説明

改質装置の劣化判定方法及び改質装置

【課題】装置コストの増加を抑制するとともに、改質触媒部の劣化状態を正確に判定してランニングコストの低減を図ることができる改質装置の劣化判定方法及び改質装置を提供する。
【解決手段】改質触媒部及びCO変成部の暖機終了後において、原料の投入開始から改質触媒部及びCO変成部の反応状態が安定するまでの安定化時間内におけるCO変成部の温度状況を検出する温度状況検出ステップと、制御部の劣化判定手段に予め記憶されたCO変成部の温度上昇類型に基づいて、改質触媒部が劣化状態であるか否かを判定するための劣化判定ステップとを有し、劣化判定ステップでは、温度検出ステップで検出された温度状況から温度上昇類型を特定し、改質触媒部の劣化を判定することを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、改質装置の劣化判定方法及び改質装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来から、アノード電極とカソード電極とで例えば固体高分子電解質膜を両側から挟み込んだセルを備え、このセルを複数積層して構成された燃料電池スタックを備えた燃料電池が知られている。この燃料電池は、アノード電極に燃料として水素が供給され、カソード電極に酸化剤として空気が供給されることで、アノード電極で触媒反応により発生した水素イオンが固体高分子電解質膜を通過してカソード電極まで移動し、カソード電極で酸素と電気化学反応を起こして発電するものである。
【0003】
このような燃料電池では、炭化水素(HC)を含む燃料(例えば、メタノールやガソリン等)等から、アノード電極に供給する水素を生成する改質装置を備えているものがある。例えば特許文献1に示されるように、改質装置は、HCの燃料ガスと酸素及び水蒸気とが供給され、これらの混合ガスから水素リッチなガス(以下、改質ガスという)を生成するオートサーマル式(ATR:Auto Thermal Refomer)の触媒からなる改質触媒部を備えている。
また、改質触媒部で生成された改質ガス中には、一酸化炭素(CO)が含まれており、これをそのまま燃料電池のアノード電極に供給すると、アノード電極の触媒(白金)がCO被毒して燃料電池に悪影響を及ぼす場合がある。そのため、改質触媒部の下流側には、改質ガス中に含まれるCOを、二酸化炭素(CO)に変成するための水性ガスシフト式(WGS:Water Gas Shift)のCO変成部(一酸化炭素変成部)が配置されている。このCO変成部には、その変成反応を効率よく進行させるための使用可能温度域が存在しており、CO変成部の温度が使用可能温度域よりも低くても、高くても反応効率が低下する。したがって、一般的にCO変成部には、CO変成部内の温度を検出するための温度センサが設置されている。
【0004】
ところで、上述した改質触媒部やCO変成部等の触媒部は、熱や被毒等により経時的に劣化して反応効率が低下する。特に、改質触媒部が劣化すると、改質触媒部で反応しきれなかったHCやO、COが改質ガス中に残存し、改質ガス中の水素濃度が低下する。その結果、燃料電池の発電性能が低下する。また、CO変成部において、改質ガス中に含まれるCOを完全に変成しきれずに改質ガスが燃料電池に供給されることになるため、下流のアノード電極がCOにより被毒され、燃料電池の性能低下を加速させる虞がある。
【0005】
そこで、改質触媒部の劣化を判定するための方法として、改質触媒部の耐久試験を行い、この試験結果に基づいて改質触媒部の劣化時期(耐久性)を予め算出しておく方法がある(第1方法)。
また、特許文献1で示されるように、改質触媒部に複数の温度センサを設置し、これら温度センサで検出された触媒温度のうち、最大値と最小値との温度差が所定の閾値以上の場合に改質触媒部が劣化したと判断する方法もある(第2方法)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2003−287526号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、上述した劣化判定方法のうち、第1方法では、使用環境等の違いにより予め設定された改質触媒部の劣化時期と、実際の劣化時期との間に大きな開きが生じる場合があり、劣化前に改質触媒部を交換してしまうことがある。その結果、改質触媒部を効率的に利用することができず、ランニングコストが増加するという問題がある。さらに、燃料電池システムの作動中に予期せぬ事故が発生した場合等、それに起因する劣化時期の変動を考慮することが不可能である。
また、上述した第2方法では、改質触媒部に新たに温度センサを設置する必要があるため、部品点数が増加するとともに、これに伴い装置コストが増加するという問題がある。
【0008】
そこで本発明は、上述した問題に鑑みてなされたものであって、装置コストの増加を抑制するとともに、改質触媒部の劣化状態を正確に判定してランニングコストの低減を図ることができる改質装置の劣化判定方法及び改質装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するために、本発明の改質装置の劣化判定方法は、炭化水素系の燃料と酸素及び水蒸気との混合原料が供給され、オートサーマル用触媒を用いて前記混合原料を水素リッチな改質ガスに改質する改質触媒部(例えば、実施形態における改質触媒部41)と、前記改質触媒部で生成された前記改質ガスが供給され、水性ガスシフト用触媒を用いて前記改質ガス中の一酸化炭素を変成させる一酸化炭素変成部(例えば、実施形態におけるCO変成部42)と、前記一酸化炭素変成部の温度を検出する温度センサ(例えば、実施形態における温度センサ46)と、前記温度センサで検出された温度を用いて前記改質触媒部の状態を判定する制御部(例えば、実施形態における制御部45)と、を備えた改質装置の劣化判定方法であって、前記改質触媒部及び前記一酸化炭素変成部の暖機終了後において、前記混合原料の投入開始から前記改質触媒部及び前記一酸化炭素変成部の反応状態が安定するまでの安定化時間内における前記一酸化炭素変成部の温度状況を検出する温度状況検出ステップと、前記制御部の劣化判定手段に予め記憶された前記一酸化炭素変成部の温度上昇類型に基づいて、前記改質触媒部が劣化状態であるか否かを判定するための劣化判定ステップとを有し、前記劣化判定ステップでは、前記温度検出ステップで検出された温度状況から前記温度上昇類型を特定し、前記改質触媒部の劣化を判定することを特徴とする。
