説明

損傷治癒のための方法および組成物

従来使用されているよりも低い濃度の過酸化水素を含む、動物における損傷を処置するための方法、デバイス、および組成物。この方法、デバイス、および組成物は、創傷治癒速度の上昇を提供する。例えば、本発明により、損傷1平方センチメートル当り約500ナノモル〜約50マイクロモルの過酸化水素を損傷に適用する工程を包含する、哺乳動物における損傷治癒速度を上げる方法が提供される。1つの実施形態では、この方法は、損傷1平方センチメートル当り約1マイクロモル〜約50マイクロモルの過酸化水素を適用する工程を包含する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
(発明の説明)
(発明の分野)
本発明は、2004年6月18日に出願された米国特許出願第10/871,158号に対して優先権を主張するものであり、参照としてその全体開示が本明細書に組み込まれている。
【0002】
本発明は、一般に創傷を処置するための方法および組成物に関する。
【背景技術】
【0003】
(発明の背景)
長年にわたり、反応性酸素種(ROS)は、生細胞に対して本質的に損傷性であると考えられてきた。実際、過酸化水素およびやオゾンなどのROSは、強力な酸化効果から消毒剤として用いられてきた。これらの酸化効果は、非特異的である;望ましくない微生物を破壊することに加えて、かなりの副次的損傷が生じる。したがって、伝統的に消毒に用いられる用量での過酸化水素は、生組織に対して破壊的である。
【発明の開示】
【課題を解決するための手段】
【0004】
しかしながら、より低用量での過酸化水素は、治癒過程に対して驚くべき効果を有することが見出されている。本発明は、創傷治癒効果のための低用量過酸化水素の使用に関する。
【0005】
(発明の要旨)
本発明は、損傷の1平方センチメートル当り約500ナノモルから約50マイクロモルの過酸化水素を損傷に適用する工程を包含する、哺乳動物における損傷治癒速度を上げる方法を提供する。この方法は、幾つかの実施形態において、損傷1平方センチメートル当り約1マイクロモルから約50マイクロモル、または約1マイクロモルから約10マイクロモル、または約1マイクロモルから約2マイクロモルの過酸化水素を適用する工程を包含する。過酸化水素は、例えば、酵素的供給源および化学的供給源から選択される供給源から損傷に適用できる。幾つかの実施形態において、過酸化水素の供給源は化学的供給源であり、この供給源は過酸化水素である。
【0006】
本発明はまた、約12時間から約24時間の時間にわたり損傷1平方センチメートル当り過酸化水素約500ナノモルから約50マイクロモルの割合で、過酸化水素を損傷に適用する工程を包含する、哺乳動物における損傷治癒速度を上げる方法を提供する。幾つかの実施形態において、過酸化水素は、約1マイクロモルから約10マイクロモルの割合で適用される。過酸化水素は、例えば、ゲル、ローション、軟膏、クリーム、ペースト、および液体から選択される形態にあり得る薬学的に受容可能な組成物において適用され得る。過酸化水素は、絆創膏、外科用包帯、ガーゼ、接着帯、外科用ステープル、クリップ、止血鉗子、子宮内デバイス、縫合糸、トロカール、カテーテル、チューブ、およびインプラントなどが挙げられるがこれらに限定されない、薬学的に受容可能なデバイスにおいて適用され得る。インプラントとしては、丸剤、ペレット、ロッド、ウェハ、ディスク、および錠剤が挙げられるがこれらに限定されない。
【0007】
デバイスは、吸収性材料を含み得るポリマー材料を含むことができる。幾つかの実施形態において、吸収性材料は、合成材料を含む。合成材料は、セルロースポリマー、グリコール酸ポリマー、メタクリレートポリマー、エチレンビニルアセテートポリマー、エチレンビニルアルコールコポリマー、ポリカプトロラクタム(polycaptrolactam)、ポリアセテート、ラクチドおよびグリコリドとのコポリマー、ポリジオキサノン、ポリグラクチン、ポリグレカプロン、ポリグリコネート、ポリグルコネート、およびそれらの組み合わせから選択され得る。幾つかの実施形態において、吸収性材料は、非合成材料を含む。非合成材料は、腸線、カーガイル(cargile)膜、大腿筋膜、ゼラチン、コラーゲン、およびそれらの組み合わせから選択され得る。
【0008】
デバイスは、非吸収性材料を含み得るポリマー材料を含み得る。幾つかの実施形態において、非吸収性材料は、合成材料を含む。合成材料は、ナイロン、レーヨン、ポリエステル、ポリオレフィン、およびそれらの組み合わせから選択され得る。幾つかの実施形態において、非吸収性材料は、非合成材料を含む。非合成材料は、シルク、皮膚用シルク、綿、リネン、およびそれらの組み合わせから選択され得る。
【0009】
本方法は、創傷、潰瘍および熱傷から選択される損傷を処置するために使用できる。創傷は、急性創傷および慢性創傷から選択され得る。創傷は、全層創傷および部分層創傷から選択され得る。急性創傷は、例えば、手術傷、貫通性創傷、剥離傷、圧潰瘍、剪断傷、熱傷損傷、裂傷、および咬傷から選択され得る。慢性創傷は、例えば、動脈潰瘍、静脈潰瘍、褥瘡性潰瘍、および糖尿病性潰瘍から選択され得る。
【0010】
本発明はまた、過酸化水素およびキャリア材料を含む、損傷へ投与するための過酸化水素送達デバイスを提供し、このデバイスは少なくとも約12時間の時間で前記過酸化水素を放出し、デバイスから放出された過酸化水素は損傷の壊死を生じさせるには不十分な濃度である。幾つかの実施形態において、デバイスは、約0.5μmolから50μmolの過酸化水素/cm創傷/12時間から、約0.5μmolから50μmolの過酸化水素/cm創傷/24時間まで放出する。キャリア材料は、ポリマー材料を含み得る。幾つかの実施形態において、ポリマー材料は、吸収性材料を含む。幾つかの実施形態において、ポリマー材料は、合成材料を含む。
【0011】
