放射線検出器および放射線検出器の記録用光導電層の製造方法
【課題】放射線検出器を高い電子輸送性を維持したまま、正孔輸送性を大きく向上することができるものとする。
【解決手段】記録用光導電層の両側に電極が設けられ、該電極間に所定のバイアス電圧を印加した状態で、放射線の照射を受けることにより前記記録用光導電層内部に発生した電荷を電気信号として検出する放射線検出器において、記録用光導電層に1.95±0.02の配位数を有するアモルファスセレンを用いる。
【解決手段】記録用光導電層の両側に電極が設けられ、該電極間に所定のバイアス電圧を印加した状態で、放射線の照射を受けることにより前記記録用光導電層内部に発生した電荷を電気信号として検出する放射線検出器において、記録用光導電層に1.95±0.02の配位数を有するアモルファスセレンを用いる。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、X線などの放射線撮像装置に適用して好適な放射線検出器およびその製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
今日、医療診断等を目的とするX線(放射線)撮影において、X線画像情報記録手段として放射線検出器(半導体を主要部とするもの)を用いて、この検出器により被写体を透過したX線を検出して被写体に関するX線画像を表す画像信号を得るX線撮影装置が各種提案、実用化されている。
【0003】
この装置に使用される放射線検出器としても、種々の方式が提案されている。例えば、X線を電荷に変換する電荷生成プロセスの面からは、X線が照射されることにより蛍光体から発せられた蛍光を光導電層で検出して得た信号電荷を蓄電部に一旦蓄積し、蓄積電荷を画像信号(電気信号)に変換して出力する光変換方式(間接変換方式)の検出器、或いは、X線が照射されることにより光導電層内で発生した信号電荷を電荷収集電極で集めて蓄電部に一旦蓄積し、蓄積電荷を電気信号に変換して出力する直接変換方式の検出器等がある。
【0004】
一方、蓄積された電荷を外部に読み出す電荷読出プロセスの面からは、読取光(読取用の電磁波)を検出器に照射して読み出す光読出方式のものや、蓄電部と接続されたTFT(薄膜トランジスタ)を走査駆動して読み出すTFT読出方式のもの等がある。
【0005】
上述した放射線検出器は、この放射線検出器内に設けられた電荷生成層にX線を照射することによって、X線エネルギーに相当する電荷を生成し、生成した電荷を電気信号として読み出すようにしたものであって、上記光導電層は電荷生成層として機能する。従来より、この光導電層としてはアモルファスセレン(a−Se)、PbO、PbI2、HgI2、BiI3、Cd(Zn)Teなどの材料が使用されている。
【0006】
上記アモルファスセレンは、真空蒸着法等の薄膜形成技術を利用して容易に大面積化に対応が可能であるが、アモルファスゆえの構造欠陥を多く含む傾向があるため、感度が劣化しやすい。そこで、性能を改善するために、適量の不純物を添加(ドーピング)することが一般的に行われており、例えば、特許文献1にはアルカリ金属を0.01〜10ppmドーピングしたアモルファスセレンを利用した記録用光導電層が、特許文献2には、アルカリ金属としてNaを70ppmドーピングしたアモルファスセレンを利用した記録用光導電層が、それぞれ記載されている。
一方、特許文献3には一般的なセレンの蒸着方法が記載されている。
【特許文献1】特開2003−315464号公報
【特許文献2】特開2001−244492号公報
【特許文献3】特開昭58−19471号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
従来、アモルファスセレンはP型半導体であることから正孔輸送性は充分であって、放射線検出器として高感度を得るには電子輸送性向上が課題であると考えられており、上記特許文献1および2においてもアモルファスセレンにナトリウムをドープすることで電子輸送性を向上させていた。これはアモルファスセレンの荷電欠陥のうち電子捕獲中心を減少させる効果によるものであった。
【0008】
しかし、さらなる感度向上のためには、発生キャリアを両電極へ輸送するために電子輸送性向上のみではなく、正孔輸送性をも向上させる必要がある。本発明者が鋭意検討を行ったところ、アモルファスセレンの配位数を一定値とすることにより、高い電子輸送性を維持したまま、正孔輸送性を大きく向上させることができることがわかった。
【0009】
すなわち、本発明は上記事情に鑑みなされたものであり、高い電子輸送性を維持したまま、正孔輸送性を大きく向上することが可能な放射線検出器およびその放射線検出器の記録用光導電層の製造方法を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の放射線検出器は、記録用光導電層の両側に電極が設けられ、該電極間に所定のバイアス電圧を印加した状態で、放射線の照射を受けることにより前記記録用光導電層内部に発生した電荷を電気信号として検出する放射線検出器において、前記記録用光導電層が1.95±0.02の配位数を有するアモルファスセレンであることを特徴とするものである。
【0011】
1.95±0.02の配位数を有するアモルファスセレンとは、セレンに対して配位するセレンの原子数が1.95±0.02であることを意味する。
【0012】
前記放射線検出器が、記録用の放射線に対して透過性を有する第1の導電体層、記録用の放射線の照射を受けることにより光導電性を呈する記録用光導電層、読取用電磁波の照射を受けることにより光導電性を呈する読取用光導電層、前記読取用電磁波に対して透過性を有する第2の導電体層をこの順に積層してなる放射線画像情報を静電潜像として記録する放射線検出器である場合には、前記読取用光導電層も1.95±0.02の配位数を有するアモルファスセレンであることが好ましい。
【0013】
本発明の記録用光導電層の製造方法は、記録用光導電層の両側に電極が設けられ、該電極間に所定のバイアス電圧を印加した状態で、放射線の照射を受けることにより前記記録用光導電層内部に発生した電荷を電気信号として検出する放射線検出器の前記記録用光導電層の製造方法であって、所定量のアルカリ金属を含むセレンを収容した蒸着容器を加熱し、セレンの融点〜243℃の範囲に温度制御されたメッシュを通して、前記アルカリ金属を含むセレンを蒸着することにより前記記録用光導電層を形成することを特徴とするものである。
【0014】
本発明の記録用光導電層の製造方法の別の態様は、記録用光導電層の両側に電極が設けられ、該電極間に所定のバイアス電圧を印加した状態で、放射線の照射を受けることにより前記記録用光導電層内部に発生した電荷を電気信号として検出する放射線検出器の前記記録用光導電層の製造方法であって、アルカリ金属を含まないセレンを収容した、アルカリ金属を含有する化合物で改質された蒸着容器を加熱し、セレンの融点〜243℃の範囲に温度制御されたメッシュを通して、前記アルカリ金属を含む前記セレンを蒸着することにより前記記録用光導電層を形成することを特徴とするものである。
【0015】
本発明の記録用光導電層の製造方法における前記アルカリ金属は、ナトリウムであることが好ましい。
【発明の効果】
【0016】
本発明の放射線検出器は、記録用光導電層の両側に電極が設けられ、該電極間に所定のバイアス電圧を印加した状態で、放射線の照射を受けることにより前記記録用光導電層内部に発生した電荷を電気信号として検出する放射線検出器において、前記記録用光導電層が1.95±0.02の配位数を有するアモルファスセレンであるため、高い電子輸送性を維持したまま、正孔輸送性を大きく向上させることができる。
【0017】
本発明の記録用光導電層の製造方法は、所定量のアルカリ金属を含むセレンを収容した蒸着容器を加熱し、セレンの融点〜243℃の範囲に温度制御されたメッシュを通して、前記アルカリ金属を含むセレンを蒸着することにより記録用光導電層を形成するので、別の態様として、アルカリ金属を含まないセレンを収容した、アルカリ金属を含有する化合物で改質された蒸着容器を加熱し、セレンの融点〜243℃の範囲に温度制御されたメッシュを通して、前記アルカリ金属を含む前記セレンを蒸着することにより記録用光導電層を形成するので、1.95±0.02の配位数を有するアモルファスセレンからなる記録用光導電層を製造することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
