説明

新規なジペプチド化合物及びその医薬用途

【課題】従来のHIVプロテアーゼ阻害剤に比べて、薬物動態に優れた新規なジペプチド化合物を提供する。
【解決手段】下記一般式(I)


(上記式中、R1は水酸基、あるいはアミノ基を示し、R2は炭素数1〜4の低級アルキル基、あるいはハロゲノ基を示し、R3、R4及びR5はそれぞれに直鎖式、または分枝を有する飽和もしくは不飽和の炭素数1〜4の低級アルコキシ基、あるいは水素原子を示し(ただし、R3、R4及びR5の全てが水素原子である場合を除く)、またR3とR4とは互いに環を形成しても良く、R6、R7はそれぞれ直鎖式、及び分枝を有する炭素数1〜4の低級アルキル基、ハロゲノ基あるいは水素原子を示す)で表される新規なジペプチド化合物またはその薬理学的に許容される塩、及びこれを有効成分とすることからなる抗エイズ薬。

【発明の詳細な説明】
【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、HIVプロテアーゼの酵素活性を阻害する新規なジペプチド化合物、及び当該ジペプチド化合物のHIVプロテアーゼに対する阻害作用を利用して、体内でのHIV増殖を抑制する抗エイズ薬に関する。
【0002】
【従来の技術】
エイズの原因であるヒト免疫不全ウイルス(HIV; Human immunodeficiency virus)は、宿主細胞内で当該ウイルス粒子の形成に用いられるGag蛋白質や逆転写酵素などを前駆蛋白質として産出する。この前駆蛋白質は、ウイルス由来のプロテアーゼ(HIVプロテアーゼ)によって特定のサイズに切断されて、はじめてそれぞれの機能を発揮するようになる。このHIVプロテアーゼの活性を阻害し、感染性ウイルス粒子の形成と成熟をブロックするHIVプロテアーゼ阻害剤は抗ウイルス剤として用いることができ、すでにいくつかのHIVプロテアーゼ阻害剤が臨床使用されている。
【0003】
その一つに、HIVプロテアーゼの選択的切断配列であるTyr*Pro- あるいは-Phe*Pro- に類似する構造を有する基質遷移状態疑似物質と呼ばれるペプチド誘導体(非特許文献1など参照)があり、フェニルアラニンψ[CH(OH)CH2N] プロリン様構造を含むヒドロキシエチルアミン誘導体(非特許文献2などを参照)やフェニルアラニンψ[CH(OH)CON] プロリン様構造を含むヒドロキシメチルカルボキサミド誘導体(非特許文献3など参照)などがHIVプロテアーゼ阻害剤として有用であると報告されている。
本発明者も、先に3-アミノ-2-ヒドロキシ-4-フェニルブタン酸(AHPBA、ヒドロキシメチルカルボキサミド誘導体)を基本構造に含むジペプチド誘導体が、HIVプロテアーゼの活性を強く阻害し、強い抗ウイルス活性を示すことを見出し抗エイズ薬として提案した(特許文献1など)。また、本発明者は、AHPBAの芳香環上に置換基を有するジペプチド誘導体が、血漿タンパク存在下においても強い抗ウイルス活性を維持する性質を見出し、新規なHIVプロテアーゼ阻害剤として提案した(特許文献2)。
【0004】
【非特許文献1】
T. Robins ら、J. Acquire. Immun. Defic. Syndr., 6, 162 (1993)
【非特許文献2】
N. A. Roberts ら、Science, 248, 358 (1990)
【非特許文献3】
T. F. Tam ら、J. Med. Chem., 35, 1318 (1992)
【特許文献1】
特開平10-25242号公報
【特許文献2】
国際公開WO 01/47948 A1
【0005】
一方、HIVプロテアーゼ阻害剤は臨床において十分な有効性を示しているものの、その使用にあたっては多量の薬剤を頻繁に服用することが必要であり、コンプライアンス、副作用、あるいは耐性誘導などの観点からもまだまだ問題を抱えており、少量かつ低頻度の投与で効果を示す薬物動態に優れた薬剤が必要とされている。
【0006】
【発明が解決しようとする課題】
本発明は、上記現状に鑑みてなされたもので、抗エイズ薬として提案されている基質遷移状態誘導体からなる従来のHIVプロテアーゼ阻害剤に比べて、薬物動態に優れた新規なジペプチド化合物及び抗エイズ薬を提供することである。
【0007】
【課題を解決するための手段】
本発明者らは、前記の課題を解決すべく種々検討を重ねた結果、特許文献2に記載の置換AHPBAを有するジペプチド誘導体のうち、特に3,3-ジメチルピロリジン-2-カルボニル構造を有する化合物が、ヒト肝ミクロソーム由来の酵素による代謝に対する安定性に優れる効果を有すること、さらには薬物動態試験においても高い血中濃度を維持することを見出し本発明を完成するに至った。すなわち、本発明は、以下のとおりのものである。
(1) 下記一般式(I)
【化3】

(上記式中、R1は水酸基、あるいはアミノ基を示し、R2は炭素数1〜4の低級アルキル基、あるいはハロゲノ基を示し、R3、R4及びR5はそれぞれ独立に直鎖式、または分枝を有する飽和もしくは不飽和の炭素数1〜4の低級アルコキシ基、あるいは水素原子を示し(ただし、R3、R4及びR5の全てが水素原子である場合を除く)、またR3とR4とは互いに環を形成しても良く、R6、R7はそれぞれ直鎖式、及び分枝を有する炭素数1〜4の低級アルキル基、ハロゲノ基あるいは水素原子を示す)で表されるジペプチド化合物またはその薬理学的に許容される塩。
(2) 下記一般式(II)
【化4】

(上記式中、R1は水酸基、あるいはアミノ基を示し、R2は炭素数1〜4の低級アルキル基、あるいはハロゲノ基を示し、R3、R4及びR5はそれぞれ独立に直鎖式、または分枝を有する飽和もしくは不飽和の炭素数1〜4の低級アルコキシ基、あるいは水素原子を示し(ただし、R3、R4及びR5の全てが水素原子である場合を除く)、またR3とR4とは互いに環を形成しても良く、R6、R7はそれぞれ直鎖式、及び分枝を有する炭素数1〜4の低級アルキル基、ハロゲノ基あるいは水素原子を示す)で表されるジペプチド化合物またはその薬理学的に許容される塩。
(3) 一般式(II)において、R1、R3、R4、R5は上記(2)の一般式(II)と同義の基を示し、R2はメチル基、あるいはクロロ基を示し、R6、R7はそれぞれにメチル基、クロロ基あるいは水素原子を示す)で表されるジペプチド化合物またはその薬理学的に許容される塩。
(4) 一般式(II)において、R1はアミノ基を示し、R2はクロロ基を示し、R3、R4、R5は上記(2)の一般式(II)と同義の基を示し、R6、R7はメチル基を示す)で表されるジペプチド化合物またはその薬理学的に許容される塩。
