説明

接着部構造

【課題】第2接着剤の外側端部への応力集中を緩和するのと同時に、第1接着剤の外側端部で発生する応力を低下させることを目的とする。
【解決手段】フランジ部12Aの車幅方向内側端部とフロアパネル14の車幅方向外側端部との間に施工された接着剤30を、第1接着剤30Aと、第1接着剤30Aよりも硬化後のヤング率が低く、硬化前の流動性が低い第2接着剤30Bとで構成する。第1接着剤30Aで接着剤30の内周部を構成し、第2接着剤30Bで接着剤30の外周部を構成する。また、フランジ部12Aの第1接着剤30Aが施工された範囲の車幅方向内側端部、及びフロアパネル14の第1接着剤30Aが施工された範囲の車幅方向外側端部に、それぞれ、貫通孔32、34を形成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、一対の被着体を接着した接着部構造に関する。
【背景技術】
【0002】
第1接着剤と、第1接着剤の周囲を囲む第2接着剤とを一対の被着体の間に施工して、一対の被着体を接着した接着部構造が考案されている(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
この接着部構造において周囲の第2接着剤のみをヤング率の低い物とした場合、内側の第1接着剤と周囲の第2接着剤との境界で接着剤同士の剛性差が大きくなり、被着体の曲げ変位を第1接着剤及び第2接着剤の歪みで吸収する場合、ヤング率が高い第1接着剤の外側端部の応力が高くなる可能性がある。
【特許文献1】実開昭63−168164号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は上記事実を考慮し、第2接着剤の外側端部への応力集中を緩和させるのと同時に、第1接着剤の外側端部に生じる応力を低下させることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
請求項1に記載の接着部構造は、一対の被着体の間に施工された第1接着剤と、一対の前記被着体の間の前記第1接着剤の外側に施工され、前記第1接着剤よりも硬化後のヤング率が低く設定された第2接着剤とで、一対の前記被着体を接着し、前記被着体の剛性を低下させる剛性低下手段を、前記被着体の前記第1接着剤が施工された範囲、及び前記被着体の前記第2接着剤が施工された範囲の少なくとも一方に設けたことを特徴とする。
【0006】
請求項1に記載の接着部構造では、第1接着剤を一対の被着体の間に施工し、第2接着剤を一対の被着体の間の第1接着剤の外側に施工して、一対の被着体を接着している。ここで、第2接着剤の硬化後のヤング率を第1接着剤よりも低く設定し、第2接着剤を第2着剤よりも歪み易くすることで、第2接着剤の外側端部への応力集中を緩和している。
【0007】
また、ここで、被着体の第1接着剤が施工された範囲、及び第2接着剤が施工された範囲の少なくとも一方に設けられた剛性低下手段によって、被着体の剛性を低下させている。これによって、一方の被着体の曲げ変形に他方の被着体が追従し易くなり、第1接着剤や第2接着剤の歪みが抑制されるので、第2接着剤の外側端部への応力集中をさらに緩和させるのと同時に、第1接着剤の外側端部に生じる応力を低下させることが可能となる。
【0008】
請求項2に記載の接着部構造は、請求項1に記載の接着部構造であって、前記剛性低下手段は、前記被着体の前記第1接着剤が施工された範囲に形成された貫通孔であることを特徴とする。
【0009】
請求項2に記載の接着部構造では、被着体の第1接着剤が施工された範囲に貫通孔が形成されている。これによって、一方の被着体に第1接着剤を施工した後、一対の被着体を貼り合わせる場合、被着体の接着面に残留した空気等の不要残留物を、貫通孔から除去することが可能となる。
【0010】
請求項3に記載の接着部構造は、請求項2に記載の接着部構造であって、前記第2接着剤は、前記第1接着剤を挟んだ両側で対向しており、前記被着体の厚さ方向に見て、前記貫通孔は、前記第1接着剤の前記第2接着剤が対向する方向の両端部に配置されていることを特徴とする。
