説明

操舵装置

【課題】ドライバが違和感を覚えることのない、ドライバの感覚に合った操舵を行うことができるようにする。
【解決手段】予め定められたハンドルの舵角と車両に発生するヨー角速度との関係を実現することにより、ドライバの視点から見た、車両の走行する目標コース上の予め定められた前方注視時間後の目標到達点の方向θgazeβと、ハンドルの基準位置の方向δswとを一致させるように定められた、ハンドルの舵角とヨー角速度ゲインとの関係を示すマップに従って、ヨー角速度ゲインの目標値を算出し、ステアリングギヤ比を制御する。ドライバの手応え量が、ヨー角速度の増加に従って単調増加する、ヨー角速度と手応え量との予め定められた関係に基づいて、検出された舵角及び取得されたヨー角速度に対応する操舵トルクを目標値として設定し、操舵トルクの目標値が実現されるように制御する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、操舵装置に係り、特に、ハンドルの舵角とヨー角速度との関係を実現する操舵装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、「コーナー進入時において運転者は目標とする経路上で車速に依らず約1.2秒後に到達すべき地点を注視している」という実験データに基づき、現在の車両進行方向と注視点のなす角度がハンドル角と比例するようにステアリングギヤ比を設定する技術が知られている(非特許文献1)。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0003】
【非特許文献1】清水康夫ほか、「ギヤ比が車速と操舵角の関数として変化するステアリングシステムとその効果について」、社団法人自動車技術会、学術講演会前刷集、No.21−99、1999年
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上記の非特許文献1は、「比例するステアリングギヤ比」についての開示のみであり、具体的な比例ゲインなどの設定方法についての開示はなく、ギヤ比が小さすぎると操舵角に対して実舵角が大きくクイックになりすぎて、ドライバが違和感を覚えてしまう、という問題がある。
【0005】
本発明は、上記の問題点を解決するためになされたもので、ドライバが違和感を覚えることのない、ドライバの感覚に合った操舵を行うことができる操舵装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記の目的を達成するために本発明に係る操舵装置は、ドライバの視点から見た、車両の走行する目標コース上の予め定められた前方注視時間後の目標到達点の方向と、ハンドルの基準位置の方向とを対応させるように予め定められた、前記ハンドルの舵角と車両に発生するヨー角速度との関係を実現する操舵装置であって、車両の旋回物理量を取得する旋回物理量取得手段と、ドライバの操舵による前記ハンドルの舵角を検出する舵角検出手段と、前記舵角の変化に対する前記ハンドルの操舵トルクの変化の割合の感覚量と、前記操舵トルクの感覚量とに基づいて求められる前記ドライバの手応え量が、旋回物理量の増加に従って単調増加する、前記旋回物理量と前記手応え量との予め定められた関係に基づいて、前記検出された前記舵角及び前記取得された前記旋回物理量に対応する前記操舵トルクを目標値として設定する目標設定手段と、前記目標設定手段によって設定された前記操舵トルクの目標値が実現されるように制御する操舵トルク制御手段と、を含んで構成されている。
【0007】
本発明に係る操舵装置によれば、予め定められたハンドルの舵角と車両に発生するヨー角速度との関係を実現することにより、ドライバの視点から見た、車両の走行する目標コース上の予め定められた前方注視時間後の目標到達点の方向と、ハンドルの基準位置の方向とを対応させる。
【0008】
そして、旋回物理量取得手段によって、車両の旋回物理量を取得し、舵角検出手段によって、ドライバの操舵による前記ハンドルの舵角を検出する。目標設定手段によって、前記舵角の変化に対する前記ハンドルの操舵トルクの変化の割合の感覚量と、前記操舵トルクの感覚量とに基づいて求められる前記ドライバの手応え量が、旋回物理量の増加に従って単調増加する、前記旋回物理量と前記手応え量との予め定められた関係に基づいて、前記検出された前記舵角及び前記取得された前記旋回物理量に対応する前記操舵トルクを目標値として設定する。
【0009】
そして、操舵トルク制御手段によって、前記目標設定手段によって設定された前記操舵トルクの目標値が実現されるように制御する。
【0010】
このように、ドライバの視点から見た、車両の走行する目標コース上の予め定められた前方注視時間後の目標到達点の方向と、ハンドルの基準位置の方向とを対応させることにより、車両とドライバとの一体感を向上させることができるため、ドライバが違和感を覚えることのない、ドライバの感覚に合った操舵を行うことができる。また、旋回物理量の増加に従って手応え量を増加させるため、旋回物理量が増加しても、ドライバは安定して操舵することができる。
【0011】
本発明に係る操舵装置は、車両のステアリングギヤ比によってハンドルの操舵角とヨー角速度との関係を実現するようにすることができる。
【0012】
上記の前方注視時間を、2.5秒〜3.5秒とすることができる。
【0013】
上記のハンドルの舵角とヨー角速度との関係を、ハンドルの舵角と車両に発生するロール角との相対角のタンジェントに比例するヨー角速度を発生させるように定めることができる。
【0014】
上記の旋回物理量を、ヨー角速度または横加速度とすることができる。
【0015】
本発明に係る操舵装置は、前記ハンドルのグリップ部に設けられた、前記車両の制動を操作するためのレバーを更に含むようにすることができる。これによって、ハンドル操作のみで、制動を操作することができる。
【0016】
本発明に係る操舵装置は、前記車両の車速を検出する車速検出手段と、前記車速検出手段によって検出された車速、前記舵角検出手段によって検出された前記ハンドルの舵角、及び前記車速毎に予め定めた前記ハンドルの舵角と前記ヨー角速度との関係に基づいて、ヨー角速度ゲインを算出するヨー角速度ゲイン算出手段と、前記ヨー角速度ゲイン算出手段によって算出されたヨー角速度ゲインを実現するように、ステアリングギヤ比を制御するギヤ比制御手段と、を更に含むようにすることができる。
【0017】
また上記のヨー角速度ゲイン算出手段は、前記車速検出手段によって検出された車速、前記舵角検出手段によって検出された前記ハンドルの舵角、及び前記車速毎に予め定めた前記ハンドルの舵角と前記ヨー角速度との関係から予め求められた前記ハンドルの舵角とヨー角速度ゲインとの関係に基づいて、ヨー角速度ゲインを算出するようにすることができる。
【0018】
本発明に係る操舵装置は、前記車両の車速を検出する車速検出手段と、前記車速検出手段によって検出された車速、前記舵角検出手段によって検出された前記ハンドルの舵角、及び前記車速毎に予め定めた前記ハンドルの舵角と前記ヨー角速度との関係に基づいて、目標ヨー角速度を算出するヨー角速度算出手段と、前記ヨー角速度算出手段によって算出された目標ヨー角速度を実現するように、ステアリングギヤ比を制御するギヤ比制御手段と、を更に含むようにすることができる。
【0019】
上記の目標設定手段は、前記旋回物理量と前記手応え量との関係に基づいて予め定められる、前記旋回物理量と前記舵角と前記操舵トルクとの対応関係に基づいて、前記検出された前記舵角及び前記取得された前記旋回物理量に対応する前記操舵トルクを目標値として設定するようにすることができる。
