説明

搬送装置

【課題】速度検出手段とモータを制御する制御手段を備えた搬送装置をマニュアルで動作させる際の加減速に伴う衝撃を小さくする。
【解決手段】フィルタ10を誤差検出手段8と電流制御12との間に設けて、目標速度と現在速度との差に0と1との間の所定の係数Kをフィルタ10で乗算し、フィルタ10の出力をモータ14を制御する電流制御12へ入力する。フィルタでは、初期値をK0(K0>0)、最大値をKmax、(Kmax<1)、加減速信号の持続時間をn、時間当たりの増加率をΔとして、K=K0+nΔ (K≦Kmax)により係数Kを求める。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、スタッカークレーンや搬送台車、昇降台、コンベヤなどの搬送装置に関する。
【背景技術】
【0002】
スタッカークレーンなどの搬送装置では、自動運転の他にマニュアル運転が可能になっているものが多い(特許文献1:特開2000−153905)。そしてマニュアル運転では、起動,加速,減速,停止の4つのスイッチを設け、加速スイッチや減速スイッチにより加減速し、停止スイッチによりブレーキをかけて停止する。マニュアル運転では最終の目標速度は搬送装置にとって予測できないので、加速スイッチや減速スイッチに応じて、直線的に加減速する。すると加減速により搬送装置や搬送物品に大きな衝撃が加わる。例えばスタッカークレーンの場合、加減速によりマストが撓んで振動し、搬送中の物品にも影響を与えることがある。また搬送車などの場合も同様に、加減速時の衝撃により搬送物品に影響が生じることがある。
【特許文献1】特開2000−153905
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
この発明の課題は、搬送装置をマニュアルで動作させる際の、加減速に伴う衝撃を小さくすることにある。
請求項2の発明での追加の課題は、衝撃をさらに小さくすることにある。
請求項3の発明での追加の課題は、衝撃を小さくするための制御を簡単にすることにある。
【課題を解決するための手段】
【0004】
この発明は、マニュアルスイッチからの加減速信号により目標速度を生成するための手段と、該目標速度と搬送装置の現在速度との差を求めるための誤差検出手段と、求めた速度の差を解消するようにモータを制御する制御手段、とを備えた搬送装置であって、
前記速度の差に0と1との間の所定の係数を乗算した値を求めるためのフィルタを、誤差検出手段と制御手段との間に設けて、該フィルタの出力により前記制御手段を駆動するようにしたことを特徴とする。
【0005】
好ましくは、前記所定の係数を、正の値である最小値を初期値として、マニュアルスイッチからの加減速信号の持続時間と共に増加させるための、係数発生手段を設ける。
特に好ましくは、前記係数発生手段を、初期値をK0(K0>0)、最大値をKmax
(Kmax<1)、加減速信号の持続時間をn、時間当たりの係数Kの増加率をΔとして、 K=K0+nΔ (K≦Kmax)となるように、持続時間nをカウントするカウンタで構成する。
【発明の効果】
【0006】
この発明では、目標速度と現在速度との差に0と1との間の所定の係数をフィルタで乗算し、フィルタの出力をモータを制御する制御手段へ入力する。この結果、加速開始時や減速開始時に、目標速度に対する現在速度の応答が遅れ、搬送装置や物品に加わる衝撃が小さくなる。
【0007】
ここで所定の係数を、K0を初期値(K0>0)として、加減速信号の持続時間と共に増加させると、加速や減速の開始時に、目標速度に対する応答性を特に小さくできるので、加減速度の変化を小さくして衝撃を小さくできる。そして加速や減速が続くと係数は増加し、目標速度に対する応答性が増加する。
このような係数はテーブルや関数などで発生させても良いが、好ましくはカウンタで加減速信号の持続時間nをカウントし、時間当たりの係数の増加率をΔとして、
K=K0+nΔ により発生させると、カウンタで簡単に係数を発生させることができる。このようなフィルタをソフトウェアで実装する場合、加減速信号の持続時間をカウントし、これに応じて係数を増加させ、求めた係数を速度誤差に乗算すればよい。従って極めて簡単にフィルタを実装できる。
【0008】
なお比較例として、マニュアルによる加減速に対する速度パターンを、加減速による衝撃が小さくなるように定めて、例えば図1の速度パターン発生部等に記憶させることが考えられる。しかしこのようにすると記憶するデータ量が増し、記憶した速度パターンでは最終目標速度を予め定めておく必要があるので、マニュアルによる加減速で例えば速度パターンで想定しているよりも低い速度で加速を終了すると、衝撃が加わる。同様に減速時に、目標速度を0,即ち停止として減速パターンを記憶している場合に、マニュアルで速度を低下させた後に、減速を打ち切ると衝撃が働く。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
