説明

放射線検出装置

【課題】半導体検出器にバイアス電圧を印加する電源への悪影響を防止しながらもその半導体検出器におけるポーラリゼーションを解消できる放射線検出装置を提供すること。
【解決手段】PET装置100は、電源HV1と、半導体検出器3に電圧を印加するコンデンサC1と、電源HV1とコンデンサC1との間に接続されるリレーSW3と、コンデンサC1とリレーSW3とを接続する配線に一端が接続され、他端が接地されるリレーSW1と、抵抗を介してその配線を接地させるリレーSW2とを備え、リレーSW1及びリレーSW2を開(遮断)状態とした上でリレーSW3を閉(通電)状態としてコンデンサC1を充電させ、また、リレーSW3を閉(通電)状態とした上でリレーSW2を開(遮断)状態とし更にコンデンサC1の電圧が所定圧を下回ったときにリレーSW1を開(遮断)状態としてコンデンサC1を放電させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、被検体内の放射性同位元素が発する放射線を半導体検出器で検出しそれら放射性同位元素の被検体内における分布情報を取得する放射線検出装置に関し、特に、その半導体検出器で発生するポーラリゼーションを効率的に解消できる半導体PET(Positron Emission Tomography)装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、PET装置を用いた診断方法は、まず、放射性同位元素であるポジトロン(陽電子)核種で標識された検査用薬剤を、注射や吸入等により被検体の体内に導入する。体内に導入された検査用薬剤は、その検査用薬剤に応じた機能を有する特定の部位に蓄積される。例えば、糖類の検査用薬剤を用いた場合、ガン細胞等の新陳代謝の盛んな部位に選択的に蓄積される。このとき、その検査用薬剤のポジトロン核種から陽電子が放出され、放出された陽電子と周囲の電子とが結合して消滅する際に2つのガンマ線が互いに約180度の方向に放出される。そこで、この2つのガンマ線を被検体の周りに配置したガンマ線検出器により同時検出してコンピュータ等で処理することにより、その被検体内におけるポジトロン核種の分布画像(PET画像)を取得する。精密診断装置として用いられるCTスキャン(コンピュータ断層撮影)装置が体内の病変等の構造情報が得られるのに対し、PET装置は、被検体の体内の機能情報が得られるため、様々な難病の病理解明が可能となる。
【0003】
また、半導体PET装置は、CdTe(テルル化カドニウム)、GaAs(ガリウム砒素)、TlBr(臭化タリウム)等の半導体材料を採用した半導体検出器をガンマ線検出器として利用し、シンチレータを用いた装置に比べて高い空間分解能を実現させている。
【0004】
このような半導体PET装置の中には、ポーラリゼーションと呼ばれる分極現象に対する対策を備えた半導体PET装置も知られている(例えば、特許文献1参照。)。
【0005】
ポーラリゼーションは、ショットキー型CdTe半導体検出器で顕著に現れる現象であり、ショットキー型CdTe半導体検出器にバイアス電圧を印加し続けると、電極近傍に電子が引き付けられてその検出器内の電界が減少しその検出器の感度が低下する現象である。なお、ポーラリゼーションは、半導体検出器に印加されるバイアス電圧を所定時間に亘ってゼロ又は極めて低い電圧値にすることで解消される。その所定時間は、半導体検出器に印加されるバイアス電圧の大きさ、及び、バイアス電圧の印加を継続させた時間に依存する。
【0006】
特許文献1に記載のPET装置は、例えば、電源(11)、保護抵抗器(12)、平滑コンデンサ(13)、定電流ダイオード(15、16)、フォトモスリレー(17)、及びスイッチ制御装置(18)を含むバイアス印加回路(106a)を備え(特許文献1の図1参照。)、500Vのバイアス電圧を3分間にわたってその半導体検出器に印加した後、0.2秒以上のリセット時間にわたってそのバイアス電圧をゼロとし、その後バイアス電圧を500Vに戻すという操作を繰り返すことでポーラリゼーションの解消を図っている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2006−184139号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、特許文献1に記載のバイアス印加回路は、定電流ダイオード(15、16)をそれぞれ6個ずつ直列に接続した構成であり、そのうち一つでも故障してしまうと電源(11)へ大電流が流れるおそれがある。また、電源(11)と半導体放射線検出器(14)とが接続されたままの状態(電源(11)から半導体放射線検出器(14)に電流を流した状態)でポーラリゼーションの解消を行うため、ポーラリゼーションを有効に解消することができない(特許文献1の図1及び段落[0020]参照。)。
