説明

排気ガス浄化用フィルター

【課題】 排気ガス浄化用フィルターにおける浄化効率を向上させる。
【解決手段】 多孔質材料からなる隔壁によって画成された排気流通路を具備し、これら排気流通路のうちの一部の排気流通路はその下流端開口部が閉塞されて排気流入通路とされ、残りの排気流通路のうち少なくとも一部の排気流通路はその上流端開口部が閉塞されて排気流出通路とされ、排気流入通路に流入した排気ガスが隔壁の細孔を通って排気流出通路に流出するようになっている排気ガス浄化用フィルターにおいて、前記隔壁内の細孔の細孔径を5〜70μmとし、この隔壁の排気流入通路側の壁面上に、細孔径が50〜200μmである追加多孔質層を配置し、前記隔壁内及び追加多孔質層内の細孔表面上に酸化触媒を担持させている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、排気ガス浄化用フィルターに関し、詳細にはディーゼルエンジン等からの排気ガス中に含まれるパティキュレート(以下PMとする)を捕集して処理するウォールフロー型排気ガス浄化用フィルターに関する。
【背景技術】
【0002】
自動車用エンジン等の内燃機関、特にディーゼルエンジンから排出される排気ガスにはPMが含まれており、このPMを除去するため、排気通路にトラップを配置し、このトラップによってPMを捕集し、後処理によって除去することが提案されている(例えば、特許文献1参照)
【0003】
また現在、PMを捕集し処理するため、図1に示すようなウォールフロー型フィルターが一般に用いられている。このフィルター10はハニカム構造をなしており、互いに平行をなして延びる複数個の排気流通路11、12を具備している。これら排気流通路の略半数はその出口端が栓13により閉塞されて排気流入通路11を構成し、残りの半数がその入口端において栓14により閉塞されて排気流出通路12を構成する。これら排気流入通路11及び排気流出通路12は、排気ガスは通過できるがPMは通過できない程度の細孔が存在している隔壁15を介して交互に配置されている。云い換えると、排気流入通路11及び排気流出通路12は各排気流入通路11が4つの排気流出通路12により包囲され、各排気流出通路12が4つの排気流入通路11により包囲されるように配置されている(例えば、特許文献2参照)。
【0004】
このような構造のフィルターに排気ガスが流入すると、図1(B)に示すように、排気流入通路11内に流入した排気ガスは必ず隔壁15を通過して隣接する排気流出通路12内に流入するため、排気流入通路側の隔壁上でPMは捕集される。この捕集されたPMはヒータ加熱等により着火燃焼されるか、又はフィルター上に担持させた触媒の作用によって自己燃焼されることによって除去される。
【0005】
【特許文献1】特開平6−129229号公報
【特許文献2】特開2003−211001号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところが、このような形態の排気ガス浄化用フィルターでは、セルの隔壁表面においてPMを捕集し、触媒作用により燃焼させ処理しているが、条件によってはPMの燃焼速度が急速に低下し、そのため燃焼により除去されるPMよりも排気流入通路に流入するPMの方が多く、結局、隔壁表面上にPMが堆積してしまう。この際、触媒作用が及ぶ隔壁表面から200μm程度まではPMを燃焼除去することができるが、その結果PMの一部が隔壁表面上にブリッジ状に浮いた状態で残存することがある。すると、触媒作用が及ばない部位にPMが次々と堆積し、除去することができなくなってしまう。その結果、背圧が上昇し、燃費が悪化する。また何らかの条件で堆積したPMが着火すると、温度が急激に上昇し、フィルターが割れたり、触媒が大きく熱劣化してしまうといった問題がある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するために本発明によれば、多孔質材料からなる隔壁によって画成された排気流通路を具備し、これら排気流通路のうちの一部の排気流通路はその下流端開口部が閉塞されて排気流入通路とされ、残りの排気流通路のうち少なくとも一部の排気流通路はその上流端開口部が閉塞されて排気流出通路とされ、排気流入通路に流入した排気ガスが隔壁の細孔を通って排気流出通路に流出するようになっている排気ガス浄化用フィルターにおいて、前記隔壁内の細孔の細孔径を5〜70μmとし、この隔壁の排気流入通路側の壁面上に、細孔径が50〜200μmである追加多孔質層を配置し、前記隔壁内及び追加多孔質層内の細孔表面上に酸化触媒を担持させている。
