説明

放火抑止システム

【課題】
防護対象の建造物、特に重要文化財では、人の出入りを特に制限していない敷地へ夜間に訪れる者もおり、放火防止目的で人体センサを設け、その作動によって警報したり威嚇するような装置を設けると、善意の訪問者を検知しただけで警報したり威嚇してしまうような好ましくないことが起こる上、近隣への騒音問題も起こしかねない。また、放火されてしまってから警報するのでは守るべき建造物に何らかの被害が発生する。
【解決手段】
人体センサの作動で警戒モードへ移行してカメラと照明とを起動するとともに音響出力部を起動して監視を開始したことを告げる威嚇しない音響を出力し、炎センサ作動で威嚇モードへ移行して照明と音響とで威嚇し、威嚇モードが所定時間継続したときは放火阻止モードへ移行して点火された火種を消火して建造物への着火を阻止する放火抑止システムとする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、放火、特に重要文化財などにおける放火を抑止する放火抑止システムに関するものである。
【背景技術】
【0002】
炎センサと人体センサとを備え、それぞれの出力信号を評価して人間が関与する火災を放火と判断して警報するものが開示されている。(特許文献1参照)
また、煙濃度検出部と人感センサとを備え、煙濃度が所定の閾値より大きいとき、または、人感センサがオンされたときに、放電灯を点灯または点滅させ、音声メッセージを出力する照明器具が開示されている。(特許文献2参照)
この照明器具は煙検出時と人体検出時の動作は互いに独立して行われている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2000−123266号公報
【特許文献2】特開2005−203275号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
人の出入りを特に制限していない敷地、例えば神社の境内等では、単に敷地内を通路として用いる通行人や、夜間に参拝等で訪れる者もおり、このような善意の者に対して人体を検知しただけで警報することや照明や音声で威嚇するような放火抑止目的の威嚇装置は、過剰な反応を行うことから好ましくなく、さらに、近隣への騒音問題も起こしかねない。
【0005】
また、放火されてしまってから警報するような放火検知装置では、守るべき建造物に何らかの被害が発生する可能性があるという問題があった。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明に係る放火抑止システムは、人体検知部を有する人体センサと、該人体センサに設けられ前記人体検知部が人体を検知したときに侵入信号を送信する送信部と、炎検知部を有する炎センサと、該炎センサに設けられ前記侵入信号を受信する受信部と、カメラ部と、照明部と、音響出力部と、を備え、前記炎センサは、前記侵入信号を受信したときに移行する警戒モードを備え、該警戒モードでは、前記カメラ部と前記照明部とを起動して撮像するとともに、前記音響出力部を起動して監視を開始したことを告げる威嚇しない音響を出力するように制御することを特徴とする。
【0007】
本発明に係る放火抑止システムは、前記警戒モードが継続している間は経過時間毎に警戒レベルを段階的に上げ、前記照明部の照明および前記音響出力部から出力する音響出力を、威嚇しない範囲で前記警戒レベル毎に変化するように制御することを特徴とする。
【0008】
本発明に係る放火抑止システムは、前記炎センサが炎を検知したときに移行する威嚇モードを備え、該威嚇モードでは、前記照明部、前記音響出力部のいずれか、または、両方による威嚇を行うように制御することを特徴とする。
【0009】
本発明に係る放火抑止システムは、前記炎センサが威嚇モードに移行したときに、防護対象である建造物に備えられた照明装置を点灯させるように、または、噴出音を伴って微細水粒子を放出する水噴霧装置を作動させるように、制御することを特徴とする。
【0010】
本発明に係る放火抑止システムは、前記放火抑止システムが昼夜判別手段を備えるとともに、前記炎センサが感度設定部または応答時間設定部を備え、平常時は前記炎検知部の感度または応答時間をそれぞれ低感度または長時間に設定し、夜間に前記侵入信号を受信したときに、前記炎検知部の感度または応答時間をそれぞれ高感度または短時間に設定するように制御することを特徴とする。
【0011】