(5) 一般式(II)において、R1はアミノ基を示し、R2はクロロ基を示し、R3はメトキシ基を示し、R4、R5は水素原子を示し、R6、R7はメチル基を示す)で表されるジペプチド化合物またはその薬理学的に許容される塩。
(6) 上記請求項1〜5に記載したジペプチド化合物またはその薬理学的に許容される塩を有効成分とする抗エイズ薬。
これらの3,3-ジメチルピロリジン-2-カルボニル構造を有する化合物は特許文献2の特許請求の範囲には文言上包含されるものの、それらに関する具体的な化合物としての例示、あるいは実施例については、全く記載されていない。
【0008】
【発明の実施の形態】
本発明の上記一般式(I)及び(II)中の R1は水酸基、アミノ基を示す。
R2における炭素数1〜4の低級アルキル基としては、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、イソプロピル基、secブチル基が、またハロゲノ基としては、フルオロ基、クロロ基、ブロモ基等が挙げられる。これらのうち、好ましくはメチル基、エチル基、クロロ基、ブロム基が挙げられ、より好ましくはメチル基、クロロ基が挙げられる。
【0009】
R3、R4及びR5における直鎖式、及び分枝を有する飽和もしくは不飽和の炭素数1〜4の低級アルコキシ基としては、メトキシ基、エトキシ基、プロポキシ基、ブトキシ基、イソプロポキシ基、secブトキシ基、tertブトキシ基、ビニルオキシ基、アリルオキシ基、イソプロペニルオキシ基、1-プロペニルオキシ基、メトキシメトキシ基、エトキシメトキシ基、メトキシエトキシ基などが挙げられ、好ましくメトキシ基、エトキシ基が挙げられる。
R3、R4が環を形成するものとしては、メチレンジオキシ基、エチレンジオキシ基などが挙げられ、より好ましくはメチレンジオキシ基が挙げられる。
【0010】
R6及びR7における直鎖式、及び分枝を有する炭素数1〜4の低級アルキル基としては、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、イソプロピル基、secブチル基が、またハロゲノ基としては、フルオロ基、クロロ基、ブロモ基等が挙げられる。またR6及びR7は、水素原子であってもよい。これらのうち、好ましくはメチル基、エチル基、クロロ基、ブロム基、水素原子が挙げられ、より好ましくはメチル基が挙げられる。
【0011】
本発明の特に好ましい具体的化合物として、(S)-N-(2-メチルベンジル)-1-[(2S,3S)-2-ヒドロキシ-3-(3-ヒドロキシ-2-メチルベンゾイル)アミノ-4-(4-メトキシフェニル)ブタノイル]-3,3-ジメチルピロリジン-2-カルボキサミド、(S)-N-(2-メチルベンジル)-1-[(2S,3S)-2-ヒドロキシ-3-(3-アミノ-2-クロロベンゾイル)アミノ-4-(4-メトキシフェニル)ブタノイル]-3,3-ジメチルピロリジン-2-カルボキサミド、(S)-N-(2,6-ジメチルベンジル)-1-[(2S,3S)-2-ヒドロキシ-3-(3-ヒドロキシ-2-メチルベンゾイル)アミノ-4-(4-メトキシフェニル)ブタノイル]-3,3-ジメチルピロリジン-2-カルボキサミド、(S)-N-(2,6-ジメチルベンジル)-1-[(2S,3S)-2-ヒドロキシ-3-(3-アミノ-2-クロロベンゾイル)アミノ-4-(4-メトキシフェニル)ブタノイル]-3,3-ジメチルピロリジン-2-カルボキサミド、(S)-N-(2-メチルベンジル)-1-[(2S,3S)-2-ヒドロキシ-3-(3-ヒドロキシ-2-メチルベンゾイル)アミノ-4-(3-メトキシフェニル)ブタノイル]-3,3-ジメチルピロリジン-2-カルボキサミド、(S)-N-(2-メチルベンジル)-1-[(2S,3S)-2-ヒドロキシ-3-(3-アミノ-2-クロロベンゾイル)アミノ-4-(3-メトキシフェニル)ブタノイル]-3,3-ジメチルピロリジン-2-カルボキサミド、(S)-N-(2,6-ジメチルベンジル)-1-[(2S,3S)-2-ヒドロキシ-3-(3-ヒドロキシ-2-メチルベンゾイル)アミノ-4-(3-メトキシフェニル)ブタノイル]-3,3-ジメチルピロリジン-2-カルボキサミド、(S)-N-(2,6-ジメチルベンジル)-1-[(2S,3S)-2-ヒドロキシ-3-(3-アミノ-2-クロロベンゾイル)アミノ-4-(3-メトキシフェニル)ブタノイル]-3,3-ジメチルピロリジン-2-カルボキサミド、(S)-N-(2-メチルベンジル)-1-[(2S,3S)-2-ヒドロキシ-3-(3-ヒドロキシ-2-メチルベンゾイル)アミノ-4-(4-エトキシフェニル)ブタノイル]-3,3-ジメチルピロリジン-2-カルボキサミド、(S)-N-(2-メチルベンジル)-1-[(2S,3S)-2-ヒドロキシ-3-(3-アミノ-2-クロロベンゾイル)アミノ-4-(4-エトキシフェニル)ブタノイル]-3,3-ジメチルピロリジン-2-カルボキサミド、
【0012】
(S)-N-(2,6-ジメチルベンジル)-1-[(2S,3S)-2-ヒドロキシ-3-(3-ヒドロキシ-2-メチルベンゾイル)アミノ-4-(4-エトキシフェニル)ブタノイル]-3,3-ジメチルピロリジン-2-カルボキサミド、(S)-N-(2,6-ジメチルベンジル)-1-[(2S,3S)-2-ヒドロキシ-3-(3-アミノ-2-クロロベンゾイル)アミノ-4-(4-エトキシフェニル)ブタノイル]-3,3-ジメチルピロリジン-2-カルボキサミド、(S)-N-(2-メチルベンジル)-1-[(2S,3S)-2-ヒドロキシ-3-(3-ヒドロキシ-2-メチルベンゾイル)アミノ-4-(3-エトキシフェニル)ブタノイル]-3,3-ジメチルピロリジン-2-カルボキサミド、(S)-N-(2-メチルベンジル)-1-[(2S,3S)-2-ヒドロキシ-3-(3-アミノ-2-クロロベンゾイル)アミノ-4-(3-エトキシフェニル)ブタノイル]-3,3-ジメチルピロリジン-2-カルボキサミド、(S)-N-(2,6-ジメチルベンジル)-1-[(2S,3S)-2-ヒドロキシ-3-(3-ヒドロキシ-2-メチルベンゾイル)アミノ-4-(3-エトキシフェニル)ブタノイル]-3,3-ジメチルピロリジン-2-カルボキサミド、(S)-N-(2,6-ジメチルベンジル)-1-[(2S,3S)-2-ヒドロキシ-3-(3-アミノ-2-クロロベンゾイル)アミノ-4-(3-エトキシフェニル)ブタノイル]-3,3-ジメチルピロリジン-2-カルボキサミド、(S)-N-(2-メチルベンジル)-1-[(2S,3S)-2-ヒドロキシ-3-(3-ヒドロキシ-2-メチルベンゾイル)アミノ-4-(3, 