説明

接近困難な内部スペースを独立的に検査するための車両

【課題】僅かな所要スペースと良好な操縦可能性を特徴とし、多種の検査形式に適しており、問題なく内壁に沿って任意の空間的方向に動くことができるような、接近困難な内部スペースを独立的に検査するための装置を提供する。
【解決手段】強磁性の内壁24によって制限された接近困難な内部スペース、特に例えば蒸気タービンの蒸気室のような大きなキャスティング部分をセンサ23で検査するための車両10であって、共通の軸14を中心として回転可能な、軸方向で互いに間隔を置いて配置された、互いに独立的に駆動可能な少なくとも2つの車輪12,13を有している形式のものに関し、車両10が永久磁石等の付着手段21,22;25,26を有しており、該付着手段が、車両10を重力に抗して、車輪12,13で各内壁24に保持することにより、全内部スペースを検査することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、接近困難な内部スペースを有した構成部分の検査に関する。本発明は、請求項1の上位概念に記載の形式の、接近困難な内部スペースを独立的に検査するための車両に関する。
【背景技術】
【0002】
例えばガスタービンや蒸気タービンのようなエネルギ発生のための大きな設備の検査は、早期に損傷を発見し、この設備の故障期間を最小限にするために重要である。
【0003】
例えば蒸気室のような、このような設備の特に大きなキャスティング部分、即ち、生蒸気供給ラインを蒸気タービンに接続し、必要な全ての弁を有する構造体(例えば、EP−A1−0005616又はUS−A−4592699参照)は、高圧高温にさらされるので、しばしば亀裂が生じる。このような亀裂形成は適当な時期に、即ち早期段階で検出されるならば、適当な措置を講じることができ、深刻な結果を回避することができる。
【0004】
このような構造体の外面の検査は比較的簡単であるが、内壁の検査は、内部スペースに接近するための開口部が内部スペース自体と比べてしばしば極めて狭く、内壁は不規則的な、特に凹面状の形状を有していて、内部スペース内に導入される検査装置のための空間を制限しているので、困難である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】EP−A1−0005616
【特許文献2】US−A−4592699
【特許文献3】DE−U1−29808730
【特許文献4】WO−A1−01/28797
【特許文献5】US−B1−7056185
【特許文献6】US−A1−2008/0173493
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の課題は、僅かな所要スペースと良好な操縦可能性を特徴とし、多種の検査形式に適しており、問題なく内壁に沿って任意の空間的方向に動くことができるような、上記の形式の構造体における内部スペース若しくは内壁の検査のために有利に使用することができる装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
この課題は、請求項1の特徴全てにより解決される。この課題を解決するために本発明の構成では、共通の軸を中心として回転可能な、軸方向で互いに間隔を置いて配置された互いに独立的に駆動可能な少なくとも2つの車輪を有した車両であって、付着手段、特に永久磁石を有しており、該付着手段が、車両を重力に抗して、車輪で各内壁に保持するようにした。
【発明の効果】
【0008】
一車軸の構成により、車両を車軸方向で、制限された開口部を通して、検査すべき内部スペース内に導入することができる。内部スペース内では、駆動される2つの車輪により、任意の方向に操縦することができ、移動することができる。この場合、鉛直方向の壁に沿って、又は、頭上モードで、付着手段、有利には磁力によって、各壁に接触状態で保持される。
【0009】
2つの別個の駆動輪を有した一車軸の車両自体は、以前から公知である。DE−U1−29808730には、2つの車輪と、1つの車軸と、該車軸に振り子状に支承された、例えば車室である基体とを備えた走行可能な装置が開示されている。車輪の駆動は電動モータ又は内燃機関により、中央のディファレンシャル伝動装置及び両車輪に配属された2つのディファレンシャルを介して行われる。
【0010】
WO−A1−01/28797により、独立的に駆動される2つの車輪を有した一車軸の車両が公知である(例えば図1参照)。この車両では、操縦は、両車輪の異なる回転速度により行われ、低い位置にある重心点が、車両の走行運動を保証する。
【0011】
US−B1−7056185により、遠隔操作される一車軸のクロスカントリ車両が公知である。この車両は、全方向に動く車輪を備えているので、極めてコストのかかる壊れやすい機構を有している。
【0012】
US−A1−2008/0173493には2車輪を備えたロボットが記載されており、駆動される車輪の、運転のために必要な制御について詳しく記載されている。
