説明

新規な菌体処理方法を用いた高度不飽和脂肪酸の製造方法

【課題】 バイオマスの新規な単離方法の提供。
【解決手段】 1種類又は複数種類の化合物を、そのような化合物を産生した微生物を含むバイオマスから単離する方法であって、次の段階:(a) 30%から80%までの平均水分含量を持つ湿菌体を用意または入手する;(b) 湿菌体を成形を伴う一次乾燥機に供し、5%から50%までの平均水分含量を持つ成形菌体を得る;(c) 上記(b)で得た成形菌体を二次乾燥に供し、10%以下の平均水分含量を持つ乾燥菌体を得る;(d) 上記(c)で得た乾燥菌体からその化合物または各化合物を精製、抽出または単離する;を含む方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高度不飽和脂肪酸を構成脂肪酸として含んで成る化合物を産生する微生物を含む微生物バイオマス、バイオマスより抽出して得られる粗油及び/又は粗リン脂質、及び粗油及び/又は粗リン脂質を精製して得られる精製油脂及び/又は精製リン脂質の製造方法、さらには該バイオマスならびに該油脂(粗油及び/又は精製油脂)及び/又は該リン脂質(粗リン脂質及び/又は精製リン脂質)を配合してなる飲食物、治療用栄養食品、飼料及び医薬品に関するものである。
【背景技術】
【0002】
ヒトの高度不飽和脂肪酸(以下「PUFA」を称する)の生合成には、代表的な二つの系列、ω3系とω6系があり(ωとは、脂肪酸のメチル基末端から数えて最初の二重結合がある炭素数までの数を示している)、例えばω6系の場合は、リノール酸(18:2 ω6)から、不飽和化と炭素鎖長延長が繰り返されて、γ-リノレン酸(18:3 ω6)、ジホモ-γ-リノレン酸(20:3 ω6)、アラキドン酸(20:4 ω6)及び4,7,10,13,16-ドコサペンタエン酸(22:5 ω6)へと変換される。
【0003】
同様にω3系の場合は、α-リノレン酸(18:3 ω3)から、不飽和化と炭素鎖長延長が繰り返されて、エイコサペンタエン酸(20:5 ω3)、7,10,13,16,19-ドコサペンタエン酸(22:5 ω3)及び4,7,10,13,16,19-ドコサヘキサエン酸(22:6 ω3)へと変換される。ω3系のPUFAとして、エイコサペンタエン酸(以下「EPA」と称する)、ドコサヘキサエン酸(以下「DHA」と称する)は、特に、動脈硬化症、血栓症などの成人病の予防効果や抗ガン作用、学習能の増強作用などで多くの生理機能を有していることが知られ、医薬品、特定保健用食品への利用で様々な試みがなされている。しかし、最近ではω3系以外のPUFA(ω6系及びω9系)の生理機能にも注目が集っている。
【0004】
アラキドン酸は、血液や肝臓などの重要な器官を構成する脂肪酸の約10%程度を占めており(例えば、ヒト血液のリン脂質中の脂肪酸組成比では、アラキドン酸は11%、エイコサペンタエン酸は1%、ドコサヘキサエン酸は3%)、細胞膜の主要構成成分として膜の流動性の調節に関与し、体内の代謝で様々な機能を示す一方、プロスタグランジン類の直接の前駆体として重要な役割を果たす。特に最近は、乳幼児栄養としてのアラキドン酸の役割、神経活性作用を示す内因性カンナビノイド(2-アラキドノイルモノグリセロール、アナンダミド)の構成脂肪酸として注目されている。通常はリノール酸を富む食品を摂取すればアラキドン酸に変換されるが、成人病患者やその予備軍、乳児、老人では生合成に関与する酵素の働きが低下し、これらアラキドン酸は不足しがちとなるため、油脂(トリグリセリドの構成脂肪酸)として、直接に摂取することが望まれる。
【0005】
ω3系のPUFAであるEPAやDHAには、魚油という豊富な供給源が存在するが、ω6系のPUFAであるγ-リノレン酸、ジホモ-γ-リノレン酸、アラキドン酸及び4,7,10,13,16-ドコサペンタエン酸(22:5 ω6)は、従来の油脂供給源から殆ど得ることができず、現在では微生物を発酵して得たPUFAを構成脂肪酸として含んで成る油脂(以下「PUFA含有油脂」と称する)が一般に使用されている。例えば、アラキドン酸を構成脂肪酸として含んで成る油脂(以下「アラキドン酸含有油脂」と称する)を産生することのできる種々の微生物を培養して、アラキドン酸含有油脂を得る方法が提案されている。
【0006】
この中でも、特にモルティエレラ属の微生物を用いることによって、構成脂肪酸に占めるアラキドン酸の割合の高い油脂(以下「アラキドン酸高含有油脂」と称する)が得られることが知られている(特開昭63-44891、特開昭63-12290)。近年、アラキドン酸が必須の用途として、例えば、乳幼児栄養の分野、具体的には調製乳に発酵で得たアラキドン酸含有油脂が使われ始めてきている。さらに、アラキドン酸含有油脂の新たな効果(特開2003-48831:脳機能の低下に起因する症状あるいは疾患の予防又は改善作用を有する組成物)も明らかとなってきており、今後、多大な需要が期待されている。
【0007】
モルティエレラ属の微生物を培養して得られる油脂は、その大部分がトリグリセリド(約70重量%以上)及びリン脂質である。食用油脂の形態はトリグリセリドであり、該用途を目的とする場合には、微生物を培養して得られた菌体バイオマスから、菌によって生成されたオリジナルの油脂(菌体から抽出操作によって得た油脂であって、「粗油」と称する)を抽出し、次いでこの粗油を食用油脂の精製工程(脱ガム、脱酸、脱臭、脱色)を経ることで、リン脂質を取り除いた精製油脂を得ることができる。
【0008】
モルティエレラ属の微生物を培養して得られるPUFA含有油脂は、菌糸内に蓄積されるため、該油脂生産の経済化を図るためには、より高濃度の培養を行ない、培養液あたりのPUFA含有油脂の収量を高める必要がある。培養液あたりのPUFA含有油脂収量は、菌体濃度と、菌体当たりPUFA含有油脂の含量の積算になることから、菌体濃度と菌体当たりPUFA含有油脂含量の両方を高める必要がある。菌体濃度を高めるためには、一般的には菌体成分へと変換される培地窒素源濃度を高めることによって可能になる。菌体当たりPUFA含有油脂含量を高めるためには、菌形態を良好な状態に制御し、かつ十分な酸素供給を行なうことが必要である。菌形態制御の方法としては培地塩類組成の最適化などの方法が報告されており(再公表特許98/029558)、また酸素供給の方法については加圧培養法や酸素富化空気通気法などの方法が報告されている(特開平06-153970)。