放射線検出器には、放射線を直接電荷に変換し電荷を蓄積する直接変換方式と、放射線を一度CsI:Tl、Gd2O2S:Tbなどのシンチレータで光に変換し、その光をa−Siフォトダイオードで電荷に変換し蓄積する間接変換方式があるが、本発明の放射線検出器は、前者の直接変換方式にも、間接変換型の光-電子変換層にも用いることができる。なお、放射線としてはX線の他、γ線、α線などについて使用することが可能である。
【0019】
また、本発明の放射線検出器は、光の照射により電荷を発生する半導体材料を利用した放射線画像検出器により読み取る、いわゆる光読取方式にも、また、放射線の照射により発生した電荷を蓄積し、その蓄積した電荷を薄膜トランジスタ(thin film transistor:TFT)などの電気的スイッチを1画素ずつON・OFFすることにより読み取る方式(以下、TFT方式という)にも用いることができる。
【0020】
まず、前者の光読取方式に用いられる放射線検出器を例にとって説明する。図1は本発明の放射線検出器の一実施の形態を示す断面図を示すものである。
【0021】
この放射線検出器10は、後述する記録用の放射線L1に対して透過性を有する第1の導電層1、この導電層1を透過した放射線L1の照射を受けることにより導電性を呈する記録用放射線導電層2、導電層1に帯電される電荷(潜像極性電荷;例えば負電荷)に対しては略絶縁体として作用し、かつ、電荷と逆極性の電荷(輸送極性電荷;上述の例においては正電荷)に対しては略導電体として作用する電荷輸送層3、後述する読取用の読取光L2の照射を受けることにより導電性を呈する読取光導電層4、電磁波L2に対して透過性を有する第2の導電層5を、順に積層してなるものである。
【0022】
ここで、導電層1および5としては、例えば、透明ガラス板上に導電性物質を一様に塗布したもの(ネサ皮膜等)、より具体的には、多結晶ITO(In2O3:Sn)、アモルファスITO(In2O3:Sn)、アモルファスIZO(In2O3:Zn)、ATO(SnO2:Sb)、FTO(SnO2:F)、AZO(ZnO:Al)、GZO(ZnO:Ga)、金、銀、白金、アルミニウム、インジウム等の薄膜、10〜1000nm程度のサイズからなる貴金属(白金、金、銀)の分散物の塗布膜等が好ましい。
【0023】
電荷輸送層3としては、導電層1に帯電される負電荷の移動度と、その逆極性となる正電荷の移動度の差が大きい程良く、ポリN−ビニルカルバゾール(PVK)、N,N'−ジフェニル−N,N'−ビス(3−メチルフェニル)−〔1,1'−ビフェニル〕−4,4'−ジアミン(TPD)やディスコティック液晶等の有機系化合物、或いはTPDのポリマー(ポリカーボネート、ポリスチレン、PVK、ポリビニルアルコール)分散物,As2Se3、Sb2S3、シリコンオイル、Clを10〜200ppmドープしたa−Se等の半導体物質、ポリカーボネートが適当である。特に、有機系化合物(PVK,TPD、ディスコティック液晶等)は光不感性を有するため好ましく、また、誘電率が一般に小さいため電荷輸送層3と読取光導電層4の容量が小さくなり読み取り時の信号取り出し効率を大きくすることができる。
【0024】
読取光導電層4には、a−Se,Clを10〜200ppmドープしたa−Se、Se−Te,Se−As−Te,As2Se3、無金属フタロシアニン,金属フタロシアニン,MgPc( Magnesium phtalocyanine),VoPc(phaseII of Vanadyl phthalocyanine),CuPc(Cupper phtalocyanine)、Bi12MO20 (M:Ti、Si、Ge)、Bi4M3O12 (M:Ti、Si、Ge)、Bi2O3、BiMO4(M:Nb、Ta、V)、Bi2WO6、Bi24B2O39、ZnO、ZnS、ZnSe、ZnTe,MNbO3(M:Li、Na、K)、PbO,HgI2、PbI2 ,CdS、CdSe、CdTe、BiI3等のうち少なくとも1つを主成分とする光導電性物質を用いることができるが、1.95±0.02の配位数を有するアモルファスセレンが好適である。
【0025】
記録用放射線導電層2は、1.95±0.02の配位数を有するアモルファスセレンである。記録用放射線導電層2の厚みは、100μm以上2000μm以下であることが好ましい。特にマンモグラフィ用途では150μm以上250μm以下、一般撮影用途においては500μm以上1200μm以下の範囲であることが特に好ましい。
【0026】
なお、第1の導電層と記録用放射線導電層2との間に、電子注入阻止層があってもよい。電子注入阻止層としては、硫化アンチモン、N,N'−ジフェニル−N,N'−ビス(3−メチルフェニル)−〔1,1'−ビフェニル〕−4,4'−ジアミン(TPD)が用いられる。また、読取光導電層4と第2の導電層5の間に、正孔注入阻止層があってもよい。正孔注入阻止層としては、酸化セリウム、硫化アンチモン、硫化亜鉛が用いられる。
【0027】
続いて、静電潜像を読み取るために光を用いる方式について簡単に説明する。図2は放射線検出器10を用いた記録読取システム(静電潜像記録装置と静電潜像読取装置を一体にしたもの)の概略構成図を示すものである。この記録読取システムは、放射線検出器10、記録用照射手段90、電源50、電流検出手段70、読取用露光手段92並びに接続手段S1、S2とからなり、静電潜像記録装置部分は放射線検出器10、電源50、記録用照射手段90、接続手段S1とからなり、静電潜像読取装置部分は放射線検出器10、電流検出手段70、接続手段S2とからなる。
【0028】
放射線検出器10の導電層1は接続手段S1を介して電源50の負極に接続されるとともに、接続手段S2の一端にも接続されている。接続手段S2の他端の一方は電流検出手段70に接続され、放射線検出器10の導電層5、電源50の正極並びに接続手段S2の他端の他方は接地されている。電流検出手段70はオペアンプからなる検出アンプ70aと帰還抵抗70b とからなり、いわゆる電流電圧変換回路を構成している。
【0029】
導電層5は、特開2001-337171号や特開2001−160922号記載の構造のものであってもよい。
【0030】
導電層1の上面には被写体9が配設されており、被写体9は放射線L1に対して透過性を有する部分9aと透過性を有しない遮断部9bが存在する。記録用照射手段90は放射線L1を被写体9に一様に曝射するものであり、読取用露光手段92はレーザ光やLED、有機EL、無機EL等の読取光L2を図3中の矢印方向へ走査露光するものであり、読取光L2は直線状に収束された形状をしていることが望ましい。
【0031】
以下、上記構成の記録読取システムにおける静電潜像記録過程について電荷モデル(図3)を参照しながら説明する。図2において接続手段S2を開放状態(接地、電流検出手段70の何れにも接続させない)にして、接続手段S1をオンし導電層1と導電層5との間に電源50による直流電圧Edを印加し、電源50から負の電荷を導電層1に、正の電荷を導電層5に帯電させる(図3(A)参照)。これにより、放射線検出器10には導電層1と5との間に平行な電場が形成される。
【0032】
次に記録用照射手段90から放射線L1を被写体9に向けて一様に曝射する。放射線L1は被写体9の透過部9aを透過し、さらに導電層1をも透過する。放射線導電層2はこの透過した放射線L1を受け導電性を呈するようになる。これは放射線L1の線量に応じて可変の抵抗値を示す可変抵抗器として作用することで理解され、抵抗値は放射線L1によって電子(負電荷)とホール(正電荷)の電荷対が生じることに依存し、被写体9を透過した放射線L1の線量が少なければ大きな抵抗値を示すものである(図3(B)参照)。なお、放射線L1によって生成される負電荷(−)および正電荷(+)を、図面上では−または+を○で囲んで表している。
【0033】
放射線導電層2中に生じた正電荷は放射線導電層2中を導電層1に向かって高速に移動し、導電層1と放射線導電層2との界面で導電層1に帯電している負電荷と電荷再結合して消滅する(図3(C),(D)を参照)。一方、放射線導電層2中に生じた負電荷は放射線導電層2中を電荷輸送層3に向かって移動する。電荷輸送層3は導電層1に帯電した電荷と同じ極性の電荷(本例では負電荷)に対して絶縁体として作用するものであるから、放射線導電層2中を移動してきた負電荷は放射線導電層2と電荷輸送層3との界面で停止し、この界面に蓄積されることになる(図3(C),(D)を参照)。本発明の放射線検出器においては、記録用光導電層が1.95±0.02の配位数を有するアモルファスセレンであるため、高い電子輸送性を維持したまま、正孔輸送性を大きく向上させることができる。蓄積される電荷量は放射線導電層2中に生じる負電荷の量、即ち、放射線L1の被写体9を透過した線量によって定まるものである。
