説明

放電灯点灯回路

【課題】パルスインターバルを短く一定にする。
【解決手段】放電灯点灯回路100は、駆動対象の放電灯4に印加すべき駆動電圧Voを生成するDC/DCコンバータCONVと、点灯状態監視信号が放電灯4の消灯を示す場合、駆動電圧Voが所定の上限値を超えないようにDC/DCコンバータCONVを制御する制御回路10と、を備える。DC/DCコンバータCONVは、入力トランス14と、入力トランス14の1次巻き線L1と直列に接続されるスイッチング素子M1と、を含む。制御回路10は、点灯状態監視信号が放電灯4の消灯を示す場合は、スイッチング素子M1のオン期間中に入力トランス14の1次巻き線L1に蓄えられるエネルギが、点灯状態監視信号が放電灯4の点灯を示す場合の対応するエネルギよりも小さくなるようにスイッチング素子M1のオンオフを制御する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は放電灯を駆動する放電灯点灯回路に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、前照灯などの車両用灯具として、従来のフィラメントを有するハロゲンランプに代えて、メタルハライドランプ(以下、放電灯と称する)が利用されている。放電灯は、ハロゲンランプに比べて発光効率、長寿命が得られる反面、駆動電圧として数十〜数百Vが必要であるため、12Vもしくは24Vの車載バッテリでは直接駆動することができず、放電灯点灯回路(バラストとも称される)が必要となる。
【0003】
放電灯点灯回路はバッテリ電圧を昇圧して放電灯に供給する。特許文献1には、バッテリ電圧を昇圧するDC/DCコンバータと、DC/DCコンバータの出力電圧を交流変換するインバータ回路と、それらの回路を制御する制御回路と、放電灯始動用の高電圧パルスを生成するイグナイタ回路と、を備える放電灯点灯装置が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2003−31385号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1に記載のイグナイタ回路などのスタータ回路は、DC/DCコンバータの昇圧動作を利用してスタータキャパシタを充電し、スタータキャパシタに充電されたエネルギを高電圧トランスに一度に放出することで高電圧パルスを生成する。ここで、スタータキャパシタへの充電が始まってから高電圧パルスが発生するまでの期間の長さをパルスインターバルと呼ぶ。
【0006】
1回目の高電圧パルスによって放電灯が点灯しない場合、スタータ回路ではスタータキャパシタが再充電されて再度高電圧パルスが生成される。一方、放電灯の点灯前においてDC/DCコンバータは負荷が実質的にない状態で駆動されるので、その出力電圧はすぐに上限値に到達しその上限値付近で安定化される。したがって、DC/DCコンバータの出力電圧が上昇過程にある場合のパルスインターバルと安定化された後のパルスインターバルとに差が生じる虞がある。特に2回目以降の高電圧パルスに対応するパルスインターバルが1回目の高電圧パルスに対応するパルスインターバルよりも長くなる可能性がある。このようにパルスインターバルが長くなると、点灯性能に悪影響を及ぼしかねない。
【0007】
本発明はこうした状況に鑑みてなされたものであり、その目的は、点灯性能を向上した放電灯点灯回路の提供にある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明のある態様は、放電灯点灯回路に関する。この放電灯点灯回路は、駆動対象の放電灯に印加すべき駆動電圧を生成するDC/DCコンバータと、点灯状態監視信号が放電灯の消灯を示す場合、駆動電圧が所定の上限値を超えないようにDC/DCコンバータを制御する制御回路と、を備える。DC/DCコンバータは、入力トランスと、入力トランスの1次巻き線と直列に接続されるスイッチング素子と、を含む。制御回路は、点灯状態監視信号が放電灯の消灯を示す場合は、スイッチング素子のオン期間中に入力トランスの1次巻き線に蓄えられるエネルギが、点灯状態監視信号が放電灯の点灯を示す場合の対応するエネルギよりも小さくなるようにスイッチング素子のオンオフを制御する。
【0009】
この態様によると、点灯状態監視信号が放電灯の消灯を示す場合の、スイッチング素子のオン期間中に入力トランスの1次巻き線に蓄えられるエネルギを小さくできる。
【0010】
なお、以上の構成要素の任意の組み合わせや、本発明の構成要素や表現を装置、方法、システムなどの間で相互に置換したものもまた、本発明の態様として有効である。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、点灯性能を向上できる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】第1の実施の形態に係る放電灯点灯回路およびそれに接続される部材の構成を示す回路図である。
【図2】図1の放電灯点灯回路の動作状態を示すタイムチャートである。
【図3】図3(a)、(b)は、放電灯点灯回路のDC期間後の動作状態を示すタイムチャートである。
【図4】電源投入からブレークダウンまでの駆動電圧およびスタータ回路のスタータキャパシタの両端電圧の変化を示すタイムチャートである。
【図5】駆動電圧が上限電圧付近に到達する前における放電灯点灯回路の動作状態を示すタイムチャートである。
【図6】駆動電圧が上限電圧付近に到達した後における放電灯点灯回路の動作状態を示すタイムチャートである。
【図7】電流制限回路において放電灯の点灯消灯の別によらずに同じ電流制限値を使用する場合の、放電灯点灯回路の動作状態を示すタイムチャートである。
【図8】第2の実施の形態に係る放電灯点灯回路およびそれに接続される部材の構成を示す回路図である。
【図9】駆動電圧および第3ノード電圧の波形を示す波形図である。
【図10】第2ノード電圧にオフセットを付与しない場合の、駆動電圧および点灯補助スイッチを流れるトランジスタ電流の時間変化を示す説明図である。
【図11】第2ノード電圧に第3ノード電圧に基づくオフセットを付与する場合の、駆動電圧および点灯補助スイッチを流れるトランジスタ電流の時間変化を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明を好適な実施の形態をもとに図面を参照しながら説明する。各図面に示される同一または同等の構成要素、部材、信号には、同一の符号を付するものとし、適宜重複した説明は省略する。また、各図面において説明上重要ではない部材の一部は省略して表示する。
【0014】
