説明

接合材料及びその製造方法、並びにそれを用いた実装方法

【課題】酸化銀を粒子状で供給する場合に生じる初期の空隙率を低下させ、組成(還元剤と酸化銀との構成比)を維持することのできる接合材料、及びその製造方法、並びにそれを用いた実装方法を提供する。
【解決手段】電子部品や半導体を電気的に接合するための接合材料に関し、酸化銀を粒子として供給するのではなく、その最表面が酸化銀層であるものを用いる。接合材料となる酸化銀は金属銀を酸化させることにより、粒子ではなく高密度な層として提供できる。金属銀の供給は、金属銀を目的の形状に鋳造、鍛造、圧延することで可能である。さらに、蒸着、めっきすることで、様々な材質に対してその表面に金属銀を供給することが可能となる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電子部品中の電気的接合(例えば、半導体素子と回路部材との接合)を行うための接合材料、当該接合材料の作製法、ならびに当該接合材料を用いて電子部材に接合する、あるいは電子部材同士を接合する方法に関する。なお、本明細書では、以下、半導体素子や回路部材等を総称して電子部材と称することとする。
【背景技術】
【0002】
エレクトロニクス分野において、配線や電極形成を低温で行うために、酸化銀粒子とこれを低温で還元することが可能な還元剤を混合した組成物が提案されている。また、電子部材間を電気的に接続する接合材料として、バインダを含有する組成物(特許文献1参照)、あるいはバインダを含有しない組成物(特許文献2参照)が提案されている。特に、後者のバインダを含有しない組成物を接合材料として用いた場合、接合させる相手電極に対して金属接合が得られるため(非特許文献1参照)、放熱性と接合信頼性に優れた接合部を提供できる。
【0003】
酸化銀と還元剤からなる組成物を加熱すると、低温でも優れた焼結能力を有する粒径が小さい銀粒子が生成する。次に、熱処理により組成物中に含まれる有機成分が分解することで、生成した銀粒子と接合する電子部品の電極との接合と銀粒子間の焼結がなされる。最終的に、有機成分が除去されることで、金属銀のネットワークで構成された接合層を有する電子部品が完成する。金属銀で構成されることで放熱特性に優れた接合層となる。接合に要する加熱温度が、エレクトロニクス実装で広く用いられているはんだ材と同程度であるため、高放熱が可能な電子部品用接合材料として注目されている。ただし、良好な接合状態とするためには、加熱工程とともに加圧付与の工程が必要とされている。
【0004】
上記粒子状の酸化銀接合用材料の供給は、酸化銀を低温で銀に還元するための還元剤を添加して、下記の手法によりなされることが提案されている。
【0005】
1)粘度調整のための種々の溶剤を添加し、ペースト状態で印刷する手法。
2)ペースト状態で板材に塗布してこれを挿入する手法。
3)室温で液体状態にならない還元剤を選定し、該固体粉末に圧力を付与しシート状で挿入する手法。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2003−309352号公報
【特許文献2】特開2007−335517号公報
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】14th Symposium on Microjoing and Assembly Technology in Electronics予稿集、p.185
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
発明者らは、上述のような粒子状の酸化銀を用い接合する技術に関して、鋭意実験を行った結果、次に述べる課題があることを発見した。
【0009】
酸化銀粒子を用いた接合では、はんだを用いた接合とは異なり、材料が溶融しないため、接合前に空隙が存在すると、その空隙が接合後にも空隙として残存しやすい。酸化銀を用いた接合では、接合後の接合層となる焼結銀層の緻密度が高いことが、優れた放熱性や機械的特性に必要である。この観点から接合前の酸化銀の供給は空隙率を低下させなければならない。
【0010】
初期の空隙率を低下させる手法として、酸化銀粒子の粒子径を減少させる手法があるが、その粒径がナノメートルサイズとなると、有機物で被覆することで粒子間の凝集を防止する必要が生じる。この場合、酸化銀の粒子径が減少し大きな表面積となっているために、組成物中の有機成分が増加する。接合前の有機成分の存在領域は、接合後に空隙として残存しやすいとともに、酸化銀から還元した銀粒子間の焼結を阻害するため、かえって接合状態が悪化する場合がある。また、揮発しにくい有機物で被覆することになるため、銀粒子間の焼結を進行させるために、接合温度が上昇するという問題もある。温度上昇によって電子部材が破壊される可能性があるからである。
【0011】
また、粒子状の組成物を供給するためには、ペースト化して印刷するあるいはディップする手法が取られる。しかし、精度よく印刷するには、酸化銀粒子を還元させるのに必要な添加量以上の有機物量を添加する必要が生じる。あるいは、粘度を調整するために還元剤の他に、種々の溶剤を添加する必要がある。これら有機物量の増加により、初期空隙率の増加や接合温度の上昇という問題が生じる。
【0012】
これを防止するために接合前に乾燥させる手法がとられる場合があるが、酸化銀は低温で還元しやすい性質を持つために乾燥工程は難しい。また、溶剤と還元剤に親和力がある場合、溶剤と同時に酸化銀還元に必要な還元剤も除去される場合がある。さらに、粘度調整と低温での揮発性を両立する溶剤が限定されてしまうという問題もある。
【0013】
酸化銀粒子の印刷性を良い状態にすることは、酸化銀粒子と溶剤との分散性が良い状態であることを意味する。このことから、加圧を付与して接合を行うと、溶剤とともに酸化銀粒子が外部に排出される問題が生じる。また、揮発性の高い溶剤成分を用いた際、突沸などにより酸化銀粒子や還元剤の飛散が生じ、酸化銀粒子間にある一定の強度がないという問題も生じる。
【0014】
また、酸化銀粒子を用いた接合の場合、無加圧での接合領域では、焼結銀層自体や焼結銀層と接合相手電極との強度が著しく低くなるという問題もある。例えば、接合面積よりも塗布面積が大きい場合、無加圧での接合領域(はんだ接合の場合、フィレットに相当する箇所)が存在し、その領域は、焼結銀接合層と電極との接合強度が著しく低くなる。脆い焼結層は、接合後の後工程時に剥がれショートする可能性、あるいは樹脂封止やめっき処理した場合に、密着度が悪く欠陥となる可能性があり、これを防止するために洗浄除去する必要がある。よって、酸化銀粒子の塗布面積は接合面積と同等にすることが望まれ、高い印刷精度が要求される。