本発明に係る放火抑止システムは、前記炎センサが、前記威嚇モードが所定時間継続したときに移行する放火阻止モードを備え、該放火阻止モードでは自動的に炎を消火する消火装置を起動し、放火しようと点火された火種を消火して、防護対象物への着火を阻止するように制御することを特徴とする。
請求項1乃至5のいずれかに記載の放火抑止システム。
【発明の効果】
【0012】
本発明に係る放火抑止システムは、請求項1に記載の構成によれば、周囲の人物に事態の変化を認識させ、放火をしようとする悪意の侵入者には不安感を与え、その者に退去を促すが、善意の来訪者を威嚇することが無い。
【0013】
本発明に係る放火抑止システムは、請求項2に記載の構成によれば、周囲の人物に警備体制が刻々と強化されてゆくことを認識させ、放火をしようとする悪意の侵入者には尚いっそうの不安感を与え、その者に退去を促すが、善意の来訪者を威嚇することが無い。
【0014】
本発明に係る放火抑止システムは、請求項3に記載の構成によれば、放火をしようとする悪意の侵入者が火種を点火したときにその者を威嚇して追い払うので、火種が燃え草に着火することを未然に防止することができる。
【0015】
本発明に係る放火抑止システムは、請求項4に記載の構成によれば、放火をしようとする悪意の侵入者が火種を点火したときに、視覚的または聴覚的に予期せぬ状況になったことを認識させ、その者を追い払うことができ、火種が燃え草に着火することを未然に防止することができる。
【0016】
本発明に係る放火抑止システムは、請求項5に記載の構成によれば、夜間に侵入信号を受信するとき以外は、炎センサの感度を低感度または炎センサの応答時間を長時間と設定するので、一過性の外乱光等で炎センサが誤動作することが無い。
【0017】
本発明に係る放火抑止システムは、請求項6に記載の構成によれば、火種の段階で消火するので、防護対象物への着火を阻止することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】本発明に係る放火抑止システムのブロック図である。
【図2】本発明に係る放火抑止システムの概略図である。
【図3】本発明に係る放火抑止システムが備える消火装置の構成図である。
【図4】本発明に係る放火抑止システムの動作フロー図である
【図5】本発明に係る放火抑止システムの警戒モードの動作フロー図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
図1乃至図5に基づいて、本発明に係る放火抑止システムについて説明する。
【0020】
まず図2を用いて、センサの設置形態について説明する。1は防護対象の建造物(例えば神社や山門などの建造物)、10は人体センサ、20は炎センサを示している。防護すべき建造物1が重要文化財である場合には、炎センサ20などをその建造物1の軒下などに取り付けることは出来ない。これは、取り付けによって建造物1を傷つける恐れがあるためである。
【0021】
そこで炎センサ20は、建造物1に隣接する樹木3に取り付けてある。樹木3は景観上許される場合は、それに代わる鉄柱のような人工物でも良い。また人体センサ10は、建造物1に隣接する建物5の外に設置されている。これも景観上許される場合は、建物5に代わる鉄柱のような人工物でも良い。この際、人体センサ10及び炎センサ20は、その視野内に防護すべき建造物1およびその周囲が収まるように取り付けられる。そして1台で建造物1およびその周囲を監視できない場合には、建造物1に隣接する図示しない樹木3や建物5等を利用して、センサ10,20は複数台設置される。このように建造物1の周囲にセンサ10,20を1台または複数台設置することで、建造物1およびその周囲における人の接近と放火をしようとする者が点火する火種を検知するようにしてある。
【0022】
ここで、センサ10,20は、景観を配慮した電線の敷設が可能な場合は、有線による電源供給および信号授受を行ってもかまわないが、建造物1から離れた所の屋外に設置する場合は、そこで屋外への設置を配慮して、太陽電池により電源を供給し、無線により異常信号を送信できるセンサが望まれることになる。
【0023】
以下に、図1を用いてこのようなセンサ10,20のブロック構成について説明する。図1において、10は人体センサ、20は炎センサ、30は受信機、40は消火装置である。
【0024】