【0010】
改質触媒部が劣化状態にある場合には、混合原料中に含まれるOやHC等が改質触媒部で反応しきれず、改質ガスに残存した状態で一酸化炭素変成部内に流入する。この時、改質ガス中に含まれるHとOとが一酸化炭素変成部内で酸化反応を起こし、一酸化炭素変成部内で発熱することで、一酸化炭素変成部の温度が急増する。この時、劣化状態にある改質触媒部で改質された改質ガスを一酸化炭素変成部で変成させる場合に発生する温度状況は、劣化の無い良好状態の改質触媒部で改質された改質ガスを一酸化炭素変成部で変成させる場合に発生する温度状況に比べて高い値を示すことになる。すなわち、温度状況検出ステップで検出された温度状況が、改質触媒部が良好状態の場合に発生する温度状況よりも高い値を示した場合には、改質触媒部の反応効率が低下し、改質ガス中にOが含まれていることになる。これにより、改質触媒部の劣化を判定することができる。
そこで、本発明の構成によれば、温度状況検出ステップで検出された一酸化炭素変成部の温度状況から、改質触媒部の劣化状態を判定することができる。この場合、温度センサで検出される実測値の温度に基づいて改質触媒部の劣化判定を行うことで、上述した第1方法に比べて改質触媒部の劣化状態を正確に判定することができる。これにより、改質触媒部の最適な交換タイミングを判断することができるため、改質触媒部による良好な改質反応が得られる期間(使用可能期間)内において、改質触媒部を効率的に使用し続けることができる。その結果、改質触媒部の交換頻度を減少させ、ランニングコストを低下させることができる。また、改質装置の作動中に予期せぬ事故が発生した場合等には、これに連動するように温度センサで検出される温度状況も変動する。そのため、改質触媒部の劣化時期が初期状態から変動した場合であっても、改質触媒部の劣化判定に誤差が生じることはなく、改質触媒部の劣化状態を正確に判定することができる。
その結果、水素リッチな改質ガスを常時生成することができるので、下流側に配置される燃料電池の発電性能の低下を防止できるとともに、燃料電池に悪影響を及ぼす虞がない。
【0011】
特に、一酸化炭素変成部に従来から設置されている温度センサを用いて、改質触媒部の劣化判定を行うことができるので、上述した従来技術のうち、第2方法のように改質触媒部に新たに温度センサを設置する必要がない。これにより、部品点数を維持することができるとともに、装置コストの増加を防止することができる。
なお、混合ガスの投入開始から改質触媒部及び一酸化炭素変成部の反応状態が安定するまでの安定化時間内では、定常状態に比べて改質触媒部での反応量が少ない。そのため、劣化状態にある改質触媒部から排出される改質ガス中には、定常状態に比べてより多くのOやHC等が含まれている。すなわち、安定化時間内では、劣化状態の温度状況がより顕著に表れることになるので、安定化時間内に劣化判定ステップを行うことで、改質触媒部の劣化状態が検出し易くなる。したがって、改質触媒部の劣化状態を正確に判定することができる。
【0012】
また、前記温度上昇類型は、劣化の無い前記改質触媒部で改質された前記改質ガスを前記一酸化炭素変成部で触媒反応させる際の第1温度状況と、劣化した前記改質触媒部で改質された前記改質ガスを前記一酸化炭素変成部で触媒反応させる際の第2温度状況と、を区別することで特定されることを特徴とする。
この構成によれば、第1温度状況と第2温度状況とを区別することで温度上昇類型が特定されるため、改質触媒部の劣化状態を正確に判定することができる。
【0013】
また、前記温度上昇類型は、前記安定化時間内における所定時間帯で検出された前記第1温度状況のうち、第1最高温度と、前記安定化時間内における所定時間帯で検出された前記第2温度状況のうち、第2最高温度と、を区別することで特定されることを特徴とする。
この構成によれば、第1温度状況及び第2温度状況を所定時間帯で検出された各最高温度を区別することで温度上昇類型が特定されるため、劣化判定ステップでの誤判定を防ぎ、改質触媒部の劣化状態を正確に判定することができる。
【0014】
また、前記所定時間帯は、前記安定化時間内における前記第2最高温度の発生時間帯を予め複数回測定し、これら測定結果に基づいて定められていることを特徴とする。
この構成によれば、第2最高温度の発生時間帯を予め特定しておくことで、安定化時間内全体をモニタリングする場合に比べて、より効率的な制御を行うことができる。
【0015】
また、前記温度上昇類型は、前記第1最高温度に対して、所定の割合を乗じた値を用いて特定されることを特徴とする。
この構成によれば、第1最高温度に対して所定の割合を乗じた値を用いて温度上昇類型を特定することで、改質触媒部の劣化状態を正確に判定することができる。
【0016】
また、前記温度上昇類型は、前記劣化判定手段に予め記憶された複数の前記温度上昇類型閾値のうち、前記改質触媒部及び前記一酸化炭素変成部の暖機終了後から前記改質触媒部及び前記一酸化炭素変成部の反応状態が安定するまでの温度変化に応じ、前記温度上昇の閾値を選択して用いることで特定されることを特徴とする。
改質装置を燃料電池等に搭載した場合、改質装置の暖機完了時の温度は、他の構成部材と改質装置とのレイアウトや、使用環境等の条件によって異なることがある。これに伴って、混合原料の投入開始から改質装置の反応状態が安定するまでの安定化時間内における温度変化も異なることがある。
そこで、本発明の構成によれば、安定化時間内での温度変化に応じて、複数の温度上昇類型閾値の中から最適な温度上昇類型を選択して用いることで、様々な条件化において高精度な制御が可能になる。
【0017】
また、前記劣化判定ステップで前記改質触媒部が劣化していると判定された場合に、前記改質触媒部の劣化を示す警告情報を出力する警告ステップを有していることを特徴とする。
