説明

新規ブロック共重合体、ミセル調製物及びそれを有効成分とする抗癌剤

【課題】過敏反応等の有害な副作用を有さず、難水溶性抗癌剤の水に対する溶解性を高め、高い薬物血中濃度を維持し、薬物を腫瘍組織へ高濃度で集積させ、該難水溶性抗癌剤の薬理効果を増強し副作用を軽減する医薬製剤の提供。
【解決手段】過敏反応等の有害な副作用を示さない薬物担体となり得る新規ブロック共重合体、ミセルを形成し、疾病の治療に必要量の難水溶性抗癌剤、特にパクリタキセルを該ブロック共重合体に結合させることなくミセル内に取り込み、水に対する該薬物の溶解性を高めることができるミセル調製物、該ミセル調製物を薬効成分とする高い血中濃度を維持し、より強い薬効を示し、毒性を軽減する抗癌剤。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、新規ブロック共重合体とそれを用いたミセル調製物、更に該ミセル調製物を有効成分とする抗癌剤に関する。
【背景技術】
【0002】
薬物、特に抗癌剤は水に殆ど溶解しない疎水性化合物が多い。この様な薬物を用いて所望の治療効果を得る為には、通常、薬物を可溶化して患者に投与する。従って、難水溶性薬物、特に難水溶性抗癌剤の可溶化は、経口用又は非経口用製剤、特に静脈内投与用製剤において重要である。
【0003】
難水溶性抗癌剤を可溶化させる方法の一つとして界面活性剤を添加する方法があり、例えば、パクリタキセルを可溶化するためのポリオキシエチレンヒマシ油誘導体(クレモホール)の使用が知られている。又、他の方法として、ミセルを形成するブロック共重合体を薬物担体として用いる方法が、例えば、特許文献1、特許文献2又は特許文献3等に記載されており、特許文献4にはパクリタキセル封入ミセルについて記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平6−107565号公報
【特許文献2】特開平6−206815号公報
【特許文献3】特開平11−335267号公報
【特許文献4】特開2001−226294号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記の界面活性剤による可溶化法には、該界面活性剤に起因する過敏反応等の有害な副作用が見られる場合があり、又、製剤の安定性を下げ、薬物含有溶液の貯蔵若しくは放置により薬物が沈殿して投与が難しくなったりするという問題があった。
【0006】
又、難水溶性抗癌剤、例えば、タキサン系抗癌剤についてブロック共重合体を薬物担体として用いた医薬製剤を静脈内投与した際に、該薬物の単独投与時より高い薬物血中濃度の維持、薬物の腫瘍組織への高濃度な集積、薬理効果の増強と副作用の軽減等は達成されていなかった。
【0007】
従って、過敏反応等の有害な副作用を有さず、難水溶性抗癌剤の水に対する溶解性を高め、高い薬物血中濃度を維持し、薬物を腫瘍組織へ高濃度で集積させ、該難水溶性抗癌剤の薬理効果を増強し副作用を軽減する方法が望まれていた。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは上記課題を解決するため鋭意検討した結果、新規ブロック共重合体、該共重合体を用いたミセル調製物及びそれを有効成分とする抗癌剤を見出し、本発明を完成した。
【0009】
即ち、本発明は、
1)下記一般式(1)
【0010】
【化1】

[式中、R1は水素原子又は(C1〜C5)アルキル基を示し、R2は(C1〜C5)アルキレン基を示し、R3はメチレン基又はエチレン基を示し、R4は水素原子又は(C1〜C4)アシル基を示し、R5は水酸基、置換基を有していてもよいアリール(C1〜C8)アルコキシ基又は−N(R6)−CO−NHR7を示し、R6、R7は同一でも異なっていてもよく(C3〜C6)環状アルキル基若しくは三級アミノ基で置換されていてもよい(C1〜C5)アルキル基を示し、nは5〜1000、mは2〜300、xは0〜300、yは0〜300を示す、ただし、xとyの和は1以上で且つmより大きくないものとし、R5が水酸基である割合がmの1〜99%であり、置換基を有していてもよいアリール(C1〜C8)アルコキシ基である割合がmの1〜99%であり、−N(R6)−CO−NHR7である割合がmの0〜10%である]
で表される化合物と、一般式(1)で表される化合物に対してm当量〜5m当量のカルボジイミド系化合物とを溶媒中30〜60℃で2〜48時間反応させて得られるブロック共重合体;
2)下記一般式(2)
【0011】
【化2】

[式中、R1は水素原子又は(C1〜C5)アルキル基を示し、R2は(C1〜C5)アルキレン基を示し、R3はメチレン基又はエチレン基を示し、R4は水素原子又は(C1〜C4)アシル基を示し、nは5〜1000、xは0〜300、yは0〜300を示す、ただし、xとyの和は2〜300である]
で表される化合物と、置換基を有していてもよいアリール(C1〜C8)アルキルアルコールあるいは置換基を有していてもよいアリール(C1〜C8)アルキルハライドとを反応させて得られる側鎖カルボン酸の部分エステル化物に、次いで、一般式(2)で表される化合物に対して(x+y)当量〜5(x+y)当量のカルボジイミド系化合物を溶媒中30〜60℃で2〜48時間反応させて得られるブロック共重合体;
3)R1がメチル基、R2がトリメチレン基、R3がメチレン基、R4がアセチル基であり、nが20〜500、mは10〜100、xは0〜100、yは0〜100である上記1)又は2)に記載のブロック共重合体;
4)カルボジイミド系化合物が、ジエチルカルボジイミド、ジイソプロピルカルボジイミド、ジシクロヘキシルカルボジイミド又は1−エチル−3−(3−ジメチルアミノプロピル)カルボジイミド若しくはその無機塩である上記1)〜3)のいずれか1項に記載のブロック共重合体;
5)カルボジイミド系化合物がジイソプロピルカルボジイミドである上記1)〜3)のいずれか1項に記載のブロック共重合体;
6)下記一般式(3)
【0012】
【化3】

[式中、R1は水素原子又は(C1〜C5)アルキル基を示し、R2は(C1〜C5)アルキレン基を示し、R3はメチレン基又はエチレン基を示し、R4は水素原子又は(C1〜C4)アシル基を示し、R5は水酸基、置換基を有していてもよいアリール(C1〜C8)アルコキシ基又は−N(R6)−CO−NHR7を示し、R6、R7は同一でも異なっていてもよく(C3〜C6)環状アルキル基若しくは三級アミノ基で置換されていてもよい(C1〜C5)アルキル基を示し、nは5〜1000、mは2〜300、x'は0〜300、y'は0〜300を示す。ただし、x'とy'の和は1以上で且つmより大きくないものとし、R5が水酸基である割合がmの0〜88%であり、置換基を有していてもよいアリール(C1〜C8)アルコキシ基である割合がmの1〜89%であり、−N(R6)−CO−NHR7である割合がmの11〜30%である]