【0034】
一方、放射線L1は被写体9の遮断部9bを透過しないから、放射線検出器10の遮断部9bの下部にあたる部分は何ら変化を生じない( 図3(B)〜(D)を参照)。このようにして、被写体9に放射線L1を曝射することにより、被写体像に応じた電荷を放射線導電層2と電荷輸送層3との界面に蓄積することができるようになる。なお、この蓄積せしめられた電荷による被写体像を静電潜像という。
【0035】
次に静電潜像読取過程について電荷モデル(図4)を参照しつつ説明する。接続手段S1を開放し電源供給を停止すると共に、S2を一旦接地側に接続し、静電潜像が記録された放射線検出器10の導電層1および5を同電位に帯電させて電荷の再配列を行った後に(図4(A)参照)、接続手段S2を電流検出手段70側に接続する。
【0036】
読取用露光手段92により読取光L2を放射線検出器10の導電層5側に走査露光すると、読取光L2は導電層5を透過し、この透過した読取光L2が照射された光導電層4は走査露光に応じて導電性を呈するようになる。これは上記放射線導電層2が放射線L1の照射を受けて正負の電荷対が生じることにより導電性を呈するのと同様に、読取光L2の照射を受けて正負の電荷対が生じることに依存するものである(図4(B)参照)。なお、記録過程と同様に、読取光L2によって生成される負電荷(−)および正電荷(+)を、図面上では−または+を○で囲んで表している。
【0037】
電荷輸送層3は正電荷に対しては導電体として作用するものであるから、光導電層4に生じた正電荷は蓄積電荷に引きつけられるように電荷輸送層3の中を急速に移動し、放射線導電層2と電荷輸送層3との界面で蓄積電荷と電荷再結合し消滅する(図4(C)参照)。一方、光導電層4に生じた負電荷は導電層5の正電荷と電荷再結合し消滅する(図4(C)参照)。光導電層4は読取光L2により十分な光量でもって走査露光されており、放射線導電層2と電荷輸送層3との界面に蓄積されている蓄積電荷、即ち静電潜像が全て電荷再結合により消滅せしめられる。本発明の放射線検出器においては、記録用光導電層が1.95±0.02の配位数を有するアモルファスセレンであるため、高い電子輸送性を維持したまま、正孔輸送性を大きく向上させることができる。このように、放射線検出器10に蓄積されていた電荷が消滅するということは、放射線検出器10に電荷の移動による電流Iが流れたことを意味するものであり、この状態は放射線検出器10を電流量が蓄積電荷量に依存する電流源で表した図4(D)のような等価回路でもって示すことができる。
【0038】
このように、読取光L2を走査露光しながら、放射線検出器10から流れ出す電流を検出することにより、走査露光された各部(画素に対応する)の蓄積電荷量を順次読み取ることができ、これにより静電潜像を読み取ることができる。なお、本放射線検出部動作については特開2000-105297号等に記載されている。
【0039】
次に、後者のTFT方式の放射線検出器について説明する。この放射線検出器は、図5に示すように放射線検出部100とアクティブマトリックスアレイ基板(以下AMA基板)200が接合された構造となっている。図6に示すように放射線検出部100は大きく分けて放射線入射側から順に、バイアス電圧印加用の共通電極103と、検出対象の放射線に感応して電子−正孔対であるキャリアを生成する光導電層104と、キャリア収集用の検出電極107とが積層形成された構成となっている。共通電極の上層には放射線検出部支持体を有していてもよい。
【0040】
光導電層104は本発明の記録用光導電層が1.95±0.02の配位数を有するアモルファスセレンである。共通電極103や検出電極107は、例えばITO(インジウム錫酸化物)や、AuあるいはPtなどの導電材料からなる。バイアス電圧の極性に応じて、正孔注入阻止層、電子注入阻止層が共通電極103や検出電極107に付設されていてもよい。正孔注入阻止層としては、酸化セリウム、硫化アンチモン、硫化亜鉛、電子注入阻止層としては、硫化アンチモン、N,N'−ジフェニル−N,N'−ビス(3−メチルフェニル)−〔1,1'−ビフェニル〕−4,4'−ジアミン(TPD)が用いられる。
【0041】
AMA基板200の各部の構成について簡単に説明する。AMA基板200は図7に示すように、画素相当分の放射線検出部105の各々に対して電荷蓄積容量であるコンデンサ210とスイッチング素子としてTFT220とが各1個ずつ設けられている。支持体102においては、必要画素に応じて縦1000〜3000×横1000〜3000程度のマトリックス構成で画素相当分の放射線検出部105が2次元配列されており、また、AMA基板200においても、画素数と同じ数のコンデンサ210およびTFT220が、同様のマトリックス構成で2次元配列されている。光導電層で発生した電荷はコンデンサ210に蓄積され、光読取方式に対応して静電潜像となる。TFT方式においては、放射線で発生した静電潜像は電荷蓄積容量に保持される。
【0042】
AMA基板200におけるコンデンサ210およびTFT220の具体的構成は、図6に示す通りである。すなわち、AMA基板支持体230は絶縁体であり、その表面に形成されたコンデンサ210の接地側電極210aとTFT220のゲート電極220aの上に絶縁膜240を介してコンデンサ210の接続側電極210bとTFT220のソース電極220bおよびドレイン電極220cが積層形成されているのに加え、最表面側が保護用の絶縁膜250で覆われた状態となっている。また接続側電極210bとソース電極220bはひとつに繋がっており同時形成されている。コンデンサ210の容量絶縁膜およびTFT220のゲート絶縁膜の両方を構成している絶縁膜240としては、例えば、プラズマSiN膜が用いられる。このAMA基板200は、液晶表示用基板の作製に用いられるような薄膜形成技術や微細加工技術を用いて製造される。
【0043】
続いて放射線検出部100とAMA基板200の接合について説明する。検出電極107とコンデンサ210の接続側電極210bを位置合わせした状態で、両基板100、200を銀粒子などの導電性粒子を含み厚み方向のみに導電性を有する異方導電性フィルム(ACF)を間にして加熱・加圧接着して貼り合わせることで、両基板100、200が機械的に合体されると同時に、検出電極107と接続側電極210bが介在導体部140によって電気的に接続される。
【0044】
さらに、AMA基板200には、読み出し駆動回路260とゲート駆動回路270とが設けられている。読み出し駆動回路260は、図7に示すように、列が同一のTFT220のドレイン電極を結ぶ縦(Y)方向の読み出し配線(読み出しアドレス線)280に接続されており、ゲート駆動回路270は行が同一のTFT220のゲート電極を結ぶ横(X)方向の読み出し線(ゲートアドレス線)290に接続されている。なお、図示しないが、読み出し駆動回路260内では、1本の読み出し配線280に対してプリアンプ(電荷−電圧変換器)が1個それぞれ接続されている。このように、AMA基板200には、読み出し駆動回路260とゲート駆動回路270とが接続されている。ただし、AMA基板200内に読み出し駆動回路260とゲート駆動回路270とを一体成型し、集積化を図ったものも用いられる。
【0045】
なお、上述の放射線検出器100とAMA基板200とを接合合体させた放射線撮像装置による放射線検出動作については、例えば特開平11−287862号などに記載されている。
【0046】
図8に本発明の記録用光導電層を製造するための真空蒸着装置の模式断面図を、図9に蒸着容器の部分拡大断面図を示す。この真空蒸着装置80は、蒸発源であるアルカリ金属を含むセレン81が収容される蒸着容器82と、蒸着容器82上に設けられたメッシュ状フィルタ83と、蒸発源が被着する基板84を保持する保持部材85とからなり、メッシュ状フィルタ83の下にはメッシュ状フィルタ83を温度制御するためのヒータ87が設けられてなる。
【0047】
メッシュ状フィルタとしてはステンレス、タンタル、モリブデン、タングステン等の金属網やセラミック網等を用いることができ、メッシュはインチ当たりの網目数として#100〜#625であることが好ましい。メッシュの温度制御には、メッシュ通電や金属鞘(シース)の中に発熱体(ニクロム線など)を保持し、その隙間を熱伝導性のよい絶縁物(酸化マグネシウムなど)の粉末で充填したシースヒータ等のヒーターあるいは油冷パイプ等を用いることができる。
