説明

支承装置

【課題】適切な防錆力を付与しつつ、設置にあたっての作業コストを低減することが可能な支承装置を提供する。
【解決手段】上面側に上部取付板6が連結されるとともに、下面側に下部取付板7が連結された積層ゴム体2と、上部取付板6と上部構造物8との間に設置されるソールプレート3と、下部取付板7と下部構造物11との間に設置されるベースプレート4とを備え、上部構造物8の荷重を支持しながら、下部取付板7をベースプレート4との間で水平方向に摺動させて積層ゴム体2の据え付け位置を調整する支承装置1であって、下部取付板7及びベースプレート4の各々の摺動面側において、プレート本体41、71から摺動面に向けて、金属溶射防錆層42、72、防錆潤滑剤焼付皮膜43、73及びコート層44、74が順に積層される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、橋梁等で用いる支承装置に関し、特に、除変形方式を採用して設置するのに適した支承装置に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、橋梁を支承する支承体の施工においては、上部構造物(橋桁)が鋼製等の一体的に製作される橋桁である場合、その橋桁の全荷重を支承体に負担させる段階で、橋桁に生じる下方への撓みを考慮し、荷重を支持した際に撓む方向と反対の方向(上方)へ橋桁を意図的に撓ませることが行われる。
【0003】
上記の際、水平方向に変形が容易なゴム支承等を用いた場合には、ゴム支承体上に橋桁が載置された際に、橋桁自身の荷重により上記の意図的な撓みが除去され、橋軸方向のゴム支承体の据え付け間隔が拡がる現象が生じる。その結果、ゴム支承体の上部工側の取付け位置と下部工側の取付け位置との間に橋軸方向のずれが生じ、ゴム支承体が傾いた状態で取り付けられることになる。このような場合、施工管理者は、一旦、橋桁の荷重を鉛直方向ジャッキ等により仮受けし、橋桁の撓みを除去した後、ゴム支承体に橋桁の荷重を移動させる工夫を行っている。
【0004】
また、上部構造物(橋桁)を施工現場でコンクリートを打設する構造とした場合、特に、予め応力を与えたコンクリートで橋桁を構成する所謂プレストレストコンクリート橋梁とした場合には、PC鋼材が縮もうとする力を利用してコンクリートに圧縮力を付与するため、PC鋼材が縮む際に、その縮み分だけゴム支承体の上部工側が橋軸方向に沿って移動することになる。この場合も、ゴム支承体の上部工側の取付け位置と下部工側の取付け位置との間に橋軸方向のずれが生じ、ゴム支承体の姿勢に傾き(せん断変形)が生じることになる。
【0005】
さらに、ゴム支承体のせん断変形は、温度変化やコンクリートの乾燥収縮、クリープの影響によっても生じるため、支承体の施工にあたっては、それらも十分に考慮する必要がある。
【0006】
ゴム支承体の据え付け方法には、例えば、非特許文献1に記載のように、見込まれるゴム支承体の傾斜量の分だけ、ゴム支承体を反対側に傾斜させた状態で施工し、上部構造物の変形時にゴム支承体を直立状態に遷移させる予変形方式と、ゴム支承体を傾けることなく施工し、その後、上部構造物の変形により生じた傾斜量の分だけ、ゴム支承体を反対側に変形させて姿勢を矯正する除変形方式とがある。
【0007】
上記のうち、予変形方式は、せん断変形保持治具を用い、想定される変形量分を予めゴム支承体に与えた状態で橋桁を施工し、その後、せん断変形保持治具を取り外し、完成時にゴム支承体の姿勢を直立状態にするものである。この予変形方式においては、ゴム支承体に鉛直荷重が載荷されていない状態で傾きが与えられるため、ゴム支承体に回転方向の力が作用し、ゴム支承体の上面と下面の平行を維持できない虞がある。その場合は、せん断変形保持治具にレベル調整用のプレートを挟み込む等の工夫が行われている。
【0008】
一方、除変形方式は、ゴム支承体を傾斜させることなく、直立状態で上部工及び下部工との据え付けを行い、その後の適当な時期に、橋桁の荷重がゴム支承体に載荷された状態で、ゴム支承体の下部取付板をベースプレート上で摺動させて、据え付け位置を調整し、ゴム支承体の姿勢を直立状態に復元するものである。この際、摺動する摺動面の摩擦係数は低い方が好ましいため、下部取付板及びベースプレートの両摺動面には、溶融亜鉛めっき防錆処理、金属溶射防錆処理、塗装防錆処理等の防錆処理層に代えて、摺動用潤滑皮膜が形成される。
【0009】
除変形方式において、ゴム支承体を直立状態に戻すにあたっては、先ず、上部構造物の変形に起因して傾斜したゴム支承体を、油圧ジャッキによって水平方向に仮受けし、その後、下部取付板をベースプレートに固定する取付けボルトを取り外す。そして、油圧ジャッキにより下部取付板をベースプレート上で摺動させ、橋梁完成時にゴム支承体が直立状態になるように、上部工と下部工の据え付け位置を調整する。その状態で、取付けボルト又は溶接により、下部取付板をベースプレートに固定する。
【0010】
その後、据え付けが完成した状態で、摺動によって露出した部分(摺動用潤滑皮膜を形成した表面のうち、摺動後に露出状態となった部分)に防錆処理を施す。この防錆処理は、露出部分の摺動用潤滑皮膜を除去した後に、皮膜を除去した面の粗さを調整して下地処理を施し、下地上に塗装等の処理を施すことによって行われる。
【0011】
また、特許文献1には、上記除変形方式の1つとして、プレストレスにより生じた変形量とコンクリートの乾燥収縮で生じた変形量分を摺動させるだけでなく、その後に生じると想定されるコンクリート収縮量を見込んだ分、さらに反対側へゴム支承を傾斜させ、施工に要する期間を大幅に短縮する技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0012】
【特許文献1】特許第2757728号公報
【非特許文献】
【0013】