本発明はまた、過酸化水素および薬学的に受容可能なキャリアを含む、哺乳動物の損傷を処置するための組成物を提供し、この組成物の単位用量が、約0.5μmolから50μmolの過酸化水素/cm創傷を含む。幾つかの実施形態において、キャリアは、ゲル材料を含んでなり、また幾つかの実施形態において、キャリアは、液体材料を含む。
【0012】
本発明のさらなる目的および利点については、以下の記載で一部説明するが、当該記載から自明となるものもあるし、本発明を実施することによってわかるものもある。本発明の目的および利点は、添付の特許請求の範囲において具体的に指摘された構成要素および組み合わせによって実現され、かつ達成される。
【0013】
前述の一般的な説明および以下の詳細な説明は双方とも単に例示的で説明的なものであり、本願発明を限定するものではないことが理解されるべきである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
(実施形態の説明)
ここで、より詳細な実施形態を参照して本発明を記載する。しかしながら、本発明は、種々の形態で具体化され得るものであり、本明細書に記載された実施形態に限定されるものとして解釈してはならない。むしろ、本開示が、徹底的かつ完全であり、本発明の範囲を当業者に十分に伝えるようにこれらの実施形態が提供される。
【0015】
他に定義されない限り、本明細書に用いられた全ての専門用語および科学用語は、本発明が属する通常の当業者によって一般に理解されているものと同じ意味を有する。本明細書において本発明の説明に用いられる用語は、特定の実施形態の説明を目的とするのみであって、本発明を限定する意図はない。本発明の説明および添付の特許請求の範囲に用いられる、単数形表現「a」、「an」、「the」には、そうでないことが文脈によって明確に示されない限り、複数形も含まれているものとする。本明細書に記載された全ての刊行物、特許出願、特許、および他の参考文献は、それらの全体が参考として援用される。
【0016】
他に指示されない限り、いかなる場合でも、本明細書および特許請求の範囲に用いられる成分量、反応条件などを表す数字は全て、用語の「約」により修飾されると理解されるべきである。したがって、別のことが示されていない限り、以下の明細書および添付の特許請求の範囲に記載された数値パラメータは、本発明により得ようとする所望の性質に依って変わり得る近似値である。特許請求の範囲に対する均等論の適用を限定しようとするものではなく、各数値パラメータは、有効数字の数および通常の概算アプローチの観点で少なくとも解釈されるべきである。
【0017】
本発明の広い範囲を記述する数値範囲およびパラメータは近似値であるが、具体的な例に記載された数値は、可能な限り正確に報告されている。しかし、いずれの数値も、それぞれの試験測定に見られる標準偏差から必然的に生じる一定の誤差を本質的に含有する。本明細書に示されている各数値範囲は、あたかもこのようなより狭い範囲が本明細書に明白に記載されたかのように、このようなより広い数値範囲の範囲内に入る、より狭い種々の数値範囲をも含む。
【0018】
本発明は一般に、損傷治癒における過酸化水素またはその供給源の使用に関する。幾つかの実施形態においては、治癒速度が上がり、幾つかの実施形態においては、瘢痕が減少する。本発明は、身体の自然修復過程が生じる生体に対する任意の損傷を処置するために一般に用いることができる。本発明は、特にヒトを含む哺乳動物などの動物における損傷を処置するために使用できる。
【0019】
用語の「損傷」は、その包括的な意味で用いられ、全ての種類の創傷および損傷を包含することを意味する。「創傷」もまた、その包括的な意味で使用でき、創傷、熱傷、潰瘍などを包含することを意味する。「創傷」および「損傷」は、本明細書で交換可能に使用でき、文脈によって他に具体的に示されない限り、区別は意図されない。損傷は、創傷、熱傷、潰瘍などであり得る。損傷/創傷は急性または慢性であり得る。創傷は、全層であり得、すなわち皮膚の全層を貫通するか、または部分層であり得、すなわち全層より少ない皮膚を貫通する。急性創傷の例としては、手術傷、貫通性創傷、剥離傷、圧潰瘍、剪断傷、熱傷損傷、裂傷、および咬傷が挙げられるがこれらに限定されない。慢性創傷の例としては、動脈潰瘍、静脈潰瘍、褥瘡性潰瘍、および糖尿病性潰瘍などの潰瘍が挙げられるがこれらに限定されない。もちろん、急性創傷は、慢性創傷となり得る。
【0020】
処置を受ける損傷に適用される組成物は、過酸化水素、または過酸化水素の供給源を含有する。損傷に適用される過酸化水素の濃度は、従来使用されている量未満であり、幾つかの実施形態において、微生物または他の生細胞に対する酸化効果を生じる量未満であり、幾つかの実施形態において、接触組織に対する壊死作用を生じる量未満である。幾つかの実施形態において、損傷に適用される過酸化水素量は、損傷1平方センチメートル(cm)当り約500ナノモル(nmol)〜約50マイクロモル(μmol)までである。幾つかの実施形態において、損傷に適用される過酸化水素量は、損傷1立方センチメートル(cm)当り約5μmol〜約500μmolまでである。
【0021】
損傷に適用される過酸化水素量は、損傷1平方センチメートル(cm)当り約500、600、700、800、もしくは900nmol、または1、2、3、4、5、6、7、8、9、もしくは約10μmolもしくはそれより多くから、約2、3、4、5、6、7、8、9、10、15、20、25、30、40、もしくは約50μmolまでの範囲にあり得る。この量は、例えば、損傷1平方センチメートル(cm)当り1〜50、1〜25、1〜10、または1〜2μmolの範囲にあり得る。損傷に適用される過酸化水素量は、損傷1立方センチメートル(cm)当り約5、6、7、8、9、10、20、30、40、50、60、70、80、90、または約100μmolまたはそれより多くから、約20、30、40、50、60、70、80、90、100、150、200、250、300、400、または約500μmolまでの範囲にあり得る。この量は、例えば、損傷1立方センチメートル(cm)当り10〜500、10〜250、10〜100、または10〜20μmolの範囲にあり得る。