【発明の効果】
【0008】
隔壁の排気流入通路側に、細孔径が隔壁内の細孔よりも大きくかつ所定の大きさである細孔を有する追加層を配置することにより、PMをこの追加層の細孔内に導き、隔壁上にPMが堆積することを防ぐ。この追加層内の細孔の大きさは触媒作用が及ぶ最大限度である200μm以下であるため、細孔に流入したPMはすべて触媒作用を受けることができ、その結果、細孔内に導入されたPMはすべて触媒作用によって燃焼除去されるため、触媒作用が及ばない部位に堆積することがない。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
本発明の排ガス浄化用フィルターは、基本的には図1に示す従来のフィルターと同様の構造を有している。すなわち、多孔質材料からなる隔壁によって画成された排気流通路を具備し、これら排気流通路のうちの一部の排気流通路はその下流端開口部が栓13により閉塞されて排気流入通路11とされ、残りの排気流通路のうち少なくとも一部の排気流通路はその上流端開口部が栓14により閉塞されて排気流出通路12とされ、排気流入通路11に流入した排気ガスが隔壁15の細孔を通って排気流出通路12に流出するようになっている。
【0010】
本発明の排ガス浄化用フィルターでは、図2に示すように、排気流入通路11側の隔壁15の表面に追加多孔質層16が配置されていることを特徴とする。隔壁内の細孔の細孔径は、従来のフィルターの場合と同様に、PMを確実に捕集するため5〜70μmであるが、追加層内の細孔の細孔径は50〜200μm、好ましくは70〜100μmである。50μmよりも小さいと、PMを細孔内に確実に導入することができず、表面上に堆積してしまう。一方細孔径を200μm以下とするのは以下の理由による。
【0011】
PMの触媒による酸化反応は、触媒によって活性化された活性酸化物質(例えば活性酸素、NO2、O3等)がPMと反応することにより行われるが、この活性酸化物質の寿命は短く、200μm以上の距離まで到達することができない。従って触媒から200μmよりも離れた部位には触媒作用は及ばない。追加層の細孔径が200μmよりも大きいと、細孔内に導入されたPMのうち、触媒作用が及ばない、触媒から200μmよりも離れた部位にPMが存在する可能性がある。換言すると、細孔の径を200μm以下とすれば、導入されたすべてのPMは必ず触媒から200μmの位置にあり、触媒作用を受けることができるからである。
【0012】
追加層16の厚みは、流入するPMの量に応じてきめればよく、流入するPMが多ければ厚くし、少なければ薄くてもよい。通常は、約200μm程度の厚みの追加層を配置すれば十分であると考えられるが、場合によっては排気流入通路の全容積を占めてもよい。
【0013】
このフィルター10において排気流通路(セル)の密度は特に限定される必要はなく、約200セル/平方インチのような中密度のもの、1000セル/平方インチ以上のように高密度のものが使用されることができる。排気流通路の断面形状は通常四角形であるが、六角形等の多角形であってもよい。
【0014】
このフィルター10(隔壁15及び栓14、15)及び追加層16を形成する材料は、高温の排気ガスに耐えることができる耐熱性の、従来よりフィルターに用いられているものを用いることができる。その例として、コージェライト、アルミナ、シリカ、チタニア、ジルコニア、シリカ−アルミナ、アルミナ−ジルコニア、アルミナ−チタニア、シリカ−チタニア、シリカ−ジルコニア、チタニア−ジルコニア、ムライト等の耐熱性のあるセラミック材料が挙げられる。
【0015】
