説明

接着方法

【課題】フッ素樹脂部材と他の部材を、接着剤を用いることなく、かつ各部材の化学的又は物理的な構造及び組成を変化させることなく、強固に接着することができる接着方法を提供する。
【解決手段】大気圧プラズマ処理装置10によりフッ素樹脂シートSの表面がプラズマ処理される(表面改質工程)。次に、表面がプラズマ処理されたフッ素樹脂シートSと金属部材とが常温及び常圧の下で接合される(接合工程)。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、フッ素樹脂で構成されたフッ素樹脂部材を他の部材に接着する接着方法に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、フッ素樹脂は、耐薬品性、耐熱性、電気絶縁性、防汚性、耐候性、耐紫外線劣化性、撥水撥油性、低摩擦係数など、他の樹脂に見られない優れた性質を備えている。ここで、従来から、金属部材の表面を保護する目的から、このフッ素樹脂で構成されたフッ素樹脂部材をシート状にして、金属部材の表面に接着することが行われている。そして、このフッ素樹脂部材を金属部材に接着させる手段として、接着剤が用いられていた。
【0003】
しかしながら、接着剤を使用すると、接着剤と部材との親和性が悪いため、接着強度が低くなったり、また接着ムラがあったり、部材が相互に剥がれてしまうなどの問題がある。
【0004】
また、接着剤と部材との親和性を上げるために、薬液処理などでフッ素樹脂部材の表面改質を行っているが、接着剤を必要とするために接着剤層(数10μm)が存在し、部材の特性に影響が出てしまう問題が残る。
【0005】
また、従来の薬剤処理による表面改質では、製造工程が複雑で長くなり(薬液処理、水洗い、乾燥、接着剤塗布、接着などが必要)、また、装置が大型化する問題がある。
【特許文献1】特開2006−294571号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、接着剤を用いずに部材同士を接着しようとすると、部材の融点付近あるいはそれ以上の温度で、溶着させなければならない。その温度で部材同士を溶着させると、部材の組成の変化、形状の変形、変色などが生じてしまうことがあり、使用できる部材の材質、用途が限定されてしまう不便さがある。
【0007】
また、接着剤を用いずに部材同士を接着できるようにするためには、部材の化学的又は物理的な構造及び組成から変更しなければならず、膨大な時間と経費が必要となってくる。また、各部材の化学的又は物理的な構造及び組成を変えると、部材の優れた特性(例えば、耐熱性、強度、絶縁性など)を犠牲にすることにもなる。
【0008】
そこで、本発明は、フッ素樹脂部材と他の部材を、接着剤を用いることなく、かつ各部材の化学的又は物理的な構造及び組成を変化させることなく、接着することができる接着方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
請求項1に記載の発明は、フッ素樹脂で構成されたフッ素樹脂部材を他の部材に接着する接着方法であって、前記フッ素樹脂部材の表面を大気圧又はその近傍の圧力下においてプラズマにより改質する表面改質工程と、前記表面改質工程で改質された前記フッ素樹脂部材の前記表面を前記他の部材に接合する接合工程と、を有することを特徴とする。
【0010】
請求項2に記載の発明は、請求項1に記載の接着方法において、前記接合工程では、常温の下で、前記フッ素樹脂部材と前記他の部材とが接合されることを特徴とする。
【0011】
請求項3に記載の発明は、請求項1又は2に記載の接着方法において、前記他の部材は、金属、ガラス樹脂又はシリコン樹脂のいずれかで構成されていることを特徴とする。
【発明の効果】
【0012】
請求項1に記載の発明によれば、表面改質工程において、フッ素樹脂部材の表面が大気圧又はその近傍の圧力下において大気圧プラズマ処理装置を用いて生成したプラズマにより改質される。次に、接合工程において、表面改質されたフッ素樹脂部材の表面が他の部材に接合される。これにより、フッ素樹脂部材は、他の部材に強固に接着する。このように、本発明の接着方法によれば、接着剤を用いることなく、かつ各部材の化学的又は物理的な構造及び組成を変えることなく、フッ素樹脂部材と他の部材を容易かつ確実に接着することができる。
【0013】
請求項2に記載の発明によれば、接合工程において、常温の下で、フッ素樹脂部材と他の部材とが接合されることにより、各部材の組成が変化したり、各部材の形状が変形したり、各部材が変色してしまうことを防止できる。
【0014】
