説明

昇降装置およびワイヤーロープの損傷検知装置

【課題】 ワイヤーロープの損傷を常に監視し、検知すれば即時にワイヤーロープの駆動を停止させることができる損傷検知装置を提供すること。
【解決手段】 駆動力伝達用のワイヤーロープ4の損傷を検知するための検知装置21であって、移動するワイヤーロープ4の損傷部に係合しうるように、ワイヤーロープ4に近接し且つワイヤーロープ4の移動方向に交差するように張設された可撓性を有する検出用ワイヤ24と、この検出用ワイヤ24に連結された、検出用ワイヤ24の移動を検出するための移動検出装置30とを備えており、この移動検出装置30が、検出用ワイヤ24の移動を検出したことに基づき、上記ワイヤーロープ4の駆動装置の駆動を停止するように構成されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ワイヤーロープのストランド切れ等の損傷を検知する装置、および、この検知装置が好適に適用されうる昇降装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、ワイヤーロープは荷役、運搬、昇降等の種々の装置に使用されている。このような重量物の運搬昇降用ワイヤーロープとしては、たとえば図12に示す構造のものが多く用いられている。このワイヤーロープ61は、芯鋼(繊維芯やロープ芯)62を中心として複数本(たとえば19本)の素線63を束ねて形成したストランド64をスパイラル状に複数本(たとえば8本)撚り合わせた構造となっている。図12は、駆動シーブや転向シーブ等のシーブ65の溝66に係合したワイヤーロープ61の断面を示している。
【0003】
そして、たとえば乗用エレベータ、エレベータ式駐車装置、立体倉庫、クレーン装置、高所作業車等では、定期的な保守点検が行われており、ワイヤーロープに「素線切れ」や「ストランド切れ」があるか否かの調査も点検項目に含まれている。この「ストランド切れ」、および、これの予兆となる「素線切れ」はワイヤーロープの摩耗損傷の典型的な現象である。「素線切れ」については、少数または軽微であれば定期的な保守点検時に対処するだけで昇降機の運転継続にとって支障はない。したがって、一般的には「素線切れ」が発見されたことによって昇降機の即時停止を図るほどの緊急性は必要とされない。
【0004】
しかし、「素線切れ」が連鎖反応的に増大して一本のストランドに拡大し、ついに「ストランド切れ」が生じると緊急事態となる。すなわち、ストランドが一本でも破断するとそのストランドはワイヤーロープからはみ出す。はみ出したストランドは、ワイヤーロープがプーリやシーブ溝を方向転換しながら通過するうちに、図13に示すように、撚りが戻って長く伸びて突出する。この伸びた破断ストランド64aは、シーブ溝66等を摩耗させるだけに留まらない。たとえば、駐車装置の場合、エレベータや駐車棚に搭載した車両や駐車装置の機械部材、構造体等に接触したり巻き付いたりして、車体の損傷やエレベータの昇降に障害を生じさせたりする虞もある。
【0005】
したがって、定期的な保守点検時の検査で十分な「素線切れ」とは異なり、「ストランド切れ」は発見され次第、即座にエレベータ等の昇降機を緊急停止させ、ワイヤーロープの交換等の処置を施す必要がある。引用文献1〜5にはそれぞれ、これらのワイヤーロープの検査技術の例が開示されている。
【0006】
特許文献1に開示されたエレベータ用ワイヤーロープの自動監視装置は、ワイヤーロープに磁気探傷試験装置を近接して設置し、ワイヤーロープの損傷信号を検出するものである。装置の詳細は開示されていないが、磁気探傷装置、制御盤、表示装置等の装置類は大がかりであり且つ高価である。さらに、比較的広い設置スペースを必要とする。複数本のワイヤーロープを検査する場合にはさらにコストは上昇するであろう。
【0007】
特許文献2に開示された昇降装置の安全装置は、ワイヤーロープを非接触状態で囲むように配置されるリング形状の可動子、棒状検出子、検知装置等からなる。ワイヤーロープの切断や地震等の揺れによってワイヤーロープが滑車やシーブの所定走行位置から外れた場合、リング状可動子がこの位置ずれしたワイヤーロープに接触して動かされ、棒状検出子も動かされるので、これが上記検知装置に検知されるというものである。この安全装置も大がかりであり且つ高価である。
【0008】