【0020】
上記の操舵トルク制御手段は、前記目標設定手段によって設定された前記操舵トルクの目標値に応じたトルクアシスト量又は前記操舵トルクの目標値を発生させるように制御するようにすることができる。
【発明の効果】
【0021】
以上説明したように、本発明の操舵装置によれば、ドライバの視点から見た、車両の走行する目標コース上の予め定められた前方注視時間後の目標到達点の方向と、ハンドルの基準位置の方向とを対応させることにより、車両とドライバとの一体感を向上させることができるため、ドライバが違和感を覚えることのない、ドライバの感覚に合った操舵を行うことができる、という効果が得られる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】本発明の第1の実施の形態に係る車両操舵装置の構成を示す概略図である。
【図2】本発明の第1の実施の形態に係る車両操舵装置のコンピュータの構成を示すブロック図である。
【図3】車両の進行方向と目標到達点へ向かう方向との偏角を示すイメージ図である。
【図4】(A)相対俯角を示すイメージ図、及び(B)車両前後方向と目標到達点へ向かう方向との偏角を示すイメージ図である。
【図5】(A)ドライバの頭部が移動した様子を示すイメージ図、(B)ドライバの頭部とハンドル中心との距離を示すイメージ図、及び(C)ドライバの頭部が移動したときのハンドルの舵角と前方注視角と相対俯角との関係を示すイメージ図である。
【図6】ハンドルの舵角とロール角の相対角と、ヨー角速度との関係を示すグラフである。
【図7】ハンドルの舵角とヨー角速度ゲインとの関係を示すグラフである。
【図8】操舵トルクの物理量と感覚量との対応を示すグラフである。
【図9】(A)剛性の基準量と閾値との関係を示すグラフ、及び(B)剛性の物理量と感覚量との関係を示すグラフである。
【図10】手応え量が一定となるときの操舵トルクの感覚量と剛性の感覚量との関係を示すグラフである。
【図11】本発明の第1の実施の形態に係る車両操舵装置における特性算出処理ルーチンの内容を示すフローチャートである。
【図12】手応え量が一定となるときの操舵トルクの感覚量と剛性の感覚量との関係を表わす等高線を示すマップである。
【図13】本発明の第1の実施の形態に係る車両操舵装置のギヤ比制御処理ルーチンの内容を示すフローチャートである。
【図14】本発明の第1の実施の形態に係る車両操舵装置におけるトルク制御処理ルーチンの内容を示すフローチャートである。
【図15】本発明の第2の実施の形態に係る車両操舵装置のコンピュータの構成を示すブロック図である。
【図16】ハンドルの舵角とヨー角速度との関係を示すグラフである。
【図17】(A)本発明の第3の実施の形態に係る車両操舵装置のステアリングホイールの構成を示す正面図、及び(B)ステアリングホイールの構成を示す側面図である。
【図18】本発明の第3の実施の形態に係る車両操舵装置の一部の構成を示す概略図である。
【図19】本発明の第4の実施の形態に係る車両操舵装置の構成を示す概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、図面を参照して本発明の実施の形態を詳細に説明する。本実施の形態では、車両に搭載され、かつ、車両のステアリングギヤ比を制御する車両操舵装置に本発明を適用した場合を例に説明する。
【0024】
図1に示すように、本発明の実施の形態に係る車両操舵装置10は、ステアリングホイール12に連動する回動軸14に、ステアリングギヤ比可変機構16が接続されている。このステアリングギヤ比可変機構16からは、出力軸18が突出しており、この出力軸18に連結されたピニオン20が、図示を省略した操舵輪に連結されたラック軸22に噛合している。
【0025】
従って、ステアリングホイール12の回転が、ステアリングギヤ比可変機構16を介して、ピニオン20に伝わり、ラック軸22がその軸方向(図1の矢印W方向)へ移動することによって、操舵輪が転舵するようになっている。
【0026】
ステアリングギヤ比可変機構16は、コンピュータ24に連結されている。ステアリングギヤ比可変機構16は、従来からある周知の構造とされており、コンピュータ24から出力されるギヤ比指令信号に基づいてステアリングギヤ比可変機構16のステアリングギヤ比を変更するようになっている。
【0027】
また、車両操舵装置10は、操舵輪の切り角を変更するための操舵アシストトルクを、減速機26を介して回動軸14へ伝達して操舵輪へ出力する電動パワーステアリング装置用モータ(操舵アクチュエータ)28を更に備えている。電動パワーステアリング装置用モータ28は、コンピュータ24に連結されている。
【0028】
図2に示すように、コンピュータ24は、自車両の車速を検出する車速センサ30と、ステアリングホイール12の舵角(ハンドルの舵角)を検出する操舵角センサ32と、ステアリングホイール12のトルク(操舵トルク)を検出する操舵トルクセンサ34と、に接続されている。
【0029】
コンピュータ24は、CPUと、RAMと、後述する特性算出処理ルーチン、トルク制御処理ルーチン、及びギヤ比制御処理ルーチンを実行するためのプログラムを記憶したROMとを備え、機能的には次に示すように構成されている。コンピュータ24は、ステアリングホイール12の舵角、車速、及びヨー角速度ゲインの関係を示す第1マップを予め記憶した第1マップ記憶部40と、車速センサ30からの車速及び操舵角センサ32からの舵角に基づいて、第1マップ記憶部40に記憶された第1マップに従って、ヨー角速度ゲインの目標値を算出するヨーゲイン算出部42と、算出されたヨー角速度ゲインの目標値を実現するステアリングギヤ比を算出するギヤ比算出部44と、算出されたステアリングギヤ比に変更するようにギヤ比指令信号を出力するギヤ比制御部46とを備えている。
【0030】
また、コンピュータ24は、算出されたヨー角速度ゲインに操舵角センサ32からの舵角を乗じて、ヨー角速度を算出して取得するヨー角速度取得部48と、ヨー角速度と操舵角と操舵トルクとの対応関係を表わす第2マップを記憶した第2マップ記憶部50と、第2マップを用いて、操舵角センサ32からの舵角及び取得したヨー角速度とに応じた操舵トルクの目標値を設定するトルク目標設定部52と、設定された操舵トルクの目標値、及び検出された操舵トルクに基づいて、電動パワーステアリング装置用モータ28の作動を制御するアシスト制御部54とを備えている。なお、ヨー角速度取得部48が、旋回物理量取得手段の一例であり、トルク目標設定部52が、目標設定手段の一例であり、アシスト制御部54が、操舵トルク制御手段の一例である。
【0031】
次に、本実施の形態の原理について説明する。
【0032】
まず、ドライバモデルに関して、特開2010−170187号公報の記載から、車両の進行方向と、前記車両の走行する目標コース上の予め定められた前方注視時間後の目標到達点の方向との偏角である前方注視角と、一定時間後のヨー角速度とが、車速に依存することなく比例関係にあることがわかっている。
【0033】
すなわち、車両の進行方向(速度ベクトルの方向)と前方注視時間T後の車両の目標到達点の方向との偏角θgaze(図3(A)、(B)参照)から、ドライバがハンドル操作することによって実現される車両運動予測値としてのヨー角速度の予測値rpreが、以下の(1)式によって演算される。
【0034】
【数1】