【0009】
また、培養工程だけではなく、培養後の菌体回収工程についても様々な工程改善の試みが報告されている。例えば、微生物バイオマス(水分含量20〜75%)を入手し、水分含量を維持した状態で顆粒状粒子に造粒した後、水分含量20%以下まで乾燥する方法が報告されており、該報告では顆粒状にすることによって乾燥を容易にし、かつ目的化合物の抽出を容易になると報告されている(WO97/36996)。該報告によれば、顆粒状粒子への成型は押出法が好ましく、また一般的に押出法では水分含量を変化させないと述べられている。
【0010】
顆粒状粒子の乾燥法としては、噴霧乾燥法、流動層乾燥、凍結乾燥、ベルト乾燥、真空乾燥などの方法が例示されている。また、別の方法として、モルティエレラ属糸状菌の培養液を濾過して菌体回収をし、乾燥した後に破砕して、有機溶媒で油脂を抽出する方法も知られており(CN1323904A)、Yamadaらの報告ではボールミルによる破砕法が用いられている(「Industrial applications of single cell oils, edited by D.J. Kyle and C. Ratledge, AOCS press (1992) p.118-138」)。このように、様々な菌体回収法の報告が成されているものの、いずれも従来から知られている乾燥による一工程での乾燥であり、新規な乾燥機の考案や、従来型乾燥機を複数使用するような開発事例の報告はない。また、乾燥後の微生物バイオマスの処理法に関する報告も成されていない。
【0011】
菌体回収工程は、微生物油脂製造において、微生物油脂の欠減や微生物油脂の品質の観点から極めて重要であるにも関わらず、その工程開発に関する報告例はほとんどないのが現状である。
【0012】
一般に、乾燥工程は、3つの期間に分けることができる(「食品工学基礎講座(6) 濃縮と乾燥」松野隆一ほか、光琳(1988)、第5章)。まず、材料に水が十分存在している時は、材料からの水の蒸発は水滴表面からの水の蒸発と同じと考えられ、材料温度は空気の湿球温度に向かって変化するが、この期間は予熱期間と呼ばれている。材料が湿球温度になった後は、空気からの流入熱量は全て水の蒸発に使用されるため、材料の含水率が時間に比例して直線的に減少する。この乾燥速度が一定の期間は定率乾燥期間と呼ばれている。さらに乾燥が進行すると、材料内部での水の移動が律速となるため、水分蒸発速度が減少し、ついには乾燥空気に平衡な含水率となり乾燥が終結する。この期間は減率乾燥期間と呼ばれている。
【0013】
実際の乾燥方法としては、対流伝熱方式、伝導伝熱方式、放射伝熱方式に大別することができる。放射伝熱方式は、赤外線放射法などが知られているが、大量に処理しなければならない食品加工においてはあまり一般的でなく、対流伝熱方式あるいは伝導伝熱方式が一般に広く用いられている。
【0014】
対流伝熱方式による乾燥機は、熱風供給により蒸発水分を直ちに原料近傍から除去するため、水分蒸発の推進力が大きく、水分含量を大きく低減させたい場合に有効な手段と考えられる。しかし一方で、大量の熱風を供給するため、乾燥材料微粉の飛散や、送風機のエネルギーコストがかかること、そして、高水分含量の原料の場合は、原料間の付着による塊形成と熱風接触面積低下する問題があった。
【0015】
伝導伝熱方式による乾燥機は、熱効率がよく、風量が殆ど要らないため、送風エネルギーコストや、原料の飛散を大幅に低減することが可能である。しかし、一方で、伝熱のみによる加熱であるため、低水分含量まで乾燥するのが難しいという問題があった。
【0016】
【特許文献1】特開昭63-44891号公報
【特許文献2】特開昭63-12290号公報
【特許文献3】特開2003-48831号公報
【特許文献4】特開平06-153970号公報
【特許文献5】再公表特許98/029558
【特許文献6】WO97/36996
【特許文献7】CN1323904A
【0017】
【非特許文献1】Industrial applications of single cell oils, edited by D.J. Kyle and C. Ratledge, AOCS press (1992) p. 118-138
【非特許文献2】食品工業基礎講座(6)「濃縮と乾燥」松野隆一ほか、光琳(1988)、第5章
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0018】
したがって、乾燥工程の3つの期間である予熱期間、定率乾燥期間及び減率乾燥期間における水分挙動の特徴を考慮して、対流伝熱方式及び/又は伝導伝熱方式に大別される乾燥機の長所・短所を総合的に検討した、微生物バイオマスの乾燥に適した新規な工程開発が強く望まれている。
【課題を解決するための手段】
【0019】
本発明者等は、微生物培養によるPUFA含有油脂生産における、微生物バイオマスの回収工程について鋭意研究し、乾燥工程を原理の異なる複数の手段、具体的には、伝導伝熱方式と対流伝熱方式を組合わせることによって、それぞれの伝熱方式の長所を活かし、短所を無くすことで、乾燥工程の経済性を有意に向上させることを見出した。さらに、乾燥後、充填包装に至るまでの間に、乾燥菌体を冷却することによって、良好な品質のPUFA含有粗油が得られることを見出した。
【0020】
従って本発明では、複数方法の組合わせによる新規な乾燥法、および乾燥菌体を冷却した後に充填包装することを特徴とする、PUFA含有油脂(トリグリセリド)及び/又はPUFA含有リン脂質、PUFA含有菌体の製造方法及び保存方法を提供しようとするものである。
【0021】
本発明は、具体的には、1種類又は複数種類の化合物を、そのような化合物を産生した微生物を含む微生物バイオマスから単離する方法であって、次の段階:
(a) 30%から80%までの平均水分含量を持つ湿菌体を用意または入手する;
(b) 湿菌体を一次乾燥に供し、5%から50%までの平均水分含量を持つ一次乾燥菌体を得る;
(c) 上記(b)で得た一次乾燥菌体を二次乾燥に供し、10%以下の平均水分含量を持つ二次乾燥菌体を得る;