【非特許文献1】社団法人日本道路協会著、「道路橋支承便覧(改訂版)」、p243〜245
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
しかし、除変形方式を用いた従来の施工方法においては、下部取付板の摺動後に露出する部分の防錆処理を、下部取付板を摺動させた後に橋梁施工現場の橋台上で行わざるを得ず、工場等の屋内で防錆処理を施す場合に比べて様々な制約を受けることになる。このため、例えば、塗装により防錆処理を施した場合には、下地処理や塗装膜の管理を十分に行ったとしても、他の部分と同等の防錆力を確保するのが困難になるという問題がある。
【0015】
また、塗装による防錆処理に代えて、金属溶射防錆層を形成して防錆処理を図る方法もあるが、金属溶射作業に必要な溶射装置が比較的に大きいため、橋梁施工現場への装置の搬入、装置の設置場所、装置への電源供給、溶射作業にあたっての溶射ガンと防錆処理面との距離等の面で多くの問題が生じる。また、この場合、作業コストも高騰化し易く、実用的とは言い難い。
【0016】
さらに、溶融亜鉛めっき防錆皮膜を形成することで防錆力を確保する方法もあるが、その施工の工程上、橋梁施工現場の橋台上で防錆作業を行うこと自体が困難である。
【0017】
また、鋼橋の施工段階で生じる橋桁自身の荷重による下方への撓みを考慮して、予め橋桁自身に与えた撓み方向と逆方向への意図的な撓みの除去により、橋軸方向のゴム支承体の据付間隔が広がる現象に対し、当該ゴム支承体を直立状態に戻すにあたっては、前記した通り、一旦、橋桁の荷重を鉛直方向ジャッキで仮受けし、橋桁の撓みを除去する工程を介在させる必要があるため、橋台上の鉛直方向ジャッキの配置場所の確保や、上部及び下部構造物における鉛直方向ジャッキ位置の耐荷重性検討を行う必要がある。
【0018】
一方、仮受けするジャッキを用いずに、鋼橋に対して前記コンクリートで橋桁を構成する場合に用いられる徐変形方式を適用した場合には、橋台上の鉛直方向ジャッキの配置場所の確保や、上部及び下部構造物における鉛直方向ジャッキ位置の耐荷重性検討を行う必要がなくなるが、下部取付板の摺動後に露出する部分の防錆処理の問題は同様に生じる。
【0019】
さらには、鋼製の桁の設計製作は基準温度時を基本として行われるため、仮設時期が夏場であると、基準温度時には桁の長さが長くなり、また、反対に仮設時が冬場であれば、基準温度時には桁の長さが短くなる現象が生じ、桁の橋軸端部において、設置後に橋軸方向に支承位置を移動させることが必要になる場合がある。
【0020】
この問題を、前記コンクリートで橋桁を構成する場合に用いられる除変形方式を用いて解決する場合は、同様に下部取付板の摺動後に露出する部分の防錆処理対策が求められることとなる。そして、前記鋼製の橋桁の伸縮量は、線膨張係数と鋼製桁の長さと基準温度からの温度変化量により求まるため、特に長径間の連続橋の場合は大きな問題となっていた。
【0021】
そこで、本発明は、上記問題点に鑑みてなされたものであって、支承装置に適切な防錆力を付与しつつ、設置にあたっての作業性の向上や作業コストの低減を図ることが可能な支承装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0022】
上記目的を達成するため、本発明は、上面側に上部取付板が連結されるとともに、下面側に下部取付板が連結された支承体と、前記上部取付板と上部構造物との間に設置されるソールプレートと、前記下部取付板と下部構造物との間に設置されるベースプレートとを備え、前記上部構造物の荷重を支持しながら、前記下部取付板を前記ベースプレートとの間で水平方向に摺動させて前記支承体の据え付け位置を調整する支承装置であって、前記下部取付板及び前記ベースプレートの各々の摺動面側において、プレート本体から該摺動面に向けて金属溶射防錆層及び潤滑層が順に積層されたことを特徴とする。
【0023】
そして、本発明によれば、下部取付板及びベースプレートの各々の摺動面側において、プレート本体から摺動面に向けて金属溶射防錆層及び潤滑層が順に積層されるため、金属溶射防錆層によって下部取付板及びベースプレートの防錆を図りながら、潤滑層によって下部取付板とベースプレートの間の潤滑性を確保することができる。また、下部取付板がベースプレート上で摺動する際には、潤滑層が金属溶射防錆層を保護する保護層としても機能するため、摺動作業により防錆力が損なわれるのを回避することができる。従って、摺動作業後の防錆処理を不要とすることができ、支承装置の設置にあたっての作業性の向上や作業コストの低減を図ることが可能になる。
【0024】
また、本発明は、上面側に上部取付板が連結されるとともに、下面側に下部取付板が連結された支承体と、前記上部取付板と上部構造物との間に設置されるソールプレートと、前記下部取付板と下部構造物との間に設置されるベースプレートとを備え、前記上部構造物の荷重を支持しながら、前記上部取付板を前記ソールプレートとの間で水平方向に摺動させて前記支承体の据え付け位置を調整する支承装置であって、前記上部取付板及び前記ソールプレートの各々の摺動面側において、プレート本体から該摺動面に向けて金属溶射防錆層及び潤滑層が順に積層されたことを特徴とする。本発明によれば、前記発明と同様に、支承装置に適切な防錆力を付与しつつ、支承装置の設置にあたっての作業性の向上や作業コストの低減を図ることが可能になる。
【0025】
上記支承装置において、前記金属溶射防錆層を、亜鉛、アルミニウム、亜鉛−アルミニウム合金又は擬合金、アルミニウム−マグネシウム合金又は擬合金、並びに亜鉛−アルミニウム−マグネシウム合金又は擬合金からなる群より選ばれる少なくとも一種を溶射して形成することができる。
【0026】
