説明

推定器を用いる走査型プローブ顕微鏡におけるナノ位置検出のためのシステム

【課題】走査型プローブ顕微鏡が表面に追従する能力を高め、表面トポグラフィの描画精度を向上させること。
【解決手段】微小電気機械システム(MEMS)アクチュエータ(110)によって垂直方向に制御されるプローブ先端の位置を推定する推定器(180)を設けた。

【発明の詳細な説明】
【背景技術】
【0001】
[背景]
走査型プローブ顕微鏡は、局所的なプローブが存在し、そのプローブが表面と相互作用するということが特徴的である。走査型プローブ顕微鏡の例には、走査型トンネル顕微鏡、磁力顕微鏡、静電力顕微鏡、走査力顕微鏡及び原子間力顕微鏡がある。原子間力顕微鏡(AFM)は典型的には、可撓性カンチレバーの端部に取り付けられる細いプローブ先端を、結像されるべき表面に接触させる(apply)ことによって表面を結像する。プローブ先端が表面上を動くのに応じて、典型的にはカンチレバー上のレーザスポットを追跡することによって、プローブ先端の高さの変化が検出される。プローブ先端の高さの変化に起因して、カンチレバーに撓みが生じる結果として、光検出器上の反射レーザスポットが動く。一定のフォースモードで利用する場合、カンチレバーを制御して、カンチレバーの撓みを概ね一定に保持するアクチュエータを動かすことによって、光検出器上の反射レーザスポットの動きを最小限に抑えるために、サーボシステムが用いられる。カンチレバーの撓みはプローブ先端と表面との相互作用によるので、撓みを概ね一定に保持することは、力を概ね一定に保持することと同じである。典型的には、従来技術では、カンチレバーは圧電アクチュエータによって制御される。
【0002】
光検出器は、カンチレバーの撓みにだけ応答し、先端の絶対位置には応答しないので、サーボシステムのための典型的な制御ループは、出力誤差のみのループである。それゆえ、サーボシステムのコントローラからの出力信号が、表面トポグラフィの推定値として用いられる。これにより典型的には、位置推定値の帯域幅及び精度は、制御ループそのものの帯域幅及び精度に制限される。
【0003】
【特許文献1】米国特許第5,986,381号
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題および課題を解決するための手段】
【0004】
[発明の概要]
【0005】
本発明によれば、微小電気機械システム(MEMS)アクチュエータによって垂直方向に制御されるプローブ先端の正確な位置推定値を与えるために、走査型プローブ顕微鏡のコントローラ部分において推定器が用いられる。
【0006】
正確な位置推定値は典型的には、走査型プローブ顕微鏡が表面に追従する能力を高め、典型的には、表面トポグラフィの改善された測定値を与える。
【発明を実施するための最良の形態】
【0007】
[詳細な説明]
図1aは、本発明による、対応するAFMの物理的な装置の概略図であり、光検出器160、MEMSアクチュエータ110、レーザ源190、カンチレバー/プローブ先端130及び表面150が示される。
【0008】
図1bは、本発明による、垂直制御のためのMEMSアクチュエータ110及び推定器180を用いるAFMのブロック図を示す。カンチレバー/プローブ先端130が表面150上を動くのに応じて、光検出器160が、カンチレバー/プローブ先端130の撓みを感知する。光検出器160への入力は、表面150上の表面高(r)と、カンチレバー/プローブ先端130の位置(p)との間の相互作用であり、その相互作用の結果として、光検出器160上の反射レーザスポットが動く。図示される制御システムは、1入力1出力システム、すなわちSISOである。
【0009】
圧電アクチュエータの代わりにMEMSアクチュエータ110を用いることによって、典型的には、アクチュエータの応答を速くできるようになり、圧電アクチュエータに典型的に関連するヒステリシス効果が避けられる。それぞれのアクチュエータの基本共振周波数を比較すると、圧電アクチュエータが典型的には、約200Hz〜約500Hzの範囲の基本共振周波数を有するのに対して、MEMSアクチュエータ110の場合には典型的な選択によって、約3kHz〜約50kHz又はそれ以上の範囲の基本共振周波数を有することがわかる。さらに、MEMSアクチュエータ110の場合には典型的な選択によって、基本共振周波数よりもはるかに高い閉ループ周波数において動作することができる。本発明によるMEMSアクチュエータ110の例は、たとえば、参照により本明細書に援用される、米国特許第5,986,381号において説明される。
【0010】
図1bは、光検出器160だけを用いる原子間力顕微鏡のためのMEMSアクチュエータ110を示す。光検出器160は出力誤差フィードバックだけを与える。生成される出力誤差は、用いられるシステムモデルに依存するが、表面150が表面特徴(高さの変化)を有するときには必ず誤差が生じる。MEMSアクチュエータ110は典型的には、典型的な圧電アクチュエータよりも正確なシステムモデルを可能にする。この結果として、推定器の性能が高められる。推定器として、予測推定器又は電流推定器を用いることができる。推定器フィードバック利得Lを選択する方法は典型的には、極配置、線形二次(LQ)又はカルマンフィルタリング及びH設計である。MEMSアクチュエータ110のようなMEMSアクチュエータを用いることで可能になる、より正確なモデルによれば、精度が悪いシステムモデルしか利用できないときに典型的に必要とされる、より従来的で且つロバストなH設計の代わりに、カルマンフィルタを用いることができるようになる。
【0011】
推定器を用いる概念は、最新の制御理論の一部であり、システムの内部エネルギー蓄積又は「状態」を表すためのシステムモデルを有することによって、さらに良好な制御設計が可能になるという概念を前提としている。典型的には、モデルに基づく制御が時間領域において実行され、システムの数学的表現が確立される。
【数1】