4-ジメトキシフェニル)ブタノイル]-3,3-ジメチルピロリジン-2-カルボキサミド、(S)-N-(2-メチルベンジル)-1-[(2S,3S)-2-ヒドロキシ-3-(3-アミノ-2-クロロベンゾイル)アミノ-4-(3, 4-ジメトキシフェニル)ブタノイル]-3,3-ジメチルピロリジン-2-カルボキサミド、(S)-N-(2,6-ジメチルベンジル)-1-[(2S,3S)-2-ヒドロキシ-3-(3-ヒドロキシ-2-メチルベンゾイル)アミノ-4-(3, 4-ジメトキシフェニル)ブタノイル]-3,3-ジメチルピロリジン-2-カルボキサミド、(S)-N-(2,6-ジメチルベンジル)-1-[(2S,3S)-2-ヒドロキシ-3-(3-アミノ-2-クロロベンゾイル)アミノ-4-(3, 4-ジメトキシフェニル)ブタノイル]-3,3-ジメチルピロリジン-2-カルボキサミド、
【0013】
(S)-N-(2-メチルベンジル)-1-[(2S,3S)-2-ヒドロキシ-3-(3-ヒドロキシ-2-メチルベンゾイル)アミノ-4-(3, 5-ジメトキシフェニル)ブタノイル]-3,3-ジメチルピロリジン-2-カルボキサミド、(S)-N-(2-メチルベンジル)-1-[(2S,3S)-2-ヒドロキシ-3-(3-アミノ-2-クロロベンゾイル)アミノ-4-(3, 5-ジメトキシフェニル)ブタノイル]-3,3-ジメチルピロリジン-2-カルボキサミド、(S)-N-(2,6-ジメチルベンジル)-1-[(2S,3S)-2-ヒドロキシ-3-(3-ヒドロキシ-2-メチルベンゾイル)アミノ-4-(3, 5-ジメトキシフェニル)ブタノイル]-3,3-ジメチルピロリジン-2-カルボキサミド、(S)-N-(2,6-ジメチルベンジル)-1-[(2S,3S)-2-ヒドロキシ-3-(3-アミノ-2-クロロベンゾイル)アミノ-4-(3, 5-ジメトキシフェニル)ブタノイル]-3,3-ジメチルピロリジン-2-カルボキサミド、(S)-N-(2-メチルベンジル)-1-[(2S,3S)-2-ヒドロキシ-3-(3-ヒドロキシ-2-メチルベンゾイル)アミノ-4-(3, 4-メチレンジオキシフェニル)ブタノイル]-3,3-ジメチルピロリジン-2-カルボキサミド、(S)-N-(2-メチルベンジル)-1-[(2S,3S)-2-ヒドロキシ-3-(3-アミノ-2-クロロベンゾイル)アミノ-4-(3, 4-メチレンジオキシフェニル)ブタノイル]-3,3-ジメチルピロリジン-2-カルボキサミド、(S)-N-(2,6-ジメチルベンジル)-1-[(2S,3S)-2-ヒドロキシ-3-(3-ヒドロキシ-2-メチルベンゾイル)アミノ-4-(3, 4-メチレンジオキシフェニル)ブタノイル]-3,3-ジメチルピロリジン-2-カルボキサミド、(S)-N-(2,6-ジメチルベンジル)-1-[(2S,3S)-2-ヒドロキシ-3-(3-アミノ-2-クロロベンゾイル)アミノ-4-(3, 4-メチレンジオキシフェニル)ブタノイル]-3,3-ジメチルピロリジン-2-カルボキサミド、(S)-N-(2-メチルベンジル)-1-[(2S,3S)-2-ヒドロキシ-3-(3-ヒドロキシ-2-メチルベンゾイル)アミノ-4-(3, 4-エチレンジオキシフェニル)ブタノイル]-3,3-ジメチルピロリジン-2-カルボキサミド、(S)-N-(2-メチルベンジル)-1-[(2S,3S)-2-ヒドロキシ-3-(3-アミノ-2-クロロベンゾイル)アミノ-4-(3, 4-エチレンジオキシフェニル)ブタノイル]-3,3-ジメチルピロリジン-2-カルボキサミド、
【0014】
(S)-N-(2,6-ジメチルベンジル)-1-[(2S,3S)-2-ヒドロキシ-3-(3-ヒドロキシ-2-メチルベンゾイル)アミノ-4-(3, 4-エチレンジオキシフェニル)ブタノイル]-3,3-ジメチルピロリジン-2-カルボキサミド、(S)-N-(2,6-ジメチルベンジル)-1-[(2S,3S)-2-ヒドロキシ-3-(3-アミノ-2-クロロベンゾイル)アミノ-4-(3, 4-エチレンジオキシフェニル)ブタノイル]-3,3-ジメチルピロリジン-2-カルボキサミド、(S)-N-(2-メチルベンジル)-1-[(2S,3S)-2-ヒドロキシ-3-(3-ヒドロキシ-2-メチルベンゾイル)アミノ-4-(3, 4, 5-トリメトキシフェニル)ブタノイル]-3,3-ジメチルピロリジン-2-カルボキサミド、(S)-N-(2-メチルベンジル)-1-[(2S,3S)-2-ヒドロキシ-3-(3-アミノ-2-クロロベンゾイル)アミノ-4-(3, 4, 5-トリメトキシフェニル)ブタノイル]-3,3-ジメチルピロリジン-2-カルボキサミド、(S)-N-(2,6-ジメチルベンジル)-1-[(2S,3S)-2-ヒドロキシ-3-(3-ヒドロキシ-2-メチルベンゾイル)アミノ-4-(3, 4, 5-トリメトキシフェニル)ブタノイル]-3,3-ジメチルピロリジン-2-カルボキサミド、(S)-N-(2,6-ジメチルベンジル)-1-[(2S,3S)-2-ヒドロキシ-3-(3-アミノ-2-クロロベンゾイル)アミノ-4-(3, 4, 5-トリメトキシフェニル)ブタノイル]-3,3-ジメチルピロリジン-2-カルボキサミド等を挙げることができるが、本発明の化合物はこれらに限定されるものではない。
【0015】
また、本発明のジペプチド化合物の薬理的に許容される塩とは、具体的に塩酸塩、酢酸塩、メタンスルホン酸塩、シュウ酸塩、クエン酸塩、こはく酸塩等を挙げることができる。
【0016】
上記一般式(I)、(II)で示される一連のジペプチド化合物は、既知のα-ヒドロキシ-β-アミノ酸の合成法(R. Nishizawa ら、J. Med. Chem., 20, 510 ( 1977)、梅沢ら、特開昭56-90050号公報、W.Yuanら、J. Med. Chem., 36, 211 (1993)、松本ら、特開平10-59909号公報、または鈴木ら、特開平9-157247号公報など)に従って合成されるN-保護-α-ヒドロキシ-β-アミノ酸誘導体、及び既知の合成法(Morgan, Barry Arnoldら、DE 2609154、R. SharmaらJ. Org. Chem., 61, 202-9(1996))に従って合成されるN-保護-3,3-ジメチルピロリジン-2-カルボン酸を用い、既知のヒドロキシメチルカルボキサミド型のHIVプロテアーゼ阻害剤の合成法(T. Mimoto ら、J. Med. Chem., 42, 1789 (1999) など)に従って合成することができる。