特許文献3には、圧力センサ式の素線切れ検知装置が提案されている。この装置は、二分割された漏斗状筒体と、その外部に圧力センサを介して備えられた保持具とから構成されている。この漏斗状筒体内に一本のワイヤーロープを挿通して移動させると、ワイヤーロープの外方へ飛び出した素線の切断部が漏斗状筒体をひっかけて引きずるので、上記圧力センサを作動させてこれが検出されるというものである。この安全装置はストランド切れの検出にも適用できるであろうが、やはり大がかりであり且つ高価である。また、複数本のワイヤーロープを検査する場合には、一層コストは上昇し、さらに広い設置スペースを必要とするであろう。
【0009】
また、特許文献4には、光学センサ式の素線切れ検知装置が提案されている。この装置は、移動するワイヤーロープの軸線に直交するように、対向位置に投光器と受光器とを配置したものである。そして、外方に飛び出した素線切れ部分の通過によって生じる受光量の変化を検出して素線切れを検知しようというものである。この安全装置もストランド切れの検出に適用できるが大がかりであり且つ高価である。
【0010】
特許文献5には、紙、粘土等の易損傷材料からなる板、膜、フィルム等を用いた素線切れ検知具が開示されている。この検知具は、移動するワイヤーロープに近接させておくと、切断して飛び出ている素線がこれに接触して損傷するので、目視によって容易に素線切れを確認することができるというものである。この検知具もストランド切れの検出にも適用できるが、目視に依らざるを得ないので定期点検時にしか用いることができないので、緊急対処を要する「ストランド切れ」には適さない。
【特許文献1】特開昭60−19677号公報
【特許文献2】実公平7−56293号公報
【特許文献3】特開平8−119539号公報
【特許文献4】特開平11−325844号公報
【特許文献5】特開2004−307116号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明はかかる課題を解決するためになされたものであり、構成が簡単で且つ安価であり、常時ワイヤーロープのストランド切れ等の損傷検知が可能であることから、ワイヤーロープの損傷に対する緊急処置も可能となるワイヤーロープの損傷検知装置、および、この検知装置が好適に適用されうる昇降装置を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明のワイヤーロープの損傷検知装置は、
駆動力伝達用のワイヤーロープの損傷を検知するための検知装置であって、
移動するワイヤーロープの損傷部に係合しうるように、ワイヤーロープに近接し且つワイヤーロープの移動方向に交差するように張設された可撓性を有する検出用の線条体と、
該線条体に連結された、線条体の移動を検出するための移動検出装置とを備えており、
この移動検出装置が、線条体の移動を検出したことに基づいて上記ワイヤーロープの駆動装置の駆動を停止するように構成されている。
【0013】
かかる構成によれば、移動するワイヤーロープの切断ストランド等、ワイヤーロープから外方へ突出した部分に検出用の線条体が係合するので、この線条体が引っ張られて移動する。これを移動検出装置が検出することにより、ワイヤーロープの駆動装置の駆動を停止させる。したがって、その後に迅速な修理等が可能となる。
【0014】
上記線条体を張設するための支持部材をさらに備え、上記線条体の一端を上記支持部材に固定し、支持部材に形成された線条体転向部を経由してその他端を上記移動検出装置の検出部に連結することができる。
【0015】
上記移動検出装置を上記駆動装置の駆動用回路に電気的に接続し、この移動検出装置が上記線条体の移動を検出したときに上記駆動用回路が遮断されて駆動装置が停止するように構成することができる。
【0016】
上記移動検出装置に、上記駆動装置の駆動用回路に介装されたコンセントと、このコンセントに電気的に接続しうるプラグとを備え、
このプラグの栓刃同士を電気的に短絡することによって駆動用回路を接続状態にし、このプラグに上記線条体を連結し、
上記コンセントとプラグとの接続が切断することによって上記駆動用回路が遮断されるように構成することができる。
【0017】
このように構成すれば、入手しやすい簡単な部品によって移動検出装置(駆動用回路の遮断装置)を実現することができる。
【0018】
上記線条体を、上記プラグに形成された挿通部に挿通し、
この線条体の端部を、伸縮可能な伸縮部材を介して、移動し得ない固定部に弾力的に取り付け、
この線条体の上記挿通部に対応する部分より先端がわに、上記挿通部を通過し得ない係合部を形成し、
線条体が移動している際に、上記係合部がプラグの上記挿通部に係合することにより、コンセントとプラグとの接続が切断しうるように構成することができる。