【0011】
請求項3に記載の接着部構造では、第2接着剤が、第1接着剤を挟んだ両側で対向しており、被着体の厚さ方向に見て、貫通孔が、第1接着剤の第2接着剤が対向する方向の両端部に配置されている。
【0012】
これによって、被着体の厚さ方向に見て、第1接着剤の第2接着剤が対向する方向の一端部に配置された貫通孔から第1接着剤を注入し、他端部に配置された貫通孔からの第1接着剤の流出を確認することで、一対の被着体と第2接着剤との間に第1接着剤が充填されたことを確認することが可能となる。
【0013】
請求項4に記載の接着部構造は、請求項1乃至請求項3の何れか1項に記載の接着部構造であって、前記第2接着剤は、前記第1接着剤よりも硬化前の流動性が低い接着剤であることを特徴とする。
【0014】
請求項4に記載の接着部構造では、一対の被着体の間において第1接着剤の外側に施工された第2接着剤を、第1接着剤よりも硬化前の流動性が低い接着剤としている。これによって、一対の被着体の間に接着剤を施工する際の接着剤の垂れを抑制できる。
【0015】
請求項5に記載の接着部構造は、請求項1乃至請求項4の何れか1項に記載の接着部構造であって、前記被着体は、車体を構成する車体パネル部材又は車体を構成する車体骨格部材であることを特徴とする。
【0016】
請求項5に記載の接着部構造では、車体を構成する車体パネル部材同士の接着部、車体を構成する車体骨格部材同士の接着部、又は、車体パネル部材と車体骨格部材との接着部に剥離荷重が作用する場合に、第1接着剤と第2接着剤との境界部で生じる応力の急変を緩和できる。これによって、第1接着剤と第2接着剤との境界部と車体パネル部材又は車体骨格部材との剥離を抑制できる。
【0017】
請求項6に記載の接着部構造は、請求項1乃至請求項4の何れか1項に記載の接着部構造であって、一方の前記被着体は、車体前部において車体前後方向に延在するフロントサイドメンバを少なくとも備えるボディユニット、他方の前記被着体は、前記ボディユニットと車体前後方向に接合され、車室を構成するキャビンユニットであり、前記第1接着剤は、前記ボディユニットと前記キャビンユニットとの接合部間に施工され、前記第2接着剤は、前記ボディユニットと前記キャビンユニットとの接合部間の前記第1接着剤の車体下側及び車体上側に施工されており、前記剛性低下手段は、前記ボディユニットの前記キャビンユニットとの接合部の車体下側端部及び車体上側端部の少なくとも一方に設けられていることを特徴とする。
【0018】
請求項6に記載の接着部構造では、フロントサイドメンバを少なくとも備えるボディユニットと、車室を構成するキャビンユニットとの接合部間に、第1接着剤を施工し、該接合部間の第1接着剤の車体下側及び車体上側に第2接着剤を施工して、ボディユニットとキャビンユニットとを車体前後方向に接着している。ここで、第2接着剤の硬化後のヤング率を第1接着剤よりも低く設定することで、第2接着剤の車体下側端部及び車体上側端部への応力集中を緩和している。
【0019】
また、ここで、ボディユニットのキャビンユニットとの接合部の車体下側端部及び車体下側端部の少なくとも一方に設けられた剛性低下手段によって、ボディユニットのキャビンユニットとの接合部の剛性を低下させている。これによって、ボディユニットとキャビンユニットとの接合部に、主に車体上下方向のせん断荷重が作用する場合に、第1接着剤と第2接着剤との境界で生じる応力の急変を緩和できる。これによって、第1接着剤と第2接着剤との境界部とボディユニットとの剥離が生じ難くなる。
【発明の効果】
【0020】
以上説明したように、本発明によれば、第2接着剤の外側端部への応力集中を緩和させるのと同時に、第1接着剤の外側端部に生じる応力を低下させることが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0021】
