説明

放射線検出装置及び放射線の検出方法

【課題】 X線、α線、β線、γ線、或いは中性子線等の放射線を高感度で検出することができる新規な放射線検出装置、及び放射線の検出方法を提供する。
【解決手段】 入射した放射線を波長が220nm以下の紫外線に変換する、NdをドープしてなるLaF結晶、或いはコアバレンス発光するフッ化バリウムの如き金属フッ化物結晶からなるシンチレーターと、シンチレーターが発する紫外線を導いて紫外線を電気信号に変換するダイヤモンド薄膜センサーとを具備し、そして放射線を電気信号として取り出すことを特徴とする放射線検出装置である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、新規な放射線検出装置に関する。該放射線検出装置は、陽電子断層撮影、X線撮影等の医療分野、各種非破壊検査等の工業分野、及び放射線モニターや所持品検査等の保安分野において好適に使用できる。
【背景技術】
【0002】
放射線利用技術は、陽電子断層撮影、X線撮影等の医療分野、各種非破壊検査等の工業分野、及び放射線モニターや所持品検査等の保安分野など多岐にわたり、現在も目覚しい発展を続けている。
【0003】
放射線検出装置は、放射線利用技術の重要な位置を占める要素技術であって、放射線利用技術の発展に伴い、検出感度、放射線の入射位置に対する位置分解能、高速応答性、或いは放射線耐性について、より高度な性能が求められている。また、放射線利用技術の普及に伴い、放射線検出装置の低コスト化や小型化も求められている。
【0004】
現在知られている放射線検出装置としては、入射した放射線を可視光線に変換するシンチレーターと、生じた可視光線を入射して可視光線を電気信号に変換する光センサーを組み合わせたシンチレーション検出器が挙げられる。該シンチレーション検出器は、放射線と相互作用する確率の大きいシンチレーターを用いることから、放射線に対する検出感度が高く、放射線の中でも透過性の高いγ線や中性子線を特に効率よく検出できるという特徴を有する。しかしながら、当該シンチレーション検出器の光センサーとして一般に用いられる光電子増倍管は、小型化が困難であり、放射線検出装置の位置分解能の向上や小型化には限界があった。また、光電子増倍管が高価であるため、低コスト化が困難であるという問題もあった。
【0005】
一方、小型化及び低コスト化が比較的容易な光センサーとして、シリコン系の半導体薄膜を用いたフォトダイオードが知られているが、かかる半導体薄膜を用いたフォトダイオードは放射線耐性に乏しく、放射線照射量の高い用途においては、その性能が経時的に劣化するという問題があった。
【0006】
前記現状において、新規な光センサーとしてダイヤモンド薄膜センサーの開発が進められている。該ダイヤモンド薄膜センサーは、前記フォトダイオードと同等の高速応答性を有し、小型化が極めて容易である上、放射線耐性が高く、バンドギャップが大きいために室温や高温での安定動作も可能であるという数々の利点を有する。
【0007】
しかしながら、光センサーとしての有感波長域が220nm以下の紫外線領域に限られるため、一般的なシンチレーターより生ずる可視光線に対して感度を持たないという問題があった。
【0008】
また、該ダイヤモンド薄膜センサーについて、シンチレーターより生じる微弱な光を検出するための高感度化は成されておらず、従来の該ダイヤモンド薄膜センサーの用途は専らエキシマランプやエキシマレーザー等の大出力の紫外線を対象とする紫外線強度モニターに限られており(非特許文献1参照)、シンチレーターとの組み合わせによる放射線検出装置への応用を目指した試みは皆無であった。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0009】
【非特許文献1】Kazushi Hayashi et al、“Durable ultraviolet sensors using highly oriented diamond films” Diamond & Related Materials 15,792(2006).
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は、X線、α線、β線、γ線、或いは中性子線等の放射線を高感度で検出することができる新規な放射線検出装置、及び放射線の検出方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者等は、紫外線領域で発光するシンチレーターについて、種々検討した結果、ダイヤモンド薄膜センサーの有感波長域である220nm以下で発光するシンチレーターを見出した。
【0012】
また、当該シンチレーターによって生じる微弱な紫外線を感知するセンサーとして種々の紫外線センサーの中で、紫外線を電気信号に変換する際の変換効率の点でダイヤモンド薄膜センサーが特に好適であることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0013】
即ち、本発明は、入射した放射線を紫外線に変換するシンチレーターと、生じた紫外線を導いて紫外線を電気信号に変換するダイヤモンド薄膜センサーとを具備し、そして放射線を電気信号として取り出すことを特徴とする放射線検出装置である。
【発明の効果】
【0014】
本発明によって得られる放射線検出装置によれば、X線、α線、β線、γ線、或いは中性子線等の放射線を高感度で検出することができる。該放射線検出装置は、高速応答性を有し、小型化が極めて容易である上、高い放射線耐性をも有しており、医療分野、工業分野、及び保安分野において好適に使用できる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】本図は、本発明の放射線検出装置の原理図である。
【図2】本図は、マイクロ引き下げ法による結晶製造装置の概略図である。
【図3】本図は、チョクラルスキー法による結晶製造装置の概略図である。
【図4】本図は、本発明の放射線検出装置の模式図である。