【0035】
ただし、kは前方注視角θgazeからヨー角速度rまでの伝達ゲインであり、τは、むだ時間である。ここで、むだ時間τとは、車両運動の変化のタイミングと走行コースの曲率の変化のタイミングとを合わせるための時間であり、予め定められた時間である。
【0036】
上記(1)式は、ドライバが前方注視角に基づいてハンドルを操作していることを示す結果である。
【0037】
また、理論解析の結果、前方注視時間Tgazeと前方注視角θgazeからヨー角速度rまでの伝達ゲインkの間には、以下の(2)式で表される関係が成立していることがわかっている。
【0038】
【数2】

【0039】
本実施の形態では、前方注視時間Tgazeを2.5秒〜3.5秒の一定時間として設定する。
【0040】
また、前方注視時間Tgazeとむだ時間τの間には、以下の(3)式で表される関係が成立していることがわかっている。
【0041】
【数3】

【0042】
このようにドライバは前方注視角に基づいてハンドルを操作していることから、ドライバの意図であり、前方注視時間後にこの位置を通過するという意味で、車両運動の出力でもある前方注視点の方向と、ドライバの操作量であるハンドルの基準位置の方向とを、図4(B)に示すように一致させることにより、車両とドライバの一体感や操作性、アジリティなどを向上させることに、本実施の形態では着目した。
【0043】
ところで、上記図3(A)、(B)で定義した前方注視角は、自動車の進行方向を基準としていたが、ハンドルの舵角との関係を一致させるためには、ドライバが着席している車体前後方向を基準とする必要がある。そこで、本実施の形態では、以下の(4)式に示すように前方注視角に車体スリップ角を加えた角度(車両前後方向と、車両の走行する目標コース上の予め定められた前方注視時間後の目標到達点の方向との偏角)と、ハンドルの舵角(ハンドル中立状態での基準位置と現在のハンドルの基準位置との相対角度)を一致させることを考える。
【0044】
【数4】

【0045】
また、図4(A)に示すように、ハンドル中心と前方注視点との相対俯角をθとすると、操舵角δswが注視点の方向と一致するための条件として、以下の(5)式が得られる。
【0046】
【数5】

【0047】
なお、上記(5)式では、ロール運動のためにハンドル角が見かけ上、ロール角だけ切り戻されることを考慮している。また、Krollは、ロール率である。
【0048】
ところで、前方注視時間Tgazeと、前方注視角θgazeからヨー角速度rまでの伝達ゲインkとの間には、上記(2)式の関係が成立することから、前方注視角θgazeは、以下の(6)式で記述される。
【0049】
【数6】

【0050】
さらに、車体スリップ角βは、車両運動の線形モデルから、以下の(7)式で記述される。
【0051】
【数7】

【0052】
上記(6)式、(7)式により、上記(5)式は、以下の(8)式に書き直すことができる。
【0053】
【数8】

【0054】
ただし、Cは後輪コーナリングパワーであり、lは、ホイールベースであり、lは、重心−後軸間距離である。また、mは車両質量であり、vは車速である。
【0055】
ところで、上記(8)式の関係は、ドライバの視点位置は変化しないという仮定の下での関係式であるが、実車走行時には、横加速度の影響を受けて、ドライバ姿勢すなわち視点の位置が変化することを考慮する必要がある。図5(A)に示すように車両の横加速度に比例してドライバの頭部が横加速度に対抗する方向にhy移動すると、ドライバから見たハンドルの中心は、以下の(9)式で求められるθだけ旋回外向きに移動する。
【0056】
【数9】

【0057】
ただし、hxはドライバ頭部とハンドル中心の距離である(図5(B)参照)。
【0058】
したがって、図5(C)から、ドライバ頭部移動時の操舵角δswの方向(ハンドルの基準位置の方向)が、前方注視点の方向と一致するための条件は、以下の(10)式で表される。
【0059】
【数10】

【0060】
本実施の形態では、横加速度が9.8 [m/s2] 発生したときにhy= hymax 移動するとして、以下の(11)式のように、θを定式化する。
【0061】
【数11】

【0062】
さらに、横加速度とヨー角速度との関係(スリップ角が増加しないための条件)は、以下の(12)式で表される。
【0063】
【数12】

【0064】
上記(11)式、(12)式を考慮すると、以下の(13)式で表される関係式が導出される。
【0065】
【数13】

【0066】
また、相対俯角θzは、ドライバの視点からハンドル中心までのハンドル中心俯角θzswと前方注視時間Tgazeとアイポイント高heyeとに基づく、以下の(14)式で表される関係が成立する。
【0067】
【数14】

