説明

昇降システム

【課題】ギアポンプを正回転または逆回転させて、リフトシリンダを昇降させるシステムにおいて、閉じ込み室が孤立して高圧になって騒音を発生することがなく、リフトシリンダの上昇時には漏れを少なくしてポンプ効率を維持できる昇降システムを提供する。
【解決手段】電動モータによってギアポンプを正回転して単動リフトシリンダを上昇させ、逆回転させて単動リフトシリンダを下降させる昇降システムにおいて、ギアポンプP1は、逆回転時には閉じ込み室8の容積が最小になるまでの過程で、当該閉じ込み室8と低圧側3とを連通させるとともに、当該ギアポンプの正回転時で単動リフトシリンダを上昇させるとき閉じ込み室の容積が最小になるまでの間、上記閉じ込み室低圧側4との連通を遮断する逃げ溝9,6を設けた。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ギアポンプを用いたリフトシリンダの昇降システムに関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、リフトの昇降システムとして、ギアポンプPを用いたシステムがある。
このシステムは、図3に示すように、単動型のリフトシリンダ1に、切換バルブ2を介してギアポンプPを接続し、このギアポンプPに電動モータMを接続している。
リフトシリンダ1を上昇させる際には、切換バルブ2を図3の位置に保ってリフトシリンダ1へ作動油を供給する。上記リフトシリンダ1を下降させる際には、上記切換バルブ2を切り換えて、リフトシリンダ1からタンクTへ作動油を排出する。
【0003】
上記昇降システムに用いるギアポンプPは、図4,図5の部分拡大図に示すものであり、図示しないボディに組み込んだ一対のギアのうち、上記電動モータMに連結した第1ギアIと、これにかみ合う第2ギアIIとを備えたものである。
なお、図4,図5においてシフトシリンダ1を接続した側を高圧側3、タンクTに接続した側を低圧側4としている。
【0004】
そして、上記リフトシリンダ1を上昇させる際には、上記電動モータMによって第1ギアIを反時計回りである矢印A方向に回転させる。すると、この第1ギアIの回転に第2ギアIIが従動し、第2ギアIIが時計回りである矢印B方向に回転して、低圧側4から吸い込んだ作動油を高圧側3に吐出する。
このように、ギアポンプPが作動すると、第1,第2ギアI,IIの間に閉じ込み室7が形成される、この閉じ込み室7は、上記第1,第2ギアI,IIの回転に伴って容積を変化させるが、その容積が小さくなる過程で内部が高圧になる。
【0005】
閉じ込み室7内が高圧になると、その圧力によって上記両ギアI、IIが離れる方向に移動し、圧力が下がれば元に戻るということを繰り返す。このように、第1ギアIと第2ギアIIとが振動してぶつかり合うと、騒音を発するという問題がある。このような騒音発生の問題を防止するため、ギアポンプPのボディには、両ギアの接触部の両側において、高圧側3に連通する矩形の高圧側逃げ溝5と、低圧側4に連通する矩形の低圧側逃げ溝6とを形成している。これらの逃げ溝5,6によって、その容積が小さくなる過程で、閉じ込溝7が孤立して内部が高圧になることを防止している。
【0006】
なお、図4は、第1ギアIが反時計まわりに回転して、閉じ込み室7が最小になる直前の状態を示している。このとき高圧側逃げ溝5を介して上記閉じ込み室7が高圧側3と連通している。さらに、回転が進むと、低圧側逃げ溝6と閉じ込み室7とが連通することになる。このように、閉じ込み室7はその容積を最小にする過程で、上記逃げ溝5あるいは6と連通し、内部が高圧にならないようにしている。
【0007】
一方、上記切換バルブ2を切り換えてリフトシリンダ1を下降させるとき、リフトシリンダ1の負荷が大きければ、リフトシリンダ1は自重で下降するので、電動モータMを作動させる必要はない。
リフトシリンダ1が自重によって下降するとき、リフトシリンダ1から排出される作動油は、電動モータMを連結していない負荷の小さい方の第2ギアIIを回転させる。つまり、第2ギアIIが駆動側となって反時計回りである矢印A側に回転し、第1ギアIを矢印B方向に回転させる。
このような回転時に、閉じ込み室7は、初めは低圧側逃げ溝6に連通した状態で容積を小さくし、低圧側逃げ溝6との連通が遮断されたときには、高圧側連通溝5と連通するようにしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開平08−105390号公報
【特許文献2】特開2003−113781号公報
【特許文献3】特開昭56−156486号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
