説明

撮像装置およびカメラモジュール

【課題】反りを抑制でき、しかもフレア光の発生を抑制でき、明るい光源が視野内に入った場合であってもフレア光が目立つことのない良質の画像を得ることが可能な撮像装置およびカメラモジュールを提供する。
【解決手段】受光部を含む光学センサと、光学センサの受光部側を保護するためのシール材と、少なくとも受光部とシール材のこの受光部との対向面である第1面間に形成された中間層と、膜に斜めに入射する光の入射角度に応じてカットオフ波長が短波側にシフトする制御膜と、を有し、制御膜は、シール材の受光部との対向面である第1面に形成された第1の制御膜と、シール材の第1面と反対側の第2面に形成された第2の制御膜と、を含む。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本技術は、CCDやCMOSイメージセンサ(CIS)等の固体撮像素子(光学センサ)がチップスケールのパッケージとして構成される撮像装置およびカメラモジュールに関するものである。
【背景技術】
【0002】
光学センサの簡易なパッケージ方法として、チップスケールパッケージ(Chip Scale Package;CSP)構造が提案され、このCSP構造の光学センサが量産されている。
CSP構造は、これまでのセラミックスやモールド樹脂で形成しているキャビティパッケージと違い、ウェハー単位で隣接チップとの間を樹脂で隔壁があるキャビティ(Cavity)構造としてガラスとセンサ部のSiウェハーが貼り合わされる。
そして、CSP構造は、貫通ビア(スルーシリコンビア;Thru Silicon Via、後TSV)が形成されて、センサ面と反対の面に再配線が行われ、半田ボールが付けられて、最終的にダイシングにて個片化される。
【0003】
図1は、キャビティCSP構造の基本的な構成を示す図である。
CSP構造1は、光学センサ(センサチップ)2の前面の受光部21の上部を保護するためのシール材としてのシールガラス(カバーガラス)3が配置される。
CSP構造1においては、光学センサ2の受光部21を除く周縁部において樹脂4を介してシールガラス3が配置されている。したがって、CSP構造1では、光学センサ2の受光部21とシールガラス3の受光部21との対向面31との間に空隙5が形成される。
【0004】
このCSP構造は、センサチップの前面と裏面間を貫通するTSVにより電極6を形成することでワイヤーボンドによる配線を失くしクリーンルーム内においてウェハー状態でガラスを貼り合わせることができる。
このため、従来のCOB(Chip On Board)タイプのパッケージと比較し、小型化、低コスト化、ダストレス化が期待できる。
【0005】
しかしながら、CSP構造は、TSV形成上、チップ厚みを薄くするため上記のようにカバーガラス、チップ(光学センサ)間に空隙5が存在するとリフローなどの熱プロセスを通した際、熱応力の影響でチップが反ってしまうおそれがある。
【0006】
この点についてさらに詳述する。
図1のCSP構造では、SiにTSVを加工する際のディープ−反応性イオンエッチング(Deep-Reactive Ion Etching; Deep-RIE)のビア加工やCVDの絶縁成膜条件を生産性良く行うためにビア径とSi厚のアスペクト比を小さくしないと条件を満足できない。
このため、バックグラインド(BG)でSiの厚みを50〜100μm程度に薄くすることが多い。
光学センサが小さい場合はSiの機械的強度でSiに大きな反りは生じにくいが、光学センサのサイズが大きくなると、図2中に矢印Aで示す方向からの力がかかるバックグラインドの工程でのたわみやCSPを実装した基板との応力で反りWPが発生してしまう。
この反りが発生すると光学的にレンズのフォーカスが合う位置がセンサの中心と周辺でずれてしまうため、中心にフォーカスが合っている場合は周辺がぼけてしまうという不利益がある。
【0007】
これを解決する方法として、図3に示すように、上記空隙5を樹脂4で埋めて空隙を持たないCSP構造1Aが提案されている。
以下、この空隙を持たないCSP構造を、キャビティレス(Cavity less)CSP構造という場合もある。
【0008】
この空隙を持たないキャビティレスCSP構造を採用することにより、空隙を持つCSP構造の空隙内で発生していた熱応力を大幅に低減することで反りの発生を抑えることができる。