式(1)及び(2)において、
【数2】

はモデル化されるシステム内の全てのエネルギー蓄積要素を表すベクトルであり、uはシステムへの入力を表し、xはシステムエネルギー蓄積要素の時間導関数であり、
【数3】

は、エネルギー蓄積要素をそれらの時間導関数に関連付ける関数であり、
【数4】

は、入力uをエネルギー蓄積要素の時間導関数に関連付ける関数である。式(2)では、出力yは、エネルギー蓄積要素
【数5】

と入力uとの関数である。
【0012】
典型的には、モデル化されるシステムは線形化される。線形モデルに類似しているが、いくかの非線形成分を有する中間形が存在することもある。式(1)及び(2)の場合の線形化されたモデルは、以下の式(3)及び(4)によって与えられる。
【数6】

図1bのSISOシステムの場合、y及びu及びdはスカラー量であり、
【数7】

及び
【数8】

は列ベクトルであり、一方、
【数9】

は行ベクトルであり、
【数10】

は正方行列である。推定器が有効であるかは、典型的には、種々の要因によって決まり、その要因のうちの1つは、式が物理系をモデル化することができる精度である。MEMSアクチュエータ110は典型的には、圧電アクチュエータよりも正確に、且つ一貫してモデル化することができるので、MEMSアクチュエータ110によれば、より容易に、且つ正確にシステムをモデル化できるようになる。実例となるデータシステムの場合、式(3)及び(4)は以下のようになる。
x(k+1)=Φx(k)+Γu(k) (5)
y(k)=Hx(k)+Du(k) (6)
ただし、x(k)は離散時間状態であり、k=kTsであり、Tsはサンプル周期であり、u(k)は時間ステップkにおいて入力である。行列Φは、時間ステップ間の離散時間状態の伝搬を指している。それは典型的には、連続時間導関数行列F及びサンプル周期Tsを用いて計算される。行列Γは、時間ステップkにおける入力uを、次の時間ステップx(k+1)における状態xに関連付ける。状態x及び入力uを出力yに関連付ける行列H及びDは典型的には、連続線形システムから離散線形システムに移行する際に変化しない。ボールド体の取り決めは、制御理論における共通の表記法に従って書かれていることに留意し、それぞれの変数はベクトル及び行列であることを理解されたい。これまでの包括的な説明によって網羅される多数の打切り方法があり、これらは、G. Franklin、D. Powell及びM. Workmanによる「Digital Control of Dynamic Systems」並びにK. Astrom及びB. Wittenmarkによる「Computer Controlled Systems」のような、制御理論に関する標準的な教科書において見ることができる。
【0013】
以下の説明は、離散時間における推定器を取り扱うが、それらの推定器は、連続時間又はサンプリングされたデータモデルの場合にも用いることができることは理解されたい。いくつかの事例における理論、解析及び設計は連続時間において行われることがあるが、離散時間と等価な形態が得られるほどサンプリングレートが十分に高く、且つ打切りの影響が十分に小さい場合には、実際の実施態様はサンプリングされたデータ方法又は離散時間方法で達成されることに留意されたい。連続形式では、選択されたフィルタを実装するために、アナログ回路が用いられる。サンプリングされたデータ形式の場合、データはサンプリングされるが、アナログ及びデジタルの方法の組み合わせを用いて、選択されたフィルタを実装することができる。離散形式では、典型的には、コンピュータ、デジタルシグナルプロセッサ(DSP)又はプログラマブルロジック、たとえばフィールドプログラマブルゲートアレイ(FPGA)のようなデジタルプロセッサが用いられる。
【0014】
式(5)及び(6)によって記述されるシステムの場合に、離散時間推定器は、システムモデルで開始して、推定器状態を1時間ステップだけ前方に伝搬させることによって形成される。しかしながら、これは、「開ループ」手法であり、式(5)及び(6)によってモデル化されるシステムが開ループ動作において安定している場合にのみ、その誤差が0まで減衰する。誤差が0に接近するのを保証するために、システム出力とモデル出力との間で測定された差を用いて、状態推定値が補正される。一般的な形における推定器の本発明による一実施形態は、以下の式によって与えられる。
【数11】