【0048】
蒸着方法としては回転蒸着や直線搬送など、特に限定されるものではなく、原材料セレン81を蒸発容器82内で蒸発容器82に接続された加熱源(図示せず)によって加熱してセレンの蒸気流を生じさせ、この蒸気流がヒータ87によって温度制御されたメッシュ状フィルタ83を通過して基板84に被着することにより、蒸着セレン層88を形成することができる。
【0049】
なお、ここでは、蒸発源である原材料として、アルカリ金属を含むセレンを用いた場合を説明したが、蒸発源である原材料として、アルカリ金属を含まないセレンと、アルカリ金属を含有する化合物で改質された蒸着容器を用いることによっても、同様にして蒸着セレン層88を形成することができる。
以下に本発明の製造方法の実施例を示す。
【実施例】
【0050】
(試料1〜4)
10ppm程度のナトリウムを含有するセレンを、ステンレスからなる金属メッシュ(#300(1インチ辺りの網目数が300))が付いている蒸着容器で加熱し、メッシュ温度を表1に示すようにセレンの融点(220)〜250℃の間で制御して100〜200μm蒸着した。なお、メッシュ温度はメッシュ枠で測定した。
【0051】
(試料5)
10ppm程度のナトリウムを含有するセレンを蒸着源温度を255℃にして加熱し、100〜200μm蒸着した。
【0052】
試料1〜5のセレン膜について配位数、正孔の局在準位状態密度分布(DOS[×1013eV-1・cm-3])、正孔μτ値(単位電場当たりの正孔飛程距離 ×10-6cm2/V)を測定した。
【0053】
配位数はXAFS測定により、セレン膜を粉末にした後にクライオクーラーにより20Kまで冷却し、高エネルギー加速器研究機構物質構造科学研究所の放射光科学研究施設(フォトン・ファクトリー)のBL-9AでXAFS測定(透過法)し、三方晶セレン(Trigonal Se)のXAFSを標準にして波数k=3−12Å-1から3−16Å-1までカーブフィッテングを行い、本実施例中では波数3−15Å-1の値を用いた。
【0054】
また、正孔局在準位状態密度分布は、T.Nagase, H.Naito 著、T.IEE japan, 118-A, 1446 (1998) の記述に基づき、ラプラス変換を用いたTOF測定データの数値解析から求めた。
【0055】
さたに、正孔μτ値は、S.O.Kasap,J.A.Rowlands 著、Journal of Materials :Materials in Electronics,11,179(2000)の記述に基づき、TOF測定法(Time-of-Flight測定法)で正孔の移動度μ(cm2/Vs)と寿命τ(s)から、その積を求めた。
【0056】
結果を表1に示す。またメッシュ温度と絶対配位数との関係を図10に、メッシュ温度と正孔局在準位状態密度との関係を図11に、メッシュ温度と正孔μτとの関係を図12に示す。なお、表および図中のアモルファスセレンおよび三方晶セレンの配位数、アモルファスセレンの正孔μτ値はいずれも文献値であり、表中の空欄は未測定であることを示す。なお文献値の引用文献はA. V. Kolovov, H. Oyanagi, K. Tanaka and K. Tanaka. Phys. Rev. B 55,726(1997)、S. O. Kasap, K. V. Koughia, B. Fogal, G. Belev and R. E. Johanson.
【0057】
【表1】
【0058】
表1および図10に示すように、メッシュ温度低下に比例して配位数が増加し、メッシュを用いなかった試料5では配位数は2.03であった。また、表1および図11に示すように、セレン膜の正孔局在準位状態密度分布を求めたところ、メッシュ温度低下に比例して、0.4eV近傍の正孔局在準位状態密度が20分の1程度に減少することが確認された。さらに、表1および図12に示すように、正孔μτ値はメッシュ温度低下に比例して0.3(×10-6cm2/V)から8.0(×10-6cm2/V)へと増加し、メッシュを用いなかった試料5では正孔μτ値は0.01(×10-6cm2/V)以下であった。
【0059】
この結果から、1.95±0.02の配位数を有するアモルファスセレンで記録用光導電層を形成した場合には、0.4eV近傍の正孔局在準位状態密度が20分の1程度に減少でき、正孔μτ値を2.0(×10-6cm2/V)以上とすることができ、高い電子輸送性を維持したまま、正孔輸送性を大きく向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0060】
【図1】本発明の放射線検出器の一実施の形態を示す断面図
【図2】放射線検出器を用いた記録読取システムの概略構成図
【図3】記録読取システムにおける静電潜像記録過程を電荷モデルにより示した図
【図4】記録読取システムにおける静電潜像読取過程を電荷モデルにより示した図
【図5】放射線検出器とAMA基板の合体状態を示す概略模式図
【図6】放射線検出部の画素分を示す概略断面図
【図7】AMA基板の等価回路を示す電気回路図
【図8】本発明の記録用光導電層を製造するための真空蒸着装置の模式断面図
【図9】図8に示す蒸着容器の部分拡大断面図
【図10】メッシュ温度と絶対配位数との関係を示すグラフ
【図11】メッシュ温度と正孔局在準位状態密度との関係を示すグラフ
【図12】メッシュ温度と正孔μτとの関係を示すグラフ
【符号の説明】
【0061】
1 導電層
2 記録用放射線導電層
3 電荷輸送層
4 読取光導電層
5 導電層
10 放射線検出器
80 真空蒸着装置
82 蒸着容器
83 メッシュフィルタ
87 ヒータ
【技術分野】
【0001】
本発明は、X線などの放射線撮像装置に適用して好適な放射線検出器およびその製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
今日、医療診断等を目的とするX線(放射線)撮影において、X線画像情報記録手段として放射線検出器(半導体を主要部とするもの)を用いて、この検出器により被写体を透過したX線を検出して被写体に関するX線画像を表す画像信号を得るX線撮影装置が各種提案、実用化されている。
【0003】
この装置に使用される放射線検出器としても、種々の方式が提案されている。例えば、X線を電荷に変換する電荷生成プロセスの面からは、X線が照射されることにより蛍光体から発せられた蛍光を光導電層で検出して得た信号電荷を蓄電部に一旦蓄積し、蓄積電荷を画像信号(電気信号)に変換して出力する光変換方式(間接変換方式)の検出器、或いは、X線が照射されることにより光導電層内で発生した信号電荷を電荷収集電極で集めて蓄電部に一旦蓄積し、蓄積電荷を電気信号に変換して出力する直接変換方式の検出器等がある。
【0004】
一方、蓄積された電荷を外部に読み出す電荷読出プロセスの面からは、読取光(読取用の電磁波)を検出器に照射して読み出す光読出方式のものや、蓄電部と接続されたTFT(薄膜トランジスタ)を走査駆動して読み出すTFT読出方式のもの等がある。
【0005】
上述した放射線検出器は、この放射線検出器内に設けられた電荷生成層にX線を照射することによって、X線エネルギーに相当する電荷を生成し、生成した電荷を電気信号として読み出すようにしたものであって、上記光導電層は電荷生成層として機能する。従来より、この光導電層としてはアモルファスセレン(a−Se)、PbO、PbI2、HgI2、BiI3、Cd(Zn)Teなどの材料が使用されている。
【0006】
上記アモルファスセレンは、真空蒸着法等の薄膜形成技術を利用して容易に大面積化に対応が可能であるが、アモルファスゆえの構造欠陥を多く含む傾向があるため、感度が劣化しやすい。そこで、性能を改善するために、適量の不純物を添加(ドーピング)することが一般的に行われており、例えば、特許文献1にはアルカリ金属を0.01〜10ppmドーピングしたアモルファスセレンを利用した記録用光導電層が、特許文献2には、アルカリ金属としてNaを70ppmドーピングしたアモルファスセレンを利用した記録用光導電層が、それぞれ記載されている。
一方、特許文献3には一般的なセレンの蒸着方法が記載されている。
【特許文献1】特開2003−315464号公報
【特許文献2】特開2001−244492号公報