【0019】
かかる構成により、線条体が伸縮部材を介して常時緊張状態にあるため、移動検出装置による線条体の移動検出の精度が向上する。
【0020】
上記移動検出装置に、上記駆動装置の駆動用回路に介装された、磁石接続式の接続端子を有するマグネットコンセントと、このマグネットコンセントに磁着されることにより電気的に接続しうるアダプタと、このアダプタに電気的に接続しうるプラグとを備え、
このプラグの栓刃同士を電気的に短絡することによって駆動用回路を接続状態にし、このプラグに上記線条体を連結し、
マグネットコンセントとアダプタの接続、または、アダプタとプラグとの接続、のうち少なくとも一方が切断することによって上記駆動用回路が遮断されるように構成することができる。
【0021】
このように構成した場合、入手しやすい簡単な部品によって移動検出装置(駆動用回路の遮断装置)を実現できることはもとより、駆動用回路の遮断をより一層容易に行うことができる。
【0022】
上記線条体を、上記プラグに形成された挿通部に挿通し、
この線条体の端部を、伸縮可能な伸縮部材を介して、移動し得ない固定部に弾力的に取り付け、
この線条体の上記挿通部に対応する部分より先端がわに、上記挿通部を通過し得ない係合部を形成し、
線条体が移動している際に、上記係合部がプラグの上記挿通部に係合することにより、マグネットコンセントとアダプタの接続、または、アダプタとプラグとの接続、のうち少なくとも一方が切断しうるように構成することができる。
【0023】
かかる構成により、線条体が伸縮部材を介して常時緊張状態にあるため、移動検出装置による線条体の移動検出の精度が向上する。
【0024】
本発明の昇降装置は、
一端にエレベータが取り付けられ、他端にカウンターウエイトが取り付けられたエレベータ昇降用のワイヤーロープと、
駆動モータと、
この駆動モータによって回転駆動される、上記ワイヤーロープを巻き上げるための駆動シーブと、
この駆動シーブに近接して配置される転向シーブと、
上記駆動シーブおよび転向シーブのうちの少なくとも一方に近接して配設されたワイヤーロープの損傷検知装置とを備えており、
この損傷検知装置が前述したうちのいずれか一の損傷検知装置から構成されている。
【0025】
本発明のエレベータ式駐車装置は、
車両搬送用のエレベータと、
このエレベータを昇降させる昇降装置と、
エレベータの昇降路に沿って上下複数段に設置された駐車棚とを備えており、
上記昇降装置が前述の昇降装置から構成されている。
【発明の効果】
【0026】
本発明のワイヤーロープの損傷検知装置は、その構成が簡素でであり、しかも取扱いが容易である。また、高所の狭小なスペースであっても設置することができ、ワイヤーロープに対して作業員が直接にアクセスする必要なく容易にストランド切れ等の損傷の検査を行うことができる。そして、ワイヤーロープの損傷を検知すると、自動的にワイヤーロープの駆動装置の駆動が停止される。したがって、損傷検知装置自体の損傷も免れる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0027】
添付の図面を参照しながら本発明の損傷検知装置(以下、単に検知装置ともいう)の実施形態、および、この検知装置を備えた昇降装置の実施形態を説明する。
【0028】
図1は本発明の昇降装置の一実施形態である車両昇降用エレベータを備えたエレベータ式駐車装置(以下、単に駐車装置という)の一例を示す断面図である。図2は図1の駐車装置におけるエレベータを示す斜視図である。図3(a)は図2のエレベータの駆動装置を示す平面図であり、図3(b)は図3(a)のIII−III線矢視図である。図4は図2のエレベータのワイヤーロープに適用しうる本発明のワイヤーロープの損傷検知装置の一実施形態を示す斜視図である。
【0029】
この駐車装置1の内部には、車両搭載用のパレット2を昇降させるためのエレベータ3がワイヤーロープ4によって吊り下げられており、このワイヤーロープ4を巻き上げ繰り出すことによってエレベータ3を昇降させる駆動装置5およびカウンターウエイト6が備えられている。エレベータ3の昇降路7の両側には車両Mが載置されたパレット2を収容するための多数段の駐車棚8が配設されている。エレベータ3は両側の駐車棚8の間を昇降し、呼び出されたパレット2の駐車棚8まで移動したうえで当該パレット2を受け取り、これを入出庫階Eへ搬送する。また、入出庫階Eから指定された駐車棚8まで車両Mを載せたパレット2を搬送して預け入れる。本駐車装置1では入出庫階Eは一番下の床面(一階)とされている。