【0015】
酸化銀粒子ペーストを板材に塗布することでシート状態とし接合する相手材に供給する手法では、例えばシートをロール状に巻いて保管するために、酸化銀粒子間に一定の強度が必要となる。しかし、ペーストを塗布する手法では有機物同士の密着であり強度が低く、また板材と酸化銀粒子間には強度がないためにロール状に巻いて保管することができない。また、圧力をかけてシートを成形する方法を用いても、酸化銀粒子は硬く変形し難いために、空隙が存在するという問題、あるいは有機物同士の密着層となることから、層厚が200μmを下回るとハンドリング性が悪くなるという問題がある。
【0016】
酸化銀粒子と還元剤の反応性については、室温でも進行する場合が多く、二液製にする必要や、一液製にするために室温で還元が進行しないように種々の有機物を混合させる必要がある。このように、酸化銀粒子ペーストの使用前には種々の成分を混合する必要があり、組成の安定性が悪いという問題がある。
【0017】
本発明はこのような問題に鑑みてなされたものであり、酸化銀を粒子状で供給する場合に生じる初期の空隙率を低下させ、組成(還元剤と酸化銀との構成比)を維持することのできる接合材料、及びその製造方法、並びにそれを用いた実装方法を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0018】
上記課題を解決するために、本発明は、電子部品や半導体を電気的に接合するための接合材料に関し、酸化銀を粒子として供給するのではなく、その最表面が酸化銀層であるものを用いる。
【0019】
接合材料となる酸化銀は金属銀を酸化させることにより、粒子ではなく高密度な層として提供できる。金属銀の供給は、金属銀を目的の形状に鋳造、鍛造、圧延(冷間圧延あるいは熱間圧延)することで可能である。さらに、蒸着、めっきすることで、様々な材質に対してその表面に金属銀を供給することが可能となる。
【0020】
酸化銀を用いた接合では、その還元時に粒径が小さい銀粒子が生成することで低温かつ低加圧な接合が可能となる。これは、金属粒子の粒径が減少すると、曲率が大きくなるために焼結能力が向上するためであり、この現象を利用した接合技術が発明されている。金属粒子の焼結は、粒子間のネック部に表面張力が作用し、ネックが成長することでなされる。すなわち、曲率の大きな粒子を接合材に用いることで、表面張力がバルク状態よりも増大し低温、低加圧で電気的な接合が可能となる。
【0021】
発明者らは、酸化銀から銀へ還元する挙動を透過型顕微鏡により調査した。その結果、還元前の酸化銀の曲率が小さい層状であっても、還元し生成する銀の曲率は大きくなることを確認した。これは、酸化銀が銀に還元され体積が減少する現象が、図1(a)に示すように、相似形で収縮するのではなく、図1(b)に示すように酸化銀内に多数の金属銀の核が形成し、元の外形を維持したまま形骸化して還元するためであることを見出した。
【0022】
即ち、本発明による接合材料は、電子部品や半導体を電気的に接合するための接合材料であって、その最表面に酸化銀層が形成されていることを特徴とする。ここで、酸化銀層の厚さが400nm〜5μmであることが好ましい。また、酸化銀層の下地は金属銀(Ag)、加工又は鋳造された金属銀(Ag)、或いは蒸着/めっきされた金属銀(Ag)層であることが好ましい。また、酸化銀層の表面の曲率半径が1μmより小さく、酸化銀層の表面に融点が200℃以上である有機金属塩を含む層が形成されていることが好ましい。なお、酸化銀層の表面に室温で固体であるアルコール類、カルボン酸類、アミン類を含む層が形成されていてもよい。また、接合材料の芯材は、Ag、Au、Cu、Pt、Ni、Co、Si、Fe、Mn、Ti、Mo、Al、Inの何れかの単体、合金、或いは混合物、Sn単体、或いはSnを主体とする合金、無機物、有機物の単体、或いは混合物である。さらに、接合材料の形状は、シート状、ボール状、又はピン状である。また、接合材料の全面に酸化銀層が形成されていなくても良く、最表面の一部に酸化銀層が形成されていればよい。
【0023】
本発明による接合材料の製造方法は、電子部品や半導体を電気的に接合するための接合材料の製造方法であって、最表面がAgである金属、無機物、有機物の単体あるいは複合体で構成される下地層に対して、酸化銀層を陽極酸化又はオゾン酸化により形成することを特徴とする。その際、酸化銀層を形成する処理条件を制御し、下地層に金属銀(Ag)を一部残した状態にしてもよい。
【0024】
本発明による実装方法は、接合材料を用いて、電子部品或いは半導体を電極に接合する実装方法であって、上述の接合材料の前記酸化銀層に還元剤を供給し、電子部品或いは半導体の接合面を100℃〜400℃で加熱し、接合面を0.1〜20MPaで加圧することを特徴とする。ここで、還元剤として、アルコール類、カルボン酸類、アミン類、又はカルボン酸金属を用いることができる。また、還元剤を接合面にのみ供給することで、接合面以外を酸化銀層のまま残存させるようにしてもよく、還元剤を酸化銀層全面に供給するようにしてもよい。
【0025】
本発明による実装方法は、接合材料を用いて、電子部品或いは半導体を電極に接合する実装方法であって、上述の接合材料を用いて、還元ガス雰囲気内で、電子部品或いは半導体接合面を100℃〜400℃で加熱し、接合材料の酸化銀が金属銀に還元する際に接合面を0.1〜20MPaで加圧することを特徴とする。
【0026】
さらなる本発明の特徴は、以下本発明を実施するための最良の形態および添付図面によって明らかになるものである。
【発明の効果】
【0027】
本発明の接合材料を用いれば、酸化銀を粒子状で供給する場合に生じる初期の空隙率を低下させ、組成(還元剤と酸化銀との構成比)を維持することができるようになる。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【図1】酸化銀が還元し銀粒子を生成する挙動を示した断面模式図である。
【図2】本発明に係る一つの例である陽極酸化条件と酸化銀層の厚さとの関係を示したグラフである。
【図3】本発明に係る一つの例である酸化銀層の厚さと規格化せん断強度の関係を示したグラフである。