【0068】
上記(14)式より、上記(13)式は、以下の(15)式で記述できる。
【0069】
【数15】

【0070】
ここで、以下の式を仮定する。
【0071】
【数16】

【0072】
この式により、上記(15)式は、以下の(16)式で記述できる。
【0073】
【数17】

【0074】
上記(16)式は、図6の実線が示すように、ヨー角速度rが、ハンドルの舵角δswとロール角φ(=Kroll・r・v)との相対角(δsw−φ)のタンジェントに比例することを表している。また、上記(16)式が、本発明における、車速毎のハンドルの舵角とヨー角速度との関係の一例を表わしている。
【0075】
ヨー角速度ゲインkは、ヨー角速度rを舵角δswで除した値であり、以下の(17)式で示される関係が成立する。
【0076】
【数18】

【0077】
上記(17)式を上記(16)式に代入することによって、舵角δswとヨー角速度ゲインkの関係式が、以下の(18)式のように導出される。
【0078】
【数19】

【0079】
上記(18)式には、左右両辺にヨー角速度ゲインkが存在しており、本実施の形態では、車速vと舵角δswに応じたヨー角速度ゲインkを数値的に解くことによって、マップを導入する。これによって、図7に示すような、各車速毎に、ヨー角速度ゲインkとハンドルの舵角δswとの関係を示すマップが得られる。
【0080】
以上説明した原理に基づいて、本実施の形態に係る車両操舵装置10の第1マップ記憶部40には、上記図7の実線に示すような、各車速毎に、ハンドルの舵角とヨー角速度ゲインとの関係を定めた第1マップが記憶されている。
【0081】
ヨーゲイン算出部42は、車速センサ30によって検出された車速及び操舵角センサ32によって検出されたハンドルの舵角に対応するヨー角速度ゲインの目標値を、第1マップ記憶部40に記憶された第1マップに従って算出する。
【0082】
次に、上記の第1マップに基づいて算出される目標とするヨー角速度ゲインを実現するための制御方法について説明する。
【0083】
目標とするヨー角速度ゲインは、ハンドルと前輪の実舵角を転舵する機構との間に設けたステアリングギヤ比可変機構16の特性を、車速に応じてアクティブに変更することにより実現される。前輪の実舵角δfとヨー角速度rとの間には、車両運動の動特性を無視すると、以下の(19)式で表される関係が成立している。
【0084】
【数20】

【0085】
ただし、Cfは、前輪コーナリングパワーである。ハンドルの舵角δswと前輪実舵角δfとの間のステアリングギヤ比をgswとすると、以下の(20)式の関係が得られる。
【0086】
【数21】

【0087】
上記(19)式、(20)式により、上記図7に示す第1マップから算出されるヨー角速度ゲインkを実現するためのステアリングギヤ比gswは、以下の(21)式で表される。
【0088】
【数22】