【0030】
図2に示すように、エレベータ3にはワイヤーロープ4によってカウンターウエイト6が連結されている。符号9はエレベータ3の昇降ガイドレールであり、その一部のみを図示している。ワイヤーロープ4は、その一端がカウンターウエイト6に接続され、転向シーブ12、駆動シーブ11および転向プーリ10に巻き掛けられたうえで、他方の端部がほぼ矩形のエレベータ3の四隅に接続されている。
【0031】
図3に示すように、駆動シーブ11には減速機13および図示しないブレーキを介して駆動モータ14が連結されている。符号15はカップリングである。この駆動モータ14によって駆動シーブ11を回転させ、駆動シーブ11の摩擦力によってワイヤーロープ4を引いてエレベータ3を昇降させている。カウンターウエイト6の重量によって駆動装置5の上昇力と下降力との均一化を図っている。
【0032】
本実施形態ではエレベータ3の四隅それぞれに三本で一組のワイヤーロープ4が連結されている。したがって、各シーブ11、12には十二本のロープ4が巻き掛けられるように、ロープ一本ごとの溝16が形成されている。この本数は例示であり、これに限定されることはない。そして、当然ながら両シーブ11、12間の十二本のロープ部分はそれぞれ張力によってたるむことなく直線状になっている。この部分では、各ワイヤーロープ4がシーブ11、12の溝16に係合し、張力によって張られているので、その長手方向に垂直の方向(ロープの断面半径方向)には変位することがなく整列している。したがって、12本のワイヤーロープ4が全体で一平面状を呈している。この部分に、ワイヤーロープ4の損傷検知装置21が設置されている。検知装置21の設置場所はワイヤーロープ4に近接しておればとくに上記に限定されることはない。しかし、一台の検知装置21によって12本全てのワイヤーロープ4を検査することができることから、上記転向シーブ12や駆動シーブ11の近傍が好ましい。
【0033】
図4に示すように、この検知装置21は、転向シーブ12の左右両側に配置されて転向シーブ12の軸12aを支持するための架台22を利用している。具体的には、転向シーブ12の上端に、互いに整列状態にある12本のロープ4に近接した状態で、このロープ4の移動方向に直角に交差するように左右の架台22に架け渡されて位置調節可能に固定された支持部材23を有している。本実施形態では支持部材23が単純な棒状を呈し、後述の検知用ワイヤ24を支持するものなので、以下これを支持板23と呼ぶ。この支持板23の端部を架台22に位置調節可能に取り付けるために、図示のごとく断面U字状の弾力性を有する挟着部材20(板ばねの機能を有するもの)を用い、この挟着部材20によって支持板23の端部と架台22のフランジ部とを挟圧している。この挟着部材を採用すれば、支持板23の着脱が容易であるとともに、架台22に対する支持板23の位置、ひいては、後述するマグネットコンセント31に対する検知用ワイヤ24の端部の圧着端子29の位置の調整が容易となる。
【0034】
また、図示しないが、この挟着部材20にネジ孔を形成し、このネジ孔に、支持板23の端部か架台22に先端が当接するように固定ボルト(調整ボルト)を螺着してもよい。この固定ボルトを緩めることによって挟着部材20の挟着力を解放し、また、固定ボルトを締め込むことによって挟着部材20の挟着力を増大することが可能となる。
【0035】
支持板23の下部には、ロープ4の移動方向に直角に交差してさらに近接した状態で検知用ワイヤ(線条体)24が張設されている(図7参照)。外径が約12mmのロープ4を採用した本実施形態では、このロープ4の上端からの検知用ワイヤ24の離間寸法は約5mmとされている。こうすることにより、切断等して突出したストランド4aにこの検知用ワイヤ24が容易に係合し、移動するワイヤーロープ4によって引っ張られるので、切断ストランド4aを検知することができる。
【0036】
支持板23のほぼ中央上部にワイヤ固定用のアイボルト25が突設され、両端近傍下部にはそれぞれ、下方に延びる垂下部23aにワイヤ転向用のアイボルト26が固設されている。上記検知用ワイヤ24は、その一端が固定用アイボルト25に固定され、一方の転向用アイボルト26に挿通されたうえでロープ4の移動方向に直角に交差するように延び、ついで他方の転向用アイボルト26に挿通され、ついで、さらに上記固定用アイボルト25に挿通されたうえでその他端が一方の架台22に取り付けられている。
