説明

既設管渠の更生方法

【課題】既設管渠における1つの開口端を利用して損傷箇所の補修を確実に行うことができる既設管渠の更生方法を提供すること。
【解決手段】装置径方向に拡張収縮変形可能な固定チューブ12を有する先行固定装置4と先行固定装置4に接続された牽引用ワイヤ22とを、既設管渠2の開口端2b側から挿入する。既設管渠2内において損傷箇所3よりも奥側の閉塞端2aの位置まで先行固定装置4を送り込み、その位置にて固定チューブ12を拡張変形させて既設管渠2の内周面に面接触させることで先行固定装置4を移動不能に固定する。牽引用ワイヤ22を用いて補修機5を先行固定装置4側に引き寄せることにより、損傷箇所3に対応した位置まで補修機5を移動させる。補修機5を膨張させて更生材31を既設管渠2の内周面に圧着する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、地中に埋設された既設管渠の補修を行う既設管渠の更生方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、道路などの地中に管渠(例えば、下水管渠や雨水管渠)が埋設されている。これら既設管渠は、長期間の使用によって老朽化が進み、破損や漏水が生じやすくなる。特に近年では、生活排水量の増加に伴い、管内で発生する硫酸水素、諸薬品、酸等によりセメント分が減少し、さらに管内に入り込んだ異物(砂、木板、石類など)によって磨耗することで管渠の強度が弱くなる。このように、既設管渠は、長期間の使用によって老朽化が進むことに加え、重量車両の交通や地震などによる振動が原因で破損や漏水が生じてしまうことがある。この場合、破損や漏水などが生じた既設管渠を補修して更生させる工事が必要となる。
【0003】
この管渠の更生工法としては、地面を掘削して損傷した既設管渠を撤去した後、新しい管渠を敷設する開削方式の工法や、地面を掘削しないで既設管渠の内周面を補修する非開削方式の工法(例えば、特許文献1等参照)が知られている。開削方式の工法では、地面の掘削を行うために、道路の交通を遮断しなければならず、工事期間の長期化が問題となる。また、地中埋設物の増加によって既設管渠の入れ替え工事を安易に行うことができなくなってきている。これに対して、非開削方式の工法では、既設管渠を掘り起こす必要がなく、施工に必要なスペースも少なくて済む。そのため、道路交通への影響を最小限に抑えつつ、既設管渠の損傷箇所を迅速に補修することが可能である。
【0004】
非開削方式の工法で管渠の補修を行う場合、補修箇所の前後に設けられている2つのマンホール(人孔)を利用して行われる。具体的には、例えば、中空円筒状に形成された金属製の筒体と、その筒体の外周面に設けられたゴム製の補修チューブとを備えた補修機を用いる。そして、補修チューブの外周面に更生材を巻き付けた補修機を一方のマンホールに挿入するとともに、他方のマンホールからワイヤを用いて引っ張ることで、補修箇所に対応した位置まで補修機を移動させる。その後、補修機にエアを供給して補修チューブを膨張させ、更生材を既設管渠の内周面に密着させる。この結果、既設管渠の内周面に更生材が圧着されて、既設管渠の補修が行われる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2000−167930号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、従来の非開削方式の工法は、既設管渠における損傷箇所の両側がマンホール等で開放されていることを前提として行われる方法である。しかしながら、損傷箇所の前後にある一方のマンホールが道路工事等によって埋められている場合、交通量の多い交差点等に一方のマンホールが設けられている場合、マンホール間の間隔が長い場合などのように、一方のマンホールしか利用できない場合には、従来の非開削方式の工法では、既設管渠の補修を行うことができなかった。
【0007】