請求項3に記載の発明によれば、他の部材として、金属、ガラス樹脂又はシリコン樹脂のいずれかで構成されている部材を用い、これらの部材と表面改質されたフッ素樹脂部材とを接合することにより両者を強固に接着することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
次に、本発明の第1実施形態に係る接着方法について、図面を参照して説明する。
【0016】
先ず、本実施形態の接着方法を構成する表面改質工程を実施するための大気圧プラズマ処理装置について説明する。図1に示すように、大気圧プラズマ処理装置10は、印加電極12を備えている。この印加電極12と対向する位置には接地電極14が配置されている。なお、印加電極12と接地電極14の一方または両方の電極は、誘電体で覆われている。接地電極14は、地面にアース接続されている。
【0017】
また、接地電極14の一方の端部側には、フッ素樹脂シート(フッ素樹脂部材)Sを印加電極12と接地電極14との間に送り出すロール状の送出装置16が配置されている。また、接地電極14の他方の端部側には、表面改質されたフッ素樹脂シートSを巻き取るロール状の巻取装置64が配置されている。
【0018】
また、接地電極14の両端部近傍には、フッ素樹脂シートSに皺が発生しないように下方からフッ素樹脂シートSを支持する支持ロール20、22がそれぞれ配置されている。これにより、フッ素樹脂シートSの表面改質部は平面状になる。なお、送出装置16及び巻取装置64は、図示しないモータなどの駆動源に接続されている。これにより、送出装置16及び巻取装置64は、駆動源からの駆動力により回転駆動できるようになっている。
【0019】
ここで、フッ素樹脂シートSは、フィルム状又はシート状に形成されていることが好ましいが、これに限られるものではなく、例えば、板状、チューブ状、バルク状など、改質表面が平面となるものであれば、種々の形状のものを用いることができる。また、フッ素樹脂シートSは、分子内にフッ素原子を含むものであれば、特に限定されるものではない。具体的には、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、テトラフルオロエチレン−エチレン共重合体(ETFE)、テトラフルオロエチレン−ヘキサフルオロプロピレン共重合体(FEP)、ポリビニリデンフルオライド(PVDF)、ポリクロロトリフルオロエチレン(PCTFE)などが挙げられる。
【0020】
また、印加電極12には、マッチング回路24を介して高周波電源26が電気的に接続されている。この高周波電源26により印加電極12と接地電極14との間に高周波電圧が印加される。また、印加電極12には、導管28により混合器30が接続されている。
【0021】
混合器30には、導管32によりガス流量計測装置34を介して第1の処理ガス源36が接続されている。また、混合器30には、導管38により気化器40及びガス流量計測装置42を介して第2の処理ガス源44が接続されている。この気化器40には、導管46により電磁バルブ48を介してエタノール供給源50が接続されている。
【0022】
ここで、第1の処理ガス源36及び第2の処理ガス源44の内部には、ヘリウム(He)、アルゴン(Ar)、ネオン(Ne)などの希ガスや、窒素(N)などの不活性ガスが充填されている。第1の処理ガス源36及び第2の処理ガス源44の内部には、これら単体の不活性ガスが充填されていてもよく、また数種類の不活性ガスが混合したガスが充填されていてもよいが、表面改質の効果が高いヘリウム(He)ガスが充填されていることが特に好ましい。
【0023】
また、エタノール供給源50にはエタノール(COH)が充填されているが、エタノール(COH)に限られるものではなく、例えば、メタノール(CHOH)など、炭素数4以下の第1級アルコール又は第2級アルコールである低級アルコールであればよい。
【0024】
次に、第1実施形態の接着方法について説明する。
第1実施形態の接着方法は、フッ素樹脂シートSと、金属、シリコン樹脂又はガラス樹脂のいずれかで構成される他の部材と、を強固に接着させる方法である。以下、他の部材として、金属部材を例に挙げて詳細に説明する。
【0025】
図2に示すように、接着処理では、フッ素樹脂シートSの表面改質工程が実行される(S100)。表面改質工程は、図1に示す大気圧プラズマ処理装置10を用いて実行される。すなわち、図1に示すように、駆動源からの駆動により送出装置16及び巻取装置64が回転駆動されて、フッ素樹脂シートSが印加電極12と接地電極14との間に送り出される。このとき、印加電極12と接地電極14との間に位置するフッ素樹脂シートSの表面処理部は、フッ素樹脂シートSの表面処理部の近傍が各支持ロール20、22により下方から支持されているので、平面状となり、かつ皺がない状態となっている。