(d) 上記(c)で得た二次乾燥菌体からその化合物または各化合物を精製、抽出または単離する;
を含む方法を提供する。
【0022】
上記の方法において、例えば、前記(b)における一次乾燥は伝導伝熱方式であり、好ましくは、円錐型リボン混合乾燥機、伝導伝熱乾燥機、ドラムドライヤー又はサイクロンドライヤーを使うことができる。前記(c)における二次乾燥は、例えば、対流伝熱方式であり、好ましくは、振動流動層乾燥機、横型連続式流動乾燥装置、回転型乾燥機、箱型並行流ドライヤー、箱型通気ドライヤー、振動乾燥冷却装置、流動層乾燥装置、バンド型通気乾燥装置又はバンド乾燥機を使うことができる。好ましくは、前記(a)の湿菌体は、培養液に対して行われる固/液分離によって得られ、この固/液分離は、好ましくは、機械的脱水と併用される。
【0023】
前記バイオマスは、例えば、菌類を含むまたは菌類に由来する。当該菌類は、例えばケカビ目(Mucorales)又はモルティエレラ(Mortierella)属に属し、例えばモルティエレラ・アルピナ(Mortierella alpina)である。
前記バイオマスはまた、例えば、藻類を含むまたは藻類に由来する。当該藻類は、例えば、クリプセコジニウム(Crypthecodinium)属、スラウトキトリウム(Thrautochytrium)属、シゾキトリウム(Schizochytrium)属、ウルケニア(Ulkenia)属、ジャポノキトリウム(Japonochytrium)属又はハリフォトリス(Haliphthoros)属に属する。
前記藻類はまた、例えば、クリプセコジニウム・コーニー(Crypthecodinium cohnii)である。
【0024】
前記化合物は、好ましくは、高度不飽和脂肪酸を構成脂肪酸として含んで成る油脂であり、前記高度不飽和脂肪酸は、例えば、炭素数18以上で二重結合を2個以上を有するω3系、ω6系及び/又はω9系であり、例えば、α-リノレン酸(9,12,15-オクタデカトリエン酸)、6,9,12,15-オクタデカテトラエン酸(18:4ω3)、8,11,14,17-エイコサテトラエン酸(20:4ω3)、EPA(5,8,11,14,17-エイコサペンタエン酸)、DPAω3(7,10,13,16,19-ドコサペンタエン酸)、DHA(4,7,10,13,16,19-ドコサヘキサエン酸)、γ-リノレン酸(6,9,12-オクタデカトリエン酸)、ジホモ-γ-リノレン酸(8,11,14-エイコサトリエン酸)、アラキドン酸(5,8,11,14-エイコサテトラエン酸)、7,10,13,16-ドコサテトラエン酸(22:4 ω6)、DPAω6(4,7,10,13,16-ドコサペンタエン酸)、6,9-オクタデカジエン酸(18:2ω9)、8,11-エイコサジエン酸(20:2ω9)及び/又はミード酸(5,8,11-エイコサトリエン酸)である。
【0025】
前記の方法の好ましい態様においては、前記工程(c)で得られた二次乾燥菌体を、次のいずれかの方法で冷却処理した後、前記工程(d)に供する:
(i) 酸素濃度21%以下の組成を有する気体の供給により少なくとも60℃まで冷却する;又は
(ii) 酸素濃度21%以下の組成を有する気体の雰囲気下において、静置冷却により少なくとも60℃まで冷却する。
本発明はまた、1種類又は複数種類の化合物を、そのような化合物を産生した微生物バイオマスを含む乾燥菌体を取得する方法であって、次の段階:
(a) 30%から80%までの平均水分含量を持つ湿菌体を用意または入手する;
(b) 湿菌体を一次乾燥に供し、5%から50%までの平均水分含量を持つ一次乾燥菌体を得る;
(c) 前記(b)で得た一次乾燥菌体を二次乾燥に供し、10%以下の平均水分含量を持つ二次乾燥菌体を得る;
ことを含む方法を提供する。
【0026】
上記の方法において、例えば、前記(b)における一次乾燥は伝導伝熱方式であり、前記(c)における二次乾燥は、例えば、対流伝熱方式である。
【0027】
本発明は更に、1種類又は複数種類の化合物を産生した微生物を含む微生物バイオマスを含む乾燥菌体の保存方法であって、この方法においては、
(1) 次の段階で乾燥菌体を取得し:
(a) 30%から80%までの平均水分含量を持つ湿菌体を用意または入手する;
(b) 湿菌体を一次乾燥に供し、5%から50%までの平均水分含量を持つ一次乾燥菌体を得る;そして
(c) 前記(b)で得た一次乾燥菌体を二次乾燥に供し、10%以下の平均水分含量を持つ二次乾燥菌体を得る;その後
(2) 前記の得られた二次乾燥菌体を、次のいずれかの方法で冷却処理し:
(i) 酸素濃度21%以下の組成を有する気体の供給により少なくとも60℃まで冷却する;又は
(ii) 酸素濃度21%以下の組成を有する気体の雰囲気下において、静置冷却により少なくとも60℃まで冷却する;そして
(3) 冷却された二次乾燥菌体を、次のいずれかの方法により保存する:
(ア) 前記の菌体を、密閉可能な容器に窒素ガスと共に充填し、少なくもと15℃以下で保存する;又は
(イ) 前記の菌体を、密閉可能な容器に、酸素濃度20%以下の気体と共に充填し、少なくとも15℃以下で保存する。
【0028】
上記の方法において、例えば、前記(b)における一次乾燥は伝導伝熱方式であり、前記(c)における二次乾燥は、例えば、対流伝熱方式である。
本発明はまた、食品組成物、機能性食品、栄養補助食品、未熟児用調製乳、成熟児用調製乳、乳児用調製乳、乳児用食品、妊産婦食品、老人用食品、化粧品及び/又は医薬品組成物を製造するための、前記の方法によって単離、抽出又は精製された化合物の使用を提供する。本発明はまた、動物飼料、魚飼料及び/又は植物肥料を製造するための、前記の方法により抽出又は精製された化合物の使用を提供する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0029】
本発明は、高度不飽和脂肪酸を構成脂肪酸として含んで成る化合物(PUFA含有油脂及び/又はPUFA含有リン脂質)を生産する能力を有する微生物を培養することにより、PUFA含有油脂及び/又はPUFA含有リン脂質を菌体内に含有する乾燥菌体および/またはPUFA含有油脂及び/又はPUFA含有リン脂質の製造方法に関するものである。
【0030】