本明細書において、「部材Aが、部材Bと接続された状態」とは、部材Aと部材Bが物理的に直接的に接続される場合のほか、部材Aと部材Bが、電気的な接続状態に影響を及ぼさない他の部材を介して間接的に接続される場合も含む。同様に、「部材Cが、部材Aと部材Bとの間に設けられた状態」とは、部材Aと部材C、あるいは部材Bと部材Cが直接的に接続される場合のほか、電気的な接続状態に影響を及ぼさない他の部材を介して間接的に接続される場合も含む。
【0015】
(第1の実施の形態)
第1の実施の形態に係る放電灯点灯回路は、入力されたバッテリ電圧をスイッチングコンバータを使用して変圧し、インバータを使用して交流電圧に変換した上で駆動対象の放電灯に供給する。この放電灯点灯回路では、放電灯の点灯前と判断される場合は、スイッチングコンバータのスイッチング素子のオンオフの一周期ごとにスイッチングコンバータの入力側から出力側へ移相されるエネルギを、放電灯の点灯後と判断される場合よりも小さくする。これにより、放電灯の点灯前においてスイッチングコンバータの出力電圧が上昇して上限値に近づいた場合のスイッチング素子の駆動周波数の低下を抑えることができる。
【0016】
図1は、第1の実施の形態に係る放電灯点灯回路100およびそれに接続される部材の構成を示す回路図である。放電灯点灯回路100は、車載用のメタルハライドランプである放電灯4を駆動する。放電灯点灯回路100および放電灯4は、車両用灯具に搭載される。放電灯点灯回路100は、車載バッテリ(以下、単にバッテリと称する)6、電源スイッチ8と接続される。
【0017】
バッテリ6は、12V(もしくは24V)の直流のバッテリ電圧(電源電圧)Vbatを発生する。電源スイッチ8は放電灯4の点灯のオン、オフを制御するために設けられたリレースイッチであり、バッテリ6と直列に設けられる。電源スイッチ8がオンとなると、バッテリ6からバッテリ電圧Vbatが放電灯点灯回路100に供給される。
【0018】
放電灯点灯回路100は、平滑化されたバッテリ電圧Vbatを昇圧し、交流変換して放電灯4へと供給する。以下、放電灯点灯回路100の詳細な構成を説明する。
【0019】
放電灯点灯回路100は、DC/DCコンバータCONV、制御回路10、スタータ回路20、インバータ回路30、入力キャパシタCin、電流検出抵抗Rd、第1電流制限抵抗R1、第2電流制限抵抗R2、を備える。
【0020】
入力キャパシタCinは、バッテリ6と並列に設けられ、バッテリ電圧Vbatを平滑化する。より具体的には、入力キャパシタCinは入力トランス14の近傍に設けられており、DC/DCコンバータCONVのスイッチング動作に対する電圧平滑化の機能を果たす。
【0021】
DC/DCコンバータCONVは、バッテリ電圧Vbatを昇圧する。DC/DCコンバータCONVは、絶縁型のスイッチングレギュレータであり、入力トランス14、出力ダイオードD1、出力キャパシタCo、スイッチング素子M1、を含む。
【0022】
入力トランス14の1次巻き線L1とスイッチング素子M1とは、入力キャパシタCinと並列に、DC/DCコンバータCONVの入力端子Pinと接地端子(GND)間に直列に設けられている。たとえばスイッチング素子M1はNチャンネルMOSFET(Metal Oxide Semiconductor Field Effect Transistor)で構成される。入力トランス14の2次巻き線L2の一端は接地されており、その他端は出力ダイオードD1のアノードと接続される。出力キャパシタCoは出力ダイオードD1のカソードと接地端子間に設けられる。
【0023】
スイッチング素子M1の制御端子(ゲート)には、駆動周波数f1の制御パルス信号S1が印加される。たとえば定常点灯状態において駆動周波数f1は400kHzである。スイッチング素子M1は、制御パルス信号S1がハイレベルのときオン、ローレベルのときオフする。スイッチング素子M1がオンすると1次巻き線L1に電流が流れ始め、オン期間の終わりには1次巻き線L1に1/2・Lp・Ipに相当するエネルギが蓄えられる。ここでLpは1次巻き線L1のインダクタンス、Ipはオン期間の終了時点で1次巻き線L1に流れている電流値である。Lpは典型的には1μH程度である。この状態でスイッチング素子M1がオフすると、1次巻き線L1に蓄えられたエネルギが2次巻き線L2へ移送される。移送されたエネルギは出力キャパシタCoに蓄えられる。以上のエネルギ移送の繰り返しにより、出力キャパシタCoが充電される。
【0024】
インバータ回路30は、DC/DCコンバータCONVによって昇圧された直流の駆動電圧Voを点灯周波数f2の交流電圧に変換して放電灯4に供給する。インバータ回路30としては、例えばHブリッジ回路などの公知のインバータ回路が使用される。
点灯周波数f2は駆動周波数f1よりも低く設定される。点灯周波数f2は10kHz以下、さらには250Hz〜750Hz程度に設定されることが好ましく、本実施の形態では312.5Hzに設定される。点灯周波数f2の逆数を点灯周期T2(=1/f2=3.2ms)と称す。
【0025】
電流検出抵抗Rdは、放電灯4に流れるランプ電流ILの経路上に設けられる。図1の回路では電流検出抵抗Rdは、DC/DCコンバータCONVとインバータ回路30とを接続する接地配線上に設けられる。電流検出抵抗Rdにはランプ電流ILに比例した電圧降下Vdが発生する。
【0026】
スタータ回路20は、放電灯4をブレークダウンさせるために高電圧パルスを発生して放電灯4の一端に印加する。スタータ回路20は、スイッチング素子M1のオン期間中に入力トランス14の1次巻き線L1に蓄えられるエネルギ(以下、1次エネルギと称す)を利用して高電圧パルスを発生する。スタータ回路20は、充電回路22、1次回路24、高電圧トランス26、を含む。
【0027】
高電圧トランス26の2次巻き線L4は放電灯4の一端とインバータ回路30の出力端子との間に接続される。高電圧トランス26の1次巻き線L3は1次回路24に接続される。
【0028】
充電回路22はDC/DCコンバータCONVと第1電流制限抵抗R1、第2電流制限抵抗R2を介して接続され、駆動電圧Voよりも高い充電電圧を生成して1次回路24に供給する。特に充電回路22は、出力ダイオードD1の両端電圧を入力とし、駆動電圧Voをn倍する(nは2以上の整数)。電圧をn倍する点については、コッククロフト・ウォルトンの回路に代表される公知の電圧増幅技術が使用されてもよい。
【0029】
1次回路24は、充電電圧を利用して充電されるスタータキャパシタ(不図示)と、スタータキャパシタと高電圧トランス26の1次巻き線L3との導通を制御するスパークギャップなどの放電ギャップ型スイッチ(不図示)と、を含む。1次回路24では、スタータキャパシタの両端電圧Vstが所定の絶縁破壊電圧Vbを超えると放電ギャップ型スイッチが導通する。これにより高電圧トランス26の1次巻き線L3にパルス的な大電流が流れる。この電流に応じて2次巻き線L4に発生する高電圧パルスが放電灯4の一端に印加される。絶縁破壊電圧Vbは典型的には800V程度に設定される。
【0030】