上記した従来の昇降システムでは、リフトシリンダの下降時にはその自重を利用することを想定し、そのため、ギアポンプPを電動モータMによって逆回転させることは想定していない。
しかし、リフトシリンダ1の負荷が小さい場合には、自重で下降させることが難しく、電動モータMによってギアポンプPを逆回転させて、リフトシリンダ1から作動油をタンクTへ排出させる必要がある。
図5は、リフトシリンダ1の負荷が小さく、第1ギアIを電動モータMによって、時計回りである矢印B方向に回転させたときの図である。つまり、第1ギアIが駆動側となり、第2ギアIIが従動側となる。
【0010】
このように、第1ギアIを、リフトシリンダ1を上昇させるときとは逆方向に回転させると、第1ギアIと第2ギアIIの接触方向が反対となり、両ギアI、IIが接触して形成される閉じ込み室8は、上記閉じ込み室7と形状も位置も変化する。特に、ギアI、IIの接触位置は、ギアのバックラッシ分だけ高圧側3方向へずれるので、図4に示す閉じ込み室7と同じ容積となる閉じ込み室8は、上記接触位置のずれ分だけ高圧側にずれることになる。
【0011】
そのため、第1ギアIが電動モータによって矢印B方向に回転するとき、閉じ込み室8と低圧側逃げ溝6との連通が早く遮断され、閉じ込み室8と高圧側逃げ溝5とが連通するまでの間、閉じ込み室8が孤立してしまうことになる。このように、閉じ込み室8が孤立してしまうと、閉じ込み室8の内部が高圧になって、騒音発生の原因となる。
だからといって、低圧側逃げ溝6を図4,図5に示すものよりも高圧側に大きく広げたのでは、図4のようにリフトシリンダ1を上昇させる際に、閉じ込み室7が高圧側逃げ溝5と連通しているうちに、低圧側逃げ溝6とも連通し、高圧側3と低圧側4とが閉じ込み室7を介して連通してポンプ効率が落ちてしまうという問題が発生する。
【0012】
この発明の目的は、ギアポンプを正回転または逆回転させて、リフトシリンダを昇降させるシステムにおいて、閉じ込み室が孤立して高圧になって騒音を発生することがなく、リフトシリンダの上昇時には漏れを少なくしてポンプ効率を維持できる昇降システムを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0013】
この発明は、電動モータに連係した一方のギアとこの一方のギアにかみ合う他方のギアとを設けたギアポンプを備え、このギアポンプを正回転して単動リフトシリンダを上昇させ、単動リフトシリンダの下降時に上記ギアポンプを逆回転する昇降システムを前提とするものである。
第1の発明は、上記ギアポンプが、上記下降時に単動リフトシリンダの負荷が小さく、上記電動モータによって上記ギアポンプを逆回転させるとき、閉じ込み室の容積が最小になるまでの過程で、当該閉じ込み室と低圧側とを連通させるとともに、当該ギアポンプの正回転時で単動リフトシリンダを上昇させるとき上記閉じ込み室の容積が最小になるまでの間、上記閉じ込み室と上記低圧側との連通を遮断する逃げ溝を設けたことを特徴とする。
第2の発明は、上記逃げ溝が、一方のギアと他方のギアとの接点よりも一方のギアの歯元側にあって、一方のギアと他方のギアの回転中心を結んだ中心線に向かって突出させた三角形の接続溝を備えたことを特徴とする。
【発明の効果】
【0014】
この発明によれば、ギアポンプの閉じ込み室が孤立することがなく、閉じ込み室が高圧になることがないので、ギアポンプをモータによって逆回転させたときにも、騒音を発生することがない。
しかも、リフトシリンダの上昇時には漏れを少なくしてポンプ効率を維持することもできる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】図1は、この発明の実施形態の昇降システムに用いるギアポンプの部分拡大図であり、電動モータによって逆回転時を示している。
【図2】図2は、この発明の実施形態の昇降システムに用いるギアポンプの部分拡大図であり、正回転時を示している。
【図3】図3は、従来例の昇降システムを示した回路図である。
【図4】図4は、従来例の昇降システムに用いるギアポンプの部分拡大図であり、リフトシリンダの上昇時を示している。
【図5】図5は、従来例の昇降システムに用いるギアポンプの部分拡大図であり、電動モータを逆回転させたリフトシリンダの下降時を示している。
【発明を実施するための形態】
【0016】
図1,図2は、この発明の実施形態の昇降システムに用いるギアポンプP1の部分拡大図である。
この実施形態の昇降システムの全体構成は、図3に示す従来例と同様であり、ギアポンプP1が、従来例のギアポンプPとは異なるが、その他の構成は上記従来例と同じである。
従って、従来例と同じ構成要素には上記図3〜図5と同じ符号を用い、以下には、従来例と異なる点を中心に説明する。
【0017】
