説明

振動溶着方法

【課題】溶着部における樹脂母材の傾斜角度の影響を低減して、溶着品質の向上を図るとともに、傾斜角度の異なる複数の溶着部を1回の工程で同時に溶着する。
【解決手段】相対的に振動をするベース板20及び振動板22により、インストルメントパネル12と収納ボックス14、及び、インストルメントパネル12とダクト部材16とを層状に挟み込んで加圧及び加振をして溶着する。ベース板20の載置部21a〜21fにはウレタン材の保護材24が設けられている。保護材24の厚みA2、A3及びA4は、支持する箇所におけるインストルメントパネル12と載置部21a〜21eとの接触面の傾斜角度θ1及びθ2に基づいて設定されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、相対的に振動をする一対の振動部材により、樹脂母材と樹脂ワークとを層状に挟み込んで加圧及び加振をして溶着する振動溶着方法に関する。
【背景技術】
【0002】
樹脂部品を他の樹脂部品に振動溶着により接合することが従来から行われている。振動溶着は接着剤が不要であり、しかも加熱乾燥等の後工程も不要であって、例えば自動車の内装材に対して好適に用いられる。ところで自動車の内装材は外観品質が重要視されており、過度の溶着によるデフォームや加振による擦り傷等を防止することが望まれている。
【0003】
特許文献1には、加振をする治具と製品との間にウレタン樹脂等の素材を設けることが記載されている。溶着治具では、ウレタン樹脂は製品面の保護のために設けられており、その厚みは特に考慮されてなく、薄い均一厚みとなっている。
【0004】
特許文献2には、製品の受け治具に弾性体を設け、重ね合わせ部の部分的な相違を吸収し、振動治具の圧力を一定に保つことが記載されている。
【0005】
【特許文献1】特開2001−232686号公報
【特許文献2】特開2000−43567号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
振動溶着では、例えば、自動車のインストルメントパネル裏面に対して、助手席側SRS(Supplemental Restraint System)エアバッグの収納ボックスや、エアコンディショナのダクト等を接合することができる。これらの収納ボックスやダクト部材は、要求仕様から材質が異なり、例えば収納ボックスはエアバッグ作動時の前面開閉のためのヒンジ機能を有することから比較的融点が低く、軟らかいTPO(thermoplastic Olefin)であり、ダクト部材は比較的融点が高いPP(Polypropylene)である。
【0007】
インストルメントパネルは複雑な曲面を有しており、溶着治具等の支持体に対して当接する箇所の傾斜角度は、支持する場所により異なる。従来技術に係る振動溶着では、全体的に均一な加圧力を加えて加振していることから、傾斜角度の違いによっては本来の振動方向以外の動きが発生し、均一な溶着が得られない。これにより、溶着部の溶着品質の低下や、振動溶着装置に対して無駄な力が加わることによる寿命低下が懸念される。
【0008】
このような懸念を解消するためには、例えば、同じ傾斜角度の箇所毎に異なる溶着装置を用いることが考えられるが、装置コストの高騰及び工程数の増加となり、効率的でない。
【0009】
また、ダクト部材は複数の溶着部を有しており、溶着部毎に別工程で溶着をすることは非効率である。
【0010】
さらに、インストルメントパネル等は複雑な曲面を有し、しかも相当に面積の広い部材であり、全面を支持するためには受け側部材をインストルメントパネルに合わせた複雑形状に成形しなければならず、また必要となる保護材の量が多い。したがって、複雑で広い面積の樹脂母材を簡便に支持するとともに、使用する保護材を低減することが望まれている。
【0011】
また、形状の違いから同じ加圧及び加振条件で振動溶着を行うと、いずれか一方が変形してしまう懸念がある。
【0012】
本発明はこのような課題を考慮してなされたものであり、溶着部における樹脂母材の傾斜角度の影響を低減して、溶着品質の向上を図るとともに、傾斜角度の異なる複数の溶着部を1回の工程で同時に溶着することができる振動溶着方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明に係る振動溶着方法は、相対的に振動をする一対の振動部材により、樹脂母材と樹脂ワークとを層状に挟み込んで加圧及び加振をして溶着する振動溶着方法であって、前記樹脂ワークは2以上の箇所で前記樹脂母材に当接させ、前記樹脂母材と前記振動部材の一方との間及び(又は)前記樹脂ワークと前記振動部材の他方との間に保護材を設け、前記保護材の厚みは、支持する箇所における前記樹脂母材と前記振動部材との接触面の傾斜角度に基づいて設定することを特徴とする。