で表されるブロック共重合体;
7)R1がメチル基、R2がトリメチレン基、R3がメチレン基、R4がアセチル基であり、R5における置換基を有していてもよいアリール(C1〜C8)アルコキシ基がベンジルオキシ基又は4−フェニル−1−ブトキシ基、R6、R7がイソプロピル基であり、nが20〜500、mが10〜100、x'が0〜100、y'が0〜100である上記6)に記載のブロック共重合体;
8)R5が水酸基である割合がmの0〜75%であり、置換基を有していてもよいアリール(C1〜C8)アルコキシ基である割合がmの10〜80%であり、−N(R6)−CO−NHR7である割合がmの11〜30%である上記6)又は7)に記載のブロック共重合体;
9)R5が水酸基である割合がmの0%である上記8)に記載のブロック共重合体;
10)上記1)〜9)のいずれか1項に記載のブロック共重合体と難水溶性抗癌剤とから形成されるミセル調製物;
11)難水溶性抗癌剤がタキサン系抗癌剤である上記10)記載のミセル調製物;
12)タキサン系抗癌剤がパクリタキセルである上記11)記載のミセル調製物;
13)上記10)〜12)のいずれか1項に記載のミセル調製物を有効成分とする抗癌剤;
に関する。
【発明の効果】
【0013】
本発明の新規ブロック共重合体は、過敏反応等の有害な副作用を示さず毒性の少ない薬物担体となり得る。該ブロック共重合体は水性媒体中でミセルを形成することができ、疾病の治療に必要量の難水溶性抗癌剤、特にパクリタキセルを該ブロック共重合体に結合させることなくミセル内に取り込み、水に対する該薬物の溶解性を高めることができる。又、該ブロック共重合体を用いて該薬物を取り込んだ本発明のミセル調製物の水溶液を室温に静置した場合、少なくとも数時間はミセルの会合やミセルからの薬物の放出が見られず、水性媒体中で安定な難水溶性抗癌剤含有ミセル調製物を提供することが可能となった。更に、該ミセル調製物は、内包する抗癌剤を単剤で、あるいは従来の界面活性剤を用いて可溶化して投与した場合に比べて高い血中濃度を維持し、より強い薬効を示し、副作用を軽減することから臨床上有用な抗癌剤となり得る。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明のブロック共重合体は、ポリエチレングリコール(PEG)構造部分とポリアミノ酸構造部分を有する上記一般式(1)[式中、R1は水素原子又は(C1〜C5)アルキル基を示し、R2は(C1〜C5)アルキレン基を示し、R3はメチレン基又はエチレン基を示し、R4は水素原子又は(C1〜C4)アシル基を示し、R5は水酸基、置換基を有していてもよいアリール(C1〜C8)アルコキシ基又は−N(R6)−CO−NHR7を示し、R6、R7は同一でも異なっていてもよく(C3〜C6)環状アルキル基若しくは三級アミノ基で置換されていてもよい(C1〜C5)アルキル基を示し、nは5〜1000、mは2〜300、xは0〜300、yは0〜300を示す、ただし、xとyの和は1以上で且つmより大きくないものとし、R5が水酸基である割合がmの1〜99%であり、置換基を有していてもよいアリール(C1〜C8)アルコキシ基である割合がmの1〜99%であり、−N(R6)−CO−NHR7である割合がmの0〜10%である]で表される化合物と、上記一般式(1)で表される化合物に対してm当量〜5m当量のカルボジイミド系化合物とを溶媒中30〜60℃で2〜48時間反応させて得られる。
【0015】
本発明に使用される一般式(1)で表される化合物においてR1としては、水素原子又は(C1〜C5)アルキル基が挙げられるが、(C1〜C5)アルキル基が好ましい。(C1〜C5)アルキル基としては、具体的には、メチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、s−ブチル基、t−ブチル基、n−ペンチル基等が挙げられるが、特にメチル基が好ましい。
【0016】
R2の(C1〜C5)アルキレン基としては、具体的には、メチレン基、エチレン基、トリメチレン基、テトラメチレン基等が挙げられ、エチレン基、トリメチレン基が好ましい。
【0017】
R3としてはメチレン基又はエチレン基が挙げられ、メチレン基が好ましい。
【0018】
R4としては水素原子又は(C1〜C4)アシル基が挙げられ、(C1〜C4)アシル基が好ましく、具体的には、ホルミル基、アセチル基、プロピオニル基、ブチロイル基等が挙げられ、アセチル基が特に好ましい。
【0019】
R5におけるアリール(C1〜C8)アルコキシ基としては、フェニル基、ナフチル基等の芳香族炭化水素基が結合した直鎖あるいは分岐鎖の(C1〜C8)アルコキシ基が挙げられ、具体的には例えば、ベンジルオキシ基、フェネチルオキシ基、フェニルプロポキシ基、フェニルブトキシ基、フェニルペンチルオキシ基、フェニルヘキシルオキシ基、フェニルヘプチルオキシ基、フェニルオクチルオキシ基、ナフチルエトキシ基、ナフチルプロポキシ基、ナフチルブトキシ基、ナフチルペンチルオキシ基等が挙げられる。
【0020】
置換基を有していてもよいアリール(C1〜C8)アルコキシ基における置換基としては、メトキシ基、エトキシ基、イソプロポキシ基、n−ブトキシ基、t−ブトキシ基等の低級アルコキシ基、フッ素原子、塩素原子、臭素原子等のハロゲン原子、ニトロ基、シアノ基等が挙げられる。該置換基の置換数が1〜置換可能な最大数までの、又、置換可能な全ての位置の置換体が本発明に含まれるが、無置換が好ましい。
【0021】
置換基を有していてもよいアリール(C1〜C8)アルコキシ基として好ましくは、無置換フェニル(C1〜C6)アルコキシ基が挙げられ、例えば、無置換ベンジルオキシ基、無置換フェネチルオキシ基、無置換フェニルプロポキシ基、無置換フェニルブトキシ基、無置換フェニルペンチルオキシ基、無置換フェニルヘキシルオキシ基等であり、特に好ましくは無置換ベンジルオキシ基、無置換フェニルブトキシ基である。
【0022】