式(7)は、フィードバック利得行列Lを介して補正が追加された状態伝搬を示す。ただし、y(k)はシステム出力である。フィードバック利得行列Lの選択は、制御理論の中心的な問題であり、カルマンフィルタリング及びH設計及び混在H/H設計の問題を含む。y及びuがスカラーである1入力1出力システムの場合、G、H及びDは典型的には、小文字g、h及びdで置き換えられる。
【0015】
典型的には、任意の推定器において、重要な1組の数は、測定フィードバック利得行列Lの中にある。本発明による制御理論においてLを求めるために数多くの方法がある。極配置法を用いることは、推定器の閉ループ極を設定することによって、推定器の動態を得ることを含み、閉ループ極は、離散時間定式化におけるΦ−LHの極、又は連続時間定式化におけるF−LHの極である。それらの極は、推定器の所望の特性に基づいて設定される。線形二次法を用いることは、システム及びセンサに入る雑音を、既知の平均及び分散を有する白色ガウス雑音としてモデル化することを含む。そのモデルに基づいて、最小二乗推定値が生成される。この方法も、離散時間定式化ではΦ−LHの極、又は連続時間定式化ではF−LHの極を配置するが、システムを駆動する雑音の量と、測定における雑音の量との間の最小二乗重み付けを用いる。推定器動態は、最小二乗コスト関数を最小にするように選択される。さらに、時間とともに一定であるのではなく、Lは時間とともに徐々に展開する。最後に、P行列を介して、推定値内の不確定性の測定が含まれる。さらに、最適化判定基準Hによって典型的に知られているロバストな推定器を用いることもできるが、たとえば、上述した線形二次法よりも性能が落ちることがある。さらに、混在H/H設計は典型的には、カルマンフィルタの性能(H)とH設計のロバストネスとの間のバランスを求める。
【0016】
本発明による別の実施形態は予測器であり、yの最新の測定値が用いられる推定値の形式は以下の式によって与えられる。
【数12】

式(9)は、状態推定値を1時間ステップだけ前方に伝搬させる。式(10)は、状態推定値に基づいて、出力
【数13】

を予測する。式(11)は、先行する時間ステップにおけるy(k)の測定値に基づいて、式(9)の状態推定値の伝搬を補正する。
【0017】
対照的に、本発明による別の実施形態は、下記の電流推定器形式を用いる。
【数14】