本発明は上記の課題に鑑みてなされたものであり、その目的は、1つの開口端を利用して既設管渠の補修を確実に行うことができる既設管渠の更生方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するために、手段1に記載の発明は、地中に埋設された既設管渠内において、外周面に更生材が配置された補修機を膨張させて前記更生材を前記既設管渠の内周面に圧着することにより、前記既設管渠の損傷箇所を補修する既設管渠の更生方法であって、装置径方向に拡張収縮変形可能な高摩擦体を有する先行固定装置と、前記先行固定装置に接続された牽引用の連結部材とを、前記既設管渠の開口端側から挿入する挿入工程と、前記既設管渠内において前記損傷箇所よりも奥側の位置まで前記先行固定装置を送り込み、その位置にて前記高摩擦体を拡張変形させて前記既設管渠の内周面に面接触させることで前記先行固定装置を移動不能に固定する固定工程と、前記連結部材に前記補修機を接続し、その連結部材を用いて前記補修機を前記先行固定装置側に引き寄せることにより、前記損傷箇所に対応した位置まで前記補修機を移動させる補修機移動工程と、前記補修機を膨張させて前記更生材を前記既設管渠の内周面に圧着する補修工程とを含むことを特徴とする既設管渠の更生方法をその要旨とする。
【0009】
手段1に記載の発明によると、先行固定装置が既設管渠の開口端側から挿入されて損傷箇所よりも奥側の位置まで送り込まれる。そして、先行固定装置の高摩擦体を拡張変形させて既設管渠の内周面に面接触させることで、先行固定装置が移動不能に固定される。この後、先行固定装置と補修機とを連結部材を介して接続し、その連結部材を用いて補修機を先行固定装置側に引き寄せることで、開口端側から損傷箇所に対応した位置まで補修機を移動させる。そして、その損傷箇所の位置において、補修機を膨張させて更生材を既設管渠の内周面に圧着することにより、損傷箇所の補修が行われる。このように、本発明の更生方法によると、従来工法のように2つの開口端を利用して補修機を移動させる必要がなく、1つの開口端を利用して既設管渠の損傷箇所を確実に補修することができる。
【0010】
手段2に記載の発明は、手段1において、前記挿入工程では、前記先行固定装置及び前記連結部材とともに、前記先行固定装置に接続した流体供給用配管を前記既設管渠の開口端側から挿入し、前記固定工程では、前記流体供給用配管に接続された流体供給装置を作動させて前記先行固定装置側に流体を供給することにより、前記高摩擦体を拡張変形させることをその要旨とする。
【0011】
手段2に記載の発明によると、流体供給装置を作動させて流体供給用配管を介して先行固定装置側に流体を供給することにより、先行固定装置の高摩擦体が拡張変形される。このように、流体の圧力によって高摩擦体を拡張変形させる場合、既設管渠の内周面を傷つけにくく、その内周面に高摩擦体を確実に面接触させて先行固定装置を固定することができる。
【0012】
手段3に記載の発明は、手段2において、前記補修機は、中空筒状の筒体と、前記筒体の外周面に配置され、前記流体の供給によって膨張する補修チューブとを備えるものであり、前記補修機移動工程では、前記流体供給用配管及び前記連結部材を前記筒体の内側に挿通させた状態で前記補修機を移動させることをその要旨とする。
【0013】
手段3に記載の発明によると、先行固定装置の高摩擦体を拡張変形させるための流体を用いて補修機の補修チューブが拡張される。この場合、先行固定装置と補修機とで共通の流体供給装置を使用することができるため、装置コストや装置の設置スペースを低減することができる。また、流体供給用配管及び連結部材が筒体の内側に挿通された状態で補修機が動かされるため、流体供給用配管及び連結部材が補修機の外周面側に位置しなくなる。このようにすると、補修工程において、流体供給用配管及び連結部材が邪魔にならず、補修機の外周面に配置された更生材を既設管渠の内周面に確実に圧着させることができる。
【0014】
手段4に記載の発明は、手段1乃至3のいずれかにおいて、前記先行固定装置の後端面にはワイヤが接続されており、前記固定工程では、複数本の押し込み用管を前記ワイヤに挿通させた状態で順次継ぎ足しながら管全体を伸長させるとともに、継ぎ足された前記複数本の押し込み用管により前記先行固定装置を前記奥側の位置まで押し込むことをその要旨とする。
【0015】
手段4に記載の発明によれば、ワイヤが各押し込み用管を接続するためのガイドとなるので、継ぎ足された各押し込み用管が確実に接続される。また、比較的短い押し込み用管を用いることができるため、既設管渠の開口端側が狭く作業スペースが十分に確保できない場合であっても、損傷箇所よりも奥側の位置に先行固定装置を確実に押し込むことができる。
【0016】
手段5に記載の発明は、手段1乃至4のいずれかにおいて、前記先行固定装置の後端面には、前記連結部材としての牽引用ワイヤを引っ掛けるための定滑車が設けられ、前記移動工程では、作用点となる前記牽引用ワイヤの一端を前記補修機に接続し、力点となる前記牽引用ワイヤの他端を前記筒体の内側に挿通して前記既設管渠の開口端側に引き出しておき、この状態で前記定滑車を支点として前記牽引用ワイヤの他端を引っ張るようにすることをその要旨とする。