【特許文献3】特開昭58−19471号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
従来、アモルファスセレンはP型半導体であることから正孔輸送性は充分であって、放射線検出器として高感度を得るには電子輸送性向上が課題であると考えられており、上記特許文献1および2においてもアモルファスセレンにナトリウムをドープすることで電子輸送性を向上させていた。これはアモルファスセレンの荷電欠陥のうち電子捕獲中心を減少させる効果によるものであった。
【0008】
しかし、さらなる感度向上のためには、発生キャリアを両電極へ輸送するために電子輸送性向上のみではなく、正孔輸送性をも向上させる必要がある。本発明者が鋭意検討を行ったところ、アモルファスセレンの配位数を一定値とすることにより、高い電子輸送性を維持したまま、正孔輸送性を大きく向上させることができることがわかった。
【0009】
すなわち、本発明は上記事情に鑑みなされたものであり、高い電子輸送性を維持したまま、正孔輸送性を大きく向上することが可能な放射線検出器およびその放射線検出器の記録用光導電層の製造方法を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の放射線検出器は、記録用光導電層の両側に電極が設けられ、該電極間に所定のバイアス電圧を印加した状態で、放射線の照射を受けることにより前記記録用光導電層内部に発生した電荷を電気信号として検出する放射線検出器において、前記記録用光導電層が1.95±0.02の配位数を有するアモルファスセレンであることを特徴とするものである。
【0011】
1.95±0.02の配位数を有するアモルファスセレンとは、セレンに対して配位するセレンの原子数が1.95±0.02であることを意味する。
【0012】
前記放射線検出器が、記録用の放射線に対して透過性を有する第1の導電体層、記録用の放射線の照射を受けることにより光導電性を呈する記録用光導電層、読取用電磁波の照射を受けることにより光導電性を呈する読取用光導電層、前記読取用電磁波に対して透過性を有する第2の導電体層をこの順に積層してなる放射線画像情報を静電潜像として記録する放射線検出器である場合には、前記読取用光導電層も1.95±0.02の配位数を有するアモルファスセレンであることが好ましい。
【0013】
本発明の記録用光導電層の製造方法は、記録用光導電層の両側に電極が設けられ、該電極間に所定のバイアス電圧を印加した状態で、放射線の照射を受けることにより前記記録用光導電層内部に発生した電荷を電気信号として検出する放射線検出器の前記記録用光導電層の製造方法であって、所定量のアルカリ金属を含むセレンを収容した蒸着容器を加熱し、セレンの融点〜243℃の範囲に温度制御されたメッシュを通して、前記アルカリ金属を含むセレンを蒸着することにより前記記録用光導電層を形成することを特徴とするものである。
【0014】
本発明の記録用光導電層の製造方法の別の態様は、記録用光導電層の両側に電極が設けられ、該電極間に所定のバイアス電圧を印加した状態で、放射線の照射を受けることにより前記記録用光導電層内部に発生した電荷を電気信号として検出する放射線検出器の前記記録用光導電層の製造方法であって、アルカリ金属を含まないセレンを収容した、アルカリ金属を含有する化合物で改質された蒸着容器を加熱し、セレンの融点〜243℃の範囲に温度制御されたメッシュを通して、前記アルカリ金属を含む前記セレンを蒸着することにより前記記録用光導電層を形成することを特徴とするものである。
【0015】
本発明の記録用光導電層の製造方法における前記アルカリ金属は、ナトリウムであることが好ましい。
【発明の効果】
【0016】
本発明の放射線検出器は、記録用光導電層の両側に電極が設けられ、該電極間に所定のバイアス電圧を印加した状態で、放射線の照射を受けることにより前記記録用光導電層内部に発生した電荷を電気信号として検出する放射線検出器において、前記記録用光導電層が1.95±0.02の配位数を有するアモルファスセレンであるため、高い電子輸送性を維持したまま、正孔輸送性を大きく向上させることができる。
【0017】
本発明の記録用光導電層の製造方法は、所定量のアルカリ金属を含むセレンを収容した蒸着容器を加熱し、セレンの融点〜243℃の範囲に温度制御されたメッシュを通して、前記アルカリ金属を含むセレンを蒸着することにより記録用光導電層を形成するので、別の態様として、アルカリ金属を含まないセレンを収容した、アルカリ金属を含有する化合物で改質された蒸着容器を加熱し、セレンの融点〜243℃の範囲に温度制御されたメッシュを通して、前記アルカリ金属を含む前記セレンを蒸着することにより記録用光導電層を形成するので、1.95±0.02の配位数を有するアモルファスセレンからなる記録用光導電層を製造することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
放射線検出器には、放射線を直接電荷に変換し電荷を蓄積する直接変換方式と、放射線を一度CsI:Tl、Gd2O2S:Tbなどのシンチレータで光に変換し、その光をa−Siフォトダイオードで電荷に変換し蓄積する間接変換方式があるが、本発明の放射線検出器は、前者の直接変換方式にも、間接変換型の光-電子変換層にも用いることができる。なお、放射線としてはX線の他、γ線、α線などについて使用することが可能である。
【0019】
また、本発明の放射線検出器は、光の照射により電荷を発生する半導体材料を利用した放射線画像検出器により読み取る、いわゆる光読取方式にも、また、放射線の照射により発生した電荷を蓄積し、その蓄積した電荷を薄膜トランジスタ(thin film transistor:TFT)などの電気的スイッチを1画素ずつON・OFFすることにより読み取る方式(以下、TFT方式という)にも用いることができる。
【0020】
まず、前者の光読取方式に用いられる放射線検出器を例にとって説明する。図1は本発明の放射線検出器の一実施の形態を示す断面図を示すものである。
【0021】
この放射線検出器10は、後述する記録用の放射線L1に対して透過性を有する第1の導電層1、この導電層1を透過した放射線L1の照射を受けることにより導電性を呈する記録用放射線導電層2、導電層1に帯電される電荷(潜像極性電荷;例えば負電荷)に対しては略絶縁体として作用し、かつ、電荷と逆極性の電荷(輸送極性電荷;上述の例においては正電荷)に対しては略導電体として作用する電荷輸送層3、後述する読取用の読取光L2の照射を受けることにより導電性を呈する読取光導電層4、電磁波L2に対して透過性を有する第2の導電層5を、順に積層してなるものである。
【0022】
ここで、導電層1および5としては、例えば、透明ガラス板上に導電性物質を一様に塗布したもの(ネサ皮膜等)、より具体的には、多結晶ITO(In2O3:Sn)、アモルファスITO(In2O3:Sn)、アモルファスIZO(In2O3:Zn)、ATO(SnO2:Sb)、FTO(SnO2:F)、AZO(ZnO:Al)、GZO(ZnO:Ga)、金、銀、白金、アルミニウム、インジウム等の薄膜、10〜1000nm程度のサイズからなる貴金属(白金、金、銀)の分散物の塗布膜等が好ましい。
【0023】
電荷輸送層3としては、導電層1に帯電される負電荷の移動度と、その逆極性となる正電荷の移動度の差が大きい程良く、ポリN−ビニルカルバゾール(PVK)、N,N'−ジフェニル−N,N'−ビス(3−メチルフェニル)−〔1,1'−ビフェニル〕−4,4'−ジアミン(TPD)やディスコティック液晶等の有機系化合物、或いはTPDのポリマー(ポリカーボネート、ポリスチレン、PVK、ポリビニルアルコール)分散物,As2Se3、Sb2S3、シリコンオイル、Clを10〜200ppmドープしたa−Se等の半導体物質、ポリカーボネートが適当である。特に、有機系化合物(PVK,TPD、ディスコティック液晶等)は光不感性を有するため好ましく、また、誘電率が一般に小さいため電荷輸送層3と読取光導電層4の容量が小さくなり読み取り時の信号取り出し効率を大きくすることができる。
【0024】
