説明

新規ペプチド

【課題】
ACE阻害活性に優れたペプチドを提供する。
【解決手段】
大豆中の微量蛋白質である大豆ホエー蛋白質を基質にしてプロテアーゼで分解することにより、ACE阻害活性が高いペプチドVal-Lys-Proを得られることを見出し、これに基づき本発明を完成するに至った。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、新規ペプチドに関し、特にアンジオテンシン変換酵素(Angiotensin Converting Enzyme、以下「ACE」と称する)阻害活性を有する、新規生理活性ペプチドに関する。
【背景技術】
【0002】
動植物性蛋白質を加水分解したペプチドが様々な生理活性を有することが着目され、近年では生理活性を発現するペプチドのアミノ酸配列を特定する研究が盛んとなっており、その配列も明らかにされつつあるが、アミノ酸配列には無数の組合せがあるため、特定の配列を有するペプチドに新たな生理活性を見出すことは依然として有意義なことである。
【0003】
上記ペプチドの生理活性に関する研究の中で最も多くの研究がなされているのは、血圧に関するものである。
代表的な生活習慣病とされている高血圧症は、年々その患者数が増加しており、以前からその原因究明および有効な対策について研究がなされて来た。高血圧症の発症には、レニン・アンジオテンシン系と呼ばれる昇圧酵素系(非特許文献1)とカリクイン・キニン系と呼ばれる降圧酵素系が重要な役割を果たしている。
【0004】
それによると、その酵素系において、ACEは、アンジオテンシンIを強力な昇圧ペプチドであるアンジオテンシンIIに変換するとともに、降圧ペプチドであるブラジキニンを不活性化する作用を示し、血圧上昇に深く関与する。
【0005】
従って、ACEの活性を阻害することは血圧上昇を抑制する作用と密接な相関があり、この認識に立って、これまでACE阻害活性を有する種々の物質が検索され、報告されてきた。
【0006】
例えば、ゼラチンのコラゲナーゼ消化物〔特許文献1〕、牛由来カゼインのトリプシン分解物〔特許文献2〜4〕、ゼイン(γ-ゼイン)のサーモライシン分解物〔特許文献5〕、分離大豆蛋白質のサーモライシン分解物〔特許文献6〕、イワシ筋肉のペプシン分解物〔特許文献7〕、あるいはカツオのサーモライシン分解物〔特許文献8〕に含まれるACE阻害物質などが報告されている。
また大豆蛋白質を酵素加水分解した大豆ペプチドがACE阻害活性を高めることも知られている〔特許文献6〕。この大豆ペプチドは大豆の主要な蛋白質である7Sグロブリン(β-コングリシニン)や11Sグロブリン(グリシニン)が加水分解されたものを主成分とするものである。
【0007】
しかし、アミノ酸配列が特定されたペプチドの中には、in vitroによる試験でアンジオテンシン変換酵素阻害活性を有するものをスクリーニングするのみで、動物試験や臨床試験において実際に血圧降下作用が認められているものは少なく、ヒトに対する効果が実証されていない報告が多い。このようなペプチドを医薬や健康食品に用いても期待する効果は得られない。
また高活性の特定アミノ酸配列を有するペプチドを低コストで調製することを考えた場合、従来の動植物性蛋白質などの食品素材ではコストが高く、実用化にあたり課題も多いと考えられる。
【0008】
(参考文献)
【特許文献1】特開昭52−148631号公報
【特許文献2】特開昭57−15435号公報
【特許文献3】特公昭60−23086号公報
【特許文献4】特公昭60−23087号公報
【特許文献5】特開平2−36127号公報
【特許文献6】特開昭62−169732号公報
【特許文献7】特開平3−11097号公報
【特許文献8】特開平4−144696号公報
【非特許文献1】Itoh H, et al. J. Clin Invest, 91 2268(1993)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