従って、高度不飽和脂肪酸を構成脂肪酸として含んで成る化合物(油脂(トリグリセリド)及び/又はリン脂質)を産生しうる微生物を培養することが必須である。ここでいう微生物としては、炭素数が18以上で二重結合は3以上のω6系高度不飽和脂肪酸、炭素数が18以上で二重結合が2以上のω9系高度不飽和脂肪酸、及び炭素数が18以上で二重結合が3以上のω3系高度不飽和脂肪酸の少なくとも1種の高度不飽和脂肪酸を主にトリグリセリド及び/又はリン脂質の構成脂肪酸として産生する微生物が望ましい。
【0031】
そして、炭素数が18以上で二重結合は3以上のω6系高度不飽和脂肪酸としては、γ-リノレン酸(6,9,12-オクタデカトリエン酸)、ジホモ-γ-リノレン酸(8,11,14-エイコサトリエン酸)、アラキドン酸(5,8,11,14-エイコサテトラエン酸)、7,10,13,16-ドコサテトラエン酸(22:4 ω6)及びDPAω6(4,7,10,13,16-ドコサペンタエン酸)を、炭素数が18以上で二重結合が2以上のω9系高度不飽和脂肪酸としては、6,9-オクタデカジエン酸、8,11-エイコサジエン酸、及びミード酸(5,8,11-エイコサトリエン酸)を、炭素数が18以上で二重結合が3以上のω3系高度不飽和脂肪酸として、α-リノレン酸(9,12,15-オクタデカトリエン酸)、6,9,12,15-オクタデカテトラエン酸(18:4ω3)、8,11,14,17-エイコサテトラエン酸(20:4ω3)、EPA(5,8,11,14,17-エイコサペンタエン酸)、DPAω3(7,10,13,16,19-ドコサペンタエン酸)、及びDHA(4,7,10,13,16,19-ドコサヘキサエン酸)を挙げることができる。
【0032】
したがって、本発明においては、高度不飽和脂肪酸を構成脂肪酸として含んで成る化合物(油脂(トリグリセリド)及び/又はリン脂質)を産生しうる微生物であればすべて使用することができる。例えば、アラキドン酸を構成脂肪酸として含んで成る油脂(トリグリセリド)の生産能を有する微生物としては、モルティエレラ(Mortierella)属、コニディオボラス(Conidiobolus)属、フィチウム(Pythium)属、フィトフトラ(Phytophthora)属、ペニシリューム(Penicillium)属、クラドスポリューム(Cladosporium)属、ムコール(Mucor)属、フザリューム(Fusarium)属、アスペルギルス(Aspergillus)属、ロードトルラ(Rhodotorula)属、エントモフトラ(Entomophthora)属、エキノスポランジウム(Echinosporangium)属、サプロレグニア(Saprolegnia)属に属する微生物を挙げることができる。
【0033】
モルティエレラ(Mortierella)属モルティエレラ(Mortierella)亜属に属する微生物では、例えばモルティエレラ・エロンガタ(Mortierella elongata)、モルティエレラ・エキシグア(Mortierella exigua)、モルティエレラ・フィグロフィラ(Mortierella hygrophila)、モルティエレラ・アルピナ(Mortierella alpina)等を挙げることができる。具体的にはモルティエレラ・エロンガタ(Mortierella elongata)IFO8570、モルティエレラ・エキシグア(Mortierella exigua)IFO8571、モルティエレラ・フィグロフィラ(Mortierella hygrophila)IFO5941、モルティエレラ・アルピナ(Mortierella alpina)IFO8568、ATCC16266、ATCC32221、ATCC42430、CBS219.35、CBS224.37、CBS250.53、CBS343.66、CBS527.72、CBS529.72、CBS608.70、CBS754.68等の菌株を挙げることができる。
【0034】
例えば、DHAを産生しうる微生物として、クリプセコジニウム(Crypthecodinium)属、スラウトキトリウム(Thrautochytrium)属、シゾキトリウム(Schizochytrium)属、ウルケニア(Ulkenia)属、ジャポノキトリウム(Japonochytrium)属又はハリフォトリス(Haliphthoros)属に属する微生物を挙げることもできる。
【0035】
これらの菌株はいずれも、大阪市の財団法人醗酵研究所(IFO)、及び米国のアメリカン・タイプ・カルチャー・コレクション(American Type Culture Collection, ATCC)及び、Centrralbureau voor Schimmelcultures(CBS)からなんら制限なく入手することができる。また本発明の研究グループが土壌から分離した菌株モルティエレラ・アルピナ1S−4株、菌株モルティエレラ・エロンガタSAM0219(微工研菌寄第8703号)(微工研条寄第1239号)を使用することもできる。
【0036】
本発明に使用される菌株を培養する為には、まずこれら菌株の栄養細胞、胞子および/または菌糸、又は予め培養して得られた種培養液あるいは種培養より回収した栄養細胞、胞子および/または菌糸を、液体培地あるいは固体培地に接種して培養する。培地の炭素源としてはグルコース、フラクトース、キシロース、サッカロース、マルトース、可溶性デンプン、糖蜜、グリセロール、マンニトール、糖化澱粉等の一般的に使用されているものが、いずれも使用できるが、これらに限られるものではない。
【0037】
窒素源としてはペプトン、酵母エキス、麦芽エキス、肉エキス、カザミノ酸、コーンスティープリカー、大豆タンパク、脱脂ダイズ、綿実カス等の天然窒素源の他に、尿素等の有機窒素源、ならびに硝酸ナトリウム、硝酸アンモニウム、硫酸アンモニウム等の無機窒素源を用いることができるが、特に大豆から得られる窒素源、具体的には大豆、脱脂大豆、大豆フレーク、食用大豆タンパク、おから、豆乳、きな粉等が挙げられるが、特に、脱脂大豆に熱変性を施したもの、より好ましくは脱脂大豆を約70〜90℃で熱処理し、さらにエタノール可溶成分を除去したものを単独または複数で、あるいは前記窒素源と組み合わせて使用することができる。
【0038】