【0014】
このように、樹脂母材と振動部材との接触面の傾斜角度によって保護材の厚みを変えることにより、溶着部における樹脂母材の傾斜角度の影響を低減して、溶着品質の向上を図るとともに、傾斜角度の異なる複数の溶着部を1回の工程で同時に溶着することができる。ここで、保護材の厚みとは配設される角度に無関係な厚みであり、保護材の表面に対する法線方向の厚みである。
【0015】
前記保護材の厚みは、前記振動部材の相対的な振動方向を基準とした第1傾斜角度と、該第1傾斜角度に直角な方法を基準とした第2傾斜角度により規定してもよい。これにより、一層適切な保護材の厚みを規定することができる。
【0016】
本発明に係る振動溶着方法は、相対的に振動をする一対の振動部材により、樹脂母材と樹脂ワークとを層状に挟み込んで加圧及び加振をして溶着する振動溶着方法であって、前記樹脂ワークは2以上の箇所で前記樹脂母材に当接させ、支持する箇所により前記樹脂母材と前記振動部材との接触面の傾斜角度が異なり、前記樹脂母材は、前記振動部材に対して、当接している前記樹脂ワークの箇所毎に前記傾斜角度に応じた独立的な載置部により載置させ、独立的な複数の前記載置部のうち、少なくとも製品の意匠面に当接する箇所には保護材が設けられていることを特徴とする。
【0017】
このように、傾斜角度に応じた独立的な載置部を設けることにより、樹脂母材の全面を支持する必要がなく、簡便構成となる。また支持面積が小さくなり、保護材の量が少なくてすむ。
【0018】
独立的な複数の前記載置部のうち少なくとも1つには前記保護材がなくてもよい。
【0019】
前記保護材は、ウレタン材であると潤滑性と適度な強度と柔らかさを備えており、しかも表面が滑らかであり好適である。
【0020】
前記保護材は、前記樹脂母材と前記樹脂ワークとのうち、製品意匠面側に設けてもよい。これにより保護部材が製品意匠面側を保護することができ、振動による擦れ等を防止できる。
【0021】
前記樹脂母材は、PPであり、複数の前記樹脂ワークは、PP及びTPOを含んでいてもよい。
【発明の効果】
【0022】
本発明に係る振動溶着方法によれば、樹脂母材と振動部材との接触面の傾斜角度によって保護材の厚みを変えることにより、溶着部における樹脂母材の傾斜角度の影響を低減して、溶着品質の向上を図るとともに、傾斜角度の異なる複数の溶着部を1回の工程で同時に溶着することができる。
【0023】
また、本発明によれば、傾斜角度に応じた独立的な載置部を設けることにより、樹脂母材の全面を支持する必要がなく、簡便構成となる。また支持面積が小さくなり、保護材の量が少なくてすむ。
【発明を実施するための最良の形態】
【0024】
以下、本発明に係る振動溶着方法について実施の形態を挙げ、添付の図1〜図8を参照しながら説明する。
【0025】
本実施の形態に係る振動溶着方法は、図1に示す振動溶着装置10を用いて、自動車用のインストルメントパネル(樹脂母材)12に対して、助手席側SRSエアバッグの収納ボックス(樹脂ワーク)14及びエアコンディショナのダクト部材(樹脂ワーク)16を振動溶着により接合する。
【0026】
インストルメントパネル12は、複雑な曲面を有しており、しかも相当に面積の広い部材である。以下、インストルメントパネル12の横長方向をX方向とし、該X方向を基準とした角度(第1傾斜角度)をθ1とし、X方向に直角な方法を基準とした角度(第2傾斜角度)をθ2とする。X方向は、振動溶着装置10による加振方向である。
【0027】
インストルメントパネル12の材質は、PP材であり、融点は166℃程度である。収納ボックス14の材質はTPOであり、融点は150℃程度である。ダクト部材16の材質はPPであり、融点は166℃程度である。ダクト部材16は、中央送風部16a、端部送風部16b及びデフロスタ送風部16c等を有するが、全てPP材である。収納ボックス14は比較的軟らかく、ダクト部材16は比較的硬い。
【0028】
収納ボックス14は、裏面が開口したボックス構造であり、SRSを収納可能な構造になっている。収納ボックス14の底面14aは粗いメッシュ形状であり、底部がインストルメントパネル12に接合される。底面14aは、エアバッグ動作時に開放可能なヒンジ構造となっている。インストルメントパネル12における収納ボックス14が溶着される箇所の面は、エアバックの膨脹時に開裂する脆弱部を備えている。