【0013】
最後にRecon Scoutの登録商標名で公知の、一車軸二車輪の小型可動ロボットは、遠隔操作により、敵地の又は危険な環境において、搭載されたビデオカメラによって撮影し、画像を受信機に伝達することができる。堅牢に構成されたロボットはプラスチックの車輪を有しており、これらの車輪の間にチタンから成る円筒状のハウジングが配置されていて、このハウジング内に、カメラ、駆動装置、制御装置が収容されている。ハウジングには外部に、前進走行の際にハウジングの回転を防止するフレキシブルな「スタビライジング・テール(stabilizing tail)が取り付けられている。このようなロボットは例えば約8cmの車輪直径、約19cmの軸方向長さ、0.5kgの重量を有している。
【0014】
これらの公知の一車軸二車輪の車両と本発明による車両とは、本発明が付着手段、特に磁気的な手段を有していて、このような手段により、強磁性材料から成る鉛直方向の壁又は頭上の壁に、その車輪が壁に接触を維持するように保持できる点で異なる。付着手段若しくは磁気的な手段が、車両を、その組み込まれた(光学的又はその他の)検査装置と共に、重力に抗して頭上で内壁に保持できるほど十分に強力でなければならないことは当然である。
【0015】
基本的には付着作用は、負圧(吸引手段)や接着手段によって得られるが、本発明の一構成によれば、付着手段若しくは磁気的な手段は少なくとも1つの永久磁石を有している。有利には、個々の車輪に配属された少なくとも2つの永久磁石が設けられている。特に、永久磁石は、外部からの影響に対して保護するために、部分的に又は完全に車輪内に配置することができる。これにより付加的に、永久磁石が、車輪と壁との間の接触が維持されるべき場所に正確に配置されるという利点が得られる。このことは特に平坦ではない壁の場合に有利に作用する。相応に構成された永久磁石により、車両にそのためのエネルギを供給する必要なしに大きな付着力が得られる。
【0016】
別の構成によれば、永久磁石は車両の車輪から分離されている。分離することにより、車輪が回転する場合、永久磁石は壁に対して正確に方向付けを維持することができる、若しくは(スペースのコーナで)別の壁に対して、車輪を動かす必要なしに方向付けることができる。
【0017】
車輪の独立的な駆動は、基本的に、前記刊行物DE−U1−29808730に記載されているような、相応のディファレンシャル装置によって得られる。しかしながら本発明の構成によれば、各車輪に固有の駆動装置が配属されており、駆動装置は、車両内に取り付けられたエネルギ蓄え器からエネルギを供給され、車両内に取り付けられた制御装置によって制御される。これにより、僅かな構造コストによって車両の大きな可動性が得られる。エネルギ蓄え器としては特にバッテリやアキュムレータが考慮される。
【0018】
本発明では、車両が制御ラインを介して外部から制御され、検査結果をこのラインを介して外部に伝達することもできる。しかしながら車両に制限されることのない可動性を可能にするために、制御装置が外部からワイヤレス方式で制御命令を受け取ることができるならば有利である。同様に、検査結果もワイヤレスで外部に伝達されるか、又は後から評価するために車両内に保存することもできる。
【0019】
平坦でない基礎に対する車両の改善された適合は、本発明によれば、少なくとも2つの車輪が、ばねサスペンションとして働く弾性的に可撓性のクロスメンバによって互いに結合されていることにより得られる。
【0020】
車両内に取り付けられた、駆動装置や制御装置のような装置を省スペース的に保護するために、本発明の別の構成によれば、車両は、車輪の間に軸方向で延びる、有利には円筒状のハウジングを有している。
【0021】
検査及び/又は制御目的で、車両には、カメラ、光学センサ、電気センサ、電磁センサ、超音波センサ等から成る少なくとも1つのセンサが配置されている。(搭載された光源による相応の照明を備えた)ビデオカメラはこの場合、壁の状態を光学的に検出するため、かつ走行経路を検出するために使用される。例えば超音波又は渦電流により働く別のセンサは、亀裂検出若しくは破損されていない材料テストのために使用することができる。
【0022】
以下に図面につき本発明の実施例をさらに詳しく説明する。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】本発明の実施例による検査車両を、車軸に対して垂直方向で示した側方図である。
【図2】図1の車両を車軸の方向で示した側方図である。
【図3】直角のコーナを走行する際の、図2の車両の運動経過を複数の図面(図3a〜図3d)で示した図である。
【図4】図1の車両を狭い開口部から、広げられた内部スペース内に導入する状態を概略的に示した図である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