この構成によれば、ユーザーは、改質触媒部が劣化状態を速やかに認識することができるので、改質触媒部を最適なタイミングで交換することができる。
【0018】
また、本発明に係る改質装置は、炭化水素系の燃料と酸素及び水蒸気との混合原料が供給され、オートサーマル用触媒を用いて前記混合原料を水素リッチな改質ガスに改質する改質触媒部と、前記改質触媒部で生成された前記改質ガスが供給され、水性ガスシフト用触媒を用いて前記改質ガス中の一酸化炭素を変成させる一酸化炭素変成部と、前記一酸化炭素変成部の温度を検出する温度センサと、前記温度センサで検出された温度を用いて前記改質触媒部の状態を判定する制御部と、を備えた改質装置であって、前記制御部は、前記改質触媒部及び前記一酸化炭素変成部の暖機終了後において、前記混合原料の投入開始から前記改質触媒部及び前記一酸化炭素変成部の反応状態が安定するまでの安定化時間内における前記一酸化炭素変成部の温度状況を検出する温度状況検出手段と、前記改質触媒部が劣化状態であるか否かを判定するための前記一酸化炭素変成部の温度上昇類型が予め記憶された劣化判定手段を備え、前記劣化判定手段は、前記温度状況検出手段で検出された温度状況から前記温度上昇類型を特定し、前記改質触媒部の劣化を判定することを特徴とする。
この構成によれば、温度状況検出手段で検出された一酸化炭素変成部の温度状況から、改質触媒部の劣化状態を判定することができる。この場合、温度センサで検出される実測値の温度に基づいて改質触媒部の劣化判定を行うことで、上述した第1方法に比べて改質触媒部の劣化状態を正確に判定することができる。これにより、改質触媒部の最適な交換タイミングを判断することができるため、改質触媒部による良好な改質反応が得られる期間(使用可能期間)内において、改質触媒部を効率的に使用し続けることができる。その結果、改質触媒部の交換頻度を減少させ、ランニングコストを低下させることができる。また、改質装置の作動中に予期せぬ事故が発生した場合等には、これに連動するように温度センサで検出される温度状況も変動する。そのため、改質触媒部の劣化時期が初期状態から変動した場合であっても、改質触媒部の劣化判定に誤差が生じることはなく、改質触媒部の劣化状態を正確に判定することができる。
その結果、水素リッチな改質ガスを常時生成することができるので、下流側に配置される燃料電池の発電性能の低下を防止できるとともに、燃料電池に悪影響を及ぼす虞がない。
【0019】
特に、一酸化炭素変成部に従来から設置されている温度センサを用いて、改質触媒部の劣化判定を行うことができるので、上述した従来技術のうち、第2方法のように改質触媒部に新たに温度センサを設置する必要がない。これにより、部品点数を維持することができるとともに、装置コストの増加を防止することができる。
なお、混合ガスの投入開始から改質触媒部及び一酸化炭素変成部の反応状態が安定するまでの安定化時間内では、定常状態に比べて改質触媒部での反応量が少ない。そのため、劣化状態にある改質触媒部から排出される改質ガス中には、定常状態に比べてより多くのOやHC等が含まれている。すなわち、安定化時間内では、劣化状態の温度状況がより顕著に表れることになるので、安定化時間内に劣化判定ステップを行うことで、改質触媒部の劣化状態が検出し易くなる。したがって、改質触媒部の劣化状態を正確に判定することができる。
【0020】
また、前記制御部は、前記劣化判定手段により前記改質触媒部が劣化していると判定された場合に、前記改質触媒部の劣化を示す警告情報を出力する警告部を有していることを特徴とする。
この構成によれば、ユーザーは、改質触媒部が劣化状態を速やかに認識することができるので、改質触媒部を最適なタイミングで交換することができる。
【発明の効果】
【0021】
本発明によれば、温度状況検出ステップで検出された一酸化炭素変成部の温度状況から、改質触媒部の劣化状態を判定することができる。この場合、温度センサで検出される実測値の温度に基づいて改質触媒部の劣化判定を行うことで、装置コストの増加を抑制するとともに、各触媒部の劣化を正確に判定してランニングコストの低減を図ることができる。また、従来の構成に比べて部品点数を維持することができるとともに、装置コストの増加を防止することができる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】本実施形態の燃料電池システムの概略構成図である。
【図2】改質触媒部の良好状態における、改質触媒部の流通方向の位置に対する反応量を示すグラフである。
【図3】CO変成部の温度に対するCO変成部の出口におけるCO濃度を示すグラフである。
【図4】改質触媒部の良好状態における、時間に対するCO変成部の温度変化を示すグラフである。
【図5】改質触媒部の良好状態における、時間に対するCO変成部の温度変化を示すグラフである。
【図6】改質触媒部の良好状態における、時間に対するCO変成部の温度変化を示すグラフである。
【図7】改質触媒部の初期劣化状態における、改質触媒部の流通方向の位置に対する原料の反応量を示すグラフである。
【図8】改質触媒部の劣化状態における、改質触媒部の流通方向の位置に対する原料の反応量を示すグラフである。
【図9】改質触媒部の劣化状態における、時間に対するCO変成部の温度変化を示すグラフである。
【図10】燃料電池システムにおける改質装置の劣化判定方法を説明するためのフローチャートである。
【図11】改質触媒部の劣化状態における、時間に対するCO変成部の温度変化を示すグラフである。
【図12】改質触媒部の劣化状態における、時間に対するCO変成部の温度変化を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、本発明に係る実施形態を図面に基づいて説明する。
(燃料電池システム)
図1は本実施形態の燃料電池システムの概略構成図である。
図1に示すように、この燃料電池システム10は、燃料電池11と、燃料電池11にカソードガスである空気を供給するためのカソードガス供給手段12と、水素リッチなアノードガスを供給するためのアノードガス供給手段13と、各構成部材を暖機するためのヒーター(不図示)とを備えている。