読取光導電層4には、a−Se,Clを10〜200ppmドープしたa−Se、Se−Te,Se−As−Te,As2Se3、無金属フタロシアニン,金属フタロシアニン,MgPc( Magnesium phtalocyanine),VoPc(phaseII of Vanadyl phthalocyanine),CuPc(Cupper phtalocyanine)、Bi12MO20 (M:Ti、Si、Ge)、Bi4M3O12 (M:Ti、Si、Ge)、Bi2O3、BiMO4(M:Nb、Ta、V)、Bi2WO6、Bi24B2O39、ZnO、ZnS、ZnSe、ZnTe,MNbO3(M:Li、Na、K)、PbO,HgI2、PbI2 ,CdS、CdSe、CdTe、BiI3等のうち少なくとも1つを主成分とする光導電性物質を用いることができるが、1.95±0.02の配位数を有するアモルファスセレンが好適である。
【0025】
記録用放射線導電層2は、1.95±0.02の配位数を有するアモルファスセレンである。記録用放射線導電層2の厚みは、100μm以上2000μm以下であることが好ましい。特にマンモグラフィ用途では150μm以上250μm以下、一般撮影用途においては500μm以上1200μm以下の範囲であることが特に好ましい。
【0026】
なお、第1の導電層と記録用放射線導電層2との間に、電子注入阻止層があってもよい。電子注入阻止層としては、硫化アンチモン、N,N'−ジフェニル−N,N'−ビス(3−メチルフェニル)−〔1,1'−ビフェニル〕−4,4'−ジアミン(TPD)が用いられる。また、読取光導電層4と第2の導電層5の間に、正孔注入阻止層があってもよい。正孔注入阻止層としては、酸化セリウム、硫化アンチモン、硫化亜鉛が用いられる。
【0027】
続いて、静電潜像を読み取るために光を用いる方式について簡単に説明する。図2は放射線検出器10を用いた記録読取システム(静電潜像記録装置と静電潜像読取装置を一体にしたもの)の概略構成図を示すものである。この記録読取システムは、放射線検出器10、記録用照射手段90、電源50、電流検出手段70、読取用露光手段92並びに接続手段S1、S2とからなり、静電潜像記録装置部分は放射線検出器10、電源50、記録用照射手段90、接続手段S1とからなり、静電潜像読取装置部分は放射線検出器10、電流検出手段70、接続手段S2とからなる。
【0028】
放射線検出器10の導電層1は接続手段S1を介して電源50の負極に接続されるとともに、接続手段S2の一端にも接続されている。接続手段S2の他端の一方は電流検出手段70に接続され、放射線検出器10の導電層5、電源50の正極並びに接続手段S2の他端の他方は接地されている。電流検出手段70はオペアンプからなる検出アンプ70aと帰還抵抗70b とからなり、いわゆる電流電圧変換回路を構成している。
【0029】
導電層5は、特開2001-337171号や特開2001−160922号記載の構造のものであってもよい。
【0030】
導電層1の上面には被写体9が配設されており、被写体9は放射線L1に対して透過性を有する部分9aと透過性を有しない遮断部9bが存在する。記録用照射手段90は放射線L1を被写体9に一様に曝射するものであり、読取用露光手段92はレーザ光やLED、有機EL、無機EL等の読取光L2を図3中の矢印方向へ走査露光するものであり、読取光L2は直線状に収束された形状をしていることが望ましい。
【0031】
以下、上記構成の記録読取システムにおける静電潜像記録過程について電荷モデル(図3)を参照しながら説明する。図2において接続手段S2を開放状態(接地、電流検出手段70の何れにも接続させない)にして、接続手段S1をオンし導電層1と導電層5との間に電源50による直流電圧Edを印加し、電源50から負の電荷を導電層1に、正の電荷を導電層5に帯電させる(図3(A)参照)。これにより、放射線検出器10には導電層1と5との間に平行な電場が形成される。
【0032】
次に記録用照射手段90から放射線L1を被写体9に向けて一様に曝射する。放射線L1は被写体9の透過部9aを透過し、さらに導電層1をも透過する。放射線導電層2はこの透過した放射線L1を受け導電性を呈するようになる。これは放射線L1の線量に応じて可変の抵抗値を示す可変抵抗器として作用することで理解され、抵抗値は放射線L1によって電子(負電荷)とホール(正電荷)の電荷対が生じることに依存し、被写体9を透過した放射線L1の線量が少なければ大きな抵抗値を示すものである(図3(B)参照)。なお、放射線L1によって生成される負電荷(−)および正電荷(+)を、図面上では−または+を○で囲んで表している。
【0033】
放射線導電層2中に生じた正電荷は放射線導電層2中を導電層1に向かって高速に移動し、導電層1と放射線導電層2との界面で導電層1に帯電している負電荷と電荷再結合して消滅する(図3(C),(D)を参照)。一方、放射線導電層2中に生じた負電荷は放射線導電層2中を電荷輸送層3に向かって移動する。電荷輸送層3は導電層1に帯電した電荷と同じ極性の電荷(本例では負電荷)に対して絶縁体として作用するものであるから、放射線導電層2中を移動してきた負電荷は放射線導電層2と電荷輸送層3との界面で停止し、この界面に蓄積されることになる(図3(C),(D)を参照)。本発明の放射線検出器においては、記録用光導電層が1.95±0.02の配位数を有するアモルファスセレンであるため、高い電子輸送性を維持したまま、正孔輸送性を大きく向上させることができる。蓄積される電荷量は放射線導電層2中に生じる負電荷の量、即ち、放射線L1の被写体9を透過した線量によって定まるものである。
【0034】
一方、放射線L1は被写体9の遮断部9bを透過しないから、放射線検出器10の遮断部9bの下部にあたる部分は何ら変化を生じない( 図3(B)〜(D)を参照)。このようにして、被写体9に放射線L1を曝射することにより、被写体像に応じた電荷を放射線導電層2と電荷輸送層3との界面に蓄積することができるようになる。なお、この蓄積せしめられた電荷による被写体像を静電潜像という。
【0035】
次に静電潜像読取過程について電荷モデル(図4)を参照しつつ説明する。接続手段S1を開放し電源供給を停止すると共に、S2を一旦接地側に接続し、静電潜像が記録された放射線検出器10の導電層1および5を同電位に帯電させて電荷の再配列を行った後に(図4(A)参照)、接続手段S2を電流検出手段70側に接続する。
【0036】
読取用露光手段92により読取光L2を放射線検出器10の導電層5側に走査露光すると、読取光L2は導電層5を透過し、この透過した読取光L2が照射された光導電層4は走査露光に応じて導電性を呈するようになる。これは上記放射線導電層2が放射線L1の照射を受けて正負の電荷対が生じることにより導電性を呈するのと同様に、読取光L2の照射を受けて正負の電荷対が生じることに依存するものである(図4(B)参照)。なお、記録過程と同様に、読取光L2によって生成される負電荷(−)および正電荷(+)を、図面上では−または+を○で囲んで表している。
【0037】
電荷輸送層3は正電荷に対しては導電体として作用するものであるから、光導電層4に生じた正電荷は蓄積電荷に引きつけられるように電荷輸送層3の中を急速に移動し、放射線導電層2と電荷輸送層3との界面で蓄積電荷と電荷再結合し消滅する(図4(C)参照)。一方、光導電層4に生じた負電荷は導電層5の正電荷と電荷再結合し消滅する(図4(C)参照)。光導電層4は読取光L2により十分な光量でもって走査露光されており、放射線導電層2と電荷輸送層3との界面に蓄積されている蓄積電荷、即ち静電潜像が全て電荷再結合により消滅せしめられる。本発明の放射線検出器においては、記録用光導電層が1.95±0.02の配位数を有するアモルファスセレンであるため、高い電子輸送性を維持したまま、正孔輸送性を大きく向上させることができる。このように、放射線検出器10に蓄積されていた電荷が消滅するということは、放射線検出器10に電荷の移動による電流Iが流れたことを意味するものであり、この状態は放射線検出器10を電流量が蓄積電荷量に依存する電流源で表した図4(D)のような等価回路でもって示すことができる。
【0038】
このように、読取光L2を走査露光しながら、放射線検出器10から流れ出す電流を検出することにより、走査露光された各部(画素に対応する)の蓄積電荷量を順次読み取ることができ、これにより静電潜像を読み取ることができる。なお、本放射線検出部動作については特開2000-105297号等に記載されている。
【0039】
次に、後者のTFT方式の放射線検出器について説明する。この放射線検出器は、図5に示すように放射線検出部100とアクティブマトリックスアレイ基板(以下AMA基板)200が接合された構造となっている。図6に示すように放射線検出部100は大きく分けて放射線入射側から順に、バイアス電圧印加用の共通電極103と、検出対象の放射線に感応して電子−正孔対であるキャリアを生成する光導電層104と、キャリア収集用の検出電極107とが積層形成された構成となっている。共通電極の上層には放射線検出部支持体を有していてもよい。