【0029】
図1に示すように、振動溶着装置10は、ベース板(振動部材の一方)20と、振動板(振動部材の他方)22と、保護材24と、制御部26とを有する。
【0030】
ベース板20は、振動溶着装置10のベースとなる部材であり制御部26の作用下に床面に対して昇降可能である。ベース板20は独立的な複数の載置部21a〜21hを有し、ワークとしてのインストルメントパネル12を位置決め載置可能であり、さらに該インストルメントパネル12の上部に収納ボックス14及びダクト部材16を所定の位置に載置することができる。インストルメントパネル12は、製品意匠面12a側を下向きに載置される。載置部21a〜21hは、例えばアルミニウム材である。
【0031】
載置部21a及び21bは、中央送風部16aの2つの溶着部32bを支持する。中央送風部16aの2つの溶着部32bは前後方向にやや離れており、2つの独立した載置部21a及び21bで支持する。載置部21a及び21bの箇所は、インストルメントパネル12の最終製品としての使用時の正面下方に相当し、相当の傾斜を有し、角度θ2が大きくなっている。
【0032】
載置部21c〜21eは、インストルメントパネル12を介してデフロスタ送風部16cの6個の溶着部32bを順に一対ずつ支持する。デフロスタ送風部16cの6個の溶着部32bは、対応するインストルメントパネル12において一対毎に支持する箇所の角度θ1が異なる。つまり、図1で、デフロスタ送風部16cにおける右側の2つの溶着部32bを支持する箇所では、インストルメントパネル12の角度θ1はプラス値であり、左側の2つの溶着部32bを支持する箇所ではマイナス値であり、中央の2つの溶着部32bを支持する箇所では0である。したがって、このような角度θ1の違いに応じて3つの載置部21c〜21eが設けられている。
【0033】
載置部21fは、インストルメントパネル12を介して収納ボックス14を支持する。
【0034】
載置部21g及び21hは、インストルメントパネル12を介して、左右の端部送風部16bの溶着部32bを支持する。左右の端部送風部16bが溶着されるインストルメントパネル12の前面部は、所定の送風グリルにより覆われて、最終製品として使用されるときには視認されないものとする。
【0035】
振動板22は、ベース板20の上方に設けられており、ベース板20が上昇することにより、振動板22とベース板20はインストルメントパネル12の溶着部30aと収納ボックス14の溶着部30bとを層状に挟み込むとともに、インストルメントパネル12の溶着リブ部32aとダクト部材16の溶着部32bとを層状に挟み込み所定の加圧力を加えることができる。この加圧力は、制御部26によって制御可能である。
【0036】
振動板22は、制御部26及び加振手段27の作用下に、ベース板20に対して相対的に横方向(例えば、インストルメントパネル12の横長X方向)に振動をして、ワークに加振力を加えることができる。つまり、振動板22とベース板20は、相対的な振動をする一対の振動部材である。振動板22の振動の振幅、周波数、加振時間等は制御部26によって制御可能である。
【0037】
ベース板20におけるインストルメントパネル12が載置される載置部21a〜21f(つまり、ベース板20とインストルメントパネル12との間)には、保護材24が設けられており、載置部21g及び21hには保護材24は設けられていない。
【0038】
保護材24は、表面が滑らかなウレタン材であり、潤滑性と適度な強度と柔らかさを備えており、インストルメントパネル12を適切に支持することができる。また、保護材24は、インストルメントパネル12の製品意匠面12a側に設けられ、該製品意匠面12aを保護することができ、振動による擦れ等防止できる。
【0039】
図2、図3及び図4に示すように、保護材24の厚みは、支持する箇所によって異なる。基本的には、支持する箇所の樹脂ワーク(つまり、収納ボックス14及びダクト部材16)の材質により異なり、支持する箇所の樹脂ワークの融点が低いほど薄くなっている。すなわち、融点の比較的低い材質(TPO)の収納ボックス14を支持する箇所では、保護材24は薄い幅A1であり、融点の比較的高い材質(PP)のダクト部材16を支持する箇所では、保護材24は厚い幅A2、A3、A4となっている。保護材24は、必ずしも1枚で構成されている必要はなく、例えば、薄い箇所を1枚とし、厚い箇所を複数枚で構成してもよい。保護材24が複数枚から構成される場合、必ずしも単一の材質である必要はない。ここで、保護材24の厚みとは配設される角度に無関係な厚みであり、保護材24の表面に対する法線方向の厚みである。
