説明

接着剤及び半導体装置

【課題】 銅リードフレーム(支持部材)に特に好適に使用される接着剤と、これを用いて製造される半田リフロー時のリフロークラックの発生が低減され信頼性が高い半導体装置とを提供する。
【解決手段】 支持部材に半導体素子を接着させる接着剤であって、(a)重合可能なエチレン性炭素−炭素二重結合を有する化合物、(b)エポキシ基を末端に有する反応性エラストマ、及び(c)エポキシ樹脂、フェノール樹脂、ビスマレイミド樹脂、シアナート樹脂から選ばれる少なくとも1種以上の樹脂、を含有し、揮発分が10重量%以下である接着剤。また、支持部材に前記接着剤を塗布し、これに半導体素子を載置し、加熱硬化により半導体素子と支持部材とを接着させた後、ワイヤボンディング工程、封止工程を経て得られる半導体装置。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、接着剤及び半導体装置に関し、更に詳しくは、半導体素子を支持部材(特に、銅リードフレーム)に接着してなる半導体装置がリフロー炉を通して基板上に実装されるとき、パッケージクラックが起こらないような接着剤及びその接着剤を用いて製造される信頼性の高い半導体装置に関する。
【背景技術】
【0002】
半導体装置を製造する際、半導体素子とリードフレーム(支持部材)の接着方法としては、エポキシ樹脂、ポリイミド樹脂等の有機材料に銀粉等を分散させてペースト状態とし、これを接着剤とする方法が主に用いられている。この方法では、一般に、銀ペーストをディスペンサーやスタンピングマシンを用いてリードフレームに塗布した後、半導体素子を圧着し、加熱硬化して、半導体素子とリードフレームとを接着する。また、リードフレームの材質は、従来、鉄−ニッケルの合金である42アロイが用いられてきた。しかし、リードフレームの熱・電気伝導性、配線基板との密着性等の点から、最近は材質が銅合金である銅リードフレームの使用の割合が大きくなってきている。
【0003】
更に、高密度、高効率実装のため、半導体装置の実装方法は、半導体装置のリードを基板に直接半田付けする表面実装が主流となっている。この表面実装には、基板全体を赤外線などで加熱するリフローソルダリングが用いられ、パッケージは200℃以上の高温に加熱される。この時、パッケージの内部、特に接着剤層中に水分が存在すると、この水分が気化してダイパッドと封止材の間に回り込み、パッケージにクラック(リフロークラック)が発生する。特に銅リードフレームでは、42アロイフレームに比べリフロークラックの発生率が高く、このリフロークラックは半導体装置の信頼性を著しく低下させるため、深刻な問題・技術課題となっている。
【0004】
このような問題に対する解決策の一つとして、半導体装置全体を防湿梱包し、表面実装の直前に開封して使用する方法や、表面実装の直前に前記半導体装置を100℃で24時間乾燥させ、その後実装を行う方法が提案されている。また、接着剤を改良する観点から、例えば、水分吸着剤を含有する接着剤(特開平6−181227号公報)や、エポキシ基を2個以上含有するエポキシ樹脂とシリコーン変性フェノールアラルキル樹脂を含有する接着剤(特開平6−326139号公報)等が提案されている。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、半導体装置の防湿梱包や乾燥を行う方法は、製造工程が長くなり、手間もかかる。また、特開平6−181227号公報や特開平6−326139号公報に提案されている接着剤を用いる方法では、リフロークラックの発生は支持部材として42アロイリードフレームを用いた場合には低減されるものの、支持部材として銅リードフレームを用いた場合には必ずしも満足できるほど低減されない。本発明の目的は、前記の従来技術の問題を解決し、リフロークラックを発生させない接着剤、特に支持部材に銅リードフレームを用いた場合に好適な接着剤を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、支持部材として銅リードフレームを用いた場合にも、リフロークラックを発生させない接着剤とその接着剤の有効な特性を種々検討する過程で、本発明を完成するに至った。すなわち、本発明は、支持部材に半導体素子を接着させる接着剤であって、(A)揮発分が10重量%以下、(B)ピール接着力が0.3kgf以上、及び(C)チップ反り変化量が15μm以下、である接着剤接着剤である。