次に、本発明の接着部構造の一実施形態を図1乃至図10に従って説明する。
【0022】
なお、図中矢印FRは車体前方方向を、矢印UPは車体上方方向を、矢印INは車幅内側方向を示す。
【0023】
図1には、本発明の接着部構造を備える自動車車体Bを示している。この図に示されるように、自動車車体Bは、それぞれ車体前後方向に長手とされた左右一対の、被着体、車体骨格部材としてのサイドシル12を備えている。それぞれ左右のサイドシル12の車幅方向内側端部には、車体フロアFを構成する、被着体、車体パネル部材としてのフロアパネル14の車幅方向外側端部が接着されている。主に車体前後方向及び車幅方向に延在する車体フロアFの車幅方向中央部には、車体前後方向に延在すると共に車体上下方向の下向きに開口する、被着体、車体骨格部材としてのフロアトンネル16が設けられており、左右のフロアパネル14の車幅方向内側端部はフロアトンネル16の車体上下方向の下向き開口端部に接着されている。
【0024】
また、各サイドシル12は、それぞれの前端12Aが、略車体上下方向に沿って延在するフロントピラー18の下端18Aに連続している。図示は省略するが、左右のフロントピラー18は、車体上下方向に延在されており、互いの間にフロントウインドシールドガラスを保持するようになっている。さらに、左右のフロントピラー18には、それぞれ、被着体、車体パネル部材としてのダッシュパネル20の車幅方向の両端部が接合されている。
【0025】
ダッシュパネル20は、車幅方向及び車体上下方向に延在し、車室Cと該車室Cよりも前方の空間Rf(例えばエンジンルーム)とを隔てている。このダッシュパネル20には、左右一対の、被着体、車体骨格部材としてのフロントサイドメンバ21の後端部21Aが接着されるようになっており、左右のフロントサイドメンバ21の前端間はフロントバンパの骨格部材を構成するバンパリインフォースメントによって架け渡されている。このダッシュパネル20の車幅方向中央下部には、フロアトンネル16の前端を前方の空間Rfに開口させる切欠部20Aが形成されている。
【0026】
一方、左右のサイドシル12の後端12Bは、それぞれ略車体上下方向に沿って延在するセンタピラー22の下端22Aに連続している。左右のサイドシル12の後端12B、センタピラー22には、リヤサイドメンバ(図示省略)が連続している。さらに、左右のセンタピラー22には、それぞれルームパーティションパネル24の車幅方向両端部が接合されている。
【0027】
ルームパーティションパネル24は、車幅方向及び略車体上下方向に延在する傾斜面として構成されており、車室Cと該車室Cよりも後方の空間Rr(例えば、トランクルーム)とを隔てている。ルームパーティションパネル24の車幅方向中央部には、フロアトンネル16の後端を後方の空間Rrに開口させる切欠部(図示省略)が形成されている。すなわち、フロアトンネル16は、車体フロアFの車体前後方向の全長に亘って延在し、車体前後方向の両端でも開口する構成とされている。
【0028】
以上説明した自動車車体Bは、その主要構成要素であるサイドシル12、フロアパネル14、フロアトンネル16、フロントピラー18、ダッシュパネル20、フロントサイドメンバ21、センタピラー22、及びルームパーティションパネル24の主要部がそれぞれ炭素繊維強化プラスチック(以下、CFRPという)にて構成されている。但し、ガラス繊維強化プラスチック(GFRP)を排除するものではなく、繊維強化プラスチック(FRP)であれば良い。
【0029】
また、自動車車体Bでは、サイドシル12、フロアパネル14、フロアトンネル16、フロントピラー18、ダッシュパネル20、センタピラー22、及びルームパーティションパネル24を備え、車室Cを構成するキャビンユニット40と、フロントサイドメンバ21を備え、車体前部を構成するボディユニット42とが、上述したようにフロントサイドメンバ21の後端部21Aがダッシュパネル20に接着されることにより、一体化されている。
