説明

撚り構造体モデルの作成方法及び撚り構造体モデルの作成用コンピュータプログラム

【課題】マルチスケールシミュレーションに適した撚り構造体の解析モデルを作成すること。
【解決手段】撚り構造体を構成するモノフィラメント素線及び母材のソリッドモデルを作成する(ステップS101)。次に、母材のソリッドモデルの内部に素線のソリッドモデルを組み込む(ステップS102)。次に、素線のソリッドモデルの表面及び母材のソリッドモデルの表面を複数の節点で構成される複数のメッシュで分割する(ステップS103)。このとき、母材のソリッドモデルの対向する表面において、一方の表面に存在する複数のメッシュを他方の表面に投影すると、一方の表面のメッシュの節点が、他方の表面のメッシュの節点に重なるようにする。その後、素線のソリッドモデルの表面及び母材のソリッドモデルの表面のメッシュを用いて、素線のソリッドモデル及び母材のソリッドモデルの内部を複数の四面体要素で分割する(ステップS104)。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、タイヤの補強材である補強コードのような撚り構造体を、コンピュータで解析可能な解析モデル化することに関する。
【背景技術】
【0002】
従来のタイヤは、試作と試験との繰り返しによって開発されていたので、開発効率が悪いという問題点があった。この問題点を解決するために、近年ではコンピュータを用いた数値解析によって、試作品を製造しなくともタイヤの物理的性質、すなわちタイヤの性能を予測することができる手法が提案され、実用化されている。コンピュータを用いた数値解析によってタイヤの性能を予測する場合、タイヤをコンピュータで解析可能な解析モデル化する必要がある。タイヤは、ゴムをカーカスやベルトといった補強コードによって補強した構造体である。補強コードの解析モデル化については、例えば、特許文献1に、タイヤコードの二次元モデルを作成し、作成された二次元モデルをタイヤコードの長手方向に展開して3次元形状を作成するタイヤコードの解析モデル作成方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2008−230375号公報 [0028]、[0045]、図5、図7
【特許文献2】特開2007−265382号公報 [0004]、[0022]
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、近年においては、マルチスケールシミュレーションと呼ばれる解析手法が用いられている。この解析手法は、スケールが大きく異なる二つの事象が関連し合っている問題を解析する際に用いられる。マルチスケールシミュレーションを用いてタイヤの補強コードの性能や特性を解析する場合、マルチスケールシミュレーションに適した形で、補強コードを解析モデル化する必要がある。しかし、また、特許文献2には、マルチスケールシミュレーションについては言及がなく、特許文献2に開示されている手法でタイヤの補強コードを解析モデル化したとしても、マルチスケールシミュレーションを適用することはできない。本発明は、上記に鑑みてなされたものであって、マルチスケールシミュレーションに適した、補強コードのような撚り構造体の解析モデルを作成することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上述した課題を解決し、目的を達成するために、本発明に係る撚り構造体モデルの作成方法は、母材と複数のモノフィラメント素線を撚った撚り線とが組み合わされるとともに、構造物に埋め込まれて、前記構造物を補強する撚り構造体について、コンピュータで解析可能な前記撚り構造体の解析モデルを作成するにあたり、前記コンピュータが、前記複数のモノフィラメント素線のソリッドモデルである素線ソリッドモデルと、前記母材のソリッドモデルである母材ソリッドモデルとを作成する手順と、前記コンピュータが、前記母材ソリッドモデルの内部に複数の前記素線ソリッドモデルから構成される撚り線ソリッドモデルを組み込む手順と、前記コンピュータが、前記素線ソリッドモデルの表面を複数の節点で構成される複数のメッシュで分割し、また、前記母材ソリッドモデルの対向する表面において、一方の表面に存在する複数のメッシュを他方の表面に投影すると、一方の表面のメッシュの節点が、他方の表面のメッシュの節点に重なるように、前記母材ソリッドモデルの表面を複数の節点で構成される複数のメッシュで分割する手順と、前記コンピュータが、前記素線ソリッドモデルの表面のメッシュを用いて前記素線ソリッドモデルの内部を複数の節点で構成される複数の四面体要素で分割して素線モデルを作成し、また、前記母材ソリッドモデルの表面のメッシュを用いて前記母材ソリッドモデルの内部を複数の節点で構成される複数の四面体要素で分割して母材モデルを作成し、前記素線モデルと前記母材モデルとで構成される撚り構造体モデルを作成する手順と、を含むことを特徴とする。
【0006】
上述した課題を解決し、目的を達成するために、本発明に係る撚り構造体モデルの作成方法は、母材と複数のモノフィラメント素線を撚った撚り線とが組み合わされるとともに、構造物に埋め込まれて、前記構造物を補強する撚り構造体について、コンピュータで解析可能な前記撚り構造体の解析モデルを作成するにあたり、前記コンピュータが、前記複数のモノフィラメント素線のソリッドモデルである素線ソリッドモデルと、前記母材のソリッドモデルである母材ソリッドモデルとを作成する手順と、前記コンピュータが、前記素線ソリッドモデルの表面を複数の節点で構成される複数のメッシュで分割し、また、前記母材ソリッドモデルの対向する表面において、一方の表面に存在する複数のメッシュを他方の表面に投影すると、一方の表面のメッシュの節点が、他方の表面のメッシュの節点に重なるように、前記母材ソリッドモデルの表面を複数の節点で構成される複数のメッシュで分割する手順と、前記コンピュータが、前記素線ソリッドモデルの表面のメッシュを用いて前記素線ソリッドモデルの内部を複数の節点で構成される複数の四面体要素で分割して素線モデルを作成し、また、前記母材ソリッドモデルの表面のメッシュを用いて前記母材ソリッドモデルの内部を複数の節点で構成される複数の四面体要素で分割して母材モデルを作成する手順と、前記コンピュータが、複数の前記素線モデルを前記母材モデルの内部に組み込んで、前記素線モデルと前記母材モデルとで構成される撚り構造体モデルを作成する手順と、を含むことを特徴とする。