【0007】
ここで、接着剤の揮発分、ピール接着力及びチップ反り変化量は、次の方法によって測定する。
【0008】
接着剤の揮発分の測定:接着剤約1gをアルミカップに移し、秤量して接着剤の重量(M)を求める。ついで、これを200℃の乾燥機中で2時間加熱し、秤量して接着剤の重量(M)を求める。
【0009】
接着剤の揮発分(wt%)=[(M−M)/M]×100
ピール接着力の測定:銅リードフレームと8mm×8mmのシリコンチップを、被検接着剤を用いて150℃、1時間、次いで175℃、5時間加熱して接着させ、温度85℃、湿度85%に設定された恒温恒湿機中で24時間吸湿させた後、250℃、20秒加熱時の引き剥がし強さを、プッシュプルゲージを用いて測定する(図1)。
【0010】
チップ反り変化量の測定:銅リードフレームと5mm×13mmのシリコンチップを、被検接着剤を用いて150℃、1時間加熱して接着させ、表面粗さ計を用い直線状に11mmスキャンし、チップのベースラインからの最大高さ(t)を求める。ついで、これを175℃の乾燥機中で5時間加熱し、表面粗さ計を用い直線状に11mmスキャンし、チップのベースラインからの最大高さ(t)を求める。t−tをチップ反り変化量とする。
【0011】
また、本発明は、半導体素子を上記接着剤を用いて支持部材に接着してなる半導体装置にも関する。
【発明の効果】
【0012】
請求項1の接着剤は、半導体素子と支持部材との接着剤として使用でき、半田リフロー時のリフロークラックの発生は低減される。支持部材としては、銅リードフレームが特に好適である。請求項2の半導体装置は、半田リフロー時のリフロークラックの発生が低減され、信頼性が高い。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
本発明の接着剤の揮発分は10重量%以下であり、好ましくは5重量%以下である。揮発分が10重量%を越えると、支持部材と半導体装置を接着させた後に接着剤層中にボイドが発生し、リフロークラックの原因となるので好ましくない。本発明の接着剤のピール接着力は0.3kgf以上であり、好ましくは0.5kgf以上である。ピール接着力が0.3kgf未満では、接着剤と半導体素子、又は接着剤と支持部材に剥離が発生し、リフロークラックの原因となるので好ましくない。本発明の接着剤を用いた場合のチップ反り変化量は15μm以下であり、好ましくは12μm以下である。チップ反り変化量が15μmを越えると、接着剤層の熱応力が大きくなり、耐リフロークラック性を低下させるので好ましくない。
【0014】
前記(A)〜(C)の特性を満たす接着剤としては、例えば、次のような組成の樹脂がある。
【0015】
(a)重合可能なエチレン性炭素−炭素二重結合を有する化合物(例えば、アクリル酸メチル、アクリル酸エチルなどのアクリル酸系モノマー、メタクリル酸メチル、メタクリル酸エチルなどのメタクリル酸系モノマー、スチレン、ビニルトルエンなどのビニル系モノマー等):30〜80重量部、(b)反応性エラストマ(例えば、カルボキシル基両末端ブタジエン−アクリロニトリル共重合体、エポキシ基両末端ブタジエン−アクリロニトリル共重合体等):0〜60重量部、及び(c)熱で硬化して網目状高分子を生成しうる反応性化合物(例えば、エポキシ樹脂、フェノール樹脂、ビスマレイミド樹脂、シアナート樹脂等):5〜30重量部。なお、上記(a)、(b)及び(c)を含む有機材料の合計量は100(重量部)とする。
【0016】
上記組成の接着剤には、前記(A)〜(C)の特性を越えない範囲で、銀粉、シリカ粉、アルミナ粉等の充填材を加えることができる。銀粉はフレーク状、樹枝状、球形、不定形等の銀粉が使用でき、シルベストTCG−1(徳力化学研究所製)、シルフレークAgc−A(福田金属箔粉工業社製)等の市販品が使用できる。銀粉を加える場合の使用量は、上記接着剤100重量部に対して900重量部以下(接着剤全量の90重量%以下)、更に好ましくは567重量部以下(接着剤全量の85重量%以下)である。
【0017】