【0037】
この実施形態では、検知用ワイヤ24の固定や転向のためにアイボルトを用いたが、とくにアイボルトに限定されることはない。公知のU字状ピンやリング状部材等を用いてもよい。要するに、細いワイヤを固定したり挿通することができる好適なものであればよい。また、検知用ワイヤ24の張設法は上記に限定されない。
【0038】
たとえば、図5に示すように、検知用ワイヤ24を上記固定用アイボルト25に固定し、両転向用アイボルト26に挿通した後、固定用アイボルト25には挿通せずにそのまま延ばして他端を一方の架台22に取り付けてもよい。
【0039】
また、図6に示すように、支持板23の中央上部の固定用アイボルト25は設けず、検知用ワイヤ24の一端を一方の転向用アイボルト26に固定し、他方の転向用アイボルト26に挿通した後、そのまま延ばして他端を一方の架台22に取り付けてもよい。
【0040】
また、検知用ワイヤ24はロープ4に対して必ずしも直角に交差させる必要はない。直角から傾斜していてもよい。要するに、支持板23やアイボルトの配置は、検知用ワイヤ24をロープ4に近接させ、ロープ4の移動方向に交差する方向に張設することができるものであればよい。
【0041】
図4および図8に示すように、検知用ワイヤ24の他端は、伸長状態のコイルバネ27を介してブラケット28に取り付けられ、このブラケット28が上記架台22に固定されている。具体的には、検知用ワイヤ24の他端には、後述するプラグ33の挿通環33bに係合しうる係合部としての圧着端子29が圧着されており、この圧着端子29の接続穴29aにコイルバネ27が接続されている。したがって、検知用ワイヤ24がその一端側(支持板23側)に引かれると、上記コイルバネ27が伸びるという仕組みである。上記のように、安価で入手が容易であり、取扱いも容易な圧着端子29が接続具として利用されているが、この圧着端子に限定されることはなく、他のいかなる好適な接続具を使用してもよい。
【0042】
図4に示すように、検知用ワイヤ24の他端には、切断等したストランドに引っ張られて検知用ワイヤ24が移動したことを検出する移動検出装置30が配設されている。この移動検出装置30は、上記ブラケット28の近傍に配設されたいわゆるマグネットコンセント31を有している。このマグネットコンセント31にはアダプタ32が磁着されることによって電気的に接続されており、このアダプタ32には電気接続用のプラグが嵌着されている。
【0043】
図9に示すように、マグネットコンセント31というのは、磁石の磁着力により、アダプタ32を介してプラグ33との電気的接続を維持するものである。そして、プラグ33やアダプタ32に対して、マグネットコンセント31から引き抜く方向に外力が加わったときには通常のコンセントと同等の接続保持力を持つが、横方向の外力(曲げモーメント)に対するマグネットコンセント31とアダプタ32との接続保持力は小さい。したがって、プラグ33やアダプタ32に横方向外力が加わったときはアダプタ32がマグネットコンセント31から容易に外れる。かかるマグネットコンセントは、人がプラグの電気コード(本実施形態では接続していない)に足を引っかけてもこれを切断することもなく、また当該人がつまずく心配もないというものである。
【0044】
本実施形態では、上記プラグ33は通常の使用態様における電気コードは接続されておらず、一対のプラグ栓刃33a間に短絡用電気コード34が接続されている。アダプタ32の基端側にはプラグ33の栓刃33aが挿入される栓刃挿入口32aが形成されており、アダプタ32の先端側にはマグネットコンセント31に電気的接続するための端子ピン35が突設されている。栓刃挿入口32aにプラグ栓刃33aが挿入されると、アダプタ32の内部においてプラグ栓刃33aの先端部と端子ピン35の基端部とが接触して電気的な接続がなされる。
【0045】
一方、マグネットコンセント31には、挿入されたアダプタ32の端子ピン35を所望回路(図示しない)に電気的接続するためのピン受け穴31aが形成されている。また、アダプタ32の先端側およびマグネットコンセント31にはそれぞれ相互に磁着するための磁石36が対向して取り付けられている。かかる構成により、マグネットコンセント31のピン受け穴31aにアダプタ32の端子ピン35が挿入されるだけでは接続力は生じないが、磁石の磁着力によってマグネットコンセント31とアダプタ32との間の接続力が生じる。このアダプタ32やプラグ33に加わる横方向の外力によれば磁石36同士は外れやすくなる。そして、プラグ33の頂部には上記検知用ワイヤ24が挿通される挿通環33bが形成されている。この挿通環33bの内径は上記圧着端子29が通過し得ないほど小さくされている。その結果、検知用ワイヤ24が所定距離移動すると圧着端子29が挿通環33bに係合してしまい、マグネットコンセント31とアダプタ32との接続が外れてしまうのである。