このフィルター10は、例えば以下のようにして製造する。まず、上記のセラミック材料の粉末を主成分とする粘土状のスラリーを調製し、これを押出成形等によって所定の形状に成形し、焼成してハニカム構造体とする。次いで、このハニカム構造体の一端面の排気流通路の開口部を同様の粘度状のスラリーを用いて、例えば市松状に目封じして閉塞させ、他の端では、一端面で目封じされていない開口部を目封じして、排気流通路の開口部の両端を交互に目封じする。その後焼成によって目封じを固定して栓13を形成する。
【0016】
このフィルター10の隔壁15内に細孔を形成するには、上記のスラリー中にカーボン粉末、木粉、澱粉、有機ポリマー等の可燃性粉末を混合しておき、焼成によってこの可燃性粉末を消失させることにより行う。また、この隔壁15内の細孔の細孔径を所定の範囲、すなわち5〜70μmとするには、スラリーに混入する可燃性粉末の粒径を調整することによって行う。
【0017】
隔壁15の排気流入通路側の壁面上に追加多孔質層16を形成するには、上記のようにしてフィルターを形成した後、排気流入通路11の壁面上に、上記と同様のセラミック材料の粉末を主成分とする粘土状のスラリーをコートし、焼成することによって行う。また、この追加層16内の細孔も、隔壁内の細孔と同様にして形成することができる。この場合、スラリーに混入する可燃性粉末の粒径を所定の範囲、すなわち50〜200μmとすることにより、追加層内の細孔の細孔径を所望の範囲に調整することができる。
【0018】
本発明の排気ガス浄化フィルター10には、隔壁15内の細孔及び追加層内の細孔表面には酸化触媒が担持されている。この触媒は細孔表面に触媒コート層を設け、このコート層に触媒成分を担持させることにより担持される。触媒コート層としては、アルミナ、ジルコニア、セリアのような酸化物のほか、ジルコニア-セリア、アルミナ-セリア-ジルコニア、セリア-ジルコニア-イットリア、ジルコニア-カルシアのような複合酸化物からなるものが好適に使用可能である。触媒成分としては、触媒反応によってPMの酸化を促進するものであればよく、周期律表の3A〜7A族、貴金属を含む8族、1B族、及びf-ブロック元素を含む遷移金属が好適に使用可能であり、マンガン(Mn)、鉄(Fe)、コバルト(Co)、ニッケル(Ni)、銅(Cu)、イットリウム(Y)、ジルコニウム(Zr)、ニオブ(Nb)、モリブデン(Mo)、ハフニウム(Hf)、タンタル(Ta)、タングステン(W)、ランタン(La)、セリウム(Ce)、プラセオジウム(Pr)、ネオジム(Nd)、及び白金(Pt)、金(Au)、パラジウム(Pd)、ルテニウム(Ru)、ロジウム(Rh)等の貴金属が例示され、好ましくは、マンガン、鉄、コバルト、ニッケル、銅、白金、金、パラジウム、ルテニウム、及びロジウムから選択された少なくとも1種の遷移金属である。
【0019】
この触媒は、通常の方法によりフィルター10の隔壁15内及び追加層16内の細孔表面に担持することができる。例えば、上記のアルミナ、ジルコニア、セリア-ジルコニア等の粉末を用いてスラリーを調製し、このスラリーにフィルター10を浸漬してスラリーをフィルター10に含浸させる。次いで、このスラリーを含浸したフィルター10を乾燥・焼成してフィルターの細孔表面に触媒コート層を形成した後、上記の各種の触媒成分の硝酸塩、塩化物等を用い、蒸発乾固法、沈殿法、吸着法、イオン交換法、還元析出法等によって触媒成分を担持させる。あるいは、触媒成分を上記のアルミナ等にあらかじめ担持させておき、この触媒を担持させたアルミナのスラリーを用いてコート層を形成してもよい。この触媒コート層の厚みは通常50〜200μmである。また、触媒成分の担持量は、通常100〜400g/Lである。
【0020】
本発明のフィルターには、酸化触媒に加え、NOx吸収材も細孔表面に担持させてよい。NOx吸収材とは、250℃程度の低温ではNO及びNO2を吸収するが、高温になると、350℃をピークとしてNO2を放出するものをいい、例えばアルカリ金属、アルカリ土類金属を用いることができ、好ましくはNa、Liである。NO及びNO2は低温においてはPMの燃焼には関与しないが、高温、例えば400℃以上になると下式に示すような反応によって、PMの燃焼がさかんになる。