本発明の接着剤が特に好適に使用できる支持部材は銅リードフレームであるが、42アロイリードフレーム、絶縁基板、配線付き基板等にも使用できる。銅リードフレームとしては、例えば、MF202(三菱電機製)、EFTEC64T(古河電気工業製)等がある。
【0018】
本発明の接着剤を用いた半導体装置は、ディスペンス法、スタンピング法、スクリーン印刷等により銅リードフレーム等の支持部材に本発明の接着剤を塗布し、これに半導体素子を載置し、熱風循環式乾燥機、ヒートブロック等の加熱装置を用いて加熱硬化させて半導体素子と支持部材とを接着させ、リードフレームと半導体素子とを金線等のワイヤで接続し、その後、エポキシ樹脂等の封止材で封止して、製造される。このようにして製造される半導体装置の一例を図2に示す。
【実施例】
【0019】
以下、本発明を実施例により説明する。
【0020】
(実施例1)
アクリル酸ノニルフェノキシポリプロピレングリコール 30g
スチレン 25g
エポキシ末端ポリブタジエン−アクリロニトリル共重合体(宇部興産製 ETB
N1300×40) 25g
クレゾールノボラック型エポキシ(東都化成製 YDCN−702S)
5g
フェノールノボラック(明和化成製 H−1) 5g
2−フェニル−4−メチルイミダゾール 0.2g
ターシャリブチルパーオキシベンゾエート 1.6g
銀粉 210g
を、らいかい機により混合し、接着剤を得た。この接着剤についての揮発分、ピール接着力及びチップ反り変化量の各特性を表1に示す。測定方法は前述した通り。
【0021】
(実施例2)
アクリル酸ラウリル 20g
スチレン 15g
エポキシ末端ポリブタジエン−アクリロニトリル共重合体(宇部興産製 ETB
N1300×40) 15g
ビスフェノールA型エポキシ(油化シェルエポキシ製 エピコート1001)
5g
フェノールノボラック(明和化成製 H−1) 5g
2−フェニル−4−メチルイミダゾール 0.2g
ターシャリブチルパーオキシベンゾエート 1.6g
銀粉 210g
を、らいかい機により混合し、接着剤を得た。この接着剤についての揮発分、ピール接着力及びチップ反り変化量の各特性を表1に示す。
【0022】
(実施例3)
アクリル酸イソボニル 20g
スチレン 15g
エポキシ末端ポリブタジエン−アクリロニトリル共重合体 (宇部興産製 ETB
N1300×40) 15g
ビス(4−シアノフェニル−1−(1−メチルエチリデン))ベンゼン
10g
ターシャリブチルパーオキシベンゾエート 1.6g
ナフテン酸コバルト 0.2g
ノニルフェノール 1.8g
銀粉 210g
を、らいかい機により混合し、接着剤を得た。この接着剤についての揮発分、ピール接着力及びチップ反り変化量の各特性を表1に示す。
【0023】
(実施例4)
メタクリル酸ラウリル 20g
スチレン 15g
エポキシ末端ポリブタジエン−アクリロニトリル共重合体 (宇部興産製 ETB
N1300×40) 15g
ビスマレイミドジフェニルメタン 10g
ターシャリブチルパーオキシベンゾエート 1.6g
銀粉 210g
を、らいかい機により混合し、接着剤を得た。この接着剤についての揮発分、ピール接着力及びチップ反り変化量の各特性を表1に示す。
【0024】
(比較例1)
クレゾールノボラック型エポキシ(東都化成製 YDCN−702S) 30g
フェノールノボラック(明和化成製 H−1) 10g
2−フェニル−4−メチルイミダゾール 0.2g
銀粉 100g
フェニルグリシジルエーテル 10g
を、らいかい機により混合し、接着剤を得た。この接着剤についての揮発分、ピール接着力及びチップ反り変化量の各特性を表1に示す。
【0025】
(比較例2)
クレゾールノボラック型エポキシ(東都化成製 YDCN−702S) 30g
カルボキシル末端ポリブタジエンーアクリロニトリル共重合体(宇部興産製 CTB
N1300×9) 30g
フェノールノボラック(明和化成製 H−1) 5g
2−フェニル−4−メチルイミダゾール 0.2g
銀粉 100g
酢酸ブチルセロソルブ 10g
を、らいかい機により混合し、接着剤を得た。この接着剤についての揮発分、ピール接着力及びチップ反り変化量の各特性を表1に示す。
【0026】
(比較例3)