高電圧パルスが放電灯4に印加されても場合によっては放電灯4がブレークダウンしない。この場合、スタータ回路20は再びスタータキャパシタを充電して高電圧パルスを発生させる。このようにしてスタータ回路20は、放電灯4がブレークダウンするまで高電圧パルスの発生を続ける。
【0031】
第1電流制限抵抗R1は、出力ダイオードD1のアノードとスタータ回路20の第1入力端子P1との間に設けられる。第2電流制限抵抗R2は、出力ダイオードD1のカソードとスタータ回路20の第2入力端子P2との間に設けられる。
【0032】
第1電流制限抵抗R1および第2電流制限抵抗R2は、スタータ回路20へ供給される電流量を制限する。したがって、充電回路22での電圧増幅の過程でスタータ回路20の各素子にパルス的に大電流が流れることを防ぐことができる。これによりそれらの素子としてより小型で安価なものが使用可能となり、スタータ回路20を小型化し、さらにはコストを削減できる
【0033】
制御回路10は、放電灯点灯回路100を制御する機能IC(Integrated Circuit)を含み、所定の駆動シーケンスにしたがって放電灯点灯回路100を制御する。制御回路10は、以下の駆動シーケンスを1から5の順番に実行することにより放電灯4を点灯させ、その光出力を安定化させる。
1. 電源投入
2. ブレークダウン
3. DC期間
4. ランナップ
5. 定常点灯
駆動シーケンスのさらなる詳細は後述する。
【0034】
制御回路10は、素子の耐圧や安全性の観点から、駆動電圧Voが所定の上限電圧Vth2を超えないようにDC/DCコンバータCONVを制御する。また制御回路10は、放電灯4が消灯していると判断される場合は、1次エネルギが放電灯4が点灯していると判断される場合の1次エネルギよりも小さくかつ一定となるようにスイッチング素子M1のオンオフを制御する。
【0035】
制御回路10は、検出回路102、駆動回路104、を含む。
検出回路102は、放電灯4の点灯/消灯の別や放電灯4に供給されている電力などの放電灯4の状態を検出する。検出回路102は、点灯判断回路106、ランプ電力演算回路108、を有する。
【0036】
点灯判断回路106は駆動電圧Voを監視し、駆動電圧Voが所定の点灯判断電圧Vth1よりも高い場合は放電灯4が消灯していると判断し、駆動電圧Voが点灯判断電圧Vth1以下の場合は放電灯4が点灯していると判断する。ここで「放電灯4が消灯している」とは、「放電灯4が点灯していない」または「放電灯4の点灯前」と言い換えることができる。
点灯判断回路106は、放電灯4が消灯していると判断される場合はアサートされ放電灯4が点灯していると判断される場合はネゲートされる点灯状態監視信号S2を出力する。
なお、点灯判断回路106は放電灯4に印加される電圧であるランプ電圧VLを監視してもよい。
【0037】
ランプ電力演算回路108は、電流検出抵抗Rdに生じる電圧降下Vdを計測しランプ電流ILを演算する。ランプ電力演算回路108は、演算されたランプ電流ILの情報に基づき、必要に応じて駆動電圧Voやランプ電圧VLの情報を加味して放電灯4で消費されている電力であるランプ電力WLを演算する。ランプ電力演算回路108は、演算されたランプ電力WLを示す電力信号S3を出力する。
【0038】
駆動回路104は、検出回路102で検出された情報に基づきDC/DCコンバータCONVのスイッチング素子M1をPWM(Pulse Width Modulation)駆動する。駆動回路104は、デューティ比制限回路110、電力制御回路112、鋸波生成回路114、電圧制限回路116、電流制限回路118、PWMコンパレータ120、を有する。
【0039】
電力制御回路112は電力信号S3を受け、電力信号S3が示すランプ電力WLと目標電力との差に対応する電圧を有する誤差信号S4を生成する。目標電力は所望の電力制御を実現するように設定される。
【0040】
鋸波生成回路114は、駆動周波数f1の三角波状あるいはのこぎり波状の周期信号S5を生成する。
PWMコンパレータ120は、誤差信号S4を周期信号S5と比較することにより制限前PWM信号S6を生成する。
【0041】
電圧制限回路116は、点灯状態監視信号S2がアサートされている場合、駆動電圧Voを監視する。電圧制限回路116は、監視する駆動電圧Voが上限電圧Vth2を超えている間アサートされる電圧制限信号S7を出力する。後述するデューティ比制限回路110では、電圧制限信号S7がアサートされている間は制御パルス信号S1がローレベルとされスイッチング素子M1がオフされる。したがって、電圧制限回路116は、駆動電圧Voが上限電圧Vth2を超えている間スイッチング素子M1をオフすると言える。
上限電圧Vth2は、高すぎると回路素子が大型化し、低すぎると放電灯の点灯始動性が低下しうるので、特に自動車用の放電灯点灯回路では300〜400Vに設定される。
【0042】
なお、上記では電圧制限回路116は点灯状態監視信号S2がアサートされている場合に駆動電圧Voを監視するが、DC期間、ランナップ、定常点灯の各期間における駆動電圧Voは放電灯4点灯前の駆動電圧Voより低いことを考えると、電圧制限回路116は点灯状態監視信号S2によらずに駆動電圧Voを監視してもよい。すなわち、電圧制限回路116は、少なくとも点灯状態監視信号S2がアサートされている場合は、駆動電圧Voを監視すればよい。
【0043】
電流制限回路118は電流制限信号S8を出力する。電流制限回路118はスイッチング素子M1に流れる電流の大きさを監視し、その電流の大きさが所定の電流制限値を超えると電流制限信号S8にパルスを生成する。電流制限回路118において、点灯状態監視信号S2がアサートされている場合の第1電流制限値Ith1は、点灯状態監視信号S2がネゲートされている場合の第2電流制限値Ith2よりも小さな値に設定される。第1電流制限値Ith1は典型的には1A程度に設定される。
【0044】
後述するデューティ比制限回路110では、スイッチング素子M1のオン期間中に電流制限信号S8にパルスを検出すると、制御パルス信号S1がローレベルとされスイッチング素子M1がオフされる。したがって、電流制限回路118はスイッチング素子M1に流れる電流の大きさが電流制限値を超えるとスイッチング素子M1をオフすると言える。
【0045】
電流制限回路118は、基準電圧生成回路122、制限パルス生成回路124、を有する。
基準電圧生成回路122は、点灯状態監視信号S2がアサートされている場合、第1電流制限値Ith1に対応する第1基準電圧Vr1を生成し、制限パルス生成回路124に供給する。基準電圧生成回路122は、点灯状態監視信号S2がネゲートされている場合、第2電流制限値Ith2に対応する第2基準電圧Vr2を生成し、制限パルス生成回路124に供給する。第1電流制限値Ith1は第2電流制限値Ith2よりも小さいので、一例では第1基準電圧Vr1は第2基準電圧Vr2よりも低い。