【図4】本発明に係る一つの例である表面を焼結銀層、酸化銀層した場合の接着剤との強度向上を示すグラフである。
【図5】本発明に係る一つの例である接合温度、保持時間と規格化せん断強度との関係を示したグラフである。
【図6】本発明に係る一つの例である接合加圧力の大きさと規格化せん断強度との関係を示したグラフである。
【図7】本発明に係る一つの例である封止用リッドを示した断面模式図である。
【図8】本発明に係る一つの例である封止用リッドを示した断面模式図である。
【図9】本発明に係る一つの例である各種電極と規格化せん断強度との関係を示したグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0029】
以下、添付図面を参照して本発明の実施形態及び実施例について説明する。ただし、本実施形態及び実施例は本発明を実現するための一例に過ぎず、本発明の技術的範囲を限定するものではないことに注意すべきである。
【0030】
<接合材料の基本構成>
上述したように、酸化銀を粒状で供給すると粒子間に空隙ができる。例えば、大きさ1〜3μmの酸化銀粒子に対し、100MPaの圧力を付与してもその見掛け密度は5.235g/cmであり、酸化銀の密度7.220g/cmと比較すれば、粒子状では供給する塗布層の中に空隙が存在することがわかる。詳細は実施例2で述べる。
【0031】
また、酸化銀を用いた接合では、はんだを用いた接合とは異なりそれ自体が溶融しないため、初期に存在する空隙は、接合後も空隙として残存しやすくなる。これを補うために膜厚を厚くし、接合時の加圧力を大きくする必要がある。しかし、塗布厚を厚くするにはペーストの粘度を増加させる必要があるため、印刷性が著しく劣化する。
【0032】
これに対し、本発明では金属銀を酸化させて酸化銀層を芯材上に形成する。この方法では、そのプロセス上で体積の収縮はなく、逆に酸化することで体積が増加するため、緻密な酸化銀層が形成できる。これにより空隙のほとんどない酸化銀の供給が可能となる。また、酸化銀の厚さが薄くても良好な接合が可能となる。
【0033】
このように酸化銀を緻密に薄く供給できることで下地との間に密着力が生じる。これにより、ロール状に巻く際の変形や、接合する部品間の隙間が狭い箇所に挿入する際のせん断荷重等に起因する下地と酸化銀層の剥離を抑制できる。また、粒子状酸化銀の際に問題となる還元剤や溶剤などの突沸などによる接合材の飛散を防止できる。さらに、接合相手部品の再設置やスルーホールなどへの接合材の混入を避けることが可能となる。
【0034】
なお、酸化銀を用いた接合は、還元時に生成した銀粒子の焼結によりなされる。しかし、酸化銀から金属銀に還元する際、体積減少が生じる。このため、膜厚が厚いほど、接合時に加圧を付与することによって、接合面に垂直方向に圧縮され緻密になる。詳しくは実施例3で述べるが、酸化銀層の厚さが約400nmを越えると急激な強度上昇が認められた。よって、接合層となる酸化銀層の厚さは400nm以上ある方が好ましい。ただし、酸化銀層の厚さが5μmより大きくなると、酸化銀を形成するのに長時間要するとともに、還元する時間も長時間化するため接合時間が長時間要する。よって、酸化銀層厚は5μm以下が好ましい。
【0035】
<下地について>
酸化銀層の下地をAgとすることによって、下地との間に5MPa以上の密着力を発揮する(実施例4参照)。また、加熱することにより無加圧の状態でも下地のAgと一体化(金属接合)するため、Agのバルク状態の強度となる。これにより、粒子状酸化銀を用いた際に課題となる無加圧部分の接合領域の除去が不要となる。また、接合面積よりも材料の供給面積を広くとれるため、安定した接続が可能となる。
【0036】
<酸化銀層の曲率について>
接合する電子部品の電極表面は、曲率が小さい(曲率半径が大きい)酸化銀から還元した銀粒子との焼結は、銀粒子同士と比較して困難になる。上述したように、酸化銀から還元し生成する銀粒子は、還元する前の酸化銀の外形を反映するため、還元する前の酸化銀の曲率半径が小さい(曲率が大きい)方が有利である。酸化銀の曲率は、酸化処理条件により制御可能である(実施例1の説明及び図2参照)。また、生成する銀粒子の曲率はナノメートルサイズの粒子となるように、酸化銀層の表面ではその曲率半径が1μm以下になるように制御することが好ましい。
【0037】
<還元剤について>
酸化銀層に対して例えばカルボン酸銀塩は還元剤として機能する。これにより、酸化銀を還元させる接合が可能である。また、その還元温度は200℃以下となるため、融点が200℃以上の有機金属を用いれば接合時に液層ができず、大きなボイドができない接合が可能である。
【0038】
また、酸化銀層に対して還元剤として機能する材料に有機物がある。有機物の種類としては、カルボン酸類、アルコール類、アミン類から選ばれる1種以上の有機物が好ましい。なお、「類」のなかには、有機物が金属と化学的に結合した場合などに由来するイオンや錯体等も含めるものとする(粒径がナノメートルサイズの金属粒子を被覆している有機物も含める)。ただし、硫黄やハロゲン元素を含有する有機物は、接合後の接合層内に当該元素が残留して腐食の原因となる可能性があるため、避ける方が望ましい。
【0039】
カルボン酸類の例としては、酢酸、カプロン酸、エナント酸、カプリル酸、ペラルゴン酸、カプリン酸、ウンデカン酸、ラウリン酸、トリデシル酸、ミリスチン酸、ペンタデシル酸、パルミチン酸、マルガリン酸、ステアリン酸、ミリストレイン酸、パルミトレイン酸、オレイン酸、エライジン酸、エルカ酸ネルボン酸、リノール酸、リノレン酸、アラキドン酸、エイコサペンタエン酸、イワシ酸、シュウ酸、マロン酸、マレイン酸、フマル酸、コハク酸、グルタル酸、リンゴ酸、アジピン酸、クエン酸、安息香酸、フタル酸、イソフタル酸、テレフタル酸、サリチル酸、2,4−ヘキサジインカルボン酸、2,4−ヘプタジインカルボン酸、2,4−オクタジインカルボン酸、2,4−デカジインカルボン酸、2,4−ドデカジインカルボン酸、2,4−テトラデカジインカルボン酸、2,4−ペンタデカジインカルボン酸、2,4−ヘキサデカジインカルボン酸、2,4−オクタデカジインカルボン酸、2,4−ノナデカジインカルボン酸、10,12−テトラデカジインカルボン酸、10,12−ペンタデカジインカルボン酸、10,12−ヘキサデカジインカルボン酸、10,12−ヘプタデカジインカルボン酸、10,12−オクタデカジインカルボン酸、10,12−トリコサジインカルボン酸、10,12−ペンタコサジインカルボン酸、10,12−ヘキサコサジインカルボン酸、10,12−ヘプタコサジインカルボン酸、10,12−オクタコサジインカルボン酸、10,12−ノナコサジインカルボン酸、2,4−ヘキサジインジカルボン酸、3,5−オクタジインジカルボン酸、4,6−デカジインジカルボン酸、8,10−オクタデカジインジカルボン酸などが挙げられる。