【図5】本図は、実施例1で作成した波高分布スペクトルである。
【図6】本図は、実施例2で作成した波高分布スペクトルである。
【図7】本図は、実施例3で作成した波高分布スペクトルである。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本発明の放射線検出装置の動作原理について、図1を用いて説明する。まず、入射した放射線をシンチレーター1によって、波長が220nm以下の紫外線(以下、単に紫外線ともいう)に変換する。次いで、生じた紫外線をダイヤモンド薄膜センサー2に導いて、当該ダイヤモンド薄膜センサーによって、紫外線を電気信号に変換する。当該電気信号を取り出し、信号処理系で処理することにより、結果的に入射した放射線を電気信号として検出することができる。
【0017】
以下、本発明の放射線検出装置についてより詳細に説明する。
【0018】
本発明の放射線検出装置において、検出対象とする放射線は特に限定されず、X線、α線、β線、γ線、或いは中性子線等の検出に好適に使用できる。
【0019】
本発明の放射線検出装置の構成要素であるシンチレーターは、放射線の入射によって220nm以下の波長の紫外線を生じるシンチレーターであれば、特に制限無く使用できるが、放射線の入射によって生じた紫外線を、シンチレーター自身が吸収することなく出射せしめるためには、紫外線を吸収し難いシンチレーターを使用することが好ましい。かかる紫外線を吸収し難いシンチレーターとしては、下記金属フッ化物結晶、Al、YAlO、LuAl12等の金属酸化物結晶、LuPO、YPO等の金属リン酸化物結晶、或いは一部の金属ホウ酸化物結晶等からなるシンチレーターが挙げられる。
【0020】
なお、本発明においてシンチレーターの形態は特に限定されず、結晶、ガラス、またはセラミック等が適宜使用できるが、放射線から紫外線への変換効率に鑑みて、結晶を使用することが好ましい。
【0021】
本発明においては、ダイヤモンド薄膜センサーにおける紫外線から電気信号への変換効率に鑑みて、波長が200nm以下の紫外線である真空紫外線を生じるシンチレーターを用いることが特に好ましい。
【0022】
かかる真空紫外線を生じるシンチレーターとしては、金属フッ化物結晶が好適に使用できる。真空紫外線は多くの材料に吸収される性質を有するため、放射線の入射によって発せられた真空紫外線をシンチレーター自身が吸収するという問題があるが、金属フッ化物結晶は例外的に真空紫外線を吸収し難い特性を有するため、本発明において好適に用いることができる。
【0023】
該金属フッ化物結晶の種類は特に限定されず、従来公知の金属フッ化物結晶を任意に用いることができる。具体的には、フッ化リチウム、フッ化マグネシウム、フッ化カルシウム、フッ化スカンジウム、フッ化チタン、フッ化クロム、フッ化マンガン、フッ化鉄、フッ化コバルト、フッ化ニッケル、フッ化銅、フッ化亜鉛、フッ化ガリウム、フッ化ゲルマニウム、フッ化アルミニウム、フッ化ストロンチウム、フッ化イットリウム、フッ化ジルコニウム、フッ化バリウム、フッ化ランタン、フッ化セリウム、フッ化プラセオジム、フッ化ネオジウム、フッ化ユーロピウム、フッ化ガドリニウム、フッ化テルビウム、フッ化エルビウム、フッ化ツリウム、フッ化イッテルビウム、フッ化ルテシウム、フッ化ハフニウム、フッ化タンタル、フッ化鉛などの少なくとも一種類からなる結晶が例示される。
【0024】
本発明において、シンチレーターとして希土類元素を含有するシンチレーター、またはコアバレンス発光するシンチレーターを用いることが好ましい。
【0025】
上記希土類元素を含有するシンチレーターは、放射線の入射による希土類元素の電子遷移を発光の原理としており、放射線を効率よく紫外線に変換することができる。
【0026】
該希土類元素は、前記電子遷移によって紫外線の発光を呈するものであれば、特に限定されないが、5d準位から4f準位への電子遷移による5d−4f遷移発光、或いは、シンチレーター中の他の原子から希土類元素への電荷移動を伴う電荷移動遷移発光を呈するものが、発光寿命が短く高速応答性を有するため、特に好ましい。かかる5d−4f遷移発光を呈する希土類元素としては、Pr、Nd、Er、Tmが好適に使用でき、また、電荷移動遷移発光を呈する希土類元素としては、Eu、Ybが好適に使用できる。
【0027】
上記希土類元素を含有するシンチレーターの好ましい態様を例示すれば、前記金属フッ化物結晶、金属酸化物結晶、或いは金属リン酸化物結晶からなるシンチレーターに前記希土類元素を添加してなるシンチレーターが挙げられる。
【0028】
なお、上記希土類元素を含有するシンチレーターにおいて、希土類元素を含有せしめる際の添加量は、シンチレーターの種類または希土類元素の種類によって異なるが、一般にはシンチレーターに対して0.01〜20mol%の範囲とすることが好ましい。かかる添加量を0.01mol%以上とすることによって、シンチレーターの発光の強度を高めることができ、一方、20mol%以下とすることによって、濃度消光に由来するシンチレーターの発光の減衰を抑制することができる。
【0029】
一方、前記コアバレンス発光するシンチレーターは、放射線の入射によって生じる内殻の空孔と価電子帯の電子との再結合を発光の原理としており、放射線を極めて波長の短い紫外線に変換でき、また、発光寿命も極めて短く高速応答性を有するため、好適に使用できる。かかるコアバレンス発光するシンチレーターとしては、KF、RbF、BaF、BaF、LiBaF、KMgF、KCaF、KYF、KYF、KLuF、KLu等が挙げられる。
【0030】
なお、本発明のシンチレーターの好適な化学組成は、検出対象とする放射線によって異なる。検出対象とする放射線がγ線またはX線の場合には、高エネルギーの光子に対する阻止能を高めるため、高密度で且つ有効原子番号の大きいシンチレーターを用いることが好ましい。
【0031】