【0046】
制限パルス生成回路124は電流制限信号S8を出力する。制限パルス生成回路124は、スイッチング素子M1と入力トランス14の1次巻き線L1との第1接続ノードN1の第1ノード電圧VN1を取得し、それを基準電圧生成回路122から供給される基準電圧Vr1、Vr2と比較する。
スイッチング素子M1のオン期間中は、第1ノード電圧VN1は入力トランス14の1次巻き線L1に流れる1次電流IL1(=スイッチング素子M1に流れる電流)とスイッチング素子M1のオン抵抗Ronとの積となる。スイッチング素子M1のオン抵抗Ronは容易に測定可能であるから、スイッチング素子M1のオン期間において、第1ノード電圧VN1は1次電流IL1を表す電圧となる。
【0047】
点灯状態監視信号S2がアサートされている場合、制限パルス生成回路124は第1ノード電圧VN1と第1基準電圧Vr1とを比較し、1次電流IL1が第1電流制限値Ith1を超えると電流制限信号S8にパルスを生成する。
点灯状態監視信号S2がネゲートされている場合、制限パルス生成回路124は第1ノード電圧VN1と第2基準電圧Vr2とを比較し、1次電流IL1が第2電流制限値Ith2を超えると電流制限信号S8にパルスを生成する。
【0048】
デューティ比制限回路110は、制限前PWM信号S6と電圧制限信号S7と電流制限信号S8とを受ける。デューティ比制限回路110は、電圧制限信号S7がネゲートされておりかつ電流制限信号S8にパルスを検出しない場合、制限前PWM信号S6と波形が揃った制御パルス信号S1を生成し、スイッチング素子M1の制御端子に供給する。
【0049】
デューティ比制限回路110は、電圧制限信号S7がアサートされると制御パルス信号S1をローレベルとし、電圧制限信号S7がアサートされている間は制御パルス信号S1をローレベルに固定する。
デューティ比制限回路110は、制御パルス信号S1がハイレベルとなっている間に電流制限信号S8にパルスを検出すると、制御パルス信号S1をローレベルとする。デューティ比制限回路110は、次に制限前PWM信号S6がハイレベルとなるタイミングで制御パルス信号S1をハイレベルとする。
【0050】
以上が放電灯点灯回路100の構成である。続いてその動作を、駆動シーケンスに従って説明する。図2は、放電灯点灯回路100の動作状態を示すタイムチャートである。以下のタイムチャートにおいて、縦軸および横軸は、理解を容易とするために適宜拡大、縮小したものであり、また示される各波形も、理解の容易のために簡略化されている。
【0051】
1. 電源投入
時刻t1においてユーザが電源スイッチ8をオンすると、放電灯点灯回路100が起動する。制御回路10はDC/DCコンバータCONVを起動すると共にインバータ回路30をリセット状態に置く。DC/DCコンバータCONVはバッテリ電圧Vbatを昇圧する。
【0052】
2. ブレークダウン
時刻t2において、スタータ回路20は典型的には20kV以上の高電圧パルスを発生する。その結果、放電灯4の駆動電圧VLは15kV程度まで上昇してブレークダウンし、グロー放電が始まる。
【0053】
3. DC期間
ブレークダウンの後、制御回路10はまずランプ電流ILを第1極性の向きにおよそ10msの間流す制御を行う。次に制御回路10は、ランプ電流ILを第2極性の向きにおよそ10msの間流す制御を行う。このDC期間においてグロー放電からアーク放電へと移行させる。
【0054】
DC期間が終了してアーク放電が安定すると、制御回路10は、インバータ回路30を制御して、点灯周期T2にて交互にランプ電流ILの極性を入れ替える。これにより、放電灯4は交流点灯される。
【0055】
図3(a)、(b)は、放電灯点灯回路100のDC期間後の動作状態を示すタイムチャートである。図3(a)、(b)はそれぞれ、ランナップ過程および定常点灯時の波形を示している。
【0056】
4. ランナップ
アーク放電の成長にともない、放電灯4の光出力が上昇していく。光出力の立ち上がりは規格で定められており、規格にマッチした光出力(電力)が得られるように、制御回路10は、駆動電圧Vo、ランプ電流ILなどを監視し、フィードバックによって、スイッチング素子M1のオン・オフのデューティ比を調節する。放電灯点灯回路100は、ランナップ期間において放電灯4の光出力を急速に上昇させるため、一時的に定格電力より高い過電力を供給し、その後、ランプ電圧VLを45V、ランプ電流ILを0.8Aに安定化して定格電力(35W)に近づけていく(図3(a))。
【0057】
5. 定常点灯
ランナップ過程を経て、放電灯4の光出力が安定化すると、放電灯4に供給される電力が定格値35Wに安定化される(図3(b))。なお、図3(a)、(b)に示されるランプ電圧VLおよびランプ電流ILの波形は、見やすさのために簡略化したものであり、実際には250Hz〜750Hzの周波数を有している。
【0058】
図4は、電源投入からブレークダウンまでの駆動電圧Voおよびスタータ回路20のスタータキャパシタの両端電圧Vstの変化を示すタイムチャートである。図4は3回目の高電圧パルス発生で放電灯4がブレークダウンする場合を示す。
【0059】
時刻t1における電源投入後、駆動電圧Voおよび両端電圧Vstは上昇し始める。駆動電圧Voは、上限電圧Vth2付近に到達すると電圧制限回路116の作用により上限電圧Vth2程度に安定化される。両端電圧Vstが絶縁破壊電圧Vbに達すると、放電灯4に高電圧パルスが印加される。高電圧パルスが印加されても放電灯4がブレークダウンしない場合、充電回路22はスタータキャパシタへの再充電を始め、両端電圧Vstは0V付近から再度上昇し始める。図4において、1回目のパルスインターバルを第1パルスインターバルTP1、2回目のパルスインターバルを第2パルスインターバルTP2、3回目のパルスインターバルを第3パルスインターバルTP3、とそれぞれ称す。
【0060】
図5は、駆動電圧Voが上限電圧Vth2付近に到達する前における放電灯点灯回路100の動作状態を示すタイムチャートである。図5は、図4の駆動電圧Voの一点鎖線で囲まれた領域202に対応する。
【0061】
駆動電圧Voは点灯判断電圧Vth1より高いので、点灯判断回路106は放電灯4が消灯していると判断し、点灯状態監視信号S2をハイレベルとする。また、駆動電圧Voは上限電圧Vth2付近に到達していないので、電圧制限回路116は電圧制限信号S7をローレベルに保つ。制御パルス信号S1がハイレベルとなった後の時刻t3において、電流制限回路118は、1次電流IL1の大きさが第1電流制限値Ith1に達すると、電流制限信号S8にパルスを生成する。デューティ比制限回路110は、そのパルスを検出すると制御パルス信号S1をローレベルとする。時刻t4および時刻t5についても同様である。
図5に示される場合、制御パルス信号S1のデューティ比あるいはスイッチング素子M1のオン期間の長さは第1電流制限値Ith1によって決定される。