なお、人体センサ10は、炎センサ20に備えられてないものとして説明したが、人体センサ10を炎センサ20に備えて、一体化しても良い。説明の便宜上、以降は人体センサ10が炎センサ20に備えられてないものとして説明する。
まず人体センサ10のブロック構成について説明する。人体センサ10は、人体検知部11を有している。人体検知部11は、レーザービーム、超音波、赤外線、電波、等を利用して人間の存在を検知する公知の手段である。12は無線送信部で、人体検知部11が人体を検知した時、無線で侵入信号を炎センサ20の無線送受信部25に送信するものである。13は太陽光を電気エネルギーに変換する太陽電池で、その発電された電気は、充電池を有する電源部14に蓄えられて、制御部15を介して、人体検知部11などの他のブロックに供給される。太陽電池13は日中の間だけ発電するのに対し、放火は主に人のいない夜間に行われることが多いので、充電池の容量は夜間監視できるだけの容量を持たせる。なお、設置場所によって必要な発電量を得られる場合は、風力発電等、他の発電手段によっても良い。
【0025】
次に、炎センサ20の構成について説明する。23は太陽電池であり、人体センサ10に設けられた太陽電池13と同じものである。24は電源部であり、これも人体センサ10に設けられた電源部24と同じものである。電源部24に備えた充電池は、昼夜を通して炎センサ20で監視し、夜間は後述する照明部、カメラ部、音響出力部等を所定時間動作させるだけの容量を持たせる。
【0026】
2Aは昼夜判別手段としての、計時手段である24時間タイマ、または、照度検出手段である照度検出部である。昼夜判別手段2Aに24時間タイマを用いる場合は、昼夜の範囲を時刻設定して昼夜を判別し、照度検出手段を用いる場合は、所定の照度以上を昼間、所定の照度未満を夜間と判別する。前記24時間タイマの昼夜範囲の時刻設定は、ソフトウェアを用いて季節毎の変動を考慮した設定としても良い。昼夜判別手段2Aに照度検出部を用いる場合、曇や雨などの天候、または、日陰などの設置場所によっては、日中でも照度の低下によって夜間と判別されてしまうこともあり得るが、逆に暗くなることで放火が想定されるような場合は有利でもある。これらは、防護対象に応じた管理体制によって適宜選択される。
【0027】
なお、昼夜判別手段2Aは炎センサ20に備えられるものとして説明したが、昼夜判別手段2Aは人体センサ10に備えて、夜間の侵入信号のみを無線送信部12から炎センサ20へ送信するようにしても良い。あるいは、人体センサ10や炎センサ20とは異なる場所に備えて、昼夜を判別した信号を無線装置で炎センサ20に送信しても良い。説明の便宜上、以降は昼夜判別手段2Aが炎センサ20に備えられるものとして説明する。
【0028】
21は炎を検出する炎検知部で、例えば、炎特有のCO共鳴放射による4.3μm帯の波長を検出する赤外線検出素子や、前記4.3μm帯の波長およびその前後の複数の波長を検出して波長分布のピークが炎特有の4.3μm帯に存在することを検出する赤外線検出素子や、紫外線検出器などの検出素子や、その他炎特有の放射を検出する素子のいずれか、または、前記検出素子を複数種類組み合わせた炎検出装置を有する。
【0029】
22は炎検知部21の感度を設定する感度設定部で、例えば高感度と低感度の2段階に切り替えられる。あるいは、22は炎検知部の応答時間を設定する応答時間設定部であっても良く、例えば所定時間の遅延動作を行う「長時間」と速動である「短時間」の2段階に切り替えるようにしても良い。
【0030】
この感度設定部または応答時間設定部22は、昼夜判別手段2Aによって判別された夜間に侵入信号を受信したときだけ、感度設定部ならば高感度に、応答時間設定部ならば短時間(速動)に設定し、一過性の外乱光等によって炎検知部21が誤動作しないようにしてある。説明の便宜上、以降は22を感度設定部として説明する。
【0031】
25は無線送受信部で、人体センサ10からの侵入信号を受信する無線受信部と、受信機30へ放火信号等を送信する無線送信部とを兼ねたものである。なお、無線送受信部25は、前記無線送信部と前記無線受信部とに分離しても良い。
【0032】
無線送受信部25が夜間に人体センサ10からの侵入信号を無線で受信したとき、炎センサ20は警戒モードに移行する。警戒モードに移行した炎センサ20は、感度設定部22を高感度に設定するように制御するとともに、後述するように照明部28、カメラ部27,音響出力部としての音声出力部26、を制御する。なお、警備体制によっては昼夜の区別なく、人体センサ10からの侵入信号を無線で受信したときに、炎センサ20を警戒モードとしても良く、施設の警備体制によって適宜選択される。