ただし、式(12)、(13)及び(14)は、式(14)は式(11)とは異なるが、式(9)及び(12)、ならびに式(10)及び(13)がそれぞれ同じであるように構成されている。電流推定器の手法では、状態推定値に対する補正は、最新の測定値y(k+1)を用いて行われる。理想的には、この結果として、フィルタの中の伝搬遅延が1時間ステップだけ小さくなり、それにより、推定器の位相劣化が小さくなる。これは典型的には、推定器がフィードバック制御の場合に用いられるときに重要である。しかしながら、フィルタを計算するためのあらゆる実用的な手段は、デジタルロジックが式(14)を計算するために0ではない、或る時間を必要とするので、結果として有限のサンプル時間遅延を生成する。予測推定器の場合、フルサンプル遅延が常に存在するが、これは、理論的なモデルにより良好に一致する。したがって、典型的には、予測推定器はモデル化するのが容易である。連続推定器の設計では、全てが連続であるので、システム状態を前方に伝搬させること及び測定補正を含むことの間に別個の時間ステップは存在しない。
【0018】
式(7)〜式(14)によれば、システムへの多入力が可能なことに留意されたい。システムモデルの観点から、H及びLだけが変化する。入力を増やせることにより、本発明によるさらに別の実施形態が提供される。たとえば、いくつかのMEMSアクチュエータによれば、モータ位置を直に測定できるようになり、それにより、表面高に対して求められ、相対的な誤差測定値を与える相対的なAFMプローブ先端位置のほかに、別の入力が与えられる。
【0019】
推定器が、システムへの制御入力u及び出力yの両方にアクセスする場合には、推定器が必要とするのは、物理系を推定することだけであり、物理系及びコントローラの閉ループの組み合わせを推定する必要はない。典型的には、AFMの場合、出力誤差だけが入手可能であり、基準値及び出力は入手することはできない。これは、推定器の形を変更する。
【0020】
図1bに示されるような本発明による一実施形態は、先に言及されたように、推定器フィードバック利得を選択するためにカルマンフィルタを用いることができる。モデル化されるシステムに入るプロセス雑音及び測定雑音がガウス白色雑音であり、無相関である場合には、カルマンフィルタは、推定器フィードバック利得を選択するという問題に対する最小二乗解を生成する。カルマンフィルタ定式化のための出発点は、時間ステップ間の物理系の展開を記述するプロセスモデル方程式で開始する。
x(k+1)=Φx(k)+Γu(k)+Γ w(k) (15)
y(k)=Hx(k)+Du(k) (16)
z(k)=Hx(k)+Du(k)+v(k) (17)
上記の式は、式(5)及び(6)を変更したものを表す。式(5)は、w(k)を加えることによって、式(15)を生成するように変更されており、w(k)は、システムに入るプロセス雑音を表しており、入力行列Γを伴っているが、その行列は制御入力行列Γと同じであることも、同じでないこともある。式(16)のシステム出力y(k)は、状態x(k)を通る場合を除いて、雑音によって汚染されないことに留意されたい。しかしながら、式(17)の測定されたシステム出力z(k)は、出力雑音、及び測定雑音v(k)の両方を含む。以下の説明を簡単にするために、v(k)及びw(k)はいずれも、互いに無相関である、0平均白色ガウス雑音とする。その説明は、0以外の平均を取り扱うように、且つ有色雑音、及びw(k)とv(k)との間の相関を含むように拡張することができることに留意されたい。プロセス雑音w(k)及び測定雑音v(k)は、共分散R及びRを有するものとする。ただし、その次元は、それぞれ、システム入力及びシステム出力の数によって設定される。
【0021】
推定器のカルマンフィルタバージョンは2つのステップに分割される。最初に、推定値
【数15】

を時間更新のために時間的に前方に伝搬させる。
【数16】

式(18)において、
【数17】

はシステム状態
【数18】

及び入力u(k)の最良の推定値を用いる、次の時間ステップにおける状態の最良の予測値である。式(19)において、M(k+1)は、状態推定値の不確定性の予測値である。測定ステップにおいて、推定値は、電流表面測定値を用いて補正される。代替的に、補正は、予測推定器の形で、先行する測定値を用いて行うことができる。
【0022】
表面測定更新は以下の式によって与えられる。
【数19】