図1には、本発明の実施の形態による検査車両が、車軸に対して垂直方向の側方図で示されている。この車両10は一車軸車両として構成されており、2つの車輪12,13を有している。これらの車輪12,13は、共通軸14を中心として回転可能に支承されていて、この軸14に沿って互いに間隔を置いて位置している。車輪12,13は有利には、例えばプラスチック材料のような、磁気遮蔽作用を有さない材料から成っている。この材料は、車輪12,13が、そのために設けられたキャスティングボディの内壁24のベース面に十分にグリップすることができるように選択されている。しかしながら車輪12,13の外周面に、グリップ力を向上させる相応のコーティング、又は、例えば横方向リブのようなエレメントを設けることもできる。
【0025】
車両10の駆動及び制御のために必要な装置を保護するように収容するハウジング11が、2つの車輪12,13の間で延びている。ハウジング11は、使用時に扁平ではない面の上を容易に滑動することができるように、有利には円筒状に形成されている。車両10がその車輪でいかなる位置においても、強磁性の材料から成る内壁24に支持されるように、ハウジング11の下面には2つの強力な永久磁石21,22が、各車輪12,13のすぐ近くに配置されている。永久磁石21のこのような配置により、車輪12,13が前進回転する場合も後退回転する場合も、ハウジング11が常に安定的に、内壁24に対して同じ方向付けで保たれることが保証される。
【0026】
車輪12,13のそれぞれは固有の駆動軸17又は18を介して固有の駆動装置15又は16によって駆動される。これらの駆動装置15,16は電動モータを有していて、エネルギ蓄え器20からエネルギを供給される。従って、車輪12,13は任意の回転運動を互いに独立して行うことができ、その結果、車両を所望の方向に操縦することができ、その場で回転させることができる。しかしながら、車輪が対応するディファレンシャル装置によって互いに切り離されているならば、2つの駆動装置15,16ではなくて、1つの駆動装置を使用することもできる。各車輪12,13は、駆動軸17,18と、駆動装置15,16と共に1つのユニットを形成する。2つのユニット又は駆動装置が、ハウジング11に固定されている弾性的でフレキシブルなクロスメンバ30によって機械的に互いに結合されているならば、車両10のために、走行特性を改善するばね的なサスペンションが形成される。
【0027】
駆動装置15,16、ひいては車両10の運動方向及び速度は制御ユニット19によって制御される。制御ユニット19は、遠隔制御装置31からの命令を無線で受け、可能であれば、検査結果を外部に送信する。制御ユニット19は、車両に配置された位置・加速度センサと協働し、車両10のバランスを保つ。しかしながら、永久磁石21,22により、車両10は常に安定的な位置を有しているので、このような制御は必ずしも必要ではない。
【0028】
露出した永久磁石21,22の代わりに、永久磁石25,26が車輪12,13内に設けられているならば特に有利である。その結果、永久磁石25,26は一方では、外部からの影響(衝撃、埃、磁化可能な粒子等)に対して保護される。また他方では、車輪12,13のグリップ力が内壁24に加えられるところで正確に、吸着磁力が集中する。永久磁石25,26は例えば、図2に示されているように半円形のような縁部輪郭を有していて良い。
【0029】
図1に示した車両10の構造により、車両は、図3に示されているように、内部スペースにおいて問題なくスペースコーナに沿って走行し、鉛直方向の壁を登ることができ、天井に沿って頭上で動くことができる。図3には、スペースコーナが示されていて、このコーナでは、検査すべき内部スペースの2つの内壁24a,24bが互いに直角を成している。水平の内壁24a上を走行している(車輪は反時計回りで回転している)車両10が、鉛直方向の内壁24bに向かって動いている間(図3a、図3b)、軸14に対して非対称的に配置された前車輪12の永久磁石25は(見えていない後車輪13の永久磁石26も同様に)下方を向いており、軸の下側で垂直方向に、その下方に位置する内壁24aに対して最大の吸着磁力を形成する(図3a、図3bの両方向矢印)。
【0030】
車両10が直接、鉛直方向の内壁24bに接近すると(図3c)、永久磁石25は徐々に、水平の内壁24a及び鉛直方向の内壁24bに向かって同様に向けられ、車両10はその車輪12,13で、同時に2つの壁に支持される。車輪12,13がさらに反時計回りで回転すると、車両10は鉛直方向に、鉛直方向の内壁24bに沿って上方に走行し、この鉛直方向の内壁24bでは、永久磁石25は、水平の内壁24aから離れるにつれ、もっぱら鉛直方向の内壁24bに向けられるようになる。
【0031】