【0040】
光導電層104は本発明の記録用光導電層が1.95±0.02の配位数を有するアモルファスセレンである。共通電極103や検出電極107は、例えばITO(インジウム錫酸化物)や、AuあるいはPtなどの導電材料からなる。バイアス電圧の極性に応じて、正孔注入阻止層、電子注入阻止層が共通電極103や検出電極107に付設されていてもよい。正孔注入阻止層としては、酸化セリウム、硫化アンチモン、硫化亜鉛、電子注入阻止層としては、硫化アンチモン、N,N'−ジフェニル−N,N'−ビス(3−メチルフェニル)−〔1,1'−ビフェニル〕−4,4'−ジアミン(TPD)が用いられる。
【0041】
AMA基板200の各部の構成について簡単に説明する。AMA基板200は図7に示すように、画素相当分の放射線検出部105の各々に対して電荷蓄積容量であるコンデンサ210とスイッチング素子としてTFT220とが各1個ずつ設けられている。支持体102においては、必要画素に応じて縦1000〜3000×横1000〜3000程度のマトリックス構成で画素相当分の放射線検出部105が2次元配列されており、また、AMA基板200においても、画素数と同じ数のコンデンサ210およびTFT220が、同様のマトリックス構成で2次元配列されている。光導電層で発生した電荷はコンデンサ210に蓄積され、光読取方式に対応して静電潜像となる。TFT方式においては、放射線で発生した静電潜像は電荷蓄積容量に保持される。
【0042】
AMA基板200におけるコンデンサ210およびTFT220の具体的構成は、図6に示す通りである。すなわち、AMA基板支持体230は絶縁体であり、その表面に形成されたコンデンサ210の接地側電極210aとTFT220のゲート電極220aの上に絶縁膜240を介してコンデンサ210の接続側電極210bとTFT220のソース電極220bおよびドレイン電極220cが積層形成されているのに加え、最表面側が保護用の絶縁膜250で覆われた状態となっている。また接続側電極210bとソース電極220bはひとつに繋がっており同時形成されている。コンデンサ210の容量絶縁膜およびTFT220のゲート絶縁膜の両方を構成している絶縁膜240としては、例えば、プラズマSiN膜が用いられる。このAMA基板200は、液晶表示用基板の作製に用いられるような薄膜形成技術や微細加工技術を用いて製造される。
【0043】
続いて放射線検出部100とAMA基板200の接合について説明する。検出電極107とコンデンサ210の接続側電極210bを位置合わせした状態で、両基板100、200を銀粒子などの導電性粒子を含み厚み方向のみに導電性を有する異方導電性フィルム(ACF)を間にして加熱・加圧接着して貼り合わせることで、両基板100、200が機械的に合体されると同時に、検出電極107と接続側電極210bが介在導体部140によって電気的に接続される。
【0044】
さらに、AMA基板200には、読み出し駆動回路260とゲート駆動回路270とが設けられている。読み出し駆動回路260は、図7に示すように、列が同一のTFT220のドレイン電極を結ぶ縦(Y)方向の読み出し配線(読み出しアドレス線)280に接続されており、ゲート駆動回路270は行が同一のTFT220のゲート電極を結ぶ横(X)方向の読み出し線(ゲートアドレス線)290に接続されている。なお、図示しないが、読み出し駆動回路260内では、1本の読み出し配線280に対してプリアンプ(電荷−電圧変換器)が1個それぞれ接続されている。このように、AMA基板200には、読み出し駆動回路260とゲート駆動回路270とが接続されている。ただし、AMA基板200内に読み出し駆動回路260とゲート駆動回路270とを一体成型し、集積化を図ったものも用いられる。
【0045】
なお、上述の放射線検出器100とAMA基板200とを接合合体させた放射線撮像装置による放射線検出動作については、例えば特開平11−287862号などに記載されている。
【0046】
図8に本発明の記録用光導電層を製造するための真空蒸着装置の模式断面図を、図9に蒸着容器の部分拡大断面図を示す。この真空蒸着装置80は、蒸発源であるアルカリ金属を含むセレン81が収容される蒸着容器82と、蒸着容器82上に設けられたメッシュ状フィルタ83と、蒸発源が被着する基板84を保持する保持部材85とからなり、メッシュ状フィルタ83の下にはメッシュ状フィルタ83を温度制御するためのヒータ87が設けられてなる。
【0047】
メッシュ状フィルタとしてはステンレス、タンタル、モリブデン、タングステン等の金属網やセラミック網等を用いることができ、メッシュはインチ当たりの網目数として#100〜#625であることが好ましい。メッシュの温度制御には、メッシュ通電や金属鞘(シース)の中に発熱体(ニクロム線など)を保持し、その隙間を熱伝導性のよい絶縁物(酸化マグネシウムなど)の粉末で充填したシースヒータ等のヒーターあるいは油冷パイプ等を用いることができる。
【0048】
蒸着方法としては回転蒸着や直線搬送など、特に限定されるものではなく、原材料セレン81を蒸発容器82内で蒸発容器82に接続された加熱源(図示せず)によって加熱してセレンの蒸気流を生じさせ、この蒸気流がヒータ87によって温度制御されたメッシュ状フィルタ83を通過して基板84に被着することにより、蒸着セレン層88を形成することができる。
【0049】
なお、ここでは、蒸発源である原材料として、アルカリ金属を含むセレンを用いた場合を説明したが、蒸発源である原材料として、アルカリ金属を含まないセレンと、アルカリ金属を含有する化合物で改質された蒸着容器を用いることによっても、同様にして蒸着セレン層88を形成することができる。
以下に本発明の製造方法の実施例を示す。
【実施例】
【0050】
(試料1〜4)
10ppm程度のナトリウムを含有するセレンを、ステンレスからなる金属メッシュ(#300(1インチ辺りの網目数が300))が付いている蒸着容器で加熱し、メッシュ温度を表1に示すようにセレンの融点(220)〜250℃の間で制御して100〜200μm蒸着した。なお、メッシュ温度はメッシュ枠で測定した。
【0051】
(試料5)
10ppm程度のナトリウムを含有するセレンを蒸着源温度を255℃にして加熱し、100〜200μm蒸着した。
【0052】
試料1〜5のセレン膜について配位数、正孔の局在準位状態密度分布(DOS[×1013eV-1・cm-3])、正孔μτ値(単位電場当たりの正孔飛程距離 ×10-6cm2/V)を測定した。
【0053】
配位数はXAFS測定により、セレン膜を粉末にした後にクライオクーラーにより20Kまで冷却し、高エネルギー加速器研究機構物質構造科学研究所の放射光科学研究施設(フォトン・ファクトリー)のBL-9AでXAFS測定(透過法)し、三方晶セレン(Trigonal Se)のXAFSを標準にして波数k=3−12Å-1から3−16Å-1までカーブフィッテングを行い、本実施例中では波数3−15Å-1の値を用いた。
【0054】
また、正孔局在準位状態密度分布は、T.Nagase, H.Naito 著、T.IEE japan, 118-A, 1446 (1998) の記述に基づき、ラプラス変換を用いたTOF測定データの数値解析から求めた。
【0055】
さたに、正孔μτ値は、S.O.Kasap,J.A.Rowlands 著、Journal of Materials :Materials in Electronics,11,179(2000)の記述に基づき、TOF測定法(Time-of-Flight測定法)で正孔の移動度μ(cm2/Vs)と寿命τ(s)から、その積を求めた。
【0056】
結果を表1に示す。またメッシュ温度と絶対配位数との関係を図10に、メッシュ温度と正孔局在準位状態密度との関係を図11に、メッシュ温度と正孔μτとの関係を図12に示す。なお、表および図中のアモルファスセレンおよび三方晶セレンの配位数、アモルファスセレンの正孔μτ値はいずれも文献値であり、表中の空欄は未測定であることを示す。なお文献値の引用文献はA. V. Kolovov, H. Oyanagi, K. Tanaka and K. Tanaka. Phys. Rev. B 55,726(1997)、S. O. Kasap, K. V. Koughia, B. Fogal, G. Belev and R. E. Johanson.