そこで本発明は、新規な配列を有するペプチドを提供すること、高い生理活性を有するペプチドを提供すること、特に高血圧症の治療、改善又は予防に効果のあるACE阻害活性を有するペプチドを提供すること、さらには食品製造において通常排出される副産物のような安価な原料からでも調製が可能であり、低コストかつ高活性のACE阻害活性を有するペプチドを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記課題に鑑みて、本発明者らはより高活性のACE阻害物質を得るための基質を大豆の特定の画分の中に求めたところ、画分によってACE阻害活性に差異がある知見が得られた。そしてさらに鋭意研究を行った結果、大豆中の微量蛋白質である大豆ホエー蛋白を基質にしてプロテアーゼで分解することにより、大豆の主要な貯蔵蛋白質であるβ-コングリシニンやグリシニンを基質とした加水分解物以外にもACE阻害活性が高いペプチドが得られることを見出した。そしてさらに、該加水分解物中に存在するACE阻害ペプチドが大豆シスタチン由来と考えられるVal-Lys-Proからなるトリペプチドであることを見出し、本発明を完成するに至ったものである。
【0011】
すなわち本発明は、
(1)Val-Lys-Proで示されることを特徴とする新規ペプチド、
(2)生理活性を有する前記1記載のペプチド、
(2)生理活性がアンジオテンシン変換酵素阻害活性である前記2記載のペプチド、
(3)大豆ホエー由来の蛋白質をプロテアーゼで加水分解して得られたことを特徴とする前記1記載のペプチド、
(4)前記1記載のペプチドを含有する血圧降下剤、
(5)前記1記載のペプチドを含有する血圧降下用食品、
(6)前記1記載の組成物の、血圧降下剤又は血圧降下用食品製造における利用、を提供するものである。
【発明の効果】
【0012】
本発明により新規のペプチドを提供できる。このペプチドはACE阻害活性が高く、血圧を降下させる生理作用を有するので、血圧降下剤あるいは血圧降下用食品として提供できる。本ペプチドは大豆ホエーもしくは大豆ホエー蛋白を加水分解することにより安価かつ効率よく得られる。また本ペプチドは、天然にも由来するので、安全性が高く、食品として使用しても何ら問題ない。さらに本発明には各種大豆製品の副産物を有効利用することができるので、低コストでの製造が可能であり、環境の側面においても非常に有益なものである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
本発明の生理活性ペプチドは「Val-Lys-Pro」の配列で示されるもので、文献未載の新規なペプチドである。ここでいうValはバリン、Lysはリジン、Proはプロリンを意味し、かかるアミノ酸はいずれもL−体である。
本ペプチドが有する生理活性の一つとして、ACE阻害活性がある。
【0014】
本発明の生理活性ペプチドを製造するにあたっては、特に制限されるものではないが、例えば大豆などの植物や動物由来の蛋白質をプロテアーゼによって加水分解したり、ペプチド合成の常套手段を適用して合成することによって製造することもできる。これらの方法について説明する。尚、安価な原料を使用できる点では前者の方が好ましく、特に分離大豆蛋白や濃縮大豆蛋白の製造時に廃液として従来利用価値のなかった、大豆ホエー中の蛋白質をプロテアーゼによって分解する方法が好ましい。
【0015】
まず、蛋白質をプロテアーゼによって加水分解する方法について説明をする。
本発明において好適に用いられる大豆ホエーは、脱脂大豆や大豆から水抽出時又は水抽出後に、大豆の主要貯蔵蛋白質の大部分が除去され、他の微量蛋白質が濃縮されたものである。具体的には各種大豆加工製品の製造時に発生する副産物、すなわち分離大豆蛋白の酸沈殿後の上清や、濃縮大豆蛋白〔酸コンセントレート等〕の洗浄液、豆腐やしょうゆの製造時に生ずる廃液などが含まれる。以下に大豆ホエーの一般的な製造例であるが、大豆の主要貯蔵蛋白質の大部分が除去され、他の微量蛋白質が濃縮される方法であれば、特に限定されるものではない。
【0016】
(分離大豆蛋白ホエー)
脱脂大豆フレークを水又は希アルカリ水溶液(約pH8〜9)で抽出し、遠心分離により残渣を除去し、上清を回収して脱脂豆乳を得る。これに塩酸を加えてpH4.5前後に調整し、遠心分離によりホエー画分と酸沈殿画分に分離する。得られた酸沈殿画分を水分散させ、アルカリ水溶液で中和後、噴霧乾燥して分離大豆蛋白を得、他方、副産物としてホエー画分である分離大豆蛋白ホエーを得る。