すなわち、キャビティレスCSP構造では、キャビティ構造のSiの機械的剛性が弱いために発生する反りは、300〜800μmの厚いガラスとSiを貼り合わせることから、ガラスの剛性も加わるため機械的剛性が高く生じない。
【0009】
また、キャビティCSP構造では、これまでの樹脂材で形成しているオンチップレンズ(OCL)の屈折率1.6前後と空気の屈折率1との差によるレンズ機能で集光させていた。
これに対してキャビティレスCSP構造では、ガラスとセンサ面間を埋めてしまう樹脂の屈折率1.5前後との間ではレンズの集光パワーが弱く、光学センサの感度が落ちてしまう。このため、キャビティレスCSP構造では、OCLをSiNなどの材料で高屈折率1.7〜2.1を形成することで集光パワーを落とさない構造を実現している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開2009-290031号公報
【特許文献2】特開2007-110117号公報
【特許文献3】特開2006-210888号公報
【特許文献4】特開2005-26314号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
しかしながら、上記したキャビティレスCSP構造では通常のセンサパッケージ構造では生じることのなかったフレア(偽画像)光が発生する。
このフレア光の発生について、図4(A),(B)および図5(A)および(B)に関連付けて説明する。
【0012】
図4(A)および(B)は、CSP構造における空隙の有無に応じたシールガラス上面の全反射モードを説明するための図である。図4(A)は空隙を持つCSP構造におけるシールガラス上面の全反射モードの状態を、図4(B)は空隙を持たないキャビティレスCSP構造におけるシールガラス上面の全反射モードの状態を示している。
図5(A)は、空隙を持たないキャビティレスCSP構造で高輝度フレアが発生する要因を説明するための概念図であり、図5(B)は、キャビティレスCSP構造で発生するフレア光を示す図である。
【0013】
光学センサとシールガラス間に空隙のあるキャビティCSP構造では、図4(A)に示すように、シールガラス上面での全反射がセンサ面に戻ってくることは起こりえない。
すなわち、図4(A)のキャビティCSP構造では光学センサの受光部で反射した光はシールガラス3下面で反射してしまう。この面で全反射しなくてもシールガラス3上面で全反射したものはシールガラス3下面でも全反射を起こすため光学センサには戻ってこない。
【0014】
これに対して、キャビティレスCSP構造でフレア光の発生の要因は、図4(B)に示すように、シールガラス下の屈折率がシールガラス3とほぼ同じになるため光学センサを反射した回折光がシールガラス3上面において全反射することが可能になることに由来する。
【0015】
すなわち、図4(B)のキャビティレスCSP構造では透明樹脂4とシールガラス3の屈折率が1.5前後と近いため、シールガラス下面の界面の反射はほとんどなく、センサ面で反射された光はそのままガラス上面に向かう。
界面の全反射モードの臨界角は、次のように表すことができる。
【0016】
[数1]
sin θtir=1/ng ・・・(1)
ここで、θtirは臨界角を、ngはガラスの屈折率をそれぞれ示している。
【0017】
ここで、ng=1.51を仮定すると臨界角θtir=41degとなる。
光学センサ2で反射された光の中で臨界角以上の角度の光はシールガラス3上面で全反射となり、センサ面に光強度が強いまま戻ってくる。
【0018】
図5(A)はキャビティレスCSP構造の高輝度のフレアの概念図である。
臨界角以下の角度の図中に矢印Xで示す光はシールガラス上面で4%程度の反射で戻ってくるが、臨界角以上の図中に矢印Yで示す全反射モードの光はシールガラス3上面で100%に近い反射で戻ってくる。
このため、図5(B)に示すように、光学センサ2の画像でフレアを見た場合は臨界角を超えて、中心の高輝度の光に対し位相が大きくずれた位置に輝度が高いフレアの発生が生じる。
すなわち、中心光源からぼけたような光が放射状態に拡散する、いわゆる線香花火状のフレアが発生する。
【0019】