これによれば、溶融亜鉛めっき法を用いる場合に比べて工程数を大幅に削減することができ、ベースプレート等の製造期間の短縮や製造コストの低減を図ることが可能になる。また、作業の途中で鋼材に反りが生じるのを回避することもできるため、摺動面の平坦性を確保する上で好ましく、品質面においても安定したベースプレート等を提供することが可能になる。さらに、溶射ガンの届く範囲であれば、品質を低下させることなく金属溶射防錆層を形成できるため、防錆処理の対象となる鋼材の大きさに左右されないという利点もある。
【0027】
上記支承装置において、前記潤滑層が、二硫化モリブデンを含む防錆潤滑剤焼付皮膜と、該防錆潤滑剤焼付皮膜の前記摺動面側の面に塗布され、フッ素樹脂、二硫化モリブデン及びグラファイトのうちの少なくとも一種を含むコート層とを備え、該コート層の表面が前記摺動面を構成することができる。これによれば、静摩擦係数と動摩擦係数の差を小さくでき、低い摩擦係数を得ることができるため、上部構造物の荷重を支持した状態であっても、下部取付板とベースプレートの間の摺動、又は上部取付板とソールプレートの間の摺動を小さな力で行うことが可能となる。尚、摩擦係数が0.1以下であれば、摺動作業に用いるジャッキとして、小型のジャッキを使用することが可能になる。
【0028】
上記支承装置において、前記金属溶射防錆層が、100μm以上の厚さを有するとともに、その表面粗さ(最大高さRy)が30μm以下であり、前記防錆潤滑剤焼付皮膜が、15μm以上の厚さを有するように構成することができる。これによれば、摺動時の低摩擦係数の確保と摺動面における潤滑層の維持とを安定して行うことができるとともに、それらに個体差が生じるのを抑制することができる。また、摺動作業後における摺動面の防錆力を長期間に亘って維持することもできる。
【0029】
上記支承装置において、前記潤滑層が、前記金属溶射防錆層の前記摺動面側の面に被装され、フッ素樹脂、ポリエチレン樹脂、ポリエステル樹脂及びグラファイトのうちの少なくとも一種を含むシート層を備え、該シート層の表面が前記摺動面を構成することができる。これによれば、防錆潤滑剤焼付皮膜を形成する際の焼付け工程を省略することができ、製作期間の短縮化や製造コストの削減を図ることが可能になる。
【0030】
上記支承装置において、前記金属溶射防錆層が、100μm以上の厚さを有するとともに、その表面粗さ(最大高さRy)が30μm以下であり、前記シート層が、0.2mm以上、1.0mm以下の厚さを有するように構成することができる。これによれば、摺動面の表面形状を平坦に保ち、低い摩擦力で摺動作業を行うことが可能になる。
【0031】
上記支承装置において、前記潤滑層が、二硫化モリブデン、グラファイト及びフッ素樹脂のうちの少なくとも一種を含む乾性被膜潤滑剤によるコート層からなり、該コート層の表面が前記摺動面を構成することができる。
【0032】
上記支承装置において、前記金属溶射防錆層が、100μm以上の厚さを有するとともに、その表面粗さ(最大高さRy)を30μm以下とすることができ、これによれば、低い摩擦力で摺動作業を行うことが可能になる。
【0033】
上記支承装置において、前記支承体を、剛性材料層と弾性材料層を交互に積層した積層ゴム体とすることができ、さらに、積層ゴム体を、柱状鉛を挿入した鉛プラグ入り積層ゴム体とすることができる。
【発明の効果】
【0034】
以上のように、本発明によれば、支承装置に適切な防錆力を付与しつつ、支承装置の設置にあたっての作業性の向上や作業コストの低減を図ることが可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0035】
【図1】本発明にかかる支承装置の第1の実施形態を示す断面図である。
【図2】図1のA部拡大図である。
【図3】図1の支承装置の据え付け工程を示す図である。
【図4】図1の支承装置の据え付け工程を示す図である。
【図5】図1の支承装置の据え付け工程を示す図である。
【図6】図1の支承装置の据え付け工程を示す図である。
【図7】図1の支承装置の据え付け工程を示す図である。
【図8】図1の支承装置の据え付け工程を示す図である。
【図9】図1の支承装置を鋼橋の施工に適用した場合を示す図である。
【図10】本発明にかかる支承装置の第2の実施形態を示す断面図である。
【図11】本発明にかかる支承装置の第3の実施形態を示す断面図である。
【図12】実施例1の履歴曲線を示す図である。
【図13】実施例2の履歴曲線を示す図である。
【図14】実施例1、2の摩擦係数を示す図である。
【図15】実施例3−1〜3−3の摩擦係数を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0036】
次に、本発明の実施の形態について図面を参照しながら説明する。
【0037】
図1は、本発明にかかる支承装置の第1の実施形態を示す断面図であり、この支承装置1は、積層ゴム体2と、積層ゴム体2の上方に設けられたソールプレート3と、積層ゴム体2の下方に設けられたベースプレート4とを備える。
【0038】
積層ゴム体2は、構造物等を安定した状態で支持するとともに、地震等における水平方向の振動を和らげ、構造物の揺れを長周期化するために備えられる。この積層ゴム体2は、ゴムからなる弾性材料層2bと、鉄板からなる剛性材料層2cとが上下方向に交互に積層され、平面視において矩形状、方形状又は円形状に構成される。積層ゴム体2の最上部には、上部補強板2dが埋設され、上部補強板2dは、六角ボルト5aを介して、積層ゴム体2の上面側に設置される上部取付板6と連結される。一方、積層ゴム体2の最下部には、下部補強板2eが埋設され、下部補強板2eは、六角ボルト5bを介して、積層ゴム体2の下面側に設置される下部取付板7と連結される。
【0039】