【0009】
上述の点に鑑み、本発明は、半導体検出器にバイアス電圧を印加する電源への悪影響を防止しながらその半導体検出器におけるポーラリゼーションを解消できる放射線検出装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上述の目的を達成するために、本発明に係る放射線検出装置は、被検体内の放射性同位元素が発する放射線を検出する半導体検出器を備えた放射線検出装置であって、電源と前記半導体検出器との間に接続される有接点型スイッチ素子と、前記有接点型スイッチ素子と前記半導体検出器とを接続する第一配線に一端が接続され他端が接地される第一スイッチ素子と、前記有接点型スイッチ素子及び前記第一スイッチ素子の開閉を制御するコントローラと、を備えることを特徴とする。これにより、本発明に係る放射線検出装置は、半導体検出器にバイアス電圧を印加する電源への悪影響を防止しながらその半導体検出器におけるポーラリゼーションを解消することができる。
【0011】
更に、抵抗と第二スイッチ素子とを直列に接続した第二配線であって、前記第一配線に一端が接続され他端が接地される前記第二配線を備え、前記第二スイッチ素子は、前記コントローラによって開閉が制御されることが好ましい。これにより、本発明に係る放射線検出装置は、ポーラリゼーションを解消する際におけるバイアス電圧の過大な変動、及び、平滑コンデンサからの過大な放電電流の発生を防止することができる。
【0012】
更に、前記半導体検出器に印加される電圧が所定圧となったことを検出する電圧検出部を更に備え、前記コントローラは、前記電圧検出部の出力に基づいて各スイッチ素子の開閉を制御することが好ましい。これにより、本発明に係る放射線検出装置は、経年劣化や環境温度の変化に応じて平滑コンデンサの放電特性が変化した場合であってもその放電特性の変化に応じてスイッチ素子の切り替えタイミングを柔軟且つ適切に適応させることができる。
【0013】
更に、前記第一配線は、配線中にコイルを含むことが好ましい。これにより、本発明に係る放射線検出装置は、スイッチ素子で発生するスイッチングノイズ等を除去することができる。
【0014】
更に、前記電源は、可変直流電圧源であることが好ましい。これにより、本発明に係る放射線検出装置は、バイアス電圧を逓減させることができる。
【0015】
更に、前記半導体検出器は、複数であり、前記有接点型スイッチ素子は、前記電源と複数の前記半導体検出器のそれぞれとの間に接続され、前記第一スイッチ素子は、前記有接点型スイッチ素子と複数の前記半導体検出器とを接続する第一配線に一端が接続され他端が接地されることが好ましい。これにより、本発明に係る放射線検出装置は、構成部品の数を更に削減し、構成を簡略化することができる。
【発明の効果】
【0016】
上述の手段により、本発明は、半導体検出器にバイアス電圧を印加する電源への悪影響を防止しながらその半導体検出器におけるポーラリゼーションを解消できる放射線検出装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】本発明に係る放射線検出装置の構成例を示すブロック図である。
【図2】本発明に係る放射線検出装置の構成例を示す概略図である。
【図3】本発明に係る放射線検出装置で使用されるバイアス印加回路の回路図(その1)である。
【図4】各スイッチ素子の開閉状態とコンデンサにおけるバイアス電圧との間の関係を示すタイミングチャートである。
【図5】本発明に係る放射線検出装置で使用されるバイアス印加回路の回路図(その2)である。
【図6】本発明に係る放射線検出装置で使用されるバイアス印加回路の回路図(その3)である。
【図7】各スイッチ素子の開閉状態、可変直流電圧源の出力電圧、及びコンデンサにおけるバイアス電圧の間の関係を示すタイミングチャートである。
【図8】本発明に係る放射線検出装置の別の構成例における回路図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、図面を参照しつつ、本発明を実施するための最良の形態の説明を行う。
【実施例】
【0019】