【0022】
損傷に適用される過酸化水素の濃度は、約10、15、20、25、30、35、40、45、50、または約75mMから約50、55、60、65、70、75、80、85、90、95、または100mM、またはそれより高くまでの範囲にあり得る。このように、過酸化水素の濃度は、約10mMから約100mMまで、または約25mMから約75mMまで、または約40mMから約60mMまでの範囲にあり得る。
【0023】
この過酸化水素は、液体、ゲル、ローション、クリーム、ペースト、および軟膏が挙げられるがこれらに限定されない任意の形態のビヒクルまたはキャリア中で適用できる。適用手段は、過酸化水素がどんな形態をとるかに依る;液体は、例えば、スプレーするかまたは注ぐことができ、ゲル、ローション、クリーム、ペーストおよび軟膏は、例えば、こするか、またはマッサージできる。過酸化水素送達用の、これらおよび他の形態ならびに/またはキャリア/ビヒクルは、Remington’s Pharmaceutical Scienceなどの刊行物、他の同様な刊行物に記載されている。
【0024】
送達形態は均一(例えば、過酸化水素が、溶液中にある形態)であり得、または不均一(例えば、過酸化水素が、リポソームまたはミクロスフェア内に含有される形態)であり得る。該形態は、即時的効果を生じることができ、あるいは、またはさらに長時間の効果を生じることができる。例えば、過酸化水素の長時間放出を提供するリポソーム、またはミクロスフェア、あるいは他の同様な手段は、過酸化水素を損傷に曝露させる時間を延長させるために使用でき;非カプセル化過酸化水素もまた、即時効果のために提供できる。
【0025】
送達形態はまた、過酸化水素を所望の時間にわたって損傷に送達できるデバイスの形態をとることができる。デバイスとしては、絆創膏、外科用包帯、ガーゼ、接着帯、外科用ステープル、クリップ、止血鉗子、子宮内デバイス、縫合糸、トロカール、カテーテル、チューブ、およびインプラントが挙げられるがこれらに限定されない。インプラントとしては、丸剤、ペレット、ロッド、ウェハ、ディスク、および錠剤が挙げられるがこれらに限定されない。
【0026】
本発明によるデバイスは、公知の方法により調製でき、ポリマー材料を含んでもよく、またはポリマー材料から作製されてもよい。幾つかの場合において、このポリマー材料は、吸収性材料であり、他の場合において非吸収性材料である。デバイスは、もちろん、吸収性材料および非吸収性材料の双方を含むことができる。
【0027】
吸収性材料は、合成材料および非合成材料であり得る。吸収性合成材料としては、セルロースポリマー、グリコール酸ポリマー、メタクリレートポリマー、エチレンビニルアセテートポリマー、エチレンビニルアルコールコポリマー、ポリカプトロラクタム、ポリアセテート、ラクチドおよびグリコリドのコポリマー、ポリジオキサノン、ポリグラクチン、ポリグレカプロン、ポリグリコネート、ポリグルコネート、およびそれらの組み合わせが挙げられるがこれらに限定されない。吸収性非合成材料としては、腸線、カーガイル(cargile)膜、大腿筋膜、ゼラチン、コラーゲン、およびそれらの組み合わせが挙げられるがこれらに限定されない。
【0028】
非吸収性合成材料としては、ナイロン、レーヨン、ポリエステル、ポリオレフィン、およびそれらの組み合わせが挙げられるがこれらに限定されない。非吸収性非合成材料は、シルク、皮膚用シルク、綿、リネン、およびそれらの組み合わせが挙げられるがこれらに限定されない。
【0029】
前述のデバイスとキャリア/ビヒクルとの組み合わせもまた想定されている。例えば、過酸化水素ゲルまたは軟膏を、過酸化水素の所望の位置への送達のために絆創膏または創傷用包帯に含浸できる。他の例として、含浸吸収性デバイスに、過酸化水素溶液を充填し、所望の時間にわたってこのデバイスからこの溶液を放出させることができる。過酸化水素を送達するために用いられる物理形態は、重要ではなく、このようなデバイスの選択または設計は、当業者の技術水準に十分に入る。
【0030】
過酸化水素は、過酸化水素それ自体として所望の標的部位に送達できるか、または前駆体として送達できる。例えば、スーパーオキシドは、動物に天然に存在するスーパーオキシドジスムターゼにより過酸化水素に変換される。したがって、過酸化水素は、過酸化水素に変換されるスーパーオキシドを投与することにより標的部位に送達できる。過酸化水素様ペルオキシドは、例えば、t−ブチルヒドロペルオキシドを送達することにより送達できる。全てこれらのタイプの供給源は、過酸化水素の化学的供給源と考えられ得る。
【0031】
過酸化水素はまた、ヘモグロビンと酸素との間の反応によりスーパーオキシドが発生し、次いでスーパーオキシドジスムターゼにより過酸化水素に変換されることにより体内で天然に形成される。過酸化水素は、カタラーゼと呼ばれる酵素により体内で自然に分解される。標的部位にカタラーゼ阻害剤を投与することにより過酸化水素を損傷部位に蓄積させることができる。過酸化水素はまた、さらなるスーパーオキシドジスムターゼを投与することにより蓄積させることもできる。この様式の過酸化水素の損傷部位への送達は、酵素的供給源により実施されたと考えられる。これはまた、過酸化水素の外来供給源とは反対に天然供給源と考えられ得る。
【0032】
過酸化水素はまた、例えば以下を含めた多数の反応副産物として発生させることができる:1)グルコース+グルコースオキシダーゼ;2)キサンチン+キサンチンオキシダーゼ;3)ヒポキサンチン+キサンチンオキシダーゼ;および4)アスコルベート+アスコルベートオキシダーゼ。また、過酸化水素濃度を、rac1およびrac2、NADPHオキシダーゼ、およびスーパーオキシドジスムターゼの過剰発現により体内において増加させることができる。これら全ては、過酸化水素の酵素的供給源と考えられ、本発明の範囲に入る。