ソールプレート3は、橋桁等の上部コンクリート構造物(以下、「上部構造物」という)8と上部取付板6の間に設置され、積層ゴム体2を上部構造物8に連結するために備えられる。ソールプレート3の上面3aは、上部アンカーボルト9により上部構造物8に固着され、一方、下面3bは、上部取付ボルト10及び取付孔3cを通じて上部取付板6と連結される。
【0040】
ベースプレート4は、橋脚等の下部構造物11と下部取付板7の間に設置され、積層ゴム体2を下部構造物11に連結するために備えられる。ベースプレート4の下面4aは、下部アンカーボルト12により下部構造物11に固着され、一方、上面4bは、下部取付ボルト13により下部取付板7と連結される。尚、ベースプレート4には、本取付孔4c及び仮取付孔4dの二種類の取付孔が穿設され、ベースプレート4と下部取付板7の連結は、本取付孔4c及び仮取付孔4dのいずれかに下部取付ボルト13を螺合することで行われる。
【0041】
また、ベースプレート4の上面4b側においては、図2に示すように、ベースプレート4のプレート本体41から上面4bに向けて、金属溶射防錆層42、防錆潤滑剤焼付皮膜43及びコート層44が順に積層される。さらに、下部取付板7の下面7a側においても、下部取付板7のプレート本体71から下面7aに向けて、金属溶射防錆層72、防錆潤滑剤焼付皮膜73及びコート層74が順に積層される。
【0042】
金属溶射防錆層42、72は、ベースプレート4等の防錆を図ると同時に、防錆潤滑剤焼付皮膜43、73の下地を担うものである。この金属溶射防錆層42、72は、亜鉛、アルミニウム、亜鉛−アルミニウム合金又は擬合金、アルミニウム−マグネシウム合金又は擬合金、並びに亜鉛−アルミニウム−マグネシウム合金又は擬合金からなる群より選ばれる少なくとも一種を溶射することにより形成される。
【0043】
ここで、「擬合金」とは、2種以上の金属材料が完全に相溶していない状態の合金を意味し、具体的には、各々の金属材料を別々の溶射ガンを用いて同一表面上に溶射し、金属材料が付着した領域である程度の合金化を進めるものを言う。
【0044】
防錆潤滑剤焼付皮膜43、73は、金属溶射防錆層42、72とともにベースプレート4等の防錆を図りつつ、ベースプレート4と下部取付板7の間の摩擦係数を低減するために備えられる。この防錆潤滑剤焼付皮膜43、73は、金属溶射防錆層42、72の表面上に、二硫化モリブデンを主成分とする防錆潤滑剤溶液を吹き付け、焼き付けを行うことによって形成される。
【0045】
コート層44、74は、ベースプレート4と下部取付板7の間の摩擦係数、特に静摩擦係数と動摩擦係数の差を低減するとともに、防錆潤滑剤焼付皮膜43、73の損傷等を軽減するために備えられる。このコート層44、74は、防錆潤滑剤焼付皮膜43、73の表面上に、フッ素樹脂、二硫化モリブデン及びグラファイトのうちの少なくとも一種を含むコート液を塗布することによって形成される。尚、コート液の塗布は、スプレーによるものでも刷毛等によるものであってもよい。
【0046】
そして、金属溶射防錆層42、72、防錆潤滑剤焼付皮膜43、73及びコート層44、74の具体的な製造工程は、次の通りである。尚、金属溶射防錆層等の形成にあたり、ベースプレート4上及び下部取付板7上のいずれに形成する場合にも、同一の手順となるため、ここでは、ベースプレート4上に形成する場合を例示する。また、金属溶射防錆層42は、アルミニウム−マグネシウム合金材料より形成するものとし、溶射方法は、プラズマ溶射法を用いるものとする。
【0047】
(1)ベースプレート鋼材の素地調整(ブラスト処理)
(2)アルミニウム−マグネシウム合金材料のプラズマ溶射処理(金属溶射防錆層の形成)
(3)プラズマ溶射面の平面加工(バフ研磨処理)
(4)二硫化モリブデンを含む防錆潤滑剤溶液の吹き付け
(5)焼成・焼付け
(6)冷却
(7)フッ素樹脂を含むコート液のスプレー塗布
【0048】
上記の際、金属溶射防錆層42の形成にあたっては、金属溶射防錆層42の膜厚を100μm以上とすることが好ましい。また、プラズマ溶射面の平面加工にあたっては、表面粗さ(最大高さRy)を30μm以下とすることが好ましい。
【0049】
ここで、上記の製造工程との対比のため、溶融亜鉛めっきによる一般的な防錆下地処理を用いたベースプレート4の製造工程を挙げる。
(1)ベースプレート鋼材の表面のうち、下部取付板7が摺動する領域にマスキング剤を塗布
(2)摺動領域(マスキング領域)以外の部分の素地調整(脱脂→水洗→酸洗→水洗→フラックス処理→乾燥)
(3)めっき防錆処理(めっき槽への浸漬)
(4)冷却
(5)摺動領域のマスキング剤の除去
(6)摺動領域の素地調整(脱脂→水洗→燐酸塩皮膜処理→水洗→乾燥)
(7)摺動領域へ二硫化モリブデンを含む防錆潤滑剤溶液の吹き付け
(8)焼成・焼付け
(9)冷却
(10)ベースプレート鋼材の反りの矯正作業
(11)フッ素樹脂を含むコート液のスプレー塗布
【0050】
上記から分かるように、本実施の形態にかかる製造工程においては、溶融亜鉛めっき法を用いる場合に比べて工程数を大幅に削減することができ、また、めっき槽等の大掛かりな設備も不要になる。
【0051】
特に、溶融亜鉛めっきを用いて防錆下地処理を行った場合には、めっき処理の際に、少なくとも亜鉛の溶融温度(430℃)を超える熱をベースプレート鋼材に付与することになるため、その影響でベースプレート鋼材に反りが生じ、ベースプレート鋼材の反りを事後的に矯正する作業が必要になる。しかし、かかる作業には熟練した技能が要求されるため、作業可能な作業員が特定の者に限られ、また、作業に要する手間も大きいことから、コストの増大や納期の遅延を招くなど様々な問題を生じ易い。また、矯正作業の過程で防錆処理した溶融亜鉛めっき面に割れやヒビが入ることもあり、その後の捕集作業に時間とコストがかかるだけでなく、品質にも悪影響を及ぼす虞がある。
【0052】