【0040】
アルコール類の例としては、エチルアルコール、プロピルアルコール、ブチルアルコール、アミルアルコール、ヘキシルアルコール、ヘプチルアルコール、オクチルアルコール、ノニルアルコール、デシルアルコール、ウンデシルアルコール、ドデシルアルコール、ミリスチルアルコール、セチルアルコール、ステアリルアルコール、オエレイルアルコール、リノリルアルコール、エチレングリコール、トリエチレングリコール、グリセリンなどが挙げられる。
【0041】
アミン類の例としては、メチルアミン、エチルアミン、プロピルアミン、ブチルアミン、ペンチルアミン、ヘキシルアミン、ヘプチルアミン、オクチルアミン、ノニルアミン、デシルアミン、ウンデシルアミン、ドデシルアミン、トリデシルアミン、テトラデシルアミン、ペンタデシルアミン、ヘキサデシルアミン、ヘプタデシルアミン、オクタデシルアミン、オレイルアミン、ジメチルアミン、ジエチルアミン、ジプロピルアミン、ジブチルアミン、ジペンチルアミン、ジヘキシルアミン、ジヘプチルアミン、ジオクチルアミン、ジノニルアミン、ジデシルアミン、イソプロピルアミン、1,5−ジメチルヘキシルアミン、2−エチルヘキシルアミン、ジ(2−エチルヘキシル)アミン、メチレンジアミン、トリメチルアミン、トリエチルアミン、エチレンジアミン、テトラメチルエチレンジアミン、ヘキサメチレンジアミン、N,N−ジメチルプロパン−2−アミン、アニリン、N,N−ジイソプロピルエチルアミン、2,4−ヘキサジイニルアミン、2,4−ヘプタジイニルアミン、2,4−オクタジイニルアミン、2,4−デカジイニルアミン、2,4−ドデカジイニルアミン、2,4−テトラデカジイニルアミン、2,4−ペンタデカジイニルアミン、2,4−ヘキサデカジイニルアミン、2,4−オクタデカジイニルアミン、2,4−ノナデカジイニルアミン、10,12−テトラデカジイニルアミン、10,12−ペンタデカジイニルアミン、10,12−ヘキサデカジイニルアミン、10,12−ヘプタデカジイニルアミン、10,12−オクタデカジイニルアミン、10,12−トリコサジイニルアミン、10,12−ペンタコサジイニルアミン、10,12−ヘキサコサジイニルアミン、10,12−ヘプタコサジイニルアミン、10,12−オクタコサジイニルアミン、10,12−ノナコサジイニルアミン、2,4−ヘキサジイニルジアミン、3,5−オクタジイニルジアミン、4,6−デカジイニルジアミン、8,10−オクタデカジイニルジアミン、ステアリン酸アミド、パルミチン酸アミド、ラウリン酸ラウリルアミド、オレイン酸アミド、オレイン酸ジエタノールアミド、オレイン酸ラウリルアミドなどが挙げられる。
【0042】
なお、上記に掲げた有機物単体、あるいは混合した組成物を酸化銀層に供給した際、室温で固体でないと酸化銀層の還元が進行してしまう。あるいは、保管性が悪くなる。
【0043】
よって、直後に接合に用いらない場合は、室温で固体である方が好ましい。また、これら有機物は酸化銀と反応した際に、副生成物が低温で分解しやすい分子構造であることが好ましい。
【0044】
<酸化銀層の形状について>
酸化銀に酸化する前の金属銀を加工や鋳造することによって、酸化銀層を様々な形状にすることが可能である。また、接合後に加圧して接合することを考慮して、加工後に焼きなましをし、硬度を下げ接合時の加圧時に塑性変形しやすくすることで、接合面の密着度がとれやすくなり接合強度の上昇が可能となる。
【0045】
また、酸化銀に酸化する前の金属銀を下地に蒸着やめっきすることによって、様々な材質に対して酸化銀層を供給することが可能になる。これにより、様々な材質の接合が低温、低加圧で行うことが可能になる。たとえば、接合体の構造から熱膨張率を想定し、熱サイクル特性に優れた接合体にすることが可能である。このように、接合体の構造を自由に設計できるため、様々な機能性を付与することが可能となる。
【0046】
また、接合材料の形状をシート状や球状とすることによって、接合体の厚さ調整を容易に制御することができる。次に、球状とすることで複数の電極を同時に接合することが可能となる。球状の酸化銀接合材の適用例については、実施例8で述べる。
【0047】
さらに、酸化銀の供給が薄くできることで、酸化銀から銀への体積減少が抑えられ、ペースト材では困難であった挿入型の接合の接続信頼性を向上できる。ピン状の酸化銀接合材の適用例については、実施例9で述べる。また、この際の芯材形状については、加圧を均一にするための曲率があってもよいし、芯材部をポーラス状にしてガス抜けをより容易としてもよい。また、ポーラス部を利用して樹脂封止してもよい。
【0048】
なお、シート材を例にすると、表面の酸化銀層の供給は、片面や一部だけを酸化銀層とすることが可能である。たとえば、片面の枠状にのみ酸化銀層を供給することで封止用の蓋などに利用可能である。詳細は実施例10で述べる。
【0049】
<芯材について>
酸化銀層を供給する材質(芯材)をAg、Au、Cu、Pt、Ni、Co、Si、Fe、Mn、Ti、Mo、Alの単体、合金あるいは混合物とすることによって、芯材の有する機械的特性や化学的特性などを接合体に付与することが可能である。Agの特徴として、マイグレーションの課題が挙げられるため、Au、Cu、Pt、Alなどを芯材とすれば、放熱性の低下を抑えつつ耐マイグレーション性を向上することが可能である。また、Ni、Co、Si、Fe、Mnの合金であるコバールを芯材とすれば、熱膨張率を下げることが可能であり、ガラスなどを含む接合体とした時の熱膨張を緩和することが可能となる。
【0050】
本発明に係る接合材は、加熱処理によって銀焼結体(接合層)となることでバルク体としての性質を示すようになることから、その融点が熱処理温度(焼結温度)よりもはるかに高いものになる。半導体装置の製造プロセスにおける現行の実装方法は、階層はんだを用いることが主流となっており、1次実装で用いられるはんだには、2次実装で主に用いられるSn−Ag−Cu系はんだの実装温度(230〜260℃)以上の融点を有していることが求められる。この理由により、高温はんだ(鉛含有率:約96%、融点:約300℃)がしばしば用いられている。また、この融点の観点から、芯材はAgと合金化してもその融点が少なくとも300℃を超える金属であるAg、Au、Cu、Pt、Ni、Co、Si、Fe、Mn、Ti、Mo、Alの群から選ばれる単体、またはその合金、あるいはその混合物であることが好ましい。これにより、現状では困難となっている高温はんだの鉛フリー化が可能になる。