この他必要に応じて、リン酸イオン、カリウムイオン、ナトリウムイオン、マグネシウムイオン、カルシウムイオン以外に、鉄、銅、亜鉛、マンガン、ニッケル、コバルト等の金属イオンやビタミン等を微量栄養源として使用できる。これらの培地成分は微生物の生育を害しない濃度であれば特に制限はない。実用上、一般に炭素源の総添加量は0.1〜40重量%、好ましくは1〜25重量%、窒素源の総添加量は2〜15重量%、好ましくは2〜10重量%とするのが望ましく、より好ましくは初発の炭素源添加量を1〜5重量%、初発の窒素源添加量を3〜8重量%として、培養途中に炭素源及び窒素源を、さらにより好ましくは炭素源のみを流加して培養する。
【0039】
また、PUFA含有油脂の収量を増加せしめるために、不飽和脂肪酸の前駆体として、例えば、ヘキサデカン若しくはオクタデカンのごとき炭化水素;オレイン酸若しくはリノール酸のごとき脂肪酸又はその塩、又は脂肪酸エステル、例えばエチルエステル、グリセリン脂肪酸エステル、ソルビタン脂肪酸エステル;又はオリーブ油、大豆油、なたね油、綿実油若しくはヤシ油のごとき油脂類を単独で、又は組み合わせて使用できる。基質の添加量は培地に対して0.001〜10%、好ましくは0.05〜10%である。またこれらの基質を唯一の炭素源として培養してもよい。
【0040】
PUFA含有油脂を産生する微生物の培養温度は使用する微生物によりことなるが、5〜40℃、好ましくは20〜30℃とし、また20〜30℃にて培養して菌体を増殖せしめた後5〜20℃にて培養を続けてPUFA含有油脂を生産せしめることもできる。このような温度管理によっても、PUFA含有油脂の構成脂肪酸中のPUFAの割合を上昇せしめることができる。種培養では通気攪拌培養、振盪培養、静置液体培養または固体培養を、本培養では通気攪拌培養を行う。本培養開始時(種培養液接種時)の培地pHは5〜7、好ましくは5.5〜6.5に調製する。種培養の各段階における培養期間は通常1〜10日間、好ましくは1〜5日間、より好ましくは1〜3日間行なう。本培養の培養期間は、通常2〜30日間、好ましくは5〜20日間、より好ましくは5〜15日間行う。
【0041】
モルティエレラ属モルティエレラ亜属に属する微生物は、アラキドン酸を主たる構成脂肪酸として含んで成る化合物(油脂(アラキドン酸含有トリグリセリド)及び/又はアラキドン酸含有リン脂質)を産生しうる微生物として知られているが、本発明者らは、上記菌株に変異処理を施すことによって、ジホモ-γ-リノレン酸を主たる構成脂肪酸として含んで成る油脂を産生しうる微生物(特開平5-91887)や、ω9系高度不飽和脂肪酸を主たる構成脂肪酸として含んで成る油脂を産生しうる微生物(特開平5-91888、特開平10-57085、特開平5-91886)を得ている。
【0042】
さらに、高濃度の炭素源に耐性を有する微生物(WO98/39468)も得ており、これら微生物は、モルティエレラ属モルティエレラ亜属の微生物であり、本発明の製造法で、PUFA含有菌体および/またはPUFA含有油脂を生産することができる。しかし、本発明はモルティエレラ属モルティエレラ亜属に属する微生物に限定しているわけではなく、高度不飽和脂肪酸を構成脂肪酸として含んで成る化合物(油脂(トリグリセリド)及び/又はリン脂質)を産生しうる微生物に、本発明の製法方法を適用して、PUFA含有油脂及び/又はPUFA含有リン脂質を菌体内に含有する乾燥菌体、該油脂(粗油および/又は精製油脂)及び/又は該リン脂質(粗リン脂質及び/又は精製リン脂質)を得ることができる。
【0043】
油脂を菌体内に蓄積した微生物から、粗油及び/又は粗リン脂質を得る方法として、培養終了後、培養液をそのままかあるいは殺菌、濃縮、酸性化などの処理を施した後、自然沈降、遠心分離および/又は濾過などの常用の固液分離手段により培養菌体を得る。固液分離を助けるために、凝集剤や濾過助剤を添加してもよい。凝集剤としては、例えば、塩化アルミニウム、塩化カルシウム、アルギン、キトサンなどを使用できる。濾過助剤としては、例えば、珪藻土を使用できる。
【0044】
回収した培養菌体は乾燥させる。乾燥させることによって、菌体保管中の腐敗や酸化劣化、加水分解を防ぐことができる。さらに、菌体からの粗油抽出の効率を高めることができる。
乾燥方法は、伝導伝熱方式による一次乾燥と、対流伝熱方式による二次乾燥を組合わせることを特徴とする。
【0045】
伝導伝熱方式の乾燥は、伝導伝熱を主たる熱源とする乾燥機を用いれば特に制限はないが、好ましくは加熱密着搬送型を、より好ましくはドラムドライヤーを用いることができる。伝熱面の加熱温度は、100〜200℃に、好ましくは105〜170℃に、より好ましくは120〜150℃に加熱して乾燥させる。ダブルドラムドライヤーを一次乾燥に用いた場合、一次乾燥菌体は伝導伝熱により菌体表層が乾燥したシート状となり、引っ掻きにより、不定形のフレーク状の形態となる。より具体的にはフレークの厚みが0.05-4mm、好ましくは0.1-1mm、縦及び横(外接四角形の各辺の長さ)が1-100mm、好ましくは1-40mm、より好ましくは2-20mmとなる。このように、菌体表層が乾燥した一次乾燥菌体にすることで、効率よく次の対流伝熱方式の二次乾燥に供することができる。
【0046】
伝導伝熱方式にて一次乾燥を経た微生物バイオマス(菌体表層が乾燥)を、次いで対流伝熱方式による乾燥に供する。対流伝熱方式による乾燥は、対流伝熱を主たる熱源とする乾燥機を用いれば特に制限無いが、好ましくは材料移送型、材料攪拌型あるいは熱風移送型を、より好ましくは通気バンド型のような材料移送型や、あるいは流動層や振動流動層のような材料攪拌型を用いる。対流伝熱の熱風温度は、40〜200℃に、好ましくは60〜170℃に、より好ましくは80〜150℃の温度の熱風を供給して乾燥させる。
【0047】
対流伝熱型乾燥機は、熱風供給により蒸発水分を直ちに原料近傍から除去するため、水分蒸発の推進力が大きく、水分含量を大きく低減させたい場合に有効な手段と考えられる。しかし一方で、大量の熱風を供給するため、乾燥材料微粉の飛散や、送風機のエネルギーコストがかかること、そして、高水分含量の原料の場合は、原料間の付着による塊形成と熱風接触面積低下が問題であった。
【0048】