【0007】
本発明の望ましい態様としては、前記素線ソリッドモデルは、前記撚り線を構成する前記モノフィラメント素線の撚られた状態における中心軸と直交する複数の断面間において、いずれも同一の形状となることが好ましい。
【0008】
本発明の望ましい態様としては、前記撚り構造体モデルは、当該撚り構造体モデルを構成する前記素線モデルと前記母材モデルとの間に、固着、剥離、接触のうち少なくとも一つの条件が付与されることが好ましい。
【0009】
本発明の望ましい態様としては、前記素線ソリッドモデルの表面に作成されるメッシュは、前記メッシュの辺の一つが前記撚り線を構成する前記モノフィラメント素線の撚られた状態における中心軸と直交する断面上に存在することが好ましい。
【0010】
本発明の望ましい態様としては、前記撚り構造体モデルの長手方向と直交する断面において、前記母材モデルの表面における四面体要素は、前記素線モデルの表面における四面体要素よりも寸法が大きいことが好ましい。
【0011】
本発明の望ましい態様としては、前記母材はゴムであることが好ましい。
【0012】
本発明の望ましい態様としては、前記撚り構造体モデルの対向する面には、周期境界条件が付与されることが好ましい。
【0013】
上述した課題を解決し、目的を達成するために、本発明に係る撚り構造体モデルの作成用コンピュータプログラムは、前記撚り構造体モデルの作成方法をコンピュータに実行させることを特徴とする。
【発明の効果】
【0014】
本発明は、マルチスケールシミュレーションに適した、補強コードのような撚り構造体の解析モデルを作成できる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】図1は、タイヤの回転軸を通る子午断面を示す断面図である。
【図2】図2は、本実施形態に係る撚り構造体モデルの作成装置の構成を示す説明図である。
【図3−1】図3−1は、タイヤの補強コードと母材であるゴムとを示す断面図である。
【図3−2】図3−2は、タイヤの補強コードと母材であるゴムとを、コンピュータで解析可能なモデルとした例を示す断面図である。
【図4】図4は、本実施形態に係る撚り構造体モデルの作成方法の手順を示すフローチャートである。
【図5】図5は、撚り構造体を構成する母材のソリッドモデルを示す斜視図である。
【図6】図6は、撚り構造体を構成する撚り線のソリッドモデルを示す斜視図である。
【図7】図7は、撚り線を構成するモノフィラメント素線の配置を示す正面図である。
【図8】図8は、モノフィラメント素線のソリッドモデルを示す斜視図である。
【図9】図9は、モノフィラメント素線のソリッドモデルの断面形状を示す平面図である。
【図10】図10は、ユニットセルを示す斜視図である。
【図11−1】図11−1は、素線ソリッドモデルの表面をメッシュで分割した撚り線ソリッドモデルを示す斜視図である。
【図11−2】図11−2は、表面をメッシュで分割した母材ソリッドモデルの斜視図である。
【図12】図12は、素線ソリッドモデルの表面をメッシュで分割した状態を示す斜視図である。
【図13】図13は、メッシュの説明図である。
【図14】図14は、メッシュで分割した素線ソリッドモデルの表面の拡大図である。
【図15】図15は、素線ソリッドモデルの表面をメッシュで分割した他の例を示す斜視図である。
【図16】図16は、母材ソリッドモデルを説明するための斜視図である。
【図17】図17は、表面をメッシュで分割した母材ソリッドモデルの表面の拡大図である。
【図18】図18は、表面をメッシュで分割した母材ソリッドモデルの対向する面におけるメッシュの関係を示す模式図である。
【図19】図19は、撚り構造体モデルの側面図である。
【図20】図20は、図19のA−A断面図である。
【図21】図21は、撚り構造体モデルを構成する素線モデルの断面図である。
【図22−1】図22−1は、四面体要素の斜視図である。
【図22−2】図22−2は、四面体要素の斜視図である。
【図23】図23は、素線モデルと母材モデルとの境界の説明図である。
【図24】図24は、撚り構造体モデルの一例を示す模式図である。
【図25】図25は、撚り構造体モデルと座標系との関係を示す模式図である。
【図26】図26は、撚り構造体モデルにひずみを付与して引張試験のシミュレーションを実行する例を示す模式図である。
【図27】図27は、本実施形態の変形例に係る撚り構造体モデルの作成方法の手順を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明につき図面を参照しつつ詳細に説明する。なお、以下の内容によりこの発明が限定されるものではない。また、以下の構成要素には、当業者が容易に想定できるもの、実質的に同一のものが含まれる。本発明の適用対象は、補強コードを有するタイヤであれば適用でき、空気入りタイヤに限られるものではない。以下においては、説明の便宜上、特に断りのない限り空気入りタイヤをタイヤという。
【0017】
図1は、タイヤの回転軸を通る子午断面を示す断面図である。図1に示すように、タイヤ1の子午断面には、カーカス2、ベルト3、ベルトカバー4、ビードコア5が現れている。タイヤ1は、母材であるゴムを、強化材であるカーカス2、ベルト3、あるいはベルトカバー4等の補強コードによって補強した複合材料の構造体である。ここで、カーカス2、ベルト3、ベルトカバー4等の、金属繊維や有機繊維等のコード材料で構成される補強コードの層を、コード層という。
【0018】
カーカス2は、タイヤ1に空気を充填した際に圧力容器としての役目を果たす強度メンバーであり、その内圧によって荷重を支え、走行中の動的荷重に耐えるようになっている。ベルト3は、キャップトレッド6とカーカス2との間に配置されたゴム引きコードを束ねた補強コードの層である。なお、バイアスタイヤの場合にはブレーカと呼ぶ。ラジアルタイヤにおいて、ベルト3は形状保持及び強度メンバーとして重要な役割を担っている。