【0046】
図10には、以上説明した検知装置21の動作が示されている。図10(a)は検知装置21の非動作状態を示し、図10(b)は検知装置21の動作状態を示している。検知装置21の検知用ワイヤ24はコイルバネ27の引っ張り力によってその全長に張力が発生した状態にされている。この実施形態では、上記プラグ33の挿通環33bの位置と、検知用ワイヤ24の圧着端子29の上記挿通環33bに当接しうる部位との離間距離がほぼ10mmとなるように、検知用ワイヤ24の長さやコイルバネの長さ等が設定されている(図10(a))。そして、ロープ4に近接して張設された検知用ワイヤ24に切断したストランドの部分4aが係合すると、移動しているロープ4に検知用ワイヤ24が引かれる。検知用ワイヤが10mmほど移動すると先端の圧着端子29がプラグの挿通環33bに当接し、プラグ33に横方向の力が加わる。さらに移動するとアダプタ32がマグネットコンセント31から外れる(図10(b))。本実施形態では、圧着端子29が挿通環33bに当接したあとさらに10mm程度検知用ワイヤ24が引かれると、アダプタ32がマグネットコンセント31から外れるようにされている。
【0047】
アダプタ32がマグネットコンセント31から外れると、以下に説明するように、エレベータ3の駆動モータ14が即時作動停止し、そのオフブレーキ作用によってエレベータ3はその停止位置を保持する。
【0048】
図11にはこの駐車装置1のエレベータ3の駆動モータ14、入出庫階Eの扉の開閉駆動モータ37等の機械動作指令回路40を含んだ駆動用回路の一例が示されている。この回路には、全ての駆動装置の電源をオンにするための電源スイッチ41、駐車装置1内の所定場所に設置された複数個の非常停止スイッチS1、S2、S3・・・Sn、前述の移動検出装置30、並びに、これら非常停止スイッチSおよび移動検出装置30のためのリレーコイル43が直列に配設されている。この回路上の移動検出装置30は、具体的には前述のアダプタ32とマグネットコンセント31とが該当するであろう。また、図示のごとくエレベータ3の駆動モータ14、入出庫階Eの扉開閉駆動モータ37等と直列にリレー接点44が配設されている。
【0049】
そして、複数の非常停止スイッチSおよび移動検出装置30のうちの少なくとも一つが作動すると、リレー接点44が開いてエレベータ3の駆動装置5が停止する。具体例としては、図10(b)に示すように、アダプタ32がマグネットコンセント31から外れたときには、図11の回路における移動検出装置30の部分が遮断する。そして、リレー43、44が働いてエレベータ3の駆動装置5が即時に停止し、そのオフブレーキ作用によってエレベータ3が昇降を停止する。
【0050】
また、図示しないが、駆動装置5が緊急停止した場合、駐車装置1の入出庫階Eに設置した表示装置に、警報、駐車装置の稼働休止等の表示をすることができる。さらに、遠隔監視システムが装備されている場合には、通信回線を通じて監視センター、保守センター、保守員の携帯端末等に通報され、早急且つ適切な修理作業等が行われる。
【0051】
図11には理解容易のためにシーケンス回路を例示したが、この構成に限定されない。要するに、検知装置21が検知ワイヤ24の移動を検知したときにエレベータ3の駆動装置5の動作が停止し得る制御回路を採用すればよい。また、駆動装置5が停止したときに駆動装置5のオフブレーキ作用等によってエレベータが停止状態を保持すればよい。
【0052】
また、上記移動検出装置30に対してリレーを適用せず、機械動作指令回路40に直接接続(図11におけるリレー接点44に対して直列に接続)してもよい。マグネットコンセント31が外れた場合、回路の遮断状態が保持されるためである。
【0053】
上記移動検出装置30としてマグネットコンセント31を採用しているが、普通のコンセントとプラグとの組み合わせを採用してもよい。しかし、横方向の外力によって容易に接続が外れることから、マグネットコンセント31を採用するのが好ましい。
【0054】