これに対し、本実施の形態にかかる製造工程においては、溶射作業により防錆層を形成することから、ベースプレート鋼材に高熱が付与されないため、製造作業の過程でベースプレート鋼材に反りが生じることがない。このため、摺動面の平坦性を確保する上で好ましく、品質面においても安定したベースプレート4を提供することが可能になる。また、溶射ガンの届く範囲であれば、品質を低下させることなく金属溶射防錆層42を形成できるため、防錆処理の対象となる鋼材の大きさに左右されないという利点もある。
【0053】
尚、金属溶射防錆層の溶射方法は、プラズマ溶射以外にも、ガス溶射やアーク溶射等の他の溶射方法を用いることができ、鋼材に反り等の変形が生じないような状態で、各種の溶射金属材料を適宜に組み合わせて溶射皮膜を形成できるものであれば、特に限定されるものではない。すなわち、溶融亜鉛めっき処理等で生じる鋼材の反りや、溶融亜鉛めっき処理に見られる表面の凹凸状態を回避でき、その上で、鋼材との間で所定の付着力が得られれば、如何なる溶射方法であってもよい。
【0054】
次に、図1に示す支承装置1の据え付け方法について、図3〜図8を参照しながら説明する。ここでは、支承装置1を橋梁に用いる場合を例にとって説明する。
【0055】
先ず、図3に示すように、上部取付ボルト10を介して上部取付板6の上面にソールプレート3を固定するとともに、下部取付ボルト13を介して下部取付板7の下面にベースプレート4を固定し、支承装置1を上部構造物(橋桁)8の下面と下部構造物(橋脚)11の上面との間に設置する。この際、下部取付板7とベースプレート4との固定は、下部取付ボルト13を仮取付孔4dに螺合することで行い、これによって、ベースプレート4がソールプレート3よりも上部構造物8の中心(橋軸方向の中心)側に位置する状態で支承装置1を設置する。
【0056】
下部構造物11及び上部構造物8を打設した後、図4に示すように、プレストレス作業やある程度の期間が経過することによるコンクリートのクリープ、乾燥収縮により、上部構造物8が中心方向に変形し、それに伴って、ソールプレート3が上部構造物8の中心に向けて移動し、積層ゴム体2が傾斜する。尚、ソールプレート3が上部構造物8の中心に向けて移動するのは、橋梁の設置においては、一般に、橋桁が中心に向かって乾燥収縮するのに加え、橋桁の中心に向かって圧縮力が働くようにプレストレス処理を施すためである。
【0057】
更なる期間の経過後、上部構造物8の変形が落ち着いた段階(一般的には、プレストレス作業による収縮やコンクリートのクリープ、乾燥収縮が略々終了した状態)で、上部構造物8の荷重を支持しながら、下部取付板7をベースプレート4上で摺動させ、据え付け位置を調整し、積層ゴム体2の姿勢を直立状態に矯正する。
【0058】
かかる作業にあたっては、先ず、図5に示すように、積層ゴム体2が傾斜したことにより生じた水平力が、下部取付板7とベースプレート4を固定する下部取付ボルト13に作用しているため、ジャッキ15を用いて、下部取付板7を上部構造物8の中心と反対側の方向に向けて引っ張り、下部取付ボルト13に作用する水平力を除去する。その後、図6に示すように、下部取付ボルト13を取り外し、下部取付板7とベースプレート4の間の固定を解除する。
【0059】
次いで、図7に示すように、ジャッキ15を図5の場合と反対側に移動させ、その後、下部取付板7を上部構造物8の中心に向けて引っ張り、下部取付板7をベースプレート4上で摺動させる。この際、ソールプレート3が上部構造物8の中心側に移動したのと同量分だけ、下部取付板7の位置を上部構造物8の中心側に移動させる。これにより、プレストレス作業やコンクリートのクリープ、乾燥収縮による上部構造物8の中心方向への変形を吸収し、積層ゴム体2の姿勢を直立に近い状態に矯正する。
【0060】
前述の通り、下部取付板7及びベースプレート4には、潤滑層としての防錆潤滑剤焼付皮膜43、73及びコート層44、74が形成されるため(図2参照)、大きな引張力を付与しなくとも、下部取付板7をベースプレート4上で摺動させることでき、小型のジャッキを用いて作業することが可能になる。また、摺動作業時の金属溶射防錆層42、72の損傷は、防錆潤滑剤焼付皮膜43、73及びコート層44、74により好適に防止されるため、摺動作業後の補修作業を行わなくても、防錆力を維持することができる。
【0061】
最後に、図8に示すように、ベースプレート4の本取付孔4cに下部取付ボルト13を螺合し、積層ゴム体2を直立させた状態で下部取付板7とベースプレート4を固定する。尚、上記工程から理解されるように、ベースプレート4の本取付孔4cは、予め上部構造物8の変形量(ソールプレート3の移動量)を見込んだ上で、その移動量の分だけ仮取付孔4dから離間させた位置に設けられる。
【0062】
以上のように、本実施の形態によれば、下部取付板7及びベースプレート4の各々の摺動面側に、金属溶射防錆層42、72、防錆潤滑剤焼付皮膜43、73及びコート層44、74を設けるため、金属溶射防錆層42、72及び防錆潤滑剤焼付皮膜43、73によって下部取付板7及びベースプレート4の防錆を図りながら、防錆潤滑剤焼付皮膜43、73及びコート層44、74によって下部取付板7とベースプレート4の間の潤滑性を確保することができる。
【0063】
また、下部取付板7がベースプレート4上を摺動する際には、コート層44、74が、防錆潤滑剤焼付皮膜43、73を保護する保護層として機能すると同時に、防錆潤滑剤焼付皮膜43、73が、金属溶射防錆層42、72を保護する保護層として機能するため、摺動作業により防錆力が損なわれるのを回避することができる。従って、摺動作業後の防錆処理を不要とすることができ、支承装置1の設置にあたっての作業性の向上や作業コストの低減を図ることが可能になる。
【0064】