【0017】
(濃縮大豆蛋白ホエー)
脱脂大豆に水を加え、塩酸でpH4.5前後に調整しつつ洗浄し、不溶性画分を回収して中和後、乾燥粉砕し、希酸洗浄による濃縮大豆蛋白(酸コンセントレート)を得る。副産物として可溶性画分である濃縮大豆蛋白ホエーを得る。
【0018】
上記大豆ホエーには、調製方法にもよるが、通常は粗蛋白質が全固形分あたり約15〜30重量%程度含まれる。その組成は大豆の主要な貯蔵蛋白質とは異なり、全蛋白質中レクチンが10〜20%、クニッツ型トリプシンインヒビターが30〜50%、その他βアミラーゼ、リポキシゲナーゼ、大豆シスタチンなどの微量蛋白質が主成分となっている。
【0019】
本発明の生理活性ペプチドを得るための原料としては、上記大豆ホエーをそのまま用いてもよいし、さらに蛋白質を濃縮した大豆ホエー蛋白を用いてもよい。大豆ホエーもしくは大豆ホエー蛋白中の全固形分あたり粗蛋白質は多いほど好ましく、少なくとも15重量%以上、より好ましくは45重量%以上、さらに好ましくは75重量%以上含有することが適当である。
【0020】
上記大豆ホエー蛋白を得る方法については特に限定されず、大豆ホエーから低分子の糖などをさらに除去したもの、さらにそれらの中の灰分を除いたもの、または非蛋白質を大部分除いたものなど、目的に合わせて精製度を変えることができる。
例えば下記のように加熱して変性した加熱凝集物を回収する方法やさらに加熱凝集物を酸性下にさらし、不純物を洗浄して蛋白質を濃縮する方法を用いることが好ましい。
【0021】
以下に大豆ホエー蛋白の好ましい調製方法を示す。例えば大豆ホエーを加熱し、加熱凝集する大豆ホエー蛋白を回収する。加熱温度は大豆ホエー蛋白が変性するに十分な温度とし、好ましくは80〜120℃、より好ましくは85〜100℃で行う。加熱温度が80度未満であると凝集塊への成長が不十分であり、加熱温度が120℃を超えると褐変などによる着色が出やすくなる。加熱時間は凝集物の形成に十分な時間とすればよく、温度により異なるが、5〜60分の範囲で行えば十分である。また大豆ホエーを加熱する際に、予めカルシウムやマグネシウム等のアルカリ土類金属イオンを大豆ホエー量に対して0.02〜1重量%共存させると大豆ホエー蛋白の沈殿が促進される。加熱を行う際の大豆ホエーのpHは2〜9、好ましくはpH5〜6とすることが適当である。得られた大豆ホエー蛋白は全固形分あたり粗蛋白質が45〜55重量%程度、灰分が30重量%程度含有するものである。
【0022】
またさらに、上記の加熱凝集させた大豆ホエー蛋白に加水し、塩酸等の酸を用いてpH4以下、より好ましくはpH3以下にさらすことによって、可溶化した灰分等の不純物を除去する。次にpH6.5〜9、好ましくはpH7〜8に中和後、100〜150℃、好ましくは110〜120℃で加熱することによって可溶化させることにより、さらに高純度の大豆ホエー蛋白を得ることができる。得られた大豆ホエー蛋白は全固形分あたり粗蛋白質が75〜85重量%も含有し、灰分が10重量%以下に低減されたものである。
【0023】
次に、上記大豆ホエーもしくは大豆ホエー蛋白にプロテアーゼを作用させ、加水分解物を調製する。またさらに該加水分解物をゲルろ過、膜ろ過等の手段により分子量で分画する手段、あるいは吸着樹脂やイオン交換樹脂などの吸着特性を利用した分画手段を使用して分画し、特定の画分を分取することによって、分画物を得る。
【0024】
該加水分解物又はその分画物に含まれるペプチドの分子量は100〜2000、好ましくは200〜1000、さらに好ましくは200〜500であることが適当である。そして、該ペプチドにおいて、ACE阻害活性を示すペプチドは、アミノ酸シーケンサーによる分析の結果、「Val-Lys-Pro」なるアミノ酸配列からなるトリペプチドであり、ACE阻害率のIC50値は3μMである。該トリペプチドは、大豆ホエー蛋白質の内、大豆シスタチンの一次配列中に存在するため、大豆シスタチン由来であることがわかっている。したがって大豆ホエー蛋白中には、本発明のACE阻害ペプチドの主要な供給源である大豆シスタチンの含量が多いほど好ましい。なお大豆シスタチン(soyacystatin)は、大豆中に含まれるシスタチンであり、シスタチンはシステインプロテアーゼを特異的に阻害する蛋白質である(荒井、大豆たん白質研究会会誌、Vol.16、67-69、1995.)。