以下に本発明を実施するための最適実施例を示す。
【実施例】
【0010】
図1〜図4に、実施例の搬送装置を示す。搬送装置の種類はここではスタッカークレーンとし、スタッカークレーンの走行や昇降あるいはスライドフォークの前後進に対して、実施例を適用する。スタッカークレーン以外にも、有軌道や無軌道の搬送車の走行、天井走行車の走行、昇降台の昇降や、天井クレーンの走行、コンベヤの動作、移載装置での移載などに実施例を適用できる。
【0011】
各図において、2は速度パターン発生部で、自動運転の場合、目標位置を入力されると、現在位置から目標位置までの走行距離などに応じて速度パターンを発生させる。なお自動運転に固有な信号の流れを図1の鎖線で表し、マニュアル運転での信号の流れや、自動運転とマニュアル運転に共通する信号の流れを実線で表す。4はマニュアルスイッチで、マニュアル運転の起動スイッチ、加速スイッチ、減速スイッチ、停止スイッチの、例えば4つのスイッチを備え、スイッチの実装方法は任意である。カウンタ6はマニュアルスイッチ4での加速スイッチのオン時間や減速スイッチのオン時間を求め、加速の場合、加速スイッチのオン時間に比例した目標速度(速度指令)を発生させる。カウンタ6は目標速度の最大値を記憶し、減速スイッチがオンされると、減速スイッチのオン時間に比例して最大速度から減速した目標速度を、速度指令として発生する。
【0012】
8は誤差増幅器で、速度指令と微分器16からの現在速度との速度誤差を増幅し、微分器16はモータ14の回転数などをエンコーダで監視して微分することにより、現在速度を発生する。エンコーダに代えてリニアセンサやレーザ距離計などで現在位置を求め、これらの信号を微分して現在速度としても良い。フィルタ10はマニュアルスイッチで動作している場合にのみ使用し、誤差増幅器8からの信号を処理して、電流制御部12へのトルク指令を発生させる。電流制御部12は入力されたトルク指令に応じてモータ14を制御し、モータ14の駆動電流iをフィードバックされる。実施例は、誤差増幅器8と電流制御部12との間にフィルタ10を設けた他は、従来の搬送装置と同様である。
【0013】
図2に、フィルタ10の構成を示す。20は乗算器で、誤差増幅器8からの速度誤差に係数Kiを乗算してトルク指令とする。カウンタ21は係数Kiを出力し、22は反転回路、23は遅延回路である。そしてマニュアルスイッチからの加速信号や減速信号によりカウンタ21を加算し、加速信号や減速信号がオフされると、遅延回路23で所定時間待機して、カウンタ21をリセットする。リセットによりカウンタ21の出力は初期値K0に変化する。ここで記号を説明すると、nは加速信号や減速信号の持続時間、Δは時間当たりの係数の変化率である。初期値K0は正の値で、係数Kの最小値であり、係数Kには最大値 Kmax (0<K0<Kmax<1) が存在する。そしてK0やKmax、Δは適宜に設定できる。遅延回路23での遅延時間は、搬送装置の加減速が終了した後、実際の速度が最終の速度指令に追随するまでの遅れ時間程度とし、遅延回路23は設けなくても良い。さらに図2では、フィルタ10をハードウェアで示したが、ソフトウェアで実装しても良い。
【0014】
図3にマニュアル走行時の動作を示し、図の右側の処理は係数Kの生成に関する処理である。マニュアルスイッチにより加減速信号がオンすると、オン時間をカウントして係数Kを発生させる。また加減速のオン時間に比例あるいは直線的な速度指令を生成し、速度指令と現在速度との差に係数Kを乗算して、トルク指令を生成し、このトルク指令でモータを駆動する。マニュアルスイッチでの加減速信号がオフすると、所定の遅延時間をおいて、係数Kを初期値K0へリセットする。次に加減速が再度行われると同様の制御を行い、停止スイッチがオンされるとブレーキを動作させる。実施例では加速の場合も減速の場合も、係数Kの初期値K0は一定で、最大値Kmaxも一定、時間当たりの変化率Δも一定であるが、これらを加速と減速とで異ならせても良い。
【0015】
図4に実施例の動作パターンを示す。実線の速度指令はマニュアルスイッチによる速度指令で、破線は係数Kを一定とした際の搬送装置の実際の速度を、鎖線は係数Kを
K=K0+nΔ により求めた際の速度を示す。図の中段は係数Kの変化を示し、下段はマニュアルスイッチの動作を示す。
【0016】