フレア発生を解決するために、シールガラス下面にIRCFを形成する(塗布する)ことで、その面で反射させる対策をとることが可能である。これにより、もともとの高輝度の光とフレアの位相が小さくなることでフレアが目立たなくなり対策ができる。
【0020】
CSP構造についてもIRCFをつける際には個片化したものを貼り合わせたり、効率良く貼り合わせるためにウェハー単位で貼り合わせを行う技術が検討されている(特許文献1,2参照)
CSP構造の中で貼り合わせるガラスに多層膜の蒸着IRCFをつけることがこれまでの構成の中で類推でき、また検討もされている(特許文献3,4参照)
【0021】
しかしながら、実際の構造の中では多層膜の蒸着IRCFは可視光の分光特性を満足するために数十層の多層膜を積層して構成するため、シールガラスの片面に構成すると成膜ストレスから大きな反りが発生してしまう。
このため、成膜したIRCF付ガラスとセンサのSiの貼り合わせができなかったり、できたとしても大きな反りが発生する。このために、TSVを形成するときにプロセスの装置の搬送、チャッキングに支障をきたし実現することが困難である。
【0022】
本技術は、反りを抑制でき、しかもフレア光の発生を抑制でき、明るい光源が視野内に入った場合であってもフレア光が目立つことのない良質の画像を得ることが可能な撮像装置およびカメラモジュールを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0023】
本技術の第1の観点の撮像装置は、受光部を含む光学センサと、上記光学センサの上記受光部側を保護するためのシール材と、少なくとも上記受光部と上記シール材の当該受光部との対向面である第1面間に形成された中間層と、膜に斜めに入射する光の入射角度に応じてカットオフ波長が短波側にシフトする制御膜と、を有し、上記制御膜は、上記シール材の上記受光部との対向面である上記第1面に形成された第1の制御膜と、上記シール材の上記第1面と反対側の第2面に形成された第2の制御膜と、を含む。
【0024】
本技術の第2の観点のカメラモジュールは、受光部を含む光学センサと、上記光学センサの上記受光部側を保護するためのシール材と、少なくとも上記受光部と上記シール材の当該受光部との対向面である第1面間に形成された中間層と、膜に斜めに入射する光の入射角度に応じてカットオフ波長が短波側にシフトする制御膜と、上記光学センサの上記受光部に被写体像を結像するレンズと、を有し、上記制御膜は、上記シール材の上記受光部との対向面である上記第1面に形成された第1の制御膜と、上記シール材の上記第1面と反対側の第2面に形成された第2の制御膜と、を含む。
【発明の効果】
【0025】
本技術によれば、反りを抑制でき、しかもフレア光の発生を抑制でき、明るい光源が視野内に入った場合であってもフレア光が目立つことのない良質の画像を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【図1】キャビティCSP構造の基本的な構成を示す図である。
【図2】サイズの多きい光学センサのキャビティ構造で反りが発生することを説明するための図である。
【図3】空隙を持たないキャビティレスCSP構造の構成を示す図である。
【図4】CSP構造における空隙の有無に応じたシールガラス上面の全反射モードを説明するための図である。
【図5】空隙を持たないキャビティレスCSP構造で発生する要因およびフレア光を示す図である。
【図6】本実施形態に係る撮像装置の構成例を示す図である。
【図7】本実施形態に係るカラーフィルタの構成例を示す図である。
【図8】シールガラスの受光部との対向面に制御膜を成膜した場合のフレア抑制の効果を説明するための図である。
【図9】シールガラスの第1面に形成した本実施形態に係る多層膜の膜構造および特性例の一例を示す図である。
【図10】多層膜をシールガラスの第1面側のみに形成した場合に反りが発生する場合があることを説明するための図である。
【図11】シールガラスの第1面および第2面に形成した本実施形態に係る多層膜の膜構造および特性例の一例を示す図である。
【図12】本実施形態に係るカメラモジュールの構成例を示す図である。
【図13】一般的なカメラモジュールの構成例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0027】