【0040】
また、保護材24は、溶着物及び被溶着物の形状によって異なっているともいえる。すなわち、収納ボックス14が溶着される箇所は、エアバックの膨脹時に開裂する脆弱部を有することから過度な振動を加えないことが望ましく、保護材24を薄くして振動が抑制されている。
【0041】
保護材24の上面は滑らかな面となっており、厚み(保護材24のない状態、つまり厚み0を含む)は載置部21a〜21hの高さにより調整されている。
【0042】
保護材24の厚みは、同じ材質のワーク(PP)であっても支持する箇所におけるインストルメントパネル12と載置部21a〜21eとの接触面の傾斜角度θ1及びθ2に基づいて異なる値に設定されている。
【0043】
つまり、図5に示すように、保護材24の厚みAは傾斜角度θ1と傾斜角度θ2に基づいて仮想の面(平面又は曲面)29によって適正値が求められており、該面29に合わせた値になっている。図5から了解されるように、傾斜角度θ1の増加に伴って厚みAも増加し、増加の程度は比較的大きい。傾斜角度θ2の増加に伴って厚みAも増加するが、増加の程度は小さい。面29は、不感帯域があり、傾斜角度θ1及びθ2がそれぞれ0である近傍では厚みAは増加しない。傾斜角度θ1が、θ1=0である場合には、傾斜角度θ2の値に関わらず厚みAは一定である。
【0044】
図5の面29は、傾斜角度θ1及びθ2の違いによる振動方向(X方向)以外の動きの発生を抑制して、均一な溶着が得られるように設定されている。面29又はそれに相当する算出式は実験、計算及びシミュレーション等によって求められる。面29は、直交する2つの方向の傾斜角度θ1及びθ2に対応した値を示しており、いずれか一方の角度に基づく場合と比較して一層適切な保護材24の厚みAを規定することができる。
【0045】
なお、図5における傾斜角度θ1及びθ2は絶対値であり、プラス値及びマイナス値のいずれの角度にも対応可能である。インストルメントパネル12の対象面が曲面や複数の平面から構成されている場合には、平均的な傾斜角度θ1及びθ2に基づいて保護材24の厚みAを設定すればよいことはもちろんである。
【0046】
この図5によれば、図1における厚みA2を基準とすると、厚みA3及び厚みA4はより厚く設定されている。図1の載置部21a、21b、21c及び21eは傾斜角度θ1及びθ2のいずれか一方しか表記していないが、複合的な角度に基づいて厚みA3及びA4を設定してもよいことはもちろんである。
【0047】
面29の代わりに、相当する計算式やマップ等を用いてもよいことはもちろんである。例えば、図6に示すようなマップに基づいて保護材24の厚みを設定してもよい。このマップは、保護材24の厚みから傾斜角度θ1及びθ2に基づいて、鉛直方向の厚みを求め、その箇所における予想される反力を考慮して設定したマップであり、計算、実験及び経験値によって設定できる。また、保護材24の厚みが5mm未満となると、成形品にデフォームが発生する懸念があるので、5mmを下限値としている。
【0048】
ところで、載置部21g及び21hには保護材24が設けられていない。これは、これらの支持する箇所が、最終製品として組み立てられたときに他の部材によって隠れてしまうためである。これにより該保護材24の使用量を低減することができるとともに、保護材24の交換時の作業量を低減することができる。
【0049】
次に、このように構成される振動溶着装置10を用いて、インストルメントパネル12に対して、収納ボックス14及びダクト部材16を振動溶着により接合する振動溶着方法について説明する。
【0050】
先ず、準備として、載置部21a〜21hに対してインストルメントパネル12を位置決めして、載置する。載置部21a〜21fの上面には保護材24が設けられていることから、インストルメントパネル12は保護材24を介して載置部21a〜21fに載置される。
【0051】
次いで、インストルメントパネル12に対して収納ボックス14及びダクト部材16を位置決めして載置する。収納ボックス14及びダクト部材16は、予めインストルメントパネル12に位置決め及び仮固定しておき、該インストルメントパネル12と同時に載置部21a〜21hに載置してもよい。
【0052】