R6、R7における(C3〜C6)環状アルキル基若しくは三級アミノ基で置換されていてもよい(C1〜C5)アルキル基として具体的には、例えば、シクロプロピル基、シクロペンチル基、シクロヘキシル基、メチル基、エチル基、イソプロピル基、n−ブチル基、3−ジメチルアミノプロピル基、5−ジメチルアミノペンチル基等が挙げられ、エチル基、イソプロピル基、シクロヘキシル基、3−ジメチルアミノプロピル基が好ましく、特にイソプロピル基が好ましい。
【0023】
上記一般式(1)においてmは、ポリアミノ酸構造部分のアミノ酸構造単位の重合数を意味する。ポリアミノ酸構造部分には上記一般式(1)のR5が水酸基、置換基を有していてもよいアリール(C1〜C8)アルコキシ基又は−N(R6)−CO−NHR7である各構造単位と環状イミド構造をとる構造単位が含まれる。
【0024】
上記一般式(1)のR5が水酸基である割合はmの1〜99%、好ましくは10〜90%、特に好ましくは20〜80%であり、置換基を有していてもよいアリール(C1〜C8)アルコキシ基である割合はmの1〜99%、好ましくは10〜90%、特に好ましくは20〜80%であり、−N(R6)−CO−NHR7である割合はmの0〜10%である。
【0025】
本発明に使用される一般式(1)で表される化合物において、nは5〜1000、好ましくは20〜500、特に好ましくは80〜400、mは2〜300、好ましくは10〜100、特に好ましくは15〜60、xは0〜300、好ましくは0〜100、特に好ましくは5〜60、yは0〜300、好ましくは0〜100、特に好ましくは5〜60であり、xとyの和は1以上で且つmより大きくない。
【0026】
本発明に使用される一般式(1)で表される化合物のポリアミノ酸構造部分において、各々のアミノ酸構造単位部分はランダムに結合していてもブロック状に結合していてもよい。
【0027】
次に、一般式(1)で表される化合物とカルボジイミド系化合物との反応について説明する。
【0028】
本反応は溶媒中で行うが、使用する溶媒としては、例えば、ジメチルホルムアミド(DMF)、ジメチルスルホキシド(DMSO)、アセトニトリル、テトラヒドロフラン、ジオキサン等の極性溶媒、ベンゼン、n−ヘキサン、ジエチルエーテル等の非極性溶媒が挙げられ、更に水あるいはそれらの混合溶媒等、特に限定されない。溶媒の使用量は、通常、原料化合物に対して1〜500重量倍程度用いる。
【0029】
上記反応に使用するカルボジイミド系化合物としては、(C3〜C6)環状アルキル基若しくは三級アミノ基で置換されていてもよい(C1〜C5)アルキル基を有するカルボジイミド系化合物が挙げられ、具体的には例えば、ジエチルカルボジイミド、1−エチル−3−(3−ジメチルアミノプロピル)カルボジイミド(EDC)、1−エチル−3−(3−ジメチルアミノプロピル)カルボジイミド塩酸塩(EDC・HCl)、ジシクロヘキシルカルボジイミド(DCC)、ジイソプロピルカルボジイミド(DIPCI)等が挙げられ、好ましくはDCC又はDIPCIであり、特に好ましくはDIPCIである。
【0030】
上記反応におけるカルボジイミド系化合物の使用量は、アミノ酸構造単位の重合数であるmを基に、一般式(1)で表される化合物に対してm当量〜5m当量であり、更に好ましくはm当量〜3m当量である。即ち、一般式(1)で表される化合物のモル数に対しては、m倍モル〜5m倍モル、好ましくはm倍モル〜3m倍モル使用すればよい。
【0031】
この際、N−ヒドロキシサクシンイミド、1−ヒドロキシベンゾトリアゾール(HOBt)、N−ヒドロキシ−5−ノルボルネン−2,3−ジカルボン酸イミド(HOBN)、4−ジメチルアミノピリジン(DMAP)、N,N−ジイソプロピルエチルアミン、トリエチルアミン等の反応助剤を共存させてもよく、中でもDMAPが好ましい。反応助剤を使用する場合、その使用量は一般式(1)で表される化合物に対して0.1m〜5m当量程度、好ましくは0.2m〜2m当量程度である。
【0032】
反応温度は30〜60℃で行うのが好ましく、特に好ましくは30〜40℃である。反応時間は2〜48時間、好ましくは6〜36時間である。
【0033】
一般式(1)で表される化合物の製造法は特に限定されないが、例えば、特許文献3又は特許文献4に記載の方法を応用して、R5が置換基を有していてもよいアリール(C1〜C8)アルコキシ基である化合物を酸又はアルカリにより部分加水分解する方法が挙げられる。
【0034】
又、一般式(1)で表される化合物は、上記一般式(2)[式中、R1は水素原子又は(C1〜C5)アルキル基を示し、R2は(C1〜C5)アルキレン基を示し、R3はメチレン基又はエチレン基を示し、R4は水素原子又は(C1〜C4)アシル基を示し、nは5〜1000、xは0〜300、yは0〜300を示し、ただし、xとyの和は2〜300である]で表される化合物と、置換基を有していてもよいアリール(C1〜C8)アルキルアルコール又は置換基を有していてもよいアリール(C1〜C8)アルキルハライドとを反応させることによっても得られる。
【0035】
上記一般式(2)の化合物において、R1、R2、R3及びR4は上記一般式(1)の場合と同様の基であり、好ましい基も上記一般式(1)の場合と同様である。
【0036】
上記一般式(2)の化合物において、n、x及びyは上記一般式(1)と同様の範囲が好ましい。
【0037】
上記一般式(2)で表される化合物と置換基を有していてもよいアリール(C1〜C8)アルキルアルコールとの反応としては、具体的には、溶媒中、カルボジイミド系化合物存在下での脱水縮合反応が挙げられる。
【0038】
置換基を有していてもよいアリール(C1〜C8)アルキルアルコールとは、前記の置換基を有していてもよいアリール(C1〜C8)アルコキシ基に対応するアルコールである。
【0039】
本反応に使用するアリール(C1〜C8)アルキルアルコールの使用量は、上記一般式(2)中のカルボキシル基の量(即ち、xとyの和)に対して0.01〜5当量、好ましくは0.1〜3当量、特に好ましくは0.15〜2当量である。
【0040】
本反応に使用する溶媒は、前記の一般式(1)で表される化合物とカルボジイミド系化合物との反応に使用される溶媒と同様であり、使用量も同程度である。
【0041】
本反応に使用するカルボジイミド系化合物も前記のカルボジイミド系化合物と同様の化合物を使用することができ、その使用量も前記と同程度でよい。又、反応助剤も前記の反応助剤を使用することができ、その使用量も前記と同程度でよい。
【0042】