【0033】
炎センサ20が警戒モードの場合、さらに炎検知部21が炎を検知した時、炎センサ20は威嚇モードに移行する。威嚇モードに移行した炎センサ20は、放火信号を受信機30に無線で送信するとともに、後述するように照明部28、カメラ部27,音響出力部としての音声出力部26、を制御する。
【0034】
なお、前記警戒モードの継続時間に応じて、段階的に複数の警戒レベルを設け、該警戒レベル毎に照明部28、音声出力部26等を、威嚇しない範囲で警戒心を煽るように制御しても良い。
【0035】
炎センサ20が警戒モードではない場合、炎検知部21が炎を検知した時、炎センサ20は火災モードに移行する。火災モードに移行した炎センサ20は、火災信号を受信機30に無線で送信する。
【0036】
26は音響出力部としての音声出力部であり、ブザー等の音響装置であっても良いが、ここでは通知や警告・威嚇するにあたって、より効果的に機能する音声出力部としている。音声出力部26は、予め複数の音声メッセージが登録されており、制御部29からの指令によって指定の音声メッセージを拡声出力するものである。音声メッセージの登録は、予め用意した音声データを音声出力部26内の図示しない記憶部に登録しても良いし、前記記憶部に音声データとして肉声を録音するものであっても良い。
【0037】
炎センサ20が前記警戒モードに移行すると、音声出力部26は、監視を開始した旨等、威嚇しない穏やかな音声メッセージ、例えば「警備のため監視を開始します」と出力するように制御部29で制御する。
【0038】
なお、音声出力部26は、前記警戒レベルに応じて威嚇しない範囲で警戒心を煽るよう、音声メッセージを段階的に出力するように制御部29で制御しても良い。例えば、人体センサ10が侵入信号を出力した直後の第1レベルでは何も出力せず、所定時間経過した第2レベルでは「警備のため監視を開始します」と、監視を開始した旨を通知する音声メッセージを出力し、さらに所定時間経過した第3レベルでは「もう○分も同じ場所におられます。このままですと不審者として記録されますので速やかに移動してください」と、退去を求めるべく警告する音声メッセージを出力し、さらに所定時間経過した第4レベルでは「警告、警告、不審者として記録し、録画を開始します」と、既に不審者として捕捉されている音声メッセージを出力する。このとき、炎センサ20は不審者信号を受信機30へ無線で送信しても良い。
【0039】
炎センサ20が前記威嚇モードに移行したときは、「火の気発見!火の気発見!放火犯被疑者を記録し、放火警報を発令します!」等と、威圧的で威嚇する音声メッセージを出力する。
【0040】
なお、音声出力部26は、炎センサ20に備えられるものとして説明したが、他の場所に備え、炎センサ20あるいは受信機30からの制御信号を無線で受信して動作するようにしても良い。
【0041】
28は照明部であり、無線送受信部25が侵入信号を受信して警戒モードに移行したときは、照明部28が点灯するように制御部29によって制御される。
【0042】
なお、照明部28は、前記警戒レベルに応じて威嚇しない範囲で警戒心を煽るよう、音声出力部26と相乗効果を奏するように照明を段階的に変化させるように制御部29で制御しても良い。例えば、警戒レベル1では単に照明部28の点灯のみを行い、警戒レベル2では前記警戒レベル1の状態を維持するか、照明部28の照明色を寒色系に変え、警戒レベル3では照明部28の照明色を黄色や赤色等の警戒色に変え、警戒レベル4では警戒色を含んだ複数の照明色を所定の長い周期(例えば交通信号機の点滅周期よりも長い周期)で交互に点灯させる。このように、音声出力部26と照明部28とが連携して、警戒レベルが上がる毎に警戒心を煽るような演出を行うように制御すると、より効果的である。なお、前記警戒レベル1で示した例では、一般に普及しているセンサライトと同様の動作なので、単なる通行人や、放火する意志の無い善意の訪問者を威嚇してしまうことはない。
【0043】
炎センサ20が威嚇モードに移行したときは、照明部28は威嚇するように制御部29によって制御される。例えば、警戒色を含んだ複数の照明色を所定の短い周期(例えば交通信号機の点滅周期よりも短い周期)で交互に点灯させる。なお、照明部28は、カメラ部27の撮像用照明でもあるので消灯期間が無いように制御することが望ましいが、威嚇効果を増すために照明部28を点滅させるような場合は、撮像用の光源として人が感じることができない近赤外線光源を併用しても良い。