【0051】
本発明に係る接合材は、接合に要する最低加熱温度が100℃とはんだ材に比較して非常に低い(実施例4参照)。よって、耐熱性が問題とならない場合で、特に応力緩和が必要な接合部である場合、焼結銀よりも応力緩和の能力があるSnやSn合金を芯材とすることで要求される特性を発揮することが可能である。また、強度が要求されず、耐熱性が要求される場合は、芯材を溶融させ酸化銀層を反応させることで全体をSnとAgからなる金属間化合物とすればよい。この際、酸化銀から生成する銀粒子は表面積が大きいために、金属間化合物になる反応時間が短縮できる効果がある。
【0052】
上述したように、本発明に係る接合材は接合に要する最低加熱温度が100℃とはんだ材に比較して非常に低い。このことから、はんだを用いた接合では、耐熱性の観点から使用不可能であったポリエチレンテレフタラートやポリエチレンを接合体内に導入することが可能である。また、セラミックスやガラスなどの無機物や有機物に対して蒸着やめっきを行えば一定の強度を付与することが可能であるため、これらの絶縁物を接合体内に導入することが可能である。これらの材料を用いれば、電子部品に対して絶縁性を付与できる接合が可能となる。
【0053】
<酸化銀層の形成方法>
銀層を酸化銀層にする手法として陽極酸化法を用いることができる。陽極酸化法を用いれば、酸化銀層の表面の曲率や層厚を高精度に制御することが可能である。無電解の場合は、作製する溶液、温度を変化させることにより目的の酸化銀層の作製が可能である。電解の場合は、作製する溶液、電流密度、電位、温度を変化させることにより目的の酸化銀層の作製が可能である。溶液としては、水酸化ナトリウムや水酸化カリウムなどアルカリ性水溶液で作製すればよい。
【0054】
液中での処理が困難な場合は、オゾンガスにより銀層を酸化銀層にする手法を採用することができる。オゾン酸化によっても酸化銀層の表面の曲率や層厚を高精度に制御することが可能である。すなわち、作製する温度、オゾン濃度を変化させることにより目的の酸化銀層の作製が可能である。
【0055】
なお、陽極酸化やオゾン酸化により銀層を酸化銀層に改質する際に、酸化銀層の下地にAgを残すことにより、芯材との密着度を向上させる材料を提供することができる。
【0056】
<電子部品との接合方法>
続いて、本発明に係る接合材料を用いて電子部品を接合する方法について説明する。接合可能な電極として、電子部品の最表面のメタライズ層がAu、Ag、Pt、Pd、Cu、Niの単体および合金が挙げられ、上述の還元剤の中から適切なものを選定することによって金属接合が可能となる。また、Alなどをはじめとした酸化皮膜が安定な金属に対してもその酸化皮膜を介して接合することが可能である。
【0057】
また、大気中や窒素中や真空中など還元雰囲気以外で接合行う際、還元剤を塗布しない領域を酸化銀として残存させる手法もある。酸化銀と金属銀の抵抗値の大きな差を利用した電気回路を導入することが可能となる。
【0058】
さらに、大気中や窒素中や真空中など還元雰囲気以外で接合行う際、酸化銀全面を焼結銀に還元させる手法もある。接合層以外の焼結銀は下地がAgの場合、一体化し強固な接合となる。また、表面は粗化されているため、例えばその後樹脂などにより封止される場合、元のAgの状態よりも接着強度が向上する。
【0059】
また、酸化銀の還元をガスにより行う手法もある。ガスとして水素や蟻酸など酸化銀に対して還元効果のある雰囲気で還元を行う。また、電子部品の電極の最表面に存在する酸化皮膜の還元や酸化防止の効果も期待できる。特に、水素雰囲気中で還元することで、発生するガスは水だけとなり、周囲の汚染が著しく低下する。例えば人工水晶など汚染が問題となるモジュールなどの実装の際好ましい。
【0060】
<実施形態の効果>
本実施形態によれば、酸化銀を用いた接合材料の高密度、高精度、安定な供給が可能である。高密度な層となることにより、酸化銀層に一定の強度が発現し、保管が可能なシート材が提供できる。金属銀の供給ができれば、酸化銀の供給も可能となる特徴を有するため、ペースト材では不可能な様々な形状なものに供給ができる。さらに、蒸着やめっき技術と併用することで、様々な材質に対して接続信頼性の高い接合層が形成でき、多機能化が可能となる。また、高精度に接合層を供給できる。還元剤の最適化が可能であるとともに、還元剤のみを接合前に付与することが可能となる。これにより、大量生産時の歩留まりが向上できる。また、接合に必要な酸化銀の量を精度よく制御して供給することができるため、粒子状態で供給するよりも少ない酸化銀供給量で接合することが可能となる。これにより、酸化銀が還元する時間が短縮でき接合時間の短縮化が可能である。さらに、接合時発生するガス量も減少することから、周囲部品の汚染が少ない接合が可能になる。
【0061】
<実施例>
以下、本発明の実施例について図面を用いて説明する。ただし、本発明はここで取り上げた実施例に限定されることはなく、適宜組み合わせてもよい。
【実施例1】
【0062】
実施例1では、陽極酸化法によりAg箔の表面を酸化銀に改質した。また、定電流法を用いて、その際にpHと電流密度(mA/cm)を変化させ、それぞれのパラメータが酸化銀層の厚さに及ぼす影響について調べた。対極としてNi電極を用いた。pHは、水酸化ナトリウム(NaOH)水溶液中のNaOHのモル(mol)濃度を変化させることで調整した。酸化銀層の厚さは、電気的に酸化銀から銀に還元させる際のエレクトロンボルトを計測することにより調べた。その結果を図2に示す。
【0063】
図2に示すように、酸化銀層を作製する際のpHと電流密度の値により生成する酸化銀層の厚さを精度よく制御することが可能であることがわかった。低電流とすると酸化銀層の厚さを大きくすることが可能であり、高電流とすると酸化銀層の厚さを薄くできる。
【0064】
次に、定電位法で酸化銀層が形成することを確認した。両製法に対し生成する酸化銀層の組成比や厚さを予測するために、ボルタモグラムを測定することが好ましい。
【0065】
最後に、オゾン酸化により酸化銀層が形成することを調査した。Ag箔を170℃でオゾン濃度5vol%雰囲気中に曝した。その結果、酸化銀層が生成した。保持時間の増加に伴い酸化銀層の厚さが増加することを確認した。