【0026】
また、エタノール供給源50から液体のエタノールが導管46を通って気化器40に供給される。この気化器40によりエタノールが気化される。また、第2の処理ガス供給源44から不活性ガスが所定の流量だけ導管38を通って気化器40に供給される。気化器40で気体にされたエタノールは、第2の処理ガス供給源44から供給された不活性ガスによりバブリングされ、このバブリングされたガスが混合器30に供給される。このとき、第2の処理ガス供給源44から気化器40に供給される不活性ガスの流量がガス流量計測装置42により計測され、その計測値に基づいて電磁バルブ48が制御されることにより、エタノール供給源50から気化器40に供給されるエタノールの流量が制御される。このように、気化器40では、エタノールが気化されるとともに、第2の処理ガス源44から供給された不活性ガスと気化されたエタノールとが混合されて混合ガスとなる。
【0027】
また、第1の処理ガス源36からは所定の流量の不活性ガスが導管32を通って混合器30に供給される。この第1の処理ガス源36から供給される不活性ガスは、キャリアガスとして作用する。混合器30では、第2の処理ガス源44から供給された不活性ガスと気化されたエタノールとが混合された混合ガスと、第1の処理ガス源36から供給された不活性ガスとが混合される。これにより、混合器30では、希釈ガス(処理ガス)が生成される。混合器30で生成された希釈ガス(処理ガス)が導管28を通って印加電極12と接地電極14との間に供給される。
【0028】
一方、印加電極12と接地電極14との間には、高周波電源26から高周波電圧が印加される。このときの周波数は、高周波(数百kHzから数十MHz)が用いられるが、特に、工業用周波数である13.56MHzとすることが好ましい。また、印加電極12と接地電極14との間は、大気圧(1013hPa)の近傍の圧力(900hPa以上1013hPa以下)となっている。
【0029】
なお、印加電極12と接地電極14との間に作用する圧力を900hPaよりも小さくすると、真空ポンプや真空容器が必要となり、設備の製造コスト及び設備のランニングコストが増大するため、不具合となる。また、印加電極12と接地電極14との間に作用する圧力を1013hPaよりも大きくすると、処理ガスが外部に漏れてしまうことを防止するために耐圧容器あるいはより高い気密性が必要となり好ましくない。
【0030】
印加電極12と接地電極14との間に希釈ガス(処理ガス)が供給されるとともに高周波電圧が印加されると、印加電極12と接地電極14との間の放電空間内の希釈ガス(処理ガス)が電離してプラズマが発生し、希釈ガス(処理ガス)が電離した励起状態となって活性化される。そして、放電空間内に発生したプラズマがフッ素樹脂シートSの表面に接することにより、フッ素樹脂シートSの表面改質が行われる。
【0031】
より具体的には、エタノールがプラズマ中で励起されると、−H、−OH、または−O−等が解離される。フッ素樹脂シートSのフッ素樹脂表面のC−F結合は、その結合エネルギの関係から、アルコールから解離した−Hによって切断される。Fが切断されたCの未結合手(ダングリングボンド)に、−OHまたは−O−が付き、表面のフッ素樹脂に親水性を与えることになる。これにより、フッ素樹脂シートSのフッ素樹脂表面を改質させることができる。
【0032】
なお、炭素数が比較的多い高級アルコールを用いると、アルコールがプラズマ中で励起させる際、粘性が高くなり過ぎて気化させることができないか、あるいはクラスター状になるため、励起が極めて困難になる。また、多価アルコールを用いた場合も、粘性が高くなるため、励起が困難になる。さらに、第3級アルコールを用いると、第3級アルコールが酸化されないため、親水性の官能基を解離させることはできない。これらのように、エタノールを用いることにより、フッ素樹脂シートSのフッ素樹脂表面を都合良く改質させることができる。
【0033】
上述したように、各大気圧プラズマ処理装置10を用いて表面改質(プラズマ処理)されたフッ素樹脂シートSは、巻取装置64で巻き取られる。
【0034】