【0044】
なお、照明部28は、炎センサ20に備えられるものとして説明したが、他の場所に備え、炎センサ20あるいは受信機30からの制御信号を無線で受信して動作するようにしても良い。
【0045】
27は監視カメラからなるカメラ部であり、その撮像範囲は炎検知部21の監視範囲を含むように設置されている。炎センサ20が前記警戒モードに移行すると、カメラ部27は制御部29によって起動し、同時に点灯させる照明部28の照明光が撮像範囲を照明するように制御される。カメラ部27で撮像した画像信号は受信機30へ無線で送信される。
【0046】
なお、警戒モードにおいては、前記警戒レベルによっては、カメラ部27は実際に撮像せずともカメラ部27に備わった図示しないダミーの録画灯を点灯させて、接近した者に認識させるように制御しても良い。例えば、前記警戒レベル4になるまではカメラ部27を起動させないでも良い。また、警戒レベル4に至るまでの警戒レベル1乃至3では、前記ダミーの録画灯を点灯するようにしても良い。炎センサ20が前記警戒レベル4になったとき、カメラ部27で撮像した画像信号を、不審者信号とともに、無線で受信機30へ送信するようにしても良い。
【0047】
炎センサ20が前記威嚇モードに移行すると、カメラ部27で撮像した画像信号は、放火信号とともに、無線で受信機30へ送信される。
【0048】
なお、カメラ部27は、炎センサ20に備えられるものとして説明したが、他の場所に備え、炎センサ20あるいは受信機30からの制御信号を無線で受信して動作するようにしても良い。
【0049】
このように、炎センサ20においては、制御部29によって各ブロック21〜28および2Aが制御され、制御部29は、人体センサ10からの侵入信号を無線送受信部25で受信した時に警戒モードとなり、また、炎検知部21が炎を検知した時に威嚇モードとなる。
【0050】
なお、各センサの電源を太陽電池13、23から得るようにしたが、電線を介して電源を供給するようにしても良いし、また乾電池などで駆動させてもよい。なお人体センサ10の監視視野は、炎センサ20の監視視野の外側に設けるようにしてもよい。このようにすると、防火対象物の離れた所から火種を投げ込まれても、人体検知センサ10の監視視野が大きいので、放火犯を検知することができる。このように本発明の放火抑止システムにおいては、センサ10,20は太陽電池13、23及び電源部14、24によって電源が供給され、また無線送信部12によって、放火信号などの異常信号を送信することができるので、電源供給用や信号送出用の電線が不要となる。このため重要文化財など、防護対象物に直接センサを設置できない場合にシステムを構築することができる。
【0051】
続いて、受信機30の構成について説明する。受信機30は、防護すべき建造物1近辺の建物5などの、常時は人が在中している場所に設置される。
【0052】
受信機30は、人体センサ10からの侵入信号、および、炎センサ20からの前記不審者信号、前記放火信号、前記火災信号、等を受信する無線受信部31を備え、前記不審者信号を受信したときに「不審者侵入」、放火信号を受信したときに「放火」、火災信号を受信したときに「火災」と、それぞれ判断し、それぞれに応じた警報動作、移報動作、連動動作等を行う。なお、放火と判断するには前記放火信号を受信する他に、前記侵入信号と前記放火信号とを共に受信した時に放火と判断しても良い。
【0053】
32は移報部で、受信機30が不審者侵入、放火、火災のいずれかを判断したときに、所定の携帯端末等に移報するものである。移報部32には、建造物1の管理者が所持している携帯電話の電話番号あるいは電子メールアドレスなど、電子的に即時通報できる手段の通報先が登録されている。施設の警備体制によっては、契約している警備会社等に通報するようにしても良い。このとき、カメラ部27から送信されてくる画像信号は、前記移報部32から送信するようにしても良いし、図示しない録画装置に録画して、後の捜査資料として役立てても良い。
【0054】
33は制御部で、無線受信部31と、移報部32と、建物照明制御部34とを制御し、さらに消火装置40や図示しない水噴霧装置を制御しても良い。34は建物照明制御部であり、放火と判断した時、建造物1や建物5など、放火犯に近い建物の内部または外部の図示しない照明装置を点灯するように制御する。
【0055】