【0024】
燃料電池11は、例えば固体高分子電解質膜型の燃料電池11であり、固体高分子電解質膜の両側にアノード電極とカソード電極とを備え、アノード電極にはアノードガス(水素)が、カソード電極にはカソードガス(空気)がそれぞれ供給されるようになっている。そして、アノード電極で触媒反応により発生した水素イオンが固体高分子電解質を透過してカソード電極に移動し、カソード電極で酸素と電気化学反応して発電する。
【0025】
本実施形態の燃料電池11のアノード電極に供給されるアノードガスは、炭化水素系の燃料を改質して生成される。すなわち、アノードガス供給手段13は、アノードガスの原料を供給するための原料供給部21と、原料供給部21から供給された原料を気化させるための蒸発器22と、蒸発器22で気化された原料からアノードガスを生成するための改質装置23とを備えている。
【0026】
原料供給部21は、炭化水素系(以下、HC系)の燃料を供給するための燃料供給部31と、水を供給するための水供給部32と、大気から取り込まれる改質空気を供給するための空気供給部33とを備え、各供給部31〜33から蒸発器22に向けてHC系燃料、水及び改質用空気が所定の割合で供給されるようになっている。
蒸発器22は、原料供給部21の下流側に接続されており、原料供給部21から供給されるHC系燃料、水及び改質用空気(以下、原料という)が混合された状態で供給される。そして、蒸発器22に供給された原料は、加熱されて気化された後、改質装置23に供給される。
【0027】
(改質装置)
ここで、本実施形態の改質装置23は、オートサーマル式の触媒部を備えた改質触媒部41と、水性ガスシフト式の触媒部を備えたCO変成部42と、CO除去部44と、これら改質触媒部41とCO変成部42との間に設けられた熱交換器43と、これら各構成部材を統括的に制御する制御部45とを有している。
【0028】
改質触媒部41は、蒸発器22で気化された原料が供給され、HC系燃料を改質用空気による酸化反応で部分酸化させるとともに、水蒸気による改質反応で水蒸気改質させることで、原料から水素リッチガスを生成するものである。
熱交換器43は、改質触媒部41の下流側に接続されており、改質触媒部41で改質された原料(以下、改質ガスという)は、熱交換器43で冷却された後にCO変成部42に供給される。
【0029】
CO変成部42は、熱交換器43の下流側に接続されており、改質ガス中に含まれるCOを変成反応によりCOに変換させることで、改質ガス中のCOを除去するようになっている。また、CO変成部42には、CO変成部42内の温度を検出するための温度センサ46が接続されている。この温度センサ46で検出された温度情報は、制御部45(劣化判定手段)に向けて出力されるようになっている。そして、CO変成部42で変成された改質ガスが、さらにCO除去部44に送られてCO濃度を相当に低くされた後、アノードガスとして燃料電池11に供給される。
【0030】
ここで、上述した改質触媒部41及びCO変成部42における反応について詳述する。
図2は、改質触媒部41に劣化が無い場合(良好状態)における、改質触媒部41の流通方向の位置に対する反応量を示すグラフであり、実線が部分酸化の反応量を、破線が水蒸気改質の反応量をそれぞれ示している。
図2に示すように、改質触媒部41は、上述したように発熱反応である部分酸化と吸熱反応である水蒸気改質が同時並行的に行われる、いわゆるオートサーマル式の触媒である。この改質触媒部41では、原料供給部21から原料が供給されると、改質触媒部41の上流側において、始めに部分酸化が積極的に行われる。この際の酸化反応は以下のように表される。
HC+O→CO+H
すなわち、改質触媒部41の良好状態においては、原料が投入されると上流側から速やかに反応が行われるため、入口付近で反応量がピークとなる。その後、反応に伴い原料中の酸素が減少することで、改質触媒部41の上流側から下流側にかけて徐々に反応量が減少していく。そして、改質触媒部41の下流側ではOが完全に除去され、出口からOは排出されないようになっている。
【0031】
一方、上述した部分酸化が行われることで、原料及び改質触媒部41が高温になる。すると、部分酸化により発生した熱を吸熱して、燃料ガスと水蒸気とが改質反応を起こす。この際の反応は次式のように表される。
HC+HO→CO+H
改質反応は、改質触媒部41の温度変化に追従するように反応量が変化するため、改質触媒部41の流通方向に沿って反応量が増加していき、その後、反応に伴い水蒸気の減少することで、改質触媒部41の下流側にかけて反応量が減少していき、下流端ではHCがほぼ完全に除去される。そのため、出口からHCはほとんど排出されないようになっている。
このように、改質触媒部41に劣化が無い良好状態においては、改質触媒部41からはOやHCはほとんど排出されず、H,CO,COを含む水素リッチな改質ガスが排出される。
【0032】
ところで、上述した改質触媒部41から排出される改質ガス中にはCOが含まれており、これをそのまま燃料電池11のアノード電極に供給すると、アノード電極の触媒(白金)がCO被毒して燃料電池11に悪影響を及ぼす場合があるので、CO変成部42により改質ガス中に含まれるCOを除去する。具体的に、CO変成部42では、下記のような変成反応が行われ、改質ガス中のCOがCOに変成される。
CO+HO→H+CO
そして、その下流のCO除去器44では、
CO+O→CO
の反応が行われ、CO濃度をさらに低減させる。
このようにしてCOを除去された改質ガスは、アノードガスとして燃料電池11のアノード電極に供給される。
【0033】
図3は、CO変成部42の温度に対するCO変成部42の出口におけるCO濃度を示すグラフである。
図3に示すように、上述したCO変成部42による変成反応は平衡反応であり、CO変成部42の温度によって反応状態が大きく変化する。そのため、上述したようにCO変成部42には、温度センサ46が設けられており、制御部45によってCO変成部42の温度状態を常時モニタリングしている。この場合、CO変成部42の温度がT1よりも低い場合には、CO変成部42における触媒の活性不足により反応性が悪く、CO変成部42において効率的にCOを除去することができない。一方、CO変成部42の温度がT2より高い場合においては、CO濃度の平衡ポイントが高濃度側となって、COを狙った濃度まで除去することができない。