【0025】
大豆ホエーもしくは大豆ホエー蛋白にプロテアーゼを作用させ、加水分解物を得る方法としては、プロテアーゼを作用させた後、pHを酸性(好ましくはpH4〜5)にして加熱し、不溶画分を取り除いて、可溶画分を回収する方法が好ましい。使用するプロテアーゼとしては特に限定されないが、より高いACE阻害活性を得るために、微生物由来、植物由来又は動物由来のエンド型プロテアーゼが好ましく、具体的には金属プロテアーゼ(サーモライシンなど)、セリンプロテアーゼ(トリプシン、キモトリプシン、トロンビン、プラスミン、エラスターゼ、ズブチリシンなど)、チオールプロテアーゼ(パパイン、フィシン、ブロメライン、カテプシンBなど)、アスパラギン酸プロテアーゼ(ペプシン、キモシン、カテプシンDなど)などを用いることができる。特にサーモライシン、ズブリチシン、パパイン、ブロメラインが好ましい。
【0026】
上記の加水分解により得られた加水分解液は、本発明の新規ペプチドやその他のペプチドを含む混合物であり、これをそのまま本発明のペプチドを含むペプチド含有物として医薬品や食品に利用できる。また必要により本発明のペプチドを高濃度に精製又は単離したものを利用できる。
該加水分解液から本発明のペプチドを精製するにあたっては、加水分解液をそのままあるいは、加水分解液を遠心分離等の公知の操作で濾過し、その後抽出、濃縮、乾固などを行った後、種々の吸着剤に対する吸着親和性の差、種々の溶剤に対する溶解性あるいは溶解度の差、2種の混ざり合わない液相間における分配の差、分子の大きさに基づく溶出速度の差、溶液からの析出性あるいは析出速度の差などを利用する分画手段を適宜選択して本発明のペプチドを分画できる。これらの精製手段は必要に応じて、単独あるいは任意の順序に組合せ、また反覆して適用することができる。
得られる分画物の平均分子量は200〜1000、より好ましくは200〜500とすることが適当である。
【0027】
次に、本発明のペプチドをペプチド合成法で製造する方法について説明する。合成方法は液相法または固相法で行われ、公知のいずれの手段を適用してもよい。例えば、ペプチド結合の任意の位置で二分される2種のフラグメントの一方に相当する反応性カルボキシル基を有する原料と、他方のフラグメントに相当する反応性アミノ基を有する原料とを2-(1H-Benzotriazole-1-yl)-1,1,3,3-tetramethyluronium hexafluorophosphate(HBTU)等の活性エステルを用いた方法またはカルボジイミドを用いた方法等で縮合させることにより行える。
この縮合において反応に関与すべきでない官能基は、保護基により保護される。アミノ基の保護基としては、例えばベンジルオキシカルボニル(Bz)、t−ブチルオキシカルボニル(Boc)等が挙げられる。カルボキシル基の保護基としては例えばアルキルエステル、ベンジルエステル等を形成し得る基が挙げられるが固相法の場合は、C末端のカルボキシル基はクロロトリチル樹脂、クロルメチル樹脂、オキシメチル樹脂、P−アルコキシベンジルアルコール樹脂等の担体に結合している。
縮合反応終了後、保護基は除去されるが、固相法の場合は更にペプチドのC末端と樹脂との結合を切断し、通常の方法に従い精製される。かかる精製については例えば逆相液体クロマトグラフィー、イオン交換クロマトグラフィー、アフィニティークロマトグラフィー等の方法が挙げられる。合成したペプチドの分析は、エドマン分解法でC−末端からアミノ酸配列を読み取るプロティンシークエンサー、LC−MS等の方法で行われる。
【0028】