以下、本実施形態を図面に関連付けて説明する。
なお、説明は以下の順序で行う。
1.撮像装置の構成例
2.制御膜(多層膜)の構成および機能
3.カメラモジュールの構成例
【0028】
<1.撮像装置の構成例>
図6は、本実施形態に係る撮像装置の構成例を示す図である。
本実施形態においては、光学センサとしては一例としてCMOSイメージセンサ(CIS:CMOS Image Sensor)が適用される。
【0029】
本実施形態の撮像装置100は、基本的に、光学センサチップサイズでパッケージするCSP構造を有し、かつ光学センサの前面(上面)を保護するシール材の間に中間層(本実施形態では樹脂)が形成された空隙を持たないキャビティレスCSP構造を有する。
本実施形態において、前面とは撮像装置の光学センサの受光部が形成された被写体の像光の入射側をいい、裏面とは光入射が行われず、バンプ等の接続電極等が配置される面側をいう。
【0030】
撮像装置100は、光学センサ110、シール材120、中間層として樹脂層130、および制御膜140を含んで構成されている。
本実施形態において、制御膜140は中間層としての樹脂層130とシール材120との間の第1の制御膜およびシール材120の光入射面(被写体側面)に形成される第の2制御膜を含んで形成される。
すなわち、本実施形態の撮像装置100は、樹脂層130とシール材120の対向する第1面121との間に配置された第1の制御膜141と、シール材の第1面と反対側の第2面122に配置された第2の制御膜142と、を含み、反りを抑制した構造を有する。
後で詳述するように、制御膜140は膜に斜めに入射する光の入射角度に応じてカットオフ波長が短波側にシフトする多層膜により形成されている。
本実施形態の撮像装置100は、この制御膜140により、フレア光の発生を抑制でき、明るい光源が視野内に入った場合であってもフレア光が目立つことのない良質の画像を得ることが可能となっている。
なお、中間層としての樹脂層130およびシール材120は、光を透過する光に対して透明な材料により形成され、これらの屈折率は空気の屈折率より高く、たとえば屈折率1.5程度の材料により形成される。
また、図6の構成において、シール材120はガラスにより形成される例を示しており、シール材120をシールガラスあるいはカバーガラスという場合もある。
【0031】
光学センサ110は、センサ基板111の前面111a側に受光部112が形成され、裏面111b側にバンプ(半田ボール)等の接続用電極113が形成されている。
光学センサ110において、センサチップの前面と裏面間を貫通するTSV(貫通ビア)114により電極115を形成することでワイヤーボンドによる配線を失くしクリーンルーム内においてウェハー状態でガラスを貼り合わせることができる。
受光部112は、センサ基板111の前面111aに形成されており、複数の画素(受光素子)がマトリクス状に配置された受光面(画素アレイ部)1121を有する。
受光部112は、画素アレイ部1121のさらに前面側にカラーフィルタ1122が形成されている。
カラーフィルタ1122は、色の3原色であるR(赤)、G(緑)、B(青)のカラーフィルタが、たとえば図7に示すように、ベイヤー(Bayer)配列をもってオンチップカラーフィルタ(OCCF)としてアレイ状に形成されている。ただし、カラーフィルタの配置パターンはベイヤーパターンに限る必要はない。
なお、一般には、図7の例のように、カラーフィルタ1122に重なるように、赤外カットフィルタ(IRCF)150が形成される。
これに対して、本実施形態においては、制御膜140がIRCFの機能を併せ持つことから、制御膜140とは個別に配置しない構成が採用されている。
【0032】
受光部112は、カラーフィルタ1122のさらに前面側に各画素に入射光を集光するためのマイクロレンズアレイ1123が配置されている。
受光部112は、このマイクロレンズアレイ1123のさらに前面側に、たとえば反射防止膜等が形成される。
【0033】
中間層としての樹脂層130は、上記構成を有する受光部112とシール材(シールガラス)120の受光部112との対向面である第1面121間に形成されている。樹脂層130の厚さは50μm程度に設定される。また、シールガラス120の厚さは300〜800μm程度に設定される。