【0034】
これに対して、CO変成部42の温度がT1からT2の範囲においては、触媒が活性化するとともに、COの平衡濃度が低いため、変成反応が効率的に行われる。このようなCO変成部42の温度がT1からT2の範囲は、変成反応が良好に行われる使用可能温度域T1〜T2となっており、この使用可能温度域T1〜T2で改質ガスを変成反応させることで、改質ガス中のCO濃度を大幅に減少させることができる。そして、これにCO除去部44を好適に作動させることで、燃料電池11に向けてCO濃度が低い水素リッチな改質ガスを供給することができる。
【0035】
次に、燃料電池システム10の作動時におけるCO変成部42の温度挙動について説明する。図4〜6は改質触媒部41の良好状態における、時間に対するCO変成部42の温度変化を示すグラフである。
図4〜6に示すように、一般的に改質装置23(CO変成部42)の暖機は、燃料電池システム10のその他の構成部材と共用して行われるため、燃料電池システム10内での改質装置23のレイアウトや、使用環境等の条件によって、暖機完了時の改質装置23の温度が使用可能温度域T1〜T2内で変動する。そして、暖機完了時点で、改質装置23に原料が供給されると(改質開始タイミングt1)、改質装置23において上述した反応が行われる。すると、CO変成部42においては、上述した変成反応が行われるにつれ、CO変成部42の温度が、改質開始タイミングt1における温度TBから使用可能温度域T1〜T2内の所定の温度域(以下、代表して安定稼動温度TAとする)内に収束していく。その後、CO変成部42では、安定稼動温度TAを維持しながら、安定した変成反応が行われることになる。本実施形態では、CO変成部42の温度が、改質開始タイミングt1における温度TBから安定稼動温度TA内に収束するまでに要する所定時間を安定化時間Sとする。
【0036】
図4に示すように、改質開始タイミングt1におけるCO変成部42の温度TBが、安定稼動温度TAと同等の場合(TA≒TB)には、改質開始タイミングt1経過後における安定化時間S中も、CO変成部42の温度はほとんど変化せずに変成反応が継続される。
これに対して、図5に示すように、改質開始タイミングt1におけるCO変成部42の温度TBが、安定稼動温度TAよりも高い場合(TB>TA)には、変成反応が開始すると時間経過とともにCO変成部42の温度が低下する。そして、安定化時間Sが経過すると、CO変成部42の温度が安定稼動温度TAと同等の温度に収束して変成反応が継続される。
【0037】
また、図6に示すように、改質開始タイミングt1におけるCO変成部42の温度TBが安定稼動温度TAよりも低い場合(TB<TA)には、変成反応が開始すると時間経過とともにCO変成部42の温度が上昇する。そして、安定化時間Sが経過すると、CO変成部42の温度が安定稼動温度TAと同等の温度に収束して変成反応が継続される。
このように、安定化時間S内におけるCO変成部42の温度変化は、CO変成部42の改質開始タイミングt1における温度TBと、安定稼動温度TAとの関係により異なることになる。
【0038】
ところで、上述したように改質触媒部41やCO変成部42等の触媒部は、熱や被毒等により経時的に劣化して反応効率が低下する性質がある。
図7は、改質触媒部41の初期劣化時(初期劣化状態)における、改質触媒部41の流通方向の位置に対する原料の反応量を示すグラフである。
図7に示すように、改質触媒部41は経時劣化等により上流側から下流側にかけて除々に劣化が進行していく。改質触媒部41の入口付近に劣化箇所が存在する場合には、この劣化箇所では部分酸化が行われず、劣化箇所よりも下流側で反応が行われることになる。そのため、良好状態に比べて入口付近における部分酸化の反応量が減少しており、その後下流側にかけて徐々に反応量は増加していく。すなわち、部分酸化の反応量のピークが良好状態に比べて下流側にシフトする。この場合、部分酸化反応は、改質触媒部41の出口に至るまでの間で完全に反応させることができるが、改質反応は部分酸化に追従して行われるため、改質反応の反応量のピークも下流側にシフトする。その結果、改質触媒部41の出口に至るまでの間に改質反応が完了しないことがある。この場合、部分酸化によりOは完全に除去されるため、改質触媒部41の出口からOは排出されないが、改質反応により反応しきれずに残存したHCが改質触媒部41の出口から排出されることになる。
【0039】
図8は、改質触媒部41の劣化がさらに進行した場合(劣化状態)における、改質触媒部41の流通方向の位置に対する原料の反応量を示すグラフである。
図8に示すように、改質触媒部41の劣化がさらに進行すると、部分酸化の反応量のピークが初期劣化状態に比べてさらに改質触媒部41の下流側にシフトする。この場合、改質触媒部41の出口に至るまでの間に部分酸化が完了せず、HC及びOが改質触媒部41の出口から排出されることになる。これに伴い、改質触媒部41の出口に至るまでの間に改質反応が完了せず、改質反応により反応しきれずに残存したHCが改質触媒部41の出口から排出されることになる。
【0040】
このように、改質触媒部41が劣化している場合、改質ガス中には改質触媒部41で反応しきれなかったHCやOが改質ガス中に残存し、改質ガス中の水素濃度が低下する。その結果、燃料電池11の発電性能が低下するとともに、Oの残存で変成触媒を適温に制御できなくなり、CO濃度を所望まで低減できなくなる虞がある。
【0041】
図9は改質触媒部41の劣化状態における、時間に対するCO変成部42の温度変化を示すグラフである。なお、図9の測定条件は図4に対応している(TA≒TB)。