【0019】
ベルト3の接地面G側には、ベルトカバー4が配置されている。ベルトカバー4は、例えば有機繊維材料を層状に配置したものであり、ベルト3の保護層としての役割や、ベルト3の補強層としての役割を持つ。ビードコア5は、内圧によってカーカス2に発生するコード張力を支えているスチールワイヤの束である。ビードコア5は、カーカス2、ベルト3、ベルトカバー4及びトレッドとともに、タイヤ1の強度部材となる。キャップトレッド6の接地面G側には、溝7が形成される。これによって、雨天走行時の排水性を向上させる。また、タイヤ1の側部はサイドウォール8と呼ばれており、ビードコア5とキャップトレッド6との間を接続する。また、キャップトレッド6とサイドウォール8との間はショルダー部Shである。次に、本実施形態に係る撚り構造体モデルの作成方法を実行する装置について説明する。
【0020】
図2は、本実施形態に係る撚り構造体モデルの作成装置の構成を示す説明図である。図2に示す撚り構造体モデルの作成装置(以下、モデル作成装置という)50は、母材と複数のモノフィラメント素線を撚った撚り線とが組み合わされるとともに、構造物に埋め込まれて、その構造物を補強する撚り構造体について、コンピュータで解析可能な前記撚り構造体の解析モデルを作成するものである。そして、モデル作成装置50は、本実施形態に係る撚り構造体モデルの作成方法を実行して、撚り構造体の解析モデルを作成する。
【0021】
モデル作成装置50は、処理部50pと記憶部50mとを備えて構成される。処理部50pと記憶部50mとは、入出力部(I/O)59を介して接続してある。処理部50pは、ソリッドモデル作成部51と、モデル合成部52と、メッシュ分割部53と、要素分割部54とを含んで構成される。これらが本実施形態に係る撚り構造体モデルの作成方法を実行する。ソリッドモデル作成部51と、モデル合成部52と、メッシュ分割部53と、要素分割部54とは入出力部59に接続されており、相互にデータをやり取りできるように構成されている。また、モデル作成装置50には、入出力装置60が接続されており、これに入力装置61及び表示装置62が接続される。入出力装置60は、入出力部(I/O)59を介して撚り構造体モデルの作成に必要な情報を処理部50pや記憶部50mへ入力する。
【0022】
ソリッドモデル作成部51は、複数のモノフィラメント素線のソリッドモデルである素線ソリッドモデルと、母材のソリッドモデルである母材ソリッドモデルとを作成する。モデル合成部52は、ソリッドモデル作成部51が作成した母材ソリッドモデルの内部に、ソリッドモデル作成部51が作成した素線ソリッドモデルを組み込む。メッシュ分割部53は、素線ソリッドモデルの表面及び母材ソリッドモデルの表面を複数の節点で構成される複数のメッシュで分割する。このとき、母材ソリッドモデルの対向する表面において、一方の表面に存在する複数のメッシュを他方の表面に投影すると、一方の表面のメッシュの節点が、他方の表面のメッシュの節点に重なるように、前記母材ソリッドモデルの表面を分割する。要素分割部54は、素線ソリッドモデルの表面のメッシュを用いて、素線ソリッドモデルの内部を複数の節点で構成される複数の四面体要素で分割した素線モデルを作成する。また、要素分割部54は、母材ソリッドモデルの表面のメッシュを用いて、母材ソリッドモデルの内部を複数の節点で構成される複数の四面体要素で分割した母材モデルを作成する。これによって、要素分割部54は、素線モデルと母材モデルとで構成される撚り構造体モデルを作成する。
【0023】
記憶部50mには、後述する本実施形態に係る撚り構造体モデルの作成方法の処理手順を含むコンピュータプログラムや、各種のデータ等が格納されている。ここで、記憶部50mは、RAM(Random Access Memory)のような揮発性のメモリ、不揮発性のメモリ、ハードディスク装置、あるいはこれらの組み合わせにより構成できる。また、処理部50pは、メモリ及びCPU(Central Processing Unit)により構成できる。
【0024】
上記コンピュータプログラムは、処理部50pが備えるソリッドモデル作成部51やモデル合成部52等へ既に記録されているコンピュータプログラムとの組み合わせによって、本実施形態に係る撚り構造体モデルの作成方法の処理手順を実現できるものであってもよい。また、このモデル作成装置50は、前記コンピュータプログラムの代わりに専用のハードウェアを用いて、処理部50pが備えるソリッドモデル作成部51と、モデル合成部52と、メッシュ分割部53と、要素分割部54との機能を実現するものであってもよい。
【0025】
図3−1は、タイヤの補強コードと母材であるゴムとを示す断面図である。図3−2は、タイヤの補強コードと母材であるゴムとを、コンピュータで解析可能なモデルとした例を示す断面図である。図3−1に示すように、タイヤは、ベルトやカーカス等の補強コードCが母材であるゴムLBに埋め込まれている。タイヤの転動解析や振動解析等においては、コンピュータで解析可能なモデル(解析モデル)を用いて、コンピュータで解析を実行する。このため、タイヤの転動解析や振動解析等では、解析に先立ち、解析対象を解析モデル化する必要がある。
【0026】
例えば、補強コードCに着目してタイヤや補強コードCの構造を解析する場合、補強コードCの形状をできる限り忠実に解析モデル化することが好ましい。しかし、FEM(Finite Element Method:有限要素法)解析でタイヤの構造や挙動を解析する場合、図3−2に示すように、通常は補強コードCと類似の挙動を示す簡素な板要素CPで補強コードCをモデル化することが多い。なお、図3−2に示す例では、ゴムをソリッド要素LSでモデル化している。このような板要素CPでは、補強コードCの構造を検討するためには十分でない場合がある。
【0027】