次に、図2に示す接合工程が実行される(S200)。なお、この接合工程の前段階で、接着対象の他の部材である金属部材(他の部材)Mの表面を洗浄してゴミ、塵などを除去しておくことが好ましい。この接合工程では、図3に示すように、プラズマにより表面改質されたフッ素樹脂シートSが金属部材Mに接合される。この接合方法は、作業者が手で両者を張り合わせてもよく、また、ベルトコンベアなどで金属部材Mを移動させて、フッ素樹脂シートSと金属部材Mとをローラを用いて接合させるようにしてもよい。また、接合時の条件として、常温及び常圧の下で、両者を接合させる。ここで、常温とは、例えば、15℃から25℃の範囲を意味する。これにより、フッ素樹脂シートSと金属部材Mとが強固に接着される。なお、フッ素樹脂シートSの接合対象となる部材は、金属部材Mの他に、ガラス樹脂又はシリコン樹脂で構成された部材を用いることによっても、強固な接着力が生じる。
【0035】
また、接合時の条件として、フッ素樹脂シートS又は金属部材Mの少なくとも一方を加圧して、両者の間に所定の圧力が作用する状態(常温及び加圧の条件)にて接合すると、両者の接着力が向上しさらに強固に接着される。
【0036】
以上のように、本実施形態の接着方法によれば、大気圧プラズマ処理装置10を用いてフッ素樹脂シートSの表面を改質し、その後、フッ素樹脂シートSと金属部材Mとを接合するだけで、接着剤を用いることなく、フッ素樹脂シートSと金属部材Mを容易かつ確実に接着することができる。
【0037】
特に、フッ素樹脂シートSと金属部材Mは常温で接合されることにより接着するため、各部材の化学的又は物理的な構造及び組成が変わることを防止できる。
【0038】
また、フッ素樹脂シートSと金属部材Mとの間に接着剤層が存在しないので、フッ素樹脂シートSの特性に影響を与えることもない。さらに、大気圧プラズマ処理装置10を用いた均一な表面改質を行うので、フッ素樹脂シートSの接着強度にムラが生じてしまうことも防止できる。
【0039】
特に、大気圧プラズマ処理装置10A、10Bの処理ガスの生成にはエタノールを用いることにより、有害性がないため、環境に悪影響を及ぼすことを防止できる。また、エタノールには有害性がないため、エタノールを取り扱うために、有害性を考慮した特別な設備が不要となる。また、エタノールには有害性がないため、エタノールを廃液処理するための特別な設備が不要となる。このように、本発明では、環境に悪影響を及ぼすことを防止できるとともに、設備を製造するための製造コストや設備を作動させるためのランニングコストを大幅に低減させることができる。特に、アルコールとしてエタノールを用いることにより、最も安全性を向上させることができる。
【0040】
さらに、各支持ロール20、22によりフッ素樹脂シートSが支持されるため、フッ素樹脂シートSの表面処理部が平面状になる。フッ素樹脂シートSの表面処理部を平面状とすることにより、プラズマを斑なくフッ素樹脂シートSの表面処理部に照射させることができ、表面改質の品質を大幅に向上させることができる。この結果、フッ素樹脂シートSと金属部材Mとの間の接着力に斑がなくなり、両者の接着強度を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0041】
【図1】本発明の第1実施形態に係る接着方法の表面改質工程を実行するための大気圧プラズマ処理装置の構成図である。
【図2】本発明の第1実施形態に係る接着方法の各工程を示した工程図である。
【図3】本発明の第1実施形態に係る接着方法により接着されたフッ素樹脂部材と金属部材の接着状態を示した斜視図である。
【符号の説明】
【0042】
10 大気圧プラズマ処理装置
S フッ素樹脂シート(フッ素樹脂部材)
M 金属部材(他の部材)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
フッ素樹脂で構成されたフッ素樹脂部材を他の部材に接着する接着方法であって、
前記フッ素樹脂部材の表面を大気圧又はその近傍の圧力下においてプラズマにより改質する表面改質工程と、
前記表面改質工程で改質された前記フッ素樹脂部材の前記表面を前記他の部材に接合する接合工程と、
を有することを特徴とする接着方法。
【請求項2】
前記接合工程では、常温の下で、前記フッ素樹脂部材と前記他の部材とが接合されることを特徴とする請求項1に記載の接着方法。
【請求項3】
前記他の部材は、金属、ガラス樹脂又はシリコン樹脂のいずれかで構成されていることを特徴とする請求項1又は2に記載の接着方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2009−173713(P2009−173713A)
【公開日】平成21年8月6日(2009.8.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−11892(P2008−11892)
【出願日】平成20年1月22日(2008.1.22)
【出願人】(501114693)株式会社ウインズ (23)
【Fターム(参考)】