マニュアル運転を開始し、加速スイッチをオンすると、速度指令は直線的に増加する。これに対して実施例では係数Kを用い、速度指令と搬送装置の現在速度との差に係数Kを乗算したものを、トルク指令として出力する。搬送装置の制御系が所定の時間間隔でトルク指令を発生するものとすると、現在速度は微分器16で求めた最新速度、あるいは1サイクル前の速度である。速度指令と現在速度が一致する場合、トルク指令が0となるので、フィルタ10は搬送装置の次の目標速度Vobjectを、速度指令Vinstから、現在もしくは前回の速度Vmを引き算したものに係数Kを乗算したものを、現在速度もしくは前回の速度Vmに加算して定めると言うことができる。即ち、 Vobject=(Vinst−Vm)K+Vm である。
【0017】
実施例では、係数Kを一定とする場合も、初期値から徐々に増加させる場合も、速度指令に対する応答が遅れる。そして係数Kを初期値K0から徐々に増加させると、加速の開始時や減速の開始時に係数の値が小さくなるので、加速開始時や減速開始時の加減速度の変化を小さくして、搬送装置や物品に働く衝撃を小さくできる。係数Kを時間的に増加させると、徐々に係数が大きくなるので、全体としての応答性は係数Kを一定とする場合と基本的に変わらない。そして加速が終了すると、この時点での速度誤差を解消するようにトルク指令を発生させ続けて、目標速度で定速走行に移行する。
【0018】
減速開始時にもフィルタを用いることにより、速度指令に対する応答を遅らせる。特に減速時にも、係数Kを時間と共に増加させると、減速開始時の加減速度の変化を小さくできる。そして速度指令がほぼ0になった後、所定時間遅れて実際の速度が追随し、ブレーキの動作により停止する。図4では、速度指令がほぼ0まで減速した際に、搬送装置の応答が遅れ速度が微速でないので、オペレータは減速スイッチをオンしている。しかしブレーキを作用させて再起動するまで、負の速度は無効なので、速度指令はほぼ0よりも低下しない。
【0019】
実施例では以下の効果が得られる。
(1) 搬送装置の加速時や減速時の衝撃を小さくし、搬送装置自体や搬送物品に及ぼす影響を小さくできる。
(2) 用いる係数を比較的小さな初期値から始めて徐々に増加させると、加速の開始時や減速の開始時の衝撃を特に小さくできる。
(3) 係数Kは、加速信号や減速信号のオン時間をカウントし、これに応じて係数を変化させるだけで、簡単に求めることができる。そして求めた係数を、速度指令と現在速度との誤差に乗算すれば良く、極めて簡単にフィルタを実装できる。

【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】実施例の搬送装置のブロック図
【図2】実施例でのフィルタのブロック図
【図3】実施例でのマニュアル走行アルゴリズムを示すフローチャート
【図4】実施例の特性図で、速度指令に対する速度応答と係数の変化とを示す。
【符号の説明】
【0021】
2 速度パターン発生部
4 マニュアルスイッチ
6 カウンタ
8 誤差増幅器
10 フィルタ
12 電流制御部
14 モータ
16 微分器
20 乗算器
21 カウンタ
22 反転回路
23 遅延回路

【特許請求の範囲】
【請求項1】
マニュアルスイッチからの加減速信号により目標速度を生成するための手段と、該目標速度と搬送装置の現在速度との差を求めるための誤差検出手段と、求めた速度の差を解消するようにモータを制御する制御手段、とを備えた搬送装置であって、
前記速度の差に0と1との間の所定の係数を乗算した値を求めるためのフィルタを、誤差検出手段と制御手段との間に設けて、該フィルタの出力により前記制御手段を駆動するようにしたことを特徴とする、搬送装置。
【請求項2】
前記所定の係数を、正の値である最小値を初期値として、マニュアルスイッチからの加減速信号の持続時間と共に増加させるための、係数発生手段を設けたことを特徴とする、請求項1の搬送装置。
【請求項3】
前記係数発生手段を、初期値をK0(K0>0)、最大値をKmax
(Kmax<1)、加減速信号の持続時間をn、時間当たりの係数Kの増加率をΔとして、 K=K0+nΔ (K≦Kmax)となるように、持続時間nをカウントするカウンタで構成したことを特徴とする、請求項2の搬送装置。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2008−254898(P2008−254898A)
【公開日】平成20年10月23日(2008.10.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−100259(P2007−100259)
【出願日】平成19年4月6日(2007.4.6)
【出願人】(000006297)村田機械株式会社 (4,916)
【Fターム(参考)】