【0017】
手段5に記載の発明によると、既設管渠の開口端側に牽引用ワイヤが引き出されており、定滑車を支点としてその開口端側から牽引用ワイヤを引っ張ることにより、補修機を先行固定装置側に比較的小さい力でスムーズに移動させることができる。
【発明の効果】
【0018】
以上詳述したように、手段1乃至5に記載の発明によると、既設管渠における1つの開口端を利用して損傷箇所の補修を確実に行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】一実施の形態の既設管渠の更生システムを示す概略構成図。
【図2】先行固定装置を示す側面図。
【図3】先行固定装置の後端側から見た背面図。
【図4】補修機を示す側面図。
【図5】補修機を示す断面図。
【図6】既設管渠の更生方法を説明するための説明図。
【図7】既設管渠の更生方法を説明するための説明図。
【図8】既設管渠の更生方法を説明するための説明図。
【図9】既設管渠の更生方法を説明するための説明図。
【図10】別の実施の形態の既設管渠の更生システムを示す概略構成図。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明を既設管渠の更生システムに具体化した一実施の形態を図面に基づき詳細に説明する。
【0021】
図1は、本実施の形態の更生システム1を示す概略構成図である。図1に示されるように、更生システム1は、地中に埋設された既設管渠2(例えば、下水管渠)を掘り起こすことなく、非開削方式にて既設管渠2の損傷箇所3を補修するシステムである。本実施の形態の更生システム1は、先行固定装置4、補修機5、電動ウインチ6、エアコンプレッサ7等を備えている。
【0022】
図1〜図3に示されるように、先行固定装置4は、円筒状に形成された金属製の筒体11と、その筒体11の外周面に設けられ装置径方向に拡張収縮変形可能な固定チューブ12とを備える。固定チューブ12は、その接続口13が筒体11の後端面14に開口するよう設けられており、その接続口13には、エアコンプレッサ7(流体供給装置)から延びるエア配管15(流体供給用配管)が接続されている。そして、エアコンプレッサ7からエア配管15を通して固定チューブ12にエアが供給されると、エア圧の作用によって固定チューブ12が膨らむ。固定チューブ12は、摩擦抵抗が大きなゴムからなり、高摩擦体として機能する。固定チューブ12の外周面が拡張変形して既設管渠2の内周面に面接触することで、先行固定装置4が既設管渠2内にて移動不能に固定される。本実施の形態では、既設管渠2は一端が閉塞された管渠であり、その管渠2の閉塞端2aの位置に先行固定装置4が固定される。なお、既設管渠2において閉塞端2aから開口端2bまでの距離は、例えば40m程度である。
【0023】
先行固定装置4における先端側には、複数の車輪17が設けられている。詳しくは、本実施の形態では、各車輪17を固定するために円環状の枠体18が用いられており、その枠体18の周方向に等間隔(90°の角度間隔)となるように4つのキャスタ型の車輪17が溶接によって固定されている。そして、その車輪付きの枠体18が先行固定装置4の先端部に装着されている。
【0024】
また、先行固定装置4の後端面14における中央部分には、定滑車21が設けられている。定滑車21には、補修機5を牽引して移動させるための牽引用ワイヤ22(牽引用の連結部材)が引っ掛けられている。さらに、先行固定装置4の後端面14において、中央部分の定滑車21を挟んでエア配管15の接続口13と対向する位置にはワイヤ接続部23が設けられている。そのワイヤ接続部23には、先行固定装置4を移動させるための固定用ワイヤ24が接続される。
【0025】
図1、図4及び図5に示されるように、補修機5は、中空円筒状に形成された金属製の筒体26と、その筒体26の外周面に設けられたゴム製の補修チューブ27とを備える。補修機5における筒体26の中空部分には、牽引用ワイヤ22、固定用ワイヤ24、及びエア配管15が挿通される。
【0026】