【0021】
NO+1/2O2 → NO2
NO2+C → NO+CO又はN+CO2
【0022】
このように、細孔内にNOx吸収材を配置することにより、NO2がPMの燃焼に関与する高温において、細孔内の局所的なPMの燃焼による燃焼熱によって必要なタイミングでNO2が放出され、PMの燃焼がさらに促進される。
【0023】
従来の排気ガス浄化用フィルターは、フィルターの隔壁表面においてPMを捕集し、燃焼させて除去していた。この場合、PMが堆積し、圧力損失が大きくなるという問題があり、隔壁の細孔径を大きくし、隔壁内の細孔内にPMを導き、そこで燃焼除去することも提案されている。上記のように、酸化触媒の効果が及ぶのは触媒から200μmまでの範囲であり、それより離れた部位に存在するPMは触媒による酸化燃焼を行うことができない。従って、隔壁上に堆積したPMは触媒と接する付近では酸化燃焼させることができるが、200μm以上堆積したPMは酸化されない。また触媒と接する付近のPMは燃焼されても、堆積したPMは隔壁表面との間に空間を残して隔壁表面上にブリッジ状に残ることがある。そのような場合には、PMには触媒作用が及ぶことなく、PMを燃焼させることができない。また、隔壁内の細孔内にPMを導入した場合でも、細孔の径を適切に設定しないと、導入したPMを完全に燃焼させることができず、細孔内にPMが残ってしまう。本発明では、隔壁表面に細孔径が50〜200μmである細孔を有する追加層を配置することにより、排気ガス中のPMをこの追加層内の細孔に導入し、この細孔内で燃焼させることにより、隔壁上にPMが堆積することを防ぎ、なおかつ細孔径を触媒の効果が及ぶ200μm以下とすることにより、細孔内に導入したPMを完全に燃焼させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】従来の排気ガス浄化用フィルターの構造を示す模式図であり、Aはこのフィルターの正面図であり、Bはガス流入方向の断面図である。
【図2】本発明の排気ガス浄化用フィルターの構造を示す部分断面図である。
【符号の説明】
【0025】
10 排気ガス浄化用フィルター
11 排気流入通路
12 排気流出通路
13、14 栓
15 隔壁
16 追加多孔質層

【特許請求の範囲】
【請求項1】
多孔質材料からなる隔壁によって画成された排気流通路を具備し、これら排気流通路のうちの一部の排気流通路はその下流端開口部が閉塞されて排気流入通路とされ、残りの排気流通路のうち少なくとも一部の排気流通路はその上流端開口部が閉塞されて排気流出通路とされ、排気流入通路に流入した排気ガスが隔壁の細孔を通って排気流出通路に流出するようになっている排気ガス浄化用フィルターであって、前記隔壁内の細孔の細孔径が5〜70μmであり、この隔壁の排気流入通路側の壁面上に、細孔径が50〜200μmである追加多孔質層を配置し、前記隔壁内及び追加多孔質層内の細孔表面上に酸化触媒を担持させたことを特徴とする排気ガス浄化用フィルター。
【請求項2】
前記追加多孔質層内の細孔の細孔径が70〜100μmである、請求項1記載の排ガス浄化用フィルター。
【請求項3】
前記隔壁内及び追加多孔質層内の細孔表面上にNOx吸収材が担持されている、請求項1記載の排気ガス浄化用フィルター。
【請求項4】
前記追加多孔質層が排気流入通路の全容積を占めている、請求項1記載の排気ガス浄化用フィルター。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate


【公開番号】特開2006−192347(P2006−192347A)
【公開日】平成18年7月27日(2006.7.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−5272(P2005−5272)
【出願日】平成17年1月12日(2005.1.12)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】