【0033】
過酸化水素は、所望の標的部位に少なくとも1回送達される。幾つかの実施形態において、過酸化水素は、標的部位に2回、3回、4回、5回、6回、7回、8回、9回、10回、またはそれより多くの回数、送達される。この送達は、2時間毎、4時間毎、6時間毎、8時間毎、10時間毎、12時間毎、14時間毎、16時間毎、18時間毎、20時間毎、22時間毎、または24時間毎、またはそれより多くの頻度であり得る。反復用量が所望の場合、デバイスまたは他のキャリアは、所望の時点で過酸化水素の用量を放出させるために「プログラミング」することができる。例えば、ミクロスフェア処方物は、投与の際での即時効果のために非カプセル化過酸化水素;24時間目に第2の用量を送達するカプセル化成分;および48時間目に第3の用量を送達するカプセル化成分、を含むことができる。処置ストラテジーは、実施者に委ねられ、デバイスまたはキャリアなどの設計は、当業者の技術水準の範囲内にある。
【0034】
本発明を実施する上で他の条件を提供することが望ましい場合があり得る。例えば、損傷の標的領域を十分に酸化することを確実にすることが望ましい場合があり得;一般的には大気中の酸素が存在することで足りる。また、所望のレベルの湿度および特定の温度を維持することが望ましい場合があり得;幾つかの実施形態において、温かい湿性環境が望ましい。必要というわけではないが、無菌環境を確立または維持することも望ましい場合があり得る。
【0035】
さらに、この処方物に他の治療的に有益な薬剤を含むことが望ましい場合があり得る。例えば、ビヒクルまたはキャリアは、処置領域における望ましい湿度レベルを維持するために保湿剤または加湿剤を含むこともできる。他の可能性としては、他の望ましい効果を提供する麻酔剤または抗生物質などの薬物が挙げられる。さらに可能性に制限はなく、実施者に委ねられている。
【0036】
本発明をさらにより明確に記載し、説明するために以下の実施例を提供する。
【実施例】
【0037】
(実施例1:創傷部位におけるROSの存在)
創傷液中のH濃度。Hunt/Schillingワイヤメッシュシリンダーを、切開創傷を介して5週齢のC57BL/6マウスの背部に皮下移植した。5日後、創傷液を採取し、この液中の定常状態のH濃度を、LiuおよびZweier(Free Radic Biol Med.2001年10月1日;31(7):894−901頁)に記載されているリアルタイム電気化学的技法を用いて測定した。ベースラインをPBS中で採取した。この結果を図1Aに示す。
【0038】
創傷液(0.15ml)を、矢印で示した時間でDPBS(1ml)に添加した。標準曲線を用いて、創傷液中の決定されたH濃度は1.1μMであった。この結果は、測定可能な過酸化水素を示さない血漿の測定値とは対照的である。
【0039】
(創傷縁部におけるH検出)
露出した創傷をリンスするためのスピン−トラップ溶液を用いて、創傷腔中の過酸化水素のラジカルフットプリントの検出により過酸化水素を創傷縁で試験した。創傷12時間後、この部位を、スピントラップ、DMPO(5,5−ジメチル−ピロリン−1−オキシル)で処置した。対照データを得るために、新鮮に与えた創傷を、同じスピン−トラップ処理に供した。15分後、スピン−トラップ溶液を創傷腔から取り出し、電子常磁性共鳴(EPR)アッセイに供した。
【0040】
TM 110キャビティを有するXバンドで操作するBruker ER 300 EPR分光器を用いてEPR測定を実施した。図1Bは、創傷リンス液から測定されたDMPO付加体のEPRスペクトルを示す。このスペクトルは、創傷後0時間目(擬似対照、上のパネル)と12時間目(下のパネル)に創傷腔から採取されたDPMO(100mM、0.1ml)流出液から得られた。下のパネルのスペクトルは、以下のカップリング定数を有するDMPO−OHのものとして同定された:aN=14.90G、aH=14.90。データ獲得パラメータは以下であった:マイクロ波周波数、9.8682GHz;掃引幅、100G;マイクロ波電力、20mW;振幅変調、0.5G;周波数変調、100kHz;時間定数80msec。
【0041】
擬似処理スピン−トラップ溶液からのスペクトルは、顕著なスピン付加体を示さなかったが、創傷12時間目に、創傷リンス液から得られたスペクトルは、明確な1:2:2:1のカルテットパターンを示した。個々の成分は、シミュレーションによりDMPO−OH(ヒドロキシルラジカル付加体)として同定された。
【0042】
正常な皮膚および創傷縁部組織中のスーパーオキシド産生。NADPHオキシダーゼ活性の機能的結果として、O発生はしばしば、ROS感応性蛍光色素としてのジヒドロエチジウム(DHE)を用いて組織凍結切片から測定される。手短に言うと、創傷縁部サンプルを、創傷12時間後に採取し、直ちにOCT中に凍結した。新鮮な30ミクロン切片をDHE(0.01mM、20分、200×)と共にインキュベートしてOを検出し、共焦点顕微鏡法により可視化した。結果を図1Cに示す。
【0043】
このアプローチを使用して、創傷組織の縁部は、新鮮にスライスされた正常皮膚と比較して、はるかにより顕著に染色されたことが明確に観察された。この知見は、創傷部位がROSに富んでいることをさらに支持する。
【0044】
まとめると、これらの実験は、過酸化水素を含むROSが創傷治癒組織に存在していることを明確に立証している。
【0045】
(実施例2:創傷治癒に対する過剰なカタラーゼの効果)
過酸化水素が、創傷治癒組織に存在していることが示されたことから、その濃度の減少が、創傷治癒を妨げるかどうかを決定するための実験を実施した。カタラーゼは、過酸化水素を加水分解する天然の酵素であるため、それを、試験される創傷に導入した。
【0046】