【0030】
ここで、図2に示すように、左右のサイドシル12の車幅方向内側端部には、車体前後方向を長手方向とするフランジ部12Aが形成されている。このフランジ部12Aは、サイドシル12の車体下側の壁部12Bを車幅方向内側へ延出させることによって形成されている。また、フロアトンネル16の下向き開口端部(車幅方向外側端部)には、車体前後方向を長手方向とするフランジ部16Aが形成されている。
【0031】
フランジ部12Aの車幅方向内側端部12C上には、フロアパネル14の車幅方向外側端部14Aが重ねられ、車幅方向内側端部12Cと車幅方向外側端部14Aとの接触面全域に接着剤30が施工(塗布)されており、これにより車幅方向内側端部12Cと車幅方向外側端部14Aとが重ね合わされた状態で接着されている。
【0032】
また、フランジ部16Aの車幅方向外側端部16B上には、フロアパネル14の車幅方向内側端部14Bが重ねられ、車幅方向外側端部16Bと車幅方向内側端部14Bとの接触面全域に接着剤30が施工(塗布)されており、これにより車幅方向外側端部16Bと車幅方向内側端部14Bとが重ね合わされた状態で接着されている。
【0033】
ここで、フランジ部12Aとフロアパネル14との接着部10の構造について説明する。なお、フランジ部16Aとフロアパネル14との接着部11の構造についての説明は省略するが、フランジ部12Aとフロアパネル14との接着部10と左右対称な構造になっている。
【0034】
図3(A)、(B)には、図2の図示状態において左側の接着部10の拡大断面図が示されている。これらの図に示すように、接着剤30は、硬化後のヤング率、及び硬化前の流動性(粘度)が互いに異なる第1接着剤30Aと第2接着剤30Bとで構成されている。第1接着剤30Aは、接着剤30の内側部分を構成し、第2接着剤30Bは、接着剤30の外周部(外側部分)を構成している。即ち、第2接着剤30Bは、第1接着剤30Aの周囲を囲んでおり、フロアパネル14の接着面14Sの周縁部とフランジ部12Aの接着面12Sの周縁部とを接着している。
【0035】
また、第1接着剤30Aの硬化後のヤング率は、構造用接着剤としての十分な破断強度が得られる程度に、高く設定されており、第2接着剤30Bの硬化後のヤング率は、第1接着剤30Aよりも低く設定されている。また、第2接着剤30Bは、硬化温度まで昇温される際にも垂れが発生しない程度に、硬化前の流動性を低く(硬化前の粘度を高く)設定されており、第1接着剤30Aは、第2接着剤30Bよりも硬化前の流動性を高く(硬化前の粘度を低く)設定されている。
【0036】
また、フランジ部12Aの第1接着剤30Aが施工された範囲12Tの車幅内側端部には、フランジ部12Aを貫通する複数の貫通孔32が、車体前後方向に沿って形成されている。また、フロアパネル14の第1接着剤30Aが施工された範囲14Tの車幅外側端部には、フロアパネル14を貫通する複数の貫通孔34が、車体前後方向に沿って形成されている。
【0037】
ここで、第2接着剤30Bは、第1接着剤30Aを挟んだ車幅方向の両側で対向しており、フロアパネル14、フランジ部12Aの厚さ方向に見て、貫通孔32、34は、第1接着剤30Aの第2接着剤30Bが対向する方向(車幅方向)の両端部に配置されている。
【0038】
なお、貫通孔32、34内には、第1接着剤30Aが充填されている。
【0039】
次に、フロントサイドメンバ21の後端部とダッシュパネル20との接着部100の構造について図4(A)、(B)を参照して説明する。
【0040】
図4(A)、(B)に示すように、フロントサイドメンバ21の後端部21Aには、ダッシュパネル20と車体前後方向に接着される矩形板状のプレート44が接合されている。このプレート44とダッシュパネル20の接着部20Aとの接触面全域には、上述の接着剤30が施工されており、プレート44とダッシュパネル20とが車体前後方向に重ね合わされた状態で接着されている。
【0041】