【0017】
例えば、常法により調製されたN保護アミノアルデヒドに、シアン化水素等価体を反応させて得られたシアンヒドリン誘導体を、塩酸などの酸性条件下に加水分解することにより目的とするα-ヒドロキシ-β-アミノ酸類へと導くことができる。得られたα-ヒドロキシ-β-アミノ酸類は、トリエチルアミンなどの有機塩基、もしくは水酸化ナトリウムなどの無機塩基存在下に、汎用されるBoc2OやZ-Cl などのアミノ保護試薬と反応させることによりN保護α-ヒドロキシ-β-アミノ酸類へと導くことができる。この様にして得られたN保護α-ヒドロキシ-β-アミノ酸類は、適当なエステル誘導体に導いた後、カラムクロマトグラフィーによる分離や、あるいは再結晶法により、好ましい(2S,3S)のみを含む誘導体へと導くことができる。
【0018】
一方、N-保護-3,3-ジメチルピロリジン-2-カルボン酸は、N-ベンジルオキシカルボニルアミノマロン酸 ジエチルエステルに、ナトリウムエトキシドなどの塩基の存在下に、3-メチル-2-ブテナールを反応させ、さらにパラジウム存在下に接触水素還元後、アルカリケン化、さらには酸性条件で加熱することにより脱炭酸を行い、さらに汎用されるBoc2OやZ-Cl などのアミノ保護試薬と反応させることによりN-保護-3,3-ジメチルピロリジン-2-カルボン酸へと導くことができる。こうして得られたラセミ混合物は、光学活性体との塩を形成させることなどにより、より好ましい立体配置であるS体のみに分割することができる。また、以降の工程でジアステレオマーを形成させた後に、カラムクロマトグラフィー、あるいは再結晶により、より好ましい立体配置であるS体のみを含む化合物へと導くこともできる。
【0019】
ヒドロキシメチルカルボキサミド型化合物の合成は、例えばカルバモイル窒素原子にベンジル置換したα-アミノカルボキサミド誘導体とN-保護 (2S,3S)-3-アミノ-2-ヒドロキシ-フェニルブタン酸誘導体とを、HOBt(N-ヒドロキシベンゾトリアゾール)やHOSu(N-ヒドロキシスクシンイミド)などの添加剤存在下に、DCC (N,N’-ジシクロヘキシルカルボジイミド)やEDC(1-エチル-3-(3-N,N’-ジメチルアミノプロピル)カルボジイミド)などのカルボジイミド試薬類を作用させてアミド結合を形成し、次いでこれに塩酸などの酸を作用させるか、もしくはパラジウムなどを触媒として用いる接触水素分解にてアミノ基の脱保護を行う。得られたジペプチドアミン誘導体に、所望のアミノ修飾基を、前述のカルボジイミド法、酸クロリド法、あるいは混合酸無水物法などの方法にて縮合させることにより本発明のジペプチドを得ることができる。
【0020】
また、この反応工程のおいて、上記一般式(I)R5のヒドロキシル基、アミノ基をアセチル基などの保護体を形成して所望の合成を行い、最終的に酸、またはアルカリで処理することにより脱保護する方法もとることができる。また、ニトロ基として所望の合成を行い、最終的還元することによりアミノ基に導くこともできる。
【0021】
この調製においては、必要に応じて、カラムクロマトグラフィー、再結晶などの精製方法により不純物を除き、HIVプロテアーゼ阻害剤として用いることができる。また、本発明のジペプチド化合物の化学構造は、核磁気共鳴法、赤外吸収法などの分光学的手法、及び質量分析法により容易に決定することができる。
【0022】
本発明のジペプチド化合物は、抗エイズ薬として臨床応用する際、慣用の製薬用担体や賦形剤を用いて常法に従い医薬品の剤型として投与することができる。すなわち、注射剤として静注または筋注したり、さらにスプレー剤、座薬等として非経口投与したり、顆粒剤、カプセル剤、液剤、錠剤等として経口投与したりすることができる。なお、本発明のジペプチド化合物は、生体内安定性に優れた低分子化合物であり、また消化管吸収性も優るため、顆粒剤、カプセル剤、液剤、錠剤等として経口投与することが合目的である。なお、投与量は、投与対象者の症状、またはエイズの発症抑制、エイズの進行抑制などの治療目的に応じ、年齢、性別等を考慮して適宜定まるものであるが、通常成人1回当たり10 mg〜2gの範囲で、1日1〜4回投与する。
【0023】
【実施例】
以下に、実施例を挙げて本発明をさらに詳しく説明するが、本発明はこれらの具体的な例示に制限されるものではない。
以下に実施例により本発明のジペプチド化合物及びその塩の製造方法を具体的に説明する。
【0024】
参考例1
(2RS)-N-tert-ブトキシカルボニル-3,3-ジメチルピロリジン-2-カルボン酸
ベンジルオキシカルボニルアミノマロン酸 ジエチルエステル (16.7 g, 54 mmol) をナトリウムエトキシドのエタノール溶液 (0.34 M, 40 ml) に溶解し、3-メチル-2-ブテナール (5.7 ml, 59 mmol) を加え室温で2日間撹拌した。酢酸を加え中和後、濃縮した。残渣を酢酸エチルに溶解し、水洗後、無水硫酸マグネシウムで乾燥した。濾過、濃縮後、エタノール (90 ml)、酢酸 (6.2 ml) に再溶解し、5% パラジウム炭素 (58%含水物、900 mg) 存在下に水素雰囲気下、2日間撹拌した。反応液を濾過、濃縮後、3N 水酸化ナトリウム水溶液 (100 ml, 300 mmol) を加え80Cにて7時間撹拌した。反応液に、濃塩酸(30 ml)を加え80Cにて10時間撹拌し、冷却後、反応液にトルエンを加え洗浄した。水層を3N 水酸化ナトリウム水溶液を用いてpH 9〜10とした後、さらにトルエンで洗浄した。得られた水層に、ジ-tert-ブチルジカーボナート (11.8 g, 54 mmol) 及びテトラヒドロフラン (100 ml) を加え撹拌した (この間、3N 水酸化ナトリウム水溶液を用いてpH 9〜10を維持した)。反応液を約半量に濃縮後、トルエンで洗浄、さらに濃塩酸pH 3として酢酸エチルで抽出した。抽出液を、5%食塩水で洗浄、無水硫酸マグネシウムで乾燥した。濾過、濃縮後、n-ヘキサンから再結晶を2回繰り返し標記化合物 (5.85 g, 45%)を得た。
1H NMR (DMSO-d6) δ(ppm); 0.98 (s, 3H), 1.10 (s, 3H), 1.34 (s, 6H), 1.39 (s, 3H), 1.54-1.81 (m, 2H), 3.26-3.46 (m, 2H), 3.66 (d, 1H, J = 2.7 Hz), 12.5 (br, 1H).