【0089】
ギヤ比算出部44は、上記(21)式に従って、ヨーゲイン算出部42によって算出された目標とするヨー角速度ゲインkと、車速センサ30によって検出された車速vとに基づいて、ステアリングギヤ比を算出する。
【0090】
ギヤ比制御部46は、算出されたステアリングギヤ比に変更するようにギヤ比指令信号をステアリングギヤ比可変機構16へ出力して、ステアリングギヤ比を制御する。
【0091】
ところで、上記(16)式に基づいて操舵系の制御を行った場合、ハンドルの舵角とロール角の相対角が90degに近づくとヨー角速度は無限に大きくなり、90deg以内の操舵角領域ですべての運転操作が行われることになる。このような特性では、ハンドルを持ち替える必要がない、という利点がある一方で、ハンドル操舵という操作に対する車両運動の変化を過敏に感じる場合があり操縦性を損なってしまう、という欠点も持ち合わせることになる。
【0092】
車両運動の変化を過敏に感じ、操縦性を損なう特性か否かは、ハンドルの舵角に対するヨー角速度の勾配を様々に変化させた車両を用い、定常円旋回からの修正操舵などのタスクを与える官能評価実験によって調べられている。通常のパワステ特性に相当する手応えを与えた場合、ハンドルの舵角に対するヨー角速度の勾配の上限、すなわちこれ以上の勾配を設定した場合に操縦性が損なわれる、ハンドルの舵角に対するヨー角速度の勾配は、個人差があるものの0.35〜0.38[1/s]の間にあることがわかっている。
【0093】
一方、手応えを大きく設定することによって、操舵に必要なドライバの手先力も増加し、手先の等価剛性が増加する結果、ハンドル操舵の安定性を向上させることができる。本発明は、この知見を利用し、旋回物理量の増加に応じて手応え量を単調に増加させることにより、ハンドル操舵という操作に対する車両運動の変化を過敏に感じる領域でドライバの手先等価剛性を向上させ、操舵の安定性を向上させる。なお、本実施の形態では、旋回物理量として、ヨー角速度を用いている。
【0094】
次に、本実施の形態における手応え量を制御する原理について説明する。
【0095】
まず、手応え量について説明するために、物理量と感覚量との関係について説明する。ここでは、操舵トルクと剛性に関し、物理量と感覚量との関係を調査した。なお、調査には、操舵反力特性(操舵角yと操舵トルクxとの関係)を自由に変更可能なステアリングシミュレータを用いた。
【0096】
操舵トルクに関する調査には「マグニチュード推定法」を用いた。これは、操舵トルクを様々に変化させ、その時々に感じる物理量の大きさを数値で回答してもらうことで、物理量と感覚量の関係を明らかにする方法である。
【0097】
結果として、図8に示すような関係を得られた。すなわち、操舵トルクの物理量に対し感覚量は単調に増加するものの、ある領域を境に、上に凸から下に凸に変化する特徴がある(操舵トルクの物理量の増加に応じた感覚量の増加量が、徐々に小さくなる傾向から徐々に大きくなる傾向に変化する特徴がある)。この変曲点となる操舵トルクは2〜3Nm程度だった。なお、被験者数は3名であり、いずれの被験者の結果も同じ傾向を示した。
【0098】
また、剛性に関する調査には「極限法」を用いた。これは基準となる剛性から徐々に変化させていき、初めて変化を知覚できる変化量(閾値)を調べる方法である。結果として図9(A)に示すように基準となる剛性と閾値は比例関係にあることがわかった。なお、被験者数は5名であり、いずれの被験者の結果も同じ傾向を示した。これはWeberの法則としてよく知られている傾向であり、これが成り立つとき、感覚量は物理量の対数に比例することがWeber−Fechnerの法則として知られている。この関係を図9(B)に示す。このように、剛性の感覚量は、剛性の物理量の対数に比例するものと定義した。
【0099】
次に、操舵トルクの感覚量と剛性の感覚量の関係について説明する。
【0100】
上述したステアリングシミュレータを用い、操舵トルクと剛性の様々な組合せを設定した。そして、その設定から微小に操舵した際の手応えに関し、ある基準の組合せと同じ手応えに感じる組合せを探索した。
【0101】
結果として、同じ手応えに感じる操舵トルクと剛性との関係は、両者の感覚量同士で比較すると、剛性が操舵トルクに対して単調に減少する関係にあり、かつ、操舵トルクの感覚量がある一定値で飽和するように漸近することがわかった。図10に示すように、基準となる組合せを変更しても、上記傾向は同じであり、基準となる手応え量が大きいときには、漸近線が右側にシフトすることがわかった。操舵トルクと剛性がこのような関係を有する操舵反力特性(操舵トルクと操舵角の関係)のとき、ドライバは、一定の手応え量で操舵することが可能と考えられる。
【0102】
次に、本実施の形態において目標とするヨー角速度と手応え量との関係について説明する。
【0103】
本実施の形態では、上述したように、旋回物理量としてのヨー角速度の増加に応じて手応え量を単調に増加させる。すなわち、操舵角変化に対する操舵トルクの変化割合(剛性)の感覚量と操舵トルクの感覚量から定義される手応え量が、ヨー角速度の増加に伴って単調に増加するように定めた、ヨー角速度と手応え量との関係を用いて、操舵反力特性を定める。
【0104】
ヨー角速度の増加に伴って徐々に手応え量を増加していくことは、ヨー角速度の増加に応じて徐々に手応え等高線の高い方で登っていくことで実現可能である。
【0105】
また、本実施の形態では、手応え量がヨー角速度の増加に伴って単調に増加するように定めた、ヨー角速度と手応え量との関係に基づいて決定される、ヨー角速度と操舵角と操舵トルクとの関係(操舵反力特性マップ)に基づいて、目標となる操舵トルクを実現する制御を行う。
【0106】
第2マップ記憶部50は、ヨー角速度と手応え量との関係に基づいて後述する方法により予め定められたヨー角速度と操舵トルクと操舵角との対応関係を表わす第2マップを予め記憶している。
【0107】
トルク目標設定部52は、操舵角センサ32から入力された操舵角信号、ヨー角速度取得部48によって取得されたヨー角速度、及び記憶された第2マップに基づいて、検出された操舵角及び取得されたヨー角速度に対応する操舵トルクを、目標値として設定する。
【0108】
アシスト制御部54は、設定された操舵トルクの目標値と、操舵トルクセンサ34によって検出された操舵トルクとに基づいて、トルクアシスト量の指令値を演算する。また、アシスト制御部54は、演算したトルクアシスト量の指令値に基づいて、ステアリングホイール12に作用する操舵トルクが操舵トルクの目標値となるように、電動パワーステアリング装置用モータ28を駆動制御する。ここでの電動パワーステアリング装置用モータ28の駆動制御については、例えば操舵トルクの目標値と検出される操舵トルクとの偏差に基づくPI(比例積分)制御を用いてもよい。
【0109】
次に、本実施の形態に係る車両操舵装置10の作用について説明する。
【0110】
まず、オフラインにおいて、コンピュータ24において、図11に示す特性算出処理ルーチンが実行される。なお、この特性算出処理ルーチンは、外部装置で実行してもよい。
【0111】
ステップ100において、メモリ(図示省略)に記憶された、ヨー角速度と手応え量との関係を読み込み、ステップ102で、操舵角qと操舵トルクTとを0に設定する。次に、ステップ104において、操舵トルクの刻み量dTを所定値に設定する。
【0112】
次のステップ106において操舵角qにヨー角速度ゲインkを乗じてヨー角速度rを算出する。そして、ステップ108において、読み込んだヨー角速度と手応え量の関係に基づいて、ヨー角速度rに応じた手応え量の目標値Eを算出する。例えば、ヨー角速度rが0である場合には、手応え量の目標値E0が算出される。
【0113】
そして、ステップ110において、操舵トルクの物理量Tを、操舵トルクの感覚量に変換する。次のステップ112において、メモリに記憶された、図12に示すような手応え量が一定値となる操舵トルクの感覚量と剛性の感覚量の関係を示す手応え等高線マップを用いて、上記ステップ108で算出された手応え量の目標値E及び上記ステップ110で算出された操舵トルクの感覚量に対応する剛性の感覚量を、マップの逆引きにより算出する。
【0114】
そして、ステップ114において、上記ステップ112で算出した剛性の感覚量を、剛性の物理量kに変換する。例えば、操舵トルクTが0である場合には、剛性の物理量kが得られる。
【0115】
次のステップ116では、上記ステップ114で算出した剛性の物理量kから、以下の(22)式に従って、操舵角qT+dTと操舵トルクT+dTとの組み合わせを算出して、メモリに記録する。
【0116】
【数23】