【0034】
そして、制御膜140は、膜に斜めに入射する光の入射角度に応じてカットオフ波長が短波側にシフトする機能を有し、上述したように、第1の制御膜141と第2の制御膜142を含んで構成されている。
第1の制御膜141は、シール材120の受光部112との対向面である第1面121に形成(成膜)されている。
第2の制御膜142は、シール材120の第1面121の反対側の第2面122に形成(成膜)されている。
【0035】
このように、本実施形態のキャビティレスCSP構造においてIRCFを一体となるようにシールガラスに反射型の多層膜を成膜する際、ウェハー単位で加工をできるように、シールガラス120の両面に成膜を行って反りを抑制した構造を有する。
そして、本実施形態においては、センサ面である受光部112に近いシールガラス120の第1面121に分光特性の中でカットオフ半値650nm前後を反射させる膜が形成されている。
【0036】
以上、本実施形態の撮像装置100の基本的な構成について説明した。
以下に、撮像装置100のさらに具体的な構成および機能を、本実施形態の特徴的な構成要素である制御膜140の構成および機能、並びに、シールガラス120の第1面および第2面に制御膜を形成した理由を中心に説明する。
【0037】
<2.制御膜(多層膜)の構成および機能>
制御膜140は、反射型の多層膜であり、膜に斜めに入射する光の入射角度に応じてカットオフ波長が短波側にシフトする機能を有している。
そして、フレア光の発生を抑制でき、明るい光源が視野内に入った場合であってもフレア光が目立つことのない良質の画像を得るには、少なくともシールガラス120の第1面121側に制御膜を形成する必要がある。
【0038】
まず、シールガラス120の第1面121側にのみ制御膜を形成した構成に関連付けて制御膜(多層膜)の構成および機能について説明する。
図8(A)〜(C)は、シールガラスの受光部との対向面に制御膜を成膜した場合のフレア抑制の効果を説明するための図である。
図8(A)は概略構成を、図8(B)は対策後の画像の概念図を、図8(C)は制御膜(多層膜)による画像を示す図である。
【0039】
フレア光の抑制対策として、図8(A)に示すように、シールガラス120の第1面(下面)121に反射型多層膜(IRCFとして機能する反射型多層膜141Aを配置するとフレア光は図8(B)に示すようになる。
すなわち、光学センサ110で反射した光はほとんどの光がシールガラス下面で反射するので、図8(B)に示すように、高輝度光にフレア光の位相が大きくずれて問題になっていたものが、位相が非常に小さくなり、高輝度光と一体になるため問題にならなくなる。
図8(C)は、対策後のフレア状態の画像で、図5(B)のような全反射の特異なフレアの発生が見られない。
【0040】
図9(A)および(B)は、シールガラスの第1面に形成した本実施形態に係る多層膜の膜構造および特性例の一例を示す図である。図9(A)が膜構造例を、図9(B)が多層膜の特性例を示している。
【0041】
制御膜140は、屈折率が異なる複数の膜の多層膜141Aにより形成されている。
多層膜141Aは、2種以上の膜材料を高屈折率、低屈折率の順に交互に配置されている。多層膜141Aは、この2種以上の膜材料のうち屈折率最大の材料と屈折率最小の材料の間の屈折率差Δが0.5より大きいように形成される。
多層膜140Aは、1層あたりの膜厚が50nm〜150nmの厚みを有する膜が6層以上配置される。
【0042】
本例では、多層膜141Aは、多層膜材料として高屈折率の第1膜1411としてTiO,低屈折率の第2膜1412としてSiOが使用され、第1膜1411と第2膜1412を順に交互に配置した17層の多層膜として形成されている。
図9(A)は、この17層の多層膜141Aを形成した際に実現できる光学特性を示しており、カットオフ(cut off)波長は650nmに設定されている。
すなわち、制御膜140である多層膜141Aは、赤外領域の光を遮断する赤外カットフィルタIRCFとしての機能を含む。
【0043】
図9(A)に示すように、シールガラス120の第1面(下面)121に反射型多層膜141AのIRCFを配置すると、その第1面121でほとんどの光が反射される原理は下記の通りである。