【0062】
図6は、駆動電圧Voが上限電圧Vth2付近に到達した後における放電灯点灯回路100の動作状態を示すタイムチャートである。図6は、図4の駆動電圧Voの二点鎖線で囲まれた領域204に対応する。
【0063】
駆動電圧Voは点灯判断電圧Vth1より高いので、点灯判断回路106は放電灯4が消灯していると判断し、点灯状態監視信号S2をハイレベルとする。制御パルス信号S1がハイレベルとなった後の時刻t6において、電流制限回路118は、1次電流IL1の大きさが第1電流制限値Ith1に達すると、電流制限信号S8にパルスを生成する。デューティ比制限回路110は、そのパルスを検出すると制御パルス信号S1をローレベルとする。制御パルス信号S1がローレベルとなってスイッチング素子M1がオフされると、入力トランス14の1次巻き線L1に蓄えられたエネルギ(1/2・Lp・Ith1)が出力キャパシタCoに移送され駆動電圧Voが上昇する。
【0064】
駆動電圧Voが上限電圧Vth2を超える時刻t7において、電圧制限回路116は電圧制限信号S7をハイレベルとする。以降、キャパシタのロスや電圧検出抵抗等による駆動電圧Voの自然減によって駆動電圧Voが上限電圧Vth2を下回る時刻t8まで、電圧制限回路116は電圧制限信号S7をハイレベルに保つ。電圧制限信号S7がハイレベルとなっている時刻t7と時刻t8との間の期間においては、デューティ比制限回路110は制限前PWM信号S6によらずに制御パルス信号S1をローレベルに固定する。
【0065】
電圧制限回路116が電圧制限信号S7をローレベルとする時刻t8の後最初に制限前PWM信号S6に立ち上がりエッジが現れる時刻t9において、デューティ比制限回路110は制御パルス信号S1をハイレベルとする。以降の時刻t10、t11、t12、t13における処理は、時刻t6、t7、t8、t9における処理とそれぞれ同様である。
【0066】
時刻t6の後の駆動電圧Voの増分ΔV1は、入力トランス14の1次巻き線L1に蓄えられたエネルギ、すなわち第1電流制限値Ith1に応じた値となる。ここで本実施の形態に係る放電灯点灯回路100では第1電流制限値Ith1は第2電流制限値Ith2よりも小さい一定の値に設定される。したがって、第1電流制限値Ith1を小さく設定しない場合と比べて駆動電圧Voの増分ΔV1が抑えられる。これにより、駆動電圧Voが上限電圧Vth2付近に到達した後において、電圧制限回路116の作用によりスイッチング素子M1が強制的にオフとされる期間の長さが低減される。その結果、駆動周波数f1の低下が抑えられる。
【0067】
図7は、電流制限回路において放電灯4の点灯消灯の別によらずに同じ電流制限値を使用する場合の、放電灯点灯回路の動作状態を示すタイムチャートである。この電流制限回路では、放電灯4の点灯消灯の別によらずに共通の第3電流制限値Ith3が使用される。
【0068】
放電灯点灯回路では上記の通り、放電灯のブレークダウン後、放電灯の光出力を急速に上昇させるため一時的に定格電力より高い過電力を供給する。したがってそのような制御を可能とするため、電流制限回路における第3電流制限値Ith3を過電力に対応した大きな値、特に第1電流制限値Ith1よりも大きな値に設定する必要がある。
【0069】
制御パルス信号S1がハイレベルとなった後の時刻t14において、電流制限回路は、1次電流IL1の大きさが第3電流制限値Ith3に達すると、電流制限信号S8にパルスを生成する。デューティ比制限回路110は、そのパルスを検出すると制御パルス信号S1をローレベルとする。制御パルス信号S1がローレベルとなってスイッチング素子M1がオフされると、入力トランス14の1次巻き線L1に蓄えられたエネルギ(1/2・Lp・Ith3)が出力キャパシタCoに移送され駆動電圧Voが上昇する。
【0070】
ここで第3電流制限値Ith3は第1電流制限値Ith1よりも大きな値に設定されているので、駆動電圧Voの増分ΔV2は図6の場合のそれよりも比較的大きい。したがって、電圧制限回路116の作用によりスイッチング素子M1が強制的にオフとされる期間の長さ(時刻t15から時刻t16までの期間の長さ)はより長くなる。
【0071】
以上が第1の実施の形態に係る放電灯点灯回路100の動作である。この放電灯点灯回路100は、従来の放電灯点灯回路に比べて以下の利点を有する。
【0072】
本実施の形態に係る放電灯点灯回路100によると、制御回路10は、放電灯4が消灯していると判断される場合は、1次エネルギが放電灯4が点灯していると判断される場合の1次エネルギよりも小さくなるようにスイッチング素子M1のオンオフを制御する。したがって、上記の通り駆動電圧Voが上限電圧Vth2付近に到達した後の駆動周波数の低下を抑えることができる。
【0073】
放電灯4が点灯しているときと異なり、点灯していないとき(点灯前)のDC/DCコンバータCONVの主な役割は、スタータ回路20のスタータキャパシタへ電荷を蓄えることである。電荷を蓄えるスピードは、特にコッククロフト・ウォルトン型の充電回路22を使用する場合は、スイッチング素子M1のオンオフの周期(駆動周波数f1)に左右される。本実施の形態に係る放電灯点灯回路100では駆動電圧Voが上限電圧Vth2付近に到達した後でも駆動周波数はそれ程低下せず、設定によっては到達前と同程度となる。したがって、スタータキャパシタへの充電スピードの変動は抑えられ、パルスインターバルはより均一となる。また、2回目以降の高電圧パルスに対応するパルスインターバルは短くなる。特に1回目のパルスインターバル(第1パルスインターバルTP1)と、2回目以降のパルスインターバル(第2パルスインターバルTP2、第3パルスインターバルTP3)との差が小さくなる。
【0074】
放電灯が点灯しているときの電力を35W、駆動周波数f1を350kHzとすると、1回のスイッチングで入力トランス14の1次巻き線L1が蓄えるエネルギはおよそ0.1mJである。放電灯が点灯していないときに入力トランス14の1次巻き線L1が同じエネルギを蓄えると、駆動電圧Voの増分が大きくなり、すなわちスイッチング素子M1が強制的にオフとされる期間の長さが長くなる。この場合、パルスインターバルは実験的には数百ミリ秒から数秒に達する。これに対して本実施の形態に係る放電灯点灯回路100ではパルスインターバルを数十ミリ秒程度に抑えることが可能である。
【0075】
運転者が前照灯の点灯スイッチをオンしてから点灯するまでの時間、または、何らかの原因で放電灯が消灯してから再点灯するまでの時間が長いと、ユーザに違和感や不安を与えかねない。そこでパルスインターバルをより均一に、より短くすることでユーザに不安を感じさせない放電灯点灯回路を実現できる。
【0076】