さらに、補強コードCは、ワイヤや繊維の複雑な撚り構造であるとともに、構造によっては撚り方向やピッチ長も異なる。有限要素法を用いた解析では、そのような形状を忠実に再現し、有限要素法に基づく要素分割をして、解析モデルを作成する必要がある。また、補強コードCの新しい補強構造を検討する等、補強コードCに着目して解析する場合、タイヤと補強コードCとのスケールの違いを考慮して、特許文献2に開示されたようなシミュレーションを適用することが好ましい。しかしながら、単に補強コードCを有限要素法に基づいて要素分割しただけでは、特許文献2に開示されたようなマルチスケールシミュレーション(あるいはマルチスケール解析)を実行する際に支障がある。ここで、マルチスケールシミュレーションとは、ミクロ構造とマクロ構造とを連携させて解析することを可能にするものである。マルチスケールシミュレーションでは、例えば、顕微鏡レベルの材料の現象と、構造全体の現象とを関連付けて解析を行うような、桁違いにスケールが異なる二つの事象が関連し合っている問題を解析する。
【0028】
マルチスケールシミュレーションは、公知の汎用有限要素解析ソルバー、例えばABAQUS,Inc社製汎用有限要素解析プログラムを用いることができる。タイヤにおけるマルチスケールシミュレーションの一例としては、例えば、不均質材料の力学特性を求めるためのミクロモデルを用いたシミュレーション、例えば、不均質材料の一軸引張、圧縮試験等の引張、圧縮試験のシミュレーションが実行され、また、ゴム材料で構成されたタイヤを構造体としたタイヤのマクロモデルを用いた力学挙動のシミュレーションが実行される。
【0029】
タイヤを解析対象の構造体とした場合、撚り構造体である補強コード、あるいはトレッドゴムやビードゴム等のゴム材料を不均質材料とし、マクロモデルとしてタイヤモデルが作成される。そして、タイヤへの内圧充填の力学挙動を再現する内圧充填シミュレーションや、内圧充填されたタイヤを地面に押し付けて荷重を負荷したときの力学挙動を再現する接地シミュレーションが実行される。
【0030】
さらに、構造体の上記力学挙動時、不均質材料のミクロ領域がどのような挙動を示しているかを再現するために、ミクロモデルを用いた力学挙動のシミュレーションが実行される。例えば、マクロモデルを用いたシミュレーション結果をミクロモデルに与えて、ミクロモデルにおける応力やひずみ等を計算する。
【0031】
なお、ミクロモデルを用いたシミュレーションの際、ミクロモデルにおける各材料相の材料定数は、内部変数値によって変更される。最初は、各材料相固有の材料特性が本来異なるにもかかわらず、略同一の材料特性の値を備えるようにミクロモデルの材料定数が設定される。そして、力、変位、応力及びひずみのいずれか1つを所定の位置に入力として与えてシミュレーションが実行される。この後、このシミュレーションによって変形したミクロモデルに対して、与えられた入力を保持したまま、内部変数値を変更して、各材料相固有の材料特性の値を備えるようにミクロモデルの材料定数が設定されて、シミュレーション結果が収束するまでシミュレーションが継続される。
【0032】
本実施形態に係る撚り構造体モデルの作成方法は、補強コードCのような撚り構造体の解析モデルを作成するにあたり、マルチスケールシミュレーションに適した解析モデルを作成するものである。次に、本実施形態に係る撚り構造体モデルの作成方法を実現する手順を説明する。本実施形態に係る撚り構造体モデルの作成方法は、上述したモデル作成装置50によって実現できる。
【0033】
図4は、本実施形態に係る撚り構造体モデルの作成方法の手順を示すフローチャートである。図5は、撚り構造体を構成する母材のソリッドモデルを示す斜視図であり、図6は、撚り構造体を構成する撚り線のソリッドモデルを示す斜視図である。図7は、撚り線を構成するモノフィラメント素線の配置を示す正面図である。図8は、モノフィラメント素線のソリッドモデルを示す斜視図であり、図9は、モノフィラメント素線のソリッドモデルの断面形状を示す平面図である。
【0034】
撚り構造体である補強コード(例えば、補強ベルトやカーカス等)は、母材(例えば、ゴム)と、複数のモノフィラメント素線を撚った撚り線とが組み合わされて構成される。そして、構造物(例えば、タイヤ等)に埋め込まれて、この構造物を補強する。補強コードは、有機繊維コード、スチールコード、ガラスコードを含む。また、モノフィラメントは、撚り構造体を構成する1本の要素である。例えば、補強コードがスチールコードである場合、モノフィラメントは各素線である。
【0035】
本実施形態に係る撚り構造体モデルの作成方法を実行するにあたり、ステップS101において、図2に示すモデル作成装置50のソリッドモデル作成部51は、撚り構造体である補強コードの母材のソリッドモデルである母材ソリッドモデル10(図5参照)を作成するとともに、補強コードの撚り線を構成する複数のモノフィラメント素線のソリッドモデルである素線ソリッドモデル21(図6)を作成する。なお、複数の素線ソリッドモデル21により撚り線のソリッドモデルである撚り線ソリッドモデル20が構成される。ソリッドモデル作成部51は、作成した母材ソリッドモデル10及び素線ソリッドモデル21の情報(座標情報や材料定数等)をモデル作成装置50の記憶部50mへ一時的に格納する。
【0036】
ここで、ソリッドモデルとは、3次元モデリングの一技法により作成されるモデルである。ソリッドとは固体を意味し、ワイヤーフレームモデルやサーフェイスモデルでは表現できない立体の内部構造の表現ができるものである。ソリッドモデルは、立体の面だけでなく、面で囲まれる中身の情報も備える。
【0037】
本実施形態において、母材ソリッドモデル10は、直方体形状であり、両端面10Ta、10Tbに、図6に示す複数の素線ソリッドモデル21の両端面が現れる孔11が設けられる。母材ソリッドモデル10は、マルチスケールシミュレーションに適した撚り構造体モデルを作成するという観点からは直方体形状であることが好ましいが、複数の母材ソリッドモデル10を組み合わせたとき、隙間なく組み合わせることができる形状であればよい。このような形状としては、例えば、正六角柱形状があり、母材ソリッドモデル10を正六角柱形状としてもよい。図6に示すように、撚り線ソリッドモデル20は、複数本(本実施形態では3本)の素線ソリッドモデル21が螺旋状に撚り合わされて構成される。そして、図7に示すように、撚り線ソリッドモデル20は、それぞれの素線ソリッドモデル21の間隔Lが等しくなっている。
【0038】