【実施例2】
【0066】
実施例2では、実施例1で作製した酸化銀層の断面を走査型顕微鏡により観察することで空隙率を調べた。倍率10万倍で観察を行った結果、数〜数十nmの空隙が数個散見される程度であり、空隙のほとんどない酸化銀層が形成されていることがわかった。これは、Agから酸化銀に酸化される場合に体積が増加する反応となるためであると考えられる。
【0067】
比較として、大きさ1〜3μmの酸化銀粒子に対し、100MPaの圧力を付与してもそのみかけ密度は5.235 g/cmであった。この際の圧粉体の厚さは1mmであった。酸化銀の密度7.220 g/cmと比較すれば、粒子状では供給する塗布層の中に空隙が存在することがわかる。
【実施例3】
【0068】
実施例3では、酸化銀層の厚さと接合体の接合部強度との関係を調べた。接合材料は、厚さ20μmのAg箔の両面に対し、陽極酸化を行い作製した。酸化銀層の厚さは、電流密度を制御することにより変化させた。大気中での接合となるため、接合前に還元剤として作用するトリエチレングリコール溶液に浸漬してから接合材料の挿入を行った。測定に用いた被接合試験片は、上側として直径5mm、厚さ2mmである円板形状の試験片、下側として直径10mm、厚さ5mmである円板形状の試験片を用いた。さらに、その表面にはAgめっきを施している。これら上下試験片間に上記接合材を設置し、加熱工程と加圧工程を付与することにより接合した。接合条件は、接合最高加熱温度が250℃、接合時間が150s、接合加圧力が2.5MPaである。接合時間とは、室温からの接合温度までの昇温と最高加熱温度で保持した時間の総和である。
【0069】
次に、上記接合条件により作製した接合体を用い、純粋せん断応力下での接合部強度を測定した。せん断試験には西進商事製ボンドテスターSS−100KP(最大荷重100kg)を用いた。せん断速度は30mm/minとし、試験片をせん断ツールで破断させ、破断時の最大荷重を測定した。このようにして得られた最大荷重を接合面積で除することにより得られた値を継手のせん断強度とする。本実施例における接合材を用いた際のせん断強度の指標として、室温硬化型の導電性ペーストを用い、本発明に係る接合体接合部のせん断強度に対する相対強度比とした。図3にその結果を示す。また、前記導電性ペーストは、主な樹脂成分がエポキシ樹脂であり、導電性フィラーがAgフレークである。
【0070】
図3に示されるように、酸化銀層の厚さが増加するほど強度が上昇することがわかる。また、導電性ペースト以上の強度を発揮するためには、その厚さが400nm以上であることが望ましいことがわかった。これは、上記で述べたように、酸化銀を用いた接合では、還元時に生成した銀粒子の焼結によりなされる。しかし、酸化銀から金属銀に還元する際、体積減少が生じる。このため、膜厚が厚いほど、接合時に加圧を付与することによって、接合面に垂直方向に圧縮され緻密になるためである。ただし、5μmより大きくなると、酸化銀を形成するのに長時間要するとともに、還元する時間も長時間化するため接合時間が長時間要する。よって、5μm以下が好ましい。
【実施例4】
【0071】
実施例4では、酸化銀層の下地をAgとした場合の酸化銀層とAgとの密着度を調べた。測定に用いた被接合試験片は、上側として直径10mm、厚さ25mmである円柱形状の試験片を用いた。この試験片は2μmのAgめっきが施されており、その底面に酸化銀層を1μm付与した。この試験片の酸化銀層面をエポキシ系接着剤により張り合わせその引張強度を測定した。比較のため、酸化処理していないAgめっき同士の強度と、水素中で接合最高加熱温度が250℃、接合時間が300s加熱し酸化銀層を焼結させた表面の場合の焼結銀層との強度も測定した。結果を図4に示す。
【0072】
また、その破壊箇所を光学顕微鏡で観察することで調べた。その結果、Agめっきでは接着剤とAgめっきの界面で破壊、焼結銀や酸化銀層では接着剤中で破壊していた。このことから、焼結銀や酸化銀層と下地のAgとの密着強度は5MPa以上の引張強度であることがわかる。また、焼結銀や酸化銀層と接着剤との密着強度はAgめっきの場合に比較して向上することがわかる。これは、焼結銀や酸化銀層表面が粗化されているためであり、接着面積の増加により向上したと考えられる。
【実施例5】
【0073】
実施例5では、本発明に係る接合材を用いた場合の接合温度と接合部強度との関係を調べた。接合材料は、厚さ20μmのAg箔の両面に対し、陽極酸化を行い酸化銀層の厚さが1.4μmとなるように作製した。接合雰囲気は水素中とした。測定に用いた被接合試験片は、上側として直径5mm、厚さ2mmである円板形状の試験片、下側として直径10mm、厚さ5mmである円板形状の試験片を用いた。さらに、その表面にはAgめっきを施している。これら上下試験片間に上記接合材を設置し、加熱工程と加圧工程を付与することにより接合した。接合条件は、最高加熱温度が100、150、200、250、300℃とし、接合加圧力を2.5MPa、保持時間を100sと一定とすることで最高加熱温度の影響を調べた。また、最高加熱温度が100℃で保持時間を1800sとし保持時間の影響を調べた。接合部の強度は、実施例3と同様にして測定した。図5にその結果を示す。
【0074】
図5に示すように、接合温度が上昇するに伴い接合部強度が上昇し、接合温度150℃で規格化せん断強度1以上を発揮することができた。また、接合温度100℃でも保持時間を増加されることで、規格化せん断強度1以上を発揮できることがわかった。接合温度が100℃でも接合部強度が得られることから、耐熱性の観点で使用不可能な有機物を接合体の構成に導入することが可能である。また、Sn合金などを芯材としても、溶融させないで接合可能であるため、応力緩和能力の高いSn合金を導入した接合体の構成が可能となる。
【実施例6】
【0075】
実施例6では、本発明に係る接合材を用いた場合の接合加圧力と接合部強度との関係を調べた。接合材料は、厚さ20μmのAg箔の両面に対し、陽極酸化を行い酸化銀層の厚さが1.4μmとなるように作製した。大気中での接合となるため、接合前に還元剤として作用するトリエチレングリコール溶液に浸漬してから接合材料の挿入を行った。接合雰囲気は大気中とした。測定に用いた被接合試験片は、上側として直径5mm、厚さ2mmである円板形状の試験片、下側として直径10mm、厚さ5mmである円板形状の試験片を用いた。さらに、その表面にはAgめっきを施している。これら上下試験片間に上記接合材を設置し、加熱工程と加圧工程を付与することにより接合した。接合条件は、接合最高加熱温度が250℃、接合時間が150sと一定とし、接合加圧力を0.5〜20MPaと変化させることによって接合加圧力の効果を調べた。図6に結果を示す。