前記水噴霧装置は、水粒子を放出するときに噴出音を伴うものであり、放火と判断したときに動作させ、放火しようとする悪意の侵入者にとっては異様と感じられる前記噴出音によって、さらに不安感を煽って逃走へ追い込もうとするものであり、火種に点火したものの、建造物1への着火を思い留まらせ放火に至らないという効果が期待できる。なお、前記水噴霧装置が、微細水粒子の気化によって周囲温度を下げる装置、すなわち降温用水噴霧装置である「ドライミスト(出願人登録商標)」、あるいはこれに類する装置であった場合は、上記の効果に加え、気温低下で悪寒にも似た不安感を放火しようとする悪意の侵入者に与える効果も期待できる。前記微細水粒子を放出する水噴霧装置は周囲の冷却という本来の目的に加え、放火抑止目的にも利用することができるという効果を奏する。
【0056】
続いて、消火装置40の構成について図1および図3に基づいて説明する。
【0057】
レーザー41は消火手段として公知の繰り返し発振型高出力パルスレーザーであり、炎直下に照射して発生したブラスト波(爆風)で炎を直下から吹き消すものである。
【0058】
消火装置40は、前記レーザー41と、赤外線撮像手段としての赤外線カメラ42と、レーザー41と赤外線カメラ42とを同方向に固定して搭載する、角度制御手段としての電動雲台43と、これらを制御する消火装置制御盤45とから構成される。受信機30が放火と判断し、受信機30からの指令を消火装置制御盤45が受信すると、図3に示したように、旋回動作を行う電動雲台43上の赤外線カメラ42が炎の位置を探索し、撮像した赤外線画像を消火システム制御盤内の図示しない画像処理装置によって、炎の基底部の方向を演算し、電動雲台43を制御して前記炎の基底部の方向にレーザー41を指向させ、前記炎の基底部に向けてレーザー41からレーザービーム光を照射するように消火装置制御盤45が制御する。なお、消火装置40は、可動式ノズルから火源に向かって放水する従来の消火方法に依っても良い。
【0059】
次に、本システムにおいて、放火が行われようとする場合について、図1および図4に基づいて説明する。2種類のセンサ10,20は、日中は太陽電池13,23によって発電された電気によって電源が供給されており、夜間においては、電源部14,24の充電池によって電源が供給されている。
【0060】
まず、夜間に建造物1へ放火をしようとする悪意の侵入者が近づくと、人体センサ10の人体検知部11が侵入者を検知し(ステップS5)、無線送信部12が無線で侵入信号を、炎センサ20に送信する。炎センサ20の無線送受信部25が前記侵入信号を受信すると、感度設定部22によって炎検知部21の感度を高感度に切り替えるように制御し(ステップS7)、炎検知部21からの炎検知の信号が無い場合は、平常状態である監視モードから警戒モードに移行する(ステップS11)。炎検知部21を高感度としておくことにより、放火犯が建造物1へ放火しようとして点火する火種の炎を炎検知部21はいち早く検出することができる。
【0061】
なお、炎センサ20が複数台設置されている時には、作動した人体センサ10の近傍に設けられ、侵入信号を受信した炎センサ20の炎検知部21は全て感度が高感度に切り替えられる。
【0062】
また、炎センサ20が警戒モードに移行すると、カメラ部27を起動し、照明部28を点灯するように制御する。カメラ部27の起動により、炎検知部21が監視する範囲が撮像される。放火は通常、夜間など人目のつかない時間帯に行われるので、照明部28を点灯してカメラ部27の撮像範囲およびその周囲、あるいは建造物1の周辺を明るくすることで、正常に監視範囲を撮像できる。撮像された画像は、受信機30に送信して図示しない防犯用の録画装置に録画しても良いし、受信機30を経由して所定の携帯端末等に送信しても良い。
【0063】
なお、警戒モードに移行した段階では、侵入者として検知した人物が放火犯ではなく、神社への参拝など善意の訪問者や敷地内を近道として利用する単なる通行人である可能性もあり、撮像した画像を特に利用しないでも良い。さらに、カメラ部27を起動しないで実際には撮像せず、カメラ部27に設けた図示しないダミーの録画灯を点灯するようにして、放火をしようとする悪意の侵入者に監視していることを認識させるだけでも良い。同様の理由で、警戒モードに移行して所定時間経過した後に、音声出力部26より監視を開始した旨の威嚇しない音声メッセージを流すように制御することが望ましい。
【0064】