図1及び図2はそれぞれ、本発明に係る放射線検出装置であるPET装置の構成例を示すブロック図及び概略図であり、PET装置100は、被検体Pを載置する可動式ベッド50と、リング状の固定式ガントリ30とを備え、被検体Pを載せた可動式ベッド50が固定式ガントリ30のリング内を通過するよう可動式ベッド50を移動させながら被検体P内の広い範囲にわたって分布するポジトロン核種が発するガンマ線を検出する装置であり、制御部1、入力部2、半導体検出器3、表示部4、及び撮影範囲変更部5を主要部品として構成される。被検体Pは、例えば、実験用マウスである。
【0020】
制御部1は、CPU(Central Processing Unit)、RAM(Random Access Memory)、ROM(Read Only Memory)、NVRAM(Non-Volatile Random Access Memory)、タイマ等を備えたコンピュータであって、例えば、後述する画像処理手段10に対応するプログラムをROMに記憶しながら、画像処理手段10に対応する処理をCPUに実行させる。
【0021】
入力部2は、制御部1に対して各種情報を入力するための装置であり、例えば、キーボード、マウス、タッチパネル、音声認識装置等である。
【0022】
半導体検出器3は、被検体Pから放出されるガンマ線の空間的分布及び時間的分布を検出するための装置であり、例えば、板状の半導体結晶から構成され、リング状の固定式ガントリ30の円周に沿って複数並べて配置される。なお、半導体検出器3で使用される半導体結晶の例には、CdTe(テルル化カドニウム)、GaAs(ガリウム砒素)、TlBr(臭化タリウム)等がある。
【0023】
ポジトロン核種からの陽電子の消滅の際に同時に発生する2つのガンマ線は、互いに約180度の角度をなして放出され、被検体Pを挟んで対向する半導体検出器3に入射する。それら二つのガンマ線が入射した2つの半導体検出器3の各々は、それらガンマ線の入射に応じて電気信号(検出信号)を発生させ、その検出信号を制御部1に対して出力する。
【0024】
表示部4は、制御部1が出力する各種情報を表示するための装置であり、例えば、CRTモニタ、液晶ディスプレイ、プロジェクタ等である。
【0025】
撮影範囲変更部5は、PET装置100の撮影範囲を変更するための機構であり、例えば、可動式ベッド50を図2の双方向矢印ARで示す方向に移動させるための電動モータである。
【0026】
画像処理手段10は、半導体検出器3のそれぞれが出力する検出信号に基づいてPET画像を生成するための手段であり、例えば、コインシデンス検出及び画像再生成アルゴリズムによりPET画像を生成する。コインシデンス検出は、ガンマ線入射時刻がほぼ一致する2つ以上の検出信号がある場合、それらの検出信号を有効と判定し、コインシデンス情報とする。また、コインシデンス検出は、ガンマ線入射時刻が一致しない検出信号を無効と判定し破棄する。
【0027】
また、画像処理手段10は、コインシデンス情報と、そのコインシデンス情報に関するガンマ線を検出した半導体検出器3の位置情報とを用いて所定の画像再生成アルゴリズム(例えば、期待値最大化(Expectation Maximization)法である。)によりPET画像を生成し、生成したPET画像を表示部4に対して出力する。
【0028】
図3は、PET装置100で使用されるバイアス印加回路の回路図であり、バイアス印加回路E1は、直流電圧源HV1、コンデンサC1、電圧検出部D1、抵抗R1及びR2、スイッチ素子SW1、SW2、及びSW3、並びにコントローラ20を含む。
【0029】
直流電圧源HV1は、例えば500V〜1kVの高圧直流電圧であるバイアス電圧を発生させるための電源であり、その一端が接地され、その他端がスイッチ素子SW1及び抵抗R1を介して半導体検出器3に接続される。
【0030】
コンデンサC1は、直流電圧源HV1が出力するバイアス電圧を平滑して半導体検出器3に印加するための平滑コンデンサであり、例えば、その一端が接地され、その他端が直流電圧源HV1と半導体検出器3との間の配線上の点(以下、「第一接点」とする。)に接続される。これにより、バイアス印加回路E1は、半導体検出器3に掛かるバイアス電圧のノイズを低減させることができる。
【0031】
電圧検出部D1は、コンデンサC1に掛かるバイアス電圧が所定圧に達したか否かを検出するための素子であり、例えば、コンデンサC1に掛かるバイアス電圧が所定電圧値を上回る若しくは下回ると内部リレーが開閉するメータリレーであって、検出結果をコントローラ20に対して出力する。
【0032】