反応温度は5〜35℃で行うのが好ましく、特に好ましくは15〜30℃である。反応時間は2〜48時間、好ましくは6〜36時間である。
【0043】
上記一般式(2)で表される化合物と置換基を有していてもよいアリール(C1〜C8)アルキルハライドとの反応としては、具体的には、溶媒中、塩基存在下での親核置換反応によるアルキル化反応が挙げられる。
【0044】
置換基を有していてもよいアリール(C1〜C8)アルキルハライドとは、前記の置換基を有していてもよいアリール(C1〜C8)アルキルアルコールの水酸基がハロゲン原子に置き換わった化合物である。
【0045】
置換基を有していてもよいアリール(C1〜C8)アルキルハライドにおけるハロゲン原子としては、フッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子等が挙げられ、好ましくは臭素原子、ヨウ素原子である。
【0046】
本反応に使用するアリール(C1〜C8)アルキルハライドの使用量は、上記一般式(2)中のカルボキシル基の量(xとyの和)に対して0.01〜5当量、好ましくは0.1〜3当量、特に好ましくは0.15〜2当量である。
【0047】
本反応に使用する溶媒は、前記の一般式(1)で表される化合物とカルボジイミド系化合物との反応に使用される溶媒と同様であり、使用量も同程度である。
【0048】
本反応に使用する塩基としては、例えば、トリエチルアミン、N,N−ジイソプロピルエチルアミン、1,8−ジアザビシクロ[5.4.0]ウンデカ−7−エン(DBU)等の3級アミンが挙げられ、特に好ましくはN,N−ジイソプロピルエチルアミン、DBUである。
【0049】
その使用量は、一般式(2)で表される化合物のカルボキシル基の量(xとyの和)に対して0.1〜5当量程度であり、更に好ましくは0.2〜2当量である。
【0050】
本反応は5〜60℃で行なうのが好ましく、特に好ましくは15〜40℃である。
【0051】
反応時間は2〜48時間、好ましくは6〜36時間で行なう。
【0052】
置換基を有していてもよいアリール(C1〜C8)アルキルアルコールあるいは置換基を有していてもよいアリール(C1〜C8)アルキルハライドは、市販されている化合物を用いてもよく、又、公知の有機合成法により調製される化合物、公知の有機反応を適用して調製される化合物を用いることもできる。
【0053】
置換基を有していてもよいアリール(C1〜C8)アルキルアルコールあるいは置換基を有していてもよいアリール(C1〜C8)アルキルハライドとしては、前記の置換基を有していてもよいアリール(C1〜C8)アルコキシ基に対応した化合物が挙げられ、好ましい化合物も同様である。
【0054】
置換基を有していてもよいアリール(C1〜C8)アルキルアルコールあるいは置換基を有していてもよいアリール(C1〜C8)アルキルハライドとして好ましくは、無置換ベンジルアルコール、無置換フェネチルアルコール、無置換フェニルプロパノール、無置換フェニルブタノール、無置換フェニルペンタノール、無置換フェニルヘキサノール、無置換ベンジルブロミド、無置換フェネチルブロミド、無置換フェニルプロピルブロミド、無置換フェニルブチルブロミド、無置換フェニルペンチルブロミド等であり、特に好ましくは無置換ベンジルアルコール、無置換フェニルブタノール、無置換ベンジルブロミド等である。
【0055】
上記一般式(2)で表される化合物と、置換基を有していてもよいアリール(C1〜C8)アルキルアルコールあるいは置換基を有していてもよいアリール(C1〜C8)アルキルハライドとを反応させて得られる側鎖カルボン酸の部分エステル化物に、次いで、一般式(2)で表される化合物に対して(x+y)当量〜5(x+y)当量のカルボジイミド系化合物を溶媒中30〜60℃、好ましくは30〜40℃で2〜48時間反応させて得られるブロック共重合体、即ち、一般式(2)で表される化合物から2段階反応で得られるブロック共重合体も本発明に含まれる。
【0056】
該反応は、前記の一般式(1)で表される化合物とカルボジイミド系化合物との反応と同様な溶媒及び反応条件で行えばよく、好ましい反応条件も同様である。即ち、カルボジイミド系化合物の使用量は、一般式(2)で表される化合物に対して(x+y)当量〜5(x+y)当量、好ましくは(x+y)当量〜3(x+y)当量である。
【0057】
上記一般式(2)の化合物の製造方法としては、例えば、特許文献2に記載された方法がある。
【0058】
本発明には、上記一般式(3)[式中、R1は水素原子又は(C1〜C5)アルキル基を示し、R2は(C1〜C5)アルキレン基を示し、R3はメチレン基又はエチレン基を示し、R4は水素原子又は(C1〜C4)アシル基を示し、R5は水酸基、置換基を有していてもよいアリール(C1〜C8)アルコキシ基又は−N(R6)−CO−NHR7を示し、R6、R7は同一でも異なっていてもよく(C3〜C6)環状アルキル基若しくは三級アミノ基で置換されていてもよい(C1〜C5)アルキル基を示し、nは5〜1000、mは2〜300、x'は0〜300、y'は0〜300を示す、ただし、x'とy'の和は1以上で且つmより大きくないものとし、R5が水酸基である割合がmの0〜88%であり、置換基を有していてもよいアリール(C1〜C8)アルコキシ基である割合がmの1〜89%であり、−N(R6)−CO−NHR7である割合がmの11〜30%である]で表されるブロック共重合体も含まれる。一般式(3)で表される化合物には一般式(1)で表される化合物とカルボジイミド系化合物との反応で得られるブロック共重合体も含まれる。
【0059】
上記一般式(3)の化合物において、R1、R2、R3、R4、R5、R6、R7は、上記一般式(1)のそれらと同様であり、好ましい基も同様である。即ち、R1がメチル基、R2がトリメチレン基、R3がメチレン基、R4がアセチル基であり、R5における置換基を有していてもよいアリール(C1〜C8)アルコキシ基がベンジルオキシ基又は4−フェニル−1−ブトキシ基、R6、R7がイソプロピル基であるブロック共重合体が好ましい。
【0060】
上記一般式(3)の化合物において、mは上記一般式(1)の場合と同様な意味を示し、n及びmは上記一般式(1)と同様の範囲が好ましく、x'は0〜300、好ましくは0〜100、特に好ましくは5〜40、y'は0〜300、好ましくは0〜100、特に好ましくは5〜40を示すが、x'とy'の和は1以上で且つmより大きくないものである。
【0061】