補修機5において、補修チューブ27は、その接続口28が筒体26の後端面29に開口するよう設けられており、その接続口28には、エアコンプレッサ7から伸びるエア配管30(流体供給用配管)が接続されている。また、補修チューブ27の外周面には、更生材31が巻き付けられる。そして、エアコンプレッサ7からエア配管30を通して補修チューブ27にエアが供給されると、エア圧の作用によって補修チューブ27が膨らんでその直径が大きくなる。このとき、補修機5(補修チューブ27)の外周面に巻かれた更生材31が既設管渠2の内周面に押し付けられて圧着される。
【0027】
また、補修機5における筒体26の先端側及び後端側には、牽引用ワイヤ22を固定するためのワイヤ接続部32,33がそれぞれ設けられている。そして、作用点となる筒体26の先端側のワイヤ接続部32に牽引用ワイヤ22の一端が接続されるとともに、牽引用ワイヤ22の他端側は、筒体26の中空部分に挿通されて既設管渠2の開口端2b側に引き出される。さらに、牽引用ワイヤ22の他端側は、力点となる電動ウインチ6に一回巻きつけられた後、筒体26の後端側のワイヤ接続部33に接続されている。なお、本実施の形態では、電動ウインチ6は、既設管渠2の開口端2bであるマンホール内に配置されている。この電動ウインチ6を回転させて、先行固定装置4に設けられている定滑車21を支点として牽引用ワイヤ22を引っ張ることで、補修機5が先行固定装置4側に移動する。また、電動ウインチ6を逆回転させて、牽引用ワイヤ22を介して補修機5の後端側を直接引っ張ることで、補修機5が開口端2b側に移動する。
【0028】
次に、本実施の形態における既設管渠2の更生方法について説明する。
【0029】
先ず、既設管渠2に繋がるマンホールの蓋を開け、その開口端2bから既設管渠2内に高圧洗浄機のノズルを挿入する。そして、そのノズルから高圧の洗浄水を放水することにより既設管渠2内を洗浄する。
【0030】
次に、既設管渠2内にカメラを有する自走式のロボット車を搬入して、既設管渠2内の損傷箇所3を調査する。ここで、既設管渠2の損傷箇所3を発見した場合、図6に示されるように、マンホールの開口端2bから既設管渠2内に先行固定装置4を挿入する。なおこのとき、先行固定装置4の後端面14の定滑車21に牽引用ワイヤ22を引っ掛けるとともに、後端面14における接続口13及びワイヤ接続部23にエア配管15及び固定用ワイヤ24を接続し、それらを先行固定装置4とともに既設管渠2内に挿入する(挿入工程)。
【0031】
その後、損傷箇所3よりも奥側の位置である閉塞端2aの位置まで先行固定装置4を押し込む。詳しくは、図7に示されるように、複数本の押し込み用管35を固定用ワイヤ24に挿通させた状態で、ソケット36を介して順次継ぎ足しながら管全体を伸長させるとともに、継ぎ足された複数本の押し込み用管35の剛性を利用して先行固定装置4を閉塞端2aの位置に押し込んでいく。なお、本実施の形態では、押し込み用管35として、塩化ビニル樹脂からなる直径が40mmの管(以下「塩ビ管」と略す)を用いている。塩ビ管は、所定規格の長さ(例えば、1m)を有しているため、塩ビ管の使用本数によって、マンホールの開口端2bから閉塞端2aまでの距離を把握することができる。またここで、押し込み用管35の管径は、先行固定装置4の移動距離(開口端2bから閉塞端2aまでの距離)に応じて適宜変更することができる。具体的には、先行固定装置4の移動距離が比較的短い場合は細い塩ビ管を用い、移動距離が長い場合には押し込み用管35の剛性が必要となるため太い塩ビ管を用いるようにする。
【0032】
また、押し込み用管35によって先行固定装置4の後端が押されることで、その先行固定装置4の後端側が既設管渠2の内周面に対して浮いた状態となり、先端側の車輪17によって先行固定装置4がスムーズに移動される。そして、閉塞端2aの位置に先行固定装置4が到達した後に、各押し込み用管35を固定用ワイヤ24から引き抜き、各押し込み用管35を既設管渠2内から外部に取り出す。ここで、先行固定装置4の後端が既設管渠2の内周面に接触して抵抗となる。このため、閉塞端2aの部分で既設管渠2が傾斜している場合であっても、先行固定装置4が閉塞端2aの位置から移動しない。
【0033】
その後、エアコンプレッサ7を駆動して、エア配管15を介して先行固定装置4の固定チューブ12にエアを供給する。すると、エア圧の作用によって固定チューブ12が拡張変形して、その外周面が既設管渠2の内周面に面接触する(図8参照)。この結果、既設管渠2の閉塞端2aにて先行固定装置4が移動不能に固定される(固定工程)。
【0034】
次に、補修機5の外周面に更生材31を巻きつける。なお、更生材31としては、水中硬化型の樹脂(例えば、硬化剤を含ませた高性能エポキシ樹脂)を未硬化の状態で含浸させた不織布を用いる。またここでは、補修機5に対する更生材31の離型性を確保するため、薄いビニールシートを補修機5の外周面と更生材31との間に介在させるようにしている。