さらに、制御部26の作用下にベース板20を上昇させて、振動板22の押圧突起22aとベース板20はインストルメントパネル12の溶着部30aと収納ボックス14の溶着部30bとを層状に挟み込むとともに、インストルメントパネル12の溶着リブ部32aとダクト部材16の溶着部32bとを層状に挟み込み所定の加圧力を加える。溶着部30aと溶着部30bとの接触面、及び溶着リブ部32aと溶着部32bとの接触面には、保護材24の厚みに応じて異なる圧力が加わることになる。押圧突起22aは、例えばアルミニウム材である。
【0053】
次に、制御部26の作用下に振動板22をX方向に所定振幅及び所定周波数で振動させる。これにより、溶着部30aと溶着部30bとの接触面、及び溶着リブ部32aと溶着部32bとの接触面に摩擦熱が発生して振動溶着がなされる。
【0054】
また、保護材24は、載置部21a〜21eとインストルメントパネル12との接触面の傾斜角度θ1及びθ2に基づいて適切な厚みA2、A3、A4が設定されていることから、傾斜角度θ1及びθ2の違いによる振動方向(X方向)以外の動きの発生を抑制して均一な溶着が得られる。これにより、溶着部の溶着品質の向上させることができるとともに、振動溶着装置10に対する無駄な負荷を低減して装置寿命が向上する。
【0055】
所定時間の加振後、又は所定溶着量に到達した後に、振動板22の振動を止め、ベース板20を下降させて、溶着がなされたインストルメントパネル12、収納ボックス14及びダクト部材16を取り出す。取り出された製品では、インストルメントパネル12に対する収納ボックス14の溶着部及びダクト部材16の溶着部とも、十分な溶け込みが得られており、十分な溶着強度が得られる。しかも、溶け込みは深すぎることがなく、インストルメントパネル12の製品意匠面12aにデフォームの発生を抑制することができる。
【0056】
保護材24は、滑らかで且つ適度に柔らかいウレタン材であって潤滑性を有することから、製品意匠面12aを保護できるため、加振時にも該製品意匠面12aに対する擦り傷等を防止できる。
【0057】
なお、上述した方法では、ベース板20を上昇させるとき、各押圧突起22aは、各樹脂ワークの溶着部上面に対して同時に当接して、各溶着部に同じ加圧力を加えるようしているが、同じ加圧力を加えても、種々の要因によって適度な摩擦力が得られるとは限らない。したがって、図7に示すように、当接箇所によって押圧突起22aの突出長さB,B’を調整して、得られる加圧力を当接箇所毎に調整してもよい。図7では、B’がBより僅かに小さく、突出長さB’の押圧突起22aは、突出長さBの押圧突起22aよりも僅かに遅れてインストルメントパネル12の溶着部32bに当接する。
【0058】
さらに、上述した方法では、保護材24はインストルメントパネル12側に設けたが、設計条件によっては、図8に示すように、収納ボックス14及びダクト部材16側にも設けてもよい。この場合、インストルメントパネル12側の保護材24を省略してもよい。
【0059】
上述したように、振動溶着装置10及び本実施の形態に係る振動溶着方法によれば、保護材24は、載置部21a〜21eとインストルメントパネル12との接触面の傾斜角度θ1及びθ2に基づいて適切な厚みA2、A3、A4が設定されていることから、傾斜角度θ1及びθ2の違いによる振動方向(X方向)以外の動きの発生を抑制して均一な溶着が得られる。これにより、溶着部の溶着品質の向上させることができるとともに、振動溶着装置10に対する無駄な負荷及び非加振方向の負荷を低減して装置寿命が向上する。
【0060】
また、傾斜角度θ1及びθ2の違いがあっても1つの振動溶着装置10を用いて、1回の工程で溶着が行われ、装置コストの低減及び工程数の抑制が可能となり、効率的である。
【0061】
また、ダクト部材16は複数の溶着部32bを有しており、1回の工程で溶着することが合理的且つ効率的である。
【0062】
さらに、振動溶着装置10及び本実施の形態に係る振動溶着方法によれば、インストルメントパネル12が相当に面積の広い部材であるにも関わらず、傾斜角度θ1及びθ2に応じた独立的な載置部21a〜21fを設けることにより、インストルメントパネル12の全面を支持する必要がなく、簡便構成となる。また支持面積が小さくなり、保護材24の量が少なくてすむ。なお、独立的とは、インストルメントパネル12に当接する当接面が独立していることであり、例えば、載置部21aと載置部21bのように基部については共通にしてもよい(図1参照)。
【0063】