【0076】
図6に示すように、加圧力が増加するに伴い強度が上昇する傾向が認められた。また、接合温度250℃、接合時間150sの場合は接合加圧力が約1.0MPa以上で規格化せん断強度1以上となることがわかった。ただし、実施例5で説明したように、同様の加圧力でも接合温度の上昇や保持時間の増加により強度向上が可能であり、0.1MPa以上の加圧力があれば、接合温度や保持時間の増加により金属接合が可能となる。
【実施例7】
【0077】
実施例7では、接合時の加圧に関して接合方法や接合材料の構成の改良により接合強度が上昇した例について説明する。改良サンプルAとして、芯材を20μm厚のAlとし、その表面にAl側からNi、Agをそれぞれめっきした。次に、陽極酸化を行い酸化銀層の厚さが1.4μmとなるように作製した。還元剤をトリエチレングリコールとし、接合温度250℃、接合加圧力0.5MPa、接合時間150sで実施例6と同様の手法で接合を行ったところ、規格化せん断強度1.2を得た。改良サンプルBとして、芯材を20μm厚のSnとし、その表面にSn側からNi、Agをそれぞれめっきした。還元剤を水素ガスとし接合温度100℃、接合加圧力2.5MPa、保持時間1800sで実施例5と同様の手法で接合を行ったところ、規格化せん断強度1.5を得た。このように、芯材を塑性変形しやすい金属で構成することにより、接合加圧力の低減しても規格化せん断強度が上昇できることがわかった。また、この効果を確認するために、Ag箔を300℃に加熱し焼きなまししてから、陽極酸化することで、接合温度250℃、接合加圧力0.5MPa、接合時間150sで実施例6と同様の手法で接合を行ったところ、規格化せん断強度0.9を得た。
【0078】
実施例6で述べたように、接合時の加圧力を増加することで、接合部の強度を向上させることが可能である。しかし、付与する加圧の大きさによっては、接合する電子部材(例えば、半導体チップやその上面に形成された配線および電極)が物理的に破損する可能性がある。表1に示すように、10MPa以上の加圧を付与すると接合する半導体チップに破損が生じる場合があった。これに対し、実施例5で述べたように、本発明の接合プロセスの温度は100℃程度でも接合可能となるため、合成樹脂など応力の緩衝効果を有する有機材料を半導体チップの破損の防止に用いることが可能である。この効果を確認するため、ポリプロピレンで保護した半導体チップを100℃で加圧したところ、20MPaでも破損はなかった。
【0079】
【表1】

【実施例8】
【0080】
実施例8では、本発明に係る接合材料であり、その形状が球状である接合材料の作製法とその適用例について説明する。はんだによる小さいボール状電極を格子状に並べたBGA(Ball Grid Array)をはじめとした電子部品がある。表面実装の中で、例えばリード型のQFP(Quad Flat Package)と比較すると、多数の電極を設けることができ、さらに周囲にリードが張り出さないので実装面積を縮小可能である。近年、電流値が増大しているため、BGAパッケージの接合部に低抵抗化や高放熱が求められる。このため、Cuを芯材としたはんだボールが開発されている。これに対し、本発明の接合材は接合後に焼結銀となるので、さらなる低抵抗かつ高放熱特性の付与が可能である。
【0081】
酸化銀層を表面に有するCuコアボールの作製を行った。用いたCuボールは平均直径が600μmである。まず、CuコアボールにNiめっきを0.5〜2μmの厚さとなるように、バレルめっきにより処理した。次に、Niめっきの表面にAgめっきを2μmの厚さで、バレルめっきにより処理した。次に、陽極酸化によりCuコアボール表面のAgめっきを酸化させ、1μm厚の酸化銀層とした。作製した表面が酸化銀層であるCuコアボールは、円相当径を最大径で割って定義した真球度は、50個のボールを測定した結果、0.992以上であった。このように、粒子状酸化銀では付与することが困難な真球度を付与することが可能である。
【実施例9】
【0082】
実施例9では、本発明に係る接合材料であり、その形状がピン状である接合材料の作製法とその適用例について説明する。実施例8の表面実装型とは異なり、PGA(Pin Grid Array)をはじめとした挿入型の実装方式にも使用可能である。従来のペースト材では、ピンとペースト塗布層との間に一定の強度がないため、PGAをプリント板の挿入電極部に挿入する際に、塗布層が剥がれ落ち、挿入入り口付近に溜まり接合材料を供給できない問題があった。しかし、ピン材に対する酸化銀層の付与は、実施例8で説明したように電気化学的に高精度に制御でき、かつ酸化銀層とピン材との密着強度が確保できることから、この問題を解決することができた。
【実施例10】
【0083】
実施例10では、セラミクス基板に搭載された水晶振動子などの電子部品に対する封止用の蓋(リッド)となるシート状の接合材料について以下に説明する。図7に示す。リッドの芯材としては、低熱膨張であるFe−Ni−Co合金(201、厚さは150μm)とした。低熱膨張であるFe−Ni−Co合金を芯材とすることで高温に曝された場合に発生する熱応力を低減することが可能である。次に、Fe−Ni−Co合金に対し、ウッド浴を用いてNiストライク電解めっき(202)を約2μmの厚さで施した。さらにAgめっき(203、厚さは2.0μm)を電解めっきで施し、封止領域を陽極酸化法により酸化銀層(204、厚さは1.0μm)とした。接合は水素雰囲気下で最高加熱温度250℃、加圧力2.5MPa、保持時間100sで行った。接合部は焼結銀層となるため、その融点は960℃でありはんだに比較して優れた耐熱性を有する。また、接合温度が低温化できるため熱ひずみの低減が可能である。
【0084】
図8は、上記に対してさらに気密性を向上させるための構造である。上記と同様に芯材であるFe−Ni−Co合金(301)にNiめっき(302)を施した後、Cu(303)を図8に示すような鋭角な形状で枠状に圧着する。これにAgめっき(304)、酸化銀層(305)をそれぞれ施すことで、接合相手電極に食い込み気密性が向上する。この構造はAg層と酸化銀層の強度が高いために行うことが可能となる。