手短に言うと、カタラーゼを、アデノウイルスベクターを用いたその過剰発現により創傷に導入した。このベクターは、マウスの皮膚において高効率の過剰発現を可能にした。創傷部位にカタラーゼを最大過剰発現させるために創傷5日前に、創傷を受ける皮膚にカタラーゼまたはLacZ(対照)アデノウイルス(1011pfu)のいずれかを1回皮下注射した。2つの8×16mmの二次的意図した全層創傷を、8週齢のC57BL/6マウスの背部皮膚上に配置した。
【0047】
図2Aは、対照Ad−LacZウイルスにより処置された側と比較してAdカタラーゼ(AdCat)ウイルスにより処置された側においてカタラーゼ過剰発現を示す感染皮膚のウェスタンブロットを示す。ブロットをβ−アクチンにより再度プローブして、サンプルの等しいローディングを示した。
【0048】
図2Bは、創傷後の示した日に測定された最初の創傷面積のパーセンテージとして創傷閉鎖を示す。点線は、ウイルス感染なしの生理食塩水処置のC57BL/6マウスの標準治癒曲線(白丸、○)を表す。AdCat処置(黒三角、▼);AdlacZ(黒丸、●);LacZ処置側と比較してp<0.05。
【0049】
図2Cは、両創傷が閉鎖した日にサンプリングされた創傷部位での再生皮膚をホルマリン固定したパラフィン切片によって実施されたマッソン三色染色法を示す。AdCat側は、より遅い閉鎖と一致する、皮膚の不完全(対照と比較して)再生を示す、より幅広いHE領域を示す。Es、痂皮;G、肉芽組織;HE、過剰増殖上皮。
【0050】
(実施例3:創傷閉鎖に対する過酸化水素の効果)
過酸化水素が創傷治癒に存在すること(実施例1)、創傷治癒におけるその不在が、治癒過程を減弱させること(実施例2)が明確に立証されたので、添加された過酸化水素の効果を調べるための実験を実施した。
【0051】
手短に言うと、2つの8×16mmの全層切除創傷(図3、挿入図)を、C57BL/6オスマウス(8週齢)の背部皮膚上に配置した。2つの創傷の各々を、Hまたは生理食塩水のいずれかで局所処置した。
【0052】
図3Aは、低用量のH(1.25マイクロモル/創傷;または0.15%溶液が0.025ml/創傷;1日1回、0〜4日目、白丸、○)処置により、プラセボ処置(黒丸、●)側と比較して閉鎖が中程度に促進されたことを示す。、p<0.05。
【0053】
図3Bは、低用量H処置が、創傷微生物叢に対して影響を及ぼさないことを示す。表面微生物叢の決定のために、創傷(1.25マイクロモルH/創傷、白棒、または生理食塩水、黒棒のいずれかで処置した)を、アルギネートチップアプリケータで20秒間ふき取った(創傷24〜48時間後)。表面細菌負荷の定量評価を実施した。深部組織創傷微生物叢に関しては、創傷48時間後の痂皮組織を取り出し、痂皮下部の創傷床組織をサンプリングし、細胞負荷の定量評価を実施した。示された値は、4回の観察におけるCFUの平均±SDを表す。
【0054】
図3Cは、Hの高用量(高い25マイクロモル/創傷;黒丸、●、3%溶液の0.025ml、これに対して、低い1.25マイクロモル/創傷または0.15%の0.025ml、白丸、○、0〜4日目、1日1回)は、閉鎖に有害な影響を与えたことを示す(、p<0.05;低用量H処置と比較して)。より高濃度のH(62.5マイクロモル/創傷、左側処置;7.5%溶液の0.025ml/創傷、0日目に1回)(挿入図)の処置は、壊死敵組織損傷および重篤な損傷を引き起こし、マウスは死に至った。
【0055】
(実施例4:血管形成関連遺伝子、血管新生および創傷縁部血流における、創傷およびHによって誘導される変化)
低用量の過酸化水素が、創傷治癒速度を上げた機構を試験するためにさらなる実験を実施した。
【0056】
対になった切除創傷を、プラセボ生理食塩水またはH(1.25マイクロモル/創傷、0〜4日目、1日1回)のいずれかで処置した。創傷縁部組織を、創傷後、表示された時点で採取した。図4Aは、プラセボ処置創傷における血管形成関連のmRNA発現の動態を示しているリボヌクレアーゼ保護アッセイ(RPA)を示す。図4Bは、創傷に対する低用量H処置(1.25マイクロモル/創傷、1日1回、0〜4日目)は、RPAを用いて決定したところ、創傷誘導Flt−1発現およびVEGF mRNA発現をさらに増加させたことを示す。
【0057】
図4Cは、レーザードップラー血流画像化デバイスを用いて非侵襲的に実施された創傷の血流画像を示す。治癒後組織の血流を反映する画像(右のパネル)およびデジタルフォト(対象となっている領域;左のパネル)を示す。血流のデータは、平均値±SD(棒グラフ)として表されている。平均値は、対象となっている領域内の画素に関する有効な血流値全ての相加平均を表している。この結果は、該処置により、血管形成増強の機能的結果の1つである血流増加がもたらされたことを示している。
【0058】
図4Dは、創傷後8日目の結果を示す。創傷縁部を凍結切片化し、血管新生を、CD31(レッド、ローダミン)およびDAPI(ブルー、核)に関する染色により評価した;H処置側から得られた切片(下部)におけるCD31レッド染色のより高い存在量は、対照(上部)と比較して良好な血管新生を反映している。
【0059】
(実施例5:微小血管内皮細胞および創傷縁部組織における病巣接着キナーゼ(FAK)のHによって誘導されるリン酸化)
ヒト微小血管内皮細胞(HMEC−1)を、示された用量および持続期間でHにより処理した。ウェスタンブロットおよびFAKに対するリン酸化部位特異的抗体を用いて、FAKのリン酸化を検出した。天然のFAKまたはβ−アクチンをブロットして、等しいローディングが示された。
【0060】
図5Aは、FAKのリン酸化(Ty925)状態に対する種々の用量のH処理効果を示す。図5Bは、H(0.1mM)処理後のHMEC細胞におけるFAKの部位特異的活性化リン酸化の動態を示す。
【0061】