クレゾールノボラック型エポキシ(東都化成製 YDCN−702S) 30g
カルボキシル末端ポリブタジエン−アクリロニトリル共重合体(宇部興産製 CTB
N1300×9) 30g
フェノールノボラック(明和化成製 H−1) 5g
2−フェニル−4メチルイミダゾール 0.2g
銀粉 100g
フェニルグリシジルエーテル 10g
を、らいかい機により混合し、接着剤を得た。この接着剤についての揮発分、ピール接着力及びチップ反り変化量の各特性を表1に示す。
【0027】
[表1]
表1 接着剤の特性
実施例の接着剤 比較例の接着剤
特性 No.1 No.2 No.3 No.4 No.1 No.2 No.3
揮発分 4 5 4 3 5 13 2
(wt%)
ピール接着力 0.8 0.6 0.9 0.5 0.6 0.7 0.05
(kgf/chip)
チップ反り 8 11 10 12 20 10 1
(μm)
半田リフロークラック評価試験
実施例1〜4および比較例1〜3で各々得られた接着剤を用いて、以下に示すような半田リフロークラック試験を行った。
【0028】
半田リフロークラック試験方法:銅リードフレームと8mm×10mm×0.3mmのシリコンチップを上記接着剤を用いて150℃、1時間加熱して接着させた後、封止材(日立化成製 CEL−4620)により封止し、半田リフロー試験用パッケージ(QFP、14mm×20mm×1.4mm)を組み立てた。そのパッケージを、温度85℃、湿度85%に設定された恒温恒湿機中で48時間吸湿させた。その後、240℃、10秒のIRリフローを行い、パッケージクラックの発生数を顕微鏡(倍率:15倍)で観察した。試験の結果、実施例1〜4の接着剤を使用したパッケージはクラックの発生が見られなかったが、比較例1〜3の接着剤を使用したパッケージは全数にクラックが発生していた。
【0029】
[表2]
表2 半田リフロークラック評価試験
実施例の接着剤使用 比較例の接着剤使用
特性 No.1 No.2 No.3 No.4 No.1 No.2 No.3
クラック 0/5 0/5 0/5 0/5 5/5 5/5 5/5
(発生数)
【図面の簡単な説明】
【0030】
【図1】プッシュプルゲージを用いてピール強度を測定する方法を説明する正面図である。
【図2】本発明の接着剤を用いた半導体装置の一例の断面図である。
【符号の説明】
【0031】
1.半導体素子 2.接着剤
3.銅リードフレーム 4.プッシュプルゲージ
5.熱盤
11.半導体素子 12.接着剤
13.リードフレーム 14.ワイヤ
15.封止材

【特許請求の範囲】
【請求項1】
支持部材に半導体素子を接着させる接着剤であって、
(a)重合可能なエチレン性炭素−炭素二重結合を有する化合物、
(b)エポキシ基を末端に有する反応性エラストマ、及び
(c)エポキシ樹脂、フェノール樹脂、ビスマレイミド樹脂、シアナート樹脂から選ばれる少なくとも1種以上の樹脂、
を含有し、揮発分が10重量%以下である接着剤。
【請求項2】
(a)重合可能なエチレン性炭素−炭素二重結合を有する化合物が30〜80重量部、(b)エポキシ基を末端に有する反応性エラストマが60重量部以下、(c)エポキシ樹脂、フェノール樹脂、ビスマレイミド樹脂、シアナート樹脂から選ばれる少なくとも1種以上の樹脂が5〜30重量部である請求項1に記載の接着剤(ただし、上記(a)、(b)及び(c)の合計量は100重量部である)。
【請求項3】
請求項1または請求項2に記載の接着剤を用いて半導体素子を支持部材に接着してなる半導体装置。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2008−166841(P2008−166841A)
【公開日】平成20年7月17日(2008.7.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−60262(P2008−60262)
【出願日】平成20年3月10日(2008.3.10)
【分割の表示】特願2001−345955(P2001−345955)の分割
【原出願日】平成9年9月25日(1997.9.25)
【出願人】(000004455)日立化成工業株式会社 (4,649)
【Fターム(参考)】