ここで、接着剤30の外周部を構成する第2接着剤30Bが、プレート44の接着面44Sとダッシュパネル20の接着面20Sとの周縁部同士を接着し、接着剤30の内側部分を構成する第1接着剤30Aは、プレート44の接着面44Sとダッシュパネル20の接着面20Sの第2接着剤30Bに囲まれた範囲同士を接着している。
【0042】
また、プレート44の第1接着剤30Aが施工された範囲44Tの車体下側端部及び車体上側端部には、それぞれ、プレート44を貫通する複数の貫通孔32、34が、車幅方向に沿って形成されている。
【0043】
ここで、第2接着剤30Bは、第1接着剤30Aを挟んだ車体上下方向の両側で対向しており、プレート44の厚さ方向に見て、貫通孔32、34は、第1接着剤30Aの第2接着剤30Bが対向する方向(車体上下方向)の両端部に配置されている。
【0044】
次に、本実施形態における作用について説明する。なお、フロアパネル14とフランジ部16Aとの接着部11についての作用については説明を省略するが、フロアパネル14とフランジ部12Aとの接着部10と同様の作用により同様の効果を得ることができる。
【0045】
図5に示すように、乗員や荷物等の荷重Pが、フロアパネル14に車体上方から車体下方へ入力された場合、フロアパネル14の周縁部には、荷重Pの入力位置方向への張力Fが発生する。この張力Fは、フロアパネル14とフランジ部12Aとの接着部10の車幅方向内側端部に、車幅方向内側へ向かうせん断力として作用し、フロアパネル14とフランジ部12Aとの接着部10の車幅方向内側端部に、フロアパネル14を接着剤30の反対側へ曲げる(車体前側から見て反時計回り方向の)曲げモーメントM1を発生させる。
【0046】
これによって、図6(A)に示すように、フロアパネル14のフランジ部12Aとの車幅方向外側端部(以下、フロアパネル接着部という)14Aの車幅方向内側端部14Cに、フロアパネル14の接着剤30の反対側への曲げ変形が発生する。
【0047】
ここで、接着剤30の車幅方向内側端部を構成する第2接着剤30Bは、フロアパネル接着部14Aの車幅方向内側端部14Cの曲げ変形に追従して歪むことによって、フロアパネル接着部14Aの車幅方向内側端部14Cの曲げ変形を吸収しようとする。このため、接着剤30の車幅方向内側端部を構成する第2接着剤30Bには応力集中が生じる。
【0048】
しかし、本実施形態では、接着剤30の車幅方向内側端部を構成する第2接着剤30Bの硬化後のヤング率を、接着剤30の車幅方向中央部を構成する第1接着剤30Aよりも低く設定し、第2接着剤30Bを第1接着剤30Aよりも歪み易くしている。これによって、接着剤30の車幅方向内側端部に生じる応力集中を緩和できる。
【0049】
また、上記貫通孔32により、フランジ部12Aの車幅方向内側端部(以下、フランジ接着部という)12Cの車幅方向内側端部12Dの剛性が低下されていることで、貫通孔32をフランジ部12Aに形成していない場合(図6(B)参照)と比較して、フランジ部接着部12Cの車幅方向内側端部12Dに、フロアパネル接着部14Aの車幅方向内側端部14Cの曲げ変形に追従しての曲げ変形が生じ易くなっている。これによって、接着剤30の車幅方向内側端部に生じる歪みを抑制できる。
【0050】
従って、図7(A)の応力分布図に示すように、貫通孔32をフランジ部12Aに形成していない場合(図7(B)参照)と比較して、接着剤30の車幅方向内側端部に生じる応力を緩和させることができるのと同時に、第1接着剤30Aと第2接着剤30Bとの境界部での応力の急変を緩和でき、第1接着剤30Aの車幅方向内側端部に生じる応力を低下させることができる。
【0051】
従って、接着剤30の車幅方向内側端部とフランジ接着部12Cの車幅方向内側端部12Dとの剥離を抑制できるのと同時に、第1接着剤30Aと第2接着剤30Bとの境界部とフランジ接着部12Cとの剥離を抑制できる。また、第1接着剤30Aと第2接着剤30Bとが互いに混合し合うことが無い異種類の接着剤である場合においても、第1接着剤30Aと第2接着剤30Bとが互いに剥離し合うことを抑制できる。