一方、伝導伝熱型の乾燥機は、熱効率がよく、風量が殆ど要らないため、送風エネルギーコストや、原料の飛散を大幅に低減することが可能である。しかし、一方で、伝熱のみによる加熱であるため、低水分含量まで乾燥するのが難しい。そこで、これら両方の長所を取り入れる方式として、水分含量の高い材料予熱期間から定率乾燥期間では伝導伝熱方式による乾燥を施し、水分含量の少ない定率乾燥期間から減率乾燥期間では、対流伝熱方式よる乾燥を施すことを新たに考案した。
【0049】
例えば、伝導伝熱方式の一つであるダブルドラムドライヤー法では、大幅な水分含量低減が一次乾燥で可能となり、しかも、菌体表層が乾燥されることで、二次乾燥における原料間の付着による塊形成とそれに伴う熱風接触面積の低下を防ぐことを可能とした。しかも、一次乾燥を伴わない従来法に比べると、対流伝熱方式による乾燥工程での熱風風量および/または熱風処理時間が低減できるため飛散量と光熱費の削減が期待できることから、従来法よりも優れた方法と考えられる。
【0050】
菌体乾燥に用いる機種は、伝導伝熱方式および対流伝熱方式であれば特に制限無いが、具体的な例として次のような機器を挙げることができる。しかし、本発明はこれらの機器に限定されるわけではなく、同様の乾燥原理を有する機器であれば何ら制限無く用いることが出来る。
【0051】
伝導伝熱方式の機器として、
(株)大川原製作所製 円錐型リボン混合乾燥機、
(株)大川原製作所製 伝導伝熱乾燥装置、
山本技研工機(株)製 ドラムドライヤー、
(株)オカドラ製 サイクロンドライヤーを挙げることができる。
【0052】
また、対流伝熱方式の機器として、
(株)ダルトン製 振動流動層乾燥機、
(株)ダルトン製 横型連続式流動層乾燥装置、
(株)ダルトン製 回転型乾燥機、
(株)ダルトン製 箱型並行流ドライヤー、
(株)ダルトン製 箱型通気ドライヤー、
神鋼電機(株)製 振動乾燥冷却装置、
(株)大川原製作所製 流動層乾燥装置、
(株)大川原製作所製 バンド型通気乾燥装置、
(株)大和三光製作所製 バンド乾燥機を挙げることができる。
【0053】
菌体を乾燥した後、PUFA含有粗油及び/又はPUFA含有粗リン脂質の回収を行なう。粗油及び/又は粗リン脂質を回収する手段としては、有機溶剤による抽出法や圧搾法を用いることができるが、好ましくは窒素気流下で有機溶剤によって抽出する。有機溶剤としてはエタノール、ヘキサン、メタノール、エタノール、クロロホルム、ジクロロメタン、石油エーテル、アセトン等を用いることができ、またメタノールと石油エーテルの交互抽出やクロロホルム−メタノール−水の一層系の溶媒も用いることができる。しかしながら、粗油及び/又は粗リン脂質の取得に用いる抽出法を上記の方法に限定しているわけではなく、菌体内の油脂(トリグリセリド)及び/又はリン脂質を効率的に抽出する手法はすべて使用することができる。例えば、超臨界CO2流体による抽出法なども有効な手段として使用することができる。
【0054】
有機溶剤や超臨界流体で抽出された抽出物から減圧下などの条件下で有機溶剤や超臨界流体成分を除去することにより、目的とする粗油及び/又は粗リン脂質を得ることができる。
【0055】
本発明で得た高度不飽和脂肪酸を構成脂肪酸として含んで成る化合物(PUFA含有油脂及び/又はPUFA含有リン脂質)を菌体内に含有する乾燥菌体あるいは粗油(PUFA含有粗油脂)及び/又は粗リン脂質(PUFA含有粗リン脂質)は、動物飼料に配合して直接使用することができる。しかし、食品への適応を考えた場合、一般の油脂精製工程に供してPUFA含有精製油脂として使用することが望ましい。油脂精製工程として、脱ガム、脱酸、脱臭、脱色、カラム処理、分子蒸留、ウィンタリングなどの常法の工程を用いることができる。
本発明の微生物バイオマス、油脂(トリグリセリド)及び/又はリン脂質を菌体内に含有する乾燥菌体、粗油、精製油脂(トリグリセリド)、粗リン脂質、精製リン脂質の用途に関しては無限の可能性があり、食品、飲料、化粧品、医薬品の原料並びに添加物として使用することがでる。そして、その使用目的、使用量に関して何ら制限を受けるものではない。
【0056】
例えば、食品組成物としては、一般食品の他、機能性食品、栄養補助食品、未熟児用調製乳、成熟児用調製乳、乳児用調製乳、乳児用食品、妊産婦食品又は老人用食品等を挙げることができる。油脂を含む食品例として、肉、魚、またはナッツ等の本来油脂を含む天然食品、スープ等の調理時に油脂を加える食品、ドーナッツ等の熱媒体として油脂を用いる食品、バター等の油脂食品、クッキー等の加工時に油脂を加える加工食品、あるいはハードビスケット等の加工仕上げ時に油脂を噴霧または塗布する食品等が挙げられる。さらに、油脂を含まない、農産食品、醗酵食品、畜産食品、水産食品、または飲料に添加することができる。さらに、機能性食品・医薬品の形態であっても構わなく、例えば、経腸栄養剤、粉末、顆粒、トローチ、内服液、懸濁液、乳濁液、シロップ等の加工形態であってもよい。
【実施例】
【0057】
次に、実施例により、本発明をさらに具体的に説明する。しかし、本発明は、実施例に限定されない。
実施例1. 乾燥菌体の流動層冷却
モルティエレラ・アルピナ(Mortierella alpina) 1S-4株の胞子懸濁液を、酵母エキス1.0%、グルコース2.0%、pH6.3の培地に0.1vol.%接種し、往復振盪100rpm、温度28℃の条件にて種培養(第一段階)を開始し、3日間培養した。
次に、酵母エキス1%、グルコース2%、大豆油0.1%、pH6.3の培地30Lを50L容通気攪拌培養槽に調製し、これに種培養(第一段階)液を接種して、攪拌回転数200rpm、温度28℃、槽内圧150kPaの条件にて、種培養(第二段階)を開始し、2日間培養した。
【0058】
次に、4500Lの培地(培地A:大豆粉336kg、KH2PO4 16.8kg、MgCl2・6H2O 2.8kg、CaCl2・2H2O 2.8kg、大豆油 5.6kg)のpHを4.5に調製して、121℃、20分の条件で滅菌した。別培地として、1000Lの培地(培地B:含水グルコース112kg)を140℃、40秒の条件で滅菌して先の培地Aに加えて培地Cを調製した。培地Cに滅菌した水酸化ナトリウム水溶液を添加してpH6.1に調整した後、容量28Lの種培養液(第二段階)を接種して、計5600Lの初発培養液量(培養槽容積10kL)に合わせた。温度26℃、通気量49Nm3/hr、内圧200kPaで培養を開始した。培養途中で次表に示すように培地流加を行ない、306時間の本培養を行なった。培養終了時は、培地流加による増加分と蒸発による減少分の影響で、7730Lの培養液量となった。