表面測定更新は、測定値からの新たなデータに合わせて調整される。ここで、
【数20】

は時刻kにおける表面測定後の状態の最良の推定値であり、式(20)は、最後の測定値z(k)の結果を含むように状態推定値を調整する。L(k)は推定器利得行列であり、予測される状態を補正し、状態推定値内の不確定性と測定値内の不確定性とを相殺するために、どの程度の測定値が用いられるかを判定する利得補正を表す。P(k)は、測定が行われた後の状態推定値内の測定不確定性を表しており、それゆえ、式(23)は、状態共分散行列P(k)の推定値を調整する。
【0023】
出力誤差フィードバックを与えるために光検出器160だけを用いる図1bに示されるような一実施形態では、システム出力y(k)の実際の測定値z(k)は入手できない。測定誤差だけを入手することができ、これは、表面変化、及びカンチレバー/プローブ先端130の任意の基準撓みを含む基準と、システム出力との間の差に相当する。
e(k)=r(k)−y(k)+v(k) (24)
それゆえ、出力が摂動するとき、その摂動が誤差推定器動態の影響を受けるまで、その摂動は推定器内に現われない。これは、典型的には、Hのようなロバストな設計で典型的に利用できる推定器よりも広い帯域幅を有する推定器を有することが好都合であることを指示する。ロバストな推定器の場合、帯域幅は典型的には比較的狭いので、誤差は典型的には、安定するのに時間がかかるのに対して、より高い性能の推定器の場合、帯域幅は典型的には相対的に広いので、誤差は典型的には短い時間で抑圧される。図1bに示される実施形態の場合、式(20)は以下のようになる。
【数21】

そして、測定更新は、式(25)、(21)、(22)及び(23)から成る。初期行列R、R、M(0)、P(0)及びL(0)で開始するとき、表面測定更新の式(25)、(21)、(22)及び(23)とともに、時間更新の式(18)及び(19)を用いて、時間ステップ毎にシステム状態推定値が与えられる。
【0024】
システム状態推定値は、多様に用いることができる。図1bに示されるような本発明による一実施形態の場合、AFMのカンチレバー/プローブ先端130の位置の最小二乗推定値は以下の式によって与えられる。
【数22】

上記の式から、表面150の最小二乗推定値を求めることができる。制御入力u(k)から出力
【数23】

への直接的なフィードスルーが存在しない場合には、D=0であり、式(26)は以下のようになる。
【数24】

これは典型的には、入力が出力に直に作用する可能性がない多種多様な物理系に相当する。代わりに、入力uはシステム状態xに作用し、システム状態がさらに出力yに作用する。圧電アクチュエータ、ボイスコイルアクチュエータ及びMEMSアクチュエータのような典型的なアクチュエータは、この特徴を有する。
【0025】
さらに、図1bに示されるような本発明による一実施形態の場合、AFMのカンチレバー/プローブ先端130の位置の最小二乗推定値は以下の式によっても与えられる。
【数25】

上記の式から、表面150の最小二乗推定値を求めることができる。制御入力u(k)から出力
【数26】

への直接的なフィードスルーが存在しない場合には、D=0であり、式(28)は以下のようになる。
【数27】

ここで、
【数28】

を生成する際に
【数29】

を用いることが因果的に関係しない限り、
【数30】

を表面推定値として用いることができる。この場合、
【数31】

は最新の測定値を利用するので、
【数32】

は典型的には、
【数33】

よりも改善された表面150の推定値である。
【0026】
P(k)は、
【数34】

における不確定性の推定値であり、一方、M(k)は、
【数35】

における不確定性の推定値である。P(k)又はM(k)のいずれか、又はP(k)及びM(k)の両方を用いて、表面測定値における不確定性の推定値を与えることができ、
【数36】

又は
【数37】

のいずれかをフィードバックコントローラ170において用いることができる。推定値が、次の測定の前に1時間ステップだけ前方に伝搬されるときに、量
【数38】

及びM(k)は時間更新に由来する。M(k)は
【数39】

の共分散のための推定値である。量
【数40】

及びP(k)は測定後に得られる。典型的には、全ての測定値が或る情報を含むものと仮定し、且つ典型的には、P(k)、すなわち
【数41】

の共分散のための推定値が、M(k)、すなわち
【数42】

の共分散のための推定値よりも小さくなるように、モデルによって伝搬される量に対して、測定値に適当な重みが割り当てられているものと仮定される。
【0027】
本発明による一実施形態は、定常状態カルマンフィルタを用いることができる。定常状態カルマンフィルタを用いることは、初期条件からの不確定性が減衰する場合にM(k)が定常状態値に収束するときに適しており、これは、P(k)及びL(k)がいずれも収束することを意味する。時間更新は以下のようになる。
【数43】