本発明において、上記有効原子番号とは、下式1で定義される指標であって、γ線またはX線に対する阻止能に影響し、該有効原子番号が大きいほど、γ線またはX線に対する阻止能が増大し、したがってシンチレーターのγ線またはX線に対する感度が向上する。
【0032】
有効原子番号=(ΣW1/4 〔1〕
(式中、W及びZは、それぞれシンチレーターを構成する元素のうちのi番目の元素の質量分率及び原子番号を表す。)
一方、検出対象とする放射線が中性子線の場合には、単位体積あたりに0.5〜20atom/nmLiを含有し、有効原子番号が10〜40であるシンチレーターを用いることが好ましい。
【0033】
本発明において、上記Li含有量とはシンチレーター1nmあたりに含まれるLi元素の個数をいう。該Li含有量は中性子線に対する感度に影響し、該Li含有量が多いほど、中性子線に対する感度が向上する。
【0034】
かかるLi含有量は、シンチレーターの化学組成を選択し、また、リチウム原料のLi含有率を調整することによって、適宜調整できる。ここでLi含有率とは、全リチウム元素に対するLi同位体の元素比率であって、天然のリチウムでは約7.6%である。
【0035】
上記リチウム原料のLi含有率を調整する方法としては、天然の同位体比を有する汎用原料を出発原料として、Li同位体を所期のLi含有率まで濃縮して調整する方法、あるいは、あらかじめLiが所期のLi含有率以上に濃縮された濃縮原料を用意し、該濃縮原料と前記汎用原料を混合して調整する方法が挙げられる。
【0036】
上記Li含有量を0.5atom/nm以上とすることによって、中性子線に対する充分な感度を有するシンチレーターを得ることができ、好ましい。さらに中性子線に対する感度を高めるためには、該Li含有量を2atom/nm以上とすることが特に好ましい。
【0037】
一方、Li含有量は20atom/nm以下とすることが好ましい。20atom/nmを超えるLi含有量を達成するためには、あらかじめLiを高濃度に濃縮した特殊なリチウム原料を多量に用いる必要があるため、製造にかかるコストが極端に高くなる。
【0038】
なお、上記Li含有量は、あらかじめシンチレーターの密度、シンチレーター中のLi元素の質量分率、及びリチウム原料のLi含有率を求め、下式2に代入することによって求めることができる。
【0039】
Li含有量=ρ×W×C/(700−C)×A×10−23 〔2〕
(式中、ρはシンチレーターの密度[g/cm]、Wはシンチレーター中のLi元素の質量分率[質量%]、Cは原料のLi含有率[%]、Aはアボガドロ数[6.02×1023]を表す。)
本発明において、検出対象とする放射線が中性子線の場合には、上記有効原子番号は10〜40とすることが好ましい。有効原子番号を40以下とすることによって、γ線に由来するバックグラウンドノイズを充分に低減でき、γ線による外乱を受けることなく中性子線計測を行うことが可能な中性子線用シンチレーターを構成できる。一方、該有効原子番号を10未満としても、ノイズ抑制の効果はさほど大きく向上せず、シンチレーターとして用いる材料の選択が著しく限定されるばかりである。
【0040】
かかる有効原子番号は、上記式1より明らかなように、シンチレーターの化学組成に固有であり、したがってシンチレーターとして用いる材料の種類を選択することによって、適宜調整することができる。
【0041】
単位体積あたりに0.5〜20atom/nmLiを含有し、有効原子番号が10〜40であるシンチレーターとしては、希土類元素を含有してなるLiCaAlF、LiSrAlF、LiYF等のリチウム系フッ化物結晶が最も好適である。
【0042】
本発明において、シンチレーターの製造方法は特に限定されず、公知の製造方法によって製造することができる。
【0043】
なお、本発明において好適なシンチレーターである金属フッ化物結晶を製造する際には、マイクロ引き下げ法、またはチョクラルスキー法によって製造することが好ましい。
【0044】
マイクロ引き下げ法、またはチョクラルスキー法で製造することにより、透明性等の品質に優れた金属フッ化物結晶を製造することができる。特にマイクロ引下げ法によれば、結晶を特定の形状にて直接製造することができ、しかも短時間で製造することができる。一方、チョクラルスキー法によれば、直径が数インチの大型結晶を安価に製造することが可能となる。
【0045】
以下、マイクロ引き下げ法によって金属フッ化物結晶を製造する際の、一般的な方法について説明する。
【0046】
まず、所定量の原料を、底部に孔を設けた坩堝5に充填する。坩堝底部に設ける孔の形状は、特に限定されないが、直径が0.5〜5mm、長さが0〜2mmの円柱状とすることが好ましい。
【0047】
本発明において、原料の純度は特に限定されないが、99.99%以上とすることが好ましい。かかる混合原料を用いることにより、金属フッ化物結晶の純度を高めることができ、発光強度等の特性が向上する。かかる原料は、粉末状あるいは粒状の原料を用いても良く、あらかじめ焼結或いは溶融固化させてから用いても良い。
【0048】
次いで、上記原料を充填した坩堝7、アフターヒーター3、ヒーター4、断熱材5、及びステージ6を図2に示すようにセットする。真空排気装置を用いて、チャンバー8の内部を1.0×10−3Pa以下まで真空排気した後、高純度アルゴン等の不活性ガスをチャンバー内に導入してガス置換を行う。ガス置換後のチャンバー内の圧力は特に限定されないが、大気圧が一般的である。
【0049】
該ガス置換操作によって、原料或いはチャンバー内に付着した水分を除去することができ、かかる水分に由来する結晶の劣化を妨げることができる。
【0050】
上記ガス置換操作によっても除去できない水分による悪影響を避けるため、フッ化亜鉛等の固体スカベンジャー或いは四フッ化メタン等の気体スカベンジャーを用いることが好ましい。固体スカベンジャーを用いる場合には原料中に予め混合しておく方法が好適であり、気体スカベンジャーを用いる場合には上記不活性ガスに混合してチャンバー内に導入する方法が好適である。
【0051】
ガス置換操作を行った後、高周波コイル9、及びヒーター4によって原料を加熱して溶融せしめる。