【0059】
本培養時間 流加培地
19時間後 含水グルコース280kg/460L
43時間後 含水グルコース280kg/450L
67時間後 含水グルコース252kg/390L
91時間後 含水グルコース252kg/410L
120時間後含水グルコース224kg/370L
140時間後含水グルコース168kg/280L
163時間後含水グルコース168kg/270L
【0060】
培養終了後、120℃、20分の条件で殺菌した後、連続式脱水機で湿菌体を回収し、これを破砕した後、振動流動層乾燥機で熱風乾燥(熱風温度120℃)によって水分含量1wt%まで乾燥した。乾燥した菌体を流動層で、室温空気の供給によって、40℃まで冷却した後、空気輸送機を用いて充填場所に乾燥菌体を輸送した。得られた乾燥菌体を、容積約1m3のアルミパウチ製コンテナバッグに窒素ガスとともに充填し、バッグ口部をヒートシールシールした後、10℃以下の冷蔵室で保管した。
【0061】
コンテナバッグより取り出した乾燥菌体に、ヘキサン抽出を施し、ヘキサン溶液を濾過して含有固形分を除去した後、減圧下で加熱することによってヘキサンを除去し、アラキドン酸を構成脂肪酸として含んで成る粗油を得た。
【0062】
実施例2. 乾燥菌体の静置冷却
実施例1と同様の方法で培養し、殺菌した後、菌体回収と乾燥まで実施例1と同じ方法で行なった。乾燥菌体を、平形バットに移して均等に広げ、層圧1cm以下になるようにして、室温にて静置冷却した。50℃まで冷却した後、容積約200Lのアルミパウチ製コンテナバッグに窒素ガスとともに充填し、バッグ口部をヒートシールシールした後、10℃以下の冷蔵室で保管した。
【0063】
比較例1. 乾燥菌体を冷却せずに充填
実施例1と同様の方法で培養し、殺菌した後、菌体回収と乾燥まで実施例1と同じ方法で行なった。乾燥菌体を、乾燥後直ちに容積約200Lのアルミパウチ製コンテナバッグに窒素ガスとともに充填し、バッグ口部をヒートシールシールした後、10℃以下の冷蔵室で保管した。
【0064】
実施例3. 乾燥菌体の分析
実施例1、実施例2、および比較例1にて充填したコンテナバックを充填1週間後に開封し、乾燥菌体の外観を確認した。次いで、n-ヘキサンを溶媒としてソックスレー抽出法で粗油を抽出し油分を求めた。さらに、実施例1の方法にて抽出した粗油の過酸化物価(POV)を分析した。
比較例1のように冷却を施さずに充填すると、菌体および油分の急激な品質劣化が起こることが確認された。
【0065】
【表1】

【0066】
実施例4. 微生物バイオマスを造粒し乾燥に供する従来法と微生物バイオマスを伝導伝熱方式及び対流伝熱方式で乾燥させた本発明との比較
アラキドン酸生産菌Mortierella alpina 1S-4株を実施例1と同様に培養した後、連続式脱水機(柳河エンジニアリング製、セキスイCS-1型)に供して濾過を行ない、湿菌体塊を得た。湿菌体の水分含量を乾燥減量法(温度105℃)にて測定した結果、水分含量52%であった。この湿菌体塊を次の各条件(実験4-1〜実験4-2)で乾燥した。実験4-1は室温で造粒成型したために、成型前後の水分含量変化は認められなかった。実験4-2では、ダブルドラムドライヤーで一次乾燥を行なった。
【0067】
次いで、これら造粒菌体及び一次乾燥菌体を、流動層乾燥機に供して水分含量2%近くまで乾燥させた。乾燥後の菌体を実施例2の方法で冷却した後、油脂を抽出し外観および過酸化物価を測定した結果、何れも良好な外観および10meq/kg以下のPOVであり、良好な精製油脂の原料粗油を得ることができた。乾燥時間および乾燥収率に関しては、乾燥を2段階で実施した実験4-2の方が、一段階乾燥の実験4-1に比べて優れた結果であった。
【0068】
【表2】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
1種類又は複数種類の化合物を、そのような化合物を産生した微生物を含む微生物バイオマスから単離する方法であって、次の段階:
(a) 30%から80%までの平均水分含量を持つ湿菌体を用意または入手する;
(b) 湿菌体を一次乾燥に供し、5%から50%までの平均水分含量を持つ一次乾燥菌体を得る;
(c) 上記(b)で得た一次乾燥菌体を二次乾燥に供し、10%以下の平均水分含量を持つ二次乾燥菌体を得る;
(d) 上記(c)で得た二次乾燥菌体からその化合物または各化合物を精製、抽出または単離する;
を含む方法。
【請求項2】
前記(b)における一次乾燥が伝導伝熱方式である、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記伝導伝熱方式が、円錐型リボン混合乾燥機、伝導伝熱乾燥機、ドラムドライヤー又はサイクロンドライヤーである、請求項2に記載の方法。
【請求項4】
前記(c)における二次乾燥が、対流伝熱方式である、請求項1に記載の方法。
【請求項5】
前記対流伝熱方式が、振動流動層乾燥機、横型連続式流動乾燥装置、回転型乾燥機、箱型並行流ドライヤー、箱型通気ドライヤー、振動乾燥冷却装置、流動層乾燥装置、バンド型通気乾燥装置又はバンド乾燥機である、請求項4に記載の方法。
【請求項6】
前記(a)の湿菌体が、培養液に対して行われる固/液分離によって得られる、請求項1に記載の方法。
【請求項7】
前記固/液分離が、機械的脱水と併用される、請求項6に記載の方法。
【請求項8】
前記バイオマスが、菌類を含むまたは菌類に由来する、請求項1〜7のいずれか1項に記載の方法。
【請求項9】
前記菌類がケカビ目(Mucorales)に属する、請求項8に記載の方法。
【請求項10】
前記菌類が、モルティエレラ(Mortierella)属に属する、請求項8又は9に記載の方法。
【請求項11】
前記菌類が、モルティエレラ・アルピナ(Mortierella alpina)である、請求項8〜10のいずれか1項に記載の方法。
【請求項12】
前記バイオマスが、藻類を含むまたは藻類に由来する、請求項1〜7のいずれか1項に記載の方法。
【請求項13】