【0117】
例えば、操舵トルクTが0近傍である場合における剛性がkとなるように、操舵トルクと操舵角との組み合わせが算出される。
【0118】
そして、ステップ118において、操舵角及び操舵トルクが十分に大きいか否かを判定し、操舵角及び操舵トルクが十分に大きい場合には、操舵トルクと操舵角の対応関係が得られたと判断し、特性算出処理ルーチンを終了する。一方、操舵角及び操舵トルクが十分に大きくない場合には、ステップ120において、操舵トルクTを、刻み量dTだけ増加させると共に、操舵角qを上記(22)式によって算出された操舵角qT+dTに更新して、上記ステップ106へ戻る。
【0119】
上記のように、特性算出処理ルーチンでは、操舵トルクを刻み量dT毎に徐々に増加させていくことで、ヨー角速度と操舵トルクと操舵角との組み合わせを各々算出し、算出された全領域におけるヨー角速度と操舵トルクと操舵角の対応関係に基づいて、線形補間して、第2マップを作成する。このように生成された第2マップが、第2マップ記憶部50に記憶され、第2マップを用いて操舵反力特性を制御することにより、所望のヨー角速度と手応えの関係を実現することができる。
【0120】
また、車両操舵装置10を搭載した車両の走行中に、コンピュータ24において、図13に示すギヤ比制御処理ルーチンが実行される。
【0121】
まず、ステップ140において、車速センサ30より検出された車速及び操舵角センサ32より検出されたハンドルの舵角の各々を取得する。そして、ステップ142において、第1マップ記憶部40に記憶された第1マップに従って、上記ステップ140で取得した車速及びハンドルの舵角からヨー角速度ゲインの目標値を算出する。
【0122】
次のステップ144では、上記ステップ140で取得した車速と上記ステップ142で算出されたヨー角速度ゲインの目標値とから、上記(21)式に従って、ヨー角速度ゲインの目標値を実現するためのステアリングギヤ比を算出する。そして、ステップ146において、上記ステップ144で算出されたステアリングギヤ比に変更するようにギヤ比指令信号をステアリングギヤ比可変機構16へ出力して、ステアリングギヤ比を制御し、上記ステップ140へ戻る。
【0123】
上記の処理が繰り返し実行されることにより、繰り返し算出されたヨー角速度ゲインの目標値が各々実現される。
【0124】
また、車両操舵装置10を搭載した車両の走行中に、コンピュータ24において、図14に示すトルク制御処理ルーチンが実行される。
【0125】
まず、ステップ150において、操舵トルクセンサ34により検出された操舵トルク、操舵角センサ32により検出されたハンドルの舵角を取得する。ステップ152において、上記ステップ150で取得したハンドルの舵角にヨーゲインを乗じて、ヨー角速度を算出する。
【0126】
そして、ステップ154において、第2マップ記憶部50から第2マップを読み出し、上記ステップ150で取得したハンドルの操舵及び上記ステップ152で算出したヨー角速度に対応する操舵トルクを、目標値として設定する。
【0127】
次のステップ156では、上記ステップ150で取得した操舵トルク、及び上記ステップ154で設定された操舵トルクの目標値に基づいて、トルクアシスト量の指令値を算出する。そして、ステップ158において、上記ステップ156で算出されたトルクアシスト量の指令値に基づいて、ステアリングホイール12に作用する操舵トルクが操舵トルクの目標値となるように、電動パワーステアリング装置用モータ28を駆動制御して、ステップ150へ戻る。
【0128】
以上説明したように、第1の実施の形態に係る車両操舵装置によれば、ドライバの視点から見た、車両の走行する目標コース上の予め定められた前方注視時間後の目標到達点の方向と、ハンドルの基準位置の方向とを一致させるように定められたハンドルの舵角とヨー角速度ゲインとの関係を示すマップに従って、ヨー角速度ゲインの目標値を算出し、ステアリングギヤ比を制御することにより、車両とドライバとの一体感を向上させることができ、ドライバが違和感を覚えることのない、ドライバの感覚に合った操舵を行うことができる。
【0129】
また、ヨー角速度の増加に応じて手応え量を単調に増加させることによって操縦性の悪化が抑制され、大舵角領域でも、ハンドルの操舵方向と注視点の方向を一致させることができる。この結果、ドライバはハンドルを持ち替える必要がなくなる。
【0130】
次に、第2の実施の形態に係る車両操舵装置について説明する。なお、第1の実施の形態と同様の構成となる部分については、同一符号を付して説明を省略する。
【0131】
第2の実施の形態では、ヨー角速度の目標値を算出して、ヨー角速度の目標値を実現するようにステアリングギヤ比を制御している点が、第1の実施の形態と主に異なっている。
【0132】
図15に示すように、第2の実施の形態に係る車両操舵装置のコンピュータ224は、ステアリングホイール12の舵角、車速、及びヨー角速度の関係を示す第1マップを予め記憶した第1マップ記憶部240と、車速センサ30からの車速及び操舵角センサ32からの舵角に基づいて、第1マップ記憶部240に記憶された第1マップに従って、ヨー角速度の目標値を算出するヨー角速度算出部242と、算出されたヨー角速度を実現するステアリングギヤ比を算出するギヤ比算出部244と、ギヤ比制御部46と、第2マップ記憶部50と、トルク目標設定部52と、アシスト制御部54とを備えている。
【0133】
上記第1の実施の形態で説明した上記(16)式に対して、数値演算を行って解いた結果、図16の実線が示すような、ハンドルの舵角とヨー角速度との関係が、各車速毎に得られる。
【0134】
本実施の形態に係る車両操舵装置の第1マップ記憶部240には、各車速毎に、上記図16の実線に示すようなハンドルの舵角とヨー角速度との関係を定めた第1マップが記憶されている。
【0135】
ヨー角速度算出部242は、車速センサ30によって検出された車速及び操舵角センサ32によって検出されたハンドルの舵角に対応するヨー角速度を、第1マップ記憶部240に記憶された第1マップに従って算出する。
【0136】
ギヤ比算出部244は、ヨー角速度算出部242によって算出された目標とするヨー角速度rと、車速センサ30によって検出された車速vとに基づいて、上記(19)式に従って、目標とするヨー角速度rを実現する前輪実舵角δfを算出し、算出された前輪実舵角δfと、操舵角センサ32によって検出されたハンドルの舵角δswとに基づいて、上記(20)式に従って、ステアリングギヤ比を算出する。
【0137】
次に、第2の実施の形態に係るギヤ比制御処理ルーチンについて説明する。
【0138】
まず、車速センサ30より検出された車速及び操舵角センサ32より検出されたハンドルの舵角の各々を取得する。そして、第1マップ記憶部240に記憶された第1マップに従って、上記で取得した車速及びハンドルの舵角からヨー角速度の目標値を算出する。
【0139】
次に、上記で取得した車速と上記で算出されたヨー角速度の目標値とから、上記(19)式、(20)式に従って、ヨー角速度の目標値を実現するためのステアリングギヤ比を算出する。そして、上記で算出されたステアリングギヤ比に変更するようにギヤ比指令信号をステアリングギヤ比可変機構16へ出力して、ステアリングギヤ比を制御し、最初の処理へ戻る。
【0140】
上記の処理が繰り返し実行されることにより、繰り返し算出されたヨー角速度の目標値が各々実現される。
【0141】
なお、第2の実施の形態に係る車両操舵装置の他の構成及び作用は、第1の実施の形態と同様であるため、説明を省略する。
【0142】