【0025】
参考例2
(2S,3S)-1-(N-tert-ブトキシカルボニル)アミノ-2-ヒドロキシ-4-(3-メトキシフェニル)ブタン酸
(工程1)
(S)-(1-(3-メトキシベンジル)-3, 3-ジブロモ-2-オキソ-プロピル)カルバミン酸tert-ブチル
窒素ガス雰囲気下、n-ブチルマグネシウムクロリド (2M テトラヒドロフラン溶液 50 ml, 100 mmol) に、ジイソプロピルアミン (16.3 ml, 115 mmol) を40°Cで30分かけて加え、同温度でさらに2時間撹拌することにより白色のスラリーを得た (A液)。一方、別の容器に、窒素ガス雰囲気下、(S)-2-tert-ブトキシカルボニルアミノ-3-(3-メトキシフェニル)プロピオン酸 メチルエステル (7.7 g, 25 mmol)、ジブロモメタン (10.5 ml, 150 mmol) 及びテトラヒドロフラン (50 ml) からなる溶液を調整した (B液)。B液にA液を内温5°C前後で添加し、さらに40°Cで6時間反応を行った。次に反応液を1N塩酸 (150 ml)、酢酸エチル (150 ml) からなる溶液に添加した。有機層を水、5%食塩水で洗浄後、無水硫酸マグネシウムで乾燥した。濾過、濃縮後、残渣をシリカゲルカラムクロマトグラフィーで精製、さらに酢酸エチルとn-ヘキサンの混合溶媒から再結晶を行い標記化合物 (6.3 g, 70 %) を得た。
1H NMR (DMSO-d6) δ (ppm);1.31 (s, 9H), 2.69-2.78 (m, 1H), 3.11 (dd, 1H, J = 4.1 Hz, 13.5 Hz), 3.73 (s, 3H), 4.59-4.67 (m, 1H), 6.76-6.87 (m, 3H), 6.95 (s 1H), 7.20 (t, 1H, J = 7.8 Hz), 7.45 (d, 1H, J = 8.1 Hz).
【0026】
(工程2)
(2S,3S)-1-(N-tert-ブトキシカルボニル)アミノ-2-ヒドロキシ-4-(3-メトキシフェニル)ブタン酸
氷冷下、工程1で得られた化合物6.30 g (14.0 mmol)にトルエン(7.0 ml)及び2N 水酸化ナトリウム水溶液 (35 ml, 70 mmol) を加え、そのまま終夜撹拌した。反応液に水を加え、水層を1 N 塩酸 (90 ml)で酸性とし酢酸エチルで抽出、5% 食塩水で洗浄、無水硫酸マグネシウムで乾燥した。濾過、濃縮後、残渣をジメチルホルムアミド (10 ml)に溶解し、炭酸カリウム (1.17 g, 8.4 mmol)、臭化ベンジル(1.84 ml, 15.4 mmol)を加え終夜撹拌した。反応液に酢酸エチル、及び水を加え抽出、有機層を1N 塩酸、5% 食塩水で洗浄後、無水硫酸マグネシウムで乾燥した。濾過、濃縮後、残渣をn-ヘキサン/酢酸エチルから再結晶し、Rf値(薄相クロマトグラフィー、ジクロロメタン:メタノール系)の小さいジアステレオマーである(2S,3S)-3-(N-tert-ブトキシカルボニル)アミノ-2-ヒドロキシ-4-(3-メトキシフェニル)ブタン酸 ベンジルエステル(2.29 g, 39 %)を得た。さらにこれをメタノール (25 ml)に溶解し、5%パラジウム炭素 (58%含水物、220 mg)を加え、水素雰囲気下で終夜撹拌した。触媒を濾去、濃縮後、残渣をn-ヘキサンから再結晶し標記化合物(1.72 g, 96 %)を得た。
1H-NMR (DMSO-d6)δ(ppm); 1.27 (s, 9H), 2.63-2.69 (m, 2H), 3.72 (s, 3H), 3.85-3.99 (m, 2H), 6.69-6.75 (m, 4H), 7.15 (t, 1H, J = 6.8 Hz).
【0027】
実施例1
(S)-N-(2,6-ジメチルベンジル)-1-[(2S,3S)-2-ヒドロキシ-3-(3-アミノ-2-クロロベンゾイル)アミノ-4-(3-メトキシフェニル)ブタノイル]-3,3-ジメチルピロリジン-2-カルボキサミド
(工程1)
(RS)-N-(2,6-ジメチルベンジル)-3,3-ジメチルピロリジン-2-カルボキサミド
参考例1で得られた化合物 (1.05 g, 4.3 mmol)、トリエチルアミン (0.72 ml, 5.2 mmol) の酢酸エチル (30 ml) 溶液に、氷冷下ジフェニルリン酸クロリド (0.98 ml, 4.8 mmol) を加え3時間撹拌、さらに2,6-ジメチルベンジルアミン塩酸塩 (0.81 g, 4.8 mmol)、トリエチルアミン (1.50 ml, 10.8 mmol)を加え終夜撹拌した。反応液を、5% 炭酸ナトリウム水溶液、1N 塩酸、5% 食塩水で洗浄後、無水硫酸マグネシウムで乾燥した。ろ過、濃縮後、4N 塩酸/酢酸エチル(20 ml) を加え3hr撹拌、反応液を氷冷下、2N 水酸化ナトリウム水溶液で中和、有機層を5% 食塩水で洗浄、無水硫酸マグネシウムで乾燥した。ろ過、濃縮後、シリカゲルカラムクロマトグラフィーで精製、n-ヘプタンから再結晶して標記化合物 (0.92 g, 82%) を得た。
1H-NMR (DMSO-d6)δ(ppm); 0.79 (s, 3H), 1.11 (s, 3H), 2.31 (s, 6H), 2.78-2.91 (m, 3H), 3.11 (s, 1H), 4.27 (d, 2H, J = 3.8 Hz), 7.01-7.11 (m, 3H), 7.62 (t, 1H, J = 4.5 Hz).