なお、図5に示すように、前記警戒モードの継続時間に応じて、段階的に複数の警戒レベルを設け、該警戒レベル毎に照明部28、音声出力部26等を、威嚇しない範囲で警戒心を煽るように制御しても良い。
【0065】
例えば、人体センサ10が侵入信号を出力した直後の第1レベルでは照明部28を点灯させ、音声出力部26は何も出力しないようにする。この段階では一般に普及しているセンサライトと同様の動作なので、単なる通行人や、放火する意志の無い善意の訪問者を威嚇してしまうことはない。さらに所定時間経過した第2レベルでは照明部28を第1レベルと同様に点灯させたままに留めるか、照明色を寒色系に変える等し、音声出力部26から「警備のため監視を開始します」と、監視を開始した旨を通知する音声メッセージを出力する。さらに所定時間経過した第3レベルでは、照明部28の照明色を黄色や赤色等の警戒色に変え、音声出力部26から「もう○分も同じ場所におられます。このままですと不審者として記録されますので速やかに移動してください」と、退去を求めるべく警告する音声メッセージを出力して警告する。さらに所定時間経過した第4レベルでは、照明部28は警戒色を含んだ複数の照明色を所定の長い周期(例えば交通信号機の点滅周期よりも長い周期)で交互に点灯させ、音声出力部26から「警告、警告、不審者として記録し、録画を開始します」と、既に不審者として捕捉されている音声メッセージを出力する。このとき、炎センサ20は不審者信号を受信機30へ無線で送信しても良い。このように音声出力部26と照明部28とを連携させて、警戒レベルが上がる毎に警戒心を煽るような演出を行うように制御すると効果的であり、威嚇に至らない警告段階までの範囲に留めれば前記の例示以外の動作であっても良い。
【0066】
なお、このような装置を導入するからには運用面において、監視範囲へ至る通路等に重要文化財等の建造物を「放火から守るための装置」を導入していることを表示しておくことが望ましい。前記善意の訪問者にこの表示を読ませることによって、不意の監視開始等の動作で驚くことを防止できる上、放火を防止するために努力していることを周知させることができる。また、放火をしようとする者にとっては、「放火から守るための装置」を導入していることの表示自体が警告となり、前記表示を読んだだけで放火の意志を喪失する効果が期待できる。
【0067】
次に放火をしようとする悪意の侵入者が、放火をしようと火種に点火した場合、炎検知部21が炎を検知して炎センサ20が威嚇モードに移行し、照明部28を威嚇するように制御し、音声出力部26から威嚇する音声メッセージを出力するように制御し、放火犯を威嚇するとともに、カメラ部27を起動し、無線送受信部25が放火信号を受信機30に送信する。また無線送受信部25は、カメラ部27で撮像した画像も受信機30へ送信する。
【0068】
受信機30の無線受信部31では、炎センサ20からの放火信号を受信すると、放火と判断し、図示しない警報部を作動させて、放火行為が行われたことを警報する。また図示しない表示部に、カメラ部27が撮像した画像を表示させる。これにより、建造物1の状況を把握できると共に、放火犯による放火行為の犯行現場を確認できる。なお、カメラ部27が撮像した画像は、図示しない防犯用の録画装置に録画するようにしても良い。
【0069】
受信機30は、放火と判断すると、移報部32が放火信号を管理者の携帯端末等に移報する。これにより管理者は、建物5から離れて受信機30の近くにいなくても、建造物1で放火行為が行われたことを知ることができる。
【0070】
なお放火信号を管理者だけでなく、消防署や警察署に移報するようにしてもよい。この場合、放火信号と共に建造物1の位置を特定できる情報も送れるようにする。
【0071】
さらに受信機30は、威嚇モードが所定時間経過すると、放火を阻止すべく放火阻止モードに移行して消火装置40を起動し、防護すべき建造物1へ放火をしようとする者が着火させる前に、点火した火種を、火種の段階で消火し、放火させないようにするようにしても良い。
【0072】
消火装置制御盤45が放火と判断した受信機30からの消火指令を受信すると、旋回動作を行う電動雲台43上の赤外線カメラ42が炎Fの位置を探索し、撮像した赤外線画像を消火システム制御盤内の図示しない画像処理装置によって画像処理を行い、炎Fの基底部の方向を演算、電動雲台43を制御して前記炎Fの基底部の方向にレーザー41を指向させ、前記炎Fの基底部に向けてレーザー41からレーザービーム光を照射するように消火装置制御盤45が制御する。放火しようと火種に点火した段階で、炎Fは消火装置40によって消火されるので、防護する建造物1に着火されることはない。なお、消火装置40は、可動式ノズルから火源に向かって放水する従来の消火方法に依っても良い。