素線ソリッドモデル21は、撚り線を構成するモノフィラメント素線の撚られた状態における中心軸Zc(素線ソリッドモデル21の中心軸と同じ)と直交する複数の断面間において、いずれも同一の形状となることが好ましい。すなわち、素線ソリッドモデル21は、中心軸Zcと直交する断面が、素線ソリッドモデル21の全長にわたってすべて同じ形状であることが好ましい。前記断面における形状は、例えば、図9に示すような円形である。このように、素線ソリッドモデル21の中心軸Zcと直交する断面を、素線ソリッドモデル21の全長にわたってすべて同じ形状にすることにより、断面形状が場所毎に異なる撚り構造体モデルが作成されることを回避できる。その結果、マルチスケールシミュレーションに適した撚り構造体モデルを作成できる。
【0039】
図10は、ユニットセルを示す斜視図である。ステップS101が終了したらステップS102へ進み、図2に示すモデル作成装置50のモデル合成部52は、母材ソリッドモデル10の内部に複数の素線ソリッドモデル21から構成される撚り線ソリッドモデル20を組み込んだユニットセル30を作成する。ユニットセル30は、母材ソリッドモデル10の端面に設けられた孔11から、複数の素線ソリッドモデル21の端面が現れている。モデル合成部52は、作成したユニットセル30の情報(座標情報や材料定数等)を記憶部50mへ一時的に格納する。次に、ステップS103へ進む。
【0040】
図11−1は、素線ソリッドモデルの表面をメッシュで分割した撚り線ソリッドモデルを示す斜視図である。図11−2は、表面をメッシュで分割した母材ソリッドモデルの斜視図である。図12は、素線ソリッドモデルの表面をメッシュで分割した状態を示す斜視図である。図13は、メッシュの説明図である。図14は、メッシュで分割した素線ソリッドモデルの表面の拡大図である。図15は、素線ソリッドモデルの表面をメッシュで分割した他の例を示す斜視図である。図16は、母材ソリッドモデルを説明するための斜視図である。図17は、表面をメッシュで分割した母材ソリッドモデルの表面の拡大図である。図18は、表面をメッシュで分割した母材ソリッドモデルの対向する面におけるメッシュの関係を示す模式図である。
【0041】
ステップS103において、図2に示すモデル作成装置50のメッシュ分割部53は、図11−1、図11−2に示すように、撚り線ソリッドモデル20を構成する素線ソリッドモデル21の表面及び母材ソリッドモデル10の表面を、複数の節点で構成されるメッシュで分割(メッシュ分割)する。この場合、メッシュ分割部53は、記憶部50mに格納されている素線ソリッドモデル21及び母材ソリッドモデル10の情報を読み出し、それぞれの表面にメッシュを生成して分割する。
【0042】
図12に示すように、素線ソリッドモデル21の表面は、複数のメッシュ22で分割される。メッシュ22は、図13に示すように3個の節点24で構成される直角三角形形状である。図14に示すように、メッシュ分割部53は、メッシュ22の辺の一つが、撚り線を構成するモノフィラメント素線の撚られた状態における中心軸Zcと直交する断面21CS上に存在するように、素線ソリッドモデル21の表面にメッシュ22を生成する。このようにすると、素線ソリッドモデル21の表面にメッシュ22が規則正しく生成される。なお、隣接する断面21CS、21CS間の間隔は不等間隔であってもよいが、等間隔であることが好ましい。このようにすれば、素線ソリッドモデル21の表面にメッシュ22がより規則正しく生成される。
【0043】
図15は、表面にメッシュ122を規則正しく生成しなかった素線ソリッドモデル121を示すが、このようにすると、撚り構造体を構成するモノフィラメント素線上における応力分布やひずみの分布等を正確に評価できないおそれがある。しかし、本実施形態のように、素線ソリッドモデル21の表面にメッシュ22を規則正しく生成すると、モノフィラメント素線上における応力分布やひずみの分布等を正確に評価できる。
【0044】
図16に示すように、母材ソリッドモデル10の表面は、全部で6面ある。すなわち、側面13A、13B、13C、13Dと、端面13E、13Fである。図17に示すメッシュ12は、母材ソリッドモデル10の側面13A、13B、13C、13Dと、端面13E、13Fすべてに生成される。メッシュ12は、素線ソリッドモデル21の表面に形成されるメッシュ22と同様に、3個の節点14から構成される直角三角形形状である。
【0045】
本実施形態において、母材ソリッドモデル10の表面に生成されるメッシュ12は、一方の表面に存在する複数のメッシュ12を他方の表面に投影すると、一方の表面に生成されたメッシュ12の節点14が、他方の表面に生成されたメッシュ12の節点14に重なるように生成される。例えば、母材ソリッドモデル10の側面13Bと側面13Dとは対向するが、側面13Bに形成されたメッシュを符号12Bで表し、側面13Dに形成されたメッシュを符号12Dで表す。そして、メッシュ12Bは、3個の節点14Bで構成され、メッシュ12Dは3個の節点14Dで構成される。
【0046】
この場合、メッシュ12Bを構成するそれぞれの節点14Bを、メッシュ12Dを構成するそれぞれの節点14Dに投影すると、両者が重なる。すなわち、メッシュ12Bのそれぞれの節点14Bを、メッシュ12Bが生成された側面13Bと垂直な方向に移動させると、側面13Bと対向し、かつ平行な側面13Dの表面に生成されたメッシュ12Dの節点14Dに一致する。側面13Bの表面に生成されたすべてのメッシュ12Bと、側面13Dの表面に生成されたすべてのメッシュ12Dとが、このような関係にある。また、対向する側面13A、13Cの表面に生成されたすべてのメッシュ12、及び対向する端面13E、13Fの表面に生成されたすべてのメッシュ12についても同様である。このようにすることで、マルチスケールシミュレーションに適した撚り構造体モデルを作成できる。ステップS103において、母材ソリッドモデル10の表面及び素線ソリッドモデル21の表面に、それぞれメッシュ12、22が形成されたら、メッシュ分割部53は、その情報を記憶部50mに保存する。そして、ステップS104へ進む。
【0047】