また、電圧検出部D1は、コンデンサC1に掛かるバイアス電圧を監視することで、半導体検出器3の劣化を監視することもできる。半導体検出器3は、経年劣化等により劣化すると放射線未検出時であっても微弱な漏れ電流を発生させ、例えば抵抗R1のところで電圧降下を生じさせ、ひいてはコンデンサC1に掛かるバイアス電圧を低減させるからである。
【0033】
スイッチ素子SW1は、何れの抵抗を介することもなくコンデンサC1を直接接地させ且つ放電させるための素子であり、例えば、高耐圧(例えば5kVである。)の有接点リードリレーであって、その一端が接地され、その他端が直流電圧源HV1と半導体検出器3との間の配線上の点(以下、「第二接点」とする。)に接続される。
【0034】
スイッチ素子SW2は、抵抗R2を介してコンデンサC1を接地させ且つ放電させるための素子であり、例えば、スイッチ素子SW1と同様、高耐圧(例えば5kVである。)の有接点リードリレーであって、抵抗R2及びスイッチ素子SW2を直列に接続した配線を想定した場合、その配線の一端が接地され、その配線の他端が直流電圧源HV1と半導体検出器3との間の配線上の点(以下、「第三接点」とする。)に接続される。なお、その配線上における抵抗R2及びスイッチ素子SW2の並びは順不同である。
【0035】
また、スイッチ素子SW1及びSW2は、フォトリレー、フォトカプラ、フォトMOS等の無接点型半導体スイッチ素子であってもよいが、有接点型リレーを採用した場合のほうが無接点型半導体スイッチ素子のようなON抵抗が存在せず閉(通電)状態とした場合に電圧降下を発生させることもないのでより好適である。
【0036】
また、直流電圧源HV1と半導体検出器3との間の配線上における第一接点、第二接点及び第三接点の並びは、順不同である。
【0037】
スイッチ素子SW3は、抵抗R1を介した直流電圧源HV1と接地との間の短絡を防止するための有接点型スイッチ素子であり、例えば、スイッチ素子SW1及びSW2と同様、高耐圧(例えば5kVである。)の有接点リードリレーであって、抵抗R1及びスイッチ素子SW3を直列の一組とした場合、その一組が直流電圧源HV1と半導体検出器3との間の配線中に接続される。なお、抵抗R1及びスイッチ素子SW3の並びは順不同である。
【0038】
また、抵抗R1及びスイッチ素子SW3の一組は、第一接点、第二接点、及び第三接点の何れに対しても直流電圧源HV1寄りに配置される。
【0039】
なお、抵抗R1は、所定の時定数でコンデンサC1を充電するために配置される抵抗であり、抵抗R2は、所定の時定数でコンデンサC1を放電するために配置される抵抗である。
【0040】
抵抗R2の大きさを選択することにより、バイアス印加回路E1は、コンデンサC1に掛かるバイアス電圧を任意の速度で放電することができる。
【0041】
コントローラ20は、スイッチ素子SW1、SW2、及びSW3の開閉を制御するための素子であり、例えば、プログラマブルロジックコントローラ(PLC)又は専用の電子回路であって、電圧検出部D1の出力に基づいてスイッチ素子SW1、SW2、及びSW3のそれぞれを所望のタイミングで開閉させる。なお、コントローラ20は、PET装置100の制御部1に接続され、制御部1との間で各種情報のやり取りを行うようにしてもよい。
【0042】
なお、本実施例では、バイアス電圧が500V、R1が100kΩ、R2が1MΩ、コンデンサC1が1nFとされるが、これらの値は、増幅アンプAMPの仕様等に応じて適宜選択される。
【0043】
また、バイアス印加回路E1は、コンデンサC1を介して半導体検出器3に接続され、半導体検出器3は、増幅アンプAMPを介して、PET装置100の制御部1に対して検出信号を出力する。
【0044】
増幅アンプAMPは、半導体検出器3が出力する検出信号を増幅するためのものであり、例えば、アナログASIC(Application Specific Integrated Circuit)で構成される。
【0045】
次に、図4を参照しながら、コントローラ20がスイッチ素子SW1、SW2、及びSW3の開閉を制御する処理について説明する。なお、図4は、各スイッチ素子SW1、SW2、及びSW3の開閉状態とコンデンサC1におけるバイアス電圧との間の関係を示すタイミングチャートであり、横軸に時間の推移を示す。なお、本実施例において、バイアス電圧は正の値を採用するが、負の値を採用してもよく、また、負の値を採用する場合であっても以下と同様の説明が適用されるものとする。
【0046】
最初に、PET装置100の制御部1からPET画像の撮影を開始するための信号を受信すると、コントローラ20は、スイッチ素子SW1及びSW2を開(遮断)状態とする。なお、スイッチ素子SW1及びSW2の閉(通電)状態から開(遮断)状態への切り替えは、同時であってもよく、スイッチ素子SW1の切り替えが先であってもよく、スイッチ素子SW2の切り替えが先であってもよい。