上記一般式(3)の化合物のR5が水酸基である割合は、mに対して0〜88%、好ましくは0〜75%、特に好ましくは0〜50%であり、アリール(C1〜C8)アルコキシ基である割合はmの1〜89%、好ましくは10〜80%、特に好ましくは20〜70%であり、−N(R6)−CO−NHR7である割合はmの11〜30%である。
【0062】
上記一般式(3)の化合物のR5が水酸基である割合がmの0%が殊更に好ましい。即ち、水酸基の割合がmの0%とは、一般式(3)の化合物がカルボン酸としての性質を有しないことを意味し、具体的には後記するように、陰イオン交換カラムを用いた高速液体クロマトグラフによる分析においてカラムに保持されないことにより示される。
【0063】
更に、本発明には当該ブロック共重合体と難水溶性抗癌剤とから形成されるミセル調製物も含まれる。
【0064】
ミセル調製物に含有される当該ブロック共重合体の形態としては、ブロック共重合体がカルボキシル基を有する場合、その一部又は全部がイオン解離して生じる塩でもよい。該塩としてはアルカリ金属塩、アルカリ土類金属塩、アンモニウム塩、有機アンモニウム塩等が挙げられ、例えば具体的には、ナトリウム塩、カリウム塩、カルシウム塩、アンモニウム塩、トリエチルアンモニウム塩等が挙げられる。
【0065】
上記の難水溶性抗癌剤とは、それ自体では室温、常圧等の環境下で等量の水に実質的に溶解しないか、あるいは同量の水とクロロホルムとの溶媒系では優先してクロロホルム相に分配されるような抗癌剤を意味する。このような抗癌剤としては、例えば、アドリアマイシン等のアンスラサイクリン系抗癌剤、パクリタキセル、ドセタキセル等のタキサン系抗癌剤、ビンクリスチン等のビンカアルカロイド系抗癌剤、メソトレキセ−ト又はそれらの誘導体等を挙げることができるが、特にタキサン系抗癌剤、中でもパクリタキセルが挙げられる。パクリタキセルの水に対する溶解度は1μg/mL以下である。
【0066】
本発明のミセル調製物に含まれる該ブロック共重合体と難水溶性抗癌剤との重量比は1000:1〜1:1であり、100:1〜1.5:1が好ましく、20:1〜2:1が特に好ましい。しかしながら、該ミセル調製物が水溶性であれば、可能な限り難水溶性抗癌剤を多く含有させてもよい。
【0067】
上記ミセル調製物は、例えば、以下の方法によって調製される。
a法:攪拌による薬物の封入法
難水溶性抗癌剤を、必要により水混和性の有機溶媒に溶解して、ブロック共重合体分散水溶液と攪拌混合する。なお、攪拌混合時に加熱してもよい。
b法:溶媒揮散法
難水溶性抗癌剤の水非混和性の有機溶媒溶液をブロック共重合体分散水溶液中に混和し、攪拌しながら有機溶媒を揮散させる。
c法:透析法
水混和性の有機溶媒に難水溶性抗癌剤及びブロック共重合体を溶解した後、得られる溶液を、透析膜を用いて緩衝液及び/又は水中にて透析する。
d法:その他の方法
水非混和性の有機溶媒に難水溶性抗癌剤及びブロック共重合体を溶解し、得られる溶液を水と混合し、攪拌して水中油(O/W)型エマルジョンを形成し、次いで有機溶媒を揮散させる。
【0068】
c法によるミセルの調製方法は、具体的には例えば、特許文献1等に記載がある。
【0069】
有機溶媒を揮散させるb法及びd法について、より具体的に説明すると、水非混和性の有機溶媒とは、例えば、特許文献3における高分子ミセルの形成に使用されている水と実質的に自由に混和しうるDMF、DMSO、アセトニトリル等に対立する概念の溶媒を意味し、特に限定されるものでないが、クロロホルム、塩化メチレン、トルエン、キシレン、及びn−ヘキサン等又はそれらの混合溶媒を挙げることができる。
【0070】
水非混和性の有機溶媒と、水性媒体、即ち、水(純水もしくはイオン交換水を含む)又は糖類や安定化剤、食塩、緩衝剤等を含む等張化若しくは緩衝化された水溶液、とを混合する。この際、O/W型のエマルションを形成するのに悪影響を及ぼさない限り、水混和性の有機溶媒や他の無機塩(例えば硫酸ナトリウム等)を少量含んでいてもよい。
【0071】
通常、水非混和性有機溶媒と水性媒体とは、容量比で1:100、好ましくは1:10となるように混合する。この混合手段としては、各種乳化物を作成するのに常用されている手段、機械的撹拌機、振盪機、超音波照射器等が使用できる。この際の操作温度は限定されるものではないが、薬物の温度安定性、溶媒の沸点等を考慮して、約−5℃〜約40℃の範囲に設定するのが好ましい。
【0072】
続いて、開放系で上記混合操作を継続するか、あるいは撹拌しながら減圧下で有機溶媒を蒸発除去(又は揮散除去)する。
【0073】
ミセル調製物の水溶液はそのまま、あるいはミセル調製物が会合ないしは凝集している可能性のある場合には超音波処理した後に、不溶物や析出物をろ過処理してもよい。使用するろ過膜に制限はないが、好ましくは孔径が0.1〜1μm程度の膜である。
【0074】
本発明のミセル調製物は水性媒体中で安定であり、又、本発明により難水溶性抗癌剤の水性媒体中における薬物濃度を高めることができる。
【0075】
更にこのミセル調製物の水性媒体中での濃度を高めるために、減圧濃縮や限外ろ過処理あるいは凍結乾燥等を施すことも可能である。
【0076】
ミセル調製物において難水溶性抗癌剤とブロック共重合体の総重量当たりの難水溶性抗癌剤の濃度は0.1〜50重量%、好ましくは1〜40重量%、特に好ましくは5〜35重量%であり、ミセル調製物の水溶液1mL当たり、薬物量を約0.01mg以上、好ましくは約0.1mg以上、特に好ましくは約1mg以上とすることができる。
【0077】
本発明のミセル調製物は、水性媒体中でポリエチレングリコール構造部分を外側にするミセルとなり、そのミセルの内側の疎水性部分に難水溶性抗癌剤を包含するものである。ミセルの粒径は市販の光散乱粒度測定装置で測定可能であり、平均粒径として好ましくは10〜200nmであり、特に好ましくは20〜120nmである。
【0078】
上記の難水溶性抗癌剤含有ミセル調製物を有効成分とする抗癌剤も又、本発明に含まれる。該ミセル調製物を医薬製剤として投与する場合、その投与量は患者の年齢、体重、症状、治療目的等により異なるが、凡そ10〜500mg/Body/dayである。投与する医薬製剤には薬理学的に許容される添加剤を含んでいてもよく、医薬的に許容される溶媒に溶解して投与してもよい。又、該ミセル調製物を凍結乾燥したものも本発明に含まれる。
【実施例】
【0079】