以上説明した実施形態では、図4に示すように、検知装置21を転向シーブ12に近接して配置しているが、かかる配置には限定されない。たとえば、駆動シーブ11に近接して配置してもよい。また、一カ所でなく、複数箇所に設置してもよい。そして、図4に示すように面状に整列した複数本のワイヤーロープ4の上側に検知装置21を設置しているが、これに代えて、またはこれに加えて、複数本のワイヤーロープ4の下側(裏側)に検知装置21を設置してもよい。
【0055】
検知装置21の支持板23は前述した形状に限定されない。支持板として好適であればいかなる形状であってもよい。
【0056】
また、以上説明した実施形態の検知装置21は、ワイヤーロープ4のストランド切れに適用する例を示したが、とくにストランド切れに限定されることはなく、素線切れ等の不具合にも適用することができる。
【0057】
さらに、上記検知装置21の適用対象として、上記実施形態では他端にカウンターウエイトが連結されたエレベータ昇降用のワイヤーロープを例にとっているが、これに限定されない。本発明は、カウンターウエイトを用いずに巻き取りドラムに巻き取り且つ繰り出す昇降装置にも適用することができる。
【0058】
また、上記実施形態ではエレベータ式駐車装置におけるエレベータ昇降装置を例にとって説明したが本発明はこれに限定されない。通常の人用のエレベータ昇降装置、クレーンなど、動力伝達手段としてワイヤーロープを用いる装置に適用可能である。
【産業上の利用可能性】
【0059】
本発明によれば、ワイヤーロープのストランド切れ等の損傷が検知されると、当該ワイヤーロープの駆動が停止されるので、昇降装置に限らず、運搬や荷役等の広い分野におけるワイヤーロープの素線切れ検査に適用することが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0060】
【図1】本発明の昇降装置の一実施形態である車両昇降用エレベータを備えたエレベータ式駐車装置の一例を示す断面図である。
【図2】図1の駐車装置におけるエレベータを示す斜視図である。
【図3】図3(a)は図2のエレベータの駆動装置を示す平面図であり、図3(b)は図3(a)のIII−III線矢視図である。
【図4】図2のエレベータのワイヤーロープに適用しうる本発明の損傷検知装置の一実施形態を示す斜視図である。
【図5】本発明の損傷検知装置の他の実施形態の要部を示す斜視図である。
【図6】本発明の損傷検知装置のさらに他の実施形態の要部を示す斜視図である。
【図7】図4の損傷検知装置の検知用ワイヤのワイヤーロープに対する配置を示す側面図である。
【図8】図4の損傷検知装置の検知用ワイヤの取り付け端部近傍を示す側面図である。
【図9】図4の損傷検知装置の移動検出装置の一例を示す断面図である。
【図10】図10(a)は図4の損傷検知装置の非作動状態を示す概略平面図であり、図10(b)は作動状態を示す概略平面図である。
【図11】本発明の損傷検知装置における移動検知装置が適用されうる駆動用回路の一例を示す結線図である。
【図12】損傷検知の対象であるワイヤーロープの一例を示す側面図である。
【図13】図12のワイヤーロープ、および、そのストランドのうちの一本を示す側面図である。
【符号の説明】
【0061】
1・・・・駐車装置
2・・・・パレット
3・・・・エレベータ
4・・・・ワイヤーロープ
5・・・・駆動装置
6・・・・カウンターウエイト
7・・・・昇降路
8・・・・駐車棚
9・・・・ガイドレール
10・・・・転向プーリ
11・・・・駆動シーブ
12・・・・転向シーブ
13・・・・減速機
14・・・・駆動モータ
15・・・・カップリング
16・・・・溝
20・・・・挟着部材
21・・・・検知装置
22・・・・架台
23・・・・支持板
24・・・・検知用ワイヤ
25・・・・固定用アイボルト
26・・・・転向用アイボルト
27・・・・コイルバネ
28・・・・ブラケット
29・・・・圧着端子
30・・・・移動検出装置
31・・・・マグネットコンセント
32・・・・アダプタ
33・・・・プラグ
34・・・・短絡用電気コード
35・・・・端子ピン
36・・・・磁石
37・・・・扉開閉駆動モータ
40・・・・機械動作指令回路
41・・・・電源スイッチ
43・・・・リレーコイル
44・・・・リレー接点
E・・・・入出庫階
M・・・・車両
S・・・・非常停止スイッチ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
駆動力伝達用のワイヤーロープの損傷を検知するための検知装置であって、
移動するワイヤーロープの損傷部に係合しうるように、ワイヤーロープに近接し且つワイヤーロープの移動方向に交差するように張設された可撓性を有する検出用の線条体と、