図5Cにおいて、対になった切片創傷を、プラセボ生理食塩水またはH(1.25マイクロモル/創傷)のいずれかで処置した。創傷縁部組織を、創傷30分後に採取した。創傷縁部組織におけるFAKリン酸化を、ウェスタンブロットを用いて決定した。3匹の動物(#1〜#3)からのデータを示す。
【0062】
(実施例6:MCP−1およびp47phox欠損は皮膚治癒を損なう)
過酸化水素産生マクロファージを引き寄せることにより、単球/マクロファージ化学誘引物質/走化性タンパク質−1(MCP−1)は、創傷に対する急性炎症応答の発達および解消に重要な役割を演じる。p47phoxは、ROS産生に関与するNADPHオキシダーゼの調節サブユニットである。ROS産生および創傷治癒においてこれらの因子が重要であるため、過酸化水素が、これらの因子を欠く動物における創傷にどのような影響を及ぼすかを調べるための試験を実施した。
【0063】
手短に言うと、2つの切除創を、8週齢のC57BL/6、MCP−1またはp47phoxノックアウトマウスの背部皮膚上に配置した。2つの創傷の各々を、生理食塩水またはH(1.25マイクロモル/創傷;0〜4日目)のいずれかで処置した。
【0064】
図6Aは、野生型(C57BL/6)マウスのプラセボ処置創傷における単球/マクロファージの走化性関連mRNA発現の動態を示すRNase保護アッセイを示す。図6Bは、C57BL/6マウスの生理食塩水(黒丸、●)処置創傷およびMCP−1ノックアウトマウスのH(黒三角、▼)または生理食塩水(白丸、○)処置創傷における創傷閉鎖は、開始創傷面積のパーセンテージとして示されていることを示す。(p<0.05;C57BL/6生理食塩水処置と比較して。#、p<0.05;、ノックアウト生理食塩水処置と比較して)。図6Cは、C57BL/6マウスの生理食塩水(黒丸、●)処置創傷およびp47PhoxノックアウトマウスにおけるH(黒三角、▼)または生理食塩水(白丸、○)処置創傷における創傷閉鎖が、最初の創傷面積パーセンテージとして示されていることを示す。p<0.05;C57BL/6生理食塩水処置と比較して。#、p<0.05;KO生理食塩水処置と比較して。
【0065】
ケラチン14は、表皮分化および再生を支持しており、その発現は、皮膚創傷により引き起こされる。図6Dは、創傷後18日目に閉鎖後、創傷部位から採取されたp47phoxノックアウトマウスの皮膚におけるケラチン14(グリーン蛍光)の発現を示す。H処置側と比較して対照側におけるケラチン14のより高い発現に注目されたい。これは、対照側における治癒は、進行中で不完全であるが、一方、H処置側は、ケラチン14発現が、正常皮膚と匹敵し、このことは、完全な治癒を示すことを示している。
【0066】
本発明の他の実施形態は、本明細書に開示された本発明の明細書の考察および実施から当業者にとって明らかである。本発明の真の範囲および精神は、添付の特許請求の範囲により示されており、明細書および実施例は、単に例示的なものとして考えられることが意図されている。
【図面の簡単な説明】
【0067】
【図1】創傷部位におけるROSの存在。A.創傷液中のH濃度。Hunt/Schillingワイヤメッシュシリンダーを、切開創傷を介して5週齢のC57BL/6マウスの背部に皮下移植した。5日後、創傷液を採取し、該液中の定常状態のH濃度を、本明細書の上記のとおりのリアルタイムの電気化学的技法を用いて測定した。ベースラインを、PBS中で採取した。創傷液(0.15ml)を、矢印で示した時間でDPBS(1ml)に添加した。標準曲線を用いて、創傷液中で測定されたH濃度は1.1μMであった。B.創傷リンス液から測定されたDMPO付加体のEPRスペクトル。このスペクトルは、創傷後0時間目(擬似対照、上のパネル)と12時間目(下のパネル)に創傷腔から採取されたDPMO(100mM、0.1ml)流出液から得られた。下のパネルのスペクトルは、以下のカップリング定数:aN=14.90G、aH=14.90を有するDMPO−OHのものとして同定された。データ獲得パラメータは:マイクロ波周波数、9.8682GHz;掃引幅、100G;マイクロ波電力、20mW;振幅変調、0.5G;周波数変調、100kHz;時間定数80msecであった。C.正常な皮膚および創傷縁部組織中のスーパーオキシド産生。創傷縁部サンプルを、創傷12時間後に採取し、直ちにOCT中に凍結した。新鮮な30ミクロン切片を、DHE(0.01mM、20分、200x)と共にインキュベートしてOを検出し、共焦点顕微鏡法により可視化した。
【図2】カタラーゼ過剰発現は治癒を減弱させる。創傷部位にカタラーゼを最大過剰発現させるために創傷5日前に、創傷を受ける皮膚にカタラーゼおよびLacZ(対照)アデノウイルス(1011pfu)のいずれかを1回皮下注射した。8×16mmの二次的な意図的な全層創傷2つを、8週齢のC57BL/6マウスの背部皮膚上に配置した(図2)。A.対照Ad LacZウイルスにより処置された側と比較して、Adカタラーゼ(AdCat)ウイルスにより処置された側におけるカタラーゼ過剰発現を示す感染皮膚のウェスタンブロット。ブロットをβ−アクチンにより再度プローブして、サンプルの等しいローディングを示した。B.創傷閉鎖を、創傷後に表示された日に決定された最初の創傷面積のパーセンテージとして示す。点線は、ウイルス感染なしの生理食塩水処置のC57BL/6マウスの標準治癒曲線(白丸、○)を表す。AdCat処置(黒三角、▼);AdlacZ処置(黒丸、●);p<0.05、LacZ処置側と比較して。C.両創傷が閉鎖した日にサンプリングされた創傷部位の再生皮膚をホルマリン固定パラフィン切片にして、マッソン三色染色法を実施した。AdCat側は、より遅い閉鎖と一致する皮膚の不完全(対照と比較して)再生を示す、より幅広いHE領域を示す。Es、痂皮;G、肉芽組織;HE。