以下、具体的な実施例を示し、本発明を説明するが、本発明は以下の例によって限定されるものではない。本実施例中、HPLCは高速液体クロマトグラフィーを、NMRは水素核磁気共鳴スペクトルを意味し、NMRは2,2,3,3−重水素化−3−(トリメチルシリル)プロピオン酸ナトリウムを内部標準とし、下記溶媒中、BRUKER社製装置(400MHz)で測定した。
【0080】
実施例1 ブロック共重合体2の製造
特許文献2に記載された方法にて製造したPEG(平均分子量12000)−pAsp(ポリアスパラギン酸;平均重合数40)−Ac(上記一般式(2)のR1がメチル基、R2がトリメチレン基、R3がメチレン基、R4がアセチル基、nが約272、xが約10、yが約30、以下PEG−pAsp−Acと略す)42.00gにDMF(630mL)を加え、25℃で溶解し、DMAP(9.90g)及び4−フェニル−1−ブタノール(10.93mL)、DIPCI(15.86mL)を添加し、同温度で24時間反応させた。この反応液に酢酸エチル1.58L、次いで、ヘキサン4.73Lを加え沈殿をろ過回収し、減圧乾燥して粗結晶49.56gを得た。この粗結晶を50%含水アセトニトリルに溶解後、陽イオン交換樹脂ダウエックス50w8(ダウ・ケミカル社製)300mLに通液し、更に、50%含水アセトニトリルで洗浄した。溶出液を減圧濃縮後、凍結乾燥してブロック共重合体1を48.25g得た。
【0081】
このブロック共重合体1(19.5mg)をアセトニトリル2mLに溶解し、0.5N水酸化ナトリウム水溶液2mLを加え、室温で20分攪拌してエステル結合を加水分解した後、酢酸0.5mLで中和し、50%含水アセトニトリルで液量を25mLに調製した。調製液を逆相HPLCにて遊離した4−フェニル−1−ブタノールを定量した。分析の結果、エステル結合した4−フェニル−1−ブタノールは上記一般式(1)のm(ブロック共重合体のポリアスパラギン酸構造部分の重合数)の54%であった。
【0082】
次に、このブロック共重合体1を下記測定条件における陰イオン交換HPLCで測定し、保持時間17.4分にピークが検出された。
陰イオン交換HPLC測定条件
カラム:TSKgel DEAE―5PW(東ソー株式会社製)
サンプル濃度:10mg/mL
注入量:20μL
カラム温度:40℃
移動相
(A)20mMトリス塩酸緩衝液(pH8.0):アセトニトリル=80:20
(B)20mMトリス塩酸緩衝液+1M塩化ナトリウム水溶液(pH8.0):アセトニトリル=80:20
流速:1mL/min
グラジエント条件 B%(分):10(0)、10(5)、100(40)、10(40.1)、stop(50.1)
検出器:紫外可視分光光度計検出器(検出波長260nm)
【0083】
又、このブロック共重合体1を重水素化水酸化ナトリウム(NaOD)−重水(DO)−重水素化アセトニトリル(CDCN)の混合溶液で溶解し、NMRを測定したところ、−N(i−Pr)−CO−NH(i−Pr)(上記一般式(1)の−N(R6)−CO−NHR7におけるR6及びR7がイソプロピル基に相当する)の部分構造はmの6%であった。
【0084】
上記で得られたブロック共重合体1(47.32g)にDMF946mLを加え、35℃で溶解し、DMAP(7.23g)及びDIPCI(14.37mL)を添加し、同温度で20時間反応させた。この反応液に酢酸エチル2.4L、次いでヘキサン7.1Lを加え沈殿をろ過回収して、減圧乾燥し粗結晶44.89gを得た。この粗結晶を50%含水アセトニトリルに溶解後、陽イオン交換樹脂ダウエックス50w8(Dowex50w8)(300mL)に通液し、更に、50%含水アセトニトリルで洗浄した。溶出液を減圧濃縮後、凍結乾燥して本発明のブロック共重合体2を43.54g得た。
【0085】
このブロック共重合体2(27.6mg)を上記と同様の方法で加水分解し、逆相HPLCにて測定したところ、エステル結合した4−フェニル−1−ブタノールはmの49%であった。
【0086】
このブロック共重合体2を上記と同様の条件で陰イオン交換HPLCにて測定したところ、カラムに保持されるピークは認められなかった。
【0087】
又、このブロック共重合体2を上記と同様の条件でNMRを測定したところ、−N(i−Pr)−CO−NH(i−Pr)の部分構造はmの14%であった。
【0088】
比較例1 ブロック共重合体3の製造
特許文献2に記載された方法にて製造したPEG−pAsp−Ac(10.00g)にDMF200mLを加え、35℃で溶解し、DMAP(2.20g)及び4−フェニル−1−ブタノール(3.47mL)、DIPCI(3.70mL)を添加し、同温度で20時間反応させた。この反応液に酢酸エチル0.5L、次いで、ヘキサン1.5Lを加え沈殿をろ過回収して、減圧乾燥し粗結晶11.67gを得た。この粗結晶を50%含水アセトニトリルに溶解後、陽イオン交換樹脂ダウエックス50w8(100mL)に通液してDMAP等を除去し、更に、50%含水アセトニトリルで洗浄した。溶出液を減圧濃縮後、凍結乾燥してブロック共重合体3を11.35g得た。
【0089】
このブロック共重合体3(29.7mg)を実施例1と同様の方法で加水分解し、逆相HPLCにて測定したところ、エステル結合した4−フェニル−1−ブタノールはmの49%であった。
【0090】
このブロック共重合体3を実施例1と同様の条件で陰イオン交換HPLCにて測定し、保持時間13.8分にピークが検出された。
【0091】
次に、このブロック共重合体3を実施例1と同様の条件でNMRを測定したところ、−N(i−Pr)−CO−NH(i−Pr)の部分構造はmの7%であった。
【0092】
実施例2 ブロック共重合体5の製造
特許文献2に記載された方法にて製造したPEG−pAsp−Ac(3.0g)をDMF(120mL)に溶解し、臭化ベンジル(0.60mL)及び1,8−ジアザビシクロ[5.4.0]ウンデカ−7−エン(0.75mL)を加え、35℃にて17時間反応させた。この反応液をジイソプロピルエーテル:エタノール(4:1)混液(1.2L)に滴下し、沈殿をろ過回収して減圧乾燥し粗結晶3.17gを得た。この粗結晶を30%アセトニトリル水溶液に溶解後、陽イオン交換樹脂ダウエックス50w8(40mL)に通液し、更に、30%アセトニトリルで洗浄した。溶出液を減圧濃縮後、凍結乾燥してブロック共重合体4を2.99g得た。
【0093】
このブロック共重合体4(19.5mg)を実施例1と同様の方法で加水分解し、逆相HPLCにて測定したところ、エステル結合したベンジルアルコールはmの32%であった。