【0047】
その後、スイッチ素子SW1及びSW2が開(遮断)状態に切り替わるのに十分な時間が経過した時点で、コントローラ20は、スイッチ素子SW3を閉(通電)状態に切り替えてコンデンサC1の充電を開始させる。
【0048】
このとき、コンデンサC1のバイアス電圧は、抵抗R1との関係で定義される時定数(RC一次遅れ回路の時定数)に従って、直流電圧源HV1と同じ500Vの電圧まで上昇する。
【0049】
電圧検出部D1によりコンデンサC1のバイアス電圧が所定電圧(例えば、495Vである。)を上回ったことが検出されると、コントローラ20は、半導体検出器3による検出が可能となった旨を知らせる信号を制御部1に対して出力し、制御部1の画像処理手段10を開始させるようにしてもよい。
【0050】
その後、コントローラ20は、半導体検出器3における半導体材料で過度のポーラリゼーションを発生させない程度の期間にわたって撮影を継続させた上で、ポーラリゼーション解消処理を開始させる。
【0051】
この場合、コントローラ20は、撮影を開始してから所定時間(例えば、10分間である。)が経過したことを知らせる信号を制御部1から受信した場合にポーラリゼーション解消処理を開始させてもよく、コントローラ20自身が有するタイマを利用して撮影を開始してから所定時間が経過したことを検知した場合にポーラリゼーション解消処理を開始させてもよい。
【0052】
ポーラリゼーション解消処理において、コントローラ20は最初に、スイッチ素子SW3を開(遮断)状態に切り替える。直流電圧源HV1とスイッチ素子SW1及びSW2とを物理的(機械的)に切り離し、無接点型半導体スイッチ素子を用いた場合に発生し得るような絶縁破壊等による電源HV1への大電流の発生を防止し、電源HV1を保護するためである。
【0053】
その後、コントローラ20は、スイッチ素子SW2を閉(通電)状態に切り替え、抵抗R2との関係で定義される時定数(RC一次遅れ回路の時定数)に従って、コンデンサC1のバイアス電圧を低減(放電)させるようにする。
【0054】
更に、コントローラ20は、電圧検出部D1によりコンデンサC1のバイアス電圧が所定電圧(例えば、250Vである。)を下回ったことを検出すると、スイッチ素子SW1を閉(通電)状態に切り替え、何れの抵抗を介することもなくコンデンサC1を直接接地させ、コンデンサC1のバイアス電圧をゼロまで低減(放電)させるようにする。
【0055】
その後、コントローラ20は、ポーラリゼーションを解消するのに十分な時間(例えば、0.4秒である。)が経過するまで、スイッチ素子SW1、SW2、及びSW3をそれぞれ閉(通電)状態、閉(通電)状態、及び開(遮断)状態とし、ポーラリゼーションを解消するのに十分な時間が経過した時点で、スイッチ素子SW1及びSW2を開(遮断)状態に切り替えてポーラリゼーション解消処理を終了させる。
【0056】
なお、スイッチ素子SW1及びSW2の閉(通電)状態から開(遮断)状態への切り替えは、同時であってもよく、スイッチ素子SW1の切り替えが先であってもよく、スイッチ素子SW2の切り替えが先であってもよい。また、コントローラ20は、スイッチ素子SW1を閉(通電)状態とした後、ポーラリゼーションを解消するのに十分な時間が経過する前にスイッチ素子SW2を開(遮断)状態としてもよい。スイッチ素子SW1が閉(通電)状態でありさえすればポーラリゼーションを解消できるからである。
【0057】
その後、コントローラ20は、スイッチ素子SW3を閉(通電)状態に切り替え、抵抗R1との関係で定義される時定数(RC一次遅れ回路の時定数)に従ってコンデンサC1のバイアス電圧を再び500Vまで上昇(充電)させ、以後、上述の処理を繰り返すようにする。
【0058】
以上の構成により、バイアス印加回路E1は、コンデンサC1を放電させる前にスイッチ素子SW3を開(遮断)状態に切り替えて直流電圧源HV1を物理的(機械的)に切り離すので、ポーラリゼーション解消処理による直流電圧源HV1への悪影響を確実に防止しながら半導体検出器3におけるポーラリゼーションを解消することができる。
【0059】
また、バイアス印加回路E1は、スイッチ素子SW3を閉(通電)状態にする前にスイッチ素子SW1及びSW2を開(遮断)状態に切り替えた上でそれらによる接地を物理的(機械的)に切り離すので、ポーラリゼーション解消処理のための素子(スイッチ素子SW1及びSW2)による直流電圧源HV1への悪影響を確実に防止しながらコンデンサC1を充電することができる。
