説明

放熱板およびその製造方法

【課題】熱伝導性および熱放射性に優れた放熱板を提供する。
【解決手段】炭素含有樹脂に六方晶窒化硼素粉末を混合し、成形して焼成することにより、アモルファス炭素中に六方晶窒化硼素粉末が均一に分散した炭素板とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、放熱板、特に、LEDなどの半導体素子をその上に搭載する基板として用いるときに、半導体素子が発生する局所的発熱を効率的に拡散し放熱することで半導体素子の性能の低下を抑止することのできる放熱板に関する。
【背景技術】
【0002】
LED(発光ダイオード)を使用した発光装置は、近年、発光効率の向上に伴う高輝度化が進み各種光源として広く利用されている。その中でも、照明用光源として期待される白色LEDは高輝度化、小型化、高性能化に伴い、LED素子から発生する熱量が増大している。
【0003】
LEDを高輝度高出力の用途に使用する場合、放熱対策が問題になる。LEDの高輝度を実現するためには駆動電流を増加させる。しかし、駆動電流を増加させるとそれに比例してLED素子の電力損失が増加し大部分のエネルギーは熱に変換されてLED素子の温度が上昇し高温となる。LED素子は温度が低いほど発光効率、即ち電流−光変換効率が高いので、LED素子が高温になると発光輝度は低下するという問題が生じる。また、LED素子の動作寿命も高温動作になるほど短くなる。
【0004】
冷却を効果的に行うには、対流、放射、輻射、伝導を上手に組み合わせることが必要であるが、局所的に発熱する部位を冷却するには、主に熱伝導により熱を別の低温部分に導き冷却を行うとともに、熱を効率よく遠赤外線に変換して放射することが重要である。
【0005】
つまり、LED素子からの熱を冷却するには、LED素子の外部に露出させて設けた放熱器へ熱を移動させるとともに遠赤外線に変換して放射する手段が必要であり、このような熱冷却の手段の一つとして放熱板が用いられていてその材料としては熱伝導性の優れた金属材料が用いられている。
【0006】
しかしながら、このような金属材料のうちで最も熱伝導性に優れた銀は、高価であり、一方、比較的安価な鉄、アルミ等の熱伝導性は十分ではない。また、銅は、これらの中では優れた熱伝導性を有するが、重いという欠点がある。更に金属材料は、熱エネルギーを遠赤外線の放射エネルギーへ変換して放熱する熱放射性が劣っている。そのため、より有効な冷却や放熱を行うには、優れた熱伝導性と熱放射性を有する新規な材料の開発が不可欠である。
【0007】
そこで近年、金属より軽量でかつ耐熱性に優れ、熱伝導性や熱放射性に優れたグラファイトを用いた放熱板が提唱されている。例えば下記特許文献1にはグラファイトフィルムを作製し用いる方法が開示されている。また、特許文献2には黒鉛化炭素粉末と樹脂との複合体を作製する方法が開示されている。
【0008】
しかしながら、これらの方法のうちグラファイトフィルムを用いる方法は、優れた熱伝導性と熱放射性を得ることができるが、グラファイトフィルム単体で板状体を作製するのにコストがかかるなどの欠点がある。一方、黒鉛化炭素粉末と樹脂との複合体を作製する方法は、簡易に製造することができるが、熱伝導性や熱放射性が劣るなどの欠点を有している。
【0009】
特許文献3には、黒鉛粉末と樹脂との複合体を、スクリュー型押出し機により黒鉛を配向させつつ板状に成形し、焼成して樹脂を炭素化することにより放熱板とすることが記載されている。
【0010】
スクリュー押出し機を用いれば黒鉛が配向し、高い熱伝導率を提供できるが、作製できる板の形状が限られており、任意の形状とすることができないという欠点を有している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】特開2003−92384号公報
【特許文献2】特開2003−112915号公報
【特許文献3】特開2000−323633
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
したがって本発明の目的は、軽量で熱伝導および熱放射性に優れた放熱板およびその製造方法を提案することにある。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明によれば、アモルファス炭素と該アモルファス炭素中に均一に分散した窒化硼素粉末とを具備する放熱板が提供される。