以上説明したように、第2の実施の形態に係る車両操舵装置によれば、ドライバの視点から見た、車両の走行する目標コース上の予め定められた前方注視時間後の目標到達点の方向と、ハンドルの基準位置の方向とを一致させるように定められたハンドルの舵角とヨー角速度との関係を示すマップに従って、ヨー角速度の目標値を算出し、ステアリングギヤ比を制御することにより、車両とドライバとの一体感を向上させることができ、ドライバが違和感を覚えることのない、ドライバの感覚に合った操舵を行うことができる。
【0143】
次に、第3の実施の形態に係る車両操舵装置について説明する。なお、第1の実施の形態と同様の構成となる部分については、同一符号を付して説明を省略する。
【0144】
第3の実施の形態では、ステアリングのグリップ部に、ブレーキ操作のためのレバーが設けられている点が、第1の実施の形態と主に異なっている。
【0145】
図17(A)に示すように、第3の実施の形態に係る車両操舵装置では、ステアリングホイール12のグリップ部に、ブレーキ操作のためのブレーキレバー312が設けられている。図17(B)に示すように、ブレーキレバー312は、ドライバがグリップを握る握力に応じてストロークする構造になっている。ブレーキレバー312は、左右のグリップ部に設けられている。
【0146】
また、図18に示すように、第3の実施の形態に係る車両操舵装置は、更に、ブレーキレバー312のストローク量を検出するレバー操作量検出部320と、検出されたストローク量に応じて、制動力の指令値を算出する指令値算出部322と、制動力の指令値に基づいて、各輪のブレーキ油圧指令値を演算して、各輪のブレーキ油圧を制御するブレーキ油圧制御部324とを備えている。
【0147】
指令値算出部322は、左右のブレーキレバー312のそれぞれについて、ストローク量に応じた制動力の指令値を算出する。ブレーキ油圧制御部324は、左右の指令値の大きい方の値に基づいて、各輪のブレーキ油圧指令値をする。
【0148】
また、ドライバの握力とレバーのストロークの間には、ヒステリシス特性を設けても良い。このヒステリシス特性を適切に設定することで、人間の力覚特性に即した操作しやすいブレーキが実現される。
【0149】
なお、第3の実施の形態に係る車両操舵装置の他の構成及び作用は、第1の実施の形態と同様であるため、説明を省略する。
【0150】
このように、ステアリングホイールのグリップ部にブレーキ操作のためのレバーを追加搭載することで、手元で制動操作を実現することが可能となる。ブレーキは、アクセルペダルからブレーキペダルへの踏み替えも含めると、操作に0.6s程度必要となることが知られている。一方、実験により、手元での操作の場合、操作時間は0.2s程度まで短縮することが確認された。60km/hで走行している状況を想定すると、空走時間が0.4s短縮されることは、制動距離が6.7m短縮されることに相当する。さらに、乾燥路面を走行していると想定し、制動時の減速度を9.8m/sとすると、衝突速度が14km/h減少することになる。これは、例えば50km/hでの衝突を36km/hに低減し、衝突エネルギーを半減できることを意味している。このように、本実施の形態に係る車両操舵装置によれば、人間の身体機能に着目して、安全性を向上させる、という優れた効果を得ることができる。
【0151】
次に、第4の実施の形態について説明する。ステアバイワイヤシステムの車両操舵装置に、本発明を適用した場合を例に説明する。なお、第1の実施の形態と同様の構成となる部分については、同一符号を付して説明を省略する。
【0152】
図19に示すように、第4の実施の形態に係る車両操舵装置410は、ステアリングホイール12と、回動軸14と、ステアリングギヤ比可変機構16と、出力軸18と、ピニオン20と、ラック軸22と、コンピュータ424と、減速機26とを備え、さらに、ドライバによるステアリングホイール12の操作に応じてステアリングホイール12にトルクを作用させることで操舵トルクを模擬する反力モータ430と、ステアリングホイール12の操舵角に応じて操舵輪の切り角を変更するための出力トルクを、減速機26を介してピニオン20に伝達して操舵輪へ出力する転舵モータ432と、を備える。
【0153】
コンピュータ424は、上記第1の実施の形態と同様に、第2マップに基づいて設定された操舵トルクの目標値を実現するように、反力モータ430の駆動制御を行う。また、コンピュータ424は、操舵角センサ32によって検出されたステアリングホイール12の舵角に応じて、操舵輪の切り角を変更するように転舵モータ432の駆動制御を行う。
【0154】
なお、第4の実施の形態に係る車両操舵装置の他の構成及び作用は、第1の実施の形態と同様であるため、説明を省略する。
【0155】
なお、上記の第1の実施の形態〜第4の実施の形態では、旋回物理量として、ヨー角速度を用いた場合を例に説明したが、これに限定されるものではなく、旋回物理量として、横加速度を用い、横加速度の増加に応じて手応え量を単調増加させるようにしてもよい。
【0156】
また、車速センサおよび操舵角センサからのセンサ出力に基づいて、ヨー角速度を算出する場合を例に説明したが、これに限定されるものではなく、ヨー角速度センサを用いて、ヨー角速度を検出するようにしてもよい。
【0157】
また、電動パワーステアリング装置用モータや反力モータのトルクにより、ステアリングにトルクを作用させるものとしたが、電動パワーステアリング装置用モータや反力モータ以外にも、例えば可変操舵ギア比システム用アクチュエータ等、他のアクチュエータを用いて、ステアリングにトルクを作用させるようにしてもよい。
【0158】
また、剛性の感覚量が、剛性の物理量の対数に比例するものであると定義した場合を例に説明したが、これに限定されるものではなく、剛性の感覚量を、剛性の物理量の対数にほぼ比例するものとして定義してもよい。
【0159】
また、ステアリングホイールの舵角、車速、及びヨー角速度ゲインの関係を示す第1マップを用いて、検出された舵角および車速に対応するヨー角速度ゲインを求める場合を例に説明したが、これに限定されるものではなく、舵角、車速、及びヨー角速度ゲインの対応関係を表わす式に従って、検出された舵角及び車速からヨー角速度ゲインの目標値を算出するようにしてもよい。また、舵角、車速、及びヨー角速度の対応関係を表わす式に従って、検出された舵角及び車速からヨー角速度の目標値を算出するようにしてもよい。
【0160】
また、ヨー角速度と操舵トルクとの対応関係を表わす第2マップを用いて、取得されたヨー角速度に対応する操舵トルクを求める場合を例に説明したが、これに限定されるものではなく、ヨー角速度と操舵トルクとの対応関係を表わす式に従って、取得されたヨー角速度から操舵トルクの目標値を算出するようにしてもよい。
【0161】
また、前輪の操舵を制御する場合を例に説明したが、これに限定されるものではなく、後輪の操舵を制御するようにしてもよい。この場合には、後輪の実舵角とヨー角速度との間の関係を用いて導出される式に基づいて、ヨー角速度ゲインの目標値又はヨー角速度の目標値を実現する後輪のステアリングギヤ比を算出すればよい。また、前輪及び後輪の双方の操舵を制御するようにしてもよい。この場合には、前輪の実舵角と後輪の実舵角とヨー角速度との間の関係を用いて導出される式に基づいて、ヨー角速度ゲインの目標値又はヨー角速度の目標値を実現する前後輪のステアリングギヤ比を算出すればよい。
【符号の説明】
【0162】
10、410 車両操舵装置
12 ステアリングホイール
14 回動軸
16 ステアリングギヤ比可変機構
20 ピニオン
22 ラック軸
24、224、424 コンピュータ
28 電動パワーステアリング装置用モータ
30 車速センサ
32 操舵角センサ
34 操舵トルクセンサ
40、240 第1マップ記憶部
42 ヨーゲイン算出部
44、244 ギヤ比算出部
46 ギヤ比制御部
48 ヨー角速度取得部
50 第2マップ記憶部
52 トルク目標設定部
54 アシスト制御部
242 ヨー角速度算出部
312 ブレーキレバー