また、本実施の形態に係る放電灯点灯回路100では、制御回路10は、放電灯4が消灯していると判断される場合は、1次エネルギが一定となるようにスイッチング素子M1のオンオフを制御する。したがって、駆動周波数f1や放電灯の状態(ホット/コールド)や目標電力やバッテリ電圧Vbatが変動しても、1回のスイッチング素子M1のオンオフで出力キャパシタCoに移送されるエネルギを一定にすることができる。これにより、パルスインターバルはそれらの変動に左右されにくくなる。
【0077】
また、本実施の形態に係る放電灯点灯回路100では第1電流制限値Ith1を小さくかつ一定値に設定することにより、1次エネルギを小さくかつ一定にすることをより簡単に実現できる。具体的には、電流制限回路118で使用される基準電圧を切り替え可能に構成すればよく、複雑で精度の高い回路などを導入する必要はない。
【0078】
また、本実施の形態に係る放電灯点灯回路100では、点灯判断回路106は駆動電圧Voに基づいて点灯状態監視信号S2を生成する。ランプ電流ILを判断基準としランプ電流ILがあるしきい値より低くなると消灯と判断する場合は、放電灯が何らかの原因で消灯しかけると即座に消灯と判断されうる。すると、1次エネルギを小さくする方向に制御が働くため、放電灯の消灯をさらに促進する可能性がある。これに対して、DC/DCコンバータCONVの出力電圧である駆動電圧Voを判断基準にする場合は、放電灯が完全に消灯して出力キャパシタCoから電荷が放電されてしまわなければ消灯と判断されないので、ランプ電流ILによる判断よりタイムラグがある。即ち、放電灯の点灯維持を阻害しにくくなる。
【0079】
放電灯点灯回路のDC/DCコンバータに使用されるスイッチング素子、整流素子、平滑コンデンサ等のデバイス耐圧について、本発明者は以下の課題を認識した。
このデバイス耐圧は通常、DC/DCコンバータが放電灯の点灯前に出力する電圧の上限値(第1の実施の形態では上限電圧Vth2)の値を基に決められる。この電圧の上限値によって決まる電圧ギリギリにデバイス耐圧を設定することで、安価な素子或いは高性能な素子を用いることが出来る。しかしながらこの設定では、DC/DCコンバータの出力電圧の上昇過程においてスイッチング素子がオフした瞬間に発生するリンギング電圧が大きい場合には、一時的に耐圧オーバーとなる可能性がある。また、電圧の上限値に到達した後同様のリンギング電圧が大きい場合も、一時的に耐圧オーバーとなる可能性がある。したがって、リンギング電圧を考慮すると、更に耐圧の高いデバイスを使わざるを得ない。このリンギング電圧の大きさは、スイッチング素子がオフする直前の電流値が大きいほど高くなるため、この電流値を小さく抑えることができれば、安価な素子あるいは高性能な素子を用いることが出来る。
【0080】
第1の実施の形態では点灯前と判断される場合の第1電流制限値Ith1を点灯後と判断される場合の第2電流制限値Ith2よりも小さくしている。したがって、点灯前におけるスイッチング素子M1がオフする直前の電流値を点灯後のそれよりも小さくすることができるので、点灯前のリンギング電圧をより低くすることができる。
【0081】
(第2の実施の形態)
第1の実施の形態では、放電灯の点灯前後で電流制限回路118における電流制限値を切り替えることで、点灯前における1次エネルギを点灯後のそれよりも小さくした。第2の実施の形態では、制限パルス生成回路に入力されるノード電圧にオフセットを付与することで、点灯前における1次エネルギを点灯後のそれよりも小さくする。
以下第2の実施の形態に係る放電灯点灯回路300を、第1の実施の形態に係る放電灯点灯回路100との相違点を中心に説明する。
【0082】
図8は、第2の実施の形態に係る放電灯点灯回路300およびそれに接続される部材の構成を示す回路図である。放電灯点灯回路300は、入力キャパシタCin、DC/DCコンバータCONV’、制御回路310、スタータ回路20、インバータ回路30、第1電流制限抵抗R1、第2電流制限抵抗R2、電流検出抵抗Rd、点灯補助回路340、を備える。
【0083】
DC/DCコンバータCONV’と第1の実施の形態に係るDC/DCコンバータCONVとを比較すると、DC/DCコンバータCONV’はスイッチング素子M1のソース端子と接地との間にスイッチング素子M1に流れる電流(=1次電流IL1)を検出するための1次電流検出抵抗R3を備える点で両者は異なる。
【0084】
点灯補助回路340は、放電灯4をアーク成長させるために設けられる。点灯補助回路340は、点灯補助キャパシタCa、第1点灯補助抵抗R4、第2点灯補助抵抗R5、npn型のバイポーラトランジスタである点灯補助スイッチM2、点灯補助ダイオードD2、を含む。点灯補助キャパシタCaと第1点灯補助抵抗R4と第2点灯補助抵抗R5と点灯補助スイッチM2とはこの順に出力キャパシタCoの両端間に直列に接続される。点灯補助回路340は、点灯補助キャパシタCaと第1点灯補助抵抗R4とでは点灯補助キャパシタCaが高電圧側となる位置関係を有する。
点灯補助ダイオードD2のカソードは第1点灯補助抵抗R4と第2点灯補助抵抗R5との間の第4接続ノードN4に接続され、アノードは電流検出抵抗Rdのインバータ回路30側の端子に接続される。
【0085】
点灯補助スイッチM2は、放電灯4の点灯前はオン、点灯後はオフとされる。
点灯補助回路340は、スタータ回路20が高電圧パルスを発生して放電灯4が点灯した直後にDC/DCコンバータCONV’の出力電圧が低下することに伴い、点灯補助キャパシタCaが蓄えた電荷を放電灯4に放出することでアーク放電を補助する。
【0086】
制御回路310は、検出回路302、駆動回路304、を含む。
検出回路302は、点灯判断回路306、ランプ電力演算回路108、を有する。
点灯判断回路306は、点灯補助スイッチM2のベースに供給される点灯補助信号S9を生成する。点灯判断回路306は、駆動電圧Voまたはランプ電流ILを監視し、放電灯4が消灯していると判断される場合は点灯補助信号S9をハイレベルとし、放電灯4が点灯していると判断される場合は点灯補助信号S9をローレベルとする。
【0087】
駆動回路304は、電力制御回路112、鋸波生成回路114、電圧制限回路116、電流制限回路318、PWMコンパレータ120、オフセット回路312、デューティ比制限回路110、を有する。
電流制限回路318は、制限パルス生成回路124、基準電圧生成回路322、を有する。基準電圧生成回路322は、第4電流制限値Ith4に対応する第4基準電圧Vr4を生成し、制限パルス生成回路124に供給する。
制限パルス生成回路124は、スイッチング素子M1と入力トランス14の1次巻き線L1との第1接続ノードN1の第1ノード電圧VN1の代わりにオフセット回路312によって生成されるオフセット電圧Voffを取得し、それを基準電圧生成回路322から供給される第4基準電圧Vr4と比較する。
【0088】