【0073】
以上のように、本発明にかかる放火抑止システムは、人体センサ10によって侵入者を検知して警戒モードとなり、威嚇しない程度で警戒態勢に入っていることを放火しようとする者に認識させて不安感を煽り、さらに炎センサ20によって放火をしようとする者が点火した火種を検知して威嚇モードとなり、放火犯を威嚇して防護すべき建造物1へ着火することを断念させ、さらに威嚇モードが所定時間経過した段階で放火阻止モードとなり、点火された火種を火種の段階で消火し、防護すべき建造物1への着火を阻止するので、善意の訪問者を威嚇することもなく、防護する建造物への放火を抑止することができる。
【符号の説明】
【0074】
10 人体センサ、 11 人体検知部、 12 無線送信部、
13 太陽電池、 14 電源部、 15 制御部、
20 炎センサ、 21 炎検知部、 22 感度設定部、
23 太陽電池、 24 電源部、 25 無線送受信部、
26 音響出力部、 27 カメラ部、 28 照明部、
29 制御部、 2A 昼夜判別手段(24時間タイマまたは照度検出部)、
30 受信機、 31 無線受信部、 32 移報部、
33 制御部、 34 建物照明制御部、
40 消火装置、 41 繰り返し発振型高出力レーザー、
42 赤外線カメラ、 43 電動雲台、 44 架台、
45 消火装置制御盤

【特許請求の範囲】
【請求項1】
人体検知部を有する人体センサと、該人体センサに設けられ前記人体検知部が人体を検知したときに侵入信号を送信する送信部と、炎検知部を有する炎センサと、該炎センサに設けられ前記侵入信号を受信する受信部と、カメラ部と、照明部と、音響出力部と、を備えた放火抑止システムにおいて、
前記炎センサは、前記侵入信号を受信したときに移行する警戒モードを備え、該警戒モードでは、前記カメラ部と前記照明部とを起動して撮像するとともに、前記音響出力部を起動して監視を開始したことを告げる威嚇しない音響を出力するように制御することを特徴とする放火抑止システム。
【請求項2】
前記警戒モードが継続している間は経過時間毎に警戒レベルを段階的に上げ、前記照明部の照明および前記音響出力部から出力する音響出力を、威嚇しない範囲で前記警戒レベル毎に変化するように制御することを特徴とする請求項1に記載の放火抑止システム。
【請求項3】
前記炎センサは、炎を検知したときに移行する威嚇モードを備え、該威嚇モードでは、前記照明部、前記音響出力部のいずれか、または、両方による威嚇を行うように制御することを特徴とする請求項1または2に記載の放火抑止システム。
【請求項4】
前記炎センサは、威嚇モードに移行したときに、防護対象である建造物に備えられた照明装置を点灯させるように、または、噴出音を伴って微細水粒子を放出する水噴霧装置を作動させるように、制御することを特徴とする請求項3に記載の放火抑止システム。
【請求項5】
前記放火抑止システムは昼夜判別手段を備えるとともに、前記炎センサは感度設定部または応答時間設定部を備え、平常時は前記炎検知部の感度または応答時間をそれぞれ低感度または長時間に設定し、夜間に前記侵入信号を受信したときに、前記炎検知部の感度または応答時間をそれぞれ高感度または短時間に設定するように制御することを特徴とする請求項1乃至4のいずれかに記載の放火抑止システム。
【請求項6】
前記炎センサは、前記威嚇モードが所定時間継続したときに移行する放火阻止モードを備え、該放火阻止モードでは自動的に炎を消火する消火装置を起動し、放火しようと点火された火種を消火して、防護対象物への着火を阻止するように制御することを特徴とする請求項1乃至5のいずれかに記載の放火抑止システム。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2012−178073(P2012−178073A)
【公開日】平成24年9月13日(2012.9.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−41037(P2011−41037)
【出願日】平成23年2月28日(2011.2.28)
【出願人】(000233826)能美防災株式会社 (918)
【Fターム(参考)】