【図3】創傷閉鎖に対する局所H:投薬量、重要課題。2つの8×16mmの全層切除創傷(挿入図)を、C57BL/6オスマウス(8週齢)の背部皮膚上に配置した。2つの創傷の各々を、Hまたは生理食塩水のいずれかで局所処置した。A.低用量のH(1.25マイクロモル/創傷;または0.15%溶液を0.025ml/創傷;1日1回、0〜4日、白丸、○)処置では、プラセボ処置(黒丸、●)側と比較して閉鎖が中程度に促進された。、p<0.05。B.低用量H処置は、創傷微生物叢に対して毒性ではない。表面微生物叢の決定のために、創傷(1.25マイクロモルH/創傷、白バー、または生理食塩水、黒バーのいずれかで処置した)を、アルギネートチップアプリケータで20秒間ふき取った(創傷24〜48時間後)。表面細菌負荷量の定量評価を実施した。深部組織創傷微生物叢に関しては、創傷48時間後の痂皮組織を取り出し、痂皮下部の創傷床組織をサンプリングし、細胞負荷量の定量評価を実施した。示された値は、4回の観察におけるCFUの平均±SDを表す。C.0〜4日目に1日1回のHの高用量(高い25マイクロモル/創傷;黒丸、●、3%溶液を0.025mlに対して、低い1.25マイクロモル/創傷または0.15%を0.025ml、白丸、○)は、閉鎖に有害な影響を与えた。、p<0.05;低用量H処置と比較して。より高濃度のH(62.5マイクロモル/創傷、左側処置;7.5%溶液を0.025ml/創傷、0日目に1回)(挿入図)での処置は、壊死的組織損傷および重篤な損傷を引き起こし、マウスは死に至る。
【図4】血管形成関連遺伝子、血管新生および創傷縁部血流における、創傷およびHによって誘導された変化。対になった切除創(図2)を、プラセボ生理食塩水またはH(1.25マイクロモル/創傷、0〜4日目、1日1回)のいずれかで処置した。創傷縁部組織を、創傷後、表示された時点で採取した。A.プラセボ処置創傷における血管形成関連のmRNA発現の動態を示しているリボヌクレアーゼ保護アッセイ(RPA)。B.創傷に対する低用量H処置(1.25マイクロモル/創傷、1日1回、0〜4日目)は、RPAを用いて決定したところ、創傷によって誘導されたFlt−1発現およびVEGF mRNA発現をさらに増加させた。C.創傷の血流画像は、レーザードップラー血流画像化デバイスを用いて非侵襲的に実施した。治癒後組織の血流を反映する画像(右のパネル)およびデジタルフォト(対象の領域;左のパネル)を示す。データ、すなわち、血流の平均値±SDが示されている(棒グラフ)。平均値は、対象となっている領域内の画素についての有効な血流値全ての相加平均を表している。この結果は、該処置により、血管形成増強の機能的結果の1つである血流増加がもたらされたことを示している。D.創傷後8日目に、創傷縁部を凍結切片化し、血管新生をCD31(レッド、ローダミン)およびDAPI(ブルー、核)に関する染色により評価した。H処置側から得られた切片(下部)のCD31レッド染色の方が濃くなり、対照(上部)と比較してより良好な血管新生を反映している。
【図5】微小血管内皮細胞および創傷縁部組織における病巣接着キナーゼ(FAK)のHによって誘導されるリン酸化。ヒト微小血管内皮細胞(HMEC−1)を、表示された用量および持続時間でHにより処理した。ウェスタンブロットおよびFAKに対するリン酸化部位特異的抗体を用いて、FAKのリン酸化を検出した。天然のFAKまたはβ−アクチンをブロットして、等しいローディングが示された。A.FAKのリン酸化(Ty925)状態に対する種々の用量のH処理の効果。B.H(0.1mM)処理後のHMEC細胞におけるFAKの部位特異的活性化リン酸化の動態。C.対になった切片創傷(図2)を、プラセボ生理食塩水またはH(1.25マイクロモル/創傷)のいずれかで処置した。創傷縁部組織を、創傷30分後に採取した。創傷縁部組織におけるFAKリン酸化を、ウェスタンブロットを用いて決定した。3匹の動物(#1〜#3)からのデータを示す。
【図6】MCP−1およびp47phox欠損は皮膚治癒を損なう。2つの切除創傷(図2)を、8週齢のC57BL/6、MCP−1またはp47phox KOマウスの背部皮膚上に配置した。2つの創傷の各々を、生理食塩水またはH(1.25マイクロモル/創傷;0〜4日目)のいずれかで処置した。A.野生型(C57BL/6)マウスのプラセボ処置創傷における単球/マクロファージの走化性タンパク質関連mRNA発現の動態を示すRPA。B.C57BL/6マウスの生理食塩水(黒丸、●)処置創傷およびMCP−1 KOマウスのH(黒三角、▼)処置創傷または生理食塩水(白丸、○)処置創傷における創傷閉鎖は、最初の創傷面積のパーセンテージとして示される。p<0.05;C57BL/6生理食塩水処置と比較して。#、p<0.05;KO生理食塩水処置と比較して。C.C57BL/6マウスの生理食塩水(黒丸、●)処置創傷およびp47Phox KOマウスのH(黒三角、▼)または生理食塩水(白丸、○)処置創傷における創傷閉鎖は、開始創傷面積のパーセンテージとして示される。p<0.05;C57BL/6生理食塩水処置と比較して。#、p<0.05;KO生理食塩水処置と比較して。D.創傷後18日目に閉鎖後創傷部位から採取されたp47Phox KOマウスの皮膚におけるケラチン14(グリーン蛍光)の発現。治癒を示すH処置側と比較して対照側におけるケラチン14のより高い発現に注目されたい。これは、対照側では治癒が進行中であるが、H処置側は、正常皮膚と匹敵するケラチン14発現を示すことを示している。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
損傷1平方センチメートル当り約500ナノモル〜約50マイクロモルの過酸化水素を損傷に適用する工程を包含する、哺乳動物における損傷治癒速度を上げる方法。
【請求項2】
損傷1平方センチメートル当り約1マイクロモル〜約50マイクロモルの過酸化水素を適用する工程を包含する、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
損傷1平方センチメートル当り約1マイクロモル〜約10マイクロモルの過酸化水素を適用する工程を包含する、請求項2に記載の方法。
【請求項4】