図9に示すように、改質触媒部41が劣化状態にある場合には、上述したように原料中に含まれるOやHC等が改質触媒部41で反応しきれず、改質ガス中に残存した状態でCO変成部42内に流入する。この時、改質ガス中に含まれるHとOとがCO変成部42内で酸化反応を起こし、CO変成部42内で発熱することで、CO変成部42の温度が急増する。この時、劣化状態にある改質触媒部41で改質された改質ガスをCO変成部42で変成させる場合に検出される温度状況(第2温度状況)は、良好状態の改質触媒部41で改質された改質ガスをCO変成部42で変成させる場合に発生する温度状況(第1温度状況)に比べて高い値を示すことになる。
【0042】
特に、安定化時間S内では、定常状態に比べて改質触媒部41での反応量が少ないため、劣化状態にある改質触媒部41から排出される改質ガス中には、定常状態に比べてより多くのOやHC等が含まれている。すなわち、安定化時間S内では、劣化状態の温度上昇状況がより顕著に表れることになる。その後、改質装置23が定常状態になることで、CO変成部42内のOが酸化反応により減少してき、安定化時間S経過後にCO変成部42の温度が安定稼動温度TAに収束していく。すなわち、安定化時間S内において温度センサ46で検出された温度状況が、改質触媒部41が良好状態の場合に発生する温度状況よりも高い値を示した場合には、改質触媒部41の反応効率が低下し、改質ガス中にOが含まれていることになる。
【0043】
(制御部)
ここで、図1に戻り、上述した制御部45は、温度センサ46で検出されたCO変成部42の温度に基づいて改質触媒部41の状態を判定するようになっており、暖機完了判定手段と、温度状況検出手段と、劣化判定手段と、警告部とを備えている。
【0044】
暖機完了判定手段は、温度センサ46により検出されたCO変成部42の温度に基づいて、改質装置23(CO変成部42)の暖機が完了したか否かを判定するものである。具体的に、暖機完了判定手段には、CO変成部42において変成反応が効率的に行われる範囲である使用可能温度域T1〜T2が記憶されている。そして、暖機完了判定手段は、温度センサ46により検出されたCO変成部42の温度が使用可能温度域T1〜T2にある場合に、CO変成部42の暖機が完了したと判定する。
【0045】
温度状況検出手段は、温度センサ46により検出されたCO変成部42の温度情報に基づいて、CO変成部42の安定化時間Sの所定時間帯(以下、ピーク発生時間帯S1という)で検出されるCO変成部42の温度状況を検出する。本実施形態において、温度状況検出手段は、ピーク発生時間帯S1で検出される温度状況のうち、ピーク温度(最高温度)TPを検出するようになっている。なお、ピーク発生時間帯S1とは、安定化時間S中のピーク温度TPが発生する時間帯のことである。このピーク発生時間帯S1の設定は、まず劣化状態にある改質触媒部41を用いて複数回に亘ってサンプリングを行い、このサンプリング結果に基づいてのピーク温度TPの発生時間(例えば、改質開始タイミングt1から10秒後等)のデータを算出する。そして、この発生時間データから所定範囲(例えば、±50%)まで許容した時間帯を、ピーク発生時間帯S1として設定されている。
【0046】
ここで、温度上昇類型は、良好な触媒による温度上昇の様子をパターン(類型)として捉えたものであり、また劣化した触媒による温度上昇の様子をパターン(類型)として捉えたものである。
そして、劣化判定手段は、上述した温度上昇類型のうち、何れの類型であるかを特定することで改質触媒部41の劣化を判定している。何れの類型であるかの特定手法として、劣化の無い良好状態の改質触媒部41で改質された改質ガスをCO変成部42で触媒反応させる際のCO変成部42の第1温度状況と、劣化状態の改質触媒部41で改質された改質ガスをCO変成部42で触媒反応させる際のCO変成部42の第2温度状況とを区別することができればよい。この区別のためには、例えば、ピーク発生時間帯S1内での温度累積値(積分値)を温度状況として捉え、これが規定の値を超えるか否かにより第1温度状況と第2温度状況とに区別することで、何れの類型かを特定するものが考えられる。本実施形態では、この類型の特定について、ピーク発生時間帯S1のピーク温度(第1最高温度、第2最高温度)TPを見ることにより、何れの類型にあるかを判定できることが確認できた。具体的には、ピーク発生時間帯S1内に検出されたピーク温度TPが規定の閾値TSより高いか低いかを確認することで、何れの類型にあるかを特定できる。高ければ劣化状態であり(TP>TS)、低ければ良好状態となる。なお、閾値TSは、良好状態のピーク温度に対して所定の割合(例えば、5%程度)を乗じた値に設定されている。また、図4〜6に示すように、良好状態のピーク温度とは、安定稼動温度TAとほぼ変わりないことがわかる。このように、ピーク発生時間帯S1において、良好状態の時に検出されるピーク温度と、劣化状態の時に検出されるピーク温度TPとを区別しうるように閾値TSを設定することで、劣化判定時における誤判定を防ぎ、後述する劣化判定ステップにおいて改質触媒部41の劣化状態を正確に判定することができる。
【0047】
なお、制御部45は、劣化判定手段の判定結果に基づいて、ユーザーに対して警告情報を出力する警告部を有している。具体的に、警告部には、改質触媒部41が劣化状態にある場合に、劣化判定手段から判定結果が出力されるようになっており、この判定結果に基づいてユーザーに対して警告情報を出力する。
【0048】
(燃料電池システムの動作方法)
次に、図10のフローチャートに基づいて、上述した燃料電池システム10の動作方法について説明する。
まず、ステップS1において改質装置23を暖機して、CO変成部42の温度が上述した使用可能温度域T1〜T2間になるように温度調整する。
次に、ステップS2において、暖機が完了したか否かの判断を行う。具体的には、制御部45は温度センサ46で検出されたCO変成部42の温度が、使用可能温度域T1〜T2間に収まっているか否かの判定を行う。
【0049】
ステップS2における判断結果が「YES」の場合、暖機が完了したと判断してステップS3に進む。
一方、ステップS2における判断結果が「NO」の場合には、暖機が未だ完了していないと判断して、ステップS1に戻って暖機を継続する。
【0050】
次に、ステップS3において、原料供給部21から改質装置23に向けて原料を供給する。すると、原料供給部21から供給された原料は、上述したように蒸発器22内で気化された後、改質装置23内に供給される。