【0060】
また、バイアス印加回路E1は、予め登録された固定タイミングでスイッチ素子SW1を閉(通電)状態に切り替えるのではなく、電圧検出部D1によりコンデンサC1に掛かるバイアス電圧が所定圧に達したことを検出した上でスイッチ素子SW1を閉(通電)状態に切り替えるようにするので、経年劣化や環境温度の変化に応じてコンデンサC1の放電特性が変化した場合であってもその放電特性の変化に応じてスイッチ素子SW1の開(遮断)状態から閉(通電)状態への切り替えタイミングを柔軟且つ適切に適応させることができ、過大な放電電流を発生させて増幅アンプAMPに悪影響を及ぼしてしまうこともなく、ポーラリゼーションを解消することができる。
【0061】
また、バイアス印加回路E1は、抵抗R2を介してコンデンサC1を接地させコンデンサC1におけるバイアス電圧を所定圧まで低減させた後に、何れの抵抗を介することもなくコンデンサC1を直接接地させて更に放電させるので、コンデンサC1におけるバイアス電圧の過大な変動、及び、コンデンサC1からの過大な放電電流の発生を防止し、増幅アンプAMPを保護することができる。
【0062】
次に、図5を参照しながら、PET装置100で使用される別のバイアス印加回路E2について説明する。なお、図5は、バイアス印加回路E2の回路図である。
【0063】
バイアス印加回路E2は、直流電圧源HV1と半導体検出器3との間の配線上にコイルL1及び抵抗R3を備える点でバイアス印加回路E1と相違するが、その他の点でバイアス印加回路E1と共通する。従って、共通点に関する説明を省略しながら、相違点であるコイルL1及び抵抗R3について説明する。
【0064】
コイルL1は、バイアス電圧におけるノイズを低減させるための素子であり、例えば、スイッチ素子SW1、SW2、又はSW3で発生するスイッチングノイズにおける高周波成分の除去に適している。
【0065】
また、抵抗R3は、コンデンサC1に過大な充電電流が流入したり、或いは、コンデンサC1から過大な放電電流が流出したりするのを防止するための素子であり、直流電圧源HV1と半導体検出器3との間の配線上における第一接点と第二接点との間に配置される。
【0066】
以上の構成により、バイアス印加回路E2は、バイアス印加回路E1による上述の効果に加え、バイアス電圧のバラツキ及び増幅アンプAMPにおける過大電流の発生を確実に防止しながら半導体検出器3におけるポーラリゼーションを解消することができる。
【0067】
次に、図6を参照しながら、PET装置100で使用される更に別のバイアス印加回路E3について説明する。なお、図6は、バイアス印加回路E3の回路図である。
【0068】
バイアス印加回路E3は、直流電圧源HV1の代わりに可変直流電圧源HV2を備え、スイッチ素子SW2及び抵抗R2を省略した点でバイアス印加回路E1と相違するが、その他の点でバイアス印加回路E1と共通する。従って、共通点に関する説明を省略しながら、相違点である可変直流電圧源HV2について説明する。
【0069】
可変直流電圧源HV2は、出力するバイアス電圧の大きさを制御可能な直流電圧源であり、例えば、コントローラ20が出力する制御信号に応じて出力電圧を逓減させることができる。
【0070】
可変直流電圧源HV2の出力電圧を逓減させることにより、バイアス印加回路E3は、コンデンサC1に掛かるバイアス電圧を任意の速度で逓減することができる。
【0071】
図7は、各スイッチ素子SW1及びSW3の開閉状態、可変直流電圧源HV2の出力電圧、並びにコンデンサC1におけるバイアス電圧の間の関係を示すタイミングチャートである。
【0072】
最初に、PET装置100の制御部1からPET画像の撮影を開始するための信号を受信すると、コントローラ20は、スイッチ素子SW1を開(遮断)状態とする。
【0073】
その後、スイッチ素子SW1が開(遮断)状態に切り替わるのに十分な時間が経過した時点で、コントローラ20は、スイッチ素子SW3を閉(通電)状態に切り替えてコンデンサC1の充電を開始させる。
【0074】
このとき、コンデンサC1のバイアス電圧は、抵抗R1との関係で定義される時定数(RC一次遅れ回路の時定数)に従って、直流電圧源HV2と同じ500Vの電圧まで上昇する。
【0075】
その後、コントローラ20は、半導体検出器3における半導体材料で過度のポーラリゼーションを発生させない程度の期間にわたって撮影を継続させた上で、ポーラリゼーション解消処理を開始させる。
【0076】