【0094】
このブロック共重合体4を実施例1と同様の条件で陰イオン交換HPLCにて測定し、保持時間22.9分にピークが検出された。
【0095】
又、このブロック共重合体4を実施例1と同様の条件でNMRを測定したところ、−N(i−Pr)−CO−NH(i−Pr)の部分構造は認められなかった。
【0096】
上記で得られたブロック共重合体4(300mg)にDMF(6mL)を加え、35℃で溶解し、DMAP(63.9mg)及びDIPCI(102μL)を添加し、同温度で24時間反応させた。この反応液に酢酸エチル30mL、次いでヘキサン90mLを加え、沈殿をろ過回収して減圧乾燥し粗結晶299mgを得た。この粗結晶を50%含水アセトニトリルに溶解後、陽イオン交換樹脂ダウエックス50w8(15mL)に通液し、更に、50%含水アセトニトリルで洗浄した。溶出液を減圧濃縮後、凍結乾燥して本発明のブロック共重合体5を284mg得た。
【0097】
このブロック共重合体5(19.8mg)を実施例1と同様の方法で加水分解し、逆相HPLCにて測定したところ、エステル結合したベンジルアルコールはmの21%であった。
【0098】
このブロック共重合体5を実施例1と同様の条件で陰イオン交換HPLCにて測定したところ、カラムに保持されるピークは認められなかった。
【0099】
又、このブロック共重合体5を実施例1と同様の条件でNMRを測定したところ、−N(i−Pr)−CO−NH(i−Pr)の部分構造はmの15%であった。
【0100】
実施例3 ブロック共重合体7の製造
特許文献2に記載された方法にて製造したPEG−pAsp−Ac(2.0g)にDMF(30mL)を加え、25℃で溶解し、DMAP(0.472g)及びベンジルアルコール(499μL)、DIPCI(755μL)を添加し、同温度で21時間反応させた。この反応液に酢酸エチル75mL、次いでヘキサン225mLを加え、沈殿をろ過回収して減圧乾燥し粗結晶2.28gを得た。この粗結晶を50%含水アセトニトリルに溶解後、陽イオン交換樹脂ダウエックス50w8(30mL)に通液し、更に、50%含水アセトニトリルで洗浄した。溶出液を減圧濃縮後、凍結乾燥してブロック共重合体6を2.10g得た。
【0101】
このブロック共重合体6(35.5mg)を実施例1と同様の方法で加水分解し、逆相HPLCにて測定したところ、エステル結合したベンジルアルコールはmの60%であった。
【0102】
このブロック共重合体6を実施例1と同様の条件で陰イオン交換HPLCにて測定し、保持時間17.2分にピークが検出された。
【0103】
又、このブロック共重合体6を実施例1と同様の条件でNMRを測定したところ、−N(i−Pr)−CO−NH(i−Pr)の部分構造はmの5%であった。
【0104】
上記で製造されたブロック共重合体6(300mg)をDMF(6mL)に溶解し、35℃でDMAP(60.9mg)、DIPCI(97.6μL)を添加し、18時間反応させた。この反応液に酢酸エチル30mL、次いで、ヘキサン90mLを加え沈殿をろ過して、減圧乾燥し粗結晶290mgを得た。この粗結晶を50%含水アセトニトリルに溶解後、陽イオン交換樹脂ダウエックス50w8(5mL)に通液し、更に、50%含水アセトニトリルで洗浄した。溶出液を減圧濃縮後、凍結乾燥して本発明のブロック共重合体7を282.5mg得た。
【0105】
このブロック共重合体7(36.1mg)を実施例1と同様の方法で加水分解し、逆相HPLCにて測定したところ、エステル結合したベンジルアルコールはmの37%であった。
【0106】
このブロック共重合体7を実施例1と同様の条件で陰イオン交換HPLCにて測定したところ、カラムに保持されるピークは認められなかった。
【0107】
又、このブロック共重合体7を実施例1と同様の条件でNMRを測定したところ、−N(i−Pr)−CO−NH(i−Pr)の部分構造はmの12%であった。
【0108】
実施例1〜3及び比較例1で得られたブロック共重合体について結果を表1にまとめた。
【0109】
【表1】

陰イオン交換HPLCにおける未検出とは、保持されたピークが認められなかったことを意味する。
【0110】
表1に示すようにブロック共重合体2、5及び7は、ブロック共重合体1、4及び6に比べてエステル結合の割合が低く、陰イオン交換HPLCでの測定においてカラムに保持されなかった。一方、ブロック共重合体3(比較例1)は陰イオン交換HPLCでの測定においてカラムに保持されるピークが認められた。陰イオン交換HPLCにおいて保持されないことは、ブロック共重合体2、5及び7は実質的にカルボン酸構造を有しないことを示している。又、NMR測定の結果からブロック共重合体2、5及び7における−N(i−Pr)−CO−NH(i−Pr)構造部分の割合がブロック共重合体1、4及び6に比して増加し、又、実施例1のブロック共重合体2の−N(i−Pr)−CO−NH(i−Pr)構造部分の割合は比較例1のそれより7%も多い。
【0111】
実施例4 ミセル調製物(薬剤:パクリタキセル)の製造
スクリュー管瓶に実施例1のブロック共重合体2を300mg秤量し、40mg/mLマルトース水溶液30mLを加え撹拌し分散液とした後、撹拌しながら4℃まで冷却した。更に、30mg/mLパクリタキセルのジクロロメタン溶液3mLを加え、密栓せず冷蔵庫内で16時間撹拌し、超音波処理(130W、10分間)をし、ミセル調製物を得た。そのパクリタキセル濃度は2.2mg/mLであった。又、光散乱粒子測定装置(パーティクル・サイジング・システム社製)による平均粒子径は57.8nmであった。
【0112】
試験例1 ブロック共重合体投与時のマウスの体重変動
雌性CDF1マウスに対してブロック共重合体1又はブロック共重合体2を5%ブドウ糖注射液で溶解してマウス尾静脈より333mg/kgの用量を投与し、投与1日後の体重変動を計測した。対照群として同量の生理食塩水を投与した。結果を表2に示す。
【0113】
【表2】

表2に見られるように、ブロック共重合体1の投与群は投与1日後の体重が5%以上減少したが、ブロック共重合体2の投与群では対照群である生理食塩水投与群と同様に体重が増加した。この結果から本発明のブロック共重合体はマウスに対する毒性が低減していることが明らかとなった。
【0114】
試験例2 Colon26に対するin vivo抗腫瘍効果