【0044】
IRCFの一般的な分光特性は可視光を通してそれ以外の光をカットする図9(B)に示すような分光になっている。
特に、長波長側のカットオフは650nmの波長前後で半値になるように設計される。
前面側(第2面122側)からの光は分光特性の通り可視光だけを透過させる。
この多層膜141Aは、上述したように、斜めに入射する光に対してはその角度に応じてカットオフ波長が短波にシフトする性質を持つ。
この性質を利用することで光学センサからの反射回折光のうち、全反射に寄与する高次回折成分を多層膜部分で選択的に反射させ、フレア光の拡散を防ぐ。
【0045】
一般的にこのカットオフ周波数のシフトは入射角をθとした場合、次式で表される。
【0046】
[数1]
λCF(θ) =λCF(0) * cos(θ) ・・・(2)
ここで、λCF(θ)は入射角θのカットオフ波長を、λCF(0)は入射角0度のカットオフ波長をそれぞれ示している。
【0047】
ここで、ng=1.51を仮定すると、上記(1)式より臨界角θtir=41degとなる。この臨界角41°を上記θに代入すると全反射によるフレアのカットオフ波長は、λCF(θtir)≒488nmとなり、少なくとも488nm以上の可視域に対してこの多層膜がフレア対策として有効であることを見積もることができる。
図9(B)の分光特性の斜線部が反射できる光である。
反射型多層膜のIRCFは、図9(B)の分光特性を得るために30〜60層の多層膜が必要となる。
【0048】
以上のように、少なくともシールガラス120の第1面121側に制御膜(多層膜)を形成することにより、フレア光の発生を抑制でき、明るい光源が視野内に入った場合であってもフレア光が目立つことのない良質の画像を得ることができる。
【0049】
ところで、シールガラス120の第1面(下面)121に30〜60層の膜を成膜するとセンサ単品の大きさでは問題にならない応力が、図10に示すように、ウェハーWF単位で処理するウェハーレベルCSPの工程では影響を及ぼす。
この応力による、8インチ、12インチのサイズに成膜するために大きな反りとなるため、センサSiと貼り合わせを行ってTSV加工を行う工程がこの大きな反りによって、加工ができない場合が生じるおそれがある。
【0050】
図11(A)および(B)は、シールガラスの第1面および第2面に形成した本実施形態に係る多層膜の膜構造および特性例の一例を示す図である。図11(A)が膜構造例を、図11(B)が多層膜の特性例を示している。
【0051】
本実施形態においては、反り対策として、図11(A)に示すように、シールガラス120の第1面121および第2面122の両面に制御膜(多層膜)141,142を振り分け、反りの応力が均衡するように膜数を振り分けるように構成する対策を採用している。
その際に、図11(B)の符号Aで示す○部分のカットオフ半値650nmの付近の分光特性を決めている層の配置はシールガラスの第1面(下面)121になるように配置を行う。
これにより、シールガラスの第1面(下面)でフレアを反射させる膜の配置はそのままでガラスの両面に反射型の多層膜を配置することで反りの応力を均衡させて反りを抑制することができる。
その結果、ウェハーレベルの8インチ、12インチのサイズでも問題なくIRCF付きガラスでTSVの加工を行うことができる。
【0052】
以上説明したように、本実施形態の撮像装置によれば、以下の効果を得ることができる。
多層膜である制御膜の蒸着型のIRCFを両面に成膜することで反りを抑制できるため、CSP構造のガラスにIRCFを直接成膜することが可能となり、別部品でIRCFの貼り合わせを行なう構造に対してCSPを薄く小型化でき、コストを下げることができる。
キャビティレスCSPの課題である高輝度光の全反射のフレアの対策としてガラス下面に反射させることができるため、光学センサ面と非常に距離が近いガラス下面に配置される。
このため、ガラス500μm、接着厚50μmとした場合、位相差は{(50×2)/(50×2+500×2)=1/11}と約1/10となるため高輝度光と近い部分になるために対策される。
このため、大きな光学センサへのキャビティレスCSPの展開が可能となり、カメラの小型、軽量化が実現できる。