【0085】
本実施例では、芯材であるFe−Ni−Co合金に対して、めっき法によりNiめっき層、Agめっき層を形成したが、Ag層の形成はめっき法に限られず、例えば、芯材にAg層を熱間圧接により作製したクラッド材を適用することも可能である。
【実施例11】
【0086】
実施例11では、接合相手の電極種が接合部強度に及ぼす影響を調べた。接合材料は、厚さ20μmのAg箔の両面に対し、陽極酸化を行い酸化銀層の厚さが1.4μmとなるように作製した。接合雰囲気は水素中とした。測定に用いた被接合試験片は、上側として直径5mm、厚さ2mmである円板形状の試験片、下側として直径10mm、厚さ5mmである円板形状の試験片を用いた。表面電極は、Ag、Au、Pt、Pd、Cu、Niと変化させた。これら上下試験片間に上記接合材を設置し、加熱工程と加圧工程を付与することにより接合した。接合条件は、最高加熱温度250℃、加圧力2.5MPa、保持時間100sとした。
【0087】
図9に還元剤無しで接合した酸化銀シートと、さらにトリエチレングリコールを滴下した酸化銀シートの規格化せん断強度の値を示す。Ni電極以外はほぼ同等の強度を示したが、Ni電極との接合の場合はトリエチレングリコールを滴下することで著しい強度上昇が認められた。これは、トリエチレングリコールを滴下することにより、還元した銀粒子がトリエチレングリコール中に分散し、電極上に堆積する無電解めっきの効果が発揮されるためである。この効果は、加圧力の大きさに依存しないため、低加圧で接合する場合は、水素雰囲気でもナノ粒子分散可能な液相を導入した方が好ましい。
【符号の説明】
【0088】
101…酸化銀、102…銀粒子、103…還元前の酸化銀外形、201…Fe−Ni−Co合金、202…Niめっき、203…Agめっき、204…酸化銀層、301…Fe−Ni−Co合金、302…Niめっき、303…Cu、304…Agめっき、305…酸化銀層

【特許請求の範囲】
【請求項1】
電子部品や半導体を電気的に接合するための接合材料であって、その最表面に酸化銀層が形成されていることを特徴とする接合材料。
【請求項2】
前記酸化銀層の厚さが400nm〜5μmであることを特徴とする請求項1に記載の接合材料。
【請求項3】
前記酸化銀層の下地が金属銀(Ag)であることを特徴とする請求項1に記載の接合材料。
【請求項4】
前記酸化銀層の表面の曲率半径が1μmより小さいことを特徴とする請求項1に記載の接合材料。
【請求項5】
前記酸化銀層の表面に融点が200℃以上である有機金属塩を含む層が形成されていることを特徴とする請求項1乃至4の何れか1項に記載の接合材料。
【請求項6】
前記酸化銀層の表面に室温で固体であるアルコール類、カルボン酸類、アミン類を含む層が形成されていることを特徴とする請求項1乃至5の何れか1項に記載の接合材料。
【請求項7】
前記酸化銀層の下地が加工あるいは鋳造された金属銀(Ag)であることを特徴とする請求項1乃至6の何れか1項に記載の接合材料。
【請求項8】
前記酸化銀層の下地が蒸着あるいはめっきされた金属銀(Ag)層であることを特徴とする請求項1乃至6の何れか1項に記載の接合材料。
【請求項9】
芯材がAg、Au、Cu、Pt、Ni、Co、Si、Fe、Mn、Ti、Mo、Al、Inの何れかの単体、合金、或いは混合物であることを特徴とする請求項1乃至8の何れか1項に記載の接合材料。
【請求項10】
芯材がSn単体、或いはSnを主体とする合金であることを特徴とする請求項1乃至8の何れか1項に記載の接合材料。
【請求項11】
芯材が無機物、有機物の単体、或いは混合物であることを特徴とする請求項1乃至8の何れか1項に記載の接合材料。
【請求項12】
形状がシート状、ボール状、又はピン状であることを特徴とする請求項1乃至11の何れか1項に記載の接合材料。
【請求項13】
最表面の一部に前記酸化銀層が形成されていることを特徴とする請求項1乃至12の何れか1項に記載の接合材料。
【請求項14】
電子部品や半導体を電気的に接合するための接合材料の製造方法であって、最表面がAgである金属、無機物、有機物の単体あるいは複合体で構成される下地層に対して、酸化銀層を陽極酸化により形成することを特徴とする製造方法。
【請求項15】
電子部品や半導体を電気的に接合するための接合材料の製造方法であって、最表面がAgである金属、無機物、有機物の単体あるいは複合体で構成される下地層に対して、酸化銀層をオゾン酸化により形成することを特徴とする製造方法。
【請求項16】
前記酸化銀層を形成する処理を実行する場合、前記下地層に金属銀(Ag)を一部残した状態にすることを特徴とする請求項14又は15に記載の製造方法。
【請求項17】
接合材料を用いて、電子部品或いは半導体を電極に接合する実装方法であって、
請求項1乃至13の何れか1項に記載の接合材料の前記酸化銀層に還元剤を供給する工程と、
前記電子部品或いは半導体の接合面に100℃〜400℃の加熱を付与する工程と、
前記接合面に0.1〜20MPaの加圧を付与する工程と、
を備えることを特徴とする実装方法。
【請求項18】
前記還元剤がアルコール類、カルボン酸類、アミン類、又はカルボン酸金属であることを特徴とする請求項17に記載の実装方法。
【請求項19】
前記還元剤を前記接合面にのみ供給することで、接合面以外を酸化銀層のまま残存させることを特徴とする請求項17又は18に記載の実装方法。
【請求項20】
前記還元剤を酸化銀層全面に供給することを特徴とする請求項17又は18に記載の実装方法。
【請求項21】
接合材料を用いて、電子部品或いは半導体を電極に接合する実装方法であって、
請求項1乃至13の何れか1項に記載の接合材料を用いて、還元ガス雰囲気内で、前記電子部品或いは半導体接合面に100℃〜400℃の加熱を付与する工程と、
前記接合材料の酸化銀が金属銀に還元する際に前記接合面に0.1〜20MPaの加圧を付与する工程と、
を備えることを特徴とする実装方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2010−282832(P2010−282832A)
【公開日】平成22年12月16日(2010.12.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−135071(P2009−135071)
【出願日】平成21年6月4日(2009.6.4)
【出願人】(000005083)日立金属株式会社 (2,051)
【Fターム(参考)】