図19は、撚り構造体モデルの側面図である。図20は、図19のA−A断面図である。図21は、撚り構造体モデルを構成する素線モデルの断面図である。図22−1、図22−2は、四面体要素の斜視図である。図23は、素線モデルと母材モデルとの境界の説明図である。ステップS104において、図2に示すモデル作成装置50の要素分割部54は、素線ソリッドモデル21の表面のメッシュ22を用いて、素線ソリッドモデル21の内部を複数の節点で構成される複数の四面体要素で分割して素線モデルを作成し、また、母材ソリッドモデル10の表面のメッシュ12を用いて母材ソリッドモデル10の内部を複数の節点で構成される複数の四面体要素で分割して母材モデルを作成する。これによって、図20に示すように、素線モデル21Mと母材モデル10Mとで構成される撚り構造体モデル30Mが作成される。
【0048】
図19に示すように、撚り構造体モデル30Mの外側は母材モデル10Mであり、表面には複数のメッシュ12が形成されている。そして、図20に示すように、撚り構造体モデル30Mは、母材モデル10Mの内部に、素線モデル21Mが配置されて構成される。母材モデル10Mは、複数の節点14で構成される四面体要素15(図22−1)で構成され、素線モデル21Mは、複数の節点24で構成される四面体要素25(図22−1参照)で構成される。図22−1に示す四面体要素15、25は、いずれも4個の節点14、24で構成される4節点四面体要素である。なお、四面体要素15、25は、図22−2に示すように、10個の節点14、24で構成される10節点四面体要素であってもよい。
【0049】
要素分割部54は、素線モデル21Mを作成するにあたり、素線ソリッドモデル21の表面に形成されたメッシュ22を用いて、素線ソリッドモデル21の内部を四面体要素25で要素分割する。したがって、素線モデル21Mの表面には、四面体要素25の一面が現れることになる。このとき、要素分割部54は、記憶部50mに保存されている素線ソリッドモデル21の情報を読み出し、メッシュ22から素線ソリッドモデル21の内部に向かって要素分割していく。要素分割により生成されたそれぞれの四面体要素25の情報(座標情報や材料定数等)は、要素分割部54が記憶部50mに格納する。
【0050】
同様に、要素分割部54は、母材モデル10Mを作成するにあたり、母材ソリッドモデル10の表面に形成されたメッシュ12を用いて、母材ソリッドモデル10の内部を四面体要素15で要素分割する。したがって、母材モデル10Mの表面には、四面体要素15の一面が現れることになる。このとき、要素分割部54は、記憶部50mに保存されている母材ソリッドモデル10の情報を読み出し、メッシュ12から母材ソリッドモデル10の内部に向かって要素分割していく。要素分割により生成されたそれぞれの四面体要素15の情報(座標情報や材料定数等)は、要素分割部54が記憶部50mに格納する。
【0051】
撚り構造体モデル30Mの長手方向と直交する断面、すなわち、図20に示す断面において、母材モデル10Mの表面における四面体要素15は、素線モデル21Mの表面における四面体要素25よりも寸法が大きいことが好ましい。このようにすることで、撚り構造体モデル30Mにおいて変形の大きい素線モデル21Mの近傍を小さい四面体要素でより細かく分割し、変形が比較的小さい母材モデル10Mの外側は比較的大きい四面体要素で分割できる。その結果、計算時間の増加を抑制しつつ、素線モデル21Mの近傍の計算精度を向上させることができる。
【0052】
四面体要素15、25の寸法は、最も長い辺で比較する。また、母材モデル10Mの表面における四面体要素15の寸法は、素線モデル21Mの表面における四面体要素25の寸法の少なくとも2倍とすることが好ましい。このようにすれば、より確実に、計算時間の増加を抑制しつつ、計算精度を向上させることができる。また、母材モデル10Mの表面から素線モデル21Mの表面に向かって、母材モデル10Mを構成する四面体要素15の寸法を小さくしてもよい。このようにすれば、四面体要素15の急激な寸法変化を抑えることができるので、計算精度の低下を抑制できる。
【0053】
なお、撚り構造体モデル30Mは、母材モデル10Mと素線モデル21Mとの境界31(図23参照)に、固着、剥離、接触のうち少なくとも一つの条件が付与されてもよい。これによって、撚り構造体の母材とモノフィラメント素線との間の固着、剥離、接触を評価できる。なお、この条件は、モデル作成装置50の処理部50pによって付与される。上記手順により、撚り構造体モデル30Mが完成する(ステップS105)。
【0054】
完成した撚り構造体モデル30Mは、例えば、タイヤの解析モデルの補強層に埋め込まれる。そして、撚り構造体モデル30Mが埋め込まれたタイヤの解析モデルを用いてマルチスケールシミュレーションが実行される。マルチスケールシミュレーションを実行するにあたっては、撚り構造体モデル30Mに周期対称条件が設定される。次に、周期対称条件について簡単に説明する。
【0055】
図24は、撚り構造体モデルの一例を示す模式図である。図25は、撚り構造体モデルと座標系との関係を示す模式図である。図26は、撚り構造体モデルにひずみを付与して引張試験のシミュレーションを実行する例を示す模式図である。図24に示す撚り構造体モデル30Mは、上述した手順によって作成されたものである。撚り構造体モデル30Mは、力学特性の異なるモノフィラメント素線と母材とで構成される撚り構造体を解析モデル化したものであり、素線モデル21Mと母材モデル10Mとは、それぞれ力学的特性が異なる。
【0056】
このような撚り構造体モデル30Mにおいて、図26に示すような座標系を設定したとき、境界面F1及び境界面F2についての周期対称条件を説明すると、図26に示すように境界面F1とF2の相対向する節点A、Bが対応する節点として対応付けられる。この対応付けは、境界面F1、F2上の各節点について行われる。
【0057】
例えば、図26中のy1方向に設定されたひずみを撚り構造体モデル30Mに付与して引張試験のシミュレーションを行う場合、すなわちひずみ制御によるシミュレーションの場合、この対応付けられた節点A、Bについて、変位勾配テンソルを用いた関係式が作成される。すなわち、ひずみによって作られる変位勾配テンソルが算出され、この変位勾配テンソルを節点A、Bの変位ベクトルとともに用いて、節点A、B間における変位ベクトルの差分と関係付けることができる。