【0014】
前記窒化硼素粉末は、粉末粒子の長辺長さ/短辺長さ比が20以下である六方晶窒化硼素粉末であることが好適である。
【0015】
前記窒化硼素粉末は、例えば、放熱板中に1質量%以上60質量%以下の割合で含まれる。
【0016】
本発明によれば、炭素含有樹脂に窒化硼素粉末を混合し、混合物を成形し、成形物を非酸化性雰囲気中または真空中で700℃以上2800℃以下の温度で焼成することにより前記炭素含有樹脂を炭素化してアモルファス炭素とすることを含む、放熱板の製造方法もまた提供される。
【0017】
前記炭素含有樹脂に混合される前記窒化硼素粉末の粒子径の平均値D50が50μm以下であることが好ましい。50μm以上であると、樹脂中への混入が難しくなる。この窒化硼素粉末は好ましくは、混合および焼成の過程で解砕されて、長辺長さが10μm以下の粒子となり、アモルファス炭素中に均一に分散した形で放熱板中に含まれる。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、軽量で、熱伝導性および熱放射性に優れた放熱板を安価に得ることができる。この放熱板は、熱伝導に異方性を有することにより、所望の方向、例えば板の厚み方向よりも板の拡がり方向へ迅速に熱を拡散させることができるので放熱板の厚みを薄くすることができる。また、板表面からの熱放射も優れているので半導体素子から発生する局所的発熱を、従来の金属材料放熱板と比較して緩和できる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】放熱板(基板)の熱伝導性および熱放射性の測定方法を説明する図である。
【図2】実施例1の放熱板の測定結果の図である。
【図3】比較例1の放熱板の測定結果の図である。
【図4】比較例2の放熱板の測定結果の図である。
【図5】比較例3の放熱板の測定結果の図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
前述の炭素含有樹脂としては、焼成後に高い炭素残渣収率を示すものであり、かつ、焼成炭素化時に収縮してフィラー粉末をパッキング、吸収する能力を有する、熱硬化性樹脂や熱可塑性樹脂の一種または二種以上の複合体が用いられる。ここで熱硬化性樹脂としては、フェノール樹脂、フラン樹脂、エポキシ樹脂、イミド樹脂、キシレン樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、メラミン樹脂、アルキッド樹脂、コプナ樹脂等が用いられ、好ましくは、フラン樹脂およびフェノール樹脂が用いられる。また、熱可塑性樹脂としては、ポリ塩化ビニル、ポリ塩素化塩化ビニル、ポリアクリロニトリル、ポリビニルアルコール、ポリ塩化ビニル−ポリ酢酸ビニル共重合体、ポリアミド、ポリイミド等が用いられ、好ましくはポリ塩素化塩化ビニル樹脂が用いられる。
【0021】
次に、窒化硼素について説明する。窒化硼素の結晶構造は炭素の有する結晶構造と類似の積層構造を有しており、電気絶縁体の中では高い熱伝導率を有している。黒鉛と類似の結晶構造をもつ六方晶窒化硼素の熱伝導率は60W/m・Kであり、ダイヤモンドと類似の結晶構造をもつ立方晶窒化硼素の熱伝導率は1300W/m・Kである。電気的に絶縁体であり熱伝導率の高い窒化硼素の粉末を、導電体であり熱伝導性と熱放射性の高いカーボン中に分散させることで、熱伝導および熱放射性に優れた放熱板が得られる。
【0022】
用いられる六方晶窒化硼素の粒子径は、走査型電子顕微鏡(SEM)写真により、把握することができる。具体的には、粒子径の平均は、粉末粒子径が把握できる倍率、例えば1000倍で撮影したSEM写真において粉末粒子を50個以上任意抽出して測定し、平均化した数値を平均値の粒子径D50とした。
【0023】
この熱伝導性、熱放射性に優れた放熱用炭素板を得るには、例えば、まず、焼成後に熱伝導性、熱放射性を示すアモルファス炭素となる液状高分子樹脂中に六方晶窒化硼素の粉末を混合機を用いて充分に分散する。次にこの混合液状物を金型に適量流し込み固化処理後、できた樹脂プレートを型から外し、真空焼成炉を用いて任意の温度で加熱処理を行うことで、放熱用炭素基板が得られる。流し込む型の形状は板状に限定されるものではなく、凹凸形状でもよい。