【0035】
その後、補修機5の先端側のワイヤ接続部32に牽引用ワイヤ22の一端を接続するとともに、牽引用ワイヤ22の他端側を筒体26の中空部分に挿通させる。さらにその牽引用ワイヤ22を電動ウインチ6に一回巻いた後、補修機5の後端側のワイヤ接続部33に牽引用ワイヤ22の他端を接続する。また、先行固定装置4に接続されている固定用ワイヤ24も牽引用ワイヤ22と同様に筒体26の中空部分に挿通させる。なお、先行固定装置4に接続されているエア配管15は、エアコンプレッサ7に接続する前の準備工程で補修機5の筒体26に挿通される。さらに、エアコンプレッサ7から伸びるエア配管30を、補修機5における補修チューブ27の接続口28に接続した後、その補修機5を開口端2bから既設管渠2内に挿入する。
【0036】
この後、電動ウインチ6を回転させ、定滑車21を支点として牽引用ワイヤ22を引っ張ると、牽引用ワイヤ22を介して補修機5が先行固定装置4側に引き寄せられていく(補修機移動工程)。ここでは、ロボット車のカメラで調査した損傷箇所3の位置(開口端2bから損傷箇所3までの距離)に基づいて、その位置に対応した長さ分だけ牽引用ワイヤ22を引っ張ることにより、既設管渠2内において損傷箇所3に対応する位置に補修機5が移動する(図1参照)。
【0037】
そして、エアコンプレッサ7からエア配管30を介して補修機5の補修チューブ27にエアを供給して、補修チューブ27を膨らませることで、更生材31を既設管渠2の内周面に密着させる(図9参照)。このとき、補修チューブ27には、一定の圧力(例えば、0.5kg/cm〜0.9kg/cm)が所定時間(例えば、90分〜120分)加えられる。この結果、更生材31の樹脂が硬化して既設管渠2の内周面に更生材31が圧着される(補修工程)。
【0038】
補修工程後、補修機5における補修チューブ27内のエアを排気して、その補修チューブ27を縮ませた後、電動ウインチ6を回転させて牽引用ワイヤ22を介して補修機5の後端を引っ張ることで、補修機5を既設管渠2内から取り出す。また、先行固定装置4における固定チューブ12内のエアを排気して、その固定チューブ12を縮ませた後、固定用ワイヤ24を引っ張ることで、先行固定装置4を既設管渠2内から取り出す(取り外し工程)。以上の工程を経て、既設管渠2を更生するための作業が完了する。
【0039】
従って、本実施の形態によれば以下の効果を得ることができる。
【0040】
(1)本実施の形態の更生システム1では、先行固定装置4が既設管渠2の開口端2b側から挿入され、損傷箇所3よりも奥側の閉塞端2aの位置まで送り込まれる。そして、先行固定装置4の固定チューブ12を拡張変形させて既設管渠2の内周面に面接触させることで、先行固定装置4が移動不能に固定される。この先行固定装置4の固定後に、牽引用ワイヤ22を用いて補修機5を先行固定装置4側に引き寄せることにより、開口端2b側から損傷箇所3に対応した位置まで補修機5を移動させることができる。本実施の形態の既設管渠2のように、端部が閉塞されて1つの開口端2bしか利用できない場合、従来の非開削方式の工法では補修機5を移動させることができず損傷箇所3の補修を行うことができなかった。これに対して、本実施の形態の更生システム1を用いれば、1つの開口端2bを利用して補修機5を移動させることができ、既設管渠2の損傷箇所3を確実に補修することができる。
【0041】
(2)本実施の形態の更生システム1では、エアコンプレッサ7を作動させてエア配管15を介して先行固定装置4側にエアを供給することにより、先行固定装置4の固定チューブ12が拡張変形される。このように、エアの圧力によって固定チューブ12を拡張変形させる場合、既設管渠2の内周面を傷つけにくく、その内周面に固定チューブ12を確実に面接触させて先行固定装置4を固定することができる。またこの場合、電動アクチュエータ等を用いて先行固定装置4の外周面を拡張変形させる場合のように複雑な機構を採用する必要がなく、装置構成を簡素化することができる。さらに、固定チューブ12を拡張変形させるための流体としてエアを用いているので、水や油などの液体を用いる場合と比較して軽く、また流体を事前に準備して持ち運ぶ必要がないため、実用上好ましいものとなる。
【0042】