【0058】
すなわち、撚り構造体モデル30Mにおいて、ひずみの平均値が設定値になるように(平均ひずみとなるように)関係式を定める。関係式は、節点Aの変位ベクトル、節点Bの変位ベクトルをそれぞれWa、Wbとし、さらに、撚り構造体モデル30Mにおける節点と別個独立した仮想の節点Dを導入し、この節点Dの変位ベクトルをWdとし、節点A及び節点Bの位置ベクトルをそれぞれYa及びYbとし、上記変位勾配テンソルをHとする。このとき、下記式(2)の右辺の値(節点A、Bの変位ベクトルの差分に変位勾配テンソルを作用させた値)を節点Dにおける変位ベクトルとすることにより、下記式(1)が定まる。
Wb−Wa=Wd・・・(1)
Wd=H・(Yb−Ya)・・・(2)
このように、シミュレーションに際して、仮想の節点Dを導入し、式(1)の関係式を節点A、B、D間の拘束条件として与えることで、式(2)に示す値を節点Dの変位ベクトルとして与えるだけで、ミクロモデルにおける周期対称条件を設定することになる。
【0059】
(変形例)
図27は、本実施形態の変形例に係る撚り構造体モデルの作成方法の手順を示すフローチャートである。本変形例に係る撚り構造体モデルの作成方法は、図2に示すモデル作成装置50によって実現できる。本変形例に係る撚り構造体モデルの作成方法は、上述した撚り構造体モデルの作成方法と略同様であるが、素線ソリッドモデル21と母材ソリッドモデル10とからそれぞれ別個に素線モデル21Mと母材モデル10Mとを作成した後、両者を組み合わせる点が異なる。
【0060】
このため、本変形例に係る撚り構造体モデルの作成方法をモデル作成装置50が実行する場合、要素分割部54は、表面にメッシュが形成された素線ソリッドモデル21と母材ソリッドモデル10とを、それぞれ別個に四面体要素25、15で要素分割する。また、モデル合成部52は、要素分割部54が作成した複数の素線モデル21Mから構成される撚り線モデルを母材モデル10Mの内部に組み込んで、撚り構造体モデル30Mを作成する。
【0061】
本変形例に係る撚り構造体モデルの作成方法を実行するにあたり、ステップS201は、上述した撚り構造体モデルの作成方法におけるステップS101と同一である。ステップS202において、モデル作成装置50のメッシュ分割部53は、作成された素線ソリッドモデル21の表面及び母材ソリッドモデル10の表面を、複数の節点で構成されるメッシュ22、12で分割(メッシュ分割)する。メッシュ分割については上述した通りである。
【0062】
次に、ステップS203において、モデル作成装置50の要素分割部54は、素線ソリッドモデル21の表面のメッシュ22を用いて、素線ソリッドモデル21の内部を複数の節点で構成される複数の四面体要素で分割して素線モデルを作成し、また、母材ソリッドモデル10の表面のメッシュ12を用いて母材ソリッドモデル10の内部を複数の節点で構成される複数の四面体要素で分割する。この手法は、上述した通りである。
【0063】
次に、ステップS204において、モデル作成装置50のモデル合成部52は、要素分割部54が作成した複数の素線モデル21Mから構成される撚り線モデルを母材モデル10Mの内部に組み込んで、撚り構造体モデル30Mを作成する。これによって、撚り構造体モデル30Mが完成する(ステップS205)。
【0064】
以上、本実施形態及びその変形例では、母材と複数のモノフィラメント素線とで構成される撚り構造体の解析モデルを作成するにあたり、モノフィラメント素線及び母材のソリッドモデル(母材ソリッドモデルの内部に素線ソリッドモデル)を作成する。そして、素線ソリッドモデルの表面及び母材ソリッドモデルの表面を複数の節点で構成される複数のメッシュで分割する。このとき、母材ソリッドモデルの対向する表面において、一方の表面に存在する複数のメッシュを他方の表面に投影すると、一方の表面に形成されたメッシュの節点が、他方の表面に形成されたメッシュの節点に重なるようにする。その後、素線ソリッドモデルの表面及び母材ソリッドモデルの表面のメッシュを用いて素線のソリッドモデルの内部及び母材のソリッドモデルの内部を、複数の節点で構成される複数の四面体要素で分割する。これによって、本実施形態及びその変形例では、マルチスケールシミュレーションに適した、補強コードのような撚り構造体の解析モデルを作成できる。
【産業上の利用可能性】
【0065】
以上のように、本発明に係る撚り構造体モデルの作成方法及び撚り構造体モデルの作成用コンピュータプログラムは、タイヤの補強材である補強コードのような撚り構造体を、コンピュータで解析可能な解析モデル化することに有用であり、特に、マルチスケールシミュレーションに適した解析モデルを作成することに適している。
【符号の説明】
【0066】
1 タイヤ
2 カーカス
3 ベルト
4 ベルトカバー
10 母材ソリッドモデル
10M 母材モデル
10Ta、10Tb 両端面
12、12B、12D、22、122 メッシュ
13A、13B、13C、13D 側面
14、14B、14D、24 節点
15、25 四面体要素
20 撚り線ソリッドモデル
21 素線ソリッドモデル
21M 素線モデル
21CS 断面
30 ユニットセル
30M 撚り構造体モデル
31 境界
50 モデル作成装置(撚り構造体モデルの作成装置)
50m 記憶部
50p 処理部
51 ソリッドモデル作成部
52 モデル合成部
53 メッシュ分割部
54 要素分割部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
母材と複数のモノフィラメント素線を撚った撚り線とが組み合わされるとともに、構造物に埋め込まれて、前記構造物を補強する撚り構造体について、コンピュータで解析可能な前記撚り構造体の解析モデルを作成するにあたり、
前記コンピュータが、前記複数のモノフィラメント素線のソリッドモデルである素線ソリッドモデルと、前記母材のソリッドモデルである母材ソリッドモデルとを作成する手順と、
前記コンピュータが、前記母材ソリッドモデルの内部に複数の前記素線ソリッドモデルから構成される撚り線ソリッドモデルを組み込む手順と、