永久磁石21,22又は25,26がハウジング11に不動に結合されているならば、ハウジング11は、車両10がその表面を動く各内壁に対して対応する方向付けを有する。センサ23(カメラ、亀裂検出器等、図1参照)がハウジング11に取り付けられているならば、センサ23も同様に壁表面に対して方向付けられる。しかしながら永久磁石が、軸14を中心として自由に旋回可能に枢着されているならば、ハウジング11と、その上に固定されたセンサ23とは、位置センサを備えた対応する位置制御システムによって付加的に調整可能な位置へともたらすことができる。
【0032】
図4には概略的に、図1の車両10が狭い開口部28を通って、広げられた内部スペース29へと導入される状態が示されている。軸方向長さに対する車輪直径の比を適当なものとすることにより、車両10は軸方向で狭い開口部28を通って蒸気室27等の内部へ進入し、他の車両10′,10″と同様に、広げられた内部スペース29の内壁に沿って検査のために走行することができる。上記の形式の複数の車両が同時に検査のために使用されるならば、より大きな構造体の検査をより迅速に行うことができることは明らかである。さらに、上記の形式の複数の車両を、1つの可動のより大きなユニットとなるように機械的に連結することも考えられる。
【符号の説明】
【0033】
10,10′,10″ 検査車両、 11 ハウジング、 12,13 車輪、 14 軸、 15,16 駆動装置、 17,18 駆動軸、 19 制御ユニット、 20 エネルギ蓄え器(例えばバッテリ)、 21,22 永久磁石、 23 センサ、 24,24a,24b 内壁、 25,26 永久磁石、 27 蒸気室、 28 開口部、 29 内部スペース、 30 クロスメンバ、 31 遠隔制御装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
強磁性の内壁(24;24a,24b)によって制限された接近困難な内部スペース(29)、特に例えば蒸気タービンの蒸気室のような大きなキャスティング部分を独立的に検査するための車両(10,10′,10″)であって、共通の軸(14)を中心として回転可能な、軸方向で互いに間隔を置いて配置された互いに独立的に駆動可能な少なくとも2つの車輪(12,13)を有している形式のものにおいて、
当該車両(10,10′,10″)が付着手段(22,22;25,26)を有しており、該付着手段が、車両(10,10′,10″)をその重力に抗して、車輪(12,13)で各内壁(24;24a,24b)上に保持することを特徴とする、接近困難な内部スペースを独立的に検査するための車両。
【請求項2】
付着手段が少なくとも1つの永久磁石(21,22;25,26)を有している、請求項1記載の車両。
【請求項3】
個々の車輪(12,13)と関係する少なくとも2つの永久磁石(21,22;25,26)が設けられている、請求項2記載の車両。
【請求項4】
外的な影響から保護するために、永久磁石(25,26)が部分的に又は完全に車輪(12,13)内部に配置されている、請求項3記載の車両。
【請求項5】
永久磁石(21,22;25,26)が車両(10,10′,10″)の車輪(12,13)から分離されている、請求項3又は4記載の車両。
【請求項6】
別個の駆動装置(15,16)が車輪(12,13)のそれぞれに関連付けられていて、駆動装置(15,16)は、車両(10,10′,10″)内に設けられたエネルギ蓄え器(20)からエネルギが供給され、車両(10,10′,10″)内に設けられた制御装置(19)によって制御される、請求項1から5までのいずれか1項記載の車両。
【請求項7】
制御装置(19)が、ワイヤレス方式で外部からの制御命令を受けることができる、請求項6記載の車両。
【請求項8】
少なくとも2つの車輪(12,13)が、ばねサスペンションとして働く、弾性的に可撓性のクロスメンバ(30)によって互いに結合されている、請求項1から7までのいずれか1項記載の車両。
【請求項9】
車両(10,10′,10″)が、車輪間に軸方向で延びる、有利には円筒状のハウジング(11)を有している、請求項1から8までのいずれか1項記載の車両。
【請求項10】
車両(10,10′,10″)に、カメラ、光学センサ、電気的センサ、電磁的センサ、超音波センサ等を含むセンサのうちの少なくとも1つのセンサ(23)が配置されている、請求項1から9までのいずれか1項記載の車両。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2011−121579(P2011−121579A)
【公開日】平成23年6月23日(2011.6.23)
【国際特許分類】
【外国語出願】
【出願番号】特願2010−265588(P2010−265588)
【出願日】平成22年11月29日(2010.11.29)
【出願人】(503416353)アルストム テクノロジー リミテッド (394)
【氏名又は名称原語表記】ALSTOM Technology Ltd
【住所又は居所原語表記】Brown Boveri Strasse 7, CH−5401 Baden, Switzerland
【Fターム(参考)】