一方、表面測定値更新は以下のようになる。
【数44】

ただし、PSSはPの定常状態値を示す。式(33)によって与えられる推定値行列Lは、予め計算し、格納することができることに留意されたい。
【0028】
図2は、AFMに基づくMEMSにおいて多数のセンサを使用することを示す。本発明の一実施形態によれば、MEMSアクチュエータ210は、MEMSアクチュエータ210のための絶対位置情報を与える位置センサを含む。これは、表面150の推定を補うために用いられる。アクチュエータ位置センサは、カンチレバー動態の作用を通じてプローブ先端位置に関連付けられるアクチュエータの絶対位置情報を与えるので、その絶対位置情報を用いて、光検出器160からの入力だけを用いて表面トポグラフィを推定するAFMにおいて典型的に生じるドリフト問題を除去することができる。相対的な位置誤差しか与えられない場合には、光検出器160は、MEMSアクチュエータ210の絶対的な空間位置を知ることができないので、ドリフト問題が生じる。MEMSアクチュエータ210の絶対位置は、物理的及び動的にカンチレバー/プローブ先端130の極めて近くで測定される。それゆえ、表面150の測定値であるカンチレバー/プローブ先端130の位置と、MEMSアクチュエータ210の測定された位置との間に存在する動態は制限される。さらに、さらに多くの情報を推定器280に追加することによって、典型的には、信号対雑音比が改善される。
【0029】
推定器280のための式は、式(25)、(21)、(22)及び(23)から次元を変更しているが、一方、時間更新は変更されない。
【数45】

又は
【数46】

によって推定されるシステム状態は前と同じ次元を有するが、出力行列H及び推定器利得行列L(k)は次元を変更する。システム状態が次元数nを有するものと仮定すると、Rは2×2行列であり、Hは2×n行列であり、Lはn×2行列である。式(25)、(21)、(22)及び(23)は、それぞれ以下のようになる。
【数47】

ただし、H(2,:)はH行列の第2の行を表し、e(k)は光センサ160から導出される誤差である。行列Lは、2つの入手可能な測定値を用いて、システム状態推定値
【数48】

を調整する。システム状態推定値
【数49】

又は
【数50】

が依然としてn×1列ベクトルであるとき、不確定性を表すそれらの共分散は典型的には、2つの測定値を入手可能であることに起因して低減される。e(k)が光センサ160から導出される誤差項であるとき、第2の誤差項が、MEMSアクチュエータ210の位置zをとり、その値から、推定されたモータ位置
【数51】

を減算することによって形成される。第2の誤差項
【数52】

はMEMSアクチュエータ210に由来する。それは、制御入力u(k)よりも、カンチレバー/プローブ先端130の位置Pに物理的且つ動的にはるかに近いので、第2の誤差項は、推定器に入る、さらに多くの位置情報を与え、結果として、システム状態及び表面150の推定値がさらに良好になる。初期行列R、R、M(0)、P(0)及びL(0)で開始するとき、表面測定値更新の式(34)、(35)、(36)及び(37)とともに、時間更新の式(18)及び(19)を用いて、時間ステップ毎にシステム状態推定値が与えられる。
【0030】
状態推定値は多様に用いることができる。図2に示されるような本発明による一実施形態の場合、AFMのカンチレバー/プローブ先端130の位置の最小二乗推定値は、以下の式によって与えられる。
【数53】

その式から、表面150の最小二乗推定値を求めることができる。制御入力u(k)から出力
【数54】

への直接的なフィードスルーが存在しない場合には、D=0であり、式(39)は以下のようになる。
【数55】

【0031】
さらに、図2に示されるような本発明による一実施形態の場合に、AFMのカンチレバー/プローブ先端130の位置の最小二乗推定値は、以下の式によっても与えられる。
【数56】

その式から、表面150の最小二乗推定値を求めることができる。制御入力u(k)から出力
【数57】

への直接的なフィードスルーが存在しない場合には、D=0であり、式(41)は以下のようになる。
【数58】

ここで、
【数59】

を生成する際に
【数60】

を用いることが因果的に関係しない限り、
【数61】

を表面推定値として用いることができる。この場合、
【数62】

は最新の測定値を利用するので、
【数63】

は典型的には、
【数64】

よりも改善された表面150の推定値である。
【0032】
再び、本発明による一実施形態は、定常状態カルマンフィルタを用いることができる。定常状態カルマンフィルタを用いることは、初期条件からの不確定性が減衰する場合にM(k)が定常状態値に収束するときに適しており、これは、P(k)及びL(k)がいずれも収束することを意味する。時間更新は以下のようになる。
【数65】