【0028】
(工程2)
(S)-N-(2,6-ジメチルベンジル)-1-[(2S,3S)-3-アミノ-2-ヒドロキシ-4-(3-メトキシフェニル)ブタノイル]-3,3-ジメチルピロリジン-2-カルボキサミド
工程1で得られた化合物 (1.37 g, 5.3 mmol) のジメチルホルムアミド (5 ml)溶液に、参考例2の化合物 (1.72 g, 5.3 mmol)、1-ヒドロキシベンゾトリアゾール (0.71 g, 5.3 mmol)、1-エチル-3-(3-ジメチルアミノプロピル)カルボジイミド 塩酸塩 (1.11 g, 5.8 mmol)を加え終夜撹拌した。反応液に酢酸エチルを加えた後、これを5% 炭酸ナトリウム水溶液、1N 塩酸、5% 食塩水で洗浄、無水硫酸マグネシウムで乾燥した。ろ過、濃縮後、4N 塩酸/酢酸エチル(20 ml) を加え1時間撹拌した。この反応液に水を加えた後、3N 水酸化ナトリウム水溶液でpH 9〜10として酢酸エチルで抽出、5% 食塩水で洗浄、無水硫酸マグネシウムで乾燥した。濾過、濃縮後、シリカゲルカラムクロマトグラフィーで精製し(薄相クロマトグラフィー、ジクロロメタン:メタノール= 9:1の展開溶媒でRf値が大きくなるジアステレオマーS体を分取)、酢酸エチル/n-ヘキサンの混合溶媒から再結晶して標記化合物 (1.06 g, 86%)を得た。
1H NMR (DMSO-d6) δ (ppm); 0.95 (s, 3H), 1.09 (s, 3H), 1.6-1.8 (m, 2H), 2.1-2.2 (m, 1H), 2.15 (s, 6H), 2.5-2.6 (m, 3H), 3.03 (d, 1H, J = 11.1 Hz), 3.5-3.6 (m, 2H), 3.7-3.8 (m, 1H), 3.78 (s, 3H), 3.86-3.93 (m, 2H), 4.0-4.3 (m, 2H), 5.03 (d, 1H, J = 8.4 Hz), 6.71-6.83 (m, 6H), 7.23 (t, 1H, J = 8.0 Hz), 8.07 (br, 1H).
【0029】
(工程3)
(S)-N-(2,6-ジメチルベンジル)-1-[(2S,3S)-2-ヒドロキシ-3-(3-アミノ-2-クロロベンゾイル)アミノ-4-(3-メトキシフェニル)ブタノイル]-3,3-ジメチルピロリジン-2-カルボキサミド
工程2で得られた化合物 (1.06 g, 2.3 mmol)、3-アミノ-2-クロロ安息香酸 (0.39 g, 2.3 mmol)、1-ヒドロキシベンゾトリアゾール (0.31 g, 2.3 mmol) のジメチルホルムアミド (5 ml) 溶液に1-エチル-3-(3-ジメチルアミノプロピル)カルボジイミド 塩酸塩 (0.48 g, 2.5 mmol) を加え終夜撹拌した。反応液に酢酸エチル及び水を加え抽出し、5% 炭酸ナトリウム水溶液、5% クエン酸水溶液、5% 食塩水で洗浄後、無水硫酸マグネシウムで乾燥した。ろ過、濃縮後、残渣をシリカゲルカラムクロマトグラフィー (ジクロロメタン:メタノール系) で精製、酢酸エチル/n-ヘキサンの混合溶媒から再結晶して標記化合物 (1.06 g, 75%)を得た。
1H NMR (DMSO-d6) δ (ppm); 1.00 (s, 3H), 1.04 (s, 3H), 1.6-1.7 (br, 1H), 1.9-2.1 (br, 1H), 2.31 (s, 6H), 2.6-2.8 (m, 2H), 3.6-3.7 (br, 1H), 3.76 (s, 3H), 4.0-4.2 (m, 3H), 4.2-4.3 (br, 1H), 4.4-4.6 (m, 2H), 4.90 (d, 1H, J = 6.8 Hz), 5.41 (s, 2H), 6.36 (d, 1H, J = 6.2 Hz), 6.71-6.79 (m, 2H), 6.96-7.11 (m, 6H), 7.15 (t, 1H, J = 7.8 Hz), 8.09 (br, 1H), 8.43 (d, 1H, J = 8.1 Hz).
【0030】
実施例2
(S)-N-(2,6-ジメチルベンジル)-1-[(2S,3S)-2-ヒドロキシ-3-(3-アミノ-2-クロロベンゾイル)アミノ-4-(4-メトキシフェニル)ブタノイル]-3,3-ジメチルピロリジン-2-カルボキサミド
参考例2と同様の方法で得られた(2S,3S)-3-(N-tert-ブトキシカルボニル)アミノ-2-ヒドロキシ-4-(4-メトキシフェニル)ブタン酸を用い実施例1と同様の方法に従い合成し、標記化合物を得た。
1H NMR (DMSO-d6) δ (ppm); 1.00 (s, 3H), 1.03 (s, 3H), 1.6-1.7 (br, 1H), 1.9-2.1 (br, 1H), 2.31 (s, 6H), 2.6-2.8 (m, 2H), 3.6-3.7 (br, 1H), 3.72 (s, 3H), 4.0-4.3 (m, 4H), 4.3-4.4 (br, 1H), 4.50 (dd, 1H, J = 6.5 Hz, 13.8 Hz), 4.89 (d, 1H, J = 7.0 Hz), 5.41 (s, 2H), 6.37 (d, 1H, J = 6.2 Hz), 6.80 (t, 3H, J = 8.6 Hz), 6.96-7.11 (m, 4H), 7.32 (d, 2H, J = 8.4 Hz), 8.09 (br, 1H), 8.38 (d, 1H, J = 8.4 Hz).
【0031】
実施例3
(S)-N-(2,6-ジメチルベンジル)-1-[(2S,3S)-2-ヒドロキシ-3-(3-アミノ-2-クロロベンゾイル)アミノ-4-(4-エトキシフェニル)ブタノイル]-3,3-ジメチルピロリジン-2-カルボキサミド
参考例2と同様の方法で得られた(2S,3S)-3-(N-tert-ブトキシカルボニル)アミノ-2-ヒドロキシ-4-(4-エトキシフェニル)ブタン酸を用い実施例1と同様の方法に従い合成し、標記化合物を得た。
1H NMR (DMSO-d6) δ (ppm); 1.01 (s, 3H), 1.03 (s, 3H), 1.31 (t, 3H, J = 6.9 Hz), 1.6-1.7 (br, 1H), 1.9-2.1 (br, 1H), 2.31 (s, 6H), 2.6-2.8 (m, 2H), 3.5-3.7 (br, 1H), 3.98 (q, 2H, J = 6.9 Hz), 4.0-4.3 (m, 4H), 4.3-4.4 (br, 1H), 4.49 (dd, 1H, J = 6.5 Hz, 13.5 Hz), 4.89 (d, 1H, J = 7.3 Hz), 5.41 (s, 2H), 6.37 (d, 1H, J = 5.7 Hz), 6.76-6.81 (m, 3H), 6.96-7.09 (m, 4H), 7.30 (d, 2H, J = 8.4 Hz), 8.09 (br, 1H), 8.38 (d, 1H, J = 8.4 Hz).