【0052】
なお、本発明において、加熱方法は特に限定されず、例えば上記高周波コイルとヒーターの構成に替えて、抵抗加熱式のカーボンヒーター等を適宜用いることができる。
【0053】
次いで、溶融した原料の融液を、坩堝底部の孔から引き出して結晶の製造を開始し、高周波コイルの出力を適宜調整しながら一定の引き下げ速度で連続的に引き下げることにより、所期のフッ化物結晶を得ることができる。該引き下げ速度は、特に限定されないが、0.5〜50mm/hrの範囲とすることが好ましい。
【0054】
以下、チョクラルスキー法によって本発明のフッ化物結晶を製造する際の、一般的な方法について説明する。
【0055】
まず、所定量の原料を、坩堝14に充填する。使用する原料並びにその調整の方法は、マイクロ引き下げ法の項で述べた原料及び方法がそのまま採用される。
【0056】
次いで、上記原料を充填した坩堝14、ヒーター11、断熱材12、及びステージ13を図3に示すようにセットする。真空排気装置を用いて、チャンバー15の内部を1.0×10−3Pa以下まで真空排気した後、高純度アルゴン等の不活性ガスをチャンバー内に導入してガス置換を行う。ガス置換後のチャンバー内の圧力は特に限定されないが、大気圧が一般的である。
【0057】
該ガス置換操作によって、原料或いはチャンバー内に付着した水分を除去することができ、かかる水分に由来する結晶の劣化を妨げることができる。上記ガス置換操作によっても除去できない水分による影響を避けるため、フッ化亜鉛等の固体スカベンジャー或いは四フッ化メタン等の気体スカベンジャーを用いることが好ましい。固体スカベンジャーを用いる場合には原料中に予め混合しておく方法が好適であり、気体スカベンジャーを用いる場合には上記不活性ガスに混合してチャンバー内に導入する方法が好適である。
【0058】
ガス置換操作を行った後、高周波コイル16、及びヒーター11で原料を加熱して溶融せしめ、溶融した原料の融液に、引上げロッド17の先端に設置した種結晶を接触せしめる。
【0059】
なお、本発明において、加熱方法は特に限定されず、例えば上記高周波コイルとヒーターの構成に替えて、抵抗加熱式のカーボンヒーター等を適宜用いることができる。
【0060】
次いで種結晶を回転させながら引き上げ、結晶の育成を開始する。結晶育成の開始直後は、一定の割合で結晶径を拡大し、所望の結晶径に調整する。
【0061】
なお、かかる結晶径の拡大の操作においては、結晶の転位密度の減少を目的として、一旦結晶径を縮小した後に拡大するネッキング操作を施すことが好ましい。
【0062】
所定の結晶径まで拡大せしめた後、一定の引き上げ速度で連続的に引き上げを続ける。該引き下げ速度は、特に限定されないが、0.5〜10mm/hrの範囲とすることが好ましい。
【0063】
所定の長さまで引き上げた時点でヒーターの出力を上げて結晶を原料融液から切り離し、その後徐冷することによって結晶を得ることができる。
【0064】
なお、かかる一連の結晶育成操作においては、引き上げロッドの上部に設けたロードセル、及び該ロードセルからの信号をヒーター出力にフィードバックする回路からなる結晶径制御装置を用いることが好ましい。該結晶径制御装置によれば、所望の形状の結晶を安定に製造することが容易となる。
【0065】
本発明において、金属フッ化物結晶の製造に際して、熱歪等に起因する結晶欠陥を除去する目的で、結晶の製造後にアニール操作を行っても良い。
【0066】
得られたフッ化物結晶は、良好な加工性を有しており、所望の形状に加工して用いることが容易である。加工に際しては、公知のブレードソー、ワイヤーソー等の切断機、研削機、或いは研磨盤を何ら制限無く用いる事ができる。
【0067】
本発明の放射線検出装置の構成要素であるダイヤモンド薄膜センサーは、ダイヤモンド薄膜と読み出し電極で構成され、フォトコンダクタ型、フォトダイオード型、アバランシェフォトダイオード型、フォトトランジスタ型など、種々の形態のセンサーが挙げられる。
【0068】
本発明において、前記ダイヤモンド薄膜センサーは、フォトコンダクタ型であることが好ましい。
【0069】
前記シンチレーターの1回の発光寿命は数ナノ秒と短いため、同等の応答速度と高感度とを兼ね備える必要がある。ダイヤモンドを感光部材に用いた種々の紫外線センサーについて詳細に検討した結果、アンドープダイヤモンドを用いたフォトコンダクタ型が適することがわかった。フォトコンダクタ型センサーは、アンドープダイヤモンド(不純物が少なく、通常時は100GΩ以上の高絶縁性のダイヤモンド)を用い、1対の電極を形成したものである。この電極間のダイヤモンドにバンドギャップエネルギーに相当する波長227nm以下の紫外線があたると、電子正孔対が生成されるため、電気抵抗が下がり、導電性が生まれる。前記電極間にバイアス電圧を印加しておくと電流が流れるため、この電流を外部回路で測定することにより、紫外線を検知できるしくみである。このとき、一般にバイアス電圧が高いほど光電流は増えるので感度が上がるが、バイアス電圧が過剰に高い場合には、暗電流が増えたり、沿面絶縁破壊、ダイヤモンド内部の絶縁破壊を引き起こすことになるため、バイアス電圧を適度な値に設定する必要がある。バイアス電圧の最適値は、電極の間隔、長さ、および形状、ダイヤモンドの品質、表面形状、表面被覆などに応じて変わる。
【0070】
ダイヤモンドのpn接合を用いたフォトダイオード型では感度に劣る。また、シリコンのアバランシェフォトダイオードは高感度の可視光検出ができるが、真空紫外線では感度が低下する。ダイヤモンドのアバランシェフォトダイオードは理論的には高感度の深紫外線センサーとなる可能性があるが、現状では低抵抗なn形ダイヤモンドの作製技術が未熟など製造上の問題により高感度のものは作製できていない。フォトトランジスタ型は、多くの製造工程が必要で比較的コスト高のため実用性で劣る。
【0071】
また、本発明において、前記フォトコンダクタ型ダイヤモンド薄膜センサーにおける受光部が、多結晶または高配向性のアンドープダイヤモンドからなることが好ましい。