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ドライバの視点から見た、車両の走行する目標コース上の予め定められた前方注視時間後の目標到達点の方向と、ハンドルの基準位置の方向とを対応させるように予め定められた、前記ハンドルの舵角と車両に発生するヨー角速度との関係を実現する操舵装置であって、
車両の旋回物理量を取得する旋回物理量取得手段と、
ドライバの操舵による前記ハンドルの舵角を検出する舵角検出手段と、
前記舵角の変化に対する前記ハンドルの操舵トルクの変化の割合の感覚量と、前記操舵トルクの感覚量とに基づいて求められる前記ドライバの手応え量が、旋回物理量の増加に従って単調増加する、前記旋回物理量と前記手応え量との予め定められた関係に基づいて、前記検出された前記舵角及び前記取得された前記旋回物理量に対応する前記操舵トルクを目標値として設定する目標設定手段と、
前記目標設定手段によって設定された前記操舵トルクの目標値が実現されるように制御する操舵トルク制御手段と、
を含む操舵装置。
【請求項2】
車両のステアリングギヤ比によって前記ハンドルの舵角とヨー角速度との関係を実現する請求項1記載の操舵装置。
【請求項3】
前記前方注視時間を、2.5秒〜3.5秒とした請求項1又は2記載の操舵装置。
【請求項4】
前記ハンドルの舵角と前記ヨー角速度との関係を、前記ハンドルの舵角と車両に発生するロール角との相対角のタンジェントに比例するヨー角速度を発生させるように定めた請求項1〜請求項3の何れか1項記載の操舵装置。
【請求項5】
前記旋回物理量を、ヨー角速度または横加速度とした請求項1〜請求項4の何れか1項記載の操舵装置。
【請求項6】
前記ハンドルのグリップ部に設けられた、前記車両の制動を操作するためのレバーを更に含む請求項1〜請求項5の何れか1項記載の操舵装置。
【請求項7】
前記車両の車速を検出する車速検出手段と、
前記車速検出手段によって検出された車速、前記舵角検出手段によって検出された前記ハンドルの舵角、及び前記車速毎に予め定めた前記ハンドルの舵角と前記ヨー角速度との関係に基づいて、ヨー角速度ゲインを算出するヨー角速度ゲイン算出手段と、
前記ヨー角速度ゲイン算出手段によって算出されたヨー角速度ゲインを実現するように、ステアリングギヤ比を制御するギヤ比制御手段と、
を更に含む請求項1〜請求項6の何れか1項記載の操舵装置。
【請求項8】
前記ヨー角速度ゲイン算出手段は、前記車速検出手段によって検出された車速、前記舵角検出手段によって検出された前記ハンドルの舵角、及び前記車速毎に予め定めた前記ハンドルの舵角と前記ヨー角速度との関係から予め求められた前記ハンドルの舵角とヨー角速度ゲインとの関係に基づいて、ヨー角速度ゲインを算出する請求項7記載の操舵装置。
【請求項9】
前記車両の車速を検出する車速検出手段と、
前記車速検出手段によって検出された車速、前記舵角検出手段によって検出された前記ハンドルの舵角、及び前記車速毎に予め定めた前記ハンドルの舵角と前記ヨー角速度との関係に基づいて、目標ヨー角速度を算出するヨー角速度算出手段と、
前記ヨー角速度算出手段によって算出された目標ヨー角速度を実現するように、ステアリングギヤ比を制御するギヤ比制御手段と、
を更に含む請求項1〜請求項6の何れか1項記載の操舵装置。
【請求項10】
前記目標設定手段は、前記旋回物理量と前記手応え量との関係に基づいて予め定められる、前記旋回物理量と前記舵角と前記操舵トルクとの対応関係に基づいて、前記検出された前記舵角及び前記取得された前記旋回物理量に対応する前記操舵トルクを目標値として設定する請求項1〜請求項9の何れか1項記載の操舵装置。
【請求項11】
前記操舵トルク制御手段は、前記目標設定手段によって設定された前記操舵トルクの目標値に応じたトルクアシスト量又は前記操舵トルクの目標値を発生させるように制御する請求項1〜請求項10の何れか1項記載の操舵装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【公開番号】特開2012−201265(P2012−201265A)
【公開日】平成24年10月22日(2012.10.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−68691(P2011−68691)
【出願日】平成23年3月25日(2011.3.25)
【出願人】(000003609)株式会社豊田中央研究所 (4,200)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】