損傷1平方センチメートル当り約1マイクロモル〜約2マイクロモルの過酸化水素を適用する工程を包含する、請求項3に記載の方法。
【請求項5】
前記過酸化水素が、酵素的供給源および化学的供給源から選択される供給源から前記損傷に適用される、請求項1に記載の方法。
【請求項6】
前記過酸化水素の供給源が化学的供給源であり、該供給源が過酸化水素である、請求項5に記載の方法。
【請求項7】
約12時間〜約24時間の時間にわたり損傷1平方センチメートル当り過酸化水素約500ナノモル〜約50マイクロモルの割合で、過酸化水素を損傷に適用する工程を包含する、哺乳動物における損傷治癒速度を上げる方法。
【請求項8】
前記過酸化水素が、約1マイクロモル〜約10マイクロモルの割合で適用される、請求項7に記載の方法。
【請求項9】
前記過酸化水素が、薬学的に受容可能な組成物において適用される、請求項7に記載の方法。
【請求項10】
前記薬学的に受容可能な組成物が、ゲル、ローション、軟膏、クリーム、ペースト、および液体から選択される形態にある、請求項9に記載の方法。
【請求項11】
前記過酸化水素が、薬学的に受容可能なデバイスで適用される、請求項7に記載の方法。
【請求項12】
前記薬学的に受容可能なデバイスが、絆創膏、外科用包帯、ガーゼ、接着帯、外科用ステープル、クリップ、止血鉗子、子宮内デバイス、縫合糸、トロカール、カテーテル、チューブ、およびインプラントから選択される、請求項11に記載の方法。
【請求項13】
前記インプラントが、丸剤、ペレット、ロッド、ウェハ、ディスク、および錠剤から選択される、請求項12に記載の方法。
【請求項14】
前記デバイスが、ポリマー材料を含む、請求項11に記載の方法。
【請求項15】
前記ポリマー材料が、吸収性材料を含む、請求項14に記載の方法。
【請求項16】
前記吸収性材料が、合成材料を含む、請求項15に記載の方法。
【請求項17】
前記合成材料が、セルロースポリマー、グリコール酸ポリマー、メタクリレートポリマー、エチレンビニルアセテートポリマー、エチレンビニルアルコールコポリマー、ポリカプトロラクタム、ポリアセテート、ラクチドとグリコリドとのコポリマー、ポリジオキサノン、ポリグラクチン、ポリグレカプロン、ポリグリコネート、ポリグルコネート、およびそれらの組み合わせから選択される、請求項16に記載の方法。
【請求項18】
前記吸収性材料が、非合成材料を含む、請求項15に記載の方法。
【請求項19】
前記非合成材料が、腸線、カーガイル膜、大腿筋膜、ゼラチン、コラーゲン、およびそれらの組み合わせから選択される、請求項18に記載の方法。
【請求項20】
前記ポリマー材料が、非吸収性材料を含む、請求項14に記載の方法。
【請求項21】
前記非吸収性材料が、合成材料を含む、請求項20に記載の方法。
【請求項22】
前記合成材料が、ナイロン、レーヨン、ポリエステル、ポリオレフィン、およびそれらの組み合わせから選択される、請求項21に記載の方法。
【請求項23】
前記非吸収性材料が、非合成材料を含む、請求項20に記載の方法。
【請求項24】
前記非合成材料が、シルク、皮膚用シルク、綿、リネン、およびそれらの組み合わせから選択される、請求項23に記載の方法。
【請求項25】
前記損傷が、創傷、潰瘍および熱傷から選択される、請求項7に記載の方法。
【請求項26】
前記創傷が、急性創傷および慢性創傷から選択される、請求項25に記載の方法。
【請求項27】
前記創傷が、全層創傷および部分層創傷から選択される、請求項25に記載の方法。
【請求項28】
前記急性創傷が、手術傷、貫通性創傷、剥離傷、圧潰瘍、剪断傷、熱傷損傷、裂傷、および咬傷から選択される、請求項26に記載の方法。
【請求項29】
前記慢性創傷が、動脈潰瘍、静脈潰瘍、褥瘡性潰瘍、および糖尿病性潰瘍から選択される、請求項26に記載の方法。
【請求項30】
過酸化水素およびキャリア材料を含む、損傷へ投与するための過酸化水素送達デバイスであって、該デバイスは、少なくとも約12時間の間、該過酸化水素を放出し、該デバイスから放出された該過酸化水素が該損傷の壊死を生じさせるには不十分な濃度である、過酸化水素送達デバイス。
【請求項31】
前記デバイスが、約0.5μmol〜50μmolの過酸化水素/cm創傷/12時間から、約0.5μmol〜50μmolの過酸化水素/cm創傷/24時間までを放出する、請求項30に記載の過酸化水素送達デバイス。
【請求項32】
前記キャリア材料が、ポリマー材料を含む、請求項31に記載の過酸化水素送達デバイス。
【請求項33】
前記ポリマー材料が、吸収性材料を含む、請求項32に記載の過酸化水素送達デバイス。
【請求項34】
前記ポリマー材料が、合成材料を含む、請求項32に記載の過酸化水素送達デバイス。
【請求項35】
過酸化水素および薬学的に受容可能なキャリアを含み、哺乳動物の損傷を処置するための組成物であって、該組成物の単位用量が、約0.5μmolから約50μmolの過酸化水素/cm創傷を含む、組成物。
【請求項36】
前記キャリアが、ゲル材料を含む、請求項35に記載の組成物。
【請求項37】
前記キャリアが、液体材料を含む、請求項35に記載の組成物。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公表番号】特表2008−503485(P2008−503485A)
【公表日】平成20年2月7日(2008.2.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−516781(P2007−516781)
【出願日】平成17年6月17日(2005.6.17)
【国際出願番号】PCT/US2005/021477
【国際公開番号】WO2006/009853
【国際公開日】平成18年1月26日(2006.1.26)
【出願人】(504325287)ザ オハイオ ステート ユニバーシティー リサーチ ファウンデーション (24)
【Fターム(参考)】