前記藻類が、クリプセコジニウム(Crypthecodinium)属、スラウトキトリウム(Thrautochytrium)属、シゾキトリウム(Schizochytrium)属、ウルケニア(Ulkenia)属、ジャポノキトリウム(Japonochytrium)属又はハリフォトリス(Haliphthoros)属に属する、請求項12に記載の方法。
【請求項14】
前記藻類が、クリプセコジニウム・コーニー(Crypthecodinium cohnii)である、請求項12又は13に記載の方法。
【請求項15】
前記化合物が、高度不飽和脂肪酸を構成脂肪酸として含んで成るトリグリセリド及び/又はリン脂質である、請求項1〜14のいずれか1項に記載の方法。
【請求項16】
前記高度不飽和脂肪酸が、炭素数18以上で二重結合を2個以上を有するω3系、ω6系及び/又はω9系である、請求項15に記載の方法。
【請求項17】
前記高度不飽和脂肪酸が、α-リノレン酸(9,12,15-オクタデカトリエン酸)、6,9,12,15-オクタデカテトラエン酸(18:4ω3)、8,11,14,17-エイコサテトラエン酸(20:4ω3)、EPA(5,8,11,14,17-エイコサペンタエン酸)、DPAω3(7,10,13,16,19-ドコサペンタエン酸)、DHA(4,7,10,13,16,19-ドコサヘキサエン酸)、γ-リノレン酸(6,9,12-オクタデカトリエン酸)、ジホモ-γ-リノレン酸(8,11,14-エイコサトリエン酸)、アラキドン酸(5,8,11,14-エイコサテトラエン酸)、7,10,13,16-ドコサテトラエン酸(22:4 ω6)、DPAω6(4,7,10,13,16-ドコサペンタエン酸)、6,9-オクタデカジエン酸(18:2ω9)、8,11-エイコサジエン酸(20:2ω9)及び/又はミード酸(5,8,11-エイコサトリエン酸)である、請求項15又は16に記載の方法。
【請求項18】
前記工程(c)で得られた二次乾燥菌体を、次のいずれかの方法で冷却処理した後、前記工程(d)に供することを特徴とする請求項1〜17のいずれか1項に記載の方法:
(i) 酸素濃度21%以下の組成を有する気体の供給により少なくとも60℃まで冷却する;又は
(ii) 酸素濃度21%以下の組成を有する気体の雰囲気下において、静置冷却により少なくとも60℃まで冷却する。
【請求項19】
1種類又は複数種類の化合物を、そのような化合物を産生した微生物バイオマスを含む乾燥菌体を取得する方法であって、次の段階:
(a) 30%から80%までの平均水分含量を持つ湿菌体を用意または入手する;
(b) 湿菌体を一次乾燥に供し、5%から50%までの平均水分含量を持つ一次乾燥菌体を得る;
(c) 前記(b)で得た一次乾燥菌体を二次乾燥に供し、10%以下の平均水分含量を持つ二次乾燥菌体を得る;
ことを含む方法。
【請求項20】
微生物バイオマスに由来し、10%以下の平均水分含量を持つ乾燥菌体を含む組成物。
【請求項21】
前記乾燥菌体が、伝導伝熱方式及び対流伝熱方式の二段階の乾燥によって得られる、請求項20に記載の組成物。
【請求項22】
1種類又は複数種類の化合物を産生した微生物を含む微生物バイオマスを含む乾燥菌体の保存方法であって、
(1) 次の段階で乾燥菌体を取得し:
(a) 30%から80%までの平均水分含量を持つ湿菌体を用意または入手する;
(b) 湿菌体を一次乾燥に供し、5%から50%までの平均水分含量を持つ一次乾燥菌体を得る;そして
(c) 前記(b)で得た一次乾燥菌体を二次乾燥に供し、10%以下の平均水分含量を持つ二次乾燥菌体を得る;その後
(2) 前記の得られた二次乾燥菌体を、次のいずれかの方法で冷却処理し:
(i) 酸素濃度21%以下の組成を有する気体の供給により少なくとも60℃まで冷却する;又は
(ii) 酸素濃度21%以下の組成を有する気体の雰囲気下において、静置冷却により少なくとも60℃まで冷却する;そして
(3) 冷却された二次乾燥菌体を、次のいずれかの方法により保存する:
(ア) 前記の菌体を、密閉可能な容器に窒素ガスと共に充填し、少なくとも15℃以下で保存する;又は
(イ) 前記の菌体を、密閉可能な容器に、酸素濃度20%以下の気体と共に充填し、少なくとも15℃以下で保存する。
【請求項23】
請求項1〜18のいずれか1項に記載の方法によって単離、抽出及び/又は精製された化合物。
【請求項24】
食品組成物、機能性食品、栄養補助食品、未熟児用調製乳、成熟児用調製乳、乳児用調製乳、乳児用食品、妊産婦食品、老人用食品、化粧品及び/又は医薬品組成物を製造するための、請求項1−18のいずれか1項に記載の方法によって単離、抽出又は精製された化合物の使用。
【請求項25】
動物飼料、魚飼料及び/又は植物肥料を製造するための、請求項1〜18のいずれか1項に記載の方法によって単離、抽出又は精製された化合物の使用。
【請求項26】
動物飼料及び/又は魚飼料を製造するための、請求項19〜21のいずれか1項に記載の方法によって取得した乾燥菌体の使用。
【請求項27】
1種類又は複数種類の化合物を、そのような化合物を産生した微生物を含む微生物バイオマスから単離する方法であって、
(1) 次の段階で乾燥菌体を取得し:
(a) 30%から80%までの平均水分含量を持つ湿菌体を用意または入手する;
(b) その湿菌体を粉砕して、30%から80%までの平均水分含量を持つ粉砕菌体を得る;
(c) その粉砕菌体を乾燥して、10%以下の平均水分含量を持つ乾燥菌体を得る;その後
(2) 前記の得られた乾燥菌体を、次のいずれかの方法で冷却処理し:
(i) 酸素濃度21%以下の組成を有する気体の供給により少なくとも60℃まで冷却する;又は
(ii) 酸素濃度21%以下の組成を有する気体の雰囲気下において、静置冷却により少なくとも60℃まで冷却する;そして
(3) 冷却された乾燥菌体からその化合物または各化合物を精製、抽出または単離する。

【公開番号】特開2006−219528(P2006−219528A)
【公開日】平成18年8月24日(2006.8.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−31918(P2005−31918)
【出願日】平成17年2月8日(2005.2.8)
【出願人】(000001904)サントリー株式会社 (319)
【Fターム(参考)】