該線条体に連結された、線条体の移動を検出するための移動検出装置とを備えており、
該移動検出装置が、線条体の移動を検出したことに基づき、上記ワイヤーロープの駆動装置の駆動を停止するように構成されてなるワイヤーロープの損傷検知装置。
【請求項2】
上記線条体を張設するための支持部材をさらに備えており、
上記線条体の一端が上記支持部材に固定され、支持部材に形成された線条体転向部を経由してその他端が上記移動検出装置に連結されてなる請求項1記載のワイヤーロープの損傷検知装置。
【請求項3】
上記移動検出装置が、上記駆動装置の駆動用回路に電気的に接続されており、上記線条体の移動を検出したときに上記駆動用回路が遮断されて駆動装置が停止するように構成されてなる請求項1記載のワイヤーロープの損傷検知装置。
【請求項4】
上記移動検出装置が、上記駆動装置の駆動用回路に介装されたコンセントと、該コンセントに電気的に接続しうるプラグとを備えており、
該プラグの栓刃同士が短絡されていることによって駆動用回路が接続状態にあり、該プラグに上記線条体が連結されており、
上記コンセントとプラグとの接続が切断することによって上記駆動用回路が遮断されるように構成されてなる請求項3記載のワイヤーロープの損傷検知装置。
【請求項5】
上記線条体が上記プラグに形成された挿通部に挿通されており、
該線条体の端部が伸縮可能な伸縮部材を介して、移動し得ない固定部に弾力的に取り付けられており、
該線条体の上記挿通部に対応する部分より先端がわに、上記挿通部を通過し得ない係合部が形成されており、
線条体が移動している際に、上記係合部がプラグの上記挿通部に係合することにより、コンセントとプラグとの接続が切断しうるように構成されてなる請求項4記載のワイヤーロープの損傷検知装置。
【請求項6】
上記移動検出装置が、上記駆動装置の駆動用回路に介装された、磁石接続式の接続端子を有するマグネットコンセントと、該マグネットコンセントに磁着されることにより電気的に接続しうるアダプタと、該アダプタに電気的に接続しうるプラグとを備えており、
該プラグの栓刃同士が短絡されていることによって駆動用回路が接続状態にあり、該プラグに上記線条体が連結されており、
マグネットコンセントとアダプタの接続、または、アダプタとプラグとの接続、のうち少なくとも一方が切断することによって上記駆動用回路が遮断されるように構成されてなる請求項3記載のワイヤーロープの損傷検知装置。
【請求項7】
上記線条体が上記プラグに形成された挿通部に挿通されており、
該線条体の端部が伸縮可能な伸縮部材を介して、移動し得ない固定部に弾力的に取り付けられており、
該線条体の上記挿通部に対応する部分より先端がわに、上記挿通部を通過し得ない係合部が形成されており、
線条体が移動している際に、上記係合部がプラグの上記挿通部に係合することにより、マグネットコンセントとアダプタの接続、または、アダプタとプラグとの接続、のうち少なくとも一方が切断しうるように構成されてなる請求項6記載のワイヤーロープの損傷検知装置。
【請求項8】
一端にエレベータが取り付けられ、他端にカウンターウエイトが取り付けられたエレベータ昇降用のワイヤーロープと、
駆動モータと、
該駆動モータによって回転駆動される、上記ワイヤーロープを巻き上げるための駆動シーブと、
該駆動シーブに近接して配置される転向シーブと、
上記駆動シーブおよび転向シーブのうちの少なくとも一方に近接して配設されたワイヤーロープの損傷検知装置とを備えており、
該損傷検知装置が請求項1〜7のうちのいずれか一の項に記載の損傷検知装置である昇降装置。
【請求項9】
車両搬送用のエレベータと、
該エレベータを昇降させる昇降装置と、
エレベータの昇降路に沿って上下複数段に設置された駐車棚とを備えており、
上記昇降装置が請求項8記載の昇降装置であるエレベータ式駐車装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【公開番号】特開2008−50140(P2008−50140A)
【公開日】平成20年3月6日(2008.3.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−229629(P2006−229629)
【出願日】平成18年8月25日(2006.8.25)
【出願人】(593139271)新明和エンジニアリング株式会社 (109)
【出願人】(000002358)新明和工業株式会社 (919)
【Fターム(参考)】