前記コンピュータが、前記素線ソリッドモデルの表面を複数の節点で構成される複数のメッシュで分割し、また、前記母材ソリッドモデルの対向する表面において、一方の表面に存在する複数のメッシュを他方の表面に投影すると、一方の表面のメッシュの節点が、他方の表面のメッシュの節点に重なるように、前記母材ソリッドモデルの表面を複数の節点で構成される複数のメッシュで分割する手順と、
前記コンピュータが、前記素線ソリッドモデルの表面のメッシュを用いて前記素線ソリッドモデルの内部を複数の節点で構成される複数の四面体要素で分割して素線モデルを作成し、また、前記母材ソリッドモデルの表面のメッシュを用いて前記母材ソリッドモデルの内部を複数の節点で構成される複数の四面体要素で分割して母材モデルを作成し、前記素線モデルと前記母材モデルとで構成される撚り構造体モデルを作成する手順と、
を含むことを特徴とする撚り構造体モデルの作成方法。
【請求項2】
母材と複数のモノフィラメント素線を撚った撚り線とが組み合わされるとともに、構造物に埋め込まれて、前記構造物を補強する撚り構造体について、コンピュータで解析可能な前記撚り構造体の解析モデルを作成するにあたり、
前記コンピュータが、前記複数のモノフィラメント素線のソリッドモデルである素線ソリッドモデルと、前記母材のソリッドモデルである母材ソリッドモデルとを作成する手順と、
前記コンピュータが、前記素線ソリッドモデルの表面を複数の節点で構成される複数のメッシュで分割し、また、前記母材ソリッドモデルの対向する表面において、一方の表面に存在する複数のメッシュを他方の表面に投影すると、一方の表面のメッシュの節点が、他方の表面のメッシュの節点に重なるように、前記母材ソリッドモデルの表面を複数の節点で構成される複数のメッシュで分割する手順と、
前記コンピュータが、前記素線ソリッドモデルの表面のメッシュを用いて前記素線ソリッドモデルの内部を複数の節点で構成される複数の四面体要素で分割して素線モデルを作成し、また、前記母材ソリッドモデルの表面のメッシュを用いて前記母材ソリッドモデルの内部を複数の節点で構成される複数の四面体要素で分割して母材モデルを作成する手順と、
前記コンピュータが、複数の前記素線モデルを前記母材モデルの内部に組み込んで、前記素線モデルと前記母材モデルとで構成される撚り構造体モデルを作成する手順と、
を含むことを特徴とする撚り構造体モデルの作成方法。
【請求項3】
前記素線ソリッドモデルは、前記撚り線を構成する前記モノフィラメント素線の撚られた状態における中心軸と直交する複数の断面間において、いずれも同一の形状となる請求項1又は2に記載の撚り構造体モデルの作成方法。
【請求項4】
前記撚り構造体モデルは、当該撚り構造体モデルを構成する前記素線モデルと前記母材モデルとの間に、固着、剥離、接触のうち少なくとも一つの条件が付与される請求項1から3のいずれか1項に記載の撚り構造体モデルの作成方法。
【請求項5】
前記素線ソリッドモデルの表面に作成されるメッシュは、前記メッシュの辺の一つが前記撚り線を構成する前記モノフィラメント素線の撚られた状態における中心軸と直交する断面上に存在する請求項1から4のいずれか1項に記載の撚り構造体モデルの作成方法。
【請求項6】
前記撚り構造体モデルの長手方向と直交する断面において、前記母材モデルの表面における四面体要素は、前記素線モデルの表面における四面体要素よりも寸法が大きい請求項1から5のいずれか1項に記載の撚り構造体モデルの作成方法。
【請求項7】
前記母材はゴムである請求項1から6のいずれか1項に記載の撚り構造体モデルの作成方法。
【請求項8】
前記撚り構造体モデルの対向する面には、周期境界条件が付与される請求項1から6のいずれか1項に記載の撚り構造体モデルの作成方法。
【請求項9】
請求項1から8のいずれか1項に記載の撚り構造体モデルの作成方法をコンピュータに実行させることを特徴とする撚り構造体モデルの作成用コンピュータプログラム。

【図1】
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【図2】
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【図3−1】
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【図3−2】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11−1】
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【図11−2】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【図21】
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【図22−1】
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【図22−2】
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【図23】
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【図24】
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【図25】
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【図26】
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【図27】
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【公開番号】特開2011−122279(P2011−122279A)
【公開日】平成23年6月23日(2011.6.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−282969(P2009−282969)
【出願日】平成21年12月14日(2009.12.14)
【出願人】(000006714)横浜ゴム株式会社 (4,905)
【Fターム(参考)】