【0032】
実施例4
(S)-N-(2,6-ジメチルベンジル)-1-[(2S,3S)-2-ヒドロキシ-3-(3-アミノ-2-クロロベンゾイル)アミノ-4-(3, 4-ジメトキシフェニル)ブタノイル]-3,3-ジメチルピロリジン-2-カルボキサミド
参考例2と同様の方法で得られた(2S,3S)-3-(N-tert-ブトキシカルボニル)アミノ-2-ヒドロキシ-4-(3,4-ジメトキシフェニル)ブタン酸を用い実施例1と同様の方法に従い合成し、標記化合物を得た。
1H NMR (DMSO-d6) δ (ppm); 1.00 (s, 3H), 1.03 (s, 3H), 1.6-1.7 (br, 1H), 1.9-2.1 (br, 1H), 2.32 (s, 6H), 2.6-2.8 (m, 2H), 3.6-3.7 (br, 1H), 3.71 (s, 3H), 3.79 (s, 3H), 4.0-4.3 (m, 4H), 4.4-4.6 (m, 2H), 4.85 (d, 1H, J = 7.3 Hz), 5.42 (s, 2H), 6.38 (d, 1H, J = 5.9 Hz), 6.80 (t, 3H, J = 7.7 Hz), 6.90-7.12 (m, 5H), 8.08 (br, 1H), 8.41 (d, 1H, J = 8.4 Hz).
【0033】
実施例5
(s)-N-(2,6-ジメチルベンジル)-1-[(2S,3S)-2-ヒドロキシ-3-(3-ヒドロキシ-2-メチルベンゾイル)アミノ-4-(3-メトキシフェニル)ブタノイル]-3,3-ジメチルピロリジン-2-カルボキサミド
3-アセトキシ-2-メチル安息香酸(204 mg)、酢酸エチル(4ml)溶液にジフェニルリン酸クロリド(217μl), トリエチルアミン(153μl)を加え1 時間撹拌後、実施例1工程2で得られた化合物(467 mg)、トリエチルアミン(209μl)を加え終夜撹拌した。反応液を5% 炭酸ナトリウム(x 2)、1N 塩酸、 5% 食塩水で洗浄した。濃縮後, メタノール(6ml)、1N 水酸化ナトリウム水溶液(1.50 ml)を加え1時間撹拌後、反応液に1N 塩酸を加えて酸性とし酢酸エチルで抽出、5% 炭酸水素ナトリウム水溶液(x 2)、1N 塩酸、5% 食塩水で洗浄、硫酸マグネシウムで乾燥した。ろ過、濃縮後、シリカゲルカラムタロマトで精製して、n-ヘキサン/酢酸エチルから再結晶して標記化合物(541 mg)を得た。
1H NMR (DMSO-d6) δ (ppm): 1.00 (s, 3H), 1.03 (s, 3H), 1.6-1.7 (br, 1H), 1.87 (s, 3H), 1.9-2.1(br, 1H), 2.31 (s, 6H), 2.6-2.8 (m, 2H), 3.6-3.7 (br, 1H), 3.76 (s, 3H), 4.0-4.2 (m, 3H), 4,2-4.3 (br, 1H), 4.4-4.6 (m, 2H), 4.95 (d, 1H, J=7.0 Hz), 6.58(d, 1H, J=6.8Hz), 6.71-6.81(m, 2H), 6.94-7.11 (m, 6H), 7.16 (t, 1H, J=7.8 Hz), 8,0-8.1 (br. 1H), 8.25 (d. 1H, J=8.6 Hz), 9.40 (s, 1H).
【0034】
試験例1 HIVプロテアーゼ阻害活性(Ki値)の測定
HIVプロテアーゼ阻害活性は、大腸菌を用いた遺伝子組換え法により調製した。HIVプロテアーゼ (NY5型)を用い、以下の条件で測定した。0.2M MES緩衝液(1M NaCl, 2 mM EDTA-2Na, 2 mM DTTを含む;pH 5.5)25 μlに、HIVプロテアーゼ溶液 (10 μl) と阻害剤のジメチルスルホキシド溶液5 μlを添加した後、0.5 mM蛍光基質(H-Lys-Ala-Arg-Val-Tyr-[p-nitro]-Phe-Glu-Ala-Nle-NH2;Bachem社製)溶液10 μlを加えることにより酵素反応を開始した。37℃で15分間インキュベーションした後、1N 塩酸を75 μl加えて酵素反応を停止させ、生じたC末側断片ペプチドを逆相HPLCで定量し酵素反応速度を求めた。そして、阻害剤濃度を変化させた時の酵素反応速度データをTight-binding inhibitorの数学的モデル式(Williams, J. W., and Morrison, J. F. The kinetics of reversibletight-binding inhibition. Method Enzymol. 63, 437 (1979))にフィッティングし、Ki値を算出した。試験結果を表1に示す。
【0035】
試験例2 抗HIV活性の測定
実施例1及び2で合成された化合物、及び比較例1及び2の化合物は、文献に記載される試験方法(O. S. Weislowら、J. Natl. Cancer Inst. 81, 577-586, 1989)に従い、宿主細胞にCEM-SS細胞、HIVウイルス株HIV-1 IIIBを用いて抗HIV活性を測定した。96穴マイクロタイタープレート上、培地に化合物を種々の濃度で添加し、さらに終濃度50%になるようにヒト血清を加えた後、HIV感染CEM-SS細胞を加え、CO2インキュベーターで37℃、6日間培養し、HIV-1 IIIBによって引き起こされるcytopathic 効果をtetrazolium dye XTTにて染色し、その50%阻害濃度(IC50)を算出した。表1に、HIVプロテアーゼ阻害活性と抗HIV活性の評価結果の一例を示す。
【0036】
【表1】

【0037】
これらの結果より明らかなように、実施例の化合物はそれぞれに対応する比較例の化合物と比べ、HIV-1プロテアーゼ阻害活性に関しては劣るが、その細胞膜の透過性に優れるため、比較例の化合物と同等の抗HIV活性を示すことが明らかである。
【0038】
試験例3 インビトロ代謝実験
ヒト及びイヌミクロソームは、購入した凍結品を融解し、5 mg/mlになるよう0.1N (Na+)リン酸緩衝液(pH 7.4)で希釈したものを実験に使用した。補酵素系溶液と被験化合物の混合液を5分間プレインキュベートした後、ミクロソーム液を加えることにより反応を開始した。
代謝反応条件
基質 5 μM/1%DMSO
肝ミクロソーム 0.5 mg/ml
NADPH-Na4 1 mM
MgCl2 1 mM