以上のように、本実施形態の撮像装置によれば、反りを抑制でき、しかもフレア光の発生を抑制でき、明るい光源が視野内に入った場合であってもフレア光が目立つことのない良質の画像を得ることが可能となる。
【0053】
より具体的には、本実施形態によれば、シールガラス両面に制御膜(IRCF)を成膜させるキャビティレス構造のウェハーレベルCSPに用いることで以下の効果が得られる。
反りが小さいためウェハーレベルで製作するCSPで装置のバキューム吸着や静電チャックなどのワーク保持のための機能で不具合を起こすことがない。
反りが小さいためにセンサの光学的精度が高い。
反りが小さいため絶縁膜(SiO)やCuなどの成膜の残留応力が小さくなる
完成したCSPは貼り合わせたガラスにIRCF機能を持つため、別部品でIRCFを光学的に入れるよりも部品を削減でき、コストダウン、セットの薄型化が可能となる。
また、シールガラス両面にIRCFの成膜の内、センサに近いシールガラス下面(第1面)に半値650nm付近の分光特性を配置することにより、次の効果がある。
すなわち、高輝度の光入射のOCLの反射光に対し、ガラス上面で全反射していたフレアが大部分がガラス下面で反射するため、高輝度の光と位相が近くなりフレアが目立たない効果がある。
【0054】
以上説明した撮像装置100は、撮像レンズを有するカメラモジュールに適用することが可能である。
【0055】
<3.カメラモジュールの構成例>
図12は、本実施形態に係るカメラモジュールの構成例を示す図である。
【0056】
このカメラモジュール200は、撮像装置100のレンズバレル210の前面側(被写体側)に光学センサ110の受光部112に被写体像を結像する撮像レンズ220が配置されている。
カメラモジュール200は、撮像レンズ220に加えて、図示しない信号処理部等を有する。
【0057】
このような構成のカメラモジュール200においては、撮像レンズ220で取り込んだ被写体からの光を、撮像装置で電気信号に変換しやすいように受光部において光学的な処理を施す。その後、光学センサ110の光電変換部に導き、光電変換して得られる電気信号に対して、後段の信号処理部で所定の信号処理を施す。
【0058】
本実施形態のカメラモジュールにおいても、フレア光の発生を抑制でき、明るい光源が視野内に入った場合であってもフレア光が目立つことのない良質の画像を得ることが可能となる。
【0059】
図13は、一般的なカメラモジュールの構成例を示す図である。
図13の一般的なカメラモジュール200Aは、レンズバレル210Aの光学センサ配置領域に、基板230、光学センサ240が配置されて、配線のワイヤーボンドWBにより基板230と光学センサ240が電気的に接続される。
そして、光学センサ240の受光面241と対向するようにIRC250が配置されている。
【0060】
図13の一般的なカメラモジュール200Aと比較して、本実施形態に係るIRCF付きCSPを用いたカメラモジュール200は、別部品のIRCFや基板、配線WBが不要のため部品構成が少なく、小型、薄型化が可能となる。
【0061】
なお、本技術は以下のような構成をとることができる。
(1)受光部を含む光学センサと、
上記光学センサの上記受光部側を保護するためのシール材と、
少なくとも上記受光部と上記シール材の当該受光部との対向面である第1面間に形成された中間層と、
膜に斜めに入射する光の入射角度に応じてカットオフ波長が短波側にシフトする制御膜と、を有し、
上記制御膜は、
上記シール材の上記受光部との対向面である上記第1面に形成された第1の制御膜と、
上記シール材の上記第1面と反対側の第2面に形成された第2の制御膜と、を含む
撮像装置。
(2)上記第1の制御膜は、
赤外領域の光を遮断する赤外カットフィルタとしての機能を含む
上記(1)記載の撮像装置。
(3)上記制御膜は、
屈折率が異なる複数の膜の多層膜により形成され、
上記第1の制御膜および上記第2の制御膜は、
反りの応力が均衡するように膜数が振り分けて形成されている
上記(1)または(2)記載の撮像装置。
(4)上記多層膜は、
2種以上の膜材料を高屈折率、低屈折率の順に交互に配置されている
上記(3)記載の撮像装置。
(5)受光部を含む光学センサと、
上記光学センサの上記受光部側を保護するためのシール材と、