【0072】
フォトコンダクタ型ダイヤモンド薄膜センサーにおける受光部を、多結晶または高配向性ダイヤモンドとすることにより、単結晶より減衰速度が速く、したがって高速応答であり、パルスカウントが容易になる。また、不純物濃度1×1015/cm以下のアンドープダイヤモンドを使用することにより、たとえば電極間隔10μmでバイアス電圧35Vのとき、受光面1mmあたり暗電流を十分少ない10pA以下に抑えることができる。
【0073】
また、本発明のフォトコンダクタ型ダイヤモンド薄膜センサーにおいて、ダイヤモンドの受光面を挟んで1対の電極を有し、その電極間電圧20V以上250V以下、望ましくは50V以上160V以下を印加する電源を備え、SiO、AlO3、AlN、CaF、MgFのいずれかからなる受光面と電極面に接する被覆層を有する構造とすることが好ましい。
【0074】
フォトコンダクタ型ダイヤモンド薄膜センサーにおいては、電極間に印加するバイアス電圧を、20V以上とすることにより微弱光に対する感度を得ることができ、さらに50V以上にすることにより十分な感度が得られる。一方上限は、コストを含めた電源の実用性からあまり大きくすることはできない。したがって、実用上、250V以下とすることが望ましい。また、バイアス電圧の高さに応じて電極間隔を大きくする必要があるためセンサーの表面積が大きくなり、即ちセンサーのコストアップになるだけでなく、イメージセンサを製造するときには画素が粗くなるため好ましくない。これらを勘案し、バイアス電圧は160V以下がより望ましい。
【0075】
また、ダイヤモンドセンサーの受光面にはダイヤモンドよりバンドギャップが大きい絶縁性材料を薄く被覆することにより高いバイアス電圧を印加した場合の沿面放電を抑制することができる。特にCaF、MgF、SiO、Al、AlNが望ましい。受光面から連続して電極の表面にも被覆することにより、さらに効果的に沿面放電を抑制することができる。
【0076】
なお、前記被覆層の厚さは、3nm以上100nm以下とすることが好ましい。
【0077】
被覆層は化学気相合成(即ちCVD)、蒸着、スパッタ等で成膜すればよいが、その厚さを3nm以下では効果がなく、100nm以上では前記シンチレーターから発せられる紫外線の透過率が低下し感度の低下が著しい。
【0078】
また、前期電極間隔は5μm〜50μmとすることが好ましく、10μm〜20μmとすることが特に好ましい。
【0079】
フォトコンダクタ型ダイヤモンド薄膜センサーにおいては、微弱光に十分な感度を付与するためにはバイアス電圧を高くすればよいが、暗電流やノイズが増え、沿面放電の可能性も上がる。電極間隔を広げればこれらを低減できるが、拡げすぎると逆に感度の低下やセンサー面積の増大を招く。しかしながら、電極間隔を最適に選ぶことにより、これらを解決できる。実験的に検討した結果、電極間隔は5μm〜50μmが望ましく、さらに10μm〜20μmがより望ましいことがわかった。
【0080】
なお、本発明の放射線検出装置を構成する際には、1個の前記シンチレーターと1個の前記ダイヤモンド薄膜センサーとが互いに対をなし、複数の対が線状、あるいは面状に配列した構造とすることが好ましい。
【0081】
フォトコンダクタ型ダイヤモンド薄膜センサーを用いれば、ダイヤモンドの絶縁耐圧が高いことなどにより、電極間隔や素子間隔を小さくすることができ、最小で1素子10μm角程度も可能である。即ち、シンチレーター結晶を微細に分割し、そのサイズに合わせたセンサーを対にして組み合わせて1次元あるいは2次元の放射線検出装置を作製することが可能になった。これにより、従来の同等の放射線検出装置より高精細化が可能である。
【0082】
本発明の放射線検出装置は、前記シンチレーターとダイヤモンド薄膜センサーを具備してなるものであって、放射線に対して高感度かつ高速な応答を示すシンチレーターと、当該シンチレーターの応答を効率よく、かつ遅滞なく電気信号に変換するダイヤモンド薄膜センサーを組み合わせることにより、放射線に対する応答性に優れた検出装置を構成することが可能となる。また、かかる組み合わせにおいては、小型化および低コスト化も容易であって、特に工業的にも有利な放射線検出装置を得ることができる。
【0083】
以下、本発明の放射線検出装置について、図4を用いて説明する。
【0084】
本発明の放射線検出装置は、前記シンチレーター18とダイヤモンド薄膜センサー19とを設置し、ダイヤモンド薄膜センサーより電気信号を取り出すための信号処理系をダイヤモンド薄膜センサーに接続することで構成される。
【0085】
前記シンチレーターとダイヤモンド薄膜センサーとを設置する方法は、シンチレーターより生じた紫外線をダイヤモンド薄膜センサーに入射でき得る方法であれば、特に限定されないが、シンチレーターに紫外線を取り出すための紫外線出射面20を設けておき、当該紫外線出射面とダイヤモンド薄膜センサーの表面に設けられたダイヤモンド薄膜21とを対向して設置する方法が好適である。
【0086】
シンチレーターの紫外線出射面とダイヤモンド薄膜とを対向して設置する方法においては、紫外線出射面とダイヤモンド薄膜との距離を約10mm以下とし、近接或いは密接して設置する方法が好ましい。
【0087】
なお、シンチレーターより生ずる紫外線の波長が約200nm以下の場合には、紫外線出射面とダイヤモンド薄膜の間の空隙より酸素を除去することが好ましい。当該空隙より酸素を除去することによって、紫外線が酸素によって吸収されず、結果として放射線に対する検出感度が向上する。当該空隙より酸素を除去する方法としては、空隙に窒素等のガスを満たす方法、或いは空隙を真空に保つ方法が好適に使用できる。
【0088】
また、前記紫外線出射面とダイヤモンド薄膜の間にグリースを充填する方法も好適に使用できる。かかるグリースを充填する方法によれば、シンチレーター内部より紫外線射出面に到達した紫外線を、紫外線射出面で反射させること無く外部に導出でき、紫外線のダイヤモンド薄膜センサーへの入射効率を高めることができる。当該グリースとしては、屈折率が高く、また紫外線に対する透明性が高いフッ素系グリースが好適である。