【0057】
【表1】
【0058】
表1および図10に示すように、メッシュ温度低下に比例して配位数が増加し、メッシュを用いなかった試料5では配位数は2.03であった。また、表1および図11に示すように、セレン膜の正孔局在準位状態密度分布を求めたところ、メッシュ温度低下に比例して、0.4eV近傍の正孔局在準位状態密度が20分の1程度に減少することが確認された。さらに、表1および図12に示すように、正孔μτ値はメッシュ温度低下に比例して0.3(×10-6cm2/V)から8.0(×10-6cm2/V)へと増加し、メッシュを用いなかった試料5では正孔μτ値は0.01(×10-6cm2/V)以下であった。
【0059】
この結果から、1.95±0.02の配位数を有するアモルファスセレンで記録用光導電層を形成した場合には、0.4eV近傍の正孔局在準位状態密度が20分の1程度に減少でき、正孔μτ値を2.0(×10-6cm2/V)以上とすることができ、高い電子輸送性を維持したまま、正孔輸送性を大きく向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0060】
【図1】本発明の放射線検出器の一実施の形態を示す断面図
【図2】放射線検出器を用いた記録読取システムの概略構成図
【図3】記録読取システムにおける静電潜像記録過程を電荷モデルにより示した図
【図4】記録読取システムにおける静電潜像読取過程を電荷モデルにより示した図
【図5】放射線検出器とAMA基板の合体状態を示す概略模式図
【図6】放射線検出部の画素分を示す概略断面図
【図7】AMA基板の等価回路を示す電気回路図
【図8】本発明の記録用光導電層を製造するための真空蒸着装置の模式断面図
【図9】図8に示す蒸着容器の部分拡大断面図
【図10】メッシュ温度と絶対配位数との関係を示すグラフ
【図11】メッシュ温度と正孔局在準位状態密度との関係を示すグラフ
【図12】メッシュ温度と正孔μτとの関係を示すグラフ
【符号の説明】
【0061】
1 導電層
2 記録用放射線導電層
3 電荷輸送層
4 読取光導電層
5 導電層
10 放射線検出器
80 真空蒸着装置
82 蒸着容器
83 メッシュフィルタ
87 ヒータ
【特許請求の範囲】
【請求項1】
記録用光導電層の両側に電極が設けられ、該電極間に所定のバイアス電圧を印加した状態で、放射線の照射を受けることにより前記記録用光導電層内部に発生した電荷を電気信号として検出する放射線検出器において、前記記録用光導電層が1.95±0.02の配位数を有するアモルファスセレンであることを特徴とする放射線検出器。
【請求項2】
前記放射線検出器が、記録用の放射線に対して透過性を有する第1の導電体層、記録用の放射線の照射を受けることにより光導電性を呈する記録用光導電層、読取用電磁波の照射を受けることにより光導電性を呈する読取用光導電層、前記読取用電磁波に対して透過性を有する第2の導電体層をこの順に積層してなる放射線画像情報を静電潜像として記録する放射線検出器であって、
前記読取用光導電層が1.95±0.02の配位数を有するアモルファスセレンであることを特徴とする請求項1記載の放射線検出器。
【請求項3】
記録用光導電層の両側に電極が設けられ、該電極間に所定のバイアス電圧を印加した状態で、放射線の照射を受けることにより前記記録用光導電層内部に発生した電荷を電気信号として検出する放射線検出器の前記記録用光導電層の製造方法であって、
所定量のアルカリ金属を含むセレンを収容した蒸着容器を加熱し、セレンの融点〜243℃の範囲に温度制御されたメッシュを通して、前記アルカリ金属を含むセレンを蒸着することにより前記記録用光導電層を形成することを特徴とする記録用光導電層の製造方法。
【請求項4】
記録用光導電層の両側に電極が設けられ、該電極間に所定のバイアス電圧を印加した状態で、放射線の照射を受けることにより前記記録用光導電層内部に発生した電荷を電気信号として検出する放射線検出器の前記記録用光導電層の製造方法であって、
アルカリ金属を含まないセレンを収容した、アルカリ金属を含有する化合物で改質された蒸着容器を加熱し、セレンの融点〜243℃の範囲に温度制御されたメッシュを通して、前記アルカリ金属を含む前記セレンを蒸着することにより前記記録用光導電層を形成することを特徴とする記録用光導電層の製造方法。
【請求項5】
前記アルカリ金属がナトリウムであることを特徴とする請求項3または4記載の記録用光導電層の製造方法。
【請求項1】
記録用光導電層の両側に電極が設けられ、該電極間に所定のバイアス電圧を印加した状態で、放射線の照射を受けることにより前記記録用光導電層内部に発生した電荷を電気信号として検出する放射線検出器において、前記記録用光導電層が1.95±0.02の配位数を有するアモルファスセレンであることを特徴とする放射線検出器。
【請求項2】
前記放射線検出器が、記録用の放射線に対して透過性を有する第1の導電体層、記録用の放射線の照射を受けることにより光導電性を呈する記録用光導電層、読取用電磁波の照射を受けることにより光導電性を呈する読取用光導電層、前記読取用電磁波に対して透過性を有する第2の導電体層をこの順に積層してなる放射線画像情報を静電潜像として記録する放射線検出器であって、
前記読取用光導電層が1.95±0.02の配位数を有するアモルファスセレンであることを特徴とする請求項1記載の放射線検出器。
【請求項3】
記録用光導電層の両側に電極が設けられ、該電極間に所定のバイアス電圧を印加した状態で、放射線の照射を受けることにより前記記録用光導電層内部に発生した電荷を電気信号として検出する放射線検出器の前記記録用光導電層の製造方法であって、
所定量のアルカリ金属を含むセレンを収容した蒸着容器を加熱し、セレンの融点〜243℃の範囲に温度制御されたメッシュを通して、前記アルカリ金属を含むセレンを蒸着することにより前記記録用光導電層を形成することを特徴とする記録用光導電層の製造方法。
【請求項4】
記録用光導電層の両側に電極が設けられ、該電極間に所定のバイアス電圧を印加した状態で、放射線の照射を受けることにより前記記録用光導電層内部に発生した電荷を電気信号として検出する放射線検出器の前記記録用光導電層の製造方法であって、
アルカリ金属を含まないセレンを収容した、アルカリ金属を含有する化合物で改質された蒸着容器を加熱し、セレンの融点〜243℃の範囲に温度制御されたメッシュを通して、前記アルカリ金属を含む前記セレンを蒸着することにより前記記録用光導電層を形成することを特徴とする記録用光導電層の製造方法。
【請求項5】
前記アルカリ金属がナトリウムであることを特徴とする請求項3または4記載の記録用光導電層の製造方法。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【公開番号】特開2008−268174(P2008−268174A)
【公開日】平成20年11月6日(2008.11.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−292743(P2007−292743)
【出願日】平成19年11月12日(2007.11.12)
【出願人】(306037311)富士フイルム株式会社 (25,513)
【復代理人】
【識別番号】100111040
【弁理士】
【氏名又は名称】渋谷 淑子
【Fターム(参考)】
【公開日】平成20年11月6日(2008.11.6)
【国際特許分類】
【出願日】平成19年11月12日(2007.11.12)
【出願人】(306037311)富士フイルム株式会社 (25,513)
【復代理人】
【識別番号】100111040
【弁理士】
【氏名又は名称】渋谷 淑子
【Fターム(参考)】
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