一方、表面測定値更新は以下のようになる。
【数66】

【0033】
先の定常状態カルマンフィルタの実施形態の場合のように、P行列及びL行列は一定であり、Lは予め計算して、格納することができる。
【0034】
本発明は、具体的な実施形態に関連して説明されてきたが、これまでの説明に鑑みて、数多くの改変、変更及び変形が明らかであろうことが当業者には自明である。したがって、本発明は、添付の特許請求の範囲の精神及び範囲内に入る全ての他の改変、変更及び変形を含むことを意図している。
【図面の簡単な説明】
【0035】
【図1a】本発明による、典型的な原子間力顕微鏡の物理的な装置の概略図である。
【図1b】本発明による一実施形態のブロック図である。
【図2】本発明による一実施形態のブロック図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
走査型プローブ顕微鏡システムであって、
プローブ先端(130)に機械的に結合される可撓性カンチレバーを動かすように動作することができる微小電気機械システムアクチュエータ(110)と、
前記可撓性カンチレバーに光学的に結合される光検出器(160)と、
前記微小電気機械システムアクチュエータに電気的に接続され、且つ前記光検出器に電気的に接続されるコントローラ(170)と、
推定器フィードバック利得を有する推定器(180)と
を備え、前記推定器は前記光検出器に電気的に接続され、且つ前記コントローラに電気的に接続され、該推定器は、前記光検出器から誤差信号を受信し、該誤差信号を用いて、前記コントローラに出力するための状態推定値を生成するように動作することができ、
前記コントローラは、前記状態推定値に応答して、前記微小電気機械システムアクチュエータに制御信号を与え、前記可撓性カンチレバーの撓みを概ね一定の値に保持するように動作することができる、走査型プローブ顕微鏡システム。
【請求項2】
前記微小電気機械システムアクチュエータ(210)は、該微小電気機械システムアクチュエータのための絶対位置情報信号を与えるように動作することができる位置センサを備え、
前記コントローラは制御入力信号を生成するように動作することができ、
前記推定器(280)は、前記絶対位置情報信号及び前記制御入力信号を用いて、前記状態推定値を生成するようにさらに動作することができる、請求項1に記載の走査型プローブ顕微鏡システム。
【請求項3】
前記推定器は予測推定器である、請求項1又は2に記載の走査型プローブ顕微鏡システム。
【請求項4】
前記推定器は電流推定器である、請求項1又は2に記載の走査型プローブ顕微鏡システム。
【請求項5】
前記推定器は離散時間型推定器である、請求項1又は2に記載の走査型プローブ顕微鏡システム。
【請求項6】
前記推定器は広帯域幅推定器である、請求項1又は2に記載の走査型プローブ顕微鏡システム。
【請求項7】
前記推定器フィードバック利得は、極配置の方法によって選択される、請求項1又は2に記載の走査型プローブ顕微鏡システム。
【請求項8】
前記推定器フィードバック利得は、H設計の方法によって選択される、請求項1又は2に記載の走査型プローブ顕微鏡システム。
【請求項9】
前記推定器フィードバック利得は、混在H/H設計の方法によって選択される、請求項1又は2に記載の走査型プローブ顕微鏡システム。
【請求項10】
前記推定器フィードバック利得は、カルマンフィルタを用いることによって選択される、請求項1又は2に記載の走査型プローブ顕微鏡システム。
【請求項11】
前記カルマンフィルタは定常状態カルマンフィルタである、請求項10に記載の走査型プローブ顕微鏡システム。
【請求項12】
前記推定器は表面推定値を生成するように動作することができる、請求項1又は2に記載の走査型プローブ顕微鏡システム。
【請求項13】
前記制御入力から前記表面推定値への直接的なフィードスルーは存在しない、請求項12に記載の走査型プローブ顕微鏡システム。

【図1a】
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【図1b】
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【図2】
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【公開番号】特開2008−14943(P2008−14943A)
【公開日】平成20年1月24日(2008.1.24)
【国際特許分類】
【外国語出願】
【出願番号】特願2007−172582(P2007−172582)
【出願日】平成19年6月29日(2007.6.29)
【出願人】(399117121)アジレント・テクノロジーズ・インク (710)
【氏名又は名称原語表記】AGILENT TECHNOLOGIES, INC.
【Fターム(参考)】