雌性CDF1マウスの背側部皮下にマウス結腸癌Colon26細胞を移植し、腫瘍の体積が100mm前後に達した時点から実施例4のミセル調製物又は対照薬としてパクリタキセル単剤をマウス尾静脈より4日間隔で3回投与し、進行癌に対する効果を検討した。ミセル調製物は5%ブドウ糖液で希釈し、3mg/mLのパクリタキセル換算濃度の溶液とした。パクリタキセル単剤はエタノールで溶解後、エタノールと等量のクレモホール(シグマ社製)を加え、パクリタキセル濃度が30mg/mLになるように調製し、投与直前に生理食塩水で希釈し3mg/mLとした。各薬剤の抗腫瘍効果は、投与後11日目の薬剤未投与群の平均腫瘍体積に対する薬剤投与群の平均腫瘍体積の百分率(T/C%)で判定した。数値が小さいほど有効であることを示す。結果を表3に示す。
【0115】
【表3】

表3から明らかなように、パクリタキセル単剤は1日投与量100、50mg/kg投与群で投与後11日目の薬剤未投与群に対する腫瘍体積が52.6%、81.6%を示したが、本発明のミセル調製物は1日投与量100、75、50mg/kg投与群で8.4、22.1、30.7%であり、本発明のミセル調製物が高い抗腫瘍効果を有することを示した。
【0116】
試験例3 マウス血漿及び腫瘍中のパクリタキセル濃度の推移
各薬剤は試験例2(Colon26に対するin vivo抗腫瘍効果)と同様の方法で調製した。パクリタキセル50mg/kg相当のミセル調製物又はパクリタキセル単剤を、マウス結腸癌Colon26を背部移植した雌性CDF1マウスの尾静脈より投与後、所定時間に腋下動脈より全採血した。遠心分離して得た血漿0.01mLに水0.2mL及びアセトニトリル1mLを加えて除たん白処理(3回)した後、t−ブチルメチルエーテル2mLを加えて液−液抽出した。有機層を回収し、乾固後、HPLC用溶解液0.4mLに溶解してHPLCによりパクリタキセル濃度を測定した。腫瘍は0.5%酢酸を加えてホモジナイズし、1%腫瘍ホモジネートを調製した後、1%腫瘍ホモジネート0.1mLに水0.1mL及びアセトニトリル1mLを加えて除たん白処理(3回)した後、t−ブチルメチルエーテル2mLを加えて液−液抽出した。有機層を濃縮し、HPLC用溶解液0.4mLに溶解してHPLCによりパクリタキセル濃度を測定した。結果を表4及び5に示す。
【0117】
【表4】

【0118】
【表5】

【0119】
表4から明らかなように、本発明のミセル調製物はパクリタキセル単剤を投与した場合と比較して高い血漿中濃度の維持が長時間にわたって認められた。
【0120】
又、表5から明らかなように、腫瘍中のパクリタキセル濃度は本発明のミセル調製物がパクリタキセル単剤と比較して高濃度を長時間維持し、本発明のミセル調製物によるパクリタキセルの腫瘍集積性が示された。
【0121】
試験例4 マウスに対する末梢神経障害(伸展反射)の観察
雌性CDF1マウスに対して本発明のミセル調製物又はパクリタキセル単剤を5日間連続してマウス尾静脈より投与し、パクリタキセルの末梢神経障害の指標となるマウス後肢の伸展反射を観察した。各薬剤は試験例2(Colon26に対するin vivo抗腫瘍効果)と同様の方法で調製した。投与量はパクリタキセル換算量で30mg/kgとした。結果を表6に示す。
【0122】
【表6】

表6から明らかなように、パクリタキセル単剤では30mg/kg投与群で全匹に伸展反射の消失が認められた。一方、ミセル調製物では30mg/kg投与群において全匹に伸展反射の消失が認められなかった。本発明のミセル調製物はパクリタキセル単剤と比較し、パクリタキセルの副作用である末梢神経毒性が軽減されている。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記一般式(3)
【化1】

[式中、R1は水素原子又は(C1〜C5)アルキル基を示し、R2は(C1〜C5)アルキレン基を示し、R3はメチレン基又はエチレン基を示し、R4は水素原子又は(C1〜C4)アシル基を示し、R5は水酸基;メトキシ基、エトキシ基、イソプロポキシ基、n−ブトキシ基、t−ブトキシ基、フッ素原子、塩素原子、臭素原子、ニトロ基及びシアノ基からなる群から選ばれる置換基を有していてもよいアリール(C1〜C8)アルコキシ基又は−N(R6)−CO−NHR7を示し、R6、R7は同一でも異なっていてもよく(C3〜C6)環状アルキル基若しくは三級アミノ基で置換されていてもよい(C1〜C5)アルキル基を示し、nは5〜1000、mは2〜300、x'は0〜300、y'は0〜300を示す。ただし、x'とy'の和は1以上で且つmより大きくないものとし、R5が水酸基である割合がmの0〜88%であり、上記アリール(C1〜C8)アルコキシ基である割合がmの1〜89%であり、−N(R6)−CO−NHR7である割合がmの11〜30%である]
で表されるブロック共重合体と難水溶性抗癌剤とから形成されるミセル調製物。
【請求項2】
R1がメチル基、R2がトリメチレン基、R3がメチレン基、R4がアセチル基であり、R5における上記アリール(C1〜C8)アルコキシ基がベンジルオキシ基又は4−フェニル−1−ブトキシ基、R6、R7がイソプロピル基であり、nが20〜500、mが10〜100、x'が0〜100、y'が0〜100である請求項1に記載のミセル調製物。
【請求項3】
R5が水酸基である割合がmの0〜75%であり、上記アリール(C1〜C8)アルコキシ基である割合がmの10〜80%であり、−N(R6)−CO−NHR7である割合がmの11〜30%である請求項1又は2に記載のミセル調製物。
【請求項4】
R5が水酸基である割合がmの0%である請求項3に記載のミセル調製物。
【請求項5】
難水溶性抗癌剤がタキサン系抗癌剤である請求項1〜4のいずれか1項に記載のミセル調製物。
【請求項6】
タキサン系抗癌剤がパクリタキセルである請求項5に記載のミセル調製物。
【請求項7】
請求項1〜6のいずれか1項に記載のミセル調製物を有効成分とする抗癌剤。

【公開番号】特開2011−173908(P2011−173908A)
【公開日】平成23年9月8日(2011.9.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−96822(P2011−96822)
【出願日】平成23年4月25日(2011.4.25)
【分割の表示】特願2006−536368(P2006−536368)の分割
【原出願日】平成17年9月16日(2005.9.16)
【出願人】(000004086)日本化薬株式会社 (921)
【Fターム(参考)】