(3)本実施の形態の更生システム1では、エアコンプレッサ7を作動させてエア配管30を介して補修機5にエアを供給することにより、補修機5の補修チューブ27が拡張される。このように、先行固定装置4と補修機5とで共通のエアコンプレッサ7が使用されているため、装置コストや装置の設置スペースを低減することができる。また、エア配管15、牽引用ワイヤ22、及び固定用ワイヤ24が筒体26の内側に挿通された状態で補修機5が動かされるため、エア配管15、牽引用ワイヤ22、及び固定用ワイヤ24が補修機5の外周面側に位置しなくなる。このようにすると、補修工程において、エア配管15や各ワイヤ22,24が邪魔にならず、補修機5の外周面に配置された更生材31を既設管渠2の内周面に確実に圧着させることができる。
【0043】
(4)本実施の形態の更生システム1では、複数本の押し込み用管35を固定用ワイヤ24に挿通させた状態で順次継ぎ足しながら管全体を伸長させて先行固定装置4を押し込むようにしている。この場合、固定用ワイヤ24が各押し込み用管35を接続するためのガイドとなるので、継ぎ足された各押し込み用管35を確実に接続することができる。また、比較的短い押し込み用管35を用いることができるため、既設管渠2の開口端2b側が狭く作業スペースが十分に確保できない場合であっても、閉塞端2aの位置に先行固定装置4を確実に押し込むことができる。
【0044】
(5)本実施の形態の更生システム1では、先行固定装置4の後端面14に定滑車21が設けられ、その定滑車21に牽引用ワイヤ22が引っ掛けられている。そして、定滑車21を支点として牽引用ワイヤ22を引っ張ることにより、牽引用ワイヤ22に接続された補修機5を先行固定装置4側にスムーズに移動させることができる。また、本実施の形態の更生システム1では、既設管渠2の開口端2b側に電動ウインチ6が配置され、電動ウインチ6に牽引用ワイヤ22が接続されている。この場合、補修機5のサイズが大きく、補修機5が重い場合であっても、電動ウインチ6を駆動することにより、補修機5を短時間で確実に移動させることができる。
【0045】
(6)本実施の形態の更生システム1では、先行固定装置4の後端面14の中央部分に定滑車21が設けられているので、牽引用ワイヤ22を介して補修機5をバランスよく牽引することができる。また、先行固定装置4の後端面14において、定滑車21を挟んで対向する位置にエア配管15と固定用ワイヤ24とが接続されているので、エア配管15と固定用ワイヤ24とが絡まることなく補修機5を移動させることができる。
【0046】
(7)本実施の形態の更生システム1では、先行固定装置4の先端部には複数の車輪17が周方向に等間隔で設けられているので、各車輪17を利用して先行固定装置4をスムーズに移動させることができる。
【0047】
なお、本発明の実施の形態は以下のように変更してもよい。
【0048】
・上記実施の形態の更生システム1では、1つの補修機5を用いて1箇所の損傷箇所3の補修を行うものであったが、複数の補修機5を用いて複数の損傷箇所3を同時に補修するように変更してもよい。その具体例を図10に示している。図10の更生システム1Aでは、2つの補修機5a,5bを備えており、他の構成(先行固定装置4、電動ウインチ6、エアコンプレッサ7)は上記実施の形態の更生システム1と同様である。図10に示されるように、更生システム1Aでは、2つの補修機5a,5bが接続用ワイヤ38を用いて接続されている。接続用ワイヤ38の長さは、2つの損傷箇所3の間隔に応じて設定されている。接続用ワイヤ38の一端は、閉塞端2a側に配置される補修機5aの後端側のワイヤ接続部33に接続されるとともに、接続用ワイヤ38の他端は、開口端2b側に配置される補修機5bの先端側のワイヤ接続部32に接続されている。また、補修機5aの先端側のワイヤ接続部32に牽引用ワイヤ22の一端が接続されており、補修機5bの後端側のワイヤ接続部33に牽引用ワイヤ22の他端が接続されている。さらに、各補修機5a,5bの筒体26の中空部分には、牽引用ワイヤ22、固定用ワイヤ24、及びエア配管15,30が挿通されている。更生システム1Aにおいて、電動ウインチ6を回転させ牽引用ワイヤ22を介して閉塞端2a側の補修機5aを引っ張ると、その補修機5aが先行固定装置4側に移動するとともに、接続用ワイヤ38を介して開口端2b側の補修機5bも先行固定装置4側に移動する。これにより、既設管渠2内において2つの損傷箇所3に対応する位置に各補修機5a,5bをそれぞれ配置させることができ、各補修機5a,5bを用いて2つの損傷箇所3を同時に補修することができる。
【0049】