特に、本実施の形態にかかる支承装置1を橋梁設置に用いた場合には、橋梁施工現場の橋台上での摺動作業後の防錆作業が不要になるため、現場作業の効率化を図ることができ、工事期間を短縮することが可能になる。また、前述のように、摺動作業後に金属溶射防錆層42、72を補修する必要がないため、補修作業に要するコストがかかることがなく、補修コストの削減を図ることも可能になる。
【0065】
尚、上記実施の形態においては、防錆潤滑剤焼付皮膜43、73上にコート層44、74を設け、潤滑層を二層構造化しているが、コート層44、74は、省略することもできる。
【0066】
また、上記実施の形態においては、下部取付板7がベースプレート4の上面を摺動する構成を例示したが、ソールプレート3に本取付孔及び仮取付孔を穿設し、上部取付板6がソールプレート3の下面を摺動するように構成することもできる。この場合、ベースプレート4には、図1のソールプレート3の場合と同様、一種の取付孔のみが穿設され、下部取付板7は、ベースプレート4上を摺動しないようにベースプレート4と連結される。
【0067】
さらに、上記実施の形態においては、積層ゴム体2として、交互に積層された弾性材料層2b及び剛性材料層2cのみを有する構成を例示したが(図1参照)、積層ゴム体2の中心に柱状鉛を挿入した鉛プラグ入り積層ゴム体を用いることもできる。この場合、摺動作業に際して、柱状鉛が抵抗力として作用するものの、摺動させる際の水平方向の移動速度は、一般に油圧ジャッキを用いて作業することから緩やかな速度となるため、鉛材料のクリープ特性から大きな抵抗力が生じることはない。このため、摺動作業は、柱状鉛が挿入されない積層ゴム体2と大差なく行うことができる。
【0068】
また、上記実施の形態においては、下部取付板7を摺動させて据え付け位置を調整し、積層ゴム体2の姿勢を直立状態に矯正するにあたり(図5〜図7参照)、上部構造物8の変形が落ち着いた段階で作業を開始するようにしたが、コンクリートのクリープ、乾燥収縮が完全に終了するには相当の期間を要し、工事期間の長期化を招く要因の1つとなる。このため、現場施工において、残余の変形量が想定される段階で、摺動作業及び支承装置1の本固定を行う必要がある場合は、特許第2757728号公報に記載の技術を応用し、積層ゴム体2の姿勢を直立状態に戻した後に、さらに下部取付板7を摺動させ、想定される残余の変形量に相当する分だけ積層ゴム体2を反対側に傾斜させるようにしてもよい。
【0069】
さらに、上記実施の形態においては、コンクリート製の橋桁の施工に適用する場合について説明したが、本実施の形態にかかる支承装置1は、鋼橋の施工に対しても有効である。以下、支承装置1を鋼橋の施工に適用した場合について説明する。
【0070】
鋼製の橋桁21を製作する際には、図9(a)に示すように、施工時に自重で生じる撓みfを予測し、通常、上げ越し(キャンバ)と呼ばれる反対方向への反りを設ける手法が採られる。
【0071】
このように、自重で撓む方向(下方)と反対方向(上方)への鋼撓みfを橋桁21に予め設けるため、図9(b)に示すように、橋桁(上部構造物)21の設置後にキャンバによる撓みfが消滅すると、橋桁21を支える支点間の間隔Wが広くなる。その結果、橋桁21と橋脚22、23の間に位置する支承装置1a、1bに水平せん断変形が生じ、図4に示した場合と同様に、支承装置1a、1bの積層ゴム体2(図1参照)が傾斜するようになる。
【0072】
そのため、支承装置1a、1bの下部取付板7又は上部取付板6(図1参照)を傾斜方向と逆方向に摺動させ、支承装置1a、1bを直立状態に戻す必要があるが、本実施の形態にかかる支承装置1であれば、前述のように、適切な防錆力を付与しつつ、設置にあたっての作業性の向上や作業コストの低減を図ることが可能になる。尚、支承装置1a、1bを直立状態に戻すための具体的な手順は、図3〜図8に示した場合と同様である。
【0073】
次に、本発明にかかる支承装置の第2の実施形態について説明する。尚、本実施の形態にかかる支承装置は、ベースプレート4の上面側構造及び下部取付板7の下面側構造を除き、第1の実施形態にかかる支承装置1と同様の構成を有するため、ここでは、相違点を中心に説明する。
【0074】
図10に示すように、本実施の形態にかかる支承装置は、ベースプレート4の上面4b側に、フッ素樹脂、ポリエチレン樹脂、ポリエステル樹脂及びグラファイトのうちの少なくとも一種を含むシート層45を備える。このシート層45は、図2の防錆潤滑剤焼付皮膜43及びコート層44に代えて設けられるものであり、潤滑層として機能する。また、下部取付板7の下面7a側においても、図2の防錆潤滑剤焼付皮膜73及びコート層74に代えて、ベースプレート4のシート層45と同様の構成を有するシート層75が設けられる。
【0075】
これらシート層45、75は、金属溶射防錆層42、72の表面上に形成し得るため、防錆潤滑剤焼付皮膜43、73(図2参照)の形成工程(焼付工程等)を省略することが可能になり、支承装置の製作期間の短縮化や製造コストの低減を図ることができる。
【0076】
シート層45、75の形成に際しては、金属溶射防錆層42、72の厚さを100μm以上とするとともに、金属溶射防錆層42、72の表面粗さ(Ry)を30μm以下とした上で、シート層45、75の層厚を0.2〜1.0mmに調整することが好ましい。これにより、摺動面の表面形状を平坦に保ち、低い摩擦力で摺動作業を行うことが可能になる。
【0077】
本実施の形態においても、下部取付板7の摺動面側及びベースプレート4の摺動面側の各々に、金属溶射防錆層42、72及びシート層45、75を設け、これらにより防錆作用と潤滑作用の双方を確保するため、第1の実施形態と同様の作用効果を得ることが可能になる。
【0078】
次に、本発明にかかる支承装置の第3の実施形態について説明する。尚、本実施の形態にかかる支承装置においても、ベースプレート4の上面側構造及び下部取付板7の下面側構造を除き、第1の実施形態にかかる支承装置1と同様の構成を有するため、相違点を中心に説明する。