【0024】
以下に、実施例によって本発明をさらに具体的に説明するが、本願発明はこの実施例によって何等限定されるものではない。
【実施例】
【0025】
高分子樹脂としてのフラン樹脂(日立化成社製ヒタフランVF−303)60部に、六方晶窒化硼素粉末(水島合金鉄製HP−40、平均粒子径D50 40μm)40部をディスパーにて3000rpmで10分間混合分散した後に、硬化促進剤としてp−トルエンスルホン酸を3部加え、さらに2分間混合撹拌した。得られた組成物を内寸法150mm×150mm×4mmのプレート成形用の金型に適量流し込み、この型を100℃に加熱して固化処理後、できた樹脂プレートを型から外し、真空焼成炉を用いて2000℃の加熱処理を行い、炭素基板を得た。
【0026】
得られた炭素基板の寸法は130.5mm×130.4mm×3.56mm、密度1.64g/cm3であり、レーザーフラッシュ法(試験機:NETZSCH社製LFA457、試験方法:JIS R 1611:1997)にて厚さ方向の熱伝導率を測定したところ33W/m・Kであった。
【0027】
得られた炭素基板の厚みを変えずに幅60mm×長さ100mmの大きさに加工して、図1に示す炭素基板10とした。炭素基板10の上に、LED素子12を接触させ点灯させたときのLED素子12の表面温度およびLED素子12を接触させた炭素基板10の裏側の温度を温度検出素子14,16により測定した。使用したLED素子12は、高輝度白色LEDであり、その仕様は順電圧10.6V、順電流0.80A、消費電力8.5Wである。このLED素子12を点灯させ、5分後、10分後、30分後の温度を計測した。その結果を表1および図2のグラフに示す
【0028】
【表1】

【0029】
(比較例1,2,3)
幅60mm×長さ100mmの大きさに加工した厚み4mm,6mmおよび12mmのアルミ板を用いて、LED素子をネジ止めして接着し、点灯させたときのLED素子の表面温度およびLED素子を接触させたアルミ板の裏側の温度を測定した。その結果を表2および図3〜図5のグラフに示す。
【0030】
【表2】

【0031】
これらの結果から、実施例1の炭素基板では、比較例1〜3のアルミ板と比べて、初期(5分後)の温度上昇は速いが早期に(10分程度で)安定している。したがって、熱伝導性および熱放射性においてアルミ板よりも優れていることがわかる。
【0032】
以上説明したように、本発明の炭素基板は、熱伝導性フィラーとしての六方晶窒化ホウ素粉末をアモルファス炭素中に均一に分散した形で容易に得られ、熱伝導性、熱放射性が優れているため放熱用基板材料として有用である。更に、金属材料であるアルミ板と比べ、熱を効率よく放熱するので全体を軽量化および小型化することが可能であるため、工業的価値が非常に大である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
アモルファス炭素と該アモルファス炭素中に均一に分散した窒化硼素粉末とを具備する放熱板。
【請求項2】
前記窒化硼素粉末は、粉末粒子の長辺長さ/短辺長さ比が20以下である六方晶窒化硼素粉末である請求項1記載の放熱板。
【請求項3】
前記窒化硼素粉末は、1質量%以上60質量%以下の割合で含まれる請求項1または2記載の放熱板。
【請求項4】
炭素含有樹脂に窒化硼素粉末を混合し、
混合物を成形し、
成形物を非酸化性雰囲気中または真空中で700℃以上2800℃以下の温度で焼成することにより前記炭素含有樹脂を炭素化してアモルファス炭素とすることを含む、放熱板の製造方法。
【請求項5】
前記炭素含有樹脂に混合される前記窒化硼素粉末の粒子径の平均値D50が50μm以下である請求項4記載の方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2010−192533(P2010−192533A)
【公開日】平成22年9月2日(2010.9.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−33043(P2009−33043)
【出願日】平成21年2月16日(2009.2.16)
【出願人】(000005957)三菱鉛筆株式会社 (692)
【Fターム(参考)】