・上記実施の形態では、一端が閉塞された既設管渠2を更生するものであったが、これに限定されるものではない。例えば、マンホール(開口端)間の距離が長い場合、交通量の多い交差点等に一方のマンホールが設けられている場合などのように、補修機5を挿入するために一方のマンホールしか利用できない場合に、上記実施の形態の更生方法を適用することができる。
【0050】
・上記実施の形態では、先行固定装置4の先端側に車輪17が設けられていたが、後端側に車輪17を設けてもよいし、先端及び後端の両方に車輪17を設けてもよい。また、先行固定装置4は、複数本の押し込み用管35で既設管渠2の閉塞端2aに押し込むものであったが、これに限定されるものではない。例えば、先行固定装置4において、車輪17を駆動するための電動モータやギヤ等を設けるとともに、閉塞端2aにてモータ駆動を停止させるスイッチ等を設けてもよい。この場合、先行固定装置4の製造コストは高くなるが、閉塞端2aに先行固定装置4を容易に移動させることができる。このため、作業性が向上され、既設管渠2の補修を短時間で行うことができる。
【0051】
・上記実施の形態の更生システム1,1Aでは、電動ウインチ6をマンホールの開口端2bに設けるものであったが、サイズが大きくマンホール内に入りきらない電動ウインチ6を用いる場合には、エアコンプレッサ7と同様にマンホールの外側に電動ウインチ6を設置してもよい。なおこの場合、牽引用ワイヤ22が開口端2b等に擦れないように、開口端2b付近にガイドローラを設置し、そのガイドローラを介して牽引用ワイヤ22を引っ張るように構成する。また、補修機5のサイズが比較的小さく軽い場合には、電動ウインチ6を省略し、作業者が牽引用ワイヤ22を手で引っ張ることで補修機5を移動させてもよい。
【0052】
さらに、先行固定装置4に電動ローラ等の駆動アクチュエータを設け、そのアクチュエータを駆動して牽引用ワイヤ12を巻き取ることで補修機5を先行固定装置4側に引き寄せるように構成してもよい。
【0053】
・上記実施の形態の更生システム1,1Aでは、先行固定装置4にエアを供給して固定チューブ12を膨らませる構成であったが、エア以外の流体、例えば水や油などの液体を用いて固定チューブ12を膨らませるように構成してもよい。勿論、補修機5の補修チューブ27も、エア以外の流体を用いて膨らませるように構成してもよい。なお、液体を用いる場合、補修機5や先行固定装置4を既設管渠2から取り除く際に、チューブ12,27内に液体が残存すると重くなるので、吸引ポンプ等を用いてチューブ12,27内の液体を吸引して排出するように構成してもよい。
【0054】
さらに、上記実施の形態において、先行固定装置4は、外部に設けたエアコンプレッサ7によってエアが供給される構成であったが、これに限定されるものではない。例えば、先行固定装置4の内部にガス発生装置を設け、そのガス発生装置を点火することで発生したガスによって、固定チューブ12を拡張変形させるように構成してもよい。また、先行固定装置4において、拡張収縮変形な高摩擦体としては、ゴムからなる固定チューブ12に限定されるものではない。例えば、円弧板状に形成された高摩擦体と、その高摩擦体を装置外周側に拡張させるための電動アクチュエータとを備え、そのアクチュエータの駆動によって既設管渠2の内周面に高摩擦体を面接触させるように先行固定装置を構成してもよい。
【0055】
次に、特許請求の範囲に記載された技術的思想のほかに、前述した実施の形態によって把握される技術的思想を以下に列挙する。
【0056】
(1)手段5において、前記先行固定装置の後端面には、その中央部分に前記定滑車が設けられるとともに、その定滑車を挟んで対向する位置に前記流体供給用配管と前記ワイヤとを接続するようにしたことを特徴とする既設管渠の更生方法。
【0057】
(2)手段1乃至5のいずれかにおいて、前記先行固定装置の端部には複数の車輪が周方向に等間隔で設けられており、前記複数の車輪を利用して前記先行固定装置を移動させるようにしたことを特徴とする既設管渠の更生方法。
【0058】
(3)手段1乃至5のいずれかにおいて、前記前記既設管渠は、端部が閉塞された管渠であり、前記固定工程では、その管渠の閉塞端に前記固定装置を固定することを特徴とする既設管渠の更生方法。
【0059】
(4)手段5において、前記補修機移動工程にて、前記既設管渠の開口端またはその外側に配置された電動ウインチに前記牽引用ワイヤを接続し、前記電動ウインチを駆動することにより前記牽引用ワイヤを介して前記補修機を移動させることを特徴とする既設管渠の更生方法。