【0079】
図11に示すように、本実施の形態にかかる支承装置は、ベースプレート4の上面4b側に、フッ素樹脂、二硫化モリブデン及びグラファイトのうちの少なくとも一種を含む乾性被膜潤滑剤によるコート層46を備える。この乾性被膜潤滑剤によるコート層46は、図2の防錆潤滑剤焼付皮膜43及びコート層44に代えて設けられるものであり、潤滑層として機能する。また、下部取付板7の下面7a側においても、図2の防錆潤滑剤焼付皮膜73及びコート層74に代えて、ベースプレート4のコート層46と同様の構成を有するコート層76が設けられる。
【0080】
これらコート層46、76は、フッ素樹脂、二硫化モリブデン及びグラファイトのうちの少なくとも一種を含む乾性被膜潤滑剤を、金属溶射防錆層42、72の表面上に塗布することによって形成することができ、例えば、住鉱潤滑剤株式会社製のスミロン2250スプレー、モリドライスプレー5510、グラファイトスプレーG(いずれも商品名)等の固体潤滑剤含有スプレーをスプレー塗布することによって形成することができる。
【0081】
尚、乾性被膜潤滑剤として、常温硬化する二硫化モリブデン潤滑剤入り塗料を使用する場合には、焼き付けを必要としないため、焼付工程を省略することができ、納期の短縮化や低コスト化を図ることができる。また、この場合には、施工現場におけるコート層46の経年劣化や剥がれに対しても好ましく対応することができる。
【0082】
また、コート層46、76の形成に際しては、低い摩擦力での摺動作業を可能とするため、金属溶射防錆層42、72の厚さを100μm以上とするとともに、金属溶射防錆層42、72の表面粗さ(Ry)を30μm以下とした上で、乾性被膜潤滑剤を塗布することが好ましい。
【0083】
本実施の形態においても、金属溶射防錆層42、72及びコート層46、76によって防錆作用と潤滑作用の双方を確保することができるため、第1及び第2の実施形態と同様の作用効果を得ることが可能になる。
【0084】
また、乾性被膜潤滑剤によるコート層46、76を金属溶射防錆層42、72上に直接設ける構成においては、支承組み立て時に塗布したコート層46、76の大気暴露面に、長期にわたる橋梁の施工期間中、経年劣化等による剥がれ等の損傷が生じても、摺動作業時に現場で再度金属溶射防錆層46、76上に乾性被膜潤滑剤を塗布することで容易に補修することができる。
【0085】
さらに、工場等による支承の製造段階において、組み立て状態でベースプレート4の上面4bと下部取付板7の下面7aとが接する範囲のみにコート層46、76を形成し、他の摺動範囲に関しては、橋梁施工現場において、支承を摺動させる段階で乾性被膜潤滑剤を塗布することもできる。この場合は、支承の据え付けから長時間経過した状態での摺動面の劣化や剥がれを懸念する必要がなくなる。
【実施例】
【0086】
次に、本発明にかかる支承装置の滑り試験例について説明する。
【0087】
滑り試験は、下部取付板7を想定した金属板(以下、「上滑り板」という)と、ベースプレート4を想定した金属板(以下、「下滑り板」という)とを用いて行った。上滑り板としては、板厚が12mmで平面寸法が80mm×80mmの平板を用い、一方、下滑り板としては、板厚が12mmで平面寸法が100mm×200mmの平板を用いた。
【0088】
上滑り板及び下滑り板の各々の摺動面側の構造は、下記の4種類の仕様のいずれかとした。
仕様A:金属溶射防錆層のみ
仕様B:金属溶射防錆層+二硫化モリブデンを含む防錆潤滑剤焼付皮膜
仕様C:金属溶射防錆層+二硫化モリブデンを含む防錆潤滑剤焼付皮膜+フッ素樹脂を含むコート層
仕様D:金属溶射防錆層+フッ素樹脂を含むシート層
【0089】
表1に、上滑り板の摺動面側の構造と下滑り板の摺動面側の構造との組み合わせを示す。
【0090】
【表1】

【0091】
表1の参考例及び実施例1〜3のいずれにおいても、金属溶射防錆層は、アルミニウム95wt%−マグネシウム5wt%からなる合金ワイヤーを用いた溶線式プラズマ溶射方法によるアルミニウム−マグネシウム合金層とした。この際の金属溶射防錆層の厚さは、100μm以上とし、表面粗さ(Ry)は、30μm以下に調整した。
【0092】
また、実施例1、2において、防錆潤滑剤焼付皮膜の厚さは、15μm以上とし、また、コート層は、フッ素樹脂としてポリテトラフルオロエチレンを用い、スプレー塗布により形成した。
【0093】
さらに、実施例3において、シート層に用いたフッ素樹脂シートは、0.2mmの厚さを有するポリテトラフルオロエチレンシート(実施例3−1)と、1mmの厚さを有するポリテトラフルオロエチレンシート(実施例3−2)と、0.2mmの厚さを有するガラス繊維強化処理を施したポリテトラフルオロエチレンシート(実施例3−3)との3種類のシート層を形成した。
【0094】
試験方法は、上滑り板と下滑り板を重ね合わせ、板平面と直交する方向に荷重を載荷した状態で、上滑り板の位置を固定しつつ、油圧シリンダーにより下滑り板を水平方向に変位させ、下滑り板の長手方向に沿って往復摺動させるものとした。その際の試験条件は、入力波形を振動数0.047Hzの正弦波状とし、±50mmの水平方向への変位を2回与えるものとした。また、板材と直交する方向への載荷荷重は、面圧が3Mpa、6Mpa及び9Mpaとなる3種類とした。
【0095】
そして、油圧シリンダーに取り付けたロードセル(荷重計)により、摺動時に発生する水平方向の摩擦力を計測し、その摩擦力と上記の載荷荷重とから摩擦係数μを算出した。図12に、実施例1の履歴曲線を示し、図13に、実施例2の履歴曲線を示す。また、図14に、実施例1、2の摩擦係数μを示し、図15に、実施例3−1〜3−3の摩擦係数μを示す。
【0096】