【0051】
ここで、ステップS4において、温度センサ46により検出されたCO変成部42の温度情報に基づいて、CO変成部42のピーク発生時間帯S1で検出されるCO変成部42のピーク温度TPを検出する。
そして、ステップS5において、ピーク発生時間帯S1におけるCO変成部42のピーク温度TPが、閾値TSより高いか否かを判定し、CO変成部42の温度上昇類型を特定する(劣化判定ステップ)。
ステップS5における判定結果が「NO」の場合(ピーク温度TP<閾値TSの場合)は、劣化判定手段はCO変成部42の温度上昇類型が、良好状態の改質触媒部41のものであると判定してフローを終了する。この場合、改質触媒部41が良好状態であるため、改質装置23内で効率的な反応が行われる結果、OやHC、CO等を含まない水素リッチな改質ガスを生成することができる。
そして、燃料電池11において、カソードガス供給手段12から供給されたカソードガスと、改質装置23で改質されたアノードガスとにより上述したような発電が行われる。
【0052】
一方、上述したステップS5における判定結果が「YES」の場合(ピーク温度TP≧閾値TSの場合)、劣化判定手段はCO変成部42の温度上昇類型が、劣化状態の改質触媒部41のものであると判定し、ステップS6に進む。CO変成部42の温度上昇類型から改質触媒部41が劣化していると判定されると、ステップS6において、劣化判定手段から警告部に向けて警告信号が出力される(警告ステップ)。警告信号を受信した警告部は、ユーザーに向けて警告情報を出力するようになっている。これにより、ユーザーは改質触媒部41の劣化を速やかに認識することができ、改質触媒部41を最適なタイミングで交換することができる。
【0053】
このように、本実施形態では、制御部45の劣化判定手段において、温度センサ46で検出されたピーク温度TPから、改質触媒部41が劣化しているか否かを判定する構成とした。
この構成によれば、燃料電池システム10(改質装置23)の作動時において、温度センサ46で検出される実測値の温度(ピーク温度TP)に基づいて改質触媒部41の劣化判定を行うことで、上述した従来の第1方法に比べて改質触媒部41の劣化状態を正確に判定することができる。これにより、改質触媒部41の最適な交換タイミングを判断することができるので、改質触媒部41による良好な改質反応が得られる期間(使用可能期間)内において、改質触媒部41を効率的に使用し続けることができる。その結果、改質触媒部41の交換頻度を減少させ、ランニングコストを低下させることができる。また、燃料電池システム10の作動中に予期せぬ事故が発生した場合等には、これに連動するように温度センサ65で検出されるピーク温度TPも変動する。そのため、改質触媒部41の劣化時期が初期状態から変動した場合であっても、改質触媒部41の劣化判定に誤差が生じることはなく、改質触媒部41の劣化状態を正確に判定することができる。
その結果、水素リッチなアノードガスを常時燃料電池11に供給することができるため、燃料電池11の発電性能の低下を防止できるとともに、燃料電池11に悪影響を及ぼす虞がない。
【0054】
特に、本実施形態では、CO変成部42に従来から設置されている温度センサ46を用いて、改質触媒部41の劣化判定を行うことができるので、上述した従来技術のうち、第2方法のように改質触媒部41に新たに温度センサを設置する必要がない。これにより、部品点数を維持することができるとともに、装置コストの増加を防止することができる。
【0055】
しかも、本実施形態では、定常状態に比べて反応量が少ない安定化時間S内で劣化判定を行うことで、劣化状態の温度上昇状況がより顕著に表れることになる。そのため、改質触媒部41の劣化状態を高精度に検出することができる。
また、安定化時間S内におけるピーク発生時間帯S1を予め特定しておき、ピーク発生時間帯S1で検出されたピーク温度TPのみに基づいて劣化判定を行うことで、安定化時間S内全体を常時モニタリングする場合に比べて、より効率的な制御を行うことができる。
【0056】
図11,12は改質触媒部41の劣化状態における、時間に対するCO変成部42の温度変化を示すグラフである。なお、図11,12の測定条件は図5,6に対応しており、図11はTB>TAの場合、図12はTB<TAの場合を示している。
なお、上述したように改質装置23(CO変成部42)の暖機は、燃料電池システム10のその他の構成部材と共用して行われるため、燃料電池システム10内での改質装置23のレイアウトや、使用環境等の条件によって、暖機完了時の改質装置23の温度が使用可能温度域T1〜T2内で変動する。
この場合も、図11,12に示すように、上述したTB≒TAの場合と同様に、安定化時間Sを経過するまでの間に、CO変成部42の温度が上昇する温度状況(ピーク温度TP)が検出される。この場合、改質開始タイミングt1における温度TBによって、ピーク温度TPやピーク温度が発生する発生時間帯はそれぞれ異なる。
【0057】
そこで、ピーク発生時間帯S1におけるピーク温度TPを、図9〜11に示すような改質開始タイミングt1における温度TBと安定稼動温度TAとの関係に応じて温度上昇類型を特定する閾値TSを複数設定することが好ましい。そして、改質開始タイミングt1における温度TBと安定稼動温度TAとの関係に応じて、劣化判定手段に記憶された複数の閾値TSの中から最適な閾値TSを選択することで、様々な条件化において最適な温度上昇類型を特定することができるので、高精度な制御が可能になる。
【0058】
なお、本発明の技術範囲は上述した実施形態に限られるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲において、上述した実施形態に種々の変更を加えたものを含む。すなわち、実施形態で挙げた具体的な構造や形状などはほんの一例に過ぎず、適宜変更が可能である。
例えば、上述した実施形態では、良好状態におけるCO変成部42のピーク温度に対して所定の割合を乗じた値を閾値として設定したが、これに限らず、例えば良好状態におけるCO変成部42のピーク温度と劣化状態のCO変成部42のピーク温度との温度上昇率(温度勾配)を閾値としても構わない。