【0060】
(5)手段5において、前記補修機移動工程にて、前記牽引用ワイヤに接続された前記補修機の後方に接続用ワイヤを介して別の補修機が接続されることを特徴とする既設管渠の更生方法。
【0061】
(6)手段3において、前記先行固定装置及び前記補修機に供給される流体がエアであることを特徴とする既設管渠の更生方法。
【0062】
(7)技術的思想(6)において、前記補修工程後、前記補修機に加わる前記エア圧力を開放してその外周面を収縮させるとともに、前記先行固定装置に加わるエア圧力を開放してその外周面を収縮させた後、前記連結部材及び前記ワイヤを用いて前記補修機及び前記固定装置を既設管渠内から引き出す取り外し工程をさらに含むことを特徴とする既設管渠の更生方法。
【符号の説明】
【0063】
2…既設管渠
2a…奥側の位置としての閉塞端
2b…開口端
3…損傷箇所
4…先行固定装置
5,5a,5b…補修機
7…流体供給装置としてのエアコンプレッサ
12…高摩擦体としての固定チューブ
15,30…流体供給用配管としてのエア配管
21…定滑車
22…牽引用の連結部材としての牽引用ワイヤ
24…ワイヤとしての固定用ワイヤ
26…筒体
27…補修チューブ
35…押し込み用管

【特許請求の範囲】
【請求項1】
地中に埋設された既設管渠内において、外周面に更生材が配置された補修機を膨張させて前記更生材を前記既設管渠の内周面に圧着することにより、前記既設管渠の損傷箇所を補修する既設管渠の更生方法であって、
装置径方向に拡張収縮変形可能な高摩擦体を有する先行固定装置と、前記先行固定装置に接続された牽引用の連結部材とを、前記既設管渠の開口端側から挿入する挿入工程と、
前記既設管渠内において前記損傷箇所よりも奥側の位置まで前記先行固定装置を送り込み、その位置にて前記高摩擦体を拡張変形させて前記既設管渠の内周面に面接触させることで前記先行固定装置を移動不能に固定する固定工程と、
前記連結部材に前記補修機を接続し、その連結部材を用いて前記補修機を前記先行固定装置側に引き寄せることにより、前記損傷箇所に対応した位置まで前記補修機を移動させる補修機移動工程と、
前記補修機を膨張させて前記更生材を前記既設管渠の内周面に圧着する補修工程と
を含むことを特徴とする既設管渠の更生方法。
【請求項2】
前記挿入工程では、前記先行固定装置及び前記連結部材とともに、前記先行固定装置に接続した流体供給用配管を前記既設管渠の開口端側から挿入し、
前記固定工程では、前記流体供給用配管に接続された流体供給装置を作動させて前記先行固定装置側に流体を供給することにより、前記高摩擦体を拡張変形させる
ことを特徴とする請求項1に記載の既設管渠の更生方法。
【請求項3】
前記補修機は、中空筒状の筒体と、前記筒体の外周面に配置され、前記流体の供給によって膨張する補修チューブとを備えるものであり、
前記補修機移動工程では、前記流体供給用配管及び前記連結部材を前記筒体の内側に挿通させた状態で前記補修機を移動させる
ことを特徴とする請求項2に記載の既設管渠の更生方法。
【請求項4】
前記先行固定装置の後端面にはワイヤが接続されており、
前記固定工程では、複数本の押し込み用管を前記ワイヤに挿通させた状態で順次継ぎ足しながら管全体を伸長させるとともに、継ぎ足された前記複数本の押し込み用管により前記先行固定装置を前記奥側の位置まで押し込む
ことを特徴とする請求項1乃至3のいずれか1項に記載の既設管渠の更生方法。
【請求項5】
前記先行固定装置の後端面には、前記連結部材としての牽引用ワイヤを引っ掛けるための定滑車が設けられ、
前記移動工程では、作用点となる前記牽引用ワイヤの一端を前記補修機に接続し、力点となる前記牽引用ワイヤの他端を前記筒体の内側に挿通して前記既設管渠の開口端側に引き出しておき、この状態で前記定滑車を支点として前記牽引用ワイヤの他端を引っ張るようにする
ことを特徴とする請求項1乃至4のいずれか1項に記載の既設管渠の更生方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2012−106385(P2012−106385A)
【公開日】平成24年6月7日(2012.6.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−256232(P2010−256232)
【出願日】平成22年11月16日(2010.11.16)
【出願人】(502278390)株式会社山越 (8)
【Fターム(参考)】