さらにまた、インストルメントパネル12は複雑な曲面を有するにも関わらず、各載置部21a〜21fの上面は面積が小さいことから平面として近似することができ、保護材24の厚みAの設定が容易であるとともに、各載置部21a〜21fでは保護材24の厚みAを均一にすることができる。各載置部21a〜21fの上面は平面に設定してもよい。各載置部21a〜21gは、個別に設計、製作、調整及びメンテナンスが可能である。
【0064】
本発明に係る振動溶着方法は、上述の実施の形態に限らず、本発明の要旨を逸脱することなく、種々の構成を採り得ることはもちろんである。
【図面の簡単な説明】
【0065】
【図1】振動溶着装置及びワークの分解斜視図である。
【図2】振動溶着装置によってインストルメントパネルと収納ボックス及びダクト部材を挟持した状態の断面正面図である。
【図3】振動溶着装置によってインストルメントパネルと収納ボックス及びダクト部材を挟持した状態の一部拡大断面正面図である。
【図4】振動溶着装置によってインストルメントパネルと収納ボックス及びダクト部材を挟持した状態の断面側面図である。
【図5】傾斜角度θ1及びθ2に基づく保護材の適切な厚みを示すグラフである。
【図6】傾斜角度θ1及びθ2に基づく保護材の適切な厚みを示すマップである。
【図7】当接箇所によって押圧突起の突出長さを調整した振動溶着装置の断面図である。
【図8】樹脂ワーク側に保護材を設けた振動溶着装置の断面図である。
【符号の説明】
【0066】
10…振動溶着装置 12…インストルメントパネル
12a…製品意匠面 14…収納ボックス
16…ダクト部材 20…ベース板
21a〜21h…載置部 22…振動板
22a…押圧突起 24…保護材
26…制御部 27…加振手段
30a、30b、32b…溶着部 32a…溶着リブ部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
相対的に振動をする一対の振動部材により、樹脂母材と樹脂ワークとを層状に挟み込んで加圧及び加振をして溶着する振動溶着方法であって、
前記樹脂ワークは2以上の箇所で前記樹脂母材に当接させ、
前記樹脂母材と前記振動部材の一方との間及び(又は)前記樹脂ワークと前記振動部材の他方との間に保護材を設け、
前記保護材の厚みは、支持する箇所における前記樹脂母材と前記振動部材との接触面の傾斜角度に基づいて設定することを特徴とする振動溶着方法。
【請求項2】
請求項1記載の振動溶着方法において、
前記保護材の厚みは、前記振動部材の相対的な振動方向を基準とした第1傾斜角度と、該第1傾斜角度に直角な方法を基準とした第2傾斜角度により規定することを特徴とする振動溶着方法。
【請求項3】
相対的に振動をする一対の振動部材により、樹脂母材と樹脂ワークとを層状に挟み込んで加圧及び加振をして溶着する振動溶着方法であって、
前記樹脂ワークは2以上の箇所で前記樹脂母材に当接させ、支持する箇所により前記樹脂母材と前記振動部材との接触面の傾斜角度が異なり、
前記樹脂母材は、前記振動部材に対して、当接している前記樹脂ワークの箇所毎に前記傾斜角度に応じた独立的な載置部により載置させ、
独立的な複数の前記載置部のうち、少なくとも製品の意匠面に当接する箇所には保護材が設けられていることを特徴とする振動溶着方法。
【請求項4】
請求項3記載の振動溶着方法において、
独立的な複数の前記載置部のうち少なくとも1つには前記保護材がないことを特徴とする振動溶着方法。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれか1項に記載の振動溶着方法において、
前記保護材は、ウレタン材であることを特徴とする振動溶着方法。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれか1項に記載の振動溶着方法において、
前記保護材は、前記樹脂母材と前記樹脂ワークとのうち、製品意匠面側に設けることを特徴とする振動溶着方法。
【請求項7】
請求項1〜6のいずれか1項に記載の振動溶着方法において、
前記樹脂母材は、PPであり、複数の前記樹脂ワークは、PP及びTPOを含むことを特徴とする振動溶着方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate


【公開番号】特開2009−202398(P2009−202398A)
【公開日】平成21年9月10日(2009.9.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−46043(P2008−46043)
【出願日】平成20年2月27日(2008.2.27)
【出願人】(000005326)本田技研工業株式会社 (23,863)
【Fターム(参考)】