【0059】
また、改質触媒部41の劣化状態を判定するための閾値を複数段設定しても構わない。例えば、初期劣化を判定するための初期劣化閾値や、初期劣化閾値よりも高い値に設定され、改質触媒部41の交換を促すための交換閾値、交換閾値よりも高い値に設定され、改質触媒部41の起動不可状態であることを促す起動不可閾値等を劣化判定手段に記憶させ、それぞれの温度上昇類型を特定するように設定してもよい。この場合、温度センサ46で検出されたピーク温度が各閾値よりも高いか否かを劣化判定手段によってそれぞれ判定させることで、改質触媒部41の経時的な劣化状態を細かく判定することができるため、より高精度な制御を行うことが可能である。
【0060】
また、改質装置23を供給される原料の流量に応じた複数の閾値を劣化判定手段に記憶させておき、原料の流量に基づいて閾値を選択するような構成にしても構わない。
【符号の説明】
【0061】
41…改質触媒部 42…CO変成部(一酸化炭素変成部) 45…制御部 46…温度センサ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
炭化水素系の燃料と酸素及び水蒸気との混合原料が供給され、オートサーマル用触媒を用いて前記混合原料を水素リッチな改質ガスに改質する改質触媒部と、
前記改質触媒部で生成された前記改質ガスが供給され、水性ガスシフト用触媒を用いて前記改質ガス中の一酸化炭素を変成させる一酸化炭素変成部と、
前記一酸化炭素変成部の温度を検出する温度センサと、
前記温度センサで検出された温度を用いて前記改質触媒部の状態を判定する制御部と、を備えた改質装置の劣化判定方法であって、
前記改質触媒部及び前記一酸化炭素変成部の暖機終了後において、前記混合原料の投入開始から前記改質触媒部及び前記一酸化炭素変成部の反応状態が安定するまでの安定化時間内における前記一酸化炭素変成部の温度状況を検出する温度状況検出ステップと、
前記制御部の劣化判定手段に予め記憶された前記一酸化炭素変成部の温度上昇類型に基づいて、前記改質触媒部が劣化状態であるか否かを判定するための劣化判定ステップとを有し、
前記劣化判定ステップでは、前記温度検出ステップで検出された温度状況から前記温度上昇類型を特定し、前記改質触媒部の劣化を判定することを特徴とする改質装置の劣化判定方法。
【請求項2】
前記温度上昇類型は、劣化の無い前記改質触媒部で改質された前記改質ガスを前記一酸化炭素変成部で触媒反応させる際の第1温度状況と、
劣化した前記改質触媒部で改質された前記改質ガスを前記一酸化炭素変成部で触媒反応させる際の第2温度状況と、を区別することで特定されることを特徴とする請求項1記載の改質装置の劣化判定方法。
【請求項3】
前記温度上昇類型は、前記安定化時間内における所定時間帯で検出された前記第1温度状況のうち、第1最高温度と、
前記安定化時間内における所定時間帯で検出された前記第2温度状況のうち、第2最高温度と、を区別することで特定されることを特徴とする請求項2記載の改質装置の劣化判定方法。
【請求項4】
前記所定時間帯は、前記安定化時間内における前記第2最高温度の発生時間帯を予め複数回測定し、これら測定結果に基づいて定められていることを特徴とする請求項3記載の改質装置の劣化判定方法。
【請求項5】
前記温度上昇類型は、前記第1最高温度に対して、所定の割合を乗じた値を用いて特定されることを特徴とする請求項2ないし請求項4の何れか1項に記載の改質装置の劣化判定方法。
【請求項6】
前記温度上昇類型は、前記劣化判定手段に予め記憶された複数の温度上昇の閾値のうち、前記改質触媒部及び前記一酸化炭素変成部の暖機終了後から前記改質触媒部及び前記一酸化炭素変成部の反応状態が安定するまでの温度変化に応じ、前記温度上昇の閾値を選択して用いることで特定されることを特徴とする請求項1ないし請求項5の何れか1項に記載の改質装置の劣化判定方法。
【請求項7】
前記劣化判定ステップで前記改質触媒部が劣化していると判定された場合に、前記改質触媒部の劣化を示す警告情報を出力する警告ステップを有していることを特徴とする請求項1ないし請求項6の何れか1項に記載の改質装置の劣化判定方法。
【請求項8】
炭化水素系の燃料と酸素及び水蒸気との混合原料が供給され、オートサーマル用触媒を用いて前記混合原料を水素リッチな改質ガスに改質する改質触媒部と、
前記改質触媒部で生成された前記改質ガスが供給され、水性ガスシフト用触媒を用いて前記改質ガス中の一酸化炭素を変成させる一酸化炭素変成部と、
前記一酸化炭素変成部の温度を検出する温度センサと、
前記温度センサで検出された温度を用いて前記改質触媒部の状態を判定する制御部と、を備えた改質装置であって、
前記制御部は、前記改質触媒部及び前記一酸化炭素変成部の暖機終了後において、前記混合原料の投入開始から前記改質触媒部及び前記一酸化炭素変成部の反応状態が安定するまでの安定化時間内における前記一酸化炭素変成部の温度状況を検出する温度状況検出手段と、
前記改質触媒部が劣化状態であるか否かを判定するための前記一酸化炭素変成部の温度上昇類型が予め記憶された劣化判定手段を備え、
前記劣化判定手段は、前記温度状況検出手段で検出された温度状況から前記温度上昇類型を特定し、前記改質触媒部の劣化を判定することを特徴とする改質装置。
【請求項9】
前記制御部は、前記劣化判定手段により前記改質触媒部が劣化していると判定された場合に、前記改質触媒部の劣化を示す警告情報を出力する警告部を有していることを特徴とする請求項8記載の改質装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【公開番号】特開2011−21938(P2011−21938A)
【公開日】平成23年2月3日(2011.2.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−165694(P2009−165694)
【出願日】平成21年7月14日(2009.7.14)
【出願人】(000005326)本田技研工業株式会社 (23,863)
【Fターム(参考)】