本発明のペプチド又はその含有物を基礎原料として使用し、必要によりその他薬学的に許容される公知の原材料を使用して、公知の製法により、各種投与形態に製剤化し、医薬とすることができる。医薬の用途は特に限定されることはないが、特にACE阻害作用を有する血圧降下剤とすることができる。この血圧降下剤は高血圧症のヒトに対して投与することが血圧降下に有効である。
ここで用いられるその他の原材料としては通常の薬剤に汎用される各種のもの、例えば充填剤、結合剤、崩壊剤、界面活性剤、滑沢剤等の希釈剤乃至賦形剤等を例示できる。
投与形態は特に限定されず、治療目的に応じて適宜選択できるが、例えば経口的投与の場合には、錠剤、丸剤、散剤、液剤、懸濁剤、乳剤、顆粒剤、硬カプセル剤、軟カプセル剤等の形態で、また、非経口的投与の場合に、注射剤、坐剤などの形態で投与できる。簡易性の点から経口的投与が望ましい。
【0029】
本発明のペプチド又はその含有物を基礎原料として使用し、必要によりその他公知の原材料を使用して、公知の製法により本発明のペプチドを含有する種々の食品を製造することができる。この食品の摂取により発現する生理機能には特に限定されることはないが、特に高血圧症のヒトや血圧が高い傾向にあるヒトに特に有効であり、高血圧の予防・改善に有効である。
食品は特に限定されないが、例えばクリーム等の水中油型乳化食品;マーガリン等の油中水型乳化食品;食用油;清涼飲料、茶系飲料、乳飲料等の飲料;牛乳、チーズ、ヨーグルト等の乳製品;豆乳、発酵豆乳、大豆蛋白飲料、豆腐、納豆、油揚げ、厚揚げ、がんもどき等の大豆製品;ハンバーグ、ミートボール、唐揚げ、ナゲット等の肉加工品;各種総菜類;焼き菓子、チョコレート、ケーキ、冷菓、シリアル、飴、ガム、タブレット等の菓子類;食パン、菓子パン、ドーナツ等のパン類;米飯、寿司、餅等の米飯類などが挙げられる。
本発明のペプチドは容易に食品中の含有量を測定できるので、これを有効成分(関与する成分)として食品の本体又は食品の包装、容器、ラベル、広告、パンフレット等に、例えば「アンジオテンシン変換酵素阻害作用を有するので、血圧を降下させ、高血圧の予防や改善に適する」等の血圧降下作用やその他の生理機能、「Val-Lys-Proが有効成分として含まれる旨」、「Val-Lys-Proの有効摂取量」等を直接的に表示した、特定保健用食品等の健康用途の食品とすることができる。もちろん、かかる直接的表示がなされなくとも、Val-Lys-Proを含む食品を摂取すれば高血圧症等の疾病予防や改善に効果があることをイメージさせるような間接的な表示をし、かかる効果が表示されているに等しい健康用途の食品も本発明には包含される。
【0030】
本発明のペプチドの摂取量は、用法、対象となる者の年齢、性別その他の条件、疾患の程度、目的等により適宜選択でき、特に限定されない。通常、1日あたり0.1mg〜2g、好ましくは1mg〜1g程度の範囲となる量を目安とする。剤又は食品としての摂取量は上記ペプチドの摂取範囲を満たすように、ペプチドの含有量との関係で設定すればよい。ただし、医薬品の多くが適正量以上の摂取は安全性に問題を生じる可能性があるのに対し、本ペプチドは大豆ホエーを分画、精製して得られることから、副作用の心配がほとんどないため、かかる上限と下限を超える範囲を設定することを妨げない。また1日に2〜4回程度に分けて摂取することもできる。
【0031】
剤又は食品中における本発明のペプチドの含有率は0.01〜100重量%が好ましい。より好ましくは0.5〜80重量%が適当である。
【実施例】
【0032】
以下に本発明の実施例を記載するが、本発明は、この実施例にのみ限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲内において種々変更を加え得ることは勿論である。
【0033】
◎製造例1(大豆ホエー蛋白加水分解物の調製)
脱脂大豆2kgに10倍の水(20L)を加え、攪拌しながら塩酸にてpHを4.3に調整後、遠心分離して不溶物を除き、上清16Lを回収した。