【0052】
また、図8に示すように、プレート44とダッシュパネル20との接着部100では、タイヤの突き上げ荷重のフロントサイドメンバ21への入力等により、車体上下方向のせん断力が作用する。プレート44とダッシュパネル20との接着部100の車体下側端部では、車体下方へ向かうせん断力Qが作用し、ダッシュパネル20の接着部20Aの車体下側端部20Cを接着剤30の反対側へ曲げる(車体左側から見て反時計回り方向の)曲げモーメントM2が発生する。これにより、ダッシュパネル20の接着部20Aの車体下側端部20Cには、接着剤30の反対側への曲げ変形が発生する。
【0053】
ここで、接着剤30の車体下側端部が第2接着剤30Bにより構成されているので、接着剤30の車体下側端部の歪みにより、ダッシュパネル20の接着部20Aの車体下側端部20Cの曲げ変形を吸収する場合でも、接着剤30の車体下側端部に生じる応力集中を緩和できる。
【0054】
また、貫通孔32により、プレート44の車体下側端部44Aの剛性が低下されており、プレート44の車体下側端部44Aに、ダッシュパネル20の接着部20Aの車体下側端部20Cの曲げ変形に追従しての曲げ変形が生じ易くなっている。これによって、接着剤30の車体下側端部に生じる応力集中を緩和させることができるのと同時に、第1接着剤30Aと第2接着剤30Bとの境界部での応力の急変を緩和でき、第1接着剤30Aの車体下側端部に生じる応力を低下させることができる。
【0055】
従って、車体上下方向に接着面44S、20Sが広がるプレート44とダッシュパネル20との接着部100に、車体上下方向の剥離荷重が作用した場合でも、接着剤30の車体下側端部とプレート44の車体下側端部との剥離を抑制できるのと同時に、第1接着剤30Aと第2接着剤30Bとの境界部とプレート44との剥離を抑制できる。
【0056】
次に、フロアパネル14とフランジ部12Aとの接着方法(複数の被着体の接着方法、複数の車体構成部品の接着方法、車体製造方法)について説明する。
【0057】
まず、第2接着剤30Bを、フランジ部12Aの接着面12S及びフロアパネル14の接着面14Sの少なくとも一方の周縁部に施工し、フランジ部12Aの接着面12Sとフロアパネル14の接着面14Sとを重ね合わせる。この際、フランジ部12Aの接着面12Sとフロアパネル14の接着面14Sとの隙間を規定量に設定する。
【0058】
その後、貫通孔32及び貫通孔34の何れか一方から、フランジ部12Aとフロアパネル14と第2接着剤30Bとの隙間に第1接着剤30Aを注入する。この第1接着剤30Aの注入作業は、第1接着剤30Aが貫通孔32及び貫通孔34の何れか他方から流出するまで続行する。
【0059】
そして、第1接着剤30Aの注入作業の終了後、第1接着剤30A及び第2接着剤30Bを加熱し、硬化温度まで昇温させる。これによって、フロアパネル14とフランジ部12Aとが接着される。
【0060】
次に、本接着方法における作用について説明する。
【0061】
第1接着剤30Aが、貫通孔32及び貫通孔34の何れか一方から、フランジ部12Aとフロアパネル14と第2接着剤30Bとに囲まれた隙間に注入され、該隙間内で第2接着剤30Bまで広がる。ここで、第2接着剤30Bは、第1接着剤30Aよりも硬化前の流動性が低いので、第1接着剤30Aは、第2接着剤30Bによって塞き止められる。これによって、フランジ部12Aとフロアパネル14との接着部10からの接着剤30の垂れが抑制される。
【0062】
また、フランジ部12Aとフロアパネル14と第2接着剤30Bとに囲まれた隙間に第1接着剤30Aが充填された後、第1接着剤30Aは、貫通孔32及び貫通孔34の何れか他方から流出する。
【0063】
これによって、該隙間に注入する第1接着剤30Aにより第2接着剤30Bが押し広げられることを抑制できる。また、第1接着剤30Aが貫通孔32及び貫通孔34の何れか他方から流出することを確認することにより、該隙間への第1接着剤30Aの充填完了を、確認できる。