オフセット回路312は、1次電流検出抵抗R3とスイッチング素子M1のソース端子との間の第2接続ノードN2の第2ノード電圧VN2を取得する。第2ノード電圧VN2は、駆動電圧Voや充電電流Ichに依存した後述のオフセットがない状態では、スイッチング素子M1に流れる電流と1次電流検出抵抗R3との積で表されるので、スイッチング素子M1に流れる電流の大きさを示す電圧であると言える。
充電電流Ichは、放電灯4のブレークダウン前において、点灯補助キャパシタCaが充電される際に点灯補助キャパシタCaに流れ込む電流である。点灯補助キャパシタCaと第1点灯補助抵抗R4との間の第3接続ノードN3に生じる第3ノード電圧VN3は、この充電電流Ichの大きさを示す電圧と言える。
【0089】
オフセット回路312は、駆動電圧Voおよび第3ノード電圧VN3のうちの少なくともひとつに基づいて第2ノード電圧VN2にオフセットを付与する。オフセット回路312において、駆動電圧Voおよび第3ノード電圧VN3のうちの少なくともひとつとオフセットとの関係は、駆動電圧Voおよび第3ノード電圧VN3のうちの少なくともひとつが高いほどスイッチング素子M1のオン期間中に入力トランス14の1次巻き線L1に蓄えられるエネルギが小さくなるように設定される。
【0090】
オフセット回路312は、第1オフセット抵抗R6、第2オフセット抵抗R7、第3オフセット抵抗R8、を有する。第1オフセット抵抗R6の一端は第2接続ノードN2と接続される。第2オフセット抵抗R7の一端には駆動電圧Voが印加される。第3オフセット抵抗R8の一端は第3接続ノードN3と接続される。言い換えると、第3オフセット抵抗R8の一端には第3ノード電圧VN3が印加される。
【0091】
第1オフセット抵抗R6、第2オフセット抵抗R7、第3オフセット抵抗R8のそれぞれの他端は共通に接続され、オフセット回路312の出力を構成する。この出力に生じるオフセット電圧Voffは、第2ノード電圧VN2にオフセットが付与された電圧であり、制限パルス生成回路124に供給される。
【0092】
第1オフセット抵抗R6、第2オフセット抵抗R7、第3オフセット抵抗R8の典型的な抵抗値はそれぞれ300Ω、1MΩ、1MΩである。この場合、例えば駆動電圧Voが400Vのとき、オフセットはおよそ0.3Vとなる。
【0093】
本実施の形態に係る放電灯点灯回路300は、従来の放電灯点灯回路に比べて以下の利点を有する。
【0094】
本実施の形態に係る放電灯点灯回路300によると、第2ノード電圧VN2にオフセットが付与されて制限パルス生成回路124に入力される。このオフセットによる1次電流IL1制限作用は、放電灯4の点灯前においてより強い。これにより、点灯前における1次エネルギが点灯後のそれよりも小さくされる。したがって、第1の実施の形態と同様、駆動電圧Voが上限電圧Vth2付近に到達した後の駆動周波数の低下を抑えてパルスインターバルをより短く均一にすることができる。
【0095】
本実施の形態に係る放電灯点灯回路300では、オフセット回路312で付与されるオフセットは第3ノード電圧VN3に基づく。オフセットと第3ノード電圧VN3との関係は、充電電流Ichが大きいほど1次エネルギが小さくなるように設定される。
【0096】
図9は、駆動電圧Voおよび第3ノード電圧VN3の波形を示す波形図である。時刻t1において電源が投入される。点灯補助キャパシタCaへ電荷が充電されるにしたがい、充電電流Ichは小さくなり第3ノード電圧VN3の電圧値は低下する。すなわち、第3ノード電圧VN3のオフセットへの作用は、駆動電圧Voが上昇すると共に強まり、駆動電圧Voが上限電圧Vth2に到達する前または直後に最も強く作用する。したがって、駆動電圧Voの上昇過程におけるリンギング電圧を効果的に抑制でき、特に駆動電圧Voが上限電圧Vth2に到達する前または直後におけるリンギング電圧をより効果的に抑制できる。
【0097】
また、本実施の形態に係る放電灯点灯回路300によると、点灯補助スイッチM2の耐電流を小さくできる。放電灯4がブレークダウンした際のアーク放電移行を補助するため、高電圧パルスが発生する前に点灯補助キャパシタCaを満充電する必要がある。したがって、第1点灯補助抵抗R4や第2点灯補助抵抗R5の抵抗値はそれに合わせた値とされる。 本実施の形態に係る放電灯点灯回路300では、第3ノード電圧VN3起因のオフセットのため駆動電圧Voの上昇過程における1次エネルギが小さくなる。したがって、駆動電圧Voの上昇度合いは緩やかになる。その結果、第1点灯補助抵抗R4や第2点灯補助抵抗R5の抵抗値で規定される電流よりもピーク電流を抑えることが出来、耐電流の小さなトランジスタの選定が可能となる。
【0098】
図10は、第2ノード電圧VN2にオフセットを付与しない場合の、駆動電圧Voおよび点灯補助スイッチM2を流れるトランジスタ電流Itr1の時間変化を示す説明図である。
図11は、第2ノード電圧VN2に第3ノード電圧VN3に基づくオフセットを付与する場合の、駆動電圧Voおよび点灯補助スイッチM2を流れるトランジスタ電流Itr2の時間変化を示す説明図である。
図11におけるトランジスタ電流Itr2のピーク電流Ip2は、図10におけるトランジスタ電流Itr1のピーク電流Ip1よりも小さくなることが分かる。
【0099】
また、本実施の形態に係る放電灯点灯回路300では、オフセット回路312で付与されるオフセットは駆動電圧Voに基づく。オフセットと駆動電圧Voとの関係は、駆動電圧Voが高いほど1次エネルギが小さくなるように設定される。すなわち、駆動電圧Voが高いほど第2ノード電圧VN2に付与されるオフセットは高くなり、スイッチング素子M1のオン期間にスイッチング素子M1に流れる電流の最大値は小さくなる。
駆動電圧Voが高いほどデバイスの耐圧に対するマージンが小さくなるが、スイッチング素子M1がオフする直前に流れる電流の値も小さくなるのでリンギング電圧も低くなる。したがって、より耐圧の低い素子を使用することが可能となる。
【0100】
また点灯前は、駆動電圧Voを消費する量が少なくなるため間欠発振しやすくなる。駆動電圧Voが高い点灯前における1次エネルギがこのオフセットの作用により極小になるため、間欠発振を回避することができる。なお、点灯前と点灯後の駆動電圧Voの差は大きいため、点灯後の制限電流への影響は無視できる。
【0101】
以上、実施の形態に係る放電灯点灯回路の構成と動作について説明した。これらの実施の形態は例示であり、その各構成要素や各処理の組み合わせにいろいろな変形例が可能なこと、またそうした変形例も本発明の範囲にあることは当業者に理解されるところである。また実施の形態同士の組み合わせも可能である。例えば、第1の実施の形態に係る放電灯点灯回路100に、第2の実施の形態に係る放電灯点灯回路300の点灯補助回路340およびオフセット回路312を導入してもよい。この場合、放電灯4が消灯していると判断される場合の1次エネルギをより小さくすることができる。
