め、
前記監視対象物における振動振幅の最大値の時系列変化が、予め算出した振動振幅最大値の許容値に至ったときに、警告を発することを特徴とする振動・劣化監視方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【公開番号】特開2011−22160(P2011−22160A)
【公開日】平成23年2月3日(2011.2.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−220797(P2010−220797)
【出願日】平成22年9月30日(2010.9.30)
【分割の表示】特願2010−124477(P2010−124477)の分割
【原出願日】平成19年9月13日(2007.9.13)
【出願人】(000003078)株式会社東芝 (54,554)
【Fターム(参考)】