【0089】
本発明においてシンチレーターの形状は、特に限定されず、端面が数mm角の正方形或いは長方形で長さが数十mmの角柱状、或いは端面が直径数十mmの円で長さが数百mmの円柱状等、用途に応じた形状で用いることができる。
【0090】
前記いずれの形状においても、ダイヤモンド薄膜センサーに対向する紫外線出射面を光学研磨することによって、シンチレーターで生じた紫外線を効率よくダイヤモンド薄膜センサーに入射できるため、好ましい。
【0091】
また、ダイヤモンド薄膜センサーに対向しない面に、アルミニウム或いはポリテトラフルオロエチレン等からなる紫外線反射膜22を施すことにより、シンチレーターで生じた紫外線の散逸を防止することができ、好ましい。
【0092】
また、本発明においてダイヤモンド薄膜センサーの表面に設けられたダイヤモンド薄膜の形状は、特に限定されないが、平面とすることが好ましく、また、該平面の大きさは、シンチレーターの紫外線出射面と同程度の大きさとすることが好ましい。
【0093】
本発明において、ダイヤモンド薄膜センサーより電気信号を取り出すための信号処理系は、特に限定されないが、ダイヤモンド薄膜センサーにバイアス電圧を印加するための定電圧電源23、ダイヤモンド薄膜センサーより取り出した電気信号を増幅するための増幅器24を具備せしめることが好ましい。
【0094】
前記定電圧電源は、一定のバイアス電圧をダイヤモンド薄膜センサーに印加するものであって、公知の低電圧電源を特に制限なく使用できる。。
【0095】
また、前記増幅器はダイヤモンド薄膜センサーより出力された微弱な信号を、より大きな電気信号へと増幅するものであって、増幅度が10〜1000倍の増幅器が好適に使用できる。また、主たる増幅器の前段に前置増幅器を設置して信号対雑音比を高める方法も好適に適用できる。
【0096】
なお、前記信号処理系に、ダイヤモンド薄膜センサーより取り出した電気信号をその強度に応じて弁別することが可能な多重波高分析器等を具備せしめることによって、放射線検出装置にエネルギー弁別能を付与することができ、特に好ましい。すなわち、ダイヤモンド薄膜センサーより取り出した電気信号をその強度に応じて弁別することによって、特定のエネルギーを有する放射線を選択的に検出することが可能となる。
【0097】
以下、本発明の装置を使用して、放射線を検出する方法について具体的に説明する。
【0098】
ダイヤモンド薄膜センサーに一定のバイアス電圧を印加しておき、放射線検出装置に放射線を照射する。照射された放射線はシンチレーターに入射し、紫外線へと変換される。次いで、シンチレーターより生じた紫外線をダイヤモンド薄膜センサーに導いて、該紫外線を電気信号に変換し、ダイヤモンド薄膜センサーより出力される電気信号を取得する。ここで放射線検出装置より出力される電気信号は、パルス状の信号であって、信号の強度が入射した放射線のエネルギーに対応し、信号の頻度が放射線の放射能に対応する。
【0099】
従って、本発明の検出方法は、事前に検出対象とする放射線について、放射線のエネルギー及び放射能に対する出力信号の強度及び頻度をそれぞれ調べて検量線を作成しておくことにより放射線の定量にも使用することができる。
【実施例】
【0100】
以下、本発明の実施例を挙げて具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例によって何ら制限されるものではない。
【0101】
製造例1
図2に示すマイクロ引下げ法による結晶製造装置を用いて、希土類元素としてNdをドープしてなるLaF結晶を製造した。原料としては、純度が99.99%以上のフッ化ランタン及びフッ化ネオジウムを用いた。
【0102】
アフターヒーター3、ヒーター4、断熱材5、ステージ6、及び坩堝7は、高純度カーボン製のものを使用し、坩堝底部に設けた孔の形状は直径2.2mm、長さ0.5mmの円柱状とした。
【0103】
まず、フッ化ランタン 0.91g及びフッ化ネオジウム 0.10gをそれぞれ秤量し、よく混合して得られた混合原料を坩堝7に充填した。
【0104】
原料を充填した坩堝7を、アフターヒーター3の上部にセットし、その周囲にヒーター4、及び断熱材5を順次セットした。次いで、油回転ポンプ及び油拡散ポンプからなる真空排気装置を用いて、チャンバー8内を5.0×10−4Paまで真空排気した後、四フッ化メタン−アルゴン混合ガスをチャンバー8内に大気圧まで導入し、ガス置換を行った。
【0105】
高周波コイル9に高周波電流を印加し、誘導加熱によって原料を加熱して溶融せしめ、引き下げロッド10の先端に設けたW−Reワイヤーを、坩堝7底部の孔上記孔に挿入し、原料の融液を上記孔より引き下げ、結晶化を開始した。
【0106】
高周波の出力を調整しながら、3mm/hrの速度で連続的に15時間引き下げ、希土類元素としてネオジウムを含有するLaF結晶を得た。該結晶は直径が2.2mm、長さが45mmであり、白濁やクラックの無い良質な結晶であった。本製造例では前記希土類元素としてネオジウムを含有するLaF結晶をシンチレーターとして用いた。
【0107】
当該シンチレーターは、ダイヤモンドワイヤーを備えたワイヤーソーによって、前記シンチレーターを7mmの長さに切断し、研削して、長さ7mm、幅2mm、厚さ1mmの形状に加工した後、長さ7mm、幅2mmの面を鏡面研磨して紫外線出射面を設けて使用した。
【0108】
本製造例のシンチレーターについて、入射した放射線を変換して出射される紫外線の波長を以下の方法によって測定した。
【0109】
タングステンをターゲットとする封入式X線管球を用いて、X線をシンチレーターに照射した。なお、封入式X線管球よりX線を発生させる際の管電圧及び管電流はそれぞれ60kV及び40mAとした。
【0110】
シンチレーターの紫外線出射面より生じた紫外線を集光ミラーで集光し、分光器にて単色化し、各波長の強度を記録してシンチレーターより生じた紫外線のスペクトルを得た。