なお、図1は、上記電動モータM(図3参照)によってギアポンプP1が逆回転しているとき、すなわち第1ギアIを時計回りである矢印B方向に回転させて上記リフトシリンダ1を下降させているときの図であり、閉じ込み室8の容積が最小になった直後の状態を示している。
また、図2はギアポンプP1の正回転時、すなわち第1ギアIを電動モータMによって反時計回りである矢印A方向に回転させ、上記リフトシリンダ1を上昇させているときの図であり、閉じ込み室7が最小になる直前の状態を示している。
【0018】
この実施形態のギアポンプP1は、図示していないボディに、上記従来例と同様に矩形の高圧側逃げ溝5と低圧側逃げ溝6とを形成している。ただし、低圧側逃げ溝6には、図1の状態において第1ギアIと第2ギアIIとの接点よりも第1ギアIの歯元側であって、各ギアI、IIの回転中心o,oを結んだ中心線Lに向かって突出させた三角形の接続溝9を備えている。
上記接続溝9は、図1に示すように、ギアポンプP1の逆回転時、形成された閉じ込み室8がその容積を小さくして最小になった直後まで、上記閉じ込み室8と連通している。従って、閉じ込み室8は、その容積が最小になる過程で常時上記接続溝9及び低圧側逃げ溝6によって低圧側4と連通している。そのため、閉じ込み室8内が高圧になって騒音が発生することがない。
【0019】
また、この実施形態では、閉じ込み室8と上記接続溝9との連通が遮断されたときには、高圧側逃げ溝6と閉じ込み室8とが連通する。そのため、閉じ込み室8は、その容積が大きくなる過程でも孤立することがなく、閉じ込み室8内が負圧になって第1、第2ギアI、IIが振動することも防止できる。
【0020】
一方、図2に示すように、ギアポンプP1の正回転時には、上記接続溝9は、閉じ込み室7の容積が最小になるまでの間、閉じ込み室7との連通を、第1ギアIによって遮断される。そのため、図2に示したように、上記閉じ込み室7が高圧側逃げ溝5と連通していても、閉じ込み室7を介して高圧側3と低圧側4とが連通することがなく、ポンプ効率を落としてしまうことがない。
【0021】
以上のように、この実施形態の昇降システムでは、上記接続溝9及び矩形の低圧側逃げ溝6によって、ギアポンプP1が電動モータによって逆回転するとき、閉じ込み室8と低圧側3とを連通させ、ギアポンプP1が正回転するとき、閉じ込み室7と低圧側4との連通を遮断する。つまり、上記接続溝9と逃げ溝6とによって、この発明の逃げ溝を構成している。
なお、この発明の逃げ溝の形状は、上記実施形態のものに限らず、上記接続溝9及び低圧側逃げ溝6の形状もどのようなものでもかまわない。
【産業上の利用可能性】
【0022】
この発明の昇降システムは、モータによってギアポンプを正回転あるいは逆回転させて、リフトシリンダを昇降させるシステムに適用できる。
【符号の説明】
【0023】
P1 ギアポンプ
I 第1ギア
II 第2ギア
1 リフトシリンダ
3 高圧側
4 低圧側
5 高圧側逃げ溝
6 低圧側逃げ溝
7 閉じ込み室
8 閉じ込み室
9 接続溝
A (反時計周りを示す)矢印
B (時計回りを示す)矢印

【特許請求の範囲】
【請求項1】
電動モータに連係した一方のギアとこの一方のギアにかみ合う他方のギアとを設けたギアポンプを備え、このギアポンプを正回転して単動リフトシリンダを上昇させ、単動リフトシリンダの下降時に上記ギアポンプを逆回転する昇降システムであって、上記ギアポンプは、上記下降時に単動リフトシリンダの負荷が小さく、上記電動モータによって上記ギアポンプを逆回転させるとき、閉じ込み室の容積が最小になるまでの過程で、当該閉じ込み室と低圧側とを連通させるとともに、当該ギアポンプの正回転時で単動リフトシリンダを上昇させるとき上記閉じ込み室の容積が最小になるまでの間、上記閉じ込み室と上記低圧側との連通を遮断する逃げ溝を設けた昇降システム。
【請求項2】
上記逃げ溝は、一方のギアと他方のギアとの接点よりも一方のギアの歯元側にあって、一方のギアと他方のギアの回転中心を結んだ中心線に向かって突出させた三角形の接続溝を備えたことを特徴とする請求項1に記載の昇降システム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2012−47114(P2012−47114A)
【公開日】平成24年3月8日(2012.3.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−190580(P2010−190580)
【出願日】平成22年8月27日(2010.8.27)
【出願人】(000000929)カヤバ工業株式会社 (2,151)
【出願人】(592057983)KYBエンジニアリングアンドサービス株式会社 (8)
【Fターム(参考)】