少なくとも上記受光部と上記シール材の当該受光部との対向面である第1面間に形成された中間層と、
膜に斜めに入射する光の入射角度に応じてカットオフ波長が短波側にシフトする制御膜と、
上記光学センサの上記受光部に被写体像を結像するレンズと、を有し、
上記制御膜は、
上記シール材の上記受光部との対向面である上記第1面に形成された第1の制御膜と、
上記シール材の上記第1面と反対側の第2面に形成された第2の制御膜と、を含む
カメラモジュール。
(6)上記第1の制御膜は、
赤外領域の光を遮断する赤外カットフィルタとしての機能を含む
上記(5)記載のカメラモジュール。
(7)上記制御膜は、
屈折率が異なる複数の膜の多層膜により形成され、
上記第1の制御膜および上記第2の制御膜は、
反りの応力が均衡するように膜数が振り分けて形成されている
上記(5)または(6)記載のカメラモジュール。
(8)上記多層膜は、
2種以上の膜材料を高屈折率、低屈折率の順に交互に配置されている
上記(7)記載のカメラモジュール。
【符号の説明】
【0062】
100,100A・・・撮像装置、110・・・光学センサ、111・・・センサ基板、112・・・受光部、120・・・シールガラス、121・・・第1面、122・・・第2面、130・・・樹脂層(中間層)、140・・・制御膜、141・・・第1の制御膜、142・・・第2の制御膜、200・・・カメラモジュール、210・・・撮像レンズ。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
受光部を含む光学センサと、
上記光学センサの上記受光部側を保護するためのシール材と、
少なくとも上記受光部と上記シール材の当該受光部との対向面である第1面間に形成された中間層と、
膜に斜めに入射する光の入射角度に応じてカットオフ波長が短波側にシフトする制御膜と、を有し、
上記制御膜は、
上記シール材の上記受光部との対向面である上記第1面に形成された第1の制御膜と、
上記シール材の上記第1面と反対側の第2面に形成された第2の制御膜と、を含む
撮像装置。
【請求項2】
上記第1の制御膜は、
赤外領域の光を遮断する赤外カットフィルタとしての機能を含む
請求項1記載の撮像装置。
【請求項3】
上記制御膜は、
屈折率が異なる複数の膜の多層膜により形成され、
上記第1の制御膜および上記第2の制御膜は、
反りの応力が均衡するように膜数が振り分けて形成されている
請求項1記載の撮像装置。
【請求項4】
上記多層膜は、
2種以上の膜材料を高屈折率、低屈折率の順に交互に配置されている
請求項3記載の撮像装置。
【請求項5】
受光部を含む光学センサと、
上記光学センサの上記受光部側を保護するためのシール材と、
少なくとも上記受光部と上記シール材の当該受光部との対向面である第1面間に形成された中間層と、
膜に斜めに入射する光の入射角度に応じてカットオフ波長が短波側にシフトする制御膜と、
上記光学センサの上記受光部に被写体像を結像するレンズと、を有し、
上記制御膜は、
上記シール材の上記受光部との対向面である上記第1面に形成された第1の制御膜と、
上記シール材の上記第1面と反対側の第2面に形成された第2の制御膜と、を含む
カメラモジュール。
【請求項6】
上記第1の制御膜は、
赤外領域の光を遮断する赤外カットフィルタとしての機能を含む
請求項5記載のカメラモジュール。
【請求項7】
上記制御膜は、
屈折率が異なる複数の膜の多層膜により形成され、
上記第1の制御膜および上記第2の制御膜は、
反りの応力が均衡するように膜数が振り分けて形成されている
請求項5記載のカメラモジュール。
【請求項8】
上記多層膜は、
2種以上の膜材料を高屈折率、低屈折率の順に交互に配置されている
請求項7記載のカメラモジュール。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【公開番号】特開2013−41941(P2013−41941A)
【公開日】平成25年2月28日(2013.2.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−177136(P2011−177136)
【出願日】平成23年8月12日(2011.8.12)
【出願人】(000002185)ソニー株式会社 (34,172)
【Fターム(参考)】