【0064】
以上、フロアパネル14とフランジ部12Aとの接着方法について説明したが、フロアパネル14とフランジ部16Aとの接着、プレート44とダッシュパネル20との接着も同様の方法により行われ、同様の作用により同様の効果を得ることができる。
【0065】
なお、本接着方法では、フランジ部12Aとフロアパネル14とを貼り合わせた後、第1接着剤30Aを施工したが、フランジ部12A又はフロアパネル14に第1接着剤30Aを施工した後、フランジ部12Aとフロアパネル14とを貼り合わせても良い。この場合、フランジ部12Aの接着面12Sやフロアパネル14の接着面14Sに残留した空気等の不要残留物を、貫通孔32又は貫通孔34から除去できる。
【0066】
以上、本発明を特定の実施形態について詳細に説明したが、本発明はかかる実施形態に限定されるものではなく、本発明の範囲内にて他の種々の実施形態が可能であることは当業者にとって明らかである。例えば、本実施形態では、本発明の接着部構造をフロアパネルとサイドシルとの接着部、フロアパネルとフロアトンネルとの接着部、及びボディユニットとキャビンユニットとの接着部に適用したが、本発明の接着部構造は、Aピラーとダッシュパネルとの接着部等の車体に設けられた他の接着部や、車体以外に設けられた接着部にも適用可能である。
【0067】
また、本実施形態では、剛性低下手段を、フランジ部12A、及びフロアパネル14の第1接着剤30Aが施工された範囲12T、14Tにそれぞれ形成された貫通孔32、34としたが、剛性低下手段は、フランジ部12Aの接着部12C車幅方向内側端部12Dの剛性、及びフロアパネル14の接着部14Aの車幅方向外側端部の剛性を、それぞれ低下させる手段であれば良い。
【0068】
例えば、貫通孔32、34をそれぞれ、フランジ接着部12Cの車幅方向内側端部12D、フロアパネル接着部14Aの車幅方向外側端部14Dに沿って延在する溝(U溝)50、52(図9(A)、(B)参照)や、フランジ部12A、及びフロアパネル14の厚み方向の中間部まで空けられた孔(非貫通孔)54、56(図10(A)、(B)参照)等の他の形状の手段に置換しても良い。また、図10(A)、(B)に示すように、孔54、56等の剛性低下手段を、フランジ部12A、及びフロアパネル14の第2接着剤30Bが施工された範囲12U、14Uに形成しても良い。
【0069】
また、本実施形態では、第2接着剤30Bにより第1接着剤30Aの周囲を囲んだが、このことは必須ではない。例えば、接着剤30の周縁部の剥離荷重が入力されない範囲若しくは入力される剥離荷重が極めて小さい範囲には第2接着剤30Bを施工しない等、第2接着剤30Bを施工する範囲は、各接着部毎に適宜設定すれば良い。
【0070】
さらに、本実施形態では、貫通孔32、34を、フロアパネル14とフランジ部12Aとの接着部の車幅方向両端部、及び、プレート44とダッシュパネル20との接着部の車体上下方向両端部に設けたが、例えば、剥離荷重が入力されない範囲若しくは入力される剥離荷重が極めて小さい範囲には貫通孔32、34を設けない等、貫通孔32、34を設けるか否かは、各接着部毎に適宜決定すれば良い。
【図面の簡単な説明】
【0071】
【図1】本発明の一実施形態の接着部構造を備える車体を示す斜視図である。
【図2】図1の断面図である。
【図3】本発明の一実施形態の接着部構造を示す(A)は断面図であり、(B)は平面図である。
【図4】本発明の一実施形態の接着部構造を示す(A)は側面図であり、(B)は正面図である。
【図5】フロアパネルに乗員の荷重が入力された状態を示す断面図である。
【図6】(A)は本発明の一実施形態の接着部構造の作用を示す図3(A)に対応する拡大断面図であり、(B)は、比較例の一実施形態の接着部構造の作用を示す拡大断面図である。
【図7】(A)は本発明の接着部構造を備える接着部での応力分布図を示すグラフであり、(B)は比較例の接着部での応力分布図を示すグラフである。