ポーラリゼーション解消処理において、コントローラ20は最初に、直流電圧源HV2に対して制御信号を出力し、直流電圧源HV2の出力電圧を逓減させ、コンデンサC1のバイアス電圧を低減(放電)させるようにする。
【0077】
その後、コントローラ20は、電圧検出部D1によりコンデンサC1のバイアス電圧が所定電圧(例えば、250Vである。)を下回ったことを検出すると、スイッチ素子SW3を開(遮断)状態に切り替える。直流電圧源HV2とスイッチ素子SW1とを物理的(機械的)に切り離すためである。
【0078】
その後、コントローラ20は、スイッチ素子SW1を閉(通電)状態に切り替え、何れの抵抗を介することもなくコンデンサC1を直接接地させ、コンデンサC1のバイアス電圧をゼロまで低減(放電)させるようにする。
【0079】
このとき、コンデンサC1からの放電電流は急増するものの、コンデンサC1のバイアス電圧が既に所定電圧未満となっているため、増幅アンプAMPに悪影響を及ぼすほどには増大しない。
【0080】
その後、コントローラ20は、直流電圧源HV2に対して制御信号を出力し、直流電圧源HV2の出力を元の500Vにまで増大させるようにする。コンデンサC1の次回の充電に備えるためである。
【0081】
その後、コントローラ20は、ポーラリゼーションを解消するのに十分な時間(例えば、0.4秒間である。)が経過するまで、スイッチ素子SW1及びSW3をそれぞれ閉(通電)状態及び開(遮断)状態とし、ポーラリゼーションを解消するのに十分な時間が経過した時点で、スイッチ素子SW1を開(遮断)状態に切り替えてポーラリゼーション解消処理を終了させる。
【0082】
その後、コントローラ20は、スイッチ素子SW3を閉(通電)状態に切り替え、抵抗R1との関係で定義される時定数(RC一次遅れ回路の時定数)に従ってコンデンサC1のバイアス電圧を再び500Vまで上昇(充電)させ、以後、上述の処理を繰り返すようにする。
【0083】
以上の構成により、バイアス印加回路E3は、何れの抵抗を介することもなくコンデンサC1を直接接地させて放電させる前にスイッチ素子SW3を開(遮断)状態に切り替えて可変直流電圧源HV2を物理的(機械的)に切り離すので、ポーラリゼーション解消処理による可変直流電圧源HV2への悪影響を確実に防止しながら半導体検出器3におけるポーラリゼーションを解消することができる。
【0084】
また、バイアス印加回路E3は、スイッチ素子SW3を閉(通電)状態にする前にスイッチ素子SW1を開(遮断)状態に切り替えて接地を物理的(機械的)に切り離すので、ポーラリゼーション解消処理のための素子(スイッチ素子SW1)による直流電圧源HV2への悪影響を確実に防止しながらコンデンサC1を充電することができる。
【0085】
また、バイアス印加回路E3は、予め登録された固定タイミングでスイッチ素子SW1を閉(通電)状態に切り替えるのではなく、電圧検出部D1によりコンデンサC1に掛かるバイアス電圧が所定圧に達したことを検出した上でスイッチ素子SW1を閉(通電)状態に切り替えるようにするので、経年劣化や環境温度の変化に応じてコンデンサC1の放電特性が変化した場合であってもその放電特性の変化に応じてスイッチ素子SW1の開(遮断)状態から閉(通電)状態への切り替えタイミングを柔軟且つ適切に適応させることができ、過大な放電電流を発生させて増幅アンプAMPに悪影響を及ぼしてしまうこともなく、ポーラリゼーションを解消することができる。
【0086】
また、バイアス印加回路E3は、可変直流電圧源HV2の出力を所定電圧まで逓減させた後、何れの抵抗をも介することなくコンデンサC1を直接接地させて放電させるので、コンデンサC1におけるバイアス電圧の過大な変動、及び、コンデンサC1からの過大な放電電流の発生を防止し、増幅アンプAMPを保護することができる。
【0087】
次に、図8を参照しながら、本発明に係るPET装置の別の実施例について説明する。なお、図8は、PET装置200におけるバイアス印加回路(図3におけるバイアス印加回路E1と同じバイアス印加回路であり、参照符号E1をそのまま用いることとする。)の回路図であり、一つのバイアス印加回路E1が複数の半導体検出器3−1〜3−n(nは、ゼロを除く自然数である。)に接続され多チャンネル化された点で、一つのバイアス印加回路E1が一つの半導体検出器3に接続されるPET装置100と相違するが、その他の点でPET装置100と共通する。
【0088】