図14に示されるように、実施例2においては、いずれの面圧でも摩擦係数μが0.1以下となり、摺動に適した低い摩擦係数を得ることができるのが分かった。また、実施例2においては、面圧を増大させても摩擦係数μのばらつきが小さく、金属溶射防錆層の表面の損傷等も認められなかった。
【0097】
さらに、実施例1においても、摩擦係数μに若干のばらつきが生じるものの、低い摩擦係数を得ることができており、良好な特性を有することが分かった。尚、参考例の試験結果については図示していないが、その摩擦係数μは、0.4以上であった。
【0098】
また、図15に示されるように、実施例3−1〜3−3のいずれにおいても、摩擦係数μが0.1以下であり、また、面圧を増大させても摩擦係数μのばらつきが小さく、良好な特性を得られることが分かった。
【符号の説明】
【0099】
1(1a、1b) 支承装置
2 積層ゴム体
2b 弾性材料層
2c 剛性材料層
2d 上部補強板
2e 下部補強板
3 ソールプレート
3a ソールプレートの上面
3b ソールプレートの下面
3c 取付孔
4 ベースプレート
4a ベースプレートの下面
4b ベースプレートの上面
4c 本取付孔
4d 仮取付孔
5(5a、5b) 六角ボルト
6 上部取付板
7 下部取付板
7a 下部取付板の下面
8 上部構造物
9 上部アンカーボルト
10 上部取付ボルト
11 下部構造物
12 下部アンカーボルト
13 下部取付ボルト
21 橋桁
22 橋脚
41 プレート本体
42 金属溶射防錆層
43 防錆潤滑剤焼付皮膜
44 コート層
45 シート層
46 コート層
71 プレート本体
72 金属溶射防錆層
73 防錆潤滑剤焼付皮膜
74 コート層
75 シート層
76 コート層

【特許請求の範囲】
【請求項1】
上面側に上部取付板が連結されるとともに、下面側に下部取付板が連結された支承体と、前記上部取付板と上部構造物との間に設置されるソールプレートと、前記下部取付板と下部構造物との間に設置されるベースプレートとを備え、前記上部構造物の荷重を支持しながら、前記下部取付板を前記ベースプレートとの間で水平方向に摺動させて前記支承体の据え付け位置を調整する支承装置であって、
前記下部取付板及び前記ベースプレートの各々の摺動面側において、プレート本体から該摺動面に向けて金属溶射防錆層及び潤滑層が順に積層されたことを特徴とする支承装置。
【請求項2】
上面側に上部取付板が連結されるとともに、下面側に下部取付板が連結された支承体と、前記上部取付板と上部構造物との間に設置されるソールプレートと、前記下部取付板と下部構造物との間に設置されるベースプレートとを備え、前記上部構造物の荷重を支持しながら、前記上部取付板を前記ソールプレートとの間で水平方向に摺動させて前記支承体の据え付け位置を調整する支承装置であって、
前記上部取付板及び前記ソールプレートの各々の摺動面側において、プレート本体から該摺動面に向けて金属溶射防錆層及び潤滑層が順に積層されたことを特徴とする支承装置。
【請求項3】
前記金属溶射防錆層は、亜鉛、アルミニウム、亜鉛−アルミニウム合金又は擬合金、アルミニウム−マグネシウム合金又は擬合金、並びに亜鉛−アルミニウム−マグネシウム合金又は擬合金からなる群より選ばれる少なくとも一種を溶射してなることを特徴とする請求項1又は2に記載の支承装置。
【請求項4】
前記潤滑層は、二硫化モリブデンを含む防錆潤滑剤焼付皮膜と、該防錆潤滑剤焼付皮膜の前記摺動面側の面に塗布され、フッ素樹脂、二硫化モリブデン及びグラファイトのうちの少なくとも一種を含むコート層とを備え、該コート層の表面が前記摺動面を構成することを特徴とする請求項1、2又は3に記載の支承装置。
【請求項5】
前記金属溶射防錆層は、100μm以上の厚さを有するとともに、その表面粗さ(最大高さRy)が30μm以下であり、
前記防錆潤滑剤焼付皮膜は、15μm以上の厚さを有することを特徴とする請求項4に記載の支承装置。
【請求項6】
前記潤滑層は、前記金属溶射防錆層の前記摺動面側の面に被装され、フッ素樹脂、ポリエチレン樹脂、ポリエステル樹脂及びグラファイトのうちの少なくとも一種を含むシート層を備え、該シート層の表面が前記摺動面を構成することを特徴とする請求項1、2又は3に記載の支承装置。
【請求項7】
前記金属溶射防錆層は、100μm以上の厚さを有するとともに、その表面粗さ(最大高さRy)が30μm以下であり、
前記シート層は、0.2mm以上、1.0mm以下の厚さを有することを特徴とする請求項6に記載の支承装置。
【請求項8】
前記潤滑層は、二硫化モリブデン、グラファイト及びフッ素樹脂のうちの少なくとも一種を含む乾性被膜潤滑剤によるコート層からなり、該コート層の表面が前記摺動面を構成することを特徴とする請求項1、2又は3に記載の支承装置。
【請求項9】
前記金属溶射防錆層は、100μm以上の厚さを有するとともに、その表面粗さ(最大高さRy)が30μm以下であることを特徴とする請求項8に記載の支承装置。
【請求項10】
前記支承体は、剛性材料層と弾性材料層を交互に積層した積層ゴム体であることを特徴とする請求項1乃至9のいずれかに記載の支承装置。
【請求項11】
前記積層ゴム体は、柱状鉛を挿入した鉛プラグ入り積層ゴム体であることを特徴とする請求項10に記載の支承装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【公開番号】特開2010−190029(P2010−190029A)
【公開日】平成22年9月2日(2010.9.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−286108(P2009−286108)
【出願日】平成21年12月17日(2009.12.17)
【出願人】(000103644)オイレス工業株式会社 (384)
【Fターム(参考)】