【図8】本発明の一実施形態の接着部構造の作用を示す図4(A)に対応する拡大断面図である。
【図9】本発明の一実施形態の接着部構造の変形例を示す(A)は断面図であり、(B)は平面図である。
【図10】本発明の一実施形態の接着部構造の変形例を示す(A)は断面図であり、(B)は平面図である。
【符号の説明】
【0072】
10 接着部
11 接着部
12 サイドシル(被着体、車体骨格部材)
12A フランジ部(被着体)
12T 第1接着剤が施工された範囲
12U 第2接着剤が施工された範囲
14 フロアパネル(被着体、車体パネル部材)
14T 第1接着剤が施工された範囲
14U 第2接着剤が施工された範囲
16 フロアトンネル(被着体、車体骨格部材)
16A フランジ部(被着体)
20 ダッシュパネル(被着体、車体パネル部材)
21 フロントサイドメンバ(被着体、車体骨格部材)
30A 第1接着剤
30B 第2接着剤
32 貫通孔(剛性低下手段)
34 貫通孔(剛性低下手段)
40 キャビンユニット(被着体)
42 ボディユニット42(被着体)
44 プレート(被着体)
50 溝(剛性低下手段)
52 溝(剛性低下手段)
54 孔(剛性低下手段)
56 孔(剛性低下手段)
100 接着部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
一対の被着体の間に施工された第1接着剤と、一対の前記被着体の間の前記第1接着剤の外側に施工され、前記第1接着剤よりも硬化後のヤング率が低く設定された第2接着剤とで、一対の前記被着体を接着し、
前記被着体の剛性を低下させる剛性低下手段を、前記被着体の前記第1接着剤が施工された範囲、及び前記被着体の前記第2接着剤が施工された範囲の少なくとも一方に設けたことを特徴とする接着部構造。
【請求項2】
前記剛性低下手段は、前記被着体の前記第1接着剤が施工された範囲に形成された貫通孔であることを特徴とする請求項1に記載の接着部構造。
【請求項3】
前記第2接着剤は、前記第1接着剤を挟んだ両側で対向しており、
前記被着体の厚さ方向に見て、前記貫通孔は、前記第1接着剤の前記第2接着剤が対向する方向の両端部に配置されていることを特徴とする請求項2に記載の接着部構造。
【請求項4】
前記第2接着剤は、前記第1接着剤よりも硬化前の流動性が低い接着剤であることを特徴とする請求項1乃至請求項3の何れか1項に記載の接着部構造。
【請求項5】
前記被着体は、車体を構成する車体パネル部材又は車体を構成する車体骨格部材であることを特徴とする請求項1乃至請求項4の何れか1項に記載の接着部構造。
【請求項6】
一方の前記被着体は、車体前部において車体前後方向に延在するフロントサイドメンバを少なくとも備えるボディユニット、他方の前記被着体は、前記ボディユニットと車体前後方向に接合され、車室を構成するキャビンユニットであり、
前記第1接着剤は、前記ボディユニットと前記キャビンユニットとの接合部間に施工され、前記第2接着剤は、前記ボディユニットと前記キャビンユニットとの接合部間の前記第1接着剤の車体下側及び車体上側に施工されており、
前記剛性低下手段は、前記ボディユニットの前記キャビンユニットとの接合部の車体下側端部及び車体上側端部の少なくとも一方に設けられていることを特徴とする請求項1乃至請求項4の何れか1項に記載の接着部構造。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2008−143936(P2008−143936A)
【公開日】平成20年6月26日(2008.6.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−329452(P2006−329452)
【出願日】平成18年12月6日(2006.12.6)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】