【0111】
上記測定の結果、本製造例のシンチレーターは、入射した放射線を波長が173nmの紫外線に変換することが確認された。
【0112】
製造例2
純度が99.99%以上のフッ化バリウム 0.84gを用いて、製造例1と同様の操作によって、コアバレンス発光するシンチレーターであるBaF結晶を製造し、加工した。
【0113】
本製造例のシンチレーターについて、入射した放射線を変換して出射される紫外線の波長を製造例1と同様の方法によって測定した結果、本製造例のシンチレーターは、入射した放射線を波長が190nmの紫外線に変換することが確認された。
【0114】
製造例3
それぞれ純度が99.99%以上のフッ化リチウム 68mg、フッ化カルシウム 203mg、フッ化アルミニウム 219mg及びフッ化ネオジウム 10mgを用いて、製造例1と同様の操作によって、希土類元素としてネオジウムを含有するLiCaAlF結晶を得た。なお、前記フッ化リチウムはLi含有率が50%のものを用いた。
【0115】
かかるネオジウムを含有するLiCaAlF結晶は、単位体積あたりに5atom/nmLiを含有し、有効原子番号が15であって、中性子線の検出に好適に使用できるシンチレーターである。
【0116】
本製造例のシンチレーターについて、入射した放射線を変換して出射される紫外線の波長を製造例1と同様の方法によって測定した結果、本製造例のシンチレーターは、入射した放射線を波長が178nmの紫外線に変換することが確認された。
【0117】
製作例1
本発明の放射線検出装置の構成要素であるダイヤモンド薄膜センサーを以下の方法によって作製した。本制作例のダイヤモンド薄膜センサーは、受光面に高配向ダイヤモンドを用いたフォトコンダクタ型ダイヤモンド薄膜センサーである。
【0118】
単結晶Siウェハからなる基板上に成膜されたダイヤモンド薄膜であって、面積90%以以上の結晶面が{100}面からなり、表面の面積割合80%以上が、法線方向、面方向ともに基板の結晶方位から10°以内に配向し、粒径3〜8μmのダイヤモンド結晶粒が面積割合80%以上である高配向ダイヤモンド薄膜を用いた。当該高配向ダイヤモンド薄膜上に、フォトリソグラフィで1対の対向電極を形成した。電極は白金をスパッタで成膜し、厚さ200nmとした。両電極の間隔は10μm、形状は櫛型、電極の1本の太さは6μmとした。ダイヤモンドの粒径と電極間隔との関係により、電極間には粒界が少なくとも1つ存在している。両電極の間はダイヤモンドが露出しており、これが受光面になる。受光面+電極の面積は所望の素子面積と必要な感度により適宜選べばよいが、本製作例では2mm角とした。また、対向する2隅に引出線を接続する部分「パッド」を設けた。このとき、Si基板は素子面積よりやや大きい3mm角とした。
【0119】
次に、パッドを除き、受光面と電極の表面には、マグネトロンスパッタ法により純度99.95%のAlターゲットを用いて成膜した厚さ50nmのAl膜を被覆層とした。
【0120】
このようにして作製したダイヤモンド薄膜センサーチップをエポキシ樹脂でハーメチックシール台に接着した。前記パッドには、金属薄膜の配線により電源および抵抗変化の検出系を接続することができるが、本製作例では、直径25μmの金ワイヤを超音波ボンディング法により接続した。金ワイヤの他端は、それぞれハーメチックシールのリードピンに接続した。
【0121】
ハーメチックシール台にスペーサとして金ワイヤがある高さより若干高い枠をエポキシ樹脂により接着し、ダイヤモンド薄膜センサーヘッドとした。なお、ワイヤを接続したリードピンの1つと枠と台とはすべて電気的に短絡してある。
【0122】
枠の上には、ほぼ同じ大きさのシンチレーター結晶をエポキシ樹脂で接着し封止し、放射線検出素子を作製した。なおこの接着工程は、窒素100%雰囲気で行った。
【0123】
放射線検出素子は、バイアス供給のための直流電源と、チップの抵抗変化を検出するための抵抗器を直列に、チップのパルス的抵抗変化に追随させるためのコンデンサを並列に接続した。抵抗器の抵抗値とコンデンサの容量は、チップの抵抗変化量と検出するパルス幅により適宜調整することができるが、本製作例では2.5nFとした。
【0124】
実施例1
製造例1によって製造したシンチレーター及び製作例1によって作製したダイヤモンド薄膜センサーを用いて、本発明の放射線検出装置を構成した。
【0125】
高純度窒素ガスを充填したチャンバー内に、シンチレーターの紫外線出射面とダイヤモンド薄膜を対向させ、0.5mmの空隙を空けて設置した。
【0126】
さらに、ダイヤモンド薄膜センサーに、信号処理系として定電圧電源(クリアパルス社製、6641)及び信号増幅・解析器を接続して、本発明の放射線検出装置を得た。なお、信号増幅・解析器の構成は、前置増幅器(クリアパルス社製、581K)、整形増幅器(オルテック社製、572)及び多重波高分析器(オルテック社製、926)とした。
【0127】
本発明の放射線検出装置の性能を評価するため、1kBqの放射能を有する241Am同位体を放射線源とし、該放射線源より生じる放射線に対する放射線検出器の応答を以下の方法によって評価した。
【0128】
前記放射線源をシンチレーターに近接して設置し、放射線源より生じるα線をシンチレーターに照射した。
【0129】
前記定電圧電源を用いてダイヤモンド薄膜センサーに50Vのバイアス電圧を印加し、ダイヤモンド薄膜センサーからの出力信号を信号増幅・解析器を用いて処理した。すなわち、まず出力信号を前置増幅器にて増幅し、さらに整形増幅器にて整形、増幅した後、多重波高分析器に入力して解析し、波高分布スペクトルを作成した。
【0130】
作成した波高分布スペクトルを図4に示す。該波高分布スペクトルの横軸は、放射線を入射した際にダイヤモンド薄膜センサーより出力される出力信号の相対的な強度を表し、また、縦軸は各強度における出力信号の頻度を表す。なお、図中の実線は放射線照射下での波高分布スペクトルであり、破線は放射線非照射下での波高分布スペクトルである。