次に消石灰を加えて、pHを5.3に調整し、95℃に加熱して不溶化凝集する蛋白質分を遠心分離にて回収した。得られた沈澱物に水を2L添加し、塩酸を加えてpHを2.0に調整し、遠心分離(1000g×5分)で酸可溶性成分を除去した。さらに沈澱物に0.2Lの水を加え、pHを水酸化ナトリウムで8.5に調整後、120℃、10分の加熱を行い、蛋白質を可溶化し、大豆ホエー蛋白を得た。該蛋白の全固形分中の粗蛋白質含量は81重量%であった。電気泳動によれば大豆の主要な貯蔵蛋白質である大豆グロブリン(グリシニンやβ−コングリシニン)はほとんど存在せず、主に大豆レクチンとクニッツ型トリプシンインヒビターが存在した。また、大豆シスタチンも存在した。
【0034】
得られたホエー蛋白質粗精製物に粗蛋白質含量あたり8%のエンド型プロテアーゼ「プロテアーゼS」(天野エンザイム製)を添加し,pHを8(または,7.5以上
8.5以下)に保ちつつ70℃で4時間反応させた。反応液は,100℃で5分間加熱して反応を止め,遠心分離(18,000g,10分)を行い、上澄みを回収し、大豆ホエー蛋白加水分解物を得た。
【0035】
これをゲルろ過(ゲルろ過の条件:Sephadex G-25(ベッド:2.6X96cm),流速:30ml/h,移動相:脱イオン水,検出:280nm)により、分子量200〜1000の分子量の画分を回収し、逆相HPLC(逆相HPLCの条件:Wakosil-II 5C18AR (4.6X250mm),CAPCELL PAK C18AQ(
4.6X250mm),YMC-Pack C4 (4.6x250mm),流速1ml/min,移動相:0.1%トリフルオロ酢酸(TFA)を含むミリQ水と0.1%TFAを含むアセトニトリル,検出:216nm)によってACE阻害活性の高いピークを検出し、回収した。さらにそのペプチド配列をアミノ酸シーケンサーにより調べた結果、Val-Lys-Proであることがわかった。
【0036】
◎製造例2(合成ペプチドVal-Lys-Proの製造)
製造例1で得られた結果に基づいて、合成ペプチドVal-Lys-Proの製造を行った。
市販のFmoc-Pro(tBu)樹脂(置換率0.5meq/g)0.6gをPS3型ペプチド合成機(Protein Technologies社製)の反応槽に分取し、以下のように新規ペプチドの合成を行った。まず、上記の樹脂を反応容器に入れて、1mmolのFmoc-Lysと、活性化剤として1mmolのHBTUを10mlの0.4M N−メチルモルフォリンを含むジメチルフォルムアミドに溶解したものを反応槽に加え、室温にて20分撹拌反応させた。
【0037】
得られた樹脂を20容量%ピペリジンを含むジメチルフォルムアミド20ml中で、Fmoc基を除去し、ついで上記のFmoc-Lysをカップリングさせた方法と同様にC末端からFmoc-Valをカップルさせて、Val-Lys-Pro(tBu)樹脂を得た。該樹脂を10mlの脱保護液(90容量%トリフルオロ酢酸、5容量%チオアニソール、3容量%エタンジチオール、2容量%エチルメチルスルフィド、1容量%メチルインドールの混合液)中で室温にて1時間撹拌し、ペプチドを樹脂から遊離させた。
【0038】
ここに40mlの冷エーテルを添加し、ペプチドを沈殿させ、さらに冷エーテルにて3回洗浄して粗ペプチドを得た。これをODSカラム(Cosmosil5C18-ARII、20×250mm)による逆相クロマトグラフィーにより0.1重量%トリフルオロ酢酸を含むアセトニトリルの直線的濃度勾配にて展開、精製し、Val-Lys-Proの配列を有するペプチドを得た。尚、本品をプロテインシーケンサー(アプライド バイオシステムズ社製「492型」)により分析して、上記の配列であることを確認した。
【0039】
◎実施例1(アンジオテンシン変換酵素阻害活性の測定)
製造例2により製造された合成ペプチドVal-Lys-ProをACE阻害活性を公知の測定法(Cushman-cheung法)に準じて測定した。