なお、第1の実施の形態と第2の実施の形態とを組み合わせた放電灯点灯回路において、パルスインターバルを10ミリ秒程度の均一な値にできることが、本発明者が行った実験により確認された。
【0102】
第1の実施の形態では、スイッチング素子M1に流れる電流を示す電圧としてスイッチング素子M1のオン抵抗に生じる電圧を使用する場合について説明したが、これに限られず、第2の実施の形態と同様に別途電流検出用の抵抗を設けてもよい。また、第2の実施の形態については、1次電流検出抵抗R3に生じる電圧の代わりにスイッチング素子M1のオン抵抗に生じる電圧を使用してもよい。
【0103】
第2の実施の形態では、第1の実施の形態のスタータ回路20と同様のスタータ回路を使用する場合について説明したが、これに限られず、DC/DCコンバータCONV’の入力トランス14に高圧補助巻き線を設けてもよい。また、DC/DCコンバータCONV’を利用しないスタータ回路を設けてもよい。
【0104】
第2の実施の形態では、点灯補助回路340は点灯補助スイッチM2を備える場合について説明したが、これに限られず、点灯補助スイッチM2を備えずに第2点灯補助抵抗R5が直接接地端子と接続されてもよい。
【0105】
第1および第2の実施の形態では、車両用の放電灯を駆動する放電灯点灯回路を例に説明をしたが、これに限定されず、DC/DCコンバータを備える放電灯点灯回路に広く適用できる。
【0106】
第1および第2の実施の形態では、放電灯を交流の駆動電圧で駆動する場合について説明したが、これに限られず、放電灯を直流の駆動電圧で駆動する放電灯点灯回路に実施の形態に係る技術的思想を適用してもよい。この場合、第1または第2の実施の形態からインバータ回路30を除去した構成を使用してもよい。あるいはまた、第1または第2の実施の形態に係る技術的思想は、いわゆるダブルコンバータ型の放電灯点灯回路に適用されてもよい。この場合、ダブルコンバータ型の放電灯点灯回路の2つのDC/DCコンバータのうちスタータ回路が接続されている方のDC/DCコンバータを、第1または第2の実施の形態に係る制御方法で制御してもよい。
【0107】
第1および第2の実施の形態では、絶縁型のDC/DCコンバータを使用する場合について説明したが、これに限られず、非絶縁型のDC/DCコンバータが使用されてもよい。
【0108】
第1および第2の実施の形態では、放電灯4と放電灯点灯回路とを別体として説明したが、これに限られず、放電灯が放電灯点灯回路に組み込まれてもよい。
【符号の説明】
【0109】
4 放電灯、 6 バッテリ、 8 電源スイッチ、 10 制御回路、 20 スタータ回路、 30 インバータ回路、 100 放電灯点灯回路、 300 放電灯点灯回路、 CONV DC/DCコンバータ、Cin 入力キャパシタ、 R1 第1電流制限抵抗、 R2 第2電流制限抵抗。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
駆動対象の放電灯に印加すべき駆動電圧を生成するDC/DCコンバータと、
点灯状態監視信号が前記放電灯の消灯を示す場合、前記駆動電圧が所定の上限値を超えないように前記DC/DCコンバータを制御する制御回路と、を備え、
前記DC/DCコンバータは、
入力トランスと、
前記入力トランスの1次巻き線と直列に接続されるスイッチング素子と、を含み、
前記制御回路は、前記点灯状態監視信号が前記放電灯の消灯を示す場合は、前記スイッチング素子のオン期間中に前記入力トランスの1次巻き線に蓄えられるエネルギが、前記点灯状態監視信号が前記放電灯の点灯を示す場合の対応するエネルギよりも小さくなるように前記スイッチング素子のオンオフを制御することを特徴とする放電灯点灯回路。
【請求項2】
前記放電灯をブレークダウンさせるための高電圧パルスを、前記スイッチング素子のオン期間中に前記入力トランスの1次巻き線に蓄えられるエネルギを利用して発生するスタータ回路をさらに備え、
前記制御回路は、前記点灯状態監視信号が前記放電灯の消灯を示す場合は、前記スイッチング素子のオン期間中に前記入力トランスの1次巻き線に蓄えられるエネルギが一定となるように前記スイッチング素子のオンオフを制御することを特徴とする請求項1に記載の放電灯点灯回路。
【請求項3】
前記制御回路は、
前記駆動電圧が前記上限値を超える場合、前記スイッチング素子をオフする電圧制限回路と、
前記スイッチング素子に流れる電流の大きさが所定の制限値を越える場合、前記スイッチング素子をオフする電流制限回路と、を含み、
前記電流制限回路において、前記点灯状態監視信号が前記放電灯の消灯を示す場合の前記スイッチング素子に流れる電流の大きさの制限値は、前記点灯状態監視信号が前記放電灯の点灯を示す場合の対応する制限値よりも小さな値に設定されることを特徴とする請求項1または2に記載の放電灯点灯回路。
【請求項4】
前記制御回路は、前記駆動電圧に基づいて前記点灯状態監視信号を生成することを特徴とする請求項1から3のいずれかに記載の放電灯点灯回路。
【請求項5】
前記DC/DCコンバータの出力キャパシタの両端間に接続された点灯補助キャパシタをさらに備え、
前記制御回路は、前記放電灯のブレークダウン前において、前記点灯補助キャパシタが充電される際に前記点灯補助キャパシタに流れ込む電流が大きいほど前記スイッチング素子のオン期間中に前記入力トランスの1次巻き線に蓄えられるエネルギを小さくすることを特徴とする請求項1に記載の放電灯点灯回路。
【請求項6】
前記DC/DCコンバータの出力キャパシタの両端間に接続された点灯補助キャパシタをさらに備え、
前記制御回路は、
前記駆動電圧および前記点灯補助キャパシタに流れ込む電流の大きさを示す第1電圧のうちの少なくともひとつに基づいて、前記スイッチング素子に流れる電流の大きさを示す第2電圧にオフセットを付与するオフセット回路と、
前記オフセット回路によってオフセットが付与された第2電圧と基準電圧との比較結果に基づき前記スイッチング素子をオフする比較回路と、を含み、
前記オフセット回路において、前記駆動電圧および前記第1電圧のうちの少なくともひとつと前記オフセットとの関係は、前記駆動電圧および前記第1電圧のうちの少なくともひとつが高いほど前記スイッチング素子のオン期間中に前記入力トランスの1次巻き線に蓄えられるエネルギが小さくなるように設定されることを特徴とする請求項1または5記載の放電灯点灯回路。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【公開番号】特開2012−22918(P2012−22918A)
【公開日】平成24年2月2日(2012.2.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−160455(P2010−160455)
【出願日】平成22年7月15日(2010.7.15)
【出願人】(000001133)株式会社小糸製作所 (1,575)
【Fターム(参考)】