【0131】
当該波高分布スペクトルにおいて、放射線非照射下では約50以下の波高値においてノイズが見られるのみであるのに対し、放射線照射下では大幅な信号の増加が見られ、本発明の放射線検出装置が充分な感度をもって放射線に応答することが確認された。
【0132】
なお、該波高分布スペクトルにおいて、波高値が約100の領域に見られるピークは、放射線のエネルギー(5.5MeV)を反映したピークであって、本発明の放射線検出器はエネルギー弁別性をも有することが確認された。
【0133】
実施例2
製造例2によって製造したシンチレーター及び製作例1によって作製したダイヤモンド薄膜センサーを用いて、実施例1と同様にして放射線検出装置を構成し、波高分布スペクトルを作成した。
【0134】
作成した波高分布スペクトルを図5に示す。なお、図中の実線は放射線照射下での波高分布スペクトルであり、破線は放射線非照射下での波高分布スペクトルである。
【0135】
当該波高分布スペクトルにおいて、放射線非照射下では約10以下の波高値においてノイズが見られるのみであるのに対し、放射線照射下では大幅な信号の増加が見られ、本発明の放射線検出装置が充分な感度をもって放射線に応答することが確認された。
【0136】
なお、該波高分布スペクトルにおいて、波高値が約70の領域にピークが見られ、本発明の放射線検出器はエネルギー弁別性をも有することが確認された。
【0137】
実施例3
製造例3によって製造したシンチレーター及び製作例1によって作製したダイヤモンド薄膜センサーを用いて、40MBqの放射能を有する252Cf同位体を放射線源とする以外は、実施例1と同様にして放射線検出装置を構成し、波高分布スペクトルを作成した。すなわち、本実施例においては中性子線を検出対象とした。
【0138】
作成した波高分布スペクトルを図6に示す。なお、図中の実線は放射線照射下での波高分布スペクトルであり、破線は放射線非照射下での波高分布スペクトルである。
【0139】
当該波高分布スペクトルにおいて、放射線非照射下では約30以下の波高値においてノイズが見られるのみであるのに対し、放射線照射下では大幅な信号の増加が見られ、本発明の放射線検出装置が充分な感度をもって放射線に応答することが確認された。
【0140】
なお、該波高分布スペクトルにおいて、波高値が約180の領域にピークが見られ、本発明の放射線検出器はエネルギー弁別性をも有することが確認された。
【符号の説明】
【0141】
1 シンチレーター
2 ダイヤモンド薄膜センサー
3 アフターヒーター
4 ヒーター
5 断熱材
6 ステージ
7 坩堝
8 チャンバー
9 高周波コイル
10 引き下げロッド
11 ヒーター
12 断熱材
13 ステージ
14 坩堝
15 チャンバー
16 高周波コイル
17 引き上げロッド
18 シンチレーター
19 ダイヤモンド薄膜センサー
20 紫外線出射面
21 ダイヤモンド薄膜
22 紫外線反射膜
23 定電圧電源
24 増幅器

【特許請求の範囲】
【請求項1】
入射した放射線を波長が220nm以下の紫外線に変換するシンチレーターと、生じた紫外線を導いて電気信号に変換するダイヤモンド薄膜センサーとを具備し、そして放射線を電気信号として取り出すことを特徴とする放射線検出装置。
【請求項2】
シンチレーターが、金属フッ化物結晶であることを特徴とする請求項1記載の放射線検出装置。
【請求項3】
シンチレーターが、希土類元素を含有するシンチレーターであることを特徴とする請求項1〜2記載の放射線検出装置。
【請求項4】
シンチレーターが、コアバレンス発光するシンチレーターである請求項1〜2記載の放射線検出装置。
【請求項5】
シンチレーターが単位体積あたりに0.5〜20atom/nmLiを含有し、有効原子番号が10〜40であるシンチレーターであって、放射線が中性子線である請求項1〜4記載の放射線検出装置。
【請求項6】
前記ダイヤモンド薄膜センサーが、フォトコンダクタ型であることを特徴とする請求項1〜5記載の放射線検出装置。
【請求項7】
前記フォトコンダクタ型ダイヤモンド薄膜センサーにおける受光部が、多結晶または高配向性のアンドープダイヤモンドからなることを特徴とする請求項6記載の放射線検出装置。
【請求項8】
ダイヤモンドの受光面を挟んで1対の電極を有し、その電極間電圧20V以上250V以下、望ましくは50V以上160V以下を印加する電源を備え、SiO、Al、AlN、CaF、MgFのいずれかからなる受光面と電極面に接する被覆層を有することを特徴とする請求項6、7記載の放射線検出装置。
【請求項9】
前記被覆層の厚さが3nm以上100nm以下であることを特徴とする請求項8記載の放射線検出装置。
【請求項10】
電極間隔が5μm〜50μmさらに望ましくは10μm〜20μmであることを特徴とする請求項6〜9記載の放射線検出装置。
【請求項11】
1個の前記シンチレーターと1個の前記ダイヤモンド薄膜センサーとが互いに対をなし、複数の対が線状、あるいは面状に配列した構造を有することを特徴とする請求項1〜10記載の放射線検出装置。
【請求項12】
放射線をシンチレーターに入射して紫外線に変換し、次いで生じた紫外線をダイヤモンド薄膜センサーに導いて電気信号を生じせしめ、生じた電気信号を検知することを特徴とする放射線の検出方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2010−181373(P2010−181373A)
【公開日】平成22年8月19日(2010.8.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−27456(P2009−27456)
【出願日】平成21年2月9日(2009.2.9)
【出願人】(000003182)株式会社トクヤマ (839)
【出願人】(504157024)国立大学法人東北大学 (2,297)
【出願人】(000001199)株式会社神戸製鋼所 (5,860)
【Fターム(参考)】