ラビット由来ACE(シグマ社製)を125mMホウ酸緩衝液(pH8.3)に溶解し、0.1Unit/mlになるように調製した。一方、基質としては、Bz-Gly-His-Leu(シグマ社製)を4.2mMになるようにNaClを含む125mMホウ酸緩衝液(pH8.3)で溶解した。また、阻害活性を測定するサンプルは、ローリー法でタンパク分解物の濃度を測定し、濃度が既知のものを用意した。それぞれ基質溶液150μl、サンプル溶液50μl、ACE溶液50μlを混合し、37℃、30分反応させた。この反応液中の最終濃度は、基質3.5mM、NaCl400mMである。次いで1規定の塩酸を250μl加えて、反応を停止し、1.5mlの酢酸エチルを加えて15秒間攪拌し、さらに3000G×2分間遠心し、酢酸エチル層を1ml採取した。そして窒素ガスを吹き付けながらブロックヒーターにより、140℃、10分加熱し、蒸発乾固させ、これに1mlの蒸留水を加えて、抽出された馬尿酸の吸収(228nmの吸光度)を測定した。アンジオテンシン変換酵素阻害率は下記の〔1〕式によって求めるようにした。但し、ODsは上記のようにしてサンプルを加えて測定したときの吸光度、ODsbは上記の混合溶液を反応させる前に1規定の塩酸を250μl添加させて測定した時の吸光度、ODcは上記の混合溶液にサンプルを加えずに測定した時の吸光度、ODcbは上記の混合溶液にサンプルを加えずに反応させる前に1規定の塩酸を250μl添加させて測定した時の吸光度である。
【0040】
(数1)
ODs−ODsb
(1− ────── )×100 〔1〕
ODc−ODcb
【0041】
そして求められた阻害率から、各サンプルの阻害活性を確認すべく、その分解物のACE阻害率が50%となる濃度(IC50)を求めた。得られた結果を表1に示す。
【0042】
(表1)各蛋白加水分解物のACE阻害活性
───────────────────────────
ペプチド ACE阻害活性(IC50)
───────────────────────────
実施例1 Val-Lys-Pro 3μmol/L
───────────────────────────
【0043】
実験結果より、IC50の濃度は低濃度で高いACE阻害活性を示した。
【0044】
◎実施例2(合成ペプチドVal-Lys-Proの高血圧自然発症ラットへの単回投与試験)
高血圧自然発症ラット(SHR/Izm,日本エスエルシー)10頭を用いて、5頭には蒸留水、5頭にはVal-Lys-Proのペプチドを100mg/kgの割合で胃ゾンデで単回投与した。血圧測定は、投与前と投与後8時間まで2時間おきに無加温型非観血式血圧計 モデルMK-2000(室町機械)を用い、tail-cuff法により測定した。その結果、4時間後、8時間後に統計的に有意差が認められ、血圧が低下した(図1)。
【0045】
【図面の簡単な説明】
【0046】
【図1】実施例1のSHRラット(19週齢)の血圧に及ぼすVal-Lys-Pro投与の効果

【特許請求の範囲】
【請求項1】
Val-Lys-Proで示されることを特徴とする新規ペプチド。
【請求項2】
生理活性を有する請求項1記載のペプチド。
【請求項3】
生理活性がアンジオテンシン変換酵素阻害活性である請求項2記載のペプチド。
【請求項4】
大豆ホエー由来の蛋白質をプロテアーゼで加水分解して得られたことを特徴とする請求項1記載のペプチド。
【請求項5】
大豆シスタチン由来である請求項1記載のペプチド。
【請求項6】
請求項1記載のペプチド又はその含有物を含有する医薬。
【請求項7】
血圧降下剤である請求項5記載の医薬。
【請求項8】
請求項1記載のペプチド又はその含有物を含有する食品。
【請求項9】
血圧降下用である請求項7記載の食品。
【請求項10】
請求項1記載の新規ペプチドの、医薬又は食品製造における利用。

【図1】
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【公開番号】特開2006−265139(P2006−265139A)
【公開日】平成18年10月5日(2006.10.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−83878(P2005−83878)
【出願日】平成17年3月23日(2005.3.23)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 1.社団法人日本農芸化学会、日本農芸化学会2005年度大会講演要旨集、平成17年3月5日発行
【出願人】(000236768)不二製油株式会社 (386)
【Fターム(参考)】