図8に示す構成により、PET装置200は、一つのバイアス印加回路E1で複数の半導体検出器3−1〜3−nに対するポーラリゼーション解消処理を一括して実施することが可能であり、半導体検出器3のそれぞれに対応するバイアス印加回路E1を備えるPET装置100に比べて、スイッチ素子、コンデンサ、抵抗等の構成部品の数を大幅に削減することができる。
【0089】
なお、この構成は、バイアス印加回路としてバイアス印加回路E2又はE3を利用する場合であっても同様に適用可能である。
【0090】
以上、本発明の好ましい実施例について詳説したが、本発明は、上述した実施例に制限されることはなく、本発明の範囲を逸脱することなしに上述した実施例に種々の変形及び置換を加えることができる。
【0091】
例えば、上述の実施例において、制御部1又はコントローラ20は、ポーラリゼーション解消処理の際にスイッチ素子SW3を開(遮断)状態にして、直流電圧源HV1又はHV2と半導体検出器3又は増幅アンプAMP等の電圧源以外の部分とを物理的(機械的)に切り離すようにするが、電圧検出部D1等の出力に基づいて直流電圧源HV1又はHV2で異常が発生したこと、或いは、電圧源以外の部分で異常が発生したことを検知した場合に、スイッチ素子SW3を開(遮断)状態にして直流電圧源HV1又はHV2と電圧源以外の部分とを物理的(機械的)に切り離すようにしてもよい。異常のない部分を確実に保護するためである。
【0092】
また、本実施例において、バイアス印加回路E1〜E3は、PET装置100、200の半導体検出器におけるポーラリゼーションを解消させるために利用されるが、CT(Computerized Tomography)装置、PET−CT装置、PET−MRI(Magnetic Resonance Imaging)装置、又は放射線モニタ装置等の半導体検出器を備えた他の放射線検出装置におけるポーラリゼーションを解消させるために利用されてもよい。
【符号の説明】
【0093】
1 制御部
2 入力部
3、3−1〜3−n 半導体検出器
4 表示部
5 撮影範囲変更部
10 画像処理手段
20 コントローラ
30 固定式ガントリ
50 可動式ベッド
100、200 PET装置
AMP、AMP1〜AMPn 増幅アンプ
C1 コンデンサ
D1 電圧検出部
E1〜E3 バイアス印加回路
HV1、HV2 直流電圧源
L1 コイル
R1〜R3 抵抗
SW1〜SW3 スイッチ素子

【特許請求の範囲】
【請求項1】
被検体内の放射性同位元素が発する放射線を検出する半導体検出器を備えた放射線検出装置であって、
電源と前記半導体検出器との間に接続される有接点型スイッチ素子と、
前記有接点型スイッチ素子と前記半導体検出器とを接続する第一配線に一端が接続され他端が接地される第一スイッチ素子と、
前記有接点型スイッチ素子及び前記第一スイッチ素子の開閉を制御するコントローラと、
を備えることを特徴とする放射線検出装置。
【請求項2】
抵抗と第二スイッチ素子とを直列に接続した第二配線であり、前記第一配線に一端が接続され他端が接地される前記第二配線を備え、
前記第二スイッチ素子は、前記コントローラによって開閉が制御される、
ことを特徴とする請求項1に記載の放射線検出装置。
【請求項3】
前記半導体検出器に印加される電圧が所定圧となったことを検出する電圧検出部を更に備え、
前記コントローラは、前記電圧検出部の出力に基づいて各スイッチ素子の開閉を制御する、
ことを特徴とする請求項1又は2に記載の放射線検出装置。
【請求項4】
前記第一配線は、配線中にコイルを含む、
ことを特徴とする請求項1乃至3の何れか一項に記載の放射線検出装置。
【請求項5】
前記電源は、可変直流電圧源である、
ことを特徴とする請求項1乃至4の何れか一項に記載の放射線検出装置。
【請求項6】
前記半導体検出器は、複数であり、
前記有接点型スイッチ素子は、前記電源と複数の前記半導体検出器のそれぞれとの間に接続され、
前記第一スイッチ素子は、前記有接点型スイッチ素子と複数の前記半導体検出器とを接続する第一配線に一端が接続され他端が接地される、
ことを特徴とする請求項1乃至5の何れか一項に記載の放射線検出装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2010−230408(P2010−230408A)
【公開日】平成22年10月14日(2010.10.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−76817(P2009−76817)
【出願日】平成21年3月26日(2009.3.26)
【出願人】(000002107)住友重機械工業株式会社 (2,241)
【Fターム(参考)】