0.1N (Na+)リン酸緩衝液 pH 7.4 Total 200 μl
【0039】
反応は37℃で30分間行い、内部標準物質としてビフェニルを1.5 μg/mlの濃度で含む冷メタノールを400 μl加えることにより反応を停止した。このサンプルをよく撹拌し、氷冷下10分間放置した後、10,000×gで10分間遠心した。得られたサンプルをPTFEメンブレン(Millex LG 0.22 μm)に通し、分析用サンプルとした。このサンプル200 μlをHPLCにロードし、0.1%のTFAを含む水/アセトニトリル系の直線濃度勾配により溶出し、210 nmのUV吸光を測定する事によりモニターした。化合物濃度の定量は、代謝反応後の残存量を絶対検量線法により定量し、反応前の薬物量に対する残存率を求め、パーセント表示した。肝ミクロソームを用いた代謝実験の結果を表2に示す。
【0040】
【表2】

【0041】
試験例4 イヌ薬物動態試験
薬物(実施例1の化合物、比較例1の化合物及びAtazanavir)を50% ポリエチレングリコール#400(PEG#400)に溶解させ3 mg/mlの濃度に調整し、5 ml/kgの投与ボリュームで投与した(各投与群には、それぞれ3匹のイヌを使用した)。投与はチューブを用いた強制経口投与で行い、採血は投与後30分、1、2、3、4、6、12、24時間に外頸静脈よりヘパリン処理した注射筒に血液約1 mLを採取して行った。採血後の血液は、速やかに遠心分離(1,870×g 10分間)し、上清を血漿として得た。tert-ブチルメチルエーテル(MTBE)を用いた抽出法により血漿の除蛋白処理を行い、遠心分離により得た有機層を40℃、減圧下で遠心乾固し、残渣を50%メタノールに再溶解したものをHPLCにロードし、0.1%のTFAを含む水/アセトニトリル系の直線濃度勾配により溶出し、210 nmのUV吸光を測定することによりモニターした。血漿サンプル中の化合物濃度の定量は、既知濃度の化合物を含む標準血漿サンプルを分析して得られた検量線に基づいて計算した。結果を図1に示す。
【0042】
これらの結果より、実施例に示された化合物は、比較例の化合物に比べ、肝ミクロソームによる代謝に対する安定性に優れ、その結果として高い血中濃度を維持する性質を有することがわかる。また、その血中濃度推移は、1日1回投与の薬剤として臨床開発中のAtazanavirをも凌駕するものであり、実際の臨床使用においても有用性が期待されるものである。
【0043】
製剤例1
標準二分式ハードゼラチンカプセルの各々に、100 mgの粉末状の実施例1、150 mgのラクトース、50 mgのセルロースおよび6 mgのステアリン酸マグネシウムを充填することにより、単位カプセルを製造し、洗浄後、乾燥する。
【0044】
製剤例2
常法に従って、100 mgの実施例1、0.2 mgのコロイド性二酸化珪素、5 mgのステアリン酸マグネシウム、275 mgの微結晶性セルロース、11 mgのデンプン、および98.8 mgのラクトースを用いて製造する。なお、所望により、剤皮を塗布する。
【0045】
【発明の効果】
本発明の新規化合物はHIVプロテアーゼ阻害活性を有しており、この性質を利用してHIVのT細胞リンパ球中での感染性ウイルス粒子の形成と成熟をブロックすることによって抗ウイルス活性を示す化合物となる。また本発明の化合物は、ヒト肝ミクロソーム由来の代謝酵素に対して高い安定性を示すため、生体に投与した際にその血中での高い薬物濃度を長時間にわたり維持することが可能な新規な抗エイズ薬としての医薬用途を有するものとなる。
【図面の簡単な説明】
【図1】試験例4の血漿中の化合物濃度の経時変化を示すグラフである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記一般式(I)
【化1】

(上記式中、R1は水酸基、あるいはアミノ基を示し、R2は炭素数1〜4の低級アルキル基、あるいはハロゲノ基を示し、R3、R4及びR5はそれぞれ独立に直鎖式、または分枝を有する飽和もしくは不飽和の炭素数1〜4の低級アルコキシ基、あるいは水素原子を示し(ただし、R3、R4及びR5の全てが水素原子である場合を除く)、またR3とR4とは互いに環を形成しても良く、R6、R7はそれぞれ直鎖式、及び分枝を有する炭素数1〜4の低級アルキル基、ハロゲノ基あるいは水素原子を示す)で表されるジペプチド化合物またはその薬理学的に許容される塩。
【請求項2】
下記一般式(II)
【化2】

(上記式中、R1は水酸基、あるいはアミノ基を示し、R2は炭素数1〜4の低級アルキル基、あるいはハロゲノ基を示し、R3、R4及びR5はそれぞれに独立に直鎖式、または分枝を有する飽和もしくは不飽和の炭素数1〜4の低級アルコキシ基、あるいは水素原子を示し(ただし、R3、R4及びR5の全てが水素原子である場合を除く)、またR3とR4とは互いに環を形成しても良く、R6、R7はそれぞれ直鎖式、及び分枝を有する炭素数1〜4の低級アルキル基、ハロゲノ基あるいは水素原子を示す)で表されるジペプチド化合物またはその薬理学的に許容される塩。
【請求項3】
R2はメチル基、あるいはクロロ基を示し、R6、R7はそれぞれにメチル基、クロロ基あるいは水素原子を示す請求項2記載のジペプチド化合物またはその薬理学的に許容される塩。
【請求項4】
R1はアミノ基、R2はクロロ基、R6、R7はメチル基を示す請求項2記載のジペプチド化合物またはその薬理学的に許容される塩。
【請求項5】
R1はアミノ基、R2はクロロ基、R3はメトキシ基、R4、R5は水素原子、R6、R7はメチル基を示す請求項2記載のジペプチド化合物またはその薬理学的に許容される塩。
【請求項6】
上記請求項1〜5のいずれかに記載のジペプチド化合物またはその薬理学的に許容される塩を有効成分とする抗エイズ薬。

【図1】
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【公開番号】特開2006−76882(P2006−76882A)
【公開日】平成18年3月23日(2006.3.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2002−269031(P2002−269031)
【出願日】平成14年9月13日(2002.9.13)
【出願人】(